从 ゚∀从ハインはバレンタインにチョコを二度渡すようです
1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
代理
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:40:09.62 ID:UGhXLiki0
代理ありがとうございました
時間がないのでスレ落してください
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:44:36.95 ID:XX/YABup0
>>1 代理ありがとうございます
>>2 時間のある限り頑張ります。
三百六十日ほど早いですがバレンタインの話です。
短編ですが少し長く、このスレだけで終わらせたいので、保守や支援をしていただけると、本当に助かります。
冒頭で地の分が数レス続きますが、それは読まなくても構わんです。
では、始めます。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:46:57.19 ID:XX/YABup0
オレの前に二人の足跡が残っていた。
そして、綺麗に包装されている普通のチョコとクッキーが置いてある。
雪が溶けて足跡が消えることはあっても、チョコとクッキーは溶けることは無い。
毎年、一つだったが今年は二つも、だ。
あの時とはまったく違っている包装の仕方。
毎年食べるがやはり無味のチョコはおいしくない。
でも、まずくもないから食べるのだ。
あの時、初めて無味のチョコを食べた。
ラップに包まれて少し溶けていたいびつな形のチョコ。
食べた感触は良くなかったけれど、それを食べたおかげでやっと気づけた。
ハインがいなかったらどうしていただろうか。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:48:40.95 ID:XX/YABup0
チョコより先にクッキーの方のラッピングのヒモをほどいた。
華やかなラッピングの中には小さめの簡素なクッキーが数枚。
一枚とって口の中に含む。
感触はいくらでもあっても味は一向にしないのだ。
チョコを食べると頭がさえる。
事故の日の事を思い出す。数年前の今日の事を思い出す。
次の日に話しかけたかったけれどそれはいけない気がした。
ハインの手やランドセルを握って一緒に連れて行って行きそうな気がしてしまったから。
あの時に握った手はとても暖かくて心地よかった。
最後に見せてくれた笑顔は見つめていられないほど、綺麗だった。
そして振り返った時、ハインは後ろを向いていた。
あの時も、今日も、もう一度あの顔を見れたなら――――
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:50:50.74 ID:XX/YABup0
バレンタインほど億劫なものはない。
ただの二連休よりも短く感じる三連休が終わり、月曜日。
その日に限り寒々とした教室というものはその寒さと入り混じって異常な空気をかもし出しているのだ。
女も男も多かれ少なかれそわそわしている。
男の方は言うまでもなく、もしかしたら自分がもらえるのではないか、
気になるあの子がくれるのではなんと終わった後にあっけなく崩壊するような空想をしたり、
また、もしチョコを貰ったらその場でちゃんと断ろうなんて結局無意味な考えを持つだけに終わるようなのが典型だ。
女の大半はそのような男心をドラマの影響か漫画か一体何かわからないがそれとなく察知している。
しかし、そのドラマや漫画でよくある今日こそアプローチなんて考える女はこのクラスにはいない。
少なくとも私の周りにはいなかった。そんな女がいることを妄想をしていそうな男を嘲笑し、彼氏がいれば彼氏に、
また何かの部のマネージャーをやっている人はその部員に作る程度。
私もチョコをあげる人はバイトの先輩達と、父親ぐらいだ。
学校ではただ友チョコを皆で交換し合い食べ合うのだ。
そんな中で話し合われるのが、自分がいかに頑張ったか、これで太っちゃうなんてバレンタインデーがもとより、
女性の仲間内だけでチョコを交換する日になっているかのような話が主流だ。
というより、何かクラスにある妙な空気を押しのけようと無理やりそのような日だと考えようとしている話題の振り方なのだ。
それがまた、クラスの中の空気を濁らせてしまっている。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:52:54.56 ID:XX/YABup0
だが、そんな中で空気の読めない女が一人「さっきから○○君が、私のことを見ている気がする」なんて言ったらお終いである。
一瞬凍るがそこは集団の女であって無視はできない。そのクラスの空気が中に入ってしまう。
その上、その男が彼女持ちだったとしたら教室の空気よりももっと黒い空気になる。
もしかして自分のことを好きなのでは、と考える人は男だけでなく、女もいるのだ。
その日が終わった後のテンションの差があるぐらいで、あまり大差がない。そして私はそのような人間があまり好きではない。
自分はこのイベントに興味がないと自己暗示させてはいてもうっかりボロが出ている。
なかなか見られない多少の自尊心が垣間見ることができる。その自尊心が相手の印象を悪くするのは当然のことだった。
私はそちらの方の対象になるのが嫌だし、また私自身がこういった考えを持つ人だと勘違いされるのも嫌で、
いつも億劫になってしまう。今の空気とまじりあって一番よどんでいるだろう。私の周りは。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:54:37.79 ID:CLbT5xcl0
支援
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:55:12.89 ID:XX/YABup0
私の誕生日プレゼントは二パターンある。もらうものはすべて一緒なのだが、もらう日が違う。
誕生日当日か、四日後のバレンタインデーの二パターン。
もらうのはもちろんチョコ、きれいに包装された中身は練習用のチョコか他人と一緒かに限られる。
バレンタインにもらう場合の台詞はお決まりで「はい、誕生日も兼ねて」と。
私の姉の誕生日がクリスマスの後、正月の前で、常に下を見ていたからそこまで差別とは思わないが、
やはり少しは腑に落ちないところもある。
ちなみに、私が友チョコを渡す時に言う台詞は「プレゼントありがと。これお返し」だ。
私はあげた時にいつも他の人と違うことを言われる。渡した時に「包装がすごくキレイ」と言われるのだ。
それは常に言う『かわいい』とはまた違ったもので心の底からの思いをそのまま口にした感じに思える。
他の人がこういう風に褒められているところは見たことがない。
その代り多分一度もチョコを褒められたことはない。しかし、別に悲しくはない。
ただ溶かして固めただけのチョコや生地をこねるだけのクッキーを褒められるよりこちらの方が断然うれしいのだ。
その褒めちぎられた時だけ億劫という気持ちが消えている。
まぁ、私が御世辞に気付かずにこういった風に感じ取っているだけなのかもしれないけれど……
私は包装するコツとかセンスとかはそれとなく教えるけれども、どうしてこんなに上手くなったのかは話すことができない。
それとなくも話したくないことだから、言いたくもない「そんなに上手じゃないよ」と
お決まりのセリフを言って話を変えようとせざるを得ない。
この話をすれば空気の読めない女が言った「男子にチョコあげたことある?」に繋がるから嫌なのだ。
これはまだ一人称が『オレ』で、それを恥ずかしげもなく使っていたころのこと。
誰にも話そうとは思わず、また話せなかった。これからもずっと心の中にしまっておこうと思った。
そんなバレンタインデーの話――――
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:56:43.06 ID:XX/YABup0
J( 'ー`)し「ほら、手に持っていたら溶けてしまうよ」
ハ ゚-ノハ「そうなの?」
J( 'ー`)し「そりゃそうよ。ポケットの中にカイロ入ってるから、その中もだめよ」
ハ ゚ーノハ「うーん。わかった」
(゚、゚トソン「ほらハイン。さっさとしたくしないと置いてくよ」
ハ;゚-ノハ「姉ちゃんちょっと待って!」
その年は私の誕生日からバレンタインにかけて雪が降り続いていた。もちろん断続的にだが、降らない日などなかった。
手で持つかポケットに入れたかったチョコだけれども溶けてしまう方がいやなのでランドセルの中に慎重に入れた。
玄関のたたきにある黄色の長靴を見てもいつものように気落ちはしなかった。
もしかしたら誕生日よりも楽しみにしていたのかもしれない。
ランドセルを持ち上げた時に筆箱や教科書が音を立てるのに意識していたが、
外に出て今日も一面白の景色なのを見てランドセルの中に雪が入ることさえ考えずにはしゃいだ。
傘は差さずに自分の歩いた軌跡を作るのに使った。いくら白を見ても飽きることはない。
多分学校に着くまでの大半の時間は降ってくる雪を見ながらチョコの事ばかりを考えていたと思う。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 21:59:56.22 ID:XX/YABup0
(´・ω・`)「あ、おはよう」
(゚、゚トソン「おはよう」
いつもなら私と姉が横に並んで登校していたけれど今日は違った。
姉の幼馴染が途中で現れて、ちょっと小走りになり私が置いてきぼりをくらった。
ちょっと急いでいたのがこのためだったのかなと思いながら、姉の隣までに行くことはやめた。
(゚、゚トソン「あのさ、チョコ作ったんだ。社交辞令みたいな感じで……」
(´・ω・`)「ああ、うん」
(゚、゚トソン「本命とかじゃないから、頑張ってないし、作ったのは初めてだからあまりうまくないかもしれないけれど」
少し離れていてもその窒素な感じで言った恥かしい言葉は聞こえた。
私の誕生日を使ってたくさん練習したくせにと思いながらも言葉にしてつっこむことはしなかった。
傘を開いた後ろ姿しか見えないけれど何か見ていてはいけないように思えて、
新しく出来た三人分の足跡と、少し前の犬とその飼い主らしい足跡を、首をまげて眺めながら歩いた。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:00:32.99 ID:3J55qWV/0
し
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:04:12.66 ID:XX/YABup0
この年の誕生日まで私はチョコを作る、の意味をとらえ違えていた。
チョコを作っていると姉に言われて興味をのぞいてみて落胆したのだけは覚えている。
チョコはカカオからできていて、そのカカオから作っているものとばかり思っていたから。
確か初めて姉からもらった誕生日がこれだったと思う。
お金がなくて二枚程度の板チョコでしか作れなかったせいで鍋が焦げてしまったと言い訳していた。
姉はすぐに怒られた。何をどう言ったかは知らないけれど、私もなぜか怒られた。
でも母さんが買ってきてくれたケーキ並みにそのチョコはおいしかったから姉を許した。
ただ、溶かして固めただけで普通より硬いチョコだったけど。
実際は、姉と母の協同で作ったチョコだ。もう一度作ってくれたのだ。姉は今でもばれてないと思っている。
お湯も使っていないのに出来るはずが無い。まず、鍋が焦げることすらあり得ないのだ。
料理下手な姉の幼馴染の貰ったチョコは私が食べたのよりおいしいのかと気になった。
ちょっとそう考えただけで、姉の声が全く聞こえなくなった後はずっと降ってくる雪を見ていた。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:07:23.00 ID:XX/YABup0
学校の校門まで来ると、友達の派手な柄の傘が見えた。
私は嬉しくなってそこまで駆けよっていき、登校中何度も考えていた言葉を発した。
ハ ゚ーノハ「おはよ! ツンは、チョコ作ってきた?」
ξ*゚听)ξ「もちろんよ。教室に行ったら交換しましょ」
ハ ゚ーノハ「ほっぺ真っ赤」
ξ*゚听)ξ「寒いから仕方ないわよ」
ハ ゚ーノハ「うかれてんの?」
ξ*゚听)ξ「それはあなたよ。雪が降っているのに傘もささないで、ランドセル真っ白じゃない」
ハ ゚-ノハ「うかれてないよ!」
ランドセルに付いた雪を払われる。
中に入ったチョコが濡れてないか少し心配になった。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:10:55.59 ID:XX/YABup0
校門から教室が見えて男子の顔がいくつか見えた。
明かりがある教室は、男子の動きをより分かりやすくしていた。
何をしているか分からないけど多分いつも通りのドンチャン騒ぎをやっている風に見えた。
ξ*゚听)ξ「バレンタインだから盛り上がっているんだわ。ほんとバッカみたい」
ハ ゚-ノハ「いつも通りに見えるけどな」
ξ(゚、゚*ξ「いや、あれは絶対欲しがって盛り上がっている奴らだわ」
私は今でもこのバレンタインだから浮かれることなんてないという考えを変えてはいないし、
彼女も一度言ったらなかなか意見を変える人ではなかったから教室に着くまでに、
この話が終着に向かうことは決してなかった。
しうぇんたぁ
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:16:21.35 ID:XX/YABup0
ほんの数日前までは、ツンにあげるチョコなど無かった。
ハ ;-ノハ「じゃあ、バレンタインの時にオレにもチョコ作らせろ」
(゚、゚トソン「いいけど……誰か渡す人でもいるの?」
ハ ;-ノハ「皆でチョコ交換するんだけどオレだけもらうだけになるから……」
(゚、゚;トソン「……そぉ、わかったからもう泣くのやめて。本当にゴメン」
この年の誕生日の日まで私はチョコを作るのなんて無理だと思っていたし、
皆が私の誕生日も兼ねるから作らなくてもいいと言っていたから作る気はなかったのだ。
でも姉が作っているのを見て一緒に怒られて何度も謝ってきて……チョコを食べることが出来て許したけど、
その時に、どうせなら作ろうと嘘泣きをして、昨日、一緒に作らせてもらった。
出来る限り一人で作ろうとしたけれど、姉は幾度となく介入してきた。
何も知らないからお湯も使わず、鍋でいきなり熱し始めた姉に。
出来ればちゃんとしたチョコの作り方を知っている母に聞きたかったのだ。
まだ一度も成功してないくせに偉そうに……と思ったけれど、うまいものが作りたかったから素直に従った。
