1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
−−− マンション・WV 803号室 −−−
side.???
駄目だ。見付からない。
何としても見付けないとまずい事になるというのに。
しかし、これ以上の長居は危険だ。
それに、ここにない可能性もある。
頼る者はなくとも、別の場所に隠すぐらいはしているかもしれない。
私はもう一度キュートの方を見る。
o川 ー )o
相変わらずその顔は安らかなままだ。
最後まで、忌々しいやつだ。
軽く首を振って雑念を払い、自分の痕跡が残っていないかの確認をする。
偶然見つけたこれは役に立ちそうだから机の上に置いておく事にしよう。
自殺として処理されれば儲けものだ。
私は注意深く外の様子を伺い、キュートの部屋を出た。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:16:45.55 ID:XWddnNHm0
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:19:35.29 ID:XWddnNHm0
−−− 警視庁 四階 捜査一課 −−
_
side.( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚)「……」
すっかり綺麗になった隣の机が、あいつがいなくなった事を俺に実感させてくれる。
もともとそんなに荷物はなかったし、外回りが中心の俺達だ。
この席にも机にもそんなに愛着はないが、何だか妙に物寂しい感じを受ける。
_
( ゚∀゚)「……ったく、馬鹿が」
馬鹿が馬鹿をやっただけだ。
その結果、飛ばされた。
たったそれだけの事。
俺があれこれ考えるような話ではない。
しかし……
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:22:03.57 ID:XWddnNHm0
_
( -∀-)「馬鹿野郎が」
再び隠す事もなく悪態を吐く。
ほとんどの者が出払っている。
どうせ誰も聞いていないだろう。
_
( ゚∀゚)「首にならなかっただけマシか」
俺はまた隣の席に目を向け、一人呟く。
そう長い間でもなかったが、この机の持ち主であった俺の部下はもういない。
仕事柄、死別する人間も時には出る事を考えれば、今生の別れというわけでもないし、本来なら俺がそう気にかける
話ではない事もわかっている。
しかしながらあいつ、内藤は俺の初めての部下だった男だ。
_
( ゚∀゚)「つまり、内藤がああなったのは俺らの監督不行き届きだよな」
そうは言ってみたものの、内藤が問題を起こしたのは俺の下を離れて、別部署に借り出されていた時だ。
実際、今回の事で俺らにはお咎めは何もなかった。
ただ、組織犯罪対策第五課の方には多少訓告なりあったようだ。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:27:23.21 ID:XWddnNHm0
_
( -∀-)「内藤が恨まれてなきゃいいが……」
俺が気にしてもしょうがない。
わかっているのだが、どうしても気になってしまう。
_
( ゚∀゚)「何だかなぁ……」
何となくすっきりしない気分で元内藤の机を見詰める。
いればいたで手のかかるめんどくさいやつだったが、いなくなったらいなくなったでまた俺を悩ますとは
とんでもないやつだ。
_
( ゚∀゚)「ちっと様子でも見てくっかな」
思い立ったが吉日と、勢いよく立ち上がろうと両手を後ろに振り下ろした所ではたと気付いた。
. _
(;゚∀゚)「あいつ、黛警部のとこ行ったんだっけか……」
首にもならず、交番勤務にもなりはしなかったものの、飛ばされた先はよりにもよって、あの黛警部の所だ。
VIPなどとふざけた名前をで呼ばれるあの部署は、はっきり言って窓際部署だ。
特にやる事もなく、ただ自主的に辞めるのを待たれているような部署だとされている。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:30:52.66 ID:XWddnNHm0
_
( ゚∀゚)「……の割にはあのしょんぼり眉毛、辞める所か色んなとこにしゃしゃり出てくるよな」
しょんぼり眉毛……もとい、黛警部は何と言うか掴み所のない、不思議な人だ。
気付けばいつの間にか人の担当の事件現場にいるし、また、いつの間にか事件を解決させた事も何度もある。
能力的には優秀な人間であるのは間違いないのだが、俺としてはどうにも苦手なタイプだ。
_
( -∀-)「なんつーのかなぁ……見透かされてるっつーか、弄ばれてるような」
こっちの行動も全て予測した上で動いてる様なとこがあるし、話していても答えを誘導されている感じがする。
_
( ゚∀゚)「……ってことをドクオが言ってたな」
正直な話、俺にはよくわからない。
ただ、やたらと目に付くのがウザいし、澄ました顔が気に入らない。
ドクオのようには明確に理由は言えないのだが、何となく本能的に気に入らないのだ。
_
( ゚∀゚)「あいつは大丈夫かねぇ」
そう呟いてしまってから辺りを見回す。
別に聞かれても構わないのだが、何となくばつが悪い気がした。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:34:03.02 ID:XWddnNHm0
黛警部の下に行った内藤。
俺が気を揉むような義理もないのだが、短い間とはいえ部下だった男の事だ。
それまでの監督責任もあるわけだし、やはり俺が気にするのも仕方のない話なのだ。
_
( ゚∀゚)「しゃーねえ、ちっと様子見て来るか」
面倒だがこれも先輩の務めだ。
俺はそう自分を納得させ、勢いよく立ち上がる。
('A`)「ん? どっか行くのか?」
_
( ゚∀゚)「あ? 何だドクオか。いや、別に……」
相変わらずの不景気な面をぶら下げたドクオが戻って来たので、俺は立ち上がった反動で数回スクワットをして
再び椅子に座る。
(;'A`)「お前、何してんの?」
_
( ゚∀゚)「いや、別に……」
再び同じ言葉を告げ、顔を背けて椅子に深く背を預ける。
別に隠し立てするような事でもないのだが、何となく決まりが悪く感じてしまう。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:38:51.76 ID:XWddnNHm0
_
( ゚∀゚)「んで、どうだった?」
(;'A`)「あ?」
_
( ゚∀゚)「いや、今まで取調べしてたんだろ?」
('A`)「ああ、その話か。取調べってほどのものじゃないけどな。多分事件には無関係だろうし」
