1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
巨大な青い石造りの門の下に、薄手の布に縛られ、身動きのできぬ少女がひとりもがいていた。
紺色のタイルの上に涙を湛え、栄養失調により衰弱しかけた体を、かれこれ十数分近くも赤子のように弱々しく揺らし続けているのである。
珍しくは無い。どこの村や街にも必ず一人はいるものなのだ。
彼女のような、貧しく不幸な人間が。
少女「はっ・・・は・・・」
貴族「この寒い夜空の下、そのような薄手の汚い服では堪えるでしょう」
体を引きずり動くこともままならない少女の傍らに、一人の男が歩み寄る。男は貴族のように豪華な服を纏い、嵐模様の仮面を被っていた。
少女「う・・・たす・・・たすけ・・・」
貴族「おお、おお、心配には及びません・・・大丈夫ですよ、貴女は私が守りましょう・・・永く守り続けましょう」
貴族「この“青の国”に入られたのならば、もう何も案ずる事はありません」
貴族「衣食住も、地位も、名誉も、力も・・・ここでは全てが、全ての者に足りるのです」
少女「や・・・いや・・・帰・・・」
貴族「さあ、お嬢さん・・・今夜はパーティです」
貴族「楽しく優雅に、全ての今を忘れましょう・・・お嬢さん」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:22:34.16 ID:yTAiblgm0
「あら、侯爵様だわ」
「あら本当、侯爵様だわ」
「侯爵様よ、今夜も凛々しいお姿だわ」
「侯爵様は今夜もお美しいわ」
仮面を被ったドレス姿の婦人達が、道行く二人を遠目に眺めながら上品に口を覆い、聞こえる小声の話しをしている。
婦人らの仮面の下の暗いはずの双眸は、今夜の月よりも青い眼光を湛えていた。
少女「や・・・怖い・・・!やだ、帰る!嫌・・・!」
貴族「ははは、面白い事を言いますね怖いだなんて」
貴族「何も心配はいりません」
貴族「貴女がこの“国”で私といる限り、貴女もまた私と同じ貴族です」
貴族「貴族とは優雅で流麗で豪華なもの・・・」
貴族「何も怖い事などありませんよ、お嬢さん・・・ははははは・・・」
『フフフ・・・』
『ハハハ・・・』
まったくほほえましい光景であると言いたげな人々のしとやかな笑い声は、数十メートル先の青タイルまで静かに木霊する。
少女「!!・・・嫌だ、帰らせてっ・・・!お母さん!お母さんっ・・・!?」
『ハハハ・・・』
『フフフ・・・』
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:25:22.28 ID:OfLocyhC0
池田貴族はそんなこと言わないだろ
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:25:31.13 ID:yTAiblgm0
貴族「さて、美しいお嬢さん・・・パーティーとは華やかで、絢爛で、とても清潔な所です」ガシッ
少女「・・・!?や!触らないで!離して!」
貴族「お嬢さん、パーティーへ行くためには着替えをしなければなりません・・・そのような汚い服では、とてもとても・・・」
少女「嫌!パーティーになんて行かない!離して!私をお家に帰して!」
貴族「お嬢さん、お静かに・・・道行く婦人方が見てますよ」
『あらあら、ふふふ・・・』
水色のロングドレスの裾が一瞬立ち止まり、それは再び幽霊のように路地裏へと消えていった。
少女「・・・い、いやっ!いやぁっ!お母さんの所に帰りたい!」
貴族「・・・」
貴族「下衆な民め・・・大人しく富を享受しろ・・・!」
少女「・・・!?」
貴族「貴女はこの“国”に踏み入れたのだ・・・踏み入った以上はもう帰れない・・・」
少女「や・・・嫌だぁ・・・!」
貴族「貴女は一生をここで、優雅に・・・優美に過ごす・・・毎夜のパーティーを楽しみ、ダンスを踊り、ピアノを弾き続けるのだ・・・!」
少女「・・・!」
貴族「私は侯爵・・・そして貴女はその娘・・・何を嫌がる必要がある?」
少女「(・・・やだ・・・嫌だ・・・!私はこんなところ・・・!)」
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:29:14.27 ID:yTAiblgm0
濃霧に半分隠れた大きな青い城の脇には、竜でも住みつきそうなこれもまた巨大な屋敷が聳えていた。
目も眩む豪勢な装飾が、少女の眼を通り抜けて悲しみと不安の思考を停止させる。
少女「・・・う、わ」
