ウチ文才ないけど小説書きたいねん……ええやろ?

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ここはお題をもらって小説を書き、筆力を向上させるスレです。


◆お題を貰い、作品を完成させてから「投下します」と宣言した後、投下する。

◆投下の際、名前欄 に『タイトル(お題:○○) 現在レス数/総レス数』を記入。
 (例:『BNSK(お題:文才) 1/5』) ※タイトルは無くても構いません。
◆お題とタイトルを間違えないために、タイトルの有無に関わらず「お題:〜〜」という形式でお題を表記して下さい。


※※※注意事項※※※
 容量は1レスは30行、1行は全角128文字まで
 お題を貰っていない作品は、まとめサイトに掲載されない上に、基本スルーされます。

まとめサイト:各まとめ入口:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/
まとめwiki:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/
wiki内Q&A:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/index.php?Q%A1%F5A
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 16:19:02.78 ID:k5Cqcf8R0
▽読み手の方へ
・感想は書き手側の意欲向上に繋がります。感想や批評はできれば書いてあげて下さい

▽保守について
・創作に役立つ雑談や、「お題:保守」の通常作投下は大歓迎です
・【!】お題:保守=ただ保守するのも何だから小説風に保守する=通常作扱いにはなりません

▽規制されている方へ
>>1から辿って行けるまとめ板に、規制者スレがあります。
 そちらの方に投下していただければ、心ある人が転載してくれます。

▽その他
・作品投下時にトリップを付けておくと、wikiで「単語検索」を行えば自分の作品がすぐ抽出できます
・ただし、作品投下時以外のトリップは嫌われる傾向にありますのでご注意を

▲週末品評会
・毎週末に週末品評会なるものを開催しております。小説を書くのに慣れてきた方はどうぞご一読ください。
 wiki内週末品評会:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/index.php?%BD%B5%CB%F6%C9%CA%C9%BE%B2%F1
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 16:19:34.35 ID:k5Cqcf8R0
262 名前: ◆71Qb1wQeiQ [] 投稿日:2010/08/25(水) 00:23:47.18 ID:6Pw06Dl10 [2/2]
第230回週末品評会  『鉄』

規則事項:5レス以内

投稿期間:2010/08/28(土) 00:00〜2010/08/29(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外になります。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2010/08/30(月) 00:00〜2010/08/31(火) 24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 16:22:52.32 ID:k5Cqcf8R0
転載スタート
5【お題:オートメーション】オートメーションワールド1/4 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:24:03.07 ID:k5Cqcf8R0
 世界はオートメーションだ。美しく自動的で在り続ける。全ては生まれ続け、消え続け、相互作用を繰り返し、
循環を重ね、在るがままに存在し続ける。
 コズミックインフレーション。宇宙の誕生という神の奇跡。全ては膨張し続け、遥かを経て、今に至る。
 この我々が住む地球という惑星。
 プレートテクトニクスによって大地は絶えずその地殻構造を変え続け、自由気ままにアトモスフィアは空を
巡り、生命を象徴するエイチツーオーは上昇滞在下降を繰り返す。
 地球は母なる海を掻き回し、混沌とさせ、やがては至極単純構造な生命体を生み出した。
 海で生まれ増殖し、進化し続け、無数もの枝分かれ。一部の生命は子離れをするように、未知なる陸地に
可能性を求め、母なる海を去っていった。
 そこでの適応進化。更に生命系は枝分かれを無限に続け、時を経て、今我々が、ここにいる。

 さて、質問だ。
 ここまでの間に、何か自動的でないことがあったかね? 非オートメーションであったかね?
……たった一つだけ。この宇宙が神の奇跡によって生まれたという、たった一つの神的例外を覗けば――
答えは否だ。
 全ての万物は神によって生み出され、絶えず変化を続けてく。そこに作為的なことなどあるものか。
 世界はオートメーションだ。美しく自動的で在り続ける。
 
 ここで愚鈍な人たちは、一つの疑問を浮かべ出す。
「私たち人間はその自然のオートメーションを壊しているのではないか?」

 ははっ。馬鹿なことを言う。まるで人という存在が他の全てより優位とし、余計な自尊心を守ることに腐心し
ているように見えるぞ。この自動的世界から抜けだした唯一絶対の存在とでも言いたげな口ぶりだな。
 自覚が無いのなら…・・・別に改めなくてもいい。別にそれでいいのだ。我々人間が、いや、個々の生命全
てが、自身を絶対と崇め奉っている。無意識の内にね。
 それはオートメーションだ。美しき自動的世界に組み込まれた歯車の一つだ。改めなくてもいい。
 いや、改めたくなったら改めても良いだろう。例え人間が何をどうしようが、世界はオートメーションなのだ
から。
6【お題:オートメーション】オートメーションワールド2/4 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:24:35.82 ID:k5Cqcf8R0
 さてさて。少し余計なことを長く語ってしまった。なにぶん、私は話を脱線させることに定評がある。これも
自動的世界に組み込まれた私という歯車の、更にその歯車の一つ、言うならば個性であるから見逃して欲
しい。
 今日から君もこう言うといいぞ。周りより少し違った行動を取って異端化扱いされていじめられている君た
ちにだ。
「世界はオートメーションなのだから、僕が何をしようが全ては僕のせいじゃない」
 まぁいじめられっこにこう切り替えされたら笑いものだがな。
「僕が君をいじめるのも、仕方ないよ。世界はオートメーションだからさ」

 またまた話が逸れてしまった。ただ、私の言わんとしていることが分かるだろう?
 人間は自動的に生み出された存在にすぎない。
 私たちが何かを見て、何かを聴いて、何かを触って、感覚を刺激するその全ては、自動的だ。
 体内分泌物質のやり取りにすぎない。
 我々が何かを考えている、その考えすら我々が考えているものではない。
 愛も友情も悲しみも、全ては体内分泌物質物質による結果だ。人間機械論、といったところか。
 我々は人間という名前を与えられた観測者なのだ。
 神秘的な光景、耳障りなノイズ、冷たくて熱いドライアイス。愛や友情や悲しみ。
 それら全てを観測しているにすぎない。
 我々は自身の意思の力で自由に生きていると錯覚している。
 私たちはオートメーション化された世界に人間という全自動ロボットとして生み出され、死ぬま
で世界を観測し続ける。

「私たち人間はその自然のオートメーションを壊しているのではないか?」
 ――そう、だから我々が一体何をしようが、それはオートメーションにすぎない。
 私は全人間責任転嫁論などと愉快なことを提唱しようとしているわけではない。
 私は当たり前のことを、当たり前のように君たちに話している。

 我々は世界を見る人間という観測者だ。
 街を作り出し自然を破壊しようが、生命を無作為に殺そうが、核戦争を起こし世界に死の灰を
降らそうが、この世界がオートメーションであり美しく自動的で在ることに変わりはない。
7【お題:オートメーション】オートメーションワールド3/4 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:25:08.49 ID:k5Cqcf8R0
 この話とは関係ないが、私は核を嫌悪する人々のことを嫌悪している。
 核爆弾は汚い兵器とされている。それは何故か? それは自然に、人間に有害な放射能をば
ら撒くと言われているからだ。
 放射能汚染などという命名は一体なんだ?
 放射能が自然を汚染しているとでも言うのか。
 放射能は宇宙に満ち、世界に満ち、どこにでも満ち溢れている。
 放射能は自然界に満ちた極めて神秘的な存在だ。それを汚染などと言うのは高慢にも程が
ある、が、まぁ仕方ない。この怒りは私個人の怒りであって、それを押し付けようとしているわけ
ではない。君たちは存分に人間ロボットを構成する個性によって、それを判断してくれたまえ。
いや、その判断を自身が下すまで見続けたまえ。観測者君。
 君が私に嫌悪を抱こうが、すぐここでカッターナイフを取り出し私の首を切り裂こうが、それは
君のせいではない。君は観測者なのだから、何もしていない。
 


 ただし、ここまで色々と述べた私だが、私は人間は全自動ロボットで単なる観測者なのだから、
何をやってもいい、好き放題やってもいい、と言いたいわけじゃない。
 私だって人間だ。
 私という個性は、青空が好きだ。森林が好きだ。海が好きだ。自然が好きだ。
 ――この世界が好きだ。

 私は死ぬまで世界を観測し続ける。だからせめて、観測するなら小奇麗な世界を眺め続けた
い。
 街を作り出し自然を破壊しようが、生命を無作為に殺そうが、核戦争を起こし世界に死の灰を
降らそうが、この世界がオートメーションであり美しく自動的で在ることに変わりはない。
 
 ただし、自然を破壊せず、生命を無作為に殺さず、核戦争を起こさない世界は、相変わらずオ
ートメーションであり美しく自動的であることには変わりないが、観測者たる私からすれば、こっ
ちの方が先例より更に美しいと思う。
 核だって放射能のこと自体は好きだが、それによって起こる被害的事象は好ましくない。
8【お題:オートメーション】オートメーションワールド4/4 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:25:41.40 ID:k5Cqcf8R0
 私は自動的に生まれ、やがては自動的に死ぬ。
 死ぬまでに残されたこの世界を観測する時間、なるべく楽しく生きたいところだ。
 なるべく美しいこの世界を愛で続けたいところだ。
 
 私たちは全自動ロボットであり、単なる観測者にすぎない。だから我々が何をしようが、それを
観測しているだけであって、我々に責任は一切無い。

 ただし、覚えていて欲しい。
 
 少なくともこの世界中で一人、私だけは、確実に美しきこの世界が好きなのだから。
 出来れば壊さないで欲しいね。

 世界はオートメーションだ。
9◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:26:45.96 ID:k5Cqcf8R0
いつもは娯楽性重視なんだけど、ちょっと毛色の違うの書きたくて迷走してしまった。瞑想してくる。



感想もらったのに返レスするの忘れてた。。。
「まさか、お題付きの小説を<文才>無しで?」の>>227
直視の魔眼やっぱり来るか・・・orz まったくキノコさんは立ちはだかる壁だぜ。
一応言っておくとパクったつもりは一切無いです。

崩壊のサヴァンの能力はビルの爆破解体に似ています。
ビルを爆破解体する時は、必要最低限の火薬量で、建物の構造的に最も脆弱なところ、というより
か、「ここを壊したら建物の自重で自壊するポイント」を正確に爆破します。
そして自重で自壊。どっかーんです。
崩壊のサヴァンはそれを全てのモノに当てはめた感じ。生体波動で構造を解析し、「ここを壊したら
モノの自重で自壊するポイント」的な、崩壊点を的確に破壊し、どっかーんです。
以下オナニー垂れ流し設定終わり。

確かに2レス説明は長すぎたと反省しています。小出し小出しに出していきたいです。
極端な正確っすか。個人的にはアルファ=のんきな気分屋、シエラ=無表情無口ってな感じなつ
もりだったんっすけど、絶対的に尺が少ないっすね。わかりました。こんど長編化?してみる時に
そういうのが分かりやすくなるように心がけます。
感想あざっす。
10◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:27:33.21 ID:k5Cqcf8R0
いやいや、今見たら尺短とかの問題じゃないよ。前半セリフ梨でいきなり喋られたら違和感あるわなスマン。
それも修正します。ありがとう。
11◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 16:28:47.46 ID:k5Cqcf8R0
38 名前:仮名ゴジラ ◆X78jHks0c. [] 投稿日:10/08/28(土) 05:48:03 ID:07R5tNqB [1/6]
品評会投下
12仮名ゴジラ1/4 ◇X78jHks0c.:2010/08/29(日) 16:29:40.45 ID:k5Cqcf8R0
 新日鐵の製鉄所の誘致に成功した大分市は、佐賀市と同規模だった小都市から、今では長崎市を追い越して九州第五位
の中核市に成長した。高度経済成長期に急成長したせいで、多少歴史的な風格に欠けるが、典型的な工業都市であり、鉄
の街である。その鉄の街に異変が起きた。

 夜が明けると、海上自衛隊のP−3C対潜哨戒機から、関門海峡を越え瀬戸内海に向かう巨大物体を視認した。
「泳いでいるように見えます」
 機長は携帯電話越しに司令部に報告した。
「その質問は、その物体が生命体であるという前提なのか?」
 携帯電話越しに通信幕僚が訊いた。
「そのように見えます」
 機長は答えた。
「ゴジラのように見えます」
 パイロットが言った。
「頭らしき部分に角が二本生えています」
 副機長が言った。
「写真を撮影しよう」
 機長はアップルのアイフォンを取り出して撮影し、ソフトバンクの3G回線経由で司令部に送信した。
「この異常な物体に対して判断を下すのは司令部のお偉いさんの仕事だ」

「確かに、頭に角が二本生えたゴジラのような生命体に見えます」
 通信幕僚はエクスペディアで受信した写真を見て確信を抱いた。
「海自の通信機器は汎用性を重視しているようですね」
 航空自衛隊の幕僚長は皮肉を込めて言った。
「どこの世界に市販のスマートフォンと民間の通信回線を利用する軍隊があるのでしょう?」
「意外と便利がいいからですね」
 通信幕僚はさらりと言った。「写真を皆にまわしますね」
「まわすなんて、なんかいやらしいな」
 陸上自衛隊の西部方面総監は言った。
「そういう発想しかできないあなたこそ一番いやらしいですよ」
 あきれながら言った通信幕僚はドコモから貰ったフォトフレームをまわしていった。
13仮名ゴジラ2/4 ◇X78jHks0c.:2010/08/29(日) 16:30:40.12 ID:k5Cqcf8R0
 それを見た自衛隊幹部一同は、うーむ、と唸って考え込んだ。「確かに、これはどう見てもゴジラにしか見えない」

 仮名ゴジラは瀬戸内海を九州沿いに南化していた。
 ゴジラは危害を加える様子がないので、司令部はこれまで通りP−3C哨戒機による監視を続けつつ、通常爆弾を積ん
だF−2支援戦闘機をスタンバイさせた。呉の護衛艦隊も出港した。
 仮名ゴジラは瀬戸内海を大分県に沿って別府湾に侵入し、大分市に向かいつつあった。
「ゴジラは別府湾をホテルのプールと勘違いしている模様」
 機長は携帯電話で司令部に伝えた。
 仮名ゴジラが大分に上陸する危険を察知した空自の幕僚長は戦闘機のパイロットに攻撃命令を下した。
 編隊を組む6機のF−2が通常爆弾が仮名ゴジラの頭上に6発落とした。全弾命中し、全弾爆発した。
 しかも、瀬戸内海に展開した護衛艦隊がハープーン対艦ミサイルを全弾発射、その上128ミリ砲を連射し、全弾命中
した。
 だが、仮名ゴジラは傷ひとつ負わずけろりとしていた。それどころか、攻撃された刹那、体を真っ赤にすると、仮名ゴ
ジラを中心とした半径100メートルの範囲が沸騰した。
 護衛艦隊の指揮官が近距離からのミサイル攻撃を試みようとし、イージス艦のヘリポートから発艦した対戦哨戒ヘリが
仮名ゴジラに近づいた。
「こいつ、火を吹かないか?」
 操縦士は言った。
「俺に聞いても分からん」
 副操縦士は答えた。「レーザー光線を発射してもおかしくないな」
「とりあえず、攻撃するしかないな」
 操縦士は仮名ゴジラに機銃の照準をあてた。
「待ってください、日本の皆さん」
 仮名ゴジラは懇願するように大声で叫んだ。「私はあなたがたに危害を加えるつもりはありません」

「……と、いうことです」
 操縦士は護衛艦隊の指揮官に無線で連絡すると、指揮官は可及的速やかに事実を司令部に衛星通信回線で伝達した。
 通信幕僚はウィルコムの携帯電話でその報告を受けた。
「仮名ゴジラ君の正体は、北朝鮮から亡命してきた怪獣プルサガリ君だそうだ。少なくとも彼はそう自称している」
 通信幕僚は司令室に集う陸海空のお偉方に情報を披露した。「亡命したいそうだ」
14仮名ゴジラ3/4 ◇X78jHks0c.:2010/08/29(日) 16:31:42.54 ID:k5Cqcf8R0
「怪獣が亡命?」
 空自の幕僚長は首を傾げた。「何の理由で?」
「鉄をたらふく食いたいそうだ」
 通信幕僚は答えた。「純度の高い質のいい鉄を腹いっぱい食べたくて、世界最大の溶鉱炉のある新日鐵大分製鐵所にや
ってきたと言っている」
「マジで?」
 総監は鼻毛を抜きながら不真面目な態度で言った。
「工業生産が壊滅的な打撃を受けた北朝鮮では、満足できる量の鉄を食べることができないし、配給されても純度の低い
粗鉄しか食べられなかったことが不満だったようです」
 通信幕僚は不真面目な総監はこの時ばかりは真面目に言った。「代償として、重要な情報を提供する用意があるとのこ
とです」
「どうやら高度に政治的な状況に傾いたようだ」
 空自幕僚長は呟いた。「政府民主党に連絡を入れよう」

 プルサガリ君は、政府が買いあげた新日鐵が保有する世界最大の溶鉱炉に手を突っ込み、水飴のように溶けた鉄を腕に
絡ませると口に含んで舐め上げ、恍惚とした表情をした。
 溶鉱炉に沈殿していた鉄を舐め尽くすとそれだけでは物足りないと言わんばかりに隣の溶鉱炉にも手を出した。
 鳩山家の力をもって、日産のエンジン工場が出来るはずだった埋立地に新たに溶鉱炉を作り、プルサガリ君自ら溶鉱炉
で鉄鉱石を溶かし、簡単なクッキングを楽しみながら鉄の食事を楽しんだ。
 それでも足りずに、北九州市の八幡製鐵所や戸畑製鐵所から圧板を取り寄せて食べさせた。
 最初は丁寧だったプルサガリ君が、日に日に横柄な態度を取るようになってきた。
「ただの獣をこんなに厚遇してどうする?」
 野党自民党は日に日に態度がでかくなるプルサガリ君に対する政府によるVIP待遇をそう批判した。
 だが、政府は拉致被害者の情報が得られるかも知れないとの期待から、獣のご機嫌を取る選択をした。
「拉致被害者について何かご存知のことはありませんか?」
 新日鐵の上空をホバリングするヘリからプルサガリ君に総理大臣と拉致被害者家族会代表が訊ねた。
「その前に生活保護と外国人参政権くれ」
 でかい態度でプルサガリ君は言った。「鉄が足りん! もっとよこせ」
「いい加減にしろ!」
 森林火災用のヘリ数機と消防車数十台に貯蓄した濃縮塩酸より100万倍強力なカルボラン酸をプルサガリ君にかけ、
15仮名ゴジラ4/4 ◇X78jHks0c.:2010/08/29(日) 16:32:17.87 ID:k5Cqcf8R0
鉄のように固く熱に強い体を一瞬で溶解させた。
<了>
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 16:33:25.88 ID:k5Cqcf8R0
44 名前:文才無しさん[] 投稿日:10/08/29(日) 12:46:28 ID:3ANS+OPb [1/6]
規制もだけど、それ以前に今スレ落ちてる?