_
( ゚∀゚)「第一発見者を疑え、は鉄則だろ?」
('A`)「怪しくないと踏んだからお前は来なかったんだろうが」
ドクオは渋面をさらに渋め、手に持っていた書類の束を俺に手渡す。
そういえばそうだった。
第一発見者の若い兄ちゃんは、どう見てもただの宅配業者で、事件には無関係そうだからドクオに取調べを
任したのだった。
_,
( ゚∀゚)「何でこの程度の時間の取調べでこんなに分量があるんだよ」
('A`)「ちっと話しこんでたからな」
_
( ゚∀゚)「ふーん……。で、話しこんだ甲斐はあったのか?」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:42:28.54 ID:XWddnNHm0
(;'A`)「いや、読めよ。その為に渡したんだろうが」
_
( ゚∀゚)「話を聞いた本人が目の前にいるんだ。聞いた方が早いだろ」
('A`)「そう思うならお前も取り調べに来いよ。そしたらそれこそ話す本人が目の前にいる」
悪態を吐きながらも、俺が差し出した書類を受け取り、ドクオは話し始める。
('A`)「第一発見者、まあ、宅配便の兄ちゃんだな。名前は……どうでもいいか」
_
( ゚∀゚)「ん? やっぱり容疑者候補じゃないんだな」
('A`)「事件発生が兄者の見立て通りの深夜なら、アリバイが完璧だ」
何でも寮住まいだそうで、それに出入りを厳しくチェックされているような所らしい。
当日も早朝から仕事で、その時の荷物の配達先に被害者の家があったらしい。
_
( ゚∀゚)「被害者との接点も無し、と」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:49:30.13 ID:XWddnNHm0
('A`)「いや、それはあるよ」
_
( ゚∀゚)「は? あんのかよ。なら……」
('A`)「面識なきゃ、いくら鍵が開いてても被害者の家まで上がり込まんだろ?」
管理人のいるマンションだし、管理人に預ける事も出来るのだから、まずは勝手に上がりこむ前にそちらに向かう
はずだとドクオは言う。
_
( ゚∀゚)「ならやっぱりそいつは怪しいんじゃねーの?」
('A`)「面識って言ってもあくまで仕事上の、それも単に被害者がよく通販で宅配便を利用していたからという話だ」
何度も配達をする内に、名前を覚えてもらって世間話をするぐらいの中だったと配達員は言ったそうだ。
_
( ゚∀゚)「だからって、勝手に上がるかね?」
('A`)「まあ、多少の下心はあったんだろうな」
被害者は見た目なかなかの美人だったようだし、人当たりも良かったという。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:52:14.06 ID:XWddnNHm0
('A`)「あの兄ちゃんが被害者に惹かれてて勇み足を踏んだだけだと俺は見てるよ」
本人もそれに近い証言をしているとドクオは言う。
なるほど、鍵が開いているという不測の事態に、被害者が何かしら事件に巻き込まれでもしたのかと思い、あわよくば
感謝されようとでも考えたという事か。
('A`)「まあ、お陰で早く見付かったんだ。仏さんも感謝してるだろうさ」
_
( ゚∀゚)「なるほど。大体わかった」
('A`)「ホントか? そりゃ珍しい」
両手を広げ、さも驚いたような素振りを見せるドクオを無視し、俺は顎に手を当て、考え込む。
第一発見者が犯人の線が消えると、今の所これと言って容疑者がいないという事か。
確か被害者には家族を始め、縁故の物が全くいなかったはずだ。
('A`)「姉が1人いるけどな」
_
( ゚∀゚)「随分前に海外に出ちまったんだろ?」
('A`)「……今日は随分物覚えがいいな。何か悪いものでも食ったか?」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 22:56:19.52 ID:XWddnNHm0
真顔で言うドクオの態度が少しムカつくが、まあ、俺は自分がこうやって机上で議論をするタイプじゃないって事は
自覚している。
刑事なんて物は足で稼いでなんぼだ。
('A`)「というわけで今の所、めぼしい容疑者は1人だな」
それ以前に単なる自殺の可能性の方がまだ高いと続けるドクオに、俺は訝しげな顔で聞き返す。
_
( ゚∀゚)「あ? 1人? 誰かいたっけか?」
('A`)「決まってんだろ? 内藤だよ」
. _,
(;゚∀゚)「は?」
お互い、何言ってんだという顔のまま、しばし見詰め合う。
(;'A`)「いや、どう見ても被害者と知り合いだっただろ?」
. _
(;゚∀゚)「ああ、そういう感じだったな」
俺は昨日の内藤の様子を思い出していた。
そういえば随分と取り乱していたな。
結構感情の起伏が激しく、からかい甲斐のあるやつだが、あそこまで取り乱した内藤は流石に初めて見た。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:00:01.99 ID:XWddnNHm0
('A`)「あの取り乱し方はどう見ても親しい間柄だろ」
_
( ゚∀゚)「確かに。家族とか親友とか──」
('A`)「恋人とかな。内藤氏ね」
モテナイ大王の怨嗟の声を聞き流し、俺はまた考えを巡らせる。
確かに、言われてみれば内藤には疑われる余地があるかもしれない。
しかし……
_
( ゚∀゚)「……内藤じゃねえよ」
('A`)「あ?」
_
( ゚∀゚)「あいつはそんな事しねえって」
('A`)「しかし、刑事とて人間だ。時には──」
_
( ゚∀゚)「あいつにそんな度胸はねえよ。それに……」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:03:30.34 ID:XWddnNHm0
('A`)「それに?」
_
( -∀-)「あの悲しみ様は、演技じゃねーよ」
('A`)「……かもしれんな」
目を閉じていても、ドクオが表情を少し緩めた事ぐらいは気付ける。
こいつも本心では内藤の事は疑っていないはずだ。
可能性がある以上、刑事としてその考えを一応考慮に入れているだけだと思う。
当然俺もそれを考えておくべき立場だが、あいつはやっていないと確信に近いものもある。
_
( ゚∀゚)「内藤は犯人じゃない。俺の刑事としての勘がそう言っている」
('A`)「……お前ってさ、意外と過保護だよな」
. _,
(;゚∀゚)「は? 過保護って何だよ? 俺はただ、総合的に考えてだな……」
('A`)「はいはい、そういう事にしといてやるよ」
ドクオは先ほどの書類をファイルに納め、立ち上がる。
