【プレゼント】ローゼンメイデンが普通の女の子だったら【強奪】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
このスレはもしもローゼンメイデンが普通の女の子だったらという妄想を垂れ流すスレです

ローゼンメイデンが普通の女の子だったら @Wiki
ttp://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/

nのフィールド@休憩所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/7014/
携帯からは↓
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/7014/

前スレはどうなったの?なんて言う時は・・・・・
2ch RozenMaiden過去ログ倉庫
ttp://rozen-thread.org/

>>2-3あたりの<<スレのルール>>があぼーんされて読めない人はwiki内のテンプレを読んで下さい
ttp://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/26.html
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/24(水) 23:43:14.22 ID:+RqyLT/B0
<<スレのルール>>
●『「コテ」を付けての投稿/書込は禁止です』
 名前覧は空白もしくは投稿SSの題名で書込してください。これは「コテハン」を否定しているのでは無く、「コテ」による投稿/書込が荒れる原因になりやすい為です。

●『性的に過激な描写は禁止です』
 そのようなSSは別のスレ(エロパロ等)に投稿して下さい、現在性的描写のボーダーラインは少年誌レベルまでです。*少年誌レベルでもNGワードを付けるようにして下さい。

●『未来アンカーやリレー小説は禁止です』
 スレストの原因になったり投稿し辛い空気になり、スレの衰退を加速するのでやめましょう。

●『ローゼンメイデンの作品に登場しないキャラを使用するのはなるべく控えて下さい』
 他のキャラやオリジナルのキャラを使う場合は下記の項目を参照してNGワードを付ける等の配慮を御願いします。
 なお同年代の男性キャラを登場させる場合には【ベジータ】【笹塚】を使うのがスレの慣例となっています。*この二人を使う場合はNGワードは不要です、二人の性格等は@wikiや過去ログ参照の事。

●『以下の項目に該当するSSを投稿するときは冒頭に注意文を付けて下さい』(例「○○ネタだから注意」「○○系につき苦手ない人スルーよろ」)
 また「メール欄」に、あぼーん用の特定のNGワードを付記するなどの各自配慮をお願いします、特に<<NGワードは全てのレスに入れる必要がある>>ので注意して下さい。
○現在のNGネタは以下のとおり ( )内はNGワードです
 百合(yuriyuri) 死を扱う(sinineta) 男色(uhouho) グロテスクな表現(guroino) 性的描写を含む(biero)*少年誌レベル ネタバレ(netabare)*基本的にコミックになるまで 他作品のキャラを登場させる(hokakyara) オリジナルキャラを登場させる(orikyara)

<<スレのマナー>>
・スレ・作品と関係ない雑談は控え、気に入らない作品や書込並びに荒らし等は無視して下さい。相手をすれば自分も同罪です。
・長編でレスを大きくまたぐときや前スレからの続きはタイトルやあらすじ、アンカー等付けると読者に優しい職人になれる。
・まとめWikiはなるべく自分で編集しましょう。(簡単な説明の項目の通りである程度できます)
・携帯しか無い、wikiの操作方法がわからない等、どうしてもまとめられない方は>>1から行ける休憩所の「wiki掲載依頼スレ」で依頼して下さい。
・投稿時の「投下いいかな?」等の確認は不要です、また投稿終了後の「自分の投稿を卑下するような書込」も不要です。もっと自信持って投稿しよう!
・投稿/書込の前にはログの再取得を心がけて投稿/書込が被らないように注意しましょう。
・数レスに跨る投稿の場合は、メモ帳やテキストエディタ等で書き貯めてから投下するのが基本です。

●上記の他、>>1にリンクしてあるWikiの「簡単な注意事項」を読んだ上、分からない質問などは>>1のリンクから行ける休憩所で聞いて下さい。
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/24(水) 23:49:49.32 ID:GiZqnKG30
>>1おつー
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/24(水) 23:58:03.15 ID:bTKekM7g0
乙乙
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:05:07.54 ID:vbU4YSmp0
病室の一角
「泣かないで 淡い夢の在り処…」
つむがれる旋律が、部屋にかすかに広がる。
「天使さん」
声に反応するように、歌声は旋律を失った。
「その"天使さん"っていうの、やめない?」
旋律の代わりに帰ってきたのは、少しつれない発言。
その声に不快の要素は含まれていなかったが、最初に呼んだ少女は多少申し訳なさそうに答えた。
「じゃあ、なんて呼べばいいかしら?」

沈黙。ため息が一つ出ると、
「…やっぱりいいわ」
諦めの返答。疑問を呈した側は、答えを無視し、再び旋律を紡ぐ少女の首元にかかるペンダントに目線をやった。
「ねえ、前から思ってたのだけど」
「何よ」
ペンダントを少し持ち上げる。そこには少女と、もう一人。同い年くらいの男が写っていた。
「この人、いい人よね」
「な…」
顔を紅くする一方、どこか心此処に有らず、の少女。対照的な反応。
「また逢えるかしら?」
「明日出られるのでしょう?…わざわざ逢いに行く必要性があるかどうか」
「それでも、ね」
表情には笑顔。星明りが僅かに照らした顔からは、そう見えた。

「何処までも行ける…蒼穹の空を」
再び、音が奏でられた。
『羽ばたくままに運命を運ぼう』
それはやがて、二重の旋律となり―

†Angel song†
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:09:30.21 ID:SU66qTIQO
いちおつ!
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:22:49.26 ID:48pVb+UO0
くりすまほ
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:39:26.39 ID:BfE4T8VPO
>>1乙なのだわ
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:50:56.59 ID:LPtnhk5K0
クリスマス乙!!
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:51:57.33 ID:48pVb+UO0
【特装版】【無いのだわ】の>74-86の続きです。
投下します
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:52:03.63 ID:SU66qTIQO
み「はあ…世間はクリスマスだってのに…部長に怒られるわ作ったモノはボツになるわ…あーあ…私、なにやってるんだろ…」

み「上手くいかない時は本当に上手くいかない…そして周りが幸せなほどソレが辛いのよね…死にたくなる人の気持ち…解らないでもないわ…」

み「それでも私にはカナがいるから生きてられるけど…もし居なかったら…ははっ、どーだかね」
?「おねーさん、こんな所で何してるの?」
み「んー、何してるように見える?聞いたらビックリするわよ。なんと、何にもしてないのよ。可愛い少女さん」
?「えへへ、ありがとう」
み「そこだけ聞き取るとはいい耳してるわね…ま、いいんだけどさ」
?「ねー、コレは何?」
み「あ、これ?これは人形の服…の、なりそこない」
?「わっ…可愛い…」
み「でしょー!?そう思うでしょー!?なんだってあの部長はこんなスバラシイのをボツに…って何少女に愚痴ってるかな私は…」
?「すごーい…可愛いなー」
み「欲しければあげるわよ?」
?「ほんと!?やったー!!ありがとうサンタさん!私のお人形に着せてみる!じゃあね!!」
み「ん、さようなら可愛い少女さーん。…はあ、サンタさん、か。…サンタ…ねぇ。サンタ…ん。じゃあ貧乏なサンタさんは帰ってまたプレゼントを作るとしますか。うっし、やるぞー!負けんなサンタのみんなー!みんな一緒に頑張るぞー!!」

12サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:54:53.43 ID:48pVb+UO0
真っ赤な服に、胸元の緑リボン。ふわふわの付いた赤い帽子を被った真紅は……
とある民家の子供部屋の窓に張り付いていた。

「……まあ、子供を想う親なら、これ位はするでしょうね」
窓の端、目立たぬ場所に付けられた防犯装置を睨みながら呟く。
やがて真紅は、背中に担いだ大きな袋から取り出したキラキラ光る粉を……防犯装置へとふりかけた。

真紅がかけたのはオーバーテクノロジーの産物、全ての機械を一時的に停止させる特殊なジャマー。

防犯装置が無効化されたことを確認すると、彼女は懐からパーティーで使うような大きなクラッカーを取り出す。
そして、三角錐のそれを窓に向けると……ポン!と引っ張った。

見た目に反して随分と控えめな音を立てたクラッカーは別にパーティー用ではない。
その証拠に、クラッカーを向けられていた窓には……
スプーンですくわれたアイスクリームのように、真ん丸い穴が空いていた。

真紅はガラスに空いた穴から手を入れ、かかっていた鍵を外すと、音も無く部屋へと侵入する。
「……サンタさんが来てあげたわよ……」
起こす訳にはいかないので、小声で。それでも一応、そう挨拶をしておく事にした。
何故なら……そうしないと、強盗にしか見えない侵入方法だから。

真紅はベッドの上で毛布に包まっている少年の枕元に、そっと車の模型を置いてあげる。

「メリークリスマス、ジュン……」
小さな声でそう言い、少年の髪をそっと撫でて……
真紅はスカートを翻しながら、入ってきた時と同様、窓から外へと出た。

部屋の中に残ったのは、何も気付かず眠る少年と、ピカピカのミニカー。
あと……丸く切られた窓から吹き込む隙間風だけ。
 
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 00:54:55.54 ID:r9oe/lckO
>>11
クズの名前出すな
14サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:55:26.00 ID:48pVb+UO0
「さあ、次の子は誰かしら?」
真紅は楽しそうに言いながら自分専用のソリ……
オーバーテクノロジー満載の、バーニアで空を飛び、ミサイル等の武装を搭載し、人工知能を備え付け、
さらには全方位バリアーまで展開する最新式のソリの座席に腰掛けていた。

真紅の声に反応してサンタ支援AI・ホーリエが、世界中の子供の中から抽選を始める。
やがて、サンタから直接プレゼントを貰えるという幸運を手にした子供を、モニターに映し出した。

「こんどの子は……双子なのね」
真紅はモニターに移された二人の少女の姿を眺めながら期待に胸を膨らませる。
ま、実際には彼女の胸は限りなくまな板に近いのだが。


  ―※―※―※―※―


真紅は次にプレゼントを渡す相手の家へと向かい、ソリを走らせる。
あまりに高速で空を駆けるソリは、音速の壁を越え、周囲にソニックブームを巻き起こす!

これが地表スレスレなら、甚大な被害が予想される所だが……
あいにく彼女のソリは、成層圏ギリギリまで上昇している。
当然、オーバーテクノロジー満載のソリを阻むものは何も無く、彼女はまさに赤い彗星の如くに空を駆け抜けた。


やがて真紅の乗る最強のソリは高度を下げ……眼下には街の光が煌くのが見え始める。

「さあ!世界に夢を届けに行くわよ!」
彼女が声を上げると同時に、サンタ支援AI・ホーリエはソリを目標の家へと降下させ始めた。

 
15サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:55:49.24 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―


『柴崎時計店』と書かれた看板を掲げた、店舗も兼ねた家の前で、真紅は大きな袋を背負いながら立っていた。

「出来れば今度は、もう少しスマートに行きたいわね……」
そう呟きながら、真紅は袋の中に手を入れる。
そして、彼女が手に取ったのは……プッチンプリンみたいな物体。

真紅はパッケージを空け、お皿に……ではなく、家の鍵穴の上に垂直にプリンの容器を押し付ける。
そして……容器の底についていたプッチン部分を、プチっと折った。

  ◇ ◇ ◇

その時、鍵穴では!
プッチン部分のスイッチを押された事により、プリン型ナノマシン集合体は活動を始めた!
ナノマシン(プリン)は、その柔らかな特性を利用し、小さな鍵穴に滑り込み……内部で錠を回転させる!

  ◇ ◇ ◇

『カチッ』と鍵が開いた音を確認すると、真紅は音も無く柴崎家に進入し……静かに、子供部屋へと進みだす。

見るからに古い家屋ではあるが、彼女は誓って足音など立てていない。
にもかかわらず……

「かーじゅーきー?」
寝巻き姿のお年寄りが、何かの気配でも察したのか、何か呟きながら廊下に顔を覗かせた!
 
16サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:56:18.57 ID:48pVb+UO0
(いけない!見つかった!?)
真紅は咄嗟に、背負った袋に手を伸ばし……
西部劇のガンマンが尻尾を巻いて逃げ出しそうな素早さで、老人の顔目掛けてスプレーを吹きかけた!

すると……
見る見る内に、老人の目は焦点を失い虚ろなものになる。

「貴方は何も見てないのだわ。ただ、夜中に目を覚まして、キッチンへと水を飲みに行こうとしただけ」
真紅は、虚ろな目をした老人に、一言一言、言い聞かせるように呟く。
老人は焦点の定まらぬ視線のままコクコク頷くと……フラフラとキッチンへ向かい歩き出す。

「……これじゃあ、サンタと言うよりSF映画に出てくるスパイね……」
真紅は呆れ声で呟くと、謎の薬が入っているスプレー缶を、背負った袋の中に放り込んだ。


それからは、特にトラブルも無く、真紅は柴崎家の二階……子供部屋の前に辿り着く。
そして、静かにフスマを空け……仲良く並んで眠る双子の枕元まで到着した。

まるで寄り添うように眠る、可愛らしい姉妹。
その姿に頬を緩ませ、真紅は袋からキラキラに光る如雨露と鋏を取り出すと、そっと二人の枕元に置いた。

さあ、次の子供の所へ。
夢を配るサンタとしての仕事を無事に終えた真紅は、そう考え部屋から出ようとする。
と……
不意に、背後から声をかけられた。

「サンタなの……?」

真紅はピタリと立ち止まり、静かに振り返る。
見ると、双子の髪の短い方……確か、蒼星石という名前の子が、目元をこすりながらこちらを見ていた。
17サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:56:48.79 ID:48pVb+UO0
「……ええ、そうよ」
真紅は短く答えると……
あまり記憶に残らないように……残ったとしても、夢と勘違いするように、さっさと部屋から出ようとする。
だが、そんな彼女の背中に、蒼星石はさらに声をかけた。

「だったらお願いがあるんだ。……この鋏も返すから……聞いてもらえないかな……?」

真紅は蒼星石のあまりに本気な言葉に……諦めたようにため息を付き、振り返らざるを得なくなってしまった。
そんな少女サンタに対し、蒼星石は横に眠る自分の姉を見ながら語りだす。

「……翠星石にはさ、夢があるんだ。ただ……その夢が突拍子も無いもので……
 姉さんったら、『いつか鞄に乗って空を飛びたい』って言うんだよ。
 だから……鞄は無理でも……
 せめて、その……サンタさんのソリで空を……出来れば、僕も一緒に…駄目かな……?」

真紅はため息を付きながら、蒼星石の問いかけに答えます。
「……もし、貴方の願いを聞き入れたとしても……そこで見たものは全て夢だったとしか記憶されないわ。
 それが……厳しい事を言うようだけど、サンタの掟なの。それでも構わないの?」

真紅は力強く頷く蒼星石の姿に……仕方なく、この双子を空のドライブに連れて行くことにしました。
ただ、そこで最後の……そして最大の問題が一つ。

普通はサンタのソリと言えば、7匹のトナカイが居て不思議な力で空を飛ぶ物。それが、皆の共通見解。
だが、真紅のソリはといえば……
オーバーテクノロジー満載で、脅威の科学力で空を駆け抜け、ホーミングミサイルをぶっ放すようなシロモノ。

「……私のソリは……貴方が考えている物とは、少しだけ違うけれかもしれないわよ?」
真紅には、消え入りそうな声でそう告げるのが精一杯だった。

 
18サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:57:13.20 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―


蒼星石に起こされてすぐは、必死に妹の背中に捕まりながら震えているだけだった翠星石は……
目の前に立つ人物がサンタクロースだと知ると、途端に元気イッパイになっていた。

そして、科学を凌駕した科学を搭載したソリに乗ると……ついにテンションのメーターが振りきれた。

「凄いですぅ!最高ですぅ!」

音速を突破して空を突き抜けるソリの座席で、満面の笑みではしゃいでいる。
ちなみに、翠星石とは真紅を挟んで逆側に座る蒼星石は……先程から視線を泳がせっぱなしだ。

「流石はサンタクロースですぅ!こんな凄いマシンに乗ってるなんて、大したもんですよ!」
「……う…うん……サンタさん(?)の……ソリ(?)は凄いね……」

当のサンタクロース……真紅はと言うと……
何となくだが、蒼星石の言わんとしている事が分かる気がして……引き攣った愛想笑いを浮べるだけ。

翠星石は、そんな二人の事は気にする様子も無く、小さな手をうんっと伸ばして正面のパネルをつつきだした。

「勝手に触ったら危ないのだわ」
真紅はそう言い、悪戯好きな子供をたしなめるが……翠星石は不満そう。
そんな頬を膨らませた翠星石に免じて……真紅もちょっとだけ、サービスをしてやる事にした。

「ホーリエ。そうね……何でもいいわ。
 何かこの子達を楽しませる事が出来そうな物があれば、見せてあげなさい」
 
19サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:57:49.54 ID:48pVb+UO0

真紅の声に反応し、パネルは赤い点滅を繰り返す。
やがて……サンタ支援AI・ホーリエは、自らが最適と判断した行動を開始する。

『ウィィィン』と音を立て、ソリの前方が開き……そこから数メートルはありそうな長い筒がせり出てくる。
そして……パネルの点滅が徐々に早くなり……全てをなぎ払う、灼熱のメガ粒子砲が火を噴いた!

「………」
「………」
「おお!凄いですぅ!!」

成層圏ギリギリまで高度を上げていた為、メガ粒子砲は宇宙に一本の光の柱を描いただけなのだが……
ただ一人を除いては、とても沈痛な雰囲気が周囲を包んでいた……。


  ―※―※―※―※―


翠星石と蒼星石の二人を家まで送り、先述のスプレーを二人に吹きかけた真紅は……
ソリの座席に座りながら、まだ一言も発してなかった。

目の前に映し出されるパネルでは、サンタ支援AI・ホーリエがチカチカ瞬きながら彼女の指示を待っている。
やがて真紅は……バン!と両手でパネルの両端を掴みながら、彼女にしては珍しく大きな声を上げた。

「ホーリエ!貴方、何を考えているの!?本気で子供がメガ粒子砲を見て喜ぶだなんて思ったの!?」
 
20サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:58:13.38 ID:48pVb+UO0

主人であるサンタクロースに怒られ、支援AI・ホーリエは申し訳無さそうにチカチカ光る。
真紅はそれを見て、長いため息をつき……
それから、子をあやす親のような慈愛に満ちた目で、再びパネルに話しかけた。

「サンタの目的はね、子供達に夢を配る事なの。
 そして、貴方の使命は、そのサンタをサポートする事。決して戦闘が目的ではないのだわ」

支援AI・ホーリエは、理解したとでも言いたげにピカピカとパネルを光らせる。

「……良い子ね。
 さあ!次の子供が待つ町に……!」

真紅がそう言い、マニピュレータ内蔵の手綱を握り締めた瞬間。
『くぅ…』と切ない音を、彼女のお腹は鳴らした。

よく考えれば、ずっとサンタ活動に夢中になっていたので、ご飯を食べてない。

「……その前に屋敷に戻って、軽く食事でもとりましょうか」
お腹の音で寝ている子供を起こしてしまうなんて事は想像するのも恐ろしく……それに空腹では元気も出ない。
真紅は指令を変更すると、自らの屋敷の有る極地目指してソリを発進させた。

ソリは流星より速く空を駆ける。
その速度は、地球に存在するどんな物より速く……真紅はあっという間に、様々な国境を飛び越えていった。

やがて進む内に……ソリは彼女の屋敷の近くにある国の領空へと入っていく。
そこで真紅は思い出した。

行きしなに、この国の空軍に出くわした事。
無事に巻いたは良いが……また捕捉されてしまっては面倒だ。
21サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:58:41.03 ID:48pVb+UO0

支援AI・ホーリエに指示を出し、真紅はレーダーに捕らわれないよう高度をギリギリまで下げ……
地上に被害が出ないよう、速度もゆっくりしたものにする。

「たまにはこうして、観光気分で空を飛ぶのも悪くないわね……」
眼下に広がる豊かな森を眺めながら、夜空をソリでドライブ気分。

だが……そんな穏やかな状況も、長くは続かなかった。

『こちらファーザー1、国境を越えてきた敵機を肉眼で補足』
突然傍受した通信。
真紅が弾かれたように視線を上げると……

『こちらドール1。例の未確認飛行物体と確認いたしましたわ』
『……ドール2………同じ……』

並んで飛ぶ、白と薄紫の戦闘機。そして……それよりさらに高度を上げた先に、金色のカラーリングの機体。

「また軍隊?……全く、ついてないわね」
真紅は呆れたように呟きながら、さっさとご退場願うために手綱を握り直すが……
高度をギリギリまで下げていたのが災いした。

こんなに地表に近くては、急加速の際の衝撃波が大地をなぎ払ってしまう。
例え人里離れた森林地帯とはいえ……そこに住む数十、数百の小さな生命を奪う事になりかねない。
 
22サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:59:09.01 ID:48pVb+UO0

真紅が迷っている間にも、彼女を敵国の手の者かと思っている三機の戦闘機は攻撃を開始する!
ソリの性能なら、全速でなくとも避けられる攻撃だが……
目標を外した弾丸が地面を抉る事を考えると回避も出来ない。

「ホーリエ!全方位バリアー展開!」
真紅はそう指示を出すと……降り注ぐ全ての攻撃の全てを、全神経を集中させながら見切り……自ら当たりに行く!
弾丸とミサイルの雨は容赦無くサンタを乗せたソリへと降り注ぐ!

バリアーのお陰で、衝撃こそ伝わるもがソリはダメージを受けない。
だが……こんな無茶な事をしていては……いくらオーバーテクノロジーの産物とはいえ、長くは持たない。

「……どうすれば……」
自らの命か、森に住む幾百の命か。
真紅は豪雨のような爆撃を受けながら、選択を迫られる。

そして……

だが、その選択を下したのは、彼女ではなかった。

 
23サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:59:24.50 ID:48pVb+UO0

サンタ支援AI・ホーリエは、一瞬、何かを伝えるようにパネルを光らせると……
大きくソリ全体を震わせ、真紅を振り落とした!

