1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
ジョジョネタにあらず。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:51:35.29 ID:BO0cp9vj0
20××年、とある元ミュージシャンの死が報じられた。
その元ミュージシャンの名は『平沢唯』――。
とは言っても、世間一般に彼女の名を知る者は殆ど無く、また同様に、彼女の死に特別な感慨を抱く者も殆どいない。
その数カ月前、とある野外ロックフェスティバルでは、とある一組の大物バンドの再結成ライブが、大きな話題となっていた。
そのバンドの名は『放課後ティータイム』――これまでに累計数百万枚のアルバムを売り上げたという、モンスターバンドであった。
平沢唯は、『放課後ティータイム』の初期メンバーであった。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:53:26.37 ID:BO0cp9vj0
ドラマーの田井中律は懐かしき日々を振り返り、こう語った。
律「唯は……天才だったんだ。そう、あいつはまさに天才だ! 陳腐な表現だけど、それ以外の言葉が見つからないよ」
高校の軽音楽部バンドからスタートしたHTTの当初のメンバーは、
田井中律(ドラムス)、秋山澪(ベース、ボーカル)、琴吹紬(キーボード)、平沢唯(ギター、ボーカル)の4人であった。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:56:59.50 ID:BO0cp9vj0
紬「唯ちゃんはメンバーで唯一の楽器初心者だったの。
それまでギターに触ったこともなければ、音楽にもほとんど触れてこなかった」
澪「それが、ギターを始めて1年もしたら、まともなギタリストになっていたんだ。
別に練習の鬼だったわけじゃないさ。毎日お茶して遊んでいたにもかかわらず、唯のギターの上達は異常なほど速かった」
梓「私は1年遅れてHTTに入ったんですが、唯先輩を初めて見た時は驚きました。
ロクな音楽理論も知らず、チューニングの仕方も知らないのに、ひとたびギターを弾き始めると……
魔法のような音が出るんです!」
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:59:36.65 ID:9soLpP+sO
まぁ、今の所悪くないな
スレスト馬鹿が来ない事を祈る
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:59:58.33 ID:BO0cp9vj0
紬「HTTも初期は私が殆どの作曲を担当していたんですけど、すぐに唯ちゃんにとってかわられました。
逆立ちしたってかないませんよ。なにせ唯ちゃんは3分間の曲をほんの1分で作ってしまったこともありましたから」
梓「唯先輩はギターの上達も速かったですが、何と言ってもセンスが異常でした。
私なんかが何時間アタマを捻っても思いつかないようなフレーズを、
まるで午後の紅茶を啜るように無造作に弾いて見せるんです」
律「唯のやつはレコーディングでも常にワンテイクで完璧な演奏をするんだ。
ミスなんかしない。いや、正確にはミスをしてもそれをミスと思わせないような演奏をするんだ。
あれはそうそう真似できる芸当じゃないよね」
澪「唯は作詞のセンスも抜群だった。
自転車とかタコとか帽子とか、取り上げる題材は馬鹿馬鹿しいのに、内容はすごく深くて考えさせられるんだ。
そんな唯を見ていたら、甘い恋だ何だの歌詞を書いていた自分が急に恥ずかしくなったね」
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:01:01.21 ID:9soLpP+sO
IDテス&私怨
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:02:04.37 ID:BO0cp9vj0
天才、平沢唯の名は瞬く間に音楽業界を駆け巡り、
そんな唯を擁した放課後ティータイムの1stアルバム
『昼下がりのカスタネット叩き』
は、サイケデリック・ガールズ・ロックの名盤として、未来永劫あせることのない輝きを放っている。
