追悼の意をこめて。
―――――――――――――
全てが終わってから1ヵ月。それは同時に、僕が『みーくん』を辞めてから1ヵ月経ったことを表している。
1ヵ月前、神聖な学び屋たる学校(体育館だったけど)に侵入し、クラスメイトを人質に取った不審者がいた。
あっという間に日常を非日常に変えてくれやがったそいつに勇敢にも立ち向かったやつもいた。
そう、僕とまーちゃんである。
何発か撃たれながらも鎮圧に成功するという、思春期男子の妄想も真っ青なまさかの体験をした僕らだが、現実はやはり厳しかった。
奈月さんに聞いた話によれば僕らは撃たれどころが非常にアレで、偶然学校に救急車が来ていなかったら120%死んでいたらしい。
海老原が脳卒中で倒れなければ、救急車もあの時あの場所にはいなく。
僕らは現実世界から退去せざるをえなくなっていたのだろう。
……そして彼女の命と引き換えにこの世での強制滞在チケットをもらった僕は、重大な問題を突きつけられた。
それは『まーちゃん』の消滅だった。いや、正しくは『御園マユ』の帰還かな。
撃たれて、倒れて、血と色々なものが流れ出て。
何が引き金かは定かではないが、御園マユは正気を取り戻した。
辛い記憶と共に『みーくん』もなくし、忘我から覚醒した彼女はこれからどういう道を歩くのか。
それはわからないけど、その隣には僕の居場所はもう無いんだろう。
つまるところ、僕がもう『みーくん』でいる必要はなくなってしまったのであった。
ネタバレらめえええええええええええええええええええ
……これでいいはず。
罪滅ぼしのつもりではなかった、のか?
どっちにしても結果的に『御園マユ』が戻ってきたなら、僕が彼女の前にいる理由はない。
そもそも僕が好きだったのは『まーちゃん』だしねぇ。
そう自分に言い聞かせるしかない僕は、しかし生きる意味を見失ってしまっていた。
そんなときに僕の傍にいてくれたのは長瀬だった。
昔は恋人関係にあって、そして暫定友達になってしまっていた彼女。
僕が抵抗できないのをいいことに、あれやこれやと世話を焼いてくれた。
それを甘んじて受け入れているうちにそれが心地よくなってきていたのは否定できない。
しかるべくして、彼女は現在も病院に絶賛引きこもり中の僕のもとにやってくるようになっているのである。
――僕は今、そんな毎日を享受している。
人生がリセットされてしまった空虚と時折そこに浮かぶノイズをもてあましながら――
「今日のスペシャルおやつはクッキーッスよ。力作ッス!」
「うわー不安で胸があふれそうっすー」
「しっつれーな、私も日々精進してるッスよ! 人間のスキルは日進月歩ッス!」
いやいや、料理とか調理とか、ついでに工作とかそんな感じの単語は天敵といってもいいくらいのド不器用だったろ確か。
……ん、しかし思い返してみると最近いろいろと持ってくるようになったなぁ。
不良が嫌いな漫画家に頼んで人生の余白に書き込みでもしてもらったのだろうか。
「お母さんに教えてもらいながらだけど、少しずつできるようになってきてるッスよ。
透のためにがんばっゴニョゴニョ」
「ん? なんか言った?」
「ななななんでもないッス! それよりはやく食べて欲しいッスよ」
長瀬が促すままにひとつ口に入れてみる。僕もなんだかすっかり素直になってしまったようだ。
一昔前の僕なら、散々からかってみて長瀬の反応を楽しむくらいだったのに。
奈月さんとか恋日先生と話しているとトゥルトゥル回るくせにな、僕の舌。
長瀬の前だと若干動きが鈍くなるってのはどうしちまったんだいったい。
……いやね、決して長瀬に何か弱みを握られてるわけでもないし力的に屈服したわけでもないんだぜ、多分。
といってもボロボロな今の状態じゃーどっちみち勝てないような気もするけどさ。
やれやれ、これは完全に躾けられてしまったんだろうか。ええい嘘になれ!
