「母さんを殺して、俺も死のう」

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
「いつもすまんな、今日も気をつけて行ってきてくれよ」

父からの言葉を背に受け、俺は家を出て仕事場に向かった。

父が以前働いていた職場に俺は務めている。

建築関係の仕事だ。

設計などといった頭を使う仕事ではなく肉体労働がメイン。

ただ、どれだけ働いても家の暮らしは楽にはならない。

それは俺しか稼ぎ手がいないから。

父が以前働いていた、と言ったが、定年で退職したというわけではない。

1年前、作業中の事故で下半身が不随となり、やむなく退職したのだ。

明らかに会社側に過失があり、提訴すれば賠償金が得られるはずだったが、父はそれをしなかった。

会社に俺の居場所がなくなる、というのも一つの理由だが、これまで世話になった会社から受けた恩を仇で返すような真似はできない、というのが大きな理由だった。

正直もったいないな、とは思ったが、父のそんな生き方を尊敬しているから父の選択に従った。
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:10:15.13 ID:LI2Gt8yp0
労災保険は降りたが、すべて借金の返済に消えた。

そしてまだ借金は残っている。

この借金は父が作ったものだ。

5年前、親友の借金の保証人になったものの、親友が蒸発してしまったため

父が肩代わりすることとなった。

生来人のいい父は、親友のことを責めることはしなかった。

損な性格だな、とは思うがそんな父が大好きだ。

父の話ばかりしてきたが、もちろん母もちゃんといる。
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:11:46.04 ID:QgWr9O/oO
はらへった ラーメンくいたい
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:12:41.44 ID:LI2Gt8yp0

ちゃんと、というとちょっと違うかもしれない。

というのも母は3年前から若年性アルツハイマーが発症し、

症状が進行して今は自分が誰なのかもわからない状態だからだ。

初めは物忘れが激しい、といった程度だったが時間が経つにつれて俺を忘れ、父を忘れ、自分も忘れてしまった。

深夜徘徊を頻繁にする時期があったときはまいった。

毎日アラームを2時にセットして母がいるか確認する。

いなければ外に探しに出る。

ただ、だいたいいる場所は歩いて5分くらいの丘の上にあるベンチと決まっていたからそれは幸いだった。

あるとき、どこで拾ったのかは知らないが母が人形を抱えてベンチに座っていた。

捨てさせようと手から離そうとしたのだがしっかり抱えていてできそうになかったのでそのまま一緒に連れてきた。

それから家ではその人形と常に過ごすようになり、深夜徘徊はパッタリとなくなった。

不思議なものだな、と俺は思った。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:12:43.50 ID:5MbpqKSpP
まじかよ

そいつはやばいぜ
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:12:46.99 ID:XuVT6go90
八木さんのどこが好き?
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:15:27.35 ID:jg4QyS560
何かよくわかんないけど通報しておいた
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:15:32.21 ID:LI2Gt8yp0

俺は、というと今は18歳。

学校はどうした、と思うかもしれないが、そんなところにいく余裕はない。

母がアルツハイマーになったのは俺が中3の時。

借金を返し、母を養い、となると流石に父だけの収入ではどうにもならず、俺は中学卒業とともに父の会社に就職した。

それから3年、俺はこの会社に世話になっている。

正直、将来のことを考えると頭がいたい。

借金は返さなくちゃいけない。

けれども収入は両親を養うには不十分。

このままじゃどうにもならないことくらい十分わかっている。

しかし、どうしようもない。

解決しようのないジレンマを抱えて毎日を過ごしている。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:16:31.22 ID:kXxYYGF4O
国とか市に相談しろし
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:18:27.65 ID:JF2yKDQFO
SSだろこれ
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:18:29.61 ID:LI2Gt8yp0

ただ、絶望しているわけではない。

確かに半ば諦めてはいるが、母が治るかもしれない、という希望は捨ててはいない。

医学が進歩して母の病気が治ったら家族3人で旅行にいく。

これだけが今の俺の唯一の楽しみだ。




「お疲れ様でーす」

上司に声を掛ける。

「いつも熱心だな。まだかえらないのかい?」

「はい、自分は頭が悪いんで毎日勉強しないと忘れちゃうんですよ」

俺が自嘲気味に笑うと、上司も笑みを返した。

「頑張りすぎて体調を崩さないようにな。君が体を壊したら大変だろう」

「お気遣いありがとうございます」

「じゃあ、また明日な」

上司を見送ると、俺は机に向かった。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:20:00.54 ID:w0ARYNCkO
釣りじゃなかったら続けて
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:21:00.08 ID:LI2Gt8yp0
SSです
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:21:41.19 ID:LI2Gt8yp0



