1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
床屋の世界
月曜定休
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:05:30.25 ID:AbgB4r8v0
本文に対するうまいボケが思いつかなかった……俺は……負けたのか?
代理さんに感謝しつつ記念すべき序章第一話行ってみましょう
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:07:11.31 ID:AbgB4r8v0
view.( ^ω^) ???.
正義とは何だろう、と。御嬢様が殺されると知った日から、僕はベッドで一人問答してきた。
御嬢様を助ける、即ち、仕えるべき家を裏切る事になったら、それは正義じゃないんだろうか。
僕の先輩はこう答えてくれた。
爪'ー`)y‐「世間では万人が正義を決めると思われてるけどね、僕ぁ違うと思うよ。それは単なる結果だ。
正義が活動の原動力となるなら、それを決めるのは自分だろーって、僕ぁ思うわけよ」
ありがとう、フォックスさん。(お前のわけわからん話の)お陰で、僕のハラは決まった。
ああ、そう言えば御嬢様が殺されると教えてくれたのも貴方だったっけね。
……ひょっとして僕、フォックスさんに踊らされてないか?
爪'ー`)y‐「ははは、そんな訳無いじゃんよ。僕ぁ単純に君の為になりたいと思ってるだけよ。
ま、三割くらい自分の為になるって事も入ってたりはするんだけどね」
……いまいち信用できるのか出来ないのか、わからない人。それが僕の先輩、フォックスさんだ。
たまに(と言うか思い返してみればしょっちゅうかも知れない)僕を騙したりからかったりして笑ってる人。
だけど、ここ一番と言う時にはいつも僕の為になってくれた。
爪'ー`)y‐「そうさ、僕ぁ期待を裏切らないみんなのメサイア、フォックス!
……否、違うな。僕らが今からやろうとしてるのは紛れも無い――裏切りだ」
ああ、そうだ。裏切りだ。僕が忠誠を誓った君主。御嬢様を殺すと決めた君主。彼に対する裏切り。
言い換えれば――僕の正義だ。
爪'ー`)y‐「良い事を言うようになったな、さぁ行って来い!囚われのフロイラインを迎えに、な!」
僕は重い扉を開ける。その隙間から、暗い廊下に灯りが差し込んだ。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:10:30.24 ID:AbgB4r8v0
僕が扉を開け放った時――既に遅かった。
白いベッドに横たわる御嬢様。その髪を、溶かした金のようにベッドに、床に流して。
その両脇を、顔をフードで隠した黒衣の男に挟まれて。
そして御嬢様の腹には――突き立てられた短剣。赤い染みが、御嬢様の白いドレスを染めている。
( ω )「あ……あ……」
頭の中で、何かが千切れる音がした、様な気がした。
( ゚ω゚)「あああああああ あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
気づけば僕は、黒衣に跳びかかっていた。
御嬢様のベッドの右側の黒衣に殴りかかる。完全に不意を突いたようで、彼は成す術も無く僕に頭を殴られ倒れた。
よろけ倒れるその黒衣を蹴り飛ばす。どたんと大層な音を立てて壁に衝突した彼は地面にずり落ち、動かなくなった。
僕はベッドを挟み、向こう側の黒衣を見る。そいつは戦闘態勢を既に整えている。流石はラウンジ家に仕える死霊術士、と言った所か。
( ゚ω゚)「ふっふっふっふっふ……」
御嬢様の腹から、短剣を引き抜く。
御免なさい、痛かったでしょう。心の中で詫びる。
血の滴り落ちるそれをよく見る為に、目の前まで持っていく。
ぴと、ぴと、と血の雫は珠となって落ちる。
ふと僕は、それに舌を這わせ――舐めた。
御嬢様の味だ。御嬢様の味が、舌を通して甘い刺激となり、脳を満たす。
目の前で、死霊術士はたじろいでいる。ドン引きだろうな。だがそんなのは関係ない。人に見られる程度で、御嬢様への愛は揺らがない。
御嬢様の鮮血を綺麗になめ取ると、その刃は……眩い金色をしていた。御嬢様の髪と同じ、美しい金色。
眩しい照明に阻まれて見えにくいが、その表面をうっすらと光の粒子が包んでいる。
僕は短剣を掴んでいる左の手を下ろした。目線の先を、黒衣の男へ。
嗚呼、律儀にも行為の間、手出ししないでくれたんだな、彼は。だけど――君が御嬢様を殺した事に変わりは無いだろう?
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:13:07.16 ID:AbgB4r8v0
( ゚ω゚)「さ、死のうか」
言葉を発するのとどっちが早かったか、僕は短剣を持っていないほうの右の拳を黒衣の顔面に叩きつけていた。
そのまま地面に倒れた彼のもとにベッドを迂回して歩み寄り、馬乗りになる。
額に短剣の切っ先を当て、一本線を描くようにつうっとそれを降ろす。
その軌跡には、赤い血が珠として現れ、傷口という溝に染み込み赤い線を描く。嗚呼、なんて汚らわしい色だ。
その線は鼻を通り、口を通り、喉を通り、黒衣を切り裂きながら胸を通り、腹で止まる。
ここを刺せば。
絶叫。
黒衣に滲む汚らわしい赤。
押し込む。
捻る。
楽しいな。嗚呼。楽しい。良い気分がする。安らかだ、心が。
何故って?