「!!……ホーリエ!?」
空へと投げ出された真紅は、その手をソリへと伸ばすが……届かない。

「何をするの!?答えなさい!ホーリエ!」
必死に伸ばした手の、指と指の隙間から滑り落ちるように、ソリは遠ざかる。
「まさか……そんな……止めなさい!今すぐ私の所に戻りなさい!」
どんなに叫んでも、どんなに手を伸ばしても……支援AI・ホーリエは何も答えようとしない。

やがて、背負った袋からパラシュートが自動で開くと……真紅は重力に引かれるまま、森の中へと降り立った。

「ホーリエ!貴方の役目は……この真紅を支える事でしょう!なのに……!」
真紅は叫びながら、パラシュートの紐を外し、森の外へと走る。

そして森林を抜け、彼女が見たのは……
全身にミサイルを浴び、空中で破片も残さず爆発するソリと……閃光を放ち消え行く支援AI・ホーリエだった。

 
24サンタが行く!!:2008/12/25(木) 00:59:40.05 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―


三機の機体が空軍基地へと着陸する。
そして、その内の一機……黄金の機体から、一人の男が地面に降り立った。

同じように搭乗機から降りた二人の女性に、彼は歩み寄る。
「素晴らしい腕前だった、薔薇水晶。それに雪華綺晶も……」
「……はい……お父様……」
「我が国最高のパイロット・槐少佐に褒めていただけるだなんて、光栄ですわ」

互いの労をねぎらう言葉の後……
彼は数メートル離れた位置でこちらを見つめる、一人の眼鏡をかけた男へと足を向けた。

「……しかしどういう事だ、白崎……あれは本当に敵だったのか?あれは……あの姿は……まるで……」
整った顔に迷いの表情を浮べながら、槐は口を開く。

だが……白崎は指を一本立てその言葉を遮ると……
口の端に笑みを浮べ、小さな声で笑いながら答えた。

「クククッ……ええ、もちろん敵ですよ。『我々にとって』ね……」




 
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 01:01:06.93 ID:48pVb+UO0
投下終了です。

>>11
夢を追うみっさんは素敵な女性
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 01:02:04.61 ID:48pVb+UO0
保守
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 01:05:25.49 ID:BfE4T8VPO
>>25
乙です
ホーリエ……
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 01:27:17.83 ID:SU66qTIQO
>>25
おやおや、これはまたただ事ではないご様子。しかし負けるな真紅サンタ!サンタの半分は夢と希望で出来てます。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 01:53:22.46 ID:LPtnhk5K0
寝る前保守!!
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 02:20:04.41 ID:SU66qTIQO
保守
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 02:56:18.64 ID:BfE4T8VPO
寝るほ
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 03:34:12.75 ID:slvDyLJc0
ジ「……」
巴「……」
ジ「……」
巴「……メリークリスマス」
ジ「……!め、メリークリヅマf…スマス!」
巴「クスッ」
ジ「わ、笑うなよ……」
巴「だって……ふふ、照れなくていいのに」
ジ「べ、別に照れてるわけじゃ……!」
巴「クスクス」
ジ「うぅ〜……何も、サンタコスなんてしなくても……」
巴「雛苺に借りたの。このほうが盛り上がるでしょう。雛苺も喜ぶし」
ジ「……それはいいけどさ、なんでズボン履いてないんだよ……超ミニスカ状態……
  ってクソ、こんな反応したら柏葉の思う壺なんだよなぁ……!」
巴「え?このコスチューム、ズボンなんてないよ?」
ジ「いや、あるだろ」
巴「なかったわ」
ジ「あるって。ってゆーか、それずっと前に僕が作ったやつだし」
巴「え……で、でも、雛苺はこれだけしか……」
ジ「……なるほど。……嵌められたな」
巴「あ……じゃあ……私……」
ジ「うん、まぁ……」
巴「……」
ジ「……」
巴「……ダダダダダッ」
ジ「どこへ行く!?」


巴「@くぉ@pくぉfこpあおkfqmvqkjkpq;んvjk!!?」ブンブン
雛「気付いちゃったのね、怒っちゃいやなのよ。……でも、気付いてないときは平気だったのに……」
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 03:49:52.12 ID:iUXtgkD70
どんどん増えるトモエメイデン

保守age
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 03:54:30.36 ID:iUXtgkD70
眠い、他に保守してくれるやつはおらんのかー
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 04:01:21.97 ID:48pVb+UO0
っしゃぁ!俺も保守だ!
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 04:32:45.23 ID:iUXtgkD70
サンクス!
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 05:35:38.98 ID:48pVb+UO0
保守
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 05:50:14.48 ID:iUXtgkD70
保守
もう寝るかな
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 06:04:39.94 ID:iUXtgkD70
やっぱり寝てないおれ保守
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 06:55:44.52 ID:BfE4T8VPO
おは保守
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 08:39:33.23 ID:qFBbmgh9O
あさほ
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 10:26:58.64 ID:kvzj2qDmO
ほしゅ
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 11:32:25.91 ID:SU66qTIQO
保守ですわ
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 11:32:27.49 ID:BfE4T8VPO
保守
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 12:45:23.00 ID:p623L2a0O
保守
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 13:51:18.31 ID:BfE4T8VPO
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 14:39:22.14 ID:IWSksjOrO
保守
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 15:44:17.36 ID:phm4poeNO
ほしゅ
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:24:44.88 ID:LPtnhk5K0
ほし
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:41:07.24 ID:SU66qTIQO
め「ふふふ…今夜はクリスマスパーティー…今日の為に練ってきた計画を遂に実行する時が来たわ…!」

め「この通販で買った『シビレ〜〜〜ルZ』…これを私が持っていく予定のタルトにかけて…うふふふふ…さあ水銀燈…今夜は2人だけのクリームのようにあま〜い夜にしましょうね…」

め「ただ問題は全員まとめて痺れさせないといけないから効果が出るのにタイムラグが必要ってことね。その間に誰かが異変に気付かないといいけれど…そう言えばこの薬って味とかするのかしら?」

め「ペロッ…これは!青酸カリ!…うん、大丈夫そうね。よーしっ!聖夜は国が認めたハッテン日!今夜はハッスルしちゃうぞー!!」


翠「Merry Christmasですぅー!!」
ジ「これで大体集まったか…あれ?水銀燈、めぐはどうした?」
め「なんかねぇ、自宅で倒れて動けなくなってたから救急車で運ばれたらしいのよぉ。食中毒かしらねぇ?」
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 16:57:53.53 ID:p623L2a0O
>>50【味見は】【死の香り】
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 17:34:27.16 ID:kvzj2qDmO
舐めるなwww

最後水銀燈のセリフが
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:06:14.35 ID:nnUV6fNEO
ほし
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:14:15.28 ID:SU66qTIQO
部屋でアンニュイ聞きつつケンタッキーをかじりながら保守
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 18:48:19.77 ID:phm4poeNO
ほしゅ
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:22:58.15 ID:kvzj2qDmO
ほしゅ
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 19:32:09.52 ID:LPtnhk5K0
保守
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:04:20.58 ID:p623L2a0O
まあ、めぐにしろ、桃種先生にしろ、
早く退院して欲しいものである。
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:06:06.92 ID:SU66qTIQO
佐「病院に休日はないの。クリスマスだろうがお正月だろうが、私は苦しんでいる人の側で働くのよ」
め(外のカップルを睨み付けながらじゃなかったらカッコもついたんだけどなぁ)
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:41:16.42 ID:SU66qTIQO
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:45:02.39 ID:48pVb+UO0
保守
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 20:46:27.42 ID:48pVb+UO0
>12-24の続き、投下します
63真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:47:42.19 ID:48pVb+UO0
「……駄目……いけない……待ちなさい…………待って!ホーリエ!」
真紅は自分の声で夢から覚めた。
周囲を見渡し、いつの間にか自分が屋敷の自室のベッドまで戻っている事に気が付く。

「確か……私は……」
屋敷に戻る途中で、サンタのソリを敵機と勘違いした戦闘機に襲われ……
ソリに搭載されていた支援AI・ホーリエによって、無理やり脱出させられ……そして……

徐々にハッキリしていく記憶。
深い悲しみで心が締め付けられる感覚。

真紅は布団を強く握り締めながら……自らを盾にして空に散った大切な相棒を悼んだ。
暫く、彼女はベットから降りず、ただ一人で沈黙を貫いていた。

そして……

「起きてるかい、真紅……」
ノックの音と共に彼女の父が部屋に入ってくる。
いつもと同じように、背中から強力なライトを照らし、顔をぼやけさせた父が。

「お父様……ごめんなさい……お父様から頂いた大切なソリを……私は……」
「こちらも急いで駆けつけたのだが……間に合わなくってすまなかった」

たったそれだけの短い親子の会話が交わされた後、再び部屋の中には沈黙が舞い降りる。

真紅は暫く目を瞑り……そして、父に向けていた視線を窓の外へと向けた。
夕日が沈み始め、空は赤く染まり始めている。
 
64真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:48:14.32 ID:48pVb+UO0
「……お父様……今日はいつですか?」
真紅は窓の外を眺めながら、小さな声で尋ねる。
「25日だ。もうすぐ……クリスマスも終わってしまう……」
先代のサンタクロースでもあった彼女の父は、寂しそうな声で娘にそう答える。

だが、真紅は父の言葉を聞いた後……ベットから降り、部屋の外へと向かおうとした。

「……どこに行くんだい、真紅」
「お父様……クリスマスはまだ終わってはいません。
 それなら……例えソリは無くとも……私はサンタクロースとして最後まで……」

そう言い、父の横をすり抜けて部屋の外に出ようとした真紅の肩に、不意に手がぽんっと置かれた。


  ―※―※―※―※―


数多くのソリが……初代サンタクロースが使った不思議なソリから、科学の粋を集めたソリまで。
その全てが陳列されている屋敷の地下室で、真紅は父の後に続き歩いていた。

「お父様……ここは……」

真紅が何かを言おうとするが、父は振り向かず歩き続ける。
そして、自らが使っていたソリ……ステルス戦闘機型のソリの隣。
大きな布を被せてある、2メートル程の山の前で立ち止まった。

「ひょっとして……新しいソリを?」
真紅は父の横に並び、小さな山を見つめる。
だが……父は静かに首を横に振ると、真紅の頭を撫でながら口を開いた。
 
65真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:48:33.93 ID:48pVb+UO0

「サンタクロースに必要なのはソリだけかな?もう一つ……忘れてはいけないものがあるんじゃないのかな?」

真紅は、相変わらずライトの光で顔はよく見えないが、それでも楽しそうに微笑んでいる父の手を離れ……
一歩足を進め、何かを覆っていた大きな布をはがし取った。

「こ…これは……!」
彼女の目の前に現れたのは、未知の金属で覆われ、巨大な角を持ち、見るものを圧倒するトナカイ型ロボット。
見るとその鼻は赤くチカチカと点灯している。
「赤鼻のトナカイ……まさか!」

真紅は赤く光るトナカイの鼻へと手を伸ばす。
背後からは、父の声が聞こえてくる。

「……最後の瞬間にホーリエは自分のバックアップを僕に届けてたんだ。
 本当なら来年のクリスマス用にと思ってたから、無骨なデザインのままだけどね」

「ホーリエ!貴方、無事だったのね!」
真紅は金属製のトナカイの首に飛び付き、思わずそう叫ぶ。
サンタ支援AI・ホーリエも、主人の無事と再会を喜ぶように、トナカイの鼻でピカピカ赤く光らせた。

真紅は、真新しい赤の上着に腕を通す。胸元で緑色のリボンを結ぶ。ふわふわの付いた帽子をきゅっと被る。
そして自らの相棒、支援AI・ホーリエが搭載された機械のトナカイにまたがると……叫んだ。

「さあ!世界に……子供達に夢を届けに行くわよ!

声を受け、トナカイに内蔵された二基の縮退炉が稼動を始める。
あふれ出んばかりのエネルギーは、角の先端からもパチパチと電気となり弾ける。
主人の命を受けた支援AI・ホーリエが全方位バリアーを周囲に展開される。
そして……ヒヅメ型の噴射口から炎が迸り、トナカイは垂直飛行を開始する!
66真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:48:56.14 ID:48pVb+UO0

「遅れた分を取り戻さないといけないわね……急ぐわよ!」
その言葉と同時に、トナカイロボは雷光が如くの勢いで銀世界の空へと飛び立った。



  ―※―※―※―※―



所変わり、極地に近い場所に存在するとある国家の駐屯所。
戦闘機のパイロットである槐は、自らの娘とその友人を前に難しい表情をしていた。

「薔薇水晶……僕達が撃墜したあの謎の飛行物体。あれは……何だと思う?」
「…………」
彼の問いかけに、薔薇水晶は答える言葉を持たない。

「雪華綺晶、賢い君のことだ。あれが何なのか分かってるんじゃないのか?」
槐は質問の相手を、今度は娘からその友人へと変える。

だが……雪華綺晶は少し微笑みながら答えをはぐらかすだけだった。
「さあ?私にも知らない事はありますわ。でも……あれの正体は、きっと貴方が考える通りなのでしょう」

「僕の?」
槐は小さな声で、何かを考え込むように呟く。
(僕の考えている通りだとすれば……あれは……間違いなく、本物の……)
だが……
彼がそれ以上思索に耽る時間は無かった。
 
67真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:49:22.62 ID:48pVb+UO0

けたたましく鳴るサイレン。
何者かが国境を違法に越えて来たことを知らせる放送。
白崎がわざとらしく困った表情を作りながら、出撃を要請してくる。

「二度目だ。何か……確信に至るような証拠でも掴んでみせないとな……」
槐は呟きながら、自らの戦闘機に搭乗する。
隣の滑走路では、薄紫色のカラーリングが施された戦闘機に乗る薔薇水晶と、純白の機体に乗り込んだ雪華綺晶。
僕と彼女達なら、どんな相手でも……例え伝説のサンタクロースでも、捕らえてみせるだろう。

槐は少し複雑そうな表情を浮べた後……離陸の準備へと移った。



  ―※―※―※―※―



真紅は前回の教訓を生かし、トナカイの高度を上げて空を飛ぶ。
これでは当然のように見つかってしまうと支援AI・ホーリエも警告するが……
「彼らはサンタを撃墜したのよ?お仕置きが必要なのだわ!」
そう言い真紅は一歩も譲らない。

やがてトナカイロボは、真っ赤な鼻をピカピカさせながら、主人である少女に敵の襲来を知らせる。
空飛ぶトナカイの背に乗りながら、真紅も遥か遠くへ視線を向ける。

そして……特徴的なカラーリングのなされた三機の戦闘機が、編隊を組みながらこちらに向かってくるのが見えた。
 
68真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:49:43.07 ID:48pVb+UO0

「ホーリエ!今回は手加減抜きよ!かといって、ミサイルもメガ粒子砲も無しよ!」
真紅はトナカイの首にしがみ付きながら、自らが考えた作戦を支援AI・ホーリエへと伝える。
「出来ない?何を言ってるの?貴方それでも、この真紅の家来なの?いいからやってみなさい!」
支援AI・ホーリエは、困ったように鼻を光らせるが……やがて意を決したのか、動き出した。

今までとは全く異なり、攻撃が当たらないどころか肉眼で動きを追えない次元まで達した、真紅達の動き。

それを見せ付けられ、驚いている一機……薄紫の戦闘機の翼に、トナカイは『ゴー!ガシャン!』と取り付く。
そして、真紅はトナカイから降り、飛んでいる飛行機の翼の上を歩き……
背負った大きな袋から取り出したステッキを操縦席の上部を覆うガラスの根元に突き刺す。
よいしょ、とテコの原理で上蓋を外し……真紅は呆然とこちらを見る、眼帯をつけたパイロットへ話しかけた。

「ええっと……確か薔薇水晶ちゃんね……『ちゃん』付けされるには、ちょっと大きいけど。
 本当なら、子供にしかプレゼントはしないのだけど、特別に貴方にはこれをあげるわ」
そう言い、目をパチクリさせている薔薇水晶に、袋から取り出した大きなぬいぐるみを真紅は渡す。

そして……

「落とさないよう、しっかり持ってなさい」
そう言うとステッキの先で、操縦席の中に備えられている『緊急脱出』のボタンをポチっと押した。

大きなぬいぐるみを抱きしめながら、座席ごと空高くまで打ち上げられる薔薇水晶。
パラシュートでゆっくり降りていく彼女の姿を眺めながら……真紅は微笑んでトナカイの背中へとよじ登る。

「さあ、残るはあと二人ね」

 
69真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:50:09.93 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―
 

幸せそうな表情でぬいぐるみを抱きしめながら、いきなり脱出装置を使った薔薇水晶。
「え?私にプレゼントを?まあ!こんなに沢山?本当にですか?ふふふ……………………え?」
との通信を最後に、苺の乗った巨大なホールケーキを抱えて脱出した雪華綺晶。

その光景をただ呆然と見つめていた槐は……声を震わせながら、小さな声で呟いた。

「まさか……あの少女は本物のサンタクロースだというのか……?」

いや、本当は心のどこかで確信していたのかもしれない。
だが……最早完全な大人である彼には……サンタの存在をそう簡単には信じ切れなかった。

「愛する娘の仇……刺し違えても貰い受ける……!」
薔薇水晶はちょうど、地上でぬいぐるみを片手に空戦を見つめているのだが……勢いづけるため、槐は叫ぶ。
そして、両翼に備えられたミサイルの発射ボタンを押し……
放たれたミサイルが、トナカイとその背に乗る少女に当たるかと言う瞬間!

不意にトナカイも、少女も、姿を消した!

槐は目を見開き……そして、パイロットとして一流以上の腕を持つ彼の動体視力は、空に漂う『それ』を見た。
「ホログラム発生装置……いや……飛び出す絵本だと!?」

騙されて立体映像を追いかけていた事に気付き、槐は今更ながらもレーダーと肉眼、全てを使い周囲を探る。
だが……空を飛ぶ物は自分以外に何も無い。
 
70真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:50:34.17 ID:48pVb+UO0

そんな訳は無い。どこかに居るはずだ。
槐は諦めずに周囲の索敵を続け……その時、戦闘機の無線に何者かが割り込んできた。

『本当なら、貴方にもプレゼントをと思ったのだけど……必要なさそうね。
 だって貴方には、あんなに可愛らしい娘が居るんですもの。
 子供の幸せな笑顔。これ以上に素敵なものは、どこにも……サンタの袋の中にすら存在しないわ。
 ……娘さんの笑顔を守るためにも、もう引き返しなさい』

槐はその通信を聞き……深いため息を付くと、操縦席の足元にヘルメットを投げ捨てた。
無性に外の新鮮な空気が吸いたい。無性に薔薇水晶を抱きしめてやりたい。
そう思い、彼は空へと視線を向ける。

彼が見たのは、月明かりを背景に長い一本の線を引きながら空を突き抜けるトナカイと、その背に乗る少女。

幻想的に舞い上がる奇跡の赤。サンタクロース。
「……美しい……」
無意識の呟きが、槐の口から漏れた。



  ―※―※―※―※―


 
71真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:51:08.68 ID:48pVb+UO0

「ふふ……少し遊びすぎたわね」
真紅は音速の壁をぶち破って飛ぶトナカイロボの背中で、楽しそうな笑みを浮べていた。

それから、すっと息を吸い込み……気分を真面目なものに入れ替える。

「これ以上はゆっくりしていられないわ!
 ホーリエ!ワープよ!……出来ない?そうね。流石にワープは無理があったわね」
真紅は握っていた手綱から手を放し、トナカイの首にしがみ付く。
「それなら、めいっぱい飛ばしなさい。でも……私を振り落としたりしたら、次こそは容赦しないわよ?」

トナカイは鼻をピカピカ赤く光らせると、音も…空気も…全てを遥か後方へと置き去りにする速さで空を駆ける!

やがて見え始めた街の明かりへと、一人と一機は吸い込まれるように消えていった。


  ―※―※―※―※―


「白崎……あの飛行物体はサンタクロースだ。僕達の敵になるような存在ではないよ」
薔薇水晶と雪華綺晶を連れ、基地へと帰還した槐は……
数多くのモニターの置かれたコントロールルームで、白崎と向かい合っていた。

「ほう、サンタ?これは奇妙な事をおっしゃる。
 サンタの存在という夢が現実なら、今こうして話しているのも、あるいは夢なのでしょうか。クックック……」
白崎はおどけたように両手を広げ、何が楽しいのか自身の言葉で肩を震わせる。

「言葉遊びをしている訳じゃない。彼女は本物のサンタクロースだ」
ふざけた態度で接してくる白崎に槐は苛立ちを感じながらも、それでも落ち着いた声で伝える。
 
72真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:51:25.92 ID:48pVb+UO0

だが……
小さく笑っていた白崎は不意に笑いを止めると……小さな声で呟きだした。
「サンタ。聖なる夜。クリスマス。………トリビァル!
 商業主義に踊らされ、まるで三月兎のように人は踊り狂う。
 これほど滑稽な芝居はありません!」
白崎の声は、終わりへ近づくほど大きく……そして狂気を帯び始める。

「……サンタクロースと知っていて、僕達に攻撃させたのか」
「おや?何か問題でも?サンタを撃墜した男。その称号には素晴らしい価値があるのです」
槐が何を言っても、白崎は役者のように両手を広げたまま戯言を続ける。

狂気に支配され、変わってしまった友人へと、槐は再び言葉を投げかけようとするが……
その時、二人の間に雪華綺晶が歩み出た。

「……可哀想。
 貴方が本当に憎くって殺したかったのは、サンタではなくクリスマスそのもの。
 でも……貴方の心は、本当は誰よりクリスマスに期待を寄せていた……」

雪華綺晶は白崎の目を真っ直ぐに見つめたまま、さらに言葉を紡ぐ。
「期待と絶望……夢と現実を何度も…何年もグルグルと繰り返して……貴方の心は歪んでしまった」


いつの間にかその表情から笑みを消した白崎は、雪華綺晶の言葉に耳を傾けていた。
そして……
「ほう。……しかし、それならまだ間に合うかもしれません。
 どうでしょう、美しいお嬢さん。私とダンスでも……」
その口の端に再び笑みを浮べると、自らの前に立つ雪華綺晶へと片手を差し出す。

 
73真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:52:18.20 ID:48pVb+UO0
その瞬間!
終始無言を貫いていた薔薇水晶は「……ざざむし」と呟きながら槐の背にしがみ付いた!
短めのスカートをはいている雪華綺晶は、もの凄く嫌そうな顔をしながらフトモモを両手で隠した!


言葉より露骨な態度で「NO!」と伝えられた白崎(ザザムシ)は……
目元を隠すように、片手で眼鏡を上げ……諦めと悲しみの混じった声で呟く。

「やはり……クリスマスなどという滑稽な茶番劇では……爆破オチが無難かと……」

その言葉の意味を計りかねた三人は、一瞬反応が遅れる。
その隙に……白崎は世界に破滅の炎を広げるスイッチへと手を伸ばしていた。



  ―※―※―※―※―



ベッドの上でスヤスヤ眠り、地震が来ても置きそうにない女の子の枕元に、真紅は苺詰め合わせを置いた。

「……小さな苺を欲しがるなんて、随分と独創的な子ね」
そう言い、相変わらず眠ったままのオディールの髪の毛をそっと撫でる。

そして真紅は入ってきた時と同様、窓から外へと抜け出し……
ヒヅメのバーニアで垂直飛行していたトナカイの背中に飛び乗った。

懐から時計を取り出し、時間を確認する。
「もうすぐクリスマスも終わってしまうわね……」
12時の所で重なり始めた針を見つめながら、真紅は少し寂しそうに呟いた。
74真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:52:46.66 ID:48pVb+UO0
『とても難しい仕事だが、とても遣り甲斐がある』
サンタの仕事を引き継ぐ前に父がそう言った理由が、今の彼女にはとても良く理解できた。

そして全てが終わった今になって、真紅は長い間自分が何も食べず……大好きな紅茶も飲んでない事を思い出した。

「さあ、帰りましょう。ホーリエ」
真紅の言葉で、トナカイが足から炎を噴き出しながら上昇する。

そして、極地近くにある屋敷へと帰還するため加速を始めようとした時……
サンタ支援AI・ホーリエは、一つの通信を傍受した。
迷わずスピーカーの電源を入れ、その内容を主人である真紅にも聞かせる。

「こちら……、基地……、聞こえてい………、核ミサイ……、サン……、応答をしてく……」
途切れ途切れではあるが、間違いなく例の戦闘機のパイロット……薔薇水晶の父の声。

真紅は何かただならぬ雰囲気を察し、その通信に答える。
「こちらサンタよ。どうかしたの?」

「ああ……やっと繋がった……よく聞いてほしい。
 基地の将校が反乱を起こして、今、君が居る街にむけ核ミサイルが発射されてしまった。
 既にその国へは退避を呼びかけてはあるが……恐らく……間に合わないだろう……」

「何ですって!?」
真紅はあまりの出来事に、口を押さえながら叫ぶ。

「犯人はもう捕らえてあるのだが……こちらにはもう、これ以上に止める手段は無い。
 ……本当にすまない。
 せめて……君だけでもその空域から急いで脱出して欲しい。
 サンタクロースは世界の希望だ。……こんな形で失う訳にはいかない」
 
75真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:53:06.90 ID:48pVb+UO0

「それで……私が逃げたとして……この街はどうなるの……?」

「……僕の誇りにかけても……全力で復興支援をすると……」
「ふざけないで!」

真紅は大きな声で槐の言葉を遮った。

「サンタは世界の希望?いいえ、それは間違いなのだわ。
 世界の希望はね……サンタでも、クリスマスの奇跡でもないわ。……子供達の夢に溢れた笑顔。
 それこそを、誰かは希望と呼ぶのよ!」

真紅は通信を切り、トナカイに向け声を張り上げる。
「ホーリエ!街に着弾する前に、私たちで何としても海の上で止めるのだわ!!」

主人の決意に応じるように、トナカイは鼻を赤く、力強く光らせる。

「サンタを信じてくれた子供達と……かっては子供だった全ての人の為に……行くわよ!」

脚部ブースターが炎を噴かせ、トナカイは空高くまで上っていく。
そして……人類の希望を詰め込んだ袋を背負い、空を突き抜ける真紅の姿は……幻想的な赤い一本の線に見えた。

雲が、風が、全てが、追い風となり彼女の背中を支える。
空往く鳥も、海に生きる魚も、人も。全ての生命の鼓動を感じながら、真紅は空を駆け抜ける。

そして……
太平洋の上空で止まった彼女は……禍々しい、世界に永遠の冬をもたらす悪魔の兵器の姿を見た。

真紅は目を瞑り……心を決める。
 
76真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:54:03.79 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―

その頃、世界中のいたる所では……

  ―※―※―※―※―

隙間風が吹くボロアパートの一室で、金糸雀はみっちゃんと小さなケーキにロウソクを立てていた。

「ごめんね……借金がいっぱいで、クリスマス終わっての特売ケーキしか買えなかったけど……」
「そんな事ないかしら!カナにとっては、みっちゃんと一緒に過ごせるのが一番嬉しいクリスマスかしら!」
申し訳無さそうに呟くみっちゃんと、元気に答える金糸雀。

そして……金糸雀は窓の外、今にも降って来そうな星空を眺めながら、小さく呟いた。

「サンタさん……みっちゃんを助けてくれて……本当にありがとうございますかしら……」

  ◇ ◇ ◇

雛苺は、夕べ遅くまで剣道の練習をしていて風邪を引いてしまった巴の看病をしていた。
「そうだ!トモエ、ヒナが良い物あげるのよ!」
そう言い、横になった巴の枕元に、30キロはありそうな苺大福を引きずってきた。
「一緒に食べてお腹いっぱいになれば、きっと風邪なんてすぐに治っちゃうの!」

無邪気に笑う雛苺の姿に……巴も、風邪のせいではなく…こう、心が温かくなった気がした。

  ◇ ◇ ◇
 
77真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:54:52.71 ID:48pVb+UO0
仲良く隣りあって座りながら、翠星石と蒼星石はピカピカに光る如雨露と鋏の手入れをしていた。
そこでふと、翠星石が顔を上げる。

「そう言えば……変な事言ってるなんて思ったら駄目ですよ?
 昨日、不思議な夢を見たですぅ。なんだか、こう……とっても素敵な乗り物で、空をびゅーんと飛ぶ……」
「え?翠星石も?
 実は、僕もなんだ。……ふふ、何だか不思議だね。姉妹して同じ夢を見るなんて……」
「双子なので、不思議でも何でもないですぅ!夢の世界でも、翠星石と蒼星石は一緒なのですよ!」

そう言いじゃれついてきた翠星石と、ちょっと恥ずかしそうな笑顔を浮べる蒼星石。
仲の良さそうな姉妹の声が、時計店の外にまで響いていた。

  ◇ ◇ ◇

「ジュン君、いいなぁ……お姉ちゃん、何にも貰えなかったのに……」
「天然ボケの所にはサンタは来ないんだよ。お茶漬けのり」
棚に飾られた真新しいミニカーを見つめる姉と、そんな姉を見つめる弟。

「あーあ……お姉ちゃんも『敏腕女弁護士風スーツ』欲しかったな……」
残念そうにため息をつきながらそう言う姉に、ジュンは背中を向ける。
「何だよ……そんな物なら、僕でも作れるじゃないか……」

ぶっきらぼうにそう呟くジュンの背中を見ながら……
のりは、不器用だけととても優しい弟が居てくれた事を、両親と世界に感謝した。

  ◇ ◇ ◇

すやすや眠るオディールは、まだまだ夢の中。
でも……とっても可愛らしい苺の妖精さんと遊んでいる夢でも見ているのか、その寝顔はとても幸せそうだった。
 
78真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:55:23.49 ID:48pVb+UO0

  ―※―※―※―※―

真紅は閉じていた目をゆっくりと開き……空を砕きながら迫る核ミサイルを真っ直ぐに見つめた。

「皆が私を……サンタを信じてくれたように……私も、私のサンタを信じるわ……」

確かに、現在のサンタは彼女だが……
彼女にとってのサンタは、先代の…つまり、彼女の父に他ならない。

異常とも思えるオーバーテクノロジーを駆使し、それでいて、科学の雰囲気をぶち壊すギミックを詰め込んだ父。
そんな人物だからこそ……絶対にやってくれている。

真紅は空高く拳を突き上げ、そして、何の迷いも無い眼差しで、叫んだ。

「来なさい!!」



その時……遥か彼方の極地に存在する彼女の屋敷。
巨大な壁が揺れながら開き……黒、黄、緑、青、ピンク、白の6本の光が空目掛けて飛び出した!
それは、初代サンタクロースが従えていた7匹のトナカイを模したサンタ支援ロボ。
リーダー機である『赤鼻のトナカイ』と、主人である少女サンタ目掛けて、亜高速で空を突き抜ける!



