( ^ω^)「何だってこんな、バレンタインデーに」のようです

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
今日はバレンタインですね。
皆死ねばいいと思います。

そんな思いを込めつつ投下するよー。
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:11:26.56 ID:uKGeDej40
「何だってこんな、バレンタインデーに……」

彼らは皆が皆、起きるなり同じ事を呟いた。
それぞれ別々の、遠く離れた所にいるにも関わらず。

彼らの双眸に映るのは、いずれも真っ白な壁と、黒くて小さなドアのみ。
そこは、小さな立方体をした部屋だった。
ふと天井を見上げると、目が眩んでしまうほどの照明が吊り下げられていた。

夥しい光圧に彼らは理由の無い圧迫感を感じ、
その光の眩しさとは裏腹な不安を胸中に抱えた。

「やぁ、お目覚めかい諸君」

不意に、部屋の中に声が響く。
声の出所は彼らの頭上で、どうやら照明の光に紛れるように、
スピーカーが設置されているようだった。

「既に置いておいた手紙は読んでくれたと思う」

見てみると、彼らの手元には一枚の紙切れがあった。

「今から君たちにはゲームをしてもらう」

彼らは口々に怒りと不満を吐き出す。
果たしてそれが声の主に届くかすら、分からないと言うのに。
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:12:49.20 ID:+aeBCvSqO
期待
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:14:04.32 ID:uKGeDej40
「君たちは何故かと思うかもしれないね。だから理由を教えてあげよう」

眩い光に目を細めながらも天井を見上げる彼らが、思いがけず固唾を呑んだ。
スピーカーから、若干ざらついた声が紡がれる。

「私はね、バレンタインが大嫌いなんだよ」

細められていた目が、微かに見開かれた。
彼らの中の一人は、思わず素っ頓狂な声まで上げてしまう始末だ。

そんな事は当然関係無いと言わんばかりに、声は続けられる。

「だからバレンタインの幸せを所構わず振りまく君達が大層気に入らない。理由はそれだけだ」

ぶつりと音を立てて、それっきりスピーカーは何も言わなくなった。
部屋の中に各々の怒声罵声が響き渡るが、それに対する反応も意味も無かった。

異常な事態に、彼らの動悸は異常なまでに跳ね上がっていた。
叫んだ事も相まって荒くなっていた呼吸を整えていると、突然ドアの方から音がした。

がちゃりと、冷たい金属同士の噛み合いが外れる音だ。

やがて早い遅いはあったが、彼らは全員がドアを潜り、ゲームに挑んでいった。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:16:33.61 ID:uKGeDej40
ξ゚听)ξ「何だってこんな、バレンタインデーに……」

真っ黒な扉を潜り抜けて、彼女は再度そう呟いた。

彼女に充てられた手紙の内容は、こうだった。

曰く、やぁツンさん。君は彼氏と言うものがありながら、それがいない方がいいなどと嘯いているね。
その行為がどれだけ周囲にとって疎ましい自慢になっているか、気付いているのかな。
だがまぁいい。いない方がいいと言うのなら、今回君には徹底的に、孤独と言う物を味わってもらおう。

ξ゚听)ξ「何なのよあの手紙……訳わかんない」

人間は暗闇の中に暗闇に一人でいると、発狂すると言われている。
彼女が真っ先に思い浮かんだのはそんな事だが、
だったらもったいぶらず初めからそうすればいい。

訝しみながら歩みを進めていくと、やがて彼女は一つの扉に辿り着いた。
センサーが上部に取り付けられた、自動式のドアだ。

一瞬躊躇して、しかし彼女はドアの前に立った。
微かな駆動音と共に、ドアが開かれる。
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:17:26.80 ID:m4jPUzrJO
マジキチの臭いがします
支援
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:19:39.17 ID:uKGeDej40
ξ゚听)ξ「……何よ、この部屋」

