40 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:32:49.22 ID:+qKrPl71P
誰もが一度は空想に耽った。
もしもあの地震がなかったら、世界は、どうなっていたのだろうか。
1945年の、地震がなければ。
歴史にも、史実にも、事実にも、もしもはない。
だから、次第にそんな考えは廃れていった。
だから。
それは人生にも言えること。
もしも。
もしもあの時、ああしていれば。
でも、有り得ないんだから。
世界も、人間も、全てはこのまま進むしかないのだ。
変わるのなら、変わるうちに変わらなければならない。
思い出さず、過去を振り切り、今を、見る。
未来は見なくていい。
だから、過去は見てはいけない。
今を、生きる。
41 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:36:49.11 ID:+qKrPl71P
第二話
『解答、ワンダリング・ゼノン』
罪を犯せば
罰を以て償う
歓喜せよ
42 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:37:43.39 ID:+qKrPl71P
母なる大地から生まれ、母なる大地へ還って逝った。
この一連の現象を、兄者が説明すれば、以上のようになるだろう。
43 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:40:12.09 ID:+qKrPl71P
二〇〇三年六月十九日、午前三時、国護騎帝隊本部、第一ゲート。
ぎぎ、と動いた。
『巨機』と呼ばれるそれが。
音を立て、起動する。
二重にも三重にもなされている、ゲージのハッチが展開されていく。
『巨機』は線路に従って、外に出ていく。
操縦者は、最終点検をする。
スーツに異常がないか確かめ、グリップを何度か握り、手を軽くぐうぱあさせる。
コックピットの上部にモニタが出現する。
モニタには、でぃが映し出されていた。
44 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:41:51.58 ID:+qKrPl71P
(#゚;;-゚)『ほんで、でやねやな、乗り心地は』
/ ゚、。 /「悪くない。が、これを一度で捨てるとは、中々面白い」
(#゚;;-゚)『まあなあ。ほら、あの人が力使いよるんやったらええけどさな。
んな一般人が人外パワー発揮せえへんやろ』
/ ゚、。 /「しかも、戦う相手が最強と来るから笑わせる」
(#゚;;-゚)『せやけどや、ダイオード、あんたやったら白兵戦でも充分いけんねやろ?』
/ ゚、。 /「まあ、な。しかし、『巨機』の方が楽だ」
(#゚;;-゚)『ほらせやわな。
ほな、うちはまた援護すんで。また何やあったら連絡してや。
んじゃ、健闘を、祈る』
/ ゚、。 /「ああ。
健闘を、祈る」
ぶち、と、独特の音が耳に響く。
回線を切るのは、これだから嫌いだ、とダイオードは思った。
それがでぃへの想いなのか、本当に音が嫌だからなのかは、
彼女自身、分かっていなかった。
45 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:44:24.55 ID:+qKrPl71P
/ ゚、。 /「それじゃあ、行きますか」
右外側に位置するレバーを前に押し倒し、幾つかのスイッチを、訓練どおり、順に押していく。
その度に、機体の外では忙しなく外装が音を立て、開き閉じを繰り返している。
手順が面倒なのは、乗っ取られた時など、暴走を未然に防ぐためらしい。
しかし、ハッキングには滅法弱いとは、とダイオードは失笑する。
ぎ、ぎ、ぎ、と、鈍重な音が辺り一面に鳴り響く。
ごう、ごう、ごう、風が空を切る。
きるきると、汚い、使い古されたもののように、大きな音をたて、足が動く。
脚の関節部分に取り付けられたマニピュレーターと足を接続する部位が高速回転し始める。
さながら蜘蛛のように、忙しく八本の接続部位の円が回転する。
マニピュレーターの先端には、不気味に、無機質に、尖った針のようなものが付いている。
わざわざ本体に取り付けられているキャタピラが、目的を捕捉し、移動を開始する。
八本の蜘蛛の脚は、やはり忙しなく、本体に寄り添うよう、がしがしと地面を捉えながら進む。
右の外側のレバーを、自分に向けて倒し、中指で押さえていたスイッチを離す。
それと同時に、人差指を当てていたスイッチを何度も押す。
ぎい、ぎい、ぎい、と音がし、これが限界と言わんばかりに機体がぐらつく。
またも上部にモニタが現れる。
(#゚;;-゚)『やっぱ慣れとらんのか? 何や、他の「巨機」、出してもろたろか?』
/ ゚、。 /「いや、大丈夫だ。直に慣れるさ」
(#゚;;-゚)『せやったらええけど……死なんといてな?』
/ ゚、。 /「あっ、あの……」
(#゚;;-゚)『何やな』
/ ゚、。 /「……い……いや、何でも、ない……」
46 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:45:57.56 ID:+qKrPl71P
そうか、とでぃが発した音を皮切りに、またも不快音が鳴り響く。
ダイオードは、ずっと、でぃと話していたかった。
こちらに来てから、ダイオードの立場は殆どなかった。
それでも、でぃだけは優しく接してくれた。
