1 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:
カイジは圧倒的激怒っ…!
2 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:40:54.34 ID:c5xaxxDZ0
ざわわ・・・ ざわわ・・・
ざわわ・・・
到着した瞬間
おめでとう
コングラッチュレーション
完走おめでとう
4 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:41:45.63 ID:dkgMuiu10
必ず、かの邪智暴虐の会長を除かなければならぬと決意した。
カイジには金の重みがわからぬ。カイジは、巷でいうニートである。
サイコロを投げ、カードで勝負して来た。
けれどもギャンブルに対しては、人一倍に聡明であった。
5 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:42:13.52 ID:dkgMuiu10
きょう未明カイジは地下を出発し、船に乗りビルを渡り、十里(現代で言う百里)はなれたこの東京のカジノにやって来た。
カイジには父も、母も無い。女房も無い。
四五組の、借金漬けの男達との集団生活だ。
カイジは、地下の或る律気な仲間を、近々、地上へ連れ出す事になっていた。
タイムリミットも間近かなのである。
まず、パチンコ店や競馬場、それからカジノ通りをぶらぶら歩いた。
6 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:42:13.81 ID:pIr20Sg20
博打がわからぬっ‥‥‥!
カイジにはっ‥‥‥!
7 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:42:39.49 ID:1VwQy7FQ0
距離は過去も今も一緒じゃねwwwwwwwwww
8 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:42:50.73 ID:dkgMuiu10
カイジにはかつて共闘した仲間があった。
セリヌンサカザキである。今は此の東京の市で、夜間警備員をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにカイジは、通りの様子を怪しく思った。
9 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:43:34.02 ID:dkgMuiu10
ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなカイジも、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、6ヶ月まえに地上にいたときは、夜でも皆が高級車のエンブレムを剥ぎ取って、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振ってこう言った。
「大人は質問に答えない」。
10 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:43:48.20 ID:JO+PZDPf0
セリヌンサカザキは無理がある
11 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:44:51.42 ID:dkgMuiu10
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
「じじいも質問には答えない」老爺は答えなかった。
カイジは老爺を押さえつけて猛毒を打ち、血清剤の場所を教える代わりにと、質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
12 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:46:28.85 ID:dkgMuiu10
「会長は、人を殺します」
「なぜ殺すのだ」
「金は命より重い、というのですが、誰もそんなことは思っておりませぬ。」
「たくさんの人を殺したのかっ……」
「はい、はじめはチョキのカードをトイレに捨てた者を。
それから、星を3つ集められなかった者を。
それから、綱渡りで落ちたものを。」
14 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:48:53.31 ID:dkgMuiu10
「おどろいた。会長は狂気の沙汰なのかっ……」
「いいえ、狂気の沙汰ではございませぬ。命は、命はもっと粗末に扱うべきだとおっしゃるのです。
このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。
御命令を拒めば焼いた鉄板の上に座らされ、土下座させられます。
きょうは、六人焼かれました。」
15 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:50:07.20 ID:dkgMuiu10
聞いて、カイジは激怒した。
「呆れた会長だっ……。生かしてはおけねぇ……」
カイジは、単純な男であった。
老爺には打ったのは毒ではないと伝え、のそのそスターサイドホテルにはいって行った。
たちまち彼は、巡回の黒服に捕縛された。
調べられて、カイジの懐中からはピンゾロサイが出て来たので、ざわざわ…ざわざわ…が大きくなってしまった。
カイジは、会長の前に引き出された。
16 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:50:30.39 ID:jmo77DvD0
,,,ww,,
━╋━ ミヽ#/彡 e三ヽ ━┳━
━╋━ d;a;X;e;b ヽ 0 i.. ┣━
┣━ 入;小人 w ヽ i. ┃┃
┣┻━ w,,,,,,/ ∈∋ ヽ'7, (二i ┻┻━
|||,,,-''i ヽi;;;;;;i / i ヾi, ; i
┃┏┓ レ | i;;;;;;i; i i ┃
┗┛┃ i /i ノ;;;;;( ; ; (:'-,,, イl... ┃
┃ i i ノi /;;;;;;;;;;;\_ L、llp~川. ┃ ┃