お目汚しと思いつつ、品評会作品投下します。
17BATON1/4(品評会:鉄) ◇KV7M.qJsh2:2010/08/29(日) 16:34:18.52 ID:k5Cqcf8R0
本日明け方、H県G市の公園で男性の遺体が発見されました。
遺体は会社員の竹原信吾さん34歳と見られ、容疑者はまだ発見されていません。
竹原さんは頭部を殴られた事による脳挫傷で死亡し――

竹原っていうのか……あいつ、偽名使ってたんだ。歳までサバ読んでるじゃない。テレビ
のリモコンをソファーに投げ捨て、愛子は途方に暮れた。どうしよう。これ、どこに捨て
よう。愛子は目の前に転がる、血がべっとりと付いた鉄パイプを見て頭を抱えた。



冬の空に満天の星が輝いていたあの夜、あの公園で、愛子は独りで泣いていた。恋人に捨
てられ悲しみに暮れていたその時に、声を掛けてきたのが竹原だった。執拗に絡まれ、男
の口から酒の臭いを感じた時、これはマズイと恐怖心で一杯になった。止めてくれと言っ
ても竹原は引かず、遂には強引に押し倒して来る。恐い、誰か、助けて!!!

カラン

手の届きそうな所に、鉄パイプが見えた。竹原と揉みくちゃになりながら、必死に手を伸ばした。


後の事はあまり覚えていない。ぜいぜいと口から白い息を吐き、耳にはどくどくと自分の
鼓動が劈いていた。鉄臭い……そう思って我に返ると、手には鉄パイプ、目の前には血ま
みれで呻く竹原がいた。血だ、血の臭いだ。愛子は恐ろしくなり走ってその場から逃げた。
無事誰にも見られずに帰宅を果たし安堵したが、これは立派な正当防衛じゃないかとその
時やっと気が付いた。なら早いうちに通報を……そう思って手にしたままだった鉄パイプ
を見て愛子は驚愕する。まだ新しく生々しい竹原の血、そしてその下に……明らかに先ほ
ど付いたとは思えない、黒く乾いた血が貼りついていた。正当防衛、果たして信じてもら
えるだろうか。竹原と誰のものかも分からない血がべっとりと付いた鉄パイプを見て、愛
子は再び恐怖の底に落ちた。
18BATON2/4(品評会:鉄) ◇KV7M.qJsh2:2010/08/29(日) 16:34:50.42 ID:k5Cqcf8R0
眠れぬ夜が明け、取り敢えず愛子は会社を休むことにする。長年付き合っていた恋人に振ら
れたのだ。たとえ仮病で数日休んだ事がバレても、実は失恋のショックで寝込んでいました
と言えば誰も疑わない。幸い竹原とは何の接点も無いので警察も直ぐには来ないだろう。あ
とは凶器だ。鉄パイプ……煮るも焼くも、切り刻む事も敵わず処理が出来ない。いっそ溶か
してしまいたいが、そんな施設を愛子は知らない。川に捨てる、山に捨てる、どれも直ぐに
見つかってしまうのでは無いだろうか。だからと言って、こんな物家に置いていたくない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。

再び眠れぬ夜が明け、愛子は家を出た。鉄パイプはお留守番だ。竹原の血も乾き始め、元々
の血との差別化は目視では難しくなってきた。プロが調べれば血液反応なんて直ぐに出ると
何かの本で読んだので、愛子は血を洗い流さなかった。自宅の風呂場に竹原の痕跡を残す訳
にはいかない。このまま人目に付かない所に捨てられないだろうか――そう思い、目ぼしい
場所を物色する為に町を歩いた。草むらの中、ゴミ捨て場、川、工場跡地、ここならば! 
と思っても、警察だってこんな所真っ先に捜すだろうと頭を振る。

再び眠れぬ夜が明け、今日は一日家に籠もった。心配する友人からの連絡が来る度、どきり
としてしまう。ニュースを見ても事件に進展はない。竹原の知人らが顔を隠しながら、彼は
良い友人だったとコメントしている。ふざけんな。あいつは私に偽名を使った。始めからレ
イプが目的だったのだ。お前たちの良い友人が、私を不幸のどん底に叩き落したんだ。愛子
は怒りと悲しみと不安に押し潰されていた。何かを食べようとしてもあの鉄臭い血の匂いを
思い出してしまい吐き続け、どんな時もあの夜の事で頭が一杯だった。もう駄目、もう耐え
られない、やっぱり自首しよう。こんな生活している方が頭がおかしくなる。
19BATON3/4(品評会:鉄) ◇KV7M.qJsh2:2010/08/29(日) 16:35:21.37 ID:k5Cqcf8R0
深夜、自首を決意し家を出る事にした。コートを着て、マフラーを巻く。手袋に手を伸ばし
たが、あの夜していた物だったので一瞬躊躇した。しかしよく冷えた血だらけの鉄パイプを
素手で持つのは気が進まず、やはり手袋をはめた。手袋越しの鉄パイプの感触が、嫌でもあ
の夜の事を思い出させる。血の匂いに胃液が込み上げるのを必死に堪える。もう、お仕舞い
にしよう。

ふらふらと夜道を歩いていると、数十メートル先に奇妙な男が歩いていた。明らかに挙動が
おかしい。時たま奇声を上げ、辺りには誰も居ないのに会話をし、見えない何かと戦ってい
た。麻薬……? と、愛子は身を凍らせる。関わってはならない、と踵を返した時、ふと恐
ろしい考えが頭を過ぎった。

愛子は走った。手にした鉄パイプを、誰にも見られない様にコートで隠し、全速力で走った。
曲がり角から恐る恐る様子を伺うと、あの麻薬男がふらふらと此方に向かって歩いていた。
よし、先回りは成功。愛子は辺りに人の気配がないのを確認し、コートから鉄パイプを取
り出した。自分の痕跡が残っていないか良く確かめてから愛子は地面に鉄パイプを置き、
道路の真ん中に向けて弱く転がす。カタカタと音を鳴らしながらパイプは転がり、道路中
央で止まる。そこまで見届けて、愛子は再び来た道を走り戻った。喉の奥で血の味がする。
ぜいぜいと口から白い息を吐き、耳にはどくどくと自分の鼓動が劈いていた。そして麻薬
男の遥か後ろに回りこみ、曲がり角から様子を伺う。ちょうど男があの鉄パイプの場所に
辿りついていた。取れ、取れ、取ってくれ! 祈りを込めて見守っていると、男が鉄パイ
プに気が付き、手に取った。そして奇声を上げながら振り回し、夜の町に消えていった。
20BATON4/4(品評会:鉄) ◇KV7M.qJsh2:2010/08/29(日) 16:36:38.73 ID:k5Cqcf8R0
翌朝のニュースで、男が警察に捕まったという報道が流れた。案の定麻薬の常習者だった
あの男は、あの後別の公園でホームレスを襲ったらしい。凶器は鉄パイプだった。幸いホ
ームレスは死を免れた様だったが、その鉄パイプから複数の血痕が見つかり、その内の1
つが竹原の物だと判明し大ニュースになっていた。愛子はホッとした。勿論、警察が真相
を突き止める確立がゼロになる事は無いかも知れないが、麻薬常習者が何を言っても信憑
性は薄いだろう。テレビを消し、お茶を淹れていると電話が鳴った。体調を心配した上司
からだった。誰かから事情を聞いたのか、ただの病人に対する以上の心配をしていたので、
午後から行きますと返し電話を切った。

3日ぶりに出社すると、疲弊しきった顔で痩せてしまった愛子に皆が優しい声を掛けた。
同期の友人らにゴメンネ、もう大丈夫と謝ったが、愛子が強がっているのだろうと感じた
のか、心配の色を変える事は無かった。そんな温度差を感じつつ、今朝の麻薬犯うちの近
所なんだよね、引っ越そうかなぁと、愛子は軽口を叩いていた。

自宅に帰り、この3日間は間違いなく人生最悪の日々だったなと息をつく。しかしそんな
思いとは別に、もしもあの夜何も無かったら、きっと今夜も失恋のショックで眠れぬ夜を
過ごした事であろうと少し可笑しくも思った。そうだ、あいつの電話番号消しちゃおう。
そう思い、床に置いた鞄から携帯を取り出したその時――紙切れが舞った。


ドウモアリガトウ。ワタシモ、タスカリマシタ。



21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 16:46:17.39 ID:k5Cqcf8R0
ここまでアレ完了
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 17:00:59.21 ID:e/xQ9NwG0
おつおつ
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 17:13:34.54 ID:Oiq+1ZvW0
てすと
24アイアンハート 0/4 ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:27:20.05 ID:VqGLJiAj0
品評会投下します

タイトル:アイアンハート
お題:『鉄』
レス数:4
25アイアンハート 1/4 ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:27:44.45 ID:VqGLJiAj0
 生きるのに鉄の意志なんて必要なのだろうか? ふにゃふにゃでいいのではなかろうか。
 私は、実家の居間でビールを飲んでいる。午前三時半。丑三つ時などはとうに過ぎ、夜のとばりは降りきって
むしろどこに行ったのか分からない。
 そうだ、缶ビールだって今やアルミ缶で出来ている。スチール缶のような芯の通った感じではなく(もっともスチー
ル缶も缶である以上中身は中空なのだが)、ふにゃふにゃでいいのだ。就職できなかったのではない。しなかっ
たのだ。事実に対する認識だって、このくらい柔軟であった方が何となく心地いいものだ。死ぬわけではない、
先祖の霊じゃあるまいし。
 スーパーファミコンでマリオカートをやるのは十五年ぶりくらいだった。よく作動したものだと、酩酊しつつも
感心する。そしてバーチャルな酔っ払い運転に興じる。バナナを路上に投擲するなんて、昭和の酔っ払いには
出来ない発想だ。バブルが弾けたのだって無駄ではなかったわけだ。
 私はヨッシーである。でっていう。ノコノコとキャラがかぶってるのは目をつぶって欲しい。亀だけにかぶるのは
仕方がないだろう。スタートのロケットダッシュのタイミングを覚えていた指は流石である。このときばかりは天才
の名を欲しいままにしても罰は当たるまい。
 フハハハ。
 池に落ちたところで私はマリオカートを投げ出した。
 弟を起こしてこようかと思ったが、思いとどまる。奴はまだ小学生だ。ビールの味を分かち合うには、奴の尻は
青すぎる。まるでブルーマンデーかブルーハワイである。偏光板でも使ったのか。
 歳を取った後の両親のがんばりには脱帽せねばなるまい。愛する弟とは歳の差に隔てられていて、いかんとも
しがたい。こんな時はビールに限るのだ。
 そうだ、京都に行こう。
 終電は逃したが、世の中にはそんなときのために始発電車という救済措置がある。フェイルセーフ。ドッジボー
ルで言うところの顔面セーフである。
 金はある。何なら愛で金は買える。流石に下着一枚で出かけるほど私は露出狂ではない。ジーンズとTシャツ
という正装で出かける。途中退屈するといけないので本を一冊持って行く。足元が痛いと思ったら、何と裸足で
あった。こうなりゃバイクでも盗もうか、十五の夜。読んだサバの数はかろうじて一桁で収まったわけだが。
 五反田駅で三十分ほど待たされたが、その間の飢えをビールでしのいだ。食料としても秀でている麦芽製品
だ。品川駅を目指したが、途中渋谷や新宿や池袋や東京を通過した気もする。まあ、大したことではない。
 品川駅で乗り換えのために降り、ついでに新幹線の切符を買う。ここでまさかののぞみデビューを果たすこと
になった。切符の値段を見て一瞬喧嘩を売られているのかと思ったが、実際に売られたのはやはり切符であっ
た。行きで一万三千円するということは、帰りも一万三千円すると言うことだ。片道しか燃料を積まずに特攻した
26アイアンハート 2/4 ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:28:44.78 ID:VqGLJiAj0
戦艦大和の気持ちがよく分かるエピソードである。
 通常料金でグリーン車に乗れたのはラッキーだと思っていたが、案の定車掌につまみ出された。酔っ払いを
ゴキブリと同じような目で見るのはやめて欲しい。それとも、酔った勢いで京都を訪れてしまう客がよほど珍し
かったのかも知れない。別段新しい発想でも何でもないのだが。不思議に思われたのなら、きっとそいつは飲み
が足りないのだ。
 三回の失敗を経て、私は所定の指定席に辿り着くことが出来た。この調子ではビールのワゴン販売を探す
旅に出た日には、やはり同じ失敗を三度は繰り返すだろう。大人しく待つことにした。ビールが切れたらそれ
までよ。
 退屈しのぎに持ち込んだ本は、中学校の卒業文集だった。同級生が逮捕されたらマスコミに売り込んでやろ
うと、後生大事にとっておいたやつだ。こんなところで数奇な再会を果たすとは。
 記憶のページを混濁した意識でめくる。本のページは、好きだった男の子のところで癖がついている。何度と
読んだページだ。だが今になって開かれた黒歴史を直視できない。神様!
『将来の俺へ
 未来をエンジョイしているかい?きっと君は今頃、おっきな翼をはためかせて飛翔しているだろう。夢は信じた
奴だけが叶えるんだ。だから、ビリーヴ。友達が笑ったって、目指せJリーグ!目指せワールドカップ!尊敬す
る選手は柱谷選手です。
(中略、というか落書きスペースである)
 P.S. T.M. 未来で待ってる。』
 T.M.なる頭文字が西川貴教であるはずもなく、とりあえず私のものとも一致を見なかったのは実は十年前
から気づいていた。最後の文では、将来の俺と今時分の俺とがごっちゃになっているようでもあった。ひょっとし
たら細田守はこの文章を読んで『時をかける少女』をリメイクしたのかも知れない。
 こんなアホな男子を好きだっただなんて!
 飲まなければやっていられないので、ビールのワゴン販売を探しに席を立つ。元の席へ返ってくるのには多少
の苦労をしたが、具体的には三回くらいの失敗をやらかしたが、座席に卒業文集をそのまま置いてきていたの
で何とか戻ることが出来た。しかしその間についでもらったビールをあらかた飲み干してしまっていたので、何と
も意味のない往復になってしまった。
 そのまま卒業文集を、前の席の背中についている網に突っ込んだ。自分の文は読まない。他人の黒歴史でさ
えあのような有様なのだから、自分のものと来たらどんな地獄絵図になるものやら想像するだけでも恐ろしい。
 眠くなってきた。当たり前だ、あれだけのアルコールに浸されてなおかつここまで徹夜だったのだから。寝たら
死ぬのは、雪山か南極か京都を乗り過ごしたらの話だ。ゆえに私は寝る。起こしても無駄である。
27アイアンハート 3/4 ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:29:29.03 ID:VqGLJiAj0
 富士山の麓を、新幹線が静かに通り過ぎる。そういえば修学旅行も京都だったっけ。どうでもいい記憶である。
そうだよね、鹿せんべい、いいや、君は奈良だ。
 残念なことに、私は。
 奈良と京都の違いが、分からない。

     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆

 中学生の恋愛の話をしよう。
 きっと人生最大の秘密が、例えば生徒手帳の合間に書いてある。女の子だったら、自分の気持ちをこっくり
さんとかに代弁させようとしていたかも知れない。恋愛の秘密主義。大抵の中学生はせいぜいここ止まりだ。
告白も相談も出来ない。悶々と蓄える。
 ませた奴だったら、異性の手を放課後の帰り道とかで握ったりしててもおかしくない。もっと進んだ奴だって
いる。いずれは誰もが経験することだから、ここで事の是非を争ったって仕方がない。
 しかし大方は、最後まで気持ちを伝えきれなかったとしても、決して奥手だなんてなじられる程でもない。恋愛
なんてその程度の扱いだ。
 だから私も、卒業文集に好きな人のイニシャルなんて書かなかった。書くことが悪いと言っているわけじゃない。
ただ私にとって、書くほどのものじゃなかったと言うだけだ。
 ただ、恋愛が成就することを至上の幸福と信じて疑わなかった。これは事実だ。きっと、そんなことを意味の通
らない乱筆で書き殴ったから、今になって読み返せなくなってしまったのだろう。あの卒業文集は。
 中学生の私は、恋に恋をしていた。
 そして未来の私に託したのだ。幸せであれって!

