1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
代理
*'``・* 。
| `*。
,。∩ * スレた〜て
+ (´・ω・`) *。+゚
`*。 ヽ、 つ *゚*
`・+。*・' ゚⊃ +゚
☆ ∪~ 。*゚
`・+。*・ ゚
2 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:34:32.23 ID:BzOdTez90
3 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:37:11.31 ID:BzOdTez90
刃物の冷たい感触に、裂かれた肉体の熱い感覚に、目が冴えた。
静かなはずの夜だと言うのに、心拍が激しく耳にうるさかった。
流れ出る赤いものに目をやる余裕は、まったくない。
どうしてこうなったのか、誰も問わず、答えない。
必死に、必死に言葉を紡ぎ出してから、自らもその意味を考える。
ああ、私の気持ちは伝わっているのだろうか。
いや、伝わっている道理がないな。
私は欠陥だらけだ。
多くを欠けてしまって、人たるものを失った。
私の視界は次第に暗くなっていく。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/19(木) 23:38:53.43 ID:+w0RhYmxO
これ、悪くなかったのにまとめ付かなかったのね
面白いと思うからがんばって
支援
5 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:40:12.03 ID:BzOdTez90
***
変わらぬものはどれほど存在するのか。
「さあ。ところでそれは素敵な意味で訊いているのかな」
変わらぬ友情、愛情。
本音では、ふとした拍子に沸き出でる劣情にそれらは容易く敗れるのではないだろうか。
つまり、精神世界には求められないということか。
「文学界を否定したようにも取れる物言いをするね。それじゃあ理学界は肯定するのか」
科学とは不変の真理を解き明かすもの也。
確かに、法則は不変に見える。
また、モノを構成する多量体は分子から、その分子は原子から成るという真理が分かっている。
「真理というより、今やほとんど事実じゃないか。ふむ、しかし、その入り方ということは結論は否定につながるんだな」
原子を取り巻く電子の存在は、ある方面では「この辺りに存在する確立が高い」と言われるだけだ。
6 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:43:01.91 ID:BzOdTez90
それをもっとマクロにして説いた人がいた。
箱に猫を一匹入れたとして、蓋を閉めた時点で中には致死性のガスがでる可能性がある。
「シュレーディンガー?」
ガスはマスタードガスか、それとも高濃度二酸化炭素、あるいは酸素、枯葉剤。
グラスファイバーが舞い散って肺を超ミクロな部分で破壊、次第に他の器官を巡り死に至るのでも構わない。
そうした場合、猫はどうなっているか。
「猫の生死は開けるまで不確かで、生きているとも死んでいるとも言い切れない。存在していないかもしれない」
そう、科学の見地からしてもそう言った表現をするのだから、不変の証明は難しい、そう思う。
「君は突然『どうしようもない』、本当に『どうしようもない』話をしたくなったようだね」
世界は不確実で不誠実な不定のモノに溢れるようで、どうしようもないように思える。
でも、向けたかった論旨はそこじゃない。
話したかったのは、記号としての名前。
それと人間の関係だ。
「……志す科学を否定してまで話す価値のあることか」
そう、最近はそれがしばしば考えさせられるテーマだ。
7 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:45:24.76 ID:BzOdTez90
二人称単数への問いかけで複数人に答えられた時なんか特に。
「『鈴木さん』への問いかけに、周囲の見知らぬ鈴木さん大勢が反応したような感じか」
名前がその人とどこまで繋がっていて、不変の関係を築くか、ということを考えていた。
「君でもそんな詩的なことを考えるんだな」
そういう状況が近頃あっただけだ。
つい三ヶ月くらい前だったかな。
同姓同名の女性を相手にしたり、とかね。
「同姓同名か。ふん」
彼女達は、いや、彼女は結局ちゃんと二人で役割分担したんだ。
「一人の人間が手に負えない何かを背負ったのか」
ご明察。
とにかく、何をもって。
何をもって、人を名前で呼ぶべきか考えたっていうところに運びたかった。
そこで悩まされる点で符合すると思わないか。今回のケースと。
「……相変わらず君は回りくどいな。それについては否定しよう」
――今回のケースは役割分担のためでなく、一方的な略奪から成立している。
***
8 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:47:27.74 ID:BzOdTez90
痛い。
熱い。
痛みに身体が過剰に反応している。
ひどく冷たい汗が流れる。
全身から溢れ出てしまう生命を実感する。
薄ら寒い夜空の下で朽ちるのか。
なんということだ、なんということだ。
