<時刻不明.魔王城最深部>
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……ようこそ勇者。遠いところわざわざご苦労であった」
勇者「遠いところ? ハッ、お前を倒すためだ。多少の距離なんざ問題じゃねえよ」
魔王「強がるな。ここまでくるのに多くの時間を費やしたことは容易に想像できる」
勇者「だから……いや、まあ、時間がかかったことは否定できねえな。だがな、それだけの価値は間違いなくあったぜ」グッ
勇者「俺は以前よりずっと、ずっと強くなることができた! お前をぶち殺せるほどに!」
勇者「ここでお前をぶっ殺して、俺は! 世界中が認める、認めざるを得ない、英雄になる!」ビシ!
魔王「ハッハッハ、そうかそうか」
勇者「……」
勇者「……チッ、気にいらねえな」
魔王「おや、気分を害したか。これは申し訳なかったな」
魔王「……おい!」
側近「ははっ!」ススス……
勇者「……!」
魔王「そう身構えるな、こいつは戦闘向きではない」
側近「魔王様、剣を……」スッ
魔王「うむ」ガシ
側近「……ご武運を」
魔王「大丈夫である」
側近「あなた様のお仕事はまだこれから。どうかお忘れなきよう……」フッ……
魔王「わかっておるよ」
勇者(……?)
勇者(なんだ? 仕事はこれから? どういう意味だ?)
勇者(まさか、俺は眼中にないってことか?)
勇者(俺はただの通過点に過ぎないと?)
勇者(ますます気にいらねえ……)ペッ
魔王「では勇者よ」スッ
勇者「……応!」スチャ!
魔王「死合おうぞ……!」ゴゴゴ……
ズジャッ――――!!
勇者(来る!)
ガキィ――ン!!!
魔王「ほう、これを受け止めるか」グググ……
勇者「こんな一直線の攻撃、屁でもないぜ……」ギギギ……
魔王「ふむ、なるほど。よろしい……では、第二ステージだ!」シュッ!
勇者(――!)
キン、カン! カキン! キン! ジャッ! ギチ! カッ!
勇者「うおおおおぉぉぉぉ――!」
魔王「ふはははははははは!」
魔王「これはどうだ! “円舞陣!”」グオ!
勇者「……っ」
カキキキキキキキン――!
魔王「ほう、これも防ぐか! 武の腕は確かなようだな! ぎりぎりまで粘った甲斐があった!」
勇者「それは、どういう意味だ?」シュッ
魔王「なに、すぐにわかる。が……」キン!
魔王「その前に一度死んでもらうぞ! “光よ!”」ボッ!
勇者(魔術!)
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キン!
魔王「“光よ!”“光よ!”“光よ!”」ボッボッボッ!
勇者「“光の白刃!”“白刃!”“白刃!”」ドッドッドッ!
カッ―― ドドドゴオ!
魔王「ふむ、魔力も申し分ないようだな。これはうれしい誤算だ!」ダッ!
勇者「だからどういう意味かって、聞いてんだろうがぁ!」ダッ!
ガッキィ――――ン!
魔王「……鍔迫り合いなら魔物である我輩の方に分があるぞ?」グググ……
勇者「人間舐めるなよ、魔物ぉ……!」ギギギ……
魔王「ほうれ!」ギギ!
勇者「くっ……」ズズズ……
魔王「ところで勇者よ」
勇者「集中してんだ話しかけんな!」
魔王「新しい客人が現れた」
勇者「じゃあそいつに言っとけ! 今は取り込み中だとな!」
魔王「可愛いおなごなのだが」
勇者「ハル……? い、いやそんなはずあるか! 騙されねえぞ!」
魔王「ほう、ハルというのか。魔女っ子であるな」
勇者「……」
勇者「…………」
勇者「……あらかじめいっておくが」
魔王「ん?」
勇者「決して騙されたわけじゃねえからな……。いいな?」
魔王「ふむ」
勇者「…………」
勇者「…………」クル
勇者「……」
勇者「…………」
勇者「………………」
勇者「この……」プルプル……
勇者「この、大嘘吐き野郎がああああぁぁ――!」
魔王「“光よ”」ボッ!
勇者「みぎゃあああああああぁぁぁぁ!」ドゴォッ!
勇者「………………」
魔王「……勇者〜」
勇者「………………」
魔王「へんじがない ただのしかばねのようだ。……ふむ、死んだか」
魔王「我輩の頭脳の勝利であるな」
魔王「いやはや我輩、今日も冴えている」
側近「魔王様、早くしないと本当に死んでしまいますよ」ススス
魔王「いかんいかん、そうであったな」
側近「これを」スッ
魔王「うむ。これを勇者の首にセットして……」
魔王「“治れ”」ホワホワホワ……
勇者「む……ぐ……」ピク
魔王「おおゆうしゃよ しんでしまうとはなさけない」
勇者「うるせえ神父、戦ってないやつが……」ムクリ
勇者「ってお前かー!」
魔王「左様、我輩である」
勇者「畜生、何のつもりかしらねえが……第二ラウンドだ!」ダッ
魔王「ああ、やめておけ」
勇者「問答無用!」ブン!
――バチッ
勇者「!?」
勇者「あががががががが!」ビリビリビリビリビリ……
勇者「あ、が……」バタ
魔王「だからやめろと言ったのに」
勇者「くっ、魔王! 今何をした!」ガバッ
魔王「おや、感電した割りに元気がいいな」
勇者「……くそっ、もう一度」ダッ
勇者「あがががががががが!」ビリビリビリビリビリ……
勇者「……攻撃が、見えない……」バタ
魔王「いや、我輩、何もしとらんわけだが……」
勇者「くそ……!」ガバッ
勇者「もう一度だ!!」ダッ
勇者「あがががががががが!」バリバリバリバリバリ……
魔王「お前は馬鹿か阿呆のどちらかだろう……」
勇者「ま……魔王……かぁくご〜……」フラフラ……
魔王「ハァ…………」ピン!
勇者「あべし!」バタン
魔王「……腕の方は確かなのに脳みそが足り取らんのか。これはうれしくない誤算だな」
勇者「いったい、なぜ……」ヒュー ヒュー
魔王「首のところを見てみろ」
勇者「……首輪?」
魔王「そうだ呪いの装備品だ。それがお前の身体に電流を流しているのだ」
勇者「こんなもの……」グッ
魔王「我輩に逆らったり、無理にはずそうとしても電流は流れるぞ」
魔王「最悪の場合死に至る」
勇者「…………」ピタ
勇者「…………」ムクリ
勇者「……なんのつもりだ魔王」
魔王「実はな、お前に折り入って頼みがあるのだ」
勇者「……」
勇者「……ああん? 魔王の頼みなんざ――」
魔王「我輩の手下になってくれ」
勇者「……は?」
魔王「我輩の下につけと言っておるのだ」
勇者「…………魔王の手下になれだぁ?」
勇者「――ふっざけんな!!」
魔王「おっと、口には気をつけろ」
勇者「あががry」ビリビリry
魔王「まあ、頼みとは言ったがお前の返事など必要ない。これは一種の命令なのだから」
勇者「ち、くしょ……」
魔王「……勇者よ」
勇者「…………」キッ!
魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」
勇者「…………は?」
魔王「我輩の名はニギという、お前の名は?」
勇者「え? は? 世界? 名前?」
魔王「お前の名前を聞かせてくれ」
勇者「…………えーと」
勇者「……シェロだ」
title:魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」
ニアさいしょからはじめる ピッ
つづきからはじめる
※パクリ元:オーフェン、やる夫が空を目指すようです
やっとスレタイまで来たか
<次の日.朝.魔王城.食堂>
ガヤガヤ ガヤガヤ……
勇者「…………」トテトテ
魔王「おお、シェロ、やっと起きてきたか。お前、意外にネボスケだな」
勇者「…………」トス
魔王「さて、全員席に着いたことだし――」
魔王「いただきます!」
一同「いただきます!」
勇者「いただき、ます」
カチャカチャ……
「それにしても、さすがは魔王様!」
「われわれでは歯が立たなかった勇者をいとも簡単に下すとは!」
「まことにあっぱれなり!」
魔王「うむ!」
勇者「くそ、好き勝手いいやがって」モグモグ
勇者(っていうか、魔物、結構生き残ってるのな。一掃したと思ったのに……)
魔王「皆のもの、聞いてくれ! 今日はすばらしい報せがある!」
魔王「我輩は昨日勇者と戦い、これを下し、手下とすることに成功した!」
魔王「よって我輩は今日、世界を救う旅に出ることと相成った!」
ワ――――!
勇者「だから何なんだよ世界を救うって……。自分が諸悪の根源だって自覚がないのかっつーの」
魔王「シェロ! 前へ出て一言頼む!」
勇者「あん?」
側近「魔王様がお呼びだ、さっさと来い」グイ
勇者「お、おい、ちょっと待てって……」
魔王「ではどうぞ!」
勇者「………………」
勇者「魔王のくそったれ」
勇者「あがry」ビリry
ワハハハハ……
勇者(くそ、この首輪さえなけりゃ……)ボロ……
魔王「うむ、勇者らしく実に勇ましい一言であった!」
魔王「これから我輩と旅を共にする相棒かつ下僕だ! 皆のもの、盛大に送り出せ!」
バンザーイ バンザーイ バンザーイ
ムスコヲカエセー オットヲカエセー
勇者(さりげなく怨嗟の声も混じってやがる……)
魔王「皆のもの、感謝するぞ! それではかんぱーい!」
カンパーイ!
<昼.魔王山.魔王城前>
魔王「それではいってくる。我輩が留守の間城のことはお前に任せた」
側近「ははっ!」
勇者「せいぜい下克上されないよう気を付けるんだな……」ボソ
魔王「何かいったか?」
勇者「別に」
「魔王様行ってらっしゃい!」
「無事に帰ってきてください!」
「ただし勇者、テメーはダメだ!」
勇者「うるせえなあ……」
魔王「皆のもの、元気でな!」
※
魔王「いやーいい天気だ」
勇者「なあ」
魔王「ほぼ半年引きこもっていたから空気が気持ちいい!」
勇者「なあって」
魔王「ヤッホー」ヤッホー
勇者「聞けって!」
魔王「なんだ我輩がお外を満喫しているときに……」
勇者「そろそろ教えてくれたっていいだろ。世界を救うって何だよ」
魔王「おお、そのことであるか」ポン
魔王「とはいってもなあ、どこから説明したものか」
勇者「お前が諸悪の根源じゃねえのか?」
魔王「この善良な我輩が? それはないわー」ナイナイ
勇者「嘘つけ、みんな言ってるぞ! お前がいるから世界が平和にならないんだってな! 俺の村だって――」
魔王「みんなとは誰であるか?」
勇者「みんなはみんなだ! はぐらかすつもりなら腹を切って死ぬぞ!」
魔王「待て待て、早まるな」
魔王「歩きながら話そう」
魔王「……そうだな、では我輩がなぜ悪名高いか知っておるか?」
勇者「魔物と人間、つまり王都との間に平和協定が結ばれた後もお前が侵略をやめないからだ」
魔王「ではなぜ侵略をやめないか知っておるか?」
勇者「そんなの決まってる! お前が私利私欲のために領土を増やしたいからだ!」
魔王「あー、なるほどなるほど。情報が隠蔽されているのだな。そこから誤解が生じているのか」
勇者「誤解だと?」
魔王「我輩は私利私欲のために侵略をしたことは一度もないぞ」
勇者「嘘だ!」
魔王「嘘ではない。我輩は世界を救うために戦っておるのだ」
勇者「どういう意味だ!?」
魔王「そう鼻息を荒くするでない。おかしいとは思わんのか?」
勇者「……何のことだ?」
魔王「平和協定を持ちかけたのはどちらであったかな」
勇者「……魔物のほうだ」
魔王「ほら。わざわざ自分らから持ちかけたものを反故にするか?」
勇者「それは……人間を油断させるため、だ」
魔王「では、平和協定が結ばれる前、圧倒的優勢であったのはどちらか」
勇者「それは……それも魔物の、ほうだ」
魔王「ほれみろ、油断させるまでもないであろう?」
勇者「……なら、なんで」
魔王「それは……」
魔王「実のところ人間、というか王都が平和協定の『条件』を破っているからである」
勇者「条件、だと?」
魔王「……話を変えようか」
勇者「やっぱりはぐらかすつもりか!?」
魔王「違う。これからする話も、お前が知りたがっていることと根底でつながっているのだ」
勇者「?」
魔王「シェロ、お前はこの世界が平和だと思うか?」
勇者「思わない。みんながお前に虐げられて苦しんでる」
魔王「……では救いがたい戦禍の中にあると」
勇者「それは……」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 22:12:35.59 ID:5cJvnyKnO
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」を思い出す
魔王「確かに魔物と人間の間で小規模の戦闘が起こっている。しかし、我輩にはこの世界が至極のほほんとして見えるのだ」
勇者「……」
魔王「この、戦禍の中にあると見えて実は平和な世の中はどのくらい続いている?」
勇者「? ……約六百年ほどだ」
魔王「ではその前は?」
勇者「……魔物、人間関係なくひどい戦争が頻発していたと聞く」
魔王「おかしいとは思わんか?」
勇者「なんの、ことだ?」
魔王「よく考えてみろ。平和というのはそんなに長く続くものではないのだ」
魔王「どんなに完璧に政を敷いても、平和を願う思いが強くても、端から綻びいつかは崩れる」
勇者「平和は、いいことだろうが……!」
魔王「我輩もその意見には賛成だ。問題はその不自然さにあるのだ」
魔王「もし――もしだぞ?――この平和が人工的なものであったらどうだ?」
勇者「人工的な、平和?」
魔王「そうだ。それなら我輩は納得できるのだ」
魔王「もし、という仮定の話ではあったが、先代魔王はその可能性を疑い当時の王都に詰め寄った」
魔王「王都側はそれを否定し、それをきっかけに魔物と人間の間に敵対関係が生じた」
勇者「……」
魔王「しかし、力の差は歴然としていた。そのころの人間にはろくな兵器もなく、魔物の力は単純に強力だったからな」
魔王「前代魔王は無駄な血を流すのを良しとしなかった。そこで平和協定を持ちかけた。その条件は――」
勇者「人工的な平和維持の、中止?」
魔王「そのとおり」
勇者「だが今もって平和は続いている……」
魔王「それが、王都が平和協定の条件を破っているということである」
勇者「待て待て待て。さも当然のように人工的な平和維持と言っているが、そんなこと可能なのかよ!?」
魔王「可能である、と言ったら?」
勇者「……嘘だ」
魔王「我輩ら最上級の魔物の間には、『世界書』と呼ばれる魔術の禁書が伝えられている」
魔王「その最終頁。そこには世界を平和にする魔術と世界を破滅させる魔術が記されている。まあ、魔術とは言ってもすでに魔法の領域であると我輩は思うが」
勇者「二つの魔術?」
魔王「違うな。その魔術は表裏一体なのだ。平和が破滅を導き、破滅が平和を導く」
魔王「それが――」
勇者「人工的な、平和維持……!」
魔王「わかったか? 王都はその魔術をどうやってか嗅ぎつけ、こうやって行使しているというわけだ」
勇者「…………」
勇者「人工的だと、何か悪いのか?」
魔王「ん?」
勇者「古来より人間は自然の驚異にさらされてきた! それを制御し住みやすくするのは当然のことだ!」
魔王「風雨を防ぐために家を建て、荒れ狂う川を越えるために橋を架ける。お前の言うことにも一理あるな」
勇者「だったら……」
魔王「だが、人間よりはるかに大きな力を持つ魔物は経験として知っている」
魔王「行き過ぎた制御は破滅を導くとな」
勇者「……破滅って、なんだよ」
魔王「世界樹の木を知っているか?」
勇者「? ……知識としては」
魔王「秘境にある世界樹の木に数百年前、ヒビが入った」
勇者「……それが?」
魔王「おや、それは知らんのか? 世界樹の木はいわば世界そのもの。それにヒビが入るというのは世界が危機に瀕しているということだぞ」
魔王「それはまだ予兆だ。じきに本当の破滅が来る」
魔王「世界の秩序という秩序が崩れ落ち、生命という生命がその意味をなくすときが来る……」
勇者「……」
勇者「…………証拠は?」
魔王「ん?」
勇者「王都が人工的な平和維持をしているって証拠があるのかよ?」
魔王「その魔術は契約の形式をとっている。ならば媒体が必要だ」
魔王「お前たちは特定の宗教を信仰していると聞く。心当たりはないか?」
勇者「……王都の中心、キムラック大神殿にご神体が安置されていると聞く……」
魔王「決まりだ。そのご神体とやらを媒介にして異世界と契約を結んでいるのだろう」
魔王「我輩もいまいち確信が持てなかったがこれではっきりした」
魔王「必ずや王都にたどり着き、その契約を破棄させようぞ」
勇者「…………」
勇者「俺は……」
勇者「俺は、信じないからな。王都がそんなことをしているなんて信じない」
魔王「信じられないのも無理はない。だいぶ乱暴に説明した」
魔王「だが信じられなかろうとなんだろうとお前に選択肢はない。王都までついてきてもらうからな」
勇者「く……」
魔王「お、説明しているうちにどうやら村が向こうに見えてきたようであるな」
勇者「……」
勇者「……魔王山から最も近い村、最接近領か……」
<最接近領>
勇者(ここは、最接近領)
勇者(王都の支配を受けず、領主による独自の政治を敷いている村だ)
勇者(俺が魔王城に挑戦する前に滞在したときも、普通では手に入らないような物品まで手に入った)
勇者(噂では魔物とのつながりもあるとかないとか)
勇者(……魔王の言っていたこと……世界の破滅……)
勇者(俺にはどうにも信じられない……。現実味がなさ過ぎる。俺を騙して何か企んでいるのか?)
勇者(とはいえ俺に選択権がないのも確か。まったくもって気にくわねえがここは素直にやつに従うしかないか……)チッ
勇者「……角生えてんだからフードはしっかりかぶっておけよ」
魔王「了解である」グイ
勇者「……さて、まずは武器屋に行って磨耗した武器の交換を――」
魔王「シェロ、あそこに行くぞ!」グイッ
勇者「お、おい、待てってどこに」
魔王「いいからいいから」グイグイ
勇者「ちょ、おい……!」ズルズル
<酒場>
勇者「ちょっと待て! いきなり酒場って――」
魔王「マスター、ジョッキ二つ!」
マスター「あいよ」ドン
勇者「いらねえよ!」
魔王「ぷはー!」
勇者「飲むな!」
魔王「まあよいではないか。もう口を付けてしまったしな」
マスター「返品不可」
勇者「ぐ」
魔王「お前も飲め飲め! お前のおごりだから遠慮は無用だ!」
勇者「お前が遠慮しろ!」
マスター「店内での怒声はお控えくださいませー」
ほう・・・
※
魔王「ゴッキュゴッキュ……」
勇者「……」チビチビ
魔王「ぷはー!」
勇者「……よし」
魔王「店員、ジョッキ追加!」
勇者「ちょっと待て! もう何十杯目だと思ってやがる!」
魔王「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
勇者「黙れカリスマ吸血鬼。いいから出るぞ」グイ
魔王「待て。まだ追加分が残ってる」
勇者「はいはいキャンセルキャンセル」グイグイ
魔王「お前ケツの穴が小さすぎるぞ」
勇者「お前の遠慮がなさ過ぎるんだ!」
ガシャーン!
「やんのかテメエ!」
勇者「あん?」
冒険者1「テメエ! さっきこっち見て笑っただろ!」
冒険者2「ああん? オメエだってこっちに唾吐きやがったよなあ!」
冒険者1「やるか!?」
冒険者2「望むところだこの野郎!」
――ボカ! バキ! ドゴ!
勇者「なんだ喧嘩か、生産性のないこった」
勇者「……ん?」
魔王「酒場といえば喧嘩にドツキ合い! テンション上がってきたあ!」
勇者「…………おい」
魔王「我輩も混ぜろー!」ダッ
勇者「やっぱりかー!」ダッ
ワー! ヤレヤレー! ガシャーン! ドシャーン!
勇者「なんだか騒ぎが大きくなってきたな……。あいつは、と」
魔王「わははは!」ボカ! イテエ!
勇者「…………あの野郎。おっと」パシ!
「俺のパンチを受け止めやがった!?」
勇者「うるせえ! 雑魚は引っ込んでろ!」ゲシ!
魔王「わはは、わははははは!」ガラガラドカーン!
勇者「おい、もういいだろ! 出るぞ!」
魔王「おおシェロ! 今いいところなんだ! 邪魔するな!」ガハハ
勇者「馬鹿言ってねえで行くぞ!」グイ
魔王「おっと」ヨロ ハラリ……
勇者「あ」
「な、なんだあいつ、角が生えてるぞ!」
「ま、魔物だ! 魔物がいる!」
勇者「しまった!」
「いや、待てあいつは……」
勇者「……?」
「魔王だああああああああ!」
勇者「えええええええええ!?」
魔王「そんなに注目されると我輩、照れるわけだが」ポッ
勇者「何でお前、顔が割れてるんだよ!?」
魔王「そういえば以前、この村にお忍びでよく来ていたな」
勇者「顔が割れてるってことは全然忍べてねえじゃねえか!」
魔王「以前酔って暴れて出禁になったこともあった。あのとき暴露したのかもしれん」
勇者「んなアホな!」
「おい、隣のあいつも見たことあるぞ」
「誰だったかな……」
しえん
魔王「まあそうカリカリするなシェロ」
勇者「ばっ……名前!」
「シェロ……?」
「そうか思い出したぞ!」
「勇者の、シェロだああああああ!」
勇者「しまったああああああ!」
「勇者様、俺にサインを!」
「お、俺にも!」
勇者「あわわ……」
魔王「人気者ではないか」ニヤニヤ
勇者「誰のせいだと……!」
魔王「主人である我輩だろう?」
勇者「ちょ、おま!」
「しゅ、主人?」
「魔王が、勇者の、主人?」
「勇者が、魔王の、手下?」
勇者「…………」
「勇者が寝返ったぞおおおおおお!」
勇者「うがああああああああ!!」
魔王「おやこれは困ったことになったな」
勇者「お前、わかっててやっているだろ!」
魔王「なんの話だ?」シラッ
勇者「お前ほんとは頭いいはずだろうが!」
魔王「はて……」
勇者「とぼけるなあ!」
「魔王と勇者を捕まえれば領主から賞金がでるらしいぞお!」
勇者「手配早!」
魔王「さあて、逃げるか」ダッ
勇者「ま、待てええええ!」ダッ
「追えー!」
※
ドッチニイッタ! コッチニハイナイゾ! オレハアッチヲサガス!
「おい聞いたか? 裏切り者の勇者を捕まえたら十万ソケットがもらえるらしいぞ!」
「魔王もセットでさらに跳ね上がるらしいな!」
「こうしちゃいらんね、探すべ!」
?「……勇者?」
<夕方.郊外>
勇者「ゼイ ゼイ……」
魔王「ハア ハア……」
勇者「こ、ここまでくれば……」
魔王「大丈夫であろうな……」
勇者「……こんの――」
勇者「……お前、なんてことしてくれたんだ!」
魔王「はて、なんのことであろうか」
勇者「お前のせいで指名手配された、無駄に体力使った、武器防具をそろえられなかった!」
魔王「もう忘れた」
勇者「このスポンジ脳みそ!」
魔王「まあいいではないか。楽しかったし」
勇者「楽しかったのはお前だけだ!」
魔王「もういいだろうて。今夜は野宿だ、我輩は食べられそうなやつを狩ってくる。お前は火起こしでもしてるんだな」
勇者「あ、待て……」
勇者「……」
勇者「……」チッ
<夜.夕食.街道脇>
パチパチ……ボッ……パチパチ……
勇者「……ムス」モグモグ
魔王「どうした勇者そんな不景気な顔をして」ムシャムシャ
勇者「……装備がマジでまずいから武器屋に行きたかったのに……」
魔王「……ふむ、なるほどな」
魔王「しかしお前の装備はともかく、我輩の装備は完璧であるぞ」
勇者「なんだと?」
魔王「ふふふ……」
魔王「見よ、これぞ何でも切り裂く剣と魔力増幅の指輪に並ぶ伝説の品!」
魔王「魔王の腹巻!」デデーン
勇者「……」ポカーン
魔王「何だその顔は」
勇者「え、お前ふざけてる? 怒るぞ? 俺怒るぞ?」
魔王「何を言う、由緒正しき魔王の腹巻にケチを付けるか。これは我輩の祖父の代からの業物である」
勇者「…………ほう」
魔王「そう、ざっと二千年前!」
勇者「魔王の生命サイクル長。 そんな昔から腹巻あったのかよ」
魔王「うむ、あった。魔王一族最初の防具である」
勇者「いや防具じゃねえだろ! 魔王どもは何考えてんだ!」
魔王「む? そうは言うがな、お前たち人間の防具などただのお好み焼きの鉄板ではないか」
勇者「鉄板言うな!」
魔王「その点この腹巻はいいぞ。刃は通さんし魔術はカットだし、腹痛もキャンセルだ!」
勇者「何気にすげえけど最後のはいらん」
魔王「どうだ腹巻のすごさ、思い知ったか」
勇者「……はいはい」
魔王「なら最初の火の番はお前な。我輩はもう寝る」ゴロン
勇者「ちょっと待てよ」
魔王「zzz……」
勇者「いや待て、寝つき良すぎだろ。のび太くんか」
勇者「まったく、先が思いやられる……」
<???>
「勇者が魔王の手下に……」
??「困ったことになったね」
「魔王は契約破棄が狙いだ。おそらく勇者とともに王都に乗り込んでくるつもりだろう……」
??「なにそれ、面白そう!」
「お前にも働いてもらうぞ」
??「そんな面白そうなこと俺が見逃すはずないじゃん」
「では、いつでも出れるよう準備しておけ」
??「うーす」
<四日後.昼.山道>
魔王「……」ザッ ザッ
勇者「……」ザッ ザッ
勇者(あれから四日。今のところは追手の類の気配はないな)
勇者(もっとも勇者と魔王のパーティーだ。そう簡単に捕まることもないだろうが……)
魔王「なあ、シェロ」
勇者「険しい山道じゃあ、口を利きたくないもんだな」
魔王「まあそう言わずに。前から気になっていたことがあるのだ」
勇者「……んだよ」
魔王「お前、もしかしてボッチというやつなのか?」
勇者「は?」
魔王「いや、そんな怖い顔をするな。深い意味はない」
魔王「だが我輩の疑問も当然と思ってほしい。実際お前は我輩の城に一人できたではないか」
魔王「過去に我輩に挑んできた勇者たちはみんな例外なく仲間を連れていたぞ」
魔王「中には一万とんで二名の大軍で挑んできた外道勇者――いやあの場合は王が外道なのか?――もおった」
魔王「だがお前は一人だった」
魔王「絶対の自信があったのか、それとも人望がなかったのか」
魔王「我輩それが地味に気になる」
勇者「…………」
魔王「おや、だんまりか」
勇者「……俺は非公式の、いわばモグリの勇者だからな」
魔王「モグリ?」
勇者(……)
勇者「……やっぱりやめよう、この話は」
魔王「やっぱりボッチか」
勇者「ちがわぁ!」
魔王「では仲間がいたのであろうな?」
勇者「…………。一人、いた」
魔王「ではなぜ我輩との戦いにつれてこなかった。仲間割れか?」
勇者「それは……」
魔王「もしやその一人、あの時言っていたハルとか言う――」
魔王・勇者「――!」ピク!
魔王「シェロ」
勇者「ああ、囲まれた……」
ガサガサ ガサガサ
山賊s「……」ヌッ
勇者(1、2……11人。得物は、棍棒か)
魔王「我輩らに何か用であろうか」
勇者「こんな見るからに山賊のやつらの用件なんて決まってるだろ」
魔王「我輩、見ず知らずの人から告白なんて、ちょっと……」モジモジ
勇者「違うわ!」
山賊頭「勇者と、魔王だな」
魔王・勇者「!」
勇者「なぜ、知っている?」
魔王「馬鹿、シェロ、自分から認めてどうする」
山賊頭「やはりあの方の言ったとおりだ……」
勇者「あの方……?」
?「そこまでよ、観念なさい!」バッ
魔王「なんだ?」
勇者「この声!」
女魔術士「……」スタ!