姉は幼馴染の男にあげていたけれど、私は一切男子にあげる気などなかった。
私のクラスの女子はほぼ全員男子にはあげていなかった。
もしあげたいと思っていた人がいたとしても、この頃からあげる馬鹿な女なんていない、
みたいな風潮になっていたので、自分の考えまでもが消されて、あげることなんてできなかったと思う。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:19:28.56 ID:XX/YABup0
教室に着けばやっぱりいつもと同じような馬鹿騒ぎをしていた。
私の小学校ではどこのクラスにもつながるベランダがある。
三階でも飛び降りようと思えば飛び降りれるほどの無意味な柵がついただけのもので、
教室の窓からその柵まで小学五年の身の丈ほどの幅でも雪が窓にこびり付く。
火災訓練時の時にしか役に立たないそのベランダも男子にとっては役不足らしく、
鬼ごっこやバレたら没収されるカードゲームなどをそこで使ってやっていたようだ。
今回も私が教室につく間にそこで簡易な雪合戦を始めたみたいだった。
朝から服が濡れて授業をしないといけないのを想像すると、普通は出来ないことだ。
ランドセルを教室の後ろのロッカーに入れて、中に入っていたチョコも含めて全ての荷物を取り出した。
チョコは他の人に見えないように持っていき、それと同時に人数分あるのと溶けてないことを確認した。
教室の一番後ろの自分の机に教科書などを入れ、座ろうとしたら話しかけられた。
二人とも私より背の低いヘリカルとミセリ。ヘリカルの方は季節に合わない短いスカートをはいていた。
ミセ*゚ー゚)リ「おはよー。今日寒いねー」
ハ ゚ーノハ「おはよ」
*(‘‘)*「見てー。背中にカイロ貼ってるのー」
ミセ*゚ー゚)リ「この背中がどうしてもオヤジにしか見えないのよ」
ξ*゚听)ξ「カイロ貼るならそんなスカートはかないほうがいいのに……」
ハ ゚ーノハ「ほんとだ。オレ手に持つやつしか持ってないよ」
彼女ら二人の髪の毛はもう濡れておらず、コートももう脱いでいるのでかなり前から教室にいるのがわかった。
女子はだれもこの教室は出ることはなく、ヒーターの近くに集まっている。
チョコの交換の話でもしようかと思ったけど、こんな遠くからすぐそんな話をすると欲張っているように見えるからやめた。
支援だ
なんかホラー臭がするのは俺だけだろうか
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:23:02.26 ID:XX/YABup0
*(‘‘)*「そうだ! チョコ持ってきた!?」
ビクッと体が固まってしまった。ヘリカルの方を向くと彼女はツンの方に話をしていた。
残念だと思ったと同時に何故か安心もした。
ξ*゚听)ξ「もちろん持ってきたわよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「ヘリカルったらチョコ作ってないくせに皆にチョコねだるのよ」
*(‘‘)*「ハインは?」
ハ ゚-ノハ「んー。下手だけど一応は作って持ってきた」
ミセ*゚ー゚)リ「作ってきたんだ」
ハ ゚-ノハ「うん。一応ね。一応」
*(‘‘)*「じゃあちょうだい」
私の中で起きていた葛藤を忘れさせるほどの行動っぷりと乞食の笑顔だった。
待ってましたと言わんばかりの顔なんかしてたら嫌だから、素っ気ない態度でいられるように頑張った。
でもそんな頑張りとは裏腹に腕はすぐに動いて机の中にあったチョコをヘリカルの前に出していた。
ツンも同じように私と同じようにチョコを出していた。
ヘリカルの前に出されたのは二つ。
両方とも似たような型抜きチョコだったが一つだけ大きな違いがあった。
手軽にだがちゃんとラッピングされているものと、ただラップで包まれているだけのと――――
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:27:12.89 ID:XX/YABup0
手前で私が渡したチョコがカサカサと音をたてていた。
('、`*川「しかし、本当にラッピングの腕前はすごいわね」
从 ゚∀从「そうでもない」
('、`*川「でもまぁ、よくバレンタインにクッキーなんて作ってきたね」
从 ゚∀从「チョコクッキーだよ。ちゃんとチョコ入っているじゃないか」
('、`*川「そんなの、クッキーが九割でチョコが一割みたいなものじゃない」
从 ゚∀从「そんなこと言ったらあれもチョコじゃないだろ」
('、`*川「パウンドケーキはいいのよ、パウンドケーキは」
从 ゚∀从「名前にチョコすら入ってないだろ、それ」
('、`*川「パウンドケーキ(チョコ)なの」
今日の交換で私のようなクッキーを持ってきている人はいなかった。
皆よくわからない、とりあえずどこかにチョコの名のつく何かを作ってきていた。
それに合わせてただチョコを溶かして固めただけなんて人もいなかった。
私だけチョコじゃないと感じるのが嫌だから今日はずっとそれをチョコと言い張ることにしている。
从 ゚∀从「それより、それ早く食ってくれよ」
('、`*川「嫌よ、中の入っているものよりこのラッピングされているのを見てる方が楽しいんだから」
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:30:34.41 ID:XX/YABup0
チョコを褒められるより包装を褒められる方がうれしかったが、何か少し腹が立った。
恥ずかしいから早く食べて、と言えば逆に残しておくタチの悪い人だからそれは言えない。
半透明でガーゼのおかげで少し緑がかって見えるチョコは中で踊っているようにも見える。
でもいつ中身が壊れるかわからない乱暴な揺らし方だったので何も言わず右手で止めた。
从 ゚∀从「まぁチョコよりも金をかけたからな」
('、`*川「そんな人、ハインだけだよ」
ラメだのリボンだのガーゼだの綿だの、そんなものをいっぱい使っていれば当たり前にチョコの値段を超える。
そんなことを自慢げに言うのも私だけだろう。
('、`*川「で、私のパウンドケーキ(チョコ)はどうしたの?」
从 ゚∀从「もう食べたけど?」
('、`;川「あれバレンタインと誕生日と合わせて二つ分あったのよ!」
从 ゚∀从「うん。おいしかったよ。ありがとね」
('、`*川「……そう、まぁ別にいいか……」
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:32:59.89 ID:CLbT5xcl0
支援
支援 ガンバ!
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:34:04.07 ID:XX/YABup0
あの年とは逆に、今年の冬はなかなか雪が降らない。
だが、今日は午後から一時的にだが積もるほどの雪が降るそうだ。
冬らしい冬が好きなのは冬生まれの性なのか、ちょっと嬉しかった。
窓ガラス越しに中庭に見える除雪で集められた雪の塊を眺めていた。
从 ゚∀从「……チョコでいいよな、アレ……」
('、`*川「何か言った?」
从 ゚∀从「いや、別に……」
口から洩れた言葉には二つの意味があった。
私のチョコがチョコにカウントされているのかという事と、
ただチョコを溶解させた後、型をとったものがチョコかという事――――
支援
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:38:44.45 ID:XX/YABup0
ヘリカルはあの後その二つの違いを気にする様子もなく、先に私のを口に含んだ。
どう足掻いても噛めないような仕様になっていた、と姉がそう言っていたはずなのだが、
飴のようにずっと舐めまわすしかないそのチョコを含んだ彼女の口からはバリバリという音が聞こえた。
*(‘‘)*「んー。おいしー」
当時の私の両手の親指と人差し指で作るカメラの大きさで楕円の形をしたチョコ。
それをいとも簡単に食べた後、すぐにツンのを食べた。
私のよりも一回りほど大きいハート形のチョコだったがそれもおいしそうに食べた。
そして今度は口の中からゴリゴリという音が聞こえた。
音からしたら硬さの違いがあったのはわかるが、それ以外にはただのチョコで、差がないのであろう。
後でツンのチョコを食べてみたが、私の硬いチョコよりも硬かった。
でもヘリカルは乳歯が取れそうな時、エンピツをかじって逆に折ったほどのもので、
学力はなかったが顎力があり、それの差すら感じなかったと思う。
ξ*゚听)ξ「ミセリのも含めてどれが一番おいしい?」
威圧するような言い方で、ツンがまず先に聞きたかったであろう言葉を聞いていた。
*(‘‘)*「んーとね」
顔をちょっとツンより上を向いてヘリカルは考えだした。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:40:03.77 ID:CLbT5xcl0
支援
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:41:08.06 ID:XX/YABup0
ミセ*゚ー゚)リ「決められないなら決められないでいいから……」
ミセリも多分気になってはいたのだろう。
*(‘‘ )*「えーっとね」
ハ ゚-ノハ「……」
自分でないと思っていても私の方を向いたから、もしかしたらと思ってしまった。
*(‘‘)*「うん! ビロードのかなぁ」
陽気にその一言を言い終わるとゴミ箱を経由して、彼女の席までいつもの調子で走って行った。
二人とも何とも言い難い表情をしていて、私も同じような表情をしていたのだと思う。
ビロードは別のクラスのおっちょこちょいの男子。私たちは男に負けた。
確かに女が男にあげるなんて、という流れはあったけれど、逆が来るとは不意を突かれた。
少し前に『逆チョコ』というのが出来たが、やめてほしいが一番の思いだった。
私のプライドが崩れてしまうだろう。
でも、私の問題はそこじゃなかった。
ヘリカルの前に出したチョコの包みのこと。
悪気は一切ないのだろうけど、私の包みはゴミ箱にあり、
ツンの包みはランドセルの中にしまっていた。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:43:50.83 ID:XX/YABup0
ミセ*゚ー゚)リ「そうだ。ツンのもハインのも今貰える?」
ξ*゚听)ξ「はい。どーぞ」
渡されていくチョコの包みを眺めていた。
ミセ*゚ー゚)リ「ハインのも貰っていい?」
ハ ゚-ノハ「うん。じゃあこれ、誕生日プレゼントのお礼も兼ねて」
ξ*゚听)ξ「じゃあ私は、誕生日プレゼントも兼ねてってことで、はい」
ハ ゚-ノハ「……ありがと」
私のチョコがラップに包まれているのが恥ずかしくて仕方なかった。
でも、ヘリカルに渡してしまった以上、皆に渡さないといけない。
誰も気にしてはいないのか。けれどそうだとしても、気が重くなった。
私は貰ったチョコの包みを眺めていた。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:49:10.56 ID:XX/YABup0
( ´∀`)「おはようモナ。さっさと出席とるモナ」
チャイムが鳴ると同時にまるで待ち伏せていたかのように担任の先生が現れた。
今日の天気も、今日のイベントも、今日の気分もお構いなしのいつものような声だった。
( ´∀`)「ほら、さっさと教室に入るモナ」
ベランダにいる男子に対して先生は言った。
(,メ゚Д゚)「ああ、もう一発くらわしたかったのに……」
(メ・A・)「やりたくないってあれほど言ったのに……」
(・< ・)「一番はしゃいでいたくせに……」
(メ^ω^)「一番楽しんでいたくせにおかしなこと言うお」
( ´∀`)「ちゃんと雪払って入るモナ」
悪ガキだけれども、先生の言う事は従順にきいていた。
服の模様が見えないほどに雪がくっついて、
服を払う手は真っ赤になっているのに頭の上は真っ白だった。
靴もビチョビチョでしっかりと席に着くまでの足跡がついていった。
横に座った悪ガキが何故かフードの中に雪が満タンに詰められていて、
皆それを笑っていたように見えたが、さすがにそれはないだろう。まず、皆からフードが見えないはずだ。
下に出来るはずの水たまりが隣の机まで攻めてきそうで、被害を受けることになりそうな私は笑うにも笑えなかった。
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 22:57:37.30 ID:XX/YABup0
雪がまだついていることに怒りもせず、私の気もお構いなしに出席がとられる。
( ´∀`)「沢近さん」
*(‘‘)*「はーい」
( ´∀`)「素直さん」
川- -)「はい」
( ´∀`)「高岡さん」
ハ ゚-ノハ「はい」
( ´∀`)「津出さん」
ξ゚听)ξ「はい」
ちょっと落ち込んでいたので声が小さくなっていたはずだが気にすることなく進めていった。
出席番号が最後の『渡辺さん』が休みだという事を伝えられた。
皆色々と騒いでいたけれど、私としては少し嬉しかった。
一人ラップの包みを見る人が少なくなったのだから――――
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:01:52.29 ID:XX/YABup0
今日一日の疲れを黒板は溜まりに溜まった白チョークの汚れでよく表していた。
('、`*川「ねぇ、ハイン。今日って何か用事ある?」
从 ゚∀从「ん? バイトだけど」
*(‘‘)*「休めないの?」
从 ゚∀从「実はこの前無断で休んで、今回は絶対に行かないといけないんだ」
('、`*川「今日皆でカラオケと映画でも行きたいなって思ってたんだけど……仕方ないか」
*(‘‘)*「じゃあ次の機会があったらその時にでもまた誘うね」
('、`*川「でも、こんな雪の日にもバイトがあるのね……」
从 ゚∀从「こんな雪の日にだってカラオケか映画に行くんだろ」
バイトへ行く頃になると、もう雪は降り始めていた。
今まで見ていた景色の様々な色も白へと移り変わっていく。
('、`*川「何故かバレンタインデーだからって安くなってるのよ。カップルか女性限定で」
从 ゚∀从「なんでなんだろうな」
('、`*川「本当にねぇ。まぁ別に損するわけじゃないし嬉しいんだけど」
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:04:42.20 ID:XX/YABup0
从 ゚∀从「で、何見に行くんだ?」
*(‘‘)*「『ジョルジュ』よ。ほら何か色々と言ってるじゃない。アニメのCGのやつ」
从 ゚∀从「あれね。でもそういった話ってだいたい相場が決まってない?」