どうやら俺の弁明を聞く気はないらしく、部屋の出口の方に向かった。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:06:34.41 ID:XWddnNHm0
_
( ゚∀゚)「おい、どこ行くんだよ?」
('A`)「どこって、容疑者探しに決まってんだろ? ……内藤じゃない、別のな」
俺はその言葉に弾かれた様に立ち上がり、ドクオの方に駆け出す。
_
( ゚∀゚)「んで? 具体的には何やんだよ?」
('A`)「まだ何もやってねーんだから色々あるだろ。まずは被害者の交友関係を洗う」
_
( ゚∀゚)「よし。んじゃ行くぞ」
そう言って俺は捜査一課を飛び出し、廊下を走る。
まずは聞き込み、刑事は足で稼いでなんぼだ。
(;'A`)「って、おい、まだどこに行くかも決めてねーよ。待てよ! おい!」
何か叫んでいるドクオの声を余所に、ふと窓の外を見やると、昨日と同じ景気の悪い空の色が見える。
こういうじめっとした空気は、どうにも気に入らない。
だから俺は内藤がどうこうじゃなく、さっさとこの何とも言い難いもやっとし物たを晴らしたいだけなんだ。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:12:23.74 ID:XWddnNHm0
−−− 警視庁 三階 VIP内 −−
side.(´・ω・`)
(;^ω^)「そんな感じで、いきなり痴漢呼ばわりでしたお」
(´・ω・`)「……ああ、それは隠したいかもね」
再開の話を一通り語り終えた後、ブーン君はだからあまり話したくなかったと弁解する。
それはまあ、隠したいかなと思いつつも、被害者の人となりを知るためには聞いておくべき話であろう。
(;^ω^)「突然歩み寄って来たかと思えば、通りのど真ん中で人を指差して痴漢呼ばわりですお」
(´・ω・`)「そりゃまた剛毅な娘さんだったんだね」
ブーン君の話は、お世辞にも整理された内容とは言い難く、単に起こった事を時系列順で話しているだけに聞こえた。
その時系列もあっていればいいのだが、話している最中に話が進み戻りつしている所をみると、それも怪しい物だ。
(´・ω・`)(惚気話聞かされてる様なそんな感じもちょっとあるし)
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:16:11.26 ID:XWddnNHm0
ブーン君の話を聞く限りでは、被害者との仲は良好の様だった。
現段階では何かしら2人の間に問題や確執があった節は見受けられない。
しかし、あくまで現段階だ。
(´・ω・`)(何かしらあったからこそ、遺書の存在が出てくるんだろうしね)
ブーン君の話の中の被害者の姿は、とてもじゃないが世を儚んで自殺を考えるような人間には見えないし、そんな遺書を
書きそうな様子もない。
むしろ明る過ぎて躁病を疑う程だ。
( ^ω^)「という感じでまあ、偶然再会して、僕らはその、何ていうか……」
(´・ω・`)「付き合い始めた、と」
(;^ω^)「いや、その、付き合ってたとかそういうのじゃなくて……」
(´・ω・`)「煮えきらないね。僕は事実が知りたいだけだから、事実だけを話してくれればいいよ」
話を客観的に判断する限りでは、どう見ても2人は付き合っていた様に見えるのだが、ブーン君は頑なに否定する。
どういう状態を指して付き合っていたというかの区分は人によって違うだろうし、そこはただ呼び方だけの問題では
ないかと思ったのだが、どうやらそこは譲れない点らしい。。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:19:55.91 ID:XWddnNHm0
(;^ω^)「あくまで、時々会って食事に行ったり電話で話したりするだけの友達だったんですお」
(´・ω・`)「2人っきりで会ってたんでしょ? ならやっぱり付き合ってた様なものじゃないのかな」
(;^ω^)「けど、あれ以降、一度もキュートちゃんの家に行ってませんし、僕の家にも呼んでませんお」
(´・ω・`)「え、そうなの?」
そこがブーン君の恋人かどうかの判断の基準点らしいが、なるほど、ある意味明確といえば明確かもしれない。
しかし、互いの家にも行かなければ、そういう関係にも至っていないとなると、どちらも案外古風なのか、それとも
他に理由があるかだが。
(´・ω・`)「じゃあ、まあ、親しい友人だった、そういう事にしておこうか」
ひとまずそう結び、話の続きを促そうとした所でどこからか聞き慣れた音楽が聞こえてきた。
( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「おっと、ごめんね、僕の携帯らしいね」
ブーン君に謝罪し、携帯電話をスーツの内ポケットから取り出す。
画面に表示されている発信者の名前が流石兄者君である事に気づいた僕は、すぐに応答する事にした。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:21:33.18 ID:XWddnNHm0
(´・ω・`)「はい、黛です」
(´・ω・`)「ええ、はい。はい……はい?」
(´・ω・`)「わかった。じゃあ今からそちらに向かうよ」
電話を切り、再びブーン君に失礼と謝りを入れ席を立つ。
( ^ω^)「お? どちらからの電話だったんですかお?」
(´・ω・`)「鑑識の流石君だよ。いくつかわかった事があるから、ってね」
話の続きは後にしようと言って、入り口のドアの方に向かう。
後方のブーン君は座ったままのようで、立ち上がる気配はない。
(´・ω・`)「ん? 来ないのかい?」
(;^ω^)「お? 僕が行っても?」
(´・ω・`)「いや、無理強いはしないし、僕にはその権利もないからね。好きにすればいいんじゃない?」
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:26:23.42 ID:XWddnNHm0
( ^ω^)「では、ご一緒させてもらいますお」
そういうや否や、内藤君は勢いよく椅子から立ち上がり、こちらに歩いて来る。
このフットワークの軽さは若さのなせる業なのだろう。
( ^ω^)「しかし、勝手に捜査してるっていっても、鑑識は協力してくれるんですね」
(´・ω・`)「うん、流石君が個人的に協力してくれてるだけだけど」
( ^ω^)「へー、流石さんって、ちょっと変った人だと思ってましたけど、いい人なんですね」
(´・ω・`)「まあ、買収しただけだけど」
(;^ω^)「そうなんですかお?」
(´・ω・`)「ハハ、まあ買収は冗談だよ」