澪「あのアルバムの評判といったら、それはもう凄いものがあったよ」
梓「次世代のビートルズ! なんていわれましたね」
律「それもこれも、ひとりの天才の力によるところが多かったんだけどな」
紬「軽音部に入部した日から、唯ちゃんは天才だったんですよ」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:05:10.03 ID:ZI74gP1y0
音楽ネタ面白かったから支援
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:05:40.40 ID:BO0cp9vj0
売上的にも評論家のリアクション的にも成功を収めた1stアルバムの勢いをかって、
2ndアルバムの曲作りをはじめたHTTであったが、ここにきて天才、平沢唯の様子に変化が見え始めた。
その兆候に最初に気付いたのは、妹の憂であった。
憂「!? お姉ちゃん……何やってるの?」
いつものようにお風呂の掃除をしようとバスルームに足を踏み入れた憂が見たものは、
唯「るーるーらーらー♪」
浴槽一杯に詰め込まれた人参、キャベツ、ピーマンといった野菜の中に全裸で埋もれながら、
ご機嫌そうに鼻歌を歌う姉の姿だった。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:07:42.00 ID:1sVCzjpK0
支援
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:08:08.27 ID:a9uioL6S0
なるほど中々面白い
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:08:19.09 ID:beaAV/gl0
唯「あ、憂、やっほー」
憂「やっほーじゃないよお姉ちゃん……一体何を……」
唯「うーんとね。今度、野菜をテーマにした曲を作ろうと思ってるんだ」
憂「野菜……?」
唯「そう。だからね、野菜の気持ちってどんなかなーって思って」
憂「それで野菜に埋もれていたの……?」
唯「うん」
憂「野菜に埋もれても野菜の気持ちはわからないんじゃ……」
唯「そんなことないよー? 野菜だって生きているんだから、肌を合わせないとわからいんだよー」
憂「お姉ちゃん……?」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:10:30.09 ID:beaAV/gl0
この『野菜事件』に端を発した唯の奇行癖は徐々にエスカレート。
『鳥の歌を作る』と言って、一日中虚空を眺めて過ごすこともあれば、
『赤ちゃんのような感性が欲しい』と言って妹の乳房にしゃぶりつきながらギターを弾くこともあった。
憂「お姉ちゃんにしゃぶられるのは悪い気分じゃありませんでしたけど、
普通そんなことをしながら曲を作るミュージシャンの人なんていませんよね?
ええ、確かに昔からお姉ちゃんはちょっと抜けているところはありました。
でも、あれは『抜けている』という次元ではないと――普段一緒に暮らしている妹の私だからこそわかったんです」
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:12:43.31 ID:beaAV/gl0
奇行の被害者となったのは、妹だけではない。
澪「ある日スタジオに行ったらさ、唯がこう言うんだ。
『さぁ、澪ちゃん、今日はこの曲にボーカルを入れて!』って。
どんな曲かと思ったら、『メリーさんの羊』だったんだ。ほら、あの童謡の」
律「澪もさ、一応戸惑いながらも歌うんだけど、唯は『だめ! もう1回!』って、鬼のようにリテイクを出すんだ。
結局、澪が解放されたのは、72テイクを重ねた時だったなぁ」
澪「え? 結局その音源はどうなったのかって? お蔵入りに決まってるじゃないですか」
紬「こんなこともありました。ある日唯ちゃんが『6人目のメンバーを見つけてきた』って言うんです。
どんな人をつれてきたのかと思ってみたら・・・・・・ただの亀だったんですよ」
梓「正確にはスッポンモドキっていうらしんですけど、とにかく亀だったんです。
唯先輩は亀にギターを弾かせるって言うんですよ!?