『ありがとう、ホライゾン……』
その時確かに、僕は御嬢様の声を聞いたんだ。
そして僕が後ろを向くと、眩い照明の中に、確かに居たんだ。
金の髪を靡かせて。白いドレスを靡かせて。
中空に浮かぶ彼女が、僕にはしっかりと見えた。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:14:54.38 ID:IuItOVG6O
長編か
期待
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:16:17.89 ID:AbgB4r8v0
どうも御嬢様を殺す時間が早かったのは、フォックスさんが得た情報は一種の暗号のような物だったらしい。
彼が知らない間に、『命令した時間より少し早く殺せ』と言う命令を執行者は下されていたようだ。
結果として御嬢様は死ぬ羽目となってしまった。御免よフロイライン。
『良いわよ、あんまり気にしなくて。むしろこっちの方が気に入ってるんだから』
( ^ω^)『へ?何でだお?』
『歳、取らないで済むじゃない。私はあの日から永遠の十八歳よ』
ぶ、と僕は噴出しそうになるのを堪える。
僕が御嬢様と行っているのは"念話"。所謂テレパシーだ。
あの日、御嬢様は死んで、その魂をあの金の刃を持つ短剣に"括り付けられた"らしい。
そしてその短剣"霊装"の正当な所持者となった僕は、御嬢様と思考を共有できるようになり、その一つがこの念話と言う事だ。
これは霊装の所持者となった事によって出来る様になったスキルの一つに過ぎない。
霊装は、もっと様々な可能性を秘めている――らしい。ここまで全部フォックスさんの情報。
( 0w0)「ほれよホライゾン殿、パンの大盛りだ」
( ^ω^)「お、ありがとうございますお」
僕が今居るのは宿屋。と言っても、ラウンジ家公認の宿屋に居たら僕はすぐに捕まってしまう。
ラウンジの死霊術士を二人も殺して、おまけに霊装まで奪って行ってしまったんだから。
故に、ここは住宅を改造した非公認の宿屋。言うならば――スパイ用の休息・情報交換所と言った所か。
何で今までラウンジ家に忠誠を誓っていた僕がこんな所を知っているのかと言われれば、フォックスさんが教えてくれたと答えよう。
何とフォックスさんはラウンジ家を探るスパイだったらしい。
スパイの癖に死霊術士の一部隊を率いれる立場に居るとは、派手好きも良い所だ。彼曰く、
爪'ー`)y‐「その方が僕が裏切った時のダメージがでかいじゃん?あ、僕の部隊は既に懐柔済み」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:20:30.93 ID:AbgB4r8v0
で、スパイなんかしてる理由も答えてくれた。これはその時の話。
爪'ー`)y‐「んー、まあ僕のマスター曰く、ラウンジ領から戦争が起こりそうな臭いがする――って事なんだよね」
ξ;゚听)ξ「戦争が起こりそうだったって――五年前からですか?」
爪'ー`)y‐「お、フロイラインは僕の就任を覚えていてくれたんだね!光栄だよ!」
因みに、御嬢様は霊体としての具現化(可視)が可能だ。それどころか、実体としての具現も可能らしい。
霊装のポテンシャルには驚かざるを得ない。閑話休題。
ξ#゚听)ξ「話を逸らさないで下さい!」
爪'ー`)y‐「おおごめんごめん。結論から言わせて貰うと、そうだよ。
六年前から色々ときな臭い動きはあった。霊装の増加とかね」
( ^ω^)「どういう事ですかお?」
爪'ー`)y‐「どういう事って……ううん……、まあそのまんまなんだけどね。
五年前、霊装の為に人殺したバカを一匹捕まえて聞いたんだよ。テメェ誰の差し金で俺らのシマ荒らしてやがるってね。
……手首の上に斧チラつかせたらあっさり吐いてくれたよ。モララー兄ちゃんが教えてくれたです〜ってね。うざかったから落とした」
(;^ω^)「落としたって……何を?」
爪'ー`)y‐「いやぁ〜いやいやいや、それを聞くとはホライゾン君も漢らしい!