━┛ i E/-''''''ヽ,,;;;;;;;;;;\ ヽ 艸 ┗━┛
( EI: : : ヽ;;;;;;;;;;;;;\ i
━╋━ i ヽi: : : :i;;;i: : : T: ヽ川 .┃ ┓
┣┓ y(ノi: : : :i;;;i\: : i ┃ ┃
┃┃ l: : : :i-'ヽ: : :i ┃ ┃
┛┃ .l: :i i i: i: : i
}: : ::i i: : : i
━┓ {,--,, i i: : : (
┛ (三ヽヽ i: : : i
|||'''-,ン i: : : :i
● || 川 i: : : :i
● || :i: : ::i
● i: : :i
i: : i
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/ / ; ; ; ; ト: : 」; ; ; ;
● ● ; ; ; ; (i王ヽ; ; ; ;
; ; ; ; (三); ; ; ;
17 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:50:54.30 ID:dkgMuiu10
>>13 そう。
なんか向こうで無駄なスレをたててしまって申し訳ないわ。
18 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:53:31.56 ID:dkgMuiu10
「このピンゾロサイで何をするつもりであったか。言え!」
暴君ヒョドニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。
その会長の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「仲間を地下から救うのだっ……」
とカイジは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」会長は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。クズには、王の考えがわからぬ」
「さえずるなっ……!」
とカイジは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だっ…!疑ってるうちはまだしも、それを口にしたら………戦争だろうがっ!」
19 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:55:55.07 ID:LgPmzvkI0
カイジ「ダブルで墓穴・・・ダブボケ・・・くそっ」
20 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:57:11.42 ID:dkgMuiu10
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私慾のかたまりさ。殺さなきゃ誰かの養分じゃ」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが」
「きさまっ………きさまっ………きさまっ………それでも人間かっ……!」
こんどはカイジが嘲笑した。
「罪の無い人を殺して、何が平和だっ………!」
21 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:59:21.58 ID:Wd0rEEN+0
カイジカッコヨス
22 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:59:54.16 ID:CuNzViwd0
これは期待w
23 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:02:01.17 ID:dkgMuiu10
「だまれ、狼をフリをした羊!」
会長は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。それに煮え湯を飲まされてきた、何度も。
わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。
おまえだって、いまに、指を落とす段階になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
24 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:03:44.62 ID:dkgMuiu10
「ああ、会長は悧巧だ。自惚れているがいいぜ。
俺は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るっ……
退路なんてねぇんだよっ……。ただ…………………」
と言いかけて、カイジは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間(現代で言う三十日)の日限を与えてくれ。
たった一人の仲間に、妻子を戻してやりたいんだ
。三日(現代で言う三十日)のうちに、俺はカジノで勝利し、必ず、ここへ帰って来るっ……。」
25 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:04:19.97 ID:dkgMuiu10
ざわ……
ざわざわ……
ざわ……
ざわざわ……
「疑うのぉおおが、正当のぉおお心構えにゃのぉおおらと、わしに教えてへぇええぇ゙くれたのぉおおのぉおおは、お゙ぉおォおんまえたのぉおおちら。
人のぉおお心は、ぁあああ あぉてににゃらにゃいぃのぉおお。人間は、もともと私慾のぉおおかたのぉおおまりしゃ。殺しゃにゃきゃ誰かのぉおお養分に゛ゃ」
暴君は落着いぃて呟き、ほお゛お゛っっと溜息をちゅいぃたのぉおお。「わしらって、平和を望んれいぃるのぉおおのぉおおらが」
27 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:07:02.63 ID:dkgMuiu10
「Fuck You!ぶち殺すぞゴミめ!」
と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
「”もう少し待って……”おまえらは生まれてから何度そのセリフを吐いた……?
世間はおまえらの母親ではないっ……!おまえらクズの決心をいつまでも待ったりはせん……!