どうしてこうなったのか、分からない。
頭を駆け巡るのは他愛の無い会話ばかり。
どうして、どうして。
( _L )「う、うあ……うぐ……」
死。
そう、死だ。
完全なる、闇への没入……。
満ちた月影がそれを包んだ。
(‘_L’)コンクリートな世界のようです
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/19(木) 23:47:48.36 ID:+w0RhYmxO
(’_L‘) 支援
10 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:49:05.38 ID:BzOdTez90
1/4へ
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/19(木) 23:50:50.95 ID:cvUyU4qoO
支援
12 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:51:41.66 ID:BzOdTez90
月に一回の定例職員会議は金曜であることも相まって、古株達の演説にますます多くを割かれた。
放課後の静まった校舎の中で唯一、電気の灯る職員室では教職員がそれぞれのデスクについて会議に参加していた。
かく言う私もその一人であり、教頭先生の理想に傾倒している顔を作っている最中だ。
ふむふむ、なるほど。
確かに、トイレ掃除の徹底は大切ですよね。
「目標については以上とします。それでは、それぞれ教科担当主任の先生は報告をお願いします」
いつも通り、数学担当主任が立ち上がり、各学年の学習進度を報告し始める。
今期は少々、詰めすぎ感のあるカリキュラムを発表していた彼。
前回の発言を実行に移したしたところ、一部生徒から不満の声が上がっているらしい。
_
( ゚∀゚)「なかなか生徒達もやり応えを感じてくれているようです」
だがしかし、彼、長岡ジョルジュ先生はそれを黙殺。
自分の敷いたレールをきっちり突き進むつもりらしい。
数学教師にしてはたくましい胸――曰く、ラグビーで鍛えた筋肉――を張り、さらなる邁進を宣言した。
彼の着席に次いで、立ち上がったのは英語担当だ。
(゚、゚;トソン「さ、昨年度のセンター試験の出題形式が変更にされたことに伴って――」
手元のメモを盗み見しながら、しかし、背筋を伸ばして喋っているのは都村トソン先生。
前年度の終わりに非常勤から常勤へと繰り上げになった、薄化粧の可愛らしい女性だ。
その表情は、まさかの主任代行、と言ったところか。
新年度初めての会議で、まさか主任氏が盲腸で入院するとは思うまい。
誰もが予想できなかっただろう。
(゚、゚トソン「なので、本年度の内容にはリスニング力の強化を盛り込む予定です」
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/19(木) 23:52:26.87 ID:8iHPTng/O
支援
14 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:54:27.35 ID:BzOdTez90
後半、もはや堂々とメモを読んで喋り終わった彼女は、席に着いて小さく胸を撫で下ろした。
以降、各種教員が続く。
「明らかな読解力不足なので読書の習慣付け」
云々。
「歴史を扱ったドラマ番組を視聴させてみようかと」
云々。
「まずスポーツテスト、そして球技によって新入生同士の親睦を」
云々。
真面目くさった顔をして半分聞き流していた私の番が巡って来る。
「重森先生、それではよろしくお願いします」
手元のファイルに書かれた自らの名前、重森フィレンクトの部分を軽くパタタ、と叩いてから立ち上がった。
(‘_L’)「はい。それでは化学分野の今期の内容についてですが――」
自分の持つ教科以外に熱く語られてもな、というのが私の本音だけれど。
その晩の会議も別段、格段、本当に何の滞りなく進み、お開きの時間となった。
正確には第一次お開きだ。
必ず、彼はやってくるのだから、本当のお開きはまだ先だ。
_
( ゚∀゚)「重森先生、熱い会議お疲れ様です。今晩どうですか? せっかく金曜の夜ですし」
15 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:57:03.80 ID:BzOdTez90
三席隣に座る同僚が、人差し指を曲げてくいくいやっている。
呑みませんか。
そういう動作とにこやかな口元。
(‘_L’)「いいですねえ。いつもの場所ですか?」
返す微笑みは疲れていなかっただろうか、と毎回帰宅後に思い返すが、今回も大丈夫だろう。
_
( ゚∀゚)「それじゃあ、もう何人か声かけてきますね」
ラグビーで鍛えたらしい肉体を、帰路へと向かう教職員の間に押し込んで行く長岡先生。
その行き先には、よく行く店でよく合わせる顔ぶれ、そして、
(゚、゚トソン「あらっ、どうしたんですか?」
彼女がいる。
常勤講師へと契約を更新した都村先生には新たなデスクが与えられ、職員室内で彼女は既に隣にいない。
現在、廊下側から六列ある教員用の机の二列目に私、長岡先生、そして六列目に都村先生が席を構えている。
都合、三列を挟んだ彼女に声をかけに行く彼は、傍から見て、明らかにそういうオーラを放っていた。
