< ゚ _・゚>は星を見るようです

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
代理
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 21:59:57.64 ID:N6OxSL8n0

代理ありがとうございます


※実在した出来事及び名前が本文中に出てくる事がありますが、全て創作です
3 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:00:52.30 ID:N6OxSL8n0

ライカと出逢ったのは深い秋の夜の事だった。

その時、もしテレビを点けていたり音楽を聴いていたりしてたら、私はその微かな物音に気付かなかったかもしれない。


ガサッ……ガサッ……


川 ゚ -゚)「……?」

網戸越しの庭から微かな物音がする。
かさかさと雑草をかき分けて進む、何かの気配のように感じられた。

川 ゚ -゚)「何かいるのか……?」
4 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:02:10.25 ID:N6OxSL8n0

網戸を開け、雑草だらけの庭を見渡す。
蛍光灯の白い光が夜のとばりを削り、草むらを明るく照らし出す。

ぼうぼうに茂った草むらの中、ちょうど庭の中心辺りが
不自然に落ち窪んでいるのに気付いた。

私はサンダルをつっかけて庭に出ると、それを恐る恐る覗きこんだ。

川;゚ -゚)「……」

酷く汚れた黒いパーカーだった。
所々土や泥にまみれていて、ぱっと見ではとても黒地の服と思えない程に汚れていた。

川;゚ -゚)「なんだこれ……?」

パーカーが変に膨らんでいる。
服の中に何かが居るのかもしれない。
5 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:03:51.67 ID:N6OxSL8n0

川;゚ -゚)「……」

不気味に思う一方、それの正体を確かめたいという好奇心が、私の中にふつふつと湧いてくるのを感じた。
私は手を伸ばし、服をひっぺがした。

< - _・->「……」

服の中にいたのは、一匹の犬だった。





< ゚ _・゚>は星を見るようです




6 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:08:32.20 ID:N6OxSL8n0

それがライカとのファーストコンタクトだった。
短い茶色と白の巻き毛、すっきりした顔立ちの、スマートな犬だった。

私はその頃、死んだお爺ちゃんが昔住んでいた家を借りて一人暮らしをしていた。
ペットや動植物でとやかく言われるような環境でなくて幸いだった。

見るからにやつれ、衰弱していたライカを私はシャワーで洗い、毛布で柔らかく拭いた。

川 ゚ -゚)「大丈夫かな……」

< - _・->「……」

中々目を覚まさないライカに不安を感じ始め、動物病院に連れて行った方がいいか考え始めた頃。

< - _・->「ク……」

小さな声を上げ、うっすらと目を開き始めた。

< ゚ _・゚>「……?」
7 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:10:27.88 ID:N6OxSL8n0

川 ゚ ー゚)「よかった……大丈夫だったか」

つぶらな瞳をぱちくりさせて、部屋を見渡す仕草がとても可愛らしかった。

< ゚ _・゚>「……」

近くのスーパーで買ってきたドッグフードを皿に盛り、目の前に差し出すと
すぐさま食らい始めた。余程お腹が空いていたのであろう。

川 ゚ ー゚)「可愛いなあ」

< ゚ ,,・゚>  モグモグ

川 ゚ ー゚)「よし……」

< ゚ ,,・゚>「?」モグモグ

川 ゚ ー゚)「決めた。君の面倒は私がみてやろう」
8 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:14:31.94 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>「!」ゴクン

川 ゚ ー゚)「名前は何が良いかな……」



< ゚ _・゚>「……あの、申し訳ないですが、僕にはもうライカという名があるのです」



川 ゚ -゚)



川;゚д゚)!?

9 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:20:34.06 ID:N6OxSL8n0

実に快活な物言いで、犬が語り出した。
予想外の出来事に私は絶句するばかりであった。

< - _・->「んぐっ……ご飯おいしゅうございました。どうもありがとうございます」

< ゚ _・゚>「身に染みる美味しさでした。何せ一言も喋れない程クタクタでしたので」

川;゚д゚)「……」

< ゚ _・゚>「……そうですよね、多分貴女は喋る犬など見た事が無いでしょう」

川;゚д゚)「は、はぁ……」

< ゚ _・゚>「驚かれるのも無理はありません。心中御察しします」

川;゚ -゚)「……」

< ゚ _・゚>「感謝の言葉をきちんと告げたかったのです。驚かせてしまってすみません」
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:28:02.31 ID:M70hEk4gO
私怨
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:28:08.14 ID:kZt8zYmvO
さるよけ
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:28:19.94 ID:SknkLyLYO
支援
13 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:28:31.10 ID:N6OxSL8n0