「……………………」
おや、これは。
「どうしたッスか?」
電撃の発売日は明日です
極力…というかネタバレ要素はないはずです。
8巻までの内容しか使ってないんだけど、そういうのって駄目なん?
vipでネタバレなんて気にする奴いねーよ
長瀬 「つ、続けて大丈夫ッスよね……?」
「………………うっ」
え、と長瀬の表情が固まる。口を開けっ放しにしてるとアホの子みたいに見えるよ、と忠告した方がいいかしら。
このままのたうちまわったりしてもいいんだけど。正直僕の体はそこまで回復していないし。
ここは展開を進めることにしようじゃないか。
「こいつ、うまいぞ……?」
はぁっ、と長瀬が詰めていた息を解放する。
「当たりまえッス!なんでそんな意味深なタメするッスか!」
「いや、長瀬さんの血のにじむような努力が見える気がしてつい……感極まってしまいました」
クッキーはおいしかった。マジで。紅茶の香りとほのかな甘みがマッチしてびっくりするくらいおいしい。
これがあの、皮をむいたはずなのに鮮やかに赤く光る魔法のリンゴを生産するような
人間の手によって作られたとは。正直人間の能力に深い感慨を覚えずにはいられない。
念のため言っておくけど、嘘じゃないからね。
「透の、ために、がんばったッス。こんなことするの透にだけッスよ!」
「じゃあ僕専用長瀬ってわけだね。すごく嬉しいよ」
「ふわひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
口元を手で覆いながらガクガク揺れだした。なにこれこわい
おーい戻っておいで、ガセガセやーい。
そういえばこの呼び名、ふとした拍子に脳内から現実に持ち出してしまったことがあって、
耳聡く聞きつけられてひと悶着あったなあ。
ナガナガの方がいいか、なんて聞いたら物凄く悩んだ挙句、結局決められなかったみたいで、僕が勝手にナガナガにすることに決めたんだっけな。
というわけでおーい、戻っておいでナガナガやーい!
それからしばらく、落ち着いた長瀬ととりとめのない話をする。
僕が起き上がれるようになってからはこの時間が増えて、必然的に一緒にいる時間も増えた。
いつもだったら長瀬のする学校の話とか一樹の話とかを僕が聞くだけなんだけど。長瀬曰く満足らしいのでオールオッケーだぜ。
しかし最近はなんだか長瀬の様子がおかしい。ときどきふっと表情を緩めては言葉を止め、僕のほうを見つめるのだ。
そうなると会話が自然と途切れがちになって、沈黙がだんだんと僕らを侵食してくる。
なんだ、僕がなにか変なことしたっけか?と思って記憶を手繰ろうとしたそのとき、
「透が生きてて……本当に良かった……」
と、長瀬が呟いた。
……確かに最近は好んでもないのに無茶ばっかしてたからな。
今回にしたってライフル相手にこれくらいの負傷で済んだのはほんと奇跡に近い。
こんなこともあろうかとザ・物語オブエンド(厚さ約5cm)を帽子の中に仕込んでおいてよかったぜ、なーんて当たり前に嘘だってば。
しかし残念なことに僕自身は、素直に生きててよかったーしやわせだぜーとは言えないのである。
そんな気持ちを固めてまとめて記憶の階層奥深くへポイ!とまではいかないまでも無難に圧殺して
「そう言ってもらえるのはうれしいよ」
僕はなんとか言葉をひねり出す。
「……なら、どうしてそんな顔をしてるッスか」
僕は、他人の命を消費しなければ生きられないから。
そう心の中だけで呟いて。セルロイドづくりの融けかけた笑みで彼女の問いをごまかす。
そのまま沈黙が流れる。長瀬は何を考えているのだろうか。
ぼんやりと彼女の顔を眺めていると、突然長瀬の携帯が盛大な音を奏でた。
あ、このメロディーは聴いたことがあるな。
確かワーグナーとかいう有名な人が作った、ドイツのどこかの町の職人兼歌手をモチーフにした曲だ。
元が楽劇のはずなのになぜか口笛で吹ける人がどこかにいたようないなかったような記憶がある。
こいつ、世界の敵と戦うようなやつだったっけ?それにしてはスポルディングのスポーツバッグが見当たらないな。
電話は親からではなかったようだが、それを契機に長瀬は帰って行った。
「また、来るね」と言い残して。
その夜、僕は悩んでいた。僕にはこの幸せな日常を受け入れる権利があるのだろうか。
あれからずっと、確実に長瀬は僕の中で大きくなっている。
このままでいたら、彼女を再び傷つけることになってしまうのではないか。