真紅は、こちらに近づく光の矢を一瞥すると、支援AI・ホーリエに指示を出した。
「さあ!本気で行くわよ!」
 
79真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:55:52.60 ID:48pVb+UO0

同時に、支援AI・ホーリエ搭載の赤鼻のトナカイロボが、足のパーツを切り離す!
迫る6匹のトナカイロボも、空中で変形を繰り返しながらこちらに近づき……
二体がその体を左右の足へと変形させる!
緑と青の瞳のトナカイロボ二体が、両腕へと姿を変える!
白いトナカイが胴体部分へ、黒いトナカイが巨大な翼に変形!
そして……頭部に変形した赤く光り輝く支援AI・ホーリエ搭載機がそれらの上に降り立ち……
巨大ロボの全身は、熱と化学反応で白と赤の織り交ぜられた色になる!

究極にして至高のサンタ支援巨大ロボ『ALICE』が太平洋上に光臨した!

「nフィールドバリア展開!一気に押し返すのだわ!」
肩に乗った真紅の号令で、巨大ロボは全身に恒星爆破ですら防ぐバリアーを張り巡らせ、核兵器へと突き進む!

「ホーリエ!スーパー大車輪バーニング絆パンチよ!」
少女サンタの声に呼応するように、巨大ロボは固めた拳を核ミサイルの弾頭にぶつける!

拳の先に張り巡らせたバリアーと、ミサイルがぶつかり合い、摩擦で小さな空間に稲光が生じる。
だが……これほどのオーバーテクノロジーを搭載していても……一度放たれたミサイルは止まらない。

それどころか、ミサイルの圧倒的な質量により……流石の巨大ロボも、ジリジリと押され始める……。
 
80真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:56:34.65 ID:48pVb+UO0

「ホーリエ、周囲に張り巡らせたバリアーを解除なさい。
 そして……全てを持ってして、ここでミサイルを止めるのよ!」

真紅の指示に従い、ホーリエは持てる全てを、巨大ロボの腕へと送る!

核ミサイルが、バキバキと音を立てて砕け始める!
同時に、バリアーが解除された事により、周囲の熱風や衝撃波が真紅に襲い掛かる!



「……世界に……子供達に……夢を……!」







その日……宇宙からでも観測できる程の巨大な爆発が、太平洋上で確認された……。





 
81真・サンタが行く!:2008/12/25(木) 20:57:19.68 ID:48pVb+UO0
  ―※―※―※―※―

一年後……―――

銀色の長い髪を揺らす、水銀燈という女性は一枚の写真を眺めていた。

『柿崎めぐ』
こんな年端もいかない子供が……心臓病の新薬と騙され、細菌兵器のモルモットにされようとしている。
その事実に……水銀燈は心の底から、怒りを感じていた。

だが……自分一人では、めぐを助ける事など出来る訳が無い。
それでも諦めきれない水銀燈は……細菌兵器の実験を行うビルの前に一人で立っていた。

玉砕覚悟で、単身突入するべきか?いや……それは、ただ死に急いでいるだけ。
迷いと焦燥感が、水銀燈の胸中に広がる。

その時不意に、ビルの中から一人の少女が現れた。

水銀燈は手近な場所に身を隠し、その少女……真っ赤な服を着て、ふわふわの付いた帽子を被った少女を観察する。
すると赤服の少女は、背負った大きな袋に手を入れると……
そこから「よいしょ」と、小さな女の子を……めぐを取り出した。

隠れたまま呆然とする水銀燈と、やっと袋から出れたといった表情のめぐ。
次の瞬間!
ビルは爆発を繰り返しながら崩壊を始める!

そして赤服の少女は、爆風でスカートを揺らしながら……燃え盛るビルを背景に、笑顔を浮べた。

「メリークリスマス」
 
82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:00:27.68 ID:48pVb+UO0
投下終了です。
今思えば、一話目で終わらせといた方が……
83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:01:16.13 ID:48pVb+UO0
保守
84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:09:38.52 ID:p623L2a0O
真紅サンタ…テラ艱難辛苦
85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:10:02.81 ID:r9oe/lckO
>>76
うわーまた何の存在価値もないクズが出てきたせいでスレの雰囲気が悪くなった
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:24:12.50 ID:48pVb+UO0
hosyu
87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:29:24.49 ID:UcYxtACa0
乙保守
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:31:45.62 ID:qt1fOH6a0
                          _. - ._             _
                      /. -−- \             l `i   __
                         //      ヽ          } ´ ̄ ´ '´ う
                     |{      /\  ____  j     /
      ( ヽ              '.l.   ___/    ヽ´  ー-=ニ.¨`7     r '
   r──’ `ヽ            .ゞ ' ´         '.       `丶、  /
 (´_ ̄       ヽ         /             |       \  \/
 ‘ー⊂.         \      /  ,    l  |    |、        ヽ‐-,ヽ
      ̄ ̄\     \.     /  /     !  ∧   ||ヽ__|     ∨ `
          \     \  /  /     | / '   ||'´ヽ l      l. ',
            \     \l  '    |  ,ィ´′ ∨ ハ. |   Nヽ.   |、 i
              \     \l.    |  /|/     / /       ',   |、ヽ!
                \     ヽ、.  | i       ∨    三三 ハ.  ! \    絵チャやったらたのしいよー!!
                  \.   /\ | | xィ彡        ・{ l. ∧ /
                /\ /   }'ヽ! "´       ,、_,   l |∨ ∨
                  / /   /   \     ‘7´  )   .ノ |     l
               {      /    ',\    、__,. ' ,/  |    /
                 \   /      ', ヽ----r ' ´ |   |  ./

         http://www.takamin.com/oekakichat/user/oekakichat3.php?userid=272000
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 21:54:11.01 ID:LPtnhk5K0
>>82
真紅サンタ恐ろしい子……

いいクリスマスプレゼント乙!
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:12:29.00 ID:V5VAeGhZO
クリスマスです

「さて、クリスマスなわけなんだが。朝起きるとベッド脇に簀巻きが二つ」
「おはようございますジュン様♪」
「よく見るとリボンでグルグル巻きの薔薇雪華だったと」
「…ジュンに与えられた選択肢。1…ベッドに引きずり込む。2…リボンを引っ張ってあ〜れ〜。3…鋏で少しずつテープカット…オススメは3だよ?」
「…よし、決めた」
『…何番?』
「1」
『…え゙?』
「どうした?何かおかしいか?」
「え、いえおかしくはないですし嬉しいというか心の準備が…え?」
「…これは想定の範囲外…もしかしてこれがクリスマス効果?」
「よ…っと。風邪ひかないように布団掛けとくな」
「あら?ジュン様は?」
「…私達だけ?」
「うん。今日はこれからパーティーだろ?まあゆっくり寝クリスマスを楽しんでくれ」
『………い、イヤアアアアアアアア!?』

「薔薇水晶達どうしたですかねぇ?」
「急用で来れないってさ」
「あら、それは残念だわ」
「仕方ないわねぇ。それじゃあ乾杯しましょうか」
『merry Xmas!』

「…なんだろう。ジュンの香りに包まれてるのに…嬉しくないよ」
「なんだか涙が止まりませんわ…」

保守
91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:22:52.11 ID:p623L2a0O
>>90
俺も1だな
110番
警察ですか!変質者が僕の部屋に!
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 22:49:28.85 ID:SU66qTIQO
雪「くくく…私達を縛り終えた方が居る事に気付かないとは、ジュン様もまだまだ…」
薔「のりさんノリノリで手伝ってくれたのにね」
雪「では早速ほどいて貰いましょう」
薔「『頑張ってね〜』って言って出掛けなかった?」
雪「ひやあ」
93以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:11:48.99 ID:V5VAeGhZO
保保保
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:35:53.51 ID:SU66qTIQO
95以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/25(木) 23:53:24.13 ID:12bx9DXo0
今日は早めに寝る保守守守
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:12:23.38 ID:pQztBuqgO
保守なのだわ
97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 00:51:44.66 ID:GDo2ARRSO
98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 01:36:40.01 ID:zexteHpp0
保守
99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 01:51:28.79 ID:zexteHpp0
ほしゅ
100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 02:40:10.51 ID:Epab2lQY0
保守
101以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 03:22:46.31 ID:zexteHpp0
hosyu
102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 03:22:59.24 ID:JdL8fJ2A0
http://cgi-games.com/kanzi/
僕のホームページに着てね
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 03:33:15.24 ID:zexteHpp0
104以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 03:46:09.85 ID:zexteHpp0
誰か居ないのか保守
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 03:56:46.75 ID:zexteHpp0
106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 04:05:50.20 ID:zexteHpp0
107以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 04:18:18.75 ID:trqyQUHLO
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 04:51:52.45 ID:q/ZhmhI40
こんな深夜にこんばんは。
久々に奇しき薔薇寮の乙女、第十四話をこっそり投下します。
それでは、少しばかり失礼しますね。
109奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:52:27.97 ID:q/ZhmhI40
「───ひぃいいいい!」


怖い怖い怖いぃぃ!
このバカジュンッ、よりにもよってこんなゲームを選ぶことないじゃない!
なんで電気消しながらやるのよぉ。
そんなだからメガネかけなきゃならなくなるのよぉ!
やああ、変な音がするぅ!


「……コレがいいって言ったの、水銀燈だろ」

「だってそんなに怖いって思わなかっ……ひゃあああ!?」

「ゲームの音だって。あともう遅いんだから、そんな大きな声出すなよ」


ひどい、おに、あくま、どえす。
なによぅ、ホラー苦手そうな顔しておいて、なんでそんな平気そうなのよぅ。
ムカつく、その「呪い人形程度、苦にもならぬわ」って顔がムカつく。
布団に潜り込んでも暗いし、出ても電気が点いてないから暗いし、もうイヤぁ。


「それに、慣れれば結構おもしろいぞ。たとえば、空耳で『オフコース!』なんて聞こえたり」

「聞こえない聞こえない、ぜーったい聞こえないぃ!」

「わかったよ。ほら、いまセーブしたし、もう電源切って電気も点けるから」
110奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:52:59.19 ID:q/ZhmhI40
>>109
本当に、とんでもない肝試しね。
ジュンのせいで、しばらくは窓の外とか見られないじゃない。
うう、コップが勝手に動いたり突然マリが落ちてきたりしないわよね。
か、壁に人の顔みたいなシミが浮かんできたりするかも。
あああ、もう鏡も見れない。鏡の向こう側から手が出てくるかもしれないぃ。


「もうやだ、ジュンのばか」

「……僕のせいじゃないだろ」

「…………ジュンのばーか」


絶対にジュンのせいよ。
なんで、そんな怖いゲーム買ってるのよ。
いま出たら手とか出てきそう。
映画見たくても面白いDVD持ってないし。
一応持ってきたものがあるけど、それもいまは雪華綺晶のところだし。
それに、パジャマに着替えたいし。
でも怖いし。


「あ、そうだ。ジュン、ちょっと来て」

「? どこに?」

「いいから!」
111奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:53:38.72 ID:q/ZhmhI40
>>110
ひとりで行くのが怖い、なんて言えるわけがない。
たぶんバレているだろうけど、口に出してこないならこっちのものよ。
さっさと行って帰って、また布団に潜り込まなきゃ。
いくら夏だからって、怖いものなんて見なければよかった。
暗いのが怖いなんて、まるで真紅じゃない。
そんなのは冗談じゃないから、早く早く。


「なんだ、荷物取ってくるだけか。ひとりで来られただろ……」

「き、雪華綺晶が心配じゃないわけ? 気絶させたのはジュンじゃない」

「それも僕のせいじゃない!」

「ちょっとうるさいわよぉ」


ささっとボストンバッグを取って、ちゃちゃっと戻る。
直前に雪華綺晶の様子を見たけれど、のんきにすーすー寝ていたわね。
うらやましいっていうか、いまの私からすればすこし信じられないくらい。
なんであんな暗闇でぐうぐう寝られるのかしら。
ひとりで居ても平気だったさっきまでの自分がどうかしている気がしてくる。
まさか雪華綺晶、明日の朝になったら煤みたいになって消えてないでしょうね。
112奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:54:10.62 ID:q/ZhmhI40
>>111
「よく考えたら、荷物持ってくる必要ないじゃないか。水銀燈も姉ちゃんの部屋で寝……」

「やぁよ。ジュンに怖い思いさせられたんだから、ちゃんと仕返ししなきゃ」

「は!? そんな無茶苦茶なコト言うなよな!」

「聞こえな〜い」


そんなこんなでジュンの部屋の前まで来たとき、ひとつ思い出した。
よく考えなくても私のいまの格好は普段着だし、私は寝るときはちゃんと着替える派だ。
男子はTシャツにトランクス一丁で寝るとかクラスで言ってたけど、私は女の子だもの。
いくらなんでも、そんなとんでもない格好で寝るわけにはいかない。
その、たまにやるけれど。
でも、ジュンの家でやるわけにはいかないじゃないっ。
そんなワケです。


「どうしたんだよ?」

「ちょっとジュンは外で待ってて」

「なんで!」

「いいの!」
113奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:54:45.13 ID:q/ZhmhI40
>>112
追い出す。
下着はさっき銭湯に行ったときに替えてきたから大丈夫。
まったく、ジュンもお風呂掃除くらいすればいいのに。
まさか、その、壁にゴ、ゴキ……が、二匹も走ってるなんて!
そんなものを見た直後に入れるもんですか。
それはともかく。
早く着替えないと、怖い怖い怖い。
急いで済ませないと、パソコンの画面からなにか出てきそう。
それにしても、我ながら服の色は黒ばっかりね。
暗い女って思われないかな。


「はい、どうぞ。もういいわよ」

「まったく、ここは僕の部屋だぞ。て、着替えるためだけに追い出したのか」

「そ、そうよ」
114奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:55:16.39 ID:q/ZhmhI40
>>113
実は、着替えるだけならなにもジュンの部屋じゃなくても良かったかな、なんて思ったのはついさっきの話。
さっきのゲームの影響か、そんなコトに頭がぜんぜん回らなかった。
男子の部屋で着替えるなんて、なんかもう大胆すぎかしら。
白状すると、いまはジュンがいるから平気なだけで、物音がしただけで飛び上がっているくらいなのよね。
窓の外とかパソコンの画面なんて絶対に見れないし、机の近くとかベッドの近くにも行けない。
ジュンと私と雪華綺晶しかいないハズなのに、机の下に女がいるかもしれない、なんて考えしか浮かばない。
ベッドなんて、下の隙間から手が出てくるかもしれないのに、そんな場所の近くで着替えるなんて無理むりムリ。
かと言って、雪華綺晶の近くで着替えてたら、突然とり憑かれた雪華綺晶に襲われかねないし。
うん、やっぱりジュンの部屋で着替えるのが最良の選択だったのよ。


「ていうか、僕もそろそろ寝たいんだけど」

「え? ええ」

「いや……もう、僕の部屋使っていいよ。僕は下で寝るから」

「へ!?」


い、意味がないじゃない!
こんな状況で完全にひとりにするなんて、冗談じゃないわよ!
115奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:55:43.15 ID:q/ZhmhI40
>>114
「そ、それはダメ!」

「いやいやいや、僕だってさすがに同級生の女の子と同じ部屋で寝るなんてできないぞ」

「わ、私は床でもいいから!」

「そういう問題じゃないだろ!」

「いいの!!」


ひとりになったら、ドアとか窓の向こう側から変な影が迫ってくるに決まってるじゃない!
そんな目に遭うなら、一緒にいたほうがずっと安全よ!
もう恥も外聞も関係ないったら!
本当、夜対策にデジカメでも買っておこうかしら。
でも効くのかしら、デジカメ。
116奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:56:17.22 ID:q/ZhmhI40
>>115
「どうしてもここにいるってのか?」

「…………どーしても」

「一応、理由を聞いていいかな?」

「聞いたら笑う」

「たぶん笑うけど、それ以前の問題もあるからな」

「?」

「んじゃ、理由をどうぞ。拒否ナシな」






117奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 04:56:47.08 ID:q/ZhmhI40
>>116
「ぶははははははは!!」


結局、さっきのゲームのせいでひとりでいるのが怖くなってしまった理由を細々と話してしまった。
ついでに、散々爆笑されたあとに「怖いのが苦手の魔性の女ってカンジだな」とまで言われてしまう始末。
魔性の女ってなによ。
こっちはずっと、真剣に怖いのがイヤだから悩んでたりしてたのに。
頑張って話しても結局、大笑いどころか爆笑だし。


「ははははは、はぁ。いや、コレは面白い弱点握ったなぁ」


サイテー。
涙流すほど笑って、しかも弱点握ったとか。
事実なので何も言い返せないところがまた悔しい。
ひょっとしてこれから立場逆転?


「それにしてもなぁ。ヘンに焦って損したよ。ま、そのほうがいいんだけど」

「? さっきから損したとか魔性の女とか、どういうコトぉ?」

「怖くて動転してるだけかと思ったけど、まだわかってないのか。
 同級生の男子の家に泊まって、しかも同じ部屋で寝るってコトがどういうコトか、よく考えてみろって」
118奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 05:00:09.35 ID:q/ZhmhI40
>>117
んん?
別になにもヘンなコトないと思うけどぉ。
布団は一緒じゃないし枕も別だし。
それにあとは寝るだけだし、なにも問題ないじゃない。
なーにを悩んで……。


「ああわかった! ジュンったら興奮して眠れなくなっちゃうんでしょー」

「もう少しソフトに言ってくれ! それ以前に、ドートク的に問題あるだろ」

「なーんだそんなコト。別に気にしないわぁ。私もいまそんなカンジだし」

「は!?」


まったくジュンってば、いつの間に修学旅行気分になってたのかしら。
たしかに修学旅行の夜は興奮して寝付けなるのはわかるけどぉ、ここはジュンの家じゃない。
まぁ、私も恋バナとかして結構遅くまで起きてたときもあったし、人のコトは言えないわね。
道徳的って、要するに消灯時間を過ぎても起きてるコトが問題ってコトよねぇ。
ウチの中学校はそういうのは割と甘かったっていうか、大目に見てくれてたけど。
ジュンの中学校は厳しかったのね。
あ、もしかして私を怖がらせたのって、私に起きててほしかったのかしら。
まぁ、いまのでもう怖くなくなっちゃったけど。
119奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 05:00:36.21 ID:q/ZhmhI40
>>118
「ふぁ……でもさすがに眠いわねぇ。夜更かしはお肌に悪いし、私はもう寝るー」

「いやちょっと待て、いったい何を言って……ていうか、そこ僕のベッドだぞ。寝るなら雪華綺晶と一緒に」

「やぁよ、遠いもの。ジュンも早く寝なさい。おやすみぃ」

「ホントに寝るのかよ。おーい水銀燈、銀ちゃーん、銀さまー、お銀〜?」


それにしても、あんなに顔を真っ赤にしなくてもいいのに。
やっぱりジュンは可愛いわねぇ。
いつもそれが面白くてからかってたけど、それで魔性の女って言われたのかしら。
まぁ……それも、いいわねぇ。
明日は、早く起きて、朝ごはん、作らない、と。
ジュン、おやすみぃ。
120奇しき薔薇寮の乙女:2008/12/26(金) 05:03:07.67 ID:q/ZhmhI40
>>119 で今回は終わりです。
クリスマス中に投下しようとして寝てしまったorz
ずいぶん間を空けてしまい申し訳ないです。
仕事納めになったらあと1回は投下したいなぁ、とか思っております。
それではみなさま、良いお年を〜。
ではでは。
121以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 05:04:56.23 ID:eZFkZ2YW0
ビックカメラ終了です
ポイントの精算はお早めに
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/news/1230224159/

このレスを見た人はコピペでもいいので1人でも多くの人に教えてあげてください
122以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 05:12:14.50 ID:zexteHpp0
おつ!
123以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 05:18:16.04 ID:zexteHpp0
保守
124以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 06:05:53.68 ID:zexteHpp0
ほしゅおやすみ
125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 06:52:05.77 ID:jc/glnpBO
アサダヨオキロアサダヨオキロ

「……ん、うー痛い。あー飲み過ぎちゃったわ」
今日も仕事だというのに私は何をしてたんだろう。
○○才独り身クリスマス記念と称して、ワインに日本酒、ウィスキー……どうかしてたわ、本当。

アサダヨオキ
「はいはいうるさい」
バコンっと目覚ましを黙らせ、私はやっと起き上がる。
面倒ね。朝ご飯はお茶漬けと昨日のつまみの残りでいいか。
「ん?」
机の上に飲み散らかしたお酒やお菓子はなく、いかにもな箱が置いてあった。
『Khristmasおめでとうかしら』
そこには私のサンタからのカード。手に取ってよく見る。待って、KじゃなくてCよ、受験は大丈夫?

