「磯野カツオがプロ野球選手になるそうです」

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1笑み社 ◆myeDGGRPNQ

 ――僕は昔から プロ野球の選手になりたかった

 ほんとうに小さなころから思ってた
 お父さんもお母さんも応援してくれた

 ――でも 今は 誰も見てくれていない

 当たり前だ

 ――あの餓鬼がずっと眠っているから――
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:21:30.27 ID:6sbBKivT0

――――10年後―――――
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:21:34.97 ID:wU7zNYe70
――――――――――――――――――――――――――――――





――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――







――――――――――――――――――――――――――――――
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:21:52.17 ID:2zihAQOn0
またタラオか
5笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:22:40.29 ID:29mgkWUk0 BE:692808544-2BP(888)

 ――あの餓鬼が眠っている。

 それはずっと前からだ。
 僕が小学5年生の頃だったか。

 ――その日から。
 僕の野球は変わってしまった。

 ――勝つ。
 勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ。
 勝たないと意味なんて、ない。

 だって、勝たなきゃ見てもらえない。
 誰も僕に注目してくれない。
 絶対に目を覚まさないあの餓鬼に全てを持っていかれてしまう。

 ――絶対に、そんなコトは認められない。

 アノ日から僕が楽しんでいた『野球』は亡くなった。
6笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:27:02.96 ID:29mgkWUk0
 ――あの餓鬼が眠って7年。

 僕は高校3年になった。
 野球部として毎日練習をしてきた。

 努力して。
 努力して。
 努力し抜いた。

 それでも、1番は決して視えてこない。
 見えてこないのはもとより判っていた。
 故に、僕等が努力をするのは当然だろう。

 ――しかし、なんというコトか。
 父が強引に入学させたこの学校は進学校。

 ――僕以外のメンバーは皆。
 野球よりも勉強に夢中だったのだ――
7笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:30:50.38 ID:29mgkWUk0
 ――ある夏の出来事だった。

 高校2年の夏。
 僕は2年生エースとして登板した。

 最高速度150キロの速球と70キロ台のチェンジアップを武器に僕等、否。僕は決勝まで
勝ち進んだ。
 今まで僕が一人で打ち。投げ。

 ――そうして決勝戦まで来たのだ。
 ワンマンチーム甚だしい。
 そんなチームが決勝も勝てるか?
 そういう話になると、その答えは否。

 延長15回。
 再試合目前の相手チームの攻撃だった。
8笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:33:04.65 ID:29mgkWUk0
 既に2アウト。
 ――しかし、状況は最悪だった。

 塁は全て埋まり、所謂満塁だ。
 迎えるバッターは名門校である『帝愛高校』に入学し1年生のときから4番を打つ『中島博』だ。
 幼い頃から一緒にやってきている経験があった。
 故に、これまでの6打席は打ち取れた。

 ――しかし、今はワカル。

 ウタレル。
 ウタレル。
 ウタレル。

 打たれれば負ける。
 負けなのだ。

 その不安を孕んだ白球は―― 


 ――空高く舞い上がり、スタンドへ飛び込んだ――
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:33:43.67 ID:X4H4AFF50
ワカメ「…ホーミングモード」
10笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:35:49.65 ID:29mgkWUk0
 ――満塁ホームラン。

 心底嬉しそうにダイヤモンドを回る中島と――

 ――情けなくマウンドにうなだれる僕。

 まるでその光景だけで『天国と地獄』だろう。
 0対4。
 味方のエラー数が19。
 ヒット数は僅か1。

 その1本がホームランなんて――

 そうして、僕の2年生の夏は終わった。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:37:49.42 ID:eSEjk6ukO
支援
12笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:37:58.67 ID:29mgkWUk0
 ――その日。
 僕は本当に厭になった。

 家に帰っても誰も労いの言葉をかけてくれない。
 ヒトコトぐらいあってもいい筈なのだ。

「――おつかれさま」
「――よく頑張ったな」

 そう、只のヒトコトでも良かった。
 それだけで、僕は救われたのに――

「カツオ」
 何か、僕を呼ぶ声が聞こえた。
 父の声だ。
 父は幼い頃は野球の話をすると笑って聞いてくれた。

 しかし――


「――いいかげん野球は辞めてタラちゃんのお見舞いにでも行きなさい。
 それと、良い会社に就職する為に勉強をしろ。大学進学なんて金はないんだからな―――」

 ――そんな言葉は信じない。
 金なんて幾らでもある筈だろう?

 ――あの無免許医に手術の打診をしているんだから――
13笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:40:04.02 ID:29mgkWUk0
 そして、その後父はこう付け加えた。

「――大した成績じゃないのだからな。
 プロなんて莫迦なコトは考えるなよ」

 この人は、否。この人たちはまるで判っていない。
 僕は、今日ホームランを打たれるまで全試合『ノーヒットノーラン』で勝ち進んだのだ。
 その僕に『大した成績ではない』。
 そんなコト、誰が言えようか。

 ――そこでようやく悟った。
 僕の野球を見てもらうには、全試合オール三振で全国優勝しなくてはならないというコトに――
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:41:27.82 ID:YVCpPtju0
愛する笑み社のスレだと思ったらやっぱりそうだった
15笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:42:55.39 ID:29mgkWUk0
 ――その日から、僕の野球はまたもや姿を変えた。

 今までの取り組みが『鬼』ならば今は『修羅』だ。
 早朝ランニング量も今までの10キロから20キロに。
 投げ込み量も今までの500から1000にした。

 この学校の監督が完全放任主義だからできたコトだろう。
 近代の野球は練習というよりトレーニングだ。
 適切な練習量。
 完全な設備。
 的確なコーチング。
 それらが合わさって初めて『一流』と呼ばれる。

 しかし、僕にはそんなもの関係ない。
 今の僕に出来るコトは投げて、投げて、投げて――

 ――皆に認めてもらいたかったのだ。
16笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:45:14.87 ID:29mgkWUk0
 ――ある日。
 ふと、高校野球のマガジンを買ってみた。
 小遣いが小学生の時から変わらず月1000円の僕にとって、このマガジンは余りにも高額
だったが、思わず買ってしまった要因が表紙にあった。

『秀才学園のエース磯野カツオが甲子園に行けない訳』

 そんな見出しがデカデカと載せられていたのだ。
 買わない筈がない。

 ――読んで見ると、そこには次の事が書いてあった。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:45:52.47 ID:cTMfDWt60
しえn
18笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:47:57.78 ID:29mgkWUk0
 今、西東京をにわかに騒がせている投手。磯野カツオ(17)が未だに甲子園出場を果たしていない
理由を、我が編集部でまとめてみた。

 その要因の一つに、『打線の貧弱さ』が初めに挙げられた。
 スポーツというモノは点を入れなくては勝利できない。
 その根本を、彼の学校である『秀才学園』は理解できていないのである。
 どんなに天才投手でも点を取らなくては勝ちは在り得ない。
 実際、秀才学園は今期の夏の大会に於いて決勝までたったの『8点』しかあげていないのである。
 これは決勝まで8試合在るなかでの話である。
 これでは、如何に天才、磯野投手でも甲子園の扉を開く事は難しい。

 第2に、『守備の弱さ』があがってくる。
 秀才学園が8試合中での失策数はなんと『164』なのだ。
 これは1試合に『20以上』もの失策数というコトになる。
 この中で決勝まで無失点で抑えた磯野投手。

 これからの課題は、チーム全体の打線と守備の改善になりそうだ。
19笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:50:27.28 ID:29mgkWUk0
 ――記事を読み終え、ふうと息をつく。

 その内容はつまるところ、僕以外のメンバーの批判だった。
 確かに、僕は常にランナーがいる中で投げていた。
 僕は常に0以外は表示されない得点板を見ていた。

 そういうコトなのだ。
 周りに批判が集まってしまう。
 僕が頭一つ以上出てしまうと、こうなってしまうのは自明の理だった。
 そんなコトを、僕はどうして判らなかったのだろう。

 ――しかし、この記事は間違いだ。
 みんなは悪くない。

 ――僕が一回もバットに触らせなきゃいいのだから――
20笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:53:10.94 ID:29mgkWUk0
 ――次の日。練習に行くと、皆の目が今までとは明らかに違っていた。

 否。教室でも感じていたのだ。
 しかし、こと練習になるとさらにその目は判りやすかった。

 当然だろう。
 皆は楽しく、勉強の合間の軽い運動程度に考えていた部活がこんな馬鹿げた奴1人のために壊され
るかも知れないのだ。
 そんなコトを是とする者はなかなかいないだろう。

「――気にするな。みんなは今度のテストにピリピリしてるだけだ」

 そう、肩を叩いてくれたのは中学からの友人であり、今は僕の球を受けてくれる唯一の存在。
『西原琢磨』だった。
21笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 14:56:01.47 ID:29mgkWUk0
 ――彼は昔から優等生だった。

 故に、進学校である秀才に入るのも当たり前のようなモノだった。
 しかし、一緒に野球をしてくれるとは思わなかった。
 軽い気持ちで誘ったつもりだったが、彼は快く了解してくれ、あろう事か、当時から既に140キロ
を超えていた僕の球を受けてくれていたのだ。

 打撃も目を見張るモノがあり、得点を上げているのは僕と彼だけなのだ。
 ――故に、僕は彼に心を許した。

 ――快い気持ちで練習を終え、家に帰ると、野球マガジンはゴミ箱にねじ込まれていた。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 14:56:12.66 ID:MzBSo1+Y0
支援ガオレン
23笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:00:01.53 ID:29mgkWUk0
 ――そうして、秋季大会の日がやってきた。

 今回は勝てる。
 そう思った。
 その根拠は簡単だ。

 僕はこの大会の前に行われた幾つかの練習試合に於いて『オール三振』をやってのけたのである。
 しかもあの神奈川3強の一角。『東天宮寺高校』相手にである。

 ――その快挙すら、父は褒めるどころかタラヲの見舞いにいっており、何も言ってくれなかった。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:00:12.53 ID:zNpR6AFO0
俺は支援するぞおおおおおおおお
面白いぞおおおおおおおお
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:01:05.73 ID:zNpR6AFO0
age
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:01:27.75 ID:R4lvHH0hO
笑み社さん相変わらずパネェっす
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:02:00.98 ID:cTMfDWt60
帰宅するまで残っていることを願って保守
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:02:08.28 ID:CSzkHdP5O
やっと書いてくれたか

俺は嬉しいぞ

29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:02:51.88 ID:5fnaXMH7O
ヤクルト石川スレと聞いて
30笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:03:04.31 ID:29mgkWUk0
 ――ふと思い出すと。
 僕は中学の頃から一つの遊びにはまっていた。
 それは『川幅100mの川の端から石を投げ、対岸に届かせる』という遊びである。
 今思うと、その遊びが今の肩を作ったような気がする。

 無論、初めは届かなかった。
 しかし、年齢を重ね、中学3年になってようやく届くようになった。
 それから、あの川へは行っていない。

 ――父があんなところに行くのならタラちゃんの見舞いに行け、そう言ったからだ。
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:04:43.28 ID:zNpR6AFO0
※川幅100mに突っ込んではいけません
32笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:06:20.96 ID:29mgkWUk0
 ――秋季大会も、順調に勝ち進んだ。
 オール三振は未だ達成できていないが、それでも全て『ノーヒットノーラン』だ。

「――今日勝てば甲子園だ! 皆!! 行こうぜバード!!!」

 キャプテンの西原が円陣の中で叫ぶ。
 それに皆が思い思いの言葉をあげる。

 相手は因縁の『帝愛高校』だった。
33笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:08:22.87 ID:29mgkWUk0
ごはん食べてくる。
休憩も兼ねる。
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:11:02.28 ID:4dKt3hDdP
紫炎
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:11:47.55 ID:zNpR6AFO0
わかった
待ってる
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:12:55.16 ID:MzBSo1+Y0
ヵッォ ォャッョ!
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:19:26.66 ID:bKmmhgm2O
波☆平「back come on バッカモン oh yeah 」
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:19:35.62 ID:9LHtHr17O
磯野凄すぎワロタw
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:23:47.25 ID:Za64AjX0O
保守
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:24:31.96 ID:fAjmwPyzO
西原って登場人物いたっけ?
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:29:06.47 ID:B+g7PLEjO
>>40
ヒント:出会ったのは中学
42笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:29:07.87 ID:29mgkWUk0
 ――そうして、今。

 四月になり、新メンバー『堀川山嵐』を加え、僕等は甲子園を目指す。

「なあワカメ。お前が好きだった堀川くん。
 あいつ――野球部入ったぜ」

 そう妹に伝えると――

「――黙れし、タラヲのほうが大事だし。
 カオリさんに言うよ」

 全くこの家の人間とは話が出来ない。  
 何よりもタラヲを選択し――

 ――何よりもタラヲを優先してきたのだから――
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:29:54.35 ID:utpLE3fB0
正直このランクの選手なら契約金2億は確実だよな
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:30:15.95 ID:zNpR6AFO0
>>1の本名とか
45ぜっとたけ ◆zzzzzzzzsc :2009/05/09(土) 15:32:22.50 ID:MpOWzI6TO
おはよう
46笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:34:09.33 ID:29mgkWUk0
 ――そして、ついに夏の大会が始まった。

 僕の球速はついに158キロにまで伸び、チェンジアップは50キロ台にまで落とせた。
 さらに、物置で見つけた野球の入門書に書いてあった『フォーク』も習得した。
 そんな僕に、敵と言えばすでに『帝愛高校』ではなく――


「――磯野、野球しようぜ」


 親友、『中島博』だけだった。
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:35:39.78 ID:K1t3NmR6O
待ってたぜ、笑み社
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:39:55.35 ID:ZggKyFTH0
wktk
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:40:28.35 ID:5fnaXMH7O
復活ktkr
50笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:40:33.14 ID:29mgkWUk0
 ――試合は9回まで0対0という、緊迫した試合展開だった。

 帝愛のエース『語学院西園寺 透助(ごがくいんさいおんじ とおるのすけ)』の快投。
 秀才のエース『磯野カツオ』の在り得ないまでの執念のこもった力投。

 それらが交錯した結果だろう。
 ここまではいつもと同じだった。


 ――ここ一番のバッターが『中島博』であるコトまで――一緒だった。
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:40:40.13 ID:e7Io+Jh/O
チェンジアップは70`くらいが最強と思ふ
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:41:19.64 ID:g8AtQwYkO
速度差100キロwww
53笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:45:30.10 ID:29mgkWUk0
「磯野、野球しようぜ」

 そうバッターボックスで呟く中島。
 ――一陣の風。
 夏の風にしてはやけに冷たかった。

 ――呼吸が止まる。

 振りかぶる。
 足をあげる。
 腰をひねる。
 腕を伸ばす。
 球を投げる。

 この動作、一秒かからない動作。
 しかし、この動作こそ投手の本質であり総てなのだ。
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:48:26.53 ID:utpLE3fB0
高校時代の江川みたいだ
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:49:26.50 ID:e7Io+Jh/O
一秒かからない・・・だと・・・
56笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:49:43.98 ID:29mgkWUk0
 同じように、中島も躯総てが螺子のようだった。

 投手を睨む。
 足をあげる。
 腰をひねる。
 球を捉える。
 腰をまわす。
 腕を伸ばす。

 この一秒足らずの動作が、中島博を螺子にした。
 そしてその螺子はまるでゴムのように弾けた。
 ――手応えのない、そう言った表情だった。

 二球目。
 振りかぶった時、中島のバットが揺れた。
 それはアリエナイコトだった。
 今まで、そう、幼き頃から彼は『バッターボックスで余計な事をした事がない』。
 故に、この事態は明らかに異様だった。
 それは今まで見た事のない隙だった。

 ――バットが白球を捉えるまで、僕はそう思っていた。
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:49:44.92 ID:JWsVKalxO
中島かっこよすぎwwwww
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:50:20.05 ID:zNpR6AFO0
これだけの技術と体力とメンタルを持った選手なら我が日ハムにこそ相応しい!
ダルビッシュとの2枚看板で
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:50:28.25 ID:utpLE3fB0
中島「わりぃな礒野wwww」
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:53:25.45 ID:bKmmhgm2O
三河屋「あれwwwwww祝勝用にいろいろサービスしようとしたのにwwwwカツオ君wwwwww」
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:53:48.12 ID:nrG3SOTlO
前にも同じ話書いてなかった?
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 15:55:01.05 ID:NMDT6ck80
支援
63笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 15:55:33.93 ID:29mgkWUk0
「切れろ!!」

 僕は思わずボールの方向を見ながら叫んだ。
 ――ポールに当たってはホームランだ。
 距離は充分。後はファールかどうかだ。

「――」
 三塁審判はしばし止まる。
 そして――

「ファール!!」

 その声と共に、僕は安堵の息をついた。

 ――否。こんな安心なんて不純物だ。

「さあ磯野。野球しようぜ」

 目の前のライバルを倒すまでは――安心は不純物だ。
64笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:00:47.57 ID:29mgkWUk0
 ――14球目。
 一塁方向へのファール。

 ――長い。
 長過ぎる。
 時間にすれば5分ほどだが、今、僕の体感としては既に30分にも感じる。

「――」
 呼吸を止めるコトをもう一度しなくてはならない。
 苦痛だ。

 それでも勝たなくてはならない。
 甲子園に行って優勝すれば、きっと父も褒めてくれる。

 勝たなくはならない。

「――!!」
 力の限り、なんのセオリーもない投球フォームから繰り出された満身のストレート。

 会場がどよめく。
 白球は――



 ――西原のミットに、きっちりと嵌っていた。
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:01:39.29 ID:utpLE3fB0
満身じゃなくて渾身じゃね?
66笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:04:57.30 ID:29mgkWUk0
 ――立ってなんていられない。
 このベンチまでどうやって帰ってきたのかすら覚えていない。

「お――磯――――次――――」

 西原の声もよく聞こえない。
 この回の二番目のバッターが僕だというコトを伝えているのだろう。
 震える手でヘルメットをかぶり、言う事を聞かない躯でネクストバッターズサークルに入った。

「……」
 ――二番バッターは三振。
 僕の打席だ。
「――!」
 立ち上がろうとしても、体がそれをヤメロと命令する。

「――大丈夫か? 安心しろ。
 お前が打てなくても――俺が打ってやるからな――」

 僕に肩を貸してくれている西原が、言ってくれた――
67笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:10:01.60 ID:29mgkWUk0
 ――すでに2ストライク。

 目も霞み、脳が酸素を欲しがっている。
 頭に酸素が言っていないくせに体はどくんどくんと脈打つ。
 血流が余りにも早いから体温がどんどん上がる。
 その結果。
 気温30度がなんとも寒く思えた。

 語学院西園寺から放られた球なんて視えない。

 ――只、ネクストバッターズサークルで待ってくれている西原に――


 ――少しでも平気な姿を見せる為に、僕はバットを力一杯振った。
68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:14:37.15 ID:PNVgxjcG0
支援
69笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:14:40.44 ID:29mgkWUk0
「       」

 何も考えられない。
 只、僕の耳には微かな、本当に微かな声が聞こえた。

「ホームラン……だと?」
 帝愛の捕手『橋本八王子』が呟く。
 ――それを聞き。僕は崩れ落ちた。

 ――世界が真っ暗になった。
 そんな中。

「バカものっっ・・・・・・! 橋本っっ・・・! 何をしているっっ・・・・・!」

 と、帝愛の監督『利根川幸男』の声が聞こえた。
 すると、橋本は僕に肩を貸し、ゆっくりとダイヤモンドを回ってくれた。

「――ナイスバッティング」

 橋本がそう言ってくれた途端。涙が溢れた。
70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:14:43.08 ID:3Q6+6Q2RO
しえん
71以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:15:26.22 ID:NMDT6ck80
>>1がんばれ
72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:19:08.83 ID:zNpR6AFO0
味方チームの誰かがインプレイ中の選手に触れたらアウトになるとかなんとかってルールあったような
この場合の敵チームの選手が触れた場合はどうなるんだ?
野球ルールに詳しい人教えて
73笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:20:27.25 ID:29mgkWUk0
 ――勝った。
 甲子園出場が決定した。

 僕は悲願の甲子園出場を決めたのだ。
 それを早く父に伝えたくて、疲労で動かない体を引きずって家に帰った。

「――うそ……」

 居間のテーブルには置き手紙があった。


『タラヲノミマイニサンジョウス』
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:21:09.11 ID:9pD4R5NEP
>>72
             /)
           ///)
          /,.=゙''"/
   /     i f ,.r='"-‐'つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:23:45.10 ID:utpLE3fB0
>>74
       ____
     /_ノ  ヽ、_\
    /( ─)/)(─)\    
  /::::::⌒///)⌒::::: \
  |   /,.=゙''"/      |  こまけぇことだが気になるお ‥‥
  \. i f ,.r='"-‐'つ   /
  / i    _,.-‐'~    \
    i   ,二ニ⊃        
76笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:25:37.19 ID:29mgkWUk0
 ――結局、父や皆にとって、甲子園はどうでも良かったのだ。

 僕が死ぬ気で勝ち取った勝利は、皆に取っては目を覚まさないタラヲ以下という事なのだ。

 ――僕がやってきたコトは、無駄だったのか?

 そんな不安を胸に、甲子園に到着した。


「――」
「――」

 誰も声が出ない。
 余りにも大きい。
 余りにも素晴らしい。

 まさに、ココは高校球児にとって文字通りの『聖地』だった。

『ココで投げられる』

 そう思うと、今までの不安は無くなった。
77笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:29:43.35 ID:29mgkWUk0
 一回戦。
 ノーヒットノーラン。

 二回戦。
 ノーヒットノーラン。

 ――そうして、僕は『決勝戦』に駒を進めた。


「うわっ!!」
 投球練習の際、バックネットのお客さんが仰け反るように驚く。
 コレもいつもの事だ。

 相手は神奈川最強とも言われる『明訓高校』だった。
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:31:11.55 ID:COvvf1FFO
>>61

前より磨きがかかってる

前はサザエがウザスギで嫌なイメージしかなかったが


改めてカツオを好きになった
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:31:40.34 ID:NMDT6ck80
     ____
    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
  /∵∴//   \|
  |∵/   (・)   (・) |
  (6       つ  |   ここでなら投げられる
  |    ___  |  
   \   \_/  /   
     \_____/
80笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:35:57.00 ID:29mgkWUk0
 ――試合はまたもや9回まで縺れた。

 ヒット数はこの3年間で最多の『12』。
 ランナー満塁。
 バッターは4番の『山田太郎』。

 ――彼には僕の球は通用しない。
 総ての球を安打にされている。

 判らない。
 分らない。
 解らない。

 そんな時、僕は幼いときに聞いた父の言葉を思い出した。

『――独りではどうしようもない時。
 そういうときは人に頼りなさい。信用できる、仲間に――』

「タイム!!」
 思い出すのと同時に、僕は手を上げ、野球人生最初で最後のタイムをとった――
81笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:39:57.02 ID:29mgkWUk0
 ――マウンドに内野手だけでなく外野手、さらにはベンチの選手も集めた。

「――どうしたんだよ、磯野」
 レフトの久井が問う。
「そうだよ、今更タイムなんて――」
 サードの安藤が言う。

 そうだ。
 僕には仲間がいる。

 ――独りじゃなかった。


「――次、なんの球を投げればいいんだろ……」
 俯き、相談したい内容を言う。
 既に2ストライク3ボール。
 一球でも外せば終わりだ。

「――ここまで来たのはお前のお陰だ」
 ベンチの新川とセカンドの新垣が言う。

「――だから、お前の好きな球を投げろ。
 ――何でも捕ってやる、出してみろよ160キロ」

「――皆、ありがとう……」
 涙があふれるのを抑えて感謝する。

「磯野、打てなくてすまんな」
 最後に、守備位置に付きながらセンターの吉川が言ってくれた。
82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:40:54.95 ID:3Q6+6Q2RO
>>78
くわしく
83笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:44:50.94 ID:29mgkWUk0
 ――僕が好きな球。

 高め速球。

 力一杯、今までの総てをココに集約した球はミットに収まった。

「ボール!! ゲームセット」
 審判の声が響く。
 敗北した。

 押し出しでの敗北だった。
 それでもいい。

 僕にも仲間がいた。
 それだけでいい。


 ――スピードガンは161キロを計測していた。
84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:45:10.22 ID:u/VTRYNEO
いつの間にか仲良くなっとる
85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:49:25.03 ID:ZA9gcs7sO
カツオ凄すぎw
86笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:49:25.37 ID:29mgkWUk0
 ――11月。

 ドラフト会議である。
 新聞では今年の目玉選手は高校生ドラフトなら僕と中島、それに最後の試合で4番を打っていた
山田太郎だ。

『――一巡目、横浜、中島博。外野手。帝愛高校』
『オリックス、中島博。外野手。帝愛高校』

 ――そうして、順調に読み上がり――

『阪神、磯野カツオ。投手。秀才学園』
『読売、磯野カツオ。投手。秀才学園』

 その二球団から指名があり、くじ引きの結果、巨人が交渉権を獲得した。
87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:49:33.33 ID:g8AtQwYkO
不知火守だなww
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:51:22.32 ID:utpLE3fB0
巨人とかwwwww
うどん屋フラグwwwwww
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:51:42.07 ID:ZA9gcs7sO
巨人かよw

たくさんお金もらえるぞ
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:53:57.31 ID:mb/x0CH00
どうせ家族がすり寄って来るんだろ
91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:54:45.78 ID:zNpR6AFO0
巨人か・・・
二軍でいつの間にか消えていくんだろうな
辻内のように
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:54:47.32 ID:utpLE3fB0
中島は西武だろ
93笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:56:38.40 ID:29mgkWUk0
 ――ついに、その日はやっていた。

 間黒男医師がタラヲの手術を受けると言ったのだ。
 その金額は1000万。
 とても払える額じゃない。


 ――僕を除いては――
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:58:42.91 ID:0RaQ5F3z0
>>92
遊撃手か
最近不調だな
95笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 16:59:39.72 ID:29mgkWUk0
 ――ある日のコトだった。

 タラヲの手術のコトを忘れ、巨人との契約の為、僕は電車に乗った。

 ――本当は、あんなコトは在り得なかった。

 憧れの球団との契約を目の前にして気が浮かれていたのだろう。

 ――姉からの電話に出てしまうなんて――
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 16:59:50.03 ID:ZA9gcs7sO
>>91
辻内って肘やっちゃったんじゃなかったっけ

支援
97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:06:13.16 ID:PNVgxjcG0
くっ・・仕事だ支援
98笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:06:44.56 ID:29mgkWUk0
「クソノ!!!! てめええええええええええええええええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
タラちゃんがあぶねええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!
たすけてええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そんな、世界が砕けたような声がケータイの向こうにあった。
 姉はタラヲを溺愛していた。
 事故の後、姉は何度自殺を試みただろうか。
 しかし、その声は尋常じゃなかった。

 そして―――
「帰ってこいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!! じゃねーとてめえは
死ぬううううううううう!!!!!!!!!!!!!」

 その呪詛に。
 その悪魔に。
 その言葉に。

 ――乗せられて、僕は病院へ向かった。

 契約には間に合わなかった。

 ――当然、契約に来ない者を伝統のある巨人がとる筈もなく、僕は契約できなかった。
99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:08:30.76 ID:9pD4R5NEP
ハッピーエンドは無い物か・・・
100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:09:14.96 ID:Gtvtz6TLO
えぇ〜・・・
101以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:11:07.28 ID:tjY1qCY5O
クソノてwwwwww
102笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:11:45.77 ID:29mgkWUk0
 ――巨人との契約が無くなり、僕は総ての気力が無くなった。

 そんな時。
 新潟に新規参入の球団が出来るというニュースを聞いた。
 名は『新潟蓮美台サンクチュアリ』。
 1月である今から選手を確保するのは至難の業だったが、その球団オーナーがそれを可能にした。

 ある日、その球団から書類が届いた。
 ドラフトであぶれた選手や、自由契約になった選手を集める。そういうものだった
 その選手の中に、僕の名前があった。
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:12:18.30 ID:ZA9gcs7sO
支援
104以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:12:23.84 ID:7fju2eW+O
クソノはおかしいだろwwwwww
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:14:13.83 ID:WvAhuWiLO
俺の地元新潟ktkrwwww
106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:14:24.25 ID:7m2WidQiO
クソノカスオ
107笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:15:06.73 ID:29mgkWUk0
 ――契約金1000万。

 それが新潟蓮美が提示してきた額だった。
 巨人の1億と比べると10分の1の額だ。
 しかし、プロになるのならなんでもいい。

 契約を決めようと思った矢先。

「おいいいいいいいいいい!!!!!!!!!! クソノカスオ!!!!!!!!!!!!!
てめええええええ!!!!!!! その金はタラちゃんの手術につかうよなああああああああ
あああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 ――なんて、姉がふざけたコトを言い出した。
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:15:14.14 ID:zNpR6AFO0
ええっと・・・色々突っ込みたいが、まあこういう世界だと言うことですね。わかります
109以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:19:17.18 ID:tkLFyW6s0
お前「えみしゃ」だと思ってたら「えみやしろ」だったんだな
110以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:19:19.47 ID:JWsVKalxO
サザエの顔が何故かジョジョのエルメスで脳内再生される件
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:20:05.62 ID:dAEreSwzO
クソノサザエがマジでイラつくのは俺だけか?
112笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:20:13.91 ID:29mgkWUk0
 その日から、僕に対する家族の態度が変わった。

 厭になった。
 今まで関わり合いさえ持たなかったクセに――

 金が入ると知ったら――これか?