貴族「ははは、どうです、美しいでしょう?」
少女「・・・全然」
貴族「ははは、そうですか、ならばまた改装し、豪華にしなくてはなりませんね・・・」
門番「おお、侯爵様、よくぞお帰りなさいました・・・パーティーはいかがでしたか?」
貴族「うむ」
少女が屋敷の高さを測っていると、すぐ傍らに仮面をつけたスーツ姿の男が近づいてきた。
屋敷の大きな門を守る、門番である。
やはり彼も、通りで見かけた人々と同じように仮面を被っている。
貴族「とても有意義な時間を過ごせたよ、夢のような一時だった」
門番「それは何よりです、侯爵様」
貴族「貴方も明日開くパーティーには出てはいかがかな?」
門番「おお侯爵様、喜んで・・・」
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:31:42.95 ID:G5B6QrQtQ
記者とジェミニ好きだ
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:34:11.35 ID:yTAiblgm0
少女「(・・・嫌・・・怖い・・・)」
少女「(街中は青だらけ・・・人はみんな仮面を付けて・・・笑って・・・)」
少女「(この人も・・・あの人も・・・みんな、変・・・!)」
少女「(何なの?ここはどこなの?)」
少女「(お母さん、どうして私をこんな所に・・・捨ててしまったの!?)」
貴族「さあ、お嬢さん」
少女「!(ビクッ」
貴族「門が開きましたよ、中へどうぞ」
門番「この美しいお嬢さんは・・・?」
貴族「ははは、私の娘だよ」
門番「ほお!なるほど、どおりでお美しい・・・!」
門番「この屋敷のお嬢様ということであれば止める理由などありません、さあ是非とも中へ!」
少女「いや・・・入りたくない・・・!」
貴族「ははは、入りたくない?」
貴族「・・・何度私を怒らせれば気が済む・・・?」
少女「・・・!」
バシッ
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:39:00.18 ID:yTAiblgm0
―屋敷内
少女「・・・」
貴族「おお、素晴らしい、ピッタリだ」
少女「(すごい・・・こんなの、初めて着た・・・すごいドレス)」
少女「(でも・・・青い)」
メイド「麗しいお姿です」キュィィン
貴族「そう思うだろう?ははは、私の娘だからな」
少女「(違う、あなたなんて知らない・・・私はお母さんの娘・・・)」
貴族「うむ・・・やはり親子だ」
少女「・・・親子じゃない」
貴族「・・・ふ、私と同じで華やかな姿がよく似合う」
少女「・・・こんな服・・・」
貴族「(ギロリ」
少女「っ・・・!」
貴族「そうだ、この子は今日よりこの屋敷に住う事となる」
メイド「公爵様の“娘”としてお育てになられるのですか?」
貴族「ああ、まだ慣れないようだからな、何かあったら“教えて”やってくれないか?」
メイド「かしこまりました、侯爵様」
メイド「子供は、しつけが大事ですものね?うふふふふふふふ」
少女「・・・!」ゾワッ
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:39:41.30 ID:SiqHBJAlO
青の国ときいてカタハネしか出てこなかった
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:42:42.01 ID:yTAiblgm0
少女「(・・・こんな・・・こんな服嫌だ・・・こんな家嫌だ)」
少女「(今まで通りの汚い服でいいよ、狭い家で良いよ・・・帰らせてよ・・・!)」
少女「(お母さん・・・ここはどこなの?この人は誰なの?)」
少女「(お願い・・・お母さん、捨てないで・・・お願い、帰らせて・・・)」
貴族「さあ」
少女「!」
貴族「パーティーへ行きましょう、お嬢さん・・・これから嵐財閥の集まりがありますからね」
少女「え・・・パーティーはさっき行ったんじゃ・・・」
貴族「ははは、何を言うのですか」
貴族「パーティーは毎日、毎夜、何度も続けて行われるものでしょう?」
『ふふふ』
『ははは』
少女「!」
仮面を被ったメイドと執事が同時に、同じ長さの笑い声を上げた。
貴族「おっと、外界とは風習が違うのでしたね、ははは、貴女も早く慣れなければなりませんね」
貴族「さあ、行きましょう?」
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:46:55.14 ID:yTAiblgm0