会社を出る頃にはもう9時近かった。

ただ、いつもこの時間に帰るのでもう慣れた。

夕飯が毎日9時過ぎになってしまうのは父と母には申し訳ないのだが。



「お帰り、今日もお疲れ様」

アパートのドアを開けると父が声を掛ける。

毎日の決まり文句ではあるが、あるとないとでは大違いだ。

早速夕食作りにとりかかる。

以前父が食事を作ってくれようとしたのだが、誤って熱湯を足にこぼし、大やけどをしてしまった。

それからは俺が食事を作るようにしている。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:25:21.63 ID:LI2Gt8yp0

テーブルに一通り配膳すると、人形と話している母の手を引いて台所まで連れてきた。

父も席につき、合掌して料理に手を付ける。

母もまだ自分で食事ができるだけありがたい。

食事が終わると食器を片付け、母を風呂に入れてやる。

父も初めの頃は俺が介助して入っていたが、今では自分で入ることができる。

二人が風呂にはいると洗濯をする。

その間に父が母を寝かしつけてくれる。

洗濯物を干し終わると、俺も風呂に入って床に就く。

朝は5時に起きて朝食と、昼食の作りおきをする。

そして7時半には家をでる。

こんな毎日の繰り返しだ。

辛い、と思ったことはあるが、嫌だ、と思ったことはない。

いつか状況がよくなる日がきっと来る、そう信じているから。


16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:26:04.57 ID:LI2Gt8yp0


ある日、仕事から帰ると俺のアパートの前に人が立っていた。

パンチパーマにずんぐりとした体系で、暗くても誰だかよくわかる。

このアパートの大家さんだ。

いつもにこやかな笑みを湛えている、とてもいいひとだ。

俺たちも、長年よくしてもらっている。

「こんばんは。どうされました?」

そう声をかけて顔を見る。

いつもの笑みでない、ぎこちない笑みを大家さんは浮かべていた。

17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:26:46.82 ID:LI2Gt8yp0

ああ、とうとうきたか。

俺は悟った。

「あのね、もうしわけないんだけど…」

大家さんは下を向いてポツリと話し始めた。

「部屋を出ていって欲しいのよ」

「そう…ですか」

覚悟はしていたがやはりショックは大きい。

「来週までに滞納してる家賃が払えないとこっちも困るのね。

で、もし払えないんだったら滞納分は私が何とかするから、ね」

そういって俺に目配せをする。

「わかりました。どうするか来週までにお伝えしますので…」

「そう?本当に悪いわね。じゃあ、ね」

俺はそそくさと立ち去る大家さんを見ながら、しばらく呆けていた。


18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:27:29.10 ID:LI2Gt8yp0
こんな時間だしだれも見てないよね…
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:27:57.84 ID:NNoqxqvc0
みてる
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:28:51.29 ID:od4b/4IL0
読んでる
21>>19 ありがとう:2010/06/19(土) 05:28:56.92 ID:LI2Gt8yp0
「ただいま」

なんとなく心中を察されまいと、いつもの調子で言葉を出そうと努力した。

「どうした?今日はなにかあったのか?」

さすが長年の付き合いだ。

隠しても無駄か。

俺はそう考えると、先程の件を全て話した。

「そう…か」

父は眉間をつまみ、下を向いた。

物事を熟慮するときの父の癖だ。

その後、いつも父は素晴らしい考えをひらめき、状況を打開するのだ。

今回もどうにかなるかもしれない、俺はそう期待した。

数分後、顔を上げた父から発せられた言葉は信じられないものだった。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:30:05.15 ID:LI2Gt8yp0

「母さんを殺して、俺も死のう」

耳を疑った。

父が、あの優しい父が、こんな考えに至るなんて。

驚いて何も言えずに黙っていると父は続けた。

「すまないな。ずっと言い出そうと思っていたんだが…。
 
 これから先お前に迷惑をかけ続けるわけにはいかん。
 
 親は子供に幸せになって欲しいんだ。
 
 今のままじゃお前に幸せなんて訪れることはない。わかってくれ」
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:31:12.97 ID:LI2Gt8yp0

そうか、あの優しい父だから、か。

俺のためを思って。




「他に、他になにか方法があるよ。誰か知り合いに頼ってみようよ」

頼れる人間がいればすでに頼っている。

そんなこと俺だってわかってる。

でも、何か言わなければ、苦し紛れだった。


24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:31:59.73 ID:LI2Gt8yp0



沈黙が続く。

喉がカラカラだ。

震えと汗が止まらない。

「どうして、駄目なんだ?」

父が口を開いた。

「それは…」

殺される母さんがかわいそうだから?

父に死んで欲しくないから?

人を殺すことが悪いから?