会議の度に遠征を行うのは、今に始まったことじゃない。
(゚。゚トソン「おー、行きます行きます! 呑みましょう!」
が、その努力が実を結んでいないのも、また、明らかだった。
都村先生、貴女、呑み仲間としか思って無いでしょう。
仕事用鞄に書類を詰め込みながらその様子を見ていると、都村先生が口の端を上げて小さな拳を握り締めた。
いつもの、やるぞ、という意気込みを表す動きだ。
私よりも頭一個分以上小さい彼女がそうすると、少女がガッツポーズを取っているようにしか見えない。
ラガーメンが、やたら日に焼けた顔を歪めて真似する。
さらに都村先生はそれを真似し返して、面倒な雰囲気を二人で作っていた。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/19(木) 23:58:43.13 ID:cvUyU4qoO
紫煙
17 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/19(木) 23:59:29.56 ID:BzOdTez90
( ゚∀゚)「ではでは、新年度のスタートも良かったものとして、乾杯といきましょうか!」
「良かったものとしてって、なんで微妙に含みあるんですか!」
数学教員同士の絡みを目前にして、社会科担当の女性教員が口を挟む。
「えぇーへへぇ、そぉれ訊いちゃいます? 良いんですかぁ、それについてマイク向けちゃいますよぉ?」
「ちょ、パス! ごめん、俺が悪かった!」
こじんまりとした居酒屋の座敷席に、賑やかな笑い声が響く。
若干一名ほどが、グラウンドで響かせるような激しい大笑だ。
_
( ^∀゚)「だっはははは、まあ適当にやりましょう。乾杯!」
全員がそれに次いでジョッキを掲げて、それぞれを腕をいっぱいに伸ばしてぶつけあった。
テーブルに跳ねる国産ピルスナー。
鈍い手応えを感じながら、十数名ほどとジョッキを交えると、私は冷えたビールを口にした。
(‘_L’)「やっぱり生ですね。いくらでサーバーを家におけるんでしょう」
こんな機会でもないと発泡酒しかやる気のない私としては、それなりにこの席が楽しみだったりする。
それは決して否定しない。
しかし、一部筋肉系教員が悪酔いしだした時が地獄なのだ。
(*゚、-*トソン「っかー! ジョッキはモルツ! ビンはキリン!」
_
(*゚∀゚)「缶でいくなら?」
(*-、-*トソン「アサヒでしょー? わかってますよそんなことー!」
18 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:02:17.36 ID:oZFt7jSb0
ちなみに都村先生が過度の飲酒をした場合、地獄というよりもとりあえず悲惨なので同列にはしないでおこう。
忘年会・新年会で知ったが、彼女は周りが気付かぬうちに臨界点突破する癖がある。
そしてそのままリバース、女性教員により輸送されるというのが通例となりかけている。
想像できるだろうか。
可愛らしい口で串焼きをがっつりと食べ、
((*゚、゚*トソン「すんまふぇーん、ぼんじりみっちゅ追加で」
小さな手に持った箸で鰹のタタキをふぐ刺しのように取り、
(*゚、゚*トソン「どりゃーっ。一気に皿が空っぽだー。はい追加ー」
中盤にお茶漬けをかっこむ女性が、
((゚、゚#トソン「梅が効ひてまふよね、こふぉのお茶漬け! 次、薩摩お願いしまふ!」
(‘_L’)「あーあー、ちゃんとこれにしてくださいね。よしよし、しっかりしてください」
( 。 トソン「おろろろろろおおろおおろろろろおおろろろ」
全部後半吐き出すという惨事を。
ちなみに、私は想像できていただけに、頃合を見計らってビニール袋を取り出していたのだが。
今日はまた鰹の形がほとんどそのまんまで、もったいないこともったいないこと。
他の客に見せないよう隅で処理をする私達を余所に、同僚達は適当に飲み続けていた。
届いた芋焼酎を誰の注文か確認せずに呷る女性教員。
「はー。なんでしたっけ、これ。って、重森先生そっち大丈夫ですか? あはは」
肩をすくめて見せると、紅潮した顔はすぐにアルコールに向き直る。
私は軽く嘆息してから、さする背中の脈動が収まる辺りでお冷を頼んだ。
19 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:05:00.70 ID:oZFt7jSb0
やがて店員がお盆の上に水と、気を利かせておしぼりを乗せてやってきた。
(‘_L’)「はい、どうぞ。まずゆっくり飲んでください」
(;、;トソン「おー、おー、すみません重森先生……。すみません……。おっう」
(‘_L’)「ほらほらいいですから。今回は汚さずに済みました。成長しましたね」
胃酸の組成を考えながら水を飲ませていると、鼻腔を満たす刺激臭。
即座に袋を閉じ、内容物をあらためる。
頑張れペプシン、負けるなペプチド。
(゚、;トソン「はあ、ありがとうございました。落ち着きました」
温かいタオルで口元を覆うと、彼女は「香る」息を、いや、荒い息を整え始めた。
その間、私は手近な漬物盛り合わせの皿から、素手で大根の浅漬けを頂く。
業務用。美味しいから食べますけど。
_
Σ(*゚∀゚)「都村先生またダウンですか! まったく、鍛え方が足りませんよ。ほらこれくらいいかないと!」