('、`*川「主人公は馬鹿だけど誠実、たった一人の友達はおしゃべりでボケ役、ヒロインは差がありすぎるほどの美人」
*(‘‘)*「何か悪的なものを倒して、見事結ばれてハッピーエンド!」
从 ゚∀从「こういったハッピーエンドって本当に信じていいのか考えちゃうんだよね」
('、`*川「どういうこと?」
从 ゚∀从「嘘っぽいっていうか、すぐ破綻しそうっていうか……」
*(‘‘)*「大丈夫! どんな話でもそうだけど、次の作品で二人は子供を産んで、その上喧嘩したところから始まるから」
('、`*川「それでまた悪的なものが出て仲直りして、倒してハッピーエンドね」
从 ゚∀从「結局は同じだよ!」
私たちはここまで言って笑い出した。
大人数で誰か一人がずっと喋っているような形よりこうやって三人で話したりする方がよっぽど楽だった。
私と同じ風に前で笑っているヘリカルが以前はチョコを作ってすら来なかったのに、
今年は私が食べた中で誰よりも一番おいしいチョコを作ってきた。
時が経つと人は変るものだ――――
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:08:58.88 ID:XX/YABup0
*(‘‘)*「ナベちゃん休んじゃったね」
ハ ゚-ノハ「うん」
*(‘‘)*「どうして休んじゃったのかな?」
ξ゚听)ξ「どうしてって、インフルだからでしょ」
何故かはよく覚えてないけれど、授業で何か調べたものの発表をする際にいつも会議室を使っていた。
結構新しく保健室と調理室の上に増築されたもので部屋の両方から外の景色が見れた。
もしかするとエアコンが教室より効いていて、新しいから使っていたのかもしれない。
発表の話はまあまあに聞き、曇った窓から中庭を眺めたり隣と何度か短い雑談をした。
*(‘‘)*「チョコ交換したかったねー」
ξ゚听)ξ「交換って、ヘリカルはただもらって食べるだけでしょ……」
大きな声を出そうが隣と話し合っていようが怒られることはあまりない。
(,,゚Д゚)「おい、ブーン。ドクオの描いた絵見てみろよ」
(・A・)「十分で描いた」
( ^ω^)「ウマいけど何か気持ち悪いお」
(・< ・)「オレにも見せてくれ」
( ´∀`)「こら、ちゃんと素直さんの発表を聞くモナ」
怒られるのは大抵あの人たちだ。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:12:52.28 ID:XX/YABup0
この授業が終わると、急いで暖かい教室のヒーターの前をとるために急いで戻るものや、
絨毯の上で軽い乱闘を起こすものなど、皆さまざまな動きをした。
私たちはコタツから出るのをためらうように結構長い間そこにいた。
ダッシュで教室へ戻ってきたが、そこは天国ではなかった。
この時間、ずっと窓が開いていたらしく、むしろ廊下の方が暖かい気がした。
せめてヒーターの前にでもと思っても、もう占領されて入れそうには見えなかった。
( ^ω^)「やばいお、めちゃくちゃ暖かいお」
(,,゚Д゚)「露天風呂だよな。本物の露天風呂なんて入ったことがないけど」
ξ゚听)ξ「ねぇ、男子。寒いからしめてくれない?」
教室の窓は、全て不必要なほどに全開となっていた。
寒がりの女子はいつものように文句を言った。
いろいろな関係があるものの男子に対して一番よくものを言えるのはツンだった。
何人かはそれに続いて言えたものの私は一切何も言えなかった。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:15:34.31 ID:XX/YABup0
( ^ω^)「換気だお」
(,,゚Д゚)「ゆーこーかつよーしているんだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「バカみたいね」
*(‘‘)*「そぉ?」
悪ガキはヒーターの前に立ち、全開の窓から外を眺めている。
下半身が暖かくて上半身が寒いから露天風呂気分だそうだ。
みんな、バカみたいと言っていたが、楽しそうだった。
チョコをあげるからそこをどけと言いたいぐらい。
(・A・)「くらえっ!」
(・< ・)「うぉりゃ!」
外を眺めていた二人の顔面に両方の手で持っていた二つの柔らかい雪玉が直撃した。
雪が教室に散らばり、またツンが悲鳴に似た大きな声を上げる。
聞く耳も持たず、彼らはまた朝のような雪合戦をしている。
ラップやるからその気力をくれと言いたいぐらい――――
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:19:39.24 ID:XX/YABup0
『はい、デミタスvipです』
从 ゚∀从「あ、もしもし」
『あ、高岡さん?』
从 ゚∀从「はい。今から向かうんですけど、電車のダイヤが乱れてるとかで……」
『いつ頃になりそう?』
从 ゚∀从「まだわかりませんけど、このまま降り続ければ二十分ぐらい遅れそうです」
『わかった。まぁ気をつけてきてね』
向こう側から電話を切られた。
バイト先は学校の周辺でも家の周辺でもない。
土日に学校へ行く際は乗り換えする駅にいったん降りてその駅の周辺の店でバイトしている。
阿呆らしいと家族は言っていたが、知り合いに会うのが恥ずかしい私にとっては結構いい案だった。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:23:50.33 ID:CLbT5xcl0
支援
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:25:17.27 ID:XX/YABup0
*(‘‘)*「バイト先?」
携帯を閉じるとヘリカルが一言だけ聞いてきた。
从 ゚∀从「うん」
結局、遊びに行く話は中止となったらしい。
行ってもいいけれど……なんて出来れば行かなくていい糸口を見つけたいと思っている人が何人かいたらしく、
私がいけないと聞くとそれを皮切りに、行かないことになった。
言うなれば私がこの前バイトを休んだのが原因だ。
あの時のメンバーでこの学校に来ているのは、私とヘリカルのみ。
私は帰宅部でヘリカルは部活には入っているけれど幽霊部員。
いつも帰りは一緒になる。
ヘリカルは寒いのか、それ以降何もしゃべらなかった。寒いならそんな短いスカート履かなければいいのに。
何人かの学生もいたが寒さのせいか閉口したままで、何の音もしない。
濁った空から降る雪はまるで塵みたいに、それでも手袋の上に落ちてくる雪の結晶は綺麗だった。
あまりにも寒いので、一切温まらなかったが手袋に息を吐く動作だけしていた――――
支援
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:31:24.38 ID:XX/YABup0
給食の時間になると周り何人かで班を作って机をくっつけるというのはどこでも常識。
そのくっつけるはずの机に大きな大河が流れているのも常識だと聞く。
大きな河が出来ていた場合は先生が隙間なく、くっつけてくるから、
フードいっぱいに雪が詰め込まれていた彼との間に私のチョコの厚さ分の微妙な小川を作る。
(*´∀`)「イヤッッホォォォオオォオウ!」
ξ゚听)ξ「いきなりなんですか!?」
(*´∀`)「今日はチョコレートババロアモナが一つ余るモナ!」
(・A・)「この中で一番はしゃいでるよ……」
(*´∀`)「渡辺さんが休んでラッキーモナ!」
川- -)「ふきんしん……」
(*´∀`)「渡辺さんの分のババロア争奪じゃんけん。先生も加えてほしいモナ!」
(・< ・)「さすがに断固拒否」
この日は食パンで、チョコのジャムもあり、おまけにチョコレートババロアまでついてきた。
バレンタインを一番意識していたのは給食センターの人たちだったと思う。
不必要なまでにチョコ関連にこだわり、牛乳に入れる粉末のココアまで出る始末だ。
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:35:17.19 ID:XX/YABup0
ババロアの貰える条件として、一つあげられるのが早く食べきることだった。
そのせいか、いつも聞こえるおしゃべりもなくなっていて、
クチャクチャ音はするけれどもやけにヒーターの音がうるさくなった。
ξ゚〜゚)ξ「やっふぁさいはいのふぁかがひなくなるとふぃふかね」
ハ ゚-ノハ「え?」
ξ゚听)ξ「やっぱ最大のバカがいなくなると静かねって」
ハ ゚ーノハ「……そういうこと」
私は思わずにやけてしまった。上からピンポンパンポンとチャイム音が流れ出した。
『給食委員会からのお知らせだお! 今日の献立を説明するお!』
ξ゚〜゚)ξ「うわさをすればね」
『今日はアジのテリヤキとビーフ……ストノノガロッシュとキンピラゴボウだお!』
これが誰かと言うのが全校生徒の大半はわかっているのだろう。
低学年からは『月曜の《お》兄さん』とまで言われている。それほどまでにいつも異質な放送なのだ。
隣に座っているツンがとても楽しそうに聞いていた。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:40:02.76 ID:XX/YABup0
『今日はバレンタインについて紹介するお! みなさんバレンタインデーといえば……』
小学校では給食委員が昼の放送時間を使って献立の説明をしていた。
毎日行うわけで、月曜は内藤が担当だった。語尾に『○○だお』となることで、低学年がまねするほどの人気を誇る。
いつも結構有名な給食の豆知識も加えているのだが、内藤はさらに一言加えてみんなの笑いをとろうとしていた。
それでいつも先生から怒られているという話を同じ給食委員会のツンが教えてくれた。。
『……アル・カポネに対する非難が高まったというわけだお! あの映画で有名なアンタッチャブルなど……』
ハ ゚-ノハ「やけに焦ってるね」
ξ゚听)ξ「まぁどうせくだらない理由でしょ」
『つまりはチョコレート会社の陰謀でチョコレート戦争ってことだお! これで終わるお!』
『あ! ブーンさん。今日の一言忘れているんです!』
小さな声が聞こえた。多分放送委員の人だったのだろう。もう今日の一言は定着していた。
『お? そうだったお! 今日の一言は……≪ココアの粉は溶けにくいけどそれがいいんだ≫お!』
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:43:10.25 ID:CLbT5xcl0
支援
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:46:28.93 ID:XX/YABup0
(・< ・)「……なんだそれ」
口に出す人はいなかったが皆同じ思いだったろう。
これが何故か知らないけれど他学年に受けが良かった。
『これで給食委員会からのお知らせを終わるお!』
『ブーンさん! だから最後にそのボタンを押すんです!』
『ぁぅぁぅ! 早く食べ終わらないとババロアが食べられないお!』
『これまだ放送中なんです!』
さっきとは違い終わりのチャイム音がかき消されるほどの笑いが一時的に起きた――――
支援
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:50:48.39 ID:XX/YABup0
*(‘‘)*「ミカンたべる?」
隣に座っているヘリカルは私の太ももの上に小さなミカンを置いた。
揺れる電車の中はとても暖かくて、全身がコタツに入っているような気分だった。
あの時の先生も加えたババロア争奪じゃんけんは、男子の中の紅一点だったヘリカルが勝った。
楽しそうだからやってみたなんて言って、食べたいとは思っていない人間が勝った。
短いスカートがはねるのと一緒に浮きあがっていたのは、どうやら私のため。
从 ゚∀从「じゃあ、もらうか」
あの時にヘリカルは今と同じような感じで私に四日遅れの誕生日プレゼントをくれた。
言っちゃ悪いがあの日食べたチョコの中で一番うまかった。
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:53:33.11 ID:XX/YABup0
从 ゚∀从「今日作ってきたあのチョコ何て名前なんだ?」
*(‘‘)*「『スーパーデリシャースちょこちょこフワローン』のこと?」
从 ゚∀从「いや、そうじゃなくて……」
*(‘‘)*「いや、本当にそういう名前なの。『スーパーデリシャースちょこちょこフワローン』」
从 ゚∀从「どこに載ってあったんだ?」
*(‘‘)*「それでググればすぐに出てくる。名前が気に入ったから作ってみた」
从 ゚∀从「どこに惹かれたんだよ……」
*(‘‘)*「センスの悪さに惹かれました」
考えてみればこの時もあの時も一番おいしいチョコをくれたのだ。
でも、あの時のババロアよりもおいしいチョコだった――――
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:58:34.49 ID:XX/YABup0
川- -)「お腹大丈夫?」
ハ ゚-ノハ「うん。なんともない」
ババロアを食べていたので昼休みのチョコの交換にはみんなより少し遅れて入った。
他クラスの元クラスメイトの友達とも一緒に交換した。
ババロアを食べ始めた時とは一変、食べるにつれてだんだんと気分が落ち込んでいった。
腹を壊したとか、胃が重たくなったとかじゃなくて、ラップのことを思い出したのだ。
渡さなければいけないという結果は変わらないと悟ってはいても、
ゆっくりとゆっくりと引きのばして食べた。もう終わりごろには溶けていた。
そして今まで目に入れようとしなかったチョコとそれを包んだラップも、
形が変わるほどではないが、押せばチョコがラップにくっつく程度に溶けていてさらに落ち込んだ。
川- -)「はい。じゃあ交換」
そうやって渡されたチョコの包みはやっぱりちゃんとしていたものだった。
もう露骨にいやな顔をしていたかもしれない。
でも咄嗟に美辞麗句を並びたて、礼の返事と一緒に交換した。
結局、休んだ渡辺さんの分を残して全てのチョコが他人と交換された形となった。
そして皆一つずつチョコが余ったのだが、そのチョコは綺麗な包装をされていた。
ラップのチョコを見て誰一人とて嫌な顔もしなかったし何も言わなかった。それが逆に怖かった。
私とツン以外は皆ホイルケースに溶かしたチョコを入れて上から五色スプレーをかけている様なチョコ。
でも、もしこの中で一人だけ違うチョコを渡している人と聞かれたらそれは私になる。
ヘリカルと思う人がいるかもしれないけれど、議論すれば最終的に私になる。