 厭だ。
 厭だ。
 厭になる。


 ――野球を楽しむ心を捨て、1000万の契約書にサインした。

 その1000万を、居間のテーブルに叩き付けて、僕は家を出た。
113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:20:49.23 ID:3Q6+6Q2RO
>>111
114以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:20:49.81 ID:mb/x0CH00
なんでもっと早く家族切り捨てなかったの?死ぬの?
115笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:24:55.03 ID:29mgkWUk0
 ――その日から、僕の心は死んだ。

 蔑ろにされた分、僕は投げた。
 1年目、25勝0敗。
 その年、新潟蓮美は優勝した。
 2年目、23勝0敗。
 その年も優勝してしまった。

 タラヲの術後は順調だったらしい。
 目を覚ますのも時間の問題らしかった。

 ――3年目。
 その日がやってきた。
116以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:27:08.83 ID:u/VTRYNEO
どんな超人だ
歴史に残るレベルになってるじゃないか
117以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:27:18.57 ID:5fnaXMH7O
最初にヤクルト石川って言ってすいませんでした


比べものにならないです、はい。
118以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:27:26.16 ID:3Q6+6Q2RO
しえん
119以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:28:31.68 ID:eJFgEXT40
ちゃんと実力が伴ってるからなぁ・・・
120以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:29:03.27 ID:Gtvtz6TLO
メジャーリーグ行き決定!!!
121笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:29:34.93 ID:29mgkWUk0
 ――つま先から脳天までに稲妻のような痛みが走る。

「――!!」
 痛い。否。それは全身が砕けたような激痛だった。

「――もう、貴方は野球が出来る体では在りません」
 医師は言った。

 ――それでもあの医師ならなんとかしてくれる。
 そう思って間医師に電話をした。

『おまえさんの肘の様子なら私もよく知っている。
 手術料なら1200万。なあに、球界のエース様なら小遣いみたいだろう?』

 ――仕方なく1200万を用意しようとした。
 銀行に車(ランボルギーニ・ムルシエラゴ)で到着し、貯金を下ろそうとしたとき。
 また電話がなり、姉の声がした。

「タラちゃんが目を覚ましたあああああああああああああああああああああああ!!! 今日は
グランドホテルでパーティーだああああ!!!!!!!! ゴミの金だあああああああああああ
ああああああ!!!!!!!!!!!!! 車も私のモノおおおおおおお!!!!!!!!」 

 ――通帳には、金は一銭も入っていなかった。
122以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:30:55.41 ID:tjY1qCY5O
身内でも勝手にはおろせんだろ
123以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:31:06.43 ID:mb/x0CH00
たしかに
124以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:31:20.82 ID:utpLE3fB0
ランボ売れよwwwww
125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:32:22.84 ID:9XKIQHgiO
見たことあるなこれ
コピペでスレ立てとは笑み社も堕ちたもんだ
126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:33:55.72 ID:5ApgAIDNO
大正野球娘読め
127笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:34:48.50 ID:29mgkWUk0
 ――僕は引退した。
 そうしなくてはならなかった。

 タラヲは、植物状態から目覚め、22歳の肉体になっていたが、心は3歳のままだった。

 ――ああ。もう厭だ。

 そうして、一年。
 あの家に無理矢理いさせられた。
 タラヲが20年近く眠っていたコトが解らないように。

 もう、何が本当かワカラナカッタ。
128以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:38:33.67 ID:zNpR6AFO0
このカツオなら金田の記録をも塗り替えられるかもしれない・・・
129笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:39:23.69 ID:29mgkWUk0
Epilogue

「何話してたですか〜?」
 いつもの口調。
 こいつはずっとそうだった。
「――」
 母が目で姉に合図する。
 その合図が通じたのか、母は僕に笑顔を向ける。
「タラちゃん、ジュース飲む? のど渇いたでしょ?
 ケーキもあるわよ?」
「わ、わ〜い。
 いいわねタラちゃん、スイーツよ」
 ワカメもそれにあわせる。
「びゃああああああああうまいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
 父もコップについであるビールを飲んで誤摩化す。

「タラヲ死ね」

 その中で、独りだけ空気がチガウ者がいた。


 ――この僕である。
130以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:40:56.60 ID:ZAVXzDU8O
カツオwwwwwwwwww
131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:42:13.01 ID:g8AtQwYkO
サイドかアンダー転向で復活希望
132笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:45:46.08 ID:29mgkWUk0
 ――空気が凍った。
 家族に認められる為に努力してきた。
 その努力を踏みにじった者はこいつだ。

「こいつの所為で僕は……僕はああああああ!!!!」
 ……僕の右拳がタラヲに向けられる。

「――ばっかもん!!!」
 その刹那。
 叫ぶように父。
 僕の拳が止まった。
「ほら、タラちゃんは寝ましょうね」
 ――状況が理解できず、タラヲは従った。

 ――大変な事をしてしまった。
133以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:46:01.97 ID:zNpR6AFO0
打者転向ってのもあるな
王さんだって元はピッチャーだったんだ
馬場さんみたいな方向に行くのもありだな
134以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:49:06.74 ID:1VXQ+rgFO
しえん
135笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:49:08.85 ID:29mgkWUk0
 ――今、ココに奴はいない。
 いなくなったという結果。
 それはどうしようもない『現実』として現れる。
 磯野カツオがフグ田タラヲに手をあげてしまったコトもまごうことなき『現実』だ。
 その現実は結果となる。
 結果はそのまま現実だ。
 故に、ココには新しい現実と結果の螺旋が生まれる。

「――制裁」
 磯野波平が呟く。
 あの行動はまずかった。
 否。致命的だった。
 その結果と現実を生み出した磯野カツオは――

「や、やめ、て」
 ――まるで、追いつめられた動物のように――

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ――叫び声をあげる機械に成り下がるのだ。
136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:49:33.94 ID:Gtvtz6TLO
>>131
カツオは右利き
右がダメになったなら左で投げる
なーに、このカツオならやってくれるよ
137以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:51:17.86 ID:Gtvtz6TLO
そんなこともいってられなくなりそうな悪寒
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:51:45.60 ID:nQRifj9JO
いい歳したカツオが波平に力で負けるか?
139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:53:06.84 ID:5fnaXMH7O
>>136
石川も左だしやってくれそうだな。
140以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:55:33.02 ID:tjY1qCY5O
160投げる元野球選手がじじいに負けるか?
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:56:53.30 ID:zNpR6AFO0
142笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:57:20.20 ID:29mgkWUk0
 ――その機械が音を発せなくなるのに、若干の時間を要してしまったのは彼らの責任とも言える。
 初めから居なければ、磯野カツオがこうなるコトもなかった。

「――」
 全身がびくびくと痙攣する。
 その様はまるで子鹿のようだ。

 ――鮮血に塗れた子鹿が、小さく、一度だけ痙攣すると、もう動かなくなった。


磯 野 カ ツ オ が プ ロ 野 球 選 手 に な る そ う で す
                                END
143笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:58:08.89 ID:29mgkWUk0



「磯野ワカメがスイーツになるそうです」



144笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 17:58:58.26 ID:29mgkWUk0
 ――お腹減ったし。

 嘗ては、その言葉を紡げば食事が与えられていた。

 しかし、今はどうだ。

 苦しい。
 渇く。
 体内には何もなく、胃袋も虚無だった。



 ――ああ。
 超、お腹減ったし。
145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:59:12.65 ID:yjrH//i+O
終わ・・り・・・?
146以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 17:59:39.62 ID:GHk3WAxI0
新章だと!?
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:00:15.95 ID:5fnaXMH7O
えええええええ
148以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:00:17.40 ID:zNpR6AFO0
なんか始まったw
そしてMAJOR始まった
149以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:03:22.70 ID:kQfp8Z7WO
>>148

土6時はコナン君だろ
150以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:04:31.77 ID:COvvf1FFO
>>107

サザエ

バカだろう


電話掛けなきゃ巨人に行ったのに
151笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:05:01.19 ID:29mgkWUk0
 私の何がいけなかったのか。

 今でも解らない。
 今でも分らない。
 今でも判らない。

 否。判る日なんて来る筈が、ない。
 私は既に人間じゃないから。
 人間じゃない、しかし獣でもない。
 そんな中途半端な存在が思考するなんて天罰が下る。
 故に、私は何も考えない。

 ――兵士は、何も、考えない。
152以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:08:48.86 ID:zNpR6AFO0
>>149
コナンなんてみねーよバーローw
153笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:10:28.34 ID:29mgkWUk0
 ――怖い。

 思考は、しないのではなく。
 できないのだ。

 一瞬でも未来のコトや他人のコトを考えたら死ぬ。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

 怖い。
 怖い。
 怖い。
 怖い。
 怖い。


「――おい、海藻。
 タラヲさんがお呼びだ」

 と、嘗て兄だったものが牢獄を開け、私を引きずり出した。
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:11:26.87 ID:COvvf1FFO
>>141

コイツの方が「カツオに優しい」ハズだろ

この速度なら言える


カツオ除く磯野家を「カツオに対するネグレスト」 「巨人に対する業務妨害」 「新潟蓮美に対する業務妨害」 「銀行に対する詐欺」


地域住民も「共犯」で訴えたる
155以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:11:56.15 ID:GHk3WAxI0
ここにきてジョジョ臭が……
156以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:12:30.71 ID:nQRifj9JO
>>141
怖過ぎるwww
157笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:15:04.30 ID:29mgkWUk0
 ――ここはいつから悪魔の巣窟になったのか。

 それは知らない。
 私は小学三年生だ。
 そんなコト、判る筈が――ない。
「海藻、タラヲさんの部屋でするコトは判ってるな?」
 その、感情もない問いかけに頷くだけで応じる。

 ――その鋼鉄のふすまが開くと、そこには小さな、若干三歳の王がいた。
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:17:07.72 ID:ALihOeZoO
もうタラヲ死ねよ
159以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:18:23.35 ID:77WrljfTO
笑み社久しぶりに見た
支援
160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:18:26.35 ID:ZKBZZDvyO
若干三歳っていくつなんだろう
161笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:19:27.88 ID:29mgkWUk0
「お〜そ〜い〜で〜す〜」
 ベッドバンキングをしながらタラヲは苦言を漏らす。
 すると――
「おい、魚。
 死ね!」
 父が心からの侮蔑を込めて兄に言った。
「魚、死ね!」
 それにならって母も言う。
「死〜ね〜で〜す〜」
 ベッドバンキングを止めずにタラヲはナイフを投げる。


「――」
 何も言えなかった。


「はい
 タラヲ様万歳」

 そう言って、兄は喉にナイフを突き刺した。
162笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:25:03.40 ID:29mgkWUk0
「死んだです〜。
 血が飲みたいです〜」
「はっ! ただいま」
 そう言って父は兄の血液をコップに注ぎ、タラヲに差し出す。
 ――その、真っ赤な血液を、タラヲはごくごくと音を立てながら飲み干す。

「旨いです〜。
 内蔵はいらないです〜。鱒に食べさせるです〜」

「ええ! 僕ですか!?」
「逆らうなです〜。死にたいですか〜?」
「――判りました」

 そう言って、義兄は兄の内蔵を食しだした。

「びゃあああうまいいいいいいい、って言うです〜」

「びゃあああうまいいいいいいいい!!!!!」


 ――ここは、地獄だった。
163笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:29:40.68 ID:29mgkWUk0
「旨いですか〜。
 鱒はきもいです〜」

 そう言って、タラヲはおもむろにズボンを脱ぎだす。
 パンツの上からも判るソレがそこにあった。

「ムラムラしたです〜。
 アレが欲しいです〜」
「はっ! ただいま!!」

 父は、既にタラヲのものだった。
 言いなりというものではない。
 それは、既に催眠だった。

 まるで、逆らったら死ぬと言わんばかりの雰囲気だった。
 否。実際。死ぬのだ。

 私はそれを知っている。
 死ぬコト。
 私はそれを知っている。
 シヌコト。
 私はそれを知っている。
 シリタクモナイノニ。

 ――こうして、目の前ではタラヲの性欲処理係として、拉致(ようい)された女子高生。

 秋山澪が犯されていた。

 その目は、全てを諦めた目だった。
164タラヲ死ね:2009/05/09(土) 18:31:57.85 ID:3Q6+6Q2RO
今からタラヲやりにいく人挙手
165以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:33:25.51 ID:4J3nr7eR0
状況がわからんwww
166笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:34:32.60 ID:29mgkWUk0
「ふう……」

 スーパー賢者タイムとなったタラヲ程に恐ろしいものはない。

 だって――

「死ね! です」

 ――人を、簡単に殺すから。

「! …………」

 こうして、秋山澪は死んだ。
 ハンマーで一撃。

 それは間違いない。
 絶対的な死だった。

「海藻は帰れです〜。四つん這いで帰れです〜」

 いつもの、ことだ。

 私は、いつ殺されるのか。
 その恐怖に怯えていた。
167以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:34:34.28 ID:Tv6dR9ob0
>>166なら明日のサザエさんでタラヲ死亡
168笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:35:26.44 ID:29mgkWUk0
晩御飯食べてくる。

休憩も兼ねる。
169以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:46:01.82 ID:c66ZJtCMO
テレビでやってる初ガツヲのタタキ美味そう
170以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:46:29.22 ID:MzBSo1+Y0
おう いってこい
171笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:51:18.98 ID:29mgkWUk0
 夜は嫌いだ。
 そも、ここには昼も夜もない。

 毛布に包まり震える。
 生を諦める生物なんていない。

 そんな生物は在り得ない。
 死とは全ての生物共通の恐怖。

 それを克服できるのは。
 それを克服できるのなら教えて。

 死の恐怖から別離できる方法を。


 ――さよならを教えて――
172笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 18:54:56.82 ID:29mgkWUk0
 朝。
 おそらくそうだろう。
 この暗闇の牢獄では、最早昼夜の確認もままならない。

「海藻。食え」

 薄汚れたパンと、異臭のする水が入ったコップが渡された。

 いつもことだ。
 なんら特別な事はない。
 その水が、タラヲの小便でも。

 私は、飲まなくてはならない。

 一日一回の食事を、私は喰らった。

 パンの中にタラヲの糞が入っていても、構わない。


 ――今日は、チョコレートパンだと思えばいい。これもスイーツなのだ。
173以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 18:59:53.18 ID:QuaLhI+I0
なにこのカオス
174笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:02:08.35 ID:29mgkWUk0
 孤独だ。

 何もない。
 ココは地獄だ。
 苦しみ以外、そこにはなにもない。

「――」
 遠くの部屋から音楽が聞こえる。
 この音は、ロックと呼ばれるものだろう。

「――」
 だから。
 だから何だというのだ。
 私は地面に這いつくばる敗者なのだ。

 いつだったか、タラヲは言った。

『―――ワカメお姉ちゃんは学校でいじめられてるです〜。
 僕よりも下です〜』

 そう、言った。

 思えば、あの時からだった。
 タラヲが催眠術の才能に目覚めたのは―――
175笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:06:49.39 ID:29mgkWUk0
 ――そう、私は学校でいじめにあっていた。

 学校に行けば、上靴が隠されていた事はざらだった。
 それよりも、何より辛かったのは、憧れの堀川くんとのことだった。
176笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:09:22.02 ID:29mgkWUk0
 ――ある日。堀川くんに告白された。

 私も馬鹿だったのだ。
 気がつかないなんて。


 ――そして、私は汚された。

 堀川くんのグループに。

 暴行も受けた。

 堀川くんのグループに。


 死にたいと思った。

 その時。

『おい。海藻。
 タラヲさんがお呼びだ』

 兄が、タラヲに洗脳されていたのだ。
177笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:11:01.50 ID:29mgkWUk0
 その日から、私は磯野ワカメではなく、海藻になった。

 ――こうして、今に至るのだ。
178以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:13:19.12 ID:pIJGNmN4O
笑み社さんのもっと読みたい!!他どんなのかいたの?
179笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:15:22.34 ID:29mgkWUk0
 ――もう、こんなのは厭だ。

 私は、タラヲを殺そうと思った。

 どうかしている。  
 何も考えていない。

 ――だから――



「海藻はバカです〜」

 こうして、タラヲの目の前で縛られているのだ。
180笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:20:42.73 ID:29mgkWUk0
 ――厭だ。

 こうなったら死ぬしかない?

 そんなの望めない。

 厭だ。
 厭だ。  
 厭だ。

「――海藻は、スイーツが好きでしたね〜」

 厭だ。
 厭だ。

「そうだです〜。それじゃあ、皆の慰みものになるです〜」

「え?」
 そうして、ふすまが開き、男たちが入ってきた。


 ――何も、聞こえなくなった。
181笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:22:14.32 ID:29mgkWUk0
 犯された後。
 私は叫んだ。

 その後。暴行された。
 私は叫んだ。

 顔は腫れ上がった。
「でけえ顔」
 そう、言われた。

 血が止まらない。
 傷が化膿している。

 私は、叫んだ。



「もう。殺してええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
182以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:23:06.02 ID:zNpR6AFO0
コンクリ・・・
183笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:23:16.52 ID:29mgkWUk0
Epilogue

――その後。私は死を迎えた。

 死は恐ろしくなかった。
 生が恐ろしかったのだ。

 生きるコトが何よりも怖かった。

 コンクリート詰めにされ、私は空き地に放置された。

「――オレたち、未成年だから大丈夫だし」

 一人がそう言うと、皆が同調した。

 そうだ、彼らは今の法ではさばけない年齢なのだ。
 人の尊厳をないがしろにしておいて、これからも生きるのだ。


「――僕タラちゃんです〜。何も知らないです〜――」

磯 野 ワ カ メ が ス イ ー ツ に な る そ う で す
                              DEAD END
184以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:24:52.54 ID:B9pnMbvq0
なにこのオナニー
185笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 19:32:53.56 ID:29mgkWUk0
さて……このあとどうしようか。
186以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:33:46.88 ID:GHk3WAxI0
>>185

まだタラちゃんへの制裁が終わって無い気がするが気のせいかな?
187以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:36:20.98 ID:OK6hVzkzO
>>186君に賛成です
188以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:37:07.71 ID:3DyKwwN7O
そういえば磯野って野球メーカーあるよなw
189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:38:07.13 ID:MzBSo1+Y0
タラヲがバラバラになるお話がいいです〜
190以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:40:15.35 ID:pIJGNmN4O
書いてくれぇぇぇ
191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:42:46.52 ID:2mSDtMPSO
猿ったか?
192以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 19:54:39.85 ID:mYchkSRL0
タラヲ様ーきゃー
193以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:04:50.54 ID:2mSDtMPSO
一応保守。
期待込めた保守。
194以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:12:50.31 ID:COvvf1FFO

なんで澪がでてくるんだ「馨サン」か「鼻佐波サン」か「卯奇餌サン」だろ


軽音なんて「カツオ閣下」の肉便器だろ
195笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:16:14.10 ID:29mgkWUk0
短編と長編どちらがいい?

>>210までで多かったほうをうpする。
196以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:17:06.82 ID:GHk3WAxI0
タラヲ制裁長編だな
197以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:17:23.74 ID:2mSDtMPSO
長編だろ
198以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:24:17.39 ID:AGIl+SDHO
ながへん
199以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:28:22.58 ID:Ynthi2m70
超変
200以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:33:55.16 ID:ZA9gcs7sO
お前ら……






無論タラヲ制裁長編でお願いします
201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:34:56.59 ID:n3UapWUtO
長編
202以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:35:44.07 ID:CSzkHdP5O
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 20:39:31.04 ID:lXsQwd/t0
長編
204笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:40:23.00 ID:29mgkWUk0
過半数超えたからうpする。


磯野カツオが薔薇乙女と出会うそうです




205笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:41:33.09 ID:29mgkWUk0
 ――僕には、何が出来るのだろう。

 毎日。そう、毎日のようにそれを考えていた。
 
 誰かの役に立つことも。
 誰かの心の支えになることも。
 誰かを笑わせることも。
 誰かを、信じることも

 ――僕には、何一つとして出来なかったのだから。
206笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:45:34.73 ID:29mgkWUk0




「カツオ〜!」
 朝から聞こえる姉の苛立ったような声。
 布団をかぶってその声が聞こえないようにつとめるがそれも無駄。
 
 僕の努力は虚しく。部屋に来襲してきた姉に布団をはぎ取られる、
我が楽園は侵略者の手により奪われ、一気に外気と触れた全身が震
える。

「ひどいじゃあないか! 姉さん!!」
「五月蝿い! 早く準備しないと遅刻するわよ!」
「――!?」
 時計を見る。時刻は残酷にも8時を回っている。

「どうして起こしてくれなかったんだよォォ!!」
 
 朝食も採らずにランドセルを背負い、僕は今日も急いで学校へと
出掛けた。
207笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:50:02.71 ID:29mgkWUk0

 
 通学路は閑散としていた。
 それもそのはず。僕が走っている道は今から30分ほど前は人で
溢れていたのだ。今現在、僕が走るこの道に人が溢れる道理はない。

「――」
 呼吸が乱れる。
 目が覚めてすぐに走り出したため身体が目覚めていない。その上
朝食を採っていないことで空腹が極限に近くなっている。

 学校が近づく。
 教師の一人が門を閉め出す10秒前。よかった。僕はこの闘いに
勝利したのだ。
208笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:55:13.14 ID:29mgkWUk0


 ――教室で行われる授業は全てが退屈だ。
 
 隣の席の花沢さんはまじめにノートをとっているが僕はそんなこ
ともしない。先生が話す授業の内容など馬耳東風。僕の耳にはグラ
ウンドで体育にいそしむ声や木にとまっている鳥の鳴き声しか聞こ
えない。
「――ねえ、磯野くん」
「ん? ノートはとらないよ」
「そうじゃあないのよ。私のところに――」
「花沢!! なにを喋っている!! 磯野!! 廊下に立っと
れ!」
「!? 先生! 磯野くんは――」
「黙れ!! どうせ磯野が誑かしたんだろう!」
「先生!」
「いいよ。廊下に立ってます」
 僕の弁解を聞いてくれるものなんていない。僕は決して言い訳も
せずに廊下へ向かった。
209笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 20:59:57.89 ID:29mgkWUk0


 学校が終われば中島たちと空き地で野球が出来る。僕が毎日を過
ごすにあたり、最も楽しみにしていることの一つだ。

「なあ磯野。先刻の先生の言葉に、どうして反芻しなかったんだよ」
 空き地へ向かう道中。中島が僕に尋ねる。尋ねられたところで僕
は明確な答えを答えることは出来ない。
「めんどうだったんだよ。中島だってあの先生の言うことはおかし
いと思うだろう?」
「ああ。無論、そう思ったさ」
「だったらそれでいい。『大人』っていうのは大変さ。注意してくれ
る人がいないからさ。現にコンビニや病院とかで騒ぐ年寄りを誰が
注意する? 子供ならまだしも、大人は注意しづらいものなんだ。
その結果、大人は堕落していく。弱点を克服することが出来ないか
らね」
「――なるほど。磯野が言うことはなんとなく理解出来る。つまり、
乗り越える以前にその弱点を知ることがない。そういうことだね」

 中島との会話はいい。彼は僕の言葉をきちんと受け止め、理解し
てくれる。
 空き地に向かう道。そこで、僕は汚れた紙を見つけた。

 ――それが、僕の運命を大きく変えるものになる――
210以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 21:01:51.11 ID:GHk3WAxI0
他人の言葉に反芻はできんだろう……
211笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:04:54.98 ID:29mgkWUk0


 ――中島たちとの野球を終え、家へ帰宅する。先刻拾った紙はポ
ケットに入れたままだ。何気なく入れてしまったが、その内容は見
ていない。

「カツオ。宿題は?」
「今からやるよ。
 あれ? ワカメは?」
「今日もサーキット。大会が近いんだって」
 
 ワカメは最近サーキットでカートレースにハマっている。SLレ
ースというものならばワカメでも出られるらしく、そのことでワカ
メは毎日のようにサーキットへ行っている。
 
 ――故に、自室は1人だ。
 ワカメがいなければ、この紙の内容を訝しがられずにすむ。

「?」
 
 ――巻きますか?
 ――巻きませんか?
212以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 21:05:55.95 ID:32Wx/CTa0
期待
213笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:09:56.86 ID:29mgkWUk0


 全く理解出来ない。
 何を巻くのか。何を巻かないのか。そのコトが一切この紙には書
いていない。否、書いてあるにはあるのだがその部分は雨に濡れた
のか、インクが落ちてしまって読めない。

「ふむ。もしかして、丸をつけて誰かに渡すのか?」
 机に転がっている鉛筆で『巻きます』の部分に丸をつける。別に
それ以上何かするわけでもなく、机の引き出しにいれておいた。

「はは。なにしてんだろ。僕」

 ――判らない。
 きっと、僕は欲しかったのだ。

 ――この、繰り返しのような日々を変えてくれるものが。
214笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:13:57.57 ID:29mgkWUk0


 ――それから三日。
 
「ちわ〜! 三河屋っす!」
「あれ? サブちゃん。今日は姉さんも母さんもいないよ」
「ああ。いいよ、ただの届け物だから。判子ある?」
 三河屋は最近になって運送屋の仕事も始めたらしく、ワカメが注
文したカートのパーツやらを届けてくれていたため、僕もなんの疑
いもなく判子を押して箱を受け取った。
「――!」
「結構重いんだけど大丈夫?」
「こ、これはなんですか?」
「――それが、差出人の名前が無いんだ。ただ、取り扱い注意のシ
ールが貼ってあるから気をつけてね」
「わかりました。ありがとうございます」
「じゃあね。
 それと――」
 
 サブちゃんはバイクに乗り込みエンジンをかける。その音で、な
にを言っているのか判らないが、サブちゃんは、何かを言っていた。
215笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:20:18.98 ID:29mgkWUk0


「なんだろう。これ」
 箱を開けると。それは中世ヨーロッパのような作りの鞄。重量も
それなりにあり、かなり重たい。
 自室の床に置くのにもゴトリと重たくも低い音がした。

「この鞄。鍵が掛かってない……」
 今まで開かなかったため、鍵が掛かっていると思っていたのだが、
この箱。どういうわけか手でこじ開けないと開かないようになって
いる。
 
 故に――

 ――開けてみよう。

 そう、思った。
216以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 21:21:06.46 ID:COvvf1FFO

ちょっと三河屋


>>現にコンビニや病院とかで騒ぐ年寄りを誰が
注意する?

VIPも捨てたモンじゃないな
217笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:25:18.39 ID:29mgkWUk0


 重たい見た目に似合わず、それを開ける際には大した腕力は必要
とせず、意外とあっさり開いた。

 ――唖然とした。

 中に入っているのは赤い装束を身にまとった色白の、大きさはタ
ラちゃん程度か、もしくはそれ以下の小さな女の子だ。
「――な!?」
 どうして。
 女の子が箱の中に、それも運送屋に運ばれて我が家に来ているの
だ。
 それは本来在り得ないコト。
 この、紅の少女はピクリとも動かない。
 
 まるで、死んでいるかのように。

「――? これは?」
 紅の少女の傍らには一つのゼンマイ。
 そこで、僕は予感した。

 ――これは、人形だ、と。
218笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:29:27.43 ID:29mgkWUk0


「少しぐらいなら、いいよな」

 ゼンマイを手にとって、紅の少女の背中に空いている穴にあてが
う。抱きかかえた状態なのだが、それだけで薔薇のようないい香り
がする。
219笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:30:22.69 ID:29mgkWUk0
「――」
 
 ギコギコという音と共にゼンマイを回す。十数回、ゼンマイを回
すと、少女がぴくりと動き出す。
 本当に人形のようだが、その動きはまさに人間のそれだ。
「――あ」
 少女の目と口が開く。
 ただ見られるだけで魅入ってしまう。その人形の手が動き――

「!?」
 その手が僕の頬を叩く。突然のことだったので人形を落としてし
まう。本来ならば、そのまま人形は床に落下する筈なのだが、その
人形はきちんと着地し、僕を睨みつけた。

「まったく、レディの身体をなで回すなんて人間の雄は本当に下劣
なのだわ。ゼンマイを巻いたのなら――」
「!? わああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 いつもと同じ昼下がり。
 されど、これからは違う。

 ――これが出会い。
 僕と、『真紅』との出会いだ。
220笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:36:24.11 ID:29mgkWUk0


「それで、君はなんなんだ?」
「? 貴方、私がなにかも知らないでゼンマイを巻いたの? 呆れ
たものだわ」
「ああ。だから教えてくれ。君は――」
「そうね。なにも知らないで死んでいくのも可哀想ね。
 私は誇り高きローゼンメイデン第5ドール。真紅よ」
 
 ――そうは言われてもさっぱり理解出来ない。
「貴方、本当に馬鹿ね」
「な!? 僕が悪いのか?」
「悪いに決まってるじゃない。なに? 私が悪いとでも言いたい
の? 下僕のくせに生意気ね」
「いつ下僕になった!? 僕は君のことなんてさっぱり知らないん
だ! きちんと説明しろ!」
「――ふう。
 わかったわ。私たち『ローゼンメイデン』のことを話してあげる」
221笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 21:41:14.40 ID:29mgkWUk0


「――これが、私たちローゼンメイデンよ」
「――」

 真紅の話は、俄には信じがたいものだった。
 ローゼンという、彼女たち7体の人形を作った男に会う為に、彼
女たちは遥か昔から殺し合っている。それがアリスゲーム。
 『アリス』とは完璧な少女を指す言葉であり、彼女たちはその称
号を手に入れ、父親であるローゼンと永遠に共にあることを目的と
している。
 そして、そのアリスゲームで勝利するには人間と契約して、エネ
ルギーの拠り所を得ることが大きなポイントとなる。
 真紅の話を要約すればそういう話になる。
「そんなモノ、信じられるか!」
「信じる信じないは勝手だけど。
 信じないと――貴方、死ぬわよ」

 真紅がそう口を開いたその瞬間。窓ガラスが割れ、自室に人形が
侵入してきた。
 ――それはどこにでもある、熊のぬいぐるみ。しかし、本来のそ
れと違う点は、それが包丁を持っている点にあった。
222笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:01:07.21 ID:29mgkWUk0


「……これは?」
「水銀燈ね。迷ってる暇はないわ。貴方、今すぐ私と契約しなさい」
「え!? ――って、うわあ!」
 ぬいぐるみは僕の身体を切り刻もうと襲い来る。間一髪躱したが、
次は間違いなく殺される。

「くっ! 貴方! 契約を――」
「そんなこと――!」
 出来ない。
 それをすれば、きっと僕はこの闘いに巻き込まれる。そうすれば、
僕はもう戦うしかない。いつだって命を狙われる立場に置かれる。
 それは、どうしても厭だ。

「――!」
 真紅がぬいぐるみに押し倒される。あの体勢では、コンマ数秒後
に真紅の死が待っている。

 ――それを、認めるか。
 否――認める筈がない――!

