1 :
◆yQSsQ6PBwQ :
三国志飛び入り参加作品です。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:06:00.48 ID:RsSCUB8J0
幼い時から身体能力がずば抜けて高かった少年は、なかなか周囲の人達と上手く馴染む事が出来なかった。
皆が少年の力を恐れて遠巻きに様子を伺い、実の両親でさえ時に腫れ物に触るように、彼を扱った。
歳がやっと十を過ぎ頃だったろうか。助けてくれという声に反応した、とっさの出来事。
大人より遥かに大きい暴走した魔物を、素手で引き倒した彼を待っていたものは、賞賛の眼差しではなくて。
「あの子が……ブーンが卵だったら、クー様に引き取って頂けるものを」
畏怖(いふ)なる者を監視する視線をたくみに避けて、密かに帰宅した家の中。
薄い扉越しに少年が漏れ聞いた両親の会話は、想像した通り、やはり歓迎できるものではなかった。
「よりによってブーンは、魔物を倒したそうじゃないか」
「……」
――人助けをしたところで、所詮両親の扱いが変わる訳もないのに。
俺はこの期に及んで彼等に一体何を期待していたのだろう――
「明日からまた居住地を探さなくてはいけないな」
父親の呟いた言葉にブーンは固く眼を閉じる。
いつもそうだ。
ブーンが何か仕出かす度に、人目を異様に気にする両親は、慌てて移住を繰り返す。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:07:57.06 ID:RsSCUB8J0
「またそうやって逃げるのか。俺の力はそんなに隠さなければいけないほど、お前らにとって都合の悪い物なのか!」
そう叫び出したい気持ちを、ブーンは奥歯を強く噛み締める事でやり過ごす。
例え口に出したところで彼等には何も答えられないし、両親にとって息子が忌み嫌う存在である事をわざわざ再確認する必要もない。
「あの子が、ブーンが卵だったら――」
無意識だろう。
繰り返される母親の言葉に、ブーンはその場から音も立てずに移動する。
――彼自身、本当は誰よりも解っていた。
居場所など、もはや家族内のどこにも無い事を。
ただ家族に愛されたいと願う感情が、どうしてもそれを認めたくなかっただけの事だ。
けれど今更眼を逸らしたところで、眼の前に横たわる真実の、一体何が変わると言うのだろう――
「どうすれば俺を必要としてくれる?」
すぐかたわらに大勢の人間が溢れて居ても、誰一人として隠された真の姿を知りはしない。
自らを偽り、硝子越しに生きる脆弱(ぜいじゃく)な世界は、他人の事など、気にも留めてはくれなくて。
それでも幼い弟妹は純粋にブーンを慕い、両親は世間体を気にするあまり、未成年の彼を外界へと離せない。
「俺はいつまでこの地に囚われれば良い?」
がんじがらめのこの世界から、逃れられるすべはその欠片すら模(かたど)らず、日増しにブーンを追い詰めていく。
――もう、沢山だ。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:09:59.24 ID:RsSCUB8J0
この世界で生きて行く為に、誰か一人でもいいから、俺を必要としてくれないだろうか。
人が無理ならば、せめて俺を恐れず、有りのまま受け入れてくれる場所だけでもいい。
頼むから、どこか、誰か、俺を――救ってくれ。
※ ※ ※
どうしても行くのかと、眼の前で形だけの涙を浮かべて見せる両親に、何の未練もない。
何年間か滞在したこの町にさえ、何一つ。
壊れそうになる精神を抱え、ガムシャラなまでに居場所を探し続けた長い年月の果て。
この町で過ごした無意味な遠い時間を、何の感慨もなく少年は思い返していた。
( ^ω^)強き者は世を彷徨うようです
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:12:39.65 ID:RsSCUB8J0
いつの頃からだったか。
一度も土に塗(まみ)れた事がない圧倒的な強さは、要らぬ噂を呼び、腕に覚えが有る者をブーンの下へと誘った。
近隣の強者から始まった勝負は、はるばる遠方から猛者を呼び寄せるまでに拡がりを見せ、それら売られた喧嘩を全て買い占めた結果、いしつかブーンは、この世界では珍しい彼の漆黒の髪と瞳を指して『黒き戦神』と呼ばれる特別な存在になっていた。
( ^ω^)「俺より強い奴はどこかにいないのかお?」
もはや抑える事も出来ず、白日の下へとさらけ出された感情。
後押しする桁外れの強さは、周囲との疎外感を生じさせるばかりで、何の解決にも繋がらない。
「ブーンお前実は『卵』だから、強いってわけじゃないのか?」
地面に這わせた相手から必ずといって良いほど聞かされる、ブーンには意味の解らない単語。
今日に限ってそれを問い質したのは、単なる気紛れからだった。
( ^ω^)「卵って……何の事だお?」
「おいおい、本気で聞いているのか?」
( ^ω^)「ああ」
何故か酷く驚いた表情を宿した男が、土ぼこりで乾いた唇を舌で湿らせながら、地面から起き上がる。
「まさかとは思うがブーン、この世界を治める二神の話くらいは知っているよな?」
( ^ω^)「知ってるお。……少しなら」
障穴から迷い出た魔物が闊歩(かっぽ)するこの世界を、人が絶対に持つ事の出来ない不可思議な力を駆使して、統治する二人の神々。
異空から舞い降りた彼らは圧倒的な強さを誇り、魔物だけでなく、精霊が治めるとされている自然界でさえ、自在に支配出来るという。
審判を司る神『來』は、月光を浴びた瀧のような長い銀髪に、冴えた暗褐色の瞳を有すると聞くが、万物を意のままに操るとされる『クー』は、碧の瞳を持つ以外、詳細は何故か謎に包まれていた。