斜向かいでようやくこちらに気付いた長岡先生は、二の腕を丸太のように怒張させる。
ワイシャツの上からでも、むちむちに盛り上がった上腕二頭筋が分かる。
「長岡先生、身体鍛えてどうするんですか」
_
(*゚∀゚)「おっと、いけないこれは違うアピールだった」
そう言って、腕を前に回し大胸筋に力を込めて笑顔を作る。
「そうそう、その方がたくましさが際立って……根本から違いますって!」
20 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:07:34.58 ID:oZFt7jSb0
お粗末様! と長岡先生が頭を叩くと、どっと笑いが起きる。
ムードメイカーで収まってくれて、私としても安心だ。
新入生歓迎コンパ中の学生群とケンカにでもなってしまったらことだ。
(‘_L’)「まあ、介抱くらいなら任せてくださいよ」
ぽつり、トイレで呟く。
座敷に戻ると、あらかた空いた皿と小さな氷の浮くグラス数個だけが残されていた。
私の帰還を認めると、長岡先生は解散の旨を皆に告げる。
都村先生は新たなお冷をちびちびやりながら、角にもたれかかっていた。
(゚、-;トソン「あー、お腹空いた」
(‘_L’)「やたら回復だけは早いですよね」
でしょう、と弱った笑顔を見せる彼女は、そろそろ自重を覚えるべきかもしれない。
誰かに肩を貸すまでもなく、各々が自立して店を出ると、一部の同僚が二次会を提案した。
私はそっとフェードアウトする形で集団から離れる。
金曜の夜の歓楽街、そして千鳥足混じりの人々ばかりなら、目を盗んで人ごみに紛れるのは容易だった。
カラオケだ、バーだと楽しそうにやいのやいのしている同僚を遠くに見送りながら、踵を返す。
(‘_L’)「すみません、都村先生を頼みます」
誰に言うでもなく口をついて出る言葉。
春であるにも関わらず、その日の半月は冷やかに街を照らしていた。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:09:04.88 ID:ePj3sXA90
続き待ってたよ
支援
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:09:40.70 ID:lofw2Tc+O
(‘┴’) 支援
23 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:10:01.38 ID:oZFt7jSb0
私はそのまま街灯の少ない道へと歩いていく。
店からもれ出る焼肉の匂いや、騒がしい声、賑やかなゲームセンターの電子音が離れていく。
居酒屋から数分、シャッターを下ろしたデパートにたどり着いた。
裏手に周り、非常口の緑を通り過ぎ、大きな鉄柵、トラックの搬入出用ゲートをくぐる。
本来厳重な封印をしていたのであろうチェーンは、だらしなくぶら下がっている。
(‘_L’)「私以外が中に入ったら面倒ですよ」
建物から完全に影となった空間にそう言い放つ。
闇から黒の外形が現れ、それは返答も無しに脚をこちらへと動かす。
緩やかに、そして、無音に。
灯りが届く範囲との境でその動きは止まり、人型の影は頭をわずかに動かした。
「心配には及びません。警備システムは一時カットしてありますが、ささいな問題収拾に手惑う我々ではありません」
冷静で明澄な言葉は、夜闇によく通る。
(‘_L’)「はは、お変わりなさそうで」
声の主は光との境を踏み越え、私へと歩み寄る茶色の革製ロングコート。
黒目がちな彼は、かくも質素な登場をする。
演出過剰にしない辺りが、実に、尊敬に値する。
( <●><●>)「あなたこそお元気そうでなによりです。もっとも、それは彼から聞いて分かっていますが」
英国紳士然とした、眼鏡の初老の男性は自らの歩み出てきた方に指先を二度、曲げて合図した。
出て来い、というその仕草に新たな黒の輪郭が地面より生える。
その輪郭は、そう、グレイを引きずるアメリカ人二人の写真のそれに酷似していた。
彼らも境界を踏み越え光の世界へ姿を現す。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:12:19.20 ID:7ChSYG6CO
試演
25 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:13:07.03 ID:oZFt7jSb0
始めの男性の後ろで止まったのは、フルフェイスの仮面さえなければ、いかにもボディガードのような男性二人と、
【+ 】ゞ;)「おぐぇ、ごめんなさい……、もっもう俺分かったから……、離してくらさい」
(‘_L’)「彼って、緊縛趣味の知人は私にはいないはずですが」
知人、白い長髪の変態男こと、棺桶死オサムの姿だった。
いつもの黒マントの上から荒縄で適当に巻かれ、仮面に覆われていない眼窩の周辺は青く腫れている。
ボディガード二人が彼を解放したのは、紳士がさらなる合図をしてからだった。
土嚢が落とされたような音を皮切りに、飛び出す悪態。
【+ 】ゞ゚#)「Shitくっそfuckズタロォdamn! ってえなビコ、ゼア、二秒でほどけ! てめえらざけんなマジで、消すぞ!」
( <●><●>)「ほどいて仕事服を与えてあげてください。オサム君、静かにしないとまたやりますよ」
