1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
秋は鮮やかにやってきた。
床に紙質の硬い雑誌をずりおとし、かわりに一枚の毛布を顎まで引っ張りげ、
一九四五年の秋にゴミ捨場で死んだパルチザンのように背をまるめ、
両膝を腹に引き寄せていつものようにけじめなく眠りについた。
俺の眠りはいつもそうだ。たとえばこんな不吉なファンタジーをよく経験する。
カシミールの山の中をさまよっているとつゆ知らずにいつの間にか中国国境を越えている。
本人には越境の意志などまるでない。しかし、自分の凍る息の輪からふと視線をあげると、
山稜には狙撃兵たちが送電線の雀のように並んでいるのが見える。なにが起こったのか理解できないままに佇む。
きびしい声調の中国語の警戒が体に突き刺さる。それでも俺は動かない。動けないのだ。
数秒か数十秒後には結氷した顔面を一種の清涼感をともなって貫いていくライフル弾の予感がし、
予感はやがて確信に変わる。確信は少しずつ恐怖に形を変え、恐怖はわずかの熱を呼び、凍った眉を溶かす。
水滴が流れ、眼に入りこみ視界がにじむ。俺は、なぜか自分の部屋の窓辺にかけたままの洗濯物を思い出す。
折り畳み、鼻を押し当て、それから引き出しにしまわなければ。こう寒くては凍って繊維がばらばらになってしまう。
俺はどこか知らない国の言葉で、山稜の雀たちに叫ぶ。待て、撃つな。洗濯物を取り込むまで待ってくれ。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 17:57:17.17 ID:/ovzGq2+0
眼覚めると、開け放した窓から風が吹きこんでいた。
平たくなったラミネート・チューブから最後の練歯磨を押し出すように勇気を振り絞り、俺は床のうえに両足の裏をつけ、
それからゆっくり立ちあがった。吹き込んでくる風にはもう夏の白さはなかった。薄いレモン色のフリルがついていた。
そのくせどこか冷え冷えとしている。俺は、昨日の夜の残りを温めなおした、
いくらバンコクのホテルでも客に出さないほど味の壊れたコーヒーを口にした。
テーブルの上にスペースを無理に作ってコーヒーカップを置き、両腕で自分の足を抱いた。
処女を天蓋つきのワゴンで売っている若い女のポーズが似合うと考えているわけでは決してない。寒かった。
秋の訪れは急だった。
満州の森の中で何カ月も剣を研ぎ続けてきた老人が、ある夜明け前に突然立ちあがり、
今はインディアンペーパーよりも薄く研ぎだした剣に一度しごきをくれてから、
いきなり夏の空を切り落とした、そんなふうだった。
出掛ける覚悟を決めれないでいた。
風の道になった部屋のまんなかにいながら、自分のいる場所を見失った気分になる。
「当惑」という文字が浮かび、底知れない居心地の悪さを感じる。
両手を祈るようにあわせて、女の脚の間にはさみこんで眠りなおしたいと痛切に思う。しかし仕事は仕事だ。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 17:57:52.55 ID:KXUyVsHu0
なんやこれw
きもいはw
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 17:58:27.59 ID:/ovzGq2+0
※
彼女は台所からコーヒーカップをふたつ、お盆に入れて運んできた。
それをテーブルに置くとき、襟元がゆったりとひらき加減の薄いセーターの隙間から乳房の谷間の入口がのぞけた。
肌は卓上の陶器のミルクピッチャーの表面みたいに白かったが、それほどには冷たくなさそうだった。
てのひらをおけばたちどころに薄赤く染まるだろう。
それは、リトマス紙を夏蜜柑の果肉に触れさせることと同じくらい確かなことだと思われた。
しかし、彼女が意識してそんなセーターを着け、そんな姿勢をとったのかどうか俺には判断がつきかねた。
(゚、゚トソン「ミルクとお砂糖は?」
と都村兎尊はいった。
( ^ω^)「いれたほうがいいと思いますかお」
と俺はいった。
(゚、゚トソン「お好きなようになさってください」
結局なにも彼女はいれなかった。
(゚、゚トソン「こんな朝早く起きるの? 探偵って」
( ^ω^)「普通、名探偵は眠りませんお。私はそれより少しだけ水準が落ちるので片目をあけて眠りますお。
それでも時々は眼を休める必要があるので交互に。
月曜日には左眼をつむり、火曜日には右目をつむるというスタイルでやりますお」
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 17:59:13.74 ID:/ovzGq2+0
(゚ー゚トソン
都村兎尊は微笑しただけだった。
(゚、゚トソン「まさかあなたが探偵になっているなんて。驚いたわ」
( ^ω^)「ネコに葉巻を吸う身分になれっていっても無理ですがお、
人間はなりたいと念じればたいていのものにはなれるのですお」
(゚、゚トソン「念じればいいんですか」
( ^ω^)「そうですお。念じればいいんですお。それから努力をするんですお」
(゚、゚トソン「どんな努力?」
俺はコーヒーカップをとりあげて口に運んだ。強いにおいがした。
アメリカ式の薄すぎるコーヒーを一時間に一リットル近く飲むタイプの男には刺激が強すぎた。