人々をより善き方向へと導く役割をになう二神は、時として人間の手を必要とする場面が有り、各地で積極的に強い人間を募り、天空に在る屋敷に受け入れているらしい。
だが二神が求める資格は非常に厳しく、全ての条件を満たし、屋敷へ移住出来る人間は年間を通しても、ごくわずかな人数のみ――
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:15:02.81 ID:RsSCUB8J0
( ^ω^)「俺は移住したいと申し出たが、年齢が条件に合わないからと断られたお」
武術試験すら受けさせて貰えずに、一方的に門前払いされた記憶は新しく、ブーンは苦々しく呟くと、足元の小石をいらだち紛れに蹴り上げた。
「いや……もしブーンが卵なら、移住は年齢に関係なく可能だ」
( ^ω^)「?」
どこか興奮気味の男をすがめた視線で射すくめると、ブーンは顎をしゃくって続きを促した。
「神と人間との間に誕生した奇蹟の子供の総称を卵って言うんだ」
――ああ。この世界に暮していれば、赤子でさえ知っている伝承を、俺はどうしてもっと早くに知り得なかったのだろう――
そう『卵』とは、神と人間との間に誕生する奇跡の子供。
生まれながらにして類稀なる能力を持つ子らは、証として身体のどこかに必ず、神の子としての烙印が刻まれていると男は告げた。
そして二神のうちの一人『クー』は、人間の願いを叶える為に度々地上へ降りてくる際に、この『卵』と呼ばれる存在を探し出し、屋敷へ連れ帰るのだと言う。
「どこかにアザは?」
男の言葉に、ブーンは全身を隠す事なく外気にさらけ出したが、隅々まで見回したところで、卵の証となる紋章は身体のどこにも刻まれてはいなかった。
( ^ω^)(そっか……だよな。俺を持て余している両親が、今迄に俺の身体を調べていない筈がねぇ)
『あの子が、ブーンが卵だったら――』
息子を厄介払いしたい両親が、陰で頻繁に口にしていた言葉の意味。
身体に卵の証があれば、両親は迷う事なく直ちにブーンを二神の下へ託していただろう。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:16:58.80 ID:RsSCUB8J0
冷静に考えてみればすぐに気が付いたはずの答えに、一瞬でも踊らされた事が口惜しく、ブーンは奥歯を食い縛る。
( ^ω^)(俺は卵ではない、と言う事か……なら)
迎えを待っていても卵では無い以上、救いの手が差し伸べられる事は永遠に無い。
夢見る希望が無いのなら、閉ざされた道を自らの掌で切り開くしか、残された者に掴める未来はない。
( ^ω^)「なら俺がクーの下へ行くお」
神に選ばれず、救いの掌から零れ落ちた存在は、生きる意味を求めて、二神の屋敷へと向かう。
存在を哀れむ事の無い為に。
この世界に生まれて来た事にすら、後悔しない為に。
そして何より、これから先の人生を生きぬく為に。
( ^ω^)「俺は必ずクーを探し出すお」
※ ※ ※
「ブーン……本当に行くのかい?」
小高い丘に位置する家の横に植えられた、沙珠栢(さしゅか)の木。
生い茂る緑の葉を透かして、柔らかな陽光が射し込む中、過ぎた年月を思い出し立ち止まる少年に、まるで旅立ちを促すかのように繰り返される、両親の声。
背中越しに聞こえる嘘と偽りで彩られた両親の問いかけに、もう惑わされたりはしない。
十四歳の今日。
生きていく場所を見つける為に、少年は全てを棄てて一人旅立つ。
どこまでも無限に広がる、潔いほど澄み切った青い空の下。
必ず出逢ってみせる、理不尽にあてがわれた世界に残された、たった一つの最後の希望。
( ^ω^)(クー待っていろ……必ずお前を探し出す!)
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:19:21.88 ID:RsSCUB8J0
※ ※ ※
( ^ω^)(甘かったか……)
だが胸に誓ったあの日から、いったい何年が無駄に過ぎた事だろう。
やっとクーが住む場所を探し出したのに、一つ目の山を乗り越えた矢先、再び目の前に現れた険しい山脈を前に、思わずブーンの口からかすれた言葉が漏れる。
( ^ω^)「っとに際限がねぇお」
その吐き棄てるようなブーンの物言いに、隣で新たな山脈を観察していたドクオが、背中に負った食糧袋を顧みて、ぽつりと呟く。
('A`)「この状況じゃ一旦近くの村まで戻った方が、良いかもねー」
一体幾つ山を越えれば良いのか見当も付かない上に、立ち塞がる岩山は一つ一つが途方も無く険しく高い。
( ^ω^)「イシェフ村……だったか」
クーの居場所に一番近い、麓の小さな村。
三方を山に囲まれた辺鄙(へんぴ)な村で、出来得る限りの準備はしたつもりだった。
けれど最後の身支度を整えて、山へ向う二人にかけられた一言。
「あんた達そんな格好で山に登るのか?」と、村人に驚かれた理由が今頃解った気がする。
酸素が薄い為だろう、先程から無駄に浅い呼吸を繰り返しながら、ブーンは独り自嘲する。
('A`)「今更だけど、麓の人の意見はちゃんと聞くべきだったねー」
同じ思いのドクオが返す言葉は普段通りのん気だが、良く聞けばその息遣いは相応に荒い。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:20:59.68 ID:RsSCUB8J0
( ^ω^)「……仕方ねぇ、引き返すかお」
引き返すのも相当の距離だが、この先の移動距離が判らない分、下手に無茶は出来ない。
この山には水分の代わりの果物や、小腹を満たしてくれる動物が一切存在しないからだ。