 初めて彼氏が出来たのは、大学一年生の時だった。中学生の頃考えていた幸せとは随分と違った、それでも
それはそれで幸せには違いなかった。キスをしてしまった時にはもう、子供の頃の気持ちとはとても離れた所に
立っているような、そんな気がした。と思う。
 長くは続かなかった恋だけれども、それでも二年を数えた。全ての季節を二回は経験したわけだ。
 恋の失敗は、次の恋を始めるにあたっての障害にはならなかった。ただ、恋の中身は変わっていったように
思う。その時々でそれなりの幸せを感じていたけれど、もはや恋そのものに幸せを感じていられる時間は終わっ
たのだった。
 多分、それが本当の理由だ。今になって読み返せなくなった卒業文集の。幸せであれと願った中学生の私は、
28アイアンハート 4/4 ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:30:28.50 ID:VqGLJiAj0
よもや幸せの意味が変質しているとまでは見通せなかった。誤算である。黒歴史になってしまうわけだ。
 初志は貫徹できない。ふにゃふにゃの意志がそう語っている。
 幸せでない心が、今でも疼いている。
 そうして、今でもバカな経験を重ねている。

     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆     ◇     ◆

 吐き気とともに目が覚める。座席で吐くわけにはいかない。速やかにトイレへと移動する。流石にトイレを間違
えたりはしない。
 何しろリットル単位でビールを飲みまくったのだ。下手な原チャリだったらそのまま百キロくらい走れるくらいの
量だ。もっとも、ビールではなくてガソリンである必要があるけれども。
 吐いた。しこたま吐いた。そのままエクトプラズムまで吐ききって、夏の終わりを知らせる花火になって散ってし
まうのではないかとさえ思われた。夜が明けて外が明るくて助かった。
 嘔吐の発作は三分ほど続いた。長い三分のトンネルを抜けたが、涙は収まらなかった。泣いているわけでは
ない。ただ、幸せの気配があまりにも遠くてむせび泣いているだけだ。
 やがて車内放送が京都接近の一報をもたらしてきた。修学旅行以来の京都である。ついに、無計画のまま
やってきてしまったのだ。そうだ、京都に行こうのキャッチフレーズに釣られて衝動的な京都来訪を果たしてし
まった犠牲者が、今まで私以外に何人いたことだろう。
 ここで私は自分が裸足であることに気が付いた。ついでに言えばノーブラでもあった。Tシャツに吐瀉物を付着
させるわけにはいかない。こんな薄布でも大切な一張羅だ。こんな格好で京都に来るなんて、京都に失礼にも
程があるだろう。いっそ乗り過ごして新大阪に行こうか。
 と、この期に及んでもまだ逃げようと構えている自分に気が付く。過去から逃げて現実から逃げて、果ては京都
からも逃げるなんて、誰が私を捕まえることなんて出来るだろう? 誰にも見つけてもらえない隠れんぼなんて
寂しすぎるじゃないか。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だエヴァに乗るわけでもあるまいし。
 私は決意する。鋼鉄の意志で。
 もし京都に過去の残滓を置いてきているのなら、それを回収するのが私の役目だ。
 だからその時までさようなら、卒業文集。君の姿を直視できるようになるまで、私は君の命をJRに預けること
にする。
 新幹線よ、進路を過たずに進んで欲しい。
29アイアンハート ◆D8MoDpzBRE :2010/08/29(日) 17:30:44.03 ID:VqGLJiAj0
以上である
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 17:47:24.05 ID:k5Cqcf8R0
週末品評会230th『鉄』投稿作品まとめ
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1282924076/

No.04 アイアンハート ◆D8MoDpzBRE氏
アレしたんでアレよろしく
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 17:48:23.78 ID:VqGLJiAj0
>>30
ありがとう
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 18:15:55.10 ID:k5Cqcf8R0
うん
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 18:52:11.65 ID:k5Cqcf8R0
みみ
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 19:20:30.88 ID:k5Cqcf8R0
ごはんタイム
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 19:29:03.18 ID:VqGLJiAj0
お題クレ
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 19:30:21.08 ID:2Z+DAYsn0
勝利者
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 19:32:10.82 ID:VqGLJiAj0
>>36
把握
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 19:32:58.21 ID:G378NyV90
りりららりりらら
39 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:44:24.29 ID:M2/fhkZy0
品評会作品投下します。
40鉄の炎 1/5 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:45:05.02 ID:M2/fhkZy0
 今日もボクは、河原で山内君を待っていた。
 クラスの人気者の山内君と、いじめられっ子のボクが、放課後一緒に遊ぶ仲になったのにはワケがある。
 ボク達は小動物の虐殺という、秘密の趣味を共有する仲間となったからだ。
 幼い頃、ボクはいつも一人でアリを千切ったり、イモムシを踏み潰したりして遊んでいた。それがいつしかカ
エルや金魚などを惨殺するようになり、小学六年の時には夜中に学校に忍び込んで、クラスで買っていたハムス
ターを虐待した後に殺した。それがいじめられっ子のボクの、唯一の楽しみだった。もちろん鬱屈した気持ちを
発散させる意味もあったけど、それ以上にただ単純に虐待が楽しかった。だけどもちろん他人にそのことを言え
るはずもなく、いつも隠れて小動物の殺害を楽しんでいた。
 小動物をいじめる秘密の場所として、隣町にある河原をよく利用していた。知り合いに合う可能性が低く、草
むらの奥に入っていけば周りから死角となり、ゆっくりと小さな命を弄ぶことができるからだ。
 だからこそあの日も、生け捕ったスズメと解体用のハサミを手に持ったボクは、周囲に注意を払うことなく草
むらに入っていった。そしてそこで偶然にも、クラスメイトの山内君と鉢合わせたのだ。
「あっ! えっ? 山内君?」
 こんな場面でクラスメイトと出くわしたことに、ボクは驚き戸惑った。しかしそれ以上に、自分の眼を疑った。
 クラスの中心人物で男女問わず人気があり、運動も勉強もトップクラス。中学校から同級生となった山内君は、
いじめられっ子である僕の密かな憧れだった。しかしその山内君が、なんとネコを解体していたのだ。
 そして山内君はボクに気付くと、手に持っていたネコの脚を一旦置いて、立ち上がりこっちに向かってきた。
なんとなく殴られるだろうと思ったが、しかしボクの予想は外れた。
「い、飯島!? おい、それ、今からバラすのか? なあ、そうなんだろ? よかったら一緒にやろうぜ!」
 その発言にボクは面食らってしまった。それはつまり、山内君がボクと同類だということだった。
 ボクはデブでトロくて根暗でブサイクで、いじめの対象としてはかなり優秀な方だ。クラスの不良グループは
ボクを毎日からかい、殴ったり蹴ったり持ち物を壊したりする。そんな不良達とも山内君は親しく、それでいて
先生達とも仲がいい。人の輪の真ん中にはいつも山内君がいて、リーダーシップがあり行事ごとを仕切るのも得
意だ。それに彼女だっている。その彼女は峰藤さんというとても可愛い女の子で、実を言うとボクも峰藤さんが
好きだった。でもボクなんかが峰藤さんと付き合えるわけもなく、顔もいい山内君ならまさに峰藤さんとぴった
りだった。山内君はまるで太陽のようで、ならばボクは日陰のダンゴムシみたいなものだ。
 そんな正反対のボクらが、偶然にも同じ趣味を、それもこんな後ろ暗い趣味を同じくしていたのだ。
 そう思うと、驚きよりも嬉しさの方が勝った。
「す、すごいね山内君。ネコだなんて。ボクなんてホラ、これぐらいが限界だよ」
 そして、同類に出会い嬉しいのは山内君も一緒のようだった。
41鉄の炎 2/5 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:45:45.92 ID:M2/fhkZy0
「いや、スズメを捕まえる方が難しくね? ネコなんて、こっからちょっと行ったところの商店街の路地裏にた
くさんいるぜ。餌で簡単におびき寄せれるし。なあ、スズメなんてどうやって捕ったんだ?」
「え、まあ、簡単だよ。カゴと棒とで単純な罠を張って、あとは一緒。餌で釣るんだよ」
 今までも山内君は、ボクのような根暗男にも話しかけてくれていた。でもそれはほんの些細な言葉だったり事
務的な話だったりで、友達同士の会話ではなかった。だけど今、山内君とボクは友達として会話をしている。
「さ、先に喉を切ったら鳴き声はでないと思うよ。スズメはそうだし。ネコもそうしてみたらどう?」
「でもそれで失血されてもつまんねえしなー」
 正直なところ意外だった。ボクは自分のこの趣味が、一般的には特殊で気持ち悪いものだと自覚している。そ
してそれはいじめられっ子の自分にぴったりだとも思っていた。だからこそ、いつも明るくて人気者の山内君が、
ボクと同じ趣味を持っていることがとても意外だった。
 けれど最早そんなことはどうでもよく、仲間ができたこと、それが山内君だということがただ嬉しかった。
 その日以来、ボク達はこの河原でよく遊んだ。山内君に用事がある日やボクが塾の日なんかは一緒に遊べなかっ
たけど、それ以外の日はだいたい二人で解体を楽しんだ。ネコやスズメ、カラスやネズミなど様々な動物を処刑
して遊んだのだ。山内君はナイフを持っている。そのナイフで動物達の腹を裂いたり、ボクの手持ちのカナヅチ
で頭を潰したりして、そして最後は全て川に流してしまう。散らばった血液も水で流してしまえば血の臭いも消
え、、きっと誰も僕らの秘密に気付かない。学校でどれだけイヤなことがあっても、ここで動物を解体して川に
流せば、膿んだ気持ちも一緒に流れてくれるのだ。
 今日だってそうだった。いつも通り、ボクはいじめっ子の沼田達に酷い目に遭わされていた。
 休憩時間、ボクのところまでやってきた沼田は、勝手にボクの筆箱を漁りはじめた。
「一回シャー芯をまとめて折ってみたかったんだよなぁ」
 そう言って予備のシャーペンの芯を奪ったのだ。ボクは小さく抵抗したが、もちろん沼田には通じない。
「え? なに? やっていいって? そうか、ありがとう飯島。優しいなお前」
 そして沼田がボクのシャーペンの芯を全て折ると、周りでは大きな笑いが起こった。
「よし、じゃあこれ返すわ。貸してくれてありがとうな」
 さらに沼田はそう言うと、細かくなったシャーペンの芯をボクの顔に向けて投げつけ、ついでにボクの筆箱の
中身も辺りにぶちまけた。ボクは慌ててペンや消しゴムを拾ったが、でも何本かは行方がわからなくなってしま
った。そんなボクを見て、沼田の取り巻き達はさらに大きな笑い声をあげる。けれどボクは、ただ黙ってそれに
耐えることしかできない。だからボクはいじめられるのだろうけど。
 山内君はそんなボクの姿を見ても気にはしていない。けれど別にそのことを恨むつもりはないし、助けを請う
こともしない。そんなことをすれば、山内君にもとばっちりがいくだろう。僕のせいで山内君の株が下がるよう
42鉄の炎 3/5 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:46:26.28 ID:M2/fhkZy0
なマネは決してしたくない。放課後一緒に虐殺を楽しんでくれれば、ボクはそれでもう十分なのだ。
 そんなことを考えていると、山内君がついにやってきた。そしてその腕には、トイプードルが抱えられている。
「へへ、こいつは今日のオモチャさ」
「どうしたのそれ? どこのイヌ? 野良じゃないよねそれ。大丈夫かな」
「まあまあ。詳しいことは抜きにしてくれよ。そんなことよりさっそくこいつ、バラそうぜ!」
 そう言うや否や、山内君はいきなりイヌを殴りつけた。どうもそのトイプードルは山内君に懐いていたみたい
だった。その山内君からいきなり殴られてイヌはかなり驚いたようで、悲しそうに鳴き始めた。
「やっぱイヌはうるせーな。飯島、オレが押さえとくからこれでいつも通りに頼むわ」
 そう言われるとボクはナイフを手渡され、そしてイヌの喉元を軽く裂いてやった。するとうるさい鳴き声は消
え、代わりに切り口からコスコスと空気の抜ける音が漏れてきた。そして、トイプードルの解体が始まった。
 手足を折り、尻尾を叩き潰し、腹を切り裂き、垂れ出た腸をむしって口の中に詰め込む。可愛いらしいトイプ
ードルが、汚く醜く千切れていく。茶色いモコモコの愛くるしい毛が、ジュクジュクの赤い血液で染まっていく。
初めてのイヌの解体は本当に楽しくて、瀕死になってもさらに虐待を続けた。目玉を抉り取り、肛門を無理矢理
広げ、その中に目玉を詰め込み、空いた眼にはその辺にあった木の棒を突っ込んだ。
「よし、そろそろいっか」
 山内君が切り出し、そこで虐待は終了した。
「あ、ちょっと待ってくれ。えっと、そっちのその辺押さえといてくれる?」
 言われた通りにお尻の辺りを脚で踏みつけると、山内くんはナイフでイヌの首を切断し始めた。
「ああ、なかなか切れねーな。んっ、お、っし。オッケーとれた。よし、あとは流すか」
「え? その首はどうするの?」
「ああ、これは記念に持って帰るよ。初のイヌ解体の記念として。いい考えだろ」
 山内君はそう言って笑った。その笑顔を見て、ボクは少しだけうらやましくなった。だからボクもどこかの部
位を持って帰ろうかと思ったけど、やっぱり家に持ち込むのはまずいので止した。
「山内君はそんなものを持って帰っても大丈夫なの?」
 イヌだった塊を流し終えた後にそう聞くと、山内君はイヌの首をビニール袋に詰めながら問題ないよと言った。
「部屋に飾るつもりなんだ。よし、じゃあまた明日学校で。ん? あーそうそう、そう言えば」
 山内君はポケットを探り始め、赤ペンを取り出した。それはボクのものだった。
「学校で沼田にやられただろ? そん時にオレのところまで転がってきたんだ。その場で渡せばよかったけど、
まあ後で会うからそん時でもいいかなって思って。ほら、返すよ」
 学校で失くしたペンの一つを拾ってくれていたのだ。ボクは心から感謝し、そしてそこで別れて帰路に着いた。
43鉄の炎 4/5 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:47:15.99 ID:M2/fhkZy0
 その日はずっと解体したイヌの姿が忘れられなくて、興奮が醒めず夜もなかなか寝付けないほどだった。
 そして翌日になりいつも通りに学校に行くと、ボクは自分の下駄箱に手紙が入っているのを発見した。なんだ
ろうと思い、一度トイレに行ってから中を開けてみると、それは山内君からの手紙だった。内容はこうだ。
『同志・飯島へ。飯島にはバラしのテクニックをいくつか教えてもらい、虐待のバリエーションも広がって感謝
している。ただ、飯島がいるとその場で死体見てオナニーできないのが不満だけど。でもそんな飯島に、日ごろ
の感謝の気持ちを込めたプレゼントを用意した。期待に胸を躍らせて教室に向かってくれ。
 なおこれは秘密の手紙なので、読んだらすぐに破いて捨てるように。同志・山内より』
 引っかかりを覚える一文もあったが、手紙の内容にボクは嬉しくなった。同志という言葉も、なんだか心を熱
くさせる。そして指示に従い、すぐに手紙を破ってトイレに流した。それから、何が待っているのかとワクワク
しながら教室へ向かった。向かったのだが。
 そこには胸躍る楽しいものなど待ってはいなかった。
 まだ人が疎らな教室には、酷く重苦しい空気が充満している。そこにいた女子達のほとんどが泣いており、男
子達も青褪めた顔で立ちすくんでいる。その暗い雰囲気の理由はすぐにわかった。
 その場で一番中心にいたのは峰藤さんだった。彼女は誰よりも大きな声をあげ、しゃがみ込んで泣いていた。
そして彼女の眼の前、峰藤さんの席の上には、昨日ボク達が殺したあのトイプードルの首があった。昨日と同じ
ままの惨めな姿で、いや、流れた血が固まっている分、より歪な造形となっていた。
 ボクはゾッとした。なぜあの首がそこに? そして程なくして、聞きなれた声が教室に響き渡る。
「おはよー。ってあれ? みんなどうしたんだ? ん? え、え!? おいっ! なんだよそれ!」
 もちろん山内君の声だ。ボクはもう何がなんだかわからない。
「どういうことだよ……これは……これは美夏んとこのイヌだろ! 美夏、大丈夫か?」
 そう言って、うずくまる峰藤さんの肩を抱いた。そして誰もが静まる教室の中で、山内君はさらに続ける。
「ちょっと待てよ。これ、このペン……見覚えがある。これ、もしかして飯島のじゃないか?」
 その言葉とともに、クラス中の視線がボクに集まる。ちょっとそれは、一体、どういうこと? 戸惑いつつも、
ボクはもう一度イヌの首に眼をやる。そしてよく見ると、そこには確かにボクのペンが刺さっていた。昨日は木
の棒が刺さっていた場所に、失くしたはずのペンが。ボクのペンが、赤く血に染まって。
「てめえぇぇえええ! 飯島ぁぁぁぁあああ!」
 それまで教室の端で青褪めていた沼田が急にボクに向かって突撃してきた。ボクは突き飛ばされ、上にのしか
かられると殴られた。殴られながらも、僕は現状を理解しつつあった。多分ボクは、山内君にハメらている。
「お、おいちょっと待て! 落ち着け沼田!」
 そう言ってボクから沼田を引き離したのは、それもやはり山内君だった。
44鉄の炎 5/5 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:48:03.83 ID:M2/fhkZy0
「あれは多分飯島のペンだけど、でも飯島がやったという確証はない。おい、大丈夫か飯島」
 山内君はボクを気遣う。きっとそれは素振りだけだ。もうわかっている。手紙に書いていたプレゼントという
のがこのことなら、あまりにも酷すぎる。そして山内君はボクの耳元に顔を寄せ、微笑みながらこう囁いた。
「へへ、人殺しをしてみないか? 標的は沼田だ。オレの袖口にナイフが仕込んである。お膳立てはしたし、あ
とは飯島次第だ。わかるよなこの状況。オレが犯人はお前だと言えばそうなるんだ。もう逃げられないぜ」
 その言葉がボクの中の引金を引いた。聴覚がおかしくなる。外界の音は遮断され、代わりに耳鳴りと、そして
体内を循環する血液の音が聞こえた。その調べは硬く金属質で、かち合う金属の粒が火の粉をあげ、火の粉は合
わさり一つの炎となる。身体を巡る硬質の炎は体内を焼き、舞い踊る灰がボクの手足を動かした。
 焦げ付いた脳に操られるボクは、山内君の袖口からナイフを取ると立ち上がり、まずは山内君の頬を刺した。
「何が同志だ! お前みたいな死体に欲情する変態と一緒にするな!」
 五秒ほどして、巻き起こる悲鳴を掻き消すように、ボクはボクらしからぬ怒号を発した。そして山内君の腹を
力いっぱい蹴飛ばし、次にその横で固まっていた沼田に歩み寄り、腹にナイフを刺してやった。そしてすぐさま
ナイフを抜き、次は腕を刺した。その次は脚。次は首。何度も何度も何度も何度も。溢れる涙を拭いもせず、浴
びた返り血を気にもせずに。さらに次は峰藤さんに近づき、そして言った。
「もう山内君とセックスはした? まだだよね。だってあいつ、死体でオナニーするような変態なんだから!」
 うずくまる峰藤さんの髪をつかみ、そして蹴飛ばした。すぐ側にあったイヌの首を掴んで、思いっきり峰藤さ
んに投げつけた。静まり返った教室に響く峰藤さんの悲鳴が、なんだかとても気持ちがいい。気持ちがいいけど、
でもやはり悲しかった。もういいや。もうこの辺で終わらせよう。血の臭いが、ボクを不思議と落ち着かせた。
 そしてボクは教室の窓に近づき、大きな声で山内君の名を呼んだ。
「山内君、君の思い通りにはならなかったね。自分でも驚いてるよ、ボクがこんなことをするなんてね。君はず
るい。ずるいよ。ボクの手だけを汚させようなんてあんまりだ。今まで沼田から受けたどんいじめよりもキツかっ
たよ。だけど、それでも、楽しかった。ありがとう、山内君。今まで本当に楽しかった。君の仕打ちは酷すぎる
けど、それでもボクらが河原で過ごした時間はウソじゃないよね? ボクにはもうそれだけで十分。お礼にボク
からも、君にプレゼントをあげるよ。好きに解体していいから。じゃあ、今までホントにありがとう」
 友達になってくれて、ありがとう。そこまで言いたかったけど、ちょっと照れくさかった。
 言い終えるとボクは後ろ向きに窓へ倒れこんで、そして青い空へと沈んでいった。
 最後に見た山内君は、頬から血を流しながらも、とても満足げで素敵な笑みを浮かべていた。
 程なくして眼の前には赤い海が広がり、ボクも静かに笑って眼を閉じた。