 そう思うのと同時に、僕の足はぬいぐるみを蹴り飛ばしていた。
223笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:04:52.91 ID:29mgkWUk0


 ぬいぐるみは吹き飛び、襖にぶつかる。そのことでぬいぐるみが
僕たちを諦める筈がないが、一時的にでも真紅は助かったのだ。今
はそれでいい。

「ありがとう。
 でも、どうして私を?」
「厭なんだ。女の子が痛がってたり苦しんでたり。そういうのは、
ね」
「――そう。貴方、立派ね」

 ――その、穏やかながらも凛々しい顔を見て覚悟は決まった。

「真紅。契約っていうのはどうすればいいんだ?」
「貴方――!」
「早く言え!」
「……そうね。私の薬指にキスを。それだけよ」
 
 ……跪いて、真紅の細い、折れてしまいそうな指に口づける。

 ――熱いなにかが、僕の身体を駆け巡る。 
 マグマのような痛みに、僕の身体は溶けてしまいそうになる。

 それも、平気だ。
 僕の痛みで、真紅が助かるならそれでいいのだから。
224笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:09:52.21 ID:29mgkWUk0


「真……紅……?」
 目が覚めると、そこには僕等を襲ってきたぬいぐるみの姿はなく、
いるのは僕を心配してくれている様子もなく、本棚から漫画をとっ
て読んでいる真紅の姿だけがあった。
「あら。目が覚めたの? まったく、人間の雄は下劣なだけじゃな
く体力もないのね」
「は、は。言ってくれる、な――」
「あまり動かない方がいいわ。ガラス片が飛び散ってるから今の貴
方じゃ踏んで怪我するわ」
「――!」
 今、気がついた。
 部屋は数分前のそれとは大きく異なり、ガラスは割れて飛び散り、
襖は壊れ、おまけに畳までひっくり返されていた。
「心配はいらないわ。この本を読んだら直すから」
「お前、直せるのか?」
 ええと答えて、すぐに目線を漫画へ戻す。姉さんや母さん。否、
こんな状態、誰に見られてもヤバすぎる。
 しかし、そんな些末なことを気にする程、僕の体力には余裕がな
い。身体の至る所にガタがきている上に、不思議と全身の力が入ら
ないのだ。
「直せるのならいい。僕はもう少し眠るから、直しておいてくれよ」

「――ええ。わかったわ。カツオ」

 薄れゆく意識の中。声が聞こえた。

 ――ありがとう、と。
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 22:11:17.08 ID:EJuz8yET0
中島「磯野!ワカメやろうぜ!」
226笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:19:24.76 ID:29mgkWUk0




「カツオ。紅茶を入れて頂戴」

 あれから二日後の昼。真紅は僕に紅茶を入れろという要求を突き
つけてきた。
 ――冗談じゃない。いつも紅茶なんて飲まない僕が紅茶を入れて、
しかもこの部屋に持ってくるなんて、怪しい以外何者でもない。今
だって真紅の存在を家族全員に隠しているというのに、そんなこと
をすれば一発で僕の部屋に誰かいるのがバレてしまうじゃないか。

「ダメだ。僕の部屋にお前がいることがバレたら、また面倒なコト
になるし、なによりアリスゲームに僕の家族を巻き込むことなんて
出来ない」
「――そうね。私も注意が足りなかったわ。ごめんなさい」
「? やけに素直だな。どうしたのさ」
「いいえ別に。ただ――この押し入れというところも、悪くはないわね。少し埃っぽいけれど」
「皮肉か」
「そうとったのなら好きにすればいいのだわ」
 オーケー判った。
 そういうのならこっちにも考えがある。
227笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:20:12.20 ID:29mgkWUk0
「そうか。じゃあ、この指輪を取るぞ」
 契約した時から薬指についている指輪。この指輪を取れば、きっ
と契約が終わり、真紅は慌てふためく。そう思って指輪を外そうと
試みる。
「あ、れ?」
「なにをしているの? カツオ。言っておくけれど、指輪を無理に
取るというコトは、指を一本差し出す、そういうコトになるわよ」
 それでこの余裕か。
 ――僕の抵抗は終了した。
 大人しくお茶でも持ってこよう。
228笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:26:58.58 ID:29mgkWUk0


「あら? カツオ。どうしたんだい?」
「母さん。紅茶ある?」
「……ごめんねカツオ。緑茶はあるんだけどねえ」 
 
 台所で昼食の準備をしている母に聞いてみる。もとより期待はし
ていない。この家にそんな高級じみたものが存在しているとは思っ
ていないからだ。
 真紅の要望に応えられないのは些か恐ろしいが仕方ない。大人し
くツインテールのビンタでも受けるとしよう。
「カツオ。どうして紅茶なんだい?」
「え? え〜と……そう! 明日の調理実習で使うんだよ!」
 我ながら良い判断だ。これならば、母は僕に買ってこさせるだろ
う。
「そうかい。じゃあ、買ってきな――」
「きゃああああああああああ!!!!!!!!!!」
 
 姉さんの叫び声。
 ――と、もう一人分の叫び声。誰のものかなんてすぐに判った。
229笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:30:19.81 ID:29mgkWUk0


「どうしたんだい! サザエ!」
「か、母さん! こ、これ!!」
「全く! 人間はこれだから嫌なのだわ! レディの部屋をノック
もしないで――!」
 姉さんに襟を掴まれて宙ぶらりん。真紅のそんな状況を見て、僕
の世界は止まった。
 止まった世界のハズなのだが、真紅の目は間違いなくこちらを見
ている。
「あらカツオ。紅茶は煎れてきたのかしら?」
 やめろやめろ! 僕の名前を呼ぶな!
 
「カ〜ツ〜オ〜! なにか知ってるの? これ!」
 姉の腕が前に、真紅が僕の眼前に突き出される。
「これとは失礼ね」
「あなたは黙ってなさい」
「――」
 姉さんに言われて言葉を失ったのか、真紅は黙ってこちらを見る。

 ――ああ。なんていうか。いっそのこと指一本ぐらい覚悟してお
こうかな。
230以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 22:31:46.17 ID:2mSDtMPSO
支援。

猿さん回避のためにな!
231笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 22:35:22.71 ID:29mgkWUk0


「――というわけで、真紅はここにいるんだよ」
 ローゼンメイデンのことを説明する。至って触りだけな上に殆ど嘘だ。
 要するに、真紅たちを作った人から送られてきた。だから捨てる
わけにもいかない、と。

「ふ〜ん。この子がねえ」
 見る限り、姉さんと母さんは真紅が人形だということに気がつい
ていなかったようだった。故に、僕の説明を聞いたところで信じた
りはしなかった。
 それでいい。真紅たちの闘い。アリスゲームに巻き込まれない為
には、いっそ真紅を人間だと思ってくれた方が助かる。

「いいから紅茶を持ってきなさい」
「お前は黙っててくれ。母さん、姉さん。真紅は他に行くところが
ないんだ。お願いだから、ここにいさせてやってくれないか?」
「――そうねえ。見たところ本当に小さい女の子だしねえ」

「いいわよ。ただし、真紅ちゃんもこれからは色々と手伝ってもら
うわよ!」
232以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 22:42:33.76 ID:2mSDtMPSO
支援
233以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 22:56:51.89 ID:dAEreSwzO
笑み社さん今からでも遅くないタラオをボコってくれ

怒りが収まらない
234以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 22:57:55.54 ID:2mSDtMPSO
支援しとく。

笑み社ちゃん可愛いよ可愛いよ。
235笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:05:51.54 ID:29mgkWUk0


「だわだわ!」
 今日も皿が割れる音がする。同時に聞こえるのは真紅の悲鳴。
 姉さんも早く気がついた方が良い。

 ――真紅は家事に関する全ての事柄が苦手なのだ。
 
 以前真紅に朝食を作らせた時、この世のものとは思えないものが
出来た程である。
 洗濯機も扱えず、皿洗いをすれば先刻のように皿を割る。
 典型的なお嬢様をそのまま人形にしたような。そんな人形が真紅
なのだ。ローゼンというのは真性のMなのだろうか。

「ねえ、お兄ちゃん」
 机に向かって宿題に勤しんでいるワカメが話しかける。きっと真
紅のことだろう。
「さっき、花沢さんが呼んでたよ。今すぐうちに来てって」
「花沢さんが? なんでさ」
 真紅のことではなく、花沢さんの話。つまり、花沢さんは僕に大
きな用事があるのだろう。
「わかんない。でも、結構急いでたよ」
 花沢さんが僕を家に呼ぶことは珍しいことじゃあない。しかし、
急いでいるという点に関しては珍しい。
236以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:09:21.29 ID:sWDw2Ren0
支援
237笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:11:13.93 ID:29mgkWUk0


「あら。出掛けるの? ちょうどいいわ。サザエが鰹節を所望して
いるわ。今すぐに買ってきなさい」
 玄関で真紅とばったり出会い、開口一番お使いを命じられた。別
団断る理由もないが花沢さんの家に行くからすこし遅くなると真紅
に言った。
「――そう。なら私も連れて行きなさい。命令よ」

 ――読めた。
 このお使い。真紅が命じられたものだろう。それを僕に押し付け
ようとしたが、花沢さんの家という言葉に興味を持ち、行こうと決
めたのだろう。

 リュックに真紅を詰める。
 連れて歩くのもいいのだが、さすがに小さな女の子と一緒に歩く
のは恥ずかしいのだ。
「……結構快適ね」
 歩かなくても前に進めるというのがお気に召したのか、真紅はリ
ュックに詰められても道中、文句を言わなかった。
238笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:15:33.87 ID:29mgkWUk0


「あ! 磯野く〜ん!!」
 花沢さんは玄関前に水を撒いている。これは彼女の日課であり、
毎日続けている一種の手伝いであった。
「どうしたの? 花沢さん、いきなり呼び出して」
「ぐふふ。見せたいものがあるのよ」
 花沢さんはバケツを仕舞い、花沢不動産の中に僕を入れた。

「あ! 花子〜遅かったの〜!」
「ごめんね。雛苺、お客さんが来ててね」 
239以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:19:25.13 ID:sWDw2Ren0
支援
240笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:20:05.99 ID:29mgkWUk0


 ――え?
 ピンク色の装束。綺麗な金髪。大きなリボン。
 明らかにその容姿は日本人のものではない。それならば――

「その子――」
「ええ、そうよ。雛苺。ご挨拶しなさい」
「うぃ〜、むっしゅ。ヒナは、ローゼンメイデン第6ドール。雛苺
なの〜」
「――!」
 その声を聞いて、リュックが跳ねる。
「雛苺……ですって?
 カツオ! 今すぐここから出して頂戴!!」
 リュックのファスナーを開ける。真紅はすぐに飛び出し、雛苺と
対峙する。

「真紅……なの?」
「ええ。雛苺……」
「わ〜いなのー! 真紅〜!」
 雛苺が真紅に抱きつき、真紅も雛苺の抱擁を素直に受け止めた。
「もしかして、見せたかったって」
「そう。この子。前に学校で言おうとしたんだけど、磯野くん廊下
に立たされちゃうんだもん」
「――ああ。あの時か」
「可愛いわよ。この子。素直で小さくって」
「うちのは全然素直じゃないけどな」

 ――ローゼンメイデン第6ドール。ということは、真紅の妹とい
うことになるのか。
241笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:26:16.52 ID:29mgkWUk0


「よかったな。真紅」
「なにを指していっているの?」
「なにって。雛苺さ。お前の妹みたいなものなんだろ?」
「――ええ。そうね」
 時刻は夕方の5時。日は傾き、夕日のオレンジが街を包んでいた。
 リュックに入っている真紅の表情は見られないが、僕等の声はお
互いによく聞こえた。
「ねえ、カツオ」
「ん。なんだ?」
「――私たちは姉妹である前にアリスゲームのライバル。いうなら
ば、敵よ。それは雛苺も判ってる。だから、私たちに姉妹の絆なん
て――ないのよ」
「――」
 真紅は極めて冷淡に言い放つ。
 それがどのような意味を持つかなんて知らない。でも、僕が見る
限り、真紅と雛苺は間違いなく姉妹であり、彼女たちがいがみ合う
理由なんてどこにもないのだ。なにより、姉妹で争うなんて悲しす
ぎる。

「出会わなくていいのなら、出会いたくなんてなかった」

 リュックから、そんな本当にか細い声が聞こえた。
242以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:28:36.60 ID:2mSDtMPSO
支援。
支援しないと笑み社ちゃんが猿さんされてしまう!!
243笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:30:53.40 ID:29mgkWUk0




「カツオ! なんなのあの子供は!」
 真紅が珍しく怒りを露にしている。いつもなら何も言わずに僕の
頬を叩くのに、この状況はなかなか珍しい。
「あの子供?」
「ですですですですですですと! 本当に腹が立つわ!!」
「――ああ。タラちゃんか」
 確かにタラヲは人の癇に障ることを多くすることで有名だ。
慣れれば聞き流すことも出来るが最近からうちに住んでいる真紅は
慣れていないため、苛立ってしまうのだろう。
「そうよ! 全く! あの口調が一番腹が立つのよ。まるで――」
 ――まるで、と。その後には何も言わなかった。

 ――というより、言えなかったのだ。

 その、ミサイルかロケットかのような速度でガラスを割りながら
飛んでくる。西洋風の鞄によって。
244以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:35:53.67 ID:2mSDtMPSO
宣伝してきたぜ支援。
245ゲロ魔導師 ◆GERO.P255g :2009/05/09(土) 23:39:21.54 ID:vnYtISrt0 BE:878520645-2BP(1112)

支援する
246以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:44:09.16 ID:4oqX5P9y0
今北
247以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:45:37.26 ID:Cj2NYgZ20
さるらしいので支援
248以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:47:11.31 ID:z0i5gfhA0
内容がいろいろとひどい
249以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:47:25.67 ID:2mSDtMPSO
支援
250以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:48:00.99 ID:jee8xjP40
エッチなことしてください!
251以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:48:18.65 ID:dAEreSwzO
しょうがねぇなぁ
第四章に期待して支援

四章でタラオボコってくれ
252笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:48:59.38 ID:29mgkWUk0


「これは、まさか……」
 中世ヨーロッパ風のつくり。重たそうなこの鞄はこの部屋に置い
てある真紅の鞄と同じものだ。

「いやですぅぅぅ!!」

 鞄が勢いよく開き、僕の顎にクリーンヒットする。それだけで
も失神ものなのだが、中から出て来たものはその衝撃を遥かに超越
していた。

「翠星石!」
「!? し、真紅ですか!」

 緑色の服。ブラウンの長い髪。真紅や雛苺と同じ、人形の少女。
 またあんな連中が現れたのか。そう思い、膝から崩れた。
 ――もう、嫌……。
253以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:52:09.74 ID:aVxoH5z/0
支援
254笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:55:11.25 ID:29mgkWUk0


「どうしたの翠星石。貴女が取り乱すのはいつものことだけれど鞄
で飛んでくるなんて」
 ガラスが吹き飛んだため、風がカーテンを揺らす。ついでに教科
書やノートもめくれ上がっている。
「はい……だって……蒼星石が……」
「蒼星石もいるの!?」
 話を聞く限り、蒼星石というのもいるのだろうか。きっともう一
枚のガラスも、その蒼星石とやらに割られるのだろう。
「翠星石〜!!」
 ――あ。やっぱり。
 ガラスは健闘虚しく、粉々に砕ける。
「蒼星石! 翠星石は戻らねぇですよ!」
「そんなこと言わないで。おじいさんだってもう怒ってないから、
ね。
 ――って! 真紅!!」
「こんにちは。久しぶりね、蒼星石」

 ――呪い人形が三体。
 きっとこの後。紅茶を要求される。故に僕は黙って紅茶を煎れに
いった。
255以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:57:26.00 ID:+29udm/k0
私怨
256以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/09(土) 23:58:01.81 ID:bI/VkzRI0
うーん…
物書きとしてゆるせないんだが
何この幼稚な文章
257笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/09(土) 23:59:47.36 ID:29mgkWUk0


「そう。翠星石が家を出た理由は判ったわ。それじゃあ、帰りなさ
い」
「嫌です!」
「翠星石!」
 ――帰ってみれば、話し合いも終盤になっていたようで2人は帰
るか帰らないかで揉めているらしい。
「別に無理に帰ることはないだろう? 喧嘩した相手とは、少し距
離をとってみればいいよ」
 紅茶を配りながら提案する。僕も友人と喧嘩した時、一旦距離を
とることで仲直りした経歴があるのだ。
「そ、そうですぅ! この人間が言う通りですぅ! 真紅、翠星石
に部屋を用意するですぅ」
「そうね。部屋は用意しないけれど、暫くはここにいるのもいいわ
ね。蒼星石。そういうことだから、ミーディアムに報告しておきな
さい」
「う、うん。じゃあね真紅。翠星石は迷惑をかけないようにね。
 あ、紅茶。ごちそうさまでした。真紅のマスター」
 蒼星石は丁寧に礼を言って鞄に入り、外に飛び出す。
258以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:01:10.91 ID:0uiAa/Q3O
支援だ
259以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:01:17.17 ID:V3Ys6Mhh0
支援
260以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:04:22.90 ID:ZP+k+t0e0
    ∧_∧ ♪
   (´・ω・`)  ♪
   ( つ つ
 (( (⌒ __) ))
    し' っ

 ♪
  ♪ ∧_∧
    ∩´・ω・`)
    ヽ  ⊂ノ
    (( (  ⌒)  ))
      c し'
261以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:05:10.14 ID:kmYgNyo90
とりあえずおいついたが

なぜか澪が死んでる
262笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:05:23.44 ID:zknSa66A0
「真紅。ありがとうです……」
「礼を言うのなら、フネに許可をとってからにしなさい」
「いいって。母さんには僕から言っておくから」
「あ、ありがとうですぅ。翠星石は誇り高きローゼンメイデン第3
ドール。翠星石です。これからもよろしくお願いするですぅ」
 翠星石はぺこりと可愛らしいお辞儀をする。
 僕が出会って来たローゼンメイデンの中では一番おしとやかな印
象だ。今までは真紅のようなわがまま娘。雛苺のような子供と淑女
には程遠い人形ばかりだったからだ。

 ――その印象も、数分後には覆されることになるだが。
263以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:06:05.40 ID:ZP+k+t0e0
 ウンタン♪
      ∧_∧   
   (( ('(´・ω・`)')  ウンタン♪
     O^    / ))
     ヽω>_ノ
264以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:07:11.47 ID:V3Ys6Mhh0
支援
265以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:08:54.04 ID:ZP+k+t0e0
ヽ(・ω・ヽ)スットコドッコイ( ノ・ω・)ノ スットコドッコイ
266以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:09:20.67 ID:bZeinWmN0
支援
267笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:11:07.37 ID:zknSa66A0


「カツオにいちゃ〜ん!」
 
 タラヲが僕を呼んでいる。丁度いいので母さんに翠星石のことを
報告しておこう。
 ティーセットを片付ける。真紅が来てから毎日のように行って
いる行為故、手際は良くなった。
「翠星石だっけ? 僕の家族に挨拶しにいくぞ」
「はいですぅ!」
 僕の後ろをぴょこぴょことついてくる翠星石。ブラウンの長い髪
が揺れる。
「翠星石。この家の家長は私、真紅よ。まずは私に挨拶してしかる
べきじゃないかしら?」
「なにを言っているんだ? いつお前が――」
「カツオ兄ちゃ〜ん? 早く来るです〜」
 痺れを切らしたのか、タラヲが僕の部屋まで来る。その瞬間であ
る。
「!?」
 ――翠星石とタラヲに、なにかが生まれたのは。
268以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:13:17.18 ID:V3Ys6Mhh0
支援
269以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:14:49.29 ID:0uiAa/Q3O
支援
270以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:15:42.42 ID:ZP+k+t0e0
         ,.
         /ノ
    (\;''~⌒ヾ,
    ~'ミ  ・ ェ) メェメェ
     .,ゝ  i"
 ヘ'""~   ミ
  ,) ノ,,_, ,;'ヽ)
  し'し' l,ノ
"''""""''""""""''"""
271笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:15:42.52 ID:zknSa66A0


「おまえ……翠星石の口調をパクりやがるとは! とんだ不貞野郎
ですぅ! さっさとその口調を止めて、おとなしくママのおっぱい
でも吸ってろ! ですぅ!」
 先刻までの翠星石とはうってかわり、乱暴な言葉遣い。そして天
へ向かうように立たせた中指がこの部屋に静寂と嵐を生み出した。
 僕は完全に面を食らい、うどの大木のように突っ立ったままだ。
真紅はため息と共にそそくさと部屋を後にし、残ったのは険悪なム
ード全開の2人と僕の3人。
「何を言ってるですか〜? 僕はパクってなんていないです〜。僕
が不貞野郎ならキミは嘘吐きです〜」
「な! なにを言ってるですか! この物まね人間!!」
「物まねじゃないです〜!」
「物まねですぅ!」

 ――あ。
 忘れてた。僕、縦笛を買いに行かなきゃ。

 敵前逃亡。というより、ここは放っておいた方が良い。
 僕は意味もなく外を出た。
272以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:17:54.01 ID:V3Ys6Mhh0
支援
273以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:18:01.27 ID:0uiAa/Q3O
縦笛wwwww
274以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:19:08.27 ID:ZP+k+t0e0
(´・ω・`)ゞ
275笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:19:36.03 ID:zknSa66A0


 ――中島にローゼンメイデンのことを話すわけにもいかない。つ
まるところ、この件について相談出来るのは花沢さんだけなのだ。

「花沢さ〜ん!」
「あ! 磯野くん! 雛苺〜。磯野くんよ〜」
 奥から雛苺がやってくる。いつものように元気一杯の姿に安心す
る。もはや、彼女は花沢さんにとって唯一無二の存在であり、彼女
がいなくなるというのはそれ即ち花沢さんの心の柱が無くなるとい
うことなのだ。
「カチュオ〜なの〜!
 ――!?」
「どうしたの? 雛苺」
 雛苺の様子がおかしい。近くに浮遊している人工妖精『ベリーベ
ル』が雛苺になにかを囁く。

「ここは、危ない?
 花子! 逃げ――!」

 雛苺が言い終えたか言い終えないかのうちに、花沢不動産は巨大
な水晶に押しつぶされた。
276以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:20:41.79 ID:0uiAa/Q3O
雛苺おおおお!!!!!
277以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:21:52.34 ID:V3Ys6Mhh0
支援
278以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:21:53.84 ID:ZP+k+t0e0
 ○○○
○ ・ω・ ○ がおー
 ○○○
c(_uuノ

      ○。○
 ミ ハックシュ ○  o ○
`ミ`д´∵゚。o ○
c(_uuノ ○○ ○


  ∧∧
 ( ・ω・)  ○○○
c(_uuノ ○○ ○○○
279以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:24:19.05 ID:ZP+k+t0e0
パワーゲイザー!!!


            /|
  __     /| / |
  |テリー |_ /|/ |/ |/|
⊂(´・ω・ ) /      |_
〈 ⌒  | /         /
 (_)ノJ/______/
280笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:24:43.74 ID:zknSa66A0


「雛苺!? 雛苺!!」

 間一髪巻き込まれずにすんだが状況は絶望的だ。
 雛苺が立っていた位置と水晶が落下して来た位置。まさに必殺の
位置であり、アレを避けきるとするならばそれは人の業ではない。
 ――否。あんなモノ。人間ではない彼女たちですら避けることは
不可能だ。零、生きていられる可能性なんて、零と言っても良い。
「――」
 ここからなら見える。この水晶を放った主を。
 紫色の装束。薔薇の眼帯。まさしく、それは真紅たちと同じ、ロ
ーゼンメイデンだ。

「雛苺……さようなら…………」
 
 紫の人形は、たしかに、そう、言った――
281以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:25:33.28 ID:ZP+k+t0e0
(´・ω・`)
282以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:26:19.66 ID:V3Ys6Mhh0
支援
283以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:26:57.62 ID:ZP+k+t0e0
ヾ(o゚ω゚o)ノ゙ プニプニ!プニプニ!
284以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:27:26.66 ID:0uiAa/Q3O
支援!
285笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:28:17.59 ID:zknSa66A0


 特大の水晶が飛んでくる。
 これは間違いなく必殺の一撃であり、雛苺の死体をも残さない。
そんな一撃だった。
 ――それを放つのならば、判りやすい。
 雛苺は生きている。
 そうでなくてはあの人形は雛苺にとどめを刺す必要がない。
「雛苺――!」
 花沢さんの悲痛な叫び。彼女も理解しているのだ。

 雛苺はこんどこそ――死ぬ。

 理屈などではない。これは本能だ。
 死を理屈で理解することは出来ない。故に、この予感はまちがい
ない直感であり本能の産物だ。
 死がコンマ数秒以内に雛苺にもたらされる。否、もう死んでいるのかもしれない。

「――薔薇の盾(ローズシールド)――!」

 巨大な紅い薔薇が水晶を受け止め、受け流す。
 それは彼女を――

「――カツオ。貴方、本当にどんくさいわね。レディの一人も満足
守れないなんて」

 あの、紅い少女を思い起こすものだった。
286以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:29:31.77 ID:0uiAa/Q3O
真紅様!真紅様!
287以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:29:39.88 ID:V3Ys6Mhh0
支援
288笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:30:42.28 ID:zknSa66A0


「真紅! 翠星石まで引っ張りだしてなんなんですか! 翠星石は
まだ物まね人間との決着を――!」
「黙りなさい翠星石。今は雛苺の救出が先決よ」
「雛苺? まさか! あの中にチビイチゴが!?」
 翠星石の手には大きな如雨露。見据えるは水晶に潰された花沢宅。
 ……手が震えている。翠星石も理解しているのだ。あの中にいる
雛苺の絶望的状況を。
「翠星石。スイドリームを使って水晶を引き上げ、その間に私が雛
苺を」
「判ってるです! スイドリーム!」
 如雨露が輝き、アスファルトを砕く程に雄々しい大樹が姿を見せ
る。その勢いで水晶が砕け、真紅が飛び込む隙間が生じた。
「雛苺!」
 
 ――よかった。雛苺は無事だ。
 ここから見える限り、雛苺は生きている。

「――!」
 遠くの紫の人形が手を翳す。
 ……忘れていた。あの紫の人形を2人に伝えていない。故に――
「きゃあああああ!!!」
 真紅に水晶が降り注ぎ、雛苺との距離が開く。
289以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:30:45.85 ID:ZP+k+t0e0
(´・ω・`)
290以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:31:53.64 ID:0uiAa/Q3O
笑み社ちゃん可愛い……
291以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:32:10.76 ID:ZP+k+t0e0
(´・ω・`)
292以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:32:13.84 ID:V3Ys6Mhh0
支援
293笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:33:08.78 ID:zknSa66A0


「真紅!」
「大丈夫だわ。これぐらいで、諦めて――きゃあっ!」
 水晶は容赦なく真紅を攻める。この水晶の主を2人に教えないと
――
「真紅! 翠星石! あそこにローゼンメイデンがいる! 紫の奴
だ!」
 僕の言葉に2人は明らかに驚いている。その顔は在り得ないこと
を聞いたという顔だ。
「そんなことあるはずないのですぅ! 紫のローゼンメイデンなん
て――!」

「いる筈ない。そう仰りたいの? 翠星石」

 僕等の目の前に降りて来たのは存在しない筈の紫色。

「てめーは――誰ですか!?」

「私の名は薔薇水晶。ローゼンメイデン第7ドール」
294以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:33:32.42 ID:ZP+k+t0e0
(´-ω-`)zzz…
ノシ
295以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:34:28.39 ID:V3Ys6Mhh0
支援
296笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:34:59.53 ID:zknSa66A0


「薔薇水晶……だと……!」

「――」
 翠星石の表情は険しく、目の前の事実を信じることが出来ない。
そんな表情だった。
 ……第7ドールの存在。それ自体は決しておかしいことではない。
真紅も言っていた。『ローゼンメイデンは7体』。それが嘘でなけれ
ば、翠星石が第7ドールに対して、ここまでの驚きを見せる筈がな
い。

「アリスゲーム。それが、お父様の望み」

 水晶を翠星石は避けられない。ミーディアムのいないドールは本
来の力を発揮することが出来ないからだ。
 ――嫌だ。
 僕は間違えない。僕が求めているものは『幸福』だ。なにかが目
の前で無くなってしまうのは、もう――

「うわぁぁぁ!!」
 考える暇もなければ。
 思案する時間もない。
 翠星石の盾になって水晶を受けることに、なんの躊躇もなく行動
に移した。
297以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:36:14.66 ID:V3Ys6Mhh0
支援
298笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:38:44.76 ID:zknSa66A0


「――ん! ――ん!!」

 何か、聞こえる。
 血に塗れた僕を、誰かが――

 
 ――ああ。ダメだ。
 全身に力が入らない。
 まるで、僕の中に存在していたエネルギーというエネルギーが総
て吸い取られていくようだ。指が熱くって千切れてしまいそうにな
る。
 耳に神経が行かず、『磯野カツオ』という存在が左手の薬指に収束
し、その薬指が破裂してしまえば――僕は――

「――カツオ。帰るわよ」

 意識が完全に消え去る前に――凛とした声がした。

 最後に見たものは、ピンク色のヒカリと少女の泣き顔だった――
299笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:39:44.28 ID:zknSa66A0




「第七の……今まで誰もあったことのないローゼンメイデン、か」
「はい……翠星石たちだけじゃ……追い払うのが精一杯だったです
ぅ……」
「まったくだわ。あの薔薇水晶、私たちとはまるで強さが違う。ま
るで――私たちとは『違うモノ』のような」
 薔薇水晶の一件。それは彼女たちローゼンメイデンにとっても一
大事だった。今まで何百年も膠着状態だったアリスゲームが動き出
したコト。彼女たちが同じ時代に目を覚ましたことすら異常事態で
あるというのに、その中でも今まで誰も会ったことも聞いたことも
ない、最早存在するかすら判らない。その第七ドールが自分たちの
前に現れ、雛苺を倒していった。それは永い時間を生きてきた彼女
たちにとっても由々しき事態であり、一刻も早く解決しなければな
らない大事なのだ。
「薔薇水晶、だったっけか? あの子の能力とかそういうのは判ら
ないのか? 真紅」
「……おそらく、水晶の能力でしょうね。ただ……」
「ただ?」
 この場にいて、薔薇水晶に会っていないのは蒼星石だけだ。彼女
が薔薇水晶に遭遇した際に、対応が遅れてしまう可能性がある。そ
れ故に蒼星石には僕たちが持つ総ての情報を提供する必要が在る。
もはや、アリスゲームは『未知』を照らすために第三、四、五のド
ールが一丸になる必要があるのだ。
300以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:40:10.33 ID:V3Ys6Mhh0
支援
301以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:41:25.61 ID:0uiAa/Q3O
これは……終わるのか?
302笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:42:36.81 ID:zknSa66A0
「――人工精霊をつけていなかったのだわ」
「そ、そんな筈ねえですぅ! 確かに、翠星石も薔薇水晶の人工精
霊を確認してねぇですが、お父様が翠星石たちに差別なんて――!」
「僕もそう思うよ。僕たちは全員人工精霊をつけている。僕のレン
ピカ、君のホーリエのようにね。
 それがないということは、その薔薇水晶は自らの力のみで真紅や
翠星石。それに雛苺を圧倒したということになる」
「……つまり、薔薇水晶を倒すには君達では――」

