1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
「おや、ここを開いたということは、
貴方は薔薇乙女、ローゼンメイデンについて知っているのですね」
暗がりにたたずむのは、一人の男性。
否、男性のようで、そうとも言えない容姿。
身体は成人男性のそれだが、首から上がまことに奇怪。
兎の頭がそこにある。
作り物にしては生々しい毛、目、鼻、口、耳。
本物の兎のそれが、成人男性の身体についているのだ。
「私の名前はラプラスの魔」
ラプラスの魔と名乗る奇怪な生き物は、
その場でぺこりと礼をする。
「ローゼンメイデンを知っているのならば、
アリスゲームのこともご存知でございましょう」
アリスゲーム。七体のドールが、アリスを目指し、戦いあう。
ゲームというには、あまりにも残酷な、姉妹同士での戦い。
「彼女達ローゼンメイデンは、この時代でもアリスを目指し、戦っております。
しかし、常に戦い続けているわけではありません。
厳しい戦いの裏では、それぞれが平穏な日常を享受しているのでございます」
ラプラスの魔は、パチンと指を鳴らす。
すると、何も無かった空間から、突如扉が現れる。
「今回はそんな彼女達の日常の一部を、覗いてみることにしましょう」
ラプラスの魔はドアノブを回す。扉が、開く。
眩しい光が、扉の向こうの世界からあふれ出す。
「それでは、ご覧ください。彼女達の、ささやかな日常を――」
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 22:50:26.17 ID:3JU9gyu+0
case1 雛苺
「ひなちゃーん、準備できたわよぅ」
「今いくのー」
雛苺はのりのもとへと駆け寄る。
「はい」
手渡されたのは小さなバッグ。苺のアップリケが縫い付けられている。
「ありがとなのー」
それを受け取る雛苺。いつになく上機嫌だ。
彼女はそのバッグを持って、ジュンの部屋へと向かう。
「ジュンー。みてみてー」
「朝っぱらからうるさいな。どうした?」
雛苺はバッグを両手で持ってぴょんぴょんとはねる。
「バッグがどうしたんだよ」
「えへへー。今日はねえ、巴のお家にお泊りなのよー」
「そういやそんな話を前にしてたっけな」
「おっとまりっ。おっとまり。たーのしーみなのー」
「あんまり柏葉に迷惑かけるなよ。
あいつはクラス委員や部活で毎日頑張っているんだから」
「わかってるの。ひなもお子様じゃないのよ」
「まだまだお子様だろ。いや、お子ちゃまだな」
「違うのー! ヒナもうお子様じゃないもんっ」
「わかった、わかったよ」
「うー……」
雛苺はジュンの態度になっとくがいかないようだ。
「じゃあこういうのはどうかしら」
ベッドの上で本を読んでいた真紅が口を開く。
「なんなんだ?」
「今回のお泊りで、雛苺がお子様なのかそうじゃないいのかを、
巴に判断してもらいましょう」
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 22:53:21.02 ID:ul64vBCx0
トモエが身体検査する流れか
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 22:54:14.29 ID:3JU9gyu+0
「どういうことなの?」
よく理解ができなかったのか、雛苺は聞きなおす。
「あなたが巴の家で、ちゃんとお利口にできたのなら、
彼女があなたはお子様じゃないと認めてくれるわ。
それならジュンも納得するでしょう」
「つまり、ヒナがちゃんといい子にしていればジュンも認めてくれるのね?」
「そういうことよ。ジュン、いいわね?」
「ああ、わかったよ」
あまり興味がなさそうな軽い返事。
その直後、ピンポーンとインターフォンが鳴る。
「巴なのー」
雛苺は部屋を飛び出す。
「ジュンー、今にみてやがれーなのー」
雛苺の言葉が階段を下りる足音と一緒に聞こえる。
「なんだ今の言葉遣いは……。どっかの性悪人形にでも影響されたか」
やれやれ、といった様子でジュンはため息をつく。
「ねえジュン。私の提案にあまり乗り気じゃないみたいだけれど」
さきほどの興味のなさそうな返事が気になったのか、真紅はジュンに訊く。
「乗り気もなにも、勝負事みたいになってるけど、
僕が負けてもデメリットはないだろ」
「雛苺が成長したってことになるものね。確かにそうだわ」
「柏葉に迷惑かけないならそれでいいんだよ。
あいつがお子様じゃなくなるのなら、それはむしろ良いことじゃないか」
「でも、あの子はすごい乗り気だったわよ。
巴が認めたら、あなたはどうするの?」
「僕も認めてやるよ。
そうだな、頭をなでなでくらいならご褒美でしてやるさ」
「そう。わかったわ」
ふっと微笑み、真紅はまた読書に戻る。
ジュンもまた、机に向かって勉強を始める。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:00:40.11 ID:3JU9gyu+0
「はい、ついたわよ」
巴は抱きかかえていた雛苺を自宅の玄関に降ろす。
「到着なのー」
「今日は両親が旅行に行っていて、家にはいないの。
だから家の中を自由に使っていいわよ」
「ほんとー?」
まだ巴が雛苺のマスターだった頃。巴は両親に内緒で雛苺を匿っていた。
そのため、巴の部屋以外で過ごしたことがないのだ。
「ええ、本当よ。だからお泊りの日も今日にしたのよ」
「やったあ」
雛苺は廊下を駆け回る。その表情はとても楽しそうだ。
巴も、その姿を見て優しく微笑む。
「とりあえずお昼ごはん食べようか」
巴の提案。雛苺はそれに賛成し、二人で台所へと向かう。
「ちょっと待っててね。今作るから」
巴はエプロンを着ると、料理を始める。
「ねえ巴。ヒナに手伝えることある?」
雛苺が自ら手伝いを志願する。
巴はジュンと真紅が言っていたことを思い出す。
――今回のお泊りで、雛苺がちゃんとお利口にできたか。
もうお子様ではなくなったか。その判断を任せるわ。
巴はふっと微笑む。
「そうね。お皿とかを並べてもらおうかしら」
「わかったのー」
雛苺は上機嫌で返事をする。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:04:28.61 ID:3JU9gyu+0
「はい、これをテーブルまで持っていって」
スパゲティの入った皿を雛苺に手渡す。
雛苺は両手で掴み、慎重に持っていく。
「あっ……」
ガッシャーン。
手を滑らせてしまったのだろう。皿が床に落ち、中身がぶちまけられる。
「雛苺っ。大丈夫? 怪我はない?」
巴は雛苺のもとへと駆け寄る。
「ごめんなさいなの……」
雛苺は俯いて顔を上げようとしない。
巴に認めてもらおうと張り切ったのが空回りして、逆に迷惑をかけてしまった。
そんな思いが雛苺の心をしめつける。
「いいわ。とりあえず床を綺麗にしなきゃ」
巴はてきぱきと割れた皿とこぼれたスパゲティの処理をする。
雛苺はそれをただ見つめることしかできない。
「うゆ……」
目には涙が溜まる。いつ零れてもおかしくない。
「ほら、片付いたわよ。ご飯食べましょ」
そんな雛苺に、巴は笑顔で声をかける。
「巴……怒ってない?」
雛苺は恐る恐る聞く。
「怒ってないわ。雛苺は私のためを思って行動したのでしょう?
