【終わらない夏が】『僕と君の夏休み』製作スレinVIP【また始まる】

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
〜なつやすみ恋愛アドベンチャー〜
広い海に、ひっそり浮かぶ小さな孤島。
主人公がまだ幼い頃に住んでいたこの島に、高校生の夏休み、
突然行くことになってしまった。
幼い頃のことをほとんど覚えていない主人公は始めは乗り気で
はなかったが、島に住む幼なじみたちと共に過ごす中で、徐々
に古い思い出が蘇り、また新しい思い出が刻まれていく。
個性で生き抜く巫女さんや、純粋無垢な幽霊さんともお友達に
なり、いつもと変わらない平凡なものになるはずだった主人公
の夏休みは、いつの間にか真夏の太陽のように輝いていた。

―――君と僕の夏休みはまだ終わらない

公式サイト(体験版配布中)
http://www.bokunatu.com/
製作サイト
http://www.bokunatu.com/developers/
VIP発フリーAVG製作企画の出張所です。現在はパー速を拠点に活動しています。
2シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 00:54:59.97 ID:sFwZvAYr0
捨て犬みたいな顔で俺を見上げている。なんて素晴らしい涙目。
ふるふるしてる様子が、なんとも嗜虐心をそそ……りませんから。
いじめ、ダメ、絶対。
夏輝「ここ」
?楓「えっ?」
夏輝「昼間来たら良い眺めだろうね」
?楓「あっ、うん、そうですね」
よしよし、会話出来るなら大丈夫。
彼女はまだ何かそわそわしてるけど、俺は落ち着いてきたぞ。
夏輝「君も散歩?」
?楓「うーん、そうなるのかな? ちょっとここでボーッとしてただけです」
夏輝「ふぅん。そうなんだ」
?楓「そうなんですよ」
夏輝「そっか」
?楓「はい」
えーと、あと、何かないか?
夏輝「……この島の人?」
?楓「えと……いいえ、違いますよ」
夏輝「そうなんだ。じゃ、旅行か」
?楓「いいえ」
3シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:04:00.09 ID:sFwZvAYr0
うーん。話ふくらまそうよ、ねぇ。
?楓「かえで」
夏輝「へ?」
楓「一条 楓っていいます。あなたは?」
そうきましたか。そういや、互いに名前も知らないんだったな。
夏輝「あっと、俺は夏輝。夢縁 夏輝」
楓「なつきくんですか」
夏輝「うん。夏の輝きと書いて夏輝」
楓「素敵な名前ですね」
夏輝「はは、さんきゅ」
楓「わたし楓です。かえでの樹の楓です」
夏輝「そっか。可愛い名前だね」
楓「ありがとうございます、嬉しいです。えへへ」
おー、これはこれは。
小さな子供みたいな顔して笑うんだな。
夏輝「『かえで』って字は書けないけどね」
楓「あ、あははー」
楓「わたしも、実はかけないんです……」
夏輝「そ、そうなんだ。一緒だね」
楓「はい。いっしょです〜」
4シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:13:00.41 ID:sFwZvAYr0
夏輝「せっかくだから、座らない? ほら、あそこ」
ベンチを指差す。
楓「あ、はい」

;廃病院(海を見下ろすベンチの代用
俺がベンチに腰掛けると、足音もたてず滑る様に俺のとなりへ。
意外に上品な仕草だな。実はお嬢様だったりして。
うん、きっとそう。
楓「ところで」
夏輝「うん?」
楓「わたしのこと、視えるんですね」
夏輝「は……はい?」
もしや、とか考えなかったわけじゃないけども。
夏輝「あの、それってやっぱり……」
むしろ、全力でその考えを否定してたんですよ?
楓「わたし、幽霊なんですよ」
あぁ、やっぱり。

;黒背景
頭頂から肩までの血液が一気に下がる幻聴を聞きながら、ブラックアウトする視界の中でこうひとりごちた。
5シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:28:00.29 ID:sFwZvAYr0
この方面も、俺の知る世界になっちまったと、さ。
;SE:ドサッ

………
楓「……くん」
楓「夏輝くん」
楓「しっかりしてください」

;廃病院
;SE:ガバッ
夏輝「ぬはっ!」
しまった! 無防備に落ちてんじゃねぇ、俺!
しっかし、この打たれ弱さは平安貴族並やもしれんな。情け無い。
ていうか、さっきまでの強気モノローグ台無し。
夏輝「あれ、居ない?」
隣に座っていた楓と名乗る幽霊の姿は無い。
幻覚?
会話までしたのに?
あ、……居た。
楓「大丈夫ですか?」
6シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:40:00.30 ID:sFwZvAYr0
夏輝「あ、ああ」
楓「ごめんなさい、こわいですよね?」
気の毒になるほどしょげている。俺が気絶したので気にしているらしい。
夏輝「いや、まぁ、そうなる、かな?」
とは言うものの、なぜか不思議とそれほど怖い、という怖さは感じない。
幽霊のくせに、子犬みたいな感じがするからだろうか。
普通に会話ができる、っていうのは大きなポイントだろうな。
楓「……」
夏輝「なんか、ごめん」
楓「いいんです、無理も無いですから」
楓「ほんとに、大丈夫ですか?」
夏輝「あー、うん。ちょっとビックリしただけだから」
楓「よかった。わたし、消えた方がいいかなって思ったんですけど心配だったから……」
ああ。
随分離れた所にいるのは、俺を極力怖がらせない為か。
なんか、いい奴じゃん。
楓「本当に驚かせてしまってごめんなさい」
夏輝「いや……」
楓「それじゃ、わたしはこれで」
夏輝「あ……」
7シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:49:00.24 ID:sFwZvAYr0
これじゃ、いけない。
夏輝「楓っ!」
;びっくり
楓「!」
夏輝「って言ったよな、名前?」
;にっこり
楓「はい」
夏輝「こっち、座りなよ」
楓「え? でも……」
夏輝「時間、あるだろ?」
きっと、腐るほどの時間が。
;嬉し泣き笑い
楓「はいっ!」

;星空
この、控え目な幽霊が悪い存在には思えない。ましてや、危険だなんて。
話を聞いてやろう。
彼女の事、思い出、心残りに思っていること……。
もしかしたら、彼女の力になってやれるかもしれない。そう、思っ──

8シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 01:58:00.24 ID:sFwZvAYr0
;時間経過エフェクト
;廃病院
夏輝「なんにも覚えてないですと?」
楓「はい〜〜〜」
夏の夜のちょっとハートフルな心霊体験は、いきなり暗礁に乗り上げた。
夏輝「じゃ、じゃあTVでよくある未練がどうとかは」
楓「よくわからないんですよぅ」
ナンテコッタイ。
楓「なんだか、ごめんなさい」
夏輝「いや、しょうがないさ」
楓「分かるのはわたしの名前と、ちっちゃい頃に死んだらしいというくらいで……」
夏輝「小さい頃、ねぇ」
楓「それも定かではなくて、気が付いたらこうでした」
夏輝「小さい頃って、いつ頃?」
楓「えっと、このくらい」
手で示す高さは胸よりちょい下。
夏輝「小学校低学年くらいか……」
楓「そうですね」
夏輝「いや、ちょっとまて」
楓「はい?」
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:04:20.10 ID:vHYmi2XnO
>>3の最後がとっても渚
10シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 02:16:00.46 ID:sFwZvAYr0
夏輝「楓、見た目は俺と同世代くらいだぞ?」
たぶん、せいぜいひとつ下くらい。
楓「はい、たぶん同世代ですよ?」
夏輝「あー、昔の人とかじゃないんだ……ってそうじゃなくて」
夏輝「小学生の幽霊にはちょっと見えないぞ?」
楓「あぁー、それですか?」
ぽむ、と小さな手を叩く。
楓「女の子ですから」
夏輝「はぁ?」
楓「だから、女の子だからです」
夏輝「そうなの?」
楓「はいっ♪」
夏輝「ふ、ふうん……?」
わかったよ、甘んじて受け入れろってんだろ?
何せ相手はオカルト、なんでもありなんだろうさ。
楓「あ、あと生きている時に最後に居たのはここみたいです」
夏輝「この崖?」
楓「じゃなくて、後ろの病院」
夏輝「コレ、病院だったのか……」
そう言われると俄然不気味に見えてくる不思議。
11シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 02:27:59.99 ID:sFwZvAYr0
楓「夜だし、ちょっと気味悪いですかね?」
夏輝「う、まぁ、そうだな」
楓「夜の病院ってオバケ居そうですもんね」
夏輝「……」
あー、確かに居るよねぇ。
夏輝「さて、ちょっと移動しようか」
決して怖くて限界とかじゃないぞ。
楓「いいですよ。で、どこへ行きます?」
夏輝「ちょっと思い出したトコがあるんだ」
ベンチから立ち上がり、楓に手を差し伸べる。
楓は軽く頷いて俺の手を──すり抜けた。
楓「きゃっ!」
夏輝「うおっ?」
ちょっとよろけた。
楓「あははっ、うっかりしてました」
夏輝「俺も。まぁ、こうなるよなぁ」
どれ。
夏輝「おー、華麗にスルーしまくり」
さわさわ。
すかすか。
12シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 02:45:59.98 ID:sFwZvAYr0
まったく手ごたえが無い。
楓「ぶー。遊ばないでくださいよぉ」
夏輝「とりゃ」
ずぶり。俺の腕は完全に楓の中。
俺、非道い?
楓「しくしく……もう好きにしてください。そうやってみんな、わたしのカラダを通り過ぎて行くんですから」
夏輝「人聞きの悪いこと言わないでっ!」