川;゚ -゚)「あ、あの」

< ゚ _・゚>「はい?」

川;゚ -゚)「ライカ……さんだっけ」

< ゚ ,_・゚>「ライカ、で充分ですよ」

川;゚ -゚)「根本的なとこから聞くけど……なんで喋れるの?」

< ゚ _・゚>「……」

ライカは視線をぼんやりと部屋の隅に漂わせていた。
聞いてはいけない事だったのかな、と私は一瞬思った。
14 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:33:23.60 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>「……それには深い理由がありまして」

< ゚ _・゚>「とても一言では説明できないのです」

< ゚ _・゚>「知りたいですか?」

川 ゚ -゚)「……」

その日は仕上げなければいけないレポートがあったのだが、
目の前に現れた不可思議な物の、興味の引力は私を引き付けて離さなかった。

川 ゚ -゚)「ああ、知りたい」

< ゚ _・゚>「……そうですか。それではお教えます」

秋の夜長、虫の声が鳴り響く古い家の中、向かい合う一人と一匹。
ライカの不思議な昔語りが始まった。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:37:18.27 ID:SknkLyLYO
しえん
16 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:39:40.26 ID:N6OxSL8n0


    ◇   ◇   ◇


まず始めに申し上げなければいけない事がありまして、
それは、僕は決して先天的にこのような能力を持っていたという訳ではない、という事です。
僕も昔は、何処にでも転がってそうな普通の犬だったのです。

順を追って説明しますが、ある大事件……事件と呼んでいいのか分かりませんが、ある出来事がありまして
僕は犬ではない異形の存在に成り果て、その時に僕は人間のそれに匹敵する思考力を手に入れたのです。

僕がただの犬だった頃、勿論まだ僕に言語という物は備わっていなかったので、
その頃感じた事や思い出を、ここで言葉として上手く表現できるかどうか分かりませんが、
精いっぱい伝えたいと思います。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:42:27.14 ID:SknkLyLYO
支援
18 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:43:35.32 ID:N6OxSL8n0

僕は何処か知らぬ寒い町で生まれました。
母親の記憶はほとんどありません。微かに匂いを覚えていた程度です。

<::゚_・゚>「……」

*(‘‘)*「あ! ノラ犬だ」

('、`*川「近付いちゃいけませんよ。野犬は怖いから」

<::゚_・゚>「……」

('、`#川「しっしっ!」

<::-_・->「……」

*(‘‘)*「おいはらっちゃうの?」

('、`*川「食べ物をあげるとどこまでもついてくるようになっちゃうから、いけないのよ」
19 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:47:52.41 ID:N6OxSL8n0

その頃の僕は常に飢えていました。
町には多くの野良犬が徘徊し、餌にありつくのも容易ではありませんでした。
体の大きい犬たちや、ある時は町の心無い人から、酷く暴行を受けた事もありました。

<::>_・<:>「キャイン!!」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「フン……野良犬風情が……調子乗って吠えてんじゃねえよ!」

ボカッ!ドグッ!

<::>_・<:>「キャイン!! キャイン!!」
  _、_
(#,_ノ` )y━・~「労働してる身にもなってみろ……おこぼれ貰って食いつなぐ乞食に生きる価値はねえんだよ!!」

ドカッ!ボガッ!

<::-_・->「…………」
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:49:40.52 ID:SknkLyLYO
しえん
21 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:53:46.04 ID:N6OxSL8n0

その町は一年中雪が降っていて、動いていないと凍死してしまう程の寒さが毎日でした。
ボロボロになった僕はもう歩く事も吠える事もできず、降りしきる雪の中でもう死んでしまおうかと思っていました。


「おい! 大丈夫か! お前!」


<::-_・->「……?」


気が付くと僕は何やら温かい物に包まれていました。
それは人間の腕の中だと、ぼんやりした意識の中気が付きました。


(-@∀@)「ああ……! 良かった……生きてたか」

<::゚_・゚>「……?」

(-@∀@)「今あったかい所に連れてってやるからな」
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 22:55:10.20 ID:yG7id3xiO
これは期待
23 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 22:57:18.97 ID:N6OxSL8n0