だったら、それに失敗したって私は怒ったりなんかしないわ」
「巴……」
「ご飯が冷めちゃうわ。さあ食べましょ」
「……うんっ」
雛苺は笑顔で答える。
さきほどまでの悲しそうな表情は、もうない。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:05:21.94 ID:ul64vBCx0
ちっちゃい子にはありがちなこと・・・
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:08:35.33 ID:3JU9gyu+0
昼食を食べ終え、二人は家の中を全部使って遊んだ。
夜までずっと遊び続けた。
雛苺は、昼の失敗のことを忘れ、遊ぶのに夢中になった。
鬼ごっこや、かくれんぼ。お絵かきをしたり、歌を歌ったり。
幸せな時間が流れる。
「あら、もうこんな時間」
巴は時計を見て言う。もう8時手前だ。
「晩御飯作らな……きゃ――」
巴は立ち上がろうとして、その場で倒れこむ。
「と、巴っ?」
雛苺は巴のもとに駆け寄る。
巴は顔を赤くし、息を荒げている。
巴の額に手を当てる。かなり高い熱のようだ。
「すごい熱なの……」
雛苺は、ジュンが言っていたことを思い出す。
――あいつはクラス委員や部活で毎日頑張っているんだから。
毎日大変で、疲れているのに、ヒナと長い時間遊び続けてくれた。
ヒナのために、貴重な休みを使って、一緒に遊んでくれた
雛苺は巴の優しさを改めて感じる。
「ヒナが……。ヒナが巴を助けなきゃ」
雛苺は、立ち上がる。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:14:59.47 ID:3JU9gyu+0
「ん……」
暖かい布団の中で、巴は目を覚ます。
「ここは……」
見慣れた天井。布団のぬくもり。巴は自分の部屋であることを認識する。
「そっか。私、倒れちゃったのね」
巴はここ最近クラスの行事や剣道の大会で忙しかった。
きっと、自分は知らず知らずの内に無理をしていたのだろう、と巴は思う。
「?」
額に重みを感じ、手を当てる。そこには不恰好にたたまれた濡れタオルがあった。
「これ……。まさか、雛苺?」
巴は上半身を起き上がらせる。
右手が小さな何かを握っていることに気付く。それは掌だった。
その掌は雛苺のものだ。巴は横にいる雛苺を見る。
巴と手を繋いだまま、畳の上で寝ている。
寝息を立てている様子はない。
どうやら螺子がきれてしまったらしく、雛苺は微動だにしない。
「これ……全部あの子がやってくれたのね」
巴は倒れている時にパジャマに着替えられていた。
さらに額の濡れタオル。布団。枕も氷枕だ。
これら全てを雛苺が用意したのだろう。
「雛苺……」
巴は雛苺を抱き寄せる。そして頭を撫でる。
「螺子が切れるまで、私をずっと看病してくれていたのね」
小さな手を、ぎゅっと握る。
「ありがとう、雛苺。あなたはお子様なんかじゃないわ」
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:18:43.91 ID:ul64vBCx0
雛苺がんばったな・・・あの小さな体じゃ、布団とか大変だったろうに
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:19:43.17 ID:3JU9gyu+0
翌朝。巴の連絡を受け、ジュンは雛苺を受け取りに柏葉邸へと向かった。
インターフォンを押す。しばらくして玄関の扉が開く。
「おはよう、桜田君」
「ジュンおっはよーなの」
雛苺は玄関からジュンに飛びつく。
「悪いな柏葉。迷惑じゃなかったか?」
「ううん。そんなことないわ。私はとても楽しかったし、それに」
巴は雛苺を見ると、優しく微笑む。
「雛苺の成長した姿を見れてよかったもの。
この子はお子様なんかじゃない。私が保証するわ」
「巴っ」
雛苺が嬉しそうな顔で巴を見る。
「ほら、ジュン。ヒナはお子様じゃないのー」
雛苺は得意げな表情で言う。
「私が保証するんだもの。桜田君も認めてくれるでしょう?」
「ああ、認めるよ。お前はお子様じゃない。成長したよ」
その言葉を聞き、雛苺の顔はパァーっと明るくなる。
「やったー。やったなのー」
太陽のように眩しい笑顔。
「ほら、ご褒美だ」
ジュンは抱きかかえた雛苺の頭を撫でる。
「えへへ。ジュンのなでなでー。えへへへ」
「さあ、帰るか」
「うんっ」
二人は、柏葉邸を後にし、自宅へと歩いていく。
巴は、その姿を嬉しそうな表情で見つめていた。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:22:12.03 ID:ul64vBCx0
ほめられただけでそんなに喜ぶのは、ジュンのこと好きなんだね
堅めの文章なのに中身はやわらかだな
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:23:22.95 ID:3JU9gyu+0
case2 金糸雀
「いってきまーす」
玄関の扉が閉まる。
草笛みつはいつものように仕事へと向かう。
みつはマンションを出て、走る。
金糸雀はその光景を窓から見下ろしていた。
「ふふ。みっちゃんはもう行ったかしら」
不適な笑み。
「ピチカート!」
金糸雀に呼ばれ、人工精霊ピチカートが姿を現す。
「準備はできてるわね?」
ピチカートはコクコクと頷く。
「よおし、作戦開始かしらー!」
大きな声を張り上げる。
「ピチカート、分かっているとは思うけど」
金糸雀は鞄から小さなカレンダーを取り出す。
「今日はカナがみっちゃんに螺子を巻かれてから一周年なのかしら!」
今日の日付を指差す。
「みっちゃんが帰ってくるまでに、お祝いのパーティの準備を終わらせるわよ」
今度は大きなビニール袋を鞄から取り出す。
「この中に折り紙とかデコレーションするための道具がたくさん入ってるかしら」
カナは部屋を見渡す。
「幸い、この部屋はあまり広くないわ。午前中には終わらせるわよピチカート!」
今度は時計を指差し、言う。
針は8時30分を示していた。
>>14 あーあ良スレかと思ったのにクズが出てきたせいで台無しだー
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:28:07.15 ID:3JU9gyu+0
――正午。
「ぎりぎり……完成かしら」
金糸雀は床に腰を下ろす。
部屋には折り紙で作ったわっかなどの簡素なデコレーションがされている。
部屋の一番目立つ場所には、『ふたりがであっていっしゅうねんきねん』
と書かれた台紙が張ってある。
どれも不恰好で、決して綺麗といえるものではなかったが、
一生懸命作ったということを感じさせる温かさがあった。
ひとつひとつに思いがこもっていることは間違いない。
「次は、お料理ね」
金糸雀はエプロンを着ると、キッチンに向かう。
「…………」
無言のまま立ち尽くす。
「そういえばカナ、料理できないんだったわ」
重大な事実に今更ながら気付く。
「不覚……。策士のカナが飾りつけのことばかり考えていたせいで
料理のことはすっかりおろそかになっていたかしら」
金糸雀は頭を抱える。
「っ! こんな時こそ、文明の利器を活用するのかしら!」
金糸雀は何を閃いたのか、キッチンからリビングへと駆け出す。
そして、固定電話を手に取ると、ダイヤルを回した。
「ふふふ。カナってば賢いから電話の使い方も覚えちゃったかしら」
プルルル、と呼び出し音。
「はい、桜田です」
電話に出たのは桜田のりだ。
「金糸雀かしらー」
「あらカナちゃん、こんにちは。電話なんて珍しいわねぇ。どうしたの?」
「カナは今日、とても大事なお願いがあって電話をかけたのかしら」
「あら、それはなあに?」
「花丸ハンバーグの作り方、教えて欲しいかしら!」
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:33:21.16 ID:3JU9gyu+0
「ふふ。カナちゃんも料理に興味を持ったのねえ」
心なしか、のりの声からは嬉しさのようなものも感じられる。
「いいわよぅ。メモの準備はいい?」
「バッチリかしら!」
金糸雀の手にはメモ帳とボールペン。
「まず材料はねえ……――」
「ありがとうかしら。それじゃ」
ガチャリ。受話器を置く。
「しかし、あの花丸ハンバーグがこんなありふれた材料と、
作り方でできるなんて……。驚愕かしら」
金糸雀はメモ帳を見ながら言う。
「まずは、買い物ね!」
金糸雀は、タンスの中から封筒を取り出す。
封筒には今月の食費、と書かれている。
「ごめんねみっちゃん。今月の食費、勝手に使うわ」
そこから千円札を数枚取り出すと、財布の中にしまう。
「カナの初めてのお買い物かしら」
金糸雀は、外ではドレスが目立つため、
みつが作ってくれた別の服に着替える。
「ふふ。これで誰がどう見ても可憐な美少女に変身かしら」
人形特有の球体関節などをうまく服で隠す。
これで外に出ても、普通の女の子と変わりなく行動できるだろう。
「それじゃあ、出発かしらー」
>>18 あーあクズのせいでどんどんスレの雰囲気が悪くなっていく
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:34:20.49 ID:ul64vBCx0
金糸雀あいとwww
行動力はドール一なのに、おっちょこちょいさもドール一だよな
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:40:11.75 ID:3JU9gyu+0
――数時間後。
「ふぅ……。ただいまかしらー」
誰もいない部屋に向けて、帰宅の挨拶。
両手にはビニール袋。野菜や肉などの食材が入っている。
「思ったより時間がかかっちゃったかしら」
金糸雀は時計を見る。
針は十六時手前を示している。
「ここを出たのは十三時頃だったから、3時間近くかかったのね」
金糸雀は、ビニール袋をテーブルの上に置くと、一息つく。
「でも、たくさんサービスしてもらったかしら」
金糸雀は買い物に行った時のことを思い出す。
――商店街にて。
金糸雀は迷子になりつつも、なんとか八百屋にたどり着く。
「あらまあ。小さいのに立派ねえ」
八百屋の女性がたまねぎを多めにサービスする。。
「ありがとうかしら」
金糸雀は八百屋を後にし、精肉店へと向かう。
「おう、ちっこいのに立派だなあ」
精肉店の男性がひき肉の量を多めにサービスする。
「ありがとうかしら」
必要な食材を揃え、自宅へと向かう。
迷子になりつつも到着。今に至る。
――。
「商店街って、なんだかとっても温かいかしら」
金糸雀は店の人たちに褒められて上機嫌になっていた。
「よーし。早速レッツクッキングかしらー!」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:41:57.68 ID:20mIY0pg0
こういうスレ大好き
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:42:41.32 ID:eWwO6E1y0
おお、俺の嫁ががんばってる
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:43:02.25 ID:ul64vBCx0
商店街デビュー!