ドアの向こう側は球形をしていた。
天井には一本、筒状の穴が上へと伸びている。
まるでフラスコをそのまま部屋にしたような、そんな場所だった。

彼女は暫くの間、僅かに身を引いて躊躇っていた。
だが唐突に、決意を固めるかのように瞼を硬く閉ざす。
それから目を大きく見開いて、部屋の斜面を下っていった。

部屋の中央には、小さな突起物があった。
見たところ、スイッチのようだった。
彼女は斜面を下った勢いで、その突起を踏み付ける。

小さな羽虫が幾匹も閉所を飛び回るような、振動音が響いた。
天井のスピーカーから、不自然にくぐもった声が発せられる。

『やぁツンさん、君には言った通り『コドク』を味わってもらおう。
 ……ところでコドクと言えば、こんな伝承がある』

もったいぶるように、声が一旦中断される。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:22:02.18 ID:uKGeDej40
『……大量の毒虫を壷の中に入れ、殺し合わせる。
 そうして生き残った最後の一匹が、最も強い毒を持つ虫になると』

再び、声が途切れる。

何かに勘付いたように、ツンが息を呑んだ。
一切運動をしていないにも関わらず胸が早鐘のように高鳴り、
おぞましい悪寒が彼女の背中を走る。

そして彼女は天井を、筒状の穴を仰ぎ見た。



彼女の視界に、降り注ぐ夥しい数の蟲が映り込むのと、
部屋の照明が一斉に落とされたのは、殆ど同時の出来事だった。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:23:52.51 ID:zdGS+Dgm0
支援
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:25:08.22 ID:uKGeDej40
ξ;゚听)ξ「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

完全な暗闇を湛えるフラスコの中で、彼女の悲鳴が木霊する。
髪に、顔面に、腕に、服の中に、足元に、
蟲が張り付く感覚が、彼女のありとあらゆる箇所を襲う。

『それらは全て毒を持っている。あまり噛まれると死んでしまうよ』

ξ; )ξ「ああああああああああああああああああああああ!!」

スピーカーの声に彼女は一層錯乱し、全身を掻き毟るように蟲を払い除けた。
次いで足元に散らばった無数の蟲達を、地団太を踏むかの如く踏み潰す。

がさがさと言う音を聞き付けては、彼女は音の出所を全力で踏み拉く。

余りの勢いに、踏み潰された蟲の体液が彼女の顔に数滴飛び掛かるが、
彼女はそんな事など一切気にも掛けず、ただ一心不乱に蟲を踏み続ける。

やがて、蟲の這う音が聞こえなくなった頃だった。
彼女は少しだけ、落ち着きを取り戻していた。

天井から、何かが開く駆動音がするまでは。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:27:36.26 ID:uKGeDej40
音と同時、再び大量の蟲が降り注ぐ。
悲鳴が再び響き渡る。

そして、叫喚と共に彼女はまた踊り始める。
狂ったように、足裏が異常な熱を持っている事も気にせずに、蟲達を踏み殺す。

踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。
降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。
踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。踏み殺す。降り注ぐ。

一体どれ位の時間が経っただろうか。

不意に、天井に明かりが点った。
同時に、今度は何かが閉まる駆動音が響く。

彼女は心底安堵した様子でほっと息を吐き、ふと下を向いた。

自分の足首が浸かってしまう程まで床に溜まった、毒蟲の体液が彼女の目に映った。
緑色の体液と、照明を受け赤や黒に光を放つ蟲達の残骸。

見た瞬間、彼女の胸部から口咽に掛けて、捻り上げるような感覚が襲った。
同時に胃から生温い物が込み上げ、口から溢れ出す。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:28:52.69 ID:zdGS+Dgm0
グロいな…支援
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:30:04.78 ID:uKGeDej40
ξ;;)ξ「う……げえええ!」

大量の吐瀉物が、床にぶち撒けられた
様々な色のコントラストが、予期せずして組み上がる。

彼女はその場から一歩も動かず、息を荒げていた。

暫くして、漸く彼女は動き出す。
毒虫の溜池をざぶざぶと音を立てて出ると、部屋の斜面を肩を落として上っていく。

しかし斜面は意外にも急で、彼女は体勢を崩し前のめりに倒れ込んだ。
数メートルほど、彼女の体がずり落ちていく。

少し振り返ってみれば、蟲の体液が溜まった池の中には踏まれる事を免れて、
或いは胴体が真っ二つになっても尚生き長らえて蠢く無数の蟲がいた。

臓腑が凍りつくような悪寒を覚えて、彼女は必死に傾斜を這いずり上がる。

ξ;;)ξ「うぅ……ブーン……。怖いよ……助けてよ……。手を貸してよぉ……」

彼女はうわ言のように言葉を漏らし続けるが、答えてくれる者は何処にもいなかった。
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:32:34.70 ID:uKGeDej40
 