それほどまでに私の包装は汚いものだったのだ。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/17(水) 23:59:35.91 ID:XX/YABup0
(*゚ー゚)「それにしてもナベちゃんが休みとはねー」
ξ゚听)ξ「今年は初めてかな? 確か」
(*゚v゚)「ほかのやつは大丈夫なのか!?」
ハ ゚-ノハ「学級閉鎖にならないかって盛り上がってるだけで皆元気だったな」
手一杯に持ったチョコは私のも含まれていた。
こうやって交換したものの給食の後で、一斉に五個六個食べることはできない。
話すことも何か限られていて、クラスでいる時と同様に渡辺さんの話となった。
(*゚ー゚)「ねー。ナベちゃんの分のチョコどうするの?」
川- -)「腐るといやだし、私は自分で食べようかな」
(*゚v゚)「とーちゃんにでもやるよ」
ハ ゚-ノハ「オレも自分で食べようかな」
ξ゚听)ξ「……」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:02:48.47 ID:XX/YABup0
ミセ*゚ー゚)リ「ツンはどうするの?」
ξ゚听)ξ「捨てたらもったいないよね……」
(*゚ー゚)「どうしたの?」
川- -)「小声でぶつぶつと……」
ξ )ξ「……別に義理でもあげていいし……うん。仕方ないし……」
*(‘‘)*「じゃあ、それも食べていい?」
ξ#゚听)ξ「だめよ! ブーンにあげるんだから!」
(*゚ー゚)「……」
川- -)「……」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
ξ///)ξ「……」
あの時の空気といったら……
私はもう一度も他人にこのチョコを渡したくないからすぐに私の作ったチョコだけポケットに突っ込んだ。
そして結局ツンの渡辺さんにあげるはずだったチョコは、内藤が舐めることができず、ヘリカルが噛み砕いた。
異様な空気の中、ボリボリと音が聞こえていた――――
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:09:57.37 ID:ClbdPjX80
支援
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:10:06.55 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「あの日も確か月曜だったんだよな」
*(‘‘)*「いつのこと?」
从 ゚∀从「小学の時のバレンタイン」
*(‘‘)*「小学校ねぇ。厨二で黒歴史の塊だったでしょ」
从 ゚∀从「中二で黒歴史?」
*(‘‘)*「霊が視えるなんて言ったり、女なのに一人称が『オレ』とか言う時のこと」
从 ゚∀从「わかったからやめてくれ……」
覚えられているものだな。消し去りたい過去。
冷たくなくても暖かくなくても顔が赤くなる。
*(‘‘)*「色々なパターンがあるらしいよ」
从 ゚∀从「小五なのにかくれんぼしたがるのは?」
*(‘‘)*「それは小二病」
从;゚∀从「あ、そう……」
言い返そうとしても失敗した。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:14:04.16 ID:Fnsjj70w0
*(‘‘)*「バイト先見に行っていい?」
从 ゚∀从「だから、毎回言ってるけど駄目だって」
*(‘‘)*「わかってる。じゃね」
看板に書かれた駅名が聞こえてから、扉を開ける。
扉が開けると、このまま一緒に残りたい気分になる風が襲ってきた。
从 ゚∀从「……どうしてこのまま一緒にかえることが出来ないんだろ……」
*(‘‘)*「この前バイト無断でサボタージュしたからでしょ」
从 ∀从「この前サボらなければ、今日は映画見に行って、カラオケして……」
*(‘‘)*「こんな人を雇う雇い主が見てみたいよ」
コントのようなセリフを残して、電車は私を含め四人を置いていった。
皆降ってくる雪を何度か見ながら足を進めていった。
機械的な動きに見えたが、手に息を吐く姿は何度も見た。
雪が降るその景色に同化するように白の傘をさし、バイト先へと向かった。
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:18:21.75 ID:Fnsjj70w0
ただボーっと歩くだけで着く場所。
だが、今日はそうはいかない。気持ちをどこかにやっていると足に水がかかる。
融雪装置や水たまりが何度も意識をこちらへと戻してくるのだ。
昔はこれに雪を集めたりして遊んだものだったのに今となっては完全に不快なものになっていた。
今日とあの年のバレンタインデーは結構似ている気がする。
確かあの日も月曜日でこんな風に雪が降ってきたのだ。
バイトやラップのせいでやけに後悔して憂鬱になったり……
……ああ、あの日のことを考える度に、靴がビチョビチョになっていく――――
支援
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:27:55.91 ID:Fnsjj70w0
すいません。投下しきれません。
まだ結構残っているので、寝る前に終わらせるのはどうも無理そうです。
明日残っていれば夕方からまたその続きを書きたいと思います。
読んでいただかなくても、保守をしてくれれば本当にうれしいです。
残らず、まとめもなければまた次に全部投下しきれる時間に投下したいと思います。
支援してくれた方々。ありがとうございました。
では。
乙です。続きお待ちしてます。
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 00:52:14.35 ID:7azLC/HDO
とりあえず保守
ホッシュ
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 02:31:57.34 ID:TqY/dZDH0
age
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 03:49:29.88 ID:4R28Jy/Q0
ほ
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 04:26:10.56 ID:TqY/dZDH0
寝る穂
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 06:57:03.85 ID:7azLC/HDO
保守
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 07:00:17.75 ID:LyR/Yw9q0
夕方かよ
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 07:49:32.71 ID:l/DWp15gO
ほす
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 07:56:18.65 ID:LNWDRxtM0
『スーパーデリシャースちょこちょこフワローン』をぐぐってしまった
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 09:34:35.02 ID:99tFRqI20
保守
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 10:38:59.18 ID:xVsBHr4AP
ほし
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 11:45:43.91 ID:xVsBHr4AP
保守
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 12:45:41.94 ID:xVsBHr4AP
保守する
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 12:57:05.59 ID:48ndADMZ0
保守ぅ
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 13:24:27.26 ID:5dqUkz5p0
ほ
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 14:17:18.30 ID:ClbdPjX80
そろそろ保守の時間かね
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 15:30:33.81 ID:xVsBHr4AP
あげ
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 15:51:11.49 ID:/ZLKZ9VyO
ほ
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 16:45:38.68 ID:xVsBHr4AP
ほしる
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:07:35.83 ID:pixy9Bcl0
ほ
80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:14:34.43 ID:Fnsjj70w0
保守ありがとうございます! 心から感謝です。
これほどまでにシュレーディンガーの猫を実感できた日はありません。
では、この前の続きから投下していきたいと思います。
支援
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:20:15.43 ID:Fnsjj70w0
三連休の課題をやっていない人とは違い、放課後は自由の身となった。
残されるのはほぼ男子。
『バレンタインだからずっと遅くまで残るんじゃない?』……なんてツンは言ったのだが、
遅くまで残った人は本当にバレンタインだから残っていたのかどうかは知らない。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、いい? 何になっても怒るのは禁止よ」
ξ゚听)ξ「わかってるわよ!」
友達と七人で、この日の帰りも今日の日と同様に遊ぶことになった。
でも具体的には何をどこでするかを決めてなくて、じゃんけんで勝った人のやりたいことをする。
他の人はそれに絶対に逆らえない。例え私の家が使えなくても私の家を使うことになるかもしれないのだ。
私は別に何でもよかった。
私の家を使うことになっても、なにか変な遊びをすることになっても。
ただ、私が命令する王様にはなりたくはなかった。
そんな風に思いながらじゃんけんを行っていたら、あっさりと負けられた。
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:26:57.33 ID:Fnsjj70w0
*(‘‘)*「よっしゃー!」
そして、グーの拳をたからかにあげたヘリカルが王様となった。
(*゚ー゚)「……悪い予感がするんだけど」
私も同じ予感がした。
もしかすると、チョコを男子に渡せなんて言ってくるのではないかと思ってしまうほど、
それほどまでにヘリカルは何を始めたいというかわからない。
ハ ゚-ノハ「で、何するんだ?」
*(‘‘)*「かくれんぼ」
川- -)「この寒い中?」
(*゚v゚)「学校で?」
*(‘‘)*「うん。寒い中、学校で」
ミセ;゚ー゚)リ「一種のごうもんだとおもうよ?」
*(‘‘)*「ダメ?」
ξ゚听)ξ「……ま、いっか」
想像したまでのことは始まらなかったが、そこはやはり小二病のヘリカル、と言うべきか。
そうしてまた、じゃんけんをすることになった。
何かさっきよりも落ち着いたじゃんけんになった。
この時もすぐに私は傍観者になって、誰が鬼になるかを見ていた。
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:32:40.93 ID:Fnsjj70w0
川- -)「私が鬼になったか……」
鬼になったクーのグーは王様になったヘリカルと同じグーだったが、印象はあまりにも違った。
ξ゚听)ξ「ルールどうする?」
(*゚v゚)「とりあえずは、校舎全部だな」
ミセ*゚ー゚)リ「鬼は全員見つけて、最初に見つかった人が交代?」
ハ ゚-ノハ「それだと鬼が可哀そうだ」
(*゚ー゚)「とりあえずは、一度やってみて、でしょ」
川- -)「何秒?」
*(‘‘)*「五十秒ほど!」
川- -)「わかった」
私たちは一斉に教室を出た。
寒い廊下ではしゃぎ回れるのはヘリカルだけ。もう単独行動を始めた。
もう鬼の居る教室にでも戻りたいと思うほどだが、カイロを握りながら寒さに耐えて皆について行った。
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:39:27.16 ID:5dqUkz5p0
なんというロリコンほいほい…これは抜けるっ!
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:39:44.84 ID:Fnsjj70w0
(*゚ー゚)「皆同じ方向はダメでしょ」
愚痴に少し近い雑談をしてる中、先頭を歩く人だけが言える言葉を言われた。
この言葉を言われた限り、絶対に誰かが離れなければならない。
こうやってまずは、半分になる。そうしてその中で誰かが一人隠れ場所を見つけては、
ξ゚听)ξ「私ここに隠れるわ」
と言って、身を潜める。
いやいやかくれんぼに付き合っていたように見えても、始まればそんな顔を見せはしない。
こうしてついに私一人だけが廊下につっ立っていた。
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:42:40.04 ID:Fnsjj70w0
ハ ゚-ノハ「どこかいい場所ある?」
隠れているのかどうかわからないけれど、給食室に繋がるエレベータの前に座り、身を潜めている。
(*゚v゚)「会議室は?」
ハ ゚-ノハ「月曜だから今会議してるはず……」
(*゚v゚)「じゃあ一緒に隠れる?」
ハ;゚-ノハ「……いや、いいや。ちゃんと探す」
どこか温かい場所に隠れたいと思っていたけれどそんな幻想は捨てた。
もう鬼は捜し始めていて、どうにか見つからないようにとこの場所から動いた。
88 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:46:46.71 ID:Fnsjj70w0
誰にも気づかれない、驚く場所。もう掃除用具のロッカーでもいいかと思ってしまう。