でも誤解しないでくれよ?ちょうどその前機械に油差してて、それでうっかり指が滑っちゃっただけなんだから」
(;^ω^)「い、いや……もうそれ以上は言わんで良いですお」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:24:50.74 ID:eaw/Flq0O
支援
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:26:13.87 ID:AbgB4r8v0
・ ・ ・
『無敵のフォックス……ね』
(;^ω^)『まぁ戦いに駆り出された事が無いんだから無敵には違いないと思うんだけど……』
バスケットのパンを一つ手にとって口に運ぼうとしたその時、
「くんくん。何か不名誉な噂をされている臭いがするなぁ」
背後から突然声がした。
今まで背後に人の気配は無かったはずなのに。こんな事ができて、この店に出入りしている人間は、一人しかいない。
爪'ー`)y‐「ここだったら御嬢様を実体化しても問題ないでしょうに」
(;^ω^)「ウワアアアア出やがったな無敵のフォックス!!!」
爪'ー`)y‐「ハッハッハもっと驚けよ内藤君!その為に僕はいちいち気配を消してたんだからさ!」
す、と僕の横に実体映像の如く現れた御嬢様は露骨な溜息を吐く。
ξ;゚听)ξ「全く無駄な事が好きなんだから……」
爪'ー`)y‐「人生の四分の三は無駄だと思わないかいツン嬢?
無駄の反対が何なのか、いまだに僕は解らないけどね」
ξ--)ξ「いちいち独り言にレスポンスして意味深な発言残すのやめてくれない?」
爪'ー`)y‐「断る。それは僕のアイデンティティさ」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:30:18.56 ID:AbgB4r8v0
(;^ω^)「それより、出発の準備は整ったんですかお?」
戦争が起こりそうな雰囲気を何とかしようと、僕は話を本筋に持っていこうとした。
そうだねぇ、とフォックスさんは呟いて僕の反対側の椅子に座る。
爪'ー`)y‐「飛行機械はラウンジに来られないから駄目。
走行機械は全部ラウンジの管轄下。便利な交通手段は皆ラウンジに抑えられてる。
ま、この領に限らないけどね。有権者が交通機関を管理するのは」
ξ゚听)ξ「それじゃあどうやって行くのよ?アンタのマスターとやらの領に」
爪'ー`)y‐「うん。あくまで便利にって言うなら馬車しか残ってない。
飛行機械だと即日、走行機械なら五日、馬車だと……二倍の十日だ」
(;^ω^)「そんなにかかるんですかお?」
爪'ー`)y‐「いやぁ、実際の所はそんなにはかからんよ。厨房領でうちのマスターの飛行機械に拾って貰う。
まあ厨房領まで馬車で三日って所か」
ξ゚听)ξ「それで、馬車は待たせてあるの?」
爪'ー`)y‐「店主にすぐ手配してもらえる。けど、君達にはちょっと面白い物を見て……否、感じてもらおうと思ってね」
フォックスさんが指を鳴らすと、突然脳が広くなった感覚がした。
全くの無である広大な中に、三つの小さな点を"感じた"。
爪'ー`)y‐「感知魔術の応用だね。僕が発動した奴を、君の意識に直接投影している。
そういうわけで君は感知対象を"感じて"いるわけだ。
ちなみに感知対象は――ラウンジの死霊術士だ」
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:33:43.06 ID:AbgB4r8v0
(;^ω^)「……は?」
爪'ー`)y‐「いやまあ、何でかは知らないけどラウンジの死霊術士が駆り出されている訳だよ。きな臭いとは思わないか?」
確かに、自分の領内に死霊術士を駆り出す事等よほどの理由が無い限りはしない。
武力で抑えたいのならば自警団を使えば良い。
自警団と直属死霊術士の違い。
(;^ω^)「確実に殺したい……若しくは殺したのを知られたくないとか、そんな理由ですかお?」
爪'ー`)y‐「そうだろうねぇ。相手が誰かは知らないけどね」
は、と僕の後ろの御嬢様は笑った。
彼女は当然よ、と前置きして、
ξ゚听)ξ「そんなの私達に決まってるじゃない」
(;^ω^)「自慢げに言う台詞じゃないお」
爪'ー`)y‐「道理には適ってるけどね。何せ元直属死霊術士の裏切り者でしかも霊装使いだ。
理由として『殺したのを知られたくない』はまだしも、『確実に殺したい』と言われたら僕は納得するね」
ξ゚听)ξ「あら、アンタはもっと別の事を言いたいんじゃないの?