昨日は友達とパーティでそのまま学校に行くって言ってたから、朝早く家に来て置いてくれたのかな? 
うん。私に彼氏はいないけど、こんなに素敵な家族がいるんだもん。まだまだ捨てたもんじゃないわよね? 私の人生。一日遅れのプレゼントを手に取って宣言。
「今日も一日がんばろう!」
126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 06:56:07.76 ID:pQztBuqgO
>>120
銀ちゃん可愛い…可愛いなぁもう…とりあえず誠…じゃなくてジュンは首をくくれ。ああ…銀ちゃん可愛いよぉ…
127以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 09:31:14.03 ID:trqyQUHLO
保守
銀様かわええw
128以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 10:48:08.15 ID:hBTR8Gt70
ko
129以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 12:26:09.64 ID:4RGG6u8E0
ほし
130以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 12:33:52.06 ID:6uXMukpKO
超絶遅刻保守
131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 13:19:38.50 ID:4RGG6u8E0
遅刻がんばれ保守
132以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 13:23:11.72 ID:pQztBuqgO
保守だよ
133以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 13:47:02.48 ID:jc/glnpBO
ほしゅ
134以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 14:16:34.66 ID:pQztBuqgO
巴「クリスマス…終わっちゃったな。結局桜田君とまんまり話せなかったし…仕方ないよね…周りにあんな可愛い子がいるんだもん」
ガサガサ
巴「でも…プレゼントくらい、渡せたのにな。どうしてだろ…何で、渡せなかったんだろ…何で、渡したくなかったのかな…」
ガラガラ…
ジ「あれ?こんなとこで何してんだ柏葉」
巴「え、桜田君!?べ、別に…桜田君こそ…」
ジ「んー、僕はちょっと休憩に。最近慌ただしかったからな」
巴「…そうだね」
ジ「それ」
巴「え?」
ジ「その手に持ってるのは何だ?」
巴「あ、えと…ん…桜田君、これ、プレゼント」
ジ「え、僕に?プレゼントって…何の?」
巴「…クリスマス、お疲れ様の」
ジ「あはは、そりゃいいな。ありがとう柏葉。貰っておくよ」
巴「うん」
ジ「しっかし寒いなここ…なあ、僕んち来ないか?ねーちゃんに暖かいモンでも飲ませてもらおうよ」
巴「え…う、うん!」


そんな、クリスマスのささやかな恩恵。
135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 15:02:31.93 ID:4RGG6u8E0
ジュンがカッコイイなんてそんな……そんな
136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 15:02:36.43 ID:pQztBuqgO
保守
137以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 15:48:11.09 ID:4RGG6u8E0
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 15:51:16.59 ID:pQztBuqgO
保守かしらー!
139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 16:45:24.24 ID:4RGG6u8E0
ほし
140以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 16:48:10.64 ID:pQztBuqgO
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 17:37:30.16 ID:JedHEU0hO
保守
142以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:15:39.33 ID:pQztBuqgO
ほし
143以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:31:07.04 ID:XF3o9W220
今から投下するお話「湾岸 "Maiden" Midnight」は、「湾岸ミッドナイト」と「ローゼンメイデン」のクロスオーバーです。
湾岸ミッドナイトを知らない方に、端的に内容を申し上げると、要は車が公道で暴走する漫画です。
こういう話が嫌いな方は、NGワード「wangan」をご使用ください。

スレをまたいでしまったので、簡単なあらすじを。

首都高湾岸線を走っていたジュンは、1台の真っ赤なS30Zと遭遇。そしてバトルに敗れた。
Zの走りに、体が熱くなったジュンは大黒PAで休憩する。
そこで、真紅という女性に出会った。
そして真紅から車のオーバーホールを依頼される。
その車とは、先ほど出会ったZであった。
それは、悪魔と呼ばれるZ……。

では、湾岸 "Maiden" Midnight SERIES 1 「悪魔と天使と人間 Part 2」を投下します。
144以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:31:50.90 ID:XF3o9W220
桜田オートエンジニアリング。
その屋根の下で、自分のRやファミリーカーに囲まれる中に、その車はいた。
湾岸を300km/hで駆け抜ける、悪魔のZが。



湾岸 "Maiden" Midnight

SERIES 1 「悪魔と天使と人間 Part 2」



「これが……、真紅の言ってたZ……なのか?」
「そうよ、これが私のZ」
「そして、こんな呼ばれ方をしているわ」
「何て……、呼ばれているんだ……?」

「……悪魔の、Z」

「悪魔の……、Z……」

悪魔のZと言う名を聞いて、ジュンは思い出す。
昔、噂で聞いたことがあった。

湾岸を300km/hで駆け抜ける、S30Zが居るらしい。
それは、悪魔のZと呼ばれているそうだ。
145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:32:35.32 ID:XF3o9W220
ただの噂話、都市伝説だと思っていた。
そんな車が、存在するわけがない。S30Zは最終型でも、もう20年以上前の車だ。
それが、300km/hのスピードを出せるなんて、夢にも思わなかった。
だがその車は、ジュンの目の前に存在している。
ジュンのRを、湾岸で置き去りにしていった事実は、ただの噂話ではなかったという証左。

「本当にこの車が、あの、悪魔のZなのか……」

思わず口からこぼれてしまう、現実に追いつけていない頭の言葉。

「そうよ、これが悪魔のZ」

ジュンの頭は、まだ混乱しているというのに、心は更なる熱を帯びてゆく。
体内の中心から放たれる熱が、冷えた頭に熱を与えてゆく。
考えているのではない、感じているのだ、悪魔のZを。

「それで、私のお願いは聞いてもらえるのかしら?」

一瞬忘れてしまっていた。
そういえば、オーバーホールの依頼をされていたのだった。
ジュンは、目の前の悪魔に魅入られていて、肝心の仕事などそっちのけの状態だった。
だからこそ、頭で考えるよりも先に、心が言葉を紡ぎだす。
146以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:33:33.80 ID:XF3o9W220

「ああ、僕がこの悪魔をオーバーホールしよう」


―――――――――


後悔先に立たず、か。
勢いに任せて、あんなことを口走ってしまった。
僕が悪魔のZをオーバーホールする?とてもじゃないけど自信がない。
なんとなくわかる、あの車は、ただの車じゃない。
とてもデリケートなチューニングカーは世の中に数多く存在する。
僕だってチューナーのはしくれだ。チューニングカーを扱うのが怖いわけじゃない。
だけど、あの車は違う。
言葉にできない不安が襲いかかってくる。

やっぱり断ろう。
誠心誠意謝って、帰ってもらおう。


―――――――――


確か昼ごろに来ると、真紅は言っていた。
ジュンの気持ちは憂鬱だった。
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:34:21.33 ID:XF3o9W220
自分でやると言っておいて、結局断ることになる。
プロ失格だ。
自分に対して、どうしようもなく腹が立って来る。
なんて無責任なんだ。
もう子供のころじゃないんだ、いい歳した大人なんだ。
それなのに、ぜんぜんあのころと変わってないじゃないか。
ジュンは、工場の事務所の机に突っ伏したまま、真紅が来るのを待っていた。



音が聞こえた。
少し調子を崩した、人間で言うと鼻声みたいな音。
しかし、たとえ鼻声でも、周りの車とはっきりと違いのわかる音。
ジュンは事務所から飛び出すように外へ出た。

真紅と、悪魔のZがいた。

「あら、準備がいいのね」
「ああ、車を中に入れてくれ」

また、ジュンの心が勝手にしゃべりだした。


――――――――――


「それじゃ、見積書作るからちょっと待っててくれ」
148以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:35:21.70 ID:XF3o9W220
違う。僕が言いたいのはそんなことじゃない。

「待って」
「うん?」
「このお店は、客にお茶の一つも出さないのかしら?」
「ああ……、悪い、気が利かなかったな」

少し、考える時間ができた。
ナイスアシストだ、真紅。
さてと、お茶の葉はどこにしまってあったっけ?

「待って」
「今度は何だ?」
「お茶といっても、緑茶じゃなくて、紅茶を用意するのよ」

相変わらず尊大な態度だこと。
えっと、紅茶ってうちにあったかな?
こういう時に限って、なんであいつはいないんだよ……。
ああもう、どこにあるんだ、紅茶。

「ジュン、遅いわよ、早くしなさい」
「ちょっと待ってくれー!、今探してるんだよ」


―――――――――


ジュンが慣れない作業に悪戦苦闘しているそのとき、事務所のドアが開いた。
149以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:36:42.41 ID:XF3o9W220
「遅くなってごめんねー、ジュン……くぅん……?」
「ああ、やっと帰ってきたか、遅いぞ姉ちゃん」
「えっと、どなた……?」

ジュンに姉と呼ばれた人は、真紅を見て、目をパチクリさせていた。

「はじめまして、私は真紅よ」
「あっ、はじめまして、桜田のりです。えっと……、真紅ちゃんは、ジュン君の……、コレ?」

そう言ってジュンの姉、のりは小指を出す。

「違あぁーう!」

ジュンが大声で叫んだ。

「えっ、違うの?」
「お客さんだよ!お客さん!」
「お客さん?だって……、ジュン君が女の子を連れて来るものだから、てっきりお姉ちゃんそう思っちゃうじゃない……」
「ああもう、その話はいいから、紅茶を用意してくれ!」

ジュンとのりの、いきなり大胆な会話を真紅は軽く聞き流した。
そんなことはどうでもいいから、早く紅茶を出して欲しいのである。
未だ変な熱に浮かれるのりに、発破をかける。

「紅茶はまだかしら?」



事務所の中は、沈黙に包まれていた。
150以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:37:33.78 ID:XF3o9W220
のりが、見積書を作成するために、パソコンのキーボードをたたく無機質な音。
真紅が、紅茶を口に含み、そしてカップを置く無機質な音。
ジュンが、このあと、どう断ろうか悩んでいるときに出る有機質なため息。
8畳程度の小さな部屋の中で、3人がそれぞれの音を出す。
真紅が、紅茶について文句を言い出した。
しかし、ジュンの耳には、真紅とのりの会話が入ってこない。
何も聞こえない。何も見えない。何も言えない。そして、再びの沈黙。
もう、見積書は出来上がりそうだった。
言葉が出てこない、出てくるのはため息ばかり。
心が言うことをきいてくれない。
あの悪魔のZを目の前にすると、考えていたことがすべて吹き飛んでしまう。
自分の心が、全身を支配してしまう、自分の意志とは無関係に。
そんな感覚を、ジュンは感じていた。



結局、ジュンは断ることができなかった。
真紅はもう帰って、工場には悪魔のZだけが残された。
納車できる日がわかったら連絡する。
そう言って、引き受けてしまった。
心が、断ることを許してはくれなかったのだ。

工場内にたたずむ悪魔のZを眺めながら、一足先に昂る心を抑えられずにいた。
不安はある。しかし、もう後戻りはできないのだ。
こうなった以上、プロとして、与えられた仕事をするのみ。
頭が覚悟を決めた。よし、やろう。僕がやろう。
この悪魔のオーバーホールを。

そして、ジュンは電話をかけた。
151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:38:34.58 ID:XF3o9W220



「すみません、突然押し掛けちゃって」
「構わない」

ここは、チューニング業界において、屈指の技術力で名を売ってきた「ガレージ槐」の工場。
そして、ジュンと会話をしている彼は、ここの社長であり、1代でこの工場を築き上げた槐というチューナーであった。

「悪魔のZ、か……」
「はい、そのことについて槐さんに聞きたくて」
「そうか、僕もその名を聞くのは久しぶりだ―――」



簡単な説明を一通り受けたジュンは、帰りにひとつのスクラップ帳を渡された。

「この中に、僕が知っている悪魔のZのことについて書かれている。持っていって構わない」
「いいんですか?借りちゃって」
「ああ、ゆっくり読むといい。なにか参考になるだろう」
「すいません、じゃあ、借りていきます。今日はありがとうございました」

そう言って、ジュンはガレージ槐の事務所を出て行った。
そして、ジュンと入れ違いに、1人の男が事務所へ入ってきた。

「相変わらずご執心だね、彼に」
「白崎か……」

白崎と呼ばれた男は続ける。
152以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:39:29.49 ID:XF3o9W220
「薔薇水晶が不満そうにしていたよ、早く戻って来いってさ」
「いい音だ……」
「……へ?」

突然、槐が変なことを口走るので、白崎は混乱する。

「彼のRだ」

白崎は窓の外を見た。
ちょうど、ジュンのRが暖機運転をしているところだった。

「ああ、確かにRのエキゾーストノートはいいね」
「違う」
「はい?」
「エンジンの音だ」
「エンジンの音?」

工場の喧騒にまぎれて、ジュンのRの音が響いてくる。
メカニックたちは、ほとんどジュンのRに目もくれず、仕事を続けていた。
その中で、槐はわずかに聞こえるその音に、耳を傾けていた。

「彼には才能がある、持って生まれた才能が。だが、経験が足りない」
「最近はチューニングの仕事がないらしいからね、彼」
「それでも、僕は彼の組んだエンジンの音が、とても心地よいと感じている」

ジュンのRは、暖機運転を終えて工場を出て行った。
153以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:48:05.75 ID:GFpwEzjnO
すいません
規制食らってしまったので、続きは緊急スレでおねがいします。
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 18:59:32.35 ID:GFpwEzjnO
緊急投下スレで投下完了しました。
お騒がせして申し訳ないです。
155以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:08:55.53 ID:pQztBuqgO
>>153
規制大変だろうけど頑張って。

さて、悪魔に乗ったジュンがどんな経験を得るのか…wktkして待ってます。つか小指立てるノリ想像したら萌え死んだw
156以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:13:41.47 ID:4RGG6u8E0
規制だと……そんな馬鹿な
157以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 19:48:04.16 ID:pQztBuqgO
保守よぅ
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 20:03:37.00 ID:1ThU1pjl0
ho
159以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 20:06:11.62 ID:XF3o9W220
湾岸メイデンのものです。
先ほどはご迷惑をおかけしました。

連投規制で投下できなかった分です。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/7014/1161436125/762-764

あと、まとめwikiのページです。
一気に読みたい方はこちらへどうぞ。
http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4118.html
160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 20:37:09.86 ID:JedHEU0hO
ほしゅ
161以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 21:12:38.77 ID:pQztBuqgO
保守なのだわ
162雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:37:36.53 ID:4RGG6u8E0
こんばんわ。クリスマスは仕事でした。

多分来年も仕事でしょう(´・ω:;.:...

一日遅れ、しかも雑な文になってしまいましたが雪華綺晶達のサンタ探しの結末をどうかお楽しみください。では一日遅れのメリークリスマス!
163雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:39:51.63 ID:4RGG6u8E0
「キラキショウさん、スイギントウさん、早速ですが搭乗手続きだけしておきましょう」

ピチカートと水銀燈のお姉さまから電話があってから一日後、私は旅行用の大きなカバン片手に空港内にいた。
目の前にはスーツケースを持ちながらジーンズと可愛い黄色のセーターを着こなすピチカート、横にはやけに荷物が少ない、というかやや大きめのリュックサックだけを肩に掛けている水銀燈が。
この空港に着くまでも私は色々と、というかお腹が空いて大変だったのだが割愛させてもらうとしよう。

「パスポートは皆さんもってきましたよね? それを機械に読み込ませ、あとは座席の確認、預ける荷物等は預けちゃってください。あと、キラキショウさん」

ピチカートが私を手招きしている。愛の告白でも囁いてくれるようには見えないが……。


「キラキショウさん、まさか変なもの持ってきてませんよね? 持ち物検査で引っ掛かったら洒落になりませんよ」

「大丈夫、大丈夫。変なものは全部別ルートでげふんげふん」

「……ま、まぁそれならいいですけど」

あんまり心配しなくても大丈夫だピチカート。私の裏ルートを舐めてもらっては困る。おそらく今頃は危なげな薬と共に太平洋を渡っているだろう。

「では適当に各自お願いします」

と、私達は各自搭乗手続きやら席、そして大事な機内食を選択した後、先程の場所で落ち合った。

「出発まであと少しありますからカフェで休憩しませんか? 」

「そうしましょうよぉ。私、人混みでもう疲れちゃったわよぅ」

ふぅ、とため息を吐くお姉さま。確かに空港というものは様々な人種、文化が混雑している。
はじめは目新しいのだが、慣れてしまえばそれは疲れにしかならない。見る側としては複雑より単純の方が疲れにくいのと一緒だ。
164雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:40:41.00 ID:4RGG6u8E0
「そうですね、あと一時間近くありますし、休憩しましょうか」

私達は近くのカフェに入り、ドリンクを注文する。ピチカートはレモンティー、お姉さまは……さすがに乳酸菌は無く、コーヒー。私はとりあえずオレンジジュースで十分。
適当に席を取り、座るとコーヒーを手で包むようにしているお姉さまが口を開く。

「そういえばピチカート、貴方よくサンタクロースがフィンランドにいるなんか知ってるわねぇ」

「いえ、正確には私にも分かりません。小さい頃にサンタクロースというものはフィンランド在住だと教えられたので」

ピチカートとしては裏付けがない情報だな、と私はオレンジジュースを吸いながら思う。まぁ、元々存在自体が危ぶまれているものの情報裏付けなど無理な話ではあるが。

「そういえばピチカートの生まれ故郷ってどこなのよぉ」

「私ですか? 私は北欧生まれですが」

へぇ、と水銀燈が何かを模索する。多分頭の中にはヨーロッパの地図が浮かび上がっているのだろう。しかしやはりピチカートは外国籍の人だったのだな、と改めて思う。
確かに容姿も日本人とはかけ離れた、といえば弊害があるのかもしれないが、羨ましいスタイルはここが由来なのだろう。

「父が北欧系で母はロシア系なんです。母の妹がミッチャンの御親戚と結婚しまして、その繋がりで私は今のようにミッチャン宅へお世話になっている、というわけです」

「なるほどねぇ……けどなんでこんな極東まで留学する気になったわけぇ? 勉強するんだったら別にイギリスとかあったでしょう」

「いえ、恥ずかしい話なのですが私、元々日本の忍者とか侍に憧れていまして。その影響で北欧にいた頃、柔道と空手をマスターしたくらいなんです。ですからもしチャンスがあったら日本に行こうって。
そしたら叔母さんが日本人と結婚したじゃありませんか、これはチャンスだなと思って家を飛び出してきたわけなんです」

「……貴方もなかなかのお馬鹿さんなのねぇ」

お姉さまがため息を吐く。
素晴らしきかなピチカート。そんな君の心意気が私は大好きだよ。
……ん、待てよ。ピチカートは北欧生まれと言ったな。となると
165雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:41:05.47 ID:4RGG6u8E0
「ピチカート、貴方もしかしてフィンランド行ったことある? 」

「いえ、さすがにそこまでは」

「だけど北欧ってデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドにアイスランドよね? 」

「ええ。よくご存じで。ですから一応サンタクロースの話題もかなり信憑性があるんです。すぐ隣の国にはサンタがいると教えられてきましたから」

なるほど。確かに日本でサンタがいるといわれるより、北欧でいると言われたの方が信じられる気がする。

「少し北欧の、そしてサンタクロースの事もしりたいんだけど」

「ええ、よろこんで。目的地までは十時間ほどありますから」

と、ピチカートが満面の笑みで笑う。

日本からフィンランドまで約十時間。さてはてどこまでピチカートの話を聞けるだろうか、と私は氷だけが残るグラスを音をたてて啜った。



「では、何から話しましょうか」

私たちが乗る飛行機が重力に逆らい始めて数十分経過した頃、私の隣に座るピチカートが口を開いた。
席はやはりファーストクラスだからか、思った以上に広く心地が良かった。これならばエコノミー症候群も心配はないだろうとは思ったが、そもそもエコノミー症候群とは長時間座席に座っていることでひざ裏の静脈が血で塞がってしまう病気である。
他に飛行機は乾燥しているので体内の水分が無くなり気味になることも関係しているのでエコノミー、ファースト関係なく対策をしなくては。
まぁ、エコノミーよりは若干予防できているのだろう。せっかくの海外旅行、ここぞという時にお金は使わなくてはいけない。

「じゃあ、ピチカートのスリーサイズから」

「えっと、上から87の56の」
166雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:42:12.90 ID:4RGG6u8E0
「いや、本当に言わなくていいから恨めしい悩殺ボディめ」

「……冗談ですよ。じゃあサンンタクロースのことから話しましょうか」

と、ピチカートは先ほどスチュワーデスさんから頂いたコーヒーを口に運ぶ。
ん、しかしバスト87のウエスト56か……あれ? 下手するとFカップじゃないのかソレ。真紅が聞いたら怒りと抑えきれない悲しみから何をするか分からないレベルのような気がしてならない。

「そうですか? では少しサンタクロースについて語らせていただきます。スイギントウさんは……フィンランド語会得に夢中ですか。別にスウェーデン語でも構わないとは思いますが」

と、右隣を向くとお姉さまが小難しい本、のように見えたがそれはピチカートが飛行機に乗る前に私たちに渡した『ジャンクにもわかる楽しいフィンランド語』というあからさまなタイトルのものを眉間に皺を寄せながら読み漁っていた。

「では、サンタクロースを話すとなると4世紀頃の東ローマ帝国まで遡らなくてはなりません。キリスト教の神父であった聖ニコラウスはある日、貧しい家庭の存在を知ります。そこには三人の娘がいましたが家庭の貧しさのせいで嫁がせたくても可能ではありませんでした。
その以上に、この三人の娘は身売りされる寸前だったのです。それを知ったニコラウスは真夜中、その家の煙突から金貨を投げ入れました」

「真夜中、煙突から……よほど身軽だったのでしょうね、ニコラウスは」

「まぁ、所詮伝説のお話ですから。そのニコラウスの投げ入れた金貨は暖炉に偶然にも掛けられていた靴下にホールインワン、とでも表現しておきましょうかぴったりと中に入ったといわれています。
その金貨のおかげでその三人の娘は身売りを避けられたといいます。もうお分かりでしょうがそのおかげで今でもサンタクロースは靴下にプレゼントを入れる、という習慣が生まれたと言われています」

成程。要するにそのニコラウスというパーフェクト超人の人助けの話がサンタクロースに繋がったわけ……といわれてもぴんとこない。そもそも聖ニコラウスとサンタクロースじゃまるで名称が似てないじゃないか。

「時にキラキショウさん、オランダ語は得意でしょうか? 」

私は首を横に振る。オランダのイメージなんぞ風車とチューリップしかない。

「14世紀頃にはその聖ニコラウスの命日をオランダでは祝日としていました。オランダ語で聖ニコラウスは『シンタクラース』それが後にアメリカに移住したオランダ人が『サンタクロース』と伝えた事からサンタクロースという名称が広がったといわれています。
ちなみにサンタクロースの赤はコカコーラとは全く関係ありませんので」

「おまけ情報までどうも。しかしそれじゃあ本当にサンタクロースはいないってことにならない? だって聖ニコラウスはもう死んでるんでしょ? 」
確かに、とピチカートが頷く。すでにモデルとなった人物は無くなっているのだ、となるとサンタクロース自体も死んでいることになる。今までプレゼントを配っていたのが亡霊ではなんとも救われる気がしないではないか。
167雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:43:19.98 ID:4RGG6u8E0
「要はその伝説のサンタクロースの名を継いだ何者かがいるというわけですよね。噂ではサンタ養成学校まで存在しているらしいですが」

「養成学校!……まぁ確かにサンタになるには勉強も大事だとは思いますけどそうなるとサンタというものは量産タイプということになってたくさんのサンタクロースがいるということに」

「そうでもしなければ世界の子供たちにはプレゼントは配れないでしょう。私が思うには多分サンタクロースのそりなどにもオーバーテクノロジーあたりでしょうね。バリアとかステルスとか無くては今の世の中ではやっていけませんよ。領空侵犯もいいところですからね」

「また夢のない話を。だけど実際そうなのしょうね。もしかしたら真紅みたいな女の子が対空射撃とかで苦労しているかもしてませんわ」

と、私たちは笑い合う。赤といえば真紅だ。もしかしたら、世の中にパラレルワールドなんていうものがあるのなら、そんなサンタクロース真紅が苦労しているかもしれない。しかしそれはまた別の世界の話である。

「とりあえずフィンランドに着いたらサンタがいるという場所に向かいましょう。詳細はおいおいということで」

ピチカートは少しコップに残っていた冷えたコーヒーを飲み干す。お姉さまはまだ本を読んでいるがまったくページが進んでいない。

「まだ時間はあります。しばしサンタクロースに会ってからの口説き文句でも考えておきますよ」

「貴方に口説かれたらどんな女の子もイチコロだと思いますが」

「それは御謙遜を」

それは本当だ。まぁ、それはもとよりサンタクロースが女性だった、という場合に限るのだが。なんて言ってしまったら自分の身が危ないので心のうちに秘めておく。沈黙は金、というではないか。

フィンランドまであと八時間。
先は長く、そして機内は何故か寒い。


雲泥の空からは白い、綿のような雪が永遠と降り続き、地を白銀の大地に染め上げている。
周りには民家などは無く、ただ、時々枯れた針葉樹が雪に埋もれ凍えているだけであり、まるでここは砂漠の、私は砂漠なんて言ってことないのだがそのような限りなく無限の大地が続いているような感覚に襲われる。

まぁ、正直遭難しているだけなのだが。
168雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:43:49.37 ID:4RGG6u8E0
「寒い、寒いわよぉ……ピチカートもう帰りましょうよぉ」

「我慢してくださいスイギントウさん。もう少しで着く筈ですから」

「それ一時間前も聞いたわよぉ。めぐ、私もう駄目かも知れないわぁ」

フィンランドの空港に到着し、すぐにタクシーに飛び乗った私達は、というかピチカートに引っ張られ乗せられた私と水銀燈のお姉さまはただ連れて行かされるまま、気がついたら暖かな毛皮のコートに身を包みながら雪原に突っ立ていたというわけだ。

「確かこの方向だったような気がするんですが」

そしてこの状態で三時間歩き続けているというわけで。

「ああ……暖かい暖炉が恋しいわぁ」

もうすでにお姉さまは限界を超えたわけで。

「ピチカート大丈夫なんでしょうね。もうお姉さまが限界というか幻覚まで見始めているから早めにサンタクロースを拉致ってしまいましょう」

私はただ、ひたすら重苦しいこのスナイパーライフルを担ぎつつ雪道を歩き続けていた。
このスナイパーライフルどうも高性能らしく詳しいことは知らないがどこかの伝説の怪盗レプリカなんだとかではないとか。

「はい、それはわかっているのですが……やはり何か私たちが知らない技術を利用して蓑隠れしているのでしょうか」

「もしかしたらそうかもしれないけど……あっ、看板がある」

「あら、ほんとですね。しかしなぜこんな所に看板が……えっと何々……『この先、サンタの聖域。一般人近づくことなかれ』ですって。着きそうですね」

「なんというご都合主義……なんても言ってられませんわね。お姉さま、水銀燈のお姉さま!! もう少しでサンタとの聖戦が始まりますよ」

「めぐぅ……私はやっぱりジャンクだったわぁ……ブツブツ」
169雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:44:24.68 ID:4RGG6u8E0
もう手遅れ、ではないことを信じたい。というかそろそろどうにかしなければ本当に水銀燈が死んでしまう。

「キラキショウさん、見えてきました。あの要塞でしょう。ほら、わかりやすく看板に『サンタの家』と」

どれ、と私はピチカートの指さす方向に目を凝らすと、確かに煌びやかなデコレーションと共に『サンタの家』とある。
いやほんとにあったのか。まったくまだまだ世界も捨てたものではないな。私が思っている以上に世界は夢と愛に溢れているらしい。

「とりあえずチャイム鳴らしておきますか」
ピチカートが要塞……というか工場のような建物の呼び鈴を鳴らす。というか呼び鈴が付いているという所に突っ込みたいところだが、ここはフィンランド。郷に入れば郷に従えというからな。
ピンポーン
おっ、この呼び鈴は世界共通……なわけ無い。となるとこの呼び鈴は……。うむ、何か裏がありそうだが、深読みしすぎだろうか。

「……はい。只今参りますぅ」

といったような気がした。正直私にはフィンランド語だがスウェーデン語は分からない。ニュアンスだニュアンス。

「あれ、この声どこかで……」
「ピチカート? どうしたの」
いえ、とピチカートが首を横に振った。ありえない、という顔をしているが……私には詮索できそうにない。

「すいません……もうクリスマスのプレゼントの予約はおしまいなのです……が……? ピチカート!」

「あっ、貴方はスイドリーム!! なぜあなたがこんな所、ってちょっと!! 」

「ピチカート会いたかったよぉ。寂しかったよぉ……ぐすん」

扉から出てきたのは真っ赤なサンタクロースのコスプレ、ではなくて彼女は本当のサンタクロースなのかもしれないが黒髪の小柄で大人しそうな女の子がピチカートを見るなり、その大きな瞳に涙を溜めて抱きついた。
さすがはピチカート。一目で相手に惚れられたか。