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:44:31.80 ID:3JU9gyu+0
のりから教えてもらったやり方をもとにして、
金糸雀はハンバーグを作っていく。
「うーん、うまく形が整わないかしら」
悪戦苦闘しながら、何回も何回もこねる。
「こんな感じでいいかしら」
納得いく形になったのか、金糸雀はこねるのをやめる。
皿の上には四つのハンバーグ。
お世辞にも、綺麗とはいえない形だが、
焼くのに問題はなさそうだ。
「さーて、いよいよクライマックスかしらー」
フライパンをコンロの上に乗せる。
油をひき、火をつけて熱する。
「ふふふ。熱くなってきたわ」
金糸雀はハンバーグを手に取る。
「さあいくかしらー」
フライパンの上に、ハンバーグを四つ、並べて乗せる。
ジュウ、という焼ける音。
「みっちゃんもきっとびっくりするかしらー」
ガチャ、という音。玄関の鍵が開くときの音だ。
「たっだいまー」
みつが、帰宅する。
「も、もう帰ってきちゃったかしら」
金糸雀は急いで玄関へと向かう。
「みっちゃんおかえ――」
パアアアアンッ!
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:45:51.56 ID:ul64vBCx0
スタンドが出た効果音だな
>>1が他に書いたSSがあればタイトルを教えてくれないか
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:49:46.19 ID:3JU9gyu+0
「キャーーー」
突然の破裂音。それと共に、
紙吹雪やテープが金糸雀の顔に降りかかる。
「あはは。カナびっくりした?」
金糸雀は一度深呼吸すると、みつの方をみる。
「それって……」
みつの手には円錐形の厚紙。クラッカーだ。
「ふふふー」
みつの嬉しそうな表情。
「みっちゃんとカナが出会って一周年! おめでとおおおおお」
みつは天を指差し、叫ぶ。
金糸雀はあっけにとられて、呆然としている。
「やっぱりカナ忘れてたわね?」
「わ、忘れてなんかないかしらー。
むしろみっちゃんの方が忘れてるかと……」
「カナひどーい。私が忘れるわけないでしょー」
「カナだって忘れるわけないかしら。
今日のための飾りつけやお料理をカナは一生懸命やったかしら」
金糸雀は部屋のデコレーションをみつに見せる。
「これカナがやったの? みっちゃん感げ……あれ?」
みつが鼻をひくつかせる。
「どうしたのかしら?」
「なんだかすっごい焦げ臭い臭いが……」
みつのその言葉に金糸雀ははっとする。
「しまったかしらー」
金糸雀は急いでキッチンへと向かう。
「…………」
そこにあったのは、ハンバーグになるはずだった、黒い塊だった。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:50:12.90 ID:3JU9gyu+0
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:55:09.13 ID:3JU9gyu+0
「そ、そんなあー」
金糸雀はその黒い塊を見て、うなだれる。
「あららー……真っ黒こげね」
みつもキッチンに来ると、その黒い塊をまじまじと見つめる。
「みっちゃん、ごめんなさいかしら」
「あーん、ドジっこのカナ可愛いー」
みつは金糸雀を思い切り抱きしめる。
「み、みっちゃん摩擦がああああまさちゅうせっつうぅぅぅぅ」
「ありがとカナ。今日のためにいろいろとしてくれて」
みつは金糸雀を話すと、真面目な表情で礼を言う。
「みっちゃん……」
「ねえ、カナ。これからも、ずーっといっしょよね?
私と仲良くしてくれるわよね?」
「も、もちろんかしら。
みっちゃんはこんなドジなカナと、これからも一緒で嫌じゃない?」
金糸雀は恐る恐る聞く。
「そんなことないじゃない。
そういうところも含めて、私はカナのことが大好きなんだから」
みつは笑顔で答える。
「ほら、お片づけして、パーティしましょ」
みつは手に持っている白い箱を金糸雀に見せる。
その箱には、近所で有名なケーキ屋の名前が入っている。
「うんっ」
金糸雀は、笑顔で頷く。
ちょっとした惨事となったキッチンを二人は片付ける。
その表情はとても幸せそうで、二人がこれから先も、
ずっと仲良くやっていけること示しているかのようだった。
>>31 おおあれの作者さんか
ぷん太にのってたな
真紅「もうじき〜」
翠星石「最近〜」
は読んだよ
魂戻しも今度読むわ
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:56:10.95 ID:3JU9gyu+0
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/16(土) 23:58:44.60 ID:pzytfkhuO
辞めろ
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:00:38.58 ID:ayXW1Hge0
case3 蒼星石
蒼星石は鞄を手に取り、立ち上がる。
奥の部屋では、マスターの妻であるマツが布団で寝ている。
寝たきりの状態から目覚めて、それほど日は経っていない。
まだ本調子ではないようで、マツは一日のほとんどを布団で過ごしている。
「いってきます、おばあさん」
蒼星石は、寝ているマツに向けて言うと、店の入り口へと向かう。
マスターの元治が、机に向かってなにやら作業をしている。
「マスター。ジュン君の家に行ってきますね」
元治は作業を止め、蒼星石の方を向く。
「おお、そうかい。何時ごろ帰ってくるんだい?」
「夕飯までには帰ってきます」
「わかった。楽しんでくるんだぞ」
「はい」
蒼星石はそう返事すると、外にでる。
そして、鞄に乗り込むと、桜田家に向かって飛んでいった。
「もうすぐ、もうすぐ完成じゃなあ」
元治は手元にある物を見て言う。
「蒼星石が、喜んでくれればいいが」
そうつぶやくと、元治は作業に戻る。
元治の表情からは疲労が感じられるが、
それに気付く者は、一人もいない。
元治自身、自分が疲れきっていることに
気付いていないようだった。
>>37 やっと何の存在価値もないクズの話終わりか
これでスレの雰囲気が元に戻るな
よかったよかった
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:07:31.82 ID:ayXW1Hge0
「あ、蒼星石おはようですぅ」
桜田家に着いた蒼星石を、
双子の姉である翠星石が迎える。
「おはよう蒼星石」
翠星石の声で気付いたのか、
読書をしていた真紅も蒼星石に挨拶をする。
「二人ともおはよう。いや、時間的にはこんにちはだね」
蒼星石は時計を見て言う。
針は午前11時を回っている。
「おや、雛苺がいないね」
いつもいるはずの雛苺の姿が見当たらないことに気付く。
「チビ苺は巴の家にお泊りですぅ。
今日は帰ってこないですよ」
「なるほど」
雛苺は元マスターの巴にとても懐いていた。
さぞかし嬉しいんだろうな、と蒼星石は思う。
「チビ苺がいないから今日は静かな一日になるですね。
あー、せいせいするですぅ」
「そういう言い方は良くないよ翠星石」
相変わらず口が悪いな、と思いながら注意をする。
昔から何度も注意してきたが、直る様子は一向に無い。
翠星石はこれから先もずっと、
毒舌キャラなんだろうな、と思う。
「そんなことより今日は一緒にお菓子作りをするですぅ」
翠星石はキッチンへと向かっていく。
蒼星石はその後を追う。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:08:13.84 ID:X3TniOhCO
この作者は期待出来るな支援
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:08:58.27 ID:qf/ulFZbO
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:12:20.04 ID:ayXW1Hge0
「のり直伝のスコーンの作り方を
蒼星石にも教えてあげるですよ」
翠星石は材料を慣れた手つきで広げる。
「まずですねえ――」
翠星石は楽しそうに材料の説明をする。
蒼星石はその様子を相槌をしながら見る。
「――じゃあ、実際に作ってみるですよ」
蒼星石は、言われたとおりの手順で、
スコーンを作り始める。
「そうそう。さすが蒼星石。初めてにしてはいい感じですぅ」
「そうかい? お菓子作りもやってみると楽しいんだね」