どっちにしろそいつらを片付けない限り、馬車にしろそれ以外にしろここから出られない、ってね」
沈黙。
五秒ほど続いたそれの後、フォックスさんはゆっくりと口を開いた。
爪'ー`)y‐「……right.その通り。よく気づいたね」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:37:41.82 ID:AbgB4r8v0
爪'ー`)y‐「内藤君はラウンジ家のお尋ね者。任務対象が僕ら以外であれ、内藤君を見つければ彼らは殺しにかかってくる。
任務対象が僕"ら"なら……言うまでも無いね。そういう事だ。僕がスパイだって漏れてるとは考えにくいが」
ξ゚听)ξ「それじゃあ……どうするつもり?」
爪'ー`)y‐「決まってるさ」
彼は深く煙草を吸い、白い煙を吐いた。
爪'ー`)y‐「殺す。難しくは無いだろう?内藤君も元は高位死霊術士だ。加えて、霊装使い。
死霊術士の三人位造作ないだろう?」
それとな、と話を区切る。
爪'ー`)y‐「良いチャンスだろ?内藤君。君がラウンジにしてやれる、ひょっとしたら最初で最後の復讐……嫌がらせだ。
存分に暴れて来いよ。奴らの面子を潰すには十分だ」
復讐。その言葉に、どくんと心臓が踊る。
御嬢様を殺したラウンジを叩く。悪くは無い。
( ^ω^)「オーケィ、殺ってやるお」
気がつけば、同意の返事をしていた。
フォックスさんはにやりと笑い、親指で上空に銀貨を弾いた。
爪'ー`)y‐「マスター、勘定だ。後馬車を一つ頼んだ」
銀貨が机に落ちる乾いた音。
それを合図に僕は立ち上がり、店を出た。
てす
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:44:13.51 ID:AbgB4r8v0
ξ゚听)ξ「踊らされてない?」
扉の閉じる音を背後に聴いて、御嬢様が言う。
( ^ω^)「何、フォックスさんの意図がどうであれ死霊術士を出すような碌でもねー事が気になるお。
本当に僕達を始末する為だとしたらがっかりだけどね。それに……」
ベルトに着けた短剣ホルダーの止め具を外すと、柄が左手に落ちてくる。
それを逆手で掴み、目の前に持ってくる過程で手首にスナップを効かせて離すと、刃が上を向く。その柄を順手で掴む。
( ^ω^)「こいつがどれだけ使えるのかを知っておくのにも良い機会だお」
ξ゚听)ξ「ま、フォックスは馬車の確保に行くみたいだし、私達で存分に暴れてやりましょうよ」
は、は、は、と口から笑いがこぼれる。
( ^ω^)「ほんじゃ、行くかお。夜の世界の住民を本物の暗闇に叩き落しに、な」
ξ゚听)ξ「Yes,Master!!」
僕は駆ける。夜に黒く塗り潰された石畳を踏み鳴らす。
スピードが乗ってきた所で、僕は自身の生命力を魔力に還元。どす黒い魔力の靄が僕の足を包んだ。
魔力は力を生む。その力は――
( ^ω^)「さあて、空から拝見するきったねぇ街並みも見納めかお」
踏み込みの力で、体は跳ぶ。前ではなく、上に。
僕の体を風が撫でる。撫でると言うよりはむしろ、もみくちゃにすると言った方が適切だろう。
僕の体はほんの数拍で、夜の町全体を眺望できる高度に至った。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:49:00.63 ID:AbgB4r8v0
view.爪'ー`)y‐ Fox.
『良かったのですか?マスター?』
爪'ー`)y‐「んん?何がだい?」
頭の中に直接響く声に、わざわざ声を出して応答する。
念話が出来ない訳ではないが、此方の方が気分が良い。
『内藤様をけしかけた事です』
爪'ー`)y‐「けしかけた、とは人聞きが悪いね。謝罪を要求しようかな。
ま、冗談はさておきだ。良いんだよ別に。多分僕が行ってもどうしようもないだろ」
『どういう事でしょうか?』
爪'ー`)y‐「彼にあって今の僕に無いものだよ。霊装、霊装さ。一口にそう言うのは語弊があるけどさ。
ま、霊装の無い僕が行くと少し苦労する奴があの中には居た。そういう事だ。僕はこんな所じゃ死ねないんでね」
『……申し訳御座いません、マスター』
爪'ー`)y‐「どうして君が謝る必要があるんだい?」
『いえ、マスターが戦えないのは、霊装としての私の欠陥所以です。私が――』
爪'ー`)y‐「ストップ。自分を責めないの。
ま、とにかくこの場は内藤君に任せるしかない。そいつさえ何とかなれば、馬車も出せるからね。
そうなれば、僕らの勝ちだ。シベリアに戻って――ラウンジを叩く」
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:53:44.95 ID:AbgB4r8v0
view.ζ(゚ー゚*ζ ???.
御姉様が死ぬ、一つ前の夜。私は御父様の部屋の前で、とんでもない事を聞いてしまった。
「……知られてしまった、ツンを殺す事を、本人に……そして、あのホライゾンに!
あいつの事だ、きっと手を打ってくるに違いない……!おい!日付を早められないか?あさってだ!」
ただ何となく部屋の前を通り過ぎようとしていた私の耳に、扉越しでも良く聞こえる声が通った。
否、声量ではなく、内容の問題だろう。
御父様が、御姉様を殺そうとしている?しかも、あさって?
「フ……そうか。出来るか。フ、フフフ……!
これで私の手には霊装が三つ!妻に、ツンに、それにデレだ!皆私の力になる!
この大陸を我が物とする日も近いぞ!フフフハハハハハアア!!!!」
何、これ。この、扉の向こうにいるのは本当に私の御父様なの?