門番「いってらっしゃいませ、公爵様」
貴族「ああ、留守の間は屋敷を頼んだよ・・・その間に何かあれば、メイドと執事らと共に対処しておいてくれ」
通ったばかりの正面口を出て、仮面の男にしばしの別れを告げた。
だが、少女にとって最初の夜はまだ、明けていない。
少女「(・・・眠い)」
貴族「さあ、お嬢さん・・・手を」
少女「・・・」
貴族「繋ぐのですよ、わかるでしょう?」
少女「・・・いや」
貴族「いや?」
少女「・・・」
貴族「何が」
少女「・・・」
貴族「言いなさい」
少女「嫌だ・・・全部・・・!ここに居る事が・・・!」
バシッ
少女「・・・った・・」
貴族「何が」
貴族「嫌なのです?」
少女「・・・」
少女「いえ・・・何も・・・」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:47:44.93 ID:Fb+IO0wv0
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:49:29.92 ID:ebGfmL9m0
スレタイで髭男爵しか浮かばなかった
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:51:41.99 ID:yTAiblgm0
「あら、侯爵様だわ」
「あら本当、侯爵様だわ」
貴族「やあご婦人方、今晩は、良い夜ですね」
「ええ、良い夜ですわ」
「ええ、本当に良い夜ですわ」
少女「(・・・!)」
少女「(あの人達も・・・人形だ)」
少女「(顔は仮面で隠れて見えないけれど・・・間違ない、人形!)」
少女「(同じ事しか喋らない、同じ笑い声しか出さない・・・機人でもない、あれは人形・・・!)」
少女「(近くでちゃんと見ると、首の付け根が・・・やっぱり、この人たちは人間じゃない!)」
少女「(・・・人形が街を歩いているの・・・?そんなの狂ってる・・・!)」
貴族「・・・お嬢さん、疑問に思っていますね?」
少女「・・・!」
貴族「何故、彼女らが人形なのか」
少女「・・・・悪趣味な所・・・!」
少女「人形相手に挨拶なんて・・・!」
貴族「口を慎みなさい、彼女らの目の前ですよ」
少女「・・・」
貴族「ふ、要らないのですよ」
少女「・・・?」
貴族「必要無いのですよ・・・この“国”に、下級の民は」
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 22:55:41.28 ID:yTAiblgm0
少女「下級って・・・」
貴族「ふふ、貴女が気にかけることではないのです」
少女「・・・」
貴族「貴女は私の、侯爵の娘・・・貴女の今までの生活よりも、遥かに豊かな生活が約束されている」
少女「ち、違う!私はティ・・・」
貴族「黙れ」
少女「・・・」
貴族「汚れた名前など捨ててしまいなさい」
少女「汚れてなんかない!お母さんからもらった、大事な名」
貴族「黙れ!」
バシッ
少女「・・・った・・・!」
貴族「名前・・・ふむ、そうですね、そういえばまだ貴女の名前を決めていなかったですね・・・名前か・・・」
貴族「・・・よし、考えておきましょう・・・しかし、それはパーティの後にでも良いですね」
貴族「今はただ、享楽に耽る事にだけ夢中になればいい・・・そうですね?」
少女「・・・」
貴族「大丈夫」
貴族「・・・この国にも、すぐに慣れますよ」
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:00:31.69 ID:yTAiblgm0
少女「・・・なんで、パーティになんて行かなきゃならないの・・・」
貴族「ふ、好奇心旺盛なのは良い事です」
貴族「・・・青の国は外界とは違い、非常に豊かな国なのです」
貴族「だから毎晩パーティを開き、毎晩疲れるまで楽しんだとしても・・・また次の日も楽しむ事が出来る」
貴族「素晴らしい財力でしょう?それが青の国なのですよ、ふふふ」
少女「(・・・毎日パーティなんてしていたら飽きると思うな・・・)」
貴族「――飽きなどはきませんよ」
少女「!」
貴族「ふふふ、欲とはそういったものです」
少女「・・・私は!?」
貴族「?」
少女「私はこれから、どうなるの・・・!?どうして私なの!?」
貴族「・・・」
貴族「お嬢さん、これから貴女は嵐財閥侯爵の娘として、青の国で優雅な人生を過ごしていただきます」
少女「・・・嵐、財閥・・・」
貴族「ふふふ」