;神社
清理「……幽霊を、拾ったとな?」
清理さんなら専門家だし、何かわかるかもしれないからな。
夏輝「そうなんですよ」
清理「ふむぅ……」
夏輝「この子です。楓っていうそうです」
夏輝「ほら、怖くないよ」
ちょっとお乳はすごいけどな。
清理「む、何か言ったか?」
夏輝「いえ何も。さ、楓」
俺の後ろに浮いている楓を促す。
楓「……一条、楓です。よろしくおねがいしますっ!」
13シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 03:06:59.72 ID:sFwZvAYr0
清理「むむっ?」
楓「……」
清理「……」
見詰め合う二人。
おぉ、俄然それっぽくなってきましたよ?
CMの後、清理さんの力で衝撃の事実が!!!!1
清理「……なるほどのぅ」
夏輝「何か視えましたか?」
清理「いんや?」
夏輝「ええっ」
清理「何も聞いておらんのに、そう都合よく分かったりはせんよ」
夏輝「そ、そうですか」
じゃ、今の間は何だったんだ?
清理「……夏輝どの、彼女とは?」
夏輝「さっき知り合ったばかりです。この島の娘じゃないそうですし」
清理「はぁ……なるほどのう」
何だか、妙にがっかりしてるみたいだけど?
夏輝「楓はその、どうやったら成仏とかできるんですかね?」
清理「神道では帰幽と呼んでおってな」
夏輝「はい」
14シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 03:24:59.75 ID:sFwZvAYr0
清理「まぁ、似たようなもので顕界(うつしよ)での心残りを成就すればよいのじゃよ」
夏輝「でも、彼女は何も覚えてないみたいなんですが?」
清理「うむ。おおよそ、迷える霊とはそういうものなのじゃよ」
夏輝「へえ」
清理「先祖や親兄弟、自分の拠って立つものから離れては、自分が何者か分からなくなるのも道理」
清理「強い未練を残し、この世の理(ことわり)から外れてしまうという事はそれほどに罪なのじゃよ」
夏輝「……」
ある意味、罰ってことなんだろうか?
何だか、厳しい言い様だな。
この子は、それほどの罰を受けなければならないようなことでもしたのだろうか。
この、人畜無害純真無垢を体言したような子が。
清理「楓どのといったかの?」
楓「は、はい」
清理「おぬしは大丈夫じゃよ」
楓「えっ?」
清理「良い人に拾ってもらったでの」
子犬扱いですよ。
……あ、言い出したのは俺だったか。
楓「ひゃわわわわ」
清理「夏輝どの」
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:36:30.18 ID:G8g1B8Nr0
これパー速になかったっけ?w
16シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 03:46:00.04 ID:sFwZvAYr0
夏輝「は、はい」
清理「しばしの間、楓どのの話し相手になってやってくれぬか?」
夏輝「ええ、そりゃもちろん」
既にそのつもりだしな。
清理「焦らずにアレコレ話していおれば、ある日ハタと気が付くものじゃからの」
清理「そのとき、楓どのがどうするか、楓どのをどうするか決めても遅くはない」
夏輝「そういうものですか」
清理「そういうものじゃよ」
夏輝「わかりました」
清理「頼んだぞ。わっちでも良いのじゃが、その役は夏輝どのが一番じゃしの」
夏輝「そうなんですか?」
清理「うむ、肉体は無くとも運命の出会いはある」
夏輝「へぇ」
清理「わっちは確信した」
夏輝「は?」
清理「今」
夏輝「……」
この人、ノリで話してないか? ホントに大丈夫かよ……
清理「大丈夫じゃ!」
うぉ、テレパス!?
17シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 04:15:59.96 ID:sFwZvAYr0
清理「とはいえ、いつまでもこのままで良いという訳ではないからの?」
夏輝「?」
清理「今のように、邪まなモノでないうちは良いのじゃが、ひとたび邪念に囚われ悪霊の類につけこまれると……」
清理「奴らの一部として取り込まれ、二度と助からぬ」
清理「そういう、邪念を持った霊の集まったモノを何と呼ぶかわかるか?」
夏輝「……」
清理「鬼、じゃよ」
何か、凄い話になってきたな。
清理「ま、そうそう起こる話ではないから安心なされよ」
夏輝「ほっ」
清理「何しろ、早いに越したことは無い」
夏輝「わかりました」
清理「マメに会ってやるのも男の甲斐性という事じゃの(にやり」
またですか、この人は。
清理「さて」
清理「夜も遅い。今日のところはこの辺で良いじゃろう」
夏輝「そうですね」
清理「楓どの」
楓「はい?」
清理「別段、どこへ行くという当てがあるわけでもなかろう? 不都合なければここに居られると良いぞ」
18シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 04:54:59.89 ID:sFwZvAYr0
楓「はい、お世話になります」
夏輝「それじゃ、また」
清理「うむ」
楓「じゃあね、夏輝くん」

;神社
はー。
今日は凄い体験したな……。
でも、今日だけじゃ終わりそうに無いぞ。
夏輝「うしっ!」
明日に備えて、ちゃっと帰って寝るとしよう。

;神社和室
清理「じゃが……あれで良かったのか? 楓どの」
楓「はい」
清理「しかし、唯一覚えておった『自分以外の名前』という事は……」
清理「……ふむ」
清理「伝えなくて、本当に良かったのか?」
楓「いいんです」
楓「あの人が、わたしを見つけてくれただけでも凄いことだし」
19シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 05:30:59.85 ID:sFwZvAYr0
清理「……そうじゃのう。まさに奇跡としか言いようがないの」
楓「はい……それで、」
楓「はじめまして、って言わなきゃって……」
楓「それが、いいんだ……って」
清理「む?」
楓「なんか、よくわかんないけど、そう……思ったんです」
清理「ふむ……そうか」
楓「はい」
20シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 06:15:59.91 ID:sFwZvAYr0
;楓シナリオ01:「逍遥(しょうよう)」
;rev 1.1