( ^ω^)「何だって、こんなバレンタインデーに……」

部屋を出て廊下を進みながら、彼は呟いた。

彼に充てられた手紙には、こう書いてあった。

曰く、やぁブーン君。君は不釣合いな彼女を得ているね。
そしてそれをいい事に、所構わず自慢して回ってもいる。
実に煩わしい。だから今日は、君が周りを羨む事になってもらうよ。

( ^ω^)「わっけわかんねぇお。彼女がいて、それを自慢して何が悪いってんだお」

ぶつくさと愚痴を零しながら、ブーンと呼ばれた彼は歩みを進める。
暫く歩いていくと、小さな個室があった。
透明なドアを開いて、彼は中へと進む。

床の色は、同じく白。
だが壁の色は鈍色の、複雑な模様に埋め尽くされていた。

天井の照明を不気味に照り返す、曲線を基調に描かれた模様に、
彼は思いがけず息を呑み心臓を跳ね上がらせた。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:35:09.83 ID:uKGeDej40
( ^ω^)「これは……鍵かお?」

良く見てみると、部屋の壁には夥しい数の鍵輪が掛かっていた。

異様な光景に、ブーンは戦慄を隠せなかった。
殆ど無意識の内に彼は一歩後退りして――突然背後で、強烈な金属音がした。

驚愕と共に彼が振り返ると、そこには彼が潜っていたドアが見えなくなっていた。
代わりにあるのは、真っ黒な鉄柵。
部屋の出入り口が、塞がれていた。

閉じ込められたと言う事実が、ブーンの心に多大な恐怖を呼んだ。

そして室内に、無数の羽虫が閉所を飛び交うような音が響く。
彼はびくりと、体を震わせた。

室内に、不自然にくぐもった声が響く。

『やぁブーン君。予告通り、君には周りがとても羨ましくなるような環境を用意させてもらったよ』

音声の後に、何か大きな機械が稼動したような、重低音が鳴り響く。
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:35:36.71 ID:dAP4FWHlO
部屋の人か
支援
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:37:51.02 ID:uKGeDej40
『今その部屋に熱気を送り出すボイラーに電源が入った。
 その部屋は時期にサウナなんか目じゃないような高温になる。
 早いところ部屋を出ないと、蒸し豚になってしまうよ』

侮辱の言葉を最後に、音声はぶつりと途切れた。

直後に、ブーンはじわりと肌の内から漏れ出てくるような熱気を感じた。

それが彼の恐怖に伴う動悸と興奮によるものなのか。
或いは純粋に、予告された通りボイラーが熱気を送ってきたのかは分からない。

だがいずれにせよその熱気は、今まで不満や愚痴を覚えていたブーンの心を、
それらを全て押し退け恐怖と言う感情で満たすには十分過ぎるものだった。

(;^ω^)「……やば、やばいお……!」

厚くなっていく室温とは対称に顔面を蒼白にして、ブーンは壁の鍵輪に手を掛ける。
鍵輪には一つにつき十数個程の鍵が掛けられていた。

これら全てを試すとなると、一体どれ位の時間が掛かるだろうか。
気が遠くなるような作業だが、やらなければ待っているのは
想像するだけで怖気が走るような死のみだ。
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:40:22.19 ID:uKGeDej40
(;^ω^)「違う……これも違うお……」

意思に反してがたがたと手が震え、無駄な時間が浪費される。
鍵を試している間にも、ブーンはじんわりと汗を掻き、
部屋の温度は徐々に上昇していく。



ものの30分もすると、室温はそこらのサウナと同等なまでになっていた。
数字で表すなら、摂氏110度。
サウナとは違い湿度が低い為に不快感はないが、それでも相当暑い事に変わりは無い。
事実ブーンの全身は、既に噴き出る汗に塗れていた。