何が言いたくて回線を切るのを渋ったのかは分からないが、もしかすると、一秒でもでぃの声を聞きたかっただけなのかもしれない。
中央のレバーを二本、前後に動かす。
回線とは反対の、左上部にウインドウが現れ、充填具合が表示されていく。
ぎこぎこと、船でも漕ぐかのよう、何度も前後運動を繰り返す。
回線が切れた時と同じ音が、びいびいと、コックピット内に鳴り響く。
充填率、百パーセント、と表示が切り替わった。
ダイオードの搭乗する『巨機』が動き出したことを感知し、でぃが前線を駆けて行く。
数十メートル進み、ウインドウには、『五十五米五百糎前進』と映し出された。
と。
右頭上、モニタが出現した。
そこには、『音声ノミ』と書かれている。
『SOUN DONRY』としないのは、この国における要だとか、素っ頓狂なことを言っていたな、とダイオードは苦笑した。
妙な、そしてちんけなプライドだ。
この拘りがなければ、この国は、もっと海外からも好かれていたに違いない。
雑念を取り払い、ダイオードは、会話に集中しようと思った。
47 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:48:58.79 ID:+qKrPl71P
同日、午前二時、某所。
イ从゚ ー゚ノi、「で、わっちが行くでありんすか?」
N| "゚'` {"゚`lリ「あっちが最強で来ると言っているんだ、こっちが最大出力で向かえてやらなねば、可哀想だろう?」
イ从゚ ー゚ノi、「そりゃあそうでありんすけど……最近、わっちばかり稚魚の相手ばしとりません?」
N| "゚'` {"゚`lリ「それほど、実力が認められているってこった」
イ从゚ ー゚ノi、「そいつは嬉しきお言葉ざんす。ありがとうざいますわ」
では、と言い、阿部は、目をじっと見つめ、礼讃の言葉を告げた。
N| "゚'` {"゚`lリ「存分に――暴れ、壊し、殺し、喰らい、狂わせ、そして、滅して来い」
にこ、と笑顔で返し、歩を進める。
イ从゚ ー゚ノi、「では――銀狐太夫、いざ参らん」
着物を前で大胆に肌蹴させ、銀狐は走る。
一面荒野。
身形を全く気にせず、四足歩行、裸足で駆ける姿は、正に狐と言えた。
48 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:52:16.05 ID:+qKrPl71P
『ぬしがわっちの相手ェしてくれるお方でありんすか?』
無機質な声が、音声ノミのモニタから聞こえてくる。
ダイオードは、ごく、と唾を飲み込む。
/ ゚、。 /「ああ。私がお前を殺す」
『ふむ。ふむふむふむ。わっちを、殺すと』
つまり――と銀狐は言葉を紡ぐ。
『わっちを、人間として見ておると言うことでござんすね?
結構、結構。最高の賛美、至高の褒め言葉。わっち、このまま昇天してしまいそうでざいますわ』
ならば、死ね――と、ダイオードは思った。
最初は何も考えておらず、ただこいつらを殺せばいいと思っていた。
しかし、『お父様』は違った。ダイオードを認めた。
私を、認めてくれた。
だからダイオードは戦う。
だから私は殺す。
『んにゃあああ!』
喘ぎ、銀狐は、一歩、踏み出す。
49 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:54:51.12 ID:+qKrPl71P
鈍い金属音が鳴り、着物が展開される。
衽と前身頃の間が裂け、メタリックな刃が露出する。
/ ゚、。 /「お前は……最強だというのに、武器を使うのだな」
『そりゃあそうでありんす。
最強の、ええと……「巨機」だったか、それに勝つるには、
わっちらも、最大出力でお相手するが由でありんす』
右に二つ、左に三つ、合計五つの可動肢が、
まるで『巨機』の蜘蛛の脚を馬鹿にしたよう、小刻みに動いている。
銀狐はぶれる。左右に連続したリズムでタップを刻む。
円舞――演舞――演武していた。嘲笑するかのように、にやにやと笑いながら、ステップする。
筆舌尽くし難き奇妙な演武。
いらいらするというか、気持ち悪いというか、ぞ、ぞ、ぞ、と、蟲が這い上がってくる、感じ。
次は右の袖口と袂が別れ、その隙間から重火器が覗く。
左も同様に袖口と袂とが別れ、タイヤのように太く、腕に巻かれていく。
一種、感動とも思えた。
そして、ダイオードは考える。
逆に考えると、奴らがそこまでするほどにこの機体は強いのだ。
最強を冠するものが、より強固な守りと攻めを徹底するほど、この機体は、最強をも凌駕するのだ。
『お父様』が授けて下さった力ではなく、反吐が出そうなものだが、絶大な信頼を寄せてもいいのだ。
/ ゚、,。 /
にや、と笑う。
50 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:56:20.45 ID:+qKrPl71P
先ずは小手調べに、右の腕――ハンマー――≪戯言のような大胆な鎚(ロジック・ハンマー)≫を振り下ろす。
左外側に位置するレバーを思い切り外側に開く。
そして握り方を変え、器用にコマンドを入力していく。
ゲームのようだ、と、緊張感もなしに、ダイオードは笑う。
力いっぱい、振り下ろされた、蜘蛛の脚より後ろに付属されている腕。
右眼に掛っているスコープで、銀狐の位置を正確に捕捉したはずだった。
実際、右手を振り切るまでに、万分の一秒と掛っていないはずだ。
しかし、先ほど発生した地震の震源地となったハン、何もなかった。
マーの下には何も、なかった?