流石にそれはないだろうと言ったら、『あずにゃんは亀を差別するの?』って……」
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:14:32.09 ID:4t1jy6qZO
バレットさん…
ご冥福をお祈りします
スクリーム・ザイ・ラスト・スクリーム好きでした…
今のところ面白さが良く分からんが書きためてるようだからとりあえず期待
支援
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:16:15.16 ID:4t1jy6qZO
>>17 ピンクフロイド知らなきゃ分からないだろうな
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:17:03.89 ID:beaAV/gl0
しかし、そんな奇行だらけの変人に傾きつつあった唯に対するメンバーの評価はと言うと、
律「流石に亀をメンバーにはしなかったけどさ、音楽に没頭している時の唯は、
たとえそれが傍から見ればどんな奇行であろうが納得させてしまう凄みがあったんだ」
澪「具体的には目……瞳かな。あいつの瞳を見ていると吸い込まれそうというか……。
ブラックホールみたいだというか……。とにかく有無を言わせないんだ」
紬「ケーキに目を輝かせているときとは、また違った凄みとでも言うんでしょうか」
梓「あの時の唯先輩にもし本気で『亀にギターパートを譲れ』って言われたら……譲っていましたね」
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:18:43.44 ID:V9vQPqFZ0
以前、ブラックメタルで書いた人かね
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:19:07.78 ID:4cAPPhTA0
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:21:29.28 ID:beaAV/gl0
奇行は天賦の才能の裏返し――。
そう考え、唯の行動を黙認していたメンバーであったが、そう悠長なことばかり言っていられない事態となる。
律「唯の精神状態は、日に日に悪化していったよ」
澪「スタジオでのレコーディングでなら、私たちが我慢すればよかっただけの話だけど、ライヴじゃそうは行かなかった」
紬「あれはいつのコンサートでしたか……唯ちゃんはギターを弾く手を急に止めたかと思うと、
懐からマヨネーズを取り出し、自分の頭めがけて思いっきり捻りだしたんです!」
梓「当然ながら観客はギョッとしていましたよ。
その後、唯先輩になんであんなことをしたのか聞いたら、覚えてないんですよ。
自分がマヨネーズを整髪料がわりに使って観客の度肝を抜いたことを!」
唯にはもはやライヴ等の外向けの活動をこなすことが無理であることは、自明の事実であった。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:23:55.30 ID:beaAV/gl0
澪「仕方ないな……これからしばらくはブライアン・ウィルソン形式でいこう」
律「ブライアンウィル……誰だそりゃ」
梓「ブライアン・ウィルソンは、60〜70年代に活躍したアメリカのロックバンド、『ザ・ビーチ・ボーイズ』のメンバーだった人ですよ」
澪「そう、ブライアン・ウィルソンは類まれなる音楽的センスと作曲能力を持つ一方、
精神的にトラブルを抱えていて、長いツアーやライブをこなすことができなかった」
梓「そこでバンドはブライアンをツアーやTV出演等の露出には参加させず、
彼をレコーディング専門の作曲担当メンバーとして扱うようになったんですよね」
シドバレットですかね・・・・
おもしろい
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:27:25.69 ID:beaAV/gl0
紬「そのブライアンなんとかさんの役割を唯ちゃんに?」
澪「そうだ。HTTにとって、唯の音楽的才能はとてもやすやすと手放せるものじゃない。それに今までずっと一緒にやってきた絆もある」
律「つまり、しばらく唯には裏方としてスタジオにだけ来てもらおうってことか。
唯のやつ、ライブは好きだったみたいだし、納得してくれるかねぇ」
澪「最近はそのライブですら演奏している記憶が時々飛んでる時があるそうだよ」
梓「とにかく! 唯先輩にはしばらく人前に出るプレッシャーからは遠ざかってもらいましょう」
そうして、表舞台からは遠ざかった唯であったが、スタジオでは相変わらず天才的な才覚を発揮し、
凡人では思いもつかないような革新的な楽曲の数々を生み出した。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:29:45.74 ID:beaAV/gl0
しかし、やがて唯の精神状態はレコーディングにすら堪えないほどに、悪化していく。
澪「あの頃の唯は、もはや自分からスタジオにすら来ることすらできなくなった。
たまに憂ちゃんが引っ張ってくることがあったけど、その時は泣き叫んで帰りたがるんだ。
要は自分が今どこにいるのか、わかってないんだ」
律「幻覚系のドラッグでもやってたんじゃないかって?
まさか! ここは日本だし、そういう業界の危ない側面からは、唯は一番遠かった人間だったと思うよ。
あいつがやっていたクスリといえば、せいぜい甘口の咳止めシロップをおやつと間違えて舐めるくらいさ」
>>19 つまりそのバンドの誰かがこのssの唯と同じようなことしてたってことか?