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:04:37.24 ID:yTAiblgm0
貴族「ここは“青の国”」
貴族「この世で最も裕福で、豪華で、気品に溢れる“国”・・・」
貴族「それがここ、“青の国”なのですよ」
少女「・・・本では、世界に国は10しか無いって・・・その中に青の国なんて」
貴族「本?ははは、お嬢さん、外界で習う事などこの“国”では役にたちませんよ」
少女「・・・?」
貴族「ここは“青の国”」
貴族「“国”なのです」
少女「で、でも私は」
貴族「“国”なのです」
少女「・・・」
貴族「そして私、お嬢さん貴女がこれから属する財閥・・・それが青国三大財閥のうちのひとつ、“嵐”財閥なのです」
少女「・・・なにそれ」
貴族「ふふふ、それは」
貴族「これから始まる“嵐財閥”所属者のみのパーティを見ればわかるでしょう・・・」
「おや侯爵様、よくぞいらっしゃいました」
「どうぞお入りくださいませ」
ギィィィ・・・
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:07:08.24 ID:1Zz3zcgfP
イングウェイか
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:08:54.47 ID:yTAiblgm0
貴族「さあ、お嬢さん」
少女「・・・」
貴族「この館がパーティーの会場です・・・さあさあ、中へどうぞ」
少女「・・・」
少女「(・・・青いカーペット・・・薄水色の壁・・・食事を運ぶ人の服も青・・・)」
貴族「美しい内装でしょう?煌めくほどに磨かれた青の大理石・・・」
少女「・・・悪趣味」
貴族「ははは、お嬢さんにはまだ芸術は早かったようですね?」
少女「・・・」
貴族「さあ、会場はこの先です・・・お嬢さん、会場ではあまり大声で騒がないようにお願いしますよ?」
少女「・・・」
貴族「でないと・・・」
少女「わ、わかってる・・・」
貴族「口の聞き方」
少女「・・・わかってます・・・」
貴族「ん、よろしい」
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:09:17.47 ID:n4zvqxex0
敵は
赤い国=ソ連
ですね分かります
支援
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:14:31.77 ID:yTAiblgm0
「あら、侯爵様がいらっしゃってるわ」
「侯爵様よ、侯爵様だわ」
「なんと凛々しいお姿だ・・・」
少女「(・・・何・・・何なの・・・この空間は・・・)」
貴族「皆様、こんばんは・・・お楽しみの所割り入って申し訳ございません、ささ、気にせずどうぞお食事を」
少女「(青い壁・・・青いテーブルクロス・・・青い炎が灯る燭台・・・)」
少女「(ドレス・・・タキシード・・・青い・・・青青青青・・・)」
少女「(・・・嫌!頭がおかしくなりそう!)」
少女「(こんな所に何分もいたら、目が・・・心がどうにかなってしまう・・・!)」
貴族「お嬢さん?」
少女「・・・うう・・・」
貴族「さあ、挨拶をして回りますよ、ははは、なに、要人にだけですよ、全員に挨拶していては疲れてしまいますからね」
少女「(嫌ぁ・・・嫌ぁ・・・!)」
貴族「お嬢さんには、嵐財閥の人間としてまずは色々と覚えておかなければなりませんからね」
久しぶりだな
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:18:06.76 ID:yTAiblgm0
貴族「こんばんは、良い夜ですね?」
伯爵「! ・・・おや、公爵様、これはこれは」
少女「(この人も仮面・・・どうしてみんな、顔を隠しているの・・・)」
伯爵「む?そのお美しい子は一体?」
貴族「ああ、紹介がまだだった、彼女は私の“娘”となる子ですよ、ははは」
少女「!・・・ね、ねえ」
貴族「ん?どうしました?」
少女「・・・これ」
貴族「?・・・ああ、これはステーキですが?」
少女「ステーキって・・・お肉?」
貴族「ふふふ、ええ、そうですよ?珍しいですか?遠慮なさらず、さあ、ここにあるものは自由に食べても良いのですよ」
少女「・・・!」グッ
伯爵「はは、何をこらえて唇を噛みしめているのですか?」
少女「! え、いや、違・・・」
貴族「太って醜くならない程度なら、好きに食べて構いませんよ、ははは・・・」