からかい甲斐のある子だと思っていると、少しからかい過ぎたのか、ブーン君は疑いの目をこちらに向けている。
堅苦しいのは好きじゃないので、フランクに接しているだけなのだが。
(´・ω・`)「ちょっとした同好の士って事でね、色々と情報交換しあったりと馬が合ったのさ」
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:31:14.42 ID:XWddnNHm0
(´・ω・`)「勿論、それだけじゃなく、僕が真面目に捜査をしているという前提で協力してくれてるんだけどね」
( ^ω^)「そういう事ですかお」
僕の真面目な物言いに、ブーン君は納得した顔で頷く。
別棟にある鑑識課まで、僕達はどちらかと言えば当たり障りのない話をしていた。
( ^ω^)「ちなみに、その趣味って何ですかお?」
(´・ω・`)「……それは言えないな」
(;^ω^)「何故ですかお?」
(´・ω・`)「君はまだ、こちらに踏み入るべき人間ではないからさ」
(;^ω^)「ど、どういう事ですかお?」
(´^ω^`)「ウフフ、な・い・しょ」
(;^ω^)(笑顔キメェ……)
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:36:00.77 ID:XWddnNHm0
(´・ω・`)「さて、鑑識課に着いたし、無駄話はここまでだよ」
(;^ω^)「え、いや、趣味……はい、わかりましたお」
鑑識課のドアを開け、ブーン君と共に足を踏み入れる。
薬品の匂いと整然と、しかし金属の棚いっぱいに詰め込まれた証拠の山が独特の雰囲気を醸し出す。
(´・ω・`)「流石君、いるかな?」
( ´_ゝ`)「流石さーん。流石兄者さーん、三番テーブル、ご指名よ」
( ´_ゝ`)「あらあら、また私。もーう、人気者で困るわね」
(´・ω・`)
ある種の厳かな静けさに満ちていた、鑑識課の空気をぶち壊すようなオネエ言葉で小芝居ををしながら流石兄者君が
出て来る。
妙に身体をくねくねとさせ、しなを作る様は、はっきり言って気持ち悪い。
( ´_ゝ`)「あら、いらっしゃい、いつもご指名ありがとね。相変わらず垂れ下がった眉毛がクールだわ」
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:40:06.25 ID:XWddnNHm0
(;^ω^)「えっと……」
( ´_ゝ`)「あら、こちらは初めて見る顔ね、いらっしゃい。こういう所は・は・じ・め・て?」
(;^ω^)「いや、その、流石さん? あなたは何を……」
(´・ω・`)「で、流石君、電話の件だけど」
( ´_ゝ`)「ああ、とりあえず現時点で判明している事をいくつか伝えとくよ」
(;^ω^)「い、いや、何普通に会話しだしてんですかお? さっきのは一体何だったんですかお?」
( ´_ゝ`)「ん? ああ、普通に出迎えてもつまらんだろ? 俺なりのサービスだよ」
(;^ω^)「いや、普通でいいですお。つか、どの辺がサービスなんですかお?」
( ´_ゝ`)「このネタのためにちゃんと髭とか剃ったんだぞ? ほら、腕とかも」
(;^ω^)「著しくサービスのベクトルがおかしいですお」
(´・ω・`)「いちいち流石君に真面目に付き合ってても疲れるだけだよ。で、流石君?」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:42:33.43 ID:XWddnNHm0
僕はなおもツルツルの腕を見せびらかす流石君と激しいツッコミを繰り出すブーン君の間に立ち、やんわりと制した。
流石君の奇行は毎度の事なので今更驚きはしないが、どうやらブーン君はそうでもなかったようだ。
(;´_ゝ`)「さらっとひどい事言ってません?」
(´・ω・`)「気の所為だよ。それで、わかった事は?」
( ´_ゝ`)「全く、黛警部はせっかちですな」
(´・ω・`)「君程のんびりしはしてられないさ」
( ´_ゝ`)「はいはい、ちょっとお待ちくださいよっと」
そう言って流石君は一旦奥に引っ込む。
サービスと称するよくわからない出迎えをするぐらいなら、最初っから資料を持って来て欲しいと願ってもそれは
きっと叶わないのだろう。
( ´_ゝ`)「取り敢えず死因ですが、当初の見立てどおり青酸カリによる中毒死、ですね」
(´・ω・`)「特に不審な点はない、と?」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:47:18.69 ID:XWddnNHm0
( ´_ゝ`)「青酸カリの時点で不審といえば不審ですが、争った後もないですし、外傷なども一応見られませんね」
( ´_ゝ`)「死亡時刻は発見当日の深夜一時から三時ぐらいの間というとこですかね」
(´・ω・`)「深夜か……」
(´・ω・`)「ねえ、ブーン君」
( ^ω^)「はいですお」
(´・ω・`)「被害……キュートさんは何と言うか、おしゃれな方だった?」
( ^ω^)「服は仕事柄、結構持ってるって言ってましたお」
仕事柄、というブーン君の言葉に、被害者が何の仕事をしていたかはっきりとわかっていなかった事を思い出した。
フリーターという肩書きで通してたようだが、どんな仕事をしていたのかまではわからない。
ただ、現段階である程度は推測は付いてもいる。
(´・ω・`)「家でも普段からちゃんとした格好をしてたと思う?」
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:49:21.74 ID:XWddnNHm0
(;^ω^)「うーん、結構だらしないとこもありましたお」
家での様子は知らないが、そうしっかりした子ではなかったとブーン君は言う。
約束の時間に遅れてくる事や、待ち合わせ場所を間違うことすらもあったらしい。
( ´_ゝ`)「ひょっとして被害者の妙に着飾った服の件ですか?」
(´・ω・`)「うん、それ」
普段からだらしない態度の人間であれば、一人自分の部屋にいる時にあのようなちゃんとした格好はしないのではないかと
考えられる。
( ^ω^)「外ではおしゃれと呼べるくらいはかわいい格好してましたお」
(´・ω・`)「しかし、自宅での様子はわからない、か」
( ´_ゝ`)「ん? お前が彼女の家に行った時とかはどうだったんだ?」
(;^ω^)「あ、いや、それは……」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:54:20.47 ID:XWddnNHm0
ブーン君が流石君に、二人が互いの自宅を行き来するような関係でなかったを説明すると、流石君は妙に上機嫌な様子で