セミの大合唱をBGMに、神社へと続く石段を踏みしめる。
今日は楓の成仏のきっかけ探しだ。
紗耶の手伝いは午前中にダッシュで片付けた。あんなに気味悪がるこた無いと思うぞ、紗耶。
昨夜のうちに予習も済ませた。新倉イワオ先生の本で。あと、宜保さんとか水木しげるとか。
……最後のは必要ないような気もするわけだが、まあ気にしない。
民宿のロビーって、ヘンな本やマンガがいっぱいあるよな。
まぁ……それが役に立つかどうかはともかく、予習した。
俺がこの島に居られる期間は短い。
その時間で楓の成仏のきっかけを見付けられるかは正直難しいところだろう。
?楓「…………ん」
それでも、出来る限りの事をするんだ。
?楓「……きくん」
楓と色んな物を見て、聞いて、話をしよう。
そうすればきっと道は──
楓「夏輝くんっ!」
夏輝「うぉっ?」
楓「きゃっ」
21シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 07:09:59.77 ID:sFwZvAYr0
夏輝「び、びっくりしたぁ!」
夏輝「いきなり鼻先に現れるんだもんなぁ」
楓「ごめんなさひぃ〜」
楓「……でもだって、なかなか気付いてくれないんだもん」
夏輝「そっか、悪かったな」
楓「いいですよー。気付いてくれたし」
夏輝「じゃ、改めて。こんにちわ、楓」
楓「はい、こんにちわ。夏輝くんっ」
夏輝「迎えに来てくれたのか?」
楓「はい、お迎えに来ました〜」
ぞくり。
うそうそ。
夏輝「俺が来るの、よくわかったな」
楓「わたしの事、考えてくれてると、なんとなくわかるんですよ」
夏輝「そうなのか」
楓「はい」
楓「わたしが知ってる人に限りますけど」
夏輝「ふうん」
さすがオカルト。
楓「だから今日は朝からずーっとうれしくって」
22シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 08:04:00.07 ID:sFwZvAYr0
楓「もう、我慢できなくて飛んできちゃいました」
うん確かに、本当に嬉しそうな顔してるな。
楓「清理さんには女子(おなご)はどーんと待ちの姿勢で構えとけって言われてたんですけどね」
夏輝「はは。清理さんらしいな」
楓「そうですね」
こっちまで嬉しくなってくるもんだな、なんていうか。
楓「じゃ、いきましょうか」
夏輝「お?」
楓「清理さんにはもう言ってありますから」
夏輝「おっけ、それじゃ」
楓「れっつごーですっ」
それじゃ張り切って、きっかけ探しを始めるとしますか。

; 廃病院
夏輝「おー、やっぱ眺め良いな」
楓「ですねー」
まずは俺たちが出会った廃病院へ。
夜に来た時にも増して荒れ果てた感が漂ってるが、ベンチからの景色はなかなかのものだった。
夏輝「よし、ちょっと座ろう」
楓「はい」
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 08:49:03.84 ID:edshCA8F0
なにがしたいのか全く意図が読めないんだけど
駄文公開おなにー?
24シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 09:36:59.63 ID:sFwZvAYr0

;廃病院からの海
夏輝「そういやさ」
楓「はい」
夏輝「すり抜けちゃうのに、どうやって座ってるの?」
楓「あぁ、ただのまねっこです」
電気イス状態かよ。
夏輝「疲れない?」
楓「へーきです」
重さ、無いもんな。
楓「まぁ、ふいんきだけですね」
夏輝「なぜか変換できない」
楓「はい?」
夏輝「いや、こっちの話」

;時間経過
楓「たぶん、行ってないと思います」
夏輝「そうか」
楓「はい。自分が教室で机に向かってる姿って、ちっとも想像つかないですし……」
楓「物心ついた頃からずっと病院に居たのかもしれませんね」
25シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 10:06:59.60 ID:sFwZvAYr0
夏輝「じゃ、入院するためだけにこの島に来てたってわけか」
楓のお墓はこの島には無いらしい。あれば自分の場所として認識できるものなのだそうだ。
仏壇や位牌もその類ということになるから、自分の家もこの島には無いということになる。
……身元の特定はひとまずおあずけにするしかないか。
夏輝「ま、それは最後の手段にしてだな」
楓「?」
夏輝「楓のお父さんお母さん探し」
楓「あぁ……」
夏輝「思い出さないうちに両親を見て、『ダレ、この人?』ってなっちゃったらきついじゃん?」
夏輝「だから、最後の手段」
楓「そうですね……」
『一条楓』という名前は判ってるんだし、病院の関係者だった人を探せばどうにかなるだろう。
個人情報の保護とか、問題はあるけど不可能ではないはずだ。
でも、肝心なのは自分が実感できること。会えば分かるという保証は、ない。
ありそうな事だから、期待は大きくなる。でももしそうならなかった時、ダメージは比例して相応なものになってしまう。
……ちょっとしめっぽくなったな。
夏輝「よし、次いこうぜ」
スマイル、スマイル。
楓「はいっ」
まだ始まったばかりだ、どんよりしてちゃいけないよな。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 10:25:15.44 ID:mDAHn1kQ0
おやまた立ったのか
27シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 10:51:59.94 ID:sFwZvAYr0
立ち上がって、楓に手を差し出す。楓も、差し出された手を掴もうとする。
すかっ。
夏輝「うおっ」
楓「きゃっ」
夏輝「っとと、うっかりしてた」
楓「あははー、わたしもです」
学習しようぜ、俺達。

;海岸
楓「……自分が泳いでる姿も想像つきませんね」
夏輝「楓はカナヅチ、と」
楓「い、今なら平気ですっ」
夏輝「……おーい」
すーっと、海に滑り込んで行きましたけど……
それ、泳いでる事になるの?
楓「……なんか、泳いでるって気がしません」
夏輝「あはは……そうだろうね」
楓「はぅ〜〜」
夏輝「まぁ、元気だせ。そう言えば、島の外には行った事無いのか?」
楓「出られないんですよ、壁みたいなのがあって」
28シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 11:12:59.88 ID:sFwZvAYr0
楓「ごちん、って頭ぶつけちゃうんです」
さすさす。額をさする。
夏輝「へぇ。何か理由でもあるのかねぇ?」
楓「どうなんでしょうねぇ?」

;商店街
夏輝「……うーん」
楓「はふぅ」
何かアイテムで思い出せないかとあれこれ見て回ったが……。
収穫が無い上に、一時間とかからずに制覇できる商店街ってもうね。
夏輝「やっぱ、人前で話するのは……難しいな」
楓「……そうですね」
お互いに顔を寄せ合ってこそこそ話す事になるのだが、つい楓の方に顔を向けてしまう。
結果、怪しいそぶりで独り言を連発する俺ちょっとオカシイ人状態。
それにしても。
夏輝「これじゃなんも見付かるわけ無いよな」
楓「あははー」
日用雑貨に食料品、服屋は作業着やいつの時代のだか謎なオバサン服。
ものの見事に子供時代の楓とは接点のかけらも無さそうな物ばかり。
それは仕方ないにしても、花屋が半分以上野菜の苗ってのはどうかと思うぞ。
29シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 11:30:59.87 ID:sFwZvAYr0
夏輝「あ、ちょっと一件寄っていいか?」
楓「はい、どうぞ」

;公園
夏輝「ふいー」
公園の隅っこのベンチに腰を下ろす。
幸い、人は居ない。これなら人目を気にせずに話ができるぞ。
;ガサガサ
夏輝「ほい、お供え」
隣にさっき買ったアイスを置く。
楓「わー、パナップだぁ」
俺はパピコ。コレは譲れない。
楓「ちょっとフタ開けてもらえますか?」
夏輝「はいよ、これでいいか?」
楓「はい♪」
楓「……くんくん」
……顔を寄せて、匂いを嗅いでる。
何してんの?
楓「ごちそうさまでした」
夏輝「?」
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 11:33:33.89 ID:Ucu4HuqhO
スレタイ見て
「終わらない夏休み」かとおもた
31シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 11:48:59.98 ID:sFwZvAYr0
楓「わたしたちのごはんは、匂いなんですよ」
夏輝「へー」
楓「お線香も、おいしいんですよー」
夏輝「ほえー」
楓「やっぱり、自分の為にお供えしてもらうのは格別ですー」
楓「ありがとうございます」
夏輝「いえいえ」
夏輝「よし、そういうことなら……」
楓「?」
夏輝「はい、どうぞ」
木のスプーンでひとさじすくって楓の鼻先に突き出す。
楓「あはっ」
楓「くんくん、くんくん」
うーむ。ますます犬だな。
前々から犬っぽいとは思っていたが、もはや疑いの余地は無い、今ここに、楓は犬キャラと認定したっ!
楓「おいしいですぅ」
夏輝「そかそか、ポチ、よしよし」
なでなで。ただのマネっこだけど。
楓「むー。わたし、わんこじゃありませんよっ」
夏輝「うひゃひゃ」
32シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 12:04:00.02 ID:sFwZvAYr0
楓「ふんだ。もう知らないです」
ぷいっ
楓「……あ」
夏輝「?」
夏輝「あ……」
何かに気をとられた楓の視線の先をたどると、男性、子供、女性と並び、三人仲良く手を繋いで坂を上ってくる姿。
子供は小学生くらいか。遠目に見ても仲睦まじい様子がよくわかる。
楓「親子かな?」
夏輝「そうだろうな」
楓「ああいうの……いいなぁ」
夏輝「……そうだな」
一度はこの世に生を受けた身である以上、楓にも当然、両親は居るはずだ。
でも、楓は両親の事は何一つ覚えていない。
知っている人が自分の事を考えたら分かるという楓が、両親が自分の事を思い出しても分からない。
それが他ならぬ自分のせいだというのはどんな気持ちなんだろう。
夏輝「なぁ」
楓「はい?」
夏輝「思い出せるといいな」
楓「……そうですね」
思い出しさえすれば、きっと感じることが出来る。
33シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 12:22:00.13 ID:sFwZvAYr0
お前の両親が、お前の事を想わないはずが無いのだから。
楓「泣いるんでしょうか」
夏輝「ん?」
楓「わたしの、おとうさんとおかあさん」
夏輝「あぁ……どうだろうな」
楓「もう、泣いて無いと良いな」
夏輝「そうだな」
楓「……わたし、悪い子ですね」
夏輝「え?」
楓「覚えてすらいないなんて……」
でも、それはお前のせいじゃない。だって、仕方の無いことじゃないか。
そう慰めるにはこの問題は重すぎて。
夏輝「そうだ!」
楓「?」
夏輝「他に誰か覚えてないか?」
楓「えっ?」
夏輝「家族以外でさ、仲の良かった人とかさ」
;楓赤面
楓「〜〜〜〜っ!」
夏輝「?」
34シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 12:40:00.20 ID:sFwZvAYr0
楓「あっ!」
夏輝「どうした! 何か思い出したのか?」
楓「き、清理さんが呼んでます。行かなきゃ」
楓「それじゃ、また。ありがとうございましたっ」
夏輝「え? あっ、おいっ!」
……
なんか、ずいぶん慌ただしく帰っちゃったな。
しょうがない、俺も帰るとするか。
またな、楓。あせらずじっくりいこうぜ。
時間はまだ、あるからさ。