そっと足音を立てないように後ずさり、辺りを見回す。誰も無い事に安堵する。
爪'ー`)「……」
否、居た。何故か観葉植物の鉢に下半身を突っ込んで、両手で葉の茂った枝を持っている怪しい男が。
それは涼しい顔をしている。ばれてないつもりだろうか?
爪'ー`)「命を粗末にする奴には今の僕の姿は見えないのさ。ま、抽象的な例えだけどね」
喋った。しかも、どう言う意味なのか全く解らない。
爪'ー`)「一ヵ月後、かな。君は君のお父様に殺されるよ」
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 22:59:13.62 ID:AbgB4r8v0
ζ(゚ー゚;ζ「そ、それを私に教えて……どうするつもりですか?」
私の口から出た声は、紛れもなく震えていた。
先に対面した御父様の狂気と、御父様が私や御姉様、もしかしたら御母様まで殺そうとしている現実。
その現実は私に対して重過ぎたのかも知れない。
爪'ー`)「さぁ。君は一ヵ月後にこの屋敷を出て逃げてもいいし、無視して殺されてもいい。僕としては逃げてくれた方が助かる。
逃げた場合に関しては……そうだね、君の命は少なくともその一日は保障してあげられるだろう」
ζ(゚ー゚;ζ「どう言う……事ですか?」
思考より前に疑問は口から出ていた。
爪'ー`)「そのまま受け取ってくれれば結構かな。逃げた場合は君の命は最低一日長持ちする。
最長で天寿を全う出来るまでは保障できるかな。
あ、くれぐれも一ヵ月後の逃亡までこんな話を聞いたそぶりは出すなよ。君の姉があさって死ぬ事になった理由だから」
一息。まぁ、と前置きして、
爪'ー`)「彼女は助かる……だろうねぇ。何てったって、僕が『ツン嬢はあさって殺される』って知っちゃったんだもん」
そう言うと彼は鉢から足を引き抜き、持っていた枝を地面に落として歩いて行ってしまった。
爪'ー`)「じゃあな。一ヵ月後を楽しみにしているよ」
鉢植えになっていた人間の言う事を信じるのか、と私は問い詰められる事になるだろう。
ただ、彼の発言を裏付ける出来事が次の日に起こった。即ち、御姉様が殺された。"あさって"じゃないのが疑問だが、少なくとも殺されたのだ。
このとき、既に私の腹は決まっていた。一ヵ月後。あの男に賭けて見よう。
そうでなければ、私もここで殺されてしまうのだから。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:02:06.47 ID:9Mba++OG0
支援
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:03:50.49 ID:ffaWHqOQO
期待C
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:04:41.28 ID:AbgB4r8v0
そしてその日は来た。
非常用の食料は持った?通貨は?護身用の武器は?何度も自分に問いかけ、確認する。
ζ(゚ー゚*ζ「……揃ってる」
なお、父の部屋から通貨をギッて財布を五つも満タンにしてある。準備万端だ。
最寄のよろず屋でうまい棒を購入する日課を果たせず、悔し涙を流しながらよろず屋を通り過ぎる父の姿が目に浮かんでくる。合掌。
給仕などに気づかれないようにそっと部屋の窓から飛び降りる。着地の痛みに顔を歪ませるが、堪えて突っ走る。
夜だ。いつもと何ら変わらない夜。
そう、この大陸は『夜の大陸』。変わらぬ夜が続く土地。
赤と青、二つの月が交互に天に昇り、時には白夜と呼ばれる『夜明け』が訪れる、そんな夜が。
空を見上げれば、月は青い。加えて、丸く満ちている。
サファイアにも例えられるその美しさだが、今は見とれている場合ではない。走れ。
頼りは無い。否、あの男の言葉を信じるならば、頼りは在るはずだ。
ζ(゚ー゚;ζ「……!」
背筋を、悪寒が撫でる。
周囲を見渡しても誰も居ないのに、まるで人に囲まれていて舐め回すように見つめられている気分。
経験で、その嫌な気配の正体を悟る事ができた。
ζ(゚ー゚*ζ(死霊術士……!)
死霊術、それは魔術の応用だ。
術式起動に必要な魔力を体が供給できないなら、式は術者の生命力を求め、結果魔術は暴発する。
死霊術は、その『生命力』から多大な魔力を精製する事により、魔力供給量を圧倒的に高めた魔術だ。
言うならば暴走のコントロール。名付け主は『生命を対価とする』事を卑下してその名を授けたと言われている。
死霊術士の元締めの一家に生まれている事情で、死霊術の知識はある程度得ている。
その知識から、この状況を判断したのだ。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:09:46.94 ID:AbgB4r8v0
だが、何故気配を消さない?