人間に優しくされた初めての経験でした。
丸い眼鏡をかけ、黒い帽子とコートを着たその人は、痩せていてひょろ長く、
帽子をかぶったその姿はまるで町に立つ街灯のようでした。


こうして僕はご主人様と出逢ったのです。


< ゚ _・゚>「くぅーん」

(-@∀@)「よしよし、大分綺麗になったな」

▼・ェ・▼「キャンキャン!」

(U^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

(-@∀@)「よーし、ご飯の時間にするか!」

< ゚ _・゚>「くぅーん」

(-@∀@)「仲良く食うんだぞ」
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:00:19.79 ID:SknkLyLYO
支援
25 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:03:20.21 ID:N6OxSL8n0

ご主人様は僕の他に二匹、犬を飼っていました。
野良育ちだった為もあってか、打ち解けるまで結構時間がかかりましたが、
後に僕らは、お互いが親友と呼び合える程の仲になりました。

▼・ェ・▼『よう! ライカ。お前はいつもまったりしてんなぁ』

< ゚ _・゚>『……ライカ?』

▼・д・▼『ご主人様が言ってたじゃねえか! お前覚えてないの?』

< ゚ _・゚>『……』

▼・ェ・▼『ご主人様から名前を頂いたんだ。大事にしろよな』

< ゚ _・゚>『……』

▼・д・▼『お前無口だなーいつもむっつりしてて』

< ゚ _・゚>『……別に、そんな事』
26 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:08:04.12 ID:N6OxSL8n0

▼・ェ・▼『アレか? やっぱ野良ってあんまし声出さない方がいいから、慣れちまってんだな?』

< ゚ _・゚>『……』

(U^ω^)『わんわんお! アルビナ! あんまし嫌がる事言っちゃだめだお!』

▼・д・▼『別に嫌がってねーだろぉ』

(U^ω^)『わんわんお! 野良は辛いんだお。辛い事思い出させちゃいけないお』

▼・ェ・▼『むぅ……』

< ゚ _・゚>『……君も野良だったの?』

(U^ω^)『うんにゃ、野良の友達がいるだけだお』

(U^ω^)『それにライカくぅん! キミなんてよそよそしい言い方しないでお!』

<; ゚ _・゚>『えっ……あ、ごめん』

(U^ω^)『僕はムーシカって言うんだお! よろしくだお!』

小さいけど大胆な性格なアルビナと、大きくてのんびりしてるムーシカ、
そしてご主人様が僕の家族でした。
幸せでした。辛い記憶もいつしか遠い過去となり流れて行きました。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:11:30.20 ID:M70hEk4gO
C
28 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:13:16.71 ID:N6OxSL8n0

(-@∀@)「よーし、今日はお注射の日だぞ」

< ´゚ _・゚>『えー……』

▼´・д・▼『やだなー』

(U^ω^)『痛いのやだお』

(-@∀@)「そんなに嫌がるなって、ほいまずはライカから」

< ゚ _・゚>「くぅーん」

< ` _・´>「きゃん!」チクッ

(-@∀@)「はーいオッケー。次はアルビナ……」

▼>ェ<▼「フゥーン」

ご主人様は時々、僕らに何だか良く分からない薬を与えたり、白くて狭い部屋の中に僕らを閉じ込めたり、
定期的に注射を打ったりする事がありました。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:13:29.03 ID:SknkLyLYO
しえん
30 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:17:16.85 ID:N6OxSL8n0

この頃は、ご主人様が何故そんな事をするのか全く想像も付きませんでした。
僕らの心にあったのは、あのご主人様がなさっている事だから、
きっと何か意義がある事に違いないという忠誠心からの信奉だけでした。

▼・ェ・▼『毎回毎回、一体何をしているんだろうかご主人様は』

< ゚ _・゚>『なんだろうね』

(U^ω^)『ご主人様は……きっと僕らを調べてるんだお!』

< ゚ _・゚>『調べてる?』

(U^ω^)『だってそうだお、僕らがどう反応するかずっと見てるんだもんお』

▼・ェ・▼『確かに……いつもとは違う凄い剣幕で見られるよな』

< ゚ _・゚>『でも、調べてどうするんだろ?』
31 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:20:07.26 ID:N6OxSL8n0