<了>
45 ◆Lq1ieHiNSw :2010/08/29(日) 19:49:28.54 ID:M2/fhkZy0
以上です。
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 20:05:47.49 ID:k5Cqcf8R0
あふん
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 20:10:18.32 ID:k5Cqcf8R0
50 名前:ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(0/5) ◆BFS4hea.ps [] 投稿日:10/08/29(日) 20:03:23 ID:d9ipMOlw [1/7]
品評会作品投下しまーす
48ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(1/5) ◇BFS4hea.ps:2010/08/29(日) 20:10:58.82 ID:k5Cqcf8R0
――うそはつかない。

 それが、『佐橋秋乃』という名の少女の掲げたモットーで、少女が自身に課した掟であったらしい。
 当時、小学三年生だった少女。進級前にクラスで作った思い出を綴る冊子の一ページ。そこに少女の思いが、
誓いが、確かに書かれていた。
 そこに至る思考過程は、どういうものであったのか。僕はそこまで少女について仔細をを知らないし、覚えて
もいない。だが、胸が締め付けられる思いで一杯だった。
 僕の生きた人生のおよそ半分。それだけの時を生きた少女がそんな境地に達していた。そんな少女のことを、
僕は案外好きだったのかもしれない。
 ちなみに同じページに僕が書いた言葉は、『ハンバーグをまいにちたべたい』であった。鼻血が出そうな程に
情けなかったから、一瞬で記憶から消去した。
 さて、時間だ。
 喪服に身を包んだ僕は家を出る。彼女と決別するために。思い出は、思い出のままであるから美しいのだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 僕の住む街はこの県有数の都会で、今居る場所はその街の中央に位置する駅前。待ち合わせスポットとしては
定番で、昔々の何とかっていう有名人の銅像が行き交う人の群を見下ろしている。
 今日はいわゆる学生達の夏休みの最後の日曜で、駅前には人が溢れ返っていた。
 その足元で俯いて、下を向いて地面に直の体育座りで微動だにしない大学生が一人。
 それが僕だ。
 首筋を焼く日光と夏の暑さに辟易しつつ、ぼんやりと掌に収まった華美な包装の小箱を眺めていた。
 意識はあったようにも思うし、だがしかし暑さにやられて茹で上がって、そんなものはなくなっていたかもし
れない。だが、はっきりとそのセリフは耳に届いた。
「ひゃー、おにーさんがあたしを買った人かぁ! ……あのさ、待ち人は来ないよ。だからさぁ、あたしとどっ
か行かない?」
 だから最初はそれが僕に掛けられた言葉なのだと気付かなかった。
 むしろ何て不穏当なセリフなんだろう、こんな昼間っから、いや昼間でなくても、誰かが聞いたら通報でもさ
れるんじゃなかろうか、と心配になった程だ。だが、余り気にしてなどいなかった。何しろ僕の心は別のところ
に向いていて、待ち合わせている彼女のことを今か今かと待っていて、だから、
49ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(1/5) ◇BFS4hea.ps:2010/08/29(日) 20:12:08.23 ID:k5Cqcf8R0
「おーいおーい、聞こえてるー? ほらほら、おにーさんってばぁ!」
 目の前に、すらりとした細い足が二本。
「あたしを買ってくれたんだかさぁ。……ほら、良いことしよーよ?」
 僕は顔を上げる。
 健康的な小麦色の肌、タンクトップにキュロット、スニーカー。そして頭には麦藁帽子という、どこかチグハ
グな印象を受ける格好をした少女が、僕を見て笑っていた。その笑顔を、眩しい、と思ってしまった。
 いよいよ暑さで幻覚を見始めたし幻聴も聞こえるようになったのか、と僕は嘆息し、ジーンズのポケットから
携帯電話を取り出した。着信もメールも何もなく、約束の時間からは既に一時間が過ぎていた。
 もう一度嘆息し、立ち上がる。くらり、と眩暈がした。
 彼女は来ないのかもしれない。一生懸命選んで買った、綺麗な水晶が印象的なネックレスも無駄になったかも
しれない。初デートになる筈だったのに。しかも今日は僕の誕生日なのに。
 泣きたい気分だったが、泣く訳にもいかなかった。
 これからどうしようか、彼女に電話をしてみようか、もしかすると事故とか何かで、――。
「あ、ちょっと、何すんだよ!」
 僕は思わず声を上げていた。非難の声の向かう先、目の前の少女の手には、僕の携帯がある。
 少女は携帯を開いて待ち受け画面を一瞥して、
「やっぱりこの人だ。さっきすれ違ったからさぁ。他のヤツと一緒に歩いてたよ。……まぁ今、目の前に居るん
だけどね」
 液晶の画面に映るのは、笑顔の女性。同じ大学に通う一つ年下の女の子で、先週勇気を出して告白して、オー
ケーの返事を貰った直後にお願いして撮らせて貰った一枚。その笑顔は、僕だけに向けられたものだった。
 その筈だ。だから、目の前の少女の言っている言葉の意味が良く分からなかった。
「ほら、行こう? こんなトコで座ってないでさぁ! ココ居ても、あんまり良くないからさぁ!」
 少女から携帯を返され、そのまま半ば強引に手を取られ引っ張られる形になって、僕は困惑する。
「いや、あの僕、今待ち合わせの最中で……」
 虫の囁き程の抵抗は、
「いいじゃん、もう一時間はここで座ってんじゃん。疲れてるでしょ? どっか涼しいところ入ろ? 勿論、お
にーさんの奢りでいいよ! もうあたしを買ってくれたから、おにーさんのモノだし」
 さて、果たしてこの光景は、傍から見たらどう映るだろうか。何となく焦りのようなモノを感じて周りを見渡
す。だが、その場に居合わせた誰もが一様に無関心で、無視を決め込んでいるらしく、誰とも視線が合うことは
なかった。
50ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(3/5) ◇BFS4hea.ps:2010/08/29(日) 20:12:57.11 ID:k5Cqcf8R0
 だがばつが悪いことに変わりはなく、僕は少女の言葉に従い、腰を上げる。そして、
「あのさ、さっきから『買った買った』って、そういう人聞きの悪いこと言わないでくれる?」
 だから、少女が話していた大事な大事な部分を、僕はごっそりと聞き流してしまっていた。

 結果的に、僕と少女がその場を動くことはなかった。
「あ、やっぱココでいいや。動きたくない気がする。……ね、おにーさん?」
 目の前を流れていく人込みを難しい顔して一瞥した少女が、ストン、と僕の隣に腰を下ろす。何となく、心持
ち、ほんの僅かばかり、空気が冷えたような気がした。
 まぁいいか、どうせ僕はここを動けやしない。人を待っているのだから、と開き直って腰を下して、
「あのさ、一体僕に何の用なのかな?」
「あたし、おにーさんに買われたから。まぁ一応、出てきたっつーか、なんてーかなぁ。もう一つあるんだけど
さぁ、それはあんまりハッキリ言いたくないってぇか」
 いまいち要領を得ない説明だった。暑さでヤられているのは、僕の頭だけではないのかもしれない。やっぱり
涼しい場所に移動する方がお互いのためになるだろうか、と真剣に検討し始めたところで、
「もう一度言うよ? あたしとさ、良いコトしない?」
 そのセリフに、一層の眩暈がした。
 少女の横顔を視界に納める。麦藁帽子の下、汗の一つも流していない涼しげな表情。少しばかり視線を落とす
が、胸は真っ平らの断崖絶壁、どこからどう見ても小学生でしかない。
 僕に少女趣味なんてモノは、そういう属性は欠片もなく、僕に求められているものは何なのか、何をどうしろ
というのか、何でこんなことになってるのか、一体何が目的なのか。実はこれは囮捜査でここで頷いてどこかに
場所を移動していざコトに及ぼうとしたところで逮捕されるかもしれないとか、そんな想像が頭を駆け巡る。
「あのさ、僕にそういう趣味はないんだ、悪いけど」
 きっぱりサッパリ斬り捨ててやる。しかし少女はその言葉に気を悪くした風もなく、僕の視線に気付いている
だろうに、変わらぬ笑顔のまま、
「大丈夫、心配ないよ。あたし、こう見えても今日で二十歳だし」
 とまぁ、ツッコミどころ満載、小学生でもウソと分かるウソを平気な顔して吐きやがったのだった。
 勿論僕はそのセリフを聞いて、お約束の見た目はロリだけど本当は十八歳超えてるんだから問題なし。さぁこ
のままホテルか、もしくは僕の部屋に連れ込んで云々、なんてことをするつもりも、そんな想像を欠片もするこ
となかった。
 あ、ホントだから。僕の名誉と恋人のために明言しておく。……とまぁ、そんな僕の心の葛藤はさておき。
51ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(4/5) ◇BFS4hea.ps:2010/08/29(日) 20:13:44.54 ID:k5Cqcf8R0
「偶然にも僕と同じ誕生日だってのは分かった。そして二十歳になるってのも、一応は了承しようじゃないか。
……でもさ、何この状況? 何で僕迫られてんの?」
 それは率直な疑問で、むしろ疑心に近いモノだった。
「ほら、最後の最後であたしの初恋の人と話せるなんてさぁ。これは奇跡だよねって思って」
「はい? 初恋の人? ……人違いとかじゃなくって?」
 これは確実に罠であると思う。どこかで悪い大人が隠しカメラとかで撮影されていて、一部始終が全て録音さ
れていて、だからこれはやっぱり僕をハメるための罠であって、ここで迂闊な答えは、――。
「うん、あたし、ウソは吐かないよ。小学校の頃、同じクラスだったこともあったんだけどなぁ。覚えてないか
なぁ?」
 そして少女は、名前を名乗った。
 その名前には、何となく聞き覚えがあった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 小学生の頃、夏休みの内に転校してしまった少女が居た。
 少女は、綺麗な透き通った水晶が付いたネックレスをいつも服の下にこっそり忍ばせていた。勿論学校の先生
にはバレバレで、いつも注意されていたけれど、でも少女はそのネックレスを外すことはしなかった。
 一度だけ、少女は僕にそのネックレスを見たことがあった。
 夏休みに入る直前の、終業式の終わって誰も居なくなった教室。
 その時、僕は家に帰る途中で忘れ物に気付いて、学校に戻ったのだった。
 誰も居なくなった教室で、少女はネックレスを首元から取り出して水晶をジっと眺めていた。
 そして、泣いていた。
 あの涙の意味が、その時には分からなかったけれども、夏休みが明けて、少女が転校したと聞いて、やっと理
解した。

 ◇ ◇ ◇ ◇

「何で、」
 記憶の底の底にも残っていなかった少女の姿。こう思い返してみれば、何となく見覚えがない気がしないでも
なかった。だから、それは当然の疑問だった。
52ファントムクリスタルは夢を魅せるのか(5/5) ◇BFS4hea.ps:2010/08/29(日) 20:14:53.55 ID:k5Cqcf8R0
 例えばアニメやマンガなんかで、こういう設定の女性が出てくることはあるが、しかし現実にはまず有り得な
いだろう。だから目の前のこの少女を、あの同級生の少女と同一人物だとどうしても確信出来なくて、――。
「それはね、私が転校出来なかったから」
 そんな、核心を突く答えを返してきた。何となく、僕は気付いてしまった。だから、黙っていた。
「あたし、嘘は吐かないから。そう決めてるから。それは今も変わらないから。それにさぁ、今、あたしすっご
く嬉しいんだ。最後の最後で、こうして話が出来てさぁ」
 そして少女は、まるで何でもないことのように呟いた。
「……あ、もう時間みたい。二十歳になるまでこの十年間、ほんっとに長かったなぁ……」
 その言葉に、僕は少女を見る。視線が交差する。少女は変わらぬ笑顔で僕を真っ直ぐに見据えて、
「あ、そのネックレス、大事にして欲しいかな」
 僕の掌に収まった小さな箱に僅かばかり視線を落として、そう呟いた。それから、
「……それじゃ」
 別れの言葉は、酷く寂しく、乾いた色を湛えていて。
「バイバイ、おにーさん。……じゃなくって、」
 少女は僕の名を呼んで、そして目の前から姿を消した。……消えてしまった。
 僕の隣にはもう誰も居らず、声も何も、もう聞こえなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 雑踏が、街の雑音が、僕の耳に戻ってきた。酷く空腹だった。
 狐にでもつままれたかのような、そんな気分だった。
 携帯電話で時間を確認する。彼女との待ち合わせ時間から、優に三時間は過ぎていた。
 彼女の番号を呼び出して、コール。
――お掛けになった番号は、――
 電源を切る。
 少女は嘘を吐かない。だとすれば、少女が言っていたことは須く真実であったのだろう。
 聞き流してしまっていた、全てが。だとすれば、彼女は。そして、少女は。
「行こう。いつまでもここに居ても、得られるものなんて何もない」
 立ち上がって、僕はその場を後にする。汗は、とうに引いていた。
 考えなければならないこと、確かめなければならないこと。やるべきことは、色々とあったから。
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 20:36:27.60 ID:k5Cqcf8R0
なんかおもいつかないなー
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 21:02:11.48 ID:k5Cqcf8R0
てつてつ
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 21:24:05.32 ID:k5Cqcf8R0
ゴジラ
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 22:03:00.19 ID:xHLfP6G90
h
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 22:09:32.24 ID:k5Cqcf8R0
風呂
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 22:36:53.65 ID:k5Cqcf8R0
そういやあの人鉄だったな
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:03:50.39 ID:k5Cqcf8R0
   o  ?   
  | ̄|∧,,∧   というわけで23時を回りました。
  |秩|・ω・`)  これ以降品評会作品を投下する方は、予約の上指示に従って投下して下さい。
  |序b  )   予約条件は「レス区切りまで終わり、後は投下するだけ」の状態であること。
  |_|―u'    予約締切は23:30ですがかけ込み予約とキャンセルは色々危険ですのでご遠慮下さい。
           規制されている可能性のある方は、早めの確認と規制者スレッドへの投下をお願い致します。

           では、どうぞ。

【順番】
−−−
60 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/29(日) 23:16:20.19 ID:WelixTBA0
鳥テス。レス区切り中。間に合うか。
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:29:55.71 ID:xHLfP6G90
yoyaku
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:30:53.59 ID:k5Cqcf8R0
ではID:xHLfP6G90氏 トリップをつけて投下どうぞ

【順番】
規制者スレ?

終了
63鉄仮面と1/5 ◆tMhmjHSlXE :2010/08/29(日) 23:35:37.68 ID:xHLfP6G90
 とある世界の端っこで流浪の旅をする二人が居た。
 一人は傍目に見ても天真爛漫な青髪の少女だった。街道脇の石をぴょんぴょんと跳ねて渡っている。
 一方少し離れてゆっくりと歩く男は脇に剣を携えた長身の青年。瞼が重いのか、眼を閉じたように見えるその両目は
生まれつきのものらしい。
「ティル……こけるぞ」
 その青年はつぶやく様に、相手にギリギリ届くかどうかの声を投げかけた。当の本人はしっかりと聞こえていたようで、
安定している大きな石の上にしゃがみ込むと「アッカンベー」をして見せた。
「そんなにドジじゃないよん! そんなこといったらいつも眼を瞑ってるシセンの方がよっぽど危ないよ」
 言ったそばからティルと呼ばれた少女は石渡を再開した。そのティルにシセンと呼ばれた青年はいつも通り嘆息してみせる。
 と、その時。
「……はれ?」
 ティル世界が傾いていた。
「にゃ、にゃ、にゃああああ!」
 アンバランスに置かれていた石を踏んづけたらしい。街道脇の石がゴロゴロ転がっている坂道にまっさかさまに落ちて
行きそうになったが、彼女はギリギリの所で力強く腕を握られた。
「だから言っただろう。次の街では長居することは出来ない……怪我をされては困るぞ」
 珍しくティルはシュンと身を縮こませ、反省している素振りを見せた。
「そう、だったね……ごめんなさい」
「分かればいいんだ。さあ、日暮れ前には着きたい。先を急ごう」
 お日様はまだ高い位置にあったが、旅には何があるか分からない。前倒せる事に越したことは無いのだから。


 シセンとティルの二人組みは程なくして街に着いた。荘厳な外壁がとても強固なイメージを醸し出している。
 いつもであれば、長身黒髪の比較的軽装の傭兵と、派手なメイド服を着た街娘という異色のコンビに首を傾げた者も
居たかもしれない。しかし、今日に限ってはそれを確認した門番はさほど気にした様子はない。
 ティルは一般的な魔法使いのスタイルに変装していたからだ。三角帽子を目深に被り、深い紺色ローブに身を包み、
昼とは一変、音も無くシセンの後ろにくっついていた。
「旅の傭兵か……女連れとは景気がいいなあ」
 なんて門番の皮肉も慣れたもの。シセンは愛想笑いを一つ街の中に足を踏み入れた。
 ティルは何となく概観とは打って変わって、寂しい印象を受けていた。
64鉄仮面と2/5 ◆tMhmjHSlXE :2010/08/29(日) 23:39:09.68 ID:xHLfP6G90
 敬愛の街ディバンセルと呼ばれたのは本当に最近までの話。異色の人種を受け入れていたこの街は、
ここ数年で排他的になってしまっていた。それだけの事があったというのは確かであり、致し方ない事でもある。
 そうなる以前、シセンは一度この街を訪れていた。
 街角を賑わう獣と人のハーフである獣人、商い交渉に長けた頭でっかちな小人達、そして、どんな重い荷物も軽々と運び
疲れ知らずであったプログラムヒューマン、所謂人工人間の姿はもう確認することができなかった。
 そんな異端者でも受け入れていたこの街は、今では純粋な人間しか居ることが出来ない。
「宿をとる」
「うん……」
 淡々と言うシセンの後ろをティルは黙って着いていく。
 そう、彼らは街は必要以上に居る必要はない、居てはいけなかった。だから目立たず、最低限の行動を心がけた。
 足早に宿を訪れ、旅に必要な食料や備品を確保してさあ宿に戻ろうという時、皮肉にも事件は起きてしまった。