 ――倒せない。
 彼女、薔薇水晶はローゼンメイデン中『最強』ということになる
のだ。
303以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:43:57.66 ID:V3Ys6Mhh0
支援
304笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:45:07.71 ID:zknSa66A0


「ひとつ。心当たりがあるわ」

 薔薇水晶を倒すことが出来ない。
 その結論に至り、部屋を重い空気が支配した。その中でたった一
言だけ真紅が呟いた。その呟きを聞いて、今まで俯いていた2人が
驚嘆した顔を上げた。その顔は安堵と不安が混ざった表情。つまり、
彼女たちも心当たりはあるのだ。しかし、それを期待している反面
にそれを敵として認識している面もあるのだ。ならば、その心当た
りというものとは――
「――他のローゼンメイデン、か」
 他のローゼンメイデンが加われば或いは薔薇水晶を倒すことも叶
うかもしれない。しかし、それにも条件がいくつか存在する。
一. そのものが目覚めているか。この時代に目覚めていないので
   は味方になってもらうことも叶わないのだ。

一. そのものが味方になる意志があるか。最悪、敵になってしま
  った場合、我々の敗北は決定してしまう。

一. そのものが本当に力があるのか。真紅たちの買いかぶりだっ
  たとしたら、そのコトで我々の勝利が遠のくからだ。
305以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:45:23.74 ID:0uiAa/Q3O
だが支援
306以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:47:08.71 ID:V3Ys6Mhh0
支援
307笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:47:55.03 ID:zknSa66A0


「――そいつは、強いのか?」
「心外ね。あの子は純粋な戦闘能力ならば私たちが全員でかかって
いっても或いは、というところよ。貴方、家来のくせに主人の言葉
が信頼出来ないの?」
「――」
 いつもと変わらない口調。その言葉で安心し、口元が緩む。
「どうしたのですか? 人間」
「いや、真紅がそこまで言うなら、そいつは本当に強いんだろう。
それよりも、翠星石と蒼星石は誰かと契約しているのか? 力を使
うとミーディアムの肉体が疲弊するのなら、君達の場合はミーディ
アムへの配慮が必要なんじゃないのか?」
308以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:49:07.59 ID:V3Ys6Mhh0
支援
309笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:50:07.26 ID:zknSa66A0
「うん、僕は裏のおじいさんと契約しているけれど――」
「翠星石は……まだ、だれともミーディアムの契約をしていないで
す……」
 ――驚いた。
 裏のおじいさんが蒼星石と契約しているということもそうだが、
翠星石が未だに誰とも契約していないという点についてはさらにだ。
「ちょ! ちょっと待て! 契約していない奴は力を使えるの
か!?」
「はい。ミーディアムがいない翠星石でも力を使うコトが出来ない
というわけではないですぅ。勿論、大幅な弱体化はしますが……」
「その弱体化っていうのはどれぐらいだ?」
「そうですねぇ。ミーディアムがいる真紅の強さが25mのプール
だとすれば、今の翠星石の強さは精々この家のお風呂程度ですぅ」
 ――つまり、彼女。翠星石には一刻も早く誰かと契約を交わす必
要があるというコトになる。彼女が戦力にならなければ薔薇水晶を
打倒することはできないのだから。

「とにかく、あの子を捜しましょう。
 ――水銀燈が協力してくれるとは思えないけれど、ね」
310以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:52:07.68 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
311以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:52:54.92 ID:0uiAa/Q3O
支援しますよ!
312笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:53:19.15 ID:zknSa66A0




interlude

 底暗い教会。かつて、日曜日にはミサが開かれていたこの教会も
今は神父もシスターもいない、寂びれた建物となっている。
 ――本当に暗く、黒い。灯りといえば割れたガラス窓から照らさ
れていた月光のみだ。今宵は満月。暗い教会に珍しく光が広がる。
 巨大な十字架。この十字架の前で、果たしてどれほどの男女が永
遠の愛を誓ったことだろうか。
「――」
 果てのない闇に一つの影。銀色と黒色の影。それは人影では決し
てない。――理由なんて簡単だ。その影の正体は人形であり、人間
ではないのだ。
 人形の表情は重く、なにか悲しみを背負っているようにも見える。
もしくは、なにかを思案している。そのような表情だ。
313以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:54:49.60 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
314笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:56:03.09 ID:zknSa66A0
「――ああ、なんだ。こんなところにいたのか」
 教会の重たいドアが開き、人が侵入してくる。小柄な少年なのだ
が、その口調はひどく大人びている。
「どこにいたっていいじゃない。それとも貴方。私が他の子に負け
たとでも思ったのぉ?」
 銀と黒の人形が少年を責めるような口調で言う。少年は両手を上
げて戯けたようなポーズをとってやれやれと漏らす。
「それは在り得ない。僕自身、君の姉妹を直接見たわけではないが
君が他の子に負けるなんて到底思えないね。否、君ならば一国の軍
が相手でも勝利できよう」
「フフ、貴方ホントおばかさんねぇ」
「ああ。でも、君の力は知っているつもりだ。
 ――水銀燈。アリスになるのは、君だ――」
 張りつめた空気に少年の声が響く。
 月光に、眼鏡をかけた少年が照らされる。

「ええ。なら精々死なないように気をつけなさい。中島」

interlude out
315以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:57:51.03 ID:V3Ys6Mhh0
ここで中島 

支援
316笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 00:58:09.72 ID:zknSa66A0


「そういえば、水銀燈っていう子の手がかりはあるのか?」
「いいえ。まったくないのですぅ」
「翠星石ちゃんは馬鹿で〜す。キモイです〜」
「! いちいちつっかかってくるなです! この物まね人間!」
「黙れで〜す」
「てめえが黙れですぅ!」
 早朝から騒がしい。翠星石が家にきてからタラちゃんモードから
タラヲモードになっている。タラヲモードの煩わしさはゴキブリな
んて比にならない。翠星石が腹を立たせているのも当たり前だ。慣
れている筈の僕でさえ、タラヲは殺してやりたい衝動に襲われるの
だから。
「騒がしいわね。いい? 水銀燈は一筋縄じゃいかないのよ? あ
の子を仲間に引き入れるには切り札を持っているべきなのよ」
「切り札って? 水銀燈に弱みがあるとは思えないけれど……」
「蒼星石。あの子を真っ二つにしたことのある貴方が言う台詞では
ないけれど、確かにあの子を仲間に引き入れるための『弱み』は存
在しないわ。ただし、あの子を釣る『餌』なら私も知っているつも
りよ」
317以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 00:59:30.54 ID:V3Ys6Mhh0
タラヲ氏ね

支援支援
318以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:00:14.49 ID:0uiAa/Q3O
もはやSSじゃねぇなwwww

>>317
同士よ
319笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:00:50.70 ID:zknSa66A0
 聞いたところによると、水銀燈というのは彼女たちローゼンメイ
デンの中でも最も早くに作られた第1ドールであり、彼女たち全員
のお姉さんということになる。
「餌? なんですか? それ」
「これよ!」
 真紅がポケットから出したもの。それは薄黄色の液体が入った容
器。その容器には『ヤクルト』と書いてある。即ち、これは乳酸菌
飲料という奴なのだろう。
 ……無論、僕はこんなもので第1ドールが捕まるなんて思っては
いない。しかし真紅の自信は相当なものだ。これならばもしかする
といけるかもしれないという期待がもてる。
「それをどうするんだ? まさかざるで捕まえるんじゃ……」
「あら。よく判ったわね。
 早く準備なさい」
 ……呆れた。
 まさか本当にそんな古典的な方法で捕まえようとするなんて。
 もしかすると、第1ドールの水銀燈というのは実はトンデモなく
頭が悪く、その反面戦闘能力は高いのかもしれない。
320以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:01:42.06 ID:MXN8JLSi0
甚六「ざまぁwwww」
321笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:02:12.69 ID:zknSa66A0


「準備出来たわね。あとはあの『ジャンク』を待つだけよ」
「――成る程ですぅ……
 そーですねー! あの『ジャンク』でも待つとするですぅ!」
「そうだね。まあ、来ないかもね。あの『ジャンク』は」
 三人の間では既に作戦は開始していたらしく、三人は大声でジャ
ンクを強調しながら話す。
 真紅が丁度20回目のジャンク発言の瞬間――

「貴女たちぃぃぃぃ!!!」

 黒い。漆黒の装束を纏った少女が僕らに向かって飛来してきた。
「来たわね。翠星石」
「りょーかいですぅ!」
 真紅の合図で翠星石がざるからヤクルトを持ってくる。それを真
紅に渡す。
 真紅は安心した面持ちで怒りで顔が真っ赤の水銀燈に駆け寄る。
「貴女たち! どうしてもジャンクになりたいようね!!」
「落ち着いて、水銀燈。これを――」
 ヤクルトを渡し、真紅は水銀燈に一言。
322以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:02:42.04 ID:V3Ys6Mhh0
支援
323以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:03:30.62 ID:0uiAa/Q3O
ザ・支援。
324笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:05:02.66 ID:zknSa66A0
「――たすけて、『お姉様』――」

 その言葉を聞いて、水銀燈の顔面は一気に赤から真紅に染まる。
彼女にとって、お姉様という言葉は予想以上に効果的な言葉のよう
だ。
「しょ、しょうがないわねぇ! まあ? こんなに可愛くない子で
もぉ。一応姉妹だしぃ、助けてあげないこともないわよぉ!」
「ありがとう。お姉様」
 ――この2人からはなにか妖しいものを感じる。例えるなら百合
的な何かだ。薔薇(ローゼン)だっていうのに百合じゃあまるっき
り矛盾している。
325以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:06:42.23 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
326笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:06:49.94 ID:zknSa66A0


「――それで、貴女に協力してほしいのだわ」
「第7ドール。薔薇水晶……ねぇ……」
「お願いですぅ! 薔薇水晶に……チビイチゴは……」
「雛苺? あの子はその子に負けたっていうの?」
「うん。真紅と翠星石も……ローザミスティカをとられなかっただ
けで……」
「完全敗北だったのだわ」

 僕の自室はいつのまにかローゼンメイデンたちの憩いの場になり、
また作戦会議の場にもなっていた。議題はもちろん薔薇水晶のこと
だ。水銀燈は僕たちに協力してくれるらしいが条件があった。
 ――それは、水銀燈のミーディアムを探ってはならない、という
ものだった。彼女のミーディアムは戦いを嫌っているのか、それと
も作戦なのか真相は判らないが今は薔薇水晶を倒す戦力に加わって
くれたことを僥倖と思うべきだ。
327笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:07:57.55 ID:zknSa66A0
「水銀燈」
「なぁに? もしかして、貴方が真紅のミーディアム?」
「ああ、そうだ。
 君は、その薔薇水晶に勝利する自信というか。そういうものはあ
るのか? もし、この中の誰か1人でも倒れたら、きっと薔薇水晶
は倒せない」
「フフ……貴方、私を馬鹿にしているの? 言っておくけれど。私
はローゼンメイデン中最強よ」
「――!」
 ……驚いた。彼女たちローゼンメイデンは誰もが自分が最強にし
て最高のドールだと思っている筈だ。しかし、その思いは自分の中
で封印して戦う。
 それは偏に敗北した時が辛いから。ホラを吹き、嘯き、それで敗
北したならばそれは敗北を遥かに超えた『恥』だからだ。

「だから、私は負けないわ。仮に、真紅たちが敗北しても――私1
人でもそれは変わらないわ――!」
328以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:08:39.87 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
329以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:09:03.28 ID:0uiAa/Q3O
……真夜中……だと……!
330笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:09:55.15 ID:zknSa66A0




interlude

「お父様……」
 夜空に一人。瓦の屋根に、紫色の少女が呟く。
 暗黒の空に、憂いた目はただ月を眺めていた。
 彼女自身、どうしてここにいるのかが理解出来ない。ただ、感傷
に浸りたくなった。それだけなのであるが、問題はそこだ。彼女に
とって、自身など戦闘の道具であり作り手である父を喜ばせるだけ
の人形に過ぎないというのに、どうしてか姉妹で殺し合うこの戦い
を憂い、そして自らを哀れに思ったのだ。本来は、そんな感情(も
の)はあるはずがないというのに。
 彼女が、他の子たちと同じく、ローゼンに作られていたとしたら、
この感情を判ってくれるドールがいたのかもしれない。しかし、自
分を作ったのは他のドールを作った者とは違う。故に、この苦しみ
は自分だけのものだ。
 ――ああ。切ない話だ。
 人間は人間という括りのなかで生活する。そのため、他人の痛み
を知ることも出来る。
 しかし、自分は第七ドールと名乗っていても事実ではそうではな
いまがい物だ。
 ……ローゼンメイデンではない自分の痛みを、ローゼンメイデン
が知る筈がないのだ。
 彼女は永遠に独り。
 永遠に、孤独――

interlude out
331以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:11:26.17 ID:V3Ys6Mhh0
支援
332以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:12:18.66 ID:0uiAa/Q3O
支援支援
333笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:12:54.41 ID:zknSa66A0


「死ねですー! 呪い人形ー!」
「な! なんてこというですかこの物まねちび人間は! いいです
か? 翠星石たちは大事なことを話しているのですぅ! 邪魔すん
じゃねえです」
「五月蝿いですー!」
「五月蝿いのはお前ですぅ!」
「どっちも五月蝿いわよぉ!! ジャンクにするわよ!」
 タラヲと翠星石の不毛な言い争い。それを制止するのはいつもは
真紅の役割であるのだが、真紅はnのフィールドに用事があるとい
うコトなので、2人の子守りは僕と水銀燈でしていた。
「翠星石。貴女、聞けばミーディアムもいないそうじゃない。別に
貴女が負けるのは構わないけど、あんまり弱いと面白くないからさ
っさと契約してきなさい」
「う、うるせえですぅ! 可憐で美しい翠星石に似合う人間がいな
いんだから仕方ねえですぅ!!」
「怒られたですー」
「うっせいですぅ!!」
「――!?」
 薬指が熱い。これは真紅が能力を行使した時に走る痛みだ。つま
り、彼女が今危険に晒されているのは目に見えて明らかだ。
「まさか、薔薇水晶!」
「行くぞ! 今すぐにでも決着を――」
「ぼくもいくでーす」
「ちょ! どこ触ってるの!!」
「わかんないでーす」
 僕等は鏡からnのフィールドへ駆け込んだ。
334以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:14:24.48 ID:V3Ys6Mhh0
ホントタラヲ氏んでくれ

支援
335笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:15:08.59 ID:zknSa66A0


「!? あなたたち!」
 何もない。無の空間。そこで真紅は紫の水晶の中に閉じ込められ
ていた。見たところ、それを破ることは出来ない。この能力の持ち
主である薔薇水晶を叩くしか真紅を救う手段はない。
「あら真紅ぅ。いつにも増して不細工だわねぇ」
 水銀燈が真紅をからかう。真紅は顔を赤くして黙りなさいと一言。
「真紅ちゃんのパンツが見られるですー」
 タラヲが閉じ込められて身動きが取れない真紅を下から覗く。そ
のことでさらに真紅は赤くなる。無論、怒りでだ。
「――皆、ここから半径10メートルに薔薇水晶はいるぞ。気を
抜くな」
 薔薇水晶のひやりとした気配。対峙したのは一度だけだが、不思
議とその情報を察知した。今、僕等の戦力をまとめると――
 まず、ミーディアム不在で実力を出すことが出来ない翠星石。
 どうしてついてきたのかも判らないただの子供であるタラヲ。
 唯一の戦力である水銀燈だが、彼女とてタラヲと翠星石を庇いな
がら戦うのは余りにも分が悪すぎる。
336以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:16:34.44 ID:V3Ys6Mhh0
支援
337以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:16:42.76 ID:0uiAa/Q3O
支援!
338笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:18:05.42 ID:zknSa66A0
「フフ、真紅のミーディアム? もしかして、私が翠星石と人間を
庇いながら戦うと思ってる? そんなわけないじゃなぁい。私は私
の為に戦うわ」
「……そうだろうな。それならそれでいい、それで勝てるのならそ
れで僕は文句はない」
「言うじゃない。いいわよ、翠星石と人間が逃げる時間を作ってあ
げる。早くしなさぁい」
 ――この水銀燈というのは、実は一番姉妹思いなのかもしれない。
「やっぱり、お姉さんなんだな。お前」
「言ってなさぁい。
 翠星石! 早く行きなさい!!」
「でも……でも……」
「苛つくわね! いい? 貴女は足手まといなの! 悔しかった
ら契約でもして強くなってきなさい。
 私が貴女たち全員を倒すんだから――!」
「早く逃げるんだ!」
「……っ!
 判ったですぅ!」
 飛来する水晶を水銀燈の羽がガードする。
 これで、彼女たちが逃げるための時間が出来た。
 翠星石は、鏡からnのフィールドを脱出した。タラヲも翠星石と
一緒に、だ。
339以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:18:59.87 ID:3V6OeKNk0
昔は叩かれた笑み社が立派になってずっと応援してた俺は嬉しいよ
340以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:19:22.11 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
341以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:20:04.73 ID:0uiAa/Q3O
>>339
Kwsk
342笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:20:30.05 ID:zknSa66A0


 ――戦力は拮抗していた。

 黒い羽と紫の水晶が激突する。その力は完全に互角で、自称とい
えど、流石は最強のドールである。真紅と翠星石では勝てなかった
薔薇水晶とここまで戦えるのだ。もしかすると、彼女なら薔薇水晶
を――
「ちょっと、キツいわねぇ……」
 水銀燈の表情が歪む。薔薇水晶の力は底なしだ。水銀燈といえど、
ミーディアムからのエネルギー供給量を考えて戦っている為、初め
こそ互角だが、じきに押されていく。
343以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:21:26.57 ID:V3Ys6Mhh0
支援
344笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:22:15.29 ID:zknSa66A0
 ……まるで、薔薇水晶にはミーディアムなんていないかのようだ。
ミーディアムではない。なにか別のエネルギー供給源があるかのよ
うな力。それでは、水銀燈が孤軍奮闘したところでいつかは敗北す
る。大海と大河の戦いだ。どちらも凄まじい水の量だが、大河もい
つかは大海に屈するのだ。
「ぐっ! 負けるわけには……」
 水銀燈の羽の勢いが明らかに落ちている。これでは水晶に屈する
のも時間の問題だ。
「せめて、蒼星石でもいればねぇ」
「…………もう…………終わりに……する」
 薔薇水晶が特大の水晶を放つ。
 水銀燈には、それを躱す術はない。このまま潰される。無論、水
銀燈の側にいた僕と真紅もだ。

「――スイ――ドリーム――!!!」

 巨大な、余りにも巨大な木。
 その枝は水晶に絡み付き、水晶を粉々に砕く。

「水銀燈! 情けねえですねぇ!! しゃーねーからこの可憐で美
しく、また強い翠星石が助けてやるですぅ!!」
「ですー」
345以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:22:27.75 ID:zKOa4cfuO
おぉ!笑み社だ
支援
346以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:23:26.80 ID:V3Ys6Mhh0
支援
347笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:23:55.11 ID:zknSa66A0


interlude

「翠星石が……足手まとい……」
 nのフィールドに繋がる鏡の前。自らの非力さを恨むブラウンの
髪をした少女。
 ――力になりたい。
 自分も、戦いたい。
 少女がその小さな手を握りしめる。爪が食い込んで、手のひらか
らには傷が出来ている。それでも血は出ない。彼女たちが人形だか
らだろう。
「ミーディアムさえいれば……翠星石だって…………」
 ミーディアムさえいれば自分だって負けはしない。自分とスイド
リームが、他のドールより劣っている筈がない。少女は自らの不運
を呪った。
 ――負けない筈。
 自分は薔薇水晶よりも水銀燈よりも、優れているのだから。
348以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:25:18.03 ID:V3Ys6Mhh0
支援
349以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:25:39.92 ID:0uiAa/Q3O
集まってきたか支援
350笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:26:27.60 ID:zknSa66A0
「――翠星石ちゃん。ぼくが――」
「?」

「ぼくが、力になってあげるです。
 だから、もう、泣かないでほしいですー」

 少年、というには余りにも幼すぎる子供。その子供はなんの躊躇
もなく言った。

 ――それが、平穏への別れであることを知って――

interlude out
351以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:27:23.85 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
352笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:29:08.07 ID:zknSa66A0


「翠星……石?」
「ホント、情けないですねぇ。仕方がないからこの翠星石が助太刀
してやるです」
 先刻の弱い姿はどこに行ったのか。何よりも力強く、まるで大木
のように、翠星石はどっしりと立っていた。
「翠星石! その力は――!」
「ぼくですよ。カツオ兄ちゃん」
 僕の背後には、緑色に輝く薬指の指輪をかざした子供。タラヲの
姿があった。彼もまた、翠星石と同じく。今までの雰囲気ではなか
った。
353以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:30:13.02 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
354笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:32:00.00 ID:zknSa66A0
「翠星石ちゃん! いくで〜す」
「言われなくともいくですぅ! スイドリーム!」
 如雨露からは透明の液体。それが地面に撒かれたその刹那――
「伸びやかに――健やかに――!」
「……これは……樹?」
 否、それは樹ではない。
 樹ではなくそれは蔓だ。つまり、翠星石の真の目的は――
「真紅! さっさと出るですぅ!」
 ――真紅。
 水晶の檻に閉じ込められた真紅の救出である。水銀燈の羽では砕
けなかった水晶も、巨大な蔓の圧力に耐えられる道理はなく、無惨
に砕け散った。
「やるわね翠星石。
 ただ、自分のミーディアムの心配をしなさい。幼いのだから、調
子に乗っているとすぐにミーディアムが――」
「きーきーやかましいですぅ! いくですよタラヲ! あの根暗女
をぶっ飛ばすですぅ!」
「まあ、三体もいればなんとかなるわねぇ」

「カツオ。限界だと思ったらすぐに言うのよ。貴方、少し無理をす
るから」
355以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:33:19.17 ID:V3Ys6Mhh0
支援
356笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:35:02.75 ID:zknSa66A0


 ――三体のローゼンメイデンで、一体のローゼンメイデンを打倒
する。

 僕たちのやっているコトは決して正当なものではない。
 ……正々堂々と戦うのなら、僕たちは一組ずつ戦うべきだ。
 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。今、優先さ
れるのは真紅を守ること。
 目の前から、この赤い少女のような人形を喪うのはどうしても厭
だった。
「ホーリエ」
「メイメイ!」
 真紅と水銀燈の人工精霊が薔薇水晶に突進する。人工精霊に対応
するために水晶でガードする。その水晶を――
「スイドリーム!!」
 大木を以て破壊し、真紅の薔薇の花弁と水銀燈の漆黒の羽が炸裂
する――!
357以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:36:10.33 ID:bZeinWmN0
支援
358以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:36:17.28 ID:V3Ys6Mhh0
支援
359以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:36:37.05 ID:pUSc/Dc90
ジェーン
360笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:38:01.11 ID:zknSa66A0
「…………!!」
 薔薇水晶は表情には出さないが、間違いなく押されていることを
認識し、焦っている。――ああ。焦れ。その焦燥こそが新たなミス
を生む。
 それが見えてしまえば簡単だ。
 今の僕たちの戦力ならば、一気に決着をつけることも可能だから
だ。
「――ッッ! キャァ!!」
 それでも。
 それでも相手は最強のローゼンメイデン。如何にこちらが三体で
向こうが一体であったとしても油断は出来ない。こちらが隙を見せ
れば向こうも同じ。一気に勝負をつけにかかる。

『――――――――』

 何か――聞こえた。
 アクマのような。テンシのような。
 まるで、月から来た使者のような。そんな、声。
361以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:39:20.25 ID:V3Ys6Mhh0
支援
362桜 ◆52iqXyRJt2 :2009/05/10(日) 01:40:03.43 ID:fTbj0FDm0 BE:1019790465-2BP(392)

まさかの笑み社かよ支援。
363以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:40:15.73 ID:pUSc/Dc90
      \
        \
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       |l  \::      | |             |、:..  | [], _ .|: [ニ]:::::
       |l'-,、イ\:   | |    ∧,,,∧ .   |::..   ヘ ̄ ̄,/:::(__)::
       |l  ´ヽ,ノ:   | |   (´・ω・`)    ,l、:::     ̄ ̄::::::::::::::::
       |l    | :|    | |,r'",´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ、l:::::
       |l.,\\| :|    | ,'        :::::...  ..::ll::::    そうだ
       |l    | :|    | |         :::::::... . .:::|l::::   これは夢なんだ
       |l__,,| :|    | |         ::::....  ..:::|l::::    ぼくは今まで永い夢を見ていたんだ
       |l ̄`~~| :|    | |             |l::::   目を閉じてまた開いた時
       |l    | :|    | |             |l::::   ぼくはまだ12歳の少年の夏
       |l    | :|    | |   ''"´         |l::::   起きたらラジオ体操に行って
       |l \\[]:|    | |              |l::::   朝ご飯を食べて涼しい午前中に宿題して
       |l   ィ'´~ヽ  | |           ``'   |l::::   午後からおもいっきり遊ぶんだ
       |l-''´ヽ,/::   | |   ''"´         |l::::  虫取り網を手に持って・・・
       |l  /::      | \,'´____..:::::::::::::::_`l__,イ::::
       l}ィ::        |  `´::::::::::::::::::::::::::::::`´::::::


364笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:40:58.38 ID:zknSa66A0


「水銀燈! 翠星石! 一気に決めるわよ!!」
「判ってるですぅ!」
「フン。早くしなさい!」
 三体とも、体力も気力も限界だ。先刻まで単独で戦闘してい
た水銀燈は特にだ。彼女はミーディアムのエネルギーも考慮しなく
てはならない。彼女のミーディアムは今ここにはいないのだから。
 
 真紅の手のひらが赤く光る。
 アレは本気で勝負を決するつもりだ。
 翠星石の如雨露も目映い緑の光を放つ。
 水銀燈も黒い羽を大きく広げ、一気に打ち放つ体勢だ。

「さあ、いってくれ。
 ――ここで、雛苺の仇をとってやれ」

 僕の言葉と同時に、三体の最大攻撃が炸裂する――!
365以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:42:26.25 ID:0uiAa/Q3O
>>363
目から汗
366笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:42:50.40 ID:zknSa66A0


「……あ…………あ」
 薔薇水晶の腹部には大きな穴が空き、喉から漏れるはヒューヒュ
ーという呼吸音。
 薔薇の眼帯は外れ、その目には既に光は灯っていない。それでも
未だ呼吸が出来ているのは奇跡に他ならない。
「やったのだわ!」
 真紅が喜びの声を漏らす。その表情は雛苺の仇討ちと自らの恐怖
に打ち勝った。そんな表情だ。
 しかし、水銀燈は怪訝な表情を見せている。それはまるで――

「まだ、終わりじゃない……ということか? 水銀燈」
「……ええ。悔しいけど。
 完全敗北したローゼンメイデンからはその命ともいえるローザミ
スティカが放出される。それを奪って初めてそのローゼンメイデン
はリタイヤしたと見なされる。でも、あの薔薇水晶からは――」
 ――そう。薔薇水晶からはローザミスティカが出てきていない。
つまり、まだ薔薇水晶は敗北していないのだ。
「だったら! この翠星石が――!」
 翠星石が薔薇水晶に引導を渡そうと如雨露をかざす。
 タラヲの様子を見る限り、それが最後の一撃となるだろう。


「――否。君たちの宴は一旦終幕だ――」

 その時。
 アノ、声。
 全身の毛穴が開く。そんな、地獄の声が聞こえた。
367以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:44:14.07 ID:V3Ys6Mhh0
支援
368笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:44:41.72 ID:zknSa66A0


「アンタは――そんな……」
 その声の主の姿を見て、さらにぞっとした。
 毎日、僕はこの男と顔を合わせている。
 毎日、僕はこの男と挨拶を交わしている。
 そんな男が、僕たちの目の前で浮かんでいる。
 
「――ああ。やっぱり君だったのか。
 カツオくん」

「サブちゃん……」

 天を従えるかのような雰囲気。
 それはまるで皇帝。

 その男の正体は僕たちがよく知っている男『東天宮寺三郎』だっ
た。
369以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:45:58.66 ID:0uiAa/Q3O
支援
370以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:46:15.12 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
371笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:48:15.33 ID:zknSa66A0


「薔薇水晶。君はさがっていると良い。君は、もう戦えない。今の
ところは、ね」
「………………はい。お父様」
「! お父様、ですって……?」
 薔薇水晶は、確かにサブちゃんを父と呼んだ。ならば、あの男が、
三郎が――
「ローゼン、なのか?」
「そんな筈ないですぅ! あの原チャリ人間がお父様だなんて、お
父様だなんて……」
「――」
 三体とも同様を抑えることが出来ない。
 無理もない。彼女たちもサブちゃんとは何度も顔を合わせていた
のだ。その度に挨拶をして、頭を撫でられたりしていた。そのサブ
ちゃんが自分たち全員が愛して止まない父親だなんて。そんなコト、
俄に信じられる筈がない。
「――フウ。勘違いしているみたいだね。
 僕はローゼンなんかじゃあない。ローゼンたった一人の弟子にし
てローゼンを超えた者、さ」
「お父様を、超えた?」
「そう。僕は君たちが三体で戦っても倒せない人形を作り上げた。
薔薇水晶は僕の最高傑作さ。彼女は敗北こそしたがそれは完全敗北
ではない。
 ――今から三ヶ月後。僕は僕のnのフィールドにて薔薇水晶を改
造する。今度こそ、君たちでは勝てないようにね」
372笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:51:38.25 ID:zknSa66A0
「――な!」
 驚愕の声は果たして誰のものか。おそらくこの場にいる全員が驚
愕したことだろう。
 薔薇水晶の出生。
 サブちゃんの正体。
 そして、三ヶ月後に薔薇水晶が復活する、ということ。
 それら総てが僕たちの想定の範囲を遥かに超越するものであり、
僕たちのここまでの努力総てを否定するものであった。
「ああそうだ。ここに来るまでに本物の第七を破壊しておいた。ア
ストラル体で実体がないなんて反則だ。僕もほんの少し苦戦してし
まったよ。
 それじゃあ。三ヶ月後に、また――」