蒼星石も、褒められて嬉しいのかどんどん作っていく。
――。
「完成ですぅ」
スコーンが完成する。
「真紅やジュン君を呼んでみんなで食べようよ」
「そうですねぇ。しーんーくー。チービにーんげーん」
翠星石は二階に向かって叫ぶ。
しばらくして真紅とジュンが一階へと降りてきた。
「あら、いい香りね。スコーンかしら」
「今日は蒼星石も作ったですよ」
「へえ。どんな出来具合か、楽しみね。
ジュン、全員分のお茶を入れて頂戴」
「僕は雑用係じゃないんだぞ。ったく……」
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:16:45.18 ID:ayXW1Hge0
文句を言いつつもジュンは全員分のお茶を淹れ、
ささやかなティータイムが始まる。
美味しいお菓子、美味しいお茶。
にぎやかなテーブル。ありふれた日常。
蒼星石は心の底からこの時間を楽しむ。
――――――。
その後も、ドールズは様々なことをして楽しむ。
真紅お気に入りの劇場版くんくんを見たり、
庭の手入れをして、花の種を植えたり。
楽しい時は時間の流れが速く感じる。
ドールズも例外ではなく、あっという間に夜が訪れる。
「僕はそろそろ帰るよ」
蒼星石が鞄を持って、帰り支度を始める。
「もうですか? 晩御飯も一緒に食べるですぅ」
「ごめんね。マスターに
夕飯までには帰るって言ってあるんだ」
「じゃあ、しょうがねーです。バイバイですぅ」
「さようなら蒼星石。また明日」
翠星石と真紅は別れの挨拶を告げる。
「うん、二人ともまた明日ね」
蒼星石は鞄に乗り込み、
マスターの家へと帰る。
――――――。
「ただいま」
家に到着。店の入り口から中に入る。
「あれ、おかしいな。
いつもならおかえりって言ってくれるのに」
蒼星石は小さな異変を感じる。
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:19:40.20 ID:ayXW1Hge0
鞄を持って、家の中へと入っていく。
元治がいつも作業している机に灯りが点いている。
しかし、元治の姿は見当たらない。
机のさらに後方、母屋の方には灯りが点いていない。
「どうしたんだろう」
蒼星石は母屋へと向かっていく。
そして灯りの点いた机の横を通り過ぎる。
「っ!」
机の影に倒れこんでいる男性が一人。
「マ、マスター!」
倒れていたのはマスターの元治だった。
どうやら机で作業している途中で、倒れてしまったようだ。
「マスター。しっかりして。マスター!」
蒼星石は急いで元治のもとに駆け寄ると、
身体を揺さぶる。
「うぅ……んん……。蒼……星石?」
「マスター! 大丈夫?」
元治は目を覚ます。
「どうなって……」
「マスターはここで倒れていたんだ。どうしたの?」
「そうかい……。やっぱり疲労が溜まっていたみたいだ」
「疲労?」
蒼星石は元治がここ数日、
机でずっと何かの作業をしていたことを思い出す。
「最近ずっと何かをやっていたようだったけど、何をしていたの?」
蒼星石は尋ねる。
「あれを……見てくれ」
元治は机の上を指差す。
蒼星石は立ち上がり、机の上を見る。
そこにはひとつの懐中時計があった。
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:23:39.98 ID:ayXW1Hge0
「これは……?」
蒼星石はその時計を見る。
ハンターケース型で上蓋がついており、
蓋の表面部分には薔薇を模した加工がされている。
「すごい……。これ、マスターが?」
「ああ。蓋をあけてごらん」
蒼星石は言われたとおりに上蓋を開く。
「うわあ……すごいや」
お洒落な文字盤に、茨を模した針。
とても凝ったつくりになっている。
「蒼星石、受け取ってくれるかい?」
「っ! 僕が?」
「ああ。お前のために、作ったんだ。感謝とお詫びを込めてな」
「僕なんかがこんな綺麗なもの……」
「お前には、かじゅきのことで苦労をかけてきた。そのお詫びと、
こうして今もいっしょに暮らしてくれる、感謝の意味を込めて、
わしはこれを作ったんだ。どうか、受け取って欲しい」
元治は言う。
――マスターは僕のために、倒れるまで、作ってくれた。
――受け取れないわけ、ないじゃないか。
「ありがとうマスター。喜んで、その時計を貰います」
蒼星石は時計を受け取る。
「ずっと、大事にするよ。僕の、宝物だ」
「そうかそうか。ありがとう蒼星石。本当に、ありがとう」
元治はとても嬉しそうに微笑む。
――僕のマスターがこの人で、本当によかった。
蒼星石は時計をしまうと、元治を担いで、母屋へと入っていった。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:25:19.61 ID:GDLqfuhH0
wktk
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:26:53.87 ID:ayXW1Hge0
――翌日。
「おはようみんな」
蒼星石は、いつものように桜田家に遊びに行く。
「おはようですぅ蒼星石」
姉の翠星石がそれを迎える。
「蒼星石おはよーなのー」
巴の家から帰ってきたようで、雛苺もそこにいた。
いつもよりも上機嫌に見える。
「なんだか嬉しそうだね雛苺」
「うんっ。ふんふ〜ん♪」
雛苺は鼻歌を歌いながら駆けていく。
「あれ、そのポケットはどうしたですか?」
翠星石は、蒼星石のポケットが少し膨らんでいることに気付く。
「ああ、これかい?」
蒼星石はポケットから、懐中時計を取り出す。
「これはね、僕の宝物さ」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:30:54.91 ID:ayXW1Hge0
case4 翠星石
桜田家は騒がしい。
雛苺も、巴の家から帰宅し、本来の賑やかさが戻ってきた。
「まーたうるさいのが戻ってきたですねえ」
本人に分かるように嫌味を言う翠星石。
「翠星石にうるさいっていわれたくないのー!」
両手を上げ、雛苺は反論する。
ぷんぷん、と頭上に文字が出てるのではないか、
と思えるようなわかりやすい仕草だ。
「今のは翠星石が悪いよ。僕達姉妹なんだし、仲良くしようよ」
二人の仲裁に入る蒼星石。
桜田家に住んでいるわけではないが、
まるでこの家の住人のように馴染んでいる。
「うふふ。あいかわらず仲がいいわねぇ」
のりが台所から、それを嬉しそうに見る。
彼女には、姉妹の喧嘩ですら、仲のいいじゃれ合いに見えるようで、
蒼星石がいなかったら、止めるものがいなくなる。
「うるさいわっ!」
真紅の怒声が響く。
手にはリモコンを持ち、くんくんのOVAを見ていたようだ。
他のドール達の声で、テレビの音が聞こえないのだろう。
「はあ……」
あいかわらずだな。とジュンは思う。
真紅をはじめとするローゼンメイデンがこの家に住むようになり、
それなりの月日が経った。
この騒ぎにはなれたようだが、
決して聞いていて気持ちいいものではなさそうだ。
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:34:04.04 ID:ayXW1Hge0
「小腹がすいたな」
ジュンは台所に向かう。
「なんか、おやつある?」
のりに、訊く。
「そこの棚に菓子パンがあるわよぅ。
この前特売してたからたくさん買ってきちゃった」
のりは棚を指差す。確かにたくさんの菓子パンがおいてある。
「あんぱんでも食うか」
一番手前に置いてあるあんぱんを手に取ると、
ジュンはリビングへと向かい、真紅の隣に座った。
「これ、TVスペシャル版だっけ?」
「ええ、そうよ。この推理シーンがまた鳥肌ものなのよ」
真紅は嬉しそうに答える。
それだけくんくんが大好きなのだろう。
ジュンは他のドールも真紅みたいにもう少し静かに過ごしてくれないものか
と思いながら、袋を開けてあんぱんにかじりつく。
「あー! ジュンあんぱんたべてるのー」
雛苺は、ジュンがあんぱんを食べようとしていることに気付き、
翠星石との口論をやめて、駆けてくる。
「ヒナにもわけてぇ」
ジュンのあんぱんを見て、言う。
「向こうにいろいろあるぞ」
ジュンは台所の方を指差す。
「あんぱんがいいのー」
「しょうがないな……」
ジュンは自分のあんぱんをちぎると、
雛苺に渡す。
その様子を見ていた翠星石は、
あることに気付く。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:38:20.48 ID:ayXW1Hge0
(ちび苺がもらった部分……。ジュンが口をつけたところですぅ!!!)