; 叙瑠樹部屋夜
夏輝「はー、食った食った」
紗耶の飯だけは文句のつけようが無い。
あれで性格がもうちょっと、ねぇ?
;SE:窓開け
;星空
夏輝「………」
今日の収穫は無し。状況確認に終始したのみだ。
いきなり手詰まり感が漂う展開に、ちょっと先が思いやられる。
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 12:54:42.70 ID:mAWgOrLO0
まあ保守の変わりにシナリオ上げてるんだろうが
これだと逆に人入ってき辛くね?
こんな一気に長文読める奴はよほどの暇人くらいだろうw
36シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 12:55:00.12 ID:sFwZvAYr0
大体、あんなのほほんとした奴が幽霊になるほど未練って何なんだ?
誰とも会えず、誰とも話せず……自分が誰かも判らないまま何年も毎日を繰り返して。
それだけの目に遭うほどの想いを、未練を残す何か。
夏輝「〜〜〜〜〜っ!」
ダメだ、想像もつかん。頭が知恵熱で痒くなるだけだ。
夏輝「楓……」
楓「呼びました?」
; 目の前ににゅっととびだす。星空背景に無理矢理立たせるw
夏輝「うおっ!」
そういや、考えてたらわかるって言ってたな。
それにしたってだな、
夏輝「おいおい、速過ぎないか?」
楓「『魂よく一日に千里をもゆく』って言う言葉がありましてですねぇ〜」
夏輝「それ、フィクションだから」
楓「でも、自動車なんか楽勝ですよ?」
夏輝「軽トラしか相手したこと無いくせに」
楓「まぁ、そうですけどぉ」
首都高行ってみろ、すごいから。あと、大阪環状もメジャーだよな。
なにはともあれ。
夏輝「うん、十分速いな。びっくりした」
37シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 13:10:00.11 ID:sFwZvAYr0
楓「えっへん!」
夏輝「……また、会いに行くからさ」
楓「はい」
夏輝「一緒にウロウロして」
楓「はい」
夏輝「いっぱい話して」
楓「はいっ」
夏輝「きっと、見付けような」
何を? って言われると苦しいものがあるんだがな。
楓「……ひっく」
夏輝「え、おいおい?」
楓「ごべんなさ、わた、うれし……うっく」
涙腺緩すぎっ!
夏輝「あぁ、もう泣くな泣くな」
楓「はぃ〜〜」
夏輝「よしよし」
なでなで。マネだけど。
夏輝「じゃ、ぼちぼち寝るわ俺」
楓「はい、おやすみなさい」
夏輝「おやすみ」
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 13:10:54.32 ID:2qoKbQ6EO
これ保守ツールだからレスしても無駄だぞ
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 13:13:05.32 ID:mAWgOrLO0
ツールかよ。荒らしとかわんねーじゃんwwwww
荒らし報告してきていいか?
40シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 13:24:59.96 ID:sFwZvAYr0
楓「では、また」
夏輝「ああ」
;SE:ノック
紗耶「夏輝?」
;叙瑠樹部屋
夏輝「ああ、紗耶か」
紗耶「ちょっと、いい?」
夏輝「もう寝たいんだけど」
紗耶「すぐだから」
夏輝「……ああ」
紗耶「ねぇ……」
夏輝「何?」
紗耶「あのさ、悩み事とかあるの?」
うぉ、エスパー?
紗耶「ちょっと独り言すごすぎるわよ?」
う。
夏輝「べ、別に何もないぞ?」
紗耶「それならいいんだけどさ……」
夏輝「ああ。他に無いなら寝るぞ」
紗耶「……気が向いた時でいいから、話しなさいね?」
41シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 13:40:00.24 ID:sFwZvAYr0
夏輝「だから、何もないって」
紗耶「アタシ達はえっと、ほら、お、幼馴染なんだから」
紗耶「遠慮なんか要らないんだからね?」
夏輝「……うん、気持ちはもらっとく。ありがとな、紗耶」
紗耶「どういたしまして」
夏輝「でも、ホントに何も無いんだ」
紗耶「そ。ならいいわ」
夏輝「悪かったな、なんか心配させたみたいで」
紗耶「ううん」
夏輝「じゃ、寝るわ」
紗耶「うん、おやすみ」
夏輝「おやすみ」
こればっかりは、ちょっと考えないといけないかもしれないな。
そのうち、へんな色の救急車とか呼ばれかねない。
42シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 13:52:00.21 ID:sFwZvAYr0
;楓シナリオ02:「憑依(ひょうい)」
;rev 1.1

