( ^ω^)ブーンは約束を守れないようですね

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
三週間のようですね
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 17:54:06.56 ID:jqhGB+Qf0
えっ
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 17:56:20.38 ID:5EOs+uwJ0
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 17:57:26.51 ID:+qKrPl71P
えっ

三国志の箸休めに、と思いましたが、そんなに来ていないようですね

話数指定がなく二重鍵括弧でタイトルが書かれている場合はTIPSです
TIPSは読まなくとも本編には関係ありませんが、読んだ方がいいかも
留意はこれくらいかな

始開下投
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 17:58:51.21 ID:dW22BRsFO
支援
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:01:33.77 ID:nwBWnO1j0
にーいち?
7うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:01:41.85 ID:+qKrPl71P
(´・ω・`)「僕は謝らなければいけないんだ」

断続的に波の音が聞こえた。
無機質な音が響く。
 _、_
( ,_ノ` )「小僧よ。思い悩むのは後でも出来るんじゃないか?」

暗闇だった。
倉庫内には四人の男女がいた。

(´・ω・`)「師……いや、それは確かにそうですが……」

少年は反論した。
己が師に叛いた。
 _、_
( ,_ノ` )「思考することは後でも出来るんだ。今は行動――動け。
お前がせずに、誰が好む? お前がせずに、誰が貶す?」

穴だらけの理論だ。
しかし少年は救われた。

(´・ω・`)「有難う御座います、師よ」
8うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:02:27.78 ID:+qKrPl71P
ショボンと大男は倉庫を後にした。
瞬間――

足音が響いた。
女は糸となり。
 _、_
( ,_ノ` )「俺もそろそろ行くか……」

煙草の火を足で揉み消し、彼は扉に手を掛けた。
外に出ると、潮風が身に沁みた。
 _、_
( ,_ノ` )「阿呆狐よ……本当にこれで、よかったのか?」

先まで彼らがいた倉庫は、跡形もなく消えた。
否――
 _、_
( ,_ノ` )「行くぞ」


――( ^ω^)ブーンは約束を守れないようですね
9うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:03:45.71 ID:+qKrPl71P





 第一話
『シュレディンガーの猫に於ける倫理的思考』

                       私は濡れていた
                       それは涙だった
                          ああ、
                        謝らなければ



10うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:04:34.78 ID:+qKrPl71P
 / ゚、。 /「はっ!」

黒刀を振っていた。
自分の身の丈の倍はある刀。
しかし、相手には当たらない。
相手に近づくと、剣先がなくなる。
否。
黒刀で敵を捉えようとすると、剣先が小さくなるのだ。
剣を捨て、相対しようとしたが、無駄だった。
素手であろうが黒刀であろうが、それを捉えようとすると、小さくなる。
すると相対的に距離が長くなり。
永遠に目標に到達することはない。
11うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:05:52.51 ID:+qKrPl71P
ダイオードは思った。
私がやらなければ――誰がこいつを殺すというのか。
情けない。
失格だ。
正義の名の元に、私は、全てを討伐出来たではないか。
それが、何故。
こいつを殺せないんだ。

(   )「ホルホルホルホルホル!」

甲高い、耳が壊れそうなほどの高音。
あろうことか、ダイオードは。
それを逃がしてしまった。
黒刀を握る手が汗ばむ。握る力が強くなる。
歯軋りをする。歯が削れるほどに思い切り。
ダイオードは悔しかった。
己の正義を、執行出来なかった。
12うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:06:55.60 ID:+qKrPl71P
五人。
モララーが発見した能力者の数。
これには何か、法則性はないのだろうか。
彼は組織があると言った。
一組や二組ではなく、もっと、強大なものだろう。
ならば――ブーンは思った。
ならば、僕やモララーさんが倒さなければならないのだろうか。

( ^ω^)(でも、モララーさん、強そうだし……僕、必要なのかお……)

未だに、ブーンは≪同調(チュンサイド)≫を手に余らせていた。
しかも、役に立つようなことは出来ず、堕落し、消極的になっていった。
百人力が、自分が回ると十人力だな、と嘲笑した。
13うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:08:14.82 ID:+qKrPl71P
ショボンは積極的にブーンと関わろうとはしなかった。
大抵、ブーンとドクオとツンは一緒にいて、その輪に入ろうとはしなかった。
つるむのは、専らブーンとドクオ、二人っきりの時だけだった。
その二人でさえ、能く他のグループと遊んだりする。
ツンはツンで、トソンやミセリ達と遊んでいた。

ショボンは孤独だった。

だから、勿論虐めにも遭っていたし。
助けようとはしたけれど、最近は程度も落ちてきたし、ショボンは虐めを避けるようになった。
一緒にいたかったけれど、ショボンは、それを拒否した。

ショーペンハウエルの『Parerga und Paralipomena』に収められている寓話であり、後にフロイトが引用した、
『porcupine's Dilemma』――所謂、ハリネズミのジレンマというものがある。
触れることが怖くて、しかし、他を求めてしまう。
ショボンは恐れた――他と、近付きたくないと。
親しくなれば、近しくなれば、自分は傷付くだろうと。
自己防衛が、己を深みに落とし、寧ろ、傷付けていった。

量子力学の思考実験である、『シュレディンガーの猫』というものがある。
要約すると、箱の中に猫を入れ、その中に、五十パーセントの確率で、
致死量の毒を発生させる装置を入れる。放置しておくと、いずれ猫は死んでしまうかもしれない。しかし、
観測者がいなければ、猫の死亡は確定せず、致死量の毒が発生したかすら分からない。
世界には観測者が必要だと言うが、この議題で大切なのは、
そんなことではない。そんなちっぽけな話題は、この世界には、必要ない。
観測者がいようがいまいが、箱の中に一週間でも猫を入れておけば、通常、死ぬのだ。
時間だけは絶対に静止することがない。
ショボンは、傷付くことを恐れず、仲間の輪に入ればよかったのだ。
14うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:09:04.28 ID:+qKrPl71P
( ^ω^)「ショボン。学食、行くかお?」

(´・ω・`)「ん? いや、僕はいいよ」

そう言うと、ショボンは足早に教室を出て行った。
多分、屋上に行くんだろうな、と、ブーンは思った。

('A`)「おう、じゃあ、ツンはどうだ?」

ξ゚听)ξ「あら。何処の愚民がツン様に奢ろうと言うの?
仕方ないわね、行ってやらないでもないわ」

('A`)「お前みたいな野郎に餌奢るくらいなら、馬車馬に飯買ってやった方がマシだ」

ξ゚听)ξ「失礼ね。女性には野郎ではなく、アマと言うものよ。
      それに、餌とご飯が逆ね。何よ、とんだツンデレだわ」

( ^ω^)「んなもん、自分で言ってりゃ世話ねえお」

三人で談笑しながら食堂に向かう。
ドクオは忘れているだろうし、ツンは最初から気に留めていないだろうが、ブーンはショボンを誘えなかったことを後悔していた。
ブーンは中学時代、虐めに遭っていた。それを救ってくれたのは、友達という存在だった。

( ^ω^)(また、駄目だったお……)
15うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:10:56.95 ID:+qKrPl71P
わいわい、がやがや。
雑踏、雑音、雑談。

私立圭謁高等学校の一年生から三年生まで、しかも男女が入り混じり、時には教師もおり、
学校中の人間の比率が濃縮された、言わば小さい学校。
ブーンは不快だった。
食事をしたいだけなのに、何故人がいるんだろう。
でも、そうしないと、友達と一緒にいることが出来ないから。

窓口で各自諸々好きなものを注文し、席に着く。

( ^ω^)「ラーメン美味いおー」

('A`)「いいねえ、金持ちさんは。俺はそんなもん食えねえな。
俺ァ炒飯がお似合いさ。んで、パンも買いやがって。何だ、また勝ったのか?」

ξ゚听)ξ「もうっ、ブーンったら。あれだけパチンコはやめなさいって……」

ラーメンを口に運ぶ手を止めるブーン。
くる、と体をツンに向ける。

( ^ω^)「パチンコは、やめたお」

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「……」

ξ゚听)ξ「え……?」('A`)

上手い具合に二人の声がハーモニーを奏でる。
16うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:11:43.46 ID:+qKrPl71P
一方ブーンはきょとんとしていた。