少女「(・・・ステーキ!初めての、ステーキ・・・!)」
少女「・・・い、いただきます!」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:21:15.97 ID:C4VQMl8YP
ハッピーハッピー教思い出した
ブルーブルー…
なによりもとうめいにちかい
ブルーブルー
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:22:06.06 ID:yTAiblgm0
モグモグ・・・ムシャムシャ・・・
貴族「ふふふ、よく食べる・・・捨てられた時はよほど、空腹だったのでしょうね」
伯爵「・・・」
伯爵「・・・侯爵様」
貴族「ん?何かな?」
伯爵「・・・彼女が、その」
貴族「声を抑えなさい」
伯爵「! すみません」
貴族「・・・そうです、この子が私の“娘”なのです、ふふふ」
伯爵「・・・」
貴族「念願が叶ったといいましょうか、いえ、またひとつ前に歩を進めることができた・・・と言いましょうか」
伯爵「・・・可哀そうに」ボソッ
貴族「ん?何か言いましたか?」
伯爵「? いいえ、何も申しておりません」
貴族「ふむ、そうですか」
貴族「・・・そして伯爵、彼女を手にしたこの時を境に、お前に頼みがある・・・命令だ、聞け」
伯爵「・・・はっ」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:27:40.06 ID:yTAiblgm0
モグモグ・・・
少女「んぐ・・・もぐ、んむんむ・・・!」
伯爵「・・・では、私はこれで」
貴族「ええ、よろしくお願いしますよ」
少女「もぐもぐ、んぐ・・・」
貴族「ははは、そんなに急がなくとも、食事は逃げませんよ?」
少女「・・・」
ゴクン
少女「・・・」
貴族「ふふふ、どうです?最高級の味は」
少女「・・・色は良くないけど、味は普通なんだ」
貴族「ほう!普通とはまた!?ははは、貴女にとってはここのシェフですらまだまだ、ということですかね?」
少女「・・・」
貴族「ふふ、しかし満足していただけたのなら幸いです」
少女「・・・?」
少女「(この人・・・本当は良い人?)」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:32:34.44 ID:yTAiblgm0
貴族「やあやあどうも、こんばんは、良い夜ですね?」
「公爵様!おお、今夜は実に神秘的で美しいものをお召しで!」
少女「・・・」モグモグ
ゴクン
少女「(・・・私をむすめ、って呼ぶあの男の人・・・一体何者なんだろう)」
少女「(ううん、そんなことよりも・・・ここは一体、どこなんだろう?)」
少女「(青の国の・・・何か三大、えっと・・・その財閥?)」
少女「(財閥って何なのかな・・・すごいんだろうな、こんなに沢山の御馳走を用意できるんだもの)」
少女「(・・・お母さん、寝ている私の両腕と脚を縛って、青の国の入り口に捨てた、私のお母さん)」
少女「(裕福な場所だと知っていたから、私をここへ置いていったの・・・?)」
――ティニア、ご飯よ
――今日はデザートに、ベリーのジュースを作ってみたの、ふふ
――私はいいのよ、ティニアが美味しそうに食べてくれるだけでいいから
少女「・・・」ズキン
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:35:17.70 ID:n4zvqxex0
実際には侯爵より伯爵のほうが位は上だよね
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:37:18.96 ID:yTAiblgm0
少女「お母さん・・・会いたいよぉ・・・」グスッ
少女「(お母さん、わかったよ・・・どうして私をこの“青の国”に捨てたのか・・・わかったよ)」
少女「(・・・お母さん、確かにここのご飯は美味しいよ、でも・・・)」
少女「(私、お母さんと一緒じゃないと・・・やだ!)」
タタタッ・・・
少女「(帰る・・・こんなところ嫌だ!お母さんと一緒じゃなきゃ嫌だっ!)」
ドンッ
「いたっ、こらあなた、会場で走らないでくださいます!?」
少女「(私がいなきゃ、お母さん・・・きっと葡萄の収穫だって、世話だって・・・一人じゃできないもの!)」
少女「(それに私だって、優しいお母さんがいつもそばにいてくれなきゃ・・・!どんなに貧しい生活でも、お母さんがいなきゃ・・・!)」
ドンッ!