逃がした小鳥が帰ってくるとでも言うのか……!」
28 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:07:16.65 ID:l2UlK1foO
なんか文章が国語の教科書っぽいwww
29 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:09:39.74 ID:dkgMuiu10
「そうだ!俺は帰って来るっ…」カイジは必死で言い張った。
「俺は約束を守るっ……。私を、三日間(現代で言う30日)だけ許してくれっ……。
仲間がっ……私の帰りを待っているのだっ……。
そんなに俺を信じられないならば、いいだろう、この市にセリヌンサカザキという夜間警備員がいる。
俺の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
俺が逃げてしまって、三日目(現代で言う30日)の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人の体をルーレットを回して切り刻んで下さい。
たのむ、そうしてくれっ……。」
30 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:10:46.68 ID:gnYyNUcV0
あー国語の教科書で初めて走れメロス読んだっけな
31 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:10:47.69 ID:dkgMuiu10
---小休止---
風呂入ってくるわ
32 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:11:41.14 ID:zMnwiZO10
立木ボイスで読めばいいんですね
「ぁあああ あぉぁあああ あぉ、会長は悧巧ら。自惚れていぃるのぉおおがいぃぃぃっよぉおお゙ぜ。
俺は、ひゃぁんと死ぬるのぉおお覚悟れ居るのぉおおっ…… 退路にゃんてねぇんらよっ……。たのぉおおら…………………」
と言いぃかけて、カイジは足もとに視線を落し瞬時たのぉおおめらいぃ、
「Fuck You!ぶち殺しゅぞゴミめ!」と暴君は、嗄れたのぉおお声れ低く笑ったのぉおお。
「”んもぉ゛お゛お゛ぉぉ少し待って……”お゙ぉおォおんまえらは生まれてから何度そのぉおおセリフを吐いぃたのぉおお……? 世間はお゙ぉおォおんまえらのぉおお母親れはにゃいぃのぉおおっ……!
お゙ぉおォおんまえらクズのぉおお決心をいぃちゅまれも待ったのぉおおりはせん……!」
35 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:17:56.97 ID:l2UlK1foO
36 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:18:28.99 ID:TlxoeOCDO
妻子を取り戻させる為にその男を置いていく…
…………あれ?
「そうら!俺は帰って来るのぉおおっ…」カイジは必死れ言いぃ張ったのぉおお。
「俺は約束を守るのぉおおっ……。私を、三日間(現代れ言う30日)らけ許してぇぇぇぇ゛くれっ……。 仲間がっ……私のぉおお帰りを待っていぃるのぉおおのぉおおらっ……。
そんにゃに俺を信じられにゃいぃのぉおおにゃらば、いぃぃぃっよぉおお゙らろう、このぉおお市にセリヌンサカザキといぃう夜間警備員がいぃるのぉおお。」
38 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:29:10.24 ID:l2UlK1foO
ほしゅ
39 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:31:05.11 ID:dkgMuiu10
ただまー
保守してくれた人サンクス!
>>36 そこは大丈夫
--再会--
40 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:32:00.75 ID:dkgMuiu10
それを聞いて会長は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。
とどのつまりは、どうせ帰ってこないに決まっている。
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられませーーーんっ……!そんなことは…ゼロゼロゼロっ……!
信じられません…いっさい人など……と、わしは悲しい顔して、その身代りの男を手術台に処してやるのだ。
世の中の、守銭奴とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
41 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:38:04.06 ID:dkgMuiu10
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。
三日目には日没までに帰って来い。遅れたら、その身代りを、きっと殺すぞ。
ちょっとおくれて来るがいい。お前の罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。
そう、お前は100%遅れてくるタイプ……」
「なに、何をいってやがる!」
「カカカカカ……キキキキキ……ククククク……。いのちが大事だったら、おくれて来い。
おまえの心は、わかっているぞ。今は一種の興奮状態だから、ヒロイックな気分で戻ってくるとか言っているが、
普通に家へ戻れば、瞬く間に普通の感覚に戻り……
普通に裏切るっ……それが人間」
42 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:43:54.94 ID:dkgMuiu10
その刹那、カイジは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、セリヌンサカザキは、深夜、スターサイドホテルに召された。
暴君ヒョドニスの面前で、佳き友と佳き友は、6ヶ月ぶりで相逢うた。
カイジは両手の人差し指をツンツンしながら、友に一切の事情を語った。
「…っていうかあ〜、おっちゃんが人質にならないと俺は帰れない訳だしぃ……
そしたらギャンブルに挑戦できなくて……元も子もないっていうの?」
セリヌンサカザキはぐぐっ…と首肯き、カイジを勢いよく追い出した。
友と友の間は、色々あったけど分け前を折半でよかった。
セリヌンサカザキは、縄打たれた。
(必ず戻ってくるぜ…おっちゃん)
カイジは、すぐに出発した。
初夏、57億の満天の孤独(ほし)である。
43 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:50:06.87 ID:dkgMuiu10
カイジはその夜、一睡(現代で言う十睡)もせず十里の路を急ぎに急いで、カジノ通りへ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、店員たちは現場にて仕事をはじめていた。
カイジの仲間の遠藤も、きょうは作戦の準備をしていた。
よろめいて歩いて来るカイジの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさくカイジに質問を浴びせた。
44 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 23:54:22.26 ID:dkgMuiu10