ぴたりと止んだ罵声に、よろしいと頷いてから私へと向き直る。
その背後を観察していると、黒服二人はオサムの縄を切り、持っていた衣服を放り投げた。
ぷりぷりと怒りながら立ち上がったオサムは、しかし、口を開く様子はなかった。
(‘_L’)「新しい部下の方ですか? はじめまして、重森と申します」
挨拶をしたところ仮面の二人は会釈で返しただけで、それっきり直立不動を貫いた。
横では頬を膨らませながら、半ば地面に捨てられるようにして渡されたワイシャツに袖を通しているオサム。
( <●><●>)「伝令として彼を寄越したのですが、なにぶん非常に浅慮な行動したものですから」
26 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:17:01.86 ID:oZFt7jSb0
申し訳なさそうにそう言う彼を、私は知っている。
本名、ワカッテマス。
それだけで、どこがファミリーネームかファーストネームかは全く分からない。
お役所勤めの紳士であり、こういう表現に整合性があるかは疑問だが、オサムの上司だ。
年齢ゆえの渋みを十二分に引き立てる上等な革のコートは、高価そうだが嫌味がない。
フレームのない眼鏡越しに、私の目を見て彼は言う。
( <●><●>)「なんとか混乱を招かずに済んで、我々としても一安心、ですよ」
上品な微笑みに、私も微笑みで返す。
この落ち着いたやりとりは久しぶりだが、期待していた通り、変わらぬものだった。
【+ 】ゞ゚)「急ぎだって( <●><●>)さんが言うからオレ超頑張ったのに……」
ジャケットのボタンを留めながら、そんな不平を述べるオサムの目元からは綺麗にアザが消えていた。
彼も相変わらずだ。
( <●><●>)「ええ、もちろん君が頑張ってくれたのは分かってます」
いつでも全力投球であることに関して、同僚内で知らぬ者はいないのだろう。
いや、しかしですねオサム。
(‘_L’)「窓の向こうから怪人が現れたら、さすがにパニック引き起こしますよ」
私は回想する。
つい数時間前の出来事を。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:19:08.15 ID:7ChSYG6CO
紫炎
28 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:20:28.28 ID:oZFt7jSb0
***
職員会議中、私のターンを漫然とやり過ごそうとしていた時のことだ。
新入生がこなしてきたカリキュラムを考慮に入れた発言をしていた。
(‘_L’)「なので、有機化学の分野と生物の分野を合わせて、演習問題を織り交ぜていきたいと」
そこで私はちらりと窓の外に見てはいけないものを発見し、言葉に詰まる。
(‘_L’)「おもっ」
校庭に面した三階へ、遥か彼方から放物線を描いて飛来する何か。
【+ 】ゞ゚*)ノシ
笑顔で片手をぶんぶん振りまくる彼のもう一方の手には、電光掲示板に書かれたメッセージらしきもの。
地図とセットになった文字列は、輝かしいネオンに彩られており、私は瞬時に悟った。
あ、やばい、と。
なんとかしようと行動に移ったのは直後だった。
(#‘_L’)「思っています!」
大声を出し机を叩くことで注意を引き付けたのと、空からの降る影がオサムを叩き落としたのは同時だった。
彼が窓に激突する、三十メートルほど手前のことだ。
ちなみに、長岡先生が拍手して賛同したおかげで、誘発された喝采に私は耐えなければならなかった。
***
後に私は、謝罪文と要項を併記された手紙をロッカー内にて発見。
そして、その地図に従い訪れたのがここ、デパート裏である。
sien
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:23:32.57 ID:7ChSYG6CO
C円
31 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:23:33.27 ID:oZFt7jSb0
手紙は美しい筆跡で、こう締めくくられていた。
「お時間はいつでも構いません。お手隙になりましたら、こちらまでおいでください。ワカッテマス」
差出人の名前が無ければ、私はオサムに嫌々ながら電話をかけることで終わらせていただろう。
しかし、他ならぬワカッテマス氏の依頼とあってはそうはいかない。
彼が出張ってくるということは、「そういう」ことなのだから。
なんだかここのところ、暗に急かされることが多いですね。
( <●><●>)「それでは重森さん、少し、場所を移しましょう。ただいま使いが車を回してきますので」
それから、彼は思い出したように訊いてくる。
( <●><●>)「重森先生の方がそぐわしいでしょうか」
(‘_L’)「今はまったくのプライベートですから」
何なら、昔のように呼んでもらっても、私は一向に構わない。
首を横に軽く倒して、お好きなように、という意思表示をする。
そうですか、とワカッテマス氏が了承する頃、エンジン音が耳に届いた。
我々の前に停車したのは、長い胴体を持つ黒塗りの高級車だった。
傷を付けないよう無意識に一歩退く自分がいる。
【+ 】ゞ゚)「ちょうど着替え終わったよんっと。片付け上手はやりくり上手〜、脱いだお洋服たたみましょ〜、