少女「いたっ・・・!ご、ごめんなさ、」
伯爵「どこへ行くのですか?」
少女「!」
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:41:19.82 ID:yTAiblgm0
少女「・・・えっと、さっきの人?ですか・・・?」
伯爵「申し遅れましたね、私の名は伯爵です、公爵様にはお世話になっております、以後お見知りおきを」
少女「そ、そうなんですか」
少女「・・・外の空気を吸いたいのです」
伯爵「温度が保たれているとはいえ、ここの空気は人の熱気でむせかえるようですからね」
少女「・・・だから」
伯爵「ええ」
少女「だから、そのぉ・・・あなたの後ろの扉を、通りたいんです・・・」
伯爵「なりません」
少女「・・・どうして」
伯爵「頼まれたのですよ、公爵様にね」
少女「(・・・!)・・・なんて?」
伯爵「あなたが逃げ出さないように、見張れと」
少女「!」
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:45:29.31 ID:yTAiblgm0
少女「逃げ出すつもりじゃ・・・ないもん」
伯爵「そうでしょうか?息を切らして走ってまで、外の空気を吸いたいのですか?」
少女「・・・」
伯爵「おや、子供相手には意地悪でしたかね?すみませんね」
伯爵「・・・ふ、しかし、そういうことですよ」
伯爵「貴女は背丈よりもやや頭が回るようですが・・・あまり大人を舐めるものではない」
少女「本気だもん」
伯爵「ふ、そんなに逃げたいのですか?もったいない」
少女「・・・」
伯爵「こんな機会はめったにないというのに、全く・・・あの、公爵様の娘として人生をやり直せるのですよ?」
少女「・・・」
伯爵「貴女はすぐ近くの外界から来たようですが・・・それならば青の国、知らないわけがないでしょう?」
伯爵「青の国ではより力のある財閥に身を置き、その上でより高い爵位を手に入れることこそ肝要・・・」
少女「・・・知らない」
伯爵「女性は爵位を手に入れられはしませんが、それと相応である位は・・・」
少女「知らないって言ってるでしょっ!」
ザワザワ・・・
少女「こんなとこ、豪華でもっ・・・!知りたくもないし、居たくもないの!」
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:52:28.34 ID:yTAiblgm0
伯爵「・・・」
少女「私には・・・帰らなきゃいけない家があるんだもん・・・!」
伯爵「ほう、家」
少女「・・・笑っていいよ、ボロボロの家だもの」
伯爵「はははははっ」
少女「・・・いいもん、それでも私はそこに帰りたいの!」
伯爵「・・・」
ジャリッ・・・
少女「(・・・何?砂が擦れるような音・・・)」
ジャリッ・・・
伯爵「面倒な子供ですね、できれば“赤”なんて見たくはないのですが――」
ジャキンッ
少女「え?」
門の前に立ちふさがる男の袖の中から先程までは見えなかった半透明の青く美しい刀身が伸びる。
伯爵「一度腕を貫かれれば、力に服従することの大切さを覚えるでしょう」ヒュッ
少女「!ひっ・・・!」
んー?前にも何か書いてた人か?