はじめて彼女と正対したとき、
実に奇妙なことに俺は高校の文芸部のニキビ面の男に部室へ引き入れられて見せられたエロ写真を思い出した。
文芸部の男は普段、雪のうえに散った煤煙こそ私の悲しみである、といったばかばかしい詩ばかり書いているくせに、
エロ写真を見つめる俺の表情を小ずるそうにうかがった。その顔は「カンタベリー物語」の破戒僧よりも下品だった。
二本の指をさかさまのVサイン状に使って自分の性器を押し開く若い女は、むしろ気高い顔をしていた。
気分が悪くなり、その写真を彼に返した。それから文芸部室のガラス窓を一枚叩き割った。ニキビ面は怯えていた。
俺はそれ以来、美しい顔の女ほど醜い性器を持つと信じるようになった。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:00:07.85 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「どんな努力?」
と兎尊がもう一度尋ねた。
( ^ω^)「そうですねえ」
と俺はいった。
( ^ω^)「たとえば、簡単なことですお。人の言葉をすべて信じる努力。同時に人の言葉をすべて疑う努力」
(゚、゚トソン「簡単かしら」
( ^ω^)「簡単ですお」
と俺は答えた。
( ^ω^)「簡単だろうと思っていますお。そう思わなければ私の商売はやっていけないお」
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:00:53.91 ID:/ovzGq2+0
さりげない飾りかたから見ると、ひょっとしたら本物かも知れない。
この食事室と居間を兼ねた広い部屋には装飾はほとんどない。
ブリタニカの英語版の百科事典も、無造作に投げ出された「ジャルダン」や「エル」もない。
毛玉の玉も、作りかけの刺繍もない。ネコもイヌもいない。
実用的だとはまるで思えないマントルピースの上に銀色の小さな杯がぽつんとのっている。
台座には由来がなにも記されていない。ただ「KYONAN '69」というプレートだけがはめこんである。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:01:25.60 ID:/ovzGq2+0
開け放った窓から風が吹き込んでくる。庭にモクセイの花が咲き、香っている。彼女のつけている香水を打消すほど強く香った。
毎日この庭を見つめながらこの女はなにを考えて暮らしているのだろう。たとえば、遺書の文句を考えている。
私が死んでも窓はいつでも開けたままにしておくように、庭と花々が見えるように――というふうな。
ドア脇の壁にはフジタが一枚かかっていた。大判の絵ハガキくらいの大きさで、
溶けた蝋の色の肌をした若い女がカフェの高いスツールに座って、曇り空の表をガラス越しに眺めている。
注意深く見ると、そこはパリ六区、レンヌ通りとラスパイユ通りの交差点にあることが標識から読みとれる。
さりげない飾りかたから見ると、ひょっとしたら本物かも知れない。
この食事室と居間を兼ねた広い部屋には装飾はほとんどない。
ブリタニカの英語版の百科事典も、無造作に投げ出された「ジャルダン」や「エル」もない。
毛玉の玉も、作りかけの刺繍もない。ネコもイヌもいない。
実用的だとはまるで思えないマントルピースの上に銀色の小さな杯がぽつんとのっている。
台座には由来がなにも記されていない。ただ「KYONAN '69」というプレートだけがはめこんである。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:01:58.41 ID:Bdfm1Gf70
しえん
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:02:16.16 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「お好きなんですか?」
と兎尊が突然いった。
( ^ω^)「え?」
(゚、゚トソン「あるいはご自分にあっていらっしゃる。あなたのお仕事」
俺は、彼女の質問を無視して、大きく切られた窓を通して見える明るい空に眼をやった。
そのまま長い時間じっとしていた。そして片手をズボンの尻ポケットにやった。それ以外には全く体を動かさなかった。
兎尊の視線が揺れた。
(゚、゚トソン「どうかしました?」
俺は顔の位置を動かさなかった。
いいえ、心配しないで、といいたかったが、声が出なかった。
俺はポケットから大きなハンカチを取り出すと顔をそむけ、おおった。それから思いきり大きなくしゃみをした。
兎尊の緊張がゆるむのがはっきりわかった。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:03:20.12 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「どうもね」
といいかけ、またひとつくしゃみをした。
( ^ω^)「風邪をひいたようですお」
(゚、゚トソン「窓を閉めましょうか?」
と腰を浮かしかけた。
( ^ω^)「いや、大丈夫。モクセイのいいにおいが強すぎるんですお。鼻が驚いているんですお」