; 田舎道
; 紗耶のおつかいに自転車で商店街へ。散歩がてら遠回りして田舎道を通る。
夏輝「〜〜♪」
自然に囲まれた田舎道を自転車で進む。
空はどこまでも青く、ペダルは軽い。
軽やかに進む俺の体に吹き付ける風は……熱風。
夏輝「ま、まぁ夏だしな……」
強烈な日差しで熱せられた路面の大気と草いきれが、速度に比例して押し寄せてくる。
それでもなお、この圧倒的な鮮やかさで目を刺す緑色に染められた景色は見る価値がある。
そう、紗耶から頼まれたお使いのルートを外れ、激しく遠回りして行くだけの価値が。
……いいんだよ。
預かった金使い込んだりとかじゃないんだからさぁ。
夏輝「んしょっ、っと♪」
坂道に差し掛かり、ペダルに力を込める。
; 道、坂の上
程なく頂上に辿り着き、あとは商店街まで下りを一直線。
ペダルを漕ぐのを止め、重力に魂を引かれるままに坂道を滑り降りる。
43シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 14:04:00.25 ID:sFwZvAYr0
……
楓が普段見ている視界って、こんな感じかな?
後ろに流れていく景色、狭くなる視界。
夏輝「もっとかな?」
ペダルを踏み込み加速する。両脇の景色が吹っ飛ぶ。
楓「呼びました?」
夏輝「おわっ、あぶっ──」
;ホワイトアウト
真っ白になった視界に驚いて、思わずハンドルから手を放してしまった俺が見たものは……
;青空
抜けるような青空。
楓「夏輝くんっ!」
;SE:ドンガラ
夏輝「あいたたたたたぁ」
えらい目にあったな。
ったく楓の奴いきなり現れやがって、もうちょっと状況を良く見てだな……。
夏輝「痛いですぅ〜〜」
あれ?
夏輝「え? わたし、痛い???」
何で俺勝手に喋ってんだ?
44シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 14:16:00.19 ID:sFwZvAYr0
夏輝「あ、そうだ……夏輝くん? どこですか?」
この口調はもしかして……楓?
夏輝「あれ、体が……重い」
まさか……
夏輝「んしょ……あ、飛べないや」
これは所謂アレか?
夏輝「あれ? わたし、こんな服きてましたっけ?」
夏輝「この服……夏輝、くん? まさか……わたし……」
夏輝「取り憑いちゃったぁああああ!?」
ですよねー。
しかし、俺の声でわたしとか聞くとかなり気色悪いな。
夏輝「どうしよ、どうしよどうしよどうしよ〜〜〜っ」
夏輝「そうだ、とにかく夏輝くんを探さないと」
夏輝「あ、今はわたしが夏輝くんだったっけ」
夏輝「どうしよ、どうしよどうしよどうしよ〜〜〜っ」
お〜い。まずは落ち着け。
俺の声は届かないみたいだ。困ったな。
;SE:自動車〜停車
「フッフゥーウッ!」
夏輝「?」
45シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 14:31:00.08 ID:sFwZvAYr0
まずいっ、この声は!!!!1
うわ、すげー勢いで駆けてくるっ。
阿部「どうした、ナッちゃん!」
夏輝「……ひっ!」
阿部「むっ、この状況からすると自転車でクラッシュかい? 怪我は?」
夏輝「えっ、わたしが視え……あ、そうか今は夏輝くんだからか。はい、大丈夫です」
阿部「何だって? まぁいいや、ほら、立てるか?」
夏輝「あ、ありがとうございます」
よせっ、迂闊に近寄るんじゃないっ!
触れるんじゃないっ!
夏輝「わひゃっ!」
……ほーらね。って言ってる場合じゃない、やめろ阿部さん!
や・め・てぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!
文字通り心の声でしかない俺の抗議など、阿部さんに届くはずがない。
夏輝「きゃうっ!」
さわさわ
阿部「大丈夫、怪我して無いか調べるだけさ」
……尻ばっかり触ってんじゃねぇ!
阿部「あっれ〜〜?」
さわさわ
46シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 14:43:00.00 ID:sFwZvAYr0
夏輝「な、なにするんですかあっ!」
阿部「おかしい……いつものトキメキが足りない」
す、するどい。
夏輝「やめ……こ、こないでぇ」
阿部「むぅん……?」
夏輝「……(ガクブル)」
阿部「ナッちゃん」
夏輝「わたし、楓ですぅ」
阿部「?」
阿部「やっぱり転んだ拍子にどこか打ったのかい?」
夏輝「ひゃっ!」
さわさわ
さーわさわ
さーわさ(ry
夏輝「や、あっ、んうっ、ひゃあんっ!」
阿部「う〜ん……やっぱり魂に訴えるモノが無いんだよなぁ」
ならもうやめろ。すぐやめろ。
夏輝「ふぇ……えぐっ……えっえっ」
阿部「怪我は無い様だけど、帰って休んだ方がいいぜ?」
夏輝「……(こっくん)」
47シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 14:54:59.92 ID:sFwZvAYr0
阿部「じゃあな、ナッちゃん」
夏輝「……(こくこく)」
阿部「紗耶ちゃんちまで、送っていこうか?」
夏輝「……(ふるふる)」
阿部「そうかい。じゃ、気をつけてな」
去って行く阿部さんの車。欲望がないと意外にあっさりしてるんだな。
夏輝「こ、こわかったですぅ〜〜〜」
夏輝「……」
夏輝「あ〜ん、どうしよ〜〜〜っ」
頼むから気付け、清理さんの所に行ってくれ。
夏輝「あ、そうだ」
おおっ!
夏輝「夏輝くんはあっちに向かって走ってたから、お店に行くんですね?」
ちっが〜うっ!
夏輝「よ〜し、楓が代わりにお買い物しますっ!」
……何故そうなる。
夏輝「あ……」
今度は何だ?
夏輝「今は夏輝くんだからわたしにも乗れるはず……んしょ」
まさか……楓、自転車乗れないのか?
48シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 15:07:00.07 ID:sFwZvAYr0
よせっ、やめてっ!
;SE:ドンガラ
夏輝「きゃっ!」
俺の声で『きゃっ』とか気持ち悪すぎるから。
夏輝「痛いですぅ〜〜〜」
素直に押して行ってくれ。
夏輝「よいしょ……はう〜っ」

;時間経過

;SE:カラカラカラ(ループ
夏輝(楓)「歩くって疲れるんですねぇ」
そうだよな。お前はいっつも飛んでるしな。
夏輝(楓)「それにしても、何を買うつもりだったんでしょうか……」
夏輝(楓)「うっかりしてましたぁ」
話する暇すらなかった件。
夏輝(楓)「あ、自動販売機はっけん。これかな?」
明るい家族計画……違います。

;商店街
49シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 15:18:59.73 ID:sFwZvAYr0
夏輝(楓)「あ、あれは……」
目の前には駄菓子屋。そして、氷の字が書かれた旗が涼しげに揺れている。
ちょ、まさか……よせ!
俺の願いも空しく視界は吸い寄せられる様に店の中へ……

;黒背景
;SE:ばんっ!
夏輝(楓)「これで買えるだけくださいっ!」
うそ〜〜〜〜んっ!

;商店街
夏輝(楓)「はっ!」
夏輝(楓)「……つい、大人買いしてしまいましたぁ」
今更かよ……全額かよ……
どうすんだよ、俺の金じゃねーんだぞ。あーあ。
夏輝(楓)「あっ!」
夏輝(楓)「アイスを買ってわたしと食べるつもりだったんですねっ」
夏輝(楓)「そうです、きっとそうです!」
ちっがーうっ!
夏輝(楓)「でも、これじゃ一緒に食べられませんねぇ……」
50シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 15:30:59.92 ID:sFwZvAYr0
……そうですね。

しかし、まずい事になったな。
知り合いの前で楓口調で喋られたら、まだまだ続く俺の島ライフに支障が出るぞ。
なのに、わざわざ島で唯一人通りの多い場所に来てしまっているこの現実。
危険指数がレッドゾーン振り切ってプルプル震えてますよ。
楓が清理さんに頼る事を思いついてくれるまでに誰にも会わないといいんだが……。
もも「お兄ちゃんっ」
夏輝(楓)「ひゃっ!」
もも「えへへー」
知り合いキター!!!1
うッわ、どうするどうすんだよ絶対怪しいよ!
夏輝(楓)「あっ、えーと、あ、ももちゃん、こんにちわ」
もも「あはっ、ももちゃんだって。こんにちわ、お兄ちゃん」
ほっ、とりあえず名前は知ってたか。
特に怪しんではいないみたいだな。楓も取り繕ってくれようとはしてるみたいだし。
それに……ももがアホの子で良かった。
夏輝(楓)「えっと、なにかな?」
もも「ん? お兄ちゃん見つけたから声かけただけだよっ」
夏輝(楓)「そうなんだ」
51シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 15:46:00.41 ID:sFwZvAYr0
もも「うんっ! お兄ちゃんはお買い物?」
夏輝(楓)「うん、そうかな?」
もも「わっ、すごい! アイスが沢山!」
夏輝(楓)「い、一緒に食べる?」
もも「うんっ!」

;公園
……
夏輝(楓)「あー、おいしかった!」
もも「おいしかったねっ」
もも「それにしても、10コも食べちゃうなんてお兄ちゃんすごいねっ」
……完食しやがりましたよ、こいつら。
夏輝(楓)「おいしいから食べ過ぎちゃいましたぁ。こうやって食べるの、久しぶりだったし」
もも「おなか平気?」
夏輝(楓)「はいっ」
もも「あ、ボク約束があるから行くね」
夏輝(楓)「はい」
もも「アイスごちそうさま」
夏輝(楓)「いえいえ」
もも「ばいばい、またねー!」
52シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 15:58:00.13 ID:sFwZvAYr0
夏輝(楓)「ばいばい」
ふぅ、行ったか。
最後の方は語尾がかなり怪しくなってきてたからどうなるかと思ったけど、どうにか誤魔化せたみたいだな。
夏輝(楓)「……ひさしぶりだな」
夏輝(楓)「普通に声かけてもらって、お話するの」
夏輝(楓)「楽しかったなぁ」
楓……
夏輝(楓)「うっ(ぶるっ)」
夏輝(楓)「これは……まさか……」
何だ?
夏輝(楓)「ど、どうしよう……」
夏輝(楓)「でもでも、それって、その、み、見ちゃうってことだし……」
夏輝(楓)「ううっ(ぶるぶるっ)」
夏輝(楓)「ああっ、このままじゃっ……」
夏輝(楓)「でもでも、男の子の、お、その、……なんてわからないし……」
夏輝(楓)「うううっ(ぶるぶるぶるっ)」
きょろきょろ。
夏輝(楓)「も、もう、ダメっ!」

;黒背景
53シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 16:10:00.13 ID:sFwZvAYr0
;SE:ダダダダダーッ
ちょ、え? マジ? 正気?
;SE:バタン、ザー
うわああああああん〜〜〜〜っ!