(U^ω^)『ご主人様は……きっと犬と仲良くなりたいんだお!』

▼・д・▼『仲良くぅ?』

< ゚ _・゚>『僕らの事もっと知りたいって事かな』

(U^ω^)『ご主人様は優しい人だお! きっとそうだお!』

▼・ェ・▼『たまには良い事言うじゃねえか』

(U^ω^)『わんわんお!』

< ゚ _・゚>『……』
32 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:24:36.58 ID:N6OxSL8n0

いつまでも続いてほしいと思う幸福の裏には必ず、いつか終わりが来るという不安が常に存在しています。
僕はなるべくそれに目を向けないように日々を過ごしていました。
楽しかった日常はとてつもなく早く過ぎ去り、消えて無くなって行きました。



ある日、ご主人様の家にお客様が来ました。

(`・ω・´)「やあアサピーくん。ごめんねえ家に押しかけて」

(;-@∀@)「いえいえ、大丈夫ですよ」

ご主人様の委縮した立ち振る舞いから察するに、かなり偉い人なのではないかと想像ができました。

▼・ェ・▼「くぅーん」

< ゚ _・゚>「……」

(U^ω^)「わんわんお! わんわんお!」
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:25:02.58 ID:UgvPs+jwO
ライカって聞いた事あんなーと思ったら…

期待支援
34 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:28:43.53 ID:N6OxSL8n0

(;-@∀@)「あぁ! すいません……うるさくて」

(`・ω・´)「いや別に構わんよ。私は動物好きだからね」

(;-@∀@)「恐縮です……」

< ゚ _・゚>「……」

それからご主人様とお客様はテーブルでお茶を飲みながら、
何やら凄く難しい会話を延々としていました。
会話の意味も分からず、退屈した僕はご主人様の足にもたれてぐうぐう眠ってしまいました。

< - _・->「zzz」
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:29:01.85 ID:SknkLyLYO
支援
36 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:31:30.29 ID:N6OxSL8n0



(;-@∀@)「そんな!!話が違う!!」



ご主人様が突然大声を出したので、私はびっくりして飛び起きました。

< ゚ _・゚>「!?」

(`・ω・´)「一部しか知らなかった極秘だからねえ、直前まで君に知らされていなかったのは申し訳ないと思うよ」

(;-@∀@)「ですが……」

(`・ω・´)「ともかく、計画はその方向に変更だ。これは決定事項だよ」

(;-@∀@)「……」

(`・ω・´)「分かっているだろうが君に拒否権は無い。聞きわけてくれ」

(;-@∀@)「……」
37>>36訂正 ×私→○僕  ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:33:56.43 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>「?」

お客様が去ってからも、ご主人様は動かず、座ったまま険しい顔をしていました。

▼・ェ・▼『どうしたんだよーご主人様ー』

(U^ω^)『わんわんお! 元気出してお!』

< ゚ _・゚>『……』

僕らは所在無く、ご主人様の足の間を通ったり、もたれかかったりしていました。

すると急に、ご主人様は僕を抱き締めました。

< ゚ _・゚>「!」

(;-@д@)「うっ……うっ……」
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:34:23.84 ID:SknkLyLYO
今なら出来ない事よね

しえん
39 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:36:36.97 ID:N6OxSL8n0

ご主人様の口から嗚咽が漏れました。
大粒の涙がこぼれ落ち、僕の毛皮を濡らしました。

< ゚ _・゚>『どうしたんですかご主人様』

ご主人様は眼鏡を外し、目をこすりながら泣きました。

( つд;)「ごめんな……ごめんな……ライカ……」

<´゚ _・゚>「くぅーん……」

ご主人様は顔をぐしゃぐしゃにして、ごめんごめんと言い続けました。
僕には何が何だか分かりませんでした。
ただ、ご主人様が泣いていると僕まで悲しい気持ちになるな、そんな事を思っていました。

▼´・ェ・▼「……」

(U´^ω^)「……」

ご主人様は何故涙をこぼしたか。
その訳を知るのは、それからずっと先の事です。
40 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:39:20.49 ID:N6OxSL8n0

(U^ω^)『お出かけかお?』

< ゚ _・゚>『うん。今日はなんか僕だけみたい』

▼・ェ・▼『なんだおめー、抜け駆けかよー』

<`゚ _・゚>『ご主人様が言うんだもん! しょうがないだろ』

(U^ω^)『……ご主人様なんだか元気無いお。ライカ』

< ゚ _・゚>『うん……わかってる』

▼・ェ・▼『お出かけ先でもご主人様をしっかり見とけな!』

< ゚ _・゚>『うん!』
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:40:59.55 ID:CZf3RcxG0
ぬぅ……
支援
42 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:42:13.04 ID:N6OxSL8n0