女魔術士「やっと見つけたわよ、シェロ!」ビシイ!
山賊s「新お頭!」
勇者「ハル!」
魔王「ほう、あのおなごが例の」
女魔術士「あんたたちは下がっていなさい」
山賊s「へい」ススス……
女魔術士「さて……」
女魔術士「最接近領で勇者が云々聞こえたからまさかとは思ったけど、本当に会えるとはね」
女魔術士「網を張ってた甲斐があったわ!」
勇者「お前も最接近領にいたのか?」
女魔術士「いちゃ悪い?」
勇者「いやあんなことがあったし、お前は来てないもんだと……」
女魔術士「そうね、そんなこともあったわね……」ゴゴゴ……
魔王「何の話だ? 我輩ちぃっとも話が読めんのだが。もっとkwsk」
勇者「お前は知らんくてもいい」
女魔術士「そいつ、浮気しやがったのよ!」
勇者「ちょっ、待てよ!」
魔王「構わん続けろ」
女魔術士「わたしというものがありながら……」ゴゴゴ……
勇者「あれは何度も言ったように誤解だって!」
女魔術士「何が誤解なものですか!」
勇者「それに俺とお前はもともとそんな関係じゃなかっただろ!」
女魔術士「うっ……」
女魔術士「……そ、そういうのは風紀の問題よ! だらしがないのが一人でもいたらパーティーの足並みがそろわないでしょ!」
勇者「さも大勢だったかのように言ってるが、俺とお前だけのパーティーで足並みもくそもあるか!」
魔王「wktkwktk」
女魔術士「まあとにかく、それでも許してあげないこともないって思い直して追ってきてみたら、なんか賞金首になってるし」
女魔術士「知ってる? あんたたちもう最接近領だけじゃなくて王都からも、ひいては世界中からも指名手配されてるんだから!」
勇者「げっ!」
魔王「ほほう」
勇者「どうすんだよ! お前のせいで旅が無駄に困難になったぞ!」
魔王「どうせ我輩とお前のコンビでは楽勝の旅であった。いまさら難易度が少し上がったところで大差あるまい」
勇者「ありありじゃボケ!」
女魔術士「シェロ!」
勇者「あん?」
女魔術士「おとなしくわたしに捕まりなさい!」
勇者「……お前も賞金に目が眩んだか」
女魔術士「馬鹿にしないで。わたしはあなたを助けてあげようってのよ」
勇者「どういうことだ?」
女魔術士「わたしがズタズタに更生させてあげる……!」ギラギラ
勇者「空恐ろしい!」
女魔術士「そしてわたしと一緒に世界の果てまで逃げるのよ……!」
魔王「おや、遠まわしなプロポーズではないか。どうするシェロ?」
勇者「断固お断りだ!」
女魔術士「…………なら仕方ないわね。あんたたち!」
山賊s「へい!」ザッ
女魔術士「あいつらを捕まえなさい!」
山賊s「合点承知!」ダッ
勇者「来るぞ!」スチャ
魔王「いい加減痴話喧嘩にも飽きてきたころだ。ちょうどよかろう」
山賊s「てりゃあ!」
ブン! ブン!
勇者「おっと!」キン 魔王「ふむ」パシ
山賊1「野郎!」タックル
勇者「捕まるか!」ヨケ!
勇者「やっぱりこいつら数だけだ! うまく立ち回ればたいしたことねえぞ!」
魔王「同感である」
女魔術士「“赤の刺激!”」ボッ
勇者「おあっちぃ!」ボボボ!
魔王「援護射撃か。あっちは少々厄介ではあるな」
勇者「消えろ消えろ!」バタバタ
魔王「シェロ、この山賊どもを頼めないか? 我輩はあのおなごを制する」
勇者「任せて、いいのか?」
魔王「どうせお前はあのおなごとは戦えまい」
勇者「わかってるじゃねえか……! でも手加減しろよ?」
魔王「幾人もの勇者を教会送りにした手加減力、甘く見てもらっては困る」
魔王「では、行くぞ」バッ
勇者「応!」バッ
山賊頭「二手に分かれたぞ! 魔王は新お頭に任せて、我らは勇者を叩けー!」
勇者「思惑通りで助かるね」スタ
ほう・・・・・・
魔王「……」スタ
女魔術士「わたしの相手はあんたってわけ?」
魔王「うむ。弱そうな相手で甚だ不服ではあるが」
女魔術士「言ってくれるじゃない……!」
女魔術士「でも、ちょうどいいわ。あんたには聞きたいことがあったんだから」
魔王「はて、なんであろうか」
女魔術士「あんた魔王らしいわね? 何であんたが勇者であるシェロと一緒にいるの?」
魔王「シェロは我輩の手下になったのだ」
女魔術士「は?」
魔王「二人で世界を救うのだ」
女魔術士「……本気で言ってる?」
魔王「えらくマジだ」
女魔術士「いいわ、わたしが勝ったら本当のことゲロってもらうからね」
魔王「我輩、嘘はついとらんわけだが」
女魔術士「はいはい。行くわよ!」
※
山賊2「食らえ!」ブン!
勇者「ほい!」カキン! ゲシ! 山賊2「ぐは!」
山賊3「後ろだ!」ビュッ!
勇者「おっと」サッ ボカ! 山賊3「ぬ、う……」ズルズル……ドサ
勇者「おらおらどうした!? そんなんじゃこの勇者様は仕留めらんないぜ!」
山賊頭「落ち着け! まずはあいつを囲むんだ!」
ザザザザ……
山賊頭「それからいっせいに叩けえ!」
ブブブブン!
キキキキキキキン!
勇者「ハッ! 見たか!」
山賊頭「馬鹿な! 剣一本ですべて受け止められるはずが……」
勇者「離れろ下郎ども!」ブオン!
山賊s「うおおお!?」ヒュー ドサドサドサ……
勇者「そろそろ終わらせるぞ。覚悟はできたか!?」
山賊頭「ぐ……」
勇者「“我は駆ける天の銀嶺!”」バッ! ……フワ
山賊頭「跳んだ! 高い!」
勇者「うおおおおおおお!」ヒューン
勇者「落ちろ! “破裂の姉妹!”」パァーン!
山賊s「ぐわあああああ!」バタバタバタ……
山賊頭「ぐ……鼓膜が……」ピクピク
勇者「これでチェックメイトだ」スチャ!
勇者「聞こえちゃいないだろうがな、ハッ!」
※
魔王「おや、あちらは終わったようであるな」
女魔術士「余所見をしてていいのかしら!? “赤の刺激!”」ボッ!
魔王「“盾よ”」キ――バキン!
魔王「痛――っ」
魔王「なるほど、魔女っ子だけあって単純な魔術の威力はシェロより上か」
女魔術士「なめてると痛い目見るわよ!」
魔王「ではこちらも。“光よ”」ボッ!
女魔術士「“銀の城壁!”」キン
女魔術士「魔王って言ってもたいしたことないのね!」
魔王「“光よ”」ボッ
女魔術士「“銀の城壁!”」バギン!
女魔術士「――いったあ! な、なんで!?」
魔王「現役魔王をあまりなめるなということだ」ブオン……
女魔術士(剣が現れた……?)
魔王「では、行くぞ」ダッ
支援
女魔術士(近づかれてはまずいわ!)
女魔術士「止まって! “青の衝撃!”」バリバリバリ……
魔王「“盾よ”」キキン!
女魔術士「(止まらない!) “紅の疾風!”」ボッ ヒュンヒュンヒュン!
ドカァーン!
女魔術士「当たった!」
モクモク……ブワッ
魔王「――」
女魔術士「!」
魔王「ふん!」ブン!
女魔術士「くっ」ガキン!
魔王「ほう、杖で受け止めたか」
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 23:38:25.23 ID:6OQKJQWM0
これはこれで中々
女魔術士「なんで!? なんで軽傷なの!?」グググ……
魔王「魔物の丈夫な身体、加えて魔王の腹巻の効果によるものである」グググ……
女魔術士「聞いてないわ、そんなの!」
魔王「言ってないからな。さて踏み込んだぞ。ここからどうする?」
女魔術士「くぅっ!」バックステップ
魔王「後ろに下がっても詰められるだけだぞ?」ダッ
キン! キン! カキン! キン!
魔王「ほうほう、杖で器用にいなす」シュッ
女魔術士「余裕こいてるんじゃないわよ!」キン!
魔王「しかし守りに徹していては我輩を倒せんな」ブン!
女魔術士「……っ」カン!
女魔術士「“赤の――」
魔王「うつけが!」ガシ ポーイ!
女魔術士「きゃあああああああ!?」ヒュー
ドガアッ! ――ズルズル……
女魔術士「か、はっ……」
魔王「あんな近距離で魔術に頼るからだ愚か者」
魔王「これでジ・エンドであるな」スチャ
勇者「そっちも終わったか。こっちは今、山賊全員を縛り上げたところだ」
魔王「ご苦労だ、シェロ」
女魔術士「ぅ……」
勇者「ハル……」
勇者「……魔王、そいつ、どうする?」
魔王「なかなか使えそうだし、呪いの首輪で手下にしてしまおうと思う」
女魔術士「……何ですって? どういうこと?」
勇者「その首輪をはめられると魔王に逆らえなくなるんだ」
女魔術士「まさか、あんた……」
勇者「そのとおり、俺もその首輪をはめられてる」
女魔術士「じゃあ、手下って言っても本当の意味で魔王に寝返ったわけじゃないのね?」
勇者「ったりめえだ! 誰が好んでこんなやつの手下に!」
女魔術士「よかった……」
勇者「あん?」
魔王「話し込んでいる最中すまないが首輪を付けさせてもらうぞ」
女魔術士「お断りよ! 誰があんたの手下になんか!」
女魔術士「シェロ、あなたはわたしが絶対助けるわ! 待ってて!」
女魔術士「“鈍の扉!”」ピシューン!
魔王「空間転移……。 逃げられたか」
勇者「ハル…………」
勇者(助ける、か)
勇者(俺は……)
勇者(……)
勇者「……よし、約一名逃がしちまったけど、片付いたってことでとっとと出発しようぜ」
魔王「ちょっと待て、山賊に用がある」
勇者「ん?」
魔王「おいお前」
山賊頭「?」
勇者「そいつ鼓膜がやられてるからたぶん聞こえてないぞ」
魔王「仕方ない、“治れ”」ホワホワホワ……
魔王「では改めて。おいお前」
山賊頭「……なんだ?」
魔王「あのおなごはもともとお前たちの仲間ではないな? なぜ味方していた」
山賊頭「…………手伝わなければ命はないと脅されて」
魔王「つまりお前たち、あのおなごに負けたのか。いやはや情けない」
山賊頭「う、うるさい!」
魔王「まあよいわ。では次の質問だ。お前たちこの稼業は長いのか?」
山賊頭「? まあな。かれこれ十年ほどになるか」
魔王「ではよそ様から奪った金はだいぶたまっているのだろうなあ……」ニヤ
山賊頭「おい、まさか……」
魔王「では最後に命令だ。その金を全部我輩に献上しろ。さもなくばお前の仲間を順番に千の風にしていくぞ」
山賊頭「てめえ……!」
勇者「……鬼だ」
魔王「おや、態度が悪いな。ではどいつからにするか……」
山賊頭「く……」
魔王「どの部位から吹き飛ばそうかなあ。手かな? 足かな?」
山賊頭「わ、わかった! すべてやるから勘弁してくれ!」
魔王「それでいい」
勇者「…………はぁ」
※
魔王「懐あったかあったか」
勇者「…………」
魔王「なんだその顔は。我輩は路銀が尽きそうだったから仕方なくだな」
勇者「いやまだなにも買ってねえだろ。魔物側はそんなに金がねえのか?」
魔王「正直に白状すると我輩の代に入ってからは財政は傾いていたのだ」
勇者「お前がトップならわかる気がする」
魔王「原因は不明なのだが、心無い国民は国を挙げての祭りを年に三十回やったからだと言う」
勇者「明らかにそれが原因だろ! このお祭り好きが!」
魔王「365日中200日がお祭りであればよいと思う」
勇者「バランス考えろ!」
魔王「お祭りの国に行きたい……」
明日の朝まで残ってるといいんだが
魔王「ところで話は変わるがシェロよ」
勇者「ああ?」
魔王「お前、浮気したのか?」
勇者「ブーッ」
魔王「なんだ汚い……」
勇者「あ、あの話か。忘れろよもう……」
魔王「我輩気になることはすべて記憶しておる」
魔王「実際のところどうなのだ? 浮気したのか? してないのか?」
勇者「……してねーよ」
魔王「それはもともと付き合ってなかったから、ということか?」
勇者「ちげーよ。本来的な意味合いでも浮気したわけじゃねえ」
魔王「ふむ、ではどうしてあのようなことに?」
勇者「……どこから話したものか……」
勇者「ええと……一緒に旅をしていてある村に立ち寄った時のことだ。ハルと飯屋に入った」
魔王「ほほう?」
勇者「そこでおれはその……」
魔王「ふむ?」
勇者「……ハルに告白して、正式に交際を申し込むつもりだった」
魔王「ほほう!」
勇者「本当は魔王を倒してすべてが終わった後と思ったんだが、どうしても我慢できなかったんだな」
勇者「それで、俺はガラにもなく緊張して、酒のペースが早くなってたんだろう」
勇者「ハルがトイレに立ったところまで覚えてる。そこから記憶は途切れて――」
勇者「気づいたら宿屋で知らないやつと一緒に寝てた」
魔王「それはそれは」
勇者「ハルのやつ、付き合ってるわけでもないのにものっそ怒り狂って、何にもしてないって言っても信じちゃくれない」
魔王「本当に何もしなかったのか?」
勇者「神に誓ってもいい! 俺は! 何も! しなかった!」
魔王「どうだか」ニヤニヤ
勇者「というか何かできるわけがない。だってそいつ――」
勇者「男の娘だったもの」
魔王「キタ――――――ッ!」
勇者「来てねえ! まぁったく来てねえ!」
勇者「……そいつ店で俺に一目ぼれして、隙を見てさらったんだと」
魔王「豪快だな」
勇者「まったくだ。それでもハルは信じちゃくれない」
勇者「まああの野郎見た目はほんとに美少女だったからな」
魔王「ハッハッハッハ、愉快愉快!」
勇者「ああ、笑え笑え……。自分でも笑えるから」
勇者「それで、ハルとはその村でオジャンになった」
魔王「それっきりか?」
勇者「それっきりだ」
魔王「しかし、ああ面白い。お前あんなガサツそうなおなごに惚れたのか!」
勇者「うるせえ、惚れたが悪いか」
魔王「あのようなおなご、我輩の妻に比べれば小物よ」
勇者「お前既婚者だったのかよ。畜生もげろ」
魔王「我輩の妻はよいぞ。器量よし、性格よし、頭よしの三拍子そろったスーパー良妻だ」
勇者「それはよかったな、さっさと黙れ」
魔王「ひとつ不満があるとすれば」
勇者「?」
魔王「料理が壊滅的に下手ということか」
勇者「……例えば?」
魔王「頬が落ちた」
勇者「はぁ?」
魔王「頬が落ちた。物理的に」
勇者「……ああ、なるほど」
魔王「さて我輩と妻の馴れ初めを聞きたいか? そうか聞きたいか、仕方ないから特別に話してやろう」
勇者「いいから早く黙れ」
魔王「あれは我輩が地獄にある血の池のほとりを歩いておったときのことであった」
魔王「散歩にはちょうどいい暑さでな、ずーっと歩いていくと生えとる生えとる。地獄の睡蓮、地獄のやしの木、地獄のマングローブ、そして池から脚」
勇者「脚?」
魔王「そうだ脚だ。何だろうかなーと思って近づいた。その次の瞬間我輩は天使と対面しておった」
勇者「地獄なのにか?」
魔王「うむ、地獄のシンクロナイズド天使だ。我輩はすぐさまプロポーズをし、快く膝蹴りを貰った」
勇者「振られてんじゃねーか」
魔王「まあその後紆余曲折を経て、今の我輩のらぶらぶらいふがあるというわけだ」
勇者「…………」
魔王「なんだその顔は。そうか羨ましいか。羨ましいんだろう」
勇者「はいはい」
魔王「やーい、この浮気野郎」
勇者「黙れ!」
魔王「大体お前が情けないからあのようなおなご一人モノにできんのだ!」
勇者「ぐ……!」
魔王「そこでだ、我輩がお前のような童貞のためにおなごを落とすためのアドバイスをしてやろう」
勇者「結構だ。あと童貞言うな」
魔王「いいから聞いておけ」
魔王「――おなごを落とすための極意その一ィィ!」
魔王「膝蹴り貰い」
勇者「お前の失敗パターンじゃねえか!」
魔王「いやまあ最終的に夫婦となれるのだからよいではないかよいではないか」
魔王「それとも膝蹴りごときが怖いとぬかすかこの、童貞が」
勇者「ちげーよ! あと童貞はやめろ!」
魔王「……ふむ、そんなこんなやっているうちに次の村に着いたようであるな」
<夕方.山村>
勇者「さーて村に着いたし今度こそ武器屋に……」
魔王「飲むぞー!」ダッ
勇者「待てい!」ガシ!
魔王「放せシェロ! 我輩は命の補給に行くのだ!」
勇者「馬鹿言え! 今度こそ武器屋だ! 大体昼間の先頭で俺の武器がついにおシャカ寸前になったんだ。お前だって同じじゃないのか?」
魔王「我輩の武器はイキがいいから」
勇者「ふざけろ! 無理やりにでも連れて行くからな!」グイグイ
魔王「あ〜」ズルズル
魔王「それよりシェロ、気づいているか?」ズルズル
勇者「ん?」グイグイ
魔王「なにやら……ピリピリする」ズルズル
勇者「そうだな……今夜あたりなんかあるかもな」グイグイ
魔王「なんだ、気づいておったのか」ズルズル
勇者「だからこそ武器を揃えておきたいんだよ」グイグイ
魔王「だからこそ飲めるうちに飲んでおくのではないのか?」
勇者「おのれはああああ!」
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 00:31:37.15 ID:ppp9fxMa0
しえんでし
さるか
原作読んだ事無いけど、端折りすぎじゃね?
説明は説明になってないし、展開もツギハギしたようだ
多少ツギハギっぽくてもgdgdになるよか良いと思うんだがね
sage投下じゃ人少なくて支援も充分にもらえないから
6分ペースでいくしかないな
<夜中.山村.宿屋>
ホーゥ ホーゥ……
魔王「……来るな」
勇者「気のせいだったらいいんだけどな。出よう」
キィィ―― バタン……
魔王「…………」
勇者「…………」
魔王「……ふわぁ」
勇者「……もうちょっと緊張感持てよ」
魔王「いやだって我輩、すでに気のせいな気がしてきたもん」
勇者「断ずるには早いだろう……」
勇者・魔王「――!」
ピシュン ピシュン ピシュン
勇者(空間転移! 前方に三体!)
勇者「なんだやつらは?」
?「キー!」ブヨブヨ
魔王「王都からの刺客、であろうな」
刺客s「キキー!」ブヨブヨ
勇者「なんなんだ? スライムの一種か?」
魔王「スライムだったら我輩に敵意を向けるわけがあるまい。あれはもっと違うものだ」
勇者「なんだかわからねえが、先手必勝!」ダンッ ブン!
刺客1「キー!」ブニョン!
勇者「刃が通らない!?」
魔王「! ――シェロ、離れろ!」
刺客1「キキキー!」シュバババババ!
勇者「うわわ!」バックステップ
勇者「針!?」
魔王「ふむ、どうやらやつら攻撃時は身体を硬化させることができるらしいな」
し
勇者「く……“我は放つ光の白刃!”」ドッ!
ドゴォォ!
刺客s「キキー!」ピンピン!
勇者「魔術も効かねえのか!?」
魔王「シェロ、聞け。そいつはどうやら魔術で生み出された人工生物のようだ」
勇者「何?」
魔王「『世界書』のことは前にも話したな?」
勇者「魔術の、禁書だったか?」
魔王「そうだ、その第十四頁。そこに人工生物の作り方と性質が書いてある」
魔王「そいつらの特性は、その記述と合致する」
勇者「ってことは……」
魔王「ああ、またひとつ王都が『世界書』の内容を把握しているという確証が得られたな」
勇者「…………」
勇者(王都は本当に人工的平和維持をしている? ……馬鹿な……)
勇者(しかし――)
刺客2「キ!」シュッ!
勇者「くっ」キン!
勇者「とにかくまずこいつらを始末しなくけりゃ話は進まねえ……!」
勇者「おい魔王! 『世界書』とやらの内容を知ってるってことは、こいつらの弱点も把握してるってことだよな! 早く教えやがれ!」
魔王「…………」
勇者「おい!」
魔王「……ド忘れした」
勇者「はぁ!?」
刺客s「キキー!」ブワワ!
勇者「うわ! 来たぞ!」
魔王「ひとまず逃げよう」ダッ
勇者「ちょ、待てって!」ダッ
109 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 01:26:39.01 ID:rISPH5KX0
オーフェンとか懐かしい・・・
<村の外>
タッタッタッタッタ……
刺客s「キキー!」
魔王「空中に浮遊しているだけあってさすがに速いな」
勇者「魔王、まだ思い出せないのか!?」
魔王「ちょっと待ってろ。光? 熱? いや、あの日の思い出……は一番関係ないからして……」ブツブツ
勇者「……チッ」クル
刺客s「キキキー!」ブワワ!
勇者「ここまでくれば大丈夫だろ、食らえ“我は砕く原始の静寂!”」ゴッ!
ドゴォォォォォッ!
勇者「空間爆砕だ! 効いたか!?」
刺客s「キ、キー!」フラ
魔王「多少ふらついとるが大きなダメージではないようだな」
勇者「ちっくしょう!」
刺客3「キ!」ビシュッ
勇者「また針かっ……」バックステ――グニュ!
勇者「え?」
魔王「背中!」
刺客2「キキー!」シュッ!
ドスッ!
勇者「ぐは!」
勇者(は、腹に貫通した……)
魔王「吹き飛べ! “風よ!”」ビュオォォ!
刺客2「キ……」ヒューン
魔王「シェロ! 大丈夫か!?」
勇者「く……“我は癒す斜陽の傷痕”……」ホワホワホワ……
魔王「やつらが空間転移できることを忘れるな!」
勇者「……魔王! 早く思い出しやがれ! さもないとここで終わるぞ!」
魔王「わかっておるわ!」
刺客s「キキキキー!」ブチョン ブチョン ブチョン
勇者(なんだ? 刺客どもがひとつに集まり始めた?)
キング刺客「ギギー!」
勇者「巨大化した!?」
キング刺客「ギギ……」ガキガキガキン!
勇者「槍!?」
キング刺客「ギギギギ……」ググ……
キング刺客「ギー!」――ビュン!
勇者「まずい! 魔王、そっちに行ったぞ!」
魔王「弱点……弱点……」
勇者「避けろ、魔王――!」
魔王「あ、思い出した」
魔王「“氷河よ!”」ビュオォォォオオ!
キング刺客「ギ……」カキコキコキン!
勇者「刺客が、固まった!?」
魔王「考えてみれば当然のことであった。この手の化け物は縦横の繊維を持っていて打撃斬撃熱衝撃波には強いが、強制硬化にはめっぽう弱いのであったな」
魔王「どこかのエロゲもそう言っていた」
勇者「うおおおおおおおお!」シュッ ガキン!
ガラガラガラガラ……
勇者「か、勝った……!」
魔王「うむ、我らの勝利だな」
勇者「…………」
魔王「なんだ? なぜそんな渋面をしている?」
勇者「いやだってお前が早く思い出してれば死にそうな目にはあわなかったし」
魔王「細かいことは気にするな、誰のおかげで勝てたと思っている」
勇者「それはそうだが……納得いかん」
魔王「あまりぐだぐだ言っていると電撃かますぞ?」
勇者「あー、はいはい飲み込みますよ、はい」
魔王「うむ。おや?」
勇者「?」
魔王「月が綺麗であるなあ……」
勇者「…………はぁ」
女魔術士「……」
女魔術士「“鈍の扉”」ピシュン……
<三日後.昼.街道>
魔王「さて、そろそろ次の街に着くな」
勇者「行きと違ってずいぶん早かったな。まあ、魔王がいるせいで魔物が襲い掛かってこないから当然といえば当然か」
魔王「次は海沿いの街だな?」
勇者「ああ。主に漁業と海運業で食っているところだ」
魔王「ということは海を渡るのか?」
勇者「陸路でもいけるが、海路のほうが早いからな」
魔王「なるほど。世界の破滅がいつ来るかわからない今、時間はできるだけ節約したい」
勇者「そうだろうが……問題は俺たちがお尋ね者だってことだ」
魔王「つまり正規のルートは駄目ということか。まあ当然ではあるが」
勇者「必然的に密航ということになるが、乗せてくれる酔狂はいるもんだろうかねえ……」
魔王「まあ行ってみてからのお楽しみであるな」
<海岸の街>
船乗り1「なに? 密航? ふざけちゃいけねえよ。こっちもお上が怖いんだ」
※
船乗り2「はっはっは、冗談はもっと面白く言うもんだぜ!」
※
船乗り3「お前たちがめんこいおなごだったら話は違ったんだがな!」
※
船乗り4「……船乗りを舐めているのか?」
<夕方.酒場>
勇者「くそ、やっぱり駄目か!」
魔王「ゴッキュゴッキュ!」
勇者「まさか十三件もめぐって全部断られるとは!」
魔王「ゴッキュゴッキュ!」
勇者「やっぱり陸路でいくしかねえのか!?」
魔王「ゴッキュゴッキュ!!」
勇者「聞けよ!」ダンッ
魔王「ゴキュ?」
勇者「なんでそんなにリラックスしてんだよ! っていうか俺のほうが焦ってるっておかしいだろ! 世界が破滅するって言ってたのはお前の方だぞ!」
魔王「なんだか知らんが落ち着け、シェロ。まだ駄目と決まったわけではない」
勇者「……っつーと?」
魔王「今日回ったのはいずれも有名ギルドに属する船乗りばかり。地位も名誉もあるのだろう。そういう輩は危ない橋を渡りたがらないものだ」
勇者「……なるほど」
魔王「明日は比較的小規模の漁師あたりを当たってみよう。報酬しだいでは渡してくれるやもしれん」
勇者「! それだ……!」
「あの、もし……」
勇者「ん? なんだあんた?」
「失礼ですがあなた方、向こうに行くための船をお探しですね?」
魔王「そうだが、お前はいったい誰なのだ?」
商人「これは失礼申し遅れました。私この町で商人をやっているものです。名刺をどうぞ」スッ
勇者「アーバンラマ海運会社社長?」
商人「私ならあなた方の力になれるかもしれませんよ」
勇者「!」
商人「もっとも条件次第、ということになりますが」
魔王「……。聞かせてもらおうか」
123 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 02:46:22.26 ID:fmioO82dO
我掲げるは降魔の剣、っと
商人「まず……失礼ですがあなた方、只者ではありませんね」
魔王「……!」
商人「職業として暴力を用いるものはこの街にも数多くいますが、あなた方の立ち居振る舞いは彼らの比ではありません」
商人「かなりの腕前と見ましたが、いかがですか?」
勇者「……なんで」
魔王(……馬鹿!)
商人「私、こう見えても以前は戦士として働いていましたので人を見る目は確かなんです」
商人「そこであなた方の腕を買って頼みごとがあるんです」
魔王(チッ……)
勇者「頼みごと?」
商人「ええ、それをこなしていただければ、船で向こうに渡して差し上げましょう」
魔王「……内容は?」
商人「引き受けてからのお楽しみ、です」
勇者「は?」
商人「企業秘密に引っかかりますので。引き受けると確実に言っていただくまでは話すことはできません」
魔王「なるほどな」
商人「どうします?」
魔王(…………)
魔王「……引き受けよう」
商人「ありがとうございます。では内容は明日の朝説明いたしますのでこの紙に書いてある場所まで来てください」スッ
勇者「了解」パシ
商人「では、また明日……」
※
勇者「しかしあの女、いったい何者だったんだ?」
魔王「あちらも只者ではないことは確かだ」
魔王(それにあの女……世界が破滅する云々も聞いていたな?)