「違いますって、キラキショウさん! ってスイドリーム何であなたがここにいるんですか!? 私たちはサンタクロースに会いに来て、って何どさくさにまぎれて胸揉んでるんですか貴方は!! 」
170雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:44:53.64 ID:4RGG6u8E0
「ピチカートだぁ。本当にピチカートだぁ。懐かしい匂いがするぅ……あっ、おっぱいは成長してる。むむむ」

「ですからスイドリーム!! もうキラキショウさんもスイギントウさんは……無理だとしても止めてくださいって、うぁ止め」

「あっ、ごめんねピチカート。久し振りだからついつい興奮しちゃってぇ」

と、ようやくスイドリームと呼ばれた女の子はピチカートを解放した。いかんせんピチカートの顔が赤いのは気のせいということにしておこう。

「とりあえず入って入ってぇ。忙しいけどピチカートが来たとなれば話は別だよぉ」

「そうですか、ではお邪魔しますが……。スイギントウさんを少し休ませてあげなくては」

振り向いたピチカートに私はこくりと頷くと、そのまま水銀燈に肩を貸しながらこのサンタクロース要塞に潜入したのだった。


「で、スイドリーム、なぜあなたがこんな、しかもサンタの家にいるのですか? 」

「話すと長くなるから簡潔にいうと実は私のおじいちゃん、サンタクロースだったんだぁ」

「はぁ!? す、スイドリームのおじいちゃんがサンタ……? 」

どうぞ、とスイドリームから差し出された暖かな日本茶を口に含んだ。うん、これは確かに日本のお茶だ。サンタの趣味だろうか。
私の隣で水銀燈はようやく状況を理解し始めたのか、落ち着かない様子で日本茶を飲んでいる。

「ピチカート、悪いけど貴方達の関係を教えてくれない? 」

「はい、私とスイドリームは幼馴染なんです。家も隣で高校まではいつでも一緒だったのですが、高校を卒業してから3日後、置手紙と共に家ごと無くなりましてね。焦りましたよ、その時は」

「ごめんねぇ、ピチカート。私の家系は高校卒業したらみんなサンタ養成学校に通わないといけないんだぁ。ほんとはピチカートだけは伝えたかったんだけど、おじいちゃんがそれは秘密にしなさいって、私悲しくて悲じぐで、うぅ……ピチカートォォォォ!! 」
171雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:45:33.11 ID:4RGG6u8E0
涙目鼻水スイドリームが再びピチカートの胸元へ見事なまでのダイビングプレス。おふぅ!? という声が室内に響いた。

しかしまさかピチカートの親友がサンタクロースの家系とは。世の中とは狭いというかよく出来ているというか。この偶然がいつかわが身に災厄となって降り注ぐような気がして少し恐怖を覚える。

「私寂じがっだんだよぅ〜、友達ルドルフしかいないじぃさぁ、うっうっ……」

「ル、ルドルフってあなたの家で飼っていたトナカイ……あっ、確かに赤鼻だった」

「それにさぁ、おじいちゃん腰痛めて今年は私が頑張らないといけないじぃ、もう不安で不安で」

「わ、わかりましたからもう泣き止んでください!! まったくあなたは昔から泣き虫だ……そうか、貴方のお爺さんはサンタクロースだったのですね。だからお爺さんに欲しいものを言うと欲しいものがクリスマスに届いたわけだ」

ピチカートがスイドリームを抱き上げる。いつの間にか泣きやんでいるのを見ると彼女はそういうタイプらしい。

「スイドリーム、実は私達が今日こんなところまで来たのは貴方、いやサンタクロースを私たちのパーティに招待しに来たのですが」

「パーティ! しかもジャパンで! もちろん、行かせていただくわぁ。私もいつかジャパンに行きたいって思っていたの。おじいちゃんもぜひ連れて行きたいわ……けど今日はクリスマス・イヴ。私とおじいちゃんは世界の子供たちにプレゼントを配らなくてはいけないの」

「ええ、わかっています。すべてが終わってからでいいです。親友の貴方に無理強いはさせたくありません」

「大丈夫必ず行くわ……積もる話もたくさんあるのよ、私」

にこり、とスイドリームが笑う。何はともあれピチカートと水銀燈の野望は達成された訳で……ん、何か忘れているような。

「今日は……クリスマス・イヴ? となると日本まで頑張っても八時間、どう考えても間に合わないですわ、ピチカート! 」

「あっ、もちろん私が送っていきますわぁ。そりなら日本まで一時間かかりませんわぁ。サンタクロースのそりに乗って日本に帰るなんてロマンチックでしょう。雪の精霊さん」

「それはロマンチックで、サンタガールさん」
172雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:53:13.80 ID:GDo2ARRSO
と、私が微笑み合っていると、一応言っておくがこれは作り笑いの笑みではないと付け加えておこう。ああ、決して作り笑いではないのだが、奥の扉が開いた。

「スイドリームよ、そろそろ出かける……おっ、君はピチカート久しぶりじゃのう。ジャパンに行ったと風のうわさで聞いたのだが」

扉の奥からは……白ひげに赤い衣装の本当のサンタクロース。お姉さまが顔を上げた。

「お爺さん! お久しぶりです。本当にサンタクロースだったなんて吃驚ですよ」
「ほっほっほ。子供達には内緒にしておくれよ……そちらの方々は君のジャパンのお友達かね」

と、サンタクロースがこちらを振り向く。
おお、本当にサンタクロースだ。見ているだけでとても暖かな気持ちになる。やはり彼には特別な力、というかオーラがあるのだろう。

「ええ。キラキショウさんとスイギントウさんです。日本でよくお世話になっていまして」
「ほっほっほ。そうかそうか。これからも仲良くしてあげてくださいね。キラキショウさん、スイギントウさん。ピチカートは昔から少し無愛想なところがあってのぅ」
「いえいえ、私たちがお世話になっているくらいですわ。それよりも時間があまりないのでしたわよね。日本に送っていただけるなんてまことに申し訳ないのですが」
「いやいや、気にせんでよいよい。これも何かの縁じゃろ。さぁ、出発しようかのぅ」

と、サンタクロースが重たそうに白い袋を担ぎあげる。あの袋に世界中の子どもたちの夢が詰まっているのだろうか。中は四次元ポケットとか何かでできているの違いない。
「あ、あのサンタクロース! ……さん」
さっきまで呆け気味だった水銀燈が突如立ち上がり、サンタクロースを睨む、まではいかないが意志の強いまなざしを向ける。

「わ、私……その私は、貴方に昔」
「ほっほっほ。もう家出はしなくなったようで嬉しいのぅ。銀髪のお嬢さん」
「……憶えててくれた」

もちろん、サンタクロースは水銀燈の頭にポン、と掌を載せる。慈愛にあふれたその大きく、やさしい掌を。
水銀燈はもう何も言わず、下を向いていた。
もしかしたら彼女は泣いていたのかも知れない。だけど、それ以上は私が土足で踏み入ることじゃない。
173雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:53:49.67 ID:GDo2ARRSO
あくまで、彼女の、美しい聖夜の思い出なのだから。

「さぁ、皆さん出かけましょう。世界中の子どもたちが待っていますわぁ」

「ええ、行きましょう。ベリーベルが待っている」

「ってなんでピチカートまでサンタ服着ているのですか!? 」

こっちが感傷に浸っている間に彼女はいつの間にか短いスカートのサンタ服、まるでどこかのイケナイお店のお姉さんみたいな、そんな恰好に着替え真面目な顔で突っ立っていた。

「いや、ついつい」

「ついついって……って私もいつの間にかにサンタ服!! スカート短い、胸苦しい!? 」

「あ、それは私も思っていたのですが……これスイドリームのお古ですか」

ぱつんぱつんの胸元を少し気にする彼女を恨めしく……いや今回はお互い様か。まあこれからサンタのそりに乗るのであればこれが正装なのかもしれないから我慢しておこう。

ちなみに水銀燈のお姉さまは私たちとは違い黒いサンタ服なのはこのサンタクロースの趣味なのだろうか。それとも小さなサンタの趣味か。

「雪の精霊さんとピチカート、私はルドルフ達に、おじいちゃんと水銀燈さんはヴィクセン達のそりに乗ってください〜。では世界に夢を! そして愛を! 」


12月24日只今午後9時。空にはいつの間にか雪が舞い散り。下に見える都会をデコレーション達と共にホワイトクリスマスとして染め上げている。目の前には赤鼻のトナカイが悠々とそりに乗る私たちを運んでいた。
隣ではお姉さまが本当のサンタクロースが華麗に宙を飛んでいる。

まるで夢みたいだが頬を引っ張ってもベッドから転げ落ちないのを見るとやはりこれは現実らしい。耳元でなる鈴のリズムを心地よく思いながらそしてサンタクロースの歌を口ずさむスイドリームの横顔を眺める。
彼女が言うには世界には彼女らの他にもたくさんのサンタクロースがいるらしい。たとえばオーストラリアのサンタは水上スキーが得意なお爺さんだったり、グリーンランドにはサンタの長老がいたり。
普段は一般人でも今日だけはサンタクロースとして世界に夢を配るという。
それが彼女らの使命だから。
174雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:54:19.40 ID:GDo2ARRSO
「見えてきました、あの病院の脇の教会です! 」

「はいはーい。ルドルフ〜任せたよぅ」

高度が下がる。私たちの世界が近くなる。ほら、もうすぐそこに私たちの愛する人らが待っている。
病院の子供の一人が窓から私たちに手を振る。柿崎めぐの担当の看護婦が驚いた表情を向ける。
これは真夜中の夜の夢。今夜限りの幻想。

「ピチカートゥゥゥ、おかぁえりぃ! 」

「ベリーベル、ただいま帰りましたぁ! 」

ほら、下からベリーベルの声がする。柿崎めぐの驚く表情が目に浮かぶようだ。隣のそりで水銀燈が、照れているのか少し誇らしそうな表情をしている。
翠星石と蒼星石は信じられないものを見たような顔を。意外にも真紅は落ち着きを払っていて、雛苺ははしゃぎ飛び、それを柏葉巴が楽しそうに眺めるというか少しは驚いてくれ柏葉巴。
金糸雀とみっちゃんはピチカートに手を振っていて、桜田ジュンは目を擦っている。のりは……ああいつも通りニコニコと。

そして

「おねーちゃん、お帰り」

薔薇水晶は最高の、本当にすべてがとろけてしまいそうな満面の笑顔で私を迎えてくれた。

「少し遅刻してしまいましたね」

「そんなことないよ。まさかサンタさんにそりで帰ってくるなんて思わなかったよ」

「私は期待を裏切らない人ですから」

地面に降りたったそりから私は薔薇水晶に向かって飛び、抱きしめた。
175雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:54:48.00 ID:GDo2ARRSO
「メリークリスマス、薔薇水晶。愛していますわ」

「メリークリスマス、おねーちゃん。私もだよ」

結局、私は彼女にプレゼントは渡せなかった。けど、その代わりみんなに最高の出会いをプレゼントできた。

たまにはこんな破天荒なクリスマスもいいだろう。私は心から思う。

世界と、

すべての愛する人に

「メリークリスマス! 」



『そして雪が華(はなさ)く教会の下で』
176雪華綺晶的な思考:2008/12/26(金) 21:55:35.36 ID:GDo2ARRSO
以上です。途中から携帯さんの力を借りました。では皆様また出会えたら。
177以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:25:21.51 ID:pQztBuqgO
読む前ほ
178以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:31:39.30 ID:pQztBuqgO
>>176
ちょw本当に居たw
しかも個人的な願いまで叶えてくれるとは…最近のサンタは可愛くていいねぇw
179以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:53:23.81 ID:YXj9nDrs0

「はぁ――」(´・ω・`)

「どうかしたの、ジュン。そんな不景気な顔しながら歩いているなんて」
「ああ……真紅か。別に――なにもないよ」
「嘘ね。なにもなくて、そんな溜息が出るわけないもの」
「うるさいな。ほっとけよ」
「そうはいかないわ。もし自殺でもされたら、最悪の年末年始になるでしょう。
 私でよければ、話してみない? いいえ、話しなさい。さもないと帰さないわよ」
「……相変わらず、お節介なヤツだな。
 まあ、いいだろう。そこまで言うなら聞いてもらおうか」
 ・
 ・
 ・
「かっこ悪い話なんだけど、実はさ――クリスマスプレゼントを用意してたんだ。
 がんばった自分へのご褒美にって」
「自分に贈るためのプレゼント? 寂しい人ね」
「そう言うなよ。これくらいの張り合いないと、やってられないんだよ」
「まあ、喜び方は人それぞれだけれど。でもそうなると、ますます解らないわ。
 自身にプレゼントして……ささやかながら、お祝いしたのでしょう?
 なのに、どうしてあんな憂鬱な顔をしていたのかしら」
「……奪われたんだ。僕のプレゼント……通販で買ったやつ」
「ひどいわね。一体、誰が?」
「姉ちゃんだよ。宅配で送られてきたのを、そのまま強奪しやがった」
「のりが? どうして、そんな――」
「気に入らなかったんだろ、きっと。だから奪って、どっかに隠したんだ」
「あなた一体、ナニを通販で買ったの?」
「えっと、その……『おっぱいがいっぱいセット』」
「……はあ?」
180以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:53:46.30 ID:YXj9nDrs0
 ・
 ・
「まったく、想像以上に下劣ね。そんな物、没収されて当然でしょう」
「けどさ、一万五千円もしたんだぜ。それを――はぁ〜(´・ω・`)」
「はぁ〜(´・ω・`)。私の方が溜息を吐きたいわよ、もう吐いてるけど」
「おっぱい……僕の……おっぱい……いっぱい、おっぱい……ううっ(´;ω;`)」
「鬱陶しいわね。泣きながら、おっぱいおっぱいって」
「だって届くの楽しみにしてたんだ。それなのに…………おっぱい」
「仕方ないでしょう。諦めなさい」
「いやだっ! こうなったら力尽くでも姉ちゃんに在処を吐かせてやる!」
「待ちなさい、なに言い出すの。ダメよ暴力は! 考え直すのだわ」
「おっぱいこそ正義。おっぱいの為なら僕は悪にでもなる」
「病気よ、あなた。病院に行きましょう」
「その前に、おっぱい見せい」
「これは重傷ね。えいっ!」スパーンスパーン
 ・
 ・
「少しは落ち着いたかしら?」
「うん、ごめん。つい取り乱した」
「よかったわ。ハリセンって混乱回復の効果があるのね」
「らしいな。ところで、真紅」
「なぁに?」
「一日遅れだけどさ――僕に、プレゼント……くれよ」
「えっ?」
「おまえの……欲しい…………おっぱい」
「なっ、なにするのよ! きゃっ……やめなさい! やめ――」
「強奪してやる……ヒヒッ」
181以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:54:12.96 ID:YXj9nDrs0
 ・
 ・
 ・
『次のニュースです。
 三日前から行方の解らなくなっている真紅さんの捜索が、明け方から再開されましたが、
 依然として何の手懸かりも見つからないまま夜を迎え、今日の捜査が打ち切られました。
 警察は身代金目的の誘拐という可能性も視野に入れながら、近隣での聞き込みを――』
 ・
 ・
 ・
「おーおー物騒だねえ。やだやだ。ひどい世の中になったもんだよ。
 そこいくと、僕なんか……ヒヒヒ。

 
 真紅……姉ちゃん……フヒヒ……
 いっぱいだ。おっぱい……いっぱい……フヒヒヒ……


 おっぱいに囲まれて、僕ぁ幸せ者だなぁ。
 おっぱいがいっぱい! ダブルで!
 いやいやいや……最初の入れればトリプル? ターキー? 
 ハッ! トライアングル! そうだよ、魅惑のトライアングル完成ジャマイカ!」

「ジュン……もう許して(´;ω;`)」
「ジュン君……お願いだから正気に戻ってよぅ(´;ω;`)」
「なに言ってんだよ。魅惑のおっぱいトライアングル探検はこれからだぜー。
 ぎゃはははあ――」

【プレゼント】【強奪】
182以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 22:55:02.29 ID:YXj9nDrs0
>>179-181
以上。
すまない。ちょいダークなの書きたかっただけなんだ。そんだけ。
183以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:22:53.24 ID:pQztBuqgO
184以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:46:49.91 ID:JedHEU0hO
ホシュ
185以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:47:33.58 ID:10sWw+QsO
保守
186以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/26(金) 23:55:52.63 ID:6h1km+FS0
>>175
銀ちゃんカワユス
187以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:00:04.32 ID:OXr1kSrA0
188以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:10:12.61 ID:Ic2smhB4O
>>138
死ね
189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:11:01.98 ID:Ic2smhB4O
>>174
糞キム死ねやクズが
190以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 00:33:57.38 ID:/IUOO7aDO
ほしゅ
191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 01:05:15.50 ID:/IUOO7aDO
保守
192以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 01:49:22.78 ID:LQ3dMbHRO
ねるぽ
193以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 02:16:54.24 ID:kqUfTqd6O
睡眠導入に付随するスレッド保守活動




ねるほ
194以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 02:52:55.05 ID:YNMD//zoO
寝るほですぅ
195以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 03:24:41.44 ID:o5TaW53KO
ねるほ
196以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 05:41:51.30 ID:kqUfTqd6O
トイレほ
197以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 07:15:47.29 ID:Q72RD7yJ0
ho
198以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 08:37:25.86 ID:LQ3dMbHRO
199以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 09:52:31.09 ID:YNMD//zoO
200以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 10:28:54.29 ID:ll3lgINvO
200保守
201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 11:42:11.87 ID:YNMD//zoO
保守
202以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 12:23:14.51 ID:ECYP6DWV0
ほし
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 13:02:48.17 ID:w4+8Y1aJ0
保守かしら!
222は絶対カナが取るのよ〜♪
204以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 13:10:02.21 ID:Ic2smhB4O
>>203
死ねゴミ
205以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 13:51:30.66 ID:S2Emj7f20
ほしゅ
206以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 14:37:45.24 ID:kqUfTqd6O
保守なのよ
207以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 15:18:49.21 ID:eLupx1/UO
保守です、お姉様。
208以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 15:49:05.03 ID:S2Emj7f20
209以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 16:29:04.23 ID:ll3lgINvO
ほしゅ
210以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 17:08:15.10 ID:o5TaW53KO
211以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 17:13:26.58 ID:eLupx1/UO
イヒヒヒですぅ
212以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 17:54:58.88 ID:S2Emj7f20
213以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 18:31:28.27 ID:kqUfTqd6O
雪「草笛みつさん…私はアナタを尊敬しなくてはなりません。今までの無礼どうかお許しください」パクパク
み「気にしない気にしない。計算して私とカナじゃ処理しきれないって解ったからアナタを呼んだだけなんだからさ。あ、それちょっと分けて」モグモグ
雪「どうぞ。…しかし、この種類と量には感動の念を禁じ得ません。実に素晴らしい。あ、それ取っていただけますか?」ムシャムシャ
み「はいよー。ま、コネクションの賜物ってやつかしら。副産物を上手く利用するのは生活の知恵よきらきーちゃん」ペロペロ
雪「肝に銘じておきます。いやはや、それにしても…」

ずもももも…←ケーキの山

み「うふふ…残りモノには福がある、かしら?」
雪「いえ…ここにあるのは聖夜の売れ残りで、幸せの残りカス。その味わいは、まるで不幸の蜜よう」
み「詩人ねぇ…でも感謝しなくちゃね。カップルなりなんなりが居なくちゃ、これらは産み出されなかったのだもの」
雪「しかり、ですわね」
み「ああ…やっぱり本当に…」
み雪「クリスマスって蝶最高♪」
214以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 18:42:00.60 ID:S2Emj7f20
>>213
きらきー上手い事言ったw
215以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 19:19:50.99 ID:LQ3dMbHRO
ほし
216以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 19:50:40.31 ID:S2Emj7f20
217以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 20:27:13.39 ID:kqUfTqd6O
保守ですわ
218以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 20:28:33.91 ID:ll3lgINvO
>>113
みっちゃんもすごいが食い切る気満々なきらきーもすごいなwww
219以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 20:59:17.44 ID:eLupx1/UO
保守です
220以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:28:24.07 ID:eLupx1/UO
ほ し ゅ
221以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:52:10.91 ID:ll3lgINvO
巴「ふふふ。買いました、買っちゃいました。クリスマスは無理だったけど新年早々桜田君と【ero】するための下着」

巴「恥ずかしかったんですけど、でも、ねぇ?」

巴「ちなみにアレです。紐と布しかないし・た・ぎ(はぁと)」

以下妄想なので省略





雛「ちなみに紐パンじゃなくて……」
雛「ふんどし、なの」
222以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:56:47.90 ID:1dGcTk8q0
>>221
ペアルックで買ったのかどうか、それが問題だ。
それによっては、相撲がとれるものね。


まさかの年内規制解除ktkr。
というわけで、

『FANTASY』改め、
『ファンタスティック翠ドリーム』

かなり間が空きましたが、投下します。
前回の更新から1年以上が過ぎているので、大まかな内容は
↓こちらで確認してもらえると嬉しいです。
http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/3029.html
223以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:57:09.55 ID:1dGcTk8q0
安っぽい木のドアが、耳障りな軋みをたてて内側へと開いていく。
その隙間が広がるにつれて、店内から、頼りなげな明かりが漏れてきた。
足元を照らす光の色合いと、独特の揺らめき具合から、ジュンは瞬時にキャンドルを連想した。
たぶん、燭台かオイルランプを照明に使っているのだろう。

「どうやら、まだ営業中みたいね」と、みつ。
「うん。助かったよ」ジュンも、ひとまず胸を撫でおろす。

「タックルって看板を出すくらいだから、道具一式を売ってるよな、きっと」
「そうねー。問題は、あたしたちの所持金で、どれだけの装備が買えるかだけどー」
「ぐぁっ!? それは言わないでくれ。鬱になるから」

のり姉ちゃんが、彼のためにコツコツと貯めてくれた軍資金――
それを、むざむざ失ってしまった罪悪感に、ジュンは苦しんでいた。

「奪われるくらいなら、姉ちゃんのために使ってあげたかったよ」
「んー。まあ、出鼻を挫かれて悲観的になるのも、解らなくはないけどさー」

みつは、明るい声で言いながら、ジュンの背中をバシンと叩いた。
「過ぎたこと、いつまでもグズグズ言ってたって始まらないでしょー。
 さあさあ、歩みを止めるな、少年っ! ファイトファイトぉー」

まったくもって、そのとおり。クヨクヨしてたって、金は天から降ってこない。
それに、この幻想世界に来た目的は、7日間短期集中エクササイズ。
ココロの樹を探しながら、様々な経験をして、精神修養を積むことだ。
甘えの原因がなくなったことは、むしろ良かったと思うべきかも知れなかった。

「……そうだな。悄気てる場合じゃないや」
『艱難、汝を玉にす』と、諺にもある。七難八苦を克服してこそ、人は成長するのだ。
ジュンは、自分のネガティブ思考をかなぐり捨てるかのように、力強く店内に踏み込んだ。
224以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:57:34.52 ID:1dGcTk8q0
>>223

「いらっしゃーい。武器から日用雑貨まで、なんでも揃うタックル苺にようこそ」

店主のものだろう。やたらと陽気で威勢のいい男性の声が、ふたりを迎えた。
その声に、なんとなく聞き覚えがある気がして、ジュンが顔を上げると――

「やあ! 店主の梅岡だよっ」

――帰る。
条件反射的に踵を返したジュンだったが、真後ろに立っていたみつの胸に、ぼよよ〜ん!
と顔面を押し戻されて、尻餅をついてしまった。

「せ…………せがた三四郎……」
「こらこらー! ワケわからないボケかましてる場合じゃないでしょ、ジュンジュンっ」
「ごめん。なんか、つい」

照れ隠しのつもりが、さらに恥の上塗りとなって、赤面するジュン。
みっともない姿を目撃されてしまった。それも、最も見られたくない人物に。

けれど、その張本人――梅岡はと言うと、ジュンの痴態もどこ吹く風で。
「すり傷によく効く軟膏があるけど、買っていくかい? 湿布の方が入り用かな?」
……なんて、商売に精を出す按配だ。

そもそも、この世界はジュンの夢。記憶の集合体。
武器屋の店主に、たまたま、梅岡先生のイメージが重なっただけかも知れない。
ならば、と。ジュンは柔軟に頭を切り換え、他人のそら似と思い込むことにした。

「あの……武装一式を揃えたいんだけど」
「毎度っ! 予算は、どれぐらいなのかな? 先生、勉強させてもらうぞっ」
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:57:53.27 ID:1dGcTk8q0
>>224
いま、『先生』って言わなかったか?
気にはなったが、そこはサラリと聞き流して、なけなしの所持金を提示する。

すると、梅岡はカウンターの引き出しから、算盤を取り出して……
パチパチと弾くのかと思いきや、いきなりソレで自らの頭を叩きだした。
それはもう、出血するんじゃないかとジュンたちが危ぶむほど、ガシガシと。