( ^ω^)「……お?」

ξ゚听)ξ「一時期本当に、危ないクスリなんかよりもハマったっていうのに」

('A`)「俺が何言ってもやめなかったのにな」

いや、と二人に掌を見せるブーン。
首を振りながら、言葉を紡ぐ。

( ^ω^)「ちょっと、出会いがあったんだお」

ξ゚听)ξ「出会いぃ?」

あからさまに顔を歪めるツン。
勘の鈍い者でも、何となく気付くような。
表には出さないものの、ドクオはそれを心地よく思っていなかった。
そして、ブーンは続けた。

( ^ω^)「人生を変える、出会い」
17うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:13:34.95 ID:+qKrPl71P
ドクオとは中学生時代からの付き合いだった。
だから、ブーンが虐めに遭っていたことも、知っていた。
人と喋るのは苦手というわけではなく、消極的ながら、ブーンへの虐めにも参加していた。
後ろめたいと思い、虐めを始めてから一年後、中学校の卒業と共に仲直りをした。
多くの虐めっ子はそれに便乗したが、本心で、成り行きでも惰性でもなく、契りを交わしたのは、ドクオだけだった。


ツンとは高校で知り合った。
どちらかというと、同じ中学出身のショボンが語るには、男っ気が強く、女子よりは男子寄りだったという。
だからブーンとドクオは楽しく会話ができた。
そういったツンのキャラクタが創造されるのも、やはり家庭環境が大きかった。
だからこそ。
だからこそ、ツンは母性を曝け出したかった。
だからこそ、ツンはブーンに僅かな感情を見せていた。
有り得なかった。
心を閉ざし、幼児しか愛せなかったツンの心を、ブーンが優しくノックした。
ツンは、何とも言えぬ、魅力を感じた。
18うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:15:56.30 ID:+qKrPl71P
その夜、電話があった。
電話の主はモララーだった。
一ヶ月前、ブーンを見付け、互いに異能を持つ者を倒そうと、同盟を結んだ男。
彼の能力は≪赤い男(ド・レッド)≫。
外見は、鳥の頭を被った筋肉質な男。

( ・∀・)『ちょーっちやべえわ、ブーン君』

台詞とは裏腹に、声が震えていた。
殺害予告か何かを突き出されたかのような、弱々しい声だった。
ただ――

( ・∀・)『前、僕の家、教えたよね?』

ブーンは、う……あ、はい、と曖昧に返事を返す。
不良をしていたとはいえ、どちらかというと根暗なブーン。あまり人と話すのは慣れてない。
不良ゴッコだって、喧騒から逃れるためにしたものだ。
現在は、どちらかというとオタク趣味に走っており、そちらの方が自分に合っているのかなと思い、現実逃避の方法を変えた。

( ・∀・)『んじゃ、マッハで来て』

パチンコで勝った金で買ったスクーターに乗るブーン。
モララーとの出会いで『不良ゴッコ』をやめたブーンにしてみると、少々気恥かしいものだった。

割と近所にあるモララー宅。
それなりに金はあるようで、豪華とは言えないが、立派な一軒家。
ブーンは、自分が彼の歳になった時、果たしてこんな家が帰るのか、不安になった。
そして、その時、自分の横に立っているのは誰なのか。
19うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:17:30.83 ID:+qKrPl71P
( ・∀・)ノシ「おー、こっちこっち」

手を振って合図するモララー。
その辺に停めておいて、という指示に従い、丁度あった駐車スペースに、スクーターを停めさせてもらった。

( ^ω^)「で、どうしたんですかお?」

( ・∀・)「んーとね。
     ……ブーン君、こういった≪能力≫が淘汰される理由、分かるかい?」

( ^ω^)「は?」

ちょーっちやべえな状況のくせに、のうのうと話すモララーに面喰ってしまう。

( ・∀・)「いやね、僕は以前、≪幻想つ――」

が、が、が、と音がした。
二人、音の震源地を見遣る。
敷地を覆う壁がなくなっていた。
なくなっていたというより。

(*゚∀゚)「だぁぁぁらっしゃあああああ!」

女だった。
女性用スーツに身を包んだ、太腿むっちむちの姉ちゃんだった。
というか。

( ^ω^)「お、お、お……斧持っとるー!?」
20うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:19:31.34 ID:+qKrPl71P
女性は、巨大な斧を持っていた。
その斧で、この一軒家を囲んでいた塀を砕いていた。
そして二人のいる中庭へ駆けていく。

(*゚∀゚)「みんなのアイドル! ツーたんだヨー!」

( ・∀・)「うわ……」

顔を顰めたモララーは、ツーと自称する女性と知り合いのようだった。

(*゚∀゚)「うぉい、白豚饅小僧!
私のは斧じゃなくてナ、大剣っつーんだヨ! 分かった……カッ!」

中国武将の関羽の用いる青龍偃月刀の刃を何重にもし、柄の先には半月型の飾りが。
その飾り単体でも効果を成し得そうな大剣は、明らかな殺意をブーンとモララーに向けていた。
ぎいいいん、と音がし、刃が展開され、先程の、軽く五倍は肥大化した。

その刀で、ブーンの眼先数センチの地面を削る。
隕石が落ちた、クレーターのよう、地面が抉られる。

(#・∀・)「あのさあ……ここ、僕ん家なんだけど」

言いながら、モララーは≪赤い男≫を発現させる。

(#・∀・)(……火炎を主体に置く技は使えない……なら)

モララーは、一気にツーの元まで駆けた。
相対五メートル前という所で。
21うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:23:47.13 ID:+qKrPl71P
(;^ω^)「モッ、モララーさん!?」

(#・∀・)「ムゥゥゥン!」

≪赤い男≫は、握り拳を作っていた。
その拳を振り上げ――

(#・∀・)「おおおおおぉぉぉ!」

大振りで、そしてただの突きだったが、しかし威力はあった。
大アルカナの始まりに位置するカードである魔術師。
しかし、己が特化した魔術よりも、寧ろ暴力性を特化させたスタンド。
欠落すらも補えるその力は、魔術よりも十二分に威力が高いだろう。
ツーがいた位置に、強大な握り拳の甲が落下する。
拳は火を纏っており、ごうごうと燃えていた。

( ^ω^)「おっ……おっ……おっ?」

地面まで勢いよく叩きつけられた拳。
モララーが≪赤い男≫を解除した後も、幾許か、煙が揚がっていた。
ふしゅうと揚がる煙が次第に消えていき。

ごつ。

と、音がした。
ツーが持っていた大剣が、自重に従い、落下する。
勿論庭にはクレーターがもう一つ出来上がる。

( ・∀・)「あれ?」
22うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:27:04.89 ID:+qKrPl71P
二人、顔を見合わせる。
さっきの女、いないね、はい、いませんですお。
アイコンタクト。

( ・∀・)「で、何で剣だけあんだよ。ったく……」

モララーが大剣を拾おうとすると。
するすると。
剣が己の形を失っていく。
二人はその光景を見つめるしかなかった。

毛糸が解れたように。
蛇か何かのように。
そして、大剣は跡形もなく消え去った。

そして。

(*゚∀゚)「ぬぁーっはっはっ!
     天下無敵のツー様はこっちネ!」

言いながら、上空から落下してくるツー。
丁度月の位置におり、ブーンたちは視界を狭められる。

( ・∀・)「んおっりゃあああああ!」

落下し、またもクレーターを作ると思われたツーは、しかし≪赤い男≫によって遮られる。
一撃、≪赤の男≫の拳が迫ったところで。

あれ。
23うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:28:29.43 ID:+qKrPl71P
またしても、ツーは消えた。

( ^ω^)「いませんお……」

( ・∀・)「ああ……いないね」

ついとブーンが空を見上げる。

( ^ω^)「おっ……あっ、あれ、モララーさん」

モララーの肩を叩くブーン。
ブーンが指差した先には、ツーがいた。
ツーは、モララー邸の屋根の上で高笑いをしていた。

(*゚∀゚)「はーっはっは! 貴様らの力はその程度ネ!?
     軟弱ネ! 次に私と会う時こそ、貴様らの死が確定するネ!」

屋根伝いに跳んでいくツー。次第に闇夜に消え去っていった。
変態だと通報したら、国家のわんこちゃんが連れて行きそうですにゃー。

( ・∀・)「……仮説5号機、好きなの?」

( ^ω^)「ええ。というか、マリが」
24うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:33:50.58 ID:+qKrPl71P
戦いを終え、二人、庭で話をしていた。
何てことはない、ただの世間話だった。
今日は学校で何があったとか、≪能力≫を悪用していないか、とか。
ブーンは帰ろうとする前、ある質問を投げ掛けた。

( ^ω^)「モララーさん、あのツーとかいう人の知り合いなんですかお?」

家を壊すだけ壊していった女、ツー。

( ・∀・)「いやあね、あいつ、前言ったでしょ? ブーン君を除いて、四人と出会ったって言った、≪能力者≫の中の一人。
     あいつ以外にも、あの時は、もう二人いたんだけどね」