ジュンがちぎった部分が、たまたま口つけたところになったようだ。
つまり、ジュンと雛苺は間接キスするということになる。
(間接キス……間接キス……)
翠星石の脳内に広がる想像、もとい妄想。
(ちび苺なんかにそんなことさせるわけにはいかねーですぅ!!!)
翠星石は立ち上がる。
(ちび苺じゃなくて翠星石が間接キスを……///)
脳内に広がる野望! それを実現するために翠星石は叫ぶ!
「ちょーっと待ったですぅ!!!」
バーン! という文字がバックに出てきそうな勢いだ。
「なんだ。騒がしいな」
「そのあんぱん、ちび苺じゃなくて翠星石にわけるですぅ」
翠星石は、雛苺のもつあんぱんを指差して言う。
「やぁー! これはヒナがもらったのー」
雛苺はあんぱんを守るようにして抱え込む。
「なんだ、お前も欲しいのか」
ジュンは、手に持っていたあんぱんを差し出す。
「ほら、食いたきゃ食えよ」
しかし、そのあんぱんには、翠星石が望むものがない。
ジュンが口をつけた部分という、重要なものが。
「そっちじゃなくてちび苺の持ってる方が……」
「別にどっちもかわらないだろ」
「あー! 翠星石ってば、ヒナのほうが餡子が多いからって」
「ちげーですおばか苺」
「じゃあ、なんでだ?」
「そ、それは……」
しえん
C
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:41:45.09 ID:ayXW1Hge0
のりは三人のやりとりを、やっぱり幸せそうに見ている。
「ふふ。翠星石ちゃんも女の子ねぇ」
翠星石の考えていることが分かっているようで、
のりは楽しそうに笑う。
蒼星石と真紅も、三人のやりとりを、微笑みながら見ている。
「ジュン君も鈍感だね」
いつの間にか、蒼星石が真紅の横に来ていた。
「そうね。私の下僕としては、鈍感なのはよくないけれど、
こうして見ている分には、おもしろいわ」
真紅は紅茶を飲む。
「真紅はジュン君が口つけたあんぱんはいらないの?」
「ぶっ」
優雅に紅茶を飲んでいた真紅が、口から思い切り吐き出す。
「い、いきなり何言うのよ!」
「ごめんごめん。冗談だよ」
「まったくもう……」
真紅は口の周りをティッシュで拭く。
「あれ、様子がおかしいね」
蒼星石は翠星石達の方を見る。
「もういいです。チビはチビ同士で仲良くやってろですぅ!」
翠星石が大声を上げる。
そしてリビングを飛び出すと、二階へと駆けていった。
「あら、すねちゃったみたいね」
「世話の焼ける姉だなあ。まったく」
「同感だわ」
しえんぬ
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:44:17.97 ID:ayXW1Hge0
「ったく。なんだったんだよ」
「うゆ。翠星石ってば、怒ってどっか行っちゃったの」
ジュンと雛苺は、翠星石が飛び出していった方を見ながら言う。
「レディの扱いがなってないわね」
真紅は、テレビの電源を消すと、ジュンのそばに寄る。
蒼星石もそれについてくる。
「レディの扱いだ? あいつが意味不明なことばっかり言って
挙句の果てには勝手に怒ってどっか言ったんだぞ」
やはり、ジュンは翠星石がすねた理由を分かっていないようだ。
真紅と蒼星石は、互いの顔を見合うと、はあ……とため息をつく。
「な、なんだよまったく! 真紅はともかく蒼星石まで。
ていうか蒼星石お前そんなキャラじゃなかっただろ!」
「はは。ちょっとからかってみただけだよ。それより」
「それより?」
「翠星石のところに行ってあげなよ」
「僕が? なんで?」
「翠星石が拗ねたのは君が鈍感だからなんだよ?」
「なんだよそれ。意味が分からないぞ!」
真紅と蒼星石は、また互いの顔を見合い、はあ……とため息をつく。
雛苺も面白がって、その仕草を真似る。意味は分かっていないのだろうが。
「もういいよそれは! 雛苺も真似しなくていい!」
「ジュン。レディへの気遣いができないと、将来いい男になれないわよ」
「あー、もううるさいな。わかったよ。
僕が翠星石の機嫌を直してくればいいんだろ? いくよ。ったく……」
ジュンはぶつぶつと文句を言いながら二回へと上がっていった。
「うまくいくと思う?」
「正直、微妙な気がするよ」
「同感だわ」
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:48:28.08 ID:ayXW1Hge0
ジュンは二階に向かって階段を上がっていく。
「ったく。あの性悪人形め……」
ジュンは自室の扉を開ける。
案の定、翠星石がいた。
ジュンのベッドの隅で、壁の方を体育座りをしている。
「おい、翠星石」
ジュンの呼びかけで、翠星石はビクッと震える。
「いまさら何しにきたですか?」
「機嫌なおせよ。蒼星石とかが心配してるぞ。……多分」
「ふーんだ、ですぅ」
ジュンは頭をかく。
「お前がなんで怒ってるかは僕にはわからないけどさ」
「だったら話しかけるなですぅ!」
「お前が怒ってるところなんてみたくないんだよ」
「……!?」
「騒がしいのは迷惑なんだけどさ
誰かが悲しい思いをしたり、嫌な思いをするよりは
楽しくわいわいやってる方が僕はいいんだ」
「ジュン……」
翠星石はジュンを思わず許しそうになる。
しかし、中途半端なプライドが、それを邪魔する。
「だからさ、みんなでお茶飲んだりとかさ、しよう。な?」
「…………」
「やっぱお茶の飲むとなるとあれだ、お前の作ったスコーンが食べたいな」
「っ!」
「桜田家のティータイムって言ったら、姉ちゃんやお前の作るお菓子に、
僕が淹れる(真紅に淹れさせられる)お茶だろ」
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:52:40.12 ID:ayXW1Hge0
のりと一緒にお菓子を作って、
ジュンがみんなの分の紅茶を淹れて、
真紅がお茶の淹れ方で怒って、
雛苺がお菓子を前に眼を輝かせ、
蒼星石が微笑ましそうにみんなを見る。
そんな光景が翠星石の頭に浮かぶ。
「し、しゃーねですぅ。ジュンがどうしても食べたいって言うのなら」
今まで拗ねていた、翠星石はもういない。
「特別に翠星石が腕をふるってあげるですぅ」
いつも通りの翠星石。
ジュンは、ふふっと笑う。単純なやつだな、と。
「ほら、とっとと下にいくですよ。
食べたかったら翠星石のいうことを聞きやがれですぅ」
「ああ」
翠星石は下へと降りていく。
ジュンもその後に続く。
ちょっとしたいざこざも、
ちょっと時間が経てば元通り。
桜田家は、今日も騒がしい。
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:55:57.66 ID:ayXW1Hge0
槐は椅子に座ると、白崎の方へと向き直る。
「これは、大変な問題だ」
「問題? どういうことだい?」
白崎は問う。
「薔薇水晶。あの子が笑ったところを見たことがない」
薔薇水晶。槐がローゼンメイデンを模して作ったドール。
「確かに、あの子はいつも無表情だよねえ」
「もしかして、感情が欠落してるのではないか。私はそう考えた」
「人形に感情が欠落してるもなにもないだろう」
白崎は槐の言う問題をさほど重要なことだとは思っていないようだ。
しかし槐自身はいたって真剣そのものだ。
「わが師、ローゼンの作ったローゼンメイデンシリーズは
他の隋を許さない完成度を誇っている」
「確かに、世界一の人形技師だろうね彼は」
「彼女達は人形とは思えないほどに感情が豊かだ。
まるで心だけは本物の人間のように」
「でも、薔薇水晶からはそうは感じられないと?」
「ああ。いつも無表情で何を考えているのかがわからない。
私に忠実なのは確かなのだが」
槐は普段の薔薇水晶のことを思い出す。
その表情は氷のような冷たさを感じさせる。
「彼女は私の最高傑作なんだ。感情の欠落などあってはならない」
「完璧主義なんだねえ。でも、それくらいじゃないと
ローゼンには追いつけないもんね」
「それに、彼女は私の一人娘のようなものだ。
娘の笑顔を望む父親はおかしいか?」
槐は白崎に問う。
その表情はとても優しげで、まるで本物の父親のようだ。
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 00:58:52.90 ID:ayXW1Hge0
「いいんじゃないか」