「っ!」
 突然の出来事に驚いたのはティル。ふと見上げた夕日の中でとんでもない光景を眼にしてしまった。
 話は単純で、屋根の上で遊んでいた子供が今まさに落ちようとしていたのだ。
 シセンは気づいていない、次の瞬間ティルは駆け出していた。
「うああああああああああ!」
 子供の叫び声で、シセンも一拍遅れて視線をそちらへと向ける。その頃には、俊足で子供の落下地点までたどり着いた
ティルが身構えていた。
 ドガッっという鈍い音と共に子供はティルの腕の中に放り込まれた。ティルはその場で崩れたが、
子供はすり傷程度なのかケロッとした表情で立ち上がった。少年は大丈夫なようだ。
「大丈夫か!」
 慌ててシセンは駆け寄り肩を抱く。
「ははは、ちょっと腕が壊れちゃったかも……」
 目尻に涙を浮かべ、ティルは強がって見せる。とりあえず大事には至らなかったとシセンは安堵の息をついた。
 そして、その場を逃げ出す少年の背を確認したとき、二人はようやく場が騒然となっていることに気づく事が出来た。
「あ、あんた……その女、プログラムヒューマンか!」
 ティルは慌てて帽子を被ろうとするが、先ほどの衝撃で腕が動かなくなってしまったらしく、固まってしまっていた。
 しかし、群がる人々の勢いは収まる事は無かった。
65鉄仮面と3/5 ◆tMhmjHSlXE :2010/08/29(日) 23:40:59.88 ID:xHLfP6G90
「間違いない、濃い色の髪と瞳、その身体能力……恐ろしいものを連れてきおった」
「魔女をつれてきたなああ!」
「帰れ! さもないとそれを壊すぞ!」
 やがて、どこからとも無く瓶や石、何やら分からないゴミが二人に投げられ始めた。
「く」
 ティルはしゃがみ込み、シセンは腰の剣でそれらを全て叩き落した。
「この街に入り込んだ事は申し訳なく思う。旅の補給が出来たら大人しく出て行くつもりだった。
しかし明日を待たず、今から出て行く。勘弁願えないだろうか?」
 目の当たりにしたシセンの剣の技量と、威圧のある物言いに多少怯んだ住人達は、何も言い返せずに居た。
 今が機と、ティルを連れてその場を去ろうとしたとき、街の警備が数人やってきた。
「貴様か、意思なき魔女をこの町に入れた阿呆は……」
 厳重な装備をした警備の手には、対プログラムヒューマン用のステッキが握られていた。コレで打たれると、
強力な電流が流れるようになっており、プログラムヒューマンの行動を奪う事が出来た。
「一緒に来てもらおうか……そいつをクズにした後にな」
 改めてシセンは剣を構えた。
「ほう、やるか? この棒が人間にも大いに有用であることを知らぬ訳でもあるまい? この人数を相手に出来るつもりか?」
 空気が張り詰めていた。取り巻きの誰かが固唾を飲んだとき、シセンは駆け出した。が、結果的にシセンは一歩も動くことが出来なかった。
「うらあああ!」
 ボンッと言う音と共に、白い煙が辺りを包むんだ。
「煙幕!」
 誰が発した言葉かも分からない程、その場は混乱していた。
「さあ、兄ちゃんと姉ちゃん、こっちだ!」
 手を掴まれて何処にともしれぬ方へ連れて行かれる二人。不安はあったものの、この手は安全である事をシセンとティルは
確信していた。煙の隙間から見えたその姿は、先ほど屋根から落ちてきた少年だったからだ。
 太陽の恩恵を受けられない細い路地を文字通り縦横無尽に走り回り、追っ手を巻いた頃、少年はとある地下室に案内をした。
 とても良い空気が通っているとは思えないほどの異臭もあり、暗くもあったが、当然二人に選択の余地はない。
「すまない、助けられた」
「ありがとう」
「んーん。お姉ちゃん、俺の方こそありがとう! 本当に死ぬかと思ったんだ。感謝してもし足りないよ……」
66鉄仮面と4/5 ◆tMhmjHSlXE :2010/08/29(日) 23:44:02.97 ID:xHLfP6G90
 少年は逃げたのではなく、こういう事態になると想定して動いたそうだ。シセンは少年を見くびっていたことを恥じ、
ティルは少し嬉しそうにしていた。
「ところでここは何処なの? なんか懐かしい臭いする……」
「うーんちょっと待っててね」
 そういうと、少年は一人で奥のほうへと入っていった。しばらくして、戻ってきた少年は奥に進むように促してきた。
「兄貴、連れてきたよ」
「ああ、ご苦労さん」
 そういって少年が紹介したのは白衣を着た一人の青年だった。
 そしてその部屋はプログラムヒューマンの治療室となっていた。
「初めまして。お名前は、まあそうですね……聞かないでおきます。どうせ一時の事なので。ではそちらにお座り下さい」
 何処となく無表情なところがシセンと似ているが、こちらの眼はバッチリと見開かれていた。
「私はプログラムヒューマンをこの街では違法的に研究している者です。弟が助けられたと聞き、感謝の意を込め、
貴方の腕を直させていただきたいと思います。ああこの部屋ですか? 昔は普通にプログラムヒューマンが沢山いたのでね、
こういった施設は至る所に残っているんですよ」
 口早に言葉を紡ぐ青年に、シセンは呆気に取られていた。
「兄貴変だけど、腕は確かだから安心してよ姉ちゃん」
 多少以上に怯えていたティルは、その言葉に安心し、腕を差し出した。
「貴方達はこの街で過去に何が起きたか知っているんですよね」
 治療の最中、白衣の青年は二人に尋ねてきた。二人は無言で頷く。
「そう、この街は行動に異常をきたしたプログラムヒューマンが多種族を攻撃し、多くの死人を出してしまったことにあります。
それがどうして引き起こされたのか、それを私は知りたいのです」
「そんな事、起こりえる筈が――」
「起こってしまったんです! ……ごめんなさい。私は恋人がプログラムヒューマンでした。どのような原因で起きたか
突き止めないと、暴走して死んでいった彼女の無念を晴らすことは出来ないんです」
 沈黙が場を支配する。
「貴方達は自律できない無いただの人形で、バグが原因だったのか。それとも意思を持つ貴方達は誰かに操られていたのか……」
 それは誰にも分からない。
「私にも心はあります。嬉しい、悲しい、苦しい、楽しい、感じることが出来ます」
「それすらプログラムかもしれない……ごめんなさい。不愉快な思いをさせてしまいました」
 終わりましたよと、呟くように青年は零した。二人は一礼し踵を返す。が、部屋を出ようとしたとき、青年から声を掛けられた。
67鉄仮面と5/5 ◆tMhmjHSlXE :2010/08/29(日) 23:48:42.67 ID:xHLfP6G90
「あの、傭兵の方……その、後悔のないようお過ごし下さい」
 そう言って今度こそその部屋を後にした。
 その後、見送りしてくれた少年は、二人に謝ると同時に、寂しそうにこう呟いた。
「兄ちゃん姉ちゃんごめんよ……その、兄貴は恋人を自分の手で殺しちゃったんだ……」


 少年と別れ、そのまま街を去るシセンとティル。旅支度の帰りで起きた事件だったのが幸いした。
旅に必要なものはもう持っていたのだ。そのまま街を後にする二人。
「ねえシセン……私には心ってないのかな?」
 いつもの元気はどこへやら、ティルは心底落ち込んだように言葉を零した。
 シセンはいつもの無表情のまましばらく黙っていた。
 足音と虫の声、月の囁きすら聞こえてきそうな静かな夜だった。
 やがて、シセンが口を開いた。
「俺にとってお前はお前だけだ。端から見れば俺のほうがよっぽどプログラムヒューマンで、ティルの方がよほど人間らしい。
それに、俺がお前をそんな風に見たことは一度もないし、考えたこともない。心があろうが無かろうが、それは関係ない。
ティルと一緒にいる俺が気にしていないんだ……だからその疑問に答えは必要か?」
 ぽかんと口を開いたのはティル。こんな饒舌になっているシセンは珍しい、何より顔を赤くする彼なんて、
ティルは数回も見た事が無い。
「……ありがと」
 そういって、明日からはいつも通り元気に戻ると誓うティルだった。
68弦奏のマリオネット1/5 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 23:49:38.13 ID:k5Cqcf8R0
 洋風の、現代にしては古めかしいお屋敷に、大人しい幼き少女フェリルは住んでいた。その日は祖父母も両親も兄も姉も弟も妹も、家族全員が家にいた。
五人の子供たちはかくれぼで遊んでいた。幼くして思考が大人びたフェリルは誘われたので仕方なくかくれんぼに付き合った。それでもわくわくとした子
供じみた感情は隠せなかった。お屋敷は広くて隠れる場所が沢山あった。フェリルは壊れて動かなくなったカビ臭い木製振り子時計の中に隠れていた。ガ
ラスの小窓からチラチラと、隠れた身でありながら発見されることを期待しながら、フェリルはずっとそこにいた。――その時、悲劇は起こった。
 祖父母の叫び声、絶叫が聞こえ、掻き消えた。ドタドタと無遠慮に屋敷中を巡る複数の足音。母の絶叫が聞こえた。肉を裂くような音がして、すぐに掻
き消えた。父の叫び声が聞こえた。勇ましく反撃するような掛け声、肉を裂く音、死に際の絶叫、声は消えた。部屋を隔てて聞こえた姉と弟の甲高い叫び
声はグサリグサリと気味の悪い音とともに消えた。――何が起きたのです? 何が起きたのです?
 フェリルはがちがちと体を痙攣させながら、現実から逃避しようとしていた。兄の叫び声、グシャグシャという音、掻き消えた。
 フェリルはガラスの小窓から外を覗く。妹がこちらに走ってきた。妹はフェリルが壊れた木製振り子時計に隠れていたことを知っていたからだ。その妹
は、想像を絶する恐怖を味わったような表情で。フェリルを見た。幼い声で叫んでいた。「逃げて! 逃げて!」
――目の前で妹の腹部から黄金色に光る何かが飛び出てきた。遅れて出てくる鮮血。黄金色の何かは―鋭い剣先のようなそれは―妹の肉体を無視して上昇
し、頭頂部から抜けた。冗談みたいに真っ二つになって、その絶望に満ちた表情は左右に裂けた。フェリルが覗く小窓を紅い塗料が覆い隠す。プシャ……。
「今の言葉は誰に向かって言ったのかなぁ」フェリルより少しばかし年上であろう、それでも年端の行かない少女は甘ったるい声でそう言った。
「その時計の横に部屋があるから、そこに隠れてるかもよ。あと一人」少女の後ろから出てきた、成長を終えた青年は少女の肩に手を置きながらそう言った。
「うん。探してみる。みなごろし、みなごろしっ」満面の笑顔を浮かべる少女の右手が握る黄金色のロングソード。その刃状部分に黄金が増す。嘘みたい
に黄金がぶくぶくと、刃状から溢れ、増殖し、大きなハンマーの形になっていく。――錬金術師。   「次は撲殺ね。あはっ」
フェリルは怯えていた。小窓は紅で塗りたくられて何も見えない。暗くて狭い空間の中でガクガクと体を痙攣させる。失禁する。怖い、怖い、怖い。
「誰も居ないよー?」「うーん。もうタイムアップだね。火を付けて帰ろう。どうせ焼き鳥になるよ」
 バシャバシャと何かを撒く音。シュッと何かを擦る音。何かが落ちて、ボッと音がした。燃え広がる炎は屋敷を侵略していく。緋色に染まる世界。
……熱い、熱いです。助けてください。ああ、ああ……。
 フェリルは生きたまま死んでいく感触を覚えた。何故世界はこれほどまでに理不尽なのでしょうか? 何故家族が……? でも、わたしも今からそこに。
 両足を焼く炎。溶かされていくような感覚。そこでふと思い出す。あの人たちは、錬金術師。わたしも――……。  

 真っ白なベッドの中で幼きフェリルは目覚めた。ふかふかなシーツ。心地良い枕の感触。天井の白熱灯。横にある液晶テレビ。起き上がろうとする。
ぽとん、と横に転がってしまった。バランスが保てなかった。顔を上げて下半身を見る。両足が太ももから無くなっていた。
 動悸が激しくなる。家族全員の悲鳴を思い出す。飛び散る鮮血を思い出す。ハァハァと呼吸が止まらない。悪夢全てを思い出し、表情が苦痛に満ちる。
「フェリル様、大丈夫ですかな?」開いた扉から右目に単眼鏡を掛けた黒服の老人が上品な笑みを浮かべていた。フェリルは悪夢を胸中に収めようと。
「しばらく……三時間は話しかけないで下さい。お願いします」「かしこまりました」フェリルは泣き続けた。

「……ここは、どこでしょうか? あなたは誰でしょうか?」「アーデンハイム家の空室の一室にございます。わたくしはこの家のしがない執事です。執事と
69弦奏のマリオネット2/5 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 23:50:10.33 ID:k5Cqcf8R0
でもお呼びください」「何故わたしがこの場所に?」「あなた様は燃え尽きた屋敷の一回真ん中で両足が焼けた状態で発見されました。それ以外は無傷でし
た。興味深いと感じたこのアーデンハイム家の当主様がフェリル様をこちらで療養させると仰って」「――錬金術のことをお知りでしょうか?」
「……いやはや、ここで嘘を申し上げても駄目になりましたな。そうです、フェリル様の持つ錬金術、《弦奏》の力を当主様が欲して、フェリル様をこちら
に連れてきました。警察の方にも手を回しております。申し訳ありませんが、フェリル様の意思の有無は無しに、もう既に養子縁組の手続きは済みました」
「…………はい。それよりも、げんそう、とは何でしょうか?」「《弦奏》――こちらの世界での、錬金術の学術的名称です。量子力学的な仕組みで、大変
難しいので、もう少し成長なされてからご説明いたします」「はい、分かりました。それで、後ろのお方は誰でしょうか?」
 執事の後ろからこっそりフェリルを覗いていた少年がビクリとする。逃げようとする少年を執事が柔らかく捕まえてフェリルの目の前まで引っ張ってくる。
「すみません。このお坊ちゃまはアシル様です。貴方と同じ当主様の養子です。錬金術師ではありませんが、貴方と同じ――《超能力者》です」
 少年は思春期を終えて十六。一方フェリルはやっと二桁の年齢。少年はフェリルを見て照れていた。フェリル自身気づかないことだが、彼女の容姿はさら
さらとした長い銀髪、銀色の両眼、ツンとした小さな鼻に小さな唇、柔らかく張りのある白肌、本当にお人形のように美しい少女であった。
「あー、初めまして。アシルです。えーっと……これからも、よろしく」「初めまして、フェリルです。これからもよろしくお願いします」
アシルはそっぽを向き照れながら自己紹介を済ませる。フェリルは三時間近く泣き続けても零れてしまう涙を指で掬いながら、しとやかに笑みを浮かべた。

 フェリルは、燃えた自身の住んでいたあの屋敷なんか比べ物にならないくらい広大なアーデンハイム家の屋敷を、音を立てない電動車椅子で散策していた。
 前を歩くアシルは自らフェリルに屋敷案内を買ってでた。子供が沢山いた。フェリルより小さな童子たちから、もう子供と言えない年齢の青年まで。
「全員アーデンハイム家の当主、モーテスさんの養子たち」「何故養子がこれほどに、何百人もいるのでしょうか?」
 木陰の白いベンチに座った両足の無いフェリルは横に座るアシルに、運動場のようなだだっ広い空間で駆け回る無数もの子供たちを眺めながらそう言った。
 アシルがわざわざフェリルを電動車椅子からベンチに運んでくれたのだ。――別に座りたいだなんって言った覚えはありませんが、ありがとうございます。 
「それはな、ここにいる養子全員が、《超能力者》だからさ。アーデンハイム家は超能力者研究に凝ってるんだよね」「……?」フェリルは可愛く小首を傾
げながらアシルを見つめた。銀髪がふわりと。アシルはベンチからずり落ちた。ゴツンと頭をぶつけた。「……大丈夫でしょうか?」「ああ、大丈夫大丈夫。
それよりさ、フェリルの超能力は《弦奏》だよね見せてよ。研究員の報告書こっそり見たけど、『自分の周りの粒子全てを、炎ですら鉄に変えて身を守った』
んだってな。そんでもって鉄原子の電荷変動によって発生したローレンツ力で炎をねじ曲げて断熱しただとか」
「……粒子? ローレンツ力? ……?」「ローレンツ力ってのは荷電粒子が受ける力、って言っても分からないか。粒子ってのはー、この世の物質は全部
その粒子ってので出来てるーって感じ」「うーん。よく分かりません」
「そんなションボリした顔しないで! 頼むから。あー、そうだ。良いモン見せてやるよ。俺は《超能力者》だからな。大気中の粒子の運動を低速させる」
 アシルは右手の平を宙に突き出す。すると手の平の上の空間から、パキパキと音を立てて綺麗な氷が生み出された。それは花を形作っていた。
 大気宙の粒子、分子運動の低速による水分の結晶化。氷。温度とは分子運動による結果だ。早ければ熱くなり、遅ければ冷たくなる。
「ほい、命名アイスフラワー」「綺麗……」ここに来て、初めてフェリルは純粋な、無邪気な笑みを浮かべた。その笑みはアシルのハートを確実に撃ちぬいた。