( ^ω^)「もう二人、ですか」

( ・∀・)「うん。きっと、同じ組織に所属していたんだろう。
     そのうち一人は、いかにもボスって感じだったよ」

( ^ω^)「いかにもボス……ダンディズムですかお?」

( ・∀・)「ダンディズムだったねえ。渋かった」

( ^ω^)「渋かった……」
25うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:36:18.72 ID:+qKrPl71P
それでは、とブーンは区切り。

( ^ω^)「モララーさん、遅くまでお邪魔しました」

( ・∀・)「いや、僕も悪かった。それじゃあ、いい夢を」

( ^ω^)「はい。おやすみなさいですお」


夜道を歩きながら、ブーンは考えた。

( ^ω^)(僕はモララーさんの力になれなかったお……)

それでも、ブーンは求められていた。
26うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:38:09.46 ID:+qKrPl71P
(*゚∀゚)「あの台詞はなんじゃらホイ。完全に死亡フラグじゃんカー」

住宅街を歩くツー。

(*゚∀゚)「うーいういうい……おっと」

鼻歌を歌っていると、前方から歩いてきた少年とぶつかりそうになる。

(*゚∀゚)「わおっと。すまんネ、少年」

('A`)「あ、いえ、僕も不注意でしたから」

へこへこと頭を下げるドクオ。
気にも留めず歩みを続けるツー。

(*゚∀゚)(久々に戦ったらつかれたヨー。
よし。んじゃ、ククたんにでも奢ってもらおうかニャー)

携帯電話を取り出し、『ククたん』に電話を掛ける。
『ククたん』は、じゃあ、渋澤さんも誘うか、と提案した。


ショボンは、誰にも必要とされなかった。
27うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:41:18.14 ID:+qKrPl71P
ブーンは驚愕した。
モララー邸から帰ってきたら。
何故こんなことになっているんだ。
頭をフル稼働するが、思考が追い付かない。

川 ゚ -゚)「うおおおぉぉぉぉぉ!」

騎兵用突撃槍――ランスと呼ばれるものよりも、遥かに巨大なそれ。
細身の女性は、それを軽々と操っていた。
操って。
殺し合いをしていた。

(   )「ホルホルホル」

甲高い声を発す、マントを纏った男。
顔はフルフェイスのヘルメットのようなものを被っており、何も見えない。
異形だった。
真ん中に巨大な穴の開いたヘルメットに、真っ黒なマント。
そして、長い脚。

と。

どん、と、音を立てて。
男がブーン目掛け、降ってきた。
文字どおり、空から降ってきた。

( ^ω^)「おっ……?」
28うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:42:44.36 ID:+qKrPl71P
ブーンは、死ぬのかな、と思った。
しかし、それも悪くない。
何とも思っていなかったが、何故か、走馬灯が流れる。
視界には、過去の思い出と異形の男が映っていた。
どちらも辛いものばかりだった。
ブーンは、思った。
辛かった過去を直視し、ドクオやショボン、ツンたちと一緒にいることが出来る、現在の幸せを思い知った。
だから――死にたくない。

川 ゚ -゚)「退け! 死ぬぞ!」

思わぬ助け舟だった。
女性がブーンを弾き飛ばした。

( ^ω^)「え……?」

ブーンは。
この怪奇な異能力を手にした時から。
命の危険を。
考えていなければいけなかった。

走馬灯。
イメージが脳内を走る。

『≪能力者≫同士は惹かれ合う……お前はここ一帯にいる限り、この呪縛から逃れられないだろう』

ブーンは言葉を復唱した。
ブーンは恨みはしなかった――寧ろ、愛おしくすら思い、狂わしくすわ苦しかった。

そして、女との出会いにより、ブーンの世界は流転した。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:43:25.63 ID:85sOPstO0
こいつ恋われたいじゃね?
30うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:44:41.01 ID:+qKrPl71P
違うよー><
ただの空気よ☆

間違い元には悪いけれど、有名さんと間違われるのは嬉しいな

少し休憩しますね
えへへ
31うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:52:45.73 ID:+qKrPl71P
 『トソンの変質と執着』

トソンには彼氏がいた。

(-_-)

ヒッキーという。
勿論、ヒッキ―というのは仇名だ。
虐めに遭い、それで、仇名を付けられた。
社会に出た今も、忘れられないでいた。

二人の出会いは、トソンが中学二年生だった夏。
丁度ヒッキ―が外に出だし、丁度トソンが恋に興味を持ち始めた頃。
書店で会計をしている時、ふと、トソンの手から小銭が数枚、零れていった。
いつもは何もしないのに、しかしヒッキ―はそれを拾い、彼女に手渡した。

(゚、゚トソン「あっ……ありがとうございます」

普段から声を出していなかったのに。咄嗟に。

(-_-)「い、いえ……」

これだけ喋ることができたのなら、上出来だろう。
人と喋る――それも、彼にとってはモニタかブラウン管か紙面にしかいなかった、女性と。
トソンは何を思ったか――否、何も思わなかったのだろうが、

(゚、゚トソン「差し支えがなければ、電話番号か何か、お教え頂けますか?」
32うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:54:19.56 ID:+qKrPl71P
二人は公園のベンチに座っていた。
知らない人がいたら誘拐とでも思いそうな組み合わせ。しかし、雰囲気は違っていた。
お互い、電話番号とメールアドレスを交換した。
トソンにとっても、ヒッキ―にとっても、非常に緊張しただろう。
もしか、運命の出会いというやつではないだろうか、と。

ぐ、と握り拳を、トソンに見えないように作る。

(-_-)「貴方も、こういうの、読むんですか?」

書店で購入した書物を紙袋から出し、ベンチの上に中身を出していた。
その大半は、青年コミックと呼ばれるものだった。

(゚、゚トソン「も、ってことは、貴方も?」

所謂オタク向けの、青年コミック以外にもライトノベル、それも萌え系のものばかり。
異様とも言えた。

(-_-)「……恥ずかしながら」

本当に恥ずかしそうに、手で頭を掻きながら言った。

(゚、゚トソン「友達に理解のある人がいなくて、専らネットでしかこういうこと言えなくて……」

トソンはチャンスだと思ったのだろう。

(゚、゚トソン「これから、感想とか、お話してもいいですか?」
33うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:55:23.12 ID:+qKrPl71P
トソンは、胸の中に、何かもやもやしたものを見付けた。
この時は、まだ、それに気付いていなかったのかもしれないし、分かっていて発言したのかもしれない。
ただ、この人ともっと話したい、と。

そして、ヒッキ―も、気付いていたのかもしれない。
自惚れかもしれないけど――でも。

(-_-)「……」

パソコンのモニタに文字が映し出される。
ヒッキ―の手が、キーボードを叩く。

『え? じゃあ、陸上部、やめたんですか?
 勿体ないですね。
 そういうのがいい、と言う人もいたでしょうに』

会話の断片で、薄々、精神的なこともあったんだろうと、ヒッキ―は気付いていた。
しかし、寧ろ、笑い話とした方が、楽ではないだろうか。
何度かF5キーを叩き、画面に『新着メッセージが一件あります』と表示される。

『仕方なかったんです。
 でも、陸部の子たちも、やめないでって言ってくれて、嬉しかったです。
 まあ、貴方のような、変態なことは言っていませんでしたが』

気持ち悪いなあ、と思いながらも、ヒッキ―は笑う。
自分と十以上歳の離れた女性とのメールで顔が綻ぶなんて。
34うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 18:58:19.90 ID:+qKrPl71P
『そうだ。
 話は変わるけど、都村さん、欲しいものってある?』

また数分が経つ。
意外にメールが届くのは早く、ヒッキ―は若さを悔しんだりする。

『別にありませんけど。
 しいて言うなら、愛ですかね?
 柄にもないですけどねえ』

(-_-)「……愛、か」

小学生時代、中学生の、隣に住んでいるお姉さんと付き合ったことがあった。
しかし彼女が二年生に上がる頃、やっぱり駄目だよね、と言われ、別れた。
今は引っ越し、彼女も、そして以前住んでいた地も、全てを消し去った。

(-_-)「……愛、か」
35うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:03:31.99 ID:+qKrPl71P
最近は、よく日を浴びるようになったな、と思う。
黒く焼けた肌。
ヒッキ―は、土方のアルバイトをしていた。
気付かなかった――そこが彼女の通学路とは。
いつもは会わないはずなのに、今日だけは、出会ってしまった。
トソンに内緒で始めたアルバイト。
別に付き合っているわけでもないが、何か、浮気がばれたような気分になった。