単純に私を追っている死霊術士のレベルが低い事も考えられる。
だが、その気配からは余裕に似たものを感じられる。
例えるなら、ライオンが歩く速度でウサギを追うような。
私が走る速度を速めれば、その気配も距離を開けず詰めずに追ってくる。
気味が悪い、非常に。
「ライオンはウサギを狩る時も全力を尽くす、と言いますがね」
その声は頭上より聞こえた。
それを見上げると、黒い影が空から落ちてくる。
軽やかな着地の音と共に、布裂きの音が響く。
足を止め、それを見る。
そこに立っていたのは黒衣に身を包んだ少年だった。
その向こうには目深にフードを被った黒マントの男が困惑した様子で居る。
( ^ω^)「例外って恐ろしくないかい?な?」
「え?うわ……あ、あああああ!!!!!」
その男が胸元から赤い何かを噴出すと、私は反射的に手で顔を隠した。
どさりと質量を持つ柔らかな物が落ちる音がする。
( ^ω^)「趣味が悪過ぎンだお。監禁と大差ねーお、それは」
「が……っ!」
呻き声に指の隙間から覗くと、少年が別のフードの男の腹に左手の何かを突き刺している所だった。
それを抜き取り、少年は男を蹴り飛ばす。衝突で照明灯をびいんと揺らして、男はぐったりと倒れた。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:11:54.33 ID:LeVtJs7UO
つC
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:13:44.69 ID:AbgB4r8v0
( ^ω^)「さて、命の大事な死霊術士さんはどこだお?」
右の指で短剣の血を払いながら、少年は呟いた。
( ^ω^)「ま、命"令"の方が大切に決まってるおね。だったらお前の優先任務を思い出させてやるお。
僕の名前はホライゾン・内藤。君らの大っ嫌いな裏切り者だお」
暗闇から染み出すように現れる、フードの男。
篭手を着けた両の拳を構えて、フードの奥の目線でホライゾンと名乗った少年を見据えた。
ん?ホライゾン?
( ^ω^)「かかって来いお。二階級特進かそれ以上か、僕がくれてやるお」
男は駆けた。右拳が引かれている。
対するホライゾンは何も構える事無く立っているだけだ。
疾走の勢いと共に、拳が放たれる。まともに当たれば腹に穴が開くと表現しても過言ではなさそうな速度。
だがホライゾンは上に跳び、その拳を蹴った勢いで空を滑り、男の背後に回る。
身を捻り、右腕をバックハンドで振るえば、三つの銀が青い月光を受け宙を走る。ナイフだ。
放った拳を引く過程にあるフードの男は、後ろから顔に直撃するコースのそれを大きく避ける事は叶わない。
だが易々と顔を横に倒せば、銀閃はそこを通り抜け、しかし食い下がりと言うようにフードを千切って持っていく。
( ゚ ゚)「……」
その下の顔は仮面。青の月光を穢す事無く受け入れるその色は純白。
黒の篭手を装着した両手を再び構えると、それしか能が無い様に着地間際のホライゾンに飛び掛った。
しかし、それは回避不能な瞬間。黒の篭手を黒い魔力の靄が包む。
( ^ω^)「避けられないなら……こーすりゃ良いんだお」
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:15:12.74 ID:EZGm6LMp0
しえんしえん
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:18:20.80 ID:AbgB4r8v0
左腰の短剣ホルダーの止め具を外すと、柄が掌に落ちてくる。
それを握った瞬間、金色の刃はうっすらと光の粒子に包まれた。
そのまま着地。続いて、男の拳が放たれた。が、
( ゚ ゚)「……!」
ホライゾンの腹部から拳一つ分離れた場所で、その拳は何かにぶち当たったように止まる。
刹那、ホライゾンと仮面の男を隔てる光の壁が姿を見せた。
( ゚ ゚)「……ッ!」
男は力を込める。壁を打ち破らんとして。
阻まれた拳、否、篭手からにじみ出る黒の靄が密度を増していく。
大木の軋むような音が響く。そしてついに、硝子の割れるような音を響かせ光の壁は破られた。
だが、突き抜けた拳はホライゾンには当たらず。彼は後ろに数歩下がっていた。
拳を放った姿勢。それはあまりにも無防備すぎた。
( ^ω^)「チェックメイト……だお!」
ホライゾンの放った銀のナイフが、男の仮面に突き立つ。
仮面は硬い音を立て割れ、半分を残してからんと石畳に落ちた。
( ゚√^)「……」
( ^ω^)「成程。良いお面を持ってるじゃないかお。どこの祭りで買ったんだお?」
仮面の男はそれには答えない。代わりに、彼の体を黒い靄が包み込んだ。
それはあっという間に男の体を覆いつくし、晴れればその姿は消えていた。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:22:01.08 ID:EZGm6LMp0
しえんするぞ〜
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:22:23.99 ID:AbgB4r8v0
(;^ω^)「あ、おい!待てお!」
ξ゚听)ξ「アンタが余計な話しないで止めをさしてればよかったんじゃないの」
ホライゾンの背後に突然現れた少女に、私は驚く。
だってそれは、生きているはずも無い――
ζ(゚ー゚*ζ「御姉……様?」
私の声を聞いたのか、僅かに地に足が着いていない気もする御姉様似の何かは手を振ってくる。
ξ゚听)ξ「や。お久しぶり、デレ」
その顔、その声、その口調。
その動作で揺れる金髪も、胸元と肩の開いた白のドレスも、全て本物だ。
後胸の発育が少々残念な……
ξ゚听)ξ「何か失礼な事考えてない?」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そんなこと無いよ?」
御姉様は地に足をつける事無く滑るように私に近づいてきた。
よく見れば、体を光の粒子が薄く包んでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「でも、どうして御姉様がここに……?」
( ^ω^)+「そこン所は僕が説明しましょう麗しのフロイライン」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はぁ」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:27:42.01 ID:AbgB4r8v0
( ^ω^)+「……と、言うわけで御座います」
状況は把握した。
御姉様は殺されたが、霊装に封じられる事でその霊体は現世に留まっている事。
そして恐らくは、このホライゾンと言う少年はあの植木鉢の男の仲間か何かだと言う事。
となれば、私は安全を確保できたと言う事で良いのだろう。
ξ゚听)ξ「それにしてもホライゾン、デレに対しては凄く態度が良いわよねぇ」
( ^ω^)「こんな清楚なフロイラインに、いつも御嬢様にしている応対が出来るわけないお!