考えがぐるぐる頭をめぐってまとまらない。

声を出そうと横隔膜を上下させるが、喉に詰まって出てこない。

呼吸が苦しい。

25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:32:18.58 ID:w0ARYNCkO
今すぐ役所へ!!
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:33:05.77 ID:LI2Gt8yp0




「これを、読んでくれ」

父は俺に封筒を差し出してきた。

「母さんからお前への手紙だ。ずっと渡せなかったことを許してくれ」

俺は震える手で封筒の中身を取り出し、広げた。

日付は1年前だ。

27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:33:48.68 ID:LI2Gt8yp0

愛する息子へ

あなたがこの手紙を読んでいるということは、父さんからもう話は聞いてますね。

でも、決して父さんを責めないでください。

父さんと母さんでよく話しあって決めたことなのだから。

ずっと貧乏であなたには満足に贅沢をさせられなくて本当にごめんね。

それどころか今、あなたのことを忘れつつあるなんて。

愛する息子のことを忘れるなんて母親失格だね。

ごめんなさい。

あなたにはこれ以上迷惑はかけられません。

だから、私たちの決断を許してください。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:34:30.68 ID:LI2Gt8yp0

これが私たちがあなたにできる唯一の孝行なんですから。

今まで本当にごめんね、そしてありがとう。

あなたの母親で本当に良かった。

もし、来世があるのなら来世でもあなたの母親になれるといいな。

その時は、母親らしいこといっぱいしてあげるからね。

じゃあ、一足先に父さんといくね。

天国であなたの幸せをずっと祈っています。

                       母より
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:35:13.65 ID:LI2Gt8yp0


「うぁ、ううっ、あああああああぁ」

涙が止まらない。

嗚咽でまともに喋ることが出来ない。

母さんが、母さんだった時のメッセージ。

それは優しさと慈愛に満ち溢れたものだった。

「長い間迷惑をかけたな。父親らしいことを何もできなくて本当にすまなかった。
 
 俺たちのことは忘れて、幸せになってくれ」

父も泣いていた。

父の涙を見るのは人生で初めてだ。

これ程の決意なのだと悟った。

30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:36:06.54 ID:LI2Gt8yp0

「母さんを、連れてきてくれ」

俺は震える足でなんとか立ち上がると、母の元へと向かった。

母は相変わらず人形と話をしていた。

俺は母の手をとって父の前へと連れてきた。

「すまんな、ちょっと苦しいかもしれんが」

細くなった腕を母の首へとかける。

母は不思議そうな目で父を見つめた。

父は腕に力を込める。

母は抵抗するどころか、父へにっこりと微笑みかけ、そのまま目を閉じた。

母が最期に母へと戻ったのだろうか。

父は事を終えると母の首にかけていた手を話し、母を抱きよせた。

31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:36:50.17 ID:LI2Gt8yp0

「包丁を持ってきてくれ」

父が言った。

体が動かない。

やはり、眼前での母の死、というのは俺にとって衝撃が大きかった。

目の焦点が合わない。

どこを見たらいいのかわからない。

32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:37:14.75 ID:hU+/GyxB0
草稿の反応を見てるの?
まとめに載るとでも思ってんの?
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:37:45.08 ID:LI2Gt8yp0

「母さんをまた一人ぼっちにするつもりか!?」

父の怒号。

俺はハッとした。

母は、本当の母は今までずっと一人ぼっちで意識の底に眠っていたのだ。



重い体がやっと動いた。

シンクに向かい、包丁を取り出す。

いつもよりやけに光って見える。

34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:38:39.16 ID:LI2Gt8yp0

父に手渡す。

父は両手で包丁を握ると、刃先を喉元へと向けた。

「今まで、父さんの息子で幸せだったよ。本当に幸せだったよ!」

かすれた声で叫んだ。

父はにっこり笑うと刃先を頚動脈へと押し進めた。

鮮やかな血が父の前方へと吹き出す。

父の顔がっくりとうなだれた。

その顔が抱きよせた母の顔と重なり、二人の姿はちょうどキスをしているかのように見えた。
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:42:32.96 ID:w0ARYNCkO
なんでsageたりageたりしてるの?
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 05:47:27.89 ID:um7Geb4V0
フィクションですよね?
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 06:00:46.80 ID:XuVT6go90
終わり


  制作・著作 山崎誠
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 06:05:56.90 ID:5Q3DVPKh0
これはひでーな
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 06:08:53.12 ID:60IYxebs0
文が下手糞な割に書いてるヤツが自分に浸ってる事だけは伝わってきてキツイ
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 06:09:21.48 ID:GMlADsgP0
BGMは”嵐の中で輝いて”が一番しっくり来る。
歌詞も
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 06:20:46.03 ID:2q/DA+c60
ああ、終わりか 良かった
もう来るなよ
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
あれ終わりなの