長瀬のためを思うのなら、僕は彼女を拒絶しなければならないのだ。
そんなことはわかりきっていたはずなのに。
普遍的な幸せを切り捨てようとする僕と、それを甘受したい僕がせめぎ合っている。
あの事件から僕はおかしくなってしまったのだろうか。みーくんではなくなって。僕はどうしたらいいのだろう。
いくら考えても、答えは出ない。
ノックの音がした。窓の外を眺めて昼食にはまだ早いよなあ、とか思いながらどうぞ、と声をかける。
顔を戻した僕の前に現れたのは、わりと予想外な人だった。
「おはようございます、みーさん」
「……おはようございます。奈月さん」
相変わらず年齢詐称グランプリ街道を絶好調爆進中ですね。見慣れたスーツ姿ってことは仕事の途中なんだろうか。
サラサラ流れる金髪は片方にまとめられており、右耳が露出しているのが見える。
あ、ピアスしてるんだな。
あんまりいい記憶を呼び起さない代物だけど、小さいながらハッキリと見えるそれはとても似合って見えた。
「今日はまだ狩りの日ではなかったはずですが?どうしたんですかジェロニモさん」
「今日はみーさんを狩りに来たんです」
「真顔でアホなこと言わないでください。あともうみーさんなんて人はいませんよ」
「あらあらどうしましょう。それじゃあ私は病室を間違えてしまったのでしょうか?」
「そうみたいですね、今頃は窓に鉄格子のはまったお部屋で冷たいご飯でも食べてるんじゃないでしょうか」
「そういえばそうだったような気がしてきました。
それでは私の目の前にいる人物を何と呼べばいいんでしょう、困ってしまいます。
私としてはあなたがアルファベットの9番目を聞いて悶える姿を見るのは心苦しいのですが」
「どこかの団長が無事分裂するころには克服していると思うのでそれまでは適当に、というのが僕の要望ですね。
というか何しに来たんですか今日は」
「あら、つれないお言葉ですね。せっかくみーさんが悩んでいるから聞いてあげなさい、という天の報せを聞いて飛んできましたのに」
……エスパーかこの人は。と本気で疑いかけた.。
けど、そういえばこの人が来るのは初めてじゃなかったし、僕が時折ぼーっとしているのはさすがにわかったんだろうな、と気づいた。
っていうか呼び方変わってねーよオイ
やっぱりマイナーだったかな。
見てくれてる人っているのかしら
奈月さんは黙ってほほ笑み、僕の方をみつめている。
いつも限りなく線に近い目だけど、今日はなんだか柔和な雰囲気を身にまとっているせいかことさらに目の奥が読めない。
しばし本気でどうしようか悩んだけど、僕は奈月さんにそれとなく聞いてみることにした。
答えを探す糸口でもつかめないかな、と思いながら。
いざそう決めたのは良いものの、どうやって切り出そうか考えていたら……なんと先手を打たれてしまった。
「みーさん。あなたのしていたことが間違っていたとか、それは誰も言えることではありません。」
「……」
「しかし、あなたの求めていた、そしてあなたを求めていた『まーちゃん』はもういないことは確かです。
あなたは自分で新たに道を進んでいかなければいけない。あなたの生はあなたのものなんですから。」
僕は。……僕の生は。
「あなたは自分で思っているより『普通の幸せ』から遠ざかってはいませんよ。それにあなたのことを知る人は皆、
なによりもあなたが『普通』であることを望んでもいるんです。そのことを忘れないでくださいね」
「…………」
何も言えなかった。信じても、いいのだろうか。
かつて僕のそばにあった幸せ。いつかは壊れると知っていたがために怯え、進んで手放してしまった日常。
長瀬と一緒にいたい。僕がそう思うことは罪であると、許され得ないことであるといつしか僕は思い込んでいた。
それが、できるというのなら。
「奈月さん……」
「まあ、どうしてもというなら私だってその……やぶさかではありませんから、いつでも頼ってください。」
「……っ。本当に、ありがとうございます」
「礼には及びませんよ。恋日にも頼まれていたことですし。それでは私はこれで。」
まったく私たちは。そう呟きながら、奈月さんは帰ってしまった。
嵐のようにとはこういうことを言うのか。実際僕の心にかかっていた暗雲を吹き飛ばしていったわけだし、こりゃピッタリな表現かもしれない
本当に感謝してもしきれないというか……くそっ、何から何までお世話になりっぱなしだな、まったく。