面倒でも一度麓へ引き返し、準備を整えて来なければ、遭難は必然的な物になるだろう。
迷った末、ブーンは止むを得ず引き返す方を選択する事にした。
('A`)「当たり前だけど、また迷いの森抜けるんだよねー?」
相変わらず緊張感に乏しい、妙に間延びした独特な声音で、ドクオがブーンに問いかける。
('A`)「今度は迷ったりしないかなー。ねぇ大丈夫だと思う、ブーン?」
イシェフを抜けてしばらく歩くと、山裾をゆるやかに侵食する、広大で鬱蒼とした森に行き当たる。
村人が『迷いの森』と呼んでいるこの場所は、遠い昔に大山が火を噴いた際に、元々そこに有った燃え残りの木々が、長い時間をかけて現在のような状態に変化したそうだ。
所々奇妙な形に隆起した硬い地面と、異様な形の樹木が群生するこの森は、迂闊に足を踏み入れると方向感覚を無くし、いま居る場所が地図上のどこにあたるのか、正確な位置が判別し難くなる。
事前に情報収集を終え、万全の体制で挑んだブーンとドクオには『迷いの森』など何ら問題ないはずだった。
だが天然の惑わしに加えて、更に何か人為的な仕掛けが施されていたこの森に、二人はご多分に漏れず、散々翻弄(ほんろう)されたのだ。
( ^ω^)「じゃあ何か他に方法でも有るのかお?」
ドクオの答えは半ば以上想像出来ているが、一応念の為に聞いてみる。
('A`)「いやーない」
( ^ω^)「……」
万が一の失敗を踏まえて、森には印をつけて来たから、帰り道に迷う事は無いだろう。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:22:29.76 ID:RsSCUB8J0
('A`)「あっ! ブーン?」
もっとも効率よい帰路の道程を目算するブーンの横で、突然ドクオが空を指差し、声を上げる。
驚嘆が混じった真剣な響きに、反射的に振り仰いだ、太陽を突き抜けるような眩い、青。
がドクオが指し示す場所には雲影一つ無く、ブーンは黙ってドクオを見詰めながら、おもむろにボキボキと指の関節を大きく鳴らした。
('A`)「違っ! 冗談じゃないって」
ブーンの脅しを含んだ態度に半ば焦るようにして、ドクオが早口で切り返す。
('A`)「俺だって、最初は眼の錯覚かなーって疑ったんだけど――」
けれど確かに存在した、険しい山々の上空を軽やかに飛ぶ、二つの人影。
思わず上げた大声に反応して、こちらを向いた小柄な人物とほんの一瞬、眼が合った。
陽光に溢れんばかりに輝く金髪と、繊細なまつ毛に彩られた濃い碧色の瞳。
抜けるように白く小さな顔に、いや味ない高さで彫り込まれた鼻梁。
かすかに開いた唇は、誘うように淡く色付いて。
('A`)「!」
空を翔ける高貴な存在から、わずかばかりの視線を逸らす事も出来ず、ブーンに知らせなければと、ドクオが遅れた思考をまとめて声を上げた時には、既にその場から彼女の姿は跡形も無く消えていた。
('A`)「あそこに、……空に人が居たんだ」
( ^ω^)「はあっ? 空に人?」
('A`)「もしかしてクーって、女の人なのかな?」
どこか熱に浮かされたような気分になりながら、先ほど空に垣間見た姿を、ドクオは無意識に思い浮かべる。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:25:12.55 ID:RsSCUB8J0
あの美はまさしく、触れてはならぬ神の領域。
一瞬で脳裏にまで焼きつく、清冽な印象。
いままで出逢った事のない華奢で優美なその姿態に、魂ごとドクオは魅せられた。
('A`)「あんなに綺麗な神様、初めて見たかも」
一目見ただけの姿に心を奪われたたまま、惚けた状態で呟いたドクオの言葉に、ブーンが冷めた口調で否定する。
( ^ω^)「……俺は確か、クーは男神だと聞いた事が有るお?」
('A`)「え? そうなの?」
( ^ω^)「ああ、それに俺の記憶が確かなら、俺は一度、クーに逢っているはずだお」
眼の前に映るドクオの赤茶けた髪から視線を逸らし、ブーンはクーがいたと言う空を顧(かえり)みる。
ブーンの中に存在する、クーに関する酷く曖昧で、不思議な古い記憶。
思い出す度に鈍い痛みが走るその記憶は、一体何歳くらいの事だろう。
感情の起伏も激しく、まだ力を制御出来ていない少年の頃。
両親はブーンが何か問題を起こす度に、まるで逃げるようにして、その町や村を離れた。
神経質な両親はどんな些細(ささい)な出来事でも決して見逃さず、何度も何度も移住を重ね、余りに色んな移り場所に住んだ為に、どの地方かは思い出せないほど遠い記憶の彼方で、確かにブーンはクーと出逢った事が有る。
( ^ω^)「もう十年以上も前の話だし、記憶も曖昧なんだが――」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:25:33.74 ID:1zwIPVQ6I
支援
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:27:05.61 ID:RsSCUB8J0
――何年前かすら定かではない、遠い日の、小さな町での夏祭り。
町の背後には山。正面には入り江。
貿易を収入の主とする割に人口の少なかった町で、事件は起こった。
「つがいの黒禽(こっきん)が、町の外れに棲みついたらしいぞ」
大人達の口から聞かされた忌まわしい名。
大型の肉食猛禽類の一種である黒禽は、現在の季節が一年を通して最も巣作りの盛んな時期だ。
体長が優に二メートルを超す黒禽にとって巣作りはかなりの大仕事の上、大切な子孫を守る棲み処でもある。
動物の肉を好み、普段は滅多に人間を襲うことの無い黒禽だが、この時期だけは例外で、雌は特に気性が荒くなり、巣に近付く全てのものに対し、無差別に攻撃を仕掛けてくる。