まあどうでもいいか
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/02(日) 23:59:35.87 ID:yTAiblgm0
細い、青の剣であった。
伯爵の飾られた袖の内側から、抜き身のそれがすぅっと伸びてきた。
少女「(殺される・・・!)」
よく村に来ていた奇術師がそんな芸当を披露しにやってきたので、同じ類のマジックなのかと少女は考えた。自分はよくわからないトリックにより殺される、と。
少女「(・・・え!?)」
だが刃が自分の肌の寸前まで来た時、眼前に迫る恐怖に意識を向けられないほどの“トリック”を、少女は見た。
ガシッ・・・
貴族「・・・伯爵、この子を傷つけてはならない」
伯爵「・・・!す、すみません、侯爵様・・・!」
少女「(うそ・・・)」
突き刺すはずの腕、その直前で剣は、侯爵の手によって掴まれていた。
だが少女は安堵できなかった。逆に、さらなる恐怖すら覚えた。
袖の内側から伸びた抜き身の青い剣は、伯爵の手首そのものから生えていたのだから。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:07:06.62 ID:MrT5ghdx0
ギリギリ・・・
貴族「二度と彼女を傷つけるようなマネはするな・・・!良いな!?」
伯爵「は・・・はっ!侯爵様!」
少女「・・・」
貴族「ふぅ・・・やれやれ、申し訳ありませんねお嬢さん、彼は短気なもので・・・次からは粗相しないように強く言っておきましたから」
少女「・・・バケモノ」
貴族「?」
少女「バケモノよ・・・!あ、あの人、手首から・・・!」
伯爵「・・・」
少女「う、うそ、ありえない・・・人の体の中に剣を入れていたの?そんな事・・・」
侯爵「・・・やれやれ困った」
伯爵「違います、今の剣は・・・」
少女「体の中にまで青いものを入れるなんて!どうかしてる・・・!」
伯爵「・・・ふう、全く、慣れていない者は困りますね」
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:13:26.08 ID:MrT5ghdx0
貴族「・・・お嬢さん」
少女「!」
貴族「どうか彼を軽蔑しないであげてください」
伯爵「・・・」
貴族「誰もが彼のように、体の中にまで青いものを持っているわけではありません・・・彼の手にあった青い剣は、特別なものなのですから」
少女「・・・とくべつ?」
貴族「ええ、そうとも、護身用とでも言いましょうか、ははは・・・」
伯爵「(・・・喋らない気だな?この力のことは・・・)」
伯爵「(可哀そうに・・・)」
少女「・・・!あ、手を・・・!」
貴族「ん?ああ、私の傷ですか・・・はは、大丈夫ですよ、手袋をしていたのでね」
少女「・・・」
貴族「それより、勝手にこの館から出ようとしましたね?いけませんよ、そんなことは」
少女「ご、ごめんなさ・・・」
貴族「・・・」
バシッ
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:17:57.32 ID:MrT5ghdx0
少女「いた・・・」
貴族「・・・」
伯爵「(・・・私には“傷つけるな”と言ったくせに、自分は殴るところがまた)」
貴族「私の目の届かないところにいては、なりません」
少女「・・・」
貴族「でないとお嬢さん・・・貴女を守れないでしょう?」
少女「!」
ギュッ
貴族「永久に私が守りましょう・・・お嬢さん」
女「・・・」
女「(・・・あったかい)」
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:24:27.08 ID:MrT5ghdx0
少女「・・・月が、青っぽく見える・・・」
少女「(・・・館の中が青だらけだったから・・・それで、目がおかしくなっちゃったのかな・・・うう)」ゴシゴシ
貴族「さあお嬢さん、お待たせしました」
少女「! 侯爵、・・・さん」
貴族「ははは、私は侯爵で構いません・・・あ、しかし貴女は私の娘だ、お父さまでも構いませんよ」
少女「侯爵」
貴族「ははは、まるで必然であるかのような即決ですね」
少女「・・・」
少女「(侯爵と呼ばれているこの男の人・・・私を怒ったり、優しくしたり・・・)」
少女「(・・・誰?この人は一体誰なの?)」
少女「(私は逃げなきゃ・・・お母さんのところへ行かなきゃいけないのに、どうして・・・)」