と俺はいい、ハンカチで音たてて洟をかんだ。
(゚、゚トソン「なにか温まるものを飲みますか?」
と兎尊はいった。口調も表情も少しも心配そうではなかった。
( ^ω^)「いえ結構。大したことはないんですお。ただ、くしゃみが我慢できなくて」
兎尊はなにもいわずに俺を見ていた。かすかに喉が動いた。
夏休みの宿題をやり残したまま学校に渋々やってきた小学生みたいな気持ちにさせる視線を彼女はもっていた。
つまりなにか弁解したくなる。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:04:11.11 ID:Bdfm1Gf70
wktk
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:04:22.25 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「自分にあってるかって訊きましたおね、この商売が。多分あっているんだと思いますお。
少なくとも朝の電車に乗らなくても済むのはとても気分がいい」
(゚、゚トソン「満員電車?」
( ^ω^)「満員といういいかたは手ぬるすぎる。昔、インドでベンガル人が使った穴みたいなものですお。
六メートル四方の四角い穴の中に百二十人のイギリス人を詰め込んだそうですお。
二日たったら生きているのは何人もいなかった」
(゚、゚トソン「アメリカの学生がよくやるでしょ。電話ボックスに何人いれるか競争する」
( ^ω^)「そうですお。日本人は毎日あれをやっているんですお。
命がけのゲームをしながら会社へ通っている。とりわけ池袋新宿間なんてすごいものですお。
久しぶりに乗ってみましたがね、感動しましたお」
(゚、゚トソン「感動?」
( ^ω^)「ええ。発見といってもいいお。
あの、恐縮ですがやはりいただけますかお、体の温まるもの」
兎尊は笑いながら俺をにらむ真似をした。
宿題を忘れた小学生の弁解に説得されたふりをする女教師の役になろうというらしい。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:05:15.47 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「ワインでいいかしら。少し残ってるの」
( ^ω^)「白だったら」
白だったらいらないと言おうとした。
どうせ冷蔵庫で身もふたもなく冷やしてあるはずだ。
風邪薬としてはふさわしくない。
(゚、゚トソン「赤。安物」
( ^ω^)「なんですかお」
(゚、゚トソン「コート・デュ・ローヌ」
( ^ω^)「そいつはいい。名うての安物だお。
なまぬるいコート・デュ・ローヌを飲むとパリ時代を思いだすお」
(゚、゚トソン「あなたパリにいたことがあるの?」
兎尊は立ち上がりかけた姿勢のまま尋ねた。
( ^ω^)「ありますお、三日だけ。
三年間、昼を抜いて団体で行ったんだお」
俺は台所の兎尊に向かって喋りつづけた。
ここからでも食器棚の隙間を通して兎尊の体の一部が見えている。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:06:12.07 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「なに? 発見て」
( ^ω^)「発見? ああ、つまりですお。
なぜ日本人は過酷な宗教を持たずに済むのかということですお」
(゚、゚トソン「え? なんですって?」
兎尊の声がいくぶん大きくなった。
( ^ω^)「宗教の一つの意義ってのは、地獄のイメージを提示することだと思うんですお。
ひとはそれに従って自分の行動を律するんですお。ところが日本人には、少なくとも東京人には、
さらに少なくとも池袋新宿間の電車を利用するひとには地獄のイメージなんて必要ない。
毎朝経験しているからですお。凄まじいひと混み。
これを描けといったらマンガ家はネコを連れて逃げだすくらいですお」
兎尊がグラスに注がれたワインを俺の前においた。
もう一度なにかが見えるかと期待したが駄目だった。
彼女が意識して胸をそらせていたからだ。
商品見本は一度しか見せない方針らしい。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:06:27.28 ID:Bdfm1Gf70
読んでる
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:06:49.88 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「汗がにおう、質の悪い香水がにおう、ポマードがにおう。
他人の肉体が自分に押しつけられるというのは、ある種の覚悟を決めたとき以外は気分の悪いものですお。
彼らの息もにおいますお。歯磨粉のハッカで隠しきれるものじゃない。
胃弱と厭世と絶望のにおいがしますお。それがポマードのにおいと混じりあったひには……
今もいるんですお、べったりと、まるでギアボックスにグリスをくれるように塗りつける男が。
そんなにおいを嗅ぐと私も相当に厭世的になりますお」