そんな時にゴミ箱を見つけた。
廊下にある一つの大きな丸くて青いポリバケツ。
いつもなら、こんなことを考えなかっただろう。
蓋を回すとロックがとれて、容易に開いた。
黒色のゴミ袋の中にはティッシュやら紙屑やらで半分ほど満たしていた。
匂いを嗅いで、大丈夫だと言い聞かせてからゴミ袋を外に出した。
急いでそのゴミ袋を縛り、ポリバケツの横に置いた。
ノパ听)「でね、そうしたらクーはね……」
(゚、゚トソン「あれ? ハイン。こんなところで何やってるの」
ハ ゚ーノハ「姉ちゃん丁度いいところに」
(゚、゚トソン「え?」
こんな事をしている時に姉とその友達が通りかかった。
普通、こんなとこに出くわされたら恥ずかしくて穴の中にでも入るのに、
喜びながらポリバケツの中に入ろうとした私はどこか頭がいかれていたはずだ。
もしかするとヘリカルよりかくれんぼを楽しもうとしていたのかもしれない。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:48:41.85 ID:Fnsjj70w0
ノパ听)「ねぇ、何かの遊び?」
ハ ゚-ノハ「かくれんぼ」
ノパ听)「ふぅん。クーもやってるの?」
ハ ゚-ノハ「うん。今鬼だよ」
ノパ听)「やっぱ、マセてると思っていてもやっぱり子供だね」
一学年しか違わない人に言われると心に刺さるものがある。
でも、行動を止めるとこはしなかった。
ズボンだとしても、女性がするものでないほど股を開いて右足をポリバケツの中に入れた。
そして、倒れるかと思うほどの勢いで左足も中に入れてしゃがんだ。
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:52:26.19 ID:xVsBHr4AP
支援
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:55:53.40 ID:Fnsjj70w0
ハ ゚-ノハ「じゃあ閉めて!」
(゚、゚トソン「……本当にいいの?」
ハ ゚-ノハ「うん」
(゚、゚トソン「閉めるよ?」
ハ ゚-ノハ「おねがい」
ポリバケツに入った人を上から眺めるというのはどれだけシュールなものだったのだろうか。
(゚、゚トソン「お姉ちゃんもう帰るけどいいよね?」
ハ ゚-ノハ「うん。それじゃ」
もう顔も見えないけれど、いるだろうという方向に言った。
ノパ听)「面白い妹ね」
(゚、゚トソン「色々とおかしな妹よ」
真っ暗とまでいかないけれど冬の夜のように暗かった。
ほんのちょっと、壁側に向けて申し訳程度にあいた穴があり、そこから壁しか見えないのにずっと覗いていた。
廊下よりは寒くないように感じられたが実際には差が無かったはずだ。匂いも狭さも不快に感じられない。
あるのは興奮だけで、この閉鎖空間の中には恐怖などはなかった――――
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 17:59:34.53 ID:Fnsjj70w0
冬の空はある程度暗くなるとそれ以上は暗くならない。
ムラサキ色の空が夜の間ずっと続く。
その空はポリバケツの中よりもまだまだ明るい。
バイト先に行くまでの最後の曲がり角を曲がると雪かきをしている店長がいた。
从 ゚∀从「雪かき大変そうですね」
(´・_ゝ・`)「あぁ、意外に早かったね」
店長は喋る言葉と一緒に白い息も吐いていた。
少し前から行っているのか、手袋しかしていない店長の肩にたくさんの雪がついていた。
从 ゚∀从「今日は客ってよく入りますか?」
(´・_ゝ・`)「今はまだかな。でも寒いからこの後結構来るんじゃないかな」
从 ゚∀从「そーですか」
『デミタスvip』という看板ももう見えないほどひどく雪が降っている。
扉の前の泥落としマットの上で靴についた雪を落とし、傘を三度開いて四度閉じて傘の雪を落とした。
93 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:03:14.12 ID:Fnsjj70w0
(´・_ゝ・`)「そういや、この前無断欠勤したの、僕に謝らなくてもいいけど、兄者君には謝った方がいいよ」
从 ゚∀从「……そーですね」
(´・_ゝ・`)「大変だったからねー。二人で三人分の仕事するの」
从 ゚∀从「そういえば、今日バレンタインなんでチョコ作ってきてくれたんですよ」
(´・_ゝ・`)「あ、それは嬉しいね。そうだな。終わったら食べるからすぐにレジの隣でも置いておいてくれない?」
背中を向けてそんな風に喋ってくるのは何となく怖かった。
話題を変えてみたものの、そのまま後ろ向いたままであった。
だけどその言葉にはとげが無くなっていた。
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:07:01.71 ID:Fnsjj70w0
デミタスvipというのは喫茶店。デミタスというのは店長の名前である。
ネーミングセンスがスーパーデリなんとか並みに悪いと思う。
それでも結構常連が多く人気のある店である。その客も悪い人がいない。
こんなところに知り合いがいることもなく、とてもいいバイト先だ。
ちょっとした憂鬱も消えて店のドアベルを鳴らす形で店に入った。
(#´_ゝ`)「そこから入るのはやめてほしいって言ってるんだけどね」
レジの後ろには多分怒っているのであろう先輩の姿が。
怒っている人の前に他人にあげるチョコを置けるわけがない。
サボりまで見逃してくれるいいバイト先である。
でも、店長のこういった陰湿な報復の類がなければもっといいのだけれども――――
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:08:40.77 ID:LyR/Yw9q0
しえ
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:11:24.89 ID:Fnsjj70w0
ポリバケツの中も陰湿なものだったのかもしれない。
あの時は、目が闇に慣れても見えるものは壁しかないから、たまに逆側から聞こえる人の足音にそっと耳を傾けていた。
何十分もいたけれど誰も気付く者はいなかった。
かくれんぼのルールがどうなったのかは知らない。
とりあえず隠れている間に何度も鬼は交代していった。
その度にどこからか声が聞こえてくる。
ミセ*゚ー゚)リ「私が鬼になったよー」
その声はポリバケツにいてもわかるほど、いつも高揚していた。
結局はみんな楽しんでいたのだ。私をほぼ置き去りにして。
このポリバケツの横を通り過ぎる足音もつまらないといったテンポは刻んでいなかった。
ポリバケツに入った時の興奮は寒さのせいかすぐに消えた。
それに取って代わってきた感情が恥だった。
恐怖も感じることもなく、ただ恥を感じていた。
何であんなに興奮していたのだろうか。換気した時の部屋以上に冷めたはずだ。
私が家に帰った時姉は一体なんて言うだろうか。
ゴミ箱に使っているポリバケツの中に隠れたと言われたら皆軽蔑するだろうか。
ネガティブになれば、チョコのラップのことも思い出し、さらにネガティブになっていく。
シエーン
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:15:46.13 ID:Fnsjj70w0
もう出ようと決意したのは鬼が三度交代した後だった。
でも、いざ出ようとすれば、その度に誰かが廊下を歩く音がする。
やっと誰の気配も感じなくなったときに、ひ弱な力で、ポリバケツの蓋を上に押した。
けれどそれがあがることはなかった。力が無かったわけではない。蓋がロックされていたのだ。
『ロック付きのゴミ箱に入るなんてことは絶対にしてはいけないモナ』
いつか担任に言われた言葉を思い出した。入って出られなくなって死んでしまった生徒がいるという伝説。
今思えばどう考えても担任が絶対に禁止させるために言った嘘なのだけれども、当時の私は信じた。
聞いた時はそんなバカな奴がいるものかと思っていたけれど、そのバカが私だった。
そしてこんな時になってからそんな嘘を信じるほどのバカだった。
何度かチャンスはあった。知らない人ではなく、かくれんぼに参加している友達がここを通っているのに気づいた時。
助けを求める声を出そうとした時、私の中の自尊心がいつもそれを止めてしまった。
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:19:54.73 ID:Fnsjj70w0
ξ*゚听)ξ「ハイン、どこにいるのー? もう降参するから出てきてよ。帰るよー」
多分ほっぺを赤くしていたであろうツンが、あさっての方向に向かって言った。
これが最後のチャンスだった。
それでも、声が出なかった。死ぬかもしれないという思いより恥じが勝ってしまったのだ。
*(‘‘)*「もう先に帰ってるよー」
ハ ;-ノハ「待って!」
私が発した声はヘリカルの聞こえた声と同じくらい。もちろん、届くはずもなかった。
私が今どこに隠れているのかなんて話をしていたのかもしれない。
けれどそれは、足音も喋り声も聞こえないぐらい遠く。そしてさらに離れて行った。
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:22:01.91 ID:Fnsjj70w0
そして、何も声が聞こえなくなった。そして、今までで一番大きな恐怖がやってきた。
カイロを手にとって、ずっと手で擦っていた。
いつか小さな穴から見える光も、消されてしまうのだろうと。
そう思うと、光がどんどんぼやけてきた。
何分間かすすり泣きをしていたと思う。
しゃっくりがずっと鳴り響いて、止めようと思っても一切止まらなくて、
ここを素通りした人がいるのかどうか知らないけれど、いたら七不思議のひとつにでもされていただろう。
でも私のすすり泣きを聞いて、ポリバケツにかかっていたロックを外してくれた。
素通りもせずに、私の声を聞いて……それが好奇心か何か知らないけれど、
恐る恐るではあったけど蓋を開けて……それで……
ハ ;-ノハ「ヒッグ……ッズ……ヒッグ……」
神様にも見えた彼は、
煤i・< ・;)「うぉわ!」
私の鼓膜が破れるほどの声で叫んだ――――
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:26:28.81 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「どうもです」
( ´_ゝ`)「はい、どうも」
从 ゚∀从「……」
( ´_ゝ`)「……で?」
从 ゚∀从「はい?」
( ´_ゝ`)「……で?」
从;゚∀从「……この前はサボってすみませんでした」
(#´_ゝ`)「ちがう!」
从;゚∀从「……は?」
(#´_ゝ`)「チョコ!」
从;゚∀从「え?」
(#´_ゝ`)「チョコだよ!」
こちらも、鼓膜が破れるほどの大きな声で言われた。
102 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:30:29.73 ID:Fnsjj70w0
(#´_ゝ`)「昨日メール送っただろ! 見てないのか。メールはちゃんと確認するのが大人のマナーだぞ!」
从;゚∀从「そんなもの着いてないですよ、多分」
(#´_ゝ`)「送ったんだよ! 確かめて見ろ!」
从;゚∀从「わかりました」
( ´_ゝ`)「ん?」
携帯電話を開いて受信ボックスを簡単に調べてみたがそれらしきものは無かった。
何度も調べている間に一通のメールが届いた。
『兄者さん
RE2: RE2:
お願いがあるんだけど、明日俺へのチョコも持ってきて』
从;゚∀从「今届きました」
( ´_ゝ`)「ごめん未送信だった」
从;゚∀从「……」
103 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:30:32.22 ID:LyR/Yw9q0
しえ
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:32:50.22 ID:Fnsjj70w0
( ´_ゝ`)「いや、悪かったね。怒ったりして」
悪びれた様子もなくそう淡々と言えるものだ。
先輩の威厳もなくなった彼の前に無言でチョコを置いた。
( ´_ゝ`)「いや、渡すのはちょっと後でいいんだけれど」
从 ゚∀从「それ、店長のです」
( ´_ゝ`)「え?」
从 ゚∀从「そこに置いていって、と言われて」
( ´_ゝ`)「俺のは?」
从 ゚∀从「いや、メール見てなかったですし」
( ´_ゝ`)「……」
精気が抜けた先輩の分のチョコは持っているが、そんなに急いであげるものでもなかった。
昔は見てもらいたいとか食べてもらいたいなんて欲求を持っていたが、
今となってもう社交辞令の一つにしか感じないでいるものだ。
105 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:35:49.44 ID:Fnsjj70w0
(´・_ゝ・`)「やっぱりここは暖かいね」
从 ゚∀从「お疲れ様です」
手袋をとりながら、店長は言った。肩に積もっていた雪はもう掃われている。
(´・_ゝ・`)「お、綺麗な包み紙だね」
从 ゚∀从「そうですか?」
(´・_ゝ・`)「後で食べさせてもらうよ」
簡単な社交辞令をとりはからっている間、店長は何度か先輩と私の顔を見てきた。
そして、予想していたように嫌がらせが成功しなかったせいか、つまらなそうな顔をしていた。
(´・_ゝ・`)「そろそろ客が来るから制服に着替えてきてね」
从 ゚∀从「わかりました」
私が更衣室として使っている部屋に行く際に、厨房と言えるほどのものではないが、
それ以外に上手く伝えられるような言葉が無い場所を通る。
目に入ったのが、あの時と同じほどの大きさのポリバケツ。
中には生ゴミがたくさん入っていて、開けた時は独特の臭いを出す。
あれが、とても清潔なポリバケツであろうが、ギリギリ入れる大きさであろうが、
今じゃもう入ることは出来ない――――
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:36:05.90 ID:hrT2EHTkO
お、スレが残ってる
支援
107 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 18:43:12.34 ID:LyR/Yw9q0
しえ
108 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:05:39.74 ID:LyR/Yw9q0
さる?