「……よし」
僕は決心する。今までで一番の勇気を振り絞ることを。
今までこわごわと受け取るだけだった手を、今度は僕から伸ばすことを。
そう、もう決して後悔しないために。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 19:27:07.97 ID:2TZ/zzsI0
ノックの音がした。時計を見ると、世間一般では学校が終わって部活動をしている時間帯になっていた。
別に僕は猿の手に変なお願いをしたわけでもないし、ここには泥棒に狙われるようなものもないので無警戒にどうぞ、と声をかける。
予想通りに長瀬だった。
制服を着てるところから察するにちゃんと学校に行ってるようで安心だぜー。
「こ、こんちゃッス」
もう長いこと来てるくせに、こういうところで照れるのが長瀬のわからないところだ。
もしかして僕に遠慮してるのか。でもバカップルやってた頃も待ち合わせ場所にいくと微妙に照れていたよなぁ。
つられてそこはかとない気恥ずかしさを覚えたような記憶がある。
うーん、わからんものだ。
「やあ、待ってたよ」
「……え? あ、あの」
いつもと違う僕の言葉に長瀬が戸惑う。そしてギクシャクと動きながらベッドの横にある椅子に座った。
僕の方をちらちらと見ながらそのまま俯いて、黙り込んでしまった。
……ぐ、しまった。言葉が続かない。
考えてみればこうなるのも十分予想できたはずじゃないか。僕のアホめ。
長いことまじめに動かすのを忘れていたせいか、頭と舌の接続がうまくいかない。
慌てて言葉を継ごうとするが、なぜか考えれば考えるほどパニックになってきた。
心拍数が上がり、血液が体を走り回る。
ああ、やばいぞ。素数を数えて落ち着くんだ!
1、3、5、7、9……ってこれは奇数だってば。違う違う1、1、2、3、5、8……って悪化してるわオラー!
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 19:42:58.27 ID:8okjLSWm0
みーまースレ2つも立つとかとかこの世の終わりか
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 19:56:56.09 ID:2TZ/zzsI0
書き貯め分はまだあるんですがとりあえず休憩です
戻ってきたときに落ちていないことを祈る……orz
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 20:08:56.02 ID:+M0C3zKw0
誰?
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 20:14:54.35 ID:iXjRGwIb0
あぁ、旅行から帰ったらいきなり死んでたあの人か
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 20:25:00.75 ID:a/C/PMp90
みーまースレとは
再開っす
個人的には非常に好きなカップルなんですが、やっぱり「誰?」って感じですかね
落ちなかったことに感謝感謝
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 21:08:42.42 ID:2TZ/zzsI0
「透……どうしたッスか? ま、まさか具合が……!」
長瀬が慌てて席を立とうとする。違うんだ、長瀬。
僕は思わず、彼女の制服の袖を掴んでしまった。
「は、はへっ? なんスか透、ちょっと大丈」
「好きだ」
…………やってしまった。
ガチン、とそれこそ瞬間的に長瀬がフリーズした。ついでに僕も固まっている。
長瀬は椅子から腰を上げかけた姿勢のまま、そして僕は彼女の袖を掴んだままで。
「な、なん、いま」
「……ごめん、ちょっと、落ち着くから待って。…ちゃんと、言うから」
手を放す。しばらく長瀬はそのままだったが、目を白黒させながらこっちを見て、ストンと腰を落ろした。
それを見届け、僕は再度自分を奮い立たせる。
「長瀬」
「ひ、ひゃい」
「今までずっとありがとう。僕なんかのために一緒にいてくれたこと、すごく感謝してる。
長瀬がいるから、僕は今生きていられる。
僕は長瀬透が好きだ。ずっと……ずっと、一緒にいて欲しいとも思う。