否。
可動肢が二本、地中深く刺さっている。
回避したというのか――この打撃を。
有り得ない。
たった刃二枚の喪失で、この攻撃を回避した?
51 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:03:35.57 ID:+qKrPl71P
爆撃。
無機質なライフル銃から、高速で弾丸が放たれる。
装甲は決して脆くないが、ウインドウには『機体損失百分ノ五』と映し出される。
機械的に、事務的に、淡々と、意識のない文字列。
何故そこまで『巨機』に――しかも、新型で、最強の『巨機』にダメージを負わせることが出来たのか。
考え、気付く。
奴らは、無理が通らずとも、道理と相対しようとせぬのだ。
だから、あれはライフル銃ではない。
銀狐本体の力を、機械的に、事務的に、虎視眈々と増幅させただけのものだ。
無論、ライフル銃を形取らずとも、『ニーデザイア』には、念じる心があればいいのだから。
適当にそこら辺の石を拾い、それを投げるだけでもいいのだ。
そうしなかったのは、自らの手枷足枷として機能させるためだろう。
万物は、障害を乗り越えなければならない。そして、その障害が大きいほど、達成が困難になり、それを超えることで、強大な力が手に入るのだ。
可動肢は、先の先頭でも分かるとおり、実用に長けるものとして選んだのだろう。
銀狐ほどの強さがあれば、実際問題、石ころだけでもそれなりに応戦できたはずだ。
それをしないということは――
/ ゚、。 /(絶大なる信頼を、この『巨機』は担われているわけか)
面白い、と。
寧ろ、寧ろ、寧ろ。
逆に、逆に、逆に。
先ほどまで高揚していた精神は、脆弱な静寂を取り戻す。
すううう、と青褪める。
この機体が強いのと同時、奴らも、それ以上に強いのだ。
爆撃。
無機質なライフル銃から、高速で弾丸が放たれる。
装甲は決して脆くないが、ウインドウには『機体損失百分ノ五』と映し出される。
機械的に、事務的に、淡々と、意識のない文字列。
何故そこまで『巨機』に――しかも、新型で、最強の『巨機』にダメージを負わせることが出来たのか。
考え、気付く。
奴らは、無理が通らずとも、道理と相対しようとせぬのだ。
だから、あれはライフル銃ではない。
銀狐本体の力を、機械的に、事務的に、虎視眈々と増幅させただけのものだ。
無論、ライフル銃を形取らずとも、『ニーデザイア』には、念じる心があればいいのだから。
適当にそこら辺の石を拾い、それを投げるだけでもいいのだ。
そうしなかったのは、自らの手枷足枷として機能させるためだろう。
万物は、障害を乗り越えなければならない。そして、
その障害が大きいほど、達成が困難になり、それを超えることで、強大な力が手に入るのだ。
可動肢は、先の先頭でも分かるとおり、実用に長けるものとして選んだのだろう。
銀狐ほどの強さがあれば、実際問題、石ころだけでもそれなりに応戦できたはずだ。
それをしないということは――
/ ゚、。 /(絶大なる信頼を、この『巨機』は担われているわけか)
面白い、と。
寧ろ、寧ろ、寧ろ。
逆に、逆に、逆に。
先ほどまで高揚していた精神は、脆弱な静寂を取り戻す。
すううう、と青褪める。
この機体が強いのと同時、奴らも、それ以上に強いのだ。
53 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:09:34.09 ID:+qKrPl71P
唐突に。
ぷちんと。
弾けた。
いいじゃあないか。
強敵、最高じゃあないか。
殺そう。
このハンマーが利かないのならば。
ダイオードは、大口を開け、呪詛を唱えだした。
/ ゚、。 /「発動ぉぉぉ! ≪巨なる機(イヴ・パラダイム)≫うううぅぅぅ!」
鬼のような形相で。
叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
鬼のような形相で、叫ぶ。
回線が繋がる。目まぐるしく色が変化するコックピット内と同調し、映し出されるでぃも、ゆらゆら、揺れていた。
(#゚;;-゚)『なっ……何やな!? ダイオード! もう使こたんか!?
ええのんか? あないなもん使いよって! 援護したんで!