白崎もそれを肯定する。
「だから、私は今日からある作戦を実行しようと思うんだ」
「作戦?」
「ああ。名付けて、
“嗚呼、愛しき薔薇水晶。その笑顔を私に見せてくれないか作戦”だ」
「……普通に笑ってって頼めばいいじゃない」
「それでは駄目だ。心の底から笑ってもらわないと困る」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
槐は椅子から立ち上がる。
「というわけで、作戦実行だ」
薔薇水晶は店の奥、槐達が生活する母屋でテレビを見ていた。
「人間の娯楽……。けど私には何が面白いのかわからない」
そこに槐が現れる。
「あ、お父様」
槐の手には赤い球状の物体がある。
「それは、林檎……ですか?」
「……。ふもっふ!」
槐は手に持っていた林檎を思い切り壁に投げつける。
林檎の果肉と果汁が飛び散る。
「……(ちらっ)」
「ど、どうしたのですか?」
薔薇水晶の表情に変化はない。
「くっ、手ごわい……」
槐は台所の方へと姿を消す。
中の人かww
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:02:05.82 ID:ayXW1Hge0
「……?」
槐の奇行。
薔薇水晶は何が起きたのかが理解できない。
しばらくして、台所から槐が戻ってくる。
その手にはスプーンが握られていた。
「マッガーレ!」
「ビクッ」
スプーンを前に薔薇水晶の前に突き出す。
突然のことで薔薇水晶は驚く。
しかし、驚くだけで、その表情に笑みは見えない。
「まさか最後の奥義を出させるなんてな……」
そう言うと、槐は寝室へと消えていく。
「お父様……頭に虫でも湧いてしまったのでしょうか」
槐の頭がおかしくなった。薔薇水晶はそう考える。
しばらくして、槐が戻ってくる。
今度は何も持っていない。しかし服装がつなぎに変わっている。
「バレーボールを……」
つなぎのファスナーをおろす。
「やらないか」
「お父様……」
ここにきて薔薇水晶の表情ががらっと変わる。
しかし、それは笑顔などではなく、
むしろ可哀想な人を哀れむような、そんな表情だった。
その後も槐は、女装をしたり、M字開脚をしたりなど
様々な奇行に走るが、薔薇水晶が笑うことはなかった。
>>槐の頭がおかしくなった。薔薇水晶はそう考える。
全くもってその通りです。本当にry
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:05:37.22 ID:ayXW1Hge0
そして夜。
「さあ、晩御飯だ」
嬉しそうに椅子に座る白崎。
向かいにはがっくりと肩を落とす槐がいる。
「今日はカレーです」
薔薇水晶は皿にカレーを盛り付けている。
「このカレー。薔薇水晶が作ったのかい?」
槐は訊く。
「はい。お父様が疲れてらっしゃるようでしたので……」
普段、薔薇水晶は食事をつくらない。
これはとても珍しいことだった。
「薔薇水晶のカレーか。いただきます」
槐はスプーンを手に取る。
「マッガーレ!」
「もういいですから……」
スプーンでルーとライスをすくい、口に含む。
そして、租借。
「どう……ですか?」
槐はなかなか答えない。ただ口をもぐもぐと動かしている。
反応が返ってこないせいか、薔薇水晶の表情に不安が滲みだす。
「……ごくっ」
槐が口の中にあったものを飲み込む。
「……おいしい。おいしいよ薔薇水晶。初めての料理とは思えない」
槐は笑顔で答える。
「本当……ですか?」
その返事を聞いて、薔薇水晶は安堵する。
「よかった……」
そして、今まで見せたことのない笑顔が、そこにあった。
もういいですから・・・
死刑宣告だな
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:10:15.47 ID:ayXW1Hge0
――なんだ。簡単なことじゃないか。
槐は念願の薔薇水晶の笑顔を見て、悟る。
「無理に、変なことをする必要などなかったな」
槐はあっという間にカレーをたいらげる。
「もうちょっと落ち着いて食べようよ」
白崎が呆れたように言う。
「こんな美味しいもの、落ち着いて食べれるわけないだろう」
槐は皿を手に持つと、言った。
「薔薇水晶。おかわり、たのむよ」
一瞬の間。
「……はいっ」
その皿を、薔薇水晶は笑顔で受け取る。
初めて見た薔薇水晶の笑顔。心からの、屈託の無い笑顔。
槐はそれを心に焼き付けると、ふふっと笑った。
イイハナシダナー
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:14:05.37 ID:ayXW1Hge0
case6 雪華綺晶
nのフィールド。
空間内をゆらゆらと漂う、白い薔薇。
四方にそそり立つ壁のような結晶。
光が反射し、その空間だけが、神々しく輝いている。
「見ぃつけた……」
ローゼンメイデン第7ドール雪華綺晶は、
食い入るように、目の前の水晶を見つめていた。
水晶は、まるで液晶画面のように、ある映像を映している。
「第6ドール……」
映っているのは雛苺と元マスターの柏葉巴。
二人はどうやら一緒に遊んでいるようだ。
楽しそうな笑顔が、雪華綺晶の目に映る。
「平和ボケね……」
その楽しそうな様子を、雪華綺晶はあざ笑うかのように言う。
「決して長くは続かないのに……ふふふ」
白い茨が伸び、映像を映していた水晶を貫く。
そして粉々に砕け散った。
「次は……」
また別の水晶を見る。
さきほど壊したものと同じように、
なにかの映像が映っている。
「第2ドール……」
金糸雀が映っている。
なにやら一人でせっせと作業をしている。
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:18:02.23 ID:ayXW1Hge0
「このお姉さまも……マスターに情を抱きすぎている……」
雪華綺晶は、金糸雀のマスターなど知らない。
だが、金糸雀が自分のマスターのために何かしてるということは、
彼女の姿と表情を見ているだけでわかった。
「誇り高いローゼンメイデン……その次女だとは思えない」
まるで見下すような冷たい目で、水晶に映る金糸雀を見る。
「お父様が、可哀想」
パリィンッ。
白い茨が、水晶を貫き、粉々に砕く。
「そして……」
さらに別の水晶を見る。
そこには、緑と青のドレスを着たドールが映っている。
「第3ドールと第4ドール……」
庭師の姉妹、翠星石と蒼星石だ。
二人はどうやらお菓子をいっしょに作っているようだ。
「このお姉さまたちも……」
そのほのぼのした様子に、
雪華綺晶は失望したような表情を見せる。
「第3ドールのお姉さまはともかく……。第4ドールのお姉さまには期待していたのに」
蒼星石は翠星石や金糸雀、雛苺に比べれば、
アリスゲームに対する意思は前向きだった。
しかし、それが今では上記の三体のドールに毒されたかのように、
平和で争いの無い日常を享受している。
「がっかり……」
白い茨が、また水晶を粉々に砕く。
きらきーktkr
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:21:16.74 ID:ayXW1Hge0
雪華綺晶はまた別の水晶に視線を移す。
「あら……」
興味をひくものが映っていたようで、
さきほどまであった姉達に対する不満が消える。
「これは……」
映っているのは雪華綺晶に良く似た格好のドールと、
金髪で、髪を後ろで結んである男性。
さらに、見覚えのある一人の男性。の皮を被った人物。
「ラプラスの魔……」
人間の姿になっているラプラスの魔が、いっしょに映っていた。
「ということは……」
雪華綺晶はラプラスの魔から聞いた、ある話を思い出す。
――あの方の弟子が、あなたたちローゼンメイデンを模した
ドールを作り、アリスゲームに割り込もうとしています。
「あれが……ラプラスの言ってた……」
雪華綺晶は、ローゼンメイデンを模して作られたドール、
薔薇水晶を観察する。
「似てる……」
雪華綺晶はまず、自分と外見が似ていることに気付く。
さらに様子を見ていると、薔薇水晶が、ラプラスの魔と会話を始める。
「雰囲気まで……」
物静かで、文書にしたら三点リーダが多用されるような話し方。
「キャラが……被るわ……」
ローゼンメイデンと呼ばれるドール達は皆、
自我を持ち、個性的な性格をしている。