更に厄介な事に魔物である黒禽は、周囲に適度な大きさの動物が見当たらない場合、時として頑丈なその一本足で人間の子を攫い、食す習性が有る事だ。
「どうして山に巣を作らない?」
誰も感じた疑問。
人里近くに巣を作れば、自ずと危険も増え、自滅するようなものだ。
今年は雨も多く、森に入れば餌となる動物に困る必要はないはずなのに。
「何だか酷く嫌な予感がする」
監視小屋から覗く不吉な黒い翼に、内心は酷く怯えながら。
それでも忙しい毎日を町民は必死で送っていた。
※ ※ ※
「大変だ! 黒禽がこっちへ向っているぞ!」
町外れの見張り小屋から緊急で連絡が入ったのは、よりによって豊穣祭の真っ只中だった。
豊穣祭とは、町から少し離れた森の中に有る人工的に造られた広場で、実りの神に感謝の意を込めて年二回だけ催される大事な大祭だ。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:29:57.60 ID:RsSCUB8J0
町を挙げてのお祭り騒ぎには、町民のみならず近隣の村からも沢山の人が集る。
神への祭りにおいて延期や中止は本来あってはならない事だが、黒禽の残忍な習性を知り尽くしている町長の決断は、早かった。
「祭りは中止じゃ!」
「何だ? どうした町長?」
祭りの囃子(はやし)に負けず劣らず賑やかな笑い声が響く中、華やかに飾り付けられた灯篭が幻想的な色彩を放ち、夏の夜空を染め上げる。
中央の壇上に組まれた祭壇では、紅蓮の焔が勇ましい音を立て、天空を焼き尽くす勢いで燃え盛る。
大勢の人間の熱気と、それ以上に溢れかえる酒や食べ物の匂い。
沢山の人間がここにいるのだと、自ら主張するこれら数々の情景を、賢く残忍な黒禽が見逃すはずは無い。
「静かに! 皆騒ぐんじゃない!」
ほろ酔いの町民に、だが負けじと声を張り上げた町長の異様なまでの緊迫感は、祭りに浮かれた人々を一瞬で我に返らすには、充分過ぎる効果があった。
神聖な祭りの最中に何事かと訝(いぶか)しげな表情を浮かべる人々に、町長は更に大きな声を張り上げる。
「いいか良く聞け、皆の者! 黒禽が先程巣を旅立ち、こちらに向かったそうじゃ」
「黒禽が……」
不吉なその忌み名は、まるで細波のように、その場にいた全員に一斉に伝えられていく。
一つ目しかない弱い視覚を補うように、聴覚が格別優れた黒禽は、主に音を頼りに餌場まで飛来してくると考えられている。
黒禽は他の魔物と比べ知力が非常に高いため、狩場に着いても直ぐに獲物を狩るような安易な行動は取らない。
奴等は近場の闇に紛れ込むと巧妙にその身を隠し、じっくりと襲い易い獲物を選別して襲いかかるのだと言う。
人間の手で四方の森を断ち切り、突然ぽかりと芽生えるこの広場には、当然だが上空を遮る物など何一つない。
「良いか! これから皆を数名ごとの班に分ける。各々定められた掟に従って、迅速に町まで避難するのじゃ!」
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:32:06.98 ID:RsSCUB8J0
酒の勢いで騒いでいた連中も正気に返ったのだろう。
置かれた状況を理解するにつれ、皆の顔から次第に笑顔が失せる。
――もしかしたら既に黒禽は、周囲のどこかの闇に潜んで、人間の様子をうかがっているかも知れない。
町民の誰もがその不吉な予感に慄(おのの)きながら、限界まで息を潜めて互いの身を寄せ合う。
瞬く間に祭りの喧騒は遠のき、静寂が支配するこの場所で、時折薪(たきぎ)が爆ぜる小さな音は、もはや皆の恐怖を煽(あお)る代物でしかなかった。
「よいか、男衆は松明(たいまつ)を持て!」
町長の指示により小分けにされた松明に次々と火が点され、男達の手に分配されていく。
「大人は子供を全力で守るのじゃ! 子供達よ、大人から勝手に離れるでないぞ!」
呼びかける町長の声は重く、その場に集った人々は黙々とその指示に従う以外道はない。
だが折悪く、豊穣祭で配られるお菓子目当てに集まった子供は、並大抵の人数ではなかった。
( ^ω^)(まずいな……)
異様な緊張感が高まる中、ブーンは少年には不釣合いな冷静さで一人考える。
この場合考えるまでもなく、黒禽に襲われる確率が最も高いのは、幼い子供達だろう。
仮に前後左右で子供達を囲っても、真上から襲われたら一溜りもないのが現状だ。
すでに恐怖から声を上げて泣き始めた子供達を懸命にあやしながら、町民は少しずつ、けれど迅速に脱出を試み始めていた。
「兄ちゃん」
不安を隠せない末弟は、先刻から兄であるブーンにずっとまとわりついて、離れようとしない。
年端のいかぬ子供とはいえ、もしも黒禽にさらわれた場合、辿るべき運命が容易に想像出来るのだろう。
( ^ω^)「大丈夫だお。大人も沢山いるお」
そう答えながら実のところ、ブーンは果たして黒禽相手に大人達はどこまで役に立つか、疑問に感じていた。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:34:05.72 ID:RsSCUB8J0
黒禽の力は凄まじいものだと聞く。
けれど防御を固める大人達の中には、子供のブーンにさえ負けた弱い奴が沢山混じっていたからだ。
「ブーン、お前も輪の中に入れ」
( ^ω^)「?」
子供達を先導するには余りに少ない大人の数。
ブーンに声をかけてきた人物は、まだ青年とも呼べる歳若い男だった。
( ^ω^)「俺は大丈夫だお」
「いいから子供は大人しく中に入れ」
怯え震える子供達を規則正しく並ばせ、その周囲を大人達の手で繋いだだけの簡易の護り。
その輪の中に早く入れと熱心に促す青年の顔を、ブーンはじっと見つめた。