ブーン君の肩をバシバシと叩きだした。
( ´,_ゝ`)「なるほどなるほど、まだ恋人未満だったわけね」
(;^ω^)「ま、まあ、そんな感じですお……ってか、肩痛いですお」
( ´,_ゝ`)「フーン……、ほうほう、なるほどね」
(;^ω^)「何ですかお、その含みのある笑いは?」
( ´,_ゝ`)「べぇーつにぃー?」
(;^ω^)(ウゼえ……)
(´・ω・`)「さて、それは置いといて、もう一点気になった事があるんだけど」
( ´_ゝ`)「何です?」
(´・ω・`)「被害者の外傷だよ」
( ^ω^)「外傷? 死因は中毒死ですし、確か流石さんもさっきないって……」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:58:44.42 ID:XWddnNHm0
(´・ω・`)「いや、さっき流石君はこういったはずだよ」
僕はブーン君の言葉を遮り、人差し指を立てる。
(´・ω・`)「外傷なども“一応”見られませんね」
(;^ω^)「あ……そういえば」
ブーン君は僕の言葉に納得した顔で頷き、上げた顔をそのまま流石君の方に向ける。
流石君は僕とブーン君の視線を受け、軽く頬をかいた。
( ´_ゝ`)「ああ、まあ、そう言ったな」
ほんのわずか、考える素振りを見せた後、流石君は両手をポンと打ち合わせ、何度か頷いた。
(´・ω・`)「それはどういう意味かな?」
( ´_ゝ`)「今回の死因に直接関係あるとは思えない傷跡があったというだけですよ」
こう、左手に、と流石君は自分の左手を肘から曲げ、手首辺りを右手で軽く叩く。
僕はそれと同時に、ブーン君が顔を曇らせた事に気付いた。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/07(土) 23:59:39.49 ID:XWddnNHm0
(; ω )「……」
それが何を意味するのか、傷跡の位置、そして先ほど核心にまでは至らなかったブーン君の話の続きを考えれば、
容易に察する事が出来る。
(´・ω・`)「それっていわゆる……」
(;^ω^)「……躊躇い傷ですお」
僕が答えを言うより先に、ブーン君が苦渋の表情を浮かべたまま僕と同じ答えを提示した。
(´・ω・`)「それが遺書の?」
(;^ω^)「はいですお」
(;^ω^)「キュートちゃんは……」
ブーン君はそこで言葉を切り、僕の方を見詰める。
僕は力強く頷き返し、真実に繋がるはずの事実を告げる事を促した。
(;^ω^)「キュートちゃんは自殺願望がありましたお」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:02:37.95 ID:8IoFZ27R0
−−− 警視庁 別棟 鑑識課 −−
side.( ^ω^)
( ^ω^)「自傷癖というんですかおね、昔はそういうのひどかったみたいですお」
事件発生から、彼女が亡くなってから、そう時間が経ったわけではない。
しかし、随分昔の事の様に冷静に話す事が出来ている自分に少し驚いている。
それが刑事としての使命感からなのか、単に僕が薄情なだけなのかわからない。
ただただ混乱しているだけなのかもしれない。
キュートちゃんの過去、あの件は本来なら他人に話していい話ではない。
僕が口が堅い人間だと信頼された結果、彼女から相談を受けたのだ。
死んだ人間を貶める様な話を広めてよいものだろうか。
(´・ω・`)「自傷癖ね……その原因も知っているのかな?」
そんな僕の逡巡を意に介す事もなく、ショボン警部は淡々と話の続きを促して来る。
話していいものか迷ってはいるが、話さなければいけない事もわかってはいる。
彼女が自殺でない事を証明する為、そして真犯人を捕まえる為には事実をしっかり把握する必要があるという事を。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:06:16.38 ID:8IoFZ27R0
( ^ω^)「原因は……正確にはわかりません」
(´・ω・`)「推測の範囲でしかないと?」
間髪入れず質問を挟むショボン警部に無言で頷いてみせ、僕は言葉を続ける。
( ^ω^)「キュートちゃんは普段すごく明るい子で、正直付いてくのもしんどいぐらいな時もありましたお」
( ^ω^)「でもそれは、きっと寂しい自分を誤魔化す為のものだったのではと思ってましたお」
(´・ω・`)「寂しいというのは、彼女の家庭環境に起因する事かな?」
( ^ω^)「多分」
既にキュートちゃんの家庭環境は調べ尽くされているのか、ショボン警部はすぐにその結論に至ったようだ。
確かに、今の彼女の境遇は天涯孤独と呼べる物だった。
両親も既になく、近しい親戚もいないと他ならぬ彼女自身から聞いていた。
(´・ω・`)「具体的にそうとは言わなかったけど、君は気付いたと」
( ^ω^)「何となく、家族の愛情に飢えてるんじゃないかとは思いましたお」
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:08:41.11 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「うーん……」
僕の推測に基く意見に、あまり納得したとはいえない顔でショボン警部が考え込む。
僕の知っている範囲で、感じた事を述べただけなので、情報を偽っているつもりはない。
聞かれた事には答えたつもりだ。
( ^ω^)「どこか不自然な点がありましたかお?」
(´・ω・`)「うん、不自然というのか何というのかな、ちょっと話が飛躍している気がするね」
( ´_ゝ`)「どういう事です?」
(´・ω・`)「確かに、天涯孤独の身というのは辛いものだと思うよ」
(´・ω・`)「しかし、彼女はそれなりに裕福にも見えた」
( ´_ゝ`)「ああ、確かにいいマンションに住んでたな」
(´・ω・`)「勿論、裕福でも心が満たさなければ、というような考え方もあるとは思うけどね」
( ´_ゝ`)「それはこいつが立ち直らせたから、とかいう話じゃないんですかね?」
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:12:07.90 ID:8IoFZ27R0
そう言って流石さんは僕の方を指差す。
さっき出迎えで変な人だと決め付けていたが、根はいい人らしい。
しかし、自分が本当に彼女の力になれていたのか、自分ではよくわからない。
彼女が自殺したという事が事実なら、僕は全く彼女の力になれてなかったという事になる。
( ^ω^)(……だから、僕はこの事件を調べているのかお?)