鉄格子の鍵は、未だに見つかっていなかった。

(;゜ω゜)「これも違ったお……。次……熱っ!」

新たな鍵輪に手を伸ばしたブーンが、突然叫びを上げて手を引っ込めた。
上昇した室温によって、金属である鍵輪が熱を帯びていたのだ。

(#゜ω゜)「クソったれ!!」

悪態を吐きながら、ブーンは出し抜けに着ていた上着を脱ぎ始めた。
同様に、下に来ていたTシャツも脱ぎ捨てる。

そしてそれを力任せに引き裂くと、出来上がった布切れを手に巻きつけた。
これで、何とか鍵を掴む事は出来る。
しかくして黙々と、彼はひたすらに鍵を試す作業を続けていった。
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:42:57.03 ID:uKGeDej40
そして、更に30分後。

室温は、最早200度近くになっていた。
息を吸う度に恐ろしい熱気が喉と肺を焼き、呼吸すらままならない。

ブーンは床に水溜りが出来る程の汗を流し、
熱気に刺され乾燥しきった眼球をしばたかせて、
同じく、喉と肺を熱にやられているが為に酷く咳き込みながら、

凡そ瀕死と言う言葉で済ませてしまうには余りに酷い状態で、彼は鍵を試し続けていた。

入った時は奇怪な模様に埋め尽くされていた壁も、今では殆ど真っ白に戻っている。
とは言え四方の壁の内、あと一面は殆ど丸々、鍵に埋め尽くされているのだが。

絶望的な状況だが、それでも彼はしぶとく生にしがみ付いていた。
もっともしがみ付いていると言うよりは、ただ死に切れないで引っ掛かっているだけ、と言った方が適切だろうか。

(; ω )「……み……ず…………も……む……り……」

床に倒れ込み、微かに唇を開閉して、彼はただ只管にうわ言を零している。
後は静かに、死を迎えるだけの状態だ。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:45:06.74 ID:uKGeDej40
と、完全に諦念に包まれた彼は、不意に小さな音を聞いた。
死に往く者の幻聴かとも思ったが、違う。
確かに聞こえてくる。

部屋の外、出口の方から。







不気味な笑みの仮面を被った――体格から見るに恐らくは男が、部屋の中を眺めていた。
透明なドア越しに、鉄格子の隙間から、間違いなくブーンを観察している。

(; ω )「お……ま……」

音の出所を見て、ブーンは目を見開きおぞましいまでの形相を浮かべた。
凄まじい熱が眼球を刺すが、全く気にかけてすらいない。
自分をこんな目に合わせた張本人が、すぐそこにいるのだ。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:47:39.27 ID:uKGeDej40
(▲∀▲)「……」

仮面の男は彼に見せ付けるように、懐から一本のビンを取り出した。
女性のプロポーションを模ったガラスのビン。
中には黒く泡の立ち上る液体が、表面には微かな結露が生じている。

よく冷やされた、炭酸飲料だ。

おもむろに、男は部屋の中のブーンに見せ付けるように、ビンの中の液体を口に含んだ。
たった一口だけ飲んで見せると、まだ殆ど中身の残っているビンを床に置く。

最後にブーンを見下すように顎を上げると、男はその場から去っていった。

(;゜ω゜)「ふざけ……殺して……るお」

熱した空気に溶けてしまいそうな言葉が零れる。

許さない。
絶対に、復讐してやる。
自分をこんな目にあわせた男に、地獄を見せてやる。

彼はただその一心で、どこにそんな力が残っていたのか、再び己の両足で立ち上がった。
ふらふらとした足取りで、しかし取り憑かれたように鍵を掴み、試していく。
既にシャツを破いた布切れは捨て去って、手には火傷が幾つも出来ていたが、彼は一向に気にしていない様子だった。

そして不意に、がちゃりと。
金属の噛み合いが外れる音がした。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:50:09.95 ID:uKGeDej40
(; ω )「……あ?」