( ^ω^)「……確かお前より俺の方が強かったと思うがお」
「!」
容赦ないブーンの言葉に、青年の端正な顔が一瞬で耳まで羞恥に染まる。
すらりとした長身を持つこの青年は、何カ月か前に、ブーンに一方的に因縁を吹きかけ、いわれのない喧嘩を売ってきた相手だ。
( ^ω^)「どこか見覚えが有る顔だと思ってはいたお……それにお前だけじゃねぇお」
周りを囲っている面々の中に、ブーンはこれまでに倒した相手が数名含まれている事を確認すると、一人ずつその顔面を指差した。
( ^ω^)「お前も……お前もだおな?」
およそ半年ほど前、この町へ越して来た直後に、有無を言わさず売られた喧嘩の数々。
『黒き戦神』であるブーンの噂を聞きつけた彼等にすれば、腕試しのつもりもあったのだろう。
まだ全身に幼さの残るブーンが、倍以上身体の大きい大人達を難なく倒せる筈もない――。
そう軽く考えて半ば冗談で、半ば本気で挑んだ彼等を、ブーンは完膚なきまで叩きのめした。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:36:57.38 ID:RsSCUB8J0
( ^ω^)「俺はあんた達には、誰一人として負けなかった筈だお」
「……」
順々に顔を指し示された男達は、気まずそうに互いの顔を見合すと、ブーン本人ではなく、最初に彼に声をかけた青年に口々に言葉を投げ返してみせた。
「放っておけばいい、そんな可愛げのない奴」
「俺達より強いから大丈夫だろ」
「そうだ、いっそ囮になって貰えばどうだ?」
男達の吐き捨てるような言葉の数々に、ブーンの眼が眇められ、握りしめた拳に力が入る。
「俺は――」
――いつもそうだ。俺は言葉が足りないから、誤解される――
「俺も護衛に回るから」と告げようとしたブーンの言葉は、男達が吐き続ける遠慮のない罵りを前に、喉の奥で硬く詰まり、もはや音としては出てこない。
「いい加減にしろ!」
けれど意外にも声を荒げ、騒ぐ他の男達を怒鳴りつけたのはあの青年だった。
「ブーンお前もだ! 子供は子供らしく言うことを聞け!」
実の両親でさえ、ブーンの並はずれた力を恐れ、常に顔色をうかがってから言葉を選ぶ状態なのだ。
なのにこの青年は――。
( ^ω^)「お前……」
「早く入れ!」
青年はどこか茫然とした面構えのブーンを無理に輪の中に押し込むと、声を張り上げた。
「全員揃った。この班で最後だ、黒禽がこの場所に到着する前に急いで出発するぞ!」
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:41:58.45 ID:RsSCUB8J0
欝蒼(うっそう)とした森の中は想像以上に暗く、松明の細い灯りだけでは、足元が心許ない状況だ。
互いの身を寄せ合い、まとまりながら移動するため、町までの距離は遅々として縮まらず、最後尾を進むブーン達の面々に少しずつ、だが確実に焦燥感が芽生え始めていた。
「いいか必ず隣の奴としっかりと、そして強く手を繋げ!」
万が一にも黒禽にさらわれない為の手段なのだろう、大人達の掛け声に皆が一斉に隣の人間と手を固く繋ぐ。
「兄ちゃん」
( ^ω^)「いいか、俺の服をしっかり握っているんだお」
緊張で汗ばんだ掌を必死に差し出した弟に、ブーンは掌ではなく、上着の裾を掴むように言い聞かせた。
確かに手と手を繋いでいれば、黒禽に捕まっても、上空にさらわれる心配は減るだろう。
だが両手が塞がっていては黒禽に襲われた場合、こちらから何も仕掛ける事が出来ない。
( ^ω^)「俺が守ってやるからお」
怯える弟に小さく言い聞かせると、ブーンは常に背中に負っている剣を、そっと確認する。
恐らく周囲の大人達が構えているどんな武器よりも、硬い素材で出来ているこの剣は、ブーンが以前に斃(たお)した魔物の骨から作りあげた手製の品だ。
( ^ω^)「これさえ有れば俺は負けねえお」
「ブーン? お前何故手を繋いでいない!」
一通りの見回りを終えたのだろうか。
離れた場所を歩いていた筈の青年が、目敏くブーンの状態を確認すると、近寄るなり声を荒げた。
( ^ω^)「大丈夫だ、弟は俺が剣で守るから心配しなくていいお」
背中の剣を、顎で指し示したブーンに対して、青年がなおも言葉を続ける。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:44:12.19 ID:RsSCUB8J0
「馬鹿、違う! 手を繋げと言ったのはそんな意味じゃなく――」
「ギャァオオオオー」
張り上げた青年の声を、突然ガラスを擦り合せたような異様な大音響が奪い、同時に地表に吹きつけた猛烈な突風が、周囲の木々を激しく震わせた。
「いゃぁぁぁ!」
間近で聞こえた黒禽の啼き声と羽音が、ただでさえ極限状態に有った子供達の精神に火を点ける。
散り散りに脱兎の如く走り出そうとした子供達は、しかしその場から誰一人として動けない。
『手を繋げ』
大人達が告げた言葉に隠された真(まこと)の意味は、一目瞭然だった。
恐怖に怯え、反射的に強く握り締めた掌が、繋いだ相手をお互いに拘束しあった結果、子供達の誰もが硬直し、その場から動けなかったのだ。
――そう。
ブーンが服の裾を掴ませた為、ただ一人、誰とも手を繋ぐ事が出来なかった弟を除いては。
( ^ω^)「しまった!」
集団から離れ、単身森の奥に引き返した弟の後を追うように、黒禽が一際大きく啼くと、再び地面に突風が叩き付けられる。
弟の名を叫び夢中で走り出したブーンの背中を、青年は自らも追うと、振り向きざま後方へ指示を投げかけた。
「お前達は町へ向かえ」
「わかった!」