魔王(そろそろきな臭いことになってきたかもしれん……)
<次の日.朝.街の入り口>
勇者「馬車の荷物の、護衛?」
商人「そうです。不服でしたか?」
勇者「いやそんなことねえけど、企業秘密って言うからどんな大仕事かと……」
商人「荷物の輸送もわが社の立派な仕事です。それに輸送ルート自体は企業秘密なんですよ。さらに言えば最接近領までですから往復でざっと二週間はかかります」
勇者「うげ……」
魔王「それでも陸路よりはマシなのだ。我慢するしかあるまい」
商人「では行ってらっしゃいませ」
※
ゴトゴト ゴトゴト……
勇者「これから二週間か。長いような短いような」
魔王「我輩、時間の長さにはこだわらんが退屈なのはいやである」
勇者「いや、そりゃ無茶だろ。おとなしく待ってるしかねえよ」
魔王「おいそこの御者! 何か面白いこと言ってみろ!」
勇者「すみません。この人ちょっと頭おかしいんです」
御者「は、はぁ……」
ゴトゴト ゴトゴト……
<三日後.夜.山道>
御者「この山を抜けたら野営の支度をしましょう」
勇者「了解」
魔王「我輩退屈で死にそうである……」
勇者「まだ折り返し地点にもきてないぞ。もうちょっと粘れよ」
「そこの馬車止まれぇ〜い!」
御者「ひっ」キキィ!
勇者「なんだ?」
魔王「祭りか?」
勇者「それはない」
山賊s「わははは!」
山賊頭「我らは山賊である! 命が惜しくば荷を置いて立ち去れい!」
御者「あわわ……」
勇者「なんだ?」ヌッ
山賊頭「ひっ! お前は!」
魔王「祭りか!」ヌッ
山賊頭「お前まで!」
勇者「なんだ、お前らか。俺たちこの馬車の護衛してるから。今立ち去るなら見逃してやらないでもないぞ」
魔王「祭りじゃないのか……寝る」
山賊頭「ぬぬ……いきなり現れて馬鹿にしやがって! 今度こそ山賊の恐ろしさを思い知らせてやる!」
魔王「任せたシェロ」
勇者「え〜、お前も手伝えよ」
山賊頭「隙ありぃ!」バッ
山賊s「…………」ピクピク
勇者「これで終わりか。早かったな」
魔王「ご苦労」
勇者「お前、マジで手伝わなかったな」
魔王「楽できるときは楽をしておくのが我輩のジャスティス」
勇者「……ったく。――御者さん、そろそろ行こうか」
御者「は、はい!」
??「ちょおっと、待った」
魔王・勇者「!?」
??「やあやあオフタリさん。こんばんはと初めまして」ヘラヘラ
勇者(? なんだあいつ? いつの間に現れた?)
魔王(それに、なんだ? この威圧感は……。軽薄そうな雰囲気のくせに重く、鋭い……)
魔王「お前は、何者だ?」
??「俺? 俺かあ。俺の名前はヒューイック……っつーんだけどまあ、そっちはどうでもいいよね。いや、よくないのかな?」
スタッバー「職業はスタッバー。そこそこ長い付き合いになると思うんで以後よろしくぅ」ピッ
勇者「!!?」
魔王「すたっばー? 長い付き合い? なんだそれは」
勇者「……暗殺技能者だ……。それにあの戦闘服、間違いない……」
勇者「王立の、スタッバー……!」
魔王「敵か? 強いのか?」
魔王「……いや、聞くまでもないか。あの雰囲気……やる気だし、相当の使い手だな」
勇者「……」スチャ……
魔王「……シェロ?」
勇者「……お前は、下がってろ」
魔王「なぜだ? やつは強いぞ」
勇者「いいから下がってろ! あいつは俺の獲物だ!!」
魔王「……?」
スタッバー「ん? 俺、なんか恨みでも買ったっけ?」
スタッバー「……まあいいか、どうせやるつもりだったし、うん」
勇者「……」
スタッバー「さて、お前たちの腕がどんなもんか確かめさせてもらおう。いいかな? いいよね?」シャキン!
魔王(片手ナイフ使い……か)
スタ スタ スタ……ピタ
スタッバー「お互い武器は持ったし、準備はオーケー?」
勇者「いつでも来い……」
スタッバー「じゃあ――」
勇者(俺のほうがリーチが長い。いくら強そうでもそれを考慮した戦いをすれば……)
スタッバー「――いくよ……」フッ
勇者「え?」
スタッバー「――」
勇者(もう懐に!!)
スタッバー「はっ!」ビュッ
勇者「(顔狙い……)くっ……」サッ
スタッバー「首から上だけで避けたか、上出来上出来!」
スタッバー「でも体勢がつらいね。そうら、タックル!」ドン!
勇者「うわ!」ゴロン
スタッバー「はいこれで死亡〜」ザク!
魔王「シェロ!」
勇者「……」
勇者「……どういうつもりだ?」
スタッバー「うん?」
勇者「今のは地面じゃなくて、どこでも刺せただろ」
スタッバー「確かにそうだね」
勇者「だったらなぜ!」
スタッバー「なぜって……弱い奴相手に本気になるわけないじゃん」
勇者「…………けんな」
スタッバー「?」
勇者「ふざけんな!」ブオン!
スタッバー「おっと!」バックステップ
スタッバー「いやぁ血の気が多いね。さすがはモグリだ」
勇者「俺を……」ムクリ
勇者「俺をモグリと呼ぶな! 殺すぞ!」ダッ
スタッバー「ありゃりゃ、もしかして地雷踏んじゃった? エセ勇者君?」バックステップ
勇者「てめえ、俺を馬鹿にすんな! ズタズタにしてやる!」ブン!
スタッバー「おおこわ」スカッ
勇者「この! この! この!」ブオン ブオン ブオン
スタッバー「ふわぁ……」スカ スカ スカ
勇者「くっそ、何で当たらねえ!」ブン!
スタッバー「あれ、わかんないんだ。案外大したことないね?」スカ
勇者「黙れ!」ツキ!
スタッバー「ダメダメ全然なってない」ヨケ
スタッバー「そんなんだから踏み込まれる」スッ ガシ
勇者「うわ!」グルン ドサ!
スタッバー「ほい、本日二回目の死亡〜」スチャ!
勇者「くっ……」
魔王「なんなのだやつは……」
御者「……」ブルブル
スタッバー「お前本当に魔王と戦えたの? こんなに弱いのは想定外なんだけど」
勇者「う、うるさい! “光の白刃!”」ドッ!
スタッバー「おっと」バッ
勇者「な!? この近距離で避けた!?」ガバッ
スタッバー「あれ? 驚いてていいの? あのタイミングならもう一発撃てば当たったのに」
勇者「くっ、講釈たれんじゃねえ! “我は放つ光の白刃!”」ドッ!
スタッバー「それ」ヒョイ!
勇者「“光の白刃!” “白刃!” “白刃!”」ドッ! ドッ! ドッ!
スタッバー「あれはさすがに避けらんないか」
スタッバー「“タマンカマの鏡よ”」キキキン ――ゴッ!
勇者「跳ね返された!?」
ドドドーン!
勇者「が――ッ」ドサ
スタッバー「お前、もういいよ。大体わかったし」
魔王「“光よ!”」ボッ!
スタッバー「おっと」ヒョイ
スタッバー「うんうんよくわかってるね。次はあんただよ魔王さん」
魔王「やはりお前こちらの素性を把握しているな。お前はいったい何者なのだ?」ザッ
スタッバー「王都の者、といえば納得してもらえるかな?」
魔王「……ふむ」
スタッバー「それよりあんた武器はないの? 素手相手はかわいそうだからやりたくないんだけど」
魔王「心配するな」ブオン……
スタッバー「お、高そうな剣。いいね」
魔王「行くぞ……」
ズジャッ――――!
スタッバー「踏み込みはっや!」
魔王「ふん!」シュッ
スタッバー「うわわ……」ガキン!
魔王「いいのか? ナイフごときでまともに受け止めると後がつらいぞ」
スタッバー「だね」ゲシ!
魔王「ぬ……(蹴り離されたか)」
魔王「ふっ……」ヒュヒュヒュ!
スタッバー「そうそう、あんたはわかってる。ナイフ相手のときは大振りしないんだよね」キキキン!
スタッバー「あんたはエセ勇者とは違うみたいだ、うれしいよ。でも足りない!」パアン!
魔王(剣が逸らされた!)
スタッバー「それ」トン
魔王(我輩の腹に拳を置いた? 何かまずい!)バックステ――
スタッバー「おせえ!! “寸打!!”」ドゴォ!
魔王「がっ!」ドサ!
魔王「か……は……」
魔王(ゼロ距離打撃……! 人間に、こんな逸材がいたとは……!)
スタッバー「寸打は内臓に通る。しばらくは起き上がれないよ」
勇者「馬鹿野郎! 手を出すなって言っただろうが!」ザッ
魔王「馬鹿はお前だ……二人でかからねば犬死だぞ……」ムクリ
スタッバー「あれ? 何で起き上がれるの?」
魔王「魔王の腹巻を舐めるなよ、小童!」
魔王「……」ザッ
勇者「……」ザッ
スタッバー「さあて予想外。前門の魔王、後門のエセ勇者か。参ったね」ポリポリ
勇者「人をエセ勇者呼ばわりすんじゃねえ! もう容赦しねえぞ!」
魔王「少し遊びが過ぎたようだな小童」
勇者「勇者の真髄見せてやる!」
魔王「魔王の恐ろしさ、その身に刻め!」
魔王・勇者「行くぞ!」ダッ
スタッバー「口先だけは達者だねえ」
スタッバー「それ!」ピッ!
魔王(スローイングダガーか!)キン!
スタッバー「最初はお前だ勇者!」バッ
勇者「だらっしゃあ!」ブッオン!
スタッバー「学ばないねえ……」ヨケ シュ!
勇者「痛……!」ザシュ! ――カラン
スタッバー「手の健が傷ついたね」ニッ
勇者「てめえ!」
魔王「後ろはもらった」ビッ!
スタッバー「おっと」サッ ゲシ!
魔王「が……ッ」
勇者(屈んでからの後ろ蹴り! 速い!)
勇者「この……!」シュシュ!
スタッバー「剣がだめなら素手はと思ったけど全然だめ」パシパシ
スタッバー「うん、不合格」グルン ゲシ!
勇者「ぶっ……(後ろ回し……)」ドサ
スタッバー「だめだめ二人とも! 連携が全然なってない! リズムがめちゃくちゃ!」
スタッバー「もっと息を合わせて! 繊細なメロディーを奏でるように! 軽やかなテンポで!」
勇者「うるせえ! ちょっと黙ってろ!」ガバ!
スタッバー「よし、エセ勇者、魔術防御のチェックだ! 防いでみろ!」
スタッバー「“プアヌークの魔剣よ!”」ジャッ!
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キ……ズバシュ!
勇者「(防御壁が斬られた!?)ぐはっ!」ドゴォ!
魔王「勇者! “光よ!”」ボッ!
スタッバー「“シアヌーンの盾よ”」キン
スタッバー「反撃! “ヤスランの棺よ!”」ゴッ!
魔王「ぬおおお!」グシャ!
勇者「ゼイ……ゼイ……」
魔王「ハァ……ハァ……」
スタッバー「地べたに這いつくばっちゃって、情けないねえ二人とも」
勇者「く……そが……」
スタッバー「今回は殺さないでおいてあげるよ。ここで終わってもらっても面白くないし」
魔王「……」
スタッバー「ただし次回は別だ。次はちゃんと殺すよ。だから次回までに強くなっておくんだね」
勇者「待て!」
スタッバー「それじゃ」フッ――
勇者「……」
魔王「……行ったか」
御者「あ、あの大丈夫ですかお二方……?」
魔王「“治れ”」ホワホワホワ……
勇者「“我は癒す斜陽の傷痕”」ホワホワホワ……
魔王「……我らのことなら心配はいらん」ムクリ
勇者「……ちっきしょう! あの野郎!」ムクリ
魔王「気配は……しないか」
勇者「俺を馬鹿にしやがって……次にあったら絶対に殺す……!」
御者「あ、あの方々はどうします?」
山賊s「……」ピクピク
勇者「知るか、ほっとけ!」
御者「はぁ……」
<野営場所>
御者「zzz……」
勇者「チッ……くそ……気にくわねえ……むしゃくしゃする……!」
魔王「……それにしても、やつはいったい何者だったのだ? 王都の者といっていたが……。お前、やつを知っていそうな口ぶりだったな?」
勇者「……別にあいつ自体を知っているわけじゃねえよ。ただ、あいつのバックなら見当がつく」
魔王「ほう?」
勇者「あいつは王立、つまり宮廷直属の暗殺技能者のうちの一人だろうよ」
魔王「……つまり我輩を倒す――いや、暗殺するための集団というわけか?」
勇者「当たり。そいつらは、いわば正式勇者というわけだ」
魔王「ほほう」
勇者「十三使徒」
魔王「?」
勇者「そいつらは十三使徒と呼ばれている」
魔王「お前は?」
勇者「え?」
魔王「お前はその一員ではないのか? 勇者なのだろう?」
勇者「…………俺は、モグリだから」
魔王「以前にも言っていたな。それはいったいどういう意味なのだ?」
勇者「……俺は王から正式に魔王討伐の命を下されたわけじゃない」
魔王「なるほど、だから極端に仲間が少なかったのか」
勇者「……ちょっと事情があってな」
魔王「事情?」
勇者「それは、話したくねえ……! 話す必要もねえ……!」
魔王「…………。今日のことはあの商人に報告するか?」
勇者「……別に俺たちが考えるまでもなくそこのが報告すんだろ」
御者「zzz……」
魔王「む、それもそうだな」
勇者「……俺は寝る」
魔王「うむ」
魔王(……しかし)
魔王(改めて考えると、この依頼、タイミングが良すぎるな。まるで我輩らのために用意してあったかのようだ……)
魔王(もしや、あの商人……)
魔王(……まあ、今はよいか。海を渡ることだけを考えよう……)
<十数日後.昼.海岸の街>
商人「ご苦労様でした。途中でひと悶着あったと聞いてます」
勇者「まあな」
商人「しかし何はともあれ無事に依頼はこなしていただいたので、船には乗っていただいて結構です」
魔王「助かる」
商人「旅は半月ほど。船上では特に何かする必要はありませんが、船員の邪魔はなさいませんよう」
魔王「了解である!」
勇者(お前が一番心配だがな……)
商人「ではまたいつか機会がありましたらお会いしましょう」
商人「……行きましたか」
商人「……」
商人「……出てきてもいいですよ、ヒューイック。いるんでしょう?」
スタッバー「あれれ、やっぱりばれてた?」ヌッ
商人「ええ」
スタッバー「参ったなあ、俺もまだまだじゃん。やつらのこと言えないなー」
商人「殺さなかったんですね」
スタッバー「ん? やつらのこと?」
商人「上からは確実に始末するように命令が出ていたのでは?」
スタッバー「豚は太らせてから食えっていうじゃん? 俺もそうしようかと思って」
156 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 06:35:16.75 ID:lXTdPR800
寝たか
商人「私は構いませんが。……どうでした、彼らは」
スタッバー「正直期待はずれだったかなあ。あんなに弱いとは思わなかったよ」
スタッバー「でもまあ、伸びシロはあるかな。だからこそ見逃したわけだし」
商人「そうですか、よかったですね」
スタッバー「じゃあ、俺もそろそろ行こうかな。さっさと行って先回りしないと」
商人「行ってらっしゃいませ」
スタッバー「君も行かない?」
商人「遠慮しておきます」
スタッバー「……本当に?」
商人「私では足を引っ張ってしまいますから」
スタッバー「それ、本気で言ってる?」
スタッバー「ねえ、十三使徒の元ナンバー2さん?」
商人「…………」
商人「私は……」
商人「……私ではあなたを満足させることはできませんでした」
商人「それだけで十分です」
スタッバー「……」
スタッバー「……そか、残念」
スタッバー「それじゃ、また。機会があったら会おう。もっとも世界が破滅してなければだけど」スタスタ
商人「……行ってらっしゃいませ」
<船上>
魔王「わははは!」ゴッキュゴッキュ!
船長「勝手に酒を飲むな!」
魔王「わはははは!」ガー!
船長「勝手に舵輪に触れるなー!」
魔王「わははははは!」ヨジヨジ
船長「勝手にマストに登るなーっ!」
魔王「わはははははは!」ジャブジャブ
船長「勝手に海で泳ぐなーっ!!」
勇者「拝啓商人さま、俺たち早くも追い出されそうです……」
<夜.船上.あてがわれた狭い部屋>
勇者「……」
魔王「zzz……」
勇者(眠れねえ……)
勇者(……)
『我輩の手下になってくれ』
勇者(……)
勇者(……俺はこのままこいつに従っていていいのか?)
勇者(それでいいのか? 本当に?)
勇者(確かにこいつが言っていた世界の危機? その信憑性は高まっている)
勇者(でも、まだその根拠たる世界書云々の話自体がこいつの口からのでまかせだという可能性は否めない……そうして別の何かを狙っているのかもしれない)
勇者(……)
勇者(何より、こいつの話が全部本当だったとしても、それでもこいつに従わなければならない理由はあるのか?)
勇者(世界の破滅を食い止めるのに魔王と手を組むのが絶対条件か?)
勇者(冷静に考えてみろ、俺。世界がどうのなんてのはこの際二の次だ。俺は今、許されざる大罪を犯しているのかも知れないんだぞ? 呪いの首輪なんてどうでもいいほどの……)
勇者(勇者が、魔王に、従う……)
勇者(そして、俺の村……)
勇者(後悔、しないか、俺?)
勇者(………………)
勇者(本当の……本当の勇者なら……どうするだろうな?)
勇者(……本当の勇者? 馬鹿な。俺が勇者だ……)
『いやぁ血の気が多いね。さすがはモグリだ』
勇者(……!)
勇者(モグリ……だと?)
『もしかして地雷踏んじゃった? エセ勇者君?』
勇者(ちがう! 俺はエセ勇者なんかじゃねえ!)
勇者(……畜生、ふざけんなよ)
勇者(俺は勇者だ……真の勇者だ……!)
勇者(俺は弱くなんかねえ! 劣等種なんかじゃねえ!)
勇者(お前にも認めさせてやる!)
勇者(俺の力を!! 嫌というほどに!)
勇者(次にあったときはお前を殺す! 覚悟しろスタッバー!)
勇者(すぐにでもあいつを見つけ出して――)
『やーい、弱虫シェロ、悔しかったら俺たちに勝ってみろ!』
勇者(……!)
勇者(……ああ)
勇者(いやなこと思い出した……)
『落ちこぼれのお前が俺たちにかなうわけないだろ』
『お前じゃ勇者になれねえな』
『お前はずっと狭いところに引きこもってるのが似合ってるよ』
勇者「俺は……」
『お逃げ、シェロ!』
勇者(……! 母さん……)
<十数年前.昼.勇者の村>
教師「…………」
幼勇者「…………」
教師「ついに私の剣技教練の補習は君一人になったなシェロ君? ここまで長引くのは私の長い教師生活でも珍しいことだよ」
幼勇者「は、い……」
教師「私の言ってることがそんなに難しいかね?」
幼勇者「…………」
教師「君に欠けているものは多い。だが全てをこなせと言うつもりはない。ただ、君にはもっとも基本である闘争心が足りない。だからまずは積極性を持てと言っているだけだが?」
幼勇者「わかってます……」
教師「ならもっと努力したまえ」
幼勇者「……はい」
教師「よろしい。今日はもう帰りなさい」
幼勇者「ありがとう、ございました……」
教師「はぁ……」
幼勇者「……」トボトボ
「あ、落ちこぼれのシェロだぜ」
「またあいつ居残りかよ」
「かわいそ〜……」
「落ちこぼれるとつらいよねえ」
幼勇者「……っ」トボトボ
幼勇者「ただいま……」
勇者母「お帰りシェロ。……あんたまた居残りだったね?」
幼勇者「……」
勇者母「まったく恥ずかしいよ。いつになったらあんたはできる子になるんだい?」
幼勇者「……僕だって、がんばってる」
勇者母「なら結果を出しなさい。この村は代々勇者を輩出している誇り高き村なんだよ?」
幼勇者「……どうせ、僕は勇者になれない。英雄になれない。だったらこんな村に生まれなきゃよかった」
勇者母「……っ」パシン!
幼勇者「痛っ」
勇者母「何泣き言言ってんだい! あんたはそれだからだめなんだ!」
勇者母「もっと前向きになりなさい。あんたはやればできる子なんだから」
幼勇者「……」
勇者母「もうあんなこと言わないって約束しな」
幼勇者「……」
勇者母「いいね?」
幼勇者「……わかった」
勇者母「よし」
幼勇者(本当は母さんだってわかってるんだ。僕がどんなに努力しようがだめなことぐらい……)
幼勇者(僕がどうあがいたって勇者になんてなれっこない……)
幼勇者(僕は……僕は落ちこぼれ……)
ここは勇者の村
代々勇者を輩出してきた歴史を持つ村
ここで生まれた人々は皆、小さいころから勇者になるための訓練を課される
つらく苦しい鍛錬を乗り越えその頂点に立った人間一人が王から正式な勇者として認められ、はれて魔王討伐の命が下される
ここに生まれる人々は皆、生命力にあふれ、戦いの才能に恵まれている
戦闘を宿命として生まれてくる
しかし当然のことながら……
勇者に向かない子供というのも稀に生まれる
<剣術教練.スクール>
ヤー! パシーン! トゥ! パシーン!
教師「剣技試合始め!」
子供1「行くぞシェロ! やあ!」ブン!
幼勇者「うわわ……!」ゴン! バタ
教師「……。そこまで! 勝負あり!」
<魔術教練>
ヒカリヨ! ボッ――ドカーン!
教師「的をよく狙え!」
子供2「はい! “光よ!”」ボッ――ドカーン!
幼勇者「ひ、“光よ!”」プスン……
教師「…………」
教師「私の手には負えん……許可するから帰りたまえ……」
幼勇者「…………はい」
「えー、いいなー」
「落ちこぼれるとそんな特典もつくのか」
「俺も落ちこぼれたかったぜ」アハハ
幼勇者「…………」
<帰り道>
幼勇者「……」トボトボ
「やーい、弱虫シェロ、悔しかったら俺たちに勝ってみろ!」
幼勇者「……ぼくには無理だよ」
「落ちこぼれのお前が俺たちにかなうわけないだろ」
幼勇者「……わかってるよそんなこと」
「お前じゃ勇者になれねえな」
幼勇者「……わかってるってば」
「お前はずっと狭いところに引きこもってるのが似合ってるよ」
幼勇者「…………」
幼勇者「…………」グスッ
幼勇者「僕だって……僕だって、勇者に……」
<ある日の夜.幼勇者の家>
カッ――ズズーン……!
幼勇者「……う〜ん、むにゃ」
カッ――ドゴォォォ!
幼勇者「!」ハッ
幼勇者「……な、なんだ!?」ガバ
<外>
幼勇者「さっきの轟音はいったい……」
「魔物だー!」
「魔物が襲ってきたぞー!」
幼勇者「……!?」
幼勇者「ま、魔物?」
<村長宅>
村長「ふむ、魔物か」
補佐「ずいぶんと久しぶりのことですな」
村長「ああ。今回はどのくらい楽しめるかな?」ニヤ
補佐「いやはや、この村を襲うとは馬鹿な魔物ですな」
「伝令です!」
村長「うむ」
補佐「今回村を襲ったのはどのような魔物かね?」
「そ、それが……」
村長「どうした。はっきり言いたまえ」
「……上級魔族、およそ二百体です」
補佐「……なんだと?」
カッ――ドカァァン!
「きゃああああ!?」
「まて、逃げるな、応戦しろ!」
「われわれ勇者の力を思い知らせてやれ!」
幼勇者「か、母さんは?」
勇者母「シェロ!」
幼勇者「母さん!」
勇者母「あんた、勝手に家を飛び出しちゃだめじゃないか!」
幼勇者「ご、ごめんなさい……」
勇者母「何はともあれ無事でよかったよ……」
勇者母「…………。シェロ、いいかいよく聞きな」
幼勇者「?」
勇者母「この道をまっすぐ行くと抜け道があることは知ってるね?」
幼勇者「う、うん。昔からある脱出口だ」
勇者母「あんたはそこから逃げな」
幼勇者「え?」
勇者母「私の勘がこの戦いはよくないって言ってる……。シェロ、あんたは避難するんだ」
幼勇者「え、でも、そんな。ぼ、僕も戦わなきゃ……」
勇者母「あんたじゃどうせ戦力にならない」
幼勇者「でも! 逃げたらあとでまたみんなにいじめられる……」
勇者母「くだらないこと気にしてんじゃないよ!」
幼勇者「!」ビク!
勇者母「いいから逃げるんだ。もし私の勘違いだったらこっそり戻ってくればいい」
幼勇者「でも……でも……」
勇者母「もしそれでもいじめられそうになったら、そのときは私があんたを守ってやるよ」
勇者母「だから、お行き! 早く!」
幼勇者「母さん……」
幼勇者「……」
幼勇者「……っ」ダッ
<村の外.小高い丘の上>
幼勇者「ハア……ハア……」タッタッタ……
幼勇者「こ、ここまでくれば……」
幼勇者「……!」
幼勇者「村が……村が燃えてる……!」
幼勇者「母さん、どうか無事で――」
カッ――
幼勇者「え……?」
――ゴオオオオオオオオオオオッ!
幼勇者「……え?」
幼勇者(村が……)
幼勇者「村が、火柱に飲まれ、た?」
ゴオオオォォォォッ!
幼勇者「……」ヘタリ……
幼勇者「か……」
幼勇者「母さん……!」
幼勇者「……母さん!」
幼勇者「……」
幼勇者「…………」
幼勇者「…………っ」
幼勇者「く、そ……魔物ども!」
幼勇者「よくも……よくも母さんを……!」ドン!
幼勇者「よくも、よくもぉ……」グス
幼勇者「絶対に……絶対に許すものか……許してなるものか!」ポロポロ
幼勇者「絶対に許さない! 魔物どもは根絶やしにしてやる!」バッ!