早よ、「ニーデザイア」解きいや! 待ってや、今いくで!』
54 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:11:29.88 ID:+qKrPl71P
いや――
/ ゚、。 /「大丈夫だ」
と。
言い、ダイオードはまたも『巨機』の右腕を振りかぶる。
左レバーが変形し、形成されたキーボードには、先の比にならないほどの量、がちがちと、驚異的な速さで、コマンドが打ち込まれていた。
右眼に宛がわれたスコープも、コックピット内と同様、幾つもの輪が忙しなく回っていた。
かは、と。
鮮血が飛び散る。
集中していたキーボードに、口から出た、己の血が爆ぜる。
/ ゚、。 /「がぁぁぁあああ! くっそおおおおお!」
吠える。
何故こんな場所に吐血したかを咎めるよう、吠える。
これじゃあ、奴を殺せないじゃあないか。
八つ裂きに、出来ないじゃあないか。
『お父様』の意志に、背くじゃあないか。
嫌だ。
邪魔者に、なりたくない。
迷惑を……掛けたくない。
――拒絶されたくない。
意志を、口に出す
/ ゚、。 /「嫌だッ!」
いや――
/ ゚、。 /「大丈夫だ」
と。
言い、ダイオードはまたも『巨機』の右腕を振りかぶる。
左レバーが変形し、形成されたキーボードには、先の比にならないほどの量、
がちがちと、驚異的な速さで、コマンドが打ち込まれていた。
右眼に宛がわれたスコープも、コックピット内と同様、幾つもの輪が忙しなく回っていた。
かは、と。
鮮血が飛び散る。
集中していたキーボードに、口から出た、己の血が爆ぜる。
/ ゚、。 /「がぁぁぁあああ! くっそおおおおお!」
吠える。
何故こんな場所に吐血したかを咎めるよう、吠える。
これじゃあ、奴を殺せないじゃあないか。
八つ裂きに、出来ないじゃあないか。
『お父様』の意志に、背くじゃあないか。
嫌だ。
邪魔者に、なりたくない。
迷惑を……掛けたくない。
――拒絶されたくない。
意志を、口に出す
/ ゚、。 /「嫌だッ!」
57 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:16:02.28 ID:+qKrPl71P
川 ゚ -゚)「≪鉄塔(タワー)≫ぁぁぁ!」
咆哮し、突進する女性。
しかし、マントの男はそれを易々と見切る。
逆に、長い脚で、連打した。
見る見る内に傷付く女性。
うう、うう、と唸る。
正体不明。
理解不能。
――否。
理解出来るし、正体明瞭だ。
ただ、この場にモララーがいないだけだ。
だから――不安だ。
俯瞰出来ない、直視しか出来ないこの状況を、ブーンは忌み嫌った。
ツンのような、会話があればこその恐怖のなさ。
この二人は、会話は疎か、まともな言葉すら発していない。
( ^ω^)
くすり、とブーンは笑った。
命の危険にさらされながら。
エンドルフィンを分泌させながら。
走馬灯を見ながら。
けたけたと、笑った。
そして、一か月前のことを思い出す。
58 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:21:22.11 ID:+qKrPl71P
二〇〇三年六月十九日、午前十一時三十五分、西圭謁市、大天デパート三階、衣料品売り場。
とくん、と。
何故か心臓が痛んだ。
ブーンは急に歩みを止めた。
('A`)「ん。どうした、具合でも悪いのか?」
気色の悪い、身の毛も弥立つ。
ブーンは、オタク仲間のドクオと買い物に来ていた。
創立記念日が木曜日という、微妙なタイミング。
金曜にしてくれれば三連休なのに、という反抗から、ドクオと買い物をするという選択肢に至った。
( ^ω^)「いや、ただの立ち眩みだお」
そっか、ならいいか、と、歩を進めるドクオ。
数歩歩き、やはり異変を感じる。
( ^ω^)「あー、でも、ドクオ、ごめんお。僕、帰るお」
('A`)「本当に大丈夫か? 送ってってやるよ」
( ^ω^)「いや、ドクオの自転車は殺人級だから、やめとくお」
59 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:23:22.04 ID:+qKrPl71P
折角の申し出を断り、一人、エレベータに乗り込む。
乗ってから後悔した。
ああ、疲れている。目眩がする。こんなことなら歩けばよかった。
いや、歩けば余計に疲れたのではないか。というか。
何故僕はこんなにも疲れているんだろう。
デパートの駐輪所に停めてあった自転車を見付け、それに跨る。
――ぐわん。
あれ?