;公園
夏輝(楓)「はぅ〜〜っ」
夏輝(楓)「しくしくしく……わたし……なんだか汚れちゃいました〜〜〜っ」
しくしく……俺もだよ。
夏輝(楓)「……ショックです……もうお嫁にいけません」
……俺も(ry
夏輝(楓)「あ……」
夏輝(楓)「せっかくだから、男の子のやりかたでやってみればよかったかなぁ」
……多くは語らんが色々問題あるんだぞ。支えたりとか。
ていうか、意外と立ち直り早いな楓。
夏輝(楓)「はぁ……これから、どうしようかなぁ」
そう、考えろ考えろ。
出きる事ならもっと早い段階でそう願いたかった。

あやめ「あら、夏輝じゃない」
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 16:17:19.21 ID:rPzlS+x20
何で保守スレ立てるの?
バカなの? 死ぬの?
55シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 16:28:00.14 ID:sFwZvAYr0
夏輝(楓)「あ、えっ……と、あやめさん?」
あやめ「うふふ、こんにちわ」
夏輝(楓)「こ、こんにちわ」
や、やばいぞおい……あやめ姉だけは誤魔化せる気がしねぇ。
適当に何とか言って退散しろ、楓。
あやめ「買い物に行ってきたのよ」
夏輝(楓)「え、はい」
あやめ「それでね、時々こうして帰りにここでおやつを食べて行くのよ」
夏輝(楓)「あ、そうなんですか」
あやめ「ももには内緒よ、ね?」
夏輝(楓)「あ、はい」
あやめ「夏輝も食べる? プリン」
夏輝(楓)「ぷいんっ!」
ぷいんってアンタ……しかも俺の声で。
あやめ「ふふっ、私プリン大好きなの」
夏輝(楓)「そうなんですか」
あやめ「ええ。はい、夏輝も食べるでしょ?」
夏輝(楓)「あ、わ、僕はちょっとお腹が……」
あやめ「そうなの? 具合悪いの?」
夏輝(楓)「あ、た、大した事は無いんですけど。……すみません」
56シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 16:40:00.18 ID:sFwZvAYr0
あやめ「そう? 本当に大丈夫?」
夏輝(楓)「はい」
あやめ「あら……?」
うわ、あやめ姉がじっと見てるぞ。
これは……やばい……かも。
夏輝(楓)「あの、な、何、か?」
あやめ「……」
夏輝(楓)「あのぅ」
あやめ「あなた……誰?」
こ、こええええええええっ!
まさに氷の視線が突き刺さるようだ。
夏輝(楓)「ひっ」
あやめ「答えなさい」
夏輝(楓)「(ガクガクブルブル)」
体がすくんで動けないのが伝わってくる。
まずい……
あやめ「……誰なの?」
夏輝(楓)「ひっ……なつきくぅん」
あやめ姉の目がすうっと細まり、俺を捕まえようと腕を伸ばす。
な、何されますか俺? 怖ぇよう、おかあーさーん。
57シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 16:49:00.21 ID:sFwZvAYr0
清理「はいはい、そこまでじゃ」
夏輝(楓)「清理さん!」
救いの神キター!!!!!!1
清理さんの後ろにいるのは……もも?
もも「どう、清理さん?」
清理「まぁ待て、いま視るでの」
あやめ「もも、どういうこと?」
もも「さっきお兄ちゃんと話したとき、様子がおかしかったからね。それで、清理さんを呼んできたんだよ」
清理「そういうわけでの、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、じゃ」
あやめ「……」
もも「なにそれ?」
清理「ちっちゃいお友達にはわかりにくかったかの?」
……。
清理さんは置いといてだな。
もも……お前は何て気が利く奴なんだ。ただのアホの子とは思えない。
しかし、常葉姉妹の野生の勘、恐るべし。伊達に狩りと漁で生活してないぜって事か。
こっちまで危うく狩られそうになったけど。
あやめ「それで、どうなんです?」
清理「うむ、そうじゃの。間違いなく憑いておるの」
あやめ「まぁ……」
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 17:00:50.37 ID:G8g1B8Nr0
応援してたけど保守ツール荒らしに成り下がったか……

残念だ。
59シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:01:00.10 ID:sFwZvAYr0
もも「はわわわ……」
夏輝(楓)「清理さぁん……」
やめれ、俺の身体でそんな声出すな。
清理「大丈夫じゃよ、ほれ」
;SE:パァン!
夏輝「あいてっ!」
夏輝「いってーな、清理さん!」
夏輝「……お? 喋れる!」
あやめ「夏輝!」
もも「お兄ちゃん!」
夏輝「悪かった、心配かけたな」
清理「わっちにかかればこの程度、楽勝じゃよ」
夏輝「ありがとう、清理さん」
清理「んむんむ」
あやめ「よかったわ」
もも「うん、心配したよ? お兄ちゃん」
夏輝「そかそか、ありがとな、もも」
もも「えへへ」
あ、そうだ楓は……?
;涙目
60シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:13:00.33 ID:sFwZvAYr0
楓「……」
……
楓「っ!」
夏輝「あっ! かえ、とっとっと」
危ない危ない。清理さんはともかく、二人には視えて無いんだったよな。
もも「?」
あやめ「どうしたの夏輝?」
夏輝「いや、なんでもない」
清理「夏輝どの」
夏輝「はい」
清理「疲れたであろ、家に帰って休んだ方が良いぞ」
夏輝「え、でも別に……」
清理「夏輝どの……」
ああ、そうか。
夏輝「わかりました」
自転車にまたがる。
夏輝「それじゃ、帰ります」
清理「んむ、しっかりとの」
夏輝「はい、しっかり休みます」
清理さんとアイコンタクト。
61シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:22:00.06 ID:sFwZvAYr0
夏輝「それじゃ、またねみんな」
あやめ「お大事にね」
もも「お大事に〜」
夏輝「うん、ありがと、みんな」
ペダルを踏み出す。最初はゆっくり。
皆が見えなくなるにつれて力いっぱい。
行き先は叙瑠樹じゃない。

;廃病院
楓「夏輝、くん……」
行き先はここ。楓と俺が出会った場所。
楓は……居た。
夏輝「楓」
;涙目
楓「(びくっ)」
楓「ご、ごめ、な、さ」
そうか、責められると思ってるのか。
違う、俺が言いたいのはそんな事じゃない。
夏輝「……楽しかったか?」
楓「!」
62シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:34:00.18 ID:sFwZvAYr0
夏輝「久しぶりだったんだろ?」
;泣き
楓「……はい」
夏輝「そか。アイス、んまかったか?」
楓「は……い、ひっく、お、う、うわあああああああん!」
夏輝「あー、よしよし」
楓「ひっく、アイス、すっご、くひっく、おいしく、て」
夏輝「うんうん」
楓「み、ふぐっ、みんな、わたしを、見て、うっく、お話してくれて」
夏輝「そうだな」
楓「ちゃ、ちゃん、うっく、と、ひぁ、目を、合わせてくれるんです」
夏輝「……」
楓「嬉しかった……嬉しかったよぉおおおおおおっ」
夏輝「……よかったな」
よかったな……なんて。
楓「うわあああああああん!」
胸が、痛い。
夏輝「よしよし」
何が良いものか。何一つ解決にもなっていないのに。
楓「えーっえっえっえっ、ふぐっ、ふわあああああああんっ!」
63シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:46:00.32 ID:sFwZvAYr0
自分がこの世の者で無い事を思い知らせただけなのに。
自分がどれ程孤独で、不自由で、認められていない存在なのか……。
でも、今この場で、他にどんな言葉がある?
俺はそれを知らない。
せめて今は、楓が泣き止むまで傍に居よう。
背中を撫でてやる事すら出来ないけれど。