 《弦奏》。それは錬金術師の本当の力。世界は粒子で出来ている。粒子より小さな最小単位要素は存在しない。それを覆す理論。超弦理論。それは『粒子は、
70弦奏のマリオネット3/5 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 23:50:40.96 ID:k5Cqcf8R0
一次元の拡がりを持つ弦(ひも)が振動して出来ている』とする理論。全ての粒子は、全て同一の極めて小さな観測不能の弦が振動して出来ている。粒子の種類
の差異は、振動の差異。振動が、同一である筈の弦を様々な粒子に仕立て上げている。原子、原子核ですら粒子だ。その種類の数だけ振動がある。
――もし、その弦の振動を操れたら? 
 黄金(Au)を作りたければ、粒子を構成する弦の振動を黄金のそれに変換すればいい話。それが古から伝わる錬金術師の能力。
 錬金術師と言っても全ての弦振動を作り出せるわけではない。黄金なら黄金の振動のみ。銀なら銀の振動のみ。それは流れる祖先の血による。
 まるで弦を奏でるように、全ての物質を望んだ物質に全変換出来ることから、それは《弦奏》と呼ばれる。

「まぁー大体そういうところだけど分かったかな?」
 アシルが複数の研究員に引っ張られ、三時間ほど一人電動車椅子で広大な屋敷を散策していたフェリルは端っこでたばこを蒸かす研究員の一人に「《弦奏》
って何ですか?」と聞いたことろ、懇切丁寧に量子力学的な説明をされた。「……すみません。分かりません」
「まぁ仕方ないよ。それより、君が例のアレ? 鉄(Fe)の錬金術師?」「はい。わたしの家系は代々そうでした。今は、わたし以外居ませんが……」
 思わず蓋をした感情が溢れ出しそうになるが、それを抑える。泣くのは夜一人の時だけだと決めているから、泣かない。フェリルは自嘲したような表情を。
「君がかー。両足大変だったねー。いやまぁありがたい。貴重なモル、研究被験者が一人増えたよ。今は、《弦奏》はここで君一人だからね」
「……今は? 昔は誰かいたのでしょうか? その、わたしと同じ、錬金術師」
「いたよー。『女の子の黄金の錬金術師が』。いつの間にかここから勝手にどっか行ちゃってねー。勿体無いなぁ。能力使えば大金持ちなのに」
 ひっ、とフェリルは一瞬の内に表情を竦ませて、すみませんありがとうございました、と言って電動車椅子でその場から逃げていった。
 しばらくすると研究員は、小言で真面目そうにぽつりと漏らす。
「精神操作しくっちゃったからなー。せっかく錬金術師による殺人の効率性を調べようとしたら、『狂気だけが残ったまま脱走しちゃった』なー。
 あ、そういえば今日はアシルが実験命令でターゲットを三人凍死させる日だなー。確か条件は『精神操作による理性の抑制』。データまだかなー」

 電動車椅子を出来る限り早めながら、フェリルは自分の部屋となったあの空室の一室まで駆けた。ドアを締める。車椅子から背を伸ばして窓を閉める。ベ
ッドに転ぶ。ふとんに潜り、顔を押し付けて誰にも聞こえないように、泣く。「どういうことですか? 一体どういうことですか? わたしは何も悪いこと
はしてないのに。みんなに迷惑かけないように、泣くのは夜って決めていたのに。わたしは一体どうすればいいのでしょうか」
 今にも叫びたい衝動を抑えて、窒息しそうなほどにシーツに顔を押し付けて、喘ぐ。ひっひっ、と口から嗚咽が零れて止まらない。そして二時間後。
「おーい。入っていいかー」アシルの声とノックがする。もちろん答えることなんて出来ない。「入るぞー」
 入ってきたアシルは異常に気づきシーツを捲る。泣き腫らしたフェリルの顔がそこにあった。「……やっぱ、家族のこと、悲しいもんな」「出ていって!」
 フェリルは思わず叫んでしまう。それでもアシルは、太ももから下が無いフェリルを抱き上げて、ベッドの上に乗る。赤子をあやすように抱き上げたフェ
リスを揺する。まるで惚れた女を口説き落とすように、甘い言葉をかけて、フェリルの傷口を下で舐めていく。
「俺だけはフェリルの味方だよ」「俺はフェリルの悲しみがよく分かる」「俺だって両親が強盗に殺された」「フェリルは悪くない」「何があったか言ってみろ」
「……家族全員殺されました。祖父母も両親も兄弟も姉妹も、全員。わたしと同じ錬金術師に殺されました。……――復讐したいです」
71弦奏のマリオネット4/5 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 23:51:12.33 ID:k5Cqcf8R0
「よく言えた。良い事を教えてやる。このアーデンハイム家は超能力研究機関。研究なら何でも。依頼も受ける。超能力の有効性の実験、殺しの依頼とかな」
「本当? それは、本当?」「ああ、本当さ。俺は今日三人殺した」「……罪の無い人も?」「……いや、全員殺されて当然の奴だったよ」息を吐くように嘘を。
「さぁ、フェリルはどうだ? 家族全員を殺した人間は、殺されて当然か?」「……当然です」「なら殺そう。殺されたら殺す。当たり前じゃん?」「うん……」
 いきなりアシルは手中のフェリルの唇を奪った。十歳の幼き口内を一六のアシルの舌が掻き回す。ベッドに押し付ける。フェリルの上着を強引に脱がせる。
「あっ……やめて下さい。あっあっ」「俺はフェリルを見た瞬間、一目惚れしたよ。人形のように小さくて、可愛くて。ロリコンってやつだ。ハハッ」
 蕾のような乳房を指で弄る。舌の中で転がす。小さいながらも立ってきた。右手をフェリルのハーフパンツに突っ込む。指で凸部を弄り倒す。部屋に小さくこ
だまする、幼く高音で、それでいて淫靡な嬌声。アシルはズボンをずらしいきり立つ自身のそれを小さなフェリルの口に突っ込む。両手で頭を持って、往復を繰
り返して、程なくして果てる。どくどくと流れる本流をフェリルの口の中に出し切る。「ごっくんして」
「……なんで、こんなことするのです?」「好きだから。俺がフェリルを好きだから。好きだから犯る。当たり前じゃん?」
 アシルはフェリルのハーフパンツを脱がし、ペニスを小さな陰口に押し当てる。「血―出るけど、最初だけだからさ。我慢してくれよ」

「アシル君。わたし、復讐したいです。あの錬金術師に復讐したいです」「ああ、そうしろ。復讐はいいぞ。殺しはいいぞ」
 ベッドの中で、二人裸で布団にくるまりながら。シーツには血の跡が付いていた。
「わたし、最初はアシル君のこと酷いことする人だと思ってましたけど、今ではアシル君のことが大好きです」「ああ、俺も好き。合った時からずっと好き」
 アシルはにやにやと笑みを浮かべながら、一度フェリルにキスをして。「明日もヤろうぜ」「うん」
「聞きたいことがあるのだけど、どうしたら、わたしも復讐出来るようになるの? どうしたら、この《弦奏》を使いこなせるようになるの?」
「あの執事に聞けよ。あいつ、この超能力研究所のチーフだからさ」
 
 フェリルは徐々に力をつけていった。鉄の《弦奏》を極め、あの黄金の錬金術師に復讐を果たす為に。フェリルはあの時からアシルのことをずっと愛している。
フェリルにとって、復讐さえ果たせば、愛しのアシルさえいれば他のことは心底どうでも良かった。――五年が経った。フェリルは今や十五歳。
 アーデンハイムの屋敷での彼女の超能力のレベルの高さは常にトップだった。他の追随を許さない能力だった。全ての粒子を振動変換で全てを鉄(Fe)に作り変
える。更には家族を焼いた、あの炎をねじ曲げた力、鉄生成の副次的エネルギー、――鉄原子の電荷変動によって発生するローレンツ力の掌握とその効果持続性
強化。   ――要するに、作り出した鉄を自在に操る能力。
フェリルは殺されて当然のターゲットだけを殺した。フェリルだって理不尽に家族を殺された身だ。他人にもそのようなことはしたくない。鉄の鎌で首を刈り、
無数の鉄ナイフを飛ばし、鉄球をレールガンで飛ばし、空から鉄の壁を落として、生きているように動くドラゴンすら作り、人を殺した。紛争にも投入された。
人を殺すような兵士、殺されて当然だよね? 殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺し尽くした。――四千人ぐらいです。

 フェリルにとって今日という日ほど楽しみなものは無かった。あの黄金の錬金術師のアジトを掴んだ。何故フェリルの家族を殺されたか、分かったような気
がした。フェリルの家族は鉄の錬金術の血を引く家系だった。鉄は黄金ほど価値はないが、汎用性はある。実際、フェリルは頻繁に研究所に鉄を作ってくれと
頼まれた。錬金術師は貴重なのだ。両親は錬金術の一切を隠して、使おうとせずに過ごしていた。利用出来ない、使えないから――殺された。
72弦奏のマリオネット5/5 ◇FcModpyaRc:2010/08/29(日) 23:51:44.71 ID:k5Cqcf8R0
 どうでもいい。フェリルにとって、黄金の錬金術師は殺すべき対象であって、それ以外は何も無い。アジトに投入される超能力者は、フェリル一人。
「アシル、行ってきます」フェリルは微笑む続けるアシルにキスをする。電動車椅子だが、目的地までは執事が丁寧に押していった。

 簡単だ。雑魚敵だ。暇つぶしにもならない。フェリルは真っ白な膝までのワンピースを着て、堂々と『歩きながら』アジトの奥へと進んでいった。その白
くて美しい―炎に溶けた―太ももから先は、白い金属光沢を放つスリムな鉄の両足。最先端技術を駆使した義足でも絶対に出せない、生を感じる歩行感。
そこはだだっぴろい、倉庫のような屋敷だった。物陰から三人の敵が現れた。三丁のUZIサブマシンガンから放たれる9mmパラベラム。フェリルは自身の周り
の大気原子を《弦奏》し、鉄の壁を生成。相手が全てを打ち終えるとその鉄を三つの塊に分解し、更に瞬時にしてその三つの周りに鉄の輪を生成。鉄原子の
電荷変動によって発生するローレンツ力を利用したレールガン、発射。同時に三人は原型を留めずに消え去った。壁に大穴が穿たれる。鮮血が霧散した。
吹き抜けの二階から数十ものショットガンやらアサルトライフルやら重機関銃やらがフェリルに向く。しつこい。頭上から覆うように鉄の壁生成。全てを弾
く。この錬金術の弱点は、大気原子を《弦奏》しすぎると呼吸する為の酸素が無くなってしまう。だからフェリルは一階地面のコンクリート全てを《弦奏》
した。生成するは、フェリルお気に入りのメタルドラゴン。――喰らい尽くして。
屋根を突き抜けたドラゴンはぎらぎらと太陽の光を放ちながら、電磁誘導で自在に舞いながら敵を貪っていく。フェリルはそのドラゴンの頭頂部に乗ってい
た。恐怖する表情。諦める表情。虚しくも反撃を試みる表情。現実を拒絶する表情。自暴自棄の表情。ドラゴンは全てを口内に収めていく。――愉快です。
 その場の全員を殺しつくして、ドラゴンをその場に落とす。電力が尽きたドラゴンはただのオブジェクトとなった。フェリルはドラゴンの口内に溜められ
た肉塊を覗き込んで、ふふっとしとやかに笑った。フェリルは先を目指して、復讐目指して、冷たき足で歩いてく。
「うーん。君、中々強いねぇ」「貴方は、あの時の青年ですか? 黄金の錬金術師と共にいた?」「そうだよ」「殺します」
 前方空間の大気原子で巨大な鉄の砲弾と鉄の輪を生成。宙に浮くそれに命令した。レールガンは、発射しなかった。ゴトンと鈍い音を立てて血に落ちた。
「僕の能力。縦波の電磁波(スカラー波)を創りだす能力だから。レールガンの横並電磁波を僕ので相殺したから、無意味だよ」「そうですか、分かりました」
 フェリルは地面に触れ《弦奏》し鉄の鎌を生成。これもフェリルが好きな、デスサイス。鉄の足が踏む地面を少しだけ《弦奏》。磁力によって青年へと風
を切りながら飛び出す。青年は難なく避ける。スカラー波を射出。左腕に少しだけ照射され、あとは生成した鉄でガードした。青年に隙が生まれる。フェリ
ルにも鎌を振り切った隙が生まれる。だから、フェリルは鎌を投げ捨てた。腰のホルスターから出すデザートイーグルのトリガーを引く。衝撃は手首後方に生
成した鉄で受け流す。青年の胸に的中し、心臓を抉った。左腕が動かなくなっていた。経験則しばらくしたらこれは治る。フェリルは歩く。復讐を果たしに。
「あはっ、やっと来た。待ちくたびれていたんだよ?」忌むべき少女は黄金だけで作られた広大な部屋の奥に、黄金の椅子を作り出し座っていた。
「何故、家族を殺したの?」「えーだってーあたし以外の錬金術師とかいなくていいしー邪魔だし? 世界にたった一人ってプレミア欲しくない? キャハ」
 少女はドラゴンを作り出した。黄金色に輝くドラゴン。まるで生きているかのように動く。フェリルに舌を出し、挑発している。一方、フェリルはドラゴン
を作り出さない。代わりに、右手に構えたデザートイーグルを突き出す。銃弾は自家製。――この一発で、殺す。
「そんなので勝てると思ってるの? キャハ。死ね」黄金色のドラゴンが飛んでくる前に、フェリルは引き金を引いた。もちろん少女は黄金の壁を出す。
意味が無い。粒子全てを《弦奏》せずにあえて中途半端に《弦奏》し、作り出した人類に無い、人工原子。あえて不安定なまま励起状態で留めたその原子は、
存分にエネルギーをぶちまけて、爆発し、周囲を純白に染め上げた。――復讐終わりです。 フェリルは無傷で帰宅した。愛しきアシルの待つ部屋へ。
 アシルの全ては鉄で構成されていた。だって、この人浮気しますからね。――フェリルは今日も、この世界(マリオネット)を《弦奏》していく。―END―
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:54:02.49 ID:k5Cqcf8R0
現在、週末品評会230thの投票受付中です。今回の品評会お題は『鉄』でした。
投稿された作品は■まとめ http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1282924076/ にてご覧頂けます。
投票期間は2010/8/31(火)24:00:00までとなっております。

感想や批評があると書き手は喜びますが、単純に『面白かった』と言うだけの理由での投票でも構いません。
毎回作品投稿数に対して投票数が少ないので、多くの方の投票をお待ちしております。
また、週末品評会では投票する作品のほかに気になった作品を挙げて頂き、同得票の際の判定基準とする方法をとっております。
ご協力ください。
投票には以下のテンプレートを使用していただくと集計の手助けとなります。
(投票、気になった作品は一作品でも複数でも構いません)

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携帯から投票される方は、今まで通り名前欄に【投票】と入力してください。
たくさんの方の投票をお待ちしています。 
時間外の方も、月曜中なら感想、関心票のチャンスがあります。書き途中の方は是非。
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:56:14.36 ID:xHLfP6G90
ご迷惑をおかけしましたorazz
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:56:43.60 ID:rm2+G/dC0
思ったのですが、スケールが変わるたびに支配するルールが変わるのだから
その錬金術は何も出来ないとおもう
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:58:40.13 ID:k5Cqcf8R0
週末品評会230th『鉄』投稿作品一覧

No.01 無機有機 ◆A9epGInhJg氏
No.02 仮名ゴジラ ◆X78jHks0c.氏
No.03 BATON ◆KV7M.qJsh2氏
No.04 アイアンハート ◆D8MoDpzBRE氏
No.05 鉄の炎 ◆Lq1ieHiNSw氏
No.06 ファントムクリスタルは夢を魅せるのか ◆BFS4hea.pssi氏
No.07 鉄仮面と ◆tMhmjHSlXE氏
No.08 弦奏のマリオネット ◆FcModpyaRc氏
77 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/29(日) 23:59:23.10 ID:WelixTBA0
間に合わなかった上に7レス。品評会(時間外)投下します。
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/29(日) 23:59:27.89 ID:v8FqEIXO0
少ないな
79海の見える檻 1/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/29(日) 23:59:51.40 ID:WelixTBA0
 その高台にある巨大な自然公園の一番奥、海の見下ろせる広場に父の最後の作品はあった。地元の人間でもあまり
よく知られていないこの場所に、どのような経緯でこの作品がここにあるのかよくわからない。この『檻』は、
作品リストにも未掲載で、私も見るのはこの時が初めてになる。台座には設立年度以外は何も書かれていなかった。
その鉄のオブジェは人の形を模して、椅子に座るようにして真っ直ぐ陽の落ちる方に向いている。
それまでの作品で、あまり具体的なモチーフを用いなかった父の作品においては、異例のものだ。

 私は、その作品の意味するところをゆっくりと考えながら、その鉄像の台座の前に座り込み海を眺めていた。
宿を出てきたのが夕方だったので、そろそろ日が沈む。水面が金色に光っている。
私が落ちていく陽を見て、物思いに耽っていると後ろから声がした。

「ねえ」
 人が来ることをまるで想定していなかった私は驚いて立ち上がると、辺りを振り返ってみた。しかし誰もいない。
「はい?」
 少し大きめの声で返事をしてみるが、人の気配はない。

「こっちこっち」
 また、声がする。今度ははっきりと聞こえた。作品の方から声がする。私は少し怖くなって作品のほうに声をかける。
「誰?誰かそこにいるんですか?」
「あ、えっと、…僕の声、聞こえてる?」
 声は鉄像から聞こえる。私は、像の後ろに回り込むが人はいない。スピーカーでもついているのだろうか。
「聞こえます。何?これ?悪戯なの?」
 私がそう言うと、申し訳なさそうな調子で鉄像の声が答える。
「あ、いや、ごめん。そんなつもりなくて…。というか僕もなんでここにいるのか、よくわかんなくて」
「はあ」