外見も皆バラバラだ。
きゃらきーwww
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:24:16.49 ID:ayXW1Hge0
「なのに……」
目の前に移る偽者は、明らかに雪華綺晶と似ていた。
「腹が立つ……。よりによって私と被るなんて……」
滅多に感情の変化を表情にださない雪華綺晶だったが、
薔薇水晶を見る目には、怒りがにじみ出ていた。
「偽者ごときが……本物の真似事なんて……」
白い茨が飛び出す。
さきほどまでは一本しか出さなかったが、
今は十本以上は出している。
そして、それらを全て、薔薇水晶の映る水晶へと突き刺す。
何回も、何回も。形が崩れ去っても、突き刺すのをやめない。
「ふぅ……」
雪華綺晶が突き刺すのをやめた頃には、
その水晶は、粉々どころか、粉末状になるくらい、壊されていた。
「すっきりした……」
さっきまでの怒りの表情は消え、
すがすがしい笑顔に変わっていた。
そして、また別の水晶に視線を移す。
「また一人……見ぃつけた」
水晶に映る黒衣のドールを見て、
雪華綺晶は、にやりと笑う。
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:24:51.38 ID:ygn0Yl4r0
ああ、なるほどね、お前か、そうかそうか
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:27:24.85 ID:ayXW1Hge0
case7 水銀燈
「めぐちゃん。お昼ごはんよ」
看護師がめぐの元に昼食を運ぶ。
「いらないわ。そんあゲロみたいなもの」
しかしめぐはそれを拒絶する。
いつものことだ。めぐはかたくなに病院食を拒む。
「めぐちゃん、おねがいだから……」
ここ最近はまったくと言っていいほど、
めぐは食事をとっていない。
水もほとんど飲んでいないのだろう。
頬はやせこけてしまっている。
そんなめぐを見て、看護師も今回は引き下がらずに、
説得を続けている。
水銀燈は窓の外で隠れながら、その様子を見ていた。
「そろそろね……」
水銀燈がそう口にした直後に、
ガシャーンという音が病室に響き渡る。
「いらないっていってるでしょっ!」
めぐは食器を手に掴むと、それを看護師に向かって投げる。
看護師はそれにも慣れているため、華麗に避けるが、
病室内は食器の中身が飛び散り、汚れてしまう。
めぐが全ての食器を投げ終わると、看護師は雑巾を用意して、
あっと言う間に飛び散った食事を片付ける。
「ねえめぐちゃん。お願いだから……」
「また持ってきたら、こんなもんじゃすまないわよ」
めぐのその言葉を聞くと、看護師は悲しそうな表情で、
病室から出て行く。
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:30:31.57 ID:ayXW1Hge0
「はぁ……はぁ……」
今の一連の流れで疲れたのだろう。
めぐは軽い息切れを起こしている。
ずっと入院しているため、体力がないのはあたりまえだ。
「水銀燈、いるんでしょう?」
呼吸が落ち着くと同時に、窓に向かって話しかける。
「……」
水銀燈は、窓から姿を現し、病室へと入る。
「いらっしゃい。見苦しいところ見せちゃったわね」
水銀燈は窓の淵に腰掛ける。
「めぐ」
「なあに水銀燈」
「あなた、まだ死にたがっているの?」
「あたりまえじゃない」
予想通りの返事だったのか、
水銀燈は表情ひとつ変えない。
「死にたがってるのは前から変わらないけれどね」
「?」
「ちょっとだけ、考え方を変えたのよ」
「考え方?」
「私を必要としてくれる人なんていない。
私はポンコツ、あなた風に言うとジャンクね。
私は望まれた子じゃなかった。
今までは悲観した考え方だったわ」
しえんしよう
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:33:22.61 ID:ayXW1Hge0
「でもね」
めぐはベッドの横にある小さな花瓶を見る。
そこには一輪の花があった。
「今はけっこう前向きな考え方なのよ」
死にたがっているのに前向き?
水銀燈は疑問に思うが口には出さない。
「この花ね。たまたま調子が良くて、
ここから抜け出して散歩している時に見つけたの」
めぐはその花を手に取る。
「私、最近はちょくちょく抜け出して散歩とかしてるんだけど
この花を最初に見つけたのはほんの数日前だったの」
手に取った花を、愛おしそうに見つめる。
「その時はまだつぼみだった。
でもたった数日でこんなに綺麗な花を咲かせたわ」
「その花がめぐの考え方とどんな関係があるの?」
水銀燈は痺れを切らして、口を開く。
「焦らないで水銀燈。
花の命って、短いでしょう?
そんな短い命でも、こんな綺麗な花を咲かせる事ができる」
「……そうね」
「この綺麗さは、短命だからこそ輝くものがあると私は思うの」
花びらが一枚、ひらりと落ちる。
「だからね、私もできるだけ早く死んで、
できるだけ短い人生を送って、
綺麗に死にたいの。この花のように。
私だって女の子だもの。綺麗なものには憧れるわ」
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:33:51.00 ID:ygn0Yl4r0
わっふるわっふる
83 :
1:2008/08/17(日) 01:39:26.19 ID:IqAb6yCnO
さるさんくらった
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:41:26.27 ID:+V7Qw6vkO
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:41:44.69 ID:ygn0Yl4r0
>>83分かった。ここは俺に任せて40分ほど何かしてるといい
一時間後には解除されている事だろう
>>71 あーまたクズが出てきたせいでスレの雰囲気が悪くなった
最後の支援
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:43:47.83 ID:ayXW1Hge0
てs
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:45:18.33 ID:ayXW1Hge0
再起動したらなんとかなった。再開
沈黙。
めぐは花を見つめ、
水銀燈は窓から空を見上げる。
「ばっかじゃないのぉ」
沈黙を破ったのは水銀燈だ。
「頬がこけてみっともないあなたのどこが綺麗だっていうのかしらね」
めぐの考え方を、否定する。
「あなたにはわからないのね。この花の綺麗さ、美しさが」
めぐは、最初から理解してもらうつもりなどない、と思っているのだろう。
「ぷっ……あはっ。あはははははははは」
今の言葉で、水銀燈は思い切り噴出し、笑う。
「私がこの花の綺麗さを分かってない? 美しさを分かってない?
あははははっ。ホントばっかみたい。わかってないのはあなたの方よめぐ」
「……どういうこと?」
めぐの表情に、怒りが滲み出す。
「もし、今の考え方のままあなたが死んだら、
私は今以上に笑うわねぇ。
なんて滑稽で、浅はかな少女だったのだろうってね」
もしこれが漫画だったら、ぷちっ、
という擬音が聞こえていたに違いない。
「笑うなぁっ!」
花瓶を思い切り、水銀燈に投げつける。
水銀燈はそれを軽々と避け、
花瓶は地面へと落下していく。
遥か下で、ガシャンという音が聞こえた。
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:48:10.66 ID:YiliBbqUO
やっぱりほのぼのというか日常というか、こういうのいいよな…
正直、薔薇乙女同士のバトルは見飽きたし、して欲しくない…見ていて辛くなる
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:49:10.63 ID:ayXW1Hge0
「いい? よく聞きなさい」
水銀燈は窓から飛び立つと、
羽を広げ、滞空する。
「このっ……このっ……」
めぐは部屋にあるものを手当たり次第
窓の外に向けて投げつける。
「その花はなぜ綺麗なのか?