「うーん。最高にハイってやつだねぇ」

あんたの頭がナンバーワンだよ。
いましも口から飛び出しそうになる言葉を呑み込んで、ジュンが訊ねる。

「やっぱり、これっぽっちじゃ果物ナイフも買えないのか」
「難しいなあ。お客さんは神さまだし、なんとかしてあげたいのは山々だけどね。
 こっちも慈善事業じゃないから」

もっともな言い分だ。しかし、そこで引き下がらないのは、赤貧サモナーみつ。
やおら¥ロッドを放り投げるや、ジュンを脇に押し退け、梅岡の襟首を捻り上げた。

「勉強するって言ったでしょうがっ! 全品半額にしなさいよ」
そして、ナニワのおばちゃんにも引けを取らない勢いで、ガクガクと揺さぶってゴネる。
あまりの激しさに、梅岡の頭がふたつに分身して見えた。幽体離脱、一歩前。

「あがが……そ、んな……無茶……な」
「ええい! じゃあ、掘り出し物とかないのっ? おつとめ品とかっ!」
「そ……それだったら――」

途端、みつの動きがピタリと止まる。
そして、メガネのレンズを光らせ、ニタぁ〜リと歯を見せた。「あるのね?」
226以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:58:12.46 ID:1dGcTk8q0
>>225

梅岡は、手櫛で乱れた髪を整えながら、憔悴しきった表情で応じる。
「あるよ。昨日入荷の防具……ジパング伝来の甲冑なんだけど」

なんという強引――もとい、棚ボタ。求めよ、さらば与えられん。
ジュンの瞳には、金ピカのローブを纏う彼女が、神々しい天使として写っていた。
『ああっ菩薩さまっ』と、胸裡で快哉を叫んだほどだ。
とにもかくにも、防具だけでも揃えておきたいジュンは、カウンターに飛び付いた。

「それ買う。いくら?」
「いやぁ……それがなあ」

どうにも、梅岡の歯切れが悪い。なにを渋っているのだろう。
さては、トコトン焦らして値を吊り上げる魂胆なのか?
ジュンとみつに、ジト……と睨め付けられて、彼は頭を掻きながら白状した。

「出所のアヤシイ品なんでね。売り物にするか迷ってたんだ」
「とにかく、見せるだけ見せなさいよ」
「……仕方ないな。いま持ってくるから、待ってて」

奥の倉庫に引っ込んだ梅岡が持って戻ったのは、ひと抱えもある大ぶりの木箱。
しかし、甲冑にしては、明らかに小さい。せいぜいが五月人形といったサイズだ。

「僕も現物を見るのは、これが初めてなんだよね」
カウンターに木箱を降ろした梅岡が、ナイフで封を解いた。
梅岡が恭しく蓋を開けた後、雁首ならべて三人が覗き込むと、そこには――

「ちょっとー! これの、どこが甲冑なのよー」
「あれえ? おかしいなあ。雷電無念っていう鎧職人の作だと聞いたんだけど」
227以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:58:31.62 ID:1dGcTk8q0
>>226
梅岡の言うとおり、薄汚れた外箱には、達筆な『無念』の箱書きが見て取れた。
だが、明らかに過剰包装。大きいのは見かけだけで、中身は小さな仮面が、ひとつ。
残りは、山ほどの緩衝材だった。

おかしいのは、あんたの頭じゃないのか?
ジュンは、そんな悪態を吐きたい衝動を堪え、それを手にしてみた。

「うーん。どう見ても、ただの面だよ。本当に、ありがとうございました」
「フェイスガードかしらね。ヘルメットとも、少し違うしー」

眼や鼻など、ほとんどの動物の顔には急所がある。
プロテクターという点では、これだって甲冑と呼べなくもない……かも知れない。

「折角だし、試着してみたら?」
みつの提案をうけて、ジュンが顔に仮面を被ろうとした、その矢先――
横から、梅岡が止めに入った。

「待った待った。取説によると、装備する場所が違うみたいだよ」
「じゃあ、どこに装備するって言うんだ」

「ここさっ」と、梅岡が仮面を宛ったのは……ジュンの股間。
毛筆による取り扱い説明書には、装着する場所が絵解きで示され、
ばかりか、『暴れん坊天狗』という名称まで併記されていた。

「……マジ有り得ねえ」

自分の股間を覆う天狗の面を見おろし、ジュンは吐き捨てた。
どうしようもない。こんなモノを着けて、いったい誰が平然と外を出歩けようか。
たとえタダでも要らない。リサイクル料を支払われたって、願い下げだった。
228以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:58:56.42 ID:1dGcTk8q0
>>227
攻撃されても、当たらなければ、どうと言うことはない。
防具は次の機会にしよう。ジュンは落胆の息を吐くと、『暴れん坊天狗』を外した。
――はずが、お約束。天狗の面は、ジュンの股間に貼り付いたままだった。

「あれ? おい……ウソだろ。なんだよ、これ」
「ジュンジュン、何ふざけてるのよー」
「ふざけてないって。外れないんだよ、コイツ」
「ウソなんでしょ? やーねー。お姉さん、そーいう下品な冗談キライだなー」
「違うって。ホントに……くそっ、マジで取れないっ」

焦るあまり、無理に引っ剥がそうとした、次の瞬間!

「うっ!?」
ジュンの顔から、一瞬にして血の気が引いた。「ぬがぁーっ」
そして、奇声を発し、股間を押さえながら床をのたうち回る。「熱いっ、熱いっ」

まるで、心霊特番の最中に取り憑かれた番組スタッフを彷彿させる豹変ぶり。
あんぐりと口を開けて、呆然と立ち尽くす、みつ。
その隣で、梅岡が「あーらら」と暢気に顎を撫でつつ、薄笑いを浮かべた。

「やっぱり呪いのアイテムだったか。いやー、売りに出さなくてよかった」
「ちょっ! 実験台にしたわけぇ?! 悠長に構えてないで、なんとかしてよ!」
「そう言われても……天狗の仕業じゃあ、僕らの手に負えないしなあ」

百パーセントTANINGOTO★な口調が憎たらしいが、梅岡の言い分は正しい。
召喚師では、祟りや呪いなんて畑違い。梅岡とて、ド素人に毛が生えた程度だろう。
かと言って、このまま放ってもおけなかった。なんとかしなければ。

「ズボンの上から貼りついてるワケだし、脱げば解決しちゃったり……しない?」
229以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:59:17.25 ID:1dGcTk8q0
>>228
みつの安易な思いつきに、梅岡もポン! と手を打つ。

「なるほど。『実は脱いだらスゴイんです』作戦だね。試す価値はある」
「でしょでしょー。そんなワケでー、よろしく頼むわね」
「任せてちょんまげ」

冗談じゃないっ! ジュンは苦悶に転げ回りながら、にじり寄る梅岡を睨み上げた。
緊急事態だけど……たとえ夢だと解ってはいても……
男にズボンを脱がされる屈辱たるや、筆舌に尽くしがたいものがある。
ましてや、梅岡先生のことだ。ズボンと一緒に、パンツまでズリ降ろされて――

「そんなの嫌だぁ――っ!」

近づかれる前に、宇宙の果てまで蹴り飛ばしてやる。
ジュンが、闘う覚悟を決めた、次の瞬間!

「ぅぼあああああぁっ」

突如として天狗の面から噴射された2個の眼球が、梅岡を軽々と吹き飛ばしていた。
わずか数秒の空中遊泳を満喫した彼は、日用雑貨の商品棚を巻き添えにして着地の後、昏倒。
その威力を目の当たりにして、みつは顔面蒼白となった。

「ちょ……タンマ、タンマ。まさか、フルオート近接防御だなんて……」
迂闊に近づこうものなら、梅岡の二の舞だ。「暴れん坊の異名は伊達じゃないわね」
みつの哀れみを込めた眼差しが、ジュンに注がれた。

「ジュンジュン。不運だったと諦めるのも、男らしくてカッコイイわよ♪」
「はあぁ? 絶対に嫌だ。こんなの着けてたら、外を歩けないじゃないか!
 くそっ……外れろよ、コイツめ」
230以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:59:36.99 ID:1dGcTk8q0
>>229
ジュンは天狗の鼻を掴んで、剥がそうと試みたものの――
「んぎぃ! 痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
男の子にしか解り得ない激痛に苛まれて、断念した。
無理に取ろうとすれば、宦官一直線になりかねない。

「……ちくしょう。なんで、こんな目にばかり遭うんだ」

思わず弱音が漏れて、ジュンの目頭が熱くなる。
これはもう精神修養ではなく、拷問に等しかった。
ジュンの脳裏に、忌むべきヴィジュアルが浮かんでくる。


  『ママー、ちんちんてんぐがいるよー』『しっ。見ちゃダメよ』
  『おい、あいつ見てみろよ』『やだ。なにあれ、キモーイ』
  『恥ずかしくないのかしら』『最低ー』『悪趣味ねぇ』
  『変態っ!』『おめぇの席ねーから』『うほっ! イイ男』


道ゆく人々の軽蔑や嘲り。幻影ばかりか、幻聴まで聞こえてくるようだ。
ジュンは両耳を手でふさいで、ギュッと両眼を閉ざし、

「もう嫌だああああああああぁぁっ!」
絶叫しながら、悶絶した。


  〜  〜  〜

くすくす、くす……
まっくら闇の中、どこからか、爽やかな風のような微笑が流れてくる。
231以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 21:59:58.68 ID:1dGcTk8q0
>>230
――誰だよ? ジュンが問いかける。
何も見えない。けれど、誰かの気配は……微笑は、絶えず彼の耳に届いていた。

「返事くらい、してくれたっていいだろ」拗ねたフリをしてみる。

すると、それに応じたような含み笑いが、思いがけない近さで聞こえた。
耳の真横……何者かの吐息が、頬の産毛を揺らす。

『ナイーブですのね、ジュンは。もっとイヂメてみましょうか』
「その声……あのときの、君か」

個の定義(エントリー)をするように教えてくれた、あの澄んだ声に違いなかった。
もしかしたら、また有用なアドバイスを、くれるかも知れない。
ジュンは、身に降りかかった災難を語って、闇に溶け込んで姿の見えない娘に訊ねた。

「教えてくれないか。この先、どうしたらいいのか……サッパリ解らないんだ」
『貴方は、すぐに道を見失ってしまう。その理由が、解りますか?』
「……手の届く距離でしか、目標を定めてないから……だと思う。たぶん」
『移り気なのでしょうね。だから、貴方の将来像は、とても稀薄。
 イタズラな風が吹いたら、呆気なく掻き消されてしまう朝霧のように』
 
そんなコトは、ジュンだって自覚している。わざわざ言われるまでもない。
「僕がいま知りたいのは、天狗の呪いを解く方法だってばよ」
憮然として告げると、また……娘の、くすくす笑う声に耳朶をくすぐられた。

『焦ってはダメ。答えを急がないで。遠回りや、過酷な道を、あえて選ぶようでないと』
「だから今度も、甘んじて現状を受け容れろ――って言うのか?」
『はい。貴方に必要なもの……それは、確かな目標。真剣にならざるを得ない理由。
 私を探して。私の元に、いらっしゃい』
232以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:00:22.90 ID:1dGcTk8q0
>>231
君に会いに行けば、呪いの解き方を教えてくれるのか。
ジュンの問いに返ってきたのは、血を想わせるほどに紅い三角形の残像。
そして、遠ざかる微笑だけだった。


  〜  〜  〜

「あっ、気がついた? よかったー」

我に返るなり話しかけられて、ジュンは少しばかり混乱した。
どうなっている。夢の中でまで気絶するなんて、リセットでもされたのか。
眼だけ動かして、周りを見回す。少しだけ状況把握。そこは武器屋ではなかった。
どうやら、宿屋の粗末なベッドに寝かされているらしい。

「ここは? 僕は、どうして……」
「あたしが運んだのよ。正確には、あたしの召喚したお自動さんたちが、だけどー」
「お自動さん?」

みつの指差す方に頸を巡らすと、そこには6体の地蔵が整列していた。
マジ有り得ねえ……。ジュンは溜息を吐いて目を逸らすと、半身を起こした。
一縷の希望を込めて見た股間には、相も変わらず、暴れん坊天狗が鎮座している。

「夢オチなんて都合のいい展開はない、か」
「それなんだけどー、実は、あたしの御師匠さまって魔道師でね。
 もしかしたら、呪いの解き方を知ってるかも」
「本当に?!」

ジュンは思わず叫んで、みつの手を握りしめた。
あの、声しか手懸かりのない娘を捜すのと併行して、別の方法を模索するのは妙案だ。
233以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:00:42.70 ID:1dGcTk8q0
>>232

「みっちゃん! お願いだから、その人を紹介してくれないか」
「けっこう距離あるわよ、ここから。覚悟はいい?」
「背に腹は変えられないって。とにかく、天狗を外すのが先決だ」
「わかったわ。じゃあ、夜が明けたら出発しましょう」

だから、その前に――
言うが早いか、みつはベッドからシーツを引っ剥がして、ジュンをスッポリと包んだ。

「ひとまず、これで天狗のお面を隠して、腹ごしらえね。この下が、大衆食堂だから。
 今夜は景気づけに、お姉さんがドーン! と奢ってあげちゃうわよー」
「あ、ありがと」
「いいからいいから。ささ、れっつらごー♪」

みつのペースに乗せられ、ジュンはシーツを身体に巻きつけたまま、階下に降りた。
そこは雑多な、薄汚れた食堂で、酒も出すらしく、庶民的な賑やかさがあった。

「あそこの席、空いてるみたいよ。行きましょ、ジュンジュン」

ジュンが、みつの指差す方に目を向けた折りもおり。

「……ジュン? 女の子の名前ね」

左手のテーブルから、そんな抑揚のない呟きが聞こえてきた。
そちらへと顔を向ける、ジュン。すると、今度は鼻で笑う音と嘲りが――
「なぁんだ、男の子か」

なんという屈辱。ジュンは頭に血を昇らせ、容疑者に掴みかかった。
「ジュンが男の名前で悪いかっ!」
234以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:01:45.57 ID:1dGcTk8q0
>>233
けれど、容疑者――フードを目深に被ったジプシー風の人物は、慌てず騒がず。
振り向きもせずに、ジュンの鼻先にカードを突きつけてきた。
その、あまりにも鮮やかな手際に面食らって、身動きを止めるジュン。
見れば、それはタロットカード。それも『死神』の正位置だった。

「ちょっと、ジュンジュン。いきなり大声だして、どうしちゃったのよー」
「だ……だって、コイツが」

ジュンが唇を突きだし、弁解を試みる。
その脇から、落ち着き払った声が割り込んできた。

「初対面の人間を、コイツ呼ばわりだなんて。……礼儀知らずね」
「お前が言うなっ! 元はと言えば、お前から売ってきたケンカだろ」
「あら。事実を述べただけよ、わたしは」

椅子から腰を上げもせず、声の主がフードを脱ぎながら、振り返る。
それは、ジュンのよく知る娘。「かっ……か、柏葉ぁ〜?!」
物静かな印象の大和撫子、柏葉巴その人だった。

「まだ若いのに……かわいそう」
巴は、手にした『死神』のカードを一瞥して、気の毒そうに睫毛を伏せた。
「あなた、地獄に堕ちるわよ」

もう、とっくに生き地獄だっての。ジュンは口の中で呟き、唇を噛んだ。
家出のドリッピーならぬ、嫌でもフルボッ●ー。なんて情けない。
ジュンは忸怩たる想いを抱きながら、シーツで隠した暴れん坊天狗の鼻を握りしめた。


  《続くです》
235以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:03:22.34 ID:1dGcTk8q0
これにて投下完了。
今更ながら、NGワード付けた方がよかったかなと反省。

それでは、また。
236以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:21:05.42 ID:S2Emj7f20
い、一年ぶり以上の復活…!?
237以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:50:55.52 ID:LQ3dMbHRO
おつ!
238以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:53:44.90 ID:kqUfTqd6O
>>235
うわー懐かしい!あれだ、ジュンがどっかに飛ばされていきなりベジータに掘られそうになったり、みっちゃんが金かかる召還したりするヤツな!規制解除おめでとう!ちょっと復習してくるわw
239以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:59:37.31 ID:ll3lgINvO
>>135
読む前保守
まさかあれか?ドリキャスという単語が頭に残ってるんだが
240以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 22:59:47.54 ID:BNKyZnMF0
>>235
ちょっくらWikiに行ってくる
241以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 23:01:36.25 ID:ECYP6DWV0
>>235
もう懐かしすぎて復習WIKI

いってきま(´・ω・`)
242以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 23:09:02.01 ID:kqUfTqd6O
相変わらずキャラが濃いwそして所々に散りばめられたネタがww

しかし規制されてもよく諦めず頑張った!感動した!続きwktk!
243以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 23:27:24.53 ID:Ic2smhB4O
>>213
クズの名前出すな
244以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/27(土) 23:37:25.73 ID:S2Emj7f20
245以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 00:03:36.61 ID:uQ910p+UO
保守ですよ
246以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 00:04:57.32 ID:17cFPpoS0
さらにほ
247以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 00:11:24.04 ID:PZp4/wvI0
>>235
懐かしすぎて泣けてきた。
よく帰ってきてくれた!
248以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 00:44:26.49 ID:uQ910p+UO
保守
249angel song♪:2008/12/28(日) 00:45:44.05 ID:D0hPTK7b0
―病室の一角。
「泣かないで 淡い夢の在り処…」 
紡がれる旋律が、部屋にかすかに広がる。 
「天使さん」 
声に反応するように、歌声は旋律を失った。 
「その"天使さん"っていうの、やめない?」 
代わりに流れて来たのは、少しつれない発言。 
その声に不快の要素は含まれていなかったが、流れをせき止めた少女は多少申し訳なさそうに答えた。 
「じゃあ、なんて呼べばいいかしら?」 

沈黙。
ため息が一つ出ると、 
「…やっぱりいいわ」 
諦めの返答。疑問を呈した側は、答えを無視し、同じく無視を決めた旋律を紡ぐ少女の首元にかかるペンダントに目線をやった。 
「ねえ、前から思ってたのだけど」 
「何よ」 
一フレーズで再び歌がとまる。
持ち上げられたペンダントには、少女と、もう一人。同い年くらいの男が写っていた。彼女が至極大事にしているものらしい。 
「この人、いい人よね…羨ましいな」 
「な…」 
顔を紅くする一方、どこか心此処に有らず、の少女。対照的な反応。 
「また逢えるかしら?」 
「明日出られるのでしょう?…わざわざ逢いに行く必要性があるかどうかはわからないけど」 
「それでも、ね」 
表情には笑顔。星明りが僅かに照らした顔は、そう見えた。 
250angel song♪:2008/12/28(日) 00:49:00.74 ID:D0hPTK7b0
強い風が吹く、冬の真ん中。
茶色く涸れ果てた木々を飲み込むかのように、窓の外からは大きな唸りが聞こえた。
その様子を個室から眺めていた少女の後ろのドアが、静かに音を立て開く。
「今日も来てくれたんだ」
午後1時半。病院側の予定としては客が来られる最速の時間。
勿論それより前に来る人も多いが、大体この時間に来訪することになっている。
足音の主を確認することもなく、少女は窓の外を見つめつづけていた。

「そうね。…どう?」
足音の主は、「体は」という文字を意図的に省略し、
半ドライフラワーになりかけている花を袋に入れ、変わりに新しい花を花瓶に生けた。
部屋には僅かに新鮮さが取り戻されていく。
「明日から、出られるって」
少女が腕を大きく伸ばし、動ける体勢であることをアピール。
一時的に拘束していた医療器具は外され、一時退院の準備が整っていた。
「よかったじゃない。…ああそう、荷物なら、あの人が車出すって言ってたわ。それでいいでしょう?」
「うん。ありがとう」
あの人、とは彼女の幼馴染の男の事。特に恋人同士と呼べる関係ではない。
昔の馴染み、という部分だけで繋がっている、というのも不思議なものだ。
「ねえ、めぐ」
めぐ、と呼ばれた少女はようやく顔を彼女の方へ向けると、不思議そうに首をかしげた。
251angel song♪:2008/12/28(日) 00:51:38.06 ID:D0hPTK7b0
「アレの何処がいいの?貴方、結構気にいっているみたいだけど」
"あの人"から"アレ"と物体扱いとは結構な言い草だ。
「ん?わからない。…でも"天使さん"がずっと付き合うくらいなのだから、いい人でしょう?」
めぐのその言葉に天井を見上げ、目線をはずした。顔が赤くなっていくのがわかる。
なぜ私は意識しているのだろう。…という心境が明らかにめぐに伝わっていた。
度々彼女が持ち出す事なのだから、いい加減慣れてもいいのに、と。
「照れなくてもいいのに」
照れる必要はない。
めぐの手のひらに転がされている感じを覚えながら、自分に言い聞かせる。
「だから、その天使さんっていうのやめて」
一応の誤魔化し。自分を落ち着かせるには関係のない話に道をそらすに限る。
「わかった。じゃあ、水銀燈」
しまった。自爆だ。改めて言われても恥ずかしい…ではどうしろというのか。
そんな自分の微妙な心境に水銀燈はいらいらを覚える。
勿論めぐに一分の落ち度もない。ただ自分がどんどん地雷を踏み鳴らしているだけだ。
それも景気よく、何発も。

「それにしても」
地雷をこれ以上踏むのを避けたい水銀燈は、
寒さゆえにほとんど開けられる機会のなくなった窓に近寄り、遠くを見つめる。
「なんで私がここにいるのかしらね。不思議よ」
接点はたった一つ…しかもたった8時間くらいのこと。それが出会いで、今までが存在する理由。
めぐが、その答えを呟きはじめる。

†Angel song† ―開幕―
252angel song♪:2008/12/28(日) 00:55:23.50 ID:D0hPTK7b0
出会いは些細な事。
「おはよう」
「あら。今朝も陰気な顔でごきげんよう、とでも言ってあげましょうか?」
「朝早くから攻撃お疲れさん。精神的ダメージ50くらい。瀕死にいたらず。同じく眠そうな顔に反撃。失敗」
「何それ」
「眠くて何も考え付かない」
登下校の道。朝早い並木道は爽やかな風が吹き抜けている。
しかし会話自体はそれとは縁遠く。そんな下らない会話が挨拶代わりのようなものだった。
ちょっと嫌な関係性だ。

しかし幼馴染であるが故、特に期待するような展開は起こらない。いまさら告白なんというものでもあるまい。
しかも登校時だ。するなら放課後…とそこまで考えた水銀燈は、煩悩の塊、つまり妄想を詰め込んだ風船を自分で割る。
「そう。つまらないわね」
それ以上進展のない会話。それでいつもどおりだ。

会話らしい会話は学校、もしくはたまたま玄関先で顔をあわせるだけで、なんとかなってしまう。
その流れを壊すような出来事がそうそう起こることもなく、
学校の門が閉まるぎりぎりのチャイムが門前の彼女らの目の前で鳴り響いた。

「セーフ」
「ぎりぎりなのは誰のせいかしら?」
「悪いとは思ってる。フリだけしておく」
明らかにその顔には悪いと思っている表情は浮かんでいない。
彼と同じ程度遅刻し、もしくはぎりぎりでいるのは、彼が起きるのが圧倒的に遅いのが理由だった。
「まぁいいけれど。貴方に付き合ってる私も相当ヒマね。こんなハズじゃなかったのだけれど」
「十年以上な。時すでに遅し。"ハズ"に気づくのに異常な時間がかかってる」
下駄箱から教室へあがるまでにも、下らない会話のピラミッドが形成されては破壊されていく。
二度目のチャイム、つまり始業の合図がなると同時に二人は教室へすべり込んだ。
253angel song♪:2008/12/28(日) 00:59:01.26 ID:D0hPTK7b0
「はうっ」
「あら」
ふう、とため息をついた水銀燈がドアを開けると同時に、教室からは一人の少女。
―同じクラスの柿崎めぐ。確かそんな名前だったような気がする、程度の印象。
教室の中でも浮いている、というわけではないが存在感があるわけでもない。
こういう機会でもなければ触れ合うこともなかったのではないだろうか。
教室から飛び出そうとしていた為に勢いが付いていた彼女の体が軽くぶつかった。

「ごめんなさい」
「こちらこそ」
めぐが謝るのと同時に水銀燈も謝る。
「えーっと…何をしていたんだっけ?」
めぐが視線を水銀燈に合わせる。そんなことを言われても、
という水銀燈の目線は助けを求めようと隣にいたはずのJUMの方へ向けようとし、
「あっ…」
先に席についていたJUMの姿を捕らえた。
同時に、教師が入ってくるドアの音。
「お前ら何やってんだ」
水銀燈は「こっちの台詞だ」、と言いかけて踏みとどまる。
めぐは「ごめんなさい」と教師に言い、席へと戻る。
クラスの端々からは僅かにかみ殺した笑いが聞こえた。
空いた席の確認をしている担任を横切るように、水銀燈も己の位置に付く。
そして、
「間抜けだな」
にやり、としたり顔を浮かべるJUMの足を思い切り踏みつけた。
視界の隅で痛みに耐えるJUMの苦悩があったが、多少満足のいった水銀燈の知ったことではなかった。