幼勇者「僕は、いや、『俺』は今日から勇者だ! 誰が認めなくても勇者だ!」
頑張ってるな〜
支援
幼勇者「俺は誰よりも強くなってやる!」
幼勇者「強くなって、母さんの仇をとってやる!」
幼勇者「勇者がすべての復讐を果たす!」
幼勇者「待ってろ魔物ども!」
幼勇者「待っていろ!」
<現在>
勇者「zzz……」
魔王「zzz……」
魔王「……ぅ〜む」ムニャ……
魔王「父、上……」
魔王「……母、上」
<百数十年前.魔王城>
幼魔物「父上と母上に会わせてください! お願いですから!」
側近「なりません」
幼魔物「なぜ!」
側近「……」
幼魔物「そもそも、僕が何でこんなところに連れてこられなきゃならないのですか!」
側近「……」
幼魔物「話してください!」
側近「……いいでしょう。すべて、お話いたしましょう。次期魔王様」
幼魔物「次期、魔王……?」
側近「そうです、あなたは魔王になるのです」
側近「あなたは類稀なる身体能力と魔力をその身に宿していらっしゃいますね?」
幼魔物「! ……そんなの、知りません……」
側近「隠しても無駄です。われわれは何十年も前から魔王様候補を探していましたから」
幼魔物「……」
側近「あなたの力と才覚は近隣を大いに揺るがせ、その名を知らぬものは魔界にいないと聞いています」
側近「その年でそれほどの能力を持っていらっしゃる。あなたは魔王になるべくしてお生まれになったのです」
幼魔物「勝手に決めないでください!」
側近「……」
幼魔物「僕は帰ります」
側近「なりません」
幼魔物「そこをどいてください」
側近「いいえどきません」
幼魔物「あなたを殺すことはとてもたやすいですよ……?」
側近「ええ存じ上げております。その上で邪魔だてしているのです」
幼魔物「どいてください!」
側近「存じております。あなたは強大な力を持っておりますが、それを扱うにはあまりにも幼い。殺すだけの勇気がない」
側近「しかし反面、その力を無造作に振るわないだけの知性を持っていらっしゃる。だからこそ無理やりここにお連れすることができまし
た」
側近「あなたに私は、殺せません」
幼魔物「……っ」
側近「反対に私には殺されてでもあなたをとどめおく決意があります」
側近「絶対にここは通しませんよ」
幼魔物「……そこまであなたを突き動かすものはなんですか」
側近「先代魔王様とのお約束。そして」
側近「世界の破滅への恐怖、です」
幼魔物「世界の、破滅?」
側近「ええ、今、世界は破滅へと急速に向かっております。先代魔王様はそれをお止めになるため動いていらっしゃいました」
幼魔物「どういう、ことです?」
側近「……詳しいことはおいおい勉強していただきます。しかしこれはあなたをとどめおくための嘘ではありません。世界は本当に危機に
瀕しているのです」
幼魔物「…………」
側近「では、早速お勉強を始めましょうか。次期魔王様」
幼魔物「それでも、僕は父上と母上に会いたい……。どうしてもだめなのですか?」
側近「ことは目前に迫っているのです。ぬるま湯に浸っておられては困ります。それに」
幼魔物「?」
側近「あなたががんばらなければご両親も破滅に巻き込まれてしまいます」
幼魔物「!」
側近「わかりましたか?」
幼魔物「…………僕、は……」
側近「いけませんね」
幼魔物「え?」
側近「僕、では魔王としての威厳を保てません。あなたは、そうですね……」
側近「『我輩』、とおっしゃいなさい」
<現在.???>
「……女。それはまことであるか」
女魔術士「ええ本当よ。わたしは勇者と魔王がどこにいるか知っている」
「ならば早く教えるがよい」
女魔術師「嫌よ」
「……」
女魔術士「別にあいつらをかばっているわけじゃないわ。ちゃんと捕まえて連れてくるわよ」
女魔術士「ただね、わたしがあんたたちに力を貸すわけじゃないの。あんたたちがわたしに力を貸してほしいの」
「……つまり?」
スタッバー「あのブヨブヨ共を貸せってことでしょ、具体的には」
女魔術士「そう。あんたたちはあいつらを捕まえたい。わたしはわたしであいつらを捕まえたい理由がある。目的は一致している」
女魔術士「絶対に後悔はさせないわ。だからわたしを手伝いなさい」
「……」
スタッバー「いいんじゃない? 貸してあげれば?」
「……よかろう。ただし、絶対に仕損じるでないぞ」
女魔術士「もちろんよ」
※
「……」
スタッバー「うん? どうかした?」
「居場所を吐かせる方法はいくらでもあったのでは、と思ってな」
スタッバー「うん、そうだろうね。でも――」
「?」
スタッバー「このほうが面白そうじゃん」
「……」
スタッバー「ははっ」
「……お前はこの間、やつらをしとめそこなったと言っていたな」
スタッバー「うん、あいつら結構強くてさー」シラッ
「……。まあ、よかろう。次こそは止めを刺して来い」
スタッバー「大丈夫。今度こそ失敗しないから」
<半月後.船上>
船員「陸が見えたぞ〜!」
船長「ようし、わかった! みんな、船を寄せる準備をするんだ!」
船員s「うーす!」
勇者「やっとついたか。長かったな」
魔王「そうか? 我輩には至極短く感ぜられたが」
勇者「そりゃまあ毎日あんだけ暴れてりゃあな……」
船長「上陸ー! 上陸ー!」
<港町>
魔王「世話になった船長!」
船長「ああ、近くに寄ったら顔を見せてくれ。また一緒に酒でも酌み交わそう!」
魔王「是非!」
勇者(いつのまにか打ち解けてるし)
船長「ではまたいつか!」
魔王「さらばだ!」
勇者「どーも」
195 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 09:52:54.62 ID:HWbVTz8q0
り
※
勇者「さて、この道をまっすぐ行ったところが町の出口だ。装備には問題ないしさっさと行こうぜ」
魔王「ちょっと酒場に――」
勇者「却下」
魔王「(´・ω・`)」
老婆「そこのあんたがた」
勇者「あ? 俺たちか?」
老婆「そうそう。ちょっと占っていかんかい?」
魔王「ぜひ」
勇者「お前は黙ってろ……。悪いけど婆さん、こっちは手持ちも時間もないんだ。さっさと町を出なくちゃ」
老婆「金もとらんし時間もとらせんよ。あんたがたに興味があるだけなんだ。タダで占ったげるから」
勇者「?」
老婆「さて、ふむ。まずはあんたじゃね」
勇者「ほんとに早いな。……適当にやっただけじゃないのか?」
老婆「失礼な。これでも腕は確かじゃよ」
勇者「それで? 早くしてくれよ」
老婆「あんた、今悩んでおるね?」
勇者「そんな大雑把な質問、当たるに決まって――」
老婆「早くに決着をつけなさい。じゃないと大切な人が取り返しのつかないことになるよ」
勇者「……。はいはい……」
老婆「それと……」
勇者「?」
老婆「劣等感もほどほどに」
勇者「!?」
勇者「おい、それ、どういう――」
魔王「次は我輩であるな!」
勇者「おい、まだ俺の話は――」
老婆「あんた死ぬわよ」
魔王「ワッツ!?」
老婆「あんた死ぬ」
魔王「ホワイ!?」
老婆「さてね。死にたくなきゃ、そうだね、途中の祭りで買い物でもするといいかもしれんね」
魔王「いきなり死の宣告とかマジ心臓に悪い……買い物か……」
勇者「だから俺の話を……まあ、いいか」
老婆「気をつけていくんじゃよー」
<昼.街道>
勇者(……魔王についていっていいのかどうか)
勇者(……結局答えの出ないまま海を渡っちまったな)
勇者(……しかし……実際のところそれはどうでもいいんだ。俺は、俺自身は結局の所どうしたいんだろう?)
勇者(俺は……)
勇者(……とりあえずスタッバーのやつをぶっ飛ばしたい)
勇者(あの野郎をぶっ潰して俺を認めさせてやる……!)
勇者(……とりあえずそのことだけを考えていればいいか……)
勇者(どうせ首輪をどうにかしないと、考えても無駄だしな)
勇者(……)
勇者(……劣等感、か)
魔王「さあて、海も越えたし王都はもう目の前だな! 途中で不吉なことを言われたが」
勇者「ああ、このペースだとあと十数日もすれば王都に到着する。……が」
魔王「が?」
勇者「俺たちは指名手配されてるし、冷静に考えてみるとそう簡単に入れるわけがないな」
魔王「それは確かに。ここまで来るのに王都軍とぶつからないのは不自然すぎる」
勇者「魔王城までのルートがいくつかあるからな。おそらく兵力の分散や入れ違いを恐れて王都に集結させているんだろう」
魔王「では王都に入るまではすいすいいけるということか?」
勇者「そううまくはいかないんじゃねえか」
魔王「それもそうか。――あんなふうにな」
勇者「ああ」
女魔術士「……」
女魔術士「……遅かったじゃない、待ちくたびれたわ」
勇者「ハル……」
女魔術士「シェロ、助けに来たわよ」
魔王「そう簡単にシェロは渡さんぞ」
女魔術士「あんたの都合なんて関係ないわね。シェロは私がもらっていくわ」
勇者「お前ら俺を物扱いすんじゃねえ」
魔王「今回は一人で来たのかおなごよ」
女魔術士「いいえ。――出てらっしゃい」パチン!
ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン――
刺客s「キキー!」
勇者「げっ、またあいつらか」
魔王「十体か、多いな。……なぜお前が王都からの刺客を従えている?」
女魔術士「答える必要はないわね」
女魔術士「ここで降参してシェロを開放するなら、見逃してあげないこともないわよ魔王?」
魔王「我輩は世界を救わなきゃならん。その申し出は謹んで辞退させていただこう」
女魔術士「またそれ? あんたたち王都にいったい何の用事があるっていうのよ」
魔王「言えば通してくれるのか?」
女魔術士「いいえ。それだけは絶対にないわね」
魔王「そうか。そうであろうな」
女魔術士「それじゃ……行きなさいあんたたち!」
刺客s「キー!」ブワワ!
魔王「来るぞ!」
勇者「……」
魔王「“氷河よ!”」ビュオウ!
刺客1.2.3「キ……」カチコチン!
勇者「でぇりゃっ!」ババキ! ガラガラ
勇者「よし! 三体撃破!」
刺客4「キキー!」シュッ!
魔王「(針!)“盾よ!”」キン!
女魔術士「あんたたち、囲みなさい!」
ヒュンヒュンヒュン――
勇者「チッ」
残ってた
支援
女魔術士「そのまま串刺しにしちゃって!」
ビシュシュシュシュ――――!
魔王「勇者!」
勇者「“我は踊る天の楼閣!”」ピシュン!
女魔術士「な!? 空間転移!?」
ピシュン!
勇者「距離をとったぞ!」
魔王「よし、これでほぼ一網打尽であるな」
女魔術士「しまった!」
魔王「“氷河よ!”」ビュオオォォォ!
刺客s「キ……」カチコチカチン!
勇者「おら!」バババキン! ガラガラガラ……
刺客10「キキー!」
魔王「一匹残したか」
勇者「魔王、ハルを任せていいか?」
魔王「ぬ? やはりおなごとは戦いたくないか?」
勇者「……仮にも、……元パーティーだ」
魔王「ふむ、ではこちらは任せた」ダッ
刺客10「キ!」ブワ――
勇者「おっとそっちは行かせねえ。お前の相手は俺だ」ザッ
ザッ……
魔王「よう、おなご。久しぶりだな。あれから少しは成長したか?」
女魔術士「……うっさいわね」
魔王「前のまま、ということか」
女魔術士「黙りなさいよ……」
魔王「それでは我輩には勝てん。シェロは取り戻せんぞ?」
女魔術士「黙れっつってんでしょ。シェロは私が必ず取り戻すんだから……!」
魔王「今度は最初から全力で行くぞ」ブオン……
女魔術士「来なさい! 叩きのめしてあげる!」バッ!
刺客10「キキー!」シュッ!
勇者「効くか!」カキン!
勇者「ふん!」ブン!
ブニュン!
勇者「やっぱり斬れないか……」
刺客10「キ!」ビシュシュシュシュ!
勇者「……」バックステップ
刺客10「キキ」ガキガキガキン!
勇者(剣の形に!)
刺客10「キー!」ビュッ!
勇者「くっ……」キン
グニョン――
勇者(剣先が曲がった!?)
チッ――!
勇者(っ……頬をかすった。だが傷はない……)バックステップ
女魔術士「“赤の刺激!”」ボッ!
魔王「“光よ”」ボッ!
ドッ――
女魔術士「(相殺……)“青の刺激!”」バリバリバリ!
魔王「“雷よ”」バリバリバリ!
ゴッ――
魔王「これも相殺。二歩近づいたぞ」
女魔術士「う……」
魔王「お前が一手しくじるたびに一歩。これで三歩だ」
女魔術士「“緑の爆鳴!”」ギイン!
魔王「“盾よ!” 四歩目!」キキン!
刺客10「キキキー!」シュ!
勇者「シッ――」キイン!
勇者「“我は流す天使の息吹!” 吹き飛べ!」ビュオオォォォ!
刺客10「キ……」ヒュオウ!
勇者「よし、これで距離は取れた! 終わりだ!」
勇者「“我が契約により――”」
刺客10「キ!」ビシュシュ――
勇者「遅い! “――聖戦よ終われ!”」
カッ――! ビシュウ!
……――シン……
勇者「消滅魔術だ。チリのひとつも残らなかったな」
勇者「俺の、勝ちだ」
女魔術士「あ……“赤の刺激!”」ボッ
魔王「“盾よ” これであと四歩だ」キン!
女魔術士「(止まれ……)“紅の疾風!”」ボッ ヒュンヒュンヒュン!
魔王「“盾よ” 三」キン!
女魔術士「(止まれ、止まれ)“無色の咆哮!”」ゴオオォオ!
魔王「“盾よ” 二」
女魔術士「(止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!)“黒の言葉よ!”」キィン!
魔王「“盾よ” 一」
女魔術士「来るなあ!」
魔王「ゼロ。これで終わりだおなごよ」スチャ
女魔術士「う、ぐ……」
魔王「また、シェロを取り戻せなかったな」
女魔術士「……っ」
魔王「お前では無理だ。男など一人ではあるまい。別の伴侶でも探すんだな」
女魔術士「……どういう意味よ?」
魔王「シェロのことは諦めろ、そう言っているのだ」
女魔術士「なんであんたなんかにそんなこと……」
魔王「我輩はシェロを手放す気はない。そしてお前には力がない。必然的にそういうことになると思うが」
女魔術士「ふざけないで……」
魔王「……」
女魔術士「わたしはシェロのことを諦める気なんてない!」
女魔術士「決めた……どんな手を使ってでもあんたを倒すわ。そしてシェロを取り戻す!」
魔王「見苦しいぞおなご」
女魔術士「言ってなさい! すぐに後悔することになるわ!」
女魔術士「“鈍の扉!”」ピシュン!
魔王「……。行ったか……」
勇者「片付いたみたいだな」
魔王「ああ」
勇者「……ハルは?」
魔王「逃げた。どんな手を使ってでもお前を取り戻すそうだ」
勇者「……。そうか……」
魔王「今後どのような手を使ってくるかわからん。不意打ち闇討ちにも気をつけなければならんな」
勇者「……」
魔王「では、行こうか」
勇者(……)
『早くに決着をつけなければ――』
勇者(……)
<???>
「それで? お前はしくじった、ということか」
女魔術士「……」
スタッバー「あーらら」
「後悔はさせない。そう聞いたような気もするが……」
女魔術士「……まだよ」
「……」
女魔術士「まだ、わたしの手は尽きたわけじゃないわ」
女魔術士「と、いうより――」
「……」
女魔術士「あんたたちの手は尽きていない。そうでしょ?」
スタッバー「お?」ニヤ
女魔術士「次はそれをわたしに貸しなさい」
「……」
女魔術士「悪い話じゃないはずよ。わたしはどんな代償でも払うつもりだから」
「……さて」
スタッバー「いいんじゃない? 使っちゃおうよ、アレ」
「……。よかろう……しかし覚悟するのだな。対価は大きく、得られるものは少ない」
女魔術士「言ったでしょう。わたしの覚悟はできている。あとはあんたたちの覚悟だけよ」
スタッバー「っは、いいね、びりびりしてきた」
女魔術士(……シェロ、待ってて。もうすぐだから……)
<一週間後.昼>
勇者「……」
魔王「……シェロ?」
勇者「……」
魔王「シェロ」
勇者「……ん、どうした」
魔王「それはこちらの台詞だ」
勇者「俺は……別にどうもしねえよ」
魔王「そうか?」
魔王「……行く手に何か見えてきた。村ではないようだが、どうする? 寄るか?」
勇者「……行こう」
<村の跡>
ザッ ザッ ザッ
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……何もないな」
勇者「今はな」
魔王「どこもかしこも焼けた家の跡だらけだ」
魔王「それも長い間このままといった感じで」
魔王「人の気配など微塵もしない……」
勇者「……」
魔王「ここは……もしや……」
ザッ……ピタ
勇者「ここは」
魔王「……」
勇者「十数年前に魔族の大群に襲われて火の海になった村だ」
魔王「……」
勇者「それまでは毎年勇者を輩出してきた由緒正しい村だった」
魔王「……」
勇者「俺の村。俺が生まれ育った村だ。十数年前俺が旅立った、いや、旅立たざるを得なかった村」
魔王「……」
勇者「魔王お前……」
勇者「やはり『知っていた』な……!?」
魔王「……」
勇者「数十年前この村を襲った魔族ども、よく考えるまでもなくこの付近にいる魔族ではなかった」
魔王「……」
勇者「とするならば、あの魔族どもは『この村を襲うため』に大群を組み、やってきたというわけだ」
魔王「……」
勇者「つまり、あれは魔王の命令だったんだ」
魔王「……」
勇者「俺の村は、『お前の』手によって滅ぼされた……!」
魔王「……」
勇者「……黙ってないでなんとか言ったらどうだっ!!」
222 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 12:29:44.36 ID:K4jlhJhUO
しえ
魔王「……言い訳をするわけではないが……十数年前、我輩はまだ魔王の座にはなかった」
勇者「……」
魔王「……知っているかシェロ。勇者というのは人工的平和維持を守るための駒なのだ」
魔王「先代魔王は人工的平和維持に気付き、それを破棄させようとした。それに対抗して勇者という人種が求められた」
魔王「そのために勇者の村というのが生まれた……いや、『作られた』わけだ」
勇者「……」
魔王「最初はそれほどの脅威ではなかったらしいな。多少目障りな程度で」
魔王「しかし百数十年前、先代魔王が打ち倒されたのを契機にまったく変わってしまった」
魔王「魔族の間で声が高まった」
魔王「勇者の村を滅ぼせ。そのような」
勇者「……」ギリ……
魔王「はじめはそのような乱暴な案、反対の声も大きかったらしい。しかし次第に人間が力をつけ、勇者たちの力が組織化されさらに強大
になるにつれ、無視できないものになった」
魔王「魔族も恐怖していたのだろうな。勇者の力に」
魔王「そして、そのころ実権を握っていた現我輩の側近――お前も会ったな――が最終的に判断を下した。勇者の村を滅ぼすように、と」
勇者「だから何だ! 自分は悪くないとでも!?」
魔王「そうですが何か?」
魔王「……シェロ、聞け」
勇者「……」
魔王「我輩は小さいころに父上、母上と別れた。魔王となるためだ、仕方なかった」
魔王「我輩は以来、父上と母上とは会っていない。どこにいるのかも、生きているのかもわからない」
魔王「だが、だからこそ! 我輩は父上と母上を守りたい……! 世界が破滅するというならそれをなんとしてでもとめてみせる……!」
魔王「だからシェロ。たとえそのとき我輩が魔王の座にあったとしても同じことだ」
魔王「我輩はな、シェロ。自分の正義と思ったことはたとえ残酷であろうとやるだけだよ」
勇者「……」
勇者「チッ……だからなんだってんだ。俺の村が滅んだのはしょうがなかったってのか?」
勇者「俺の母さんが死んだのは仕方なかったと!?」
勇者「ふざけんな!!!」
魔王「……」
勇者「俺がどんな思いでお前についてきたかわかってるのか?」
勇者「どんなに殺してやりたかったことか!」
勇者「どんなに……っ」
魔王「それは」
勇者「……?」
魔王「英雄になるためではないのか?」
勇者「……んだと?」
魔王「お前がひどいコンプレックスを抱えていたのはなんとなく予想がつく」
魔王「あのスタッバーに対して見せた過剰なまでの敵愾心。あれはそういうことだろう?」
魔王「お前が後生大事に抱えていたのは、本当に復讐心なのか? 憎悪なのか? 劣等感ではないのか?」
勇者「てめえ……!」
魔王「お前、本当は――」
勇者「うるせえ! 黙れっ!」
勇者「お前は殺さなきゃなんねえ……世界の破滅ぅ? 知ったことか!」
勇者「お前はここで終わりだ!」ジャキン!
魔王「……いいのか? 死ぬかもわからんぞ」
バチッ……
勇者「呪いの首輪か? そんなの屁でもねえよ。なんならお前と相打ちでもかまわねえ」
勇者「お前は気に入らねえ。お前に一矢報いれるのなら――」
勇者「ここで死んでも本望だっ!」バッ
――ガキィィン!
魔王「くっ……」ギギギ……
勇者「おらぁ!」グググ……
バチッ――!
勇者「ぐあっ」ビリビリビリ――
ビリビリ
勇者「――っく、こんなものぉ!」ビリビリビリ――
魔王(あの電撃を耐えている……)
勇者「くらえ!」ビッ!
魔王「ぬお!」ガゴオ!
勇者「おらあ!」シュッ!
魔王「く!」カィィン!
勇者「最後だ! “絶命け――!”」
魔王「“円舞陣!”」ギュオ!
ズババシュゥ!
勇者「が!」
魔王「シェロ、お前の気持ちもわからんでもない」
魔王「我輩が憎いだろう」
魔王「だが先刻も言ったとおり、我輩は我輩で貫き通したいものがある……!」
魔王「我輩はこの世界を守るぞ!」
魔王「それでも来るというならば――」
魔王「よかろう! 望みどおり殺してやる! 来い! シェロ!」
勇者「おおおおおおおおおおおおおおお!」ダッ
魔王「シッ――」タンッ
「“があああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁ――――ッ!”」
魔王・勇者「!?」
カッ! ――ドゴオオォォ!
勇者「な……」
魔王「何だ……!?」
モクモク モクモク……ブワ――
魔王「あれは……」
勇者「……ハル!?」
女魔術士「……」ユラリ……
あちてない!!
でかかる前にちょっと支援
女魔術士「フー……フー……」
勇者「ハル……」
魔王「今は取り込み中だおなご。せめて我輩を倒せるようになってから出直して――」
女魔術士「ギッ……」
勇者「……!?」
女魔術士「ガ……ッ」ビクン!
魔王「……様子がおかしいな」
勇者「お、おいハル、大丈夫か……?」
女魔術士「“がァッ!”」ボッ!
魔王「!」
ドゴオォッ!
勇者「おい! ハル! どうしたんだ!」
女魔術士「ぐ……」
勇者「ハル! まさか俺がわからないのか!?」
女魔術士「ぎ、“があああああああ!”」
カッ! ――ドゴゥッ!
勇者「痛ぅ……」
魔王「なんだかわからんが……応戦だ」
魔王「“光よ!”」ボッ!
女魔術士「ギ……」
ズドッ!
女魔術士「グ……」
魔王「無傷? 効いていないのか? 直撃したはずだぞ?」
女魔術士「“ああああああああ!”」ゴッ!
魔王「く、“盾よ!”」
――バギン! ドゴォッ!
魔王「ぬおお!」ドサア!
勇者「ハル……いったい何が……!?」
女魔術士「ゼイ……ゼイ……」
女魔術士「シェ……」
女魔術士「……シェロ……!」
勇者「ハル!」
女魔術士「“うああああああああああああ!”」ズッ!
ドゴッ!
勇者「ぐっは……」ドサ
魔王「いったい何なのだ……? おなごに何があった?」ムクリ
魔王「威力が以前と桁違いだ……この短期間にいったい何を……いや、何が……」
女魔術士「“がああああああ!”」カッ!
魔王「まずい!」バッ
ズガガガガガ!
魔王「……まさか」ズザ
勇者「ハル……!」
魔王「シェロ! 生きているか!?」
勇者「ああ……」
魔王「いったん退くぞ、いいな?」
勇者「……」
魔王「“異界よ!”」ピシュン!
女魔術士「くああああああああああ!」
<村の跡.離れた場所>
――ピシュン
魔王「……ここまで飛べばとりあえずは大丈夫であろうな」
勇者「ハル……いったい何が……」
魔王「…………」
魔王「……我輩にも正確なところは見当がつかん」
魔王「今わかってるのは、こちらの言葉に反応しないこと、おなごの魔力が異常なまでに上昇していること、我輩の魔術では傷ひとつつか
なかったことだけだ」
勇者「……」
魔王「しかし感触として、あれは……半分ばかし魔物化しているな……。しかも強力な」
勇者「魔物化……だと?」
魔王「我輩の感想に過ぎんよ。……だからこれから言うことも話半分に聞いてくれ。我輩の推測だ」
魔王「それまでは休戦ということでよいか?」
勇者「……わかった」
魔王「――結論から言う。……あのおなご、もう長くはないぞ」
勇者「なんだと? そりゃどういう意味だ!?」
魔王「順を追って話そう」
魔王「話は人工的な平和維持までさかのぼる。それは異世界との契約により成されたと話したな。覚えているか?」
勇者「ぎりぎり……」
魔王「あの時は簡潔に説明したためそこで終えたが、もうちっと詳しく説明しよう……」
魔王「――異世界との契約。意味はわかるか」
勇者「……さっぱりだ。そもそもなぜいきなり異世界という単語が出てくるのかわからん」
魔王「そうだな。そうだろう……。ではたとえ話をしよう」
魔王「――お前の部屋がたくさんのごみに埋もれて汚くなってしまった。さて、お前はどうする?」
勇者「どうするって……そりゃ掃除をするな」
魔王「ごみは?」
勇者「……捨てるなり何なりするだろう」
魔王「そのとおり。……話を異世界のことに戻そう。このとき異世界というのはこちらの世界のごみを捨てるためのゴミ捨て場の役割をす
るのだ」
勇者「ゴミ捨て場……?」
魔王「うむ」
勇者「ゴミって、何だ?」
魔王「平和を維持するために不必要なもの。戦乱を巻き起こす火種となるもろもろの要素のことである」
魔王「――コップ一杯の水がある。その中に一滴のインクをたらした。インクは水に拡散し、やがて溶け込んで見えなくなった」
勇者「……」
魔王「さて、お前はその一滴のインクをどうやって取り戻す?」
勇者「はぁ? そんなの無理に決まって――」
魔王「そう、無理なのだ。戦乱の火種もそれと同じ。どんなに尽力しようが歪みは生まれ、やがて大きな渦になる。それをとめることなど
誰にもできない……」
勇者「……」
魔王「ならば……と昔の人間か魔物――もしくはもっと別の何か――は考えたようだ」
魔王「その戦乱の火種、人々のカオスを望む心、乱のエントロピーの増大。それらを別の世界に捨ててしまえば平和の維持は可能だと」
勇者「……!」
魔王「それが」
勇者「人工的な平和維持の正体……!」
魔王「異世界はこちらの世界ほどしっかりとした形を持っていないらしい」
魔王「当然命と呼べるようなものもなく、曖昧模糊とした怠惰にも似た何かが漂っているだけだと……」
魔王「そこにこちらの偏ったエネルギーを詰め込んだ」
魔王「異世界のカオスは形を持った」
魔王「こちらの世界を破壊しつくす何らかの意志。そのようなものに、なった」
魔王「世界の終局はとても近いところにある……」
勇者「…………」
勇者「……それとハルと、どういう関係がある?」
勇者「どうしてハルはああなった!? 説明しろ、魔王!」
魔王「あのおなごは魔神と契約を交わしてしまったのだろうな」
勇者「は? 魔神?」
魔王「異世界よりの破壊意志を便宜的にそう呼んだまでだ。深い意味はない」
勇者「つまり、人工的平和維持の契約と関係があるんだな?」
魔王「繰り返すが推測でしかない。だが可能性は高い」
魔王「あのおなご、人工的平和維持の契約に触れたのだろう」
魔王「異常なまでの魔力増幅。こちらの攻撃の無効化」
魔王「エネルギーの吸収と蓄積したエネルギーの放出。そう見れば人工的平和維持契約の性質とよく似ているのだ」
勇者「……ちっくしょう、それでハルは変になっちまったってのか?」
魔王「おそらくな」
勇者「それで、じゃああいつは、ハルは――」
「“あァぁああ!”」カッ――
ドゴオオォォン……!
魔王「……来たな」
勇者「……」
魔王「まだ聞きたいこともあるだろうが、まずはおなごを無力化しなければならん。……いけるか?」
勇者「だが……!」
魔王「あのまま放っておくわけにもいくまい。……想い人なのだろう?」
勇者「! ……ああ」
魔王「ならば行くぞ」
女魔術士「“――ガァッ!”」ゴッ!
ズガガガガガガッ!
魔王「くっ……」ザッ
魔王「おなごよ! 聞こえているか!?」
女魔術士「フー……フシュー」キッ
魔王「……。そうか、悪魔に魂を売ってしまったか!」
女魔術士「……」
魔王「そんなにシェロを取り戻したかったのか?」
女魔術士「……シェ……」
魔王「そんなことに手を出してシェロが喜ぶとでも思ったのか!?」
女魔術士「シェロ……」
魔王「目を覚ませ、うつけが!!」
女魔術士「“があああああ!”」カッ!