 そんな言葉を残して、サブちゃんは消えた。
 僕たちに、恐怖と戦慄を残して――
373以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:52:13.48 ID:V3Ys6Mhh0
支援
374以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:53:23.75 ID:HvPLkaWuP
朝まで残ってればいいな
375笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:53:57.84 ID:zknSa66A0


 ――nのフィールドには静寂が残った。

 手が震える。どうしようもないと頭ではなく本能で理解している
のだ。
 今度こそ、負けてしまう。
 目の前から真紅がいなくなってしまうのだ。
「真紅?」
「…………」
 声をかけても何も話さない。
 彼女も判っているのだ。復活した薔薇水晶には勝てないこと。そ
して、本物の第七ドールを、サブちゃんが打倒しているという事実
に恐怖しているのだ。
 ドールを打倒出来る人間。ただそれだけで脅威なのだ。
 真紅、翠星石、水銀燈。そしてこれに蒼星石が加わったところで
きっと薔薇水晶を完全に打倒することはできない。その上ドール以
上の力を持つサブちゃんの存在。それが脅威でなくて何が脅威なの
だろう。
「……帰りましょう」
 水銀燈が呟き、nのフィールドから出る。
 それに倣い、僕らも立ち去った。
376以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:55:16.26 ID:pUSc/Dc90
4円
377以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:56:17.07 ID:V3Ys6Mhh0
支援
378笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:56:58.39 ID:zknSa66A0


「――サブちゃんが……薔薇水晶を…………」
「さすがの私も気づかなかったわぁ。まさか、あの人間が人形師だ
ったなんて」
「しかも、翠星石たち以上の戦闘能力。もしかしたらあの人間はお
父様以上の――」
「翠星石! 馬鹿なことをいうのは止めなさい。お父様を超える人
形師なんて、在り得ないのだわ」
 
 ――そう。在り得ないのだ。
 彼女たちローゼンメイデンのドールを超える人形。それがあると
するならばそれは既に『人形』という枠組みから外れた何かになる。
 ……例えば、超人。
 超人は人の遥か上をいく存在。薔薇水晶がそれに該当するのなら、
もう真紅たちや僕には勝ち目なんてありはしない。
 勝てはしないのだから、逃げても逃げても敗北する。
 真紅たちが壊されるのも時間の問題だ。雛苺のように押しつぶさ
れるか、四肢をもぎ取られて絶命するのか。方法は幾つかあっても
結果は同じ。
「でも……翠星石たちじゃあ薔薇水晶には…………」
 その通りだ。僕たちじゃ薔薇水晶は倒せない。傷つきたくないの
なら、僕は彼女たちとは別れるべきなのだ。
379以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 01:59:11.45 ID:V3Ys6Mhh0
支援
380笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 01:59:59.47 ID:zknSa66A0
 昔から、痛いのは厭だった。
 痛覚を刺激されるのがどうして怖くて。
 そのコトで血液が滴り落ちるのが本当に恐ろしかった。
 それが本当なら、僕は彼女たちと別れ、もとの平和な時間を過ご
した方が樂だ。
 
 そんな考え。
 決して、間違えちゃいない。
 でも――
 守ると誓った。
 その誓いは決して忘れてはいない。
 それでも、僕たちは限界だ。

「僕たちは……勝て――」

 言いかけた。
 もう勝てはしない。君たちとはいられない。
 口に出して、彼女たちに言おうとした。
381以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:02:55.25 ID:V3Ys6Mhh0
支援
382笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:03:00.07 ID:zknSa66A0
「お父様が劣っている? 確かに、薔薇水晶を見ればそうかもしれ
ない。
 でも翠星石。考えてみなさい。貴方にはミーディアムがいる。私
にも、水銀燈にも蒼星石にも、頼れる存在がすぐ側にいてくれる。
それは何よりも素晴らしいことだし、これだけは覚えておきなさい。
 ――信じること。それが、本当の『強さ』なのだわ」

 ――ああ。
 なんてコト言ってくれるんだ。

 そんなコトいわれて、信じない奴なんていない。

「僕たちは勝てる。
 幸い、奴は復活まで三ヶ月かかるんだ。それで充分だ。それで、
僕たちはアイツ。サブちゃんと薔薇水晶よりもつよくなればいいん
だ」
383以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:05:15.10 ID:V3Ys6Mhh0
サブちゃん支援
384笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:05:44.72 ID:zknSa66A0




interlude

「退屈かしら」

 赤い屋根にちょこんと、黄色の洋服を着た小さな女の子が座っている。
 双眼鏡で一つの家を眺めながら、女の子はその日59回目にもな
る言葉を口にした。
「退屈すぎてお腹が減っちゃうかしら。真紅たちを見つけるのに時
間が掛かっちゃったお陰で、随分と出遅れちゃったかしら」
 足をぶらぶらさせているのにも飽きたらしく、女の子は立ち上が
った。立ち上がった刹那、彼女が持っていた傘が大きく開き、彼女
の身体をふわりと舞い上がらせた。
「今日こそ潜入してやるかしら! 待ってなさい真紅! このロー
ゼンメイデン1の頭脳派。金糸雀サマが――!! あ!!!!」
 本日の風は南南西から。
 風に乗った女の子。否、人形は哀れにも目的地とは逆の方向へと
流れていく。

「ア〜レ〜かしら〜! たすけて〜」

 ――こうして、彼女はまた一歩出遅れるのだった。

interlude out
385以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:07:11.12 ID:V3Ys6Mhh0
支援
386笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:08:36.66 ID:zknSa66A0


「それで、本当にいいのか?」
「ええ。やって頂戴」
「――痛かったら、ちゃんと言えよ」
「大丈夫なのだわ。私は貴方のお人形、快楽を得ることはあっても、
痛みを感じるなんて――ッ! んっ!」
「……! 痛かったか? ごめん」
「いいのだわ。早く、続けて……」
「――ああ」

 暗い部屋。
 夜中になって急に起こしてきたと思ったら、僕はステキというか、
大変なことをさせられていた。
 真紅の吐息が首に掛かる。
 それだけでも理性なんてどこかに飛んでいってしまうというのに、
真紅は目にうっすらと涙を浮かべている。
 ――それは、快楽か。
 ――それは、痛みか。
 それとも別のモノか。
 僕には判らないけれど、これだけは判った。

 ……真紅たちは、定期的に螺子を巻いてやらないといけない、と
いうことが。
387以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:10:19.27 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
388笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:11:10.02 ID:zknSa66A0

 
 あー。僕は何をしたのだろうか。

 確か朝起きて、朝食を食べて、これからのコトをきちんと話し合
おうとホーリエに水銀燈を呼び出しに行ってもらって、スイドリー
ムには蒼星石を呼びに言ってもらった。うん。ここまでオーケー。
 次に、ワカメが堀川くんと一緒に出掛けたのを確認して、これか
らのコトに関して僕なりに紙におこしてみた。
 そうしたら、呼び鈴がなった。
 家には生憎誰もいなかったから僕が渋々応対したんだ。
 ――そうしたら。

「貴方が真紅のミーディアムね!? さあ、このローゼンメイデン
1の策士、金糸雀に捕まりなさい!!」

 とか言われて、椅子に縛り付けられてるんだっけ。
389以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:12:59.15 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
390笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:13:40.89 ID:zknSa66A0


 ここはどうやら僕の部屋ではない。
 目隠しをされているため、周りは見えないが音は聞こえる。あの
金糸雀とかいうドールと真紅が話している様子が微かに聞こえてく
る。

「――だわ」
「――かしら」
「――ですぅ」
「――よぉ」
「――だね」
「――ぶるわぁ」

 ……話が全く判らない。
 こうして聞いてみると、ドールたちって結構口癖が鬱陶しいな。

「――た! たかしら!!」

 ――あ。決着がついた。
 それもそうだ。今は四体のドールが協力しているのだ。一体のド
ールが勝てる筈がない。というより、指輪が熱くならなかったとこ
ろから察するに、戦闘にはならなかったみたいだ。
 あとは、僕がここから助け出されるのを待つだけだ。

 ――まあ、そのうち来るだろう。
391以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:15:23.77 ID:V3Ys6Mhh0
この>>1に眠気はないのか

支援
392笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:15:56.92 ID:zknSa66A0


「……忘れていたのだわ」

 忘れていたけれど何か? みたいな表情で真紅は僕を見る。
 埃まみれの僕の服を払ってくれたのはドール唯一の良心である蒼
星石。きっとこの子のミーディアムは彼女に感謝の気持ちを持って
いるに違いない。裏のお爺ちゃんは本当にいい子と一緒にいる。
「カツオくん」
「え?」
「あの子は金糸雀。僕たちローゼンメイデンの第二ドール」
「えっへんかしら!」
「チビカナ! どうしてここまで姿を現さなかったんです
か!?」
「それは……うん。それは翠星石たちの戦力を入念にチェックし、
確実にカナが勝利する為に戦略を練っていたのかしら!」
「そう? じゃあ、今すぐその戦略とやらを試してみるぅ?」
 水銀燈の挑発に縮まり込む金糸雀。なるほど、どうやら彼女は出
遅れてしまったらしい。
 ……と、そうすると彼女も。
「だったら、君は7体目。否、紫色の人形を知っているかい?」
 僕の問いかけに金糸雀は首を横に振って知らないことを示す。そ
れで充分だ。
393以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:17:26.27 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
394笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:18:35.83 ID:zknSa66A0
「知らないのなら、僕たちと手を組んで戦わないか? いいや、戦
ってほしい」
「!? きょ、共闘かしら!?」
「ああ。紫色のドール。薔薇水晶は真紅たちが全員で掛かっても勝
ち目がない。というより、勝ち目が無くなる。故に、協力してほし
いんだ」
「……」
 金糸雀は俯き、黙ってしまう。
 当然だ。あの薔薇水晶の力を知らないのであれば、僕の誘いは罠
にしか聞こえない。四人掛かりでも倒せないドールがいるとは到底
考えないからだ。
395以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:19:05.29 ID:0uiAa/Q3O
支援します
396以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:21:29.43 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
397笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:21:33.96 ID:zknSa66A0
「――カナ。少し考えさせてほしいかしら……ミーディアムとも相
談しないといけないし……」
「うん。それでいい。急にこんなこと言って、ごめん」
「金糸雀」
「? 
 どうしたのかしら? 真紅」
「私たちは明日から裏山で『力』のコントロールの訓練を行うわ。
貴方が私たちに協力してくれるのなら、そこに来て頂戴」
「真紅たちはコントロールですね? だったら翠星石はあの物まね
チビ人間に力の引き出し方を教えてやるですぅ! 翠星石の能力
は優しさが重要ですからね」
「じゃあ僕は力を使ってもおじいさんに負担がかからないようにす
るよ。水銀燈はどうするんだい?」
「私? 私は……まあ、好きにするわぁ」
「――よし、各々やることが決まったのなら、三ヶ月後。3月15
日にここに集合だ」
「待ちなさいカツオ。正面から行くよりも私たちには人数がいるの
よ? それを利用しない手はないわ」
 ――戦力の利用。
 確かに、薔薇水晶に対する僕たちの人数は金糸雀を入れれば7人
から8人だ。これだけの人数がいるなら、一つに固まるよりも二つ
のグループに分けた方が利口だ。
398以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:23:21.11 ID:V3Ys6Mhh0
フルボッコ支援
399笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:23:52.82 ID:zknSa66A0


「じゃあ、Aチームは翠星石と水銀燈。Bチームは真紅と蒼星石と
金糸雀。この編成で挟み撃ちするってことか?」
「そうね。金糸雀はまだ判らないけれど、一応数に入れておくべき
ね」
 
 ――大まかな作戦はこうだ。

 nのフィールドへの扉を薔薇水晶を挟む形に二つ作る。無論、薔
薇水晶のすぐ側に作ったとしたら、それは格好の的となってしまう
為、少し離れた場所で作る。
 そして、僕たちBチームが三組で薔薇水晶の注意を逸らす。その
間に水銀燈たちAチームが攻撃するという作戦だ。
 シンプルではあるが、効率を考えるならそれが一番効果的だ。勿
論、サブちゃんの邪魔が入るだろうが、それは問題ない。ドールを
二体以上打倒するには、『人』という器の余分が足りないのだから。

「それじゃあ、三ヶ月後に会いましょう。水銀燈」

「――ええ。それまでに強くなってなさい」

 ……こうして、僕たちの三ヶ月が始まった。
400以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:25:25.31 ID:6AQSh6BdO
駄文でスレ立てるなよ

どうせ他に居場所さえないんだろうけどなwwwwwwww
401以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:26:01.02 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
402笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:27:04.66 ID:zknSa66A0




 岩石が抉れ、木が消し飛ぶ。
 真紅が用いる能力であるエネルギーの花弁。こと戦闘ではその万
能性を如何なく発揮するのだが、それは同時に僕自身が供給する
『力』も蝕む。
 『力』を与えすぎると、花弁はさらに勢いを増すのだが、僕の肉
体が保たない。
 逆に与えないと花弁に勢いはなく、その攻撃力は皆無となるのだ。
 ……故に、真紅は僕に命じた。

「――心を強く持ちなさい。貴方は強い。自分は出来るのだと思い
込みなさい」

 そんなコトは判っている。
 やらなきゃいけない。でも、僕の心はどうしても目の前の真紅に
きちんと届かないのだ。

「……カツオ」
 息を切らして倒れ込む僕に真紅が話しかける。正直、話をする余
裕なんてない。
「抱いて頂戴」
「……砂まみれだぞ?」
「いいのだわ。貴方を感じたい」
 木に寄りかかる僕にさらに寄りかかる真紅。そうすると、真紅は
目を瞑り、胸に手を当てた。
403以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:29:22.86 ID:V3Ys6Mhh0
支援
404笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:29:53.09 ID:zknSa66A0
「ゆっくり呼吸して。慌てちゃいけないのだわ」

 その指示に従う。
 僕にはそれしかないのだから。

「そう、上手よ。
 心を落ち着かせなさい。怒り、憎しみ、嫉妬。そういった負の感
情は抑えが利かない、暴走してしまうの。だから、貴方は知りなさ
い。
 ――優しさ、愛、慈しみ。それが、私の力となるのだから」

 呼吸が落ち着いてきて、指輪が温かくなる。今までは熱くなって
いた指輪が、今では優しい、母のような温かさを感じる。

「カツオ……貴方は、心の天才よ」

 そうして判った。
 ……僕の力は、『愛』だ。
405以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:32:13.83 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
406以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:33:23.48 ID:XE5ZaIVTO
かつおがかつおじゃない何かとして再生される…
407笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:34:14.20 ID:zknSa66A0


 あれから1週間。
 僕たちは学校が終わるとすぐに裏山へ行き、特訓を始めていた。
翠星石とタラヲはどこで特訓をしているのかは知らないが、夕食の
時には家にいるところを見ると、余り遠くには行っていないようだ。
「カツオ。随分と力をコントロールするのが上手くなったのではないかしら?」
「君のスパルタ教育の賜物だよ。最近は優しくなったけどね」
 初めは真紅のわがままで強情な態度に腹が立った。紅茶を入れろ
だの抱っこしろだの、僕はその要求が正直煩わしかった。
 だが最近。とはいってもここ三日で、真紅は大きく変わった気が
する。
 というのも、彼女は基本的に僕のコトを褒めてくれるのだ。今だ
ってそうなのだが、力のコントロールにしろ紅茶の煎れ方にしろ、
なににしても彼女は僕を褒めてくれるようになったのだ。
「優しい? そう……。
 それより、金糸雀は――」
 ――そう。アレ以来、金糸雀は我が家にやってこない。
 流石に自らの危機を察し、静観の身構えでいるのだろうか。否、
そんなコトは断じて在り得ない。
 理由なんて簡単だ。
 話をしたのが一回しかないが、僕は彼女が姉妹思いの優しい子だ
ということは判る。故に、僕はあの子。金糸雀を信じるのだ。
「まあ、そのうち来るさ。まだあと二ヶ月以上あるんだから。
 もう七時になるよ、今日はすき焼きらしいからそろそろ帰ろう」
 真紅を抱きかかえ帰路につく。
 
 冬のあの日に比べて大分日が伸びてきた。
408以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:36:02.88 ID:0uiAa/Q3O
このカツオは士郎か志貴。
409以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:36:22.54 ID:V3Ys6Mhh0
カツオテライケメン
410笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:38:09.53 ID:zknSa66A0


「すき焼きです〜」
「すき焼きとはなんなんですか?」
「すき焼きというのはだな、翠星石」
 父が翠星石にすき焼きの食べ方を教える。ここに来て間もない時、
翠星石は父に人見知りをしていて上手く話せなかったが今となって
は――
「成る程ですぅ。感謝するですよ、茹で蛸人間!」
「はっは。茹で蛸とは一本取られたな!」
 和気あいあいと言った雰囲気で、翠星石は父と話をしている。父
も孫娘が出来たかのような穏やかな表情だ。
 ……その時、呼び鈴がなった。
 姉が立ち上がり、玄関へと向かう。
「おいおい真紅ちゃん。白菜も食べなきゃダメだよ」
「……そうね。レディたるもの野菜も食べなくてはいけないわね。
それに気がつくなんて、マスオは良い男なのだわ」
「ええ! ぼ、僕が良い男だってぇ!」
「――き」
 なにか聞こえる。
 玄関の方から声がする。姉は何を話し込んでいるのだろう。
411笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:39:40.47 ID:zknSa66A0
 ――ついで、足音が聞こえる。
 近づいてくるのは――

「すき焼きをごちそうになりにきましたー!」

 ハイエナのようなすき焼きハンター『ノリスケ』と――

「カナも食べにきたかしらー!!」

 小さな人形の、異様な一組だった。
412以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:40:22.23 ID:V3Ys6Mhh0
茹で蛸www
413笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:41:57.33 ID:zknSa66A0


「そういうわけだから、カナたちも一緒に戦うかしら!」

 すき焼きを堪能した金糸雀が僕の部屋に来て言った。
 彼女のミーディアムである波野ノリスケには家族がいる。それを
壊すようなことは出来ない、そう金糸雀は思っていた。
 しかし、ノリスケは違った。

『――君も僕の子供のようなものだ。だから――君の力になる』

 イクラやタイ子。自分の家族を守る為だけではない。
 目の前の小さな女の子を守るため、ノリスケは金糸雀の力になる
と決めたのだ。
「カナたちも明日から頑張るかしら。真紅たちの足手まといにはな
らないように一生懸命に」
「チビカナ……。
 判ったです! あのハイエナ人間と一緒に頑張るですぅ!」

「ああ。ノリスケおじさんがその気なら、君も一緒に薔薇水晶を倒
そう」
414以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:43:07.76 ID:V3Ys6Mhh0
ノリスケ支援
415笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:45:02.22 ID:zknSa66A0
interlude

 ――孤独な巡礼。
 神の名のもとに。

 漆黒の教会で、水銀燈は1人。
 否、決して独りなどではない。
 彼女は孤高ではあるが、決して孤独などではない。
 確かに、彼女は群れることを嫌う。
 戦うことを義務づけられている自分たちが馴れ合うことに嫌悪し
ている。
 それは、仲良くすることが嫌いなのではない。
416笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:47:45.94 ID:zknSa66A0
 ――壊れることが、恐ろしいから。

 真紅、翠星石、蒼星石、金糸雀。
 それら全員が彼女の妹であり、彼女たちにとって、自分は姉なの
だ。彼女も姉という立場から彼女たちの面倒を見てあげたいと思っ
たことは一度ではない。
 しかし、それも叶わない夢のようなもの。
 ならば、壊れてしまう前に自らで否定してしまえば良い。
 ……そう、思った。
 そう思うことが当たり前だったし、そう思わなければやっていけ
ない。
「なのに……ねえ」
 なのに、今の彼女はどう思っているのだろう。
 妹たちと共闘して、一つの外敵を滅ぼそうとしている。
 以前の彼女ならば考えなかった。否、考えはしても行動しなかっ
た。
417以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:49:09.90 ID:V3Ys6Mhh0
しえん
418笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:50:46.44 ID:zknSa66A0
「それは、君が成長したからじゃないのか?」
 声がした。
 少年の声。
 確かめなくとも、その声の主が誰なのかは容易に判った。
「中島。貴方、いきなり現れるのはやめなさいと言っているでしょ
う?」
「フフ、ごめんよ。
 ――しかし、どういう風の吹き回しだい? 君が僕と特訓したい
なんて」
「……そうね。
 正直に言ってあげるわ。私じゃあ勝てない相手がいるの」
「――ほう。それはまた」
 クツクツと喉を鳴らすように中島は笑う。
 中島は水銀燈のもとに歩み寄り、その口を一度だけ開いた。

「いいよ。君は僕の日常を変えてくれた。今度は、僕が君の願いを
叶える番だ」
419以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:53:14.10 ID:V3Ys6Mhh0
中島ニヒルだな

支援
420笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 02:53:45.86 ID:zknSa66A0


 ――初めて会ったのは、いつだったか。

 毎日毎日、同じような日々。
 代わり映えのしない、何の変化もスリルもない日々。
 きっとこのまま大人になって、このまま面白いことも起きないま
まに僕の人生は幕を閉じるのだろうか。

 ――それが、どうしても厭だった。
 
 生きているのに。
 ここに、いるのに。
 なにも変わらない。
 なにも起こらない。

 そんな人生が、厭で仕方がなかった。
421以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 02:56:34.76 ID:V3Ys6Mhh0
支援
422以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:02:54.89 ID:V3Ys6Mhh0
猿か?
423以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:04:24.38 ID:0uiAa/Q3O
猿だな
424以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:12:03.82 ID:Ym+s9WuK0
>>72
敵はいいんだよ。
これ実話にもある
425以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:18:36.25 ID:wNNpktaT0
さるくらったらしいので支援
426以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:20:23.29 ID:wNNpktaT0
支援
427笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:20:38.91 ID:zknSa66A0
 ……そんな時、僕はこの古びた教会を見つけた。
 どうしてかは判らない。とにかく、この廃墟と化した教会が僕の
心情と上手く重なったのだろう。
 大きな十字架。
 この十字架のもとで、多くの者が許しを請い、愛を誓い、死んで
いったのだろう。
 
 ――滑稽な話だ。
 そんな考えさえよぎった。
 なにもすることはない。故に、僕はその教会を後にしようとした。
 
 ……と、なにかにつまづいた。
 見てみると、それは大きな鞄。
 中世ヨーロッパ風の作りで、僕はそれを開けてみようとした。
 幸い、鍵はかかっていない。大した力も入れず、それを開けた。
428以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:23:16.22 ID:Ym+s9WuK0
しえん
429笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:24:13.03 ID:zknSa66A0


「――」
 ――信じられなかった。
 白銀の美しい髪。
 漆黒の装束。
 完全な少女を思わせる作り。

 それは人形だった。
 クラスの女子が遊ぶような大きさではない。
 しかし、その作りは間違いなく人形であり、その人形はまるで死
んだように目を瞑って眠っていた。
 人形を抱き起こす。
 ふわりといい匂いがして、銀髪が揺れる。
 触れてみた身体はとても柔らかくて、本当に人形なのかと疑って
しまう。
430以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:25:17.01 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
431笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:26:59.87 ID:zknSa66A0
「……」
 
 傍らに螺子を見つけた。
 きっと、これを巻くと人形は動きだす。
 そんな考えが浮かぶなんて、僕はどうにかしていた。

 ギチリ。
 ガチリ。
 カチカチ。

 巻いてしまった。
 巻いた刹那、人形は目を覚ます。

「――貴方が、私を――?」

 なんて、まるで人間のように。
 まるで、本物の女性のように。

 僕に、言った。
432笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:30:18.33 ID:zknSa66A0


 それからというもの。僕はその水銀燈とこの教会でよく話すよう
になった。
 そこで知った。
 アリスゲーム。
 ローゼンメイデン。
 そして、磯野がそれに巻き込まれているということ。
 ……僕はそれを聞いて、どうしてだが笑い飛ばした。
 
 面白い。
 ――ああ。面白い。

 僕の日常を変えてくれる天使。
 水銀燈は僕の天使だ。
 そう思った。
433以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:31:24.69 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
434笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:35:22.84 ID:zknSa66A0


「――中島?」
「ん? ああ、初めて会ったときのことを思い出していた」
「そう。だったら、覚えてるわよね? あの日の誓い」
 ――ああ。愚問だ。

「無論。
 ――今も変わらない。君をアリスにする。それは今も変わらない
ことだしこれからも変わらない」

 変わるもんか。
 僕の天使の願い。
 それを叶えてあげられるのなら、僕はなにをしたって構わない。

interlude out
435笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:36:49.27 ID:zknSa66A0




interlude

 僕のミーディアムは、はっきり言ってもう若くない。
 どうして、僕はあのおじいさんのことをミーディアムにしてしま
ったのだろう。
 今考えても仕方のないコトだと理解はしている。しかし、僕自身、
それが気になることではあるのだ。カツオくんのような小学生も問
題があるがお年寄りをミーディアムにして力を吸い続けるのはいく
らなんでも酷すぎる。

「蒼星石ちゃん。お茶が入ったよ」
 おばあさんが羊羹と緑茶を持って襖を開ける。余計なことは考え
ず、今はごちそうになることにしよう。
「蒼星石ちゃんはいい子だねぇ、こんな年寄りの相手をしてくれる
なんて」
「いえいえ、僕もおばあさんとおじいさんのこと大好きですから」
 そう、大好きなのだ。
 僕はこの家のおじいさんとおばあさんが大好きで、その2人が喜
ぶことをなんでもしてあげたいと思うし、そのことで2人が喜んで
くれるのなら、僕はアリスゲームなんて――

「!?」

 少し。ほんの少しだけ。
 なにか、空気の流れが変わった。
436以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:37:31.69 ID:V3Ys6Mhh0
支援
437笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:38:49.03 ID:zknSa66A0
「おじいさんは?」
「ああ、今庭で盆栽をいじっているよ、蒼星石ちゃんが色々教えて
あげているから盆栽もじいさんも喜んでいるよ」
「――!?」
 走った。
 理由は簡単だ。

 ――馬鹿な。
 まだ、あと二週間あるじゃないか。

 やめろ。
 僕の幸福。
 僕の幸せ。
 奪わないで。
 取らないで。
 どこかに、いっちゃ――

「いやだ――!!」
438以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:40:13.59 ID:V3Ys6Mhh0
しえしえ
439笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:42:55.45 ID:zknSa66A0


「おやおや蒼星石。今日も教えてくれるのかい?」
「おじいさん! 逃げて!!」
 感じる力が大きくなる。
 不可能だ。
 こんな力。僕じゃ止められない。
 だから、逃げてほしい。貴方を、おじいさんを喪ったら、僕は―
―!