何だろう、この感じ。
デジャヴとは違う、でも、以前に体験したことがあるような。
不思議な高揚感が体を支配していた。
熱があるというよりも、力の放出を抑えきれないような。
薄気味悪い。
60 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:25:05.82 ID:+qKrPl71P
帰宅し、床に就く。
( ^ω^)(こんな時は、寝た方がいいお)
それでも日課である、長門フィギュアの点検だけは怠らず。
『退屈』と『憤慨』の表紙とカラーページの挿絵を睨め回し、
長門有希といとうのいぢに感謝の言葉を捧げ、眠りに就く。
谷川流にも、角川書店にも、京都アニメーションにも、感謝はしていなかった。
( ^ω^)「おやすみなさいおー」
かちりと、電灯に繋がる紐を引っ張り、正午だというのに、部屋は真っ暗になった。
ぱちくりと、ブーンの目が開く。
それだけが取り柄と言わんばかりに長い睫毛が、凛としていた。
愛用しているアナログ時計を手に取ると、長い針は1を、短い針は3を指していた。
61 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:29:32.26 ID:+qKrPl71P
('A`)「昨日は大丈夫だったか? まあ、今日で二連休だ、頑張ろうぜ」
( ^ω^)「二連休と言えば聞こえはいいけれど、所詮、ただの週末だお」
('A`)「まあな。どうやってモチベーションを上げるかだ」
( ^ω^)「漫画とか」
('A`)「アニメとか」
ξ゚听)ξ「BL小説とか!」
突然現れたツンに、二人して、わあ、と驚く。
三人は、大抵一緒に登校している。
数年前、教師が暴動を起こしたとかで、朝練はなくなったらしい。
その代わり、昼休憩や放課後の練習が厳しいらしく、
女子バレー部所属のツンと一緒に下校することは少ない。
( ^ω^)(ん……)
ひたひたと、昨日の異物が着いて来るのを感じる。
ドクオやツンには見えていないのか?
62 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:31:46.61 ID:+qKrPl71P
学校でも異変はあった。
ぼうと黒板を見ていると、何かが映し出されていく。
膨大な量の数式は、確か昨日の数学で書かれたものだ。
目を凝らし、現在使われている黒板を排除しながら見詰める。
すると。
( ^ω^)(お……?)
数学教師が立っていた。
勿論、現在は世界史の時限であり、数学教師がいるはずもなかった。
ものは試しにと、普段女子が着替えをしている、
ブーンが在籍する、1年C組。
先ほどのように、ぼうと目を凝らす。
中々何も見えてこない。
( ^ω^)「一昨日の、五時限目」
昨日からあった、付き纏ってくる異変に向かって呟く。
目を疑った。
女子の着替えが見られるどころか。
布の擦れる音から、体温から、全てが伝わってきた。
ブーンの座っている場所に重なって着替えをしている女子の肌を感じることもできた。
( ^ω^)(何か凄えお)
63 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:34:37.14 ID:+qKrPl71P
久しぶりにパチンコに行くことにした。
何故なら、必勝策が見つかったからだ。
( ^ω^)「昨日の店長の動きをトレースしろお。
特に、台の設定が6、多甘の台を見付けるお」
ほそほそと、呟く。
寧ろ、念じるかの如く。
直感で、それが自分の乖離した人格、第二の己、内面上の自分だということが分かったから。
だから、自分にしか認識できないような声で呟いた。
想うだけでも良かったのかもしれないが、しかし言霊という認識があるよう、謂うのだ。
言葉を、紡ぐ。
( ・∀・)(ほう……)
影があった。
ブーンの能力が見えていた。
ドクオにも、ツンにも、誰にも見えなかった、それが。
男は微笑んだ。
どうやら再生すれば、音から匂いから、全てがリ・プレイされるようで。
おもすれー
支援
65 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:37:12.06 ID:+qKrPl71P
『明日は給料日だし……設定6なんざ、入れなくていいか。
それより、美和子ちゃ〜ん、今から飲みに行かない? え? あ、そう。じゃあ、いいや』
落胆し、帰路に就くブーン。
まさかだった。
まさか、設定6を入れないだなんて。
まあ、いいか。
娯楽は設けないためにあるんだ。
そう考えながら、出口へ向かう。
何の因果だろう、入ってきた入口が、一銭も儲かることもなく、最果てへの出口へと変わる。
とんとんと、肩を叩かれた。
( ・∀・)「ちょっと、時間、いいかな」
( ^ω^)「ふぇあ!? だ、だ、だ、おぅふ!?
違いますお! どこからどう見ても圭謁高校1年C組出席番号18番、内藤ホライゾンじゃなく!
32歳童貞VIPPERのヒキオタニートで魔女っ娘大好きな西川ホライズンですお!
警察はらめえぇぇぇ! 前科じゃないのぉぉぉ! いや、そうじゃなくて!
僕ァれっきとした大人のアダルト・チルドレン且つパラサイト・イヴなエヴァンゲリオンですお!?」
動揺するブーン。
無言でいれば、三十路云々は別として、成人男性には見られただろうに。
( ・∀・)「いや、いや、いや。ふっふっふ。いやいや。
なぁにも、僕は取って食おうとしているわけじゃないんだ。
税金を貪る国家の犬とは違う、一端のサラリーマンさ」
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:40:36.43 ID:boDQNFgAO
さるりま
十五分後に再投下
今気付いたけど、
>>39はうみねこですね
ワルギリア可愛い
支援
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:54:57.38 ID:boDQNFgAO
今投下したら連続った
『明日は給料日だし……設定6なんざ、入れなくていいか。
それより、美和子ちゃ〜ん、今から飲みに行かない? え? あ、そう。じゃあ、いいや』
落胆し、帰路に就くブーン。
まさかだった。
まさか、設定6を入れないだなんて。
まあ、いいか。
娯楽は設けないためにあるんだ。
そう考えながら、出口へ向かう。
何の因果だろう、入ってきた入口が、一銭も儲かることもなく、最果てへの出口へと変わる。
とんとんと、肩を叩かれた。
( ・∀・)「ちょっと、時間、いいかな」
( ^ω^)「ふぇあ!? だ、だ、だ、おぅふ!?