間の抜けた声を、ブーンが零した。
一瞬、彼は何が起きたのか、本当に自覚出来なかった。

だがすぐに、彼は目の前の扉に何が起きたのかを理解する。

(; ω)「あ……いた?」

鉄格子を掴んで、軽く引いてみる。
微かな軋みと共に、鉄格子は呆気なく開かれた。

(; ω )「あ……はは……出れる……出られるお……」

歓喜の言葉を口の端から零して、彼はすぐそこの出口へと歩む。

しかし、不意に右手に違和感を覚えた。
鉄格子から、離れない。
いや、剥がせない。



高熱を帯びた鉄格子に、彼の右手は焼き付いてしまっていた。
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:52:43.30 ID:uKGeDej40
 


( ・∀・)「畜生……、何だってこんな、バレンタインデーに……」

目覚めの際に呟いた言葉を、彼は再度口から零した。

彼の部屋にあった手紙には、次のような内容が書かれていた。

曰く、やぁモララー君。君は自分の幸せをいちいち他人に自慢している。
そんなに人を見下し見せ付けるのが好きかね。
たまには自分が見下され、見せ付けられる立場になってみたら如何かな。

( ・∀・)「ふっざけんなっての……。マジで意味わかんねぇ……」

愚痴を吐き捨てながら彼、モララーは歩みを進めていく。
真っ黒で冷たいドアを潜った先は、殆ど先の部屋と変わりが無かった。

ひたすらに純白の壁が続く、延々と長い廊下。
天井には等間隔に照明が配置されており、
お陰で廊下は壁そのものが輝いているかのように明るい。

ところで、見下され見せ付けられるとは一体どう言う意味なのか。
よもや、この廊下の先には大量のカップルがいて、自慢話を聞かされると言う訳でもないだろう。

モララーがふと考え始めた時だった。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:53:49.44 ID:zdGS+Dgm0
支援
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:55:15.76 ID:uKGeDej40
背後で、物音がした。
出来損ないの金管楽器を思わせる、やけに響く金属音。

彼が後ろを顧みて――そこでは雨が降っていた。
真っ白だった天井が開き、雨雲のように黒い暗闇が垣間見えている。

そして降り注ぐ、鈍色の雨。

純白の床を削りながら、鉄の大杭が、モララーに近づいてきていた。

もし追いつかれようものなら、彼の辿る道はいうまでもない。

(;・∀・)「あ……うわ……ぁ……」

彼はほんの一瞬だけたじろいで。

(;・∀・)「うわああああああああああああああ!!」

すぐさま身を翻して走り出した。
顔面は蒼白で、額にはまだ大して走ってもいないのに、既に油汗が浮かんでいる。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:57:50.05 ID:uKGeDej40
恐怖の余り酷く不恰好な走り方だった。
その為段々と、鉄の雨は彼との距離を縮めていく。
雨が接近する気配は、音によってモララーにも確りと伝わっていく。

極端に前のめりな体勢で、彼は何とか顔を上げた。

顔の角度に伴って上げられた視界の中では、新たな絶望が彼を待ち受けていた。

彼の現在地からおおよそ20メートルほど先の地点。
灰色のシャッターが、天井から徐々に下りて来ていた。
あれが閉じてしまえば、最早モララーに鉄杭から逃れる術はない。

天井の穴から見下され、閉まりゆくシャッターを見せ付けられながら、彼は走る。

(;・∀・)「ああああああああああああああああああああああ!!」

恐怖か錯乱か、或いはその両方からか。
ともかく彼は気がとち狂ったように叫び、疲労と心労に蝕まれた体に鞭を打った。

雨が近付き、シャッターが下り、二重に恐怖が彼を板挟みにする。
既にモララーは、呼吸すらまともに出来ていない。
ただ一心不乱に、足を動かすだけだ。

そして、彼の体が宙に浮いた。
両足が床から離れ、彼はただ惰性に従って進むだけになる。

シャッターが、下りた。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 18:59:26.99 ID:zdGS+Dgm0
支援
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:00:42.06 ID:uKGeDej40
(; ∀ )「うげぇっ……」

頭から滑り込む形で、モララーは何とかシャッターを潜り抜けていた。
喉を締め付けられるような感覚と激し過ぎる動悸に、彼はその場で蹲り、嘔吐をするように咽込んだ。

(; ∀ )「……っ!」

ふと、足に激痛を覚えた。
見てみれば、左足の脛が大きく抉れている。
断面からは、ずたずたになった筋肉と、深く削られた骨が見えた。

酷い痛みで、暫くは歩けそうにもない。
彼は天井を念入りに見上げ、開きそうな切れ目が無いかを確認すると、どさりとその場に崩れ落ちた。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:03:29.71 ID:uKGeDej40
ζ(゚−゚*ζ「何だってこんな、バレンタインデーに……」