迷惑だったらごめん。でも、伝えなきゃいけないと思ったんだ。本当に、ありがとう」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 21:30:04.85 ID:2TZ/zzsI0
言い切ってしまったらもう、長瀬の顔を見ることができなかった。うおお予想外にダメージがデカいぞ。
僕を襲う、初めての感覚。自分の内を偽りなくさらけ出すことがこんなにも苦しいなんて知らなかった。
かつてそうしなければならない場面はあったのに。逃げることしか考えていなかったんだな、と改めて思う。
「突然でごめん。我ながら勝手すぎると思うし、嫌だったら……」
「……透はずるいッス」
長瀬の方を見ると。潤んだ瞳でこちらを睨んでいた。
「嫌なわけ、ないじゃない。
透があんなになっちゃって。私、何もできなくてすごく苦しかったんだよ。
透はまーちゃんしか見てないって思い知らされて、完全にあきらめたはずだったのに。
透が倒れてるのを見たとき、本当に頭が真っ白になった。」
言葉を切り、続ける長瀬。
「生きてる知らせを聞いたときはそれだけで嬉しかったよ。でも、病院まで何回も来たのに、病室まではいけなかった。
嬉しいのに。またまーちゃんに取られちゃうとか考えてる自分が嫌で嫌でしょうがなくて、泣いてばっかりだった。
そうしたらね、透のことを知ってるっていう刑事さんに会ったの」
なに、まさか奈月さんか?僕は今更ながら驚きを隠しきれずにいた。
もしかして今朝のアレはすべてわかった上でやっていたのか。なんという人だ……。
「『彼を助けたいですか? それなら、あなたにしかできないことがあるとわかるはずですよ。頑張って』
そう言って抱きしめられた。
それで、勇気を出して透に会いに行って。
たとえ完治するまでの間だけだとしても、一緒にいられることが嬉しかった。
……それ以上なんて求めちゃいけないって思ってた。なのに、透はっ!」
「……長瀬。本当に、ごめん」
「…………私だって、好きなんだから……」
そう呟いた長瀬の顔は耳まで真っ赤で。
今にもこぼれ落ちそうなほど涙をたたえた瞳は僕の方を見つめていた。
「これからも……僕と一緒に、生きてくれないか」
最後の一歩を踏み出す。それは小さいけれど確かな一歩。ようやく歩き出す僕の生。
長瀬が僕の左手に両手を重ねる。
「私も透と一緒にいたい。ありがとう、本当に」
そう言ってはにかむように微笑む。そんな長瀬の顔を見ていたらまた首筋が熱くなってきた。
うわ、やばいな。これはものすごく……嬉しい。耳まで熱くなってきちゃったぜ。
多分、僕の顔はものすごく赤くなってるんだろうな。そう考えたらとてもたまらなくなって、思わず俯いてしまう。と。
突然視界がふさがった。
いつの間にか椅子からベッドの端に移動した長瀬が僕を抱きしめているらしい。正面から。
長瀬のぬくもりを頬に感じながら、僕は彼女の鼓動を聴いた。
頭の中をぐるぐると様々な記憶が流れ、心の傷がミシミシと音をたてて開いていく。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:03:05.77 ID:2KKdFcuE0
次は誰が死ぬんだ・・・
危ない読むとこだった
とりあえず買って読んでから読むか
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:17:01.50 ID:2TZ/zzsI0
上の方にも書きましたが、8巻までの展開を元にしてるのでネタバレ要素は皆無です。
ほぼ完全に創作なので…どうぞよろしくッス
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:18:55.19 ID:6QLf+sez0
全力で支援しますわすわ
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:19:07.63 ID:2TZ/zzsI0
冷や汗が流れ、動けなくなる。それでも腕は無意識に上がり、長瀬の背中に回っていく。
この体から熱が抜けていってしまうのが怖い。何度も刺さる刃物の感触が伝わってくるのが怖い。
僕を抱きしめていたから、僕をかばっていたからあの人は死んだんだ。
早く離れなきゃ死んでしまう。早く手を離さないと長瀬が!