(゚、゚トソン「あれ、ヒッキ―さんですか?」

最初、トソンはヒッキ―のことを、森谷さんと呼んでいた。
しかし、ヒッキ―のことをもっと知りたいと思い、今はヒッキ―と呼んでいた。
虐めではなく、愛情表現として。

(-_-)「え? トソンちゃん?」

いつしかヒッキ―も、トソンちゃんと呼ぶようになって。
異常だと分かっていた。歳の離れた女性に恋をするなんて。

「おおい、休憩だぞ。森谷も、市ノ瀬も、ほれ、飯だ」

そうか、と気付く。
夏休み直前だったな。

また、メールで、とアイコンタクトし、少しお辞儀すると、トソンも、微笑みながら手を振った。

トソンは、きっと、分かっていたはずだ。
誕生日を訊いてきたり、欲しいものを訪ねてきたり。
トソンはそれを嬉しく思った。
36うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:05:48.00 ID:+qKrPl71P
最近は、よく日を浴びるようになったな、と思う。
黒く焼けた肌。
ヒッキ―は、土方のアルバイトをしていた。
気付かなかった――そこが彼女の通学路とは。
いつもは会わないはずなのに、今日だけは、出会ってしまった。
トソンに内緒で始めたアルバイト。
別に付き合っているわけでもないが、何か、浮気がばれたような気分になった。

(゚、゚トソン「あれ、ヒッキ―さんですか?」

最初、トソンはヒッキ―のことを、森谷さんと呼んでいた。
しかし、ヒッキ―のことをもっと知りたいと思い、今はヒッキ―と呼んでいた。
虐めではなく、愛情表現として。

(-_-)「え? トソンちゃん?」

いつしかヒッキ―も、トソンちゃんと呼ぶようになって。
異常だと分かっていた。歳の離れた女性に恋をするなんて。

「おおい、休憩だぞ。森谷も、市ノ瀬も、ほれ、飯だ」

そうか、と気付く。
夏休み直前だったな。

また、メールで、とアイコンタクトし、少しお辞儀すると、トソンも、微笑みながら手を振った。

トソンは、きっと、分かっていたはずだ。
誕生日を訊いてきたり、欲しいものを訪ねてきたり。
トソンはそれを嬉しく思った。
37うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:10:48.97 ID:+qKrPl71P
あれから二年。

かち、とドアが開いた。
日の光が部屋中に行き渡る。

(゚、゚トソン「んでえ、ヒッキ―。前言ってたのってどれー?」

ヒッキ―はパソコンに齧り付いていた。
オンラインゲームというものをしていた。

(-_-)「前ぇ?」

(゚、゚トソン「そ。一週間前にさ、面白い漫画があるって」

トソンは家族の影響があっただろうが、漫画オタクだった。
趣味の方は、かなり濃かった。
しかし、逆に少年誌にはあまり手を出さないでいた。
読むのは専らマイナーな青年誌ばかり。

画面に文字が走る。

hikknight>ごめ、トイレ;

RAMIEL>はやく

Nekomimimohe>狩りいくよ

パソコンから目線を外し、両眼でトソンを捉える。
38うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:12:58.86 ID:+qKrPl71P
(-_-)「ん……ああ、あれか」

本棚から、数十冊、単行本を取り出す。
タイトルは、

(゚、゚トソン「『うしおととら』? ああ、『ヤロフのアトラク屋』のね」

二人は度々漫画や小説、ゲームやアニメを貸し借りしていた。
楽しみを、共有したいのだ。

変質愛。

共依存していた。
片方がいなければ、もう片方は何もできない。

それも悪くないかな、と、トソンは言葉の代わりに、ヒッキ―にキスをした。

(゚、゚トソン「……またね」
39うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:18:52.36 ID:+qKrPl71P
それでは二話を投下するよねー
うむいねこがついさっき届きました
ありがとう、クロネコのおばちゃん
40うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:32:49.22 ID:+qKrPl71P
誰もが一度は空想に耽った。
もしもあの地震がなかったら、世界は、どうなっていたのだろうか。
1945年の、地震がなければ。

歴史にも、史実にも、事実にも、もしもはない。
だから、次第にそんな考えは廃れていった。
だから。
それは人生にも言えること。

もしも。
もしもあの時、ああしていれば。
でも、有り得ないんだから。

世界も、人間も、全てはこのまま進むしかないのだ。
変わるのなら、変わるうちに変わらなければならない。

思い出さず、過去を振り切り、今を、見る。
未来は見なくていい。
だから、過去は見てはいけない。
今を、生きる。
41うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:36:49.11 ID:+qKrPl71P





 第二話
『解答、ワンダリング・ゼノン』

                         罪を犯せば
                         罰を以て償う
                         歓喜せよ



42うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:37:43.39 ID:+qKrPl71P
母なる大地から生まれ、母なる大地へ還って逝った。
この一連の現象を、兄者が説明すれば、以上のようになるだろう。
43うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:40:12.09 ID:+qKrPl71P
二〇〇三年六月十九日、午前三時、国護騎帝隊本部、第一ゲート。

ぎぎ、と動いた。
『巨機』と呼ばれるそれが。
音を立て、起動する。
二重にも三重にもなされている、ゲージのハッチが展開されていく。
『巨機』は線路に従って、外に出ていく。
操縦者は、最終点検をする。
スーツに異常がないか確かめ、グリップを何度か握り、手を軽くぐうぱあさせる。
コックピットの上部にモニタが出現する。
モニタには、でぃが映し出されていた。
44うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:41:51.58 ID:+qKrPl71P
(#゚;;-゚)『ほんで、でやねやな、乗り心地は』

/ ゚、。 /「悪くない。が、これを一度で捨てるとは、中々面白い」

(#゚;;-゚)『まあなあ。ほら、あの人が力使いよるんやったらええけどさな。
    んな一般人が人外パワー発揮せえへんやろ』

/ ゚、。 /「しかも、戦う相手が最強と来るから笑わせる」

(#゚;;-゚)『せやけどや、ダイオード、あんたやったら白兵戦でも充分いけんねやろ?』

/ ゚、。 /「まあ、な。しかし、『巨機』の方が楽だ」

(#゚;;-゚)『ほらせやわな。
    ほな、うちはまた援護すんで。また何やあったら連絡してや。
    んじゃ、健闘を、祈る』

/ ゚、。 /「ああ。
      健闘を、祈る」

ぶち、と、独特の音が耳に響く。
回線を切るのは、これだから嫌いだ、とダイオードは思った。
それがでぃへの想いなのか、本当に音が嫌だからなのかは、
彼女自身、分かっていなかった。
45うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:44:24.55 ID:+qKrPl71P
/ ゚、。 /「それじゃあ、行きますか」

右外側に位置するレバーを前に押し倒し、幾つかのスイッチを、訓練どおり、順に押していく。
その度に、機体の外では忙しなく外装が音を立て、開き閉じを繰り返している。
手順が面倒なのは、乗っ取られた時など、暴走を未然に防ぐためらしい。
しかし、ハッキングには滅法弱いとは、とダイオードは失笑する。
ぎ、ぎ、ぎ、と、鈍重な音が辺り一面に鳴り響く。
ごう、ごう、ごう、風が空を切る。
きるきると、汚い、使い古されたもののように、大きな音をたて、足が動く。
脚の関節部分に取り付けられたマニピュレーターと足を接続する部位が高速回転し始める。
さながら蜘蛛のように、忙しく八本の接続部位の円が回転する。
マニピュレーターの先端には、不気味に、無機質に、尖った針のようなものが付いている。
わざわざ本体に取り付けられているキャタピラが、目的を捕捉し、移動を開始する。
八本の蜘蛛の脚は、やはり忙しなく、本体に寄り添うよう、がしがしと地面を捉えながら進む。
右の外側のレバーを、自分に向けて倒し、中指で押さえていたスイッチを離す。
それと同時に、人差指を当てていたスイッチを何度も押す。
ぎい、ぎい、ぎい、と音がし、これが限界と言わんばかりに機体がぐらつく。
またも上部にモニタが現れる。

(#゚;;-゚)『やっぱ慣れとらんのか? 何や、他の「巨機」、出してもろたろか?』

/ ゚、。 /「いや、大丈夫だ。直に慣れるさ」

(#゚;;-゚)『せやったらええけど……死なんといてな?』

/ ゚、。 /「あっ、あの……」

(#゚;;-゚)『何やな』

/ ゚、。 /「……い……いや、何でも、ない……」
46うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:45:57.56 ID:+qKrPl71P
そうか、とでぃが発した音を皮切りに、またも不快音が鳴り響く。
ダイオードは、ずっと、でぃと話していたかった。
こちらに来てから、ダイオードの立場は殆どなかった。
それでも、でぃだけは優しく接してくれた。
何が言いたくて回線を切るのを渋ったのかは分からないが、もしかすると、一秒でもでぃの声を聞きたかっただけなのかもしれない。