違いますお! どこからどう見ても圭謁高校1年C組出席番号18番、内藤ホライゾンじゃなく!
32歳童貞VIPPERのヒキオタニートで魔女っ娘大好きな西川ホライズンですお!
警察はらめえぇぇぇ! 前科じゃないのぉぉぉ! いや、そうじゃなくて!
僕ァれっきとした大人のアダルト・チルドレン且つパラサイト・イヴなエヴァンゲリオンですお!?」
動揺するブーン。
無言でいれば、三十路云々は別として、成人男性には見られただろうに。
( ・∀・)「いや、いや、いや。ふっふっふ。いやいや。
なぁにも、僕は取って食おうとしているわけじゃないんだ。
税金を貪る国家の犬とは違う、一端のサラリーマンさ」
70 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:10:30.80 ID:+qKrPl71P
まあ、でも、と言葉を続ける。
( ・∀・)「君がそいつで犯罪を犯そうというのなら、ポリ公共のノルマにしちゃうけどね。
おっと。犯罪と犯す、二重の表現になってしまったね。正しくは、罪を作る、かな」
( ^ω^)「そいつ……って。もしか、これが見えているんですかお?」
( ・∀・)「ああ……」
言いながら、それを発現させる男。
( ・∀・)「僕、モララーも……」
男――モララーの後ろで炎が渦巻く中、その中心部に、巨大なものが現れる。
( ・∀・)「≪能力者≫だよ」
大男が現れた。
火炎の渦の中、それが当然と言わんばかり、巨大な男が立っていた。
またしても混乱したブーンが襲い掛かり、喧嘩に発展しそうになったが。
( ・∀・)「兎に角」
モララーが言うには。
この一帯(この言葉が、一体どこまでの範囲を指すのかは分からないが、この一帯)で、
最近、多くの≪能力者≫が増殖しているとのことだ。
勿論、人間の欲とは悲しいもので、原人が火を見付けたかのよう、
≪能力≫で悪事を働こうとしている者もいるらしい。
そして。
71 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:15:25.54 ID:+qKrPl71P
( ・∀・)「僕と二人で、悪の組織、倒さないか?」
モララーが話した中では、ブーンを含め、五人、≪能力者≫と出会ったという。
組織といった規模となると、相当数、いるのだろう。
だが、単純思考回路のお気楽天家のブーンは、一言返事で承諾した。
( ^ω^)「はい、分かりましたお」
何故かと問われたら、格好良いからだと、彼は答えるだろう。
一週間が経った。
連絡はなし。
安全に越したことはないのだが。
ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン。聞いた?」
('A`)「何だ、ツン、あの話かよ。お前もミーハーだな」
ブーンと喋りたいから話題を作る――とは、口が裂けても言えない。
うっさい、と吠えるしか、ツンは愛情を表現出来なかった。
愛を、どう捉えていいのか、分からなかった。
変質の愛しか知らない彼女は、恋に対して何も出来なかった。
( ^ω^)「ん? 何だお?」
ξ゚听)ξ「昨日の、銀行強盗の話」
72 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:17:09.26 ID:+qKrPl71P
最近、空き巣が多い。
都市部に位置しない、どちらかというと田舎になるこの辺りでは、噂は広まりやすい。
異常なまでに、横の繋がりが広いのだ。
隣の住民、近隣の住民との関係は崩さないし、より広がる。
するといつの間にかコミュニティは膨大な大きさとなる。
そこで空き巣が起こるとなると、瞬時にその情報は完全な形で伝達される。
だから、何も出来ない。
少しでも怪しい動きをすれば、警戒のレヴェルは格段に高まる。
だから、住民は何もしない。
ならば。
('A`)「銀行強盗も空き巣も何もかも、同一犯という可能性があるわけだ」
ξ゚听)ξ「県警はいつもどおりらしいけれど、それなりに裏付けも付いているらしいわ」
( ^ω^)(≪能力者≫……かお……?)
空き巣があった家を回った。
とは言え、個人の力では何も出来す、足跡の大きい、目に見えた損害のある場所でしか分からないが。
二、三軒、家を回った。
誰にも頼むことも出来す、ブーン一人で見回った。
73 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:19:04.16 ID:+qKrPl71P
ん。
何か。
気分が悪い。
ぞく、と背筋が凍る。
声が聞こえる。
後ろに誰かがいる。
ブーンの頭は流転する。
誰だ? 犯人かもしれない。
犯人は現場に戻るものであり。
僕は刑事の真似事、操作をしている。
じゃあ。
_
( ゚∀゚)「金ェ出せ、坊主」
こいつ。
犯人?