;時間経過
楓「くすん……ひっく……」
夏輝「落ち着いたか?」
楓「はい」
夏輝「そか」
楓「えへっ、泣いちゃいました」
夏輝「いっつも泣いてる様に思うのは俺だけかな」
楓「ぶー、夏輝くんだけだと思います」
夏輝「ははは」
楓「夏輝くん」
夏輝「んぁ?」
楓「どうして、そんなに優しいんですか?」
夏輝「優しいかぁ?」
64シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 17:58:00.30 ID:sFwZvAYr0
楓「いっつも優しくしてくれます」
夏輝「う〜ん」
楓「どうしてですか?」
夏輝「さぁ、なんでだろうね?」
楓「……」
夏輝「あ、犬っぽいからかも」
楓「わたし、わんこじゃないですったらぁ」
夏輝「あはははははっ」
楓「くすっ」
夏輝「よし、笑ったな」
楓「ふふふっ」
夏輝「じゃ、ぼちぼち帰るわ」
楓「はい」
夏輝「またな」
楓「はい、また……」

; 楓アウト
夏輝「さて、帰るか……」
あれ? 何か忘れてるような……
夏輝「ああっ! 紗耶のお使いっ!!!!1」
65シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:07:00.13 ID:sFwZvAYr0
;叙瑠樹
紗耶「…………遅い」
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 18:08:20.44 ID:G8g1B8Nr0
聞く耳持たぬ……か……
67シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:16:00.34 ID:sFwZvAYr0
;楓シナリオ03:「思惟(しい)」
;rev 1.1

;イベント発生条件は、楓01、02が共に発生していること

;黒背景
……ぶるっ。
;夕暮れ海岸
夏輝「ぶえぇ〜〜〜っくしょいっ!」
夏輝「っとくらあっ、畜生ぉ〜っ!」
……
誰も、居ない、と。
夏輝「マジっすか……」
どっか、物陰から見てニヨニヨしてるとか……もないらしい。
夏輝「ひでぇ……傷付いたよ、俺のハートはボロ雑巾だよっ」
ふぅ。まぁいい。
これもお約束、俺の立ち位置と思えば納得も……
夏輝「いくかっ!」
どいつもこいつもオモチャにしやがって。
ちょっと俺泣いちゃうぜ?
68シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:25:00.04 ID:sFwZvAYr0
……
あ、泣くと言えば……、
夏輝「楓、来なかったな」
皆で遊んでるのに誘われてフラっとやってくるんじゃないかと思ってたんだが……。
もし、来たなら荷物番して寝てるとか理由つけて話し相手位はしたのにな。
夏輝「……よし」
ちょっともう時間としては遅いけど、今から呼ぶか。
誰も居ないから気兼ねも要らないしな。
夏輝「おーい、楓〜」
夏輝「一緒に夕日に向かって走ろうぜぇ〜?」
楓ならゼロ角度で太陽に向かって飛んで行けるな。
……紅白帽かぶったあの赤い超人に会ったらよろしく。
夏輝「お〜い」
……
来ないな。
夏輝「お〜い」
…………
来ない。忙しいのかな?
運動会の準備とかで。
それは妖怪。
69シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:34:00.19 ID:sFwZvAYr0
夏輝「ま、そういう日もあるさ。また今度な〜」
ちゃんと伝わるかはわからないが、一応、な?
さて。
せっかくだから俺はこの赤い夕日を見て帰るぜ。


……
………飽きた。
カッコいいモノローグで自分を盛り上げようと思ったけどなーんも浮かばねぇ。
どーせ俺はつまんない男だよ、ふんっ。

……そんなつまんない男の言葉で泣いてくれる奴が居るんだよな。

;回想ここから
;回想1
夏輝「……また、会いに行くからさ」
楓「はい」
夏輝「一緒にウロウロして」
楓「はい」
夏輝「いっぱい話して」
70シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:43:00.09 ID:sFwZvAYr0
楓「はいっ」
夏輝「きっと、見付けような」
何を? って言われると苦しいものがあるんだがな。
楓「(うりゅっ)」
夏輝「え、おいおい?」
楓「ごべんなさ、わた、うれし……うっく」
涙腺緩すぎっ!
夏輝「あぁ、もう泣くな泣くな」

;回想2
夏輝「……楽しかったか?」
楓「!」
夏輝「久しぶりだったんだろ?」
楓「……はい」
夏輝「そか。アイス、んまかったか?」
楓「は……い、ひっく、お、う、うわあああああああん!」
夏輝「あー、よしよし」
;回想終わり

夏輝「……」
71シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 18:52:00.33 ID:sFwZvAYr0
感情が簡単に振り切るというか……ものすっごく純粋なんだろうな。
いったい、どれほどの時間を孤独にすごしてきたんだろうか。
誰も見てくれない。
会話することすらできない。
何も触れることができない。
ただ、時間が過ぎ行くのを待つだけの、退屈な、まるで拷問のような毎日。
俺だったら、そんな退屈な日々はきっと耐え切れない。
そんなシンプルな日々を過ごしてきた楓。

;回想3
楓「み、ふぐっ、みんな、わたしを、見て、うっく、お話してくれて」
夏輝「そうだな」
楓「ちゃ、ちゃん、うっく、と、ひぁ、目を、合わせてくれるんです」
夏輝「……」
楓「嬉しかった……嬉しかったよぉおおおおおおっ」
;回想終わり

あんな、当たり前の事が泣くほど嬉しかったんだよな。
自分を視るんじゃなくて、見てくれる……たった、それだけの事が楓には高すぎる望みだなんて。
なんか、やりきれないよなぁ。
72シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:01:00.17 ID:sFwZvAYr0
……海、来たくても来れなかったのかもな。
俺や清理さんはともかく、皆には視えないんだもんな。
『愛の反対は憎悪でなく、無関心である』なんていうけど、楓はずっと周囲からその『無関心』を突きつけられている。
あんなにのほほんとした奴だけど、楓を取り囲む世界はとんでもなくキツいんじゃないか。
夏輝「……」
……俺に出切る事なんてたかがしれてるけど、
頭や背中を撫でてやる事すら出来ないけど、
何かしてやりたいなぁ。
何とかしてやりたいなぁ。
楓が笑えるように。
楓が寂しく無いように。
放っておけないって、思うよ。
夏輝「……帰るか」
また明日。
元気に会おうぜ。な、楓?
73シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:10:00.26 ID:sFwZvAYr0
;楓シナリオ04:「具現(ぐげん)」
;タイトルは丁度いい熟語があったら替えるかも
;rev 2

; 雨雲で暗くなった空
; 風の音
; 遠雷

; 叙瑠樹居間
夏輝「なぁ紗耶、自転車借りてくぞ」
紗耶「ちょっとアンタ、こんな天気に出かけるつもり?」
夏輝「ああ、ちょっとな」
紗耶「……」
;SE:チャリッ
紗耶「早く帰ってきなさいよ。台風が近くを通るらしいんだからねっ」
夏輝「わかってるって。集中かけとくから」
紗耶「ホントに気を付けなさいね? カンバンとか」
夏輝「閃きで回避する」
紗耶「木の枝とか」
夏輝「鉄壁で持ちこたえる」
74シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:19:00.04 ID:sFwZvAYr0
紗耶「屋根瓦とか」
夏輝「ド根性で立て直す」
紗耶「阿部さんとか」
夏輝「ゴッドシャドーを発動させる」
紗耶「アンタ真面目に聞いてんのっ?」
お前、絶対知ってるだろ。
オタクネタわかりませーんてスタンスはポーズだ、設定だ、そうに決まってる。
夏輝「大丈夫だって。じゃあな」
;SE:ガラピシャ

;叙瑠樹曇天
;風の音
夏輝「……風、強いな」
西の空に広がる黒い雲と、雨の匂いのする、重い風。
少し……急ぐか。

; 神社への道
; 曇天。強風。
夏輝「おーい、楓? 来たぞ〜」
……楓は来ない。
75シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:28:00.14 ID:sFwZvAYr0
とにかく神社まで行ってみるか。