震えながらも手を放す事が出来ない僕の耳に、長瀬の言葉が飛び込んできた。
「大丈夫、大丈夫だから××。私は絶対いなくならないから落ち着いて、×い!」
……あれ、僕の、名前。あのときから受け付けなくなったことば。聞こえなくなっていたはずなのに。
「あ×、安心して。私はここにいるよ」
長瀬の声は優しかった。だんだんと震えが収まってくる。
未だ目をあけることができない僕は、それでもだんだんと体の力が抜けていくのを感じていた。
ついに重力の誘いに負けてベッドへと倒れ込む。長瀬もくっついたまま……だった。
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:31:12.73 ID:7XIER5Jn0
本スレで書いてるとか言ってた人?
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 22:54:54.52 ID:2TZ/zzsI0
>>32 そのとおりです。拙文ですが…
「……ごめん。感極まって思わず興奮しちゃったぜ」
よし、大丈夫だ。危ういけれどしゃべれる。
「馬鹿なこと言ってないで、ホラ、深呼吸するッスよ」
長瀬が少し身をずらし、僕の左に頭を落としてそういった。
そんなこと言われても長瀬さん、こんなに密着してたら深呼吸とかそういう以前にそもそも身動きが取れないっす。
上を向いたまま、しばらく僕はできる限りの深呼吸をした。
「長瀬の匂いでいっぱいだね」
「なんでそう恥ずかしいことを……落ち着いたならもういいッスよ。
あんまり嗅ぎすぎて透が変態さんになっても困るッス。」
ははは、甘いぜ長瀬。僕はすでに身内にすら変態認定されてるからな。いわゆる手遅れってやつだ!
「て、手遅れッスか……なら私に限りゆゆゆ許すッスよ。
抑圧された感情がばくはつしてしまうのを防ぐのも立派なつとめ!」
それはありがたいね、と長瀬の頭をなでる。
長瀬の頭は小さい。といっても他人の頭を撫でるなんて経験自体があまりないんだけど。可愛らしくていいんじゃないかと思う。
髪の毛の感触が心地よくてしばらく髪をすいていたら、いつの間にか長瀬の手が顔に触れていた。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:00:24.67 ID:8miNJ3QR0
ほうほう
C
声がでかい長瀬厨か
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:20:05.08 ID:mhIauZWc0
「透、こっち向いて」
言われるままに首だけ向けたら危うくねじ切られそうになったので、慌てて肩を入れて体を回す。と……
口をふさがれた。長瀬の唇で。そう、いわゆるマウストゥマウスってやつ。
僕らは無言のまま酸素を共有する。ただ触れていたい、それだけのためのキス。
僕は空いた腕を長瀬の腰にまわし、彼女は僕の足に足を絡ませる。
痺れるように甘くて柔らかな時間。
ずっとこれでもいいんだけどな、と思いながらも何回かの息継ぎを挟み、僕らの唇は離れた。
「……私、今が一番幸せ。本当に」
長瀬がとろんとした目で囁く。
「ありがとうね、透。あいしてる」
え?
思わず我が耳を疑い、ついでに正気も疑ってみた。
それは、その言葉は。
どうして平気なんだろう。心の奥底に封印していたはずなのに。
ふと、さっき抱きしめられている時にも呼ばれていたことに思い当たる。
…………………………そう、なのか?
「ふぁ、気が抜けたら眠くなってきちゃったッスよ。透抱き枕でお昼寝するッスー」
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:26:03.90 ID:OnL+kk/80
まだ買ってないんだけどネタバレある?
無いよ支援
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:29:12.25 ID:8miNJ3QR0
パラレルワールド的な世界だと思うから無いと思うよC
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:30:18.81 ID:OnL+kk/80
なるほど、最終的にあっはっは(ryか
しえん
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:33:25.00 ID:2TZ/zzsI0
「そうすると同襟の形になるね。なんだか大人のかほりが……」
「ぎゃー透に襲われるッスー。助けて透ーぅ……」
矛盾したことを呟きながら、ふっと目を閉じて動かなくなる。そのまますぅすぅと寝息を立て始めてしまった。
本当にあっという間に寝ちゃったよ、凄いなあ。
そんなに疲れていたんだろうか。というか制服のまま寝ちゃっていいのかな。
まあそんなに思いっきり寝るわけでもないしいいんだろう。
……さっきのは聞き間違いだった。
その可能性も捨てきれないけど、なぜか僕はそうではないという確信のようなものを感じていた。
長瀬がくれたものは、とても大きかった。僕を救ってくれたのだ。
これからともに歩いていく道。僕がいて、君がいることが嬉しい。
それを目が覚めたらまっさきに伝えよう。ほかの誰でもない、長瀬に。
そう決心して、僕はいつまでも彼女の手を握っていた。
そのまま僕も眠ってしまい、看護師のお姉さんにどえらく怒られた揚句にその姿を恋日先生と奈月さんに目撃され。
長瀬の家族まで巻き込むとんでもない大騒ぎになってしまったのは別の話。
……嘘だったらよかったのに!