殆ど涙目になりながら、少女は言葉を零した。
少女と言っても年齢は他の3人と大差ないのだが、如何せん彼女の纏う幼げな
――身も蓋も無い言い方をすれば頭の悪そうな雰囲気が、彼女を少女のような存在に仕立て上げていた。

ぐしぐしと目尻に浮かんだ涙を拭いながら、彼女は自分に充てられた手紙を読み直す。

曰く、やあデレさん。君は彼氏を盲目的にまで愛しているらしいね。
幸せなようで何よりだが、君はその幸せを周りに振り撒いているようじゃないか。
人の不幸は蜜の味。ならば人の幸せは毒であるのが道理だろう。
人に毒を振り撒く君には、誰よりも辛い目にあってもらおうか。

ζ(゚−゚*ζ「何で私がこんな目に……」

最たる辛苦を宣告されたデレと言う少女は、暫くの間へたり込んで動こうとさえしなかった。
ただ自分に降り注いだ災難を嘆くばかりだった。

どれくらいの時間が経っただろうか。
漸く彼女の思考は、泣いていても何も変わらないと言う結論に辿り着いたらしい。
ふらついた足取りながらも立ち上がると、泣きながら部屋を出て廊下を進んでいった。
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:05:51.04 ID:uKGeDej40
廊下の果てには、白いドアがあった。
彼女は恐る恐るもそのドアの前に立ち、そして一人でに開いたドアを潜った。

白い廊下と白いドアの向こう側には、白い壁が聳え立っていた。
壁の奥行きから見るに、とても広い部屋のようだった。

壁の高さは凡そ4〜5m位だろうか。
少なくとも、ただの成人女子が上れる高さではない。

だが、壁は彼女から少し左に行ったところで1m程途切れて、通路が出来ていた。
その通路の先を見てみるとやはり白い壁があり、しかし今度は道が分かれT字路のようになっている。

ふと部屋の中に、薄いフィルムを何枚も重ね、震え合わせたような音が響いた。
続いて、くぐもった声が聞こえる。

『やぁデレさん。君の蚤みたいな脳味噌ではまだ分からないかもしれないが、
 そこは巨大な迷路になっているんだよ。勿論、ただの迷路じゃないがね。
 まぁ回りくどい事は言わないよ。生きていたければその迷路を突破するんだね』

ぶつりと音を立てて、それっきり声は聞こえなくなった。

デレは自分が酷く侮辱された事に表情を顰めた。
だがそうしていても何も変わりはしない事をすぐに自覚すると、
憮然としながらも仕方なく唯一示された道を歩き始めた。
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:07:19.73 ID:x96ILyB2O
CUBEと同じ香りがするぜ

さる支援
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:08:12.29 ID:uKGeDej40
一分も掛からない内に、彼女は最初の突き当たりに辿り着く。
道は左右に分かれている。
二つに一つ。

右が正解か、左が正解か。
どちらが天国で、どちらが地獄なのか。

或いは、どちらも地獄行きかもしれない。

人間の心臓は体の正中線より僅かに左寄りにあり、故に人間は左右の選択を迫られると無意識に左を選んでしまう。
迷信なのか真実なのか、こんな説がある。
果たしてこれが関係しているのかは分からないが、彼女は僅かに怯えながらも左の道を選んだ。

彼女は歩き出して、暫くもしない内に突き当たりに辿り着いた。
今度は選択肢はない。
右折の道のみが示されている。

今度は、彼女は特に迷う事もなく道を曲がった。



直後、彼女の背後で物々しい稼動音が響いた。
はっとして、彼女は叩き起こされた猫のような動作で後ろを振り返る。

そこでは帰る道が完全に無くなり、代わりに無数の棘が生えた壁がデレを睨んでいた。
眼光代わりに、艶のある黒色をした棘が凶暴な輝きを放つ。
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:08:59.73 ID:Xk4cdZoa0
支援
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:10:03.47 ID:m4jPUzrJO
むしろSAWじゃね支援
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:11:07.12 ID:uKGeDej40
ζ(゚ー゚;ζ「……へ? 何……これ……」