( ^ω^)「嫌だ、と言ったら?」
動きを感じる。
密着している男から、気配を感じる。
こつ、と。
何かが背中に当たった。
ん。
何か。
気分が悪い。
ぞく、と背筋が凍る。
声が聞こえる。
後ろに誰かがいる。
ブーンの頭は流転する。
誰だ? 犯人かもしれない。
犯人は現場に戻るものであり。
僕は刑事の真似事、操作をしている。
じゃあ。
_
( ゚∀゚)「金ェ出せ、坊主」
こいつ。
犯人?
( ^ω^)「嫌だ、と言ったら?」
動きを感じる。
密着している男から、気配を感じる。
こつ、と。
何かが背中に当たった。
75 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:25:27.57 ID:+qKrPl71P
_
( ゚∀゚)「スタンガンの刑だ。これ、意外と痛いんだぜ?」
( ^ω^)「い、や、だ」
ブーンが言うと同時、ばちと、鈍い音が響いた。
スタンガンだ。
( ^ω^)「があああ――!」
もがいてみる。
痛い、ふりをする。
男は、にやにやしながら、苦しいのか、とぶつぶつ呟いている。
だが。
_
( ゚∀゚)「おっ……?」
ブーンは傷一つ付いていなかった。
_
( ゚∀゚)「おいおい、とんだ哀川潤じゃねえか」
ブーンの背後には、それが張り付いていた。
痛かったことも事実だが、実際、殆どのダメージはそれが受け止めた。
76 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:27:07.12 ID:+qKrPl71P
( ^ω^)「僕はお兄ちゃんが好きなんだけど……それで、コソ泥」
_
( ゚∀゚)「コソ泥だぁ? 俺ァ義賊だぜ。恵まれねえ俺に宝を貢いでやる」
( ^ω^)「完全なる、悪だお。僕が裁いてやるお」
男は顔を歪める。
お前のような餓鬼に人生を滅茶苦茶にされてたまるか、と。
目で、語っていた。
起爆剤だった。
ナトリウム石だった。
何故、俺が、年端もいかない野郎に、説教されなきゃなんねえのか。
_
( ゚∀゚)「っりゃあああ! ≪紙のような薄さ(シンペルファイント)≫ぉ!」
やはり、男も≪能力者≫だった。
覚悟を決める。
( ^ω^)「男の≪能力≫をリアルタイムで同調するお!」
ブーンに憑くそれは大きく姿を崩した。
ぐにゃ、と形状を変化させる。
( ^ω^)(これは……)
ブーンがそれと同調する。
そして相手の≪能力≫の情報を引き継ぐ。
77 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:29:30.69 ID:+qKrPl71P
( ^ω^)「お前の能力は、『薄くなる』かお?」
_
( ゚∀゚)「……何で知ってやがる、糞ッ」
見るからにいらついていた。
ブーンはそれを察知し、この戦いを締めようとする。
理由はもう一つあった。
自分と男との違いを発見したからだ。
( ^ω^)「おう、コソ泥。お前の力はその程度なのかお? こりゃ、コソ泥じゃなくて乞食だお」
_
( ゚∀゚)「んだよクッソオオオォォォ!」
いきなり≪紙のような薄さ≫で殴り掛かってくる男。
ブーンは笑った。
( ^ω^)「男の≪能力≫の動きを再生するお!」
殴り掛る≪紙のような薄さ≫と。
当たり前のように。
男の≪能力≫とブーンの≪能力≫はクロスカウンターになる。
男が唸る。
自分の精一杯の拳が飛んできたのだ、当り前だ。
対し、ブーンは平然としていた。
寧ろ、つまらないといった感じで、憮然としていた。
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 21:35:13.28 ID:boDQNFgAO
さるからの愛を感じる
次は二十分後に
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 21:48:48.84 ID:boDQNFgAO
連続キタワァ
誰もいないのかな
80 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:00:23.12 ID:VEcfaVRX0 BE:3396859889-2BP(0)
( ^ω^)「僕の≪能力≫は僕と直結していないんだお。
対してお前の≪能力≫は直結している。
まあ、だからこそ、力に違いがあるんだろうけど。
……あ 」
思い出したかのように、男に告げる。
( ^ω^)「自首した方が罪が軽くなるらしいけど、どうするお?」
男は何も言わない。
逃げ出さない。
自分から逃げれば、それこそ敗者だ。
それじゃあと断り、警察に電話を掛ける。
まさかだった。
まさか、自分が犯人を捕まえることが出来たとは。
幸いだったのは、殺人が起こらなかったことだと、ブーンは思う。
男が良識を持っていたのか、偶然なのかは分からないが。
( ^ω^)「もしもしー。おちんちんぶらんぶらーん」
『なっ……例の銀行強盗を!?