魔王「“光よ!”」ボッ
ドゴオオオォオォォォ!
魔王「ぐっ……(やはり押し負けるか……!)」
魔王「そんな体になってどうするつもりだったのだ!」
魔王「シェロを我輩から開放できれば後はどうでも良かったと!?」
魔王「とんだ正義感だな! 曲がった愛だ!」
女魔術士「“シェロオオォォ!”」カッ!
魔王「! “炎よ!”」ジャッ!
バゴオオォォォォ!
魔王「がはっ!」
魔王「シェロを救ったあとはどうする!?」
魔王「お前も無事では済まんぞ!」
魔王「代償は大きい! 得られるものは少ない!」
魔王「シェロがお前の無事を願わないとでも!?」
女魔術士「シェ……ロ……」
女魔術士「“ああああぁぁぁああああああぁぁ!”」キィィィン!
魔王「シェロ! いまだ!」
勇者「こっちだ、ハル!」バッ!
女魔術士「!」
勇者「“我が左手に――”」
女魔術士「“があああああ!”」
勇者「しま――っ」
魔王「“縛縄よ!”」シュルルルルル――
ギシ!
女魔術士「っ!」
魔王「よし、おなごは縛った!」
魔王「行くぞシェロ! 挟み撃ちだ!」
勇者「……応!」
勇者「“我が左手に――”」
勇者「“――冥府の像!”」ゴッ! 魔王「“天魔よ!”」グオ!
ガゴゴッ!
女魔術士「――――ッ!!」
ドサ……
さるったのかしら
※
勇者「おい、ハル! ハル!」
女魔術士「……」
勇者「ハル! 目を開けろ……返事をしろ!」
女魔術士「……」
勇者「ハル! チッ……くそっ! ダメージが大きすぎたのか!?」
魔王「外傷は少ない。契約がおなごを守ったのだろう」
勇者「だったらなぜ目を覚まさない!?」
魔王「……」
勇者「さっきハルはもう長くないと言っていたな!? あれはどういう意味だ!」
魔王「……そのままの意味である。おなごの命は風前の灯なのだ」
魔王「人工的な平和維持。その規模は一個の生命に対し果てしなく大きい」
魔王「いち生命体が干渉するにはあまりに苛烈すぎるのだ……」
勇者「そんな……じゃあ」
魔王「おなごは、もう助からん」
勇者「……馬鹿な! でたらめ言うな!」ガシ!
魔王「我輩の胸倉を締めたところで事実は変わらんよ」
勇者「くっ……」
勇者「…………」
勇者「……そんな」
魔王「……そんな顔をするな。助からないのはこのままの状態を継続した場合の話だ」
勇者「!?」
勇者「助ける方法が、あるのか?」
魔王「……ああ」
勇者「教えろ!!」
魔王「至極簡単な話だ。そのおなご、人工的な平和維持の契約に割り込む形で力を得、代償を負っている。ならば――」
勇者「契約の破棄でハルは助かる……?」
魔王「そういうことだ」
勇者「っ……」
勇者「んだよ……ビビらせんなよ……」
勇者「……よかった」
勇者「……」
勇者「ハル……」
『あなたはわたしが絶対助けるわ!』
勇者「……お前、俺のために……」
『大切な人が取り返しのつかないことに――』
勇者「……」
勇者「……ああ、そういうことかよ……」
勇者「ハルは俺のために……。俺がずっと迷っていたから……」
魔王「我輩が無理やり連れてきたのだ、仕方あるまい」
勇者「…………」
勇者「違うんだ……違うんだよ、魔王。俺だって仮にも勇者だ。呪いの解除はできなくても、逃げ出すぐらいなら当たり前にできたんだ…
…」
勇者「俺はそれでもどっちつかずのまま、宙ぶらりんのまま……」
勇者「どっちだって良かった……! 俺がちゃんと決めていれば! ハルは!」
魔王「……」
勇者「俺が中途半端なままだったから……」
『あんたって強いけど、でも脆いわね』
勇者「……は」
『余裕がないからそうだっつってんの』
勇者「……まったくだ……俺はいつも焦ってばっかで」
『仕方ないからあんたについてってあげる』
勇者「はは……」
『ほっとけないしね』
勇者「……はは……」
勇者「………………」
魔王「………………」
勇者「魔王」
魔王「……何だ?」
勇者「俺、世界を……ハルを救うよ」
魔王「……」
勇者「でも、足りない。俺だけじゃ、絶対足りない」
魔王「……」
勇者「だから、俺を手伝ってくれ。俺に力を貸してくれ」
魔王「いいのか? 我輩はお前の村を――」
勇者「それは許せねえ」
魔王「……」
勇者「許す日が来ることは、絶対、ない」
魔王「……」
勇者「でも、お前だって守りたいものがあった。今ならわかる」
魔王「……」
勇者「だから、今はいい。今はもっと大事な事がある。過去より今。今より明日」
勇者「だから、俺に力を……」
魔王「……」
魔王「よかろう。共に行こう、シェロ」
<???>
「……失敗か」
スタッバー「みたいだよ」
「あの小娘……せっかく……」
スタッバー「仕方ないんじゃないかな、あんたが楽をしようとしてそうなったんだから」
「何?」
スタッバー「確実に始末したいなら自分でやればいいんだ。違うかな?」
スタッバー「――キムラック神殿大神官様?」
大神官「……貴様」
スタッバー「おっと、そんな怖い顔しないでよ。別にあんたに逆らうわけじゃないさ」
スタッバー「それに安心していいよ。次は俺が出るから」
スタッバー「俺が確実に仕留めてきてあげるよ」
大神官「……下がれ」
スタッバー「うーす」
<翌日.昼.交易の街.豪邸>
「――それで?」
「君たちは何をお望みかな?」
勇者「……」
勇者「少女一人のための医療体制」
勇者「……そして――」
魔王「王都への、侵入手段だ」
<一時間前>
勇者「……もうすぐで次の街に着く」
魔王「王都のひとつ手前の街……」
勇者「交易の街だ」
勇者「ついにここまで、って感じだな」
勇者「つ――よいしょっ」
魔王「そろそろ代わるか? あれからおなごはずっとお前が背負っているが」
勇者「いいんだ。俺なりの罪滅ぼしのつもりだから」
魔王「そうか……」
よいしょっと
<街の中>
勇者「さて……」
魔王「これからどうするのだ? 次の王都はそう簡単には入れまい」
勇者「そうだな。ハルのことも考えなきゃいけない」
魔王「まさか連れて行くわけにもいかないしな」
勇者「ああ。だからそれら諸々をこの街で解決しておく」
魔王「あてはあるのか?」
勇者「一応。ただ――」
魔王「ただ?」
勇者「どうコンタクトを取ったものか……」
魔王「?」
「すいません、よろしいでしょうか」
魔王「なんだ、お前は」
「私、あるお方からあなた方をお連れするよう命じられております。どうかご同行願えませんか」
勇者「あるお方?」
「ついてきていただければおのずとわかります」
魔王「ふむ……」
「王都への侵入手段をお探しなのでしょう、『勇者様』に『魔王様』?」
勇者・魔王「!」
「ついてきていただけますね?」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……よかろう」
勇者「……わかった」
<豪邸>
「お連れしました」
「ご苦労」
魔王「……」
勇者「……」
「いきなり引っ張ってくるようなまねをしてすまなかったね、二人とも」
勇者「まさか大商人のあんたの方からお呼びがかかるとは思わなかったよ」
魔王「……では?」
勇者「ああ、『あて』だ」
大商人「エリムだ、初めまして。以後よろしく、勇者のシェロに魔王のニギ」
魔王「……」
大商人「背中の少女はあちらの部屋に寝かせたまえ」
勇者「お言葉に甘えさせてもらうぜ」
大商人「さて、勇者に魔王。結託したとは聞いていたが、まさか本当だとはね」
魔王「なぜ我輩らだとわかった?」
大商人「私の情報網をなめてもらっては困るね」
大商人「君たちは最接近領の酒場で暴れて、その結託を知られることになった。その後山賊を従えた少女に襲われ、撃退」
大商人「また、同日襲ってきた王都からの刺客も撃退。港町で船を調達し海を渡る」
大商人「その後は面倒だから省略させてもらうよ」
大商人「そして今日君たちはこの街に入って私からの招待を受けたわけだ」
勇者「……すごいな」
大商人「それに勇者君、君のしているペンダント。それは勇者の村の紋章だね」
勇者「……!」
大商人「剣に翼を広げた一本足のドラゴンが絡みついたデザイン。うん、特徴的だ」
大商人「つけているかどうか確証はなかったが、おかげですんなり見つけることができた」
勇者「……偽者かも知れないぞ?」
大商人「君は私たちを何だと思ってるんだい? 世界最高峰の交易の街、タフレムのトップトレーダーだぞ? 真贋の区別くらい朝飯前さ
」
魔王「恐れ入った」
大商人「――さて私が呼び出しておいてなんだが、先に聞いておこう」
大商人「君たちは何をお望みかな?」
※
大商人「なるほど、少女の保護と、王都侵入の手段ね」
勇者「……」
大商人「ふむ、君たち、大それたことを考えているね?」
魔王「……さてな」
大商人「王都の転覆か、はたまた世界征服か……」
勇者「そんなの陳腐すぎて今どき子供でも言わねえぞ?」
大商人「はは、冗談さ」
大商人「……うん、そうだな、その望み叶えてあげてもいいよ」
魔王「条件は?」
大商人「おっと先回りされたか。そうだね、叶えてあげてもいいが条件がある。とっちめてほしい人物がいるんだ」
勇者「誰だ?」
大商人「ヒューイック……っていうんだけど、知ってるかい?」
勇者「何……!?」
大商人「おや、その様子だと知っているみたいだな」
大商人「実はそいつ、私の所に脅迫状を出してきたんだ」
大商人「私たちを皆殺しにするそうだ。一週間後に」
大商人「商売柄恨まれることも多いが、殺すと明言されたことは少ないな」
大商人「……私からの要望はひとつ。そいつを撃退してほしい」
勇者「……あんた、奴のことどこまで知っている?」
大商人「そうだね……そうだなあ。そんなに多くのことを知っているわけじゃない、残念ながら」
大商人「優秀なスタッバーってことぐらいかな。つまりぜんぜん知らないということだ」
魔王「……そうか」
大商人「というわけで引き受けてもらえるだろうか」
勇者「……」
大商人「と、いっても選択肢は最初から一つしかないな。卑怯かもしれないが。君たちは引き受けるしか道はない。なぜなら少女の保護は
ともかく、私以外に王都侵入の手段を確保できる人物はいないから」
魔王「……そのとおりらしいな」
大商人「よし、決まりだ」
勇者「……とは言っても、まずは残念なお知らせだ」
大商人「うん?」
魔王「我輩ら、奴と戦い既に敗北している」
勇者「チッ……」
大商人「彼、強いのかい?」
魔王「強いなどというものではない。我輩ら二人がかりでも軽くあしらわれてしまった。」
大商人「それはそれは……」
勇者「あと一週間。そう簡単に逆転はできないだろうな」
大商人「困ったな。君たちは私が知る中で最強の二人だよ。ほかに用心棒のあてもない」
大商人「つまり、あと一週間で君たちが強くなるしかないわけだ」
勇者「簡単に言ってくれるな……」
大商人「大丈夫、コーチのあてならある」
魔王「む?」
大商人「君たちより強くて雇える用心棒の心当たりはない。でも君たちより強い人間の心当たりなら、ある。そういうことさ」
273 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 16:49:51.09 ID:6FOkcHqTO
yoke
<夕方.郊外>
『郊外に出てこの地図のとおりに行くんだ』
『チャイルド・フィールといって、ちょっと気難しいけど悪い人じゃないからめいっぱいしごいてもらってくるといい』
『ああ、彼女のことは心配しなくていい。責任もって預からせてもらうよ』
勇者「――と言われて来たが」
魔王「あの小屋ではないか?」
勇者「ほかにそれらしいものもないしな。行こう」
<小屋前>
――コンコン
勇者「…………」
勇者「……誰も出ないな」
魔王「留守か?」
「私の家に何か用かね?」
勇者「!」
魔王「……あなたがチャイルド・フィールか?」
老人「そうだ。しかし、質問したのは私だ。君たちは何者だ? 私に何か用か?」
勇者「エリムという大商人の紹介で来た」
魔王「我輩らを鍛えてもらいたい」
老人「断る」
老人「まず第一に私は君たちのことをよく知らない。そんな人物らの頼みごとを受けるいわれはない」
老人「第二にエリムなる商人とはそれほど親しいわけでもない」
老人「第三に私はただの老人だ。人に教えられるほどの技術は既に持ち合わせていない」
老人「帰ってくれ」
勇者「そんなこと言っても……」
魔王「第一の回答。我輩らは魔王と勇者だ」
勇者「っ……おい!」
魔王「第二の回答。それは我輩らの知ったことではない。第三の回答。それは嘘だ」
魔王「なあ、先代魔王を倒した勇者の血筋、チャイルド・フィールよ?」
老人「……」
勇者「!?」
老人「何のことだ?」
魔王「ほう、あっさり認めるほど低脳ではないと見える」
魔王「だが、我輩は先刻申し上げたように魔王だ。先代魔王を倒した勇者とその仲間、そして血筋ぐらい把握している」
魔王「あなたの名前を聞いたときピンと来た」
勇者「それは本当か?」
魔王「ああ、この老人は正式勇者のひ孫だ」
勇者「勇者の、ひ孫……」
老人「……」
老人「そうか、素性は割れていたか」
魔王「認めたな」
勇者「……」
老人「勇者と魔王といったか。名前は?」
勇者「シェロ」
魔王「ニギだ」
老人「シェロに、ニギか」
老人「私は物覚えがよくない。年のせいもある。しかし覚える気もない」
老人「君たちはここで死ぬからだ」シャキン!
勇者・魔王「!?」
勇者(なんだ!? 纏う気配が変わった!?)
魔王(ナイフ一本でこの違い!)
老人「残念だが逃がすわけには行かない。シェロはともかく魔王ニギ。先代勇者の血筋として君は一応排除させてもらおう」
タンッ――
魔王「――っ」
老人「――フッ」シャッ
魔王(速い! もう鼻先!)ガキン!
老人「防ぐか。伊達に魔王を名乗っているわけではないようだ」グググ……
魔王「く……」グググ……
勇者「この……!」スチャ!
老人「今なら君は見逃そう。しかし私に攻撃を仕掛けたが最後、君も敵とみなして排除させてもらう」
勇者「……っ」
勇者(今なら、まだ間に合う……?)
『あなたはわたしが絶対助けるわ!』
勇者「――俺は止まれねえ!」ブン!
スカッ――
勇者・魔王「!?」
老人「君たちのスタンスはわかった。私は本気で君たちを殺しにかかろうと思う」
勇者(一瞬で離れたところに!?)
魔王(距離にしてたかだか四歩ほどだが……見えなかったぞ?)
老人「呆けている暇はない。その一瞬後に君たちは死んでいるかもしれない」
勇者「こいつはまずいぞ魔王……」スチャ
魔王「本当に死ぬかもわからんな」チャ
魔王「だがそれでもやりぬかなければならないことがある。違うか?」
勇者「……。そのとおりだ」グッ
魔王「行くぞ!」ダッ
勇者「応!」ダッ
老人「……」バックステップ
魔王「ふん!」ビッ!
老人「……」キャン!
勇者「おおおおおお!」ブオン!
老人「……」ヨケ
老人「なるほど、読めた」
魔王「何がだ! 食らえ“円舞陣!”」ギュオ――
老人「……」カンカンカンカイン!
魔王(全ていなされた!?)
283 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 17:45:24.17 ID:HtPw9Rwf0
追いついた 支援
続けていただきたい
勇者「背後はもらった!」ブオン!
スカッ――
勇者「え?」
勇者(おいおい……今のは確実に届いていたはず……)
老人「……」シュッ
勇者「ぶっ」バキ! ドサ
魔王「シェロ!」
老人「少し殴っただけだ」
魔王「この!」シュッ!
老人「ふっ――」キュイン!
魔王「! (剣が弾かれた!)」
スッ――
魔王(我輩の腹に拳を!? これは……)
ズドン――ッッ!!
魔王「がは――ッ!! (寸打!)」ドサ
勇者「なんであんたがそれを……」ムクリ
老人「? 寸打を知っているのか?」
勇者「……?」
老人「これは曽祖父が編み出したものだ。門外不出のはずだがなぜ知っている?」
老人「いや、どうでもいい。どうせ殺す」
魔王「“光よ!”」ボッ!
老人「“無為よ”」
ボシュウゥゥ――……
魔王「魔術構成が中和されただと!? 完全に不意をついたはずだぞ!」ガバ!
老人「不意とはなんだ? 意識の間隙のことか?」
老人「私にそんなものはないよ。残念ながら」
勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ! 魔王「“光よ!”」ボッ!
老人「“盾よ”」キキン!
魔王(前後からの魔術を同時に防ぐか……魔力も並ではないな)
勇者(先代勇者の息子……こんなに差があるものなのか? こんなに遠いものなのか!?)
勇者(俺は……俺は……)
勇者「俺は……!」
勇者「“我が契約により――!”」
老人「“光よ”」カッ!
勇者(しま――っ)
魔王「“盾よ!”」ギ……
魔王「シェロ! 馬鹿者! そん隙だらけの魔術、撃つ奴があるか!」
魔王「今はお前のわだかまりなんぞにかまっている暇はないはずだぞ!」
勇者「く……」
老人「“光よ”」カッ!
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」キ……バギン!
勇者「が!」
魔王「シェロ!」
老人「“光よ”」カッ!
魔王「“盾よ!”」キン!
老人「終わりだ」
老人「“連鎖よ”」キュイィィン……
ズドドドドドドドド!
魔王(何だ? 亀裂が襲い掛かってくる!)
魔王「“盾よ!”」
老人「……」
勇者「”我抱きとめるじゃじゃ馬の舞!”」
ビシュウウゥゥゥゥ……
老人「……しのいだか」
老人「自壊連鎖の構成だ。防御壁で防ごうともその壁ごと破壊する。構成自体を中和させなければ死んでいた」
勇者「……」
老人「君はもしや先ほどの私の中和魔術構成を読み取って真似をしたのか?」
勇者「……まあな」
老人「ふむ、なかなか……」
老人「しかしどうかな。その胸の内の厄介な荷物を抱えたままでこの局面を生き残れるか?」
『血の気が多いね、エセ勇者』
勇者「……っ」
魔王「聞け、チャイルド! 我輩らは世界を救うために力が必要なのだ! どうか我輩らに協力してほしい!」
老人「世界を救う?」
勇者「そうだ、俺たちは――」
老人「もしや人工的平和維持のことか?」
勇者・魔王「!?」
魔王「知っているのか……?」
老人「私の曽祖父は正式に王より命を下された勇者だ。そのあたりのことは当然全て説明を受けていた。子孫として私も知っている」
老人「曽祖父はずいぶんと悩んだようだ。まあ当たり前か。世界のありようが自分たちの行動で決まってしまうのだから」
老人「だが、最終的には曽祖父は王都の方針に賛同し、魔王を打ち滅ぼした」
勇者「……あんたは、どっちなんだ?」
老人「私か? ……難しいところだな」
老人「そもそも私には考える機会も、決断する義務も生じなかった。いまさらどちらが正しいかなんて関係ないよ」
老人「二つの選択。そのどちらもが破局に通じている。平和を約束された上での絶対の破滅か、絶対の破滅を避けたうえでの緩慢な終局か
」
老人「私にはどちらでもよいのだ」
老人「実のところ、君たちの排除も」
魔王「それは絶望してしまっているのと変わらないな」
老人「そうかもしれない」
勇者「どうしても俺たちに力は貸せないか?」
老人「……」
勇者「頼むよ、俺は……どうしても……」
老人「……条件がある」
魔王「!」
勇者「それは……?」
老人「そもそも君たちに技術面においてそれほど不備は見られない」
魔王「簡単にあしらっておいてそれか……」
老人「君たちに足りないのは……なんだろうな。陳腐な言い方をすれば覚悟というものだろうか」
勇者「覚悟……?」
老人「仮にも世界の平和を乱そうというのだからそれくらい持ってもらわなくては困る」
老人「世界中を敵に回す覚悟」
老人「――君たちが目的を達成することで結果的に命を失う人々がいるかもしれない」
老人「大切なものを守る覚悟」
老人「――君たちが目的を達成する過程で失うかも知れない」
老人「……自らを犠牲にする――極端な話、死ぬ覚悟」
老人「いずれも欠けてもらってはこまる。傍観する側としては」
老人「それを見せてもらえれば。考えてみよう。君たちの指導を」
魔王・勇者「………………」
魔王「覚悟か」
『父上! 母上!』
勇者「今更だ」
『あなたはわたしが助けるわ――』
魔王「……よし」
勇者「ああ」
勇者「いくぞ!」ダッ
老人「“光よ”」カッ!
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」ギギン!
老人「……今度は防いだか」
勇者「魔王!」
魔王「“闇よ!”」ブワッ!
老人(あたりが暗く……視界遮断か)
勇者「いっけええええええ!」ザッ!
勇者「“絶命剣!”」ドッ――ズバシュウ!
老人「……」ギッ!
勇者「“紫音絶命剣!”」シュッ! ドッ――ズバシュウ!
老人「……」ギギッ!
老人「視界を奪ったくらいで一撃を入れられると思うな。君の殺気はわかり易すぎる」
勇者「さすが。でもこれはどうだ!」
勇者「くらえ! “活殺剛翔剣!”」ギュオ――!
ガギギン!
老人「っ…… (神速で斬り上げる剣……姿勢が……)」
魔王「“光よ”」
老人「姿勢を崩したあとの遠距離射撃。こちらが本命か」
老人「だがこの程度なら防ぐのは易いぞ」
老人「“盾よ”」
中断
約二十分後に再開
乙
勇者「“我抱きとめるじゃじゃ馬の舞!」
老人「!?」
ドゴォゥッ!
勇者「うぐ、はっ……」
老人「……っ」
魔王「シェロ、大丈夫か!?」
老人「私の防御魔術を中和した……」
老人「自分が巻き込まれるのを省みず……」
勇者「く……。一発でお陀仏の可能性もあったがな……」
勇者「だが、覚悟、だろ?」
老人「……」
老人「なるほど。……なるほどな」
魔王「……まだ、足りないか?」
老人「………………」
老人「いや、十分だ」
老人「……君たちを鍛えよう」
勇者(……よし)
魔王「よろしく頼む」
<小屋>
老人「今夜はここに泊まっていけ」
勇者「そもそも今から街に戻っても宿は取れないけどな」
魔王「それでは遠慮なく。酒はないのか?」
勇者「そこは遠慮しとこうな」
老人「腰を落ち着けたところで聞いておきたい」
魔王「なんであろうか」
老人「君たちのここまでの足跡だ」
勇者「そんなものに興味があるのか?」
老人「さびしい老人だからな」
魔王「まあかまわん。話して差し上げよう」
※
老人「王立のスタッバー、か……」
勇者「ああ。あと一週間で倒せるようにならなきゃいけない」
老人「一週間。それはずいぶんと性急なことだな」
老人「……ところでそのスタッバー、名前はヒューイックというんじゃないか?」
魔王「! 知っているのか?」
老人「私は王都で十三使途の指導をしていたことがある。そのときの教育対象の一人が奴だ」
魔王(なるほど、どうりで奴と攻め手が似ていたわけだ)
老人「優秀な男だった」
老人「十三使途は通常、勇者の村の出身者から成っているが、奴は例外だ」
勇者「?」
老人「奴は王都が独自に育て上げた最高傑作だ。勇者の村の出身者は優秀な血の交配によって生み出された人種。奴は常にそのひとつ上を行った」
老人「『王都の魔人』。そう呼ばれている」
老人「良くないのを敵に回したな」
魔王「強敵とあたることぐらい魔王となったときから覚悟はしていた」
老人「……そうか」
老人「今日はもう休むといい」
勇者「ああ」
魔王「そうさせてもらおう」
プルートーか
<次の日>
――ドゥッ!
勇者「が――ッ!」ドサァ……
老人「……」
魔王「はっ」シュッ シュッ
老人「……」パン パァン!
魔王(拳が弾かれた……!)
老人「ふっ――!」ゲシィ!
魔王「ぐっ……」ドサ
老人「立て」
勇者「くっ」ムクリ
魔王「この……」ムクリ
老人「来い。もう一度」
勇者「待った」
老人「……」
勇者「やっぱりやってらんねえ。なんで武器なしでやらなきゃいけねえんだ? そりゃナイフ使いで体術に慣れたあんたが勝つに決まってるじゃねえか」
魔王「シェロ」
勇者「俺はすぐにでも強くならなきゃいけねえんだ……! 修行ごっこなんぞやってられるか……!」
魔王「……シェロ」
勇者「んだよ」
老人「本気で言っているのか?」
勇者「冗談言ってるように聞こえるか? 耳の医者に行け」
魔王「ハァ……」
魔王「すまないチャイルド。こやつはあまり頭が良くないのだ」
勇者「んだと!?」
老人「拳闘は戦闘の基本だ。君には基礎が欠けている。欠け過ぎといってもいい」
勇者「……」
老人「我流なのだろう?」
勇者「っ……」
老人「それではある程度以上は行けない。本気で強くなりたいなら君は根底から考えを改める必要がある」
老人「違うか、エセ勇者?」
勇者「っ――このっ!」ダッ
勇者「シッ――!」ヒュッ!
老人「……」パシィ!
勇者(蹴り足が……!)
老人「フェイントもなく上段蹴り。有り得ないな」ポイ!
勇者「うお!」ドサ
勇者「畜生!」ガバ! シュッ!
老人「……」ヨケ ガシ
勇者「(腕を取られた! が……)そうそう何度も投げられてたまるか」グッ
老人「力んだな」
トン――
勇者(しまった、寸――!)
ドッ――!
勇者「ぐ、は」ズルズル……バタ
とりあえず支援だ
老人「……君は厄介なものを抱えている」
勇者「なんの、ことだ……?」
老人「自覚はあるのだろう? 君が冷静さを失う原因だ」
勇者「……」
老人「君は脆い」
勇者「こ、の……」
老人「……だが、伸びシロはある」
勇者「……」
老人「持っていけ。私の寸打を。きっと必要になるはずだ」
勇者「そんなにほいほい覚えられるかよ……」
老人「私はヒューイックに寸打を教えた覚えはない。だが、おそらく奴は自分で編み出した」
老人「父の技を人づてに聞いたのかもしれん。とにかく奴は寸打を再現することに成功している。奴にできて君にできないこともないだろう」
老人「何しろ寸打を実際に使える人物が君の目の前にいるのだから」
勇者「……」
老人「君は勇者なのだから」
老人「違うか、シェロ?」
勇者「ちがわねえ、な」
老人「だったらまずは私を信じて体術訓練を受けろ。話はそれからだ」
勇者「……わあったよ」ムクリ
老人「それでいい」
魔王(やれやれ……)
老人「では、来い」
勇者「よっしゃ!」バッ!
魔王「うむ!」タンッ!
・
・
・
<夜.小屋>
勇者「……」
魔王「……」
老人「……」
勇者「……疲れた」
魔王「……ああ」
勇者「治癒魔術で傷は残らないとはいえ、一日中はやっぱりつらい……」
老人「できることなら夜通しやりたかったが」
魔王「効率を考えてそれはどうかと思う……っていうか魔物より体力あるってどうなのあなた」
老人「一週間しかない。悠長なことは言ってはいられないはず」
勇者「当日に動けなくなったらそれこそ本末転倒だぞ……」
老人「ふむ」
老人「効率か」
老人「だったら私に考えがある」
魔王・勇者「?」
老人「明日から二手に分けよう」
勇者「え?」
魔王「どういうことだ?」
老人「今日の鍛錬で私の見たところ、魔王は基礎はしっかりできているようだ。百数十年生きているのだから当然といえば当然か」
老人「反対にシェロ、お前は基礎がまだ不十分だ」
勇者「チッ……」
老人「よって魔王には明日から別の鍛錬を行ってもらう」
魔王「どのような?」
老人「それは明日説明する」
老人「とにかく今日は休め。明日も早い」
勇者「ああ」
魔王「了解だ」
私怨
<二日目>
勇者「おおおおお!」ビッ!