御嬢様はデレ様のほんの少しでもグワアア!!」
御姉様はホライゾン少年の顔面に正拳突きを食らわせた。
と言うか、霊体なのに物理干渉できるんだ。
ξ゚听)ξ「主人に口答えするんじゃないの」
( * )「はい……すみません……って言うか前が見えません……」
ξ゚听)ξ「まぁ殴りたい奴は本当はアンタじゃないんだけどね」
( ^ω^)「え?僕殴られ損?」
ξ゚听)ξ「居るんでしょ?フォックス、そろそろ出てきなさいよ」
ζ(゚ー゚;ζ(ガン無視……)
「ハッハッハー、誰が呼んだか救世主!とうっ!」
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:29:02.30 ID:EZGm6LMp0
がんばれ! 支援!
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:32:40.31 ID:AbgB4r8v0
声は上からじゃなくて後ろから聞こえた。
後ろに馬車を控えたその男。それは紛れも無く一ヶ月前に見た植木の男だ。
ζ(゚ー゚;ζ「へ、変態カモフラージュ野朗!」
いけない、思わず本音が出てしまった。
爪'ー`)y‐「それは若気の至りだよ、そろそろ忘れてくれると嬉しいんだけどな」
ホライゾン少年は私と変態カモフラージュ野朗の顔を交互に見て、
( ^ω^)「何だ、知り合いだったのかお」
爪'ー`)y‐「んーまあ、ちょっとね。それより馬車を調達してきたぞ。さあ行こうか」
超棒読みで台詞を垂れる変態の横面を、御姉様が張った。
変態は張られた勢いで腹を中心に、方位を示す方のコンパスの如く一回転。私にも良くわからない。
ξ゚听)ξ「居たんなら助けてくれたって良いじゃないの」
爪'ー`)y‐「圧勝だったからいいじゃーん。僕だってやばくなったら加勢するつもりだったんだよー?」
ξ゚听)ξ「具体的には?」
うーん、と変態は唸る。
爪'ー`)y‐「そうだなー、内藤君の霊体が口から顔を覗かせてきた辺りかなぁ」
御姉様を見ると、ぷるぷる震えながら俯いて、骨張るほど拳を強く握っている。
あー、これは不味い。御姉様のダイナマイトナックル来ちゃう。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:36:53.47 ID:AbgB4r8v0
(;^ω^)「ストップストップ。フォックスさんに何言っても無駄ですお。全部冗談ですし」
ξ゚听)ξ「あーうん、それもそうねぇ」
ζ(゚ー゚;ζ(え?納得早くね?)