中央のレバーを二本、前後に動かす。
回線とは反対の、左上部にウインドウが現れ、充填具合が表示されていく。
ぎこぎこと、船でも漕ぐかのよう、何度も前後運動を繰り返す。
回線が切れた時と同じ音が、びいびいと、コックピット内に鳴り響く。
充填率、百パーセント、と表示が切り替わった。
ダイオードの搭乗する『巨機』が動き出したことを感知し、でぃが前線を駆けて行く。
数十メートル進み、ウインドウには、『五十五米五百糎前進』と映し出された。

と。

右頭上、モニタが出現した。
そこには、『音声ノミ』と書かれている。
『SOUN DONRY』としないのは、この国における要だとか、素っ頓狂なことを言っていたな、とダイオードは苦笑した。
妙な、そしてちんけなプライドだ。
この拘りがなければ、この国は、もっと海外からも好かれていたに違いない。
雑念を取り払い、ダイオードは、会話に集中しようと思った。
47うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:48:58.79 ID:+qKrPl71P
同日、午前二時、某所。

イ从゚ ー゚ノi、「で、わっちが行くでありんすか?」

N| "゚'` {"゚`lリ「あっちが最強で来ると言っているんだ、こっちが最大出力で向かえてやらなねば、可哀想だろう?」

イ从゚ ー゚ノi、「そりゃあそうでありんすけど……最近、わっちばかり稚魚の相手ばしとりません?」

N| "゚'` {"゚`lリ「それほど、実力が認められているってこった」

イ从゚ ー゚ノi、「そいつは嬉しきお言葉ざんす。ありがとうざいますわ」

では、と言い、阿部は、目をじっと見つめ、礼讃の言葉を告げた。

N| "゚'` {"゚`lリ「存分に――暴れ、壊し、殺し、喰らい、狂わせ、そして、滅して来い」

にこ、と笑顔で返し、歩を進める。

イ从゚ ー゚ノi、「では――銀狐太夫、いざ参らん」

着物を前で大胆に肌蹴させ、銀狐は走る。
一面荒野。
身形を全く気にせず、四足歩行、裸足で駆ける姿は、正に狐と言えた。
48うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:52:16.05 ID:+qKrPl71P
『ぬしがわっちの相手ェしてくれるお方でありんすか?』

無機質な声が、音声ノミのモニタから聞こえてくる。
ダイオードは、ごく、と唾を飲み込む。

/ ゚、。 /「ああ。私がお前を殺す」

『ふむ。ふむふむふむ。わっちを、殺すと』

つまり――と銀狐は言葉を紡ぐ。

『わっちを、人間として見ておると言うことでござんすね?
結構、結構。最高の賛美、至高の褒め言葉。わっち、このまま昇天してしまいそうでざいますわ』

ならば、死ね――と、ダイオードは思った。
最初は何も考えておらず、ただこいつらを殺せばいいと思っていた。
しかし、『お父様』は違った。ダイオードを認めた。
私を、認めてくれた。
だからダイオードは戦う。
だから私は殺す。

『んにゃあああ!』

喘ぎ、銀狐は、一歩、踏み出す。
49うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:54:51.12 ID:+qKrPl71P
鈍い金属音が鳴り、着物が展開される。
衽と前身頃の間が裂け、メタリックな刃が露出する。

/ ゚、。 /「お前は……最強だというのに、武器を使うのだな」

『そりゃあそうでありんす。
 最強の、ええと……「巨機」だったか、それに勝つるには、
 わっちらも、最大出力でお相手するが由でありんす』

右に二つ、左に三つ、合計五つの可動肢が、
まるで『巨機』の蜘蛛の脚を馬鹿にしたよう、小刻みに動いている。
銀狐はぶれる。左右に連続したリズムでタップを刻む。
円舞――演舞――演武していた。嘲笑するかのように、にやにやと笑いながら、ステップする。
筆舌尽くし難き奇妙な演武。
いらいらするというか、気持ち悪いというか、ぞ、ぞ、ぞ、と、蟲が這い上がってくる、感じ。
次は右の袖口と袂が別れ、その隙間から重火器が覗く。
左も同様に袖口と袂とが別れ、タイヤのように太く、腕に巻かれていく。
一種、感動とも思えた。

そして、ダイオードは考える。
逆に考えると、奴らがそこまでするほどにこの機体は強いのだ。
最強を冠するものが、より強固な守りと攻めを徹底するほど、この機体は、最強をも凌駕するのだ。
『お父様』が授けて下さった力ではなく、反吐が出そうなものだが、絶大な信頼を寄せてもいいのだ。

/ ゚、,。 /

にや、と笑う。
50うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 19:56:20.45 ID:+qKrPl71P
先ずは小手調べに、右の腕――ハンマー――≪戯言のような大胆な鎚(ロジック・ハンマー)≫を振り下ろす。
左外側に位置するレバーを思い切り外側に開く。
そして握り方を変え、器用にコマンドを入力していく。
ゲームのようだ、と、緊張感もなしに、ダイオードは笑う。

力いっぱい、振り下ろされた、蜘蛛の脚より後ろに付属されている腕。
右眼に掛っているスコープで、銀狐の位置を正確に捕捉したはずだった。
実際、右手を振り切るまでに、万分の一秒と掛っていないはずだ。
しかし、先ほど発生した地震の震源地となったハン、何もなかった。
マーの下には何も、なかった?

否。

可動肢が二本、地中深く刺さっている。
回避したというのか――この打撃を。
有り得ない。
たった刃二枚の喪失で、この攻撃を回避した?
51うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:03:35.57 ID:+qKrPl71P
爆撃。
無機質なライフル銃から、高速で弾丸が放たれる。

装甲は決して脆くないが、ウインドウには『機体損失百分ノ五』と映し出される。
機械的に、事務的に、淡々と、意識のない文字列。
何故そこまで『巨機』に――しかも、新型で、最強の『巨機』にダメージを負わせることが出来たのか。
考え、気付く。

奴らは、無理が通らずとも、道理と相対しようとせぬのだ。
だから、あれはライフル銃ではない。
銀狐本体の力を、機械的に、事務的に、虎視眈々と増幅させただけのものだ。
無論、ライフル銃を形取らずとも、『ニーデザイア』には、念じる心があればいいのだから。
適当にそこら辺の石を拾い、それを投げるだけでもいいのだ。
そうしなかったのは、自らの手枷足枷として機能させるためだろう。

万物は、障害を乗り越えなければならない。そして、その障害が大きいほど、達成が困難になり、それを超えることで、強大な力が手に入るのだ。
可動肢は、先の先頭でも分かるとおり、実用に長けるものとして選んだのだろう。
銀狐ほどの強さがあれば、実際問題、石ころだけでもそれなりに応戦できたはずだ。
それをしないということは――

/ ゚、。 /(絶大なる信頼を、この『巨機』は担われているわけか)

面白い、と。
寧ろ、寧ろ、寧ろ。
逆に、逆に、逆に。
先ほどまで高揚していた精神は、脆弱な静寂を取り戻す。
すううう、と青褪める。
この機体が強いのと同時、奴らも、それ以上に強いのだ。
52うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:04:27.27 ID:+qKrPl71P
爆撃。
無機質なライフル銃から、高速で弾丸が放たれる。

装甲は決して脆くないが、ウインドウには『機体損失百分ノ五』と映し出される。
機械的に、事務的に、淡々と、意識のない文字列。
何故そこまで『巨機』に――しかも、新型で、最強の『巨機』にダメージを負わせることが出来たのか。
考え、気付く。

奴らは、無理が通らずとも、道理と相対しようとせぬのだ。
だから、あれはライフル銃ではない。
銀狐本体の力を、機械的に、事務的に、虎視眈々と増幅させただけのものだ。
無論、ライフル銃を形取らずとも、『ニーデザイア』には、念じる心があればいいのだから。
適当にそこら辺の石を拾い、それを投げるだけでもいいのだ。
そうしなかったのは、自らの手枷足枷として機能させるためだろう。

万物は、障害を乗り越えなければならない。そして、
その障害が大きいほど、達成が困難になり、それを超えることで、強大な力が手に入るのだ。
可動肢は、先の先頭でも分かるとおり、実用に長けるものとして選んだのだろう。
銀狐ほどの強さがあれば、実際問題、石ころだけでもそれなりに応戦できたはずだ。
それをしないということは――

/ ゚、。 /(絶大なる信頼を、この『巨機』は担われているわけか)

面白い、と。
寧ろ、寧ろ、寧ろ。
逆に、逆に、逆に。
先ほどまで高揚していた精神は、脆弱な静寂を取り戻す。
すううう、と青褪める。
この機体が強いのと同時、奴らも、それ以上に強いのだ。
53うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:09:34.09 ID:+qKrPl71P
唐突に。