たったっみましょったたみましょっ。いえいっ」
やや緊張した私を余所に、オサムはアスファルトの上に正座、着ていたマントをたたんでいた。
調子外れな歌を口ずさんでいることから、機嫌は直ったようだ。
乱れた長い白髪と仮面を除けば、既に彼は一端の社会人の装いとなっている。
32 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:26:41.74 ID:oZFt7jSb0
先のボディガード二人と比較しようと見回すと、彼らはいつの間にかリムジンの運転席と助手席に収まっているのだった。
【+ 】ゞ゚)「あれっ、ヘアゴムどこやったっけ」
( <●><●>)「私が預かってますよ。さあ、髪をまとめましょう」
ポケットからブルーのグラデーションが鮮やかなゴムを取り出すワカッテマス氏に、オサムは背を向けしゃがみこむ。
でかい子供もいたものだ。
前髪を芸術的に何本か垂らしたままのポニーテールが目の前で出来上がる。
【+ 】ゞ-*)「へへー、やっぱワカッテマスさんは器用だなあ」
(‘_L’)「貴方、自分が極端に大雑把である自覚はありますか」
むっとするオサム。
そういえば、誰かの面前で誰かを貶めるような発言をするのはいつ振りだろうか。
記憶を遡っても、相当昔のはずだ。
確かその時も私がオサムに苦言を呈し、ワカッテマス氏が眺めていたと思う。
三人で会うのはそれだけ、久しぶりだということだ。
( <●><●>)「はは、重森さん、それくらいにしてやってください。それでは、移動しましょう」
それに呼応するように、リムジンのドアを開ける仮面ボディガードの片割れ。
彼がドアを開けて乗降する音を一切聴いていないことは、触れずにおいた。
私は、車内に敷かれた毛足の長い絨毯を土足で踏みしめ考える。
連れて行かれる先で、悠長な思い出話に華を咲かせることはないのだろう、と。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:29:12.03 ID:7ChSYG6CO
詩園
34 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:29:44.81 ID:oZFt7jSb0
車は五分ほどの走行を経て街中へと入り、ひとつのビルの前で停車した。
飲食店が立ち並ぶ賑やかな繁華街にあって、しかし、その周辺には人が寄り付かない空間。
大通りから裏手に回ったここは異常に、不可思議なまでに人通りがない。
快適な自動車から降りると、気取った看板が目に飛び込んでくる。
(‘_L’)「『バーボンハウス』。よく来られるのですか」
振り向くとリムジンは忽然と姿を消していたが、やはり私は口に出さない。
眼鏡にネオンを反射させながら、ワカッテマス氏は頷いてエレベーターへと進む。
( <●><●>)「四階にある、雰囲気の良い店ですよ。今晩は貸切です。さあ、入りましょう」
追従してカゴに乗り込むと、扉の開く前からそこにいた仮面の二人がフロア四のスイッチを押す。
彼らについてつっこむのは、もはや止めておこう。
私は仕立ての良いスーツに囲まれ、息苦しく感じてネクタイを緩める。
ここまで来ると完全に間違った筋の方々の密談ではないか。
いや、その手の方に拉致されているようなものか。
【+ 】ゞ゚*)「(‘_L’)、(‘_L’)、これ似合う? ポニテ似合う? ねえねえ、(‘_L’)、似合うかな?」
ええい、人が考えている時にうっとおしい。
(‘_L’)「もうばっちりです。馬の後ろに立ってみたらどうですか。嫉妬されて顔面陥没させられるかもしれないくらいですよ」
むしろされる方向でどうでしょう。
【+ 】ゞ-*)「へへー、似合うよなあ、オレやっぱ髪長くて良かったよなあ」
( <●><●>)「着きましたよ、オサム君」
35 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:33:25.79 ID:oZFt7jSb0
皮肉を天然に流された屈辱を感じる間もなく、四階へと到着。
ワカッテマス氏は、仮面のうち「開」ボタンを押している一人に会釈をして先を行く。
もう片方の仮面男は、エレベーターのドアが開いた時には、既にバーのドアを開けて待っていた。
(‘_L’)「どうもすみません、気を遣わせて」
空虚な穴をみっつ持つ仮面は、当然のことながら二枚とも謙遜の表情すら浮かべない。
オサムは鼻歌交じりに髪を触り、どちらにも会釈すらすることなくバーへと入っていった。
同僚というよりかは、ある種、従属関係に近いのかもしれない。
バーボンハウスはレンガ調の壁に囲まれた、薄暗い店だった。
カウンターとテーブル席とがあり、そのどちらにも客らしき人間はいない。
(´・ω・`)「はじめまして、ようこそバーボンハウスへ」
サービスだというショットグラスをカウンターに滑らせる、この中年男性がマスターか。
(´・ω・`)「どうかそれを飲んで落ち着いて欲しい」
( <●><●>)「ありがとうございます。あ、オサム君、それはみんなの分ですから一人では」
【+ 】ゞ゚)「え?」
オサムが五つのショットグラスを全て空けたのを、私が確認した直後、
(´゚ω゚`)「てめえ前来た時もそれやりやがったよなあ、おい。覚えてるか? ブチ殺すぞ! 粉みじんにクラッシュすんぞこら!