(U^ω^)『あ、帰ってきたら昨日の骨みんなで探そうお』

▼`・д・▼『ムーシカてめえ昨日めっちゃ食いやがって! 今日は俺らにも残せよな』

(U^ω^)『おっおっ』

< ゚ _・゚>『そうだね……帰ったらみんなでやろう』

▼・ェ・▼『おう!』

(U^ω^)『いってらっしゃいだお!』

< ゚ _・゚>『じゃあね、行ってきます』

二匹の親友と最後に交わした会話は、なんてことない日常の一部でしかありませんでした。
これが今生の別れになる事なんて誰が予想できるでしょう。
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:43:29.45 ID:SknkLyLYO
支援
44 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:46:23.67 ID:N6OxSL8n0

(`・ω・´)「連れてきたかね」

(-@д@)「はい」

< ゚ _・゚>「……」

ミ,,゚Д゚彡「ほお、これが今回の」

( <●><●>) 「可愛らしいです」

(`・ω・´)「そう言ってくれるな……この子は」

( <●><●>)「わかってます」

(-@д@)「……」

ご主人様はあれからずっと元気がありませんでした。
僕がじゃれても悲しそうに笑うだけで、前のような笑顔で僕を撫でたりはしてくれませんでした。
45 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:49:39.26 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>(……これから何をするのかな)

気付くと、その部屋は次々にやって来る人間でごった返すようになりました。
ご主人様と僕は黒山の人だかりに囲まれながら、眩しい光を何度も浴びせられました。
後になって気付いた事ですが、どうやらその光はカメラのフラッシュだったようです。

それから僕たちは、それより更にたくさんの人間の前に連れて行かれました。
演壇に立った何やら偉そうな方が、難しい事を長々と話していました。

そして僕はあの部屋に入ったのです。

< ゚ _・゚>(?)

白くて狭い部屋に閉じ込められるのは前々から何度も繰り返しやってきた事だったので、
僕は少し拍子抜けした気持ちを覚えました。

< ゚ _・゚>(なんだ……何度もやった事じゃんか)
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:51:33.19 ID:SknkLyLYO
しえん
47 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:54:16.47 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>(…………?)

しかし、どうも様子が少し変でした。

臭いがおかしいのです。
見かけはいつもと変わらぬのですが、妙に鼻を突く気味の悪い臭いがそこに立ち込めていました。
少し躊躇していると、ご主人様が後ろから僕を抱きました。

(-@д@)「ライカ……お前は本当に良い子だったよ」

< ゚ _・゚>「?」

(-@д@)「本当にごめん……さようなら」

ご主人様が何を言っているのか、全く理解できませんでした。
ドアが閉められ、僕一人になりました。
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:55:07.02 ID:SknkLyLYO
あぁ

支援
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/27(金) 23:56:30.92 ID:+ztZZuSV0
犬飼いにはきつすぎるよな
50 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/27(金) 23:58:41.54 ID:N6OxSL8n0

< ゚ _・゚>(退屈だなぁ……)

< ゚ _・゚>(……? 地震?)

しばらく経つと、突如大きな地鳴りが僕の周りを襲いました。
それからとても暑くなりました。耳が壊れてしまいそうなくらいの轟音と想像を絶する熱が僕を苦しめました。

そしてある時から急に、体が引き裂かれるような感覚と、胸が苦しく呼吸が上手くできない状態に陥りました。
僕の五感の全てが、各々の感覚器から苦痛を感じ取り、悲鳴を上げているようでした。
それはまさに地獄の苦しみでした。

<<< ゚゚ □゚゚>>>「……がっ……! っ……っ……」

永遠に続くかのような苦痛でした。
あるいはこの時既に、僕の体はぐちゃぐちゃに壊れていたのかもしれません。
記憶が曖昧なのです。
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 00:01:15.17 ID:ewGX/9tUO
しえん
52 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:02:55.95 ID:K/WDUnP00


説明が前後してしまいますが、ここで詳しく言う事にします。
これは僕が犬ではなくなった後、調べて分かった事です。


それはスプートニク2号というソビエトの人工衛星だったのです。
僕は人類史上初めて、いや、地球史上初めて、宇宙空間を旅した生物になっていたのでした。


分厚い百科事典に僕の名前と写真が載っているのです。
本当に、思わず声を上げてしまう程驚きました。

そして何より最大の驚愕は、
スプートニク2号は僕を乗せて何度か衛星軌道上を回った後、帰還する予定は元から無かったという事。
積まれていた一週間分の食料の、最後のエサに入っている薬によって安楽死されられたという事。