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:31:26.26 ID:beaAV/gl0
梓「唯先輩はもう限界だった。だとすれば、HTTに残された選択肢は一つしかありませんでした。
え? その選択肢は余りにも酷なんじゃないですかって? そ、それは……」
紬「違います。私たちはバンド仲間である以前に親友であったからこそ、その選択肢を選んだんです。
忙しなく心労の絶えない音楽業界から一端離れることが、唯ちゃんの精神的療養には一番だと思って……」
かくして平沢唯の放課後ティータイム脱退が発表された。
その後、唯は宅録で2枚のソロアルバムを発表したものの、その余りにぶっ飛んだ内容から一般受けもすることなく、
いつしか音楽活動をやめ、自宅で妹の憂の世話を受けながら静かに過ごすようになったという。
夜明けの口笛吹きだと’神経衰弱’が一番好きだけど
ロジャーの曲だよ・・・
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:33:12.34 ID:beaAV/gl0
一方、唯を失った放課後ティータイムは活動継続の道を選んだ。
梓「でも唯先輩がいなくなって、HTTはやっていけるんでしょうか……」
澪「大丈夫だ。作詞は私が、作曲はムギを中心に全員で頑張ってやっていけばいい。
もともと高校の時はそうやっていたんだし。ボーカルも全員で分担しよう」
梓「でも……」
律「梓……唯の抜けた穴を埋めるのはお前だぞ?
なにせ唯が一番可愛がっていた後輩はお前なんだから」
梓「私が……唯先輩の……」
紬「そうよ? 唯ちゃんが回復した時、戻ってこれる場所を用意しておかなくちゃ」
梓「わかりました……。やりましょう!」
こうして、澪と梓のダブルフロントウーマン体制となった4人のHTTは活動を継続した。
全然分からん俺にはこのssは高尚過ぎるようだ
>>1さん頑張ってねノシ
支援
ロジャーはベースだから澪主導になるわけですな
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:36:49.86 ID:beaAV/gl0
そして、皮肉にも4人体制のHTTは音楽的にも商業的にも非常に充実したキャリアを送ることとなる。
HTTの4枚目のアルバム
『凶器』
が何と500万枚以上の売上をあげる超ヒット。
オリコンチャートにも400週連続でチャートインし続けるなど、記録的なモンスターアルバムとなった。
深い歌詞を紡ぎ、独特の世界観を築け上げる秋山澪。
確かな技術に裏打ちされた泣きのギターで聴く者の感性を刺激する中野梓。
色彩豊かなキーボードと作曲センスでバンドに彩りを与える琴吹紬。
時に激しく、時に繊細に叩き分ける鉄壁のドラミングでバンドの屋台骨を支える田井中律。
4人のメンバーのバランスは申し分なく、曲も素晴らしい。
放課後ティータイムはまさに時代を象徴するバンドとなった。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:39:20.17 ID:beaAV/gl0
しかし、そんな栄光の陰で、初期のHTTを象徴していた1人の天才の存在については、確実に忘れ去られつつあった。
紬「あの頃の私たちは唯ちゃんがどんな生活をしているのか、知らなかったと言って過言ではないわ」
梓「山のように懐に入る印税、毎回満員御礼のライブ、熱狂的なファン……少なくとも私は自分を見失っていたのかもしれません」
澪「認めざるを得ないのは、『凶器』のヒットで、私たち4人も明らかに浮かれていたってことだ」
律「そんな調子に乗った私たちの鼻っ柱をへし折るような出来事が起きたのは、『凶器』の次のアルバムをレコーディングしている時さ」
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:40:27.57 ID:oM6TvlVr0
正直いうと累計数百万枚は少なすぎると思う
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:41:13.39 ID:4cAPPhTA0
こいつらがアナザーブリックインザウォールを歌うのか・・・ゴクリ
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:41:18.90 ID:beaAV/gl0
その日、アルバムのミックスダウン作業を行うため、HTTの3人のメンバー(梓、律、紬)は揃ってスタジオへ入った。
律「おっす。澪は早いな」
スタジオに入ると、既に澪はミキシング卓に向かい、黙々とスピーカーから流れる音源のミックス作業を行っていた。
すると、突然澪がこんなことを言いだした。
澪「なぁ3人とも、そこにいるのが誰だかわかるか?」
ウマグマ〜雲の影あたり一気に飛ばしたな
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:42:49.65 ID:4cAPPhTA0
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:43:14.84 ID:beaAV/gl0
澪の指差す方を3人が見ると、スタジオに備え付けられた大きなソファー。
そこに腰掛ていたのは、丸々と肥えた豚のような女であった。
女「…………」
女は髪の毛もぼさぼさで、見るからに不潔だ。
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:45:08.12 ID:beaAV/gl0
律「ん? こんなスタッフいたっけ?」
紬「レコード会社の人でしょう?」
梓「それか、音楽雑誌の記者?」
澪「違うよ。こいつは……唯だ」
律紬梓「えぇっ!?」
3人の身体に電流が走った。
思わず目を剥いて、唯と呼ばれた女を見た。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:47:05.55 ID:beaAV/gl0
唯だって……!?