 私は気のない返事をする。悪戯か、幻覚か。恐らく後者であると思って暗澹たる気持ちになる。
病は完治していない、どころか悪化しているのかもしれない。私が下を向くとその声は話を続ける。
「数日前からこの場所にくるようになって、…お姉さんはどこから来たの?」
 子供、だろうか。口調からそう思った。男とも女とも言えないような不思議な声色をしているので断言はできないが。
80海の見える檻 2/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:00:29.98 ID:TEBrsagj0
「えっと、…東京から」
「なんだか、浮かない顔してるけど。大丈夫?」
「あ、えっと、いや、君の声が幻聴かと思って。というか正直、今でもそうじゃないかって思ってるんだけど」
「違うよ。僕は確かにここにいる。ちゃんと実在してるよ。」
「あなたは、この『檻』の中にいるの?」
 そう自分で聞いておいて、思わずこの作品のタイトルとの奇妙な符合を訝しく思う。
「檻、…か。確かにそうかもしれない。僕は檻の中に閉じ込められている」
「あなたはこの作品に閉じ込められているの?」
「この作品? …どうだろう。というか僕はこの像そのものだよ」
 声の主は私の質問にはにかんだような口調で答える。
「お姉さん、名前は?」
「え、…あ、えっと宮原千織。そのあなたの、…というかそのオブジェの作者の娘。あなたは?」
「えーと、僕は『檻』だよ。千織がそう言ったんじゃない」
「え、ああ、そうか。あなたはこの鉄像そのものってこと?」
「そうだよ。きっと僕は『檻』そのものなんだ。ねえ、せっかくだから少し話をしてもいいかな」
「いいけど…」

 話しながら私は混乱の最中にいた。幻聴であろうと悪戯であろうともう少し付き合ってみたほうがいいように思えた。
私の返答に彼(?)の口調は少しうれしそうになったが、鉄像の表情は変わらない。
「千織はここに何しにきたの?」
「あ、えっと、父の作品を撮影しようと思って。これだけ、まだリストに載ってないから」
「そうなんだ。これを作った人、君のお父さんはどんな人だったの?」
「うーん、所謂芸術家っていうか。絵とか彫像とかそういうことをしてた。それなりに有名で結構色んなところに作品があるの。
足が悪くて、自分の作品は作ったきり殆ど見てないみたいだけど。で、ちょうと死んじゃってから一年くらいたつ」
「へえ、そうなんだ。じゃあさっき、幻聴かと思った、って言ったとき表情が曇ったのは何故」
よく見ているな、と私は思った。というか、そもそも目が見えるのだろうか。
81海の見える檻 3/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:01:02.27 ID:TEBrsagj0
「あ、うん。病気で。というか、父は一年前に亡くなったんだけど、なんていうか残務整理とか
遺産分配とかで色々あって、で、私もまだ大学生で何もわからなくて、ちょっと自律神経が
おかしくなっちゃったんだよね。なんていうか、大人の汚い世界を知ってしまったっていうか。
生活に無理矢理そういう嫌らしいモノが入り込んできたっていうか。それで、最近になってようやく良くなって
きたと思ってたんだけど、さっきの君の声が幻聴だと思って、ああ、良くなってきたつもりでも、
まだまだ私はおかしいんだな、って」

「…病気、か。それは治る病気なの?」
 彼は少し間を持たしてそう答えた。
「うん、多分。えと、お医者さんからとりあえず身体の異変は一時的なものだって、それで、景色を見たり、旅行をしたりとか、
そういうことをするといいって言われてて。で、とりあえず父の色々が一段落したくらいから、
とりあえず散らばっている父の作品をリハビリがてら見て回ることにしたの。最近はだいぶ良くなってきたと思ってきたんだけど」
「良くなるって?」
「何も無いのに急に涙が止まらなくなったりとか、耳が聞こえなくなったりとか、…お漏らししちゃうとか、
でも最近はあんまりなくなって、って、なんでこんな話してるんだろ」
 私は答えながら恥ずかしさで耳の先が熱くなっていくのを感じた。そもそも私はこんなところで何をやっているのだろう。
「そっか、よくなるといいね」

 彼は先程より幾分冷たい口調でそう答えた。見上げると空には雲ひとつ無く、数多の星が見える。もうだいぶ遅くなってしまった。
「そろそろ、帰らないと」
「東京に?」
「や、麓に宿をとってあるから」
「明日も来る?」
「うん。今日は遅くなっちゃったけど、写真とりたいから昼にくる予定」
「そっか、お昼か…」
 そういうと彼は黙り込んだ。何か思案しているように感じる。鉄像の表情が変わるわけではないのだが。
「千織にお願いがあるんだけど」
「え、何?」
82海の見える檻 4/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:01:27.92 ID:TEBrsagj0
「僕を触ってくれない?」
「…え?あ、いいけど」
 私は、とりあえず彼の手(のように見える場所)に触れた。鉄の冷たい感触がする。
「あ、うん。凄いね。ちゃんと触られている感覚がわかる」
「へえ、そうなんだ」
「ここでこうやって人に触られたことはなかったから」
「ああ、まあそうかもね。ここら辺、ほとんど人来ないから。なんでこんなところに像を立てたんだろう」
「でも、景色は絶品だよ」
「うん、それは確かに」
 私は振り返って、海の側を向く。麓の街の灯りの向こう側は海がある。いまは暗くてみることができないが。
「ねえ」
「ん?」
「また、明日、夕方に来てくれないかな。お昼は、…僕、眠っているから」
「あ、うん。いいけど。どうせ暇だし」
「ありがとう」

 次の日は朝遅く起きて、麓の街をぶらぶらしてから、午後に『檻』の撮影に向かった。『檻』は昨日ままそこで
腰掛けて海を眺めている。私が話しかけても返事がない。昨日、彼がいったとおり、眠っているのだろうか。
昨日は気付かなかったが明るいうちに見ると所々、隅の方に錆が浮いている。何年も手入れがされていないのだろう。
私は、その状態で一度撮影を行ない、その後に水洗いをし、ワックスをかけて磨いた状態でもう一度撮った。
そこで手があいた私は、彼が起きるのを待って、像の台座に寄りかかって文庫本を読むことにした。

「千織」
 呼ばれて振り向くと、そこには『檻』があった。どうやら眠ってしまっていたようだ。
「あ、ごめん。寝ちゃってた」
 辺りは暗くなっている。どのくらい寝ていたのだろう。
「また話をしてもいい?」
「あ、うん」
83海の見える檻 5/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:01:58.89 ID:TEBrsagj0
 私たちはそれからずっと話し込んだ。私の生い立ちから、普段考えていること、将来の夢。彼はどの話も興味深そうに
聞いてくれた。私は、相手が鉄像であることを忘れて話に夢中になっていた。いや、鉄像だからこそ話す気になったのかも
しれない。こうやってまともな話をしたのは久しぶりなほどに、今の私を取り巻く人間関係は悪化していたし、
私は他人を信用できなくなってしまっていた。何時間、話していたのかはわからないが、尽きることの無い話題に
ピリオドを打ったのは彼だった。空はそろそろ明るくなり始めている。

「ごめん。そろそろ眠らないと。今日はこれから予定があるんだ」
「予定?」
 私は訝しく思った。鉄像に予定なんてあるのだろうか。
「うん。多分きっと、大事な用なんだ。明るくなってきたし。その前に少し眠らないと」
「そうなんだ」
 私は少し物足りない気分になった。でもなんでこんなに彼と話したいと思っているのか自分でもわからなかった。

「君のお父さん」
「え?」
「えっと、僕がこの場所にいるのは、君のお父さんがそうしたのかな、と思って。だとしたら、なんだかちょっと
お父さんの考えていたことがわかる気がするな、って」
「どういう事?」
「朝までここの景色をみたことがなかったから」
「?」
「ここから見えるのは朝陽じゃなくて夕陽なんだよね。…まあいいや、また明日も来てくれる?」
「え、あ、うん。いいよ。まだ話足りないし」
「ありがとう」
 彼はそこまで言うとそのまま黙ったまま何も言わなくなった。

 私はそれから宿を延長し、しばらくこの地に留まることにした。そして、夕方には彼と話をしに公園へ登っていき、
朝に帰って、昼間に睡眠するような生活をしばらく続けた。その間に私は一生分の話をしたんじゃないかと思う。
そのくらい私は彼に話をしたし、彼もそれを求めていたのではないかと思う。
そして、そんな生活をちょうと一週間続けた時だった。
私はいつものようにとりとめのない話を彼に聞いてもらっていて、一段落したところで彼が切り出した。
84海の見える檻 6/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:02:34.81 ID:WelixTBA0
「僕は千織に謝らないといけないことがあるんだ」
「え、なに?」
「僕は実は鉄像じゃない」
「え、どういうこと?」
「僕は、生きている生身の人間なんだ」
 言っていることがよくわからない。
「うん。その話をする前に、お願いと約束があるんだ」


---------------------------------
拝啓、柏木様

突然、お手紙で申し訳ありません。私は祐輝君の友人で宮原千織と申します。
ある縁があって、私は祐輝君からご両親に向けて言付けを預かることになりました。
彼からの言葉をそのまま記述をいたします。
不審に思われるかもしれませんが、どうぞご一読ください。

---

父さん、母さん。

祐輝です。手紙は友達に代筆をして貰っています。
何故か僕は今、どこかの見晴らしのよい丘で海を眺めています。
そして、そこで出会った友人と毎日話しをしていました。
信じられないことだと思いますが、本当です。
きっとずっと願っていたことを神様が見ていてくれて、
僕の最期の望みをかなえてくれたのかな、と思います。
85海の見える檻 7/7 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:04:35.25 ID:TEBrsagj0
父さんと母さんは僕の人工呼吸器を外したことについて、
きっと思い悩んでいるのではないかと思います。
けれど、それについては、僕は正しい判断をしたと考えています。
僕の為に不幸になることはありません。
これからの人生を自分の幸せの為に生きていってください。
僕の分まで、人生を謳歌してください。

母さんがいつも僕の髪の毛を整えてくれていたこと。
父さんが一人の時にはいつも泣き出してしまっていたこと。
僕が喋ることができなくなっても、ずっと温かい言葉をかけていてくれたこと。
全部覚えています。

僕はずっと父さんと母さんを見守っています。

今まで、本当にありがとう。

さようなら。

---------------------------------

 微かな潮の匂いがする。見慣れた景色に変わりはない。私はいつものようにワックスで像を磨き終わると、
夕陽が落ちるのを見届ける。
「ねえ、そういえば手紙の返事がきたよ。ご両親、一度、君のこと見に来たいって」
 彼は答えない。病院で彼の本当の身体が亡くなってから、彼は喋らなくなった。でも私は話を続ける。
「遺産のことももうすぐ片付きそうだし、私もこっちで仕事をさがすことにしたよ」

 彼はじっと夕陽の落ちた海をみている。私は彼の手を握り、彼と同じ方向を眺めた。
海は暗く、空に溶けてしまっている。金星が眩い光をたたえている。彼の手がすこし温かくなった気がした。

(了)
86 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 00:05:06.42 ID:TEBrsagj0
終了です。
87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 00:43:35.60 ID:unQgc42+0
| ・ω・)
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 00:43:40.83 ID:uJNXvf3C0
おやすみ
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 00:51:34.85 ID:+NugNEc/0
絶対5レスじゃ収まりきらないよね
名探偵コナンで、30分で推理するのと同じ位無理。
2レス目書いてる時点でオーバーする気配満々で、
一々細かいこと考えるのが疲れる やる気しなくね?
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 01:56:54.74 ID:KbLba0xg0
そろそろ寝まっする
91 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 02:14:57.05 ID:TEBrsagj0
じゃあ、失礼して。厳しめ&短め&棚上げ&タメ口な全感投下しま。

No.01 無機有機 ◆A9epGInhJg氏
ああ、1レスとはありがたい。いいんじゃないでしょうか。
個人的には、少年が「だから?」と聞き返して終わると物凄く好みの話になる。
あと木は有機物なのでは。

No.02 仮名ゴジラ ◆X78jHks0c.氏
そんなに面白いとは思わなかったけれど、こういう話もまあいいんじゃないでしょうか、ガリバー旅行記みたいで。
レス数余ってるから、もうすこしゴジラが横柄になってからの部分を掘り下げればいいのに、と思った。
まあ、後半から書いてるうちに自分で萎えたんじゃないかな、と思うけど。

No.03 BATON ◆KV7M.qJsh2氏
なるほどバトンか。しかし麻薬常習者への偏見に満ちてはいまいか(笑)
ミステリとして読んじゃうと細かい描写に説得力ないし、ホラーっつっても怖くないし。うーん。

No.04 アイアンハート ◆D8MoDpzBRE氏
ああ、終わるのか。と思った。文章が上手いのでもう少し読んでたかったが。
書いてるうちに飽きたのだろうか。オチなし。つまり、でっていう。

No.05 鉄の炎 ◆Lq1ieHiNSw氏
胸糞悪い話だけど、文章は良い。でも、引っ掛かりなく。
子供の話ってどうしても心情が薄っぺらくなってしまうから難しい。
いじめられっ子視点の話は特に類型化してしまうので、新味がないとつまらん。

No.06 ファントムクリスタルは夢を魅せるのか ◆BFS4hea.pssi氏
嘘をつかない、ってことか。なるほどね。
『20歳の誕生日』ってのが何を意味しているのかよくわからなかったけど。
プロットなぞっただけって印象。他になにか、例えばキャラに凄いインパクトがあるとか。
元のストーリーもそんなに面白くないし。
92「鉄」全感 2/2 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 02:16:04.47 ID:TEBrsagj0
No.07 鉄仮面と ◆tMhmjHSlXE氏
なんか読みづらい。おかしな表現が幾つかある。情景描写はシンプルに。
心情描写にもとぼしく、内容が平面的。
設定思いつきました、までで話が止まっている。

No.08 弦奏のマリオネット ◆FcModpyaRc氏
厨二すなあ。ところどころ日本語がおかしくて頭いたくなってきた。誤字も多いし。
まあボリューム圧縮の為に設定の説明をばっさりカットしたのはわからんでもないけど、
それにしても酷い。仮に添削するとしたら10レスくらいになりそう。

<総評>
『鉄』ってお題がそもそも難しいよねー、と。自分の作品(時間外)も、無理矢理『鉄』にしたけど、
本当なら鉄像より銅像のほうが普通だろ、なんて。

全体的に低調で、これは! と思うものがなかったのですが、
一番、面白い話になりそうだった No.04 アイアンハート ◆D8MoDpzBRE氏 が関心票です。

久々の参加でしたが、自作が時間外(&レスオーバー)になってしまって残念です。頑張って次回も参加したいなー、
なんて思います。
皆様お疲れ様でした。まとめてくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。
93投票 ◆Tf1WgBAu9U :2010/08/30(月) 02:18:02.99 ID:TEBrsagj0

******************【投票用紙】******************
【投票】: なし

 全体的に低調

気になった作品:No.04 アイアンハート ◆D8MoDpzBRE氏

 一番文章がよかったので

**********************************************
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 03:17:31.63 ID:ZeQGHc1j0
ほみゃー
95 ◆7EHZF4NZ3. :2010/08/30(月) 04:06:45.66 ID:+NugNEc/0
******************【投票用紙】******************
【投票】: No.05 鉄の炎 ◆Lq1ieHiNSw氏 明らかにこの作品だけクオリティが高く、
                           内容がグロいのを無視したらこれが面白かった。

気になった作品:No.08 弦奏のマリオネット 4/5 ◇FcModpyaRc

**********************************************
No.3面白いだろ。何でNo.8なんかに入れてんだよ、という人もいそうだ。
No.8は、時間がなかったんだろろうと思われる場所が複数ある。「無数もの」とか
物凄い速さで削ったりしたんだろうっていう痕跡もあるけど、沢山書いてて手間が掛かってるのと、5レスの制限のせいなので…No.3よりはるかに評価できる。そういう意味です。
>>No.7の作者
概観というのは、とても大きな、個人では分かりかねる出来事に使うことが一番多いです……と思ったら、なんだ。すいません。
街の概観に、うってかわって… 打って変わってということは、昨日と打って変わってどうたらこうたら。
変わってるわけがない。 
そもそも、一歩踏み入れただけで、街の概容、広さやどこまで続くか、人がどれ位いるか、栄えているかなど
わからず、、その人がいる所の景色しか見えないよね…だから、何の概観かといえば街の概観で、
自分の見えている場所の概観、とは言わないです。例えそういう表現の仕方で同じ事が表現できても、
見えている範囲の外観、とはいいません。「概観」の指す対象は大きい物なので。

城内街というらしいが、城壁の外から見たら、中は何も見えないけど、
本丸? 王宮が高くなってれば、厳かな雰囲気がすると思うから、
要は、想像していたより、粗末で寂しい感じがしたとか、城壁が立派な割に
がらんどうとして、新しい建物がないとか、人気が感じられないとか……自分の思ってる所を表現しないと
想像任せでは、分からない。
何よりここの表現の仕方は変。間違いすぎて意味不明と化してる感がある。

違法的に 違法で、だね。
感謝の意を込め、というのは、「感謝しております。是非お礼がしたいのです。」感謝の意を表すると共に、とか。
「私からもお礼をしなくてはなりません。」とか、「私も恩人に報いなくては名が廃る」何とかかんとかとかw
その上、短すぎて困ってる感じがするが…。それはどうしようもないですよね…。全く……。No.1は面白いのかもしれないけど、全然理解できなかった。No.3は、そそのかした第三者がいるんだろう。ある意味頭に欠陥あるんだけど、そんな私でも、何とか分かった。
96 ◆7EHZF4NZ3. :2010/08/30(月) 04:11:55.17 ID:+NugNEc/0
総評2