ホームルームを経て、最初の授業は何事もなく終わる。
254angel song♪:2008/12/28(日) 01:01:26.86 ID:D0hPTK7b0
「さっきはごめんなさい」
水銀燈に話かけてきたのは、めぐだった。水銀燈は、多少意外さを感じる。別にたいしたことではないのだが。
「いいのよ。こちらこそ。慌ててたから。前方不注意、ね」
明らかに慌ててはいなかったが、嘘も方便、だ。
「大丈夫だった?」
めぐの表情は心配そうに胸を触っている。
…彼女が男であれば間違いなくセクハラだ。酔っ払っているのかと思う。
「ええ」
心配しすぎでは…とは思ったが、それを口に出す必要もあるまい。
水銀燈は言葉を飲み込むと、全く問題ない旨を伝える。
「心配しすぎ…って思ったかもしれないけど、私、そんな感じで一度骨折して」
めぐがぽつりと告げる。
「…」
思わず口が開いた。なんと答えていいのやら、というのも含め。
今を見る限り問題はないのでご愁傷様、なのだろうか、という必要のなさそうなところまで思考が飛ぶ。
そしてそんな思考回路が導き、搾り出した言葉が結局、
「大丈夫みたい」
だった。水銀燈は己の中で、語彙の無さに多少肩を落とす。もうちょっと何かあっただろうに、と。
255angel song♪:2008/12/28(日) 01:06:55.02 ID:D0hPTK7b0
「そんなこともあったわね」
めぐが一通り内容を述べる。目線をそらしていた為、彼女に悟られたことはないだろうが、
よくもまぁ覚えているものだ、と水銀燈の目が少し開いた。
本当に些細な事。八時間どころか出会いそのものはほんの十分程度だ。
十数年のうちの十分など記憶の片隅にないものが殆どだろう。

「よく覚えてるわね。忘れてたわ。そんなこと」
軽くため息をつく水銀燈。勿論全部忘れていたわけではないが。そこまで覚えていたかといわれれば自信がない。
めぐはどこか嬉しそうにクスクスと笑う。
「あの時のあの人は、どうみても意地悪そうにしか見えなかったけど」
水銀燈の首元にかかっていたペンダントを抜き取ると、
「いい人になったね、JUMくん。…ね?」
まるで年上からの目線のような一言。最後の「ね?」も気になるところ。
水銀燈のため息がまた一段と濃くなる。
目の前で寝台に寝ている少女の興味は、明らかに明日会えるであろう彼の方だ。
というか今日は最初からそうではなかったか?と会話を逆再生させる。

結果、正解。

多分同じ話を3回くらいしているハズだ。ほんの少しの間に。
何がそこまでめぐを奮い立たせるのか、水銀燈からすれば疑問でしかない。
「一つ聴いていいかしら」
ペンダントを受け取りながら、水銀燈は半上の空のめぐに問う。
「何?」
一応は聴いていたらしい。まともな返事には期待しない。
「あの子と、何かあった?」
「ん、とね」

†angel song† ― 一章 終 ―
256angel song♪:2008/12/28(日) 01:10:26.78 ID:D0hPTK7b0
†angel song† 幕間

1章:>>249-255

10ヵ月半という大きな穴で久々すぎて口調が危なかった。というのが印象。
年明けまでには終わらせたいのに終わるのか、自分。
もうちょっと話を短くまとめるべきじゃないのか、自分。
と思いながら文章を練っています。
間違いがあったらそんな私のダメっぷりを披露してるだけだと思ってスルーしてもらえるのが吉。
先に本文を作ってるにもかかわらず書きこむ寸前で増えていくんですからたまったもんではありませんね。

久々すぎて百合も鬱も盛り込めませんでした。純粋に行きます。つまり続きますよ、ということで。

では またお会いしましょう。 さようなら。
257以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 01:16:32.54 ID:uQ910p+UO
>>256
めぐ×銀は大好物なので美味しくいただきましたw
ふむ、さてジュンはどんなポジションになるのか…
258以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 01:58:02.19 ID:uQ910p+UO
259以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 02:21:12.78 ID:ihAQORos0
>>256
これから百合鬱盛りだくさんになるのかな?
それとも、この穏やかなふいんきが続くのかな?
またの機会をwktkして待つとします。
260以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 02:32:08.68 ID:kZwr8pJwO
めぐに弱い水銀燈って可愛いよね
261以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 03:16:29.04 ID:17cFPpoS0
なんと言いますか、「帰って来た、黄泉の国から戦士達が帰って来た」みたいな気分です。テンション上がって仕方ない。
個人的にも「ほ」と投下するだけで喜びが溢れてきますね。

さて、保守かしら番外編 「秋口のこと」投下します
産業あらすじ
真紅と金糸雀が喧嘩
金糸雀が気絶。真紅も気絶
メグが二人が目覚める前に状況を取り繕う

規制で間があいたので、wikiにこれまでの分を上げておきました。
http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4082.html

ぐにぐにと口周りを触られる感触で金糸雀は目が覚めた。
「うー…?」
口の中で消えるごく小さな声を発しながら、金糸雀がうっすらと目を開けると目の前には真紅の顔があった。
金糸雀は脳しんとうの影響で少し記憶を失い、残った記憶も混濁していたため、なぜ真紅に触れられているのかさっぱり
わからなかった。
けれど真紅はとても真剣な表情で自分の顔を触っているので、金糸雀はしばらく真紅のさせたいようにさせてあげることにする。
真紅の手つきは盲人が人の顔を確かめるような柔らかさで、金糸雀には心地いい。
(まるで卵になったみたいかしらー)
本当のところビスクドールを触るかのような慎重さで触っていたのだが、金糸雀が知るはずもない。
下まつ毛をくすぐる真紅の指がくすぐったい。
「…よかった」
と、真紅は安心して息をついた。金糸雀は真紅が今にも泣き出しそうな表情をしている事に気がつく。
「だいじょーぶ、かしら」
何が問題なのかも把握しなていないのに生来の能天気さで金糸雀はそう言った。
262以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 03:17:46.76 ID:17cFPpoS0
そのままひょいと手を伸ばして、真紅の目尻に光る涙を拭う。
真紅を元気づけるために金糸雀はにこにこと笑ってみせた。
真紅は二度、目を瞬かせた。金糸雀が起きていることに気がついていなかったため、驚いているらしい。真紅があっけにとら
れている間も、金糸雀は田舎のひまわりの様なのどかさで笑いかけ続ける。

しばらくの間。

真紅はむにっといきなり頬を引っ張った。
「ふぎっ!?」
それも一瞬で済まさず延々と引っ張り続ける。横にいるメグは全く助けない。というか、金糸雀の頬が人一倍伸びるのを
ひっそりとおもしろがっていた。
結局、金糸雀が真紅の指を振り払えたのは5秒ほど立った頃で、すっかり金糸雀の方が涙目になっていた。
「なな、なんでこういうことするのかしら!」
怒る金糸雀に対して、真紅はもう一度毒を吐く。
「貴女が面白い顔してるからよ」
「なー!?」
これから口喧嘩が始まりそうな雰囲気になったが、真紅は急にツンと冷たい表情になって言い捨てる。
「これに懲りたら二度と来ないで頂戴」
そして、真紅は言うべき事は言ったとばかりに、金糸雀に背を向けてベッドの中に潜り込んだ。
それからしばらくは怒りの収まらない金糸雀が色々言うが、もはや真紅は無視し続ける。
「あ、貴女みたいなわがままな人は初めて見たかしら!ぶっちゃけカナがとっといたヤクルトを1パック全部飲むおねえちゃん
の2.18倍くらいわがままかしらー!?」
「あーカナちゃん家庭の事情をぶっちゃけるのもそのくらいにして、ね?」
錯乱気味の金糸雀にメグは遅まきの仲裁に入った。

「な、なんなのかしら、真紅ったらなんなのかしら!」
涙目で顔を真っ赤にして怒る金糸雀にメグは悲しそうに言ってみせた。
263以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 03:18:12.24 ID:17cFPpoS0
「真紅ちゃんも怪我で大変なのよ」
「う…」
さっきのやり取りを見ていて、メグは少し希望を感じていた。
気絶から回復した真紅は真っ先に金糸雀がどうなったのかを気にしていた。
真紅は冷酷な性格ではないのだ。
(水銀燈を見てればこの家系に色々あるのはわかってたけれど…真紅ちゃんはなんていうか、複雑な娘ね)
シュンとして、すでに怒りが去りかけている金糸雀のほうが姉妹の例外なのだろう。
「…今日は来ない方が良かったのかしら」
「うーん、少なくとも今日はもうおしまいね。真紅ちゃん寝ちゃったし」
「かしら…」
「なに。また明日出直せばいいのよ。何があったのかも本人から聞けば良いんだし」
しばらく金糸雀は悩んでいたが、結局の所そうするしかないとわかったらしい。
「そうするかしらー」
金糸雀は千鳥足気味に真紅の部屋から出て行った。
金糸雀が部屋から出てから、ふう。とメグは息をつく。
とにかく真紅を一人にしないで済みそうだとメグは胸を撫で下ろす。
「また明日も来るって。金糸雀を追い払うのに失敗したわね真紅ちゃん」
あいかわらず真紅はこちらに背を向けたままだ。けれど、一瞬怒ったように背中を震わせた。
264以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 03:21:04.31 ID:17cFPpoS0
投下おわりです。

作品中では誰も気がついていませんが、脳しんとうを起こしたときは医者に診てもらってください。
『軽い脳しんとう』はありえないです。
265以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 03:40:53.80 ID:3yqA9LCxO
乙おつねるほ
266以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 06:29:20.03 ID:kZwr8pJwO
読む前に保守
267以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 07:10:30.06 ID:15dKI6LQO
おはほ
268以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 07:17:50.27 ID:kZwr8pJwO
>>264
金糸雀の笑顔は破壊力高杉
269以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 07:35:11.65 ID:F4K/7B3HO
>>264
カナはいい意味で単純だからな。真紅もどうなることやら
270以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 09:17:27.33 ID:ihAQORos0
>>264
そう言われると『脳しんとう』が何かの伏線かと勘ぐってしまうな。
まあ考えすぎだと思うけど。続きwktk。
271以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 10:54:43.72 ID:uQ910p+UO
ほすほす
272以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 11:49:43.71 ID:15dKI6LQO
273以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:04:19.85 ID:4Olx/boCO
>>261
糞キム出てくんなゴミが
死ね
274以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:05:18.03 ID:4Olx/boCO
>>262
糞キム消えろ
275以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:06:11.83 ID:4Olx/boCO
>>264
無駄レスふやしてるクズさっさと消えろ
276以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:06:39.50 ID:4Olx/boCO
>>268
死ねゴミ
277以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:07:07.50 ID:4Olx/boCO
>>269
クズの名前出すな
278以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 12:35:05.71 ID:F4K/7B3HO
ほしゅ
279以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 13:41:13.70 ID:+8Jpc0h/O
ほし
280以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 14:27:48.73 ID:uQ910p+UO
保守なのだわ
281以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 14:28:46.33 ID:y7+1/WDiO
久しぶりだぁぁぁあ
282以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 14:53:40.07 ID:COFSSIPq0
保守かしら
283以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 15:39:42.06 ID:uQ910p+UO
保守だよ…
284以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 16:03:44.12 ID:F4K/7B3HO
保守
285以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 16:36:49.87 ID:d2i7VlDj0
>>264
新作投下キターァー!!

この話の真紅が好きすぎて、前回の投下の時には片腕の真紅が夢に出てきたよ。
アリガトウ、アリガトウ!!

286以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 17:22:41.37 ID:uQ910p+UO
保守
287以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 18:01:17.55 ID:F4K/7B3HO
ほしゅ
288以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 18:02:51.39 ID:COFSSIPq0
「保守か…「保守するカナも可愛い〜」
「みっちゃんほっぺが焦げるかしら」
289以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 18:47:43.49 ID:uQ910p+UO
保守ですぅ
290以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:30:50.98 ID:Ewc6Tab6O
保守
291以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:38:13.65 ID:COFSSIPq0
PCの前に座ると短編が湯水のように湧いてきた頃が懐かしい
という保守
292以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:45:55.29 ID:uQ910p+UO
【怪盗乙女、ローゼンメイデン】

緊急mission『捕らわれた白崎巡査、桜田ジュン両名を奪回せよ!』

第八話 《救出と脱出》


〜前回の産業あらすじ〜

・めぐと由奈を撃破。その2班がジュンのもとへ向かう。
・ジュンがベジータに勝負を挑み、2連勝するが。
・…ジュンは相変わらず弱いけど、強くなったなぁ(遠い目)

真「…どういう事かしら?」
ジ「ごめんなさい。て、何で僕が謝らなきゃならないんだよ」
真「随分と待たせて置いて…次が最終話と言ってなかった?」
ジ「それがなんか、書いてるうちに20レス越えどころか30レスを軽く超えたらしくて」
真「まったく…見積もりが甘いといつも言ってるでしょう?」
ジ「すみません。て!だから何で僕が謝ら(ry」
真「お詫びとして一発殴られなさい」
ジ「だから何(ry」


えー、そういうワケで…誠に申し訳ないです。それでもよければ、どうぞ。
293以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:47:01.98 ID:uQ910p+UO
>>292
「ふっ…!」
獰猛かつ邪悪な影が弾かれた。そう表現すべきジャバウォックの突進を、壁を背にした蒼星石はギリギリまで引きつけてから自慢の身体能力と反射神経をフルに使い紙一重で避ける。
『ヴヴヴ…』
自身のパワーのやり場を失ったジャバウォックは苛立ちの声を漏らす。その姿を目の端で捉えながら直ぐに蒼星石は近くの壁へと走った。
ジャバウォックが再び蒼星石に狙いを定め、突進。そして、回避。
頑丈に作られたはずのボロボロの地下室で、蒼星石は何度も何度もそれを繰り返していた。
(こういうのは嫌いじゃないけど…なかなかハードだなぁ)
滴る汗を固まり始めた血糊と一緒にぬぐう。確かに疲れてきたが、まだやれる。少なくとも、気力が萎える事はない。
同じように方向転換する魔獣に合わせて、蒼星石も部屋の隅で息を荒げてうずくまる巴に被害が向かないよう、同じようにまた近くの壁に向かって走り始めた。


由奈がその部屋から出る時に行った魔獣へ攻撃命令。それを聞くやいなやジャバウォックは雄叫びと共に蒼星石と巴に向かって猛烈な突進を仕掛けてきた。
それはまさに闇の進撃。本能が怯えるのを理性と経験でどうにか振り切り、2人は二手に分かれて間合いを取る。
『対獣のセオリーは目、鼻、耳だけど…正直狙えそうもないね』
蒼星石の言葉に巴も頷く。
『ですがこれだけの巨体です。狙うなら…』
『足、かな』
一旦1ヶ所に集まった2人に再びジャバウォックが迫る。だが前回と同じ攻撃なら冷静に対処もできる。突進をいなすように左右に分かれ、ジャバウォックの前足を横切る際になぐように剣で斬りつけた。
(!?…なんだろう、今の感触…)
確かに斬れた。斬れた、が、
(最初は砂を切ったような手応えなのに、そこからどんどん重くなって…最後は金属に弾かれたみたいな感じだったな…)
どうやら巴の方も似たような感想を持ったようだ。振り向いて観察しても、既に傷は闇に覆われ、足を気にする仕草もない。
ダメージは、ゼロに等しかった。
『あの“肉”みたいな闇をいくら切ってもムダらしいね』
294以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:48:54.84 ID:uQ910p+UO
>>293
『同意します。切るべきは…闇の“芯”となる骨格でしょう』
『じゃあ、頑張ってみようか?』
『はい』
三度の突撃に合わせ2人は息を合わせてジャバウォックの足下へと潜り込んだ。体が大きい分これはさほど難しくはない。問題はここから。すぐさま2人目掛けジャバウォックの右前足の尖爪が襲いかかるのを体をひねり避けて即、蒼星石が左前足に飛びかかった。
『はあああああッ!』
まるで蜂の羽のごとく高速で振られる二枚の刃。双剣レンピカによる目にも止まらぬ乱舞。それは霞を払うように皮と肉の闇をかき消していく。
ガキン!
そして刃が巴の言う芯に到達し、それを外界へ露出させた。それはまるで黒いダイヤモンドをイメージさせるモノだったが、蒼星石は目もくれず飛び退いた。
ここまで僅か数秒。まだジャバウォックの右前足は浮いている。左前足に重心が傾き動かすことは出来ず、切るべき芯は視界の中に。
『はッ!!』
柏流参式、菊葉一門。かつては滝を、突入時には鋼鉄の門を裂いた居合いの一閃がこれ以上ない形で撃ち込まれた。
この世の物質ですらない強硬度の骨格と、人の限界を引き伸ばし練り上げられた剣術と、匠の技と偶然が生み出した最上大業物の極刀。
一流すら劣る世界の中で、負けたのは、巴の握力だった。
バキイィィン…!
技の反動で否応なしに巴の刀は空中へと弾かれた。無防備となった巴はやむを得ず蒼星石と同じようにジャバウォックの足を蹴ってその場を離脱。
東ティモールで右手の筋肉を負傷した巴はその後あえて刀を持たない精神修行を自身に課し、結果腕の完治と参式の習得に至ったのだが…やはり腕を庇う気持ちがどこかにあったのだろう。
しかし今回はこれが逆に功を奏した。もしあのまま限界まで力を込め続けていたら完治した巴の腕であっても痛めていたはずだ。
巴が刀の下へ走る間、蒼星石はジャバウォックの正面で相手の気を引くと同時に思考を働かせる。
(ダメージが蓄積されない体に、巴さんの技が効かない骨格…)
そしてなんと、蒼星石は既にこの時点で見切りをつけていたのだ。すなわち、
(勝のは…無理かな)

この後、幾つかの戦闘があり冒頭の状況となる。今だにジャバウォックと1対1で動き続ける蒼星石と、立つこともままならない巴。
295以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:51:07.84 ID:uQ910p+UO
>>294
だがここで巴を責めることは出来ない。むしろ単純な戦闘力のみを見るなら蒼星石より巴の方がいくらか上回ってさえいたのだ。
ここで明暗を分けたのは2人の職種の違いだった。組織の力、または助っ人という立ち位置の巴と怪盗である蒼星石。巴は立場上確実に敵を倒さねばならないが、蒼星石はそうではない。
怪盗であるメンバーにとって、通常仕事場での戦闘は極力避けるべきもの。また避けられない場合でも、素早く対処してゆく。これは相手を打ち倒すと言うよりは任務に支障が無いように処理するという意味だ。
巴も頭では勝算が薄いことを理解してはいたものの、自分が倒さねば後が無いといった普段の思考が身に付いていたためにどうしても積極的な動きをしてしまい、それが結果として大きなダメージへと繋がってしまった。
だが蒼星石にとって、目の前の化け物を倒すことは任務における絶対条件ではない。倒すことは出来なくても、自分がコレを相手している間に他の突入班が捕らわれた2人を救出すればいいのだ。
この切り替えの速さが蒼星石の長所であり、状況を把握した柔軟な対応こそが蒼星石の真骨頂であった。
(やっぱり視界に標的が2人いた場合は必ず動いてる方を狙ってくる…地下室そのものには出来るだけ攻撃しないよう動くし、間合いや壁との位置で攻撃がパターン化されてる…つまり)
勝ちを諦め、現状維持を第一に置いてからの蒼星石は早かった。相手の動き一つ一つから性格を読んで自分が生きる道を手繰り寄せ、あっという間このジャバウォックが由奈の定めたプログラムにのっとって行動しているのを見抜いた。
そしてまるでゲームで言うところの“ハメ”のように、確実に自分と巴に攻撃が当たらない動きを導き出してそれをただただ忠実にリピートする。派手さはないが、蒼星石は実に高度な“戦闘”を行っていた。
(このままミスなくいけば…由奈の指示が変わるまでは耐えきれるかな)
あるいは、自分の体力が限界を超えるまで。
この死に直結した無限ループから脱するには、仲間の誰かがジュン達を救出して、それをここへ伝えに来なくては(もう2人のマイクやイヤホンは壊れていた)ならない。
先の見えない地獄の釜の中の永遠で、仲間の成功をひたすら祈り続けるしかない。自分の運命を、手の届かない仲間に託すしかない。
296以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:53:42.00 ID:uQ910p+UO
>>295
だが蒼星石には、それがそれ程悪いことだとは思わなかった。



「あ、水銀燈に真紅なのよ!」
「おお、マジですね!ちゃんと生きてやがるですぅ!…片方原型を留めてませんが」
無線によるみつの誘導に従って痛む体を引きずってやってきた真紅と彼女を抱える水銀燈に、正面から聞き覚えのある懐かしい(騒がしい)声が飛んできた。
見れば元気そうなな雛苺と、その後ろで薔薇水晶を背負う翠星石。こちらも充分過ぎる程に元気である。それは喜ばしい事ではあるが、
「…ちょっと、お願いだからあまり騒がないで頂戴」
今の真紅には2人の声がまるで音の弾となって体に追突してくるように感じられる程に痛んでいた。これ以上のダメージは流石にもう勘弁してほしい。トドメが仲間の無駄口では余りに報われない。
「こっちの負傷はこの通り。私は問題ないわ。薔薇水晶はどうなの?」
「とても動ける状態じゃないの。命に別状はないけれど意識も戻ってないわ。ただおかげでヒナと翠星石は充分余力があるのよ」
水銀燈と雛苺が簡単に情報を交換する。ジュンが目の前だからといって急いではいけない。それはいらぬ危険を生み出してしまうし、ミッション達成の直前は一番気をつけろとは古今東西の常識である。
「ん…ローズ2、蒼星石はどうしたですか?」
残弾や武器のチェックを行っていた時、翠星石がマイクで金糸雀に尋ねた。そう言えば、随分前からあの2人に関しての情報が一切入ってきていない。
そして、不安の色を含んだ翠星石の質問に答えたのはみつだった。
『大丈夫よ。カメラもマイクも壊れているけど、ローズ4はそこから伸びる通路の先でまだ動いているわ』
ローズ4は。恐らくみつは単調に情報伝達に努めようとしたのだろうが、どうしてもそこの部分に力が入っていた。だがそれは、そこにいたメンバーに新たな気合いを入れさせるには申し分ないものだった。
「うだうだしてる時間はねーみたいですね」
「そうね。じゃあ雛苺、アナタに真紅と薔薇水晶を任せるわ。ここで出来るだけ応急処置を。翠星石は私と一緒にこのドアの向こうへ突入…それでいいかしら?」
『え、ええ』
297以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:56:15.32 ID:uQ910p+UO
>>296
巴の安否が不明で、さらに白崎の所在も一向に掴めない中でのみつの不安は相当なものだろう。それを見越して先に指示内容を提示する水銀燈の姿は、なるほどローゼンメイデンのリーダーの名に恥じないものであった。
雛苺が真紅と薔薇水晶を脇に移動させ、水銀燈と翠星石が扉の両サイドへそれぞれの武器を構え身を寄せる。
部屋から特に物音は無いが、気配は感じられた。恐らくは複数か。するとやはり…
「覚悟はいいかしらぁ?翠星石」
「語るに及ばんです。私だってオメーらに遅れをとるつもりはねーですよ」
「結構。それじゃあ…行きなさい!」
「了解ぃ!」
掛け声と共にノブに近い側にいた翠星石があわよくばカギごと蹴破る勢いで扉に向かった。が、次の瞬間。
ガチャ。
「はえ!?」
なんと扉の方からしかも内側に開いてしまった。当然バランスを崩した翠星石はどしんと豪華に地面に倒れ伏す。
すると―
「おや?…ああ、君は確か翠星石さん。で、こんなところで何をしているんだい?」
「んあ!?オ、オメーはあの時のぉ!」
顔面を赤くした翠星石がガバッと見上げると、それは翠星石が東ティモールで何故か意気投合した相手。その扉を開けたのは、多少服がヨレてはいるが五体満足で顔色のよい白崎だった。
加えて、
「ジュン!」
「うげぇ!?」
恐るべき嗅覚としか言いようがないが、真紅は彼の姿も見えない内から大して動かない体を引きずり、扉の前まで這って来ていた。何か柔らかいものを下敷きにした気もするが気にしている場合ではない。
「ああ…ジュン…」
そして、白崎の肩に抱えられ微かな吐息を漏らす、自分に負けないくらいの怪我をしたジュンに、とうとう会う事が出来たのだった。