( つд;)「ごめんな……ごめんな……ライカ……」


不意にあの時の、ご主人様の泣き顔が思い出されました。
53 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:08:05.92 ID:K/WDUnP00

涙が込み上げ、広げていた百科事典のページにぽとりと滴り落ちました。


そして僕は、自分がもう何処にも存在し得ないものなのだと、自覚するようになったのです。


百科辞典にもあるように、僕は打ち上げ中ないし衛星軌道中にて死んだ事になっているのです。
たとえエサを食べずにいたとしても、墜落したスプートニクは燃え尽き、消滅してしまっているのです。

ではここにいる僕は一体何でしょうか……?


話を元に戻します。
54 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:12:37.33 ID:K/WDUnP00


……………………

……………

………





< ゚ _・゚>


気付くと、僕は真っ暗で何も無い空間の中にいました。
下を見ると、燦然と蒼く輝く地球がありました。
それは僕が今まで見た全ての美しい物の、その全ての美しさの要素を持っているように感じられました。
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 00:16:22.17 ID:qBgAqJtsO
支援
56 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:17:20.59 ID:K/WDUnP00

僕はそこで、何か……悟りとでも言うのでしょうか、頭の中が妙にすっきりして、
まるで新しい生命に生まれ変わったような感覚を感じたのです。


< ゚ _・゚> ……


おそらく、僕が異常極まる生物になったのはこの時点でしょう。

犬一匹を乗せる予定の衛星に宇宙線や電磁波をきちんと防ぎきれる装備が整っていたとは考えにくいです。
有害な宇宙線にあてられたか、あるいは大気圏を抜けた時何か起きたか、
はっきりとした事は分かりませんが、僕の細胞は哺乳類のそれを超越していたのです。
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 00:17:37.91 ID:/ipSmLH8O
支援 (つ_;`)
58 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:22:29.34 ID:K/WDUnP00


< ゚ _・゚> あ、あ、あ、あ、あぁぁぁ


< ゚ _・゚> 。。.゚*。゚ 。.゚ 。 ☆+。。゚.


< ゚ _・゚> ΣγΞ£★ΘσЩ


どれくらい時が経ったのか、永遠だったか一瞬だったか知れませんが、
僕は地球に引っ張られるようにして堕ちていきました。

スプートニク2号はこの時燃え尽きて消滅したそうです。
しかし僕は生き残りました。
僕は海に落下し、やがて何処かの島に流れ着きました。
59 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:26:02.56 ID:K/WDUnP00

ザザーン……


从'ー'从「ここのサンセットは最高だよぉ」

从'ー'从「……あれれー?」


< - _・->


从;'ー'从「ワンちゃんが打ち上げられてるよぉ! ちょっとぉー!」

ミセ*゚ー゚)リ「ワンちゃん!? あら本当、可愛いー」
60 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:30:10.76 ID:K/WDUnP00

从'ー'从「流されてきたのかなー?」

ミセ*゚ー゚)リ「そんな……普通は溺れて沈んじゃうもんよ」

从'ー'从「運がいい子なんだねー」

< ゚ _・゚> パチッ

从*'ー'从「わあ起きた! 可愛いいいいいい!!」

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと連れて帰ろうよ! 汚いし、洗ってあげましょう」

< ゚ _・゚>「……」
61 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:35:00.63 ID:K/WDUnP00

それから僕は色々な人に厄介になりながら、あても無く放浪し始めました。
自分が何をしていたのか、また何をしているか、始めは分かりませんでした。

< ゚ _・゚>(……)

< ゚ _・゚>(……ぼくは、だれだっけ)

< ゚ _・゚>(そうだ、ぼくは、ライカ)

< ゚ _・゚>(ごしゅじんさまと……アルビナと……ムーシカと……)

< ゚ _・゚>(かえらなきゃ……かえって、みんなと、ほねをさがすんだ)

< ゚ _・゚>(……ここ、どこだろう)
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 00:35:02.07 ID:ewGX/9tUO
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63 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:43:28.14 ID:K/WDUnP00