(゚、゚トソン「それが地獄のイメージですか」
( ^ω^)「そうですお。地獄ってのは他人が作り出すものだと思っているでしょう。
ところがこの極東の島では自分も地獄を構成する部品なんですお。それも生まれた時からそうなんだお、
自分は地獄を作り出すために欠かせない部分品として生まれてきたんだと思い至って、
はっとするんですお、満員電車の中で。針の山とか身を焼く業火とか、
そういう古典的な地獄にさえ堕ちることはできないと気づくんですお、たとえ死んでも」
(゚、゚トソン「どこへ堕ちるんです、私たち」
( ^ω^)「もちろん新宿池袋間の朝の電車の形をした地獄ですお。
つまり生きているときも死んでからもまるでかわりないってことですお」
(゚、゚トソン「暗い考えかたね」
( ^ω^)「暗い、とは言わないでくださいお。せめてリアルと言ってくださいお」
兎尊は自分も赤ワインに口をつけた。
テーブルに戻したグラスのふちに薄く口紅が残った。
俺は彼女の指先がそれをさりげなく拭き取るのを見ていた。
あまり気に染む仕草とはいえない。
口紅のついた指先を、今度はどこで拭って帳尻をあわせるのだろう。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:08:42.97 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「身動きなんてできやしない」
と俺は続けた。
( ^ω^)「心臓が動くのが不思議なほどの混雑だお。
みんなが汚れた空気でも奪いあわなくちゃならない。
そんなとき誰かとてつもなく無遠慮なやつがでかいくしゃみをする。
いいですかお、誰も腕も指も動かせない。顔をそむけることさえできやしないんだお」
(゚、゚トソン「たいへんね」
( ^ω^)「たいへんですお。本人だってハンカチで口をおさえたいんだお。
だれも好きでしぶきを撒き散らすわけじゃない。
誰が悪いかっていえば窓を開けたまま眠ったやつが悪いんだが、もっと悪いのは突然秋になったことだお。
まるで回り舞台みたいだったから。
本人だって恥ずかしいんだが、まわりのやつらは、俺をブードゥー教の魔術師みたいな眼で見やがるお」
(゚、゚トソン「そりゃ怒るわよ。あたしだったらひっぱたいてやるわ」
また兎尊が笑った。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:09:18.80 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「しかし手も動かない。
誰かが俺の足を踏んづけようと探していたみたいだけど果たさなかったお。
なんとか努力して果たさせなかったお」
(゚、゚トソン「こすいのね」
( ^ω^)「防衛的な性格なんですお。新宿へ着くまでずっと週刊誌の広告を読むふりをしていました。
それ以外には生き延びる手段がなかったですお。彼をその気にさせるにはオーラルセックス。
してあげるからしてもらえる、それが性のルール。すっかり覚えてしまったほどですお」
俺はついにグラスを空にした。彼女は俺の眼の中を覗き込んだ。
もう一杯飲みますか? 飲みましょう。ただしこれでおしまいだ。
( ^ω^)「新宿から中央線に乗り換えた時は心から安心しましたお。
ガス室の一歩手前で番人に、今日の営業は終わり、と言われた気分ですお。
すいている逆行電車に給料日前のヤクザみたいにだらしなく腰おろして、
自分の人生の選択が正しかったことを確認しましたお」
(゚、゚トソン「なに?」
( ^ω^)「三菱商事を蹴っ飛ばして探偵になったことですお。
ひょっとしたら回教国の秘密警察の拷問は耐えられるかもしれない。
でもあれだけは駄目だお。満員電車だけは。あの孤独と憎悪だけは」
(゚、゚トソン「そう?」
と兎尊はいった。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:09:38.20 ID:Bdfm1Gf70
。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:10:20.96 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「あれを乗り越えなければ誰もが社会人にはなれないのよ、この国では」
( ^ω^)「だったら私はこのままでいいお。
一生チョコレートパフェを食べ続けて虫歯で死ぬ子供でいいお」
(゚、゚トソン「探偵ってひねくれているのね」
( ^ω^)「元々ひねくれているから探偵になるんですお」
俺はこの話題を打ち切ることにした。
( ^ω^)「ところで、用件をうかがいましょうかお。
風邪とあなたの魅力で熱がでないうちに」
(゚、゚トソン「そういうセリフ、平気でいえるの?」
( ^ω^)「家を出る前に暗記してくるんですお。
ノートはいくらでも予備がありますお。
なんならとりかえますかお?」
(゚、゚トソン「いいわ。とりかえても大差はないんでしょう」
( ^ω^)「ごもっとも。たいていの仕事は引き受けますが、
結婚の身元調査と行方不明のネコ捜しはやりませんお」
兎尊は溜息をもらした。少し性的な感じがした。
