創造や表現の天才なんだけど、小説家になろうと思う

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996以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>910
こんなもんで↓

夜の帳が降りる。
このところ、日差しは日に日に強まっていた。この涼しい夜を今度楽しめるのはいつになるだろうか。
きっとその頃、ひと夏を加えて僕らは、過ごしやすくなった、などと他愛もなく……。
「うーん、すっずし〜い」
隣で少女は、冷気を散らすような声を漏らした。
三寒四温。季節の分かれ目を実感するようだ。日中は、来る夏を感じさせるほど、暑かった。暑かったのだ。
「ね、ね、ジュース持ってくるからさ!一緒に飲もっ」
「ん。……カルピスで」
「オッケー、持ってくるね」
後姿がとてててと台所のほうに向かう。
夏はやはりカルピスだろう、そう思って多めに買っておいてある。大量のカルピスを見た彼女は呆れながらも、分かってるじゃん、と言ったのを覚えている。
どうやら、趣味は合っている、らしかった。
「あいよーお待ちぃ!」
早いな、と笑いながら彼女のほうを向くと――!
今しもこちらへ、盛大に蹴躓いている最中だった。
まずい。目覚まし時計が、濡れる。
体が先に動いて、時計を避けていた。スローモーションを見るような動きで、先ほどまで時計があった場所にカルピスが落ちていく。
腕にカルピスのしずくが跳ねた。冷たい。
気を利かして氷まで入れてくれていたせいだろう。
時計を庇うなんて、と言われそうではあるが、この時計には、一生僕の枕元になくてはならないのだ。
「んー、またその時計。……なぜ大事にしているのか、そろそろ教えてくれてもいいじゃない」
この質問ももう、何度目だろう。
この珍しい時計だというわけじゃない。ただ、傷つけたくないのだ。
時計にじゃあない。彼女を、だ。
どうして前の彼女のものだ、などと告げる必要がある――。
喉元をつたうカルピスは、冷たかった。