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:39:14.45 ID:2TZ/zzsI0
というわけでこれにて〆でございます。
支援してもらった直後に申し訳ない
エロい方向のプロットも用意したんだけどいまいちしっくりこなかったのでこんな感じになりました。
初SSということで拙い文章でしたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
希望があれば続きを書いたりするかもしれません…
他何かあれば。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:40:22.74 ID:8miNJ3QR0
乙でした
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:47:17.92 ID:rg3HyQbX0
>>35 君いつも同じ言い回しだけどそれ流行ってるの?
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:51:55.48 ID:YLPooCS/O
まーちゃんだいすき
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:53:09.28 ID:8okjLSWm0
otu
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:01:12.64 ID:SG+VQPAI0
マユについての処理てきとうなままだけどひと段落じゃなくてこれで終わりなのか?
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:02:39.92 ID:Ia0Yjog/0
乙
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:12:13.08 ID:Qw3EciZX0
ゆずゆずのターンはまだですか?
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:19:09.45 ID:Ia0Yjog/0
もうひとつのみーまースレ落ちた?
うん
あーゆずゆず搾りてえ
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:25:46.48 ID:Ia0Yjog/0
落ちちゃったのかショック
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:35:36.88 ID:mE3eSNZv0
>>48 本当はそこも書こうかと思ってたんですが、いざ書きだしてみたらどんどん脇道にそれて量が増えてしまったので
今回は長瀬メインということで割愛しました。まーちゃん離れに関しても一応ドラマの構成はしてたんですけどね。
ゆずゆずについては本編でやってくれてるのでいいかなあと。
個人的に長瀬>奈月さん>にもうと>恋日先生>ゆゆ
って感じなので……すいませんw
読み終わった
>>1乙
うわああ長瀬長瀬長瀬長瀬長瀬長瀬長瀬ながせながせながせながsながせなgせあgなせが
長瀬!長瀬!長瀬!長瀬ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!長瀬長瀬長瀬ぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!長瀬透たんの黒色ショートの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説2巻の長瀬たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期、嘘だけど決まって良かったね長瀬たん!あぁあああああ!かわいい!長瀬たん!かわいい!あっああぁああ!
小説9巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!小説なんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
長 瀬 ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!殺人鬼の住む町ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵の長瀬ちゃんが僕を見てる?
表紙絵の長瀬ちゃんが僕を見てるぞ!長瀬ちゃんが僕を見てるぞ!挿絵の長瀬ちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメの長瀬ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕には長瀬ちゃんがいる!!やったよまーちゃん!!ひとりでできるもん!!!
あ、小説の長瀬ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあニー日先生ぃぃい!!に、にもうと様!!ゆゆゆゆゆゆyぁああああああ!!!ナトゥーキさんぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよ長瀬へ届け!!殺人鬼の住む町の長瀬へ届け!
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:00:48.19 ID:Qw3EciZX0
>>55 じゃあせめてにもうとのお話をお願いします
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:29:25.92 ID:mE3eSNZv0
>>58 長瀬物と並行してでよければ構成考えてみますね。
センターが終わるまではそんなに書けないかもしれませんが…
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:34:43.34 ID:Ia0Yjog/0
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:50:13.57 ID:pmQbmVO8O
>>13 本当に団長の分離合体はいつなんだろうか…
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:55:00.14 ID:Qw3EciZX0
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 04:04:03.76 ID:Ia0Yjog/0
age
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 05:34:55.71 ID:q9AR2y9MP
なんとなくほ
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 05:54:44.95 ID:Qw3EciZX0
なんとなく保守
読ませてもらった、乙!
透と長瀬のバカップル話読みたいと思ってたから楽しめた
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 10:30:14.24 ID:Zb9Z13eW0
ほ
Hoshu