いいかお前、お客だからってなんもされねえと思ったら大間違いだぞクソガキがこの野郎! ####!!」
マスターが、元気にキレなさった。
白い顔を戸惑いの色に染めて、オサムはバーカウンターから身を引く。
なかなかに激情型の男性は、逆に身を乗り出してツバを飛散させ犬歯をむき出しに叫んでいる。
36 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:35:44.85 ID:oZFt7jSb0
手厚い歓迎に対し、どう反応して良いか考えていると、横で様子を見ていたワカッテマス氏が口を開く。
( <●><●>)「お気になさらず、ショボンさん。あとでまた注文させていただきます」
(´・ω・`)「ワカッテマス様がそうおっしゃるなら。それでは、どうぞお席へ」
【+ 】ゞ゚;)「(´・ω・`)ちゃんあんま怒んないでよ、ここのお酒美味しいからつい飲んじゃうんだよぉぅん……。
環境良いし? つい魔が差して? 思わず? バーボンひょひょいってさあああ」
ショボンと呼ばれたマスターは、オサムの言葉を聞き流しながらも、表情はまんざらでもなさそうだった。
それを微笑んで眺めていたワカッテマス氏はカウンターの一席を私に勧め、私がそこに座るまで自分は立ったままでいた。
オサムが言い訳を続ける中、私達二人が席を並べると、彼はテーブルを軽く指で二度打つ。
( <●><●>)「それでは。改めて、マスター自慢のバーボンをそれぞれに。重森さんもそれでよろしいですか?」
できれば水割りで、と答えると、マスターは笑顔で頷き作業を始めた。
なにせ、私はつい三十分ほど前まで、抑え目とは言えアルコールを摂取していたので、ゆっくり楽しめる形で頂きたい。
BGMに流れるピアノが「枯葉」を演奏し終える頃、グラスがテーブルに置かれる。
隣に腰掛ける紳士がショットグラスを目線の位置に掲げ、乾杯と呟くとそれを口元に運んだ。
それにならってから、私もバーボンを含む。
ミネラルウォーターで角が取られ、柔らかな口当たり。
華やかな香りが鼻腔に広がり、暖かな感触が喉から胸から全身へと染み渡る。
(‘_L’)「美味しいですね」
(´・ω・`)「ありがとうございます、ミスター」
重森ですよ、と告げた後、グラスをコースター――白地に印刷されているバーボンハウスの屋号――に置く。
ワカッテマス氏もショットグラスをカウンターテーブルに置くと、ほう、とため息をつく。
37 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:38:39.87 ID:oZFt7jSb0
( <●><●>)「ここは我々が酔うことのできる数少ない店のひとつです。そして実に上質なアルコールを仕入れてらっしゃる」
(´・ω・`)「二杯目からはいつも通りでよろしいですか」
ワカッテマス氏は首肯した。
すぐさま、琥珀色の液体と皿に盛られたチョコレートがテーブルに出される。
彼はこの組み合わせがとても型にはまる男性だ、と私は思う。
( <●><●>)「そして、お供も洗練されている。まさに世界一なのです。私のような者にとっては」
ウィスキーとチョコレートを静かに堪能するワカッテマス氏。
彼を挟んで、向こう側ではオサムが弁解を続けていた。
店内には、おとなしいジャズアレンジの「不思議の国のアリス」が流れている。
穏やかな空気を壊すのは気が引けたが、それでも私は話を切り出した。
彼はやや、ことをゆっくり進めるきらいがある。
(‘_L’)「ワカッテマスさん。まさか、単にお酒を飲みに来たわけじゃないですよね」
手にしたチョコレートを見つめ、それを皿に戻すワカッテマス氏。
その表情から伺えるものは、何も無い。
情けない声を出し続けていたオサムは、空気を感じ取ったのか、その口をつぐんだ。
( <●><●>)「……」
ピアノの音色だけが背景に流れる。
店の角にある、一段高くなった演奏スペースのピアノからではないのが残念だ。
店内の柔らかな光と、ワカッテマス氏の眼鏡が返す硬質な光が印象的だった。
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:39:32.46 ID:7ChSYG6CO
支援
39 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:42:36.83 ID:oZFt7jSb0
言葉を待つ間、ちらりと黒服の二人を捜したが、その姿はどこにもなかった。
確かに店に入った時は一緒にいたのだが。
いや、これ以上考えるまい。
( <●><●>)「貴方に、重森さんにこの話をお聞かせするのは、はばかられました」
沈んだトーンで喋り始めるワカッテマス氏。
オサムは、その隣ではなく床にぺたりと座り込んだ。
犬のように見上げている。
( <●><●>)「しかし、問題は、私達が予想していたよりも早く進行する、そう考えられていることにあります」
途切れがちに話す彼は、私の顔色を伺っているようにも見受けられる。
それが私を静かに動揺させた。
記憶にある限り、私が関連した「そういった事象」は、完結したものと考えていたからだ。
だが、彼はそれを予想させる。
先を、聞かせて欲しい。
しかし、聞きたくも無い自分がいる。
( <●><●>)「重森さん、貴方は係わり合いにならずに生きていける権利がある」
(‘_L’)「ワカッテマスさん」
遮り、続ける。
(‘_L’)「構いません。どうぞ、おっしゃってください」
視線を落とすワカッテマス氏。
彼が手にしたグラスの中で、積み上げられた氷が小さな音を立てる。
オサムは緊張した面持ちで半開きの唇を閉じると、喉を鳴らしてツバを飲み込んだ。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 00:42:59.89 ID:9ozeuggfO
支援
41 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:45:18.84 ID:oZFt7jSb0
ワカッテマス氏は一口ウィスキーを呷ると、小さく言った。
( <●><●>)「ありがとうございます」
(‘_L’)「ええ」
どうぞ続きを、と頭を傾げる。
( <●><●>)「貴方だからこそ、知り得る情報を頂きたい。覚えておいでですか」
彼の目は手元のグラスに注がれたまま、こちらを向くことはない。
バックに流れるピアノが終わり、曲間の静寂が訪れた。