知能が異常な程発達した僕は、人間の喋る言葉を聞き、また落ちていた雑誌や新聞で文字を覚えました。
一度覚えた事は二度と忘れませんでしたから、どんな言葉もすぐに覚えてしまいました。

< ゚ _・゚>「……」

l从・∀・ノ!リ人「野良犬かわいいのじゃー」

(*´_ゝ`)「あぁ……犬は可愛いなぁっ……ハァハァ」

(´<_`;)「兄者……?」

从・∀・ノ!リ人「……? この犬ちょっとおかしいのじゃー」

(´<_` )「どうかしたのか妹者?」

从・∀・ノ!リ人「浮き出てる骨の形が、普通の犬と違うのじゃ」
64 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:49:26.23 ID:K/WDUnP00

< ゚ _・゚>「……!」

(´<_` )「うっそ〜どれどれ」

l从・∀・ノ!リ人「あれ? さっきまで」

(´<_` )「ほーらなんともないじゃんか」

l从・∀・;ノ!リ人「違うのじゃ!! 嘘じゃないのじゃ!!」

(*´_ゝ`)「ハァ……ハァ……犬っ……!ハァハァ」

<; ゚ _・゚>「……」

まずいと思った瞬間、僕の体の中からごぼごぼと湧き立つような音が聞こえたのです。
骨は体の内側の方に引っこんでいました。
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 00:50:04.80 ID:f85/pgkfO
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66 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 00:55:58.83 ID:K/WDUnP00

劇的な変化は頭だけでなく、体でも起きていました。
僕はどうやらその場の必要に応じて自分の細胞を変化させる事ができるようになったのです。
例えば、あの樹に登ってみたい、と念じているといつの間にか手足が長くなり、指と掌が大きくなっていたりするのです。

<; ゚ _・゚>ノ

<; ゚ _・゚>\

<; ゚ _・゚>(……僕は、一体どうなってしまったのだろう)

僕はもう完全に化け物、異形の存在でした。
おかしくなってしまった自分を繋ぎとめるものは思い出だけです。
ご主人様たちと過ごした楽しい記憶だけが、僕を僕たらしめる唯一のアイデンティティーだったのです。
67 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 01:02:17.81 ID:K/WDUnP00

< ゚ _・゚>(……あれからもうどれくらい経つんだろう)

< ゚ _・゚>(時間の感覚が分からない……今はいつだ?)

< ゚ _・゚>(そもそも……僕はいつ生まれた? 故郷は……?)

< ゚ _・゚>(僕はいつ頃どこで皆と暮らしていたんだ……?)

あの時見た地球のすみずみにまで人間が住んでいるという事。
動物や鳥や魚、植物。町、都市、国。色々な知識を吸収しました。
68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:03:33.39 ID:abcB2ZMj0
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69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:03:39.46 ID:ewGX/9tUO
しえん
70 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 01:08:57.67 ID:K/WDUnP00

時間の概念や西暦を知るにつれて、僕はあれから一体どれくらいの時間が経ったのか知りたくなりました。
ご主人様は……アルビナとムーシカは……まだ生きているのだろうか……。

< ゚ _・゚>「……よし」

それから僕の途方も無い旅が始まりました。
自分のルーツを知る為、家族の行方を捜す為、僕は何処までも行く事を決心したのです。


< ゚ _・゚>「きっと皆生きてるさ。今頃あのお庭でアルビナとムーシカが」

< ; _・;>「ご主人様と一緒にボール遊びでもしてはしゃいでるに違いないよ……」

< ; _・;>「……」

< ; _・;>「なんで、涙が出るんだろう」


きっと見つかるまい、と密かに囁いてくる心を必死で押し殺しながら。
71 ◆SJE2wU1pXw :2009/11/28(土) 01:13:18.07 ID:K/WDUnP00
今回は以上です。また近いうちに続き書きますので見かけたら読んで下さい。

スプートニク2号に乗せる為に訓練されたライカ(クドリャフカ)、アルビナ、ムーシカは実在した犬です
浅い知識なのでその当時の時代風景にそぐわない表現などあるかもしれませんでしたが御容赦下さい
保守してくれた方ありがとうございました。
72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:14:03.14 ID:f85/pgkfO
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:16:16.97 ID:ewGX/9tUO


楽しみにしておく
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:17:40.69 ID:abcB2ZMj0
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:17:43.97 ID:qBgAqJtsO
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/28(土) 01:23:09.05 ID:F/sWE+330
77以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

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