ありえない! だってそこに座っているのはただの肥えた女じゃないか!
どう見たって自分達よりは20歳以上は年上な、くたびれ果てた中年おばさんにしか見えないじゃないか!
ありえない!!
だってそうだろう?
あの天真爛漫とした表情や、艶々した栗色の髪や、小さな身体や……とにかく唯を形作っていたあらゆる要素が、この豚女にはないじゃないか!
それが3人の共通の認識であった。
しかし、その風呂に入ることを忘れたマツコデラックスのような豚女の瞳を覗き込んだ瞬間、3人は認識を改めざるを得なかった。
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:49:44.04 ID:beaAV/gl0
律「この澄みきったブラックホールのような瞳……」
紬「全てを見透かすような……」
梓「間違いなく……唯先輩ですね」
唯の瞳の色だけは、以前と何も変わっていなかったのだ。
律「ど、どうしたんだよ唯! そんなに太っちゃって……」
それを認めて、最初に唯に駆け寄ったのは律であった。
紬「そ、そうよ唯ちゃん……体重に悩むのは私と澪ちゃんの専売特許だったのに……」
すると、唯は垂れた頬を緩ませながら、ゆるゆるとした口調で、
唯「あのね、台所にね、大きな冷蔵庫があるんだ」
梓「冷蔵庫……ですか?」
唯「冷蔵庫の中にね、お肉がいっぱい入ってるの」
律「マジかよ……」
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:52:13.44 ID:beaAV/gl0
その発言は、とてもじゃないが冗談にすら聞こえなかった。
と、同時に、本来であれば自宅に引き篭もっていても身体的な健康だけは妹に管理されているはずだろうにもかかわらず、
この不摂生ぶりはすなわち、唯の精神が既に憂にもどうしようもないレベルにまで向こう側に行ってしまっている証拠だった。
梓「なんてことでしょう……」
紬「あの可愛かった唯ちゃんが……」
唯「あっ」
絶句する三人を尻目に、唯は急に何かを思い出したように立ち上がると、
懐から歯ブラシを取り出し、水も歯磨き粉もないのに歯を磨き始めた。
律「な、なにをやってるんだ……?」
すると、また急に電源が切れたかのように手を止め、ソファーに座りなおす……かと思えば、また立ち上がり歯を磨き始める。
唯はこの一連の動作を20分ほど続けた。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:55:57.18 ID:beaAV/gl0
紬「唯ちゃん……何と嘆かわしい……」
梓「唯先輩……」
あまりの唯の姿に、紬と梓は人目も憚らず泣き出していた。
そして、
澪「…………」
無言で唯に背中を向け、ひたすらにミキシング卓を弄っている澪もまた、
涙を堪えていることが、その震える肩から容易に窺えた。
すると、
唯「ねぇ、りっちゃん――」
律は唯が自分の名前を覚えていてくれたことに先ず安堵を覚え、
同時にその安堵がいかに悲しいものかに気付き、また絶句した。
唯「わたしはどのパートにギターを入れようか〜?」
律「なっ……」
なんてことだろう。
唯はいまだに自分がHTTのメンバーだと思っているのだ。
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:58:15.29 ID:beaAV/gl0
律「(どのパートもなにも……そもそもお前はギターすら持ってきていないじゃないか……)」
律「うっ……」
最後まで堪えていた律の涙腺もとうとう決壊してしまった。
すると、
紬「ごめんね唯ちゃん……曲は殆ど完成していて、ギターのパートも全て録音し終わってしまったのよ……」
事実は、まだギターもキーボードもオーバーダビングする余地が十分に残っている。
紬の答えは、明らかな優しい嘘であった。
唯「そう」
そう言って、唯は特に不満げな表情を見せるでもなく、ソファーに座りなおした。