109 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:14:31.36 ID:Fnsjj70w0
しゃっくりが止まったのは、誰もいない教室に戻って私が彼にポリバケツに入っていた理由を
嗚咽混じりで話し終わってからのことだった。
(・< ・)「そうだったのか……」
ハ ;-ノハ「……弟者はどうしてまだ残ってるの?」
悪ガキ四人衆だった一人。勿論一切の話をしたことが無いので、彼のことをどう呼ぼうか迷った末、
他の男子がそう呼んでいた言い方に合わせた。
(・< ・)「え? オレ?」
言葉に何か違和感があったのかと思って、またしゃっくりが起きたように体がびくついたが、
彼はそのまま、私と同様にいきさつを話し始めた。
(・< ・)「オレは、連休の宿題一切やってなかったから、残されて」
ハ ;-ノハ「……」
(・< ・)「んで、保健委員のシャボネットの当番だったから、全箇所入れて戻ってきたら……」
言葉はそこで止まった。歯切れの悪い言い方だ。
多分そこで私と会ったのだが、私がどういう状況にあったのかが言いにくかったのだろう。
110 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:20:40.25 ID:33tcOnhHO
支援
111 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:21:59.32 ID:Fnsjj70w0
彼は何か戸惑った様子で自分のポケットを叩きだした。
そして、また歯切れの悪い言い方とともに他より劣弱な音がした、
右のズボンのポケットから漫画の絵が描かれたテッシュを渡してきた。
(・< ・)「とりあえず、これあげるから、鼻かんだ方が……」
ハ ゚-ノハ「……わかった」
こんな状況でもテッシュは普通に受け取れた。そして私は女らしさの欠片もない方法で鼻をかんだ。
かみ心地はとてもいいとはいえない。鼻水はどうやら私の手よりも暖かいらしかった。
うどんをすするような下品な音を出し、テッシュからその粘液がはみ出る状態のままごみ箱に投げ捨てた。
(・< ・)「ごめん、やっぱ一枚だけ返してもらえる?」
そう言われて一枚、というより最後の一枚を彼に渡した。
するとすぐに鼻に持っていき私と同じように鼻をかんでゴミ箱に投げた。
鼻をかんでいたが全く鼻水がついたような音も様子も無かった。
もしかするとあの行動は、下品な女に対するフォローだったのかもしれない。
小学生でそれって流石だな弟者
113 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:26:51.70 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「じゃあそろそろ帰るか」
目が赤くはれていただろうけれどもう落ち着いていた。
彼は教室の後ろに行って、ランドセルを私の分も一緒に取ってきてくれた。
私のランドセルの中には、昼休みに皆と交換したたくさんのチョコが入っていたが、
そういったことを彼は知らないので、雑に扱った。
そうした時に彼のフードが見えた。彼は毎日この緑色の服を着ているのだが、くたびれる様子はなかった。
パーカーを着てくることは学校の規則で禁じられていることである。
担任にパーカーのフードで首が締められ、死んだことがあるといった、ポリバケツの時と同じような伝説を言われているのだ。
しかし、彼はそれを気にせず、またどの先生からもお咎めが一切なかった。
首が締められることは無かったが雪がたくさん入っていたことがあったフード。
だが、フードにその名残はもうなかった。
曇ってはいるが、さっきまで雪が降っていたようには見えなかった空みたいに、
寧ろ、元から雪なんて詰め込まれていなかったかのようにも見えた。
ハ ゚-ノハ「先帰ってていいよ」
机の中のものを丁寧にランドセルに入れながら言った。
皆のチョコの状態を見たかったのと、多少一緒に帰るのが嫌だったこともあったのでそう言った。
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:31:29.49 ID:Xqo9WgLUO
しえ
115 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:31:48.42 ID:LyR/Yw9q0
しえ
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:32:00.35 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「わかった」
ランドセルを背負った後ろ姿は、思ったよりも足早に去って行った。
だが、閉められた扉はすぐにまた開かれた。
私がチョコの状態を確認して十秒も経たないうちに戻ってきたのだ。
(・< ・;)「隠れて!」
ハ ゚-ノハ「え?」
彼の表情がやたら焦っているなと感じている最中に、
有無を言う暇もなく開いたランドセルの片側を引っ張られた。
ハ;゚-ノハ「え? 何!?」
つまずきそうになりながらも、担任の机まで牽引されて、椅子を引くと同時にその中に押し込められた。
担任の机というのは教卓とは別に教室の一角に存在するものであった。
(・< ・;)「静かに!」
苦しい体制になりながらもなんとか尻もちをつかずに入れた。
ポリバケツの中ほどのスペースしかないのに、彼もその中に隠れてきた。
密着するような具合になると想像するかもしれないが、それは結構違っている。
彼の黒くて冷たいランドセルが私のほほを奥へ奥へと詰め込むのだ。
ハ;゚-ノハ「痛い!」
(・< ・;)「ごめん。ちょっと我慢して!」
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:34:31.30 ID:Fnsjj70w0
誰かがこの教室に入ってきた気配がした。
忠告されたにもかかわらず、思わず声を発しそうになった。
( ´∀`)「誰かいるモナ?」
その声はこの机の主だった。
( ´∀`)「おかしいモナ……さっき誰かいたようなきがしたモナ……」
耳を澄ますと担任の足音がこちらに向かってくるのがわかった。
いつもと同じ足音でも不気味に感じられる。
( ´∀`)「それより電気が点けっぱなしモナ」
私には黒のランドセルと彼の横顔しか見えなかったが、彼には多分担任の姿が見えたはずだ。
丁度照明のスイッチが見えるような角度に彼は隠れていたし、何しろその顔と視線がそれを物語っていた。
そしてその顔はスイッチを切る音とともに見えなくなった。
( ´∀`)「もしかして、弟者君かもしれないモナ」
彼のランドセルが私のほほを一気に押し上げた。
( ´∀`)「ま、そんな訳ないモナ」
コツコツという靴音が返事をしている様な寂しい独り言だった。
( ´∀`)「電気はちゃんと消すものモナ」
ちょっと怒った言い方とは別に扉が閉まる音は優しかった。
そして大きなため息とともに彼の膠着状態も解かれた。
118 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:42:04.85 ID:Fnsjj70w0
私も彼も四つん這いで中から出た。
ハ ゚-ノハ「どうしたの?」
目が慣れるよりも早くその質問をした。
(・< ・)「ごめん。もう下校時刻すぎちゃって、気付かれたら怒られるからこんなこと」
ハ ゚-ノハ「怒られないと思うよ?」
(・< ・)「いや、先週の木曜放課後にずっと体育館にいて、それで先生にすごく怒られて……」
ハ ゚-ノハ「そんなことで……」
(・< ・)「次、そんな時間までいたら、一日ずっと学校に閉じ込めるって言われて」
ハ ゚-ノハ「いや、それは信じないでしょ」
(・< ・;)「いや、そんな風なこと言ったブーンが鼓膜が破れるかと思うほどの声で怒られたんだ」
ハ;゚-ノハ「……」
この時私は、自分が怒られるイメージよりも、女尊男卑の考えよりも、
担任の怒る声が、ポリバケツの蓋を開けた時の彼の声とどちらが大きかったのかなんて想像していた。
119 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:50:36.83 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「でも何でオレってばれたんだろう……」
ハ ゚-ノハ「……どうしてだろ」
(・< ・)「取りあえず、こんな時間まで学校にいることばれたら危ないから、こっそり学校を出なければならない」
ハ ゚-ノハ「うん」
(・< ・)「どうしようか……多分こんな時間だからもう正面玄関からは帰ることが出来なさそうだけど……」
ハ ゚-ノハ「でもまずは、靴でしょ」
(・< ・)「そうか」
いつの間にかのことであった。彼のことをどう呼べばいいかもわからなかったのに、
普段友達としゃべるような形で話すようになれていた。
(・< ・)「一緒に行く? それともオレがとってこようか?」
ハ ゚-ノハ「まだ正面玄関が閉まってるって決まったわけじゃないから、オレもついて行くよ」
(・< ・)「……わかった」
120 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 19:57:27.99 ID:qPwwlI/30
夜の学校でちっちゃな男女が2人きり…いいシチュだ
121 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:00:06.19 ID:Fnsjj70w0
電灯を点けることは出来ない。
暗い中でチョコが割れてないかの確認なんて出来ないので後回しにして、ランドセルをしっかりと閉じて担いだ。
教室の扉を開けるところから、スリルがあった。
ただ、靴を取りに行くだけだというのに心は少し踊っていた。
教室も暗ければ廊下も暗かった。忍び足で前へ進む。
声は出せないからそんな中でジェスチャーをする。
うまく、意思疎通が出来るものではなかった。
途中で何もないのに転びそうになった。
小さな悲鳴も上げずにいて、前にいた彼も気づきはしたが、何も言わなかった。
けれど、彼は手でもつないだ方がいいのではないかといった感じで左手を差し伸べてきたので、
失礼なほどにまで首を大きく振った。
シャボネットが満タンに入った手洗い場を通る。
彼が入れたのかと推測し、まじまじと見つめたいでいながらも、
鏡を見るのは怖くて、すぐに目を逃がした。
正面玄関にある下足箱にたどり着くまで声を出すことは一切なかった。
無事に誰とも遭遇せずにそこまでたどり着けたという事だ。
122 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:03:40.30 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「ちょっと鍵がかかってるかどうか調べてくる」
下校時間は開いている正面玄関のドアは外の冷気を入れようとはしてなかった。
小さな望みをかけて彼はそこまで向かった。
靴についた雪が溶けた水のせいで、下足箱の周りはビショビショだった。
取った靴を履かず、靴下のままで行った彼を見て引き止めようとしたが、彼は気にもしない様子だった。
結果、不必要な音が出るだけで、開きはしなかった。
彼は映画に出てくる無実の罪を着せられた人が監獄で訴えながらやる行動とほぼ同じことをしていた。
これ以上やったら先生に気付かれることは、わかっていてやっているのか忘れているのか。
(・< ・)「ダメだ。どうしよう」
ハ ゚-ノハ「それより、冷たくないの? 濡れないの?」
(・< ・)「足のこと? 大丈夫だよ」
私でも濡れないのだとしても、そこを歩くことは出来ない。
123 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:06:12.63 ID:hrT2EHTkO
支援
124 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:10:19.93 ID:kwzLsAI60
なんか既視感があるなと思ったら、エスパクのAAと一緒なんだな
125 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:13:17.14 ID:Fnsjj70w0
ハ ゚-ノハ「内履き置いて、長靴持ってどこか開いている場所探す?」
(・< ・)「職員玄関って手があるけど」
ハ ゚-ノハ「最終手段か」
見つかっても仕方ないほど追いつめられた時にしか使えないだろう。
(・< ・)「鍵開けて出ることが出来るけど、開いてたら不審に思われるだろうし」
ハ ゚-ノハ「事務の人が掛け忘れたってことにならないかな」
(・< ・)「それって事務の人がかわりに怒られるってこと?」
ハ ゚-ノハ「……ダメ、だね」
(・< ・)「……」
私よりも悪ガキと言われていた方が道徳心があった。私はさらに悪知恵だって働いていた。
一度鍵を開けて一人だけが外に出てもう片方が鍵を閉める。
片方だけが帰れて片方だけが怒られる。これを提案した場合、絶対私だけが安全に帰れることになるのだろう。
事務の人が怒られていいなんて考えてしまう私でも、私一人だけが帰るなんてことは出来なかった――――
126 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:23:00.37 ID:Fnsjj70w0
(´・_ゝ・`)「そろそろあがっていいよ」
从 ゚∀从「はい。ありがとうございました」
長い三時間が終わった。客は私が思っていた以上、店長が思っていた数未満。
客は最低でも一人はいるが、忙しくない。時間が一番長く居座っていると感じてしまうパターンである。
私と交代で入った人に一礼して、更衣室に向かった。
从 ゚∀从「ちょっと外出てもらえます?」
更衣室には、チョコチョコうるさい先輩が一人。
パイプのイスをストーブの前に持ってきていて、今までここで雑誌を読んでいたみたいだ。
誤解を読み様な言い方だが、私が更衣室として使っているだけで普通はタダの休憩室。
( ´_ゝ`)「ああ、わかった」
店長にあげたチョコはレジの隣。その下にはたくさんの雑誌や漫画が入っていて、
先輩が閉じたのは常連の客がもう読み終えたような古い雑誌。
進学先が決まった人間はこうもだれてしまうのか。
127 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:28:30.42 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「雑誌そのままでいいんで出てってください」
( ´_ゝ`)「あの、チョコは……」
从 ゚∀从「後にあげますから、とりあえず着替えるんで出てってください」
( ´_ゝ`)「本当だな? 三十分も待ってるんだからな!」
从 ゚∀从「わかりましたから出てってください」
( ´_ゝ`)「これで嘘だったら怒るからな?」
从#゚∀从「いい加減でないと先にキレますよ?」
( ´_ゝ`)「ひどい!」
一昔前の茶番劇を棒読みしたような言い方出て行った。
これは、私が悪いのだろうか……
私は制服に着替え直す前に、鞄に入っているチョコを見た。人にあげられるのは後一つだ。
年が近い異性へチョコを渡すというのは久しぶりだから、渡し方がよくわからない。
義理であるからそこまで考え無くてもいいのだけれども。
今日来た客はレジ台に置いてあったチョコには一切興味を示さなかった。
雑誌は視界に入っていたみたいだけれど、私のチョコはどうだったのだろうか。
気にしすぎなのかどうかわからないけれど、私のチョコは今も昔もあげる価値があったのだろうか。
多分それがずっと気になって仕方が無かった――――
128 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:39:06.93 ID:Fnsjj70w0
これ以上暗くなることはないし、これ以上に寒くなることはない。
これは暗示ではなくて、本当にそのような冬の寒さと暗さだった。
カイロはもう力を使い果たしていて、手をただ擦り、摩擦熱で温めている様なものだった。
(・< ・)「どうしようか」
職員玄関、職員室から最も遠くへ離れた場所で彼はつぶやいた。
幽霊も来ないような一番奥にある階段で並んで座っている。
この間にいくつも話し合った。
鍵の掛けられていない場所を探すと言えば、あるわけがない。
ベランダから続く非常階段を使えばどうかと聞かれたら、足跡でばれるんじゃないかと。
結局は小学生程度の議論ではあったが『かんかんがくがく』という言葉が一番似合った議論をしたのはこの時だった。
寒寒ガクガク。寒くてずっと体が震えていた。