 翠星石は?
 真紅は?
 金糸雀は?
 こうなったら水銀燈でもいい。
 
 誰でもいいから、僕に力を貸してくれ。
 真紅は学校の裏山。
 翠星石はタラヲを連れて大きな公園で特訓している。
 金糸雀は近所にはいない。
 水銀燈は行方知れずだ。

「だったら、僕が――!!」
 レンピカに庭師の鋏を召還させる。
 おじいさんとおばあさんを守らなくちゃ。
 僕の幸せを、奪われないように――

 ――ウバワレナイヨウニ――

interlude out
440以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:44:44.06 ID:V3Ys6Mhh0
支援
441笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:44:52.23 ID:zknSa66A0


「!? あそこは――!」
「いいえ、カツオ。貴方の家ではない。ただ――」
「あそこは裏のおじいちゃんの家じゃないのか!? だったら蒼星
石が――!」
「まさか……あと二週間を残して……蒼星石が……」
 真紅もうろたえている。
 薔薇水晶が復活するまで、あと二週間。まだ完全な状態ではない
のに、きっと蒼星石は一撃で倒された。
 それがどういう意味を持つか。真紅は判っているのだ。

「今、一組だけになってはいけない……ホーリエ!! 今すぐに全
員に連絡しなさい!! 絶対に一組になってはいけない、水銀燈に
もよ!」
 ホーリエがもの凄い勢いで飛んでいく。
 翠星石はどういう顔をするのだろう。きっと、公園からあの水晶
を見て泣き崩れているのだろう。
442以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:46:50.25 ID:V3Ys6Mhh0
4円
443笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 03:47:49.40 ID:zknSa66A0


interlude

「水晶ですー」
 紫色の水晶。それが微かに見えた。
 大きな、殺戮の刃。きっと、妹はあれに押しつぶされた。
 それでも、彼女は守ったのだろう。

 大切なモノを。
 蒼星石……本当に優しい子だった。
 浮遊してくるローザミスティカ。雛苺のものと同じ。温かいもの。
 それで、理解した。
 自分は一組になってはいけない。
 作戦を実行する水銀燈と一緒にいなければならない、と。

 ――なによりも、蒼星石がそう言ってくれたような気がした。
444以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:50:27.22 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
445以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 03:59:31.48 ID:V3Ys6Mhh0
猿っぽいな
446笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 04:01:10.43 ID:zknSa66A0
Interlude out
447笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 04:04:26.20 ID:zknSa66A0
今から少し眠る。

残っていたらすごく嬉しい。
448以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 04:06:37.51 ID:H9JZMOxo0
支援
449以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 04:10:49.55 ID:V3Ys6Mhh0
450以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 04:28:55.63 ID:aervI5Vn0
451以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 04:44:57.31 ID:YyeK3rs6O
支援だ
452以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 05:04:40.60 ID:V3Ys6Mhh0
寝る前の保守
453以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 05:31:47.39 ID:FicYHu2MO
通りすがりの
454以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 05:41:15.87 ID:aervI5Vn0
おやすみ保守
455以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 06:25:03.76 ID:njoosbq7O
ほす
456以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 07:35:08.23 ID:daJQnXhTO
457以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 08:27:17.74 ID:YyeK3rs6O
眠い
458以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 09:11:32.53 ID:KrL5fSDaO
あからさまな保守はだめなんじゃないっけ
459以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 09:38:32.28 ID:kOZQo/2zO
460以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 09:44:56.47 ID:pUSc/Dc90
                   ∩                    ミ 
♪  ∧__∧       ∧__∧|l|  ♪ ∧__∧      ∧__∧ミ   ♪
   (´・ω・`)三三) (´・ω・`)|   (´・ω・と_) )) (´・ω・`)三三)
   |    /      |     /     |    ./     |    /     
♪ U   〈    ♪   U   〈     .U   〈  ♪  U  〈
  (__ノ^(___)     (__ノ^(___) ♪ (__ノ^(___)    (__ノ^(___)  ♪
461以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 10:10:11.01 ID:pUSc/Dc90
                   ∩                  ∩          ミ 
♪  ∧__∧       ∧__∧|l|  ♪ ∧__∧      .∧__∧|l|   ∧__∧ミ   ♪
   (´・ω・`)三三) (´・ω・`)|   (´・ω・と_) )) (´・ω・`)|  (´・ω・`)三三)
   |    /      |     /     |    ./     |    /    |    ./  
♪ U   〈    ♪   U   〈     .U   〈  ♪  U   〈    .U  〈
  (__ノ^(___)     (__ノ^(___) ♪ (__ノ^(___)    (__ノ^(___)   (__ノ^(___)  ♪
462笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:21:54.76 ID:zknSa66A0
おはよう。

保守ありがとう。
再開する。
463笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:22:45.97 ID:zknSa66A0
10



 その日が来た。
 この三ヶ月で、僕たちは強くなった。
 雛苺の為に。
 蒼星石の為に。
 僕等は戦う。
「翠星石たちは廃墟の鏡から行くようね」
 チカチカとピチカートが僕等に知らせる。
 決行は深夜0時。
 挟み撃ちする。
 必ず、倒す。
 必ず、終わらせる。

「――あと一分ね」
「ああ」
「ノリスケ……カナと一緒でいいのかしら?」
「もちろんさ。君は僕の娘だからね」

 時計が鳴る。
 鏡にnのフィールドを作ってその中に入ろうとする。

 その時――セカイは反転した。
464以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 10:25:25.72 ID:zxp0z8S90
奈須意識しすぎ
465笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:26:13.71 ID:zknSa66A0


 僕たちの街が灰色に変わる。
 音がなくなり、人なんて誰もいない。
 否、生物が見当たらない。
 だが、窓から見える景色は――

「さあ、アリスゲームを始めましょう」

 紫色の人形が――

 ――あの男と共に空中に浮いていた。
466笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:30:20.76 ID:zknSa66A0


「nのフィールド……?」
「こんなこと、在り得ないかしら! 世界をnのフィールドで包む
なんて――!」

「ようこそ――!! 我がフィールド、108番目のフィールド
へ!!」 

 サブちゃんがまるで世界を統一した覇王のように大げさな声を上
げる。
 心に響いてくる。
 この声は、きっと世界を包む。

「この世界ならば、ボクは君たちドールにも負けない! さあ薔薇
水晶! ローゼンメイデンを超えようじゃないか!」
「ええ、お父様――」

 水晶が飛来する。
 狙いは勿論僕たちの方向。形は違えど、することは同じだ。

「挟み撃ちで行くぞ、真紅」

 nのフィールドなら僕とノリスケおじさんも空を飛べる。
 寧ろ都合がいいのだ。

「薔薇水晶を倒すぞ」
「ええ」
467以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 10:33:27.14 ID:kOZQo/2zO
きたぁあああああああああああああああ


おかえり!
468笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:34:50.35 ID:zknSa66A0


「薔薇の盾(ローズシールド)!」
「守りのプレリュード!!」
 飛来する水晶を真紅と金糸雀がガードする。
 僕は力のコントロールが出来るが、ノリスケおじさんは出来るの
かが不安だったがそれも杞憂だったようだ。おじさんも完璧に力を
コントロールしている。
 ――薔薇水晶まで距離がある。
 それまでになるべく力を温存しないといけない。

「カツオくん! 僕になにかがあったら、金糸雀を頼むよ」
「? なにをいってるのおじさん。
 金糸雀も真紅も負けはしない、無論、僕たちもだ」
「は、は。言ってくれるね。ああ、そうしよう。また皆ですき焼き
といこう」
「すき焼きかしら!!」
 ――そう。
 僕たちはまたみんなですき焼きを食べるんだ。
469笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:36:48.90 ID:zknSa66A0
「――遅い、です」

 ……水晶。
 ガラスのように鋭利な刃が僕等に向かって飛来する。時速にする
とおよそ170キロ。
 避けられる筈のない一撃。
 防ぐことも叶わない必殺の刃を、薔薇水晶は躊躇いなしに放って
きた。

「――!」
 ――それを。
 それを完璧なタイミング、完璧な角度で金糸雀の『音』の壁が阻
む。弾けとんだ水晶は電線を切断しながらあらぬ方向へと飛んでい
く。
 真紅の薔薇が一つの矢となって薔薇水晶へ直進する。その圧倒的
速度に薔薇水晶は一瞬驚きの表情を見せたがそれも一瞬。薔薇水晶
は水晶も使わずに素手で薔薇の矢を弾きとばす。
470笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:41:18.88 ID:zknSa66A0
「――いまよ!」
「ああ――!!」

 刹那。
 薔薇の矢に満身の『力』を込める。これが真紅と特訓した力のコ
ントロールだ。
「!?」
 薔薇水晶は右腕が痺れたような素振りを見せるがそれも大きなダ
メージにはなっていない。やはりこの距離では不利だ。もっと接近
しなくてはならない。
「ホーリエ! 行って!!」
 ホーリエが水銀燈たちに合図を送ろうと空へ舞い上がり目映い光
となろうとする。
471笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:44:31.68 ID:zknSa66A0
「やらせない……!」
 薔薇水晶は左手をかざし、ホーリエに水晶を放つ。

 ――あれこそ必殺。
 水銀燈と翠星石への合図を嫌った薔薇水晶渾身の一撃――

「ホーリエ!」
「!? 金糸雀!?」

 ホーリエへ水晶が炸裂する。
 それはコンマ2秒後には現実となる――されど、それは覆される。
 金色のドールによって――
472笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:49:26.14 ID:zknSa66A0
「金糸雀ァァァ!」
「……金糸雀」
 浮遊出来ない金糸雀をノリスケおじさんが受け止める。その目には滝のような涙が流れている。
「金糸雀……金糸雀…………」
「――あ。ノリスケ……泣いちゃ、だめかしら……カナは死なない
かしら。
 ……本当に、本当に、ありがとう……かしら」
「金糸雀――!」
 真紅は金糸雀とノリスケおじさんを守る為のシールドを張り続け
ている。ホーリエを消す為に放たれた水晶はインターバルが必要ら
しい。その間にホーリエは激しく瞬き、水銀燈たちが遥か彼方に現
れる。
「水銀燈……翠星石。間に合ったかしら……真紅。カナのローザス
ティカ、貰ってほしい、かしら」
「――ええ。必ず、貴方の無念を晴らしてみせるわ」

「ありがとう、かしら」

 そうして、金色のローゼンメイデン第二ドールはゆっくりと目を
閉じた。
473笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 10:53:24.11 ID:zknSa66A0


A TEAM

「タラヲ! さっさと力を与えるですぅ!」
「はいで〜す! まったく、中島くんが水銀燈ちゃんとミーディア
ムだなんて驚きです〜」
「はは。僕もタラちゃんがミーディアムになっているなんて聞いた
ときは驚いたよ」
「無駄話はやめなさぁい。
 ――ホーリエが合図を送ってきたわ!」

 ホーリエ、あの真紅の人工精霊が瞬いた時、それが私たちがたた
みかける合図だと、翠星石から聞いている。
 真紅と金糸雀が薔薇水晶を引きつけている間に私たちAチームが
薔薇水晶と三郎という人間のすぐ下に待機出来た。
「――じゃあ、行くか」
「ええ、そうね」
474以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 10:57:31.23 ID:YIlqe1DZO
しえ
475笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:13:02.87 ID:zknSa66A0
 翠星石の如雨露が大樹を生み、薔薇水晶へと伸びる。薔薇水晶は
不意をつかれながらも水晶の剣を精製して大樹の蔓を切る刻む。
「チイ! 水銀燈! 打って打って打ちまくるですぅ!!!」
「言われなくとも――そうするわぁ!!」
 漆黒の翼から羽を薔薇水晶へ打つ。
 薔薇水晶は余裕といった様子で水晶の壁を作ろうとする。
「やらせねえですぅ! タラヲ!」
「はいで〜す」
 タラヲの指輪が緑色に輝き、薔薇水晶に切り刻まれた蔓はもう一
度薔薇水晶を拘束しようと動き出す。
「……これは…………」
 薔薇水晶も計算外だったのだろう。翠星石の蔓は薔薇水晶の動き
を完璧に拘束し、確実に私の『羽』を当てるチャンスが生まれた。
「水銀燈、右肩を狙え!」
「――!」
 中島は真紅の攻撃を受けた右肩を攻撃することを指示する。私は
その指示に従い、羽を刃に、右肩を貫こうとする。
476笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:36:43.30 ID:zknSa66A0
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無
駄!!!!!!!!」

 ――三郎。
 薔薇水晶を作った張本人である東天宮寺三郎が間に割って入り、
その拳を以て私の羽総てを弾き飛ばした。
「サブちゃんで〜す」
「ウリィヤァ!!」
 三郎の手刀が蔓に炸裂し、薔薇水晶は解放される。薔薇水晶の表
情は変わらないが、きっと心情では助かったと思っているに違いな
い。
「どうしてですぅ!? 人間が翠星石たちの攻撃を――!」
「全く……君たちは……僕が言ったコトを理解しているのか
ぁ!? この世界は僕のnのフィールドだ。故に、この世界は僕の
モノであり、この世界なら僕は無敵だ。判ったかぁ? この勝とう
人形ゥゥゥゥ!!」
 三郎の声が天空に響く。
 それでも、この世界には誰もいない。私たちだけの世界。それは
言い換えれば、なにもない世界だ。
「そしてェ! この世界ならば、この僕自身でもドール以上の力を
ォォォォォ!!」
「な!」
 既に――
 既に翠星石の背後に回った三郎は一片の迷いも躊躇いもなく、そ
の拳を振り下ろした。
477笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:37:47.90 ID:zknSa66A0
「翠星石! 中島! 早くしなさい!」
「判ってる!」
「ムゥゥゥン!!」
 私の羽は虚しく空を切り、三郎は一度距離を取って薔薇水晶へそ
の自らの無敵の力とやらを送る。
478以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 11:41:01.73 ID:2qoGVAIK0
あんまり面白くないな・・・
頭狂ってるのが読みたかった
479笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:41:39.62 ID:zknSa66A0
「――翠星石! 翠星石!」
「……なさけねえですぅ、この翠星石ともあろうものが……
あんな下衆にやられちまうなんて……。
 水銀燈? 聞いてます?」
「ええ、聞いているわ。だから――」
「は、は。なんて顔してるですぅ? まったく、いつもは翠星石の
ことなんて気にも留めねえくせに……」
「――!」
 気がつけば、涙が流れていた。
 アリエナイ。私は、いつも独りで、いつだって馴れ合わなかった
のに、姉妹がいなくなるのが、喪うことをどうして悲しんでいるの
だろう。
 アリスゲームは、姉妹がいなくならないとイケナイのに。

「あ。そろそろ動けなくなっちまうですぅ。最後に――抱っこしてほしいです……」
「……」
 本当に、ただ上半身を起こすように抱いた。
 翠星石を、力一杯抱きしめる。

「――ああ。気持ちいいですぅ。
 ずっと、大好きだったんですよ? ずっと、こうしたかったんで
すよ? お姉ちゃん……」

「翠星石ちゃん……」
「タラヲ……翠星石のローザミスティカは水銀燈にあげるですよ。
 あと、今まで、ありがとう、です……」
480笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:44:55.05 ID:zknSa66A0
 ――そうして、翠星石は息絶えた。
 紫色の、気高くも美しいローザミスティカ。
 それを私は両手でしっかりと受け止めようとした。
 それを――


「うざいで〜す。
 これはサブちゃんにあげま〜す」


 なんていう餓鬼が、阻み、愛する妹の魂は奪われた。
481以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 11:48:52.56 ID:yTHg+Ouo0
タラヲ死ね
482以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 11:58:33.31 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
483笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 11:59:05.45 ID:zknSa66A0


「なんという愛憎!
 なんという人情!
 これが! これが――! アーハッハハハハハハハ!!!!」

 木霊する。
 三郎の、下卑た嗤い。
 タラヲの莫迦げた行為。
 タラヲのふざけた行動。
 タラヲの――。
 タラヲの――!

「タラヲォォォォォォォォォォォォ!!!
 赦さない! 絶対に――! 中島ァ!」

 中島の指輪が今までにないほどに紫色に輝く。それだけ中島もタ
ラヲの行動を赦せないのだ。
484以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:01:34.39 ID:V3Ys6Mhh0
支援
485以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:03:46.97 ID:9t204QBWO
タラヲはぐっちょんぐっちょんのミンチにしてほしい。
意識のあるままじわじわ肉体破壊とか。

486笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:05:01.74 ID:zknSa66A0
「貧弱で〜す。サブちゃんにこれあげるで〜す。
 だから僕も仲間に入れてほしいで〜す」
「ンンンンンンンンンンン!!!!! ローーーーーーーーーーー
ーーーザミスティカァアァァァァァ!!!! これだけは僕が!
 この僕ですら再現不可能の賢者の石ィ! 故に! これを僕が取
り込めばアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 三郎の身体が緑色に輝き、その光は些かの際限もなく膨張してい
く。
 まるで、宇宙だ。その宇宙をも思わせる輝きに中島の力も打ち消
される。
 ――勝てない。
 そんな思考が頭をよぎった。

「死ぬで〜す」

「――ああ、まずお前から、な」

 調子に乗ったタラヲを、三郎の右腕が貫く。
 腹部を貫通されたタラヲは調子に乗った発言をした数秒、否、コ
ンマ数秒後にはビクンビクンと数回痙攣しただけで亡骸となってい
た。
487以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:08:28.72 ID:V3Ys6Mhh0
タラヲざまぁwww

支援
488笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:11:16.13 ID:zknSa66A0
「快楽――! 殺人の悦楽! 是こそ、至高!!」

「お父様……」
「さあ薔薇水晶、あの黒い天使を今度こそ――!
 ――ああ! 感じたい! 見てみたい! ローザミスティカをさ
らに取り込んだ場合どうなるのか!」

「――」
 特大の水晶。
 今度こそ躱せない。
 これで終わってしまう。
 翠星石や蒼星石、雛苺の、大事な妹たちの無念を晴らせないで――

「――薔薇の朱槍(ローズ・ランス)!!」

 赤い。
 紅い、花弁の槍。

 ――ああ。忘れていた。

「おそかった、わねぇ。おばかさん」

 まだ私には頼れる妹がいるじゃない――!

A TEAM OUT
489ぜっとたけ ◆zzzzzzzzsc :2009/05/10(日) 12:12:07.13 ID:OjV/EzoYO
まだあったのかよWWWWW
490以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:15:08.01 ID:emyItS5iO
タラオがやっと死んだ
昨日から期待してたぜv(^O^)v
491笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:16:05.03 ID:zknSa66A0


 風が強くなってきた。
 今まで無風だったのに、急に風が出てきた。きっと、これはサブ
ちゃんの心に乱れが出ているからだろう。
「真紅、サブちゃんの中に――」
「ええ、翠星石を感じるわ。そうでしょう? 水銀燈」
「……翠星石のローザミスティカがあの人間の身体に取り込まれて
いる。金糸雀は?」
「金糸雀は誇りを守って、私に、否。
 私たちに全てを託していったわ」
「――そう。じゃあ、負けられないわねぇ」
 真紅と水銀燈に大きな力を感じる。水銀燈の中に、蒼星石のロー
ザミスティカが入っていったのだろう。
「――え?」
 その前に、なにかに気がついた。
 水銀燈のすぐ側にいる眼鏡の少年に。
492むこあえい:2009/05/10(日) 12:16:32.70 ID:P/V2EIVR0
www
493以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:18:08.70 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
494笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:19:56.28 ID:zknSa66A0
「中島……」
「磯野……久しぶりだな」
「全くだ。だが今は話している余裕はない。
 水銀燈、中島。薔薇水晶を頼む」
 今、僕たちの中で生き残っているのは真紅と水銀燈の二体のみ。
ならば、ここは一対一で決着をつけた方が判りやすい。
「わかった。水銀燈、一度だけサブちゃんと薔薇水晶を切り離す為
に全力で力を使うぞ」
 水銀燈の羽が大きく羽ばたき、水銀燈は空を舞う。その様はまさ
に漆黒の天使であり、その速度は視認が出来ないほどのものであっ
た。
「水銀燈!」
「真紅!」

「――また、会いましょう。我が姉妹(マイシスター)」
495以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:22:58.86 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
496笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:26:31.75 ID:zknSa66A0
 2人の声が響き、水銀燈は薔薇水晶へと突進する。
 無論、それだけの速度の体当たりなら、薔薇水晶はサブちゃんか
ら離れざるを得ない。僕たちの計画の第一段階は完了した。

「――さあ、あとは自分たちの仕事だ。
 いくぞ、真紅」
497笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:27:19.85 ID:zknSa66A0


 朱の花弁を振り回しても今のサブちゃんを倒すことはできない。

 そんなことは判っている。
 判っているが故に、完璧に狙いを定めて槍と矢を放っている。し
かし、それら総てが空振り、サブちゃんの接近を少しずつだが許し
てしまっている。
「ウリィヤァ!!」
「真紅!」
 サブちゃんの拳。あれを食らったら一撃で内臓を破壊される。僕
は勿論のこと、真紅ですら一撃でバラバラにされる威力だ。
 拳は総て最硬度の花弁盾でガードし、距離を取る。それでも僕等
の力は消費している故に僕等の不利は決して変わらない。
「――真紅。もし出来たらでいいんだが……」
 真紅に耳打ちする。
 それはたった一つのこと。
498以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:32:10.85 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
499笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:34:59.48 ID:zknSa66A0
『――姉妹の力を使えるか』

 今、真紅の中に宿っているのは『雛苺』と『金糸雀』の魂だ。そ
の力を使えるのならサブちゃんのこの世界を止めるコトが出来るか
もしれない。そうすれば僕たちにも勝機はある。この世界でなくて
はサブちゃんは今のような力を発揮出来ない。

「……判ったわ。
 ただ、一分だけ時間を稼いで頂戴。出来る?」

 真紅は僕の考えと作戦を瞬時に理解し、僕に一分の時間を要求し
た。
500笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:40:59.82 ID:zknSa66A0


〜水銀燈〜

「……」
「――水銀燈!」
 水晶の剣に、私のショートソードは砕けないでいてくれるのは偏
に蒼星石の力があってこそだ。
 ――切れ味は何よりも鋭く、その硬さはなによりも硬い。
 それは蒼星石の庭師の鋏に匹敵する。
 それは蒼星石の意志の強さに由来する。
 それがこの剣。
 
「水銀燈! 二時の方向に40!」
「ええ!」
 中島の指示通りに羽の弾丸を放つ。
 水晶が放たれる方角、薔薇水晶が隙を見せるタイミング。それを
完璧に予測、計算して中島は私に指示を送ってくれている。
 ――ならば、私はそれに倣って戦う。
 まったく笑ってしまう。私ともあろうものが、誰かを信用して、
協力して戦っているなんて。
「五時の方向に角度70度!」
「――!」
 押している。
 間違いなく、私は薔薇水晶に勝っている。私と中島ならこのまま
――

〜水銀燈 OUT〜
501笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:44:48.15 ID:zknSa66A0


 この世界は、人の夢。

 この世界は、僕の夢。

 この世界は、彼の夢。

 ――ああ。
 僕たちは、同じだ。
502以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 12:48:48.41 ID:KHS7PAjPO
支援
503笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 12:52:41.54 ID:zknSa66A0


「殺すゥ!」
 サブちゃんの右拳が空を切る。
 この世界は彼を強くしている。
 夢の中なら、人はいくらでも強くいられるから。
 ……だが、それは僕にしても同じだ。この世界は『108』の世
界。人の煩悩であり、夢。
 
 僕の世界。
 彼の世界。
 同じ世界。

「――東天宮寺――三郎――!!」

 躱した勢いで身体をひねり、左裏拳がサブちゃんの顔面に炸裂す
る。
 大したダメージにならないことは承知の上だ。今の僕は真紅のた
めに時間を稼いでやることだ。

「無駄無駄無駄ァァ!! 無駄なんだよォ、気がついたのは褒めて
やるがァァ!」

 いつも乗っているスクーターよりも速く。
 それは、人が決して体現出来ない速度で。

 『シ』が迫っていた。
504以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 13:03:37.22 ID:V3Ys6Mhh0
支援
505以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 13:08:24.55 ID:YIlqe1DZO
試演
506笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:09:22.75 ID:zknSa66A0


 死ぬ。
 あれを食らえば、否応無しに。
 死んでしまったら意味がない。

「真紅――!」

「間に合ったのだわ!
 薔薇乙女の――オーベルテューレ――!!」

 真紅が持っているのは金糸雀のバイオリン。真紅の服と同じ赤色
のバイオリン。
 弓が弦をとらえ、旋律が奏でられた。
507笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:16:14.87 ID:zknSa66A0
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
A!!!!!!!!!!」

 サブちゃんはその旋律を聴いて頭を掻きむしる。

「はおほあんfbvなぴえぎはいhぎあbぴなえぴtばぃあhgぱ:pjhb
ぴあへぴはぴbぴあねbぴはぴghぱjrg:おpじゃえおtjぺhjぴ
あえpbぴあえhtぴあおjbj」

 世界が歪む。
 今まで吹いていた風がまるで台風のように激しくなり、世界がぐ
にゃりと、まるでこんにゃくのようにねじ曲がる。

「金糸雀――力を貸して。
 力に縛られた愚かな者を裁く、力を貸して――!」

 世界が終わる直前。
 サブちゃんは音速と形容しても間違いのない速度で逃走した。
508笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:20:16.32 ID:zknSa66A0


「――これは?」

 それは異様な光景だった。

 薔薇水晶の身体は大きく変形していた。

「真紅! どうなってるの? これ!?」
「落ち着きなさい水銀燈。
 こうなったら止められない。あの男は第七ドールの、薔薇水晶の
中に宿っている第七ドールである雪華綺晶のローザミスティカを吸
収するつもりなのだわ。止められないのだから今のうちに少しでも
体力を回復させなさい」
「中島。そういうことだ」
「ああ、しかし納得いかないな。どうしてサブちゃんはそこまでし
て――」
「それだけ、ローゼンへの憎しみが強いんだろうな……」
「お父様はその力故に、色んな人に憎まれた。その中で7体のドー
ルを完成させた。彼もまた、そうなのでしょうね」

「あ、あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――ああああああああ」

 サブちゃんの身体が白く輝き肥大化する。
 その肉体はまるで防具でガチガチに固めたアメリカンフットボー
ルプレイヤーにも思える。
509笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:26:09.02 ID:zknSa66A0
「――■■■!!」
 声にならない声。
 その轟音を鳴り響かせ、突進してくるは力と才能に縛られた愚者。
「マズい――! 真紅――!」
 真紅を抱えて最大速度で避ける。中島も同じように水銀燈を抱え
て僕と同じ方向へと避ける。
「――ッ!」
 右肩を翳めた――!
 そのダメージは本来なら何でもないものではあるが、相手は人間
の器に、二つのローザミスティカ、二つの神秘を身に宿した者の一
撃。翳めた程度でも痛みは想像を絶する。
「カツオ!? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、それよりもサブちゃんを倒すにはどうしたらいい?」
「……磯野。真紅、水銀燈。一つだけ頼みがあるんだが聞いてくれ
ないか?」
「? どうしたのさ」
「奴の弱点。もしかしたらあるかもしれないんだ。
 サブちゃんは攻撃した際にたった1秒から2秒ほどの僅かな時
間隙が生まれるんだ、それをついてほしい」
「――いい作戦じゃなぁい。どうしてそれを『頼み』なんて言うの
かしら?」
「……ああ。それはな。
 確証がないんだ。一撃しか見ていないからね。だから、頼みなん
だよ」
「――OK。わかった。中島のコトを信じようじゃないか」
「そうね。どちらにしろそれしか方法はないのだから」

 ――さあ、最終決戦だ。
510笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:30:06.33 ID:zknSa66A0


「■■――!」

 突進。
 先刻と全く変わらない突進。
 サブちゃんは何も変わらないが僕たちは違う。僕たちは対策を練
ってここに来た。
「真紅――!」
「ええ! 苺轍――!」
 雛苺の苺轍。僕は見たことのない能力ではあるが、この能力は拘
束の出来る能力だ。
 たとえ一瞬でも、この突進を止められるのならばこの場に於いて
究極の能力となる。

「■■■■!!!!」
 
 暴風のような暴力を紙一重で躱す。
 その瞬間。僕と中島は自らの中に秘めている力総てを放出する。
511笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:37:42.39 ID:zknSa66A0
「貴方は――娘である薔薇水晶を裏切った」
「貴方には絆がないのよぉ! とんだジャンク!」

 ――紫と。

 ――赤の。

 何よりも尊い。
 絆と生命の輝き――!!


『――絆――パンチ――!!!』


 崩れていくサブちゃんの肉体。
 崩れていくサブちゃんの世界。

 力を振り絞った所為か。

 それとも、他の要因か。

 ――眠く。
 ――眠く。
 ――なっていった。
512笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:42:43.85 ID:zknSa66A0


「――オ!」
 頬に痛みが一つ。

「――!」
 もう一つ。

「――!」
 また――

「いい加減にしろ!」
 3回目で飛び起きた。
 痛みというか、なにかいい匂いがしたからだ。
「ようやく起きたわね。カツオ、終わったのよ」
「――?」
「鈍感ねカツオ。終わったの、三郎という愚者は滅びたのよ」
 ……ああ。目が覚めた。
 ここは僕の部屋。側にいるのは水銀燈と中島。それに――

「真紅。もう少し優しく起こしてくれないか? また気絶するとこ
ろだったぞ」
「甘えるのはよしなさい。いい、薔薇水晶と三郎がいなくなったと
いうことは――」
「――あ」
 理解した。
 共通の敵がいなかくなったというコトの意味を。
 真紅と。
 水銀燈が。
 決着を付けなければならないのだ。
513以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 13:47:20.50 ID:CVAfOu8TO
前みくるのSS書いてなかったですかー?
名前なかったけど前ー
514笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:51:10.27 ID:zknSa66A0
「――もういいだろう? アリスゲームなんて……もう…………」
 もうやる必要はない。
 
 水銀燈にとって真紅は。
 真紅にとって水銀燈は。

 たった1人の。
 たった1体の。

 姉妹なのだから。

「いいえ。それは違うわ」
 水銀燈が口を開く。
 漆黒の装束がふわりと揺れて僕の眼前に迫る。
「その通り。私たちはお父様に頼むことがあるの。それは水銀燈も
私も同じこと。
 要するに、私たちが戦うのは単なる殺し合いではなく――」

 ――お父様に会うという権利を奪い合うということ。

 真紅は静かに答えた。

 ――ああ。
 なら、僕はその手伝いをするだけだ。
515笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:56:55.16 ID:zknSa66A0
11



 水銀燈との決着は一ヶ月後に決まった。
 すぐに行わないのは僕と中島の傷を癒す時間であり、僕たちの最
後の時間を楽しむためでもあった。
 中島は水銀燈を。
 僕は真紅を。
 心の底から愛している故に、僕ら人間組が人形組に頼んだことだ。

 ローザミスティカは雛苺と金糸雀、雪華綺晶のモノが真紅に。
 翠星石、蒼星石のローザミスティカが水銀燈に渡った。

「なあ真紅」
「どうしたの?」
 どうしたの? なんて気丈に振る舞っているがその手に握られて
いるスプーンは震えている。指輪から伝わってくるのは恐怖に似た
感情。離れたくない、ずっと此所にいたいという気持ちだった。
516以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 13:58:42.12 ID:YyeK3rs6O
絆パンチw
だが燃える
517笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 13:59:08.15 ID:zknSa66A0
「……やっぱり、怖いのか。水銀燈との決着」
「フフ。なにをいうのかしらね。
 いい? 私たちは戦わなければならない。これはドールだから、
なんていう理屈じゃあない。これは運命よ。私たちは戦う運命にあ
るの」
「それでも、怖いんだろう? 水銀燈は本当に強い。きっと、今ま
で見てきたどんなドールよりも、なによりも。
 でも、な――」
 真紅を抱きかかえる。
 彼女が震えているから。
 彼女が少しでも恐れているのなら、僕は彼女を支えよう。
 それが、僕が出来ることなのだから。
518笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:04:56.23 ID:zknSa66A0
「――私は貴方の幸せなお人形。
 カツオ、私は――」

 真紅が僕の胸にしがみつく。
 僕はその表情を見ることは出来ないが、彼女の肩が小刻みに震え
ているのが判る。――彼女は、泣いているのだ。
「私は、怖いの……水銀燈に負けること。水銀燈が望むことも判っ
ているのに…………負けるのが、恐い……あの子に沢山酷いことを
して、あの子を沢山傷つけた。その仕返しをされるのが、その復讐
をされるのがなによりも怖くって、苦しくって、辛くって――」

「――ああ。そうか。
 大丈夫。僕はキミを勝たせてみせるから――」

 なんだ。
 僕がしたかったのはこういうことだ。

 信じること。
 それが、本当の強さだ。
519笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:11:08.92 ID:zknSa66A0


 ……そうして一ヶ月。

 4月15日。待ち合わせは午前7時にnのフィールド。
 これが最後の朝食であり、それを作るのは――

「別に最後の朝ご飯をお前が作らなくてもいいんじゃないのか?」
「馬鹿ね。今までお世話になったのだからこれくらいしておかない
と淑女の名が廃ってしまうのだわ」
「OK。判ったんだけどさ。その真っ黒の炭みたいのはなんだ?」
「――!」
「痛ッ!」
 真紅のツインテールでのビンタ。それを受けるのもこれが最後に
なるのだろう。

「これはトーストと目玉焼きよ。それも判らないなんて……ふう」
「ため息を止めろ。これを食うのは誰だと思っている」
「勿論、貴方を含めたこの家にいる全員よ。タラヲがいなくなって
この家族も清々しているらしいから、これだけおいしい料理を食べ
ればさらにテンションが上がることでしょうね」
「――!」
 一瞬。
 ほんの一瞬だが。
 笑っている真紅が、透けて見えてしまった。
520笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:14:49.87 ID:zknSa66A0