思わず、彼女は乾いた笑いを零した。

昔のゲームでも出てきそうな、分かり易い仕掛け。
だが分かり易いが故に、まさかそんな事はないだろうと、思ってしまう。
思いたくなってしまう。

しかし彼女の願いは虚しく、微かな起動音と共に、剣山のような壁は彼女に向けて動き始めた。

ζ(゚−゚;ζ「ひっ……!」

喉の奥から、恐怖に声が押し出される。

そして、彼女は走り出した。
壁から伸びる鋭利な棘。
もし追いつかれてしまったなら、彼女が辿る運命は一つしかないだろう。

彼女を追って、壁が速度を増す。
壁は重量故に始めこそ鈍い動きをしていたものの、徐々に加速を得て、彼女との距離を縮めつつあった。
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:13:45.03 ID:uKGeDej40
やがて、走るデレの後ろ髪が棘に触れる程に、壁は彼女との距離を埋めた。
同時にデレの目に、左右の壁の途切れが映る。

あと十数歩程走れば、十字路に辿り着ける。
だが一瞬でも迷いを覚えれば、彼女は道を曲がる事叶わず挽肉となってしまう事だろう。

デレと十字路の距離が、同時にデレと剣山の距離も、ゆっくりと縮んでいく。

ζ(゚−゚;ζ「ああああああああああああああああ!」

気合だか恐怖だかよく分からない叫びと共に、彼女は真横にそこを飛び退いた。
彼女の視界の端に真っ黒な棘が映り込み、その棘は彼女の衣服を僅かに引っ掛け、食い千切るに終わった。
あとコンマ一秒でも遅ければ、彼女の皮膚と肉は棘に捉えられ、道を抜ける事無く連れ去られていたに違いない。

寸での所で何を逃れた彼女は、暫しの間道に倒れ込んだまま動けずにいた。

文字通り後ろ髪を掴むまでに近づいてきていた死を免れ初めて、
彼女は今までは必死さが上回って感じずにいた恐怖を感じていた。

彼女の顔面が蒼白で脂汗に塗れ、呼吸が難しくなるほどに息を荒げているのは、
ただ走った事だけが理由ではないだろう。

とても長い時間を掛けて呼吸を整え、彼女はようやく真っ白な床に向けていた視線を前へと上げた。
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:16:18.59 ID:uKGeDej40
道はまっすぐ続いて、しかしすぐにまた三つの分岐が待っていた。
まっすぐ前に続く道と、左右に二つ。
彼女からはまだ見えないが、丁度フォークのように分かれている。

再度迫られる選択に、彼女は微かに身震いして固い唾を飲んだ。

どの道を選べば、正解なのか。
そもそも、正解はあるのか。
胸中で、猜疑の念が膨張していく。

悩んだ所で仕方が無いのに、彼女は酷く考え込んでいる。
悩めば悩むほど自分の心が圧迫され、苦しみ消耗していくだけだと言うのに。

愚かな程に精神を磨耗させた後で、ようやくデレは道を選んだ。
左の道だった。

磨り減った精神は、恐怖と言う感情をまるで泉のように湧き上がらせる。
通路を進み角を曲がる際の彼女は、痛々しいまでに怯えていた。
自らが発する衣擦れの音にまで怯えて、顔は恐怖と疲労に引き攣っている。

運よく何も無い道を選べても、彼女の心は休まらない。
迷路を進めば進むほど、彼女は疲れていく。

角を曲がる度に呼吸が乱れる程脅え、
行き止まりに行き当たる度に気でも違えたかと思える勢いで背後を振り返る。

ものの数分で、彼女の顔は最早別人だろうと聞きたくなる程に、やつれていた。
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:18:53.08 ID:uKGeDej40
どれ位の時間、デレを迷路を彷徨っただろうか。
彼女はもう何度目かと言う曲がり角を、やはり脅えながら曲がる。