老人「力強いのはいいがあたらなければな」スカ
勇者「オラオラオラオラオラオラオラ!」シュシュシュシュシュシュシュ!
老人「……」パパパパパパパシ!
老人「悪くないぞ」
老人「だが、まだまだ」
トン――
勇者(来る! 寸打!)
ダン――ッ!!
勇者「うごっ!」ドサァ
良かったまだやってた、支援
老人「どうした。昨日の魔王は踏みとどまったぞ」
勇者「……次は大丈夫だ!」ガバ!
老人「……」
老人「寸打は、覚えられそうか?」
勇者「……さっぱりだ」
老人「……」
勇者「持っていけって言うぐらいならもっと丁寧に教えてくれても……」
老人「そのような生ぬるい指導法で本当に身につくのか?」
勇者「……」
老人「私とて伝授は実践の中だった。甘えるな」
勇者「チッ……」
老人「もう一発行くぞ」
勇者「来い!」
※
『君のやることは、俗に言う瞑想だ』
『陳腐、と思ったか? 私もそう思うよ』
『だが必要なことだ。私の予想が正しければ』
魔王「ああ言っていたが……どういう意味だ?」
魔王「瞑想は魔王になるための鍛錬の一過程としてやったことはあるが……」
魔王「ふむ……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……だめだ。さっぱり集中できん」
ドゴッ―― グハア!
魔王「……」
魔王「我輩も寸打、覚えたいな。かっこいいし」
324 :
「ぱ」担当:2010/03/03(水) 21:16:45.96 ID:HtPw9Rwf0
魔王かわいい
勇者「……!」ドサ
老人「さあ立て」
勇者「わかってるよ……!」スッ
勇者(ただ、内臓に内臓に響くのを何発ももらってちゃじきにガタが来るな)
老人「そうだ、早く覚えた方がいい。私もあまり気が長くない」
勇者「心の中を読むなよ……」
勇者「っていうか、魔王と二手に分ける意味はあったのか? 二人とも寸打を覚えたほうが効率がよさそうな気がするけど」
老人「……」
勇者「なあ」
老人「……仕方ない。素質の問題だ」
勇者「へ?」
老人「簡単なことだ」
勇者「俺に素質があるってことか?」
老人「端的に言えばそうなる。が、寸打自体はそう難しい技術ではない。コツさえわかれば誰でも、といわなくても心得のあるものならたいていできる。指導を受けていないヒューイックが撃てるのもそういうことだ」
老人「問題は時間だ」
勇者「一週間で、か」
老人「魔王は基礎が固まっている。固まりすぎている。新たに何かを習得するにはキャパシーが足りない」
老人「その点君は比較的キャパシーが豊かだ。我流で癖がついているとは思うが、それも考慮した上での判断だ」
勇者「根拠は?」
老人「勘だ」
勇者「勘、ですか」
老人「馬鹿にしたものでもない。特にこれぐらいの歳になると」
老人「それに。魔王にはもっと高度なことをやってもらっている」
老人「あちらのほうがことによると重要になるだろう」
勇者「……?」
期待
私怨
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「zzz……」
老人「さて、鍛錬を再開しようか」
勇者「おっし……」パン
老人「エセ勇者」
勇者「……今、何つった?」ピタ
老人「やはりか」
勇者「……」
老人「君はくだらない事に拘泥しているな」
勇者「……」
老人「自分でも気付いているんだろう?」
勇者「くだらなくなんか――」
老人「いいやくだらないよ」
勇者「あんたなんかに何がわかる! 俺がどれだけ必死か!」
老人「わからないな。正確なところは」
老人「だが、この歳になると大体の所は予想がつく」
勇者「……」
すごく厨二病だ
しえん
老人「ある男がいた」
勇者「いきなりなんだよ……」
老人「聞いておけ。その男は偉大な人物の子孫として生まれた」
勇者「……」
老人「当然、他人からの評価は先祖を引き合いに出したものが多かった」
老人「男は必死になってそのようなものさしから逃れようともがき狂った」
老人「鍛錬に鍛錬を重ね、研究に研究を重ねた。だが、結局ものさしから逃れることはできなかったようだ」
老人「むなしいことだな」
勇者「……」
勇者(伝聞調だが、完全に自分語りじゃねえか)
老人「すまない」
勇者「だから心を読むなと」
老人「同じことだよシェロ」
勇者「……」
老人「むなしくはないか」
勇者「……」
老人「他人の評価に敏感になるのはコストがいちいちかかる」
勇者「……」
老人「他人の言っていることは正しいかもしれない。正しくないかもしれない」
勇者「……」
老人「だが、それが何だ? それが生きるうえで絶対に必要か?」
勇者「……」
老人「必要な人種もいるかもしれないな。だが、生きるということはそういうことではない」
勇者「……」
老人「守るというのはそういうことではない。違うか?」
勇者「俺は……」
『あなたはわたしが――』
老人「優先順位を考えろ。でなければ大事なものがくだらないものより先に消えていくぞ」
勇者「俺は――っ」
勇者「――!」キッ
老人「……いい目だ」
老人「もういいか?」
勇者「簡単に吹っ切れるはずがない。じゃなきゃ今まで悩んでない。正直まだまだ振り回されるだろうと思う」
勇者「だが、優先順位の頂点にはあいつがいるから……!」
老人「……」
老人「続きを始める。明日に温存しようと思うな。全力で来い」
勇者「シャッ――」ダッ
・
・
・
魔王「……今度は寝ないぞ」
魔王「……」
魔王「シュー……」
魔王「……」
魔王「スー……」
魔王「フシュー……」
魔王「……」
魔王「……」
・
・
・
しえん
<五日目>
トン――
勇者(寸打が来る――いや来ない?)
ゲシ――パシ!
老人「寸打と見せかけての下段蹴りだったが……そうか、見切ったか」シュッ!
勇者「このパターンは何度目だよ。そりゃ覚えるっての」パシ!
老人「ふむ」ゲシ
勇者「っ……まだまだ」
老人「シッ――」ビッ
勇者(――ここだ!)
し
スカッ!
老人「……!」
勇者(避けれた! いけるか!?)
――トン
勇者「“寸打ァ!”」
ドン――!!
勇者(どうだ!?)
老人「……」
勇者「! つっ――」
勇者「なにが……」
ブラン――
勇者(俺の腕が折れてる……!?)
老人「寸打はゼロ距離からの打撃だ。予備動作がいらない分隙がないように見える」
老人「だがその実、溜めは通常の打撃よりもわずかに長い。気を抜くとこのように」
勇者「〜〜〜〜ッ」
老人「痛みにもがくことになる」
勇者「わ、“我は癒す斜陽の傷痕”」ホワホワホワ……
老人「ひとまずは合格といったところか」
勇者「え?」
老人「魔王を呼んで来い。実践訓練に入るぞ」
勇者「でも、俺、まだ一発も……」
老人「私が判断した。文句があるならずっと拳闘の鍛錬でもかまわないが」
勇者「わかった、すぐ呼んでくる」
※
勇者「剣を持つのがずいぶんと久しぶりの気がする」ブオン!
魔王「同感だ」チャ チャ
老人「これより実践訓練に入る。が、その前に。魔王」
魔王「なんだ」
老人「何か『視えた』か?」
魔王「……」
魔王「正直なところ何かが掴めたなんて感触はない」
老人「……」
魔王「ただ、なんとなくわかったような気がする。何が必要で何が不必要なのか。言葉に表すにはまだ理解度が足りないが」
老人「なるほど。おそらくそれでいい」
魔王「そうか?」
老人「違うなら諦めろ。どうせ保険のつもりだった」
魔王「……まあ、よいか」
老人「では」シャキン!
老人「――行くぞ」
ジャッ――――!
<最終日>
ガキン――!
勇者「フー……フー……」
魔王「ゼイ……ゼイ……」
老人「……」
勇者「……シッ――」ヒュッ!
老人「……」ヨケ
老人「まだ振りが大きいな、それではヒューイックはおろか私にも当たらない」
勇者「セイッ――」ビッ!
老人「そうだ。その調子だ」キィン!
魔王「はっ――!」ギュオ!
老人「……」ギシ!
老人「足りないぞ。王都の魔人を落とすにはまだ足りない」
勇者「っらあ!」ツキ!
老人「……」キン
魔王「“穿!”」ツキ!
老人「……」キン!
勇者「“テラブレイク!”」ツキ!
老人「……っ」ギシ!
魔王・勇者「おおおおおおおおおおおお!」
勇者「“絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」
ガキキキキキキキキン!
老人「……」バックステップ
勇者「逃がすか! “我は放つ光の白刃!”」ゴッ!
老人「“光よ!”」カッ!
カッ――ドゴオオォォゥ! モクモク……
老人(……視界が……)
キラッ――ヒュンヒュンヒュン!
老人(投剣!)ヨケ チッ――
老人(かすったか)
モクモク――ブワ!
勇者「ッセイ!」ブン!
老人(なるほど、先ほどのは魔王の剣か)キン
し
老人(あともう一歩。どう詰める?)
勇者「全力の一撃だ! 食らえ! “活殺剛翔剣!”」ギャン!
ガキイィン!
老人「一度見せた剣では一本を取るのは無理だ。返す刃で斬られるぞ?」
魔王「そこだ! “礫よ!”」ビュッ!
老人(打ち上げたナイフを狙ったか!)カァン――カランカラン……
勇者「もらった! “紫音絶命剣!”」ビシュッ!
チュイン――!
老人「……」
魔王「な!? 無刀取りだと!?」
勇者「……」
擬声語が豊かだな
勇者「武器を奪って両手を封じた……」
勇者「これで駄目なら後がねえ!」
勇者「食らえ!!」
トン――
老人「寸打か。だがその隙は今は致命的に大きい。避けるだけならいくらでも――」ガキ!
老人「? 後ろには何も……」
勇者「おおおおおおおおお!」
老人「……ああ」
老人「……魔王の剣か」
勇者「“寸打――ッ”」
ドゴオッ――!!
<十数時間後.夜.大商人の豪邸前>
魔王「……」
勇者「……」
魔王「そろそろか?」
勇者「さあな。ただ」
魔王「ただ?」
勇者「暗殺技能者を相手にただ守りを固めるってのは本来下策なんだ」
魔王「守りを破るのが暗殺技能者だからか?」
勇者「その通り。本当ならこちらから探し出してつぶすくらいの攻めの姿勢じゃなきゃ倒すことは不可能だ」
魔王「なるほど。しかし今回の場合はケースが違うだろう」
勇者「まあな。あっちはおそらく俺たち狙いだから」
魔王「……勝てると思うか?」
勇者「さあ……」
魔王「あのときの寸打は不発、我輩もまだ瞑想から何かをつかんだわけでもなし」
魔王「相当厳しいと見てよいな」
勇者「……」
<十数時間前>
勇者「が……」ズルズル
老人「……」
ドサ――
老人「惜しかったな。あともう一歩だった」
魔王「! なぜ!?」
老人「シェロの寸打は不発だ。完成しきってなかった」
勇者「……く、そ」
魔王「……」
老人「とはいえ」
老人「私をあと一手まで追い詰めたのは事実だ。だいぶ上達したのは間違いない」
勇者「……」
老人「後は自信を持って奴に挑め。大丈夫だ。勝てなくても最悪死ぬくらいですむ。気楽にいくといい」
老人「では、また会おう。世界が破滅していなければ」
<再び夜.豪邸前>
勇者「スー……ハー……」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
「やあやあオフタリさん、こんばんは」
魔王・勇者「……!」
魔王(どこだ?)
勇者(道の暗がり、建物の陰、屋根の上……!)
魔王(どこからでも来い……)
「そんなにきょろきょろしなくても」
スタッバー「目の前にいるさ」スタスタ
魔王・勇者「!」
勇者「来やがったな……」
魔王「待っていたぞ」
スタッバー「お出迎えどうも。待たせすぎちゃったかな?」
勇者「いや、こっちも今来たところだ」
スタッバー「さっすが。相手に気を使わせない。君モテるね?」
勇者「それほどでも」
魔王「……久しぶりだな」
スタッバー「そうだね何十日ぶりだっけ。いやまあどうでもいいけどさ」
スタッバー「手短に言うよ。今度こそお前たちを殺しに来た。死んでほしい」
勇者「断る」
魔王「右に同じだ」
スタッバー「うん、ま、そうだよね。じゃ、殺すよ、じゃあな」
タンッ――!
勇者「どっせい!」シュッ!
スタッバー「ん? 俺の踏み込みに合わせれるようになったのか?」キン!
勇者「もういっちょ! “十字剣!”」キュイキュイン!
スタッバー「おっと……っと」カンカィン!
魔王「こっちを忘れるな! “光よ!”」ボッ!
スタッバー「うわっち」バックステップ
スタッバー「何だ、結構連携ができてきたじゃん。感心感心」
スタッバー「伊達に修行してきたわけじゃないみたいだね」
魔王「! 知っていたのか?」
スタッバー「まあね」
勇者「俺たちの行動を把握していたのか……!」
スタッバー「そうそうその通り。こう独自の情報網でちゃちゃっと」
スタッバー「あ、でも大丈夫。上には知らせてないから兵の大群が押し寄せるとかはないはずだよ」
361 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:02:01.36 ID:IGX8j2EU0
勇者「舐めやがって……」
魔王「……。お前の目的は何なのだ?」
スタッバー「俺の?」
スタッバー「俺、俺かあ。俺ね。そうだね。目的、なんてそんなたいしたもん持ってないよ」
魔王「……」
スタッバー「でも、強いて挙げるならやっぱり強敵とのぴりぴりした命のやり取りかなぁ」
スタッバー「俺はね、強い奴を自分の力でねじ伏せる、そういうことに生きがいを感じる人間なんだよ。たぶん」
勇者「俺たちが強敵か。そりゃ光栄なこって」
スタッバー「今でやっとそこそこね。前回はとても残念な出来だったけど」
スタッバー「ね、エセ勇者?」
勇者「俺をエセとか言うなって」ペッ
スタッバー「あれ、怒んないんだ。残念」
勇者「強くなるしかなかったんだよ。誰かのおかげでな」
スタッバー「そっかそっか」ウンウン
スタッバー「じゃあこれはどうかな」
勇者「?」
スタッバー「ある少女がいたんだ。交際している男がいたそうでね――いや、交際してなかったっけ。ま、どうでもいいんだけど」
勇者「何の話だ?」
スタッバー「あるとき男が監禁同然の状態になってしまったんだ。少女は必死に彼を助けようとした。でも力が足りない」
魔王「……」
スタッバー「少女は力を求めた。強大な力を。そこで誰かが手を貸した。少女は力を手にした」
スタッバー「狂っちゃったけどね。ははっ」
勇者「……」
しえ
スタッバー「力を与えた誰かの一人が俺。この話の意味わかるかな?」
勇者「――」ジャッ!
――ガキン!
スタッバー「……」グググ
勇者「……お前っ」グググ
スタッバー「あの魔術士強かっただろ?」グググ
勇者「お前が――ッ」ググググ
スタッバー「怒ったか? いい顔になったじゃん」ギギギギ
勇者「てめえっ!!」キャン! ブオン!
スタッバー「あははは」ヨケ
勇者「この! この! この!」ブオン! ブオン! ブオン!
スタッバー「よ、ほ、は」スカ スカ スカ
勇者「お前が! ハルを!」ブオン! ブオン!
スタッバー「そうだよ。そう言ってるじゃん」ヨケ ヨケ
勇者「うおおおおおおお!!」ブオ――
スタッバー「ふっ――」ビッ!
勇者「ぐ……」ザシュ!
魔王「シェロ!」
スタッバー「うーん、ちょっと浅かったかな……」
勇者「く……(血が……)」ポタ ポタ
魔王「馬鹿! 気分はわからんでもないがそんな大振りでは殺されるぞ!」
スタッバー「そうそう。どうせ今日、本気で殺しちゃうんだ。だったらせめて能力を最大限引き出してよ」
スタッバー「――俺が潰してあげるから、さ」
366 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:22:53.45 ID:9H4poRNLO
支援
勇者「殺す……。殺す……!」
魔王「シェロ!」
勇者「っ…………」
勇者「……わかってるよ。優先順位だろ?」
魔王「……」
勇者「でもな、俺はハルをあんなふうにした奴らに会ったらこうしようって決めてたんだ……!!」
魔王「……別に熱くなるな、とは言わんさ。ただ、その中にほんの一滴、冷静さを残しておけ」
魔王「でないとあいつを痛めつけることすら叶わん。違うか?」
勇者「……応!」
スタッバー「そうそう、その顔だ! その目だ! その殺気だ!」
スタッバー「俺にかかって来い。かかってきて潰されろ!」
――ジャキン!
魔王(もう一本ナイフを抜いた!?)
勇者(あいつ、両手ナイフ使いだったのか!)
スタッバー「そう、本気――これが俺の本気だ!」
スタッバー「“プアヌークの魔剣よ!”」ジャッ!
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」ガキン!
タンッ――!
スタッバー「ふっ――」シャッ!
魔王「く……」キン!
スタッバー「ハッ――」ジャッ!
勇者「う……」カン!
スタッバー「おらおらおらおら!」シュ! ヒュ! ジャッ! ビッ!
魔王(くっ……反撃が――)キンキン!
勇者(できねえ!)カンカィン!
スタッバー「ハッ、どうした! あの魔術士の仇をとるんじゃねえのか!?」ビュッ!
勇者「!」キィイン!
勇者「シッ――」ビッ!
スタッバー「そうだ! 来いよ!」カィン!
勇者「ハッ――!」シャッ!
スタッバー「っと!」バックステップ
魔王「逃がすか!」ダン!
魔王「“円舞――”」 スタッバー「“円舞陣!”」
ザシュザシュザシュ!
魔王「むおあ!」ドサ!
勇者「魔王!」
勇者「あいつ、魔王の技を真似しやがった?」
スタッバー「うん、そう。魔王の決定打らしいね。部下からの報告で話には聞いていたけどここまで簡単なんて。拍子抜け」ピッピッ
勇者(前回の時、魔王はあれを使っていねえ。実際に見たわけでもねえ技をこうも簡単に……)
勇者「……この!」ダッ
勇者「“紫音――”」 スタッバー「“紫音――”」
勇者(!?)
勇者・スタッバー「“――絶命剣!”」
ガキャキャキャン――!
スタッバー「こっちの方の真似も案外簡単だったね」
勇者「……」
スタッバー「おんなじ技で相殺。いや――」
勇者「が――」ズルズル ドサ
スタッバー「俺の方がちょっぴり押してたみたいだ。武器が一本多かったせいかな? まあ、知らないけど」
魔王「……く」
勇者「……う」
スタッバー「あっけなかったねえ。まあ仕方ないよ。この王都の魔人相手に良くやったともいえる」
スタッバー「知ってる? 俺こう見えても十三使途の長なんだよね。こんな若輩がトップなんて案外たいしたことないって思わない?」
スタッバー「……それはどうでもいいね。じゃあ殺そうか。――って」
魔王「……ぐ」ムクリ
勇者「こんの……!」ムクリ
スタッバー「……結構手ごたえが深かったのに。往生際が悪いね。言い方は悪いけど、死んだほうがマシってこともあるよ?」
魔王「我輩ら二人だけだったらそうして死ぬのも悪くないかも知れんな……」
勇者「けど、俺たちが背負っているのは俺たち二人分の命だけじゃねえから……」
魔王「負けられん」
勇者「死ねない」
魔王「お前を倒す」
勇者「俺たちは王都に行く……!」
スタッバー「……そうかい」
スタッバー「じゃあせいぜい最期まであがくがいいさ!」ダッ!
ピンッ――!
スタッバー「!?」グラ……
魔王「“光よ!”」ボッ! 勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ!
ドゴゥ!
モクモクモクモク……
スタッバー「ごほっ……何、今の?」
魔王「直撃はしなかったか。運のいいことだ」
勇者「だが、準備しておいた甲斐はあったな」
スタッバー「……準備?」
魔王「そう、お前のいるその位置」
勇者「そこがお前の死に場所になるぜ……!」
スタッバー「……罠か」
魔王「その通り。極細ワイヤー」
勇者「そこに誘い込むのに苦労したぜ畜生」
魔王「まだ他にもいくつかあるから覚悟するといい」
勇者「卑怯くさくて気は進まなかったけど、こっちも本気なんだ。全力で倒しにいくぜ」
スタッバー「……」
し
スタッバー「……ふ」
スタッバー「ふ、ふふ」
スタッバー「あはははははは」
勇者・魔王「……」
スタッバー「卑怯? いいんじゃない? この方が全力って感じがするよ。むしろ予告していたのに何にも準備してないほうが馬鹿ってもんだ」
スタッバー「そうさ、なめんなって感じだよ。何も用意してないんじゃないかって不安になってたところさ。ちょうどいい」
スタッバー「そう、ちょうどいい。双方が双方、手傷を負ってやっとイーブンだ」
スタッバー「再開しよう。命の取り合いを、さ!」チャキ
勇者「おっしゃ!」バッ
キン! カン! カィン! ガッ! ガゴッ!
勇者「らあっ!」ツキ!
スタッバー「……」バックステップ
――ピン!
スタッバー(またか)
スタッバー「二度は転ばな――」
ヒュン――!
スタッバー「!」ヨケ!
スタッバー「――クロスボウか!」
魔王「当たりだ。“光よ”」ボッ!
スタッバー「“シアヌーンの盾よ”」キン
スタッバー(連撃で姿勢が――)グラ
勇者「ふん!」シャッ!
スタッバー「……ッ」ガキン! トン
勇者「膝をついたな! “兜割り!”」ジャッ!
ドゴオ――!
魔王「どうだ……?」
勇者「……」
スタッバー「……」
勇者「……ぐ」ガク
魔王「シェロ!?」
378 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 01:23:25.34 ID:z7lOfnFz0
悔しいかな 朝まで残っててくれ
C
魔王(シェロのふくらはぎに……あれは?)
スタッバー「クロスボウの矢だよ」ムクリ
勇者「つぅ……」
魔王「まさか! あの矢をキャッチしていたのか!?」
スタッバー「ま、ね」
スタッバー「さて、エセ勇者はこれで終わりだ」
魔王「シェロ!」
スタッバー「ばいばい」シュッ!
勇者「“活殺剛翔剣!!”」ギュオ!!
スタッバー「!!?」ガキャァァァン!
スタッバー(しまった! ナイフが!)
勇者「うおおおおおおお!」
勇者「“紫音絶命剣!!”」ギュン!!
チュイン――!
スタッバー「――ふう、あっぶね」
魔王「無刀取り……」
スタッバー「ハッ、どんなもんだ」
魔王「これは……」
――トン
スタッバー「へ?」
勇者「武器を奪って両手を封じた! これで――!」
スタッバー(まさか寸打? まずい――)バックステ――
――――ピン……
スタッバー「――ッ!!!」
勇者「“寸打――ッ!!”」
ドゴォゥ!!
スタッバー「ぐ……」ドサァ!
魔王「成功、した……?」
勇者「……」
勇者「“我は放つ光の白刃”」ゴッ!
スタッバー「がっ……」ドゴオ!
魔王「おい、シェロ……?」
勇者「“我は放つ光の白刃”」ゴッ! ドゴオ!
勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ! ドゴオ!
勇者「“我は放つ光の白刃!!”」ゴッ! ドゴオ!
勇者「“我は放つ――!”」
魔王「シェロ!!!」
勇者「……。何で止めるんだよ」
魔王「…………」
魔王「……もう、死んだだろう」
モクモクモク……サアァァ……
勇者・魔王「!?」
勇者「いねえ!」
魔王「逃げられた!?」
勇者「んな馬鹿な! あの状態から逃げられるはずが……!」
魔王「空間転移……」
勇者「……! チィッ!」ガン!
魔王「……」
魔王「気配は、しないな。完全に逃げに回ったか」
勇者「今から探せば! そう遠くには――」
魔王「……こちらも手傷を負っている。やめておこう」
勇者「だが!」
魔王「シェロ! ……お前、目的を履き違えていないか?」
勇者「……っ」
勇者「…………」
勇者「……わかったよ」
魔王「……」
魔王(仕方あるまい。今シェロを行かせれば……)
魔王(……)
<朝.大商人の豪邸>
大商人「お疲れ様。首尾は上々だったみたいだね。部下から聞いたよ」
勇者「ああ」
魔王「眠い……」
大商人「はは、疲れたろう」
大商人「さて、次は王都への侵入手段だね」
勇者「こっちはしっかりやったんだからそっちも頼むぜ」
大商人「ふふ、わかってるよ」
大商人「まず君たちには私の所有物になってもらおう」
勇者「なに?」
魔王「穏やかでないな」
大商人「私のものになれ……とでも言うと思ったかい?」
勇者「笑えない冗談だ」
389 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 02:15:02.08 ID:rpydsyd10
こんな時間まで乙
wktkしながら見てる
大商人「うん、まあ面白くない冗談はおいといて。君たちは私の荷物にまぎれて王都に入ってもらうんだ」
魔王「なるほど。いや、しかしそれでは……」
大商人「そう。普通だったら荷をチェックされて終わりだね」
勇者「どうするんだよ?」
大商人「なんにでも例外はあるものさ。チェックされない荷物になればいい」
魔王「そんなもの……。!」
大商人「その通り。たとえば軍に納入するトップシークレットの最新兵器」
勇者「あんたそんなものまで手がけていたのか……」
大商人「ははは、褒め言葉は辞退しておくよ。聞き飽きてる」
大商人「それでちょうど今日、その荷物が出発する予定なんだ」
魔王「渡りに船とはこのことだな」
勇者「早速乗せてもらうぜ」
大商人「ああ、行くといい」
大商人「その前に。はいこれ」
魔王「うん?」
大商人「手土産さ。うちで扱ってる最上級のお酒」
魔王「うっほほ〜い!」
勇者「あんまり甘やかさないでくれよ……」
大商人「はは、ごめんごめん。でもまあ私からの気持ちとして受け取ってほしい」
魔王「シェロ! 先に行っているぞ!」タッタッタ……
大商人「それから……シェロ君にはこれを」
勇者「なんだこの包み?」ゴソゴソ
勇者「…………!」
大商人「“ヘイルストーム”。『拳銃』って言うんだけど、知ってるかい?」
勇者「話に聞いた事だけは……」
大商人「実は納入する最新兵器って言うのは拳銃のことなんだ」
勇者「こんなものを……いや、考えてみれば当たり前か。大商人であるあんたが持ってなくて誰が持ってるって話だ」
大商人「まあね。もっとも、納入するのとは性能が違って、こっちは最新式の試作品だ。弾は三発しかないから大事に使ってくれ。そして
なにぶん不安定だ。暴発しやすいかもしれないから使うときには気をつけて」
勇者「……ありがたく使わせてもらうぜ」
大商人「軍への荷物はいったん王都の私の倉庫に入るからそこで降りるといい」
勇者「ああ」
大商人「それから、私の倉庫の地下はレジスタンスのアジトになっている。彼らのリーダーを頼れ。拳銃の訓練も彼から受けるといい」
勇者「レジスタンス……?」
大商人「そう、王都の人工的平和維持に反対する者たちの集まりさ」
勇者「!? 人工的平和維持のことを知っているのか!? あんたいったい何者なんだ!?」
大商人「別に。私はただの商人さ。ちょっとばかし好奇心が旺盛な、ね」
勇者「……」
大商人「どんな形であれ、世界が大きく動くなら私はこの目で見てみたい。それだけのことさ」
勇者「……」
大商人「さあ、行くといい。もう荷物は出発するよ。私のことなどどうでもいい。私が何者であれ、君たちのやることは変わらない。違うかな?」
勇者「……そうだな。それも、そうだ」
大商人「また会えるといいね。世界が破滅していなければ。ああそうそう、彼女のことは任せてくれて大丈夫だ」
勇者「ああ。じゃあな」クル スタスタ……
大商人「さてどう転ぶ……?」
大商人「結果として世界はどうなるのかね?」
大商人「……神のみぞ知る、か」
大商人「……願わくは彼らに幸多からんことを」
<翌日.王都.大商人所有の倉庫>
――ガタガタ ガタガタ……
魔王・勇者「ぷはぁ!」ゴロゴロ
魔王「何だこれは。こんなに狭いとは聞いてなかったぞ!」
勇者「しかもお前、酒飲んで入っただろ! 荷物の中が酒臭くて死にそうになったぞ!」
魔王「だって仕方なかろうもん! あんなにうまい酒、飲むなって言うほうが無理だ!」
勇者「うるせー! ちょっとは我慢強いところ見せてみろ!」
ギャーギャ-!