時間がたてば経つほど怒られる度合いは二次関数の放物線のように増加していくのだ。
そしてそれに比例して、後悔する量も増えていった。
ハ ゚-ノハ「朝までずっとこのままかな……」
(・< ・)「体育館のところにある公衆電話で家に電話掛けるってどう?」
ハ ゚-ノハ「……掛けてどうすんの?」
(・< ・)「……」
いつの間にか沈黙が多くなった時は、まともな話が出来なかった。
少しの沈黙の後、彼は話しかけてきた。
129 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:42:05.94 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「ねぇ」
ハ ゚-ノハ「何?」
(・< ・)「今日渡辺さん休んだよね」
ハ ゚-ノハ「うん」
(・< ・)「誰かにあげるって話してた?」
ハ ゚-ノハ「……私たちの中だけで交換する予定だったけど?」
(・< ・)「そう……」
ハ ゚-ノハ「それがどうしたの?」
(・< ・)「いや、何でもないけど」
ハ ゚-ノハ「好きなの?」
(・< ・)「そうじゃなくて、オレの友達の数人かが、ずっと渡してくれたかもって言ってきて」
ハ ゚ーノハ「ダレダレ?」
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 20:45:18.13 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「えっと……他の人に言うなよ」
誰もいないのに、私の耳元で囁いてくれた。
ハ ゚ーノハ「うわー。本当だったんだ、それ」
(・< ・)「バレてたの?」
ハ ゚ーノハ「うわさが立ってたの。後、他にもあるんだけど」
私も彼と同じように耳元でぼそぼそと言った。
いつの間にかさっきまでの空気が払しょくされていた。
正確に言うと払しょくしてくれた。
ハ ゚ーノハ「そう言えば、弟者って誰かからチョコ貰えたの?」
訊いてはいけないような質問だったかなと思ったが、訊いてしまった。
(・< ・)「えっ? オレ? 一応――――」
131 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:00:29.76 ID:Fnsjj70w0
( ´_ゝ`)「失礼な! 我が可愛い妹から一つだけ貰っておるわ!」
私を除いてチョコは貰えるめどはあったのかということを聞いて、返ってきた言葉がこれだ。
从 ゚∀从「よかったですね」
( ´_ゝ`)「絶対にやらないぞ! チョコも妹も!」
从 ゚∀从「奪いませんよ」
( ´_ゝ`)「いや、あの可愛さを見たら奪いたくなっても仕方はない!」
从 ゚∀从「だとしても、食べないって」
( ´_ゝ`)「食べるって。そんな卑猥な」
从 ゚∀从「脳の中どうなってるんですか?」
( ´_ゝ`)「残念! 妹のチョコは脳ではなく俺の腹の中なのだ。奪えるものなら奪ってみろ!」
当たり前のように妹について熱弁を始めてきた。
性格はどうあれ、先輩の顔立ちはいい部類に入るわけだから、かなり可愛い妹なのだろう。
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:05:45.32 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「で、本当にいいんですか?」
( ´_ゝ`)「何がだ?」
从 ゚∀从「チョコのこと」
( ´_ゝ`)「ああ、よろしく頼む」
从 ゚∀从「その弟さんにあげるっていう……」
( ´_ゝ`)「ああ……」
何か無性に腹が立つような言い方。
从 ゚∀从「……先輩なんか今日ハードボイルド気取ってませんか?」
( ´_ゝ`)「よくわかったな。さっきの雑誌にハードボイルド特集があってな、今流行っているらしいんだ」
从 ゚∀从「……似合いませんよ。と言うか出来てませんよ。苛立つ」
おかしな人もいたものだ。熱しすぎたゆで卵の様なものの何がいいのか。
でも結局先輩は、卵をお湯を使わず鍋でそのまま熱しているような人だと思う。
そんなのじゃハードボイルドもチョコを溶かすこともできない。
( ´_ゝ`)「弟の居る場所、ちょっと遠いけどいい?」
从 ゚∀从「……いいですよ。これで本当にサボったことを許してくれるのなら」
133 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:09:54.38 ID:Fnsjj70w0
裏口から店を出た。傘はどうやら私の歩いた軌跡を作ることになりそうだ。
店長が雪かきをしていたが裏口の辺りまではやってはくれていなかったようだ。
( ´_ゝ`)「あ、俺の後ろついてって」
先輩の作った足跡を踏みつけながら歩いて行く。アンクルソックスが全て浸かるほど積もっていた。
歩幅が違うのに、男の歩幅で進むものだから傘を杖代わりに使わないと転んでしまいそうになる。
下を向いてばかりで気付かなかったが、いつの間にか除雪車が通ったばっかりのいつもの道に来ていた。
( ´_ゝ`)「でも、本当にいいの? 結構遠いよ?」
从 ゚∀从「無理って言ったらどうなるんですか?」
( ´_ゝ`)「……ありがと」
横に並ぶと危険だから、私は常に先輩の背中を見ることになった。
从 ゚∀从「どれくらいの距離ですか?」
( ´_ゝ`)「二十五分ほどかな」
从 ゚∀从「……」
二十五分もただ黙って歩くのはつらい。行き帰り合わせると五十分もだ。
どうせなら、話してみようか。
誰も信じないだろう、中二病の黒歴史とか言う時の話を。
誰にも話したことのない、六年前のバレンタインデーの話を――――
134 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:12:16.73 ID:xVsBHr4AP
支援
135 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:17:34.18 ID:Fnsjj70w0
雑談に花を咲かせていたが、それを一瞬で枯らせたのは、空腹だった。
彼の方で無く私から空腹の音が聞こえてきた。彼にも聞こえていただろう。
アニメで出てくるような、そのままの音だった。
ハ ゚-ノハ「……どうしよう」
(・< ・)「お腹すいた?」
首を横に大きく振っても現状は変わらなかった。
(・< ・)「食べ物は持ってないな」
ハ ゚-ノハ「一応持っているんだけど……」
ランドセルの中から、綺麗な包装がされているチョコを取り出した。
どうやら、砕けたりはしてないみたいで、食べていいものか悩んでしまうほどのもののままであった。
(・< ・)「食べないの?」
ハ ゚-ノハ「食べにくい……」
(・< ・)「オレ別に腹空かしてないから、全部食べていいよ」
私が最初に手にしたのはツンのチョコ。綺麗な包装を綺麗に破く。
ツンの大きなハート型のチョコは私の口に入りくることはないと思い、口に含む前に半分に割った。
136 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:23:44.67 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「え……」
ハ ゚-ノハ「ん? やっぱり半分食べる?」
(・< ・)「いや、そういう風に割るんだなって……」
そうじゃないんだけどなと思いながらも、食べないと雰囲気がまた悪くなりそうだから食べることにした。
私はやりやすい形でチョコを割っただけなのだけど。
やっぱり、こういった形になるのはダメなのか。
恥ずかしくなり一気に破局したハートの半分を口に含んだ。
でも、やっぱり見られながら食べるのはもっと恥ずかしく、その上ツンの硬いチョコである。
これほどまで食べにくかったチョコはない。
勿論噛めずに舐めているから、その見られている時間も長いのだ。
ハ ゚-ノハ「……」
(・< ・)「どうしたの?」
やっとなんとか喋れるほどの大きさになってくれた。
ハ ゚-ノハ「お腹がすくことはないの?」
(・< ・)「あー、もとから空腹とかわからないんだ」
ハ ゚-ノハ「最近は特に?」
(・< ・)「んー、どうだろ」
私は、大きな金平糖程度の大きさになったところでそのチョコを飲み込んだ。
137 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:30:53.12 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「チョコ食べたら頭が働くとか言うけど、どう? いい案浮かぶ?」
ハ ゚-ノハ「ダメ。なにも思いつかない」
(・< ・)「お腹膨れる?」
ハ ゚-ノハ「わからないなぁ……」
(・< ・)「そんなものか」
ハ ゚-ノハ「ツンの残りの半分食べてみる?」
(・< ・)「貰ったものを貰うのはちょっと気が引ける……」
ハ ゚-ノハ「そう……」
こうしてツンのもう半分も口に含んだ。不味くはないけど食べにくいのだ。
その後ミセリのを食べ、クーのを食べた。
二人ともホイルケースに入っていて形が似たいようなものであったても、味が全く違う。
まるで味利きでもしている様な気分になった。
138 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:35:33.03 ID:Fnsjj70w0
その二人のチョコを食べた後だった。もう十分食べたので、空腹はなくなっていた。
口の中にチョコはなくなったけれど、舌はまだ甘さを感じている。
ちょっとだけ間があった。食べることか話すことのどちらかしか考えていなかったのに。
今まで生きてきた中で一番止めたいと思うこと。
ハ ゚-ノハ「ねぇ」
(・< ・)「何?」
ハ ゚-ノハ「今日、渡辺さん休んだよね」
(・< ・)「うん」
ハ ゚-ノハ「それでオレの作ったの、一つ余って……」
昼休みからずっとポケットに入っていた。
ラップに包まれていて、熱のせいで握った時に指の形ができてしまった。
ハ ゚-ノハ「そのチョコでよかったら食べる?」
断ってくれればよかったのに、彼は、彼は――――
139 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:39:51.33 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「だから、そのポリバケツを開けられた時、私は死んだんじゃないかと思ってしまって」
(´<_` )「そりゃそーだ」
从 ゚∀从「でもどちらかと言うとビビっていたのはオトジャの方だったんですよね」
楽しんでくれているのかどうかは知らない。けれど一言もしゃべらないでそこに行くよりはましだった。
私は先輩の弟が彼だということを知っていた。それを伝えた時は後ろを向いてまで驚いた顔を見せてくれた。
彼の話をする際に恥ずかしいので、『弟さん』と言いながら話していたが、
間違えて何度も『オトジャ』と言ってしまうので『オトジャ』でいい、と笑われた。
从 ゚∀从「その日だけはいつもと違っていたんです」
(´<_` )「どういうこと?」
从 ゚∀从「ポリバケツを開けたり、フードの中に雪が入っていたり、話しかけてきたり」
(´<_` )「バレンタインだったからじゃない?」
先輩は少し笑いながら言った。ちょっとしゃれたジョーク。
私のバレンタインではしゃぐ人はいないという考えを論してみると先輩は意外にも同意してくれた。
今日会ったばかりの行動と矛盾していないだろうかと考えたが、いつもあんな感じで面倒な人だったことを思い出した。
140 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:43:37.70 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「でも、本当に信じてくれるんですか?」
私は一度もこの話をしたことが無い。
心の底で誰にも信じてもらえないから言わないでおこうとも思っていたからだろうか。
从 ゚∀从「一度もこんな話したこと無いですし、それにその相手が先輩の弟ならなおさら……」
先輩はしてやったりとほくそ笑んだ顔を見せてきた。
(´<_` )「無理って言ったらどうなるんですか?」
私が言える言葉は限られてしまっていた。
後ろを向きながらその問いに答えた。
随分と長く続く二人分の足跡が見えてしまった――――
141 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 21:52:24.70 ID:Fnsjj70w0
ハ;゚-ノハ「どう!? おいしい!?」
(・< ・)「うん」
ハ;゚-ノハ「その前に食べられるの?」
(・< ・)「そんなに心配しなくてもいいよ。おいしい……よ? うん」
ハ;゚-ノハ「なに、そのマ……」
彼は私の汚いチョコで手を汚さないように、ラップの上から掴んでちまちまと食べている。
ヘリカルが私の作ったものを食べているのを見る時も何か恥ずかしさを感じた。
どちらかと言うと、その時はラップのことばかりを考えていたからだと思う。
でも、今の恥ずかしさは何か、その時とは異なるものだったはずだ。
ハ;゚-ノハ「出来るだけ、早く食べてほしいな……」
何を考えているのかよくわからないけれど、その時は本当にちまちま食べていた。
姉の言っていたように、硬くて一気に食べられないのかもしれない。
何か問いかけなければ、喋ってもくれない。
でも、何かおいしいという顔から、真剣そうな顔に変わった。
(・< ・)「……チョコたべると頭がさえるって本当なんだな……」
ハ ゚-ノハ「何か思いついたの?」
(・< ・)「……うん。色々と」
彼はチョコを食べ終わると、今の形のラップを四つ折りにして、ポケットの中に入れた。
142 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:16:54.10 ID:bw/V7dj+0
しえん
143 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:26:58.49 ID:5dqUkz5p0
支援
なぜか分からんがエスパクが頭に浮かんだ
144 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:31:34.60 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「チョコおいしかったよ。ありがと」
ランドセルを担ぎながら、彼はスッと立った。
(・< ・)「動くから。また、静かにね」
ハ ゚ーノハ「……うん」
私も慌ててランドセルを閉めて、彼に小声で言った。
145 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:33:42.37 ID:Fnsjj70w0
着いたのは、会議室に行く前の階段。
ハ ゚-ノハ「ここ?」
(・< ・)「うん」
こそこそと隠れた。掃除用ロッカーの隣にできた物陰。
当分掃除に関係するものの近くには行きたくない気分だったけれど仕方が無かった。
(・< ・)「ちょっと待ってて」
ハ ゚-ノハ「わかった」
彼は、階段を上ってゆく。
何の説明もしてくれなかったから、孤独で怖くて仕方なかった。
いつ戻ってくるのかと思って、かくれんぼの鬼のように数を数え始めたら、すぐに現れた。
ハ ゚-ノハ「どうしたの?」
(・< ・)「誰もいなかった」
ハ ゚-ノハ「え?」
あっけらかんとしてしまった。
146 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:37:35.58 ID:TQZ3RzIk0
話が面白くないな
147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:41:37.14 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「見てきたんだ」
簡単にだけど説明してくれた。
まず、この時まで知らなかったが会議室には鍵が無いらしい。そして今日は月曜日で先生たちの会議がある。
もし人がいたなら堂々と職員玄関から出ればいいし、いないなら、会議室から出ればいい。
事務の人はここは見周りに来ないらしく、もし窓があいていても他の誰かの先生のせいとなる。
なぜかは知らない。
憔悴していたせいか、子供だったせいか、彼が真面目に言っていたせいか。それとも……
今思えば、どう考えても穴ぼこチーズのような理論。
取りあえずは、私は盲目になっていた。もしかすると、私は騙されやすい人間なのかもしれない。
(・< ・)「で、そこから外に出るけど大丈夫?」
ハ ゚-ノハ「でも、二階だよ? 飛び降りるの?」
(・< ・)「中庭に棒上りの棒があるから、そこに飛び移ってそのまま下りれば大丈夫」