黒禽が黒禽が森に消えたその隙に、何とか他の子供達を町へ連れ帰るため、男達は泣きじゃくる子供達を叱咤し、無理矢理立たせると町へと向かう。
「早く、皆走って」
これ以上犠牲を出さない為には、この期を逃す訳にはいかない。
その場に残された者には迅速に避難を続ける事しか、出来るすべはなかった。
「無事に帰って来いよ……」
男達が心の底から祈る言の葉は、けれど走り出した彼等には届かない。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:46:02.86 ID:RsSCUB8J0
松明さえない森の中で、小さな子供の姿を探すのは困難だ。
だが漏れ聞こえる泣き声を頼りにしばらく歩くと、大木の根元で震えている弟の姿が確認できた。
「兄ちゃん!」
( ^ω^)「しーっ」
震える弟の口を塞いで黙らせる。
黒禽の聴覚が異様に鋭いのは、魔物の馬鹿でかい一つ眼が暗闇では殆ど機能しないからだと聞いた事がある。
ずる賢い黒禽が、集団からはぐれた二人に狙いを定めているのは、多分間違いないだろう。
「ごめん兄ちゃん」
黙り込んだブーンの耳に、未だ泣きながらも小声で謝る弟の言葉が伝わって。
( ^ω^)「……違う。悪いのは俺だお」
弟が駆け出したのは、手を繋げと言われた意味を正確に理解出来なかったブーンの責任だ。
持てる力を過信し、他人を信用せずに一人で舞い上がった結果が、弟をこの窮地に誘ったのだ。
「けど兄ちゃん強いから、もう安心だね」
迷いもなく言い切る弟の態度に、ブーンの胸が詰まる。
いつも何かしらの遠慮している両親と違い、末の弟である弟だけは、ブーンに対しても素直に感情を表してくれた。
大切な弟だけは何としてでも守らなければと、襲う不安を振り払うように、ブーンは弟を強く抱きしめる。
( ^ω^)「ああ。大丈夫だお。お前は俺が守るお」
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:48:00.89 ID:RsSCUB8J0
触れた箇所から精一杯の励ましと温もりが伝わって、安心したのだろう。
ほどなく泣き止んだ弟は、涙の乾かない顔で懸命に笑顔を作るとブーンに話しかけた。
「これからどうするの、兄ちゃん?」
( ^ω^)「黒禽の奴、多分この暗さでは俺達の姿は確認出来ないお。いま奴は音だけを頼りに動いている筈だお」
出来るだけ静かに移動していけば、いつまでも姿を現さぬ獲物に対し、黒禽が焦れてどこかに違う獲物を探しに行くかも知れない。
そんな希望的な観測を、弱い心のどこかに一瞬思い浮かべたが、黒禽の執拗で残忍な性質からして、それは余りに楽天的な考えに過ぎず、無傷のまま町へ戻れる可能性は万が一にも有り得ない事を、ブーンはどこか冷静な頭で分析していた。
――とにかくいまは、互いの生存率を少しでも高める為に、町への距離を詰めて行くしかない。
( ^ω^)「行くぞ」
小刻みに震える弟の手を掴み、出来る限り音を立てぬよう、けれどブーンは迅速に移動を開始する。
だが逃げ込んだ森の奥深く。
地表一杯に生い茂った雑草に、朽ち落ちた無数の木の葉と小枝。
どんなに注意してもそれらを踏みしめる足音が、逃げた先を黒禽に教えていく手助けとなる。
事実、頭上で時折聞こえる黒禽の苛立った啼き声は、確実に二人の後を追っていた。
ほんのわずかな物音すら聞き分ける黒禽の聴力に、有効な手段が存在するはずはない。
( ^ω^)「駄目だお、止まれ」
「兄ちゃん?」
不安そうに呟く弟に、身振りで黙る事を強要する。
迫る暗闇の中、吐く息すら潜め、自らの存在を隠す事に神経を集中する。
大きな羽音をたてて上空を旋回する黒禽が、人間の姿を見失ってその場から離れるのを、ただひたすら待った。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:50:16.98 ID:RsSCUB8J0
数秒が果てしなく長い。
繋いだ掌はお互いの汗で湿って、わずかな動作が神経を逆撫でる。
極度の緊張で波打つ心臓は、今にも爆発しそうな勢いで二人の鼓動を刻み続けていた。
( ^ω^)「……良し」
黒禽の気配が遠ざかる頃合を的確に見定めると、ブーンは再び弟の手を取り、慎重に移動を開始する。
( ^ω^)「止まれ!」
何度も何度も同じ事を繰り返し、実際どれほどの時間が流れたのかはブーンには解らない。
町への距離は随分と縮まったものの、幼い弟の精神は、刻一刻と限界に近付きつつあった。
ガサッ!
突然背後の草むらが大きく揺れ、ブーンは悲鳴を上げそうになった弟の口をとっさに塞ぐ。
音になる寸前で掻き消された悲鳴は、黒禽に届く前にかざした掌に吸い込まれ、事なきを得た。
恐怖で大きく眼を見開いた弟を庇いながら、ブーンは油断なく武器を構え、背後に向き直る。
黒禽に追われる身で、新たな敵との遭遇は考えたくもない。
唇を噛み締めながら更に眼を凝らすと、意外にも草むらから現れたものは、先刻別れたはずの青年の姿だった。
「良かった! 二人共無事だったんだな!」
青年の間の抜けた一言で、ぎりぎりまで持ち堪えていた緊張が、もろく途切れたのだろう。
安堵の笑みを浮かべる青年とは対照的に、ブーンの口から紡ぎ出された言葉は、驚くほど冷たい響を伴っていた。
( ^ω^)「何でお前がここに居るお?」
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:51:56.85 ID:RsSCUB8J0
「何でって……お前達を助ける為に決まっているだろう」
( ^ω^)「誰が助けてくれって頼んだお? 俺に助けなど要らない!
自分より弱い使い手が一人増えたところで何の手助けにもならないお。むしろ負担が大きくなるだけじゃ――」
パンッ!