住所を教えてくれないか? 直ちにそちらに向かう』
男は別れ際、こんなことを言った。
_
( ゚∀゚)「≪能力者≫同士は惹かれ合う……。
お前はここ一帯にいる限り、この呪縛から逃れられないだろう」
81 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:02:05.56 ID:VEcfaVRX0 BE:3396859889-2BP(0)
『ミセリは度々男を変えた』
兄は二股を掛けていた。
それがばれ、両方の彼女と別れることになった。
当然その矛先はミセリに向かう。
痣は付けない――何でも、風俗で働いてもらうからだそうだ。
そして県内最底辺の馬鹿高校に入学。
本当に名前を書くだけなのかと驚いた。
ビッグになると言っていたが、現在は、東京にいるというだけで、連絡も何もない。
法に触れる行為だけはしないでほしい。
『ミセリは度々男を変えた』
兄は二股を掛けていた。
それがばれ、両方の彼女と別れることになった。
当然その矛先はミセリに向かう。
痣は付けない――何でも、風俗で働いてもらうからだそうだ。
そして県内最底辺の馬鹿高校に入学。
本当に名前を書くだけなのかと驚いた。
ビッグになると言っていたが、現在は、東京にいるというだけで、連絡も何もない。
法に触れる行為だけはしないでほしい。
( ^ω^)「僕の≪能力≫は僕と直結していないんだお。
対してお前の≪能力≫は直結している。
まあ、だからこそ、力に違いがあるんだろうけど。
……あ 」
思い出したかのように、男に告げる。
( ^ω^)「自首した方が罪が軽くなるらしいけど、どうするお?」
男は何も言わない。
逃げ出さない。
自分から逃げれば、それこそ敗者だ。
それじゃあと断り、警察に電話を掛ける。
まさかだった。
まさか、自分が犯人を捕まえることが出来たとは。
幸いだったのは、殺人が起こらなかったことだと、ブーンは思う。
男が良識を持っていたのか、偶然なのかは分からないが。
( ^ω^)「もしもしー。おちんちんぶらんぶらーん」
『なっ……例の銀行強盗を!?
住所を教えてくれないか? 直ちにそちらに向かう』
男は別れ際、こんなことを言った。
_
( ゚∀゚)「≪能力者≫同士は惹かれ合う……。
お前はここ一帯にいる限り、この呪縛から逃れられないだろう」
84 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:05:21.50 ID:VEcfaVRX0
姉は浮気をしていた。
援助交際ではないらしいが、その判別が付くか否かと訊かれると、言葉を濁す。
愛はあったと。
常套句だ。
すぐに男を変える女が立派な人間のわけがない。
一日五回はセックスしたいという女優よりも、
三十年処女を守り抜き続けているという女芸人の方が好感が持てる。
そのことが学校で噂され、教師は手遅れだと分かっているから何とも言わないが、
身内、一緒にいたグループの女子たちの変わり身は酷かった。
虐めに変わった。
今までは地味な女子をターゲットにしていた。
しかし矛先が変わる。
オタク系の女子が抱き合っていたのを横目で見、
こいつらより格下なのかと思ったことを覚えている。
こういうのは、身内の方が劣悪だ。
外で分からぬ分、内での迫害は、精神的に辛い。
真偽は不明だが、それよりも危険な橋を渡ったと言い、よく根性焼きを見せる。
85 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:08:37.20 ID:VEcfaVRX0
母は不倫をしていた。
過去形。
家庭が戻ったという意味でなく、二つの家庭を壊したという意味。
もういない。
職場で虐めを受けていたらしい。
鶏卵だが、不倫をしていたし、虐めを受けていた。
パート先の作業では付きようもない傷を指先に負っていたことを、ミセリは薄々感付いていた。
だからといって、相談もされなかったし、何も言わなかった。
干渉するな、感傷されるな。
86 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:09:59.53 ID:VEcfaVRX0
父は援助交際をしていた。
ああ、これはもう思い出したくない――
第三者。
ああ、ああ。
あの記憶。
ミセリは。
あたしは。
父に抱かれた。
嫌だ、この記憶は嫌だ。
87 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:11:32.04 ID:VEcfaVRX0
弟は祖父母に引き取られた。
あたしは――ミセリはこのことを逃げだとは思わない。
だって、あたしにごめんって言ってくれたから。
だから、あたしが何人の男に股を開いても、いいよね?
――この後、ミセリを変える出会いがあった。
ミセリは救われたのかもしれない。
願う力が必要なだけで、不幸ではないかもしれない。
脱却出来るかもしれない。
ミセリは、度々、男を変えなくなる。
88 :
うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:13:43.75 ID:+qKrPl71P
beが出ていたから投下し直しました
分かりにくいですが、順番は
>>77>>83>>82となります
というわけで二話の続きを投下します
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
両方さるですね
もう嫌だ