唯「でも必要があったらすぐに言ってね。いつでも身体を空けておくから」
紬「そうね……そしたら是非唯ちゃんにお願いするわ……」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:01:21.33 ID:beaAV/gl0
スタジオには、澪がプレイバックする新曲の音源だけが空しく流れ続けていた。
澪はまるで、悲しみを紛らわせるかのように何度も曲をプレイバックし、卓を弄繰り回していた。
唯「ねぇ、澪ちゃん――」
澪「……なんだ?」
唯「どうしてそんなに何回も聴き返すの? 一回聴けば十分じゃないのかな」
澪「!」
そうだ。
唯は昔からどんなギターフレーズでも一度聴けば覚えてしまったし、レコーディングもほぼワンテイクで済ませていた。
唯は狂人である前に、とんでもない天才なのだ。
唯「でも、うん、いい曲じゃないかな。ヒットしそう。
この曲がリリースされれば、わたしたちHTTの知名度も、もっと上がるね」
既に4人体制のHTTはメガヒットを持つバンドとなっていたし、
そもそも唯は『わたしたち』には既に入らない、バンドのメンバーではないのだ。
結局、その日のミキシング作業は少しも進捗することなく、
スタジオは異常なほどの悲しい空気に支配されたのであった。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:05:33.60 ID:beaAV/gl0
澪「――と、いうことがあったんだ」
ニューアルバムの取材のために行われたインタビューで暴露された余りに悲しい逸話に、
ペンを持つ音楽雑誌の記者の手は思わず止まっていた。
記者「……ということは、今回のアルバムは唯さんに捧げたものになるのですか?」
澪「そうなるのかなぁ……でもインスピレーションを受けたのは間違いないよ」
そうして、発売された5枚目のアルバムには、
唯をモチーフにしたと思しき叙情的な2曲、『Shine On You Crazy Castanet(狂ったカスタネット)』、
『Wish YUI Were Here(唯がここにいてほしい)』が収録された。
おもしろい
ためになる
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:08:24.32 ID:beaAV/gl0
記者「今でも、唯さんとは接触があるんですか?」
澪「それが、私たち4人は会えないんだ……。
唯は最近HTTにいたころの記憶が何度もフラッシュバックして、錯乱するんだって。
それで、医者に止められてる。『メンバーに会うと、更なる精神崩壊を招く危険性がある』って」
記者「それではあなたにとって平沢唯とはどんな存在ですか?」
澪「何度も言うようだけど、唯は天才である前に純粋な一人の人間であり、HTTの元メンバーである前に親友だよ。
だからこそ、唯の存在が今のHTTの推進力に、私自身の推進力になっているのは、間違いないよ」
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:11:30.42 ID:beaAV/gl0
しかし、徐々に4人体制のHTTにも崩壊の兆しが見え始める。
その原因は澪であった。
発端は6枚目のアルバム『動物さんたち』に伴うライヴツアーでの出来事だった。
元々、ステージに立つことに抵抗があった澪は、コンサートで騒ぐ観客に嫌気が差し、ある日MCでこう言い放った。
澪「みんなは私たちの演奏を聴きに来ているのか、私たちの姿を見に来ているのか、どっちなんだ!」
そして、騒ぐ観客に向け、澪はあろうことか唾を吐きつけた。(だが、客は逆にその唾に喜んでありついた)
この経験は澪の心の中に大きなトラウマを残す結果となり、
澪「なぁ律、私が思うに、観客とバンドの間には大きな壁があるような気がするんだ」
律「は?(何言ってんだこいつ)」
澪「よし決めた。次は人間相互の間にある『壁』をテーマにしてアルバムを作ろう。