言葉は、突然頬に張られた乾いた音が遮った。
「子供が生意気言ってるんじゃない!」
平手とはいえ、他人に頬を殴られたのは一体いつ以来の事だろう。
ブーンはとっさの出来事に反応を返す事を忘れ、長身の青年を前に黙り込む。
「お前は確かに強い。だがな、お前が子供で俺が大人である以上、俺にはお前を守る義務があるんだ。解るな?」
怒鳴りつける訳でもなく、優しいその物言いに何故か酷く心が痛い。
力なくうつむいたブーンの頭部を、青年は解ればいいと軽く小突いて、上を向くように促した。
「いいかブーン。これから俺が黒禽の注意を惹き付ける。その隙にお前は弟を連れて逃げろ」
( ^ω^)「なっ?!」
「俺は闘えるお」と返そうとした言葉は、青年によって途中で遮られる。
「俺はお前達を守る事だけ考える。だからお前は弟を守る事だけを考えろ」
( ^ω^)「けどそれじゃ丸っきり囮じゃねぇかお」
ブーンの言葉に青年の顔がかすかに笑みを浮かべた。
「心配してくれるのは有り難いが、子供は自分の心配だけしてろ」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:54:07.29 ID:RsSCUB8J0
大勢の若者を取りまとめるこの青年は、細身の外見には似合わず、以前は町一番の使い手だったと聞いた事がある。
「大人をなめるんじゃないぞ」
あ然とするブーンに、町までの最短距離を手短に口述で教えると、青年は黒禽の旋回する空を見据えた。
「じゃ、俺が先に出で黒禽を誘き寄せる。打ち合わせ通り、お前達はその隙に町へ向え」
こちらに向ける真剣な眼差しにしっかりと頷く事で、ブーンは青年に対する敬意を表すと、弟の掌を今度は二度と離さぬよう、強く握り締めた。
( ^ω^)「行くお」
※ ※ ※
「さてどうするか」
青年は横目でブーンが静かに移動を開始した姿を盗み見る。
鬱蒼とした暗い森の中を、小さな弟の掌を繋ぎながら、町へと向かうブーンの姿が木々越しに断続的に見えた。
「自分より弱い使い手……か」
助けに来た者にさえ、敵意を剥きだしに構えるブーンに、青年が一瞬躊躇したのは確かだ。
だが怯えた弟と、それを必死で守ろうとするブーンは、まだ共に幼い子供で、見捨ててはおけなかった。
「そうだな、確かにお前は強いよ、ブーン」
しかし他の人間を寄せ付けないほど強い力は、結果として皆の畏れを買い、彼に孤独を強いる要因としかならなかった。
どこが違うのかは解らない。
けれど何かが、人間とは決定的に違う、異質な存在――
強者故の宿命に弄ばれ、誰も信じられず、周囲に溶け込む事が出来ない哀れな子供。
渇望する彼の愛に応える者は現れず、深く傷ついた魂は、いつしかブーンから子供らしい無邪気さを奪った。
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 16:57:56.37 ID:RsSCUB8J0
「お前が『黒き戦神』か?」
何か月前だったか。
複数の仲間にけしかけられ、町に越して来たばかりの子供に勝負を挑んだ。
全力で挑んだ勝負は、わずか数秒で子供側の勝利に終わったが、無気力な感情を宿したままの彼の瞳に、喜びの色は欠片も無かった。
( ^ω^)「――何だ。やっぱりお前も俺より弱いのかお」
淡々と零した言葉の影が、これまでに強さと引換に負った彼の孤独を物語るようで、幼い容姿には不釣り合いな冷めた心に、青年の胸は激しく痛んだ。
「……なぁブーン、俺はお前を救いたい。この広い世界で、決して独りではないと教えてやりたい」
あの日、いつか遠い未来でもいいから、彼の笑った顔を見てみたいと、青年は切実に願ったのだ。
※ ※ ※
バサバサバサッ!
突然、思ったより近くで聞こえる黒禽の羽音に、思考を中断された青年は空を見上げた。
木々の隙間越しに見え隠れする巨大な体躯と、小刀を思わせるほど鋭く堅い羽毛。
戦って勝ち目の有る相手ではない事を、他ならぬ誰よりも青年が一番解っている。
けれど孤独な魂の信頼を得る為にも、ここから逃げ出すわけには絶対にいかない。
「さぁ、行くか!」
青年は自らに気合いを入れると、地面に無数に散らばる石塊を素早く数個選び取り、掌に固く握り締める。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 17:00:41.76 ID:RsSCUB8J0
黒禽の注意を幼い子供達から、まずはこちらに惹き寄せる為に。
「黒禽よ、お前の聴覚を利用させて貰うぜ」
小さい頃から慣れ親しんだこの森で、青年に与り知らぬ場所はない。
ここからそう遠くない場所にある大木を利用する事に決めると、青年はわざと大きな音を立てながら、極力目立つように移動を開始した。
程なくして行き着いたのは、葉が枯れ果て枝が剥き出しになった複数の立木が立ち並ぶ、森の墓場。
内部に巨大な洞を抱えてしまったが故、成育途中にも関わらず立ち枯れを起こしたこの木々なら、充分役立つだろう。
周囲を茶色く乾いた木々に取り囲まれた状態になるよう青年は立ち位置を決めると、先程から握り締めていた石塊を手当たり次第、枯れ木目がけて投げつけ始めた。
果たして狙いは違わず、石塊は乾いた音を立て、次々と周囲の洞(うろ)の真上へと命中する。
「……どうだ?」
青年が起こした行動の結果は、待つ必要もなくすぐに表れた。
洞の内部に長年に亘り溜まった雨水と樹液は、外部から与えられた衝撃によって一直線に底部へと降り注ぐ。
ザザザーッ!
静寂に沈む森の中を突然豪雨のような、大量の水の降る濁音がかき乱す。
同時に地面を伝う振動は周辺の幹を駈け登り、細い枝をしならせては、木の葉の揺れを誘う。
破られた沈黙は、黒禽の注意を惹くには充分過ぎる代物となって、空へと放たれた。
「ギャァオオオー」
興奮か、苛立ちか?