5レスの制限のせいで、明らかに困ってる人がいっぱいいるのには同情した
私も困ったし。パスパス。途中まで書いたけど、オチまで書くのだるいw
97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 04:39:11.92 ID:YSSR91ly0
来週も感想を書いてくれるのか?
それならば俺も投票されるよう頑張って参加したいものだ
98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 04:41:50.09 ID:p1+MUo0+0
今回はお題からイマジネーションが湧かなくて参加できなかったが次は参加したい
99 ◆7EHZF4NZ3. :2010/08/30(月) 05:19:30.34 ID:+NugNEc/0
>>97
・・・馬鹿なの?
100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 06:34:27.49 ID:ZeQGHc1j0
ほね
101以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 08:27:16.35 ID:uJNXvf3C0
102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 09:57:47.71 ID:Xxd818+F0
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 11:20:54.07 ID:nZgczKmrO
104以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 12:27:47.10 ID:nZgczKmrO
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 13:21:15.77 ID:nZgczKmrO
106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 14:24:48.54 ID:nZgczKmrO
107以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 15:53:00.63 ID:nZgczKmrO
いやいや
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 15:59:13.56 ID:bs7UDCM00
お題
109以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 16:00:56.64 ID:p1+MUo0+0
>>108
許される犯罪
110以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 17:07:32.90 ID:nZgczKmrO
ピンポンダッシュとかかな
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 17:56:49.48 ID:sYCkF28s0
おかえり
112以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 17:59:08.70 ID:1H/4DFRN0
ササミと私
113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 19:02:55.70 ID:uJNXvf3C0
えっ?
114以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 20:03:13.45 ID:JGrtr58R0
ん?
115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 20:08:54.97 ID:6BMZ0k3Q0
品評会時間外投下
116奇術師1/5 ◆ihO9dxzf9I :2010/08/30(月) 20:09:39.62 ID:6BMZ0k3Q0
 ステージに一組の男女が現れた。二人とも派手な格好をし、軽快な音楽に合わせた身振り手振りで観客の目を惹きつけよ
うとしている。男が奇術師で、女が助手である。トランプ、シルクハット、ボックス、彼らはありとあらゆる道具を駆使し
俄かには信じがたい光景を見せつけ、観客の度肝を抜いた。客席のいたるところから歓声と、ほんの少し毒づきが聞こえる。
「あれは初めから『7』にしか当たらないようになってるんだよ、そうに違いない」
 そんな声を知ってか知らずか、演目が消化するにつれ奇術師の見せる技は一筋縄ではいかないものばかりになっていく。
特にガラスの水槽を腕で突き破っておきながら、痕跡一つ残さぬ技にはさしもの毒づいていた者も黙るしかなかったらしい。
 観客は皆陶酔しきっていた。奇術師が見せる芸を見逃さないようにとのつもりか、あらかじめまたたきを何度もする者や、
前の背もたれにまで身をのめらせる者まで出てくる。高揚に比例するように、演技する者達の動きも盛んになる。さながら
猛獣使いが動物の群れを操るように、男女の一挙手一投足は客に同じ反応を示すよう要求していた。
 息もつかせぬ魔術の応酬は時間の感覚を麻痺させる。いつしか三十分近くが経ち、どうやら演目も大詰めのようだ。客席
には終焉を惜しむもどかしげな空気が流れている。男は女の手を縛り上げ、空気を察知したように舞台袖から大掛かりな道
具を呼んだ。『鉄の処女』だ。中世ヨーロッパにおいて処刑装置として用いられた鉄製の箱。銅鐸のような形をし、人を模
した頭部には、柔和な顔を浮かべる女性が描かれている。観客に処刑装置の由来がわかる人間がどれだけいるものか。とは
いえ、箱がかもし出すおぞましい雰囲気には皆が感づいていた。
 箱の扉は観音開きになっており、扉の内側には鉄の針が幾重に張り巡らされている。男が皮つきの果物を針に突き刺すと、
果汁が床に滴り落ちた。皮に残った汁をすすり、拘束した女の肌をさすると、彼女を容赦なく箱の中に押し込んだ。まずは
頭部の扉を閉め、哀願を湛える女の顔を隠す。そして、観音開きの扉を右から、次に左から閉める。観客には青ざめた表情
を浮かべる者もちらほらと見えた。流れる音楽のせいか女の声は聞こえない。やがて、箱の中から赤黒い液体が流れてきた。
管のようなものが中に仕組まれているらしい。男がコップに採り、溜まるとすぐさ飲み干した。唇の端から垂れる水滴が照
明に照らされる。満足げな表情を浮かべた男は、いよいよ箱の扉を開けた。
 しかし、女の姿はそこにない。どこに消えたのか。まもなく後方の客席から声が上がった。見ると、照明に照らされた女
が両腕を掲げ立っている。女が通路を歩きステージへ上ると、会場は喝采に包まれた。

 私が舞台裏を案内され楽屋に入ると、シャワーを浴びたばかりと思しき男が座っていた。にこやかな表情に迎えられたの
で、特に緊張を覚えることはなかった。
「素晴らしい舞台にお招きいただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ先生においでいただいて感謝したいくらいです」
 右手を握り合った男に私は招待されていた。彼は私の作品を読んでくれているらしく、一度会って話したいとの申し出が
あった。とはいえ、一方的に会うだけでは勝手が過ぎるから自分の生業も見てほしい、とのことでチケットをもらったのだ。
「最初は見慣れたものばかりだったからこんなものかと思ったんだけど、途中から一気に理解が追いつかなくなった」
117奇術師2/5 ◆ihO9dxzf9I :2010/08/30(月) 20:10:23.44 ID:6BMZ0k3Q0
「あれは戦略なんですよ。初めから大技を多用すると観客は飽きちゃうでしょ。でも段階的にやるにも、どんな技がどれだ
けボルテージを上げるか、積みあがったものが頂点に達するか達さないか、そういうギリギリの所を見極めるのが難しい」
 楽屋のドアが開き、助手役を務めた女が現れた。私を見て退出しかけたが、男が止め、三人で話すことになった。女が横
に座ると、男は彼女が露わにしている腿をさすり始めた。
「おや、失敬。ついいつもの癖で」
「それで落ち着いて話ができるならそのままでもいいですが。なかなか扇情的でもありますし」
 二人は笑ってくれた。その後も男は女の肌を表情も変えず触り続けていた。恋仲と見た。
「にしても『鉄の処女』が出てきたときはとりわけ驚いたな。相当な教養があると見ましたが」
「この人はね、拷問とか処刑とかに特別興味を覚えるみたいなの」
 女が言うには男は彼女と出会う前からその方面の造詣が深かったという。『鉄の処女』を用いた奇術も彼の着想から生ま
れたらしい。女にうながされ、男は薀蓄を傾け始めた。中には私が初めて聞く知識も混じっていた。
「先生の文章に、人間は逃れようとしても自らの中に残る残虐な面を捨てることはできない、ってあったでしょ。あれは良
かった。僕は拷問に対する人間の態度を見てたから、小説の残酷な場面の克明さにも感心したんです」
「でもその文章は古今東西の作家が言ってることを拝借しただけだから」
「拝借でもいいんですよ。先生の作品にはそれを裏付けるものがある。先生は平然と、ある時には機能美すら感じさせる残
酷な場面を書いちゃうでしょ? その冷淡さは処刑装置にも通じるものがあるんです」
 彼が言うには『鉄の処女』自体も、血を採取するための機能に特化した面があるという。血は全て箱の中にぶちまけられ
後始末にも手間がかからない。ほかにも処刑の効率化、あるいは残虐性を高めるため、時には処刑装置を芸術家に作らせた
支配者もいたそうだ。
「処刑装置には大雑把に分けて二つの種類があるんです。ちゃっちゃと終わらせちゃうか、じわじわといたぶりつくすか。
でも共通点は、計算や技術を用いていない装置なんて何一つない、ってところ。みんな頑張って作ってるんです。人間のお
ぞましさを感じますね。何が彼らをそうさせたのか。僕はそういう物を追求したいし、先生はそういう物を書いてる」
「ね、すごいでしょう?」女が口を挟んだ。「この執着を少しだけでもイリュージョンの方に向けてくれたらいいんだけど」
「でもさっき言ったことにも似てる気がするな。観客のボルテージを上げるか上げないかの瀬戸際で勝負する、っていうイ
リュージョンへの態度。ある意味、あなたは観客を処刑しようとさえ思ってる」
 その後の話もそこそこに、また会う約束を取り付けて私は楽屋を後にした。
「ご足労いただいた上にこんな話にまでつき合わせて何と言っていいやら。先生がえぐい話を理解してくれる人でよかった」
「いや、むしろこちらこそ。こんな話題なら朝まででも話したいくらいです」
 男は、別れ際まで温和な表情を絶やさなかった。
118奇術師3/5 ◆ihO9dxzf9I :2010/08/30(月) 20:12:23.97 ID:6BMZ0k3Q0
 その後も私は男と交流し、もろもろの話を交し合った。彼はそれなりの知名度があったので私の友人達が紹介を願うこと
もあった。いざ彼とまみえる機会に恵まれると、友人達は奇術を見せてくれるようせがんだ。彼は、快く応じた。
「じゃあ、これから僕の手をこの箸で貫通してみせます」
 果たして箸は血の一滴も流すことなく男の右手を貫いた。友人達の悲鳴に似た声が止む間もなく、男は箸を抜き、掌を見
せ痕跡がないことを示した。観衆は次々に疑問をなげかけるが、当然、タネは明かしてくれない。
「でもね、案外こういう手品のタネって他愛のないものなんですよ」
 彼曰く、例えば箱の中に人間を入れ剣を突き刺す奇術などは、つまるところ体をくねらせるでどうとでもできるらしい。
いざやると確かに難しいものだが、時折そこまで気を張るのが馬鹿馬鹿しくなるという。
「『鉄の処女』だってね、実は双子を使ったマジックかもしれない。いや、双子なんて使わずとも、似たようなメイクを施
した女性を二人用意すればいい。箱の裏手にあらかじめ女性がくっついて、裏側にも扉がある、とかね」
 男は真剣な表情を浮かべ話していた。種明かしは冗談だろうが、それに似たようなつまらなさがあるのは事実なのだろう。
「それなら」男は続けた。「いっそ実は女性を殺していた、なんていうほうがスリリングだ。それを観客に隠して、僕が
『鉄の処女』の考案者のように処女の血をすすることに生きがいを見出してる、といったようにね」
 会席の雰囲気がわずかに凍った。男はようやくそういう場ではないことを察したようだ。いやむしろ、自分の話に共感を
覚えてくれないことに落胆した、という方がふさわしい、苦笑いを浮かべていた。
「そんなことを言ってたらいつかしっぺ返しに遭うだろう。例えば、殺したと思っていた女性が、忘れた頃にステージに上
がって君に復讐をするとか」
「あぁ、いいですね。新しいネタになりそうだ」
 私がとりなしたことで会席の雰囲気はいくらか和らぎ、男はいつものおだやかな表情を取り戻した。

 数ヶ月経った頃、男にまた公演に来てほしいとの誘いがあった。今回は全国を飛び回るツアーで、演目の構成から衣装ま
で、全てを一新したステージになるという。
 言葉通りその日の公演は派手な奇術が続く、流転の激しいものとなっていた。どうやら今回は最初から大技を繰り出し客
を興奮の渦に巻き込む構成を選んだらしい。男は下手を打つと客が飽きるといったが、そんなことはなかった。男の表情も
伸るか反るかの勝負に際し気迫が込もる。観客は、時折張り詰めた静寂さえ交えて彼に応えていた。
 するとわずかに、男の目が私に向かった。軽くうなずいたことから、初めから見当をつけていたようだ。目線を外したか
と思うと、舞台袖から『鉄の処女』が現れた。拘束された女が入り扉が閉まる。扉が開くと中に女はいない。ここまでは定
番だ。男が困惑の演技をしていると、突如上から女が降りてきた。その手には長刀が握られ、容赦なく男の胸を貫き通した。
赤い照明がステージを灯す。客席から金切り声が上がった。男が倒れ伏す前に、体勢を整えた女が『鉄の処女』の中に彼を
閉じ込めた。舞台袖からカーテンが呼ばれ、鉄箱を囲み始めた。カーテンが下りる。すると、『鉄の処女』が消えていた。
119奇術師4/5 ◆ihO9dxzf9I :2010/08/30(月) 20:13:32.47 ID:6BMZ0k3Q0
低音の目立つ音楽が観客の心を煽る。やがて、ステージの下からせりあがってくる者があった。男だ。それもすでに刀は除
かれ、無傷である。喝采と拍手が上がった。その日も、独壇場を見事に務め上げた。

「いやあ、先生はなかなか驚いてくれませんねえ、さすがだ」
 楽屋に招かれると、男はどこか煮え切らない苦笑いを浮かべていた。舞台に登った時から私を見つけ、何度か一瞥してい
たようだが、私の表情が変わることはなかったという。
「いや、私は元から表情に出づらいから」
「どっちにしてもいいんですけどね。その方が先生らしい。当面は先生を驚かせることが目標になりそうです」
「私など相手にせずともあれだけ観客を魅了できれば十分だと思うが」
「駄目ですよ、それじゃ。彼らは結局のところ安全を求めているんだ。先生の言葉を借りれば、処刑の楽しみがないんです。
先生はちょっとやそっとのことじゃ驚かない。僕はそういう人を相手にした方が楽しい」
 それから男は愚痴にも似た話を始めた。自分は最終的には助かる芸ばかりをやっており、観客もそれを求めている。彼ら
は興奮を味わいたいが、それには危険が伴っていない。結局、自分の演技とは子供だましのアトラクションなのだ、と。
「それが生まれながらの稼業だから、言ったって仕方がないんですけどね」
 ないものねだりにも似た話をかわすのは容易い。しかし、それが彼にふさわしい態度なのだろうか。あいにく、かける言
葉は持ち合わせていなかった。
「かといって、どこぞの奇術師がやった大脱出のようなものをやっていたら体がもたんしな」
「僕はやりたいんですよ。でも上が許してくれない。単純にいって馬鹿だと思われてるんでしょうね。実は今回のプログラ
ムももう少し危険なものをやりたいと思ったんです。でも、突っぱねられちゃった」
 楽屋のドアが開き、助手の女が入ってきた。席を立たねばならないらしい。男は不満げな表情を浮かべたが、重要な案件
だからと女に無理矢理連れて行かれ、挨拶もそこそこに私たちは別れた。

 少しした頃、公演が延期になったとの報に接した。詳しい事情は伝えられなかったが、噂によると事務所と諍いがあった
らしい。あまり深く立ち入らないほうがいい気がした。

 ツアーが終わり、労いに食事にでも誘おうかと案じていた頃、助手の女から電話があった。男が奇術の練習中に事故を起
こしたという。しかも、『鉄の処女』で。全身に刺し傷が出来たそうだ。
「傷はどれも致命傷じゃなかったんですが、ひどい失血で、集中治療室に今も閉じこもって手当てを受けていて」
 電話口の声は努めて落ち着いていたが、言葉がしっかりとつながれていなかった。聞くと、昨日のことだったらしい。メ
ディアには公表していない。売り出し中の奇術師がヘマをしたとあらば価値が落ちてしまうとの判断だそうだ。ぞんざいな
120奇術師5/5 ◆ihO9dxzf9I :2010/08/30(月) 20:14:27.47 ID:6BMZ0k3Q0
ものだ、と思いながら女と会った方がいいだろうと待ち合わせを取り付け、支度をした。出がけにいつもの癖で郵便受けを
覗くと、封筒が入っていた。差出人はあの男だった。枚数があったので、タクシーをつかまえ車内で読むことにした。
「決断が鈍るのも癪だし、先生のお時間をいただくのも心苦しいので、なるべく手短に書きます。
 僕は『鉄の処女』で死ぬことを決めました。この際タネを明かせば、いつか話した通りあの箱の裏手にはもう一つ扉があ
るのです。僕はその扉を開けず、そのまま串刺しにされて死にます。僕の思い入れのある器具と、生業の途中で死ぬ。なか
なか良い死に方だと思いませんか?
 今回の自殺には色々と要因があります。一つや二つの事情で自殺するほど僕はヤワではありません。積もり積もったもの
が頂点に達したのです。全てを申し上げても栓無いことなので、先生だけがわかってくれるだろうことを書きます。ご存知
の通り僕は処刑に関し大変な感興を覚えてきましたし、施政者がなぜそこまで処刑装置に精魂を込めてきたのか探りたい、
ということも申し上げました。僕は常々彼らと同じ立場になりたいと考えてきました。
 とはいえ、時代が時代ですしそれは叶わないことです。その代わり、僕は自分自身を虐げたいと考えてきました。他人を
法律以外のところで虐げれば犯罪ですが、自分を罰することに関しては自由です。無意味にも思えることを、とことんまで
研究し、自分の闇を引きずり出す。あわよくば、その様を多くの人に見せて僕だけでは成し遂げられないことを誰かに受け
継いでもらいたい。そう考えていましたが、簡単に言うと出来ないことになりました。
 本当は先生をひそかにおよびして、新しいマジックが出来たからと称し自殺の様子をお見せしたいと考えていました。先
生なら僕の考えることを多少なりとも受け取って、それを上手く表現してくれるかもしれない。先生は図太い方です。きっ
と今回も驚かないかもしれない、冷徹な目で僕を見つめ、新しい着想にしてくれるだろう。驚かせられれば儲け物だ。けれ
ど、それは勝手が過ぎるというものです。同じ勝手なら自分で勝手に死ぬ。それが筋というものでしょう。
 先生は僕がなぜ自殺するか、おわかりいただけないと思います。それは僕の責任です。実は僕も何故自殺するか、良くわ
からないのです。本当は処刑のことなどから離れ、安全なイリュージョニストとしての一生を送った方が、よっぽどいいか
もしれない。でも、僕はここから逃れられなくなってしまった。本当はもう少しお話をして、僕のありのままを伝え、せめ
てものヒントをたくさん提供したいと考えてきました。先生の作品やお話から知見を得ることで、僕の考えの裏づけをした
いとも思ってきた。ただ、やっぱり時間が来てしまった。僕はいずれ自ら命を落とす運命だったのかもしれません。先生は
落ち込むことなどないでしょうが、念のため、あなたは関係ない、としたためておきます。
 思いのほか、文章が長くなってしまいました。案外書けるものだ、と僕自身も驚いているところです。これ以上書くと筆
が止まらず、不意に余計なことを書いてしまうかもしれません。心惜しいですが、この辺りで筆をおきます。
 最後に、ついでとして先生にうかがいたいことがあります。先生は僕が死んだと知った時、驚きましたか? 僕はあなた
の裏をかくことが一つの夢でした。あなたの硬直な心を揺るがして、もっと素晴らしい作品を書かせて見せる。それに、イ
リュージョニストの仕事は、人の度肝を抜くことが一番なのです。もし先生を驚かせることが出来たなら、それをこの目に
焼き付けられないのが残念ですが、これ以上ない冥土の土産となりそうです」
121以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/30(月) 20:15:17.54 ID:6BMZ0k3Q0
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122以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
おつかれい