「なんでも無いっ……」カイジは無理に笑おうと努めた。
「ホテルに用事を残して来た。またすぐホテルに行かなければいけねえ。
明日、勝負をかける。早いほうがいいだろ。」
遠藤は、よしきた、と奮い立った。
「うれしいか。大きな水槽も買って来たぜ。
よし、これから行って、上の階に水を張って来よう。勝負は明日だっ……。」
カイジは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、資金を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
45 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:03:03.07 ID:jb6MLF670
眼が覚めたのは夜だった。
カイジは起きてすぐ、裏通りのカジノを訪れた。
そうして、少し事情があるから、沼を打たせてくれ、と頼んだ。
オーナーの一条は驚いたものの、当店は誰でもウェルカム、どうぞ存分に夢を追い続けてください、われわれはその姿勢を心から応援するものです、とカイジを招きいれた。
46 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:06:41.61 ID:jb6MLF670
カイジは、遠藤との策略により、沼から大金を吐き出させた。
周囲から、歓喜の声が湧き上がる。
47 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:14:35.81 ID:jb6MLF670
気がつけば……… 豪遊っ……!
カイジは、一生このままここにいたい、と思った。
この地上で生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
ままならぬ事である。カイジは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
カイジほどの男にも、やはり油断と隙というものは在る。
48 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:24:20.35 ID:jb6MLF670
今宵呆然、遠藤は酒に酔っているらしいカイジに近寄り、
「俺は疲れてしまったから、いますぐ帰って眠るのだよ、帝王だからな。
ところでカイジ君、さっきの取り分の話だが、君の計算は間違っている。
あの契約書にあるとおり、利息は十分で一割だ。つまり・・(以下略」
カイジは睡眠薬入りのワインを飲んだ後だったので、薄れ行く意識の中遠藤の言葉を聴いていた。そして、そもまま死んだように深く眠った。
49 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:32:04.51 ID:jb6MLF670
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
カイジは跳ね起き、お金が減っていることを確認し、しばらく、うねうね…と地面を這った。
しかし、45組を地上から連れ出し、セリヌンサカザキのもとへ妻子が戻ってくるに十分な金額は残っている。
今日は是非とも、あの会長に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って「地道に行こう(キラッ」と言ってやる。
カイジは、悠々と身仕度をはじめた。雨が、小降りになっている様子である。身仕度は出来た。
カイジは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
50 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:34:55.27 ID:jb6MLF670
俺は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。
武士は自分をわかってくれる人の為に死にに行く。走らなければならぬ。
そうして、俺は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。
若いカイジは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
村を出て、細い足場を渡り、透明の足場を発見し、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
51 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:37:52.88 ID:jb6MLF670
カイジは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
俺には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにホテルに行き着けば、それでよいのだ。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
52 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:41:22.00 ID:jb6MLF670
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、カイジの足は、はたと、とまった。
見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた
彼はぐにゃ〜っと、立ちすくんだ。
53 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:42:16.87 ID:jb6MLF670
あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
「ふざけろっ…」
カイジは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながら神に手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。
太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、ホテルに行き着くことが出来なかったら、あの良い友達が、俺のために死ぬのです。
神よ…………オレを祝福しろっ…! 」
54 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:48:25.64 ID:bDZOBbrz0
ごくり・・・
55 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:48:57.01 ID:jb6MLF670
……が、駄目っ!
濁流は、カイジの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今はカイジも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。
濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
56 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:50:05.90 ID:jb6MLF670
突っ走って、その先にある亀裂を飛び越えるしかねぇ!