少女「(この男の人といると、安心できちゃうの・・・!?)」
貴族「さあお嬢さん、手をつないで帰りましょうか」
少女「え?」
貴族「手です、さあ」
少女「・・・はい」
ギュッ
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:29:56.87 ID:MrT5ghdx0
貴族「月が青く、良い空ですねえ、雲もなく濃紺が星の青白さを際立たせて、実に美しい」
少女「・・・」
貴族「・・・不安な顔をしていますね?」
少女「・・・」
少女「・・・私、お母さんに捨てられた」
貴族「・・・」
少女「お母さんの家は貧しかったの、だから私はここに・・・この国に」
少女「起きたら両手と両足が縛られてて・・・」
少女「いつもは“絶対に入っちゃいけない”って、お母さんから言われてたこの場所に、寝転がっていて・・・」
貴族「・・・」
少女「・・・その時見えたの」
少女「お母さんの後ろ姿が、遠くの方に去って行くのが・・・!」
少女「お母さん、何度叫んでも振り向いてくれなかった!」
貴族「・・・ひどい母ですね」
少女「違うの!お母さんはひどい人なんかじゃないの!」
少女「何か・・・理由があって、捨てたんだもん・・・私を・・・」
貴族「・・・」
ケータイ小説サイトでやれ
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:38:04.90 ID:MrT5ghdx0
貴族「・・・そうだ、すっかり忘れていた!」
少女「ぐすっ・・・えっ・・・?」
貴族「さあお嬢さん、こちらを向いて」クイッ
少女「な、なに」
貴族「・・・黒い髪、黒い瞳、・・・うん、美しい」
少女「・・・」
貴族「このような美しいお嬢さんを捨てるとは・・・生活に苦しみ、出した結果がこれとは・・・外界の親とは、実に・・・罪深いものです」
貴族「パーティの前にも言いましたね?名前を変えましょう」
少女「! や、嫌だ!これはお母さんからもらった名前なの!」
貴族「・・・あなたの母は、名前と一緒に貴女を捨てたのですよ?」
少女「ぅ・・・!」
貴族「・・・前髪が邪魔ですね・・・どれ」ヒタッ
少女「!? や、おでこ触らないで・・・」
貴族「“貴女は欲の風雨の中に居り、野心の雨からは逃れられない”」
少女「え?」
貴族「・・・ふふ、大丈夫ですよ・・・母がいなくとも、貴女は私が守るのですから」
貴族「例えここが全く知らない、不安な場所だとしても・・・私が貴女を守り続ける」
少女「・・・」
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:46:27.60 ID:MrT5ghdx0
――侯爵の屋敷の一室
メイド「この一室がお嬢様の部屋となります、お好きに使っていただいて構いません」
少女「・・・」
メイド「あ、ベッドでしたらあちらに・・・」
少女「・・・見える」
メイド「・・・ふふふふ、ではごゆっくりお休みなさいませ」
キィィ・・・パタン
少女「・・・」
少女「つか、れた」ボフッ
少女「(・・・!やわらかい・・・羽毛だ、羽毛のベッド!)」モフモフ
少女「(・・・気持ちいい、はじめて・・・)」
少女「(不安しかない、怖いことしかない場所だけど・・・でもそれでも、このベッドなら・・・すぐに眠れちゃいそうだ)」
少女「・・・青の国、かぁ」
少女「(侯爵は優しい・・・怖いところもあるけど、あの人は優しい・・・うん、そうだ)」
少女「(お母さんからもらった名前は少し変えられてしまったけど・・・でも)」
少女「(ここは、安全な場所みたい・・・良かった)」
少女「・・・」スゥスゥ
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:47:57.62 ID:MrT5ghdx0
寝る
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:49:29.84 ID:GMMoFS280
(∬-●3●)
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/03(月) 00:54:17.85 ID:/dYpnmwcO
読んでるよ〜
お疲れ
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
俺「あ、侯爵じゃん」
侯爵「はわわっ、旦那様じゃないですかぁ!?」
言わせたかっただけです