真冬にそんなジャッキーチェンの真似なんかできない。
そもそも、私は棒上りなど一切やったことが無いのだ。上ったことが無いなら下りたことも無かった。
148 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:43:36.77 ID:Fnsjj70w0
ハ;゚-ノハ「そんな無茶な……」
(・< ・)「オレ何回かやったことがあるから大丈夫だよ!」
そうやすやすと出来るものではない。
しかし、考えて見ればそれ以外の道が無いのだ。
ハ ゚-ノハ「わかった。行こう」
少し涙声になっていたはずだ。
これほどまでに緊張してこの階段を上ることは無かった。
バンジージャンプをする前の人の階段で登る時の気持ちと言うのが理解出来た。
ハ ゚-ノハ「本当に誰もいなかったの?」
(・< ・)「うん」
会議室に入るドアの前。
彼は私にドアを開けるように促した。
私がドアに手をかけ開けるとまぶしい光と暖かい空気だけが待っていた。
149 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:46:29.24 ID:Fnsjj70w0
ハ ゚-ノハ「誰もいないね」
(・< ・)「ね」
彼は誇らしげに言う。
光と暖かさのせいもあって、私は少し緊張がほぐれた。
けれどもその中に少し違和感を感じた。
(・< ・)「どうしたの?」
ハ ゚-ノハ「……オトジャ、電気点けた?」
(・< ・)「え? 最初から点いてたけど?」
ハ;゚-ノハ「点いてるってことは、誰かがまた戻ってくるんじゃない?」
(・< ・)「え!?」
そしてまさに丁度のタイミングで階段を上る音がする。
ハ;゚-ノハ「どうしようか?」
(・< ・)「もう窓から飛び降りるしかないでしょ!」
150 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:49:25.94 ID:Fnsjj70w0
嫌がりながらも足は中庭のある方の窓へと駆け寄っていた。
外が見えなくなるほどひどい結露は私が触れるだけで大玉の雫ができて勢いよく落ちていくほどのものだった。
錠の開け方は一般的なものとは違っていたが、彼がすぐにはずしてくれた。
そして、ガラガラと音を立てる窓枠に恐怖心もなさそうにそこで長靴を履いてから乗った。
顔面に冷たい風が当たり目を細める。その目から見えたのは思っていたよりも遠くに見える上り棒。
ただでさえ飛ぶのが怖いのに、冬の夜にランドセルを担いで飛べ、なんていうのは確実に無理だった。
ハ;゚-ノハ「飛べるの!?」
(・< ・)「オレが見本を見せるから!」
彼はもう経験者だった。飛んで棒に掴まり皆から拍手され、そして怒られていたところをこの前に一度見たことがあった。
私も絶対に出来ないと、まぁ女だからそんながさつに拍手することはしなかったけれど、心の中で誰よりも拍手をした。
彼はその時と全く同じ、ここにクラスの人がいたら誰もが拍手するような、そんな風に飛び移った。
でも、今の私に拍手する余裕はない。恐怖と緊張。その二つが渦巻く。
(・< ・)「下を見ないで! 跳ぶことだけを考えて!」
彼のその跳躍は跳ぶと言うよりは飛ぶ、だった。
私は長靴をはいてから彼と同じように窓枠に乗った。見ちゃだめだと思っても、下を見てしまった。
白色の雪があるはずなのに地面があるようすら見えない。ああ、もう飛べない。そう思った瞬間だった。
(;´∀`)「誰モナ! 何してるモナ!」
後ろから聞きなれた担任の声。
思わず振り向きそうになった私を彼は止めてくれた。
(・< ・)「後ろも見ないで! 顔は、見られてないから跳んで!」
151 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:53:03.87 ID:Fnsjj70w0
彼は私に向かって手を差し伸べた。飛んでも届きそうにないその手。
冷たいはずの鉄の棒を握っていたその手は、チョコを食べていた時にはよく見えなかった綺麗な色をしていた。
まだ、彼の手には触れずにいた。触れそうな気がしなかったから。
でも、今だけなら触れるような気がして。
担任の声も下の暗闇もこの寒さもランドセルも何もかもを忘れて、私はただその手だけを見て、飛んだ。
一瞬。その動作の全てを合わせても私の早すぎる鼓動の一拍もしていないように思えるほどの一瞬。
風を切り、私は飛んだ。でも、飛んだだけで棒を掴むことさえ忘れていた。
そんな馬鹿な私の腕を棒に掴まるまで彼の手は強く握ってくれた。
(・< ・)「大丈夫? 手離すよ。そのままゆっくりと落ちてって」
ハ ゚-ノハ「わかった」
何もしてないのにマリオのゴールの時のように勝手に滑るようにして柔らかい雪の上に着地した。
彼もそれに続けて落ちてくる。
冷たくなった手を胸に置いた。こんな鼓動なら冷たい手もすぐに温まるだろう。
152 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:55:24.32 ID:Fnsjj70w0
ちょっとだけ上を向いた。顔は見えないが私が飛んだ位置に先生が立っている。
(・< ・)「見ない方がいいよ」
ハ ゚-ノハ「あ、そうだね」
深い深い雪の上、彼は校門に向かって走った。
私も彼の後ろを追う。なかなかうまく進めないけれど。
彼の作ってくれた足跡を使って追おうとしても、見つける事が出来ず、走ることが苦難だった。
校門にたどりつく頃には私は息を切らしていた。
後ろを振り向いても人の気配を感じることは無く、胸をなでおろした。
153 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 22:58:43.64 ID:Fnsjj70w0
校門にたどりつく頃には私は息を切らしていた。
後ろを振り向いても人の気配を感じることは無く、胸をなでおろした。
(・< ・)「大丈夫?」
ハ ゚-ノハ「傘、忘れた……」
(・< ・)「……いらないでしょ」
彼の言うとおり、雪が降っていたとは思えないほどの空で、傘なんか必要ではなさそうだった。
ハ ゚-ノハ「怖かったな……」
(・< ・)「何が?」
ハ ゚-ノハ「色々と」
ここまで恐怖に駆られた日は無かった。
今にも後にも、これだけの事が起きることは無いのだろう。
(・< ・)「高岡さんってどっちの方向?」
学校に来る道は海側か山側かに分かれている。
私は左手で山をさした。
154 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:01:58.56 ID:Fnsjj70w0
(・< ・)「なら、ここでお別れだ」
そう言った彼の顔は別れを惜しむ顔、と言うより残念そうな顔をしてくれた。
ハ ゚-ノハ「それじゃ」
別れは結構あっさりとしたものだった。
後ろを向いて二、三歩。
後ろから声がした。
(・< ・)「チョコありがとう」
ハ ゚ーノハ「こちらこそ」
(・< ・)「……すごくおいしかったよ」
ハ ゚ーノハ「うん」
振りかえって、私は言った。
にこやかに会釈してくれ、恥ずかしそうに後ろを向く。
ランドセルの上に乗ったフード。今日は何度見たことだろうか。
雪に溶け込んだ彼の体。もう触れられそうな距離にはいなかった。
数歩歩いて後ろを見る。あるのは私の足跡だけ。
数分後に『高岡さん』と言ったことに赤面し。
数時間後は、気持ちが整理されチョコを渡したことに体全体を赤くした。
数日後、彼はすっかりと透明になり消えていた――――
155 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:07:34.10 ID:Fnsjj70w0
次の日の事。遅く帰ってきて怒られたことで真っ赤になった目は完全に治ったが、
私の赤面は学校に近づくたびにひどくなって、ツンのほほよりも真っ赤になっていた。
当たり前のようにどこに隠れていたのかというのを聞かれる。
私はポリバケツの中なんて答えられないから、会議室と嘘を付き通した。
すると今度は先生が会議室に誰かが忍び込んだと朝礼で話した。
顔はどうやらばれてはいなかったらしいが、ミセリやヘリカルが笑いをこらえていた。
付いた嘘のことは誰も口外しなかった。本当のことはなおさら報告するような人はいない。
だれにも伝わらないから。
156 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:11:12.80 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「こんな感じです」
( ´_ゝ`)「そうか……」
从 ゚∀从「その時、皆にあげたチョコの包装がもう下手で下手で……」
( ´_ゝ`)「それで、その次から練習したの?」
从 ゚∀从「それはもう。来年からはチョコよりもラッピングの事ばかり考えてましたから」
他人に言えなかった、あの日の話。
話し終えれば沈黙が始まる。
ちょっとした沈黙が少し嫌で、ついこのことを言ってしまった。
从 ゚∀从「……十二月三十日は私の姉の誕生日でもあります」
しまったと弁解しようとする前に彼が言う。
( ´_ゝ`)「なんか悪いな。そんな日に……」
从 ゚∀从「そういう意味で言ったわけじゃないんですけど……」
( ´_ゝ`)「でも、あの時はなんも言えなかったなー。まぁ、一番堪えたのは年賀状が来たときか」
157 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:16:04.20 ID:Fnsjj70w0
彼が、除雪車に轢かれた日。その話はその日のうちに私の耳までやってきた。
葬式も黙祷も色々なことをやったが、あの頃はみんな理解が出来ないでいた。
話したことが無い人も、他学年の人も泣いていた。
だいたいの人は心と言うよりは空間に何かぽっかりと穴が開いていた感じなのだ。
その年度の最後まで彼の机はあったのだが、誰も座らないその席は次の席替えで一番端に追いやられた。
花瓶の置いたその席に座ろうとする者も触ろうとする者もいなかった。
給食のときは私がそれを動かす。動かすことに拒絶はしなかったが机をくっつける事は少し嫌だった。
今にも戻ってくるのではないかと言われていたが私はそんな風には思わなかった。
彼の笑う姿が脳裏に浮かぶと言われていたがそんな風には思わなかった。
彼が消えたなんて嘘だと誰も事実を信じれないでいたが私はもっと信じれないでいた。
私には彼が視えていた。隣を見れば常に彼を見ることが出来た。
何度か彼と目があってもそれに気づいていないみたいで、それは私が幽霊になっているのかと思ってしまうほど。
一度は喋ってみようとした。一度もちゃんと話したことが無いのに。結局一度も話せなかった。
意とは別に触れてしまいそうになったこともあったけれど、透けていて触れられることは無かった。
最初は恐怖で一杯だったが、害が無いことがわかり、私もいつの間にか普段の日常に戻っていた。
158 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:19:30.35 ID:Fnsjj70w0
从 ゚∀从「私一度そのことで相談したことがあったんですけど、勿論信じてくれませんでした」
真剣そうな顔をしていたが、それはそうだろとどこかで思っている様なしわが一つ増えた。
从 ゚∀从「今日もそのことでいじられました。霊が視えるなんて言う中二病だったって」
(´<_` )「俺にもあったな。そんな時代」
从 ゚∀从「中二病ってよくわからないけれど、違いますからね」
(´<_` )「……オレ女だったのは?」
本気でグーパンチをお見舞いしてやった。
先輩は殴ったところを押さえてうずくまってしまった。
从#゚∀从「そこは話さなければよかった!」
ついでに足で雪をぶっかけた。
六年生になると、彼の机は無くなっていた。
彼の家族が転校したので、都合よく消えたのだ。
もし、転校しなければ一緒に卒業することになっていたのだろうか。そこは、よくわからない。
159 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:27:23.23 ID:Fnsjj70w0
彼は常にボーっとしていた。何かしゃべることも無く、何か動くことも無く。
花瓶が置いてあるのに気がつくと給食を一緒に食べたり、いつの間にか片づけられていたり。
最初はただそこにいるだけだった。でもいつの間にかあの悪ガキと一緒に動いていて。
从 ゚∀从「その日だけは本当に異質だったんです」
(´<_` )「ポリバケツを開けたり、フードの中に雪が入っていたり、話しかけてきたり?」
子犬のように唸りながら言ったが気持ち悪いようにしか見えない。
从 ゚∀从「テッシュくれたり、ランドセルを掴んだり、触れられたり……」
(´<_` )「何でなんだろうな」
从 ゚∀从「さぁ……」
その日だけだったのだ。次の日からは前と同じようにただボーっとしていた。
話しかけてくるのかと思ったけれどそんなことは無かった。
よくわからなかったけれど少し悲しそうな表情をして。
今度は私から一度話しかけよう、触れようとしたけれど駄目だった。
从 ゚∀从「それでとうとう四十九日が来て、彼はもう見えなくなりました」
(´<_` )「それじゃあもうここにはいないのか」
从 ゚∀从「それもどうだか……」
(´<_` )「わからないことが多いな」
从 ゚∀从「仕方ないでしょ」
160 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:29:19.70 ID:Fnsjj70w0
私自身もわからないことが多い。記憶が薄れているわけではなく、本当にわからないことが。
気になることがあっても、まず彼にそれとなくでしか訊けないでいたから。
その上、もう訊くこともできない。
从 ゚∀从「一番気になるのがどうして私だけ視えていたのかってことなんですよね」
先輩は少し口を動かしたが、声は出ていなかった。
声が出ていてもそれが聞こえなかっただけか、どちらにしても途中で口をふさいだのだから特に何もしなかった。
(´<_` )「ああ、あそこだ」
先輩は墓を一切のためらいを持たずに指さした。
『南無阿弥陀仏』そう書かれた下に本当に彼の骨があると思うことが出来ない。
こんなところを雪かきする人なんていないから、とうとう雪が靴の中まで入ってきた。
墓前に立って素手で香炉の上の雪を払う。
从 ゚∀从「いつもここに来てるんですか?」
(´<_` )「たまにだよ」
たまに、の頻度が彼にとっては少ないのかもしれないけれど私にとっては多いのだろうか。
年に一度しか行かない私には想像が出来ない。
从 ゚∀从「……何というか他人の墓の前に立つことなんてないから、サスペンスのラストシーンの探偵の気分になるなー」
(´<_` )「俺はだれも殺してないぞ」
161 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:33:09.06 ID:Fnsjj70w0
鞄の中からチョコをとった。綺麗な包装に包まれた安っぽいチョコクッキー。
私はそれを香炉の上に置く。
先輩が目をつぶり墓に向かって手を合わせる。
私はただ見ているだけ。お参りをしたいという気持ちがあっても、参っていいものなのかどうだかわからないから。
口は一切動かない。寒さによって震えることも無い。一体何を思っているのだろうか。
そして長い沈黙の後に短いため息を漏らす。
(´<_` )「そうだ。これ妹からも。渡して来てって」
香炉にもう一つチョコが置かれる。
中は見えないが、きっとクッキーなどではなくちゃんとしたチョコなのだろう。
(´<_` )「こんな形でも二個も貰えるなんて幸せもんだろ」
何というか、もう言いなれているような言い方。
悲しみなんてものが微塵も含まれていないその言い方は本当にうらやましそうに聞こえ、
先輩が話しかけているのは墓ではなく人間ではないかと思ってしまうような。
(´<_` )「じゃあ、チョコ食べきれなかったら俺が貰ってくからな」
そう言って今度は鼻を啜る。そして手の甲で鼻を拭こうとする。
从 ゚∀从「テッシュありますよ」
一枚だけ手渡すと、それを使って汚らしく鼻をかむ。
さらにはグルグル丸めてポケットに突っ込む。
162 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/18(木) 23:56:43.12 ID:LyR/Yw9q0
しえ
なんというかまぁ・・・色々とアレだな
支援
しえん
166 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 00:19:14.61 ID:Dd3JX/wH0
しえ
167 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
おいまたかよ