「ちっといいか、おめえら」
勇者「ああ?」
魔王「誰だ?」
「俺? 名前か? 地位か? どっちもか」
リーダー「名前はジゼル。レジスタンスのリーダーをやってるぜ」
勇者「あんたが……」
リーダー「そしておめえらは勇者に魔王。当たりだろ?」
勇者「あの商人から聞いていたのか?」
リーダー「いんや、俺の勘。そろそろ来るころじゃねえかと思ってよお」
魔王「ふむ……」
リーダー「世界の破滅を止めるんだろ? 手伝ってくれよ。いや、俺らがおめえらを手伝うのか?」
リーダー「ま、どうでもいいけどよ」
※
――ガコン
リーダー「ここから地下に入れる。梯子の下が俺たちレジスタンスのアジトだ」
魔王「カビ臭いな」
勇者「酒臭いよりはよっぽどマシな気がするけどな」
カンカンカンカン…… ――トン
メンバー1「お帰りなさい、リーダー! ようこそ、勇者様に魔王様!」
リーダー「ん、ご苦労さん」
勇者「あ、ああ、世話になるぜ」
魔王「苦しゅうない」
リーダー「おい、ほかのメンバーも広間に集めて来い。集会やっからよ」
メンバー1「了解!」
※
ザワザワ……
勇者(レジスタンスって言うから大人数かと思ったら)
魔王(たったの十六人ではないか)
リーダー「少ねえと思ったろ? 少数精鋭なんだよ」
魔王「ほんとに勘がいいのだなお前」
リーダー「まあな。――んでな、世界の破滅っていうなんともとんでもねえことっつーんで情報をおいそれと漏らせない」
リーダー「必然的に少数になっちまうんだ」
勇者「なるほど」
メンバー1「全員集まりました!」
リーダー「ん」
リーダー「おめえら! ついに今日、勇者と魔王が王都に到着した!」
オオ!
リーダー「世界の破滅への対抗戦線がいよいよ大詰めに向かう!」
リーダー「おめえら全員、気ぃ引き締めやがれぇ!」
オオオオ――!
リーダー「こちら、勇者と魔王だ。有名だからってえことで詳しい紹介は省かせてもらうぞ」
リーダー「では、早速だが最終作戦を説明する!」
勇者「最終作戦?」
リーダー「人工的平和維持を突き崩す、そのための作戦だ。今いいところだから質問は後にしてくれって」
リーダー「さて、人工的平和維持の媒体である神体はキムラック神殿にある」
リーダー「普段は警備が厳重で、中に入るどころか外観の見物すらも制限されている」
リーダー「それだけ聞くと侵入は不可能に思えるが、そこはうめえことできているんだなあこれが」
リーダー「これから一週間ほど後、五日の間王都全体で祭りが行われる」
リーダー「その最中は人の往来が増える上にキムラック神殿が一般開放されるんだな」
リーダー「そこを俺たちレジスタンスが狙うってえ寸法だ」
魔王(なるほど)
リーダー「陽動として王室のほうにもちょっかいをかけるつもりでいるが、客人も来たってことでこれで説明は終わりにして、細かいことは後からちょいちょい説明していく」
リーダー「まずは全員、概要を頭にいれておけえ!」
メンバーs「了解!」
寝る前支援
※
リーダー「さて、おめえらも長旅つかれたろ? 部屋を用意してあっから休みな」
勇者「そうさせてもらうぜ」
魔王「狭いところに丸一日いたから体が凝ってたまらん」
リーダー「えーと、そうだな。お前、アジトの中を案内してやれ」
メンバー2「了解っす。よろしくどーも」
魔王「ん、よろしく頼む」
勇者「よろしく」
※
メンバー2「――んであっちがトイレっすよ」
勇者「なるほどわかった」
メンバー2「それからこの突き当たりに食堂があるっす。当番制で交代で厨房入ってるっす」
魔王「――ん? この扉はなんなのだ?」
メンバー2「非常口っすね。使ったことは一度もないっすけど。まあ、使うときがあるとすれば、レジスタンス壊滅のときっす」
メンバー2「ここがお二方の部屋っす。一緒の部屋で申し訳ないっすけどベッドはちゃんと別だし不都合はないはずなんで勘弁してほしいっす」
勇者「ありがとさん」
魔王「ご苦労であった」
メンバー2「リーダーに伝えておくことはあるっすか?」
勇者「俺は射撃訓練を受けたいと伝えてくれ」
魔王「戦闘訓練用の広間があれば貸してほしい」
メンバー2「射撃訓練っすか……なるほど、伝えておくっす」
<翌朝.アジト>
リーダー「射撃訓練と訓練場の手筈、整えといたぜ」
勇者「ん、どうも」
魔王「ご苦労」
リーダー「勇者の射撃訓練は、まず拳銃の基礎知識をつけてもらうことからはじめるぜ。こっちのが指導員だ」
メンバー3「よろしく」
勇者「ああ、よろしく」
リーダー「魔王のための訓練場はここを出て右突き当りの扉だぜ。地下だからちと狭いけど堪忍してくれよ」
魔王「かまわん。感謝する」
リーダー「俺は忙しいんでこれで失礼させてもらうわ」
メンバー3「さて、まずは拳銃の基本から入ろうと思う、が」
勇者「?」
メンバー3「……いや、結構なつわものだと聞いていたのだが、こんなに若いとは思わなくてな。驚いてしまった。すまない」
勇者「そういうことか。別にかまわねえぜ」
勇者「俺も拳銃なんてごついものの指導員が女だってことに驚いているしな」
メンバー3「ふ、そうかおあいこか。――では始めよう。難しいからしっかり集中しろよ」
勇者「おう」
メンバー3「まず、私たちが扱っているのは軍でも使われている回転式拳銃だ。この拳銃の特徴は――」
・
・
・
メンバー3「――と、このようなフォームで射撃を行う。よし、こんなところで今日はやめにしておこう。実際に射撃を行うのは明日だ。ちゃんと復習しておくように」
勇者「や、やっと終わったか。あー、頭いてえ……」
<翌日.射撃場>
メンバー3「これが訓練用の拳銃だ」
勇者「撃ってみていいか?」
メンバー3「では、あちらの的を狙って教えたとおりやってみろ」
勇者「……」スウ ハア……
タァン――
勇者「っつぅ……」
メンバー3「ふ、はじめはそんなものだ。徐々に慣れていけばいい」
メンバー3「それよりも的を見てみろ」
勇者「……どこにも、当たっていないな」
メンバー3「まずは的に当てなければな」
勇者「……了解」
<更に二日後>
――タァン タァン タァン
メンバー3「ん、三発中一発命中か。なかなかいいぞ」
勇者「そうか?」
メンバー3「ああ、筋がいい。もっともこれぐらいパスしてもらわなくては困るがな」
――ガチャ
リーダー「勇者、ちょっと来てくれ」
勇者「ん? わかった。コーチ、ちょっと行ってくる」
メンバー3「ああ」
<広間>
リーダー「さて、こうしててめえらに来てもらったのはほかでもない、作戦決行の日程を知らせようと思ってな」
勇者「ついに決まったのか?」
魔王「教えてもらおうか」
リーダー「そう急くなって」
リーダー「まず、作戦決行だがよお、祭り一日目の夜に決まったぜ。早いほうがいいだろ?」
勇者「もちろんだ」
リーダー「次におめえらの役回りだが、それは実にシンプルなんだなこれが」
リーダー「神殿にまっすぐ行って、目標をデストローイ。簡単だろ?」
魔王「うむ」
リーダー「それまでは自由にしてもらってていい。なんだったら祭り一日目の昼の部を楽しんできてもいいんだぜ?」
魔王「本当か!?」
勇者「……」
リーダー「ああ、やることさえ忘れなければな」
リーダー「ちなみに俺たちは王室のほうにフェイクの爆弾と犯行声明を――」
魔王「ひゃっほーい!」
リーダー「って聞いちゃいねえか」
勇者「すまん……こういう祭りごとには目がねえんだ……」
リーダー「いや、かまわねえよ? さっきも言ったとおりやることさえ忘れてくれなければな」
勇者「それは大丈夫だ。……と思う」
リーダー「じゃ、俺はこれで。準備がまだたっくさん残ってっからな」
勇者「おう」
魔王「それじゃ我輩は訓練場に戻るかな、ルンルン♪」
勇者「……。俺も射撃訓練に戻るか。今日でひと段落するらしいから終わったらそっちに――」
魔王「フンフン〜♪」スタスタ
勇者「いや、聞けよ……」
<訓練場>
――ガチャ
勇者「魔王〜。こっちはひと段落したぜ」
魔王「……」
勇者「魔王?」
魔王「……」
勇者「そい」ゴン
魔王「ハッ……」
勇者「拳銃の講習はとりあえず終わったぜ」
魔王「猫とバイオリン……」
勇者「?」
魔王「雄牛が月を飛び越えた……子犬はそれ見て大笑い……」
勇者「……」
魔王「お皿はスプーンとかけおちだ……」
勇者「そおい!」ガン!
魔王「ハッ……」
魔王「ああ、シェロか……」
勇者「どうした? バッドトリップか?」
魔王「うんにゃ。瞑想しすぎてちょっとチューナーがおかしくなってた」
勇者「おいおいそんなんで大丈夫かよ」
魔王「む、馬鹿にしたものでもないぞ。おかげで見えてきたものがある」
勇者「?」
魔王「いや、うまくはいえないんだが……ヒビの入る音? 歯車が回る音と言い換えてもいいか……」
勇者「なんだ? わけわかんねえぞ?」
魔王「わからなくともかまわん。我輩にとって何か確かなものであることだけは間違いない」
勇者「言葉に表せないのに確かなもの? 矛盾してねえか?」
魔王「いやそれも含めて、確たるものなのだ。そう感じるのだから仕方あるまい」
勇者「……ならいいけどよ」
勇者「とにかく鍛錬を始めようぜ。軽くからでいいから。俺の方は数日間まともにからだ動かしてないから鈍っちまってるぜ、きっと」
魔王「うむ、よかろう」スク
魔王「ふっ!」シュッ!
勇者「シッ――」カキン!
勇者「はっ!」ビッ!
魔王「ん」カァン!
魔王「……こうしていると初めて戦った日のことを思い出すな。驚くことにそう昔のことでもないが」ブン!
勇者「……ん」キン!
魔王「あのときのお前はずいぶん余裕がなかった」シュッ!
勇者「……そうだったかもな」ガッ! ビッ!
魔王「精一杯虚勢を張っていて、でもどこか卑屈で、心細そうで」カン!
勇者「……」ビュッ!
魔王「まるで迷子のようだった」カキン! シュッ!
勇者「……それは言いすぎだろ」キィン!
魔王「劣等感に押しつぶされそうになっていた奴が何を言う。復讐心よりも強くお前を縛っていたのはそれではないか」ビュッ!
勇者「それは……」ギチ!
魔王「だが、お前は変わったよ。前よりはずっとたくましくなった」ビュ!
勇者「……そうかよ」キュイン!
勇者「……お前はどうなんだ? 何か変わったのか?」シュ!
魔王「我輩? そうだな……」カン!
魔王「……変わらんよ。今も昔も我輩のままだ」ヒュン!
勇者「お前は……そうか」ガッ!
勇者「お前は最初から覚悟していたもんな」シュッ!
魔王「……」キン!
勇者「ハルが倒れてからやっと俺がした覚悟くらい、お前は最初からしていたものな」ビッ!
魔王「……そうだな」カン!
魔王「……」ジャッ!
勇者「シッ――」カァン!
魔王「……なあ、勇者」シャッ!
勇者「ん?」ガキン!
魔王「我輩らは、世界を救えるだろうか」
勇者「……」
魔王「……大事なものを守れるだろうか」
魔王「……我輩らがしようとしていることは正しいんだろうか。人工的平和維持を解除したとたん大きな戦乱がおきたりはせんだろうか」
勇者「……」
勇者「今更……らしくもねえな」シュッ!
魔王「……我輩だってたまには不安になる」カィン!
勇者(…………)
勇者「……わかんね。わかんねえよ」ビュッ!
魔王「……」カァン!
勇者「世界が救えるって手前まで来て倒れるかも。それとも案外すんなり救えちゃったりするかも」ビッ!
魔王「……」キィン!
勇者「目の前の破滅を避けられてもお前の言うとおり、大きな戦乱が起きて何もかもめちゃくちゃになっちまうかも」シュッ!
魔王「……」ガッ!
勇者「それでもよ……」
勇者「俺たちはやるしかねえんだ」
勇者「チャイルドの爺さんにも言っちまっただろ? 覚悟はあるって」
勇者「だから、チャイルドの爺さんに言わせれば陳腐な回答だけど」
勇者「俺たちなりの目標が、ゴールが、そこにあればそれでいいんだ」
勇者「それだけでいい。願うことは、許されていいはずだ」
魔王「…………」
勇者「…………」
魔王「……少し、ペースを上げるか」
勇者「……そうだな」
魔王「シュー……」
勇者「ハー……」
勇者「“紫音絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」
ガキャキャキャン――
魔王「なあ! 全てが終わったら何がしたい!?」ジャッ!
勇者「何、か……そうだなあ」ガキン!
勇者「俺は……」
勇者「俺は、ハルにプロポーズするぜ!」ビッ!
魔王「そうか、今から健闘を祈らせてもらうぞ!」キィイン!
勇者「お前はどうすんだよ!」シャッ!
魔王「我輩か……そうだな」ギッ!
魔王「何がしたいという前に、妻に埋め合わせをせねばならんな!」ギャッ!
勇者「ずっと相手してないもんな!」ガキン! シュッ!
魔王「そうだ! この苦労、童貞にはわかるまい!」キィン!
勇者「言ってろ、すぐに追いついてやるかんな!」ギュン!
魔王「ふはははは!」キン!
勇者「へっ!」
ああ・・
中断
約一時間後に再開
420 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 05:42:46.19 ID:5zIT/UQN0
ふむ
<祭り一日目.朝.アジト.広間>
リーダー「おめえら! ついにこの日が来たぞ!」
オオオオ!
リーダー「今更ぐだぐだ長台詞ぶっ放す気はねえ! 全員気合入れてかかれえ!」
オオオオオオオオ――!
リーダー「――よし。さて、決行は夜だが、作戦は今から始まるぜ。該当者は作業を開始しろ」
メンバーs「了解!」
魔王「――♪」ウキウキ
勇者「……」ジト
リーダー「ああ、おめえらは前にも言ったとおり行動は夜からだ」
リーダー「祭り、行ってきていいぜえ」
魔王「よっしゃ――!」
勇者「はぁ……」
・
・
・
魔王「全財産なくなった」
勇者「……」
ガヤガヤ ガヤガヤ……
勇者「はぁ!? どういうことだよそれ! 祭りに来てまだ三十分だぞ!?」
魔王「仕方なかろうもん。高い買い物だったし」
勇者「山賊から奪った金ってけっこうな額だったと記憶しているが?」
魔王「ふははは」
勇者「笑ってごまかすなよ、まったく。俺しーらね」
魔王「そんなこというな、お前の金も含めて所持金ゼロなんだぞ?」
勇者「」
グギギギギギギ!
勇者「今何つった? 今何つった? 俺よく聞こえなかったんだが?」
魔王「だから我輩とお前、所持金ゼロ。OK?」
勇者「何でだ!? いつの間に財布を抜いた!?」
魔王「お前が無用心すぎるのが良くない」
勇者「盗るほうが全面的に悪い!!」
魔王「それはいいんだがそろそろ我輩の首が折れるぞ」
勇者「そのままおっちねえええええ!」ギギギギ!
魔王「ふむ」スルリ
勇者「あ、てめ!」
魔王「まあ待てまあ待て」
勇者「俺は今すぐお前を締め殺さにゃ収まらん……!」ギリギリ……
魔王「待てと言うとろうに。我輩が何を買ったか聞いてからでも遅くはあるまい」
勇者「……何を買ったんてんだよ」
魔王「ふふ、聞いて驚け見て笑え! これこそ我輩が求めた最高級品!」
魔王「愛想笑いの指輪!」デデーン
勇者「……」
魔王「我輩、港町での占いがずっと気になっておった。祭りで買い物をせよと言うあの占い」
魔王「買えというからには高いもののほうがよいに決まっている。そしてなおかつ埋め合わせ用の妻へのプレゼントにもなる」
魔王「我輩やはり冴えている。――ってやめろシェロ、首を絞めるな」
勇者「断る! 引きちぎってやるからここで体に別れを告げろ!」
魔王「おお痛い」
勇者「今からでも遅くはねえ! 返品して来い!」
魔王「その商人、我輩が買った後逃げるように去っていったから無理だと思うぞ」
勇者「やっぱり騙されてるんじゃねえかああああああ!」
魔王「騙されたとは人聞きが悪いな」
勇者「事実だ!」
魔王「まあ勉強代だと思えば」
勇者「自分の勉強に人を巻き込むなってんだ!」
魔王「落ち着けシェロ。そのままだと脳内血管がバチ切れるぞ」
勇者「誰のせいだと……」ゼイ ハア
魔王「ふむ……」スルリ
魔王「まあ、買ってしまったものはどうしようもない。諦めるんだな」
勇者「納得いかねー!」
魔王「それより祭りを楽しもうではないか」
勇者「所持金がなけりゃ祭りの楽しみ七割減だけどな……!」
魔王「甘いなシェロ。祭りとはまず、その雰囲気を楽しむものなのだ」
ガヤガヤ ガヤガヤ……
魔王「この人ごみ、この熱気。……最高だ」
勇者「へいへい、祭り検定一級はすごいざんすね」
勇者「……まったく今夜が最後かも知れないってのにいい気なもんだ」
魔王「最後かもしれんからだよ、シェロ」
勇者「……」
魔王「今夜を境に何もかもが変わってしまうかもしれない。だからこそ今を楽しまなければ」
勇者「……」
魔王「お、あちらで人々が踊っているぞ! 我輩らも混じろう!」
勇者「お、おい、引っ張るなって……」
<キムラック神殿>
ガヤガヤ ガヤガヤ……
「……」ツカツカ
ギィ――バタン
兵「ん? ここは立入禁止だぞ。すぐに出て行け」
「……」
兵「! これは失礼しました! ……しかし、今はここから先は誰も通すなといわれています。どうかお引取りください」
「……」ツカツカ
兵「どうかお引取りを」スッ
「……」シュッ!
兵「うぐ!」ドサ
「……はぁ」ツカツカ
<キムラック神殿.地下>
ツカツカ……
大神官「! お前、生きていたのか!」
「……」
大神官「……何をしにここに来た? いや、今は立入禁止にしておいたはず。兵はどうした?」
「……」
大神官「……どういうつもりだ」
「……俺ねえ、決めたんだ」
大神官「……?」
「あいつらは俺がじきじきに、この手で殺してやるって」
「俺があいつらを殺してやらなきゃいけないんだ」
「それが俺の最後の願いなんだ」
大神官「何を……」
「だから今まで世話になっといてほんとにごめんだけど……」ジャキン!
大神官「!」
「――ばいばい」タンッ
――ザシュ……
<夕方.レジスタンスアジト>
リーダー「よお、お帰り、勇者に魔王」
勇者「ああ」
魔王「うむ」
リーダー「作戦決行は夜中だ。まだ時間がある。部屋で待機していてくれな」
勇者「了解」
<六時間後.部屋>
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「……」
勇者「……そろそろか」
魔王「そうであるな……」
勇者「……」
魔王「……?」
勇者「どうした?」
魔王「今、何か聞こえたような気が……」
ドンドンドン!
魔王・勇者「?」
ガチャ――
勇者「どうした?」
メンバー2「逃げるっす!」
魔王「?」
メンバー2「詳しく話している時間はないっすけど、襲撃っす! 早く部屋を出るっす!」
勇者「なんだって?」
メンバー2「だから襲撃っすよ!!」
※
リーダー「応戦しろ! ありったけの拳銃持って来い!」
メンバー3「だめだジゼル! 奴ら拳銃が聞いてるようには見えない!」
勇者「どうした!?」タッタッタ
リーダー「見ての通り襲撃だ! アジトの場所がバレたらしい!」
魔王「敵は?」
リーダー「なんだかよくわからん不定形の異形だ! 拳銃が効きゃしねえ!」
勇者「まさか……!」
リーダー「来た!」
ブワ!
刺客「キー!」
魔王「やっぱりか!」
勇者「応戦するぞ!」
リーダー「待て!」
勇者「なんだよ!?」
リーダー「ここはもうだめだ! 敵の数も多い! いくら応戦しようとも時間の問題なんだよ!」
リーダー「だからおめえらは非常口から逃げやがれ!」
勇者「でもよ……」
リーダー「いいから! 最終作戦はまだ終わっちゃいねえんだ! おめえらはキムラック神殿へ行け! 今を逃したら二度と乗り込めねえぞ!」
勇者「だが……」
魔王「行くぞシェロ」
勇者「魔王?」
魔王「我輩ら全員の目標は一つ。人工的平和維持の破棄だ。ならばやるべきことはひとつである。違うか?」
勇者「だが……いや。わかった。すぐに行こう!」
勇者「ジゼル、先に行かせてもらう! せいぜい殺されるんじゃねえぞ!」
リーダー「おう!」
タッタッタッタ――
魔王「この扉だったな」ガチャ
勇者「う、くっさ!」
魔王「どうやら下水道のようだ。臭いにかまっている暇はない。行くぞ」
勇者「……了解」
バシャバシャバシャバシャ――
魔王「――むこうに明かりが見える」
勇者「あれが出口か」
<川>
勇者「よっこらしょっと」
魔王「ふう……」
勇者「ここは……昼に通ったところだな」
魔王「ならば神殿はあちらだ。急ごう」
勇者「ああ」
タッタッタッタ――
タッタッタッタ――
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……奇妙だな」
勇者「……ああ」
魔王「祭りの夜なのに誰もいない……」
勇者「それだけじゃねえ。周りの民家からも人の気配がしねえ……」
魔王「まったくの無音であるな……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「俺たちがアジトにいる数時間のうちに何があったっていうんだ?」
魔王「……とにかく神殿に急行しよう」
勇者「おう」
タッタッタッタ――
<キムラック神殿前>
タッタッタッタ――
魔王・勇者「!」ザッ
カイザー刺客「ギギギ……」
勇者「こりゃまたでかいのを持ってきたな」
魔王「われわれの二倍くらいの大きさか」
カイザー刺客「ギガガガガガガ!」
魔王「とはいえ攻略法は前回までとかわらんだろう。一気に行くぞ」
勇者「了解だ」
魔王「“氷河よ!”」
勇者「でえりゃっ!」ダンッ!
支援
<キムラック神殿内>
ギィ――
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……やはり誰もいないな」
勇者「神体はどこだ?」
魔王「……それらしきものはない」
勇者「! 奥の扉なんか怪しくないか?」
魔王「どれ……」
ギィ――
勇者「……階段だ」
魔王「地下室があるということだな。行こう」
<キムラック神殿地下>
――勝利以外に目を向けるな
――殺すこと以外を考えるな
――ただただ考えろ
――自分が相手にどう勝つか
――自分が相手をどう殺すか
――勝利こそ唯一絶対の真実
――敗北は死
――勝利を得るため手を尽くせ
――そこにしか生きる道はないのだから
――幸せを望むな
――意味を求めるな
――むなしさに足を取られるな
――それらは全て隙を生む
――隙は敗北を呼ぶ
――敗北は死だ
――だからただ強くもがけ
――ただ強く勝利を希求しろ
――自分のため私のため国のため
――勝て!
「……」
タッタッタッタ――ザッ……
魔王「ここは……。ずいぶん広いところに出たな」
勇者「魔王! あれ!」
魔王「あれが、神体……」
勇者「思ってたよりずっとでかいな…」
魔王「うむ。そして……」
勇者「……ああ」
「出迎えの言葉はいろいろ考えていたけれど……」
「いざとなるとなかなか思いつかないもんだね。だからやっぱりこう言おう」
スタッバー「……やあやあ、オフタリさん」
魔王「お前……」
勇者「生きていたか、スタッバー!」
スタッバー「生きていたか、ってまたずいぶんな挨拶だね。こっちはずっと待っていたのに」
勇者「待っていた?」
スタッバー「そうだよ。俺はずっと待っていた。俺と対等にやり合える奴をね」
スタッバー「……そう、俺はいつだって待っていたんだ」
スタッバー「お前らみたいな奴を」
魔王「我輩らに負けた分際で何を言う。負け惜しみにもなっていないぞ」
スタッバー「痛いとこ突くね。でもその通りだ。俺は俺を倒せる奴らを待っていた」
スタッバー「俺は誰かに挑戦するってことがなかった」
スタッバー「それはそれで寂しいものさ」
勇者「……」
スタッバー「だから俺は今度はお前らに全てを賭けて挑戦するよ」
スタッバー「受けてほしい」
スタッバー「俺は勝つよ。勝たなきゃいけないんだ」
魔王「……どうせ受ける以外の答えをさせるつもりはないくせに」
スタッバー「ふふ、そうだね、その通りだ」
スタッバー「じゃあこう言い直そう」
スタッバー「お前たちの短くも苛烈な英雄譚」
スタッバー「その最終局面で立ちはだかるのはやはりこの俺だ!」
スタッバー「世界を救いたきゃ――」
スタッバー「俺を殺していけえ!」ゴゴゴ……!
勇者「……」スチャ
魔王「……」ジャキ
勇者「“我は放つ光の白刃!”」ゴッ!
スタッバー「……」ズドッ!
魔王「! 直撃したのに効いていない!? これは……」
スタッバー「反撃行くぞ!」
スタッバー「“惨劇を見た!”」グオッ!
ドゴオオオオオオオオオオオオオ――!
勇者「う……」ドサア
魔王「な……」ドサア
スタッバー「うん、いい感じ」
勇者「これは……まさか……」
スタッバー「そう、当たり。あの魔術士がやっていたことと同じさ。俺は悪魔と契約した」
魔王「魔神契約……」
スタッバー「お? そう呼んでるの? いいネーミングだね」
魔王「貴様、正気か! あれは――」
スタッバー「寿命を縮める、でしょ? 承知の上さ」
勇者「なぜ……」
スタッバー「その答えはいつだってひとつだ! お前らに勝つため!」
スタッバー「さっきも言ったろう!? 俺はお前らに勝つために全てを賭ける!」
魔王「馬鹿な! 勝って、その後はどうする!? お前も一緒に死ぬというのか!?」
スタッバー「悪くないね! お前らに勝って最強の座を得た後なら死んでもいい! 俺は伝説になれる! 勇者と魔王という最強の双璧に勝った真の最強として!」
勇者「この! 大馬鹿野郎が!!」ダンッ ジャッ!
スタッバー「ふっ――」ギシ!
勇者「馬鹿な!? 素手で――!」
スタッバー「すっ――!」ドガッ!
勇者「がふっ!!」
ズサアァァ――――!
勇者「がは! げほ! ぐあ……!」ビクン!
魔王「大丈夫かシェロ!? 今何が起こった!?」
勇者「う、げぼっ」ビタビタビタ……
魔王「な、“治れ!”」ホワホワホワ……
勇者「ハァ……ハァ……」
魔王「何があった!? まったく見えなかったぞ!」
勇者「……『殴られた』」
魔王「『殴られた』? 馬鹿言え! あれはそんな威力じゃ……」
スタッバー「“崩しの拳”」
魔王「え?」
スタッバー「俺はそう呼んでる」
スタッバー「実を言うとね、俺、もうナイフは持てないんだ」
魔王「どういうことだ……?」
スタッバー「このように」ガシ
スタッバー「自身の握力で握り潰しちゃうから」グッ ――サラ……
魔王(瓦礫を握り潰した!?)