ぷちんと。

弾けた。

いいじゃあないか。
強敵、最高じゃあないか。
殺そう。
このハンマーが利かないのならば。

ダイオードは、大口を開け、呪詛を唱えだした。

/ ゚、。 /「発動ぉぉぉ! ≪巨なる機(イヴ・パラダイム)≫うううぅぅぅ!」

鬼のような形相で。
叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
鬼のような形相で、叫ぶ。

回線が繋がる。目まぐるしく色が変化するコックピット内と同調し、映し出されるでぃも、ゆらゆら、揺れていた。

(#゚;;-゚)『なっ……何やな!? ダイオード! もう使こたんか!?
     ええのんか? あないなもん使いよって! 援護したんで!
     早よ、「ニーデザイア」解きいや! 待ってや、今いくで!』
54うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:11:29.88 ID:+qKrPl71P
いや――

/ ゚、。 /「大丈夫だ」

と。
言い、ダイオードはまたも『巨機』の右腕を振りかぶる。
左レバーが変形し、形成されたキーボードには、先の比にならないほどの量、がちがちと、驚異的な速さで、コマンドが打ち込まれていた。
右眼に宛がわれたスコープも、コックピット内と同様、幾つもの輪が忙しなく回っていた。

かは、と。

鮮血が飛び散る。
集中していたキーボードに、口から出た、己の血が爆ぜる。

/ ゚、。 /「がぁぁぁあああ! くっそおおおおお!」

吠える。
何故こんな場所に吐血したかを咎めるよう、吠える。
これじゃあ、奴を殺せないじゃあないか。
八つ裂きに、出来ないじゃあないか。
『お父様』の意志に、背くじゃあないか。
嫌だ。
邪魔者に、なりたくない。
迷惑を……掛けたくない。

――拒絶されたくない。

意志を、口に出す

/ ゚、。 /「嫌だッ!」
55うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:13:16.56 ID:+qKrPl71P
いや――

/ ゚、。 /「大丈夫だ」

と。
言い、ダイオードはまたも『巨機』の右腕を振りかぶる。
左レバーが変形し、形成されたキーボードには、先の比にならないほどの量、
がちがちと、驚異的な速さで、コマンドが打ち込まれていた。
右眼に宛がわれたスコープも、コックピット内と同様、幾つもの輪が忙しなく回っていた。

かは、と。

鮮血が飛び散る。
集中していたキーボードに、口から出た、己の血が爆ぜる。

/ ゚、。 /「がぁぁぁあああ! くっそおおおおお!」

吠える。
何故こんな場所に吐血したかを咎めるよう、吠える。
56うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:14:14.43 ID:+qKrPl71P
これじゃあ、奴を殺せないじゃあないか。
八つ裂きに、出来ないじゃあないか。
『お父様』の意志に、背くじゃあないか。
嫌だ。
邪魔者に、なりたくない。
迷惑を……掛けたくない。

――拒絶されたくない。

意志を、口に出す

/ ゚、。 /「嫌だッ!」
57うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:16:02.28 ID:+qKrPl71P
川 ゚ -゚)「≪鉄塔(タワー)≫ぁぁぁ!」

咆哮し、突進する女性。
しかし、マントの男はそれを易々と見切る。
逆に、長い脚で、連打した。
見る見る内に傷付く女性。
うう、うう、と唸る。

正体不明。
理解不能。

――否。

理解出来るし、正体明瞭だ。
ただ、この場にモララーがいないだけだ。
だから――不安だ。
俯瞰出来ない、直視しか出来ないこの状況を、ブーンは忌み嫌った。
ツンのような、会話があればこその恐怖のなさ。
この二人は、会話は疎か、まともな言葉すら発していない。

( ^ω^)

くすり、とブーンは笑った。
命の危険にさらされながら。
エンドルフィンを分泌させながら。
走馬灯を見ながら。
けたけたと、笑った。

そして、一か月前のことを思い出す。
58うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:21:22.11 ID:+qKrPl71P
二〇〇三年六月十九日、午前十一時三十五分、西圭謁市、大天デパート三階、衣料品売り場。

とくん、と。
何故か心臓が痛んだ。
ブーンは急に歩みを止めた。

('A`)「ん。どうした、具合でも悪いのか?」

気色の悪い、身の毛も弥立つ。
ブーンは、オタク仲間のドクオと買い物に来ていた。
創立記念日が木曜日という、微妙なタイミング。
金曜にしてくれれば三連休なのに、という反抗から、ドクオと買い物をするという選択肢に至った。

( ^ω^)「いや、ただの立ち眩みだお」

そっか、ならいいか、と、歩を進めるドクオ。
数歩歩き、やはり異変を感じる。

( ^ω^)「あー、でも、ドクオ、ごめんお。僕、帰るお」

('A`)「本当に大丈夫か? 送ってってやるよ」

( ^ω^)「いや、ドクオの自転車は殺人級だから、やめとくお」
59うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:23:22.04 ID:+qKrPl71P
折角の申し出を断り、一人、エレベータに乗り込む。
乗ってから後悔した。
ああ、疲れている。目眩がする。こんなことなら歩けばよかった。
いや、歩けば余計に疲れたのではないか。というか。
何故僕はこんなにも疲れているんだろう。

デパートの駐輪所に停めてあった自転車を見付け、それに跨る。

――ぐわん。

あれ?
何だろう、この感じ。

デジャヴとは違う、でも、以前に体験したことがあるような。
不思議な高揚感が体を支配していた。
熱があるというよりも、力の放出を抑えきれないような。
薄気味悪い。
60うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:25:05.82 ID:+qKrPl71P
帰宅し、床に就く。

( ^ω^)(こんな時は、寝た方がいいお)

それでも日課である、長門フィギュアの点検だけは怠らず。
『退屈』と『憤慨』の表紙とカラーページの挿絵を睨め回し、
長門有希といとうのいぢに感謝の言葉を捧げ、眠りに就く。
谷川流にも、角川書店にも、京都アニメーションにも、感謝はしていなかった。

( ^ω^)「おやすみなさいおー」

かちりと、電灯に繋がる紐を引っ張り、正午だというのに、部屋は真っ暗になった。


ぱちくりと、ブーンの目が開く。
それだけが取り柄と言わんばかりに長い睫毛が、凛としていた。
愛用しているアナログ時計を手に取ると、長い針は1を、短い針は3を指していた。
61うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:29:32.26 ID:+qKrPl71P
('A`)「昨日は大丈夫だったか? まあ、今日で二連休だ、頑張ろうぜ」

( ^ω^)「二連休と言えば聞こえはいいけれど、所詮、ただの週末だお」

('A`)「まあな。どうやってモチベーションを上げるかだ」

( ^ω^)「漫画とか」

('A`)「アニメとか」

ξ゚听)ξ「BL小説とか!」

突然現れたツンに、二人して、わあ、と驚く。

三人は、大抵一緒に登校している。
数年前、教師が暴動を起こしたとかで、朝練はなくなったらしい。
その代わり、昼休憩や放課後の練習が厳しいらしく、
女子バレー部所属のツンと一緒に下校することは少ない。

( ^ω^)(ん……)

ひたひたと、昨日の異物が着いて来るのを感じる。
ドクオやツンには見えていないのか?
62うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:31:46.61 ID:+qKrPl71P
学校でも異変はあった。
ぼうと黒板を見ていると、何かが映し出されていく。
膨大な量の数式は、確か昨日の数学で書かれたものだ。
目を凝らし、現在使われている黒板を排除しながら見詰める。
すると。

( ^ω^)(お……?)