そこにはひたすらに長い一本道が続いていた。
嫌な予感が、デレの頭を過ぎる。

不意に、微かな開放音が響いた。

機械仕掛けのシャッターを開けたような音。
だが左右の壁を見回すも、それらしい物は見当たらない。
おかしいと、彼女は視線を前に戻し――音の出所に気が付いた。

床の随所が開き、何やら小さな筒らしき物が姿を覗かせている。

機械音に次いで、ごぽりと、気泡を含んだ液体が溢れる音がした。
足元の筒から非常に弱弱しい勢いで、何かの液体が吐き出されている。

見た目は無色透明。
だが、異様な臭気がデレの鼻腔を衝いた。
胸が気持ち悪くなる、重々しい臭い。

可燃性の、油の臭い。

彼女の双眸が見開かれ、表情は恐怖に染まった。

ζ(゚−゚;ζ「ひっ……!」

思わず零れた恐怖に引きつった声は、業火が生まれ出でる音に掻き消された。
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:21:15.10 ID:uKGeDej40
ζ(゚−゚*ζ「いやあああああああああああああああああああああ!!!」

炎に囲まれ、デレは頭を抱えて絹を引き裂いたような悲鳴を上げた。
まだ油の量が少ないお陰で、まだ彼女にまで火勢が及ぶ事は無い。

しかし、辺りは既に相当な熱気に満たされ、呼吸をしただけでも肺に焼け付くような痛みが襲い掛かる。

ζ( − ;ζ「いや……いやぁ……」

力なく前のめりに歩きながら、デレはかぶりを振って咽び泣いた。
一刻も早くここを走り抜けなくてはならないが、最早そんな気力もないようだった。
よろよろと数歩だけ進むと、その場に崩れ落ちてしまった。

ζ(;−; ζ「いやだよ……いやだよぉ……」

炎が髪や衣服を焦がす事も気に掛けず、彼女は咽び泣く。
ただ思うがままに言葉を零し、自らの不幸を嘆く。

ζ(;−; ζ「モララー君……」

ふと、彼女は己の恋人の名前を口にした。
それ自体はただ、無作為に脳裏に浮かんだ言葉を吐き出した結果でしかない。
だが無意識無作為の言葉であったが故に、彼の名前は彼女にとってとても大きな物となった。

ζ(;−; ζ「そう……だ……、モララー君……」

未だ虚ろな色を湛える瞳で、デレは長い道の果てを見た。
絶望的な光景を前にして、彼女は力なく呟く。
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:22:40.19 ID:Xk4cdZoa0
支援
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:23:46.30 ID:uKGeDej40
ζ(;−; ζ「モララー……君。会わなきゃ……会って…………なきゃ……」

壊れた蓄音機のようにうわ言を繰り返しながら、立ち上がる。
既に走るだけの力は無いようだが、ふらつきつつも一歩、また一歩と進んでいく。

やがて油が広がって、デレの足にまで炎が及んだ。
皮膚が焦げ、肉が焼け、神経が疼き暴れまわるが、それでも彼女は歩みを止めない。
迸る熱気に肺を焼かれ、目が乾き、呼吸さえままならなくなっても、尚歩き続ける。

ζ( − ζ「……ぁ……ぅ……」

廊下を渡り終え火の海を抜けると、デレは今度こそその場に崩れ、倒れた。
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:25:10.99 ID:uKGeDej40
バレンタインに間に合わなくてこれだけしか書けてなかったりします。
残りはまた後日スレ立てしますです。
ホワイトデーに投下とか面白そうですけど間に合いそうにないです。

支援を下さった皆様、ありがとうございました。
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:28:47.89 ID:x96ILyB2O
>>42
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:29:02.55 ID:m4jPUzrJO
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:29:04.82 ID:GcMZ5Q0rO
乙!
楽しかったよwww
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:30:09.07 ID:9Z7kcG2UO
期待してるよんw
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:31:01.15 ID:8xUEv4BWO
よむほ
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:38:01.40 ID:6w+pbE8SO
乙!
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:39:19.86 ID:Xk4cdZoa0
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/14(土) 19:49:39.33 ID:s3415gxQO
なんて言うか…犯罪犯さないでね。
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
こういう人間は得てして弁えてるモンじゃね?
いや分からんけど