発信箱:共通の敵=倉重篤郎(論説室)
ttp://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20100930k0000m070118000c.html 尖閣問題での菅政権の対応の是非は別にして、中国政府の強硬姿勢の背景には何があったのか。
クリントン政権時代に国務省で中国担当の次官補だったスーザン・L・シャーク氏の
著「中国 危うい超大国」(NHK出版、08年)が参考になる。
氏は、その職にあった97年から00年までの間「米中戦争が勃発(ぼっぱつ)することを心配しない
日がなかった」と振り返り、中国の指導者たちが中国国内世論の「強気に行動しろ」との圧力に押されて
戦争を選択する悪夢に何度も襲われた、という。
その背景には、(1)中国共産党は、共産主義を誰も信じなくなった時代に生き残るため、共産主義に代わり
ナショナリズムをイデオロギーとして採用した(2)中国のマスコミやネットは、政府公認であるうえ売れ行きも
良いナショナリズムをあおる報道や論調を選びがちだ(3)中国人民が強く関心を抱く問題では、中国の
指導者たちは自分たちの力を誇示するために強く出なくてはならないと感じる−−というサイクルがある。
>>297 氏によると、中国の指導者たちの最悪のシナリオは、失業した労働者、搾取された農民、学生といった不満分子が
熱情的なナショナリズムの力で一つの反体制勢力にまとまることだ。清朝も中華民国もナショナリズム色の強い
革命運動に打倒された、という歴史に学んでいる、というのだ。
共産党独裁の国の指導者が実は世論にもろい、その動向に常に不安でおびえている、という見立ては意外感があった。
もちろん、共産党内部での激しい権力闘争があるからこそ、弱腰を見せるわけにはいかない、という政治力学も働いて
いるのだろう。
我々は、かつて政治指導者が行き過ぎたナショナリズムを制御できず無謀な戦争に突入したケースをよく知っている。となると、
共通の敵が見えてくる。