しかし、「不思議の国のアリス」は終わったとしても、私はこれからその「不思議とやら」へ首を突っ込むことになる。
始まるのはこれからだ。
( <●><●>)「鬼ごっこしていたあの日々を」
(‘_L-)
(‘_L-)
(‘_L’)「それ、でしたか」
自らの歯切れが悪い返答に、酔いが急速に覚めていくのを感じた。
42 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:47:00.89 ID:oZFt7jSb0
1/4 「神出鬼没の知人達」 終
1/4<x へ
43 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:48:45.02 ID:oZFt7jSb0
「ジェロの海雪はいりまぁっす」
_
( ゚∀゚)「合いの手は任せてくださいよ! マッスル合いの手ね!」
ぎゃー、また脱ぐんですかー。
勘弁してくださいよー。
そんな同僚達の声が、マイクに拾われたっぷりと増幅されてから個室に満たされる。
演歌の合いの手とはいえ、『海雪』はPVがかっこいいんだからそれを見ていたら良いじゃないですか。
なんて思いっきり自分勝手なことを考え、でも、自己嫌悪できるほど余裕もない。
(-、-;トソン「おう、音が頭にすっごいがんがん響く……」
「もー。都村先生ホント大丈夫ですかぁ? これ飲んで良いですよぉ?」
私よりもふたつ年下の先輩教員、社会科担当の子にプラスティックのコップを手渡される。
中身は……まさかのウーロンハイ。
(゚、-;トソン「ごめんなさい、ちょっと今は無理です」
残念そうにウーロンハイを飲み干した彼女には、いつも送ってもらうけど、彼女強いんだよなあ。
横になって見ていると、追加注文でカラオケ店の薄いウーロンハイをさらに呼び寄せている。
ウワバミってこういう人のことを言うんだろうな。
_
( ゚∀゚)「うぅぅみぃぃぃ、ゆうぅうきいぃいいい」
「ちょっとマイク取らないでくださいよ!」
盛り上がってるなあ。
44 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:51:27.59 ID:oZFt7jSb0
一旦洗面所へ行き、鏡を覗き込む。
(゚、゚;トソン「うっわ、顔面蒼白ってこのことかー。いっつも私こんなになってるんだ」
リバースするまでに、高まったテンションと赤くなった頬は、いまや真逆も真逆。
大間逆。
(゚、-;トソン「うへえ。明日残るかなあ、っていうかもう今日だっけ」
腕時計を見ると、時刻は午後十時半過ぎだった。
思ったよりも時間経ってないし、今晩は自分とこ帰れるかな?
などと考えていると、こみ上げるものが。
((゚н゚トソン「oh」
はいはい本日二回目ー。
ご愁傷ッ様ッ都村、とーそーんー!
空いた個室に駆け込み、半ば便器に顔をつっこむようにして唇を開放する。
( 。 トソン「おおろろろろおおおおろろろろおろおろろ」
陽気な脳内アナウンスに、私の身体はついて行くわけも無く、あばらの内側がびくびくしてる。
なんだっけ重森先生の言ってた、横隔膜? 痙攣中ってヤツですか?
お願いだよー息させてー。
(;、;トソン「ぷっは、くっさ! 私くっさ!」
こりゃー、お酒もう当分飲まなくていいな。
45 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:53:45.17 ID:oZFt7jSb0
( ゚∀゚)o彡゜「はっこねっのやっまはっ、てーんかのけーん」
「ぶははは! まさかのチョイスでしょう!」
鼻うがいまでしてすっきりして戻ると、部屋では長岡先生がマイクを握り腕を振っていた。
あ、そういえば私の入れた東京事変飛ばされてる。
(゚、゚トソン「はー、なーんか私だけじゃないですか。参ってるの」
そう呟くが早いか、なんか悔しくなってきた。
内線受話器を取って、コール、向こうが応答したところで注文をば。
【(゚、゚トソン「ジンジャーエールとフライ盛り合わせ、ハニートーストのチョコで。あ、あと揚げ物にタバスコつけてください」
ふう。
(゚、゚#トソン「私の入れたリンゴさん飛ばした先生! 復活したんで後悔してくださいね! あまりの上手さにビビりますから!」
携帯から十八番メモリーを赤外線送信。
次いで袖まくりをして、スタンバイ。
おりゃー、夜はこれからじゃー!
マイクを握った都村トソン。
彼女の歌声は部屋に響き渡り、激しく全員の鼓膜を揺す振った。
長岡ジョルジュは後にこう語る。
「ただのジャイアンなんてもんじゃない。ギガ・ジャイアンだ、彼女は」
46 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:55:35.53 ID:oZFt7jSb0
x<2/4 終
2/4 へ
47 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 00:57:20.49 ID:oZFt7jSb0
今回はここまでということで。
支援ありがとうございました。
なにかご質問などありましたらどうぞー
乙!
49 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 01:06:14.62 ID:oZFt7jSb0
前回もそうだったけど、やっぱり動きが出るのが真ん中からなので
もったりもったりお付き合いいただければ幸いです。
乙〜
51 :
◆s7L3t1zRvU :2009/03/20(金) 01:18:36.36 ID:oZFt7jSb0
お、まだいらっしゃった。
うひょう、お付き合いありがとうございます。
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 01:40:59.40 ID:lofw2Tc+O
乙
自分の書きたい物を書きたいベースでがんばって
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/20(金) 01:42:05.80 ID:lofw2Tc+O
ベースでどうするwペースだよw
これだから電話は
あら、落ちるまで見てたらまだいるもんですね。
ありがとう。
救われます。
2/4は八割書けてるので早ければ明日の夜にでも。
さあて、総合盛り上がってたなチクショウ。
レモナおにんにん可愛いよチクショウ。