数学教師が立っていた。
勿論、現在は世界史の時限であり、数学教師がいるはずもなかった。


ものは試しにと、普段女子が着替えをしている、
ブーンが在籍する、1年C組。
先ほどのように、ぼうと目を凝らす。
中々何も見えてこない。

( ^ω^)「一昨日の、五時限目」

昨日からあった、付き纏ってくる異変に向かって呟く。
目を疑った。
女子の着替えが見られるどころか。
布の擦れる音から、体温から、全てが伝わってきた。
ブーンの座っている場所に重なって着替えをしている女子の肌を感じることもできた。

( ^ω^)(何か凄えお)
63うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:34:37.14 ID:+qKrPl71P
久しぶりにパチンコに行くことにした。
何故なら、必勝策が見つかったからだ。

( ^ω^)「昨日の店長の動きをトレースしろお。
       特に、台の設定が6、多甘の台を見付けるお」

ほそほそと、呟く。
寧ろ、念じるかの如く。
直感で、それが自分の乖離した人格、第二の己、内面上の自分だということが分かったから。
だから、自分にしか認識できないような声で呟いた。
想うだけでも良かったのかもしれないが、しかし言霊という認識があるよう、謂うのだ。
言葉を、紡ぐ。

( ・∀・)(ほう……)

影があった。
ブーンの能力が見えていた。
ドクオにも、ツンにも、誰にも見えなかった、それが。
男は微笑んだ。

どうやら再生すれば、音から匂いから、全てがリ・プレイされるようで。
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:36:40.61 ID:KbssFIop0
おもすれー
支援
65うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 20:37:12.06 ID:+qKrPl71P
『明日は給料日だし……設定6なんざ、入れなくていいか。
 それより、美和子ちゃ〜ん、今から飲みに行かない? え? あ、そう。じゃあ、いいや』

落胆し、帰路に就くブーン。
まさかだった。
まさか、設定6を入れないだなんて。
まあ、いいか。
娯楽は設けないためにあるんだ。
そう考えながら、出口へ向かう。
何の因果だろう、入ってきた入口が、一銭も儲かることもなく、最果てへの出口へと変わる。

とんとんと、肩を叩かれた。

( ・∀・)「ちょっと、時間、いいかな」

( ^ω^)「ふぇあ!? だ、だ、だ、おぅふ!?
       違いますお! どこからどう見ても圭謁高校1年C組出席番号18番、内藤ホライゾンじゃなく!
       32歳童貞VIPPERのヒキオタニートで魔女っ娘大好きな西川ホライズンですお!
       警察はらめえぇぇぇ! 前科じゃないのぉぉぉ! いや、そうじゃなくて!
       僕ァれっきとした大人のアダルト・チルドレン且つパラサイト・イヴなエヴァンゲリオンですお!?」

動揺するブーン。
無言でいれば、三十路云々は別として、成人男性には見られただろうに。

( ・∀・)「いや、いや、いや。ふっふっふ。いやいや。
      なぁにも、僕は取って食おうとしているわけじゃないんだ。
      税金を貪る国家の犬とは違う、一端のサラリーマンさ」
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:40:36.43 ID:boDQNFgAO
さるりま
十五分後に再投下

今気付いたけど、>>39はうみねこですね
ワルギリア可愛い
67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:48:24.67 ID:KbssFIop0
支援
68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:54:57.38 ID:boDQNFgAO
今投下したら連続った
69うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:09:02.85 ID:+qKrPl71P
『明日は給料日だし……設定6なんざ、入れなくていいか。
 それより、美和子ちゃ〜ん、今から飲みに行かない? え? あ、そう。じゃあ、いいや』

落胆し、帰路に就くブーン。
まさかだった。
まさか、設定6を入れないだなんて。
まあ、いいか。
娯楽は設けないためにあるんだ。
そう考えながら、出口へ向かう。
何の因果だろう、入ってきた入口が、一銭も儲かることもなく、最果てへの出口へと変わる。

とんとんと、肩を叩かれた。

( ・∀・)「ちょっと、時間、いいかな」

( ^ω^)「ふぇあ!? だ、だ、だ、おぅふ!?
       違いますお! どこからどう見ても圭謁高校1年C組出席番号18番、内藤ホライゾンじゃなく!
       32歳童貞VIPPERのヒキオタニートで魔女っ娘大好きな西川ホライズンですお!
       警察はらめえぇぇぇ! 前科じゃないのぉぉぉ! いや、そうじゃなくて!
       僕ァれっきとした大人のアダルト・チルドレン且つパラサイト・イヴなエヴァンゲリオンですお!?」

動揺するブーン。
無言でいれば、三十路云々は別として、成人男性には見られただろうに。

( ・∀・)「いや、いや、いや。ふっふっふ。いやいや。
      なぁにも、僕は取って食おうとしているわけじゃないんだ。
      税金を貪る国家の犬とは違う、一端のサラリーマンさ」
70うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:10:30.80 ID:+qKrPl71P
まあ、でも、と言葉を続ける。

( ・∀・)「君がそいつで犯罪を犯そうというのなら、ポリ公共のノルマにしちゃうけどね。
      おっと。犯罪と犯す、二重の表現になってしまったね。正しくは、罪を作る、かな」

( ^ω^)「そいつ……って。もしか、これが見えているんですかお?」

( ・∀・)「ああ……」

言いながら、それを発現させる男。

( ・∀・)「僕、モララーも……」

男――モララーの後ろで炎が渦巻く中、その中心部に、巨大なものが現れる。

( ・∀・)「≪能力者≫だよ」

大男が現れた。
火炎の渦の中、それが当然と言わんばかり、巨大な男が立っていた。

またしても混乱したブーンが襲い掛かり、喧嘩に発展しそうになったが。

( ・∀・)「兎に角」

モララーが言うには。
この一帯(この言葉が、一体どこまでの範囲を指すのかは分からないが、この一帯)で、
最近、多くの≪能力者≫が増殖しているとのことだ。
勿論、人間の欲とは悲しいもので、原人が火を見付けたかのよう、
≪能力≫で悪事を働こうとしている者もいるらしい。
そして。
71うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:15:25.54 ID:+qKrPl71P
( ・∀・)「僕と二人で、悪の組織、倒さないか?」

モララーが話した中では、ブーンを含め、五人、≪能力者≫と出会ったという。
組織といった規模となると、相当数、いるのだろう。

だが、単純思考回路のお気楽天家のブーンは、一言返事で承諾した。

( ^ω^)「はい、分かりましたお」

何故かと問われたら、格好良いからだと、彼は答えるだろう。


一週間が経った。
連絡はなし。
安全に越したことはないのだが。

ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン。聞いた?」

('A`)「何だ、ツン、あの話かよ。お前もミーハーだな」

ブーンと喋りたいから話題を作る――とは、口が裂けても言えない。
うっさい、と吠えるしか、ツンは愛情を表現出来なかった。
愛を、どう捉えていいのか、分からなかった。
変質の愛しか知らない彼女は、恋に対して何も出来なかった。

( ^ω^)「ん? 何だお?」

ξ゚听)ξ「昨日の、銀行強盗の話」
72うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:17:09.26 ID:+qKrPl71P
最近、空き巣が多い。
都市部に位置しない、どちらかというと田舎になるこの辺りでは、噂は広まりやすい。
異常なまでに、横の繋がりが広いのだ。
隣の住民、近隣の住民との関係は崩さないし、より広がる。
するといつの間にかコミュニティは膨大な大きさとなる。
そこで空き巣が起こるとなると、瞬時にその情報は完全な形で伝達される。
だから、何も出来ない。
少しでも怪しい動きをすれば、警戒のレヴェルは格段に高まる。
だから、住民は何もしない。
ならば。

('A`)「銀行強盗も空き巣も何もかも、同一犯という可能性があるわけだ」

ξ゚听)ξ「県警はいつもどおりらしいけれど、それなりに裏付けも付いているらしいわ」

( ^ω^)(≪能力者≫……かお……?)


空き巣があった家を回った。
とは言え、個人の力では何も出来す、足跡の大きい、目に見えた損害のある場所でしか分からないが。
二、三軒、家を回った。
誰にも頼むことも出来す、ブーン一人で見回った。
73うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:19:04.16 ID:+qKrPl71P
ん。

何か。

気分が悪い。

ぞく、と背筋が凍る。
声が聞こえる。
後ろに誰かがいる。
ブーンの頭は流転する。
誰だ? 犯人かもしれない。
犯人は現場に戻るものであり。
僕は刑事の真似事、操作をしている。
じゃあ。
  _
( ゚∀゚)「金ェ出せ、坊主」

こいつ。
犯人?

( ^ω^)「嫌だ、と言ったら?」

動きを感じる。
密着している男から、気配を感じる。

こつ、と。
何かが背中に当たった。
74うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:20:33.05 ID:+qKrPl71P
ん。

何か。

気分が悪い。

ぞく、と背筋が凍る。

声が聞こえる。
後ろに誰かがいる。
ブーンの頭は流転する。
誰だ? 犯人かもしれない。
犯人は現場に戻るものであり。
僕は刑事の真似事、操作をしている。
じゃあ。
  _
( ゚∀゚)「金ェ出せ、坊主」

こいつ。
犯人?