きっと唯もそんな人間同士のコミュニケーションに悩み、精神をおかしくしてしまったのかもしれない」
そうして発売されたアルバム『The 壁』は余りにも難解で澪の個人的な内容にもかかわらず大ヒットを記録し、
アルバムに伴うライヴツアーでの、客席とステージの間に壁を築くという大掛かりな演出も好評を得た。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:14:10.40 ID:beaAV/gl0
しかし、澪の極度に個人的な方向へと傾倒する音楽性と、
他のメンバーの方向性が衝突することは、まさに自明の理であった。
梓「澪先輩の作る曲は内省的で暗すぎます! バンドの方向性を改めるべきです!」
そして、反秋山澪の旗手となったのは、唯の無き後、澪と並ぶフロントウーマンとしてバンドを牽引した梓であった。
澪「梓はわかっていない。今更、腑抜けた愛だの恋だのを歌って何になる?
今のHTTは、唯という仲間の犠牲の上に成り立っているんだぞ?
だからこそ、唯のような天才が持っていた狂気や人間の本質的な感情について歌にすべきだ」
梓「それにも限度があるということです!
自殺や鬱病の歌ばかり演奏しているバンドなんて、
それはもう私たちが目指した放課後ティータイムの姿ではありません!」
澪「そこまでいうなら仕方ない。私は抜けるとするよ」
w
!vip2:stop:
---
見習い戦士のふつうの攻撃
MP298使ってへっぽこの呪文を唱えた。
★ミ (スレのダメージ 0)
このスレは1回目のダメージを受けた (150/1000)
ぼうそうがはじまった!! さらにこのスレは2回目のダメージを受けた (300/1000)
a
!vip2:stop:
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まほうつかいたんのつよめの攻撃
MP394使ってへっぽこの呪文を唱えた。
★ミ (スレのダメージ 300)
このスレは3回目のダメージを受けた (450/1000)
こうかは ばつぐんだ!! さらにこのスレは4回目のダメージを受けた (600/1000)
ぼうそうがはじまった!! さらにこのスレは5回目のダメージを受けた (750/1000)
追加攻撃!! さらにこのスレは6回目のダメージを受けた (760/1000)
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 01:17:18.90 ID:beaAV/gl0
こうして、放課後ティータイムから秋山澪が脱退、ソロ活動へ転向した。
公式に発表された理由は『放課後ティータイムは創造性を使い切った』というものであった。
一方、梓、律、紬の残された3人はHTTの継続を決意した。
梓「放課後ティータイムは解散させちゃいけない。
それがあの人……唯先輩の帰る場所であるからこそ」
しかし、事態はそう上手くは転ばない。
なんと、澪が『放課後ティータイム』のバンド名の使用の差し止め及び既存の楽曲の演奏の差止めを申し立てたのだ。
これには幼馴染であり澪とは関係の深かった律も、温厚な性格だった紬も、憤慨せずにはいられなかった。
律「澪のやろうとしていることは、HTTというバンドを潰すこと、それはつまり唯の帰る場所を破壊していることと同義だ!」
紬「澪ちゃんが何を考えているのかわからないわ!
唯ちゃんの惨状に、一番胸を痛めていたのは澪ちゃんだったはずなのに」
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見習い戦士のふつうの攻撃
MP275使ってへっぽこの呪文を唱えた。
★ミ (スレのダメージ 760)
このスレは7回目のダメージを受けた (910/1000)
ぼうそうがはじまった!! さらにこのスレは8回目のダメージを受けた (1060/1000)
このスレは・・・
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