; 神社
清理「──夏輝どのの所ではなかったのか?」
夏輝「いや、それが昨日から呼んでも現れないんですよね」
清理「なんと」
夏輝「なんか、嫌ぁーな予感がするんですよ」
清理「……虫の報せ、か?」
夏輝「そんな感じ……ですかね。こう、ずっと胸騒ぎが」
清理「ふむ……ま、心配要らんじゃろ」
夏輝「えっ?」
清理「夏輝どのがこうして無事で居るのが何よりの証拠じゃよ」
夏輝「……どういう事でしょうか?」
清理「鬼にたぶらかされたなら、まず夏輝どのに何か起こるはずじゃからの」
夏輝「いいっ?」
清理「四谷怪談しかり、安珍清姫しかり、源氏物語しかり……」
夏輝「あの、全部フィクションな上にどれも不実な男が呪われたって話ですよねそれ……」
清理「まぁ、それは冗談としてじゃな」
……。
それならそれでネタは選んで挙げて欲しいなーとか。
76シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:39:59.99 ID:sFwZvAYr0
清理「妙な事になっておるなら、わっちにもそう感じるはずじゃからの」
夏輝「そうなんですか?」
清理「深し浅しに関わらず、縁で繋がった者同士ならば、多少の差はあれど伝わるのが虫の報せというもの」
清理「まして、修行中の身なれど、わっちが見落とすことはありえんよ」
自信満々で言い切ってくれましたか。
夏輝「いや、でもですね……」
清理「楓とわっちに縁が繋がっていない、と?」
夏輝「いえ、そんな事は」
清理「わっちも出来る限り、楓の面倒を見ておるつもりじゃが」
清理「わっちも、見縊られたものじゃのぅ」
……そうだよな。
清理さんも楓の関係者じゃないか。
散々相談に乗ってもらっておいて何言ってんだ俺。
夏輝「……すいませんでした」
清理「うむ」
夏輝「……」
ちょっと心配で気持ちが空回ってたかもな。
頭を冷やそう。
ちょっとしたことでうろたえるの、カッコ悪いぞ、俺。
……でもなぁ。
77シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:49:00.13 ID:sFwZvAYr0
清理「まぁ、心配な気持ちもわからんではないしの」
夏輝「はい」
清理「ひとまずは、気が済むまで探してみるのも良かろうて」
夏輝「そうします」
清理「じゃが、もし、見付からなかった時は……」
夏輝「ど、どうすれば……?」
清理「……」
夏輝「……(ごくり)」
清理「しばらく放っておくんじゃ」
夏輝「ええっ?」
清理「年頃の女子(おなご)には一人で色々考えたい時もあるからの。現れぬとなれば、そういうことじゃろうよ」
夏輝「えっと、断定する根拠は?」
清理「そういうものなんじゃよ」
夏輝「はぁ……」
清理「もしや、疑うてか?」
夏輝「いやあの、そういう訳では」
清理「お主……わっちも年頃の女子(おなご)なのじゃが、よもや忘れてはおるまいな?」
夏輝「ふえっ? あっ、いやっ、いやいやいやいやっ、滅相も無いっ!」
むしろ、食べ頃どころの騒ぎじゃないおっぱいの持ち主と日頃から(ry
清理「ふん……それにまぁ、心当たりもあるような無いような、なのじゃよ」
78シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 19:58:00.26 ID:sFwZvAYr0
夏輝「?」
清理「ともかく、探すなら急いだ方が良いのではないかの?」
夏輝「あっ」
そうだ、今日の天気を考えれば……時間は限られてる。
夏輝「そうですね。じゃあ俺、行きますね」
清理「んむ、あまり遅くならぬ様にな」
夏輝「はい、それじゃ」
清理「あ、夏輝どの」
夏輝「はい?」
清理「……いや、良い。気を付けてな」
夏輝「わかりました」

;廃病院
夏輝「おーい、楓」
夏輝「居ないのかぁ〜?」
居るとしたらここだと思ったんだがなぁ。
……他、行ってみるか。

;海岸
夏輝「楓やぁ〜い……」
79シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 20:07:00.20 ID:sFwZvAYr0
居ない。
次だ、次。

;田舎道
夏輝「〜〜〜〜寒っ!」
真夏に自転車で走り回ってるのに寒い。
扇風機の前で寝たら凍死することもあるって話だしな。
こんな風の日じゃ、その比じゃないって事だろう。
とにかく、風に吹かれっ放しで、寒い。

;曇り空
うぉ、真っ暗。
夏輝「マジで時間、ないかもな……」
清理さんは大丈夫だって言ったけど、何か気になるんだよな。
なんだか、普段の楓の行動じゃないような違和感。
楓に会わなきゃいけない気がする。

;公園
夏輝「楓〜?」
……。
80シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 20:16:00.29 ID:sFwZvAYr0
もしかして俺、避けられてる?
夏輝「次、行くか……」

;商店街
夏輝「……」
ここには居ないだろうな。
あれ?
今、顔にポタっときた?

;港
夏輝「むぅ……」
とうとう降り始めてきたな。
時々パラパラと顔に落ちる雨粒が、段々大きくなってきてる。
オッサン「よう」
夏輝「あ、ども」
オッサン「こんな天気に何してんだ?」
夏輝「まぁ、ちょっと。そっちこそ何してるんですか?」
オッサン「ちょっと荒れるみたいだからな。モヤイのチェックさ」
夏輝「そうですか」
天気、かなり悪くなるんだな。
81シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 20:25:00.11 ID:sFwZvAYr0
オッサン「早く帰んな。紗耶ちゃん、心配するぜ?」
夏輝「はい」
時間はもうない。
でも、まだ、もうちょっとだけ。

;田舎道
;豪雨
夏輝「ぷぁあばばばばばばばっ!」
降りすぎっ! 前が見えねぇっ!
横殴りの雨が正面から容赦なく叩きつけてくる。
もう、足の先まで水浸し。
;風と叩きつける水音
夏輝「ぶはあっ! 畜生っ!」
これは、ちょっと、やばい、かも……

;廃病院
;めっちゃ雨
夏輝「ヒィ、ハァ、ハァ……ハァ」
夏輝「ちょ、ちょっと雨やどり……」
元・病院の玄関先に避難。……本当に死ぬかと思った。
82シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 20:34:00.44 ID:sFwZvAYr0
台風で死者とか行方不明とかありえなーいって思ってたけど、これは危ないよ、うん。
夏輝「……」
結局ここに戻ってきてしまったけど……やっぱりいないか。
ちょっと意地になって無理してみたんだがなぁ。
夏輝「はぁー、やれやれ」
;SE:ガチャ
夏輝「ん?」
ドアが……開いてる?
もたれて手をかけたドアノブが動いた。
夏輝「う〜む」
ま、せっかくだから入ってみるか。
ちなみに、別に赤くない。

;黒背景
;ドア音
夏輝「おじゃましまーす……」

;
; 暗転
;
83シナリオ ◆VJvkqYRWt. :2009/01/31(土) 20:43:00.09 ID:sFwZvAYr0

; 叙瑠樹 居間
紗耶「遅い」
紗耶「あんの、バカチンがぁ〜〜〜っ」
紗耶「……」
紗耶「あぁ、もうっ」
; 廊下
紗耶「……ええ、そうなんですよ……そう、自転車で」
紗耶「……わかりました、もう少し待ってみます」
紗耶「……はい、その時は連絡します。こんな日にゴメンなさい、あやめさん。……はい……はい、それじゃ」
; SE:ガチャン
紗耶「……」
紗耶「もう、ほんとにあのバカ──」
紗耶「そうだ!」
;ジーコロコロコロ……
……
紗耶「もしもし、清理さんですか?」

;
; 暗転
84シナリオ ◆VJvkqYRWt.
;

;黒背景 手抜きしよーw
夏輝「……見えない」
多分、ロビー……いや、待合室っていうのかな。
外が暗いのも手伝って、中は暗くてよくわからない。
正直、ちょっと不気味。
夏輝「単独で凸とか、まろゆきにも負けてないな俺」
夏輝「さぁ、盛り上がってきたぜ?」
……もう、何がしたいのかよくわからん。
夏輝「携帯使えたら凸レポスレ立てたのにな」
あいにく、島の何処に居てもアンテナ一本すら立たない訳で。
;ガタッ
夏輝「うぉっと! 足元注意っと……」
洋風の外観に違わず、土足で入れる作りなのは良心が咎めなくて助かるな。
ゆっくり、足元を確かめながら奥へと進む。
足は自然と比較的明るい方向を選択。
……チキンですよ、どうせ。
;廊下 こればっかりは用意するより仕方なし
夏輝「廊下……これは病室、か?」