いいかげん気がつけっ!退路なんか、もうねえんだよっ!
漕ぎ出せっ…………!勝負の大海へっ……!
57 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:51:18.73 ID:jb6MLF670
カイジは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。
満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、
神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。
僥倖っ!まさに僥倖っ!
カイジは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りすっしょ。。:2008/12/07(日) 00:53:02.20 ID:YTZZtF7y0
問:なぜメロスは走ったのでしょう?
答:タイトルが走れメロスだから
59 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:54:41.38 ID:jb6MLF670
60 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:55:29.70 ID:jb6MLF670
一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、
突然、目の前に一隊の若者達が躍り出た。周りを囲まれ、すでに四面楚歌。
61 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 00:57:20.48 ID:jb6MLF670
「ば・・・ ばっかも〜ん!! 待て!」
「何をしやがる!俺は陽の沈まぬうちにホテルへ行かなければらねーんだ。放しやがれ。」
「ところがどっこい放さぬ。お前は持ちもの全部を置いて行く……これが現実」
「俺にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから会長にくれてやるんだ。」
「通しませ〜〜〜ん。その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、会長の命令で、ここで私を待ち伏せしていやがったな。」
若者たちは、ものも言わず一斉にバッドや角材を振り挙げた。
死ぬとは思わなかった!そう言うんだろうな……はずみで死ねばそういうんだ!
人をバッドや、角材、鉄棒、ブロックなんやかやで殴りつけておいて
……死ねば………思わなかった……!
62 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:12:00.31 ID:jb6MLF670
カイジはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、
その背中に貼り付けた宝石を奪い取って、「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、
たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。
この間僅か五秒……!!明らかな奇襲!!カイジの作戦勝ち!!
63 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:14:40.15 ID:jb6MLF670
一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照った。
カイジは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
ボロ…ボロボロ…。
ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、若者たちを三人も撃ち倒し堕天、ここまで突破して来たカイジよ。
真の勇者、カイジよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
おまえは、稀代の不信の人間、まさしく会長の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、
全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。
路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。
もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。
64 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:20:31.95 ID:jb6MLF670
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、尻の毛一本も無かった。
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。
ともかく、強敵すぎた!世間この世ってやつは!
オレから見たら。私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら俺の胸を截ち割って、手持ちのカードをお目に掛けたい。
まぁ…ブタだわな…なのに…そのくせ…夢だけはあった。
65 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:21:16.60 ID:jb6MLF670
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。
私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。女にはふられ、仕事では水をあけられ……打つ手は裏目!
まるで…押しつぶしっ!私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
ああ、もう、どうでもいい。これが、俺の定った運命なのかも知れない。
66 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:24:28.16 ID:jb6MLF670
ボロ…ボロボロ……。セリヌンサカザキよ、ゆるしてくれ。
君は、いつでも私を信じた。私も俺を、欺かなかった。
俺たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、君は俺を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。
ありがとう、セリヌンサカザキ。
よくも俺を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
セリヌンサカザキ、俺は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。
67 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:26:32.17 ID:jb6MLF670
信じてくれ!……抗った…!オレは抗った…!屈服せず……抗った!
俺は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。若者の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
俺だから、出来たんだ。ああ、この上、俺に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。俺は負けたのだ。
だらしが無い。笑ってくれ。会長は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
おくれたら、身代りを殺して、俺を助けてくれると約束した。俺は会長の卑劣を憎んだ。
68 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:27:06.31 ID:y/ZIr+jZ0
吹いたwwwwwww
69 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:27:59.82 ID:jb6MLF670
けれども、今になってみると、俺は会長の言うままになっている。
俺は、遅れて行くだろう。どんなに真面目に走っても間に合わなければ罪人!
会長は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く俺を放免するだろう。
そうなったら、俺は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
死ねば助かるのに、か……セリヌンサカザキよ、俺も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。
君だけは俺を信じてくれるにちがい無い。
70 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:29:16.39 ID:jb6MLF670
いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
地下には俺の家が在る。三好たちも居る。三好たちが、まさか俺を裏切るような事はしないだろう。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
魑魅魍魎 。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。
私は、醜い裏切り者だ。いいじゃないか裏切り者で。熱い裏切り者なら上等よ。
カイジのアウツ――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
71 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:40:09.96 ID:jb6MLF670
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
すぐ足もとで、水が流れているらしい。
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。
その泉に吸い込まれるようにカイジは身をかがめた。
キンキンに冷えていやがるっ…!