どちらともつかない黒禽の不気味で甲高い啼き声は、遥か上空から聞こえたにも関わらず、大地を震わせ足元を激しく波立たせる。
「聞こえたか黒禽! 俺はここにいる、ついて来い!」
空に大きく呼びかけて。
青年は再び手頃な大きさの石を拾い集めると、揺れる大地を後に一目散に駆け出した。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 17:01:58.41 ID:RsSCUB8J0
「はぁっ、はあっ」
何度も同じ事を繰り返し、全力で走りながら、わずかに上空を仰ぎ見る。
淡い光に彩られた星空が、黒禽の姿通り漆黒の影に切り取られ、まるでそこだけが何もない闇夜のように、青年には思えた。
「くそっ! 武器はやはりこれだけか」
暗い森の中を全力で疾走しながら、しかし身に付けた武器を手早く確認する作業を、青年は怠らない。
空にいる魔物に剣で挑むのは無謀だと承知しているが、神聖な祭りの場という事もあって、事前に携帯を許された武器は、小さな短剣のみだった。
「狙うとすれば、奴の眼か足のどちらかだな」
猛毒を全面に塗布したこの短剣で、魔物の躯にわずかな傷でも与える事が出来れば、勝機は見えるはずだと信じて、青年は目指した場所へ勢いよく転がり込んだ。
大きな一つ岩を中心に、ぽかりと円形状に伐採が進められた広場。
岩山を背に短剣をいつでも投げられる態勢に構えると、青年は満天の星空を静かに見つめる。
耳障りな荒い息に反して、何故か不思議と心は落ち着いていた。
「大丈夫だ、俺は出来る」
程なくして黒禽がその巨大な全貌を、臆す事なく広場の上空に現した。
地面をゆっくりと覆う不気味な黒い影に、急激に闘志は萎(な)え、青年の全身を細かい震えが走り抜ける。
一方、突然拓けた場所で餌を見失い、上空を執拗に旋回していた黒禽は、岩陰に潜んだ青年の姿をようやく捉える事が出来たのだろう。
己の強靭な体躯を脆弱(ぜいじゃく)な人間に見せ付けるが如く。
まるで一層の恐怖を誘うかのように、魔物は獲物を前にして、ことさらゆっくりと降下を開始した。
「何て……何て大きさだ」
間近に迫れば迫るほど、対峙した黒禽の大きさに、思わず青年の腰が引ける。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 17:33:29.41 ID:1zwIPVQ6I
しえん
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 17:59:51.55 ID:GwKL44bG0
うん支援
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 18:06:48.71 ID:y68dx9pj0
wkwk
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 18:23:06.43 ID:CSqSZSGZ0
あれ
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 18:59:41.83 ID:V8uCPwXh0
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 19:14:21.63 ID:wmm3oXWh0
去るったな
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 19:22:04.84 ID:KLOIVLyN0
あはは^^
もう作者は戻ってきませんよ^^
こんな少ない支援で投下なんか作者も嫌だと思いますよ^^
ざまあみろー^^
読者も作者も、ざまあみろー^^
さるを理由に寝てたとかそんな理由で戻ってくるかもしれませんけどね^^
出かけてた、は無しです^^
時間の余裕がない時に投下する馬鹿なんていませんもの^^
根性無しの作者の駄作^^
晒し上げ〜^^
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 19:31:52.09 ID:Mw0ugUWm0
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:03:00.23 ID:F/TpSkp30
は
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:20:30.70 ID:aSIsp/GHP
今見つけて追い付いた
地の文ガッチガチで大変だろうけど頑張れ
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:37:40.81 ID:XlE2WO8Q0
>>1 【今のブーン系は投下する意味がない】
理由
今のブーン系民はIDを変えて支援してきたり、
馬鹿にする人が増えています。
「真面目に本気」で書いて、純粋にブーン系民に支援されても、
「IDを変えるだけの荒らし」によって空気をぶち壊され、
まさに骨折り損のくたびれ儲けって話です。
なぜこのようなブーン系になったのか?
それは有名作者や某民が空気やつまんない奴を叩いたりするからです。
今IDを変えて荒らしてる人やアンチクライストメンバーも元は
「つまんないと叩かれた」哀れでかわいそうな人なのです。
つまりブーン系をぶち壊したのは根本的にはあなたたちブーン系民なわけですね。
さて、これだけ言ってもまだあなたたちはブーン系に固執しますか?
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:38:28.15 ID:ZAkCUKiG0
( ;∀;)イイコピペダナー
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:38:58.51 ID:kxkAJnWl0
このスレにも私の自演支援があります^^
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 20:39:27.44 ID:ZAkCUKiG0
( ・∀・)死ねよてめー
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 21:03:48.42 ID:X7kizHWh0
まだ来ないのか…
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 21:20:52.39 ID:Lf4piiI10
それでも俺は支援し続ける
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 21:46:13.07 ID:16LUGFIj0
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 22:20:22.37 ID:16LUGFIj0
なんなんだ…読ませてくれよ…
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 22:26:19.11 ID:aSIsp/GHP
おーい逃亡だけはやめてくれよ
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 23:03:31.77 ID:aSIsp/GHP
最後の保守
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 23:46:52.59 ID:+MimJvtB0
てぃ
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/05(日) 23:58:56.53 ID:uQFRwfVf0
来い
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/06(月) 00:13:28.44 ID:TspGK7+4P
>>1がこのスレを放棄するまでの流れ
地の文ぎっしり作品を三国志に向けて一ヶ月間必死に書き溜める
↓
途中突然延長されたりして嫌になってもここまで来たら退けない
↓
祭り当日になるもブーン系荒れまくり
↓
それでも勇気を奮ってスレ立て投下
↓
祭り作品だというのに支援が全く付かない
↓
やっと一人ついたかと思えば、27レス投下であえなく猿
↓
あれだけ頑張ったのに自分の書き込みしかないスレを見返して完全に心が折れる。
必死で書き溜めた重厚な物語を全て消して、めろんを呪いながら泣きながら寝る
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/06(月) 00:22:55.26 ID:M8G+Db5E0
まだだ
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
まだ終わらんよ