「それじゃあ、行こうか」

「ええ」

 鏡にゆっくりと足を踏み入れる。

 一度だけ、真紅は振り返った。
521笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:20:02.51 ID:zknSa66A0
12



「来たわね」

「ええ。来たわよ」

 何もない空間。
 ここならば、誰にも迷惑なんて掛からない。
 サブちゃんの世界のように、僕たちに補正が掛かることのない、
純粋に戦闘をすることが出来る世界で、何百年にも続いてきたアリ
スゲームに今、決着がつくのだ。

「――磯野。野球(アリスゲーム)しようぜ」

「ああ。プレイボール、だ」

 最後のアリスゲーム。

「薔薇の朱槍(ローズランス)!!」
「銀色の竜(シルバードラグーン)!!」

 ――ここに決着す――
522以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:21:25.82 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
523以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:22:21.71 ID:YyeK3rs6O
タラヲw
524以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:22:54.74 ID:dyTe2do40
中島「磯野。ワカメやろうぜ」
525笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:25:09.37 ID:zknSa66A0


 壊す。

 殺す。

 滅ぼす。

 そんなものではない。
 僕たちは、そんな下卑た戦いはしない。

 僕たちの戦いは。

 輝いて。

 尊くて。

 守る。

 ――それが僕たちの戦いだ。
526以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:27:34.21 ID:V3Ys6Mhh0
しえしえ
527笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:29:43.03 ID:zknSa66A0
「真紅!」

「水銀燈!」

 指輪が何よりも輝く。力の余力なんて考えない。
 僕たちが出来ることなんて一つだけ。

 ――愛するものを助けること。

 愛する者を信じてあげること。

 愛するからこそ戦って。

 愛する故に、勝ってほしい。

 その思いが交差して。

 その願いが炸裂する。
528笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:35:05.43 ID:zknSa66A0


 水銀燈たちに隙なんてものはアリエナイ。
 ならば方法は一つしかない。僕と真紅が出来るコトは力ずくで水
銀燈と中島の力を超越し、勝利する。それしか方法はない。

 ――勝機なんて考えていない。
 作戦なんて練ってもいない。
 ただ単純に力の限り――殴って、蹴って、放って。

 強く。
 強く。
 強くありたいという願望。
 強いものへの羨望。
 それが、今の僕たちの強さを生み出した。

「カツオ!!」
「――ああ!」
「水銀燈!」
「中島!」

 ――これで、最後だ――
529以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:37:25.81 ID:V3Ys6Mhh0
支援
530笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:39:44.09 ID:zknSa66A0
「――ッッ!
 あああああああああああああああ!!!!!!!!」

 
 全身を破裂させるような、力。
 目を瞑ればそのまま落ちてしまう。

 だから目を開けていよう。
 目を開けて、彼女の戦いを見ていてあげよう。

 ――漆黒と銀色の人形が膝から崩れる。
 もう、決着はついたのだ――
531以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:44:37.39 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
532笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:45:01.09 ID:zknSa66A0


「――水銀燈」
 ぽたり、と液体が頬に落ちる。
 ――ああ。そうか。
 負けたのだな、私は。
 憎しみもとうに枯れ果てて、悲しみなんてどこかへ行ってしまっ
た戦い。私たちはそんな戦いを最後にするコトが出来た。
 
 なにを恥じる。
 恥じることなんかなにもない。だから、私と最後まで戦ってくれ
た少年も、胸を張って笑えばいいのだ。
 私のような女の為に。
 私のような人形の為に。
 最後まで尽くしてくれた。それを本当に感謝しているのに……声
が出ない。
 声帯が潰されたというコトは断じて在り得ない。真紅がそのよう
なことをするとは思えないからだ。
 ――ならば、どうしてだ。
 私の声が。
 私の喉が。
 震える。まるで凍えたように、震えが止まらない。
533以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:49:32.32 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
534笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 14:50:01.49 ID:zknSa66A0
「あ、あ」
「水銀燈――!」

「な、かじま。
 ――あ、り、がと」


 ――ああ。
 言えたじゃないか。
 ずっとずっと前に言わなくちゃいけないコト。
 それを最後でもとにかく言うことが出来た。
 真紅の願い、否、私たちを願いをお父様は叶えられるかは判らな
い。
 伝えられて、本当に良かった。
535以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:54:27.18 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
536以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 14:55:51.04 ID:61CEy6NLO
しえん
537以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:08:26.46 ID:V3Ys6Mhh0
猿か
538笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:18:29.62 ID:tJVQ+fdE0


 ……真紅は勝利した。

 真紅は、この永い永い。本当に永い、アリスゲームの勝者となっ
た。
 水銀燈、翠星石、蒼星石のローザミスティカが真紅の体内に入っ
ていく。それはなによりも神聖なものにも見えた。
 悲しくなんてない。
 これでよかったのだ。
 僕も、真紅も。この戦いに勝利することを目的にしてきた。だか
ら、別れを惜しむなんてことは決してない。下も見ず、ただ真紅を
見つめて抱きしめよう。
「真紅、おめでとう」
「ありがとう。貴方がいなかったら、この戦いに勝利することは在
り得なかった。本当にありがとう」
 たった一言。
 これ以上話すことは出来ない。
 話すと、きっと涙が出てきてしまうから。今だって涙を堪えるの
に必死だというのに。
539以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:20:21.94 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
540笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:25:16.71 ID:tJVQ+fdE0
「――」
 僕らの前に重厚な扉が現れる。きっと、この扉の向こうには――
「さようなら。カツオ。
 また会う日には、もっと紅茶を上手に煎れられるようになりなさ
い」
「ふ、ふ。そうだな。最後までお前らしくって、助かった」
 真紅の表情は穏やかだった。僕は抱きしめていた腕を解いて、最
後にその顔を記憶に刻み付けた。
 この表情を。
 否、今まで見てきた総ての表情を。
 これからずっと、忘れないように――

 重厚な扉は、真紅が手をかざすとひとりでに開いた。
 真紅はその中へ。
 僕は、その逆へ。
 ――振り返りはしない。
 お互い、もう見せられる表情では、ないと思うから。
541以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:27:39.45 ID:V3Ys6Mhh0
支援
542笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:30:49.10 ID:tJVQ+fdE0
Epilogue

 そうして、夏になった。

 あの戦いから3ヶ月。季節は夏で、今は夏休みだ。
 それでも、僕は呆とした日々を送っている。以前はあれほど楽し
かった夏休みが、今では退屈でたまらない。
 ――あの冬の出来事。あれを思えば、今のこの平和で代わり映え
のしない日々がどうしても莫迦げたものに思えてくる。
 あの大凡人形とは思えない人形たち。ローゼンメイデンのドール
たち。
 彼女と過ごした日々は、大変だと思ったときは幾度もあったが、
辛いと思ったことは一度としてなかった。
 今なら胸を張って楽しかったと言える。
 僕という存在が誰かの役に立てて、僕という存在を信じてくれた
彼女たち。その、かけがえのない時間を、決して忘れはしない。
543以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:34:16.41 ID:V3Ys6Mhh0
終盤支援
544笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:35:05.00 ID:tJVQ+fdE0
「カツオ〜。今日の御飯はすき焼きよ〜」
 姉の声が響く。タラヲがいなくなって、この家は明るくなったよ
うに感じる。
 姉の表情も穏やかだ。しかし、たまに真紅や翠星石を思い出すと
悲しげな顔をする。それは父も母もワカメもマスオ兄さんもだ。皆
が彼女たちのことが大好きだったのだ。
「いーそーのくーん!」
 玄関から声がする。この声の主が誰だかなんてすぐにわかったが、
今日はいつもよりも声のトーンが高い気がする。なにかいいことで
もあったのだろうか。
「はいはい。どうしたのさ。
 ――え!!」
 目を、疑った。
 本当に、これが夢なんじゃないかと思った。
545以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:39:47.74 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
546笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:39:55.44 ID:tJVQ+fdE0
「カチュオなのー! ねえ花子! 今日はカチュオと沢山遊ぶの
〜!」
「そうね。というわけだから磯野くん……雛苺が……帰ってきたの
よ……」
 先刻の声とはうってかわった。花沢さんの声。涙でしゃがれてい
てなにを言っているのかが判らない。
 雛苺。ローゼンメイデン第6ドール。真紅の妹。その彼女が此所
にいる。彼女は薔薇水晶に敗北した筈なのに。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 ――声が聞こえた。 
 声は僕の部屋からしたので、走って現場へ向かう。
「金糸雀……それに――!」
「あ! 真紅のマスター! 今日はすき焼きって聞いてノリスケと
一緒に飛んできたかしら! カナは皆を驚かす為にここから入って
きたんだけど……」
「こんばんはお姉様。さあ、きらきーにもそのすき焼きというもの
を教えてくださいまし……ウフフフ」
 ――金糸雀。ローゼンメイデン第2ドール。ドジなところが相変
わらずだ。
 それに、側にいる白いドールは第七ドールの雪華綺晶。実体を持
たない彼女がどうしてここにいるのか(それは雛苺、金糸雀にも言
えることだが)判らないが、どうしてかテンションがおかしい。
「やめるかしら〜!
 ……ん?」
547笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:45:12.77 ID:tJVQ+fdE0
 なにか、飛来してくる。
 茶色の鞄。それも二つ。
「おい雪華綺晶! だっけか? 窓開けろ窓!」
「いやです。ウフフ」
 ……こいつ。決行嫌な奴だな。
 雪華綺晶の謀反により開けられなかった窓は二つの鞄に粉々に砕
かれた。すき焼きを食わせんぞコイツら。文句を言ってやろうと鞄
に近づく。
「翠星石! ほら、おじいさんも怒ってないから! さあ、帰ろう!」
 タイガーアッパーカット! 勢いよく開け放たれた鞄は僕の顎に
クリーンヒットし、意識を刈り取ろうとする。しかしここで倒れな
いのがあの戦いの勝者だ。フラフラになりながらももう一方の鞄へ
と歩む。
「いやですぅ! もう終わりですぅ! あのじじいの盆栽を全部ラ
フレシア並にでかくしちまっては翠星石の人生の終わりですぅ!」
 タイガーディストラクション! もう一方の鞄が僕の顔面を打つ。
まさか僕が立っている側が止め具側だったなんて。
548以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:46:21.33 ID:V3Ys6Mhh0
外出前の支援
549以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:49:36.86 ID:q2K11z910
なにこの稚拙な文章
同じ物書きとして恥ずかしい
550笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:49:48.43 ID:tJVQ+fdE0
「あー! 翠星石と蒼星石なのー!」
「チビイチゴ! まさか、おめーも!」
「久しぶりだね。雛苺」
「お姉様がいっぱい。きらきー、嬉しい」
 どうしたのだろう。
 こんなにも、アリスゲームで敗れ去ったドールたちが復活してい
る。まさか――
「もう一度アリスゲームを――」
「そんなわけないじゃなぁい。ホント、おばかさんなんだから」
「!? おまえ――水銀燈か!」
「ええ。貴方、真紅の願いを聞いていなかったの?」
「……なんのことだ?」
 真紅の願い。それは父であるローゼンに会うこと。それは知って
いる。それと今のこの状況が結びつくというのか。
「あの子はね――」
「ちわー! 三河屋でーす!」
「!?」
 水銀燈の言葉を裂くように我が家へビールを持って来たのは――
551以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 15:50:21.99 ID:djCau4MaO
追いついたですぅ〜
552笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 15:54:54.45 ID:tJVQ+fdE0
「サブちゃん……どうして…………」
「そんな怖い目で見ないでくれよ。
 僕は気がついたんだ。ローゼンを超えるには戦闘ではない、とい
うことをね」
「……?」
「いやだなあ。判らないのかい?」
「判らないの……?」
「!?」
 薔薇水晶まで! 一体どうなっているんだ?
「それは簡単さ! ローゼンメイデンはおしとやかさがないのさ。
 ドS。
 空気。
 ツンデレ。
 僕っ子。
 高慢ちき。
 子供。
 ヤンデレ。
 どうだい? これがおしとやかかい? その点、薔薇水晶は完璧さ!」
「配達……楽しい…………」
「――ああ! 可愛い薔薇水晶! 君こそ僕のアリスだよ!」
 ……ダメだ。付き合いきれん。
「わかった? わからないわよね。薔薇水晶の中にローザミスティ
カがあること」
 水銀燈が耳打ちしてくる。僕には判らないが、ローザミスティカ
は確か――
「そうですぅ。ローザミスティカは七つ。これは絶対に増やせない
ですぅ」
「でも、彼女。薔薇水晶にはそれがある。どういうことかわかるか
い? カツオくん」
553笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 16:00:06.66 ID:tJVQ+fdE0
「――」
 それは。
 それは、つまり。

「真紅は……私のためにローゼンに頼んでくれた。七つのローザミ
スティカで皆を復活させてほしいと。私を含めた、七体を」
「アリスは、戦いで決まるものではない。それは愚だと、真紅はお
父様に言ったのかしら」
「そして、お父様は答えてくれたの……ヒナたちのことをもう一度
動けるようにしてくれたの」
「さらに、私に『器』を作るように頼んでくれた。1人だけ閉じ込
められているのは、可哀想だと」
「――」
 ……理解出来た。
 僕は、そんなコトも知らずに。真紅を勝利させた。
 馬鹿な考えだけれど、水銀燈が勝利すれば――
「貴方、私が勝てば真紅は復活したと思った? それこそ真紅を馬
鹿にしているわよ。たしかに私もあの子と同じ望みをお父様に頼ん
だ。でも、私は中島に貴方のような考えを起こしてほしくなんてな
かったわよぉ」
 その通りだ。
 僕は、馬鹿だ。
554以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:02:14.68 ID:mCbLMJwXO
しえー
555笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 16:04:48.41 ID:tJVQ+fdE0
「し、んく――!!」

 すき焼きの匂いが居間から漂ってくる。
 水銀燈たちは居間へ静かに向かった。
556笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 16:08:52.63 ID:tJVQ+fdE0
 ――台所にはだれもいない。
 今なら、泣いても――

「あら。泣いてしまうの? 情けないのね」

 ――当たり前だ。僕は今、自分の愚かしさを呪っているのだ。

「そう。泣くのは勝手だけれど、誰の為に泣くのかしらね」

 ……そんなのは決まっている。真紅の為だ――

「真紅――!!」

「ようやく顔を上げたわね。
 ねえカツオ。紅茶を入れて頂戴。上手になっている?」

「は、は。バカにするなよ。僕だって練習したんだ。でも、今日は
すき焼きだぞ?」

「あら? この国ではすき焼きと紅茶はだめなの?」
557笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 16:11:20.85 ID:tJVQ+fdE0
 ――いいや。いいよ。
 赤いドレス。いつもと変わらない態度。
 覚えている。覚えているとも。
 お前はいつだってそうだった。
 これからも、そうでいいんだ。

「――OK。待ってろ。最高に美味しいお茶を入れてやるからな。
 それと、おかえり。真紅」

「――ただいま。カツオ――」

磯 野 カ ツ オ が 薔 薇 乙 女 と 出 会 う そ う で す
              FIN
558以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:12:50.15 ID:mCbLMJwXO
しぇーん
559笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 16:13:29.70 ID:tJVQ+fdE0
五時になったら鬱モノを投下する。
560以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:14:32.28 ID:bpBYUQny0
支援
561以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:15:32.84 ID:djCau4MaO
wktkしながら待つぜ!
支援!
562以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:16:27.59 ID:Bq5lPrNaO
乙なのだわ
563以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:28:27.44 ID:mCbLMJwXO
しえーん
564以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:48:07.28 ID:mCbLMJwXO
支援
565以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:49:37.70 ID:bpBYUQny0
もういっちょ支援しときます
566以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:52:07.06 ID:mCbLMJwXO
支援支援
567以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:53:14.06 ID:emyItS5iO
笑み社さん乙です


タラオをボコる話は5章ですね
568以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 16:55:24.58 ID:mCbLMJwXO
支援支援支援
569笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:02:03.89 ID:tJVQ+fdE0



フグ田タラヲ 17歳



570笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:05:07.99 ID:tJVQ+fdE0
「ご飯、ここにおいとくわね。タラちゃん」

 タラちゃんなんて呼び方やめてくれ。

 そんな風に呼ばれると甘えたくなる。
 そんな風に呼ばれると泣きたくなる。
 そんな風に呼ばれると…………。

 やめよう。こんなこと考えるなら、もっと他のことを考えるべきだ。

「考えることなんてないくせに……です」

 その通りだ。
 もとより、フグ田タラヲが思考することなど、なにもないのだ。
571以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 17:10:37.50 ID:dyTe2do40
タラヲ死ね
572笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:10:50.05 ID:tJVQ+fdE0
 ――14年前は、皆が自分をかわいがってくれた。
 おかしくなったのは10年前。僕が小学生にあがったころだったか。
 いや、9年前だったかな?
 人の記憶なんて曖昧で不確かだ。その上、なにもない、空っぽの生活を送っている自分にとって
してみれば、10年前も9年前もさして変わりはない。

 本音を言うと、幼き日の僕は、なにをしても怒られるカツオ兄ちゃんのことを見下していた。
 毎日のように、否。毎日同じようなことで怒られているカツオ兄ちゃんを尊敬の念を抱いたことは
一度としてなかった。

 ――そう、一度もね。
573笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:15:33.29 ID:tJVQ+fdE0
 その日もカツオ兄ちゃんは祖父に叱られていた。
 内容はなんてことはない。
 ただ、スイカの種を埋めると、スイカがなるということを僕に教えてくれただけ。
 ――そんなこと嘘だって分かってた。
 ――カツオ兄ちゃんに恥をかかせるため、近所に言って回った。

「もうすぐスイカができるからおすそわけするですー」と。

 うらのお爺ちゃんも子供の話にのってくれた。
 イササカ先生ものってくれた。
 祖父にも言ってみた。

「庭にスイカがなるですー」

 祖父は驚いた顔で色々聞いてくる。
 そういうとき、僕は決まってこういうんだ。

 ――カツオ兄ちゃんが教えてくれたです。

 そういえば大人なんて簡単だ。
 いつものようにカツオ兄ちゃんは和室に連れて行かれる。
 祖父の怒号が家の中に響く。



 僕は笑いが止まらないから部屋を走っていた。

 そう、いつものように可愛らしくね。
574笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:20:06.56 ID:tJVQ+fdE0
 違うんだ。
 カツオ兄ちゃんは言う。

 ――ざまあみろ。

 いつもそう思う。

 世界がぐるぐる回ってゴーゴー。

 楽しいったらありゃしない。

 そんな楽しい日々も、あと4年しか続かないってことも知らずに走り続けた。
575笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:24:04.94 ID:tJVQ+fdE0
 夕飯を口に運びながら思い出す。

 天国から地獄に落とされたあの日を――


「明日から一年生ですー」

 買ってもらったランドセルを背負ってはしゃぐ。
 皆が笑っている。
 今思えば馬鹿にしたように見ていたのだろう。
 カツオ兄ちゃんは中学3年生になり、野球部のエースだ。
 ワカメ姉ちゃんも中学1年生で僕と同じく明日が入学式だ。

「明日から1年生ですー」

 もう何度繰り返した言葉だろう。
 それでも飽きずに繰り返す。


 学校があんなにも楽しい(つらい)ところだということも知らずに――
576笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:32:39.98 ID:tJVQ+fdE0
 家ではおぼっちゃんで育てられたこともあってか、僕はずっと「自分が世界の中心」という考えが
定着していたようだった。
 故に、授業中は狂ったように挙手をしたし、
 クラスメートに飽き足らず 上級生のささいないたずらをも先生や母に告げ口した。
 正義感が強いと言えば強いのだろう。

 ――しかし、その分自分には徹底的に甘かった。
 給食では皆で一斉に食べるところを自分だけ食べ始め、食べ終われば片付けもせずに遊びにいって
しまう子供だった。

 今まで両親にも祖父母にも、まともに叱られた経験がなかったため自分は決して叱られないと妙な
ことを信じきっていた。

 まったく笑える。
 自分がどれだけ馬鹿か。
 そんなことにも気がつかなかったなんて。
577笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:35:02.84 ID:tJVQ+fdE0
 僕の人生を終わらせた「その日」はやってきた。

 校長室には、大きくて、値段も高い壷がある。
 僕は同じクラスに友人がいなかったため、いつもは幼なじみで学年が2つ上のリカちゃんと、
 誰もいない校長室に忍び入り、遊んでいた。

 しかし、その日、リカちゃんはこなかった。
578以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 17:38:27.17 ID:aervI5Vn0
良かったまだ続いてた支援
579笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:39:42.75 ID:tJVQ+fdE0
 僕はいつものように、ソファーに腰掛け、校長室にあるテレビの電源をいれた。
 いつものようにサングラスで、いつもマイクを離さなくて、おもしろくないギャグを
言うが若手のフォローで生きているおじさんが移される。

「タ○リよりも僕の方がおもしろいですー」

 いつものようにテレビにだめだしする。
 いつものように自分のだめだしに自分で笑う。

 そのとき、手が滑ったのかリモコンが自分の手から離れた。
 それは一直線に壷目がけて飛んでいった。

 壷は台から落ちていった。
 まるでスローモーションだ。
 壷が台から落ちていった。
 こんなの嘘だ。
 壷が床に落ちる。
 こんなこと、カツオ兄ちゃんじゃなきゃやらない。
 壷が割れるのと同時に聞き慣れた声がした。






「――先生、フグ田くんが校長室にこっそり入ってテレビ見てました。」
580笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 17:45:07.09 ID:tJVQ+fdE0
―――――――――ウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ
ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ

 初めてひとに裏切られた。 
 初めて人に叱られた。

 壷の値段は実に300万円だそうだ。
 よく聞こえない
 よく聞こえない
 声が音としか認識できない。


 ――家に帰って。

 初めて祖父に叱られた。
 初めて父に叱られた。

 そんなときでも言ってみた。



 ――カツオ兄ちゃんが教えてくれたです。
581以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 17:49:06.02 ID:0uiAa/Q3O
タラヲざまあwwwwwwww
582以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 17:57:54.76 ID:kiZ3OsHDO
300万www
583笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 18:04:01.66 ID:tJVQ+fdE0
今から外食行ってくる。

夜には帰ってくるから待っていてくれるとすごくうれしい。
584以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 18:28:55.96 ID:V3Ys6Mhh0
585以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 18:28:56.13 ID:Pux5GVhfO
586以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 18:46:29.71 ID:V3Ys6Mhh0
587以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 18:48:30.34 ID:aervI5Vn0
続きが投下されるとすごく嬉しい保守
でも今から寝る
588以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:10:46.80 ID:4FVu68snO
589以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:13:13.71 ID:V3Ys6Mhh0
590おっかけ:2009/05/10(日) 19:18:57.23 ID:IIVSDxC0O
なんという久々
591以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:29:08.15 ID:V3Ys6Mhh0
592笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:33:02.28 ID:tJVQ+fdE0
ただいま。
再開する。
593以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:34:01.13 ID:fVEi2MSG0
お帰り
594以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:34:01.38 ID:09aN241DO
おかえり!
wktk
595笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:35:53.84 ID:tJVQ+fdE0
 教科書には心ない落書き。
 机には穴だらけ。
「こんなことしたのはだれですかー? やめてくださいでですー」
 毎日教室で言った。
 今思えば、自分のこの態度が原因なのだろう。

「僕は君たちとは違うのですー。僕は特殊な眼を持ってるんですよー」

 毎日皆を恐れさせるために言った嘘。否。当時の自分は本気で自分は選ばれた能力を持っていると
信じていた。
 自分を地獄から解放してくれる能力がもともとあって、それがまだ開花していないのだ。

 ――そう思っていないと、保てなかったのだ。
596以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:37:23.98 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
597笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:38:54.58 ID:tJVQ+fdE0
ミス。
>>595の前に。

 あの日、いい子だったフグ田タラヲは確かに死んだ。
 あの日から、皆のフグ田タラヲに向ける目が変わった。
 あの日をもって、フグ田タラヲは虚言者として祭り上げられた。

 中学校にあがってもその目は変わらなかった。それどころか



「フグ田のしゃべり方ってきもくね?」




 いじめの始まりである。

598以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:43:11.11 ID:V3Ys6Mhh0
しえん
599笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:44:54.46 ID:tJVQ+fdE0
 普段昼夜逆転の生活を送っている僕にとって、ときおり聞こえる
 カツオ兄ちゃんと花子義姉さんの喘ぎ声は耳障りでならない。

「気づいてないとおもってるんですかねー?」
 無論、独り言だ。最近さらに独り言が多くなっている。人と関わっていないせいだろう。

「寝るです……」
 昔を思い出して疲れたらしい。僕が暗いうちに眠るなんて久しぶりだ。

interlude

「花子……ウッ!」
 白濁液を花子の膣内にぶちまける。早漏なのは昔からだ。
「カツオはいつも早いね」
 何のためらいもなく仕事を終えた「彼」のモノを口に運ぶ。
 もう何度この行為を繰り返したのか、もう慣れている。花子はまだまだできるようだ。
 花子に絶頂を経験させたことのない「彼」は自虐的に笑う。

「しかし、下手だねどうも……」

interlude out
600笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:50:13.07 ID:tJVQ+fdE0
 朝に目覚めるのは久しぶりだ。
 昼夜逆転をしていると毎日あっただるさは今日に限ってない。誕生日ぐらいは健康でいたい。

「フグ田タラヲ復活ッッ!!」
「フグ田タラヲ復活ッッ!!」
「フグ田タラヲ復活ッッ!!」
「フグ田タラヲ復活ッッ!!」
「フグ田タラヲ復活ッッ!!」


 ここまで大きな声で叫んでもなにも言われない。
 皆、もう自分の相手なんてしない。
 それもそうだ。僕は誰にも叱られないんだからさ。

「今日はリアルタイムでおはすたが見られるですー」
 いつもはビデオでとってあるおはすただが今日はリアルタイムで見られる。
 おはガールで抜くのは起床後の恒例だ。
「山ちゃんうざいですー。」
 最近は女に飢えすぎて南海キャンディーズのしずちゃんすら可愛く見えてしまう。


「タラちゃん、今日は早いわねー。たまには皆で朝ご飯食べましょう」

 母の声がする。
 いつものように無視する。
 母はそれ以上何も言わずに居間に戻っていく。


 ――朝から盛りまくっているバカ二人の声もよく聞こえた。
601以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:52:15.18 ID:V3Ys6Mhh0
支援支援
602以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 19:56:10.96 ID:rTufzhPuO
支援
603笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 19:56:19.77 ID:tJVQ+fdE0
 おはすたを見終わり、使用済みティッシュを処分し、扉の向こうあるはずの朝食を取りにいく。

「ないですー」

 ない。朝食がない。そのかわり置き手紙があった。

 ――朝ご飯は居間で食べなさい、と。

 カチンときた。この家では自分が最強なのだ。そう自負していたしネトゲーでも最強だって
皆が言ってるんだ。

「ゆるせないです……」
 プライドが傷ついた。母ごときが自分に指図するなんて許せない。



 僕は台所に乗り込んだ。
604以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:02:08.48 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
605笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:03:29.00 ID:tJVQ+fdE0
「ふざけろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーです!!!!!!!」
 素晴らしいかけ声と効果音とともに僕は台所で楽しく話している母と祖母に近づいた。

「おはようタラちゃん、朝ご飯なら居間にあったでしょう?」
 さらに腹が立つ。ビビらせるためのかけ声なのにこいつは全く動じない。
「朝ご飯は置いとけと言ったですーーー!!!!!!!!!!!!!」
 さらに大きな声で言う。
「早く食べちゃいなさい」
 老いぼれの祖母がいつものように言い放つ。




 ――どうしてビビらないのか。

 当然だ。





 僕は大きな声なんてもともと。



 
 ――出してなかったんだから。
606笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:04:47.56 ID:tJVQ+fdE0
 朝食をとり、自分の部屋に帰ってきた。

「僕は最強なんだからあんな奴に本気は出さないです。正義は僕なんですー」
 我ながらカッコイイ。


 そういえば、僕の特殊な眼に名前をつけました。
「直死の魔眼」
 あらゆる死の線を視ることが出来るです。
 月姫ってゲームをやってから身につけたです。
 そのおかげでいつだってママだって殺せるです。 
 今だってよく線が見えます。





「試しにカツオ兄ちゃんたちをぶっ殺すですー」
607以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:06:12.18 ID:V3Ys6Mhh0
しえしえ
608笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:09:53.75 ID:tJVQ+fdE0
 カツオ兄ちゃんの部屋の前まで来て迷う。
 否。もう迷いなんてない。武器なんてない。

「この眼があれば武器なんていらないですー」

 ノックもなしに開けるとやはり二人は盛っていた。
 僕が入っていったのにも関わらずやめようとしない。
 さらに腹が立つ。



 襲った。

 自分でもなにを言っているかわからない。
 カツオ兄ちゃんもようやく気づいたようで義姉との営みを中断した。
 何の考えもなしに殴り掛かった。
 線が視えてるんだから楽勝だ。





 ――初めて空を飛びました。
609笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:15:24.31 ID:tJVQ+fdE0
 カツオ兄ちゃんからプレゼントを貰いました。

 空を飛ばせてくれました。


「直死の魔眼が通用しなかったですー。」
 魔眼が通用しないのは当然だ。
 そんなものないんだから。

 妙な不安をかき消し、久しぶりに外に出てみようと思った。
610以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:15:32.53 ID:V3Ys6Mhh0
支援
611以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:15:50.29 ID:kiZ3OsHDO
飛んだww
612笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:20:08.50 ID:tJVQ+fdE0
 外はくだらない。
 空気が汚い。
 人が目障り。

「そうだ、直死の魔眼は右目で左目は写輪眼ですー」

 新たな必殺技が生まれた。さらに最強を極めた。
 早速使うため、目を思い切り見開いた。


「あいつ何だよ。きめぇwwwww」
 ゴミが騒いでる。この眼がどんなものかも知らずに愚かな奴だ。
 でも喧嘩を売ったりはしない。この眼は正義のために使うものなのだ。