自分が無力であった事を認めたくないが故に。
ふとそんな考え頭に浮かんだ。
違う、と即座にその考えを頭の中で否定したが、実際の所はどうなのだろう。
思いの他冷静な自分に、ひょっとしたら自分はあまり悲しんでいないのではと疑ってしまう。
僕は何の為にこの事件を捜査しているのか。
彼女の為だと、僕は彼女の遺影の前で言えるのだろうか。
(´・ω・`)「ブーン君と出会う前からあのマンションに住んでいるようだから……」
僕が考え込んでいる間も、ショボン警部と流石さんの話は続いていたようだ。
少し話を聞き流してしまったが、幸いな事に話題はそれほど進んでいないようだ。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:15:20.82 ID:8IoFZ27R0
( ^ω^)「経済的には困ってなかったと思いますお」
(´・ω・`)「やっぱり?」
( ´_ゝ`)「亡くなられた両親の遺産、とかそういうのか?」
(´・ω・`)「遺産は大袈裟だけど、生命保険ぐらいは降りているかもね」
( ^ω^)「そこまでは聞いてませんけど、蓄えがあったらしい事は事実ですお」
(´・ω・`)「その線はどう?」
その線、と聞き返す僕に、ショボン警部は物取りの線だよと答える。
そういわれれば確かにそうだ。
あの部屋から無くなっている物があれば、それは第三者の存在を示し、犯人がいる可能性が出て来る。
そんな簡単な事を失念していた僕は、自分が思うよりは冷静ではないのだろうか。
そうであれば少しだけ安心出来るかもしれない。
ちゃんと悲しめている自分がいる事に。
( ´_ゝ`)「通帳なんかは無くなってなかったはずですよ」
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:18:20.74 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「いや、だからその中身」
(;´_ゝ`)「ああ、そうですね、それ、俺の仕事ですね」
そう言うと流石さんはいそいそと鑑識課の奥に戻って行く。
程なくして数枚の書類を手に戻って来た。
( ´_ゝ`)「調査によると、荒らされた跡はないようですね」
( ´_ゝ`)「触った後はありますが、今の所被害者の指紋以外は見付かってませんし」
銀行の預金口座のチェックも行ったが、この数日間で金額の変動はないとの事だった。
( ^ω^)「となると、物取りの状況ではないのですかおね」
( ´_ゝ`)「いや、それはまだわからない」
( ^ω^)「お? どうしてですかお?」
( ^ω^)「何も盗られていないなら、物取りの線はないのではないですかお?」
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:25:05.94 ID:8IoFZ27R0
( ´_ゝ`)「何も盗られていないと確定したわけじゃない」
(;^ω^)「お?」
(´・ω・`)「もともと、この部屋に何があったかわかってないからね」
(´・ω・`)「たとえ何か無くなっていたとしても、僕らはそれに気付けない」
痕跡が残らないように探しているなら、第三者の存在を証明するのは難しいだろうとショボン警部は言う。
(;´_ゝ`)「俺の台詞を取らないでくださいよ」
(´・ω・`)「君があんまり勿体つけるからだよ」
捜査は迅速に行いたいからね、とショボン警部は澄ました顔で肩を竦める。
( ´_ゝ`)「とにかくだ、わずかに指紋の破損は見られるが、それが別の人間の手に因るものかは証明出来ない」
( ´_ゝ`)「あの部屋から無くなっている物があったとしても、現状では誰もそれを特定出来ない」
( ´_ゝ`)「物取りの線で捜査するのは難しい所だな」
(;^ω^)「そうみたいですおね……」
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:27:19.89 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「そうとばかりも限らないけどね」
(;^ω^)「お?」
ひとまずの議論が収束しかけた所で、ここまでの結論を引っくり返すような言葉をショボン警部が挟む。
流石さんがまたかというような苦い表情をしたのに気付いたが、僕はそれには触れずにショボン警部に問う。
( ^ω^)「どういう事ですかお?」
(´・ω・`)「まだ内緒」
(;^ω^)「お?」
( ´_ゝ`)「まだ推測の域を出ないから言えない、ってやつですか」
(´・ω・`)「そんなとこだね」
(;^ω^)「え? どういう……」
僕が話の展開に追い着けない内に、二人の話はどんどん進んで行く。
そんな僕を見兼ねたのか、流石さんがしてくれた説明によると、ショボン警部には何らかの気になる点があり、それで
物取りの線もあるかもしれないと推測しているらしい。
しかし、まだ推測の域を出ないので、他人には話してくれないという事だった。
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:31:14.81 ID:8IoFZ27R0
( ´_ゝ`)「まあ、この人性格悪いからな」
(´・ω・`)「ハハ、随分な物言いだね」
危うく頷きそうになった僕は、顎に手を当て、下がりかけた頭を持ち上げる。
まだまともに話すようになってから大した時間が経ってないのに失礼な話ではあるが、以前よりショボン警部の話は
ジョルジュ先輩達に聞いてはいた。
冷静に考えれば八つ当たりにも聞こえなくもない話も多かったが、それでもショボン警部が変わり者だという事は
何となく伝わっていた。
実際に話してみて、その印象が強まったのだから、先輩たちの言い分もあながち間違いではなかったのだろう。
( ^ω^)「現状で何か不自然なとこがあったんですかお?」
(´・ω・`)「だから、まだ言える段階じゃないってば」
(;^ω^)「お……」
すげなく話を打ち切るショボン警部に僕は縋る様な目を向ける。
犯人に繋がる情報があるのならば、何でもいいから知っておきたい。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:33:47.97 ID:8IoFZ27R0
しかし、ほぼ同じ情報、ひょっとしたら僕の方が情報を多く持っているかもしれない今の状況で、第三者の痕跡が
ショボン警部には見付けられたという事は、やはりこの人は優秀なのだろうと思う。
( ´_ゝ`)「自分で思わせぶりな話を振っておいて、何も教えないってのも少々酷じゃないですかね?」
(´・ω・`)「君にしてはなかなか痛い所を突いて来るね」
( ´_ゝ`)「いい加減、警部との付き合いも長いですからね」