( ^ω^)「嫌だ、と言ったら?」

動きを感じる。
密着している男から、気配を感じる。

こつ、と。
何かが背中に当たった。
75うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:25:27.57 ID:+qKrPl71P
  _
( ゚∀゚)「スタンガンの刑だ。これ、意外と痛いんだぜ?」

( ^ω^)「い、や、だ」

ブーンが言うと同時、ばちと、鈍い音が響いた。
スタンガンだ。

( ^ω^)「があああ――!」

もがいてみる。
痛い、ふりをする。

男は、にやにやしながら、苦しいのか、とぶつぶつ呟いている。

だが。
  _
( ゚∀゚)「おっ……?」

ブーンは傷一つ付いていなかった。
  _
( ゚∀゚)「おいおい、とんだ哀川潤じゃねえか」

ブーンの背後には、それが張り付いていた。
痛かったことも事実だが、実際、殆どのダメージはそれが受け止めた。
76うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:27:07.12 ID:+qKrPl71P
( ^ω^)「僕はお兄ちゃんが好きなんだけど……それで、コソ泥」
  _
( ゚∀゚)「コソ泥だぁ? 俺ァ義賊だぜ。恵まれねえ俺に宝を貢いでやる」

( ^ω^)「完全なる、悪だお。僕が裁いてやるお」

男は顔を歪める。
お前のような餓鬼に人生を滅茶苦茶にされてたまるか、と。
目で、語っていた。
起爆剤だった。
ナトリウム石だった。
何故、俺が、年端もいかない野郎に、説教されなきゃなんねえのか。
  _
( ゚∀゚)「っりゃあああ! ≪紙のような薄さ(シンペルファイント)≫ぉ!」

やはり、男も≪能力者≫だった。
覚悟を決める。

( ^ω^)「男の≪能力≫をリアルタイムで同調するお!」

ブーンに憑くそれは大きく姿を崩した。
ぐにゃ、と形状を変化させる。

( ^ω^)(これは……)

ブーンがそれと同調する。
そして相手の≪能力≫の情報を引き継ぐ。
77うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 21:29:30.69 ID:+qKrPl71P
( ^ω^)「お前の能力は、『薄くなる』かお?」
  _
( ゚∀゚)「……何で知ってやがる、糞ッ」

見るからにいらついていた。
ブーンはそれを察知し、この戦いを締めようとする。
理由はもう一つあった。
自分と男との違いを発見したからだ。

( ^ω^)「おう、コソ泥。お前の力はその程度なのかお? こりゃ、コソ泥じゃなくて乞食だお」
  _
( ゚∀゚)「んだよクッソオオオォォォ!」

いきなり≪紙のような薄さ≫で殴り掛かってくる男。

ブーンは笑った。

( ^ω^)「男の≪能力≫の動きを再生するお!」

殴り掛る≪紙のような薄さ≫と。
当たり前のように。
男の≪能力≫とブーンの≪能力≫はクロスカウンターになる。

男が唸る。
自分の精一杯の拳が飛んできたのだ、当り前だ。

対し、ブーンは平然としていた。
寧ろ、つまらないといった感じで、憮然としていた。
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 21:35:13.28 ID:boDQNFgAO
さるからの愛を感じる
次は二十分後に
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 21:48:48.84 ID:boDQNFgAO
連続キタワァ

誰もいないのかな
80うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:00:23.12 ID:VEcfaVRX0 BE:3396859889-2BP(0)

( ^ω^)「僕の≪能力≫は僕と直結していないんだお。
       対してお前の≪能力≫は直結している。
       まあ、だからこそ、力に違いがあるんだろうけど。
       ……あ 」

思い出したかのように、男に告げる。

( ^ω^)「自首した方が罪が軽くなるらしいけど、どうするお?」

男は何も言わない。
逃げ出さない。
自分から逃げれば、それこそ敗者だ。

それじゃあと断り、警察に電話を掛ける。
まさかだった。
まさか、自分が犯人を捕まえることが出来たとは。
幸いだったのは、殺人が起こらなかったことだと、ブーンは思う。
男が良識を持っていたのか、偶然なのかは分からないが。

( ^ω^)「もしもしー。おちんちんぶらんぶらーん」

『なっ……例の銀行強盗を!?
 住所を教えてくれないか? 直ちにそちらに向かう』


男は別れ際、こんなことを言った。
  _
( ゚∀゚)「≪能力者≫同士は惹かれ合う……。
    お前はここ一帯にいる限り、この呪縛から逃れられないだろう」
81うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:02:05.56 ID:VEcfaVRX0 BE:3396859889-2BP(0)

 『ミセリは度々男を変えた』

兄は二股を掛けていた。
それがばれ、両方の彼女と別れることになった。
当然その矛先はミセリに向かう。
痣は付けない――何でも、風俗で働いてもらうからだそうだ。
そして県内最底辺の馬鹿高校に入学。
本当に名前を書くだけなのかと驚いた。
ビッグになると言っていたが、現在は、東京にいるというだけで、連絡も何もない。
法に触れる行為だけはしないでほしい。
82うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:03:34.00 ID:VEcfaVRX0
 『ミセリは度々男を変えた』

兄は二股を掛けていた。
それがばれ、両方の彼女と別れることになった。
当然その矛先はミセリに向かう。
痣は付けない――何でも、風俗で働いてもらうからだそうだ。
そして県内最底辺の馬鹿高校に入学。
本当に名前を書くだけなのかと驚いた。
ビッグになると言っていたが、現在は、東京にいるというだけで、連絡も何もない。
法に触れる行為だけはしないでほしい。
83うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:04:18.75 ID:VEcfaVRX0
( ^ω^)「僕の≪能力≫は僕と直結していないんだお。
       対してお前の≪能力≫は直結している。
       まあ、だからこそ、力に違いがあるんだろうけど。
       ……あ 」

思い出したかのように、男に告げる。

( ^ω^)「自首した方が罪が軽くなるらしいけど、どうするお?」

男は何も言わない。
逃げ出さない。
自分から逃げれば、それこそ敗者だ。

それじゃあと断り、警察に電話を掛ける。
まさかだった。
まさか、自分が犯人を捕まえることが出来たとは。
幸いだったのは、殺人が起こらなかったことだと、ブーンは思う。
男が良識を持っていたのか、偶然なのかは分からないが。

( ^ω^)「もしもしー。おちんちんぶらんぶらーん」

『なっ……例の銀行強盗を!?
 住所を教えてくれないか? 直ちにそちらに向かう』


男は別れ際、こんなことを言った。
  _
( ゚∀゚)「≪能力者≫同士は惹かれ合う……。
    お前はここ一帯にいる限り、この呪縛から逃れられないだろう」
84うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:05:21.50 ID:VEcfaVRX0
姉は浮気をしていた。
援助交際ではないらしいが、その判別が付くか否かと訊かれると、言葉を濁す。
愛はあったと。
常套句だ。
すぐに男を変える女が立派な人間のわけがない。
一日五回はセックスしたいという女優よりも、
三十年処女を守り抜き続けているという女芸人の方が好感が持てる。
そのことが学校で噂され、教師は手遅れだと分かっているから何とも言わないが、
身内、一緒にいたグループの女子たちの変わり身は酷かった。
虐めに変わった。
今までは地味な女子をターゲットにしていた。
しかし矛先が変わる。
オタク系の女子が抱き合っていたのを横目で見、
こいつらより格下なのかと思ったことを覚えている。
こういうのは、身内の方が劣悪だ。
外で分からぬ分、内での迫害は、精神的に辛い。
真偽は不明だが、それよりも危険な橋を渡ったと言い、よく根性焼きを見せる。
85うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:08:37.20 ID:VEcfaVRX0
母は不倫をしていた。
過去形。
家庭が戻ったという意味でなく、二つの家庭を壊したという意味。
もういない。
職場で虐めを受けていたらしい。
鶏卵だが、不倫をしていたし、虐めを受けていた。
パート先の作業では付きようもない傷を指先に負っていたことを、ミセリは薄々感付いていた。
だからといって、相談もされなかったし、何も言わなかった。
干渉するな、感傷されるな。
86うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:09:59.53 ID:VEcfaVRX0
父は援助交際をしていた。
ああ、これはもう思い出したくない――
第三者。
ああ、ああ。
あの記憶。
ミセリは。
あたしは。
父に抱かれた。
嫌だ、この記憶は嫌だ。
87うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:11:32.04 ID:VEcfaVRX0
弟は祖父母に引き取られた。
あたしは――ミセリはこのことを逃げだとは思わない。
だって、あたしにごめんって言ってくれたから。


だから、あたしが何人の男に股を開いても、いいよね?


――この後、ミセリを変える出会いがあった。

ミセリは救われたのかもしれない。
願う力が必要なだけで、不幸ではないかもしれない。
脱却出来るかもしれない。

ミセリは、度々、男を変えなくなる。
88うかり ◆2rPWxrbSIg :2009/08/21(金) 22:13:43.75 ID:+qKrPl71P
beが出ていたから投下し直しました
分かりにくいですが、順番は>>77>>83>>82となります

というわけで二話の続きを投下します
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
両方さるですね

もう嫌だ