『巡査ぁあーー!!!』
「「ッ!?」」
真紅とジュンの再開もつかの間、その場にいた意識のある全員が顔をしかめるほどの大音量が辺り一面に鳴り響く。水銀燈は何も言わずに自分のマイクとイヤホンを白崎に渡した。
298以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 19:57:26.12 ID:uQ910p+UO
>>297
「あ…えと、警視庁特別捜査班巡査、白崎。只今…戻りました。みつ警部」
『〜〜〜ッ!このっ!…お帰りなさい!』
「…はい。ご心配お掛けしました」
先程の不安を押し殺したような声など微塵も感じられない声で、数ヶ月ぶりの会話を交わす2人。ただの上司と部下ではない、共に戦場を生き抜いた2人の間に生まれた何かがそこには表れていた。
戸惑いながらも恥ずかしそうに、また嬉しそうに上司と会話する白崎。メンバー各位もやれやれといった表情でそれを眺める。
「…ところで警部、あの…巴さんは?」
が、彼のその一言で再びその場に緊張が戻った。そうだ、まだこのミッションが完結したわけではない。
「そうね…時間がないから手短に話すわミスタ白崎。私達は草笛みつと協力してあなた達を助けにここに来た。柏葉とウチの1人がまだ向こうで化け物と戦闘中。そちらは?」
「あ、ああ。私も全てを正確に把握してはいないけど…この少年がマフィア側のトップを倒したから解放されたらしくて…」
「…は?」
その白崎の報告に、聞いた水銀燈は勿論他のメンバーも開いた口が塞がらなかった。だがこれはもう致し方ないだろう。魔王に捕らわれた姫を助けに悪魔の城へ行ったら、既に姫が魔王を倒していたら誰だって驚くというものだ。
ただ、今回捕らわれたのが助けを待つしかない非力な姫では無かったというだけの話。
「あのジュンが…あのベジータを…」
「何があったですかね?もしやジュンはまださらに変身を残していたとでも…」
「一度も変身なんかしてないのよ」
こんな時でも律儀に突っ込む雛苺。
「ま、まあにわかには信じがたいけどぉ…ええ、構わないわ。問題ない。むしろ吉報よ。よし、ではこれより救出から脱出ミッションへ切り替えるわ!皆気合い入れなさぁい!指令室、指示を!」
『アイアイサーかしら!ピチカート、状況ステージセカンドへ。補助プログラムを立ち上げるかしら!』
『Got it!』
金糸雀がせわしなくキーボードを叩く横で、みつはじっと目を閉じて腕を組んで沈黙している。
水銀燈に言われるまでもなく、みつは既にこれからについて思案していた。最大の懸念であった両名の奪回は思わぬ形で成功したものの、予想外の障害がまだ残っているのだ。
そう…由奈の呼んだ魔獣、ジャバウォック。
299少し準備に入ります:2008/12/28(日) 19:59:05.82 ID:uQ910p+UO
>>298
本来なら負傷者を一番安全でかつ雪華綺晶の支援が見込める翠星石達が来たルートからそのまま正面玄関へ向かわせ、動ける者が2人に加わり倒すなり逃げるなりの対処が出来ればよいのだが…負傷者は3名もいて、いずれも自立歩行が不可能である。
つまり動ける者も4名しか(むろん白崎は戦闘員には含められない)居ないので、1人が負傷者1人を担ぐとジャバウォックへ向かえるのはたった1人。巴と蒼星石のペアがここまで苦戦する中、たった1人向かわせて果たして成果が出るのか…?
『…そうね、まずその場にいる全員で中央の通路に向かって。そして怪我人を化け物のいる部屋の前に置いてからローズ1、3、6の3人で入ってみて。まずは現実把握と情報収集、それから次の指示を出すわ』
「…ええ、了解したわ。雛苺、悪いけど治療は中断して。聞いたわね?みんな行くわよ」
「うっし、最後の仕事です!待ってるですよ蒼星石!」
「真紅、痛いのちょっと我慢なのよ」
「ええ、大丈夫なのだわ」
白崎がジュンを背負い直している横で、警視庁の警部であるみつの指示の下にテキパキと準備を進める怪盗乙女ローゼンメイデンのメンバー達。
(これは…なんとも…)
そんなある意味奇怪な光景を目の前に、白崎はとりあえず苦笑いを漏らしておくに留めておいた。


怪我人を担いで中央の廊下を進むこと数分、由奈が部屋から出て行く時に使った扉の前に到着する。念の為に怪我人は白崎と共に数メートル後方の曲がり角の先で待機させた。
事前情報として、一度蒼星石達のカメラにジャバウォックの姿が映っていたのを各自が時計に付けられている小型画面で映像化する。たった数センチの画面のくせに迫力満点だ。これを喜べるのは自分が鑑賞する側に居るうちだけ。
「この化け物があの扉の向こうにいるですか…M字ハゲの方が何倍もマシですね」
肉眼でその姿を見てないとは言え、その化け物のとんでもない叫び声を聞いた経験から恐怖の感は拭えない。
「倒す必要はないわ。どうせそんな巨体じゃ向こうの部屋から出れないでしょうから、蒼星石と剣士の娘をこちらか反対側の通路に逃がせればそれでいいのよ」
「でも警戒するの。魔眼の力は何が起きるかわからないわ」
部屋に繋がる扉は防壁の意味合いもあるのかとても頑丈で、かつ重く出来ていた。3人は息を合わせ、覚悟を決めて扉を開け放つ。
300千春 ◆rWXv4a4rM2 :2008/12/28(日) 19:59:33.55 ID:vX58yMkNO
新世界さんッ
301以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:06:38.01 ID:QPZIujnuO
余計なお世話かもだけど、一応さる対策支援
302支援どもども。再開ー:2008/12/28(日) 20:07:46.22 ID:uQ910p+UO
「蒼星石ー!!」
雛苺のベリーベルで扉を固定しつつ、3人は部屋へと踏み込んで翠星石が正面、雛苺と水銀燈が左右に頭を向けた。
確かに扉を少し開けてカメラだけ出して映像を撮ることも考えはした。だが、中の2人にはジュンと白崎を助けだしたことを知らせる必要がある。
また扉を少しでも開ければジャバウォックに気付かれる可能性が高く、その一瞬で部屋全体の状況を確認しなければならない。これらの理由からみつはこうした行動を指示し、水銀燈達もそれに同意してのアクションであった。
『グァアアアアアアア!!』
「みんな退くんだー!!」
「!?」
結論を言えば、これは失敗だったのだろう。
3人が部屋に入った途端、ジャバウォックの怒号と遠くに居る蒼星石の叫びが飛び交った。
一瞬で部屋全体を把握することは成功した。そして蒼星石に伝達も出来た。が、“今の”ジャバウォックから逃れるにはその一瞬では完全に足りなかったのだ。
それは怒れる突撃で、殺意の弾丸。蒼星石達に向けたモノとは違う、あまりに純粋な破壊行動。
「ひっ…!」
それを正面に居たがためにモロにうけた翠星石が一瞬怯む。脇の水銀燈と雛苺が彼女を抱え通路に逃げ込もうとするが、壁を突き破らんとする勢いの魔獣からは逃れること出来そうもない。
「飛太、刀…!」
『グバアアアアア!!』
部屋の隅からの斬撃がジャバウォックの目に命中し、僅かながら魔獣の勢いが落ちる。タッチの差で3人は通路に逃げ込み、扉を閉めることに成功した。
魔獣の手は、そんな扉を軽々と突き破ったが。

「くそっ…!」
砂煙が舞う部屋の出口を睨みつけながら蒼星石が悪態を付いた。
運がない。皆が入ってきた時の位置が悪かった。失敗した。でもそれ以上に…見誤った。
蒼星石としても、皆が部屋に入って来た時の事を考えなかったわけではない。メンバーの誰かが向こうの扉から現れ直ぐに戻ることは想定内のことだった。だからなるべく扉から離れるように逃げていたつもりだった。それで間に合う計算だった。
だが、蒼星石の誤算はジャバウォックの状況判断の仕方にあった。
303以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:09:44.91 ID:uQ910p+UO
>>302
確かに蒼星石が感じた通り、ジャバウォックには由奈からかなり厳しい制限を課せられており、まともに力を出すことが出来ない。それはベジータからなるべく殺さないようにと言われたし、また仲間を助けに来る人を殺すのは良くないと由奈が感じたからだ。
だが大前提として、由奈はジャバウォックのために自分の任務を全うする必要がある。そのためジャバウォックに『自分が出て行った扉に人を通さない』ことを強く指示していた。
しかし由奈はこの状況、つまり“その扉から人が入ってきた場合”をまったく想定していなかった。故にジャバウォックは3人を『扉から人が入ってきた』ではなく『人が扉を開けて部屋から出ようとしている』と認識してしまったのだ。
突如として現れた最大級の緊急事態に、ジャバウォックは全力を出すのを躊躇わなかった。蒼星石と巴な対した時とは段違いの馬力だ。部屋を壊す事も躊躇していたない。
こちらから3人の安否の確認は出来ないが…もし、門横の角でうずくまっていた巴が動けなかったら…
「みんなー!無事かー!?」
次々生まれる不安を振り払うように、今やこちらを完全に度外視した魔獣の背中を見つつ、蒼星石はその向こうに居るはずの仲間達に向かって叫んだ。

「いでで…信じらんねーです…まだ翠星石は生きてるですか…信心深い甲斐もあるでってもんすね…アーメン、ハレルヤ、ピーナッツバターですぅ」
「…馬鹿なこと言ってないで早くその尻を退けなさぁい」
「重いのー…」
曲がり角まで突き飛ばされ、キレイに積み重ねられた3人が思い思いの言葉を口にした。ちなみに、上から翠星石、水銀燈、雛苺の順番。
流石に無傷とはいかなかったが、途中の減速と固い扉が盾となったようで、直接その手で殴られはしたものの大事には至っていなかった。
そのジャバウォックはと言えば、まるで壁穴に逃げ込んだネズミを猫がかき出そうとするように通路の床をガリガリと削っている。もし廊下がもっと短かかったら、もしあの大きな爪に引っかかっていたら…考えるだけで背筋が氷る。
『みんな大丈夫かしら!?』
「ええ…なんの加護か祟りか3人共ね。それにあの剣士の娘も生きてるようだったけれど…さて、どうしたものかしら」
水銀燈の視線の4メートルほど先には、依然通路の八割を占めようかと思える程の巨大な腕。
304以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:13:15.24 ID:uQ910p+UO
>>303
当然中の二人を救出するためにはその手を退かさないとならないが、魔獣は今は『待て』を指示された犬のようにじっと動かない。だが近付けば攻撃されるだろうし、退かしたところで部屋に入ればまた同じことになる。
「ねえ、今蒼星石達はどうしてるの?この隙に向こう側に移動してる様子は?」
『無いわ。あの2人がその部屋に入った時に崩れるような音がしたから…もしかすると完全に戻れないのかも』
それは充分あり得る話だ。めぐとは違う理由でジャバウォックもあの部屋から出られない。なら入ってきた者達が来た通路を戻ってしまったらそれこそ魔獣の置き腐れ。
「チッ…」
マズい…打開策が見当たらない。時間をかければどうとでもなるが、いくらみつ達と居るからと言って日本海域に長時間駐留するのは問題だ。ただでさえ日の昇った時間帯の作戦だと言うのに…
身の危険があるわけではないが、まるで開かない金庫を前にした時のような焦燥感が募る。汗を滲ませながら頭を必死に回転させる水銀燈と、指令室の2人。
そんな時、場違いとも思えるような澄んだ声がそれぞれのイヤホンから各人へ届いた。
『お困りのようですね。少々お耳を拝借したいのですが』

ローズ7、雪華綺晶が口にした指示はとても簡単なものだった。だがあまりに簡単で明瞭な故に、皆はその意味するところが解らない。
「えっと…これでいいですか?」
言われた通り、翠星石はまだ意識の無い薔薇水晶を抱えジャバウォックが見える位置まで移動する。
『誠に重畳ですわ。後はその場に座らせて、耳に新しいイヤホンを付けてください』
翠星石は雛苺から渡された一式を薔薇水晶へ装着した。雪華綺晶から言われた事は、これで全部。
「ちょっとローズ7?これでどうするの?何やるかくらい言ってから…」
『まあお姉様。ここからはわたくし共にお任せください』
そう言って、少し間を開けた後。
『コホン。えー、ばらしーちゃん?先ずはお疲れ様でした。良く頑張りましたね。偉いですわ。ただ、まだ危機は去ってはいないのです。もちろんわたくしとしても、今のばらしーちゃんにこれ以上の無理をさせるのは心苦しいのですが…
あ、つまりですね?何が言いたいかと言いますと……すーっ、仲間のピンチに呑気に寝てるんじゃないわよ私の妹!!あなたのその目は飾りじゃないんだからしっかりこじ開けて敵を見なさい!!解ったら今すぐ起きろ薔薇水晶ー!!』
305以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:15:45.61 ID:uQ910p+UO
>>304
効果覿面。まさに電流が流れるがごとくビクンと跳ねる体と、くわと大きく開かれた右目。余りの反応に翠星石もビクッと体を震わせたその直後、
スパァアアアアアン!!
『ヴガアアアアアアアアアアアア!!』
ジャバウォックがその巨大を震わせ、口の大きく開かれた顔は宙を仰いだ。それはもはや敵を怯ませる雄叫びではなく、ただ単純な絶叫であった。

「Excellent.さすがわたくしの妹ですわ♪」
山から工事を見下ろす一つの金色の眼。加え今の雪華綺晶はその表情までも、狩猟者としての獰猛とも言える笑みをたたえていた。それは一片の迷いのない、清々しいまでの殺意。
今までの雪華綺晶はその猛禽の魔眼があれど、先述したように工事への狙撃はかなり限られた範囲でしか出来なかった。
しかし現在、仲間の位置を全て把握した事で狙撃範囲は工事全土へと広がった。だがそれでも、室内への透視が可能(正確には透視ではないが)なのはやはり壁一枚が限度だったために地下への狙撃は不可能だったのだが、
「それにしても…壁に床にと貫いておきながら全く弾筋がブレないとは。やはり1つより2つがいい、と言うことでしょうか」
薔薇水晶が雪華綺晶の右目の魔眼を受け持つことで、猛禽の魔眼は完成した。魔眼の能力に加えその姉妹の視界共有が、魔眼の性能を遥かに引き上げていたのだ。
もはや雪華綺晶の狙撃範囲は今までの比ではない。今度はさらに、薔薇水晶の視界まで猛禽の尖爪が襲いかかるのだ。ファルコンとイーグル。二羽の空の支配者の前に死角はない。
『ヴヴ!グヴヴ…ガアアアアア!!』
『雪華綺晶!あの魔獣が…!』
「ええ、承知しております」
翠星石が薔薇水晶を背負って部屋に入ったおかげで、その魔獣の姿はしっかりと“視えて”いた。アレはもはや部屋の人間に興味は示さない。一直線に、この私の方を睨んでくる。
「あらあらうふふ。そんなに見つめられては照れてしまいますわ」
そんな言葉とは裏腹に、しっかりと顔に鋭い笑みを刻む雪華綺晶。そして彼女の爪であるライフルは隠すことなく眼下の獲物へと向けられて、
ばちん!

『グガァアアアアアアアアアアアア!!』
今まで聞いてきた雪華綺晶の銃声とは比べものにならない鋭い音が響くと同時に、ジャバウォックも今まで聞いた事もない苦しげな叫び声を上げた。
306以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:18:47.36 ID:uQ910p+UO
>>305
その獣の首筋からどす黒い飛沫が上がり、それに合わせ漆黒の巨体がのた打ち回る。
効いている。間違いなく。
「ふー、やれやれ。柏葉さんの剣でも傷1つ付かなかったのに…凄いなぁ」
「ですねぇ…って蒼星石!?久しぶりですね!?大丈夫ですか!?」
「まあ、お陰様でね。魔獣の方ももう僕達は眼中に無さそうだし。…柏葉さんは大丈夫?」
「はい…とりあえず、ですが」
よろよろと壁に手を付きながらこちらへ歩いてくる巴。どうやら見た目以上の重傷らしい。その中で先程の一撃を繰り出せた底力は感服せざるを得ない。
「で、どーすんですかコイツは」
「うーん、ほっといていいならそれに越したことはないんだけど」
ジャバウォックにとって、由奈の指示は絶対である。だが、その由奈が側におらず、加えて人外の身に危険を及ぼす攻撃を受けたことで、魔獣の防衛本能が勝ったのだ。
『ローズ3、ありがとうございました。もう良いのでばらしーちゃんを連れて皆さんでお逃げください』
「うっし、がってんです…って!オメーまさかこの化け物とサシでやる気ですか!?」
翠星石のその言葉は、ただ純粋に仲間の身を案じてのモノであることに疑いの余地はない。雪華綺晶も当然解ってはいる。が、それでも少し胸が痛んだ。
『…ローズ1。いえ、水銀燈』
「え?な、何?」
雪華綺晶は手元の機材を操作して、水銀燈にだけ声が届くようにしてから、言った。
『かつて貴女は「部下に悪魔は遠慮したい」とおっしゃりました。それは大変ごもっともです。けれど、こんな場合もあることですし、1つ手元に置いてみてはいかがでしょう?』
「…雪華綺晶…」
雪華綺晶の声も口調も普段となんら変わらない軽く明るいものだった。だが、水銀燈にはそれが少し怖がっているようにも感じられた。
確かに、雪華綺晶を勧誘する際に集めた彼女の情報は、水銀燈を躊躇わせるには充分過ぎるものであったかもしれない。ホワイトデビルを、悪魔と呼ばれる少女をチームに加える。それはリーダーとして決して優しい判断ではなかった。
だが薔薇水晶の意見もあり、最後は自分で見極めようと赴いた先での、2人の出逢い。悪魔と呼ばれたその少女は、あまりに人間であったのだ。
307以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:20:59.93 ID:uQ910p+UO
>>306
化け物と言うなら、目の前の魔獣も雪華綺晶も同じなのかもしれない。だが、人は化け物を恐れるのではない。“わからないモノ”を恐れるのだ。
化け物が仲間?結構じゃないか。意志疎通の出来る化け物の方が、ワケのわからない人間よりどれだけ信用できることか。
「…そうねぇ。私達は天下の怪盗ローゼン・メイデン。確かにそれくらいのチームメイトはむしろ必須よねぇ…。いいわ、ローズ7。チームリーダー水銀燈が命じるわよ。その化け物を打ち倒しなさい!そして再び私の下へ帰ってきなさい!」
『………』
その間はきっと、雪華綺晶が自分に与えられた言葉を噛み締めていた時間。
そして、
『認識致しましたわ。マイ・マスター』
ここに再び、彼女と彼女の契約が交わされたのだった。

『ヴグガァ…!!』
「うえ…なんかヤバげな感じですぅ…」
別に大した時間ではなかったが、既に撃たれて怯んでいたジャバウォックが体制を立て直ていた。そしてさらに、もはや変形と呼ぶに相応しい変化を遂げてしまっている。
体を覆う闇はまるで研ぎ澄まされたように鋭く残酷で、体はふた回りほども膨れ上がり、燃えているかと疑うくらいに辺りに熱を振り撒いている。
そしてソレが纏う殺気は、こちらに向いていないからこそいいものの、今までとは桁違いの憎悪に満ちているのがはっきりわかるほどに邪悪で畏怖で脅威だった。
「みんな、ソレは雪華綺晶に任せるわ!私達は別ルートで移動するわよ!」
「くっ、しゃーねーですか…気をつけるですよ雪華綺晶!」
「柏葉さん、キツいようだったら僕の肩に手を」
「すみません…そうさせていただきます」
「みんな!早くするの!」
もうその部屋は居る事自体が苦痛になるほどだった。雛苺が扉を開け、それぞれがそこへ走る。
その矢先に、魔獣が体をかがめ、力を蓄えた。
「アイツまさか!?」
「急いで!!」
その僅かな動きで全員がこれから“何が起こるか”を察した。そして正にその通りに、その黒い塊は凄まじい地響きと爆音を伴い地下室の天井を突き抜けた。

半キロは離れた山中にも、魔獣の雄叫びと崩壊の轟音は体に触れる程に響き渡ってきていた。なんとも禍禍しく、されど体が疼くのを止められない気配。雪華綺晶はそれを、余すことなく全身で受け止める。
「そう…それでいいのです。いらっしゃないな、哀れな獣。アナタの敵は此処にいる。アナタの相手は此処にいる」
308以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:23:34.54 ID:uQ910p+UO
>>307
もう雪華綺晶の眼で魔獣が視える。魔獣も雪華綺晶を視界に捕らえる。
猛禽の魔眼と、獣王の産物が、この択捉の地で相対した。どちらの眼も、美しい程に、恐ろしい程に輝いていた。
そんな死線のぶつかり合いの最中、雪華綺晶はその眼を細め、小さく、されどしっかりと呟いた。まるで、心に刻むように。あるいは、確かめるように。
「そう…化け物の相手は、化け物だけがすればいい」
それが、皮切りとなった。
『ヴバアアアアアアアアア!!』
2人の間の唯一の境界であった工場の壁をジャバウォックが易々とぶち抜いて飛翔する。その魔獣は吠え狂い、喚き散らし、暗黒の炎となって山肌を蹂躙してゆく。その軌跡は真っ直ぐ彼女の元へ。それは山火事とするには余りに闇だった。
ばちん!
雪華綺晶が引き金をひくと古臭いライフルが安っぽい音を出し、市販の弾を人外の力へと変貌させる。そしてそれは何物にも干渉されることなく、魔獣の眼球へと飛び込んだ。
魔獣が叫ぶ。体がよろける。しかし止まる事はない。まだ魔獣は走る事を、恐怖であることを辞めはしない。
雪華綺晶が素早く次弾を込め、撃つ。再び眼球を狙ったものの、今度はジャバウォックが僅かに顔を逸らして頬で受けた。回避したとは言えないが、歩みは衰えず、むしろ更に加速する。
「流石にに同じ起動は通じませんか…ですが、それでこそ」
雪華綺晶はその場の機材を全て放棄し、素早くライフルだけを抱え山奥へと走った。きっかり4秒後、そこは闇が汚染した。
「ふふふっ…あははっ…!」
もはや彼女と魔獣との距離は僅かでしかない。それでも雪華綺晶は山を走りながら笑っていた。本当に、笑っていた。
「さてアナタ。アナタは歌劇、“魔弾の射手”を聴いた事があるでしょうか?」
魔獣は答えない。敵が逃げた事を悟り、その声のする方向へと刃を向けるのみ。
雪華綺晶は更に走り、更に続ける。
「悪魔に魂を売ったカスパールは、友人マックスの命と引き換えにザミエルにどんな狙いも外さない銃を作ってもらいますが…ふふっ、まるで私とこのライフルのようだと思いません?」
魔獣は答えない。木を焼き山を削り、倒すべき敵へと燃え盛る。
雪華綺晶は走るのを辞めない。語りかける事も辞めない。
309以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:25:22.12 ID:uQ910p+UO
>>308
「その銃は7発中6発は撃ち手の意のままに操れます。しかし最後の一発だけは悪魔の意志が宿っる魔弾となってしまう。ですが…」
ジャバウォックが雪華綺晶へ向けて飛びかかった。もう弾を装填し直す猶予も無い。後は闇が飲み込み、全てを消し去るだけ。
それでも、雪華綺晶は笑い、歌うように言ったのだった。
「これがその7発目。けれどわたくしにとって、“それ”こそが至高の弾になりえると思いませんか?」
魔獣は答えない。
代わりに、ないた。



突入班3組に加え白崎とジュンが工場の東側を走ってる。半数がまともに動けない為に決して速くはないが、それでも確実に出口へと近づいていく。
「雪華綺晶、大丈夫ですかねぇ…」
自信の安全が確保されればやはり心配なのは仲間の身。まして、相手が相手なのだ。意味のない質問とわかっていても口に出るのを止められない。
「あの子が任せろと言ったのだから信じましょう。でも確かに頭突きで床に穴を開けるなんて…まるで真紅ねぇ」
「…水銀燈。アナタとは後でゆっくり話し合う必要が有りそうね」
「私にはないわぁ。と言うか真紅?あんまりしゃべると力尽きるわよぉ?カンオケに入って後ろから付いて来るならいいけれど」
「アナタが余計な事ばかり言うから私が…!ゴホッ、ゴホッ!」
「真紅、あまり無理しないようにね。水銀燈もおちょくらない。そして柏葉さんは笑わない。骨に響くよ」
「は、はい…!」
正直、動けない者達の数人はかなりの重傷で一度意識を失ったらかなりの間目覚めないと思えた。背負うにしても意識の有る無しでは負担も扱いやすさも遥かに違う。一見くだらないやり取りでもそれなりに意味と効果はあったりする。
310以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:27:39.67 ID:uQ910p+UO
>>309
みつの判断で一行は部屋を抜けた後、めぐが居た部屋を通り正面玄関へ向かうルートを選んだ。水銀燈はめぐがまだ倒れているようなら拾う事も考えたが、その姿はなかった。
荒れた部屋を抜け、蒼星石と巴がヤマモトと会った広間へとたどり着く。(どうでも良かったが)ヤマモトもその姿は見当たらなかった。
「野郎ども!ようやく出口ですよ!」
巴が刻んでしまった玄関から一歩外界へ踏みだすと、太陽と冬の空気の冷たさが迎えてくれた。確かに寒かったが、風が体を包むのは疲労した体に心地良い。
『みんなお疲れ様かしら!船を移動させるから指定の脱出ポイントまで来るかしら!』
ジュンと白崎を連れ出し、廃工場から脱出成功。長かったミッションがようやく終わりを告げようとしていた。
安堵と共に強い疲労が体を染める。脱力感に気が緩み、体が脳へ睡眠を要求する。
だから、古今東西の常識になる。
「伏せろですぅ!!」
翠星石が薔薇水晶を背負った状態からベリーベルを抜き打ちで掃射した。鍛えられた彼女達はセーフハウスかアジトへ帰るまで警戒を解くことはないのだ。
翠星石の水弾が相殺したのは、石だった。弾丸でも矢でもなく、手のひらサイズの石。まるで、足下にあったものを、投げたような。
「あははははは!みーつけた、みーつけた!!あははははは!」
「…めぐ」
皆の視線の向かうのは、工場が建つ山の斜面を少し登った所。そこに、小石を両手に持ち、笑いながら皆を見下ろす、柿崎めぐが立っていた。



311以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/28(日) 20:29:35.26 ID:uQ910p+UO
>>310
投下終了。お疲れ様でした!

…うん、長いですね。これを前編にしてもいっちょこれより更に長くなるであろう後編を一日で投下しようってんだから驚きですよねー。ジュンが真紅に殴られるのも無理ないですよねー。あははー。

…さて、そんなこんなで急遽の第八話でした。もうmission終わったじゃんと思いきやもう少し続きます。次が完全完璧に最終話。もうほとんど書けてるんで直ぐにお届けできるかと。多分。おそらく。

まあ、容量によっては最終話を前後編に分けるかもしれませんが、それはその時にお知らせしますんで。


ではまた!
312以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
保守ですわ