(´・ω・`)「性格も悪くなる、かい?」
( ´,_ゝ`)「そういう事ですよ」
一瞬、険悪な雰囲気になるのかと思ったが、しばらくの間の後、二人は顔を見合わせて笑う。
そしてショボン警部がまた肩を竦め、僕の方へ向き直る。
(´・ω・`)「今回は特別だよ」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:39:03.97 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「僕の見立てでは、物取りの線もあるんじゃないかと思ってる」
( ^ω^)「お? それじゃあさっきの話と矛盾しませんかお?」
(´・ω・`)「矛盾はしてないね。さっきの物取りと、僕が言う物取りは少し意味合いが違う」
(;^ω^)「?」
(´・ω・`)「最初に想定した物取り、これは主に泥棒、空き巣や強盗なんかを指してたのわかるかな?」
( ^ω^)「ええ、手頃な家、またはお金のありそうな家を狙って入ったって事ですおね」
(´・ω・`)「そう、つまりは行き摩りの犯行だね」
(´・ω・`)「見知った知人の場合もあるかもしれないけど、とにかくお金目当ての犯行の場合が前者だ」
しかしこれは先程も述べた様に可能性は低いとショボン警部は続ける。
理由は通帳などが手付かずであった事。
通帳は比較的見つけやすい場所に仕舞われていたので、物取りの犯行ならこれに手を付けないのは不自然だ。
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:43:22.49 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「それ以上にあの部屋に高価なものがあって、僕らがそれを知らないだけかもしれないけどね」
その場合、そんな高価なものが部屋にあった事を知っていた知人の犯行である可能性も高まるが、とショボン警部は
僕の方を意味ありげに見る。
(´・ω・`)「先に答えを言っちゃった形だけど、僕が言う可能性とはこっちの方さ」
無作為の犯行ではなく、キュートちゃんの部屋にある高価なものを狙った犯行、または彼女自身の生命を狙った目的の
ある物取りの犯行だとショボン警部は言う。
(´・ω・`)「指紋が残ってないのは、予め犯行を計画していたと考えると筋が通る」
ただの空き巣でも指紋が残らないようにするぐらいは考えているだろうが、流石に自殺の偽装まではしないだろうと
ショボン警部は続ける。
( ^ω^)「押し込み強盗の殺害の手口とは思えませんしね」
( ´_ゝ`)「ちょっと待ってください」
(´・ω・`)「なんだい?」
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:45:55.16 ID:8IoFZ27R0
( ´_ゝ`)「話はわかるんですが、それは第三者が侵入した事前提ですよね?」
痕跡がない以上、誰かが消したか、それとも誰も入らなかったかの二択なのに、何故誰かがいた事が前提なのかと
流石さんが指摘する。
(´・ω・`)「確かには痕跡がないね」
( ´_ゝ`)「でしょう、だから……」
(´・ω・`)「でも、そこが逆に問題なんだ」
( ^ω^)「逆に? どういう事ですかお?」
(´・ω・`)「痕跡がなさ過ぎるんだ」
( ^ω^)「なさ過ぎる?」
ないのは単に第三者の存在がないだけではないのかと反論しようとしたが、ショボン警部の言葉に流石さんが考え込む
様な仕草をしたので口を告ぐんだ。
( ´_ゝ`)「ドアノブの件ですか」
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:48:02.26 ID:a0cUF7yIO
人がいないな支援
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:49:25.37 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「そう、まさしくその件さ」
( ^ω^)「ドアノブ?」
( ´_ゝ`)「ん? お前は聞いてなかったかな」
未だ顔に疑問符を浮かべたままの僕に、流石さんが現場のドアノブで採取した指紋の事を説明してくれる。
変な人だと思っていたけど、先程から何度と無く助け舟を出してくれるし、意外といい人なのだと認識を改めた。
( ´_ゝ`)「それで、玄関のドアノブからは第一発見者の指紋しか採取出来なかったんだ」
( ^ω^)「お? それが何か変──」
そこまで言いかけて、僕はそれが不自然だという事に気付いた。
そこには当然あるべきであるはずの物がない事に。
(;^ω^)「キュートちゃんの指紋も無しですかお?」
( ´_ゝ`)「ああ、なかった」
(´・ω・`)「彼女は常日頃から手袋をするような習慣でもあったかい?」
流石さんの言葉が終わるや否や、すぐにショボン警部が質問を重ねてくる。
考えるまでもなく、彼女にそんな習慣はなかったし、潔癖症のきらいもなかった。
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:53:01.75 ID:8IoFZ27R0
(;^ω^)「いや、そんな事はなかったと思いますお……」
(´・ω・`)「となると、やはりあのドアノブは不自然という事になるだろうね」
不自然と、ショボン警部は持って回った言い方をしたが、そこから考えられる事実は一つしかない。
( ^ω^)「誰かが指紋を拭き取った……という事ですかお」
誰かが、と僕は言ったが、この場合考えられるのは勿論……
(´・ω・`)「とはいえ、そこに第三者の存在が見受けられたとしても、必ずしも犯人に繋がるとは限らないんだよね」
(;^ω^)「お……自分で言い出しといてそこで否定するんですかお?」
(´・ω・`)「まだ別の可能性も考えられるからね」
(´・ω・`)「発見までに誰かが掃除したとか、第一発見者が拭いたとか」
(;^ω^)「それは少し無理がないですかお?」
(´・ω・`)「どうして? マンションなんだから、管理する人が掃除していても不思議はない」
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 00:55:44.55 ID:8IoFZ27R0
(´・ω・`)「そして第一発見者が潔癖症でも不思議はない」
(´・ω・`)「発見までの時間を考えると可能性は低いかもしれないけれど、現段階でそれを否定する事は出来ないんだ」
つらつらと正論を並べるショボン警部に、もともと口がそう回る方でもない僕は何も言い返せない。
もっとも、反論する必要もないぐらい正論なのは僕もわかってはいるが、こうも言われ放題だと少しムッとしてしまう。