「到着(つい)たですー」
 駅前のゲームセンターに到着した。
 今日も二つの魔眼で皆を八つ裂きにしてやる。







 一時間後。

 リアルストリートファイトで八つ裂きにされた。
613以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:22:33.21 ID:tEze1Z2N0
>>46
>僕の球速はついに158キロにまで伸び、チェンジアップは50キロ台にまで落とせた。
すごすぎワロタ
614以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:22:45.22 ID:V3Ys6Mhh0
タラヲそのまま氏ねばいいのに
615笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:24:53.60 ID:tJVQ+fdE0
 一時間前。
 いつものように格ゲーで屑どもをほふりまくった。
 自分が最強だ。
 現実でもゲームでも。
 自分が最強だ。


 そんな幻想も、一瞬で砕かれた。

「あのー、ちょっとよろしいですか?」
 体がひょろひょろのガリ勉タイプがやってきた。
「なんですかー?」
 ゲーム中に話しかけてくるような非常識とは話したくないのだが仕方ない。
「今から僕、乱入するんですけど、普通にやったんじゃつまらないんでお金かけませんか?」

 笑いそうになった。
 最強である僕に勝負を挑むならまだいい。
 こともあろうにお金を賭けるなんて、バカ以外何ものでもない。

「フヒヒヒヒヒ、いいですよー」
 クールに笑いながら挑戦を受ける。

 ガリ勉がニヤリと笑った気がするが気にせずゲームを始めた。
616笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:29:50.06 ID:tJVQ+fdE0
 3ラウンド中2ラウンド先に取った方が勝ちの格ゲーで勝負をすることになった。
 というより、自分がプレイしていたゲームだが。
 ゲームの名は「メルティブラッド」自分はこのゲームで負けたことはない。

 僕は「七夜志貴」をいつも選択する。同じ直死の魔眼使いだしなんとなく見た目も性格も似ている
からだ。
 ガリ勉は「アルクェイド」を選択した。さすがヲタクだ。萌え系キャラを使う。



 ――惨敗だった。

 1ラウンドを先取したもののそれで自分の実力を計ったのか2、3ラウンドはパーフェクトで
敗北した。



「そんな馬鹿なですー」


 落ち込んでいた僕にガリ勉は言った。



 「賭け金10万渡せ」
617以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:32:47.19 ID:V3Ys6Mhh0
支援
618以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:33:18.83 ID:0uiAa/Q3O
ガリ勉さんパネェっすwwwwww
619笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:35:38.85 ID:tJVQ+fdE0
 負けるはずがない。そう思ってたから10万なんて大金持っていない。否。もう100円すら
持っていない。

「そんなお金ありませんですー。なんのことか分からないですー」

 知らない振りをした。

「チッ。持ってネェの?」
 ガリ勉の態度がどんどん悪くなっていく。
 ガリ勉の後ろには体格のいい、屈強な男たちが控えていた。

 殴られながら思った。



 ――うほっ、いい男 。
620笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:40:29.65 ID:tJVQ+fdE0
 傷だらけで帰ってきた。
 誰も心配なんてしない。
「転んだだけですー」
 誰も聞いてないのにアニメのような台詞を言ってみる。


 部屋で初めて気がついた。



 ――自分には、魔眼なんてないんだ
621以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:42:15.36 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
622笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 20:45:16.73 ID:tJVQ+fdE0
 魔眼がないというだけなのにこんなに辛いなんて。
 もういっそ自殺してしまいたい。
「もうすぐドラえもんが始まりますー」
 自殺の話は後回しだ。しずちゃんで抜かなくては。

「タラちゃん、ご飯よー」

 朝と同じように母が自分を呼び出す。
 朝と同じように無視をする。


 何か居間が騒がしい。
 不愉快だ。



 ――眠くなった。寝よう。
623以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 20:45:46.87 ID:YIlqe1DZO
わろむわろむ
624以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:00:54.10 ID:YIlqe1DZO
ぬ?
625笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:10:48.18 ID:tJVQ+fdE0
 目が覚めると夜中だった。

「お腹が減ったですー」
 朝と同じく扉の裏に朝と同じ張り紙があった。

 冷蔵庫を見ると、見慣れない白いものがあった。






「タラちゃん17歳おめでとう」






 そう書いてあるチョコプレートがささったケーキだった。
626笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:15:21.53 ID:tJVQ+fdE0
 嬉しかった。
 自分のことを誰も構ってくれなかった。
 むしろ自分から距離を置いていたのに。


「はもももももももももですー」

 食らった。




 口に鋭いものが刺さったことなんて気にも留めなかった。
627笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:20:41.40 ID:tJVQ+fdE0
 次の日。
 僕は朝早く家を出た。
 昨日のケーキに入っていた針はおかしい。

 思考が回らない。
 体がうまく動かない。
 舌がほとんど回らない。話しにくい。
 朝立ちもない。

 こんな状態でも分かるのは。


「こんな、ところに、いたら、ころされる、ですー」

 それだけだ。
 逃げる場所を求めて歩いた
628以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:22:55.65 ID:V3Ys6Mhh0
しえしえ
629笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:25:00.43 ID:tJVQ+fdE0
 結局、ここしかなかった。

「波野イクラ」
 彼はまだ信頼できる。
 幼い頃から時から自分を兄のように慕ってくれる彼ならまだ――

「タラちゃんさん?どうしたの?」
 この呼び方はあまり好きじゃないが。さんを付けてくれるのは彼だけなので許している。

「かくまっ、て、ほしい、ですー」
 事情も説明せず頼んだ。

「……いいよ。あがりなよ」
 イクラくんの表情が曇ったような気がしたがとにかくありがたい。

「あら、タラちゃん久しぶりー」


 僕の人生を壊した張本人(うらぎりもの)がいた
630笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:29:51.52 ID:tJVQ+fdE0
なんで――

「結構前から付き合ってるんだよ。昔からリカさんとはよく遊んだしね」
 僕の表情から察したのかイクラくんは説明しだした。

「今イクラくんのご両親。旅行中でいなんだって。だからご飯作ったりしてあげるために
お泊まりしてるのよ。」
 リカも話しだした。

「まあ座りなよ。久しぶりに話でもしようじゃないか。」
 飲み物を持ってきてイクラくんは言う。

 ソファに座ると、寝室がちらっと見えた。
 丸まったティッシュが散乱していた。


interlude

「あら? タラちゃんがいないわ。どこいったのかしら」

 まあいいかと付け足しながらタラヲの部屋に入っていく。
「うわッ! くさッ!!」
 雨戸も締め切り、ベッドのシーツもまったく変えていないので部屋は汗と精の液の臭いが充満
していた。
 その臭いに耐えられないのか、体が勝手に侵入を拒む。
 その最中、思ったことがある。


 ――どうしてあんな子になっちゃったんだろう、と。
631以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:30:47.37 ID:aervI5Vn0
支援
632笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:34:59.54 ID:tJVQ+fdE0
 そんなことの答えはすでに出ている。

 私のせいだ。そういうことだ。

 確かに、私のせいではある。小さい頃からほとんど、否。まったく叱った記憶がなかったのだ。
 傲慢な子供になるのも当然だ。
 今でも忘れない10年前。
 タラヲは初めて人に責め立てられた。
 そのとき、我が子の中でなにが起こったのか、なんとなくは分かる。

 世界に拒絶された。


 幼い身ではそう感じてしまうのも仕方のないことと言えよう。
 世界から拒絶されたから。
 我が子は世界を拒絶した。

 だから――

 もう一度世界が好きになるように誕生日を祝福したかった。
633以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:37:13.07 ID:V3Ys6Mhh0
紫煙
634笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:40:44.65 ID:tJVQ+fdE0
 ケーキをまた昔みたいに皆で囲んで食べたかった。

 皆が笑って食事をしたかった。

 一家勢揃いで食事がしたかった。

 また幸せになりたかった。





「まあ、針を入れときながらそれはないか。カツオー。ワカメー。
タラちゃん探してきてー」

 我が子の幸せはあの世にあるわけだしいいか。

 母の表情はいつも通りだった。


interlude out
635笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:44:54.21 ID:tJVQ+fdE0
「そういう、ことで、僕、は、逃げて、きたですー」
 どんどん話しにくくなっている。
 事情をちゃんと説明できたのがある意味奇跡とも言える。

 イクラくんとリカちゃんはお互い顔を合わせ頷き、イクラくんは席を立ちパソコンに向かった。

「なに、して、るですかー?」
 答えてくれない。

 しばらくすると。イクラくんは一枚の何かが印刷された紙を持ってきて言った。
「タラちゃんさんに盛られた毒はこれ、読める?」
 目はかすむがなんとか見える。
「ヤドク?」
 そういえば聞いたことがある。
 猛毒のカエル。その中のフキヤドクだ。
 大昔は吹き矢の毒として使われたものだ。
 これを見る限り……僕はもう――

「助からないです……」

 認めたくないがこれが現実だ。
636笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:46:34.35 ID:tJVQ+fdE0
「タラちゃんさん。ここにいるよりも病院に行ったほうがいいよ。たどり着けるかの保証は
ないけど」
 悲しそうにイクラくんは言った。やはり彼は信頼できる。
「だめ、です……外に、行っ、たら、家の、人に、見つかったら、殺さ、れちゃいますですー」
 肉親に殺される。これに勝る恐怖は果たしてあるだろうか?

「わかった。質問を変えようか。」
 イクラくんは座り直して切り出した。

「ここにいたら確実に死ぬ。病院に行くならもしかしたら助かるかもしれない。こう言ったら?」

 僕はそれでも前者を選んだ。
637以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:49:43.96 ID:ojFDVFDDO
これなんて江川www
638笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 21:50:08.45 ID:tJVQ+fdE0
「そうか……」
 イクラくんは心底寂しそうに呟いた。
 リカちゃんはずっと俯いてる。何も話さない。
 しかし。
「ごめんなさい……」
 リカちゃんが突然謝ってきた。
 僕はもう話すのが嫌になっていた。
 そんな僕に構わず、リカちゃんは続けた。

「私のこと、恨んでるよね?」
 当たり前だ。
「私なんて嫌いだよね?」
 当たり前だ。
 頷くだけで答える。
「私も、あなたが大嫌いだった。いつも自分が一番正しいみたいな顔しててさ。
気に入らなかった。」


 ――やっぱりそうだったんだなあ。
639以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 21:52:34.74 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
640以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:05:14.82 ID:djCau4MaO
支援
641笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:11:11.99 ID:tJVQ+fdE0
「だから、校長室で遊んだのも、本当はタラちゃんを追いつめるためだったの。」
 分かってるさ。
「壷が割れちゃったのは私も予想外だった。だから、あの後。私も自分を―――――」
 聞こえなくなってきた。

「―――――――」
 リカちゃんが泣いてる。
「―――――――――――」
 イクラくんが席を立った。誰かと電話してる。
「―――――――――――――」
「―――――――――――――。―」
「―――――――、――――ー」





「はい。タラちゃんさんならうちにいますよ。サザエさん」

 そこだけが、何よりクリアに聞こえた。
642笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:15:05.54 ID:tJVQ+fdE0
interlude

 フグ田タラヲが来るのは分かっていた。
 朝、サザエさんからメールは来てたし、自分も彼が辛くなったらここにくるのも予感していた。

 まったく、あの一家はなにかとうちに入り浸る。
 デリカシーもなく上がり込み、デザートを食べては帰る。
 そんなタラヲが大嫌いだった。
 磯野一家からタラヲ抹殺の話を聞いたとき、僕は本当に楽しそうだと思った。
 まあ、タラヲの唯一の逃げ場という役割は気が進まなかったけどね。
 リカも今は泣いているが実際は嘘泣き。
 タラヲを安心させるためさ。
 しかし、サザエさんも変だ。
 どうせもうすぐ勝手に死ぬのに、サザエさんは何を考えているんだろうか。

 もうすぐカツオさんかワカメさんが来る。
 どっちが来るのかな?
 きっとカツオさんだな。ここに逃げ込む頻度が最も高かったから近道も知ってるだろう。


 すべてが終わったら、リカともう一回ヤルか。
 ムラムラしてきた。



interlude out
643以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:19:33.39 ID:aervI5Vn0
支援
644笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:19:44.43 ID:tJVQ+fdE0
 頭が錯乱している。
 今イクラくんは何て言った?
 理解できない。
 リカちゃんはすでに泣き止み、薄く笑いすら浮かべている。
 理解できない。

「イクラちゃん、大丈夫だった?」
 ワカメお姉ちゃんが見える。
 何を言ってるんだろう。
「はい。大丈夫ですよ。見ててください、今しばらくすれば――」












 いくらくんとわかめおねえちゃんとりかちゃんからあかいものがでてる。
 わかんないや。
645以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:22:09.41 ID:V3Ys6Mhh0
しえ
646笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:22:26.47 ID:tJVQ+fdE0
 もうすこししたら「おかあさん」がくるんだ。

 ぼくをころしにやってくる。


 ぼくはまってるよ。



 「しろいくるま」にのって、たくさんひとがやってきました。
647笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:24:36.71 ID:tJVQ+fdE0
epilogue

「この部屋がタラちゃんの部屋よ」   
                 自分のへやが与えられたとき、すごく嬉しかった。

「タラちゃんはえらいわねぇ」
                 褒められたとき、すごくうれしかった。

「タラちゃんがしゃべったわ!! 見て見てーー!!」
                 自分でしゃべれたとき、すごくうれしかった。

「タラちゃんが立った! タラちゃんが立った!!」
                 自分の足で立てたとき、すごくうれしかった。

「この子の名前はタラヲしよう」
                 自分の名前がついた日、すごくうれしかった。

「まあ、かわいい男の子!!」
                 自分が生まれた日、すごくうれしかった。
648笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:25:35.36 ID:tJVQ+fdE0
いつかきっとここに来るママを待っていよう。
そして来たら言うんだから。


「ママー、お腹が減ったですー。」



フ グ 田 タ ラ ヲ 1 7 歳


FIN
649以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:25:49.70 ID:V3Ys6Mhh0
つ4円
650以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:27:35.70 ID:V3Ys6Mhh0
651笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:29:07.14 ID:tJVQ+fdE0
次はどうしようか。
652以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:30:41.56 ID:oyCrYCg8O
支援(´・ω・`)
653笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:33:07.76 ID:tJVQ+fdE0
>>670までで次の作品投下について賛成という意見が多ければ次の作品
投下する。
654以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:34:56.82 ID:djCau4MaO
賛成 
655以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:35:41.54 ID:oyCrYCg8O
賛成(´・ω・`)
656笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 22:39:17.95 ID:tJVQ+fdE0
これは猿さん対策
657以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:40:30.03 ID:fknu72ncO
酸性
658以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:41:04.05 ID:fY9MjRSBO
賛成
659以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:41:05.27 ID:fVEi2MSG0
どんな内容かにもよるが賛成
660以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:43:39.01 ID:YIlqe1DZO
さん
661以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:44:15.15 ID:VU0AdpGi0
賛成
662以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:49:13.90 ID:rTufzhPuO
三世
663以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:55:31.09 ID:hAKrnn7/0
さn
664以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:59:32.03 ID:0uiAa/Q3O
猿さん対策か。

支援。
665以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 22:59:56.26 ID:aervI5Vn0
賛成支援
666以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:02:19.47 ID:0uiAa/Q3O
あ。
賛成
667以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:08:11.75 ID:YIlqe1DZO
さん
668以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:10:42.43 ID:emyItS5iO
せい
669以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:11:31.32 ID:e8qG+VSL0
670以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:23:57.20 ID:djCau4MaO
続きをたのみましたよ
671以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:25:09.94 ID:S/DUvAAU0
一番最初の奴の、ハッピーエンド編が見たい
672笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:26:20.28 ID:tJVQ+fdE0


フグ田タラヲが蒟蒻ゼリーを食べるそうです


673以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:28:24.63 ID:fVEi2MSG0
タラヲざまぁと聞いて支援
674笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:28:48.97 ID:tJVQ+fdE0
 ――僕には常に最高の『モノ』が与えられていた。

 最高の環境。
 最高の洋服。
 最高のおやつ。

 それは僕にとっては当たりまえのコトだ。
 それは僕にしてみれば至極当然のコトだ。

 ――だから、きっと僕はこうなったのだろう。
675笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:35:32.51 ID:tJVQ+fdE0
「ただいま〜」
 
 父と祖父が会社から帰ってきた。無論、僕等、否。僕へのお土産を持ってだ。
 いつもはケーキやおもちゃなのだが、不況の影響か、今日は子供騙しのゼリーだった。
 皇帝である筈の僕はゼリーなんてものは口にしない。しかし、今日の僕は機嫌がいい。
 
「わ〜いです〜」
 体全体で喜んだフリをしておく。これだけでも僕の印象はよくなる。
「どんなゼリーなの?」
 ワカメが袋からゼリーを取り出す。
 
 『蒟蒻ゼリー』

 袋には、そう書かれていた。
676以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:38:36.13 ID:emyItS5iO
展開が気になるな

支援
677笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:39:47.43 ID:tJVQ+fdE0
 ――袋には何か絵が描いてあった。
 絵柄は子供と老人の、苦しそうな顔。
 きっと、このゼリーの美味しさは表情をも歪ませるものなのだろう。
「――」
 思わず唾液が溢れた。
 
 口の中に広がる甘みを想像して。
 口内でころがる弾力を想像して。
 きっと、アレは僕だけのものだ。
 そんな、独占感を想像して――

「ほうれい、タラちゃん。食べなさい」

 祖父が僕の頭を撫でながら言った言葉には、いつもの優しさがなかった気が、した。
678以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/10(日) 23:42:17.24 ID:ntcEZ5qJ0
紫煙
679笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:45:29.36 ID:tJVQ+fdE0
 ――あのゼリーはお風呂上がりが美味しい。

 父はそう言いながら、僕をお風呂に連れて行った。
 僕は嬉々として浴槽に飛び込んだ。耳朶に叩き付けられた音が心地よい。
「なあ、タラちゃん」
「なんですか〜」
「今日は、楽しかったかい?」
 ――なんて、愚問。
 僕にとってしてみれば、もとより楽しくない日なんて、ない。
 僕自身が太陽なのだから、僕が楽しくないと皆も楽しくない。
 ――というより、僕が楽しく感じないことはあってはならない。
 太陽を愛でることは許されても、それを直視したって、いいコトなんてまるでないのだ。

「楽しかったです〜。
 明日はパパも遊んでくださいです〜」

 ――その瞬間――


「――ちっ」
 

 なんて、音が聞こえた。
680笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:51:11.28 ID:tJVQ+fdE0
 ――なにか、違う。

 この家は、僕のテリトリーじゃない。

 高い。
 
 低い。

 歪む。

 足下が崩れていきそうで。
 
 なにか、妙な恐怖が、芽生えている。


 ――それはきっと――


 ――あの、父の視線の所為だ。
681笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:54:56.77 ID:tJVQ+fdE0
 浴室から居間までの距離は、大して遠くない。
 それなのに、どうしてかその距離が永遠に思える。
 
 恐い。
 怖い。
 こわい。
 コワイ。

 ――逃げたい。
 逃げたいのに、足は床に張り付いて動かない。
 膝も震えている。両脚は僕の身体からは完全に独立している。
 故に、僕はこの場から動けない。

「タラヲ。さっさと来い」
 父の冷酷な声。
 きっと、あの声は僕を殺す声だ。
「い、いや、です〜」
 ささやかな抵抗を孕んだ言葉。
 これにはきっと意味はない。何れにしろ、父は僕を――

「来いって言ってんだろうが!!!!」

 ――怒鳴り、居間まで引き摺っていくのだから。
682笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/10(日) 23:59:48.11 ID:tJVQ+fdE0
 ――こうやって抱きかかえられるのには慣れている。

 今までは、この世全ての存在が自分を愛してくれていると信じていたから。
 人間というモノは、とても綺麗なものだと思っていたから。
 みんなが自分を愛し、慈しみ、そして尊んでくれるものだと、思い込んでいたのだ。
 
 ――そんなの、嘘だ。

 人はいつまでも人を憎む。
 人はいつまで経っても人を拒む。
 人はどうしても人を恨む。

 故に、僕は――

「さ、ゼリーが待っているよ」

 その、祖父の言葉も何か恐ろしいものに感じていた。
683以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:02:51.08 ID:50oMO3pvO
こういう展開がくるのを待ってたぜ
684以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:04:27.67 ID:3EmHwskK0
おやすみ支援
685笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:09:16.65 ID:bBwtTxy80
 先刻までお土産にはしゃいでいたカツオとワカメ。

 2人はただ俯き、決して僕を見ようとしない。
 その目には哀れみなんて籠っていない。
 ただ、邪魔なものがいなくなるという期待も、その目には混じっていた。
 もとより僕はそういう存在だったのだ。
 皆に愛されていると勘違いして、こうして絶望する。

 ――ああ。それでいい。
 僕は、それでいい。
 
 ゼリーを口に運ぶ。
 ――このゼリーには、きっと毒が盛ってあるのだろう。
 なら、苦しまないようにゆっくりと噛み締めよう。

 ――ゆっくりと、本当にゆっくりと僕はゼリーを飲み下した。

「――」
 その光景を見た祖父は、何か焦っている気がした。
686笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:10:28.36 ID:bBwtTxy80
 ――次の日になっても、僕の身体には異変はなかった。

 昨日、僕は結局袋の中のゼリーを平らげてしまった。
 否、平らげることを強制されたのだ。
 きっと、彼らはこう思ったのだろう


『毒が盛ってあるものを食べなかっただけだ』


 しかし、僕はゆっくりとそれら全てを平らげた。
 その僕は、逃げるように公園にいた。

 ――そこにいる人間も、僕を殺すつもりなのだろう。 
687笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:14:50.04 ID:bBwtTxy80
 砂場で遊んでいる子供も。
 滑り台を滑る子供ですら。

 ――僕にとっては、全て敵だ。
 
 ああ。殺されてしまう。
 死ぬのは、厭だ。

 頭がふわふわする。
 正確な思考ができない。
 出来ることといえば、なにかを拒絶すること。
 出来ないことは、なにかを受け入れること。

 死にたくない。
 だから、僕は走った。

 行くあてなんて、なにもなかった。
688笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:17:18.44 ID:bBwtTxy80
 街を走っても。
 どこを走ったところで、僕は同じことしか考えない。
 ――殺される。
 死にたくない。
 だから、逃げる。
 故に、走れ。

 なんて動物的な思考回路。
 まるで人間が考えるような思考じゃない。
 これではまるで弱者じゃないか。

 僕は皇帝だったのに。
 皆が、僕に跪いていたのに。
 どうして?
 どうして――?
689笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:19:47.97 ID:bBwtTxy80
 走っていたら、なにかにぶつかった。

 いつもなら可愛らしく謝るが、そんな余裕はない。
 すぐに立ち上がり、走り出そうとする。

 ――すると――

「タラちゃんじゃないか! どうしたんだい?」

 ぶつかった人、『中島博』が声をかけてきた。
690以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:23:22.92 ID:50oMO3pvO
中島「磯野〜タラちゃん殺ろうぜ」
691笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:24:48.62 ID:bBwtTxy80
 ――中島は僕をゲームセンターに連れて行った。
 人が多いところを恐れる僕にとって、ここは悪魔の巣窟だ。

「どうしてあんなに急いでたんだい?」
「――」
 答えられない。
 否、答えられる筈が、ない。
 昨晩起こったこと、アレを説明したところで、彼が信じてくれる筈がないからだ。
 それに、あのことを話した時、僕自身どうなるか判らない。
「話せないのか。
 いいよ、煙たがられるのは慣れてる」
「――ごめんです……」
「いいっていいって」
 そう言って中島は全国のゲームセンターで絶賛稼働中の『ストリートファイター4』を始めた。
 中島はギルドに加入していた。
 そのギルドの名は『不思議の国のアリス達』。
「それで、僕には何も聞かないんですか〜?」
「訊いても話してくれないんじゃ訊かないよ。そもそも、君の家には関わりたくはないよ」

 ――中島が磯野家から遠ざかった所以を語るには、ここは相応しくない。
692笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:29:00.61 ID:bBwtTxy80
「――そう、ですか」
「君の家の人間には――クズしかいない……そうだろう?」
 中島の手が震えている。その手では波動拳すらマトモには出せない。
「人の全てを奪い去り、人の悉くを持ち去った。
 そんな人間が、そんなイキモノが――!」
 中島は心の底から憤っている。
 きっと、彼にとって、磯野家というものは何よりも憎むべき存在なのだろう。

「根絶やしにしたい。あの血族を! あの血統を!」
 ゲームに敗北し、席を立った中島は、そんなコトを言った。

 その時、一人の少年が中島に近寄って――

「バーサーカーは駄目だって〜!」
 
 なんてコトを言った。
 中島に話しかけたのではなく、隣のゲームで敗北したプレイヤーが勝利した友人のプレイヤーに
文句じみたことを言うのだろう。戯けた風に千鳥足だ。

「――」
 その少年は、中島の目を見た瞬間、押し黙った。
693笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:34:46.91 ID:bBwtTxy80
「――どうしたんだ?」
 反対側の筐体に座っていた、口を半開きにした男が中島に睨まれた少年に近づく。
「なんだなんだ?」
「――?」
 彼らがプレイしていた筐体の周りにいた人たちが中島に視線を寄越す。
 ――彼らは全員が友人らしく、このゲーセンでは(Fate限定)敵なしと言われている集団だ。
敗北しても席を立つ時間が一秒以内ということから『スクワットチーム』と呼ばれているらしい。

「――あ?」
 中島の眼光がさらに鋭くなる。
 僕はその雰囲気に完全に気圧されていた。

「――こ、このゲーセンで粋がるなぁ!」
 口を半開きにした男が中島に詰め寄る。この男は、馬鹿だ。

 
 ――だって、自分の腹部に刺さっているモノに気がつかないのだから――
694以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:34:48.49 ID:ZABKu5jIO BE:616691636-2BP(139)

しえん
695笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:39:13.57 ID:bBwtTxy80
 半開きの腹部に刺さっていたもの。
 ぎらりと光るそれは――間違いなくナイフだった。

「――!」

 ――それからのコトは覚えていない。
 気がつけば中島は警察の人に連れて行かれていた。
 パトカーのサイレン。
 救急車のサイレン。
 その場にいた人間の悲鳴。
 それら全てが、僕を現実から引き離した。

 ――帰ろう。
 帰ってしまえば、安心出来る。

 そんな、莫迦げた考えも浮かんだ。
696笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 00:41:42.67 ID:bBwtTxy80
 ――自宅に帰ってみれば、愛なんてなかった。

 無機質な壁。
 無機質な人。
 無機質な声。
 無機質な僕。
 
 ――誰も僕に気をかけない。
 成る程、もうそういう存在なのか。僕は。

「タラヲ死ね」
「タラヲ死ね」
「タラヲ死ね死ね死ね死ね死ね」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 ――本当は、こう思っているクセに。
 だったら殺してくれ。
 だったら終らせてくれ。
 こんな地獄でも天国でもない。『煉獄』を――
697以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:43:28.69 ID:yR5Bit4CO
もう一回野球編を熱望したいなー中島とかで


最初から見てるよー支援
698以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 00:51:10.87 ID:SQ8FAi7jO
支援
699以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:01:07.22 ID:ZABKu5jIO BE:1541727195-2BP(139)

まだー?
700笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:03:35.79 ID:bBwtTxy80
 ――その次の日も。
 ずっとずっと、独りだった。

 誰も僕を構わない。
 誰も僕に関らない。
 きっと、僕が生きているからだ。

 ――死ねば助かる。
 ゼリーを手に入れよう。
 アレにはきっと毒が盛ってある。

 ――死ねる。
 ――死にたい。
 ――シニタイ。
 ――シンデモイイ?

「やめるんだ! タラちゃん!!」

 声の主は――

「カツオ兄ちゃん……です……」
701笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:05:12.19 ID:bBwtTxy80
「このゼリーには、毒なんて入っていないんだよ……」
「――そんなことはないです〜」
「あのゼリーは蒟蒻ゼリーなんだ。この家にあるゼラチンのゼリーじゃあ死ぬには足りないよ」
「そう、ですか……」
「だから――」

 カツオはズボンのポケットから一つ、ゼリーを取り出した。
「これが欲しいんだろ?」
「――」
 答えられない。
 判らない。
「ちゃんと答えなよ。
 欲しいんだろ? これが」
「……はい……です」

「うん、いい子だ。
 噛まずに飲み込みなよ……」

「――」
 ごくん、という音が、僕の最後に聞いたマトモな音だった。
702笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:06:18.57 ID:bBwtTxy80
Epilogue

「よくやったぞカツオ!」

「えへへ、照れるよ〜」

「兄貴最高だし。今日はパーチーだし」

「いやあ〜カツオくんには脱帽だよ〜」

「それじゃあ、今度は貴方ですね」




「――なあ、サザエ――?」


フ グ 田 タ ラ ヲ が 蒟 蒻 ゼ リ ー を 食 べ る そ う で す
                                    FIN
703以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:07:19.85 ID:ZABKu5jIO BE:308345933-2BP(139)

704笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:10:52.12 ID:bBwtTxy80
さて、次はどうしよう。
705以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:11:48.94 ID:jKrMDgBd0
社会批判なら波平リストラとかカツオ内定取り消しとかどうよ?
706以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:11:51.45 ID:ympwJEqsP
>>702
少年アシベにいたな。だしだし女
707笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:14:33.85 ID:bBwtTxy80
そろそろ眠る。
もしこのスレが残っていたら投下を続行する。

私が帰ってくるまで雑談をしているべき。
スレが盛り上がっていると私のモチベーションになる。
708以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:15:09.28 ID:TdKsMV0xO
波兵とかが変わったきっかけみたいなのが見たいな
どれも溺愛→憎悪の急落が激しいし
709以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:21:25.14 ID:jKrMDgBd0
雑談で潰れちゃうよ?

それはそうと一日乙
710笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2009/05/11(月) 01:22:49.10 ID:bBwtTxy80
もしスレが終わってしまったらスレタイに笑み社と入ったスレを立ててくれ
ればそこに行く。

すごく憚れるけど私についての雑談をしてくれるとちょっとうれしい。
711以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:26:49.94 ID:d/4vTtrDO
追いついた!

‥‥って、あれ?


保守
712以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/11(月) 01:44:41.01 ID:P+HgQxhr0
うん、追いついた。
あんさ、最初の方の。。野球の話の奴さ、奈須のDDDの二巻に似てね?ww

んなわけで、第一話目のハッピーエンドをそろそろ。。
バッドなかっじゃなくてハッピーみたいお
713以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
野球編が絶対いい!