爪'ー`)y‐「それじゃー納得してくれた所で馬車に乗るんだ。
デレ様、君も行くんだろ?早く乗りな」
フォックスさんが私達を急かす。それに従い、私達は馬車に乗り込んだ。
爪'ー`)y‐「じゃ、厨房領まで一気だ」
そして最後にフォックスさんが乗り込む。
がたんと、石畳に車体が揺れた。出発だ。
一体何が起こるのかは解らないけれど、そんな事より――
ζ(゚ー゚*ζ(ねむ……)
よく考えれば、いつもは寝ている時間だ。
加えて、走って逃げて来たのだから疲れているに決まっている。
考えるまでも無く、私は目を閉じた。
眠りの海に誘われるのに、時間は要しなかった。
これから自分がどうなるのか、世界がどうなっているのかなんて、このときの自分には考えることは出来なかった。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:37:08.80 ID:EZGm6LMp0
支援支援、がんばれ〜
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:42:04.47 ID:AbgB4r8v0
ラウンジ領・ラウンジ家屋敷
「二つも逃がしちゃったか……」
豪奢な椅子に腰掛ける男は、照明に透かすように右手を見上げる。
「ま、問題ないね。それにしても優秀な奴だな、フォックス。僕が見込んだだけのことはあるよ。
味方であったら、どれだけ嬉しかったかねぇ……」
右手を顔に落として、はぁ、と嘆息。
「悔やんでたって仕方ないね。近いうちに僕らが戦争やらかそうとしてるのがシベリアにバレる。
そうなったら……何人人が死ぬかな?楽しみだなぁ」
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:42:43.76 ID:9Mba++OG0
支援
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:44:56.15 ID:AbgB4r8v0
厨房領・民家
畳の部屋に、男が正座していた。
膝の上には長い刀が、鞘に納まり乗せられている。
そしてその前には、布団を被り眠る女の姿。眠るように、安らかな顔だ。
「美和……どうして」
両手を膝の上につき、男はく、と俯く。
涙が膝に落ちる。
その涙を受けた刀が、一瞬光を帯びた。だが、男はそれに気づかない。
「……」
す、と意を決したように男は立ち上がる。
左手に刀を携えて、障子の窓を滑らせ、青い月の浮かぶ夜に歩み出して行った。
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:46:10.50 ID:IuItOVG6O
支援
月願の匂いがする
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:46:57.97 ID:AbgB4r8v0
タシロ島・マーシィ城
外壁に備えられたテラスから、青い月を展望する男が二人居た。
「……嫌な風だ。こりゃ何か来るな」
「解るか、お前も」
「ハッ、伊達にこの島で戦いやっちゃいねーって。こんな風は何回も浴びてるだろ、なぁ杉浦」
「ああ。だがこの風は……」
「言うな。トップがその調子じゃ誰が下を引っ張るってんだ?気落ちするのは死んでからにしやがれ」
「む……済まんな、ジョルジュ」
「いーって事よ。どんな嫌な風が来ようと俺等は戦い、勝って来た。
今回も変わらねーよ。そう信じろ」
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:48:58.49 ID:AbgB4r8v0
シベリア領・シベリア城
玉座に座る女性は、左腕で槍を抱え、右手は紙に目を通している。
「……ドクオ君」
紙から目を逸らす事無く、側近の男性に告げる。
「アスキー領から大量の船舶がタシロ島に向かったそうだよ。
今動かせる飛行機械、送ってあげて」
男性は頷く。
「あと、フォックス君が三日後くらいに厨房領に着くから、飛行機械で迎えに行ってあげて。
その後、タシロ島に連れて行ってあげて。ひょっとしたらこの戦い……杉浦君は負けるかも知れない」
はぁ、と女性は溜息をつく。
「一体どれだけの人がラウンジに味方するんだろうね……この戦い」
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:50:34.25 ID:AbgB4r8v0
その男は丘の上に立っていた。
巨躯を包む黒のマントが風になびく。
哄笑。
「さぁ、カードは配られた。これから始まる血の宴、一体どれ程の命が散るだろうか?」
男は笑う。ひたすら、壊れた機械のように。
「楽しませろよ……俺を!」
――( ^ω^)ブーンは夜明けを見るようです opening-1 end.
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:52:16.32 ID:IuItOVG6O
乙 ちょっと好みだ
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:53:08.46 ID:AbgB4r8v0
次回予告
( ^ω^)「無事厨房領へとたどり着いた僕達に襲い掛かる、数多の苦難!」
■□■「あーもういやだ、殺してくれよ俺を。死にたい死にたい。死んで楽になりたいよ」
(プライバシー保護の為顔面にモザイク処理をかけております)
■□■「あー……飛行機械、ね。何て言っても"彼女"は色々と適当なグワアアア!!!」
(精神衛生上よろしくないので遺骸にモザイク処理をかけております)
■□■「ラウンジの文化圏では料理にソースなどの調味料を用いるお……しかし、それは単に素材の持っている"味"を殺しているだけだお!
それを悪く言う訳では無いお。だけどそれでは極論ソースの味のみが料理の優越を決することになるそれはいかんのだお!
真に料理の優越を見るには、料理人がかけた手間を余す所なく……え?ちょ!最後まで言わせろよ!」
(うざったいので全身にモザイク処理をかけております)
■□■「うふふふふ……地に伏したフォックス殿も素敵で御座いますよ?
そのまま……私の足を、そう。舐めて頂けませんか……?」
(こんな展開があるかどうかもわからないので全体的にモザイク処理をかけております)
( ^ω^)「果たして、ホライゾン達はこの苦難を乗り越える事ができるのか!?
次回!( ^ω^)ブーンと常夜の世界のようです 序章第二話!『本当は俺は百合を書きたいんだ』!乞うご期待!」
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:53:59.69 ID:9Mba++OG0
乙
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 23:56:18.56 ID:AbgB4r8v0
終 了
ご清聴ありが……あざーっしたwwwwww
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
乙だぜ―
次回も期待してる!