午前中の住宅街にはあまり似合うとはいえない。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:11:09.17 ID:/ovzGq2+0
(゚、゚トソン「夫のことなんです」
それで言葉を切った。
俺は待った。
俺でも英字新聞を一ページ読み終えることができるくらいの時間がたち、
モクセイの花粉の微粒子を鼻腔に受けてまたくしゃみをした。
それでも相手をうながすことは避けた。
(゚、゚トソン「女がいるようです」
( ^ω^)「ほう」
彼女は眼を伏せたままでいった。
眼を伏せると、はじめてその瞳の呪縛から解かれ、
化粧品を塗りこんだ眼尻の皺に気付く。
(゚、゚トソン「女の底意地の悪い勘なんですけど」
本当に恥じらっているのかどうかわからなかった。
しかし、少なくとも俺にはそう見えた。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:12:27.05 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「わかりますお」
俺はグラスを空にしてテーブルのうえに置いた。
グラスの濡れた曲面の向こう側にセイラムの箱が歪んで見えた。
( ^ω^)「わかりますお。ちっとも意地悪くなんかない。むしろ健全だと思いますお。
少なくともあの満員電車の、顔のない、他人を肘でこづく勤め人連中よりは」
兎尊はゆっくりと庭に眼をやった。俺は彼女の視線を追った。
夏がもどらないことを嘆く女の横顔としては完璧なしあがりだった。
彼女の首筋の細さがくっきりと浮かびあがった。
かつて俺は一度だけその首筋に触れたことがあった。
むろんたいしたした事件ではない。もう何年も前のお互いの気まぐれだ。
しかしフィルム保管室の冷え冷えとした、埃の入り混じった空気のにおいをごくまれには思い出すこともある。
じきに俺はそのコマーシャル制作会社のアルバイトを辞めた。それきりだ。
彼女が電話をかけてきた時は驚いた。
仕事の依頼だとわかり、安心と軽い失望の両方をいっしょに味わった。
電話帳をめくっていたら見つけたのよ、と彼女はいった。
そして、あなたの名前ってかわってるすぐわかった、とつけ加えて低く笑った。
声はかわらなかったが、香水は昔のものと違っていた。
モクセイの群落のかげに薄紫色の小ぶりな花が見えた。
丈も高かったが、花弁はそれぞれに隙間をおきながら独立していて、
どことなくはなやぎが感じられない。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:13:55.07 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「よくこんなところで育てましたお」
兎尊が怪訝そうに振り返った。
( ^ω^)「花ですお。マツムシソウ。本来は高原にしか咲かない」
(゚、゚トソン「夫が植えたんです。時々水を自分でやります」
俺はいった。
( ^ω^)「マツムシソウの花言葉を知っていますかお」
兎尊は首を横にふった。
鼻根からかなり高い鼻梁が自然光を遮って右眼に濃い影を投げていた。
(゚、゚トソン「なに?」
彼女は俺を促した。
俺は答えた。
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:14:07.36 ID:Bdfm1Gf70
しえん
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:19:24.31 ID:/ovzGq2+0
( ^ω^)「寡婦の悲しみ、というんですお」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:24:03.05 ID:Bdfm1Gf70
wktk
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:28:31.75 ID:/ovzGq2+0
すみません
まだここまでしか書き貯めてないので一旦終わります
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:29:03.34 ID:TUiWaJpC0
まってる
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 18:29:26.35 ID:Bdfm1Gf70
おk
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 19:22:02.66 ID:V0cOU4U10
ひとまず乙
〜は言った。
とかってブーン系にはいらないよね
顔文字で誰のセリフだかわかるし西欧の小説と違って日本語は話し言葉で男女や年齢の違いが簡単に表せるわけだし
どうでもいいけど
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/11(土) 19:24:24.15 ID:JYPQDttmP
乙
最初はジョジョっぽい例えにピキッときたけど会話が始まってからは面白い
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
乙
形容が多すぎるwww