スタッバー「最初は困ったよ。余りある筋力が全てをぶち壊しちゃうんだ」
スタッバー「――自分の身体すらも」
魔王「契約の、効果なのか?」
スタッバー「その通り。異常筋力。一歩歩くだけでも筋肉が自壊する。戦闘にいたっては自殺行為としか思えない」
スタッバー「契約直後はね、そのまま死ぬかと思ったよ、うん。――でもね」
勇者「……」
スタッバー「悪霊がね、囁くんだ。俺の脳みその奥底から。壊せ。壊せって」
スタッバー「俺はその声に従った。動きの全てから無駄がなくなり身体の崩壊は止まった。俺は生存に成功したんだ」
スタッバー「今の俺は、最小の動きで最大の威力を導き出すことができる……」
スタッバー「人体の破壊は朝飯前。今の俺なら城門すら打ち破れる」
勇者「ぐ……」ムクリ
魔王「大丈夫か?」
勇者「お前は……」
スタッバー「ん?」
勇者「お前は、何で正気なんだ?」
スタッバー「ああ、そのこと」
魔王「そういえばそうだ……」
スタッバー「簡単だよ。あの魔術士の場合、一人であの強大な力を引き受けたから。そりゃ精神が壊れるさ」
スタッバー「俺の場合は違うんだ。大勢でその負担を分け合ってる」
勇者「大勢?」
魔王「! ……まさか!」
スタッバー「そう、その通り」
スタッバー「王都の人間、全員生贄に捧げちゃった」
勇者「何だと!?」
魔王「道理で人間がいないわけだ!」
スタッバー「一人一人殺していくのは骨が折れたぜ」
スタッバー「ひょっとしたら明日あたり、どっかで大きな記事になるかもな! 一夜にして消えた王都民、ってさ!」
勇者「てめえ!」
魔王「こいつ……」
スタッバー「終末は目前だ!」
スタッバー「――どうせ世界が終わるのならちょっとぐらいの犠牲、かまわないと思うけどな」
勇者「馬鹿野郎!」
魔王「……」
スタッバー「繰り返しになるけど、俺は全てを賭けると決めた。俺の命も他人の命も同じことだ!」
魔王「どうしてそこまで……」
スタッバー「言ったろう! お前らに勝つためだ! 今の俺にはそれが全てだ!」ダンッ!
ブオ――!
勇者「くっ!」ガキキン!
勇者(素手なのに重い! 逸らすので精一杯だ!)
スタッバー「おらおら!」シュッ!
勇者「チッ――」バックステップ
魔王「光よ!」ボッ!
――ズド!
スタッバー「無駄だ!」
スタッバー「“惨劇を見た!”」カッ!
ガガガガガ――!
勇者「“我は紡ぐ光輪の鎧!”」バキン!
勇者「が――!」ドサ!
スタッバー「まともに受けようとしたらだめだよ」
魔王「“円舞陣!”」ギュオ!
スタッバー「魔王みたいに隠れてやり過ごさなきゃ」ガキ……
魔王「刃が通らない!?」
スタッバー「はっ――」ビュッ!
魔王「う……」チッ――
魔王(かすっただけなのに全部もっていかれそうだ……!)
勇者「この――」ムクリ
勇者「合わせろ魔王!」
魔王「よし来た!」
勇者「“十字剣!”」 魔王「“兜割り!”」
スタッバー「……」キキン!
勇者「“ラウンドセイバー!”」 魔王「“かすみ斬り!”」
スタッバー「……」キャキャン!
勇者・魔王「おおおおおおおおお!」
勇者「“紫音絶命剣!”」 魔王「“円舞陣!”」
スタッバー「無駄」ガキン!
スタッバー「“破局の日は――”」
魔王「……!」
勇者「まず――!」
スタッバー「“――近い!”」カッ
ズドオオオオオオオオオオオオッ――!
勇者「がっ……」ドサッ
魔王「ぬ……」ズサア
スタッバー「立て! まだまだだ! まだお前らはこんなもんじゃねえだろ! もっと本気を出してみろ!!」
勇者「この……」ムク
魔王「っ……」ムクリ
スタッバー「死ぬ気で踏ん張れ! 全力をひりだせ! そして俺に潰されろおおおおおおおお!!」ダンッ!
――タァン!
スタッバー「いてえ! 目が!」
勇者「よし、ヘイルストームが効いた!」
スタッバー「やればできるじゃねえか! でもまだまだ!」
魔王「こちらだ “光よ”」ボッ!
スタッバー「背後!?」ズガァ!
魔王「ゼロ距離ならそこそこ効くだろう」
スタッバー「っ、とと……」
462 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 09:51:48.16 ID:RmLib+fT0
タフだな
しえん
勇者「終わりだ!」バッ
勇者(魔神契約は人工的平和維持契約を応用したもの! エネルギー体の吸収・放出がその本質!)
勇者「ならそれごとまるごと消滅させちまえばいい!」
勇者「“我が契約により――”」
スタッバー「おせえ! “惨劇を見た!”」ドゴオオオオオ――!
勇者「がはっ」ドサッ!
スタッバー「これでジ・エンドだ勇者!」シュッ!
魔王「くっ、“天魔よ!”」ゴッ!
スタッバー「ハッ」パシン!
魔王(物質崩壊をも弾くというのか!)
勇者「この……!」ムクリ バックステップ
勇者「今度こそ! “我が契約により聖戦よ終われ!”」ズオ――!
カッ――――!
モクモク――
勇者「……」
勇者「……外れた」
魔王「どこに行った!?」
勇者「……」
勇者(この広間にはいくつもの柱がある。そのどれかに……)
ダンッ――!
魔王・勇者「!!」
スタッバー「でやあああああ!」ジャッ――!
魔王「く……!」チッ――
勇者「大丈夫か!?」
魔王「かすっただけだ! それよりあいつは!?」
勇者「また隠れたみたいだぜ……!」
勇者「くそ……卑怯な!」
魔王「……どこから来る?」
ダンッ――
勇者「来たか!?」
魔王「……いや、移動した音だ」
ダンッ――
魔王(……どこだ?)
勇者(右か……左か……)
「ふふ……」
ダンッ――
「ふふふふ……」
ダンッ――
「ふふふふあはははははははは!」
ダンッ――
魔王(声が反響してどこから聞こえてくるのかわからない……!)
「いやあ、楽しい! 愉快だ! こんなに楽しいのは何年ぶり……いや生まれて初めてかもしれない!」
ダンッ――
勇者(どうやら俺らの周りをぐるぐる回っているようだ……)
「お前らにわかるかなあ、最強たるものの孤独って奴が!?」
ダンッ――
「生まれたときから最強を約束されていた!」
ダンッ――
「常に頂点の座についていた!」
ダンッ――
「常に頂点を強いられた!」
ダンッ――
「俺の苦しさわかるかなあ!」
C
「俺の寂しさわかるかなあ!」
ダンッ――
「誰もいないんだ! 俺と肩を並べる奴が!」
ダンッ――
「勇者と魔王がタッグを組んだって聞いたときは震えたよ! ついに俺の理解者ができるかもって!」
ダンッ――
「俺の期待はすぐに裏切られた! ぜんぜん強くなかったから!」
ダンッ――
「俺はまた独りになった!」
ダンッ――
「だがお前らはすぐに俺に追いついた!」
ダンッ――
「初めての敗北だ!」
ダンッ――
「初めて喜悦と屈辱を味わった!」
ダンッ――
魔王「何かと思えば駄々っ子の繰言か!」
「はは、その通りだ。今まで望むものが全て手に入った俺はまったくの子供なんだよきっと。でも――」
「俺は最強たるものに執着する!」
ダンッ――
「俺は最強たるものを希求する!」
ダンッ――
「俺は喜悦と憎悪でもってお前らをぶち壊す!」
ダンッ――
「俺に最強の座を――」
ザッ――
「返せえええええええええええええええ!」
ズダンッ――――――!!
魔王・勇者(来る……!)
ギュオ――ッ!
魔王「!」
スタッバー「おせえ!」ドグシャァァァッ!
魔王「ぐは!!」ズサァァ!
勇者「魔王!」
勇者「ちくしょう! “我は放つ――”」
タァン――
勇者「な!?」ブシャ!
勇者(ヘイルストームが暴発した! 脚が……!)ガク
スタッバー「運がねえなあ!」ズドゴオォォッ!
勇者「ごふっ!!」ドッ! ゴロゴロゴロ
スタッバー「……」
魔王「ぐあ、う、ゴボ……」ビタビタビタ……
勇者「……ごぶっ!」ドブシャ!
スタッバー「二人とも直撃。即死ではないけれどももう立ち上がれないだろうね」
魔王「……」ビクン
勇者「ゼイ ゼイ……」
スタッバー「……ゲームセットだ」ツカツカツカ……
ブオン――
スタッバー「ん? ああ、始まったか」
魔王・勇者「……?」
魔王「何の、ゴボ……ことだ?」
スタッバー「ついに終わりのときが始まったんだよ」
スタッバー「ほら、神体を見てみな」
勇者(……燐光を、放っている)
スタッバー「ついに世界の破局が始まったんだ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
スタッバー「『破滅の門』が開く……!」
カッ――ズオオオオオオオオオ!
魔王・勇者「……!」
魔王(神体を中心に闇が渦を巻いている……)
勇者(どんどん広がっていく……!)
スタッバー「はははははははは! ついに異世界との経路がつながった! 破壊の意志、お前らの言うところの『魔神』が来るぞ!」
スタッバー「残念だったなあ、お前ら! あと一歩! あと数秒だった! 俺を倒すことができなかった!」
魔王「く……」
スタッバー「もう遅い! 俺を倒したところで契約を破棄したところで何にもならない!」
スタッバー「お前らが成し遂げたかったことも、守りたかったものも全てここで終わりだ!」
スタッバー「世界は、終わりだ!」
スタッバー「お前らはそこで破局を見ていろ!」
スタッバー「ヒャ――――ッハッハッハッハッハッハ!!!!」
――ドクン
魔王(ここで、終わり……?)
勇者(世界が、終わる……?)
――ドクン
魔王(我輩らの旅は……)
勇者(俺たちの努力は、奮闘は……)
――ドクン
魔王・勇者(無駄だった……?)
――ドクン
勇者「……ハル」
魔王「父、上……母上」
『――しっかりしなさいよね、シェロ』
『――泣いてはいけませんよ、ニギ』
勇者・魔王「うおおおおおおおおおおお――――ッッッ!!!」
スタッバー「!?」
勇者「ゼイ ハァ……」
魔王「フゥ ゼイ……ゴボ!」ビチャ……
スタッバー「なぜ立てる!? いや、なぜ立つ!? お前らは、お前らの願いはもう潰えた!」
魔王・勇者「……」
スタッバー「……」
スタッバー「……そうか。そうかよ。お前らは『そういう』奴らなんだな」
魔王「別に、やけっぱちに、なったつもりはない……」
勇者「ただな、最後まで、粘らなきゃ、申し訳が、たたねえんだよ……」
魔王「最後まで、諦めるか……!」
勇者「最後まで、潰れるものか……!」
魔王「世界を――」
勇者「終わらせるものか!」
スタッバー「…………」
魔王「ハァ ハァ……」
勇者「ゼッ ゼッ……」
スタッバー「俺は勇者の村の出身じゃない」
勇者「……?」
スタッバー「だからよくは知らない。けどこれだけは知っている。先代魔王を倒した勇者の二つ名」
スタッバー「――鋼の後継。サクセサーオブレザーエッジ」
勇者「……」
スタッバー「俺は王都の魔人の名において勇者、お前をそう命名するよ」
スタッバー「だから――」
スタッバー「行くぞ! サクセサーオブレザーエッジ!」
スタッバー「審判だ! お前はエセ勇者か! それとも真に世界を救う勇者か!」
スタッバー「俺に勝って最強を手に入れてみろ!」
スタッバー「俺から世界を、取り戻してみろおおおおおおお!」ダンッ!
勇者「俺がエセかどうかなんてもうどうでもいい!」
勇者「そんな俺でも守れるものがあるなら!」
勇者「それだけでもう、十分なんだ!!」ダンッ!
スタッバー「おおおおおおおおおおおおおおお!」
勇者「がああああああああああああああああ!」
スタッバー「っらあ――ッ!!」ジャ――
勇者「そこだっ!!」ブン
カァン――!
スタッバー(!? 拳銃を俺の足元に投げた!?)
スタッバー「それで牽制のつもりか!? お粗末だな!」
タァン――ッッ!
スタッバー「!?」ズド!
勇者(そう、俺が狙ったのは暴発!)
スタッバー「――この!」ジャッ!!
勇者(突進力の鈍った拳なら今の俺でも何とか避けられる!!)スッ!
チッ――
スタッバー「!!?」
勇者(懐に入った!)
勇者(狙うはひとつ――!)
勇者「心臓への――」
勇者「――『両手寸打』ッッ!!!」バッ!
スタッバー「――――ッ!!」
勇者「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ズドオオオォォォォォンッッ!!
スタッバー「――っ!」ドサァッ!
スタッバー「……」
勇者「……」
魔王「……」
スタッバー「ま――」
スタッバー「まだだ!」ガバッ
勇者「!」
スタッバー「土壇場の付け焼刃で俺をしとめられると思うなっ!!」
魔王「シェロ! 奴の動きを止めろ! それで駄目なら諦めろ!」
勇者「了解だ!」
スタッバー「“惨劇を――”」
勇者「“我は紡ぐ――”」
スタッバー「“――見た!!”」 勇者「“――光輪の鎧!”」
ドゴオオオオオオオォォォォォォ!
スタッバー「……」
勇者「……」
スタッバー「ハッ……」
勇者「ぐ……」ドサァ
魔王「シェロ!」
スタッバー「勇者、お前、傷が深過ぎて頭がどうかしちまったんじゃないのか?」
スタッバー「俺に防御壁を張るなんてよ!」
魔王「――いや、それでいい。よくやったシェロ」
スタッバー「は?」
ボロ……
スタッバー「!?」
スタッバー(俺の……)
スタッバー「俺の手が……」
スタッバー「崩れ落ちた……!?」
魔王「成功だ……」
スタッバー「俺に、何をした!」
魔王「たいしたことではない。たいしたことではないのだ」
スタッバー「……?」
魔王「時計の針をちょっと進めただけ。ほんのそれだけのこと」
スタッバー「なんだと……!?」
魔王「我輩はチャイルドの助言を受け、毎日欠かさず瞑想を行っていた」
魔王「毎日少しずつ大きくなる歯車の音」
魔王「それは時が進む音」
魔王「いつしか我輩はそれに干渉できるようになっていた」
魔王「……魔神契約。それは契約者の身体能力、魔術能力を大幅に吊り上げる」
魔王「それは単純ゆえに弱点がない」
魔王「……寿命が削れること以外は」
スタッバー「……」
魔王「チャイルドは気付いていたのだ。魔神契約の弱点に」
魔王「そしてお前が契約をする可能性に」
魔王「だったら後は簡単な話だ。お前の死期を早めてやればいい」
魔王「ただ、我輩は限られた条件でしかそれができない」
スタッバー「それで防御壁で俺の動きを止めたわけか」
魔王「その通りだ」
魔王「あとは動かせる時間が問題だったが――」
スタッバー「……俺を見れば一目瞭然だな」
魔王「そうだな」
492 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 12:43:34.65 ID:OiA7zhF10
age
勇者「げほ……」ムクリ
スタッバー「……そうか。生きていたかい、サクセサーオブレザーエッジ」
勇者「……なんとかな」
スタッバー「……よし、最後だ。何とか俺の右手は生きてる」
勇者「……オーケー。わかった」
魔王「いいのか? 放っておいてもこいつは終わりだぞ?」
勇者「いいんだ。どうせ最後だ」
魔王「……そうか」
スタッバー「……」
勇者「……」
スタッバー「……」
勇者「……」
スタッバー「でえりゃッ!」ジャッ!
勇者「うらあッ!」ビッ!
スタッバー「……」
勇者「……」
魔王「……」
スタッバー「……これで終わり、だな」
勇者「……そうだな」
スタッバー「あーあ、俺の人生ここまでかあ」
勇者「後悔してるのか?」
スタッバー「いや、ぜんぜん。下手な老人よりよっぽど充実した人生だったよ」
勇者「……そうか」
スタッバー「むしろ楽しかったっていうか……」
勇者「ん……」
スタッバー「……」
スタッバー「なあサクセサーオブレザーエッジ」
勇者「なんだ?」
スタッバー「……世界、救えるといいな」
勇者「ああ、そうだな」
スタッバー「俺は先に退場するよ」
勇者「……」
スタッバー「……じゃあな」
ボロ ボロボロボロ――
魔王「逝ったか……」
勇者「……ああ」
魔王「……。さて」
勇者「……ああ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
魔王「『破滅の門』」
勇者「こいつを何とかしねえと世界が終わる!」
魔王「とは言っても……」
勇者「ああ! でかい!」
ビュオオオオオオオ――!
勇者「く……!」
魔王「異世界の風だ」
勇者「どうするよ魔王!? こいつは一筋縄じゃいかねえぜ!」
魔王「……」
ビュオオオオオオオオオオオ――!
勇者「チッ、一か八かありったけの魔術を叩き込んでみようぜ! それで吹き飛ばせればめっけもんだ!」
魔王「……」
勇者「よし! 用意しろ魔王!」
勇者「“我は放つ――!”」
魔王「“縛縄よ!”」シュルルルル!
勇者「うお!」ギシ!
勇者「おい! 魔王! 魔術を間違えてるぞ! こんなときに俺を縛ってどうする!」
魔王「……これでよいのだシェロ」
勇者「は? どういうことだ! 早くほどけ!」
魔王「シェロ、破滅の門は我輩一人で止めるよ」
勇者「できるのか、魔王!?」
魔王「ああできる」
魔王「我輩の命と引き換えなら」
勇者「何!?」
勇者「それは、どういうことだ!?」
魔王「我輩は瞑想により時間と空間、精神に干渉する方法を身につけた。その能力を限界まで使えば破滅の門を吹き飛ばせるだろう。そう確信している」
魔王「ただ、我輩の力は小さい。そのためには我輩の命を犠牲にするしかないのだ」
勇者「……」
魔王「……」
魔王「……シェロ、長いようで短かい旅だったな」
勇者「……ほどけよ」
魔王「それでも我輩は楽しかったぞ」
勇者「……ほどけって」
魔王「……達者でな、シェロ」
勇者「ほどけっつってんだろ!」
勇者「なんだよそれ! ただの格好つけじゃねえか、ふざけんな! 何が『楽しかった』だ! お前しか楽しんでねえじゃねえか!」
勇者「それに自分の命と引き換え? くだらねえヒロイズムに酔ってんじゃねえ!」
勇者「目を覚ませ! ほかにもっといい手段はあるはずだ!」
勇者「だから死ぬなんて二度というな!」
魔王「……お前なら止めると思ったよ。お前、実は優しいからな」
魔王「しかし、時間はない。確実な方法もほかにないのだ」
勇者「でもよ!」
魔王「わかれ、シェロ」
勇者「わかってたまるか!」
勇者「大体最初から世界のために戦っていたのはお前だけじゃねえか」
勇者「たった一人で世界を敵に回しても救おうとしてたじゃねえか!」
勇者「最後まで背負ってんじゃねえよ! 気負ってんじゃねえよ!」
勇者「俺にも何かさせろよ!」
魔王「すまん、シェロ」
勇者「謝る暇があったら早くほどけ!」
魔王「それはできんな」
勇者「くそっ、このっ!」ギシ ギシ
魔王「無理だ。あの強化体の魔術士をも縛った魔術だ。そう簡単にはほどけん」
魔王「ではさらばだ」
勇者「くそおおおおおお!」
魔王「あ、そうそう」
勇者「え?」
魔王「お前に装備させた呪いの首輪だがな」
勇者「?」
魔王「ありゃただのペット用しつけグッズだ」
勇者「は?」
魔王「ペットがおいたをしたら電流を流す。死ぬことなんてありえない。オーケー?」
勇者「すまん、ちょっと何言ってるかわからない」
魔王「はずすための合言葉は『よくできました』だ」
ガチャ――
s
魔王「これでもう心残りはない。行くとするか」
勇者「俺をさんざん混乱させておいて行く気かよ」
魔王「いやあ楽しかった楽しかった」
勇者「お前はひどい奴だ」
魔王「そうだな我輩はひどい奴だ」
勇者「約束しろよ」
魔王「ん?」
勇者「絶対生きてまた俺に会うって」
魔王「それはできかねるな」
勇者「いいから約束しろ、ニギ!」
魔王「……。お前、名前で……」
勇者「わざとだ」
魔王「……」
魔王「……はは、そうか。……そうか」
魔王「――わかった、約束しよう。我輩は生きて、お前に再会する」
勇者「ニギは生きてシェロに再会する。じゃないとお前の奥さんにどう弁明していいかわからん」
魔王「……わかった」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「行ってこい」
魔王「ああ、行ってくる」
507 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 13:49:21.71 ID:rpydsyd10
ニギ・・・(´;ω;`)ブワッ
勇者「絶対だからな! 帰ってこいよ!」
魔王「絶対かどうかはわからんが帰れるよう努力するよ」
勇者「絶対だ! それ以外は許さん!」
魔王「それは困ったなあ……」
魔王「本当に、困った……」
それを最後に魔王は……ニギは破滅の門の闇に飛び込んだ
その瞬間、破滅の門は目が眩まんばかりに輝いた
それから大きく渦を巻いて
激しい稲光と、熱衝撃波を放出してしばらく揺らめいた
……揺らめいて、静かに、ゆっくりと霧散していった
しっかり見ていたはずだった
しっかり見届けたはずだった
けれども視界はふるふると歪んでしまっていて
喉の奥がひりひりと痛んで
どうしてもそこを動くことができなかった
――そして今日も待っている
世界を救った、祭り好きの大魔王が
ひょっこりと自分に会いに来るような
そんな気がして
・
・
・
・
・
・
<数十年後.世界のどこか.テラス>
歴史学者「――それから赤光帝0年、当時の王都民が集団失踪」
学者「原因は明らかになっていない」
学者「その後王都はメベレンストからトトカンタに移され赤光帝59年の現在に至る」
学者(……と、ここまでは一般に知られている事実)
学者(だがその裏には勇者と魔王の知られざる英雄譚があった)
学者(王都民の集団失踪の原因は、ある一人の男による大量殺人)
学者(その男を討ち取ったのが勇者と魔王である)
学者(さて、なぜ男が大量殺人を行うに至ったのか、いかなる手段でそれを可能にしたのか)
学者(それには当時の王都が行っていた『人工的平和維持機構』について言及しなければならない)
学者(当時、世界は約六百年という驚くべき長期間の安定状態にあった)
学者(今にして振り返れば不自然なことであるにもかかわらず、誰もが疑問に思っていなかった)
学者(先に述べた『人工的平和維持機構』によるものである)
学者(そこに疑問をはさんだのが、当時の魔物の一人。魔族の長、魔王。彼は機構が世界の破滅につながるとして当時の王都に迫った)
学者(小規模な戦闘状態に陥りいったんは平和条約を結んだものの、『人工的平和維持機構』の停止という条件を王都が破ったことで再び交戦状態に入った)
学者(魔王はわずか数年後に初代勇者に破れる。魔王の意志は次期魔王に受け継がれる)
学者(次期魔王は、彼を討伐しに単独やってきた勇者の村の最後の出身者を手下にすることに成功)
学者(次期魔王は彼を引き連れ王都に乗り込んだ)
学者(大量殺戮者は当時、彼らを止めるための王都の刺客として動いていた)
学者(しかし、『最強』への渇望に駆られ『人工的平和維持機構』の人体強化契約に手を出す)
学者(それこそが大量殺戮を可能にした『手段』であり、彼が殺戮に至った『理由』なのである)
学者(次期魔王と勇者は彼を撃破。そして次期魔王の犠牲により、世界の破滅を回避することに成功)
学者「と、ここまで論文をまとめたはいいけど……」
学者「……誰も相手になんてしてくれなかった」
学者「でも……」
学者「誰が信じなくたって僕だけは信じる。あの尊敬する爺さんが言ってたことだから……!」
「考え事の最中すまんがよろしいだろうか」
学者「ん? なんか用かい?」
「実は、ここら辺に勇者が住んでると聞いて来たのだが」
学者「……」
「ん? 何だその顔は?」
学者「あなたも冷やかしに来たのかい?」
「は?」
学者「多いんだ、あなたみたいの」
「……」
学者「あなたもあれだろう? 勇者を自称するいたいけな老人を半信半疑にからかいに来たって奴だね?」
「……?」
学者「だけどね、僕の爺さんは本物の勇者だ! 遊び半分に来るんじゃない!」
「何か勘違いしとるようだが……」
学者「む、何がだい?」
「我輩は半信半疑ではなくちゃんと勇者だって信じとるよ」
学者「え?」
「我輩はかつて彼と一緒に旅をしておった。シェロから聞いたことはないか?」
学者「爺さんと、旅? ってことはあなたはまさか……」
魔王「そう、我輩は魔王ニギである」
学者「あなたが……!?」
学者「そんな馬鹿な! 彼は死んだはず!」
魔王「こうして生きているのだから仕方あるまい」
学者「でも、59年前、破滅の門を消滅させるために……!」
魔王「ああそのことか」
516 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 14:37:44.37 ID:rpydsyd10
ニギ・・・(´;ω;`)ブワッ
魔王「実はな、我輩の全力をつぎ込まなくても破滅の門の撃破は可能だったのだ」
学者「どういうことだい……!?」
魔王「我輩、当時王都の祭りで買い物をしたのだが」
学者「?」
魔王「そのとき買った指輪が、伝説に謳われる魔力増幅の指輪であったのだ」
学者「え?」
魔王「“光よ”×5ぐらいで破滅の門は消滅しおったよ」
学者「え?」
なにそれこわい
学者「え……じゃあ今まで何を?」
魔王「異世界をさまよっておった。異世界は半端ではなかったぞ」
学者「……」
魔王「延々とさまよった挙句、やっとついこの間こっちの世界に帰還することに成功したのだ」
学者「……」
魔王「長く帰らなかったものだから嫁に叩かれた」
学者「はあ」
魔王「ほれ、これがコブ」
学者「はあ」
まさか
魔王「と、言うことで我輩はシェロに会いに来たのだ」
学者「……」
魔王「シェロは元気であるか?」
学者「あ、ああ、まったくもって元気だ。今、呼んでくる」
魔王「魔王がじきじきに来てやったのだ。さっさと出てくるように伝えろ」
学者「わ、わかった! 爺さん、爺さーん!」
魔王「……」
ヒュオ――
魔王「うむ、暖かい、いい風であるな……」
ドタドタドタ――
魔王「ん……」
「ニギ!」
「――お帰り」
魔王「ああ。ただいま」
ヒュオゥ――
523 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 15:02:51.15 ID:rpydsyd10
ちょっと書籍化しよう
俺が買う
title:魔王「我輩と一緒に世界を救ってくれ」
〜END〜
thank you for your reading,sien and criticism
へばな〜ノシ
526 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 15:08:58.63 ID:rpydsyd10
乙
面白かった
gj
乙
かなり面白かった
乙
乙
乙〜
そういや最初の方で魔力増幅の指輪って名前出てたな
乙!
面白かった、書いてくれてありがとう!
追い付いたら終わってた…
乙
乙!感動したよ
537 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 16:00:08.53 ID:QF0p4DZX0
乙
よくやった
よし。女魔導師は健在か?
539 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 16:13:05.37 ID:omFgkMfY0
アフターストーリーとして女魔導師とのその後の話しにを書いてくれることに期待
540 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 16:35:12.87 ID:tetnkEHt0
乙
541 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 16:42:02.35 ID:AZfZsEyFO
乙!
>>1の体力もすげえしSSもすごくよかった!
終わったのか 超乙!
544 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 17:22:07.71 ID:Z7eX7713O
久々に面白かった!
女魔導師がどうなったか気になる