水を両手で掬って、一くち飲んだ。
うまいっ……犯罪的だっ……うますぎるっ……。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
72 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:42:06.77 ID:jb6MLF670
歩ける。行こう。
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までには、まだ間がある。
損得だけで生きてなんになる?ましてや安楽…あるいは安全…そんなものだけを追って……生きて…何になる?
そんなことはミジンコ、ゴキブリだってやっている!
違うっ……!違うっ違うっ!そうじゃないっ!オレ達人間は………人間ってのは…それ以上の…何かだろう!
それ以上の何か、つまり…人間を、人間たらしめている……心……感情がある……!
俺を待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
俺は…信じられている…。俺の命なぞは……問題ではない。死んでお詫び…………などと気のいい事は言って居られぬ。
それこそが……本当の意味での敗者だろう…。
私は、信頼に報いなければならぬ。今はただその一事だ!
走れ! カイジ!
73 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:43:46.31 ID:jb6MLF670
俺は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれはダメ思考だ。
典型的ダメ人間のダメ回路だ。忘れてしまえ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
カイジ、おまえの恥ではない。
私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。
生きてりゃ良い、生きているだけで勝者なんていうのは、動物の話だっ!
人間は違うっ! みんなそれぞれ、理想とする男像…、
人間像ってものがあって、そういうのを目指すから人間だっ!
ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、神よ。
74 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:44:45.20 ID:jb6MLF670
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、カイジは黒い風のように走った。
邪魔者は押せっ!そうすることによって、初めて道は開かれる!
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴のホープレスたちを仰天させ、
カイジ犬を蹴とばし、邪魔する裏切り者たちを殴り倒し、
少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍(現代で言う百倍)も早く走った。
75 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:45:52.32 ID:GX+0m7MG0
その(現代で言う云々はペリカ的な意味でか
76 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:46:00.23 ID:jb6MLF670
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの男も、手術台にかかっているよ。」
ああ、その男、その男のために俺は、いまこんなに走っているのだ。
その男を死なせてはならない。急げ、カイジ。遅れてはならぬ。
カイジは、今は、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口からコホンと咳が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、スターサイドのホテルの屋上が見える。
屋上は、夕陽を受けてきらきら光っている。
77 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:47:01.51 ID:jb6MLF670
「ああ、カイジ君。」
うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だっ…」
カイジは走りながら尋ねた。
「フィロストイシダでございます。貴方のお友達セリヌンサカザキの父親でございます。」
その中年の石工も、カイジの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。無駄でございます。走るのは、やめて下さい。
もう、我が息子をお助けになることは不可能。登りません、水は決して。」
78 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:49:04.68 ID:jb6MLF670
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、息子が切り刻まれるところです。ああ、あなたは遅かった。
おうらみもうしあげます。もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
カイジは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。
息子は、あなたを信じて居りました。爪を血のマニキュアで染められても、平気でいました。
会長が、さんざんあの方をからかっても、
カイジは来ます、我が娘を迎えに、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でした。」
79 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:49:54.60 ID:jb6MLF670
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。
人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。
ついて来い! フィロストイシダ。」
「ああ、あなたは狂気の沙汰だ。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。
走るがいい。……このチケットを……カイジ君に託します。
虫のいい話ですが、私の代わりにこのチケットを金に換え、息子に渡してやってください」
80 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:50:50.52 ID:jb6MLF670
1000万チケットをカイジに手渡すフィロストイシダ。
「受取ったら行ってください。私にかまわず行ってください。決して振り返らず。
私がいなくなるのを見たらカイジ君は動揺します。カイジ君はただ前を見て行けばいいのです」
「フィロストイシダさん」と叫んで振り向くカイジ。
しかしフィロストイシダの姿はそこにはなかった。
(帰った…帰ってしまった……しかも無言で)歯を食いしばるカイジ。
81 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:51:28.82 ID:2hNKbwdH0
え?何これ
82 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:55:12.21 ID:jb6MLF670
まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、カイジは走った。
カイジはわけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、カイジは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
83 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:56:23.08 ID:jb6MLF670
「待て。その人を殺してはならぬ。カイジが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、
群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでに手術台が用意され、縄を打たれたセリヌンサカザキは、台に乗せられた。
せっ…
せっ…
押せっ…
カイジは濁流を泳いだように群衆を掻きわけた。
84 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:57:29.13 ID:jb6MLF670
「私だ、刑吏! 殺されるのは、俺だ。カイジだ。彼を人質にした俺は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに台に乗せられた友の両足に、齧りついた。
群衆は、どよめいた。
せっ…
せっ…
ゆるせっ…、
と口々にわめいた。セリヌンサカザキの縄は、ほどかれたのである。
「おっさん!」カイジは眼に涙を浮べて言った。
「俺を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。俺は、途中で一度、悪い夢を見た。
おっさんが俺を殴ってくれなかったら、俺はおっさんと抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
85 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:58:59.24 ID:jb6MLF670
セリヌンサカザキは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くカイジの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑み、
「カイジ、わしを殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらとおぬしを疑った。
生れて、はじめておぬしを疑った。おぬしがわしを殴ってくれなければ、わしはおぬしと抱擁できない。」
カイジは腕に唸りをつけてセリヌンサカザキの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
86 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 01:59:20.84 ID:M9K6Akfj0
87 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:00:42.22 ID:jb6MLF670
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。
暴君ヒョドニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、
顔を赤くして、こう言った。
「なんじゃ。この決着は。胸くそ悪い。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
わしは帰って寝るのだよ、王だからな」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「1050年!会長1050年!地下行き!」
88 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:03:16.54 ID:jb6MLF670
ひとりの少女がやって来て、サンドイッチをカイジに捧げた。
カイジは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「カイジ、お前は、おなかが減っているだろう。早くそのサンドイッチを食べるがよい。
このとっても可愛い娘さんは、カイジのために一生懸命作ったのだ」
カイジは群衆の注目の中、逃げることもできず、仕方なくサンドイッチにかぶりついた。
「てへへ・・・たまご付いてるぞっ♪」
勇者は、ひどく寒気がした。
89 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:04:11.76 ID:jb6MLF670
--Fin--
読んでくれた人、ありがとう
90 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:06:40.75 ID:78C5QrCd0
ワロタ
乙
91 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:08:05.03 ID:M9K6Akfj0
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, -‐- 、 r'´ 三ミヽ.
r'´彡, 彡' ミ、ヽ
. ノ '〃'/ l''ヘ\ヾミ`\\
,' ノ ヽ. ` ヽ
l ノノ,リ,r ァ'-、 ゙>-ミ、ミヾ │
| '〃'.,ノ ′__ __ `\ ヾ |
. l r,=i|. ゞ'⌒`, 、'⌒ヾ' |i=、l
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|.ヾ=l! r _‐-‘ニ'='ニ’.-‐ 、lレ' l
. ||i: | | トカエエエエエ夕l ||.ill|
. | l|!|l.| l ヒェェェェェェェェTj ll_ レ'l二二二l
| l._` ー────/.ノ',.イ-〜ニ〜{
_.⊥-┬- 、T' ‐- ニ -ァ7 ノ/r'/l二二二l
. /, -‐ 、:::ヽ::\:\._ _./ノ {'// /´レァ/
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レ T‐-`ニ::‐/ ヽ\. ''ニニ 'ノ,ハ
| ,. -─┴- 、_/{. ` ` フ"´「 ̄ j ┼ヽ -|r‐、. レ |
ヽ r' ´  ̄/ ヽ. _/ │ / | d⌒) ./| _ノ __ノ
面白かったぜ 乙
93 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:14:33.73 ID:jb6MLF670
おー読んでくれたとはありがたい!
AAもすごいな!
そろそろねるぽ
おやすみ
乙
乙
96 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:23:56.27 ID:8a3TNXXVO
97 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:32:31.73 ID:wOTLT5HL0
凄いな。乙
面白かった。
99 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 03:28:24.45 ID:GX+0m7MG0
大槻だせよ
100 :
愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:
乙