( ´_ゝ`)「まあまあ、その辺で」
(;^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「その第一発見者だが、警部は聞いていると思うが、宅配便の若い男性だ」
( ´_ゝ`)「ドクオが取り調べたらしいが、これと言って怪しい点は無し」
( ´_ゝ`)「潔癖症かどうかはわからないが、計画犯罪を企てそうなタイプじゃないな」
(´・ω・`)「だろうね。アリバイも完璧みたいだし」
またも良いタイミングで空気を和らげてくれる流石さんに、僕は心の中で頭を下げた。
今は感情先行で動く時ではないのだ。
つまらない事で気分を害していても仕方がない。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:00:25.26 ID:8IoFZ27R0
( ^ω^)「犯人以外に指紋が消された場合はひとまず置いといて、犯人だったらどんな人でしょうかおね?」
(´・ω・`)「君の話では、彼女はあまり自分の家に人を近付けるタイプじゃなさそうだね」
( ^ω^)「家に友達を呼ぶような事はないみたいな事は聞いた覚えがありますお」
(´・ω・`)「うーん……」
( ´_ゝ`)「それは……」
(;^ω^)「いや、何で二人してこっちを見るんですかお?」
( ´_ゝ`)「ショボン警部の推測が正しいと仮定すると、家の中を知っているくらい親しいやつだろうしな」
(;^ω^)「だから知らないって……」
(´・ω・`)「全く知らないわけじゃないんでしょ? 一度は送っていったわけだし」
(;^ω^)「そ、それはそうですけど、部屋の中なんか何も見てませんお」
( ´_ゝ`)「犯人なら自分から見たなんて言わないだろうしな」
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:05:58.98 ID:8IoFZ27R0
(;^ω^)「いや、だから──」
(´・ω・`)「とまあ、冗談はさておき」
( ´_ゝ`)「今の所、こちらから提供できる情報はこんなとこですね」
(;^ω^)「ちょ、あんまり冗談が洒落になってないお」
僕の抗議を全く聞く素振りも見せず、二人は他のいくつかの情報の交換を始めた。
いささか納得はいかないが、捜査の為には僕も聞いておく必要があるので大人しく耳を傾ける事にした。
(´・ω・`)「このくらいかな」
( ´_ゝ`)「大してお役に立てませんで」
(´・ω・`)「現状ではこんな所だよ。ありがとう、大いに助かったよ」
( ^ω^)「色々とお話ありがとうございますお、流石さん」
( ´_ゝ`)「うむ、お前もがんばれよ。あと、兄者でいいよ」
( ^ω^)「はいですお、兄者さん」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:09:30.28 ID:8IoFZ27R0
( ´_ゝ`)「あんまり警部に影響されるなよ」
(´・ω・`)「ん? それはどういう意味……」
( ^ω^)「はいですお!」
(´・ω・`)「……」
抗議の声を遮り、力強く頷いた僕にショボン警部は生暖かい視線を向けてくるが僕はそれを知らぬ顔でスルーした。
ショボン警部と話すのは気が抜けないので少し疲れるが、有意義な時間だったと思う。
それに兄者さんの話のお陰で次に何を調べるべきかの指針はだいぶ固まった。
(´・ω・`)「では、行きますか」
( ^ω^)「はいですお」
僕は兄者さんに一礼し、鑑識課を出た。
僕らは特に打ち合わせる事はせず、同じ方向へ足を向けた。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:13:23.83 ID:2EO92XNI0
しえーん
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:13:24.18 ID:8IoFZ27R0
−−− 警視庁 一階 エントランス −−
side.(´・ω・`)
僕らは鑑識課を出てエントランスの方へ向かった。
何かを言う前に足並みを揃えて来た所をみると、ブーン君も次はどうするべきか理解しているようだ。
思ったよりは飲み込みがいい子かもしれない。
( ^ω^)「まずは現場百辺ですおね」
(´・ω・`)「それは長岡君辺りの受け売りかな」
そうだと頷くブーン君に、僕は少し苦い笑いで答えた。
確かに、現場の調査は大切だが、百度も調べるのは効率が悪い。
比喩なのはわかっているが、前もって見当は付けておき、適切に調べる必要はあると思う。
(´・ω・`)「肉体労働は君に任せて良さそうかな?」
(;^ω^)「体力はまあ、ある方かもしれませんが、荒事は苦手ですお」
(´・ω・`)「僕はどっちもちょっとね。というわけで期待しているから」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:16:28.87 ID:8IoFZ27R0
善処しますというブーン君の言葉に僕はよろしくと返し、足を進める。
職業柄、荒事に巻き込まれるのは多々あるが、出来れば避けたい事態である。
( ^ω^)「お?
(´・ω・`)「ん?」
「ですから、担当の方に──」
「いえ、まだ事件と断定されたわけでは──」
不意に少し前方を歩いていたブーン君の足が止まる。
釣られて足を止めた僕に、前方、恐らくは受付カウンター辺りで何か言い争っている声が聞こえて来た。
川 ゚ -゚)「だから、沙緒キュートの事件の担当の方に会わせて下さい!」
(´・ω・`)(あれは……)
僕が事態を理解するよりも早く、既にブーン君は駆け出していた。
恐らく反射的な行動であろうけど、意外と侮れないと感心しながら僕もその後を追う事にした。
− 第三話 了 つづく −
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:31:39.64 ID:a0cUF7yIO
乙
この事件で完結?
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/08(日) 01:58:56.73 ID:8IoFZ27R0
あとがきまで書いたつもりになってました。
盛大に過疎ですね。
過疎だけの所為ではないのかもしれませんけども。
とはいえ、VIP全体の流れも遅いようですし、このくらい投下間隔を空ければさるにもならないようですし
今後ものんびり投下します。
支援とかどうもでした。
次回はまたその内に。
>>53 取り敢えずその予定で。
ネタが浮かべば続けるかもしれませんが。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
規制で支援出来なかったけど読んでるよ
乙