めぐが言っていたように短命だからということもあるわ。
けれどそれだけじゃないのよ
その短い一生を、一生懸命生きてるから、
僅かなな時間の中で、花を咲かせるために頑張っているから
その命を輝かせるために、“闘っている”から
だから花というものは美しいの」
投げるものがなくなったのか、めぐは動かない。
水銀燈の言葉は耳に入っているのだろう。
しかし、そんなのお構いなしという様子で、
窓の外にいる水銀燈を睨みつけている。
まるで、反抗期の子供のように。
「今の言葉、あなたが理解できるようになったら
私はまたあなたの前に姿を現すことにするわぁ」
そういうと、水銀燈は、遠くへと飛んでいく。
その姿はあっという間に点となり、そして消える。
「うぅ……」
それを睨むめぐの目からは、涙が流れていた。
93 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:49:52.33 ID:ygn0Yl4r0
アリスゲームは桃種先生が描くので充分だよ…
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:53:06.06 ID:ayXW1Hge0
水銀燈は、いつもの教会に戻っていた。
中に入り、長椅子に寝転がる。
「がらにも無く、お説教なんてしちゃったわね」
天井を見上げる。
――その命を輝かせるために、“闘っている”から。
水銀燈は、自分がめぐに言ったことを思い出す。
「私は今、闘えているのかしらねぇ……」
近くを飛ぶメイメイに問いかけてみる。
メイメイは話す事ができないため、
ただこくこくと頷くだけだ。
「機嫌取りなんてしなくていいのよぉメイメイ」
水銀燈はこの時代で目覚めてからのことを思い出す。
ドール達が一斉に目覚めて、
アリスゲームも本格化すると思っていた時代。
水銀燈も最初の頃はよく戦いを挑んでいただ、
気付けばめぐとの生活に夢中になっていた。
アリスゲームよりもめぐとの交流が主になっていた。
ただのマスターのはずなのに、
それ以上の感情に流される。
「なんだかんだで、私も闘ってないのよねぇ」
ふふっと自嘲する。
――人のことを言えないじゃない。
いつの間にか、この平穏な時間を気にいっている自分に気付く。
「アリスになるためには、
美しくなければならない。闘わなければならない」
水銀燈は身体を起こす。
「いくわよメイメイ。アリスゲームにねぇ」
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 01:57:38.61 ID:ayXW1Hge0
めぐはベッドの上でうずくまっていた。
自己嫌悪。めぐはいつも自分が嫌になる。
「もうやだよ……。水銀燈にも嫌われちゃった」
涙は流しきったのだろう。目が赤くはれている。
何も無い、真っ暗な部屋を見渡す。
それはとても空虚で、飲み込まれてしまいそうだとめぐは思う。
「このまま飲み込まれて、いなくなれたらいいのに」
しかしそれは叶わない。
そんな都合のいい話はない。
「水銀燈……」
疲れていたのだろう。
やがてめぐは眠りにつく。
――――――。
翌朝。空は青く透き通っている。晴天だ。
誰もがすがすがしいと思えるような天気だったが、
めぐの心の中はどんよりと曇っていた。
「散歩でも……しようかな」
めぐはこっそりと病室を抜け出し、
病院の外へと出て行く。
そして病院の中庭を、一人で歩く。
「もう夏なのね」
少し歩いただけで汗をかく。
体力がないのもそうだが、外の空気は蒸し暑く、
夏の訪れを感じさせた。
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:01:44.83 ID:ayXW1Hge0
めぐは木陰にあるベンチに腰を下ろす。
生茂る葉が日陰を作り、太陽の光を遮断してた。
「ふぅ。涼しい」
一息ついたところで汗をぬぐう。
ミーン。ミーン。ミーン。
どこかから聞こえる、せみの鳴き声。
「せみ、か」
せみは土中から外に出た後の命が短い。
そこに自分を重ね合わせる。
「どうせすぐ死ぬのに、こんなにうるさくして、馬鹿みたい」
どこかで鳴いているせみにみけて、つぶやく。
「せみを馬鹿にしちゃいけないんだぞ」
めぐの後ろの方から声がかけられる。
振り向くと、そこにはバットを持った男の子がいた。
「せみは短い命でも一生懸命生きてるんだ。馬鹿にしちゃ駄目だぞ」
かたくなにせみを擁護する男の子。
めぐは彼を知っていた。
「ごめんなさい。あなたって確か、私と同じで
心臓を患ってここに入院してる子よね」
「うん。僕もここに入院してるよ。お姉ちゃんのことも何回か見たことある」
「こんな暑い中なにしてるの?」
めぐは、男の子のもつバットを見て訊く。
「見ればわかるでしょ。野球の練習だよ」
「なんでこんな暑い日に野球の練習をしてるの?」
「だって、僕の夢はプロ野球の選手だから」
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:04:18.34 ID:ygn0Yl4r0
プロ野球選手…
少年は努力が必ずしも報われない事を悟り、大人になる。
誰もが通る道だな
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:04:54.01 ID:ayXW1Hge0
なぜ? とめぐは思った。
私と同じなら、この子だって先は長くないのに。
「本当になりたいの?」
「だからこんな暑い日でも練習してるんじゃん」
男の子はぶんっとバットを振る。
「……。あなた、自分の命がどれだけ持つかわかってる?」
まだ幼い子供に対しての残酷な問い。
だがめぐは訊かずにはいられない。
「うん。わかってるよ」
男の子は平然と答えてのける。
「前、ママと先生が話してるの訊いちゃったんだ。
今僕は八歳だけど、十歳になる前に死んじゃう可能性が高いって」
「わかってるなら、なぜ。なぜ夢を追いかけるの? 無駄なことをするの?」
めぐは男の子が自分の考え方と正反対の行動をしていたため、
執拗に質問を繰り返す。
「じゃあ逆に聞かせて。どうしてお姉ちゃんは頑張る事をだめみたいに言うの?」
「だって。どうせすぐ死ぬのよ? 夢だって叶わないわ。
だったら何もせずに散って行く方が綺麗じゃない」
「僕はそうは思わない。一度も鳴かずに死ぬせみと、絶え間なく鳴き続けたせみ。
僕なら鳴き続けた方が綺麗で、立派だと思う」
「どうして? 無駄なだけでしょ!」
「誰が無駄だって決めたの? 夢が叶わないとは限らないよ
もしかしたら、十歳より長く生きることができるかもしれない。
もしかしたら、この病気が治るかもしれない」
「そんなこと……」
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:08:19.20 ID:ayXW1Hge0
「でも、死んじゃう可能性の方が多いのは僕も分かってる
例え短い命でも、それは他のみんなと同じ命。いつかは終わりが来るよ
だったら、やれることをやって、僕は死にたい。
例え短くても、普通の人に負けないくらい充実した人生だったって、
胸を張って思えるように
そうすればきっと、僕らみたいなちっぽけな命でも、輝けると思うんだ」
「……」
真っ直ぐな男の子の目。めぐは返事ができなくなる。
――どうして、この子の方が私より輝いて見えるのだろう。
「ねえ、考えてみて。もしも、今この瞬間に自分が死ぬとしたら、
どんなことを未練に思うかって」
「未練……」
めぐは少しの間、考える。
自分が、生きてるうちにしたいこと。
やり遂げたいこと。経験したいこと。
「思いついたことを、一生懸命やってみようよ。
今気付くことができれば、今のままで死んだ時よりは
きっと後悔が少ないと思うよ」
男の子は笑顔でそう言うと、親指を立てた。
「あ、ママが呼んでる」
遠くから男の子の母親が、声を上げている。
「それじゃあね。お互い、頑張ろうよ」
男の子は、母親の方へとかけていった。
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:08:36.43 ID:ygn0Yl4r0
めぐの日常は重過ぎる
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:12:47.92 ID:ayXW1Hge0
「情けないわね」
めぐはふふっと笑う。まるで自嘲するかのような笑い方。
「水銀燈もあの子も、同じようなこと言うのね」
空を見上げる。どこまでも青く、晴れ渡っている。
「よし」
立ち上がる。
「騙されたと思って、何かやってみようかな」
病棟に向かって、ゆっくりと歩く。
「闘って、みようかな」
――翌日。
水銀燈はめぐの病室に向かって飛んでいた。
めぐはどうしているのだろうか。
気になった水銀燈は隠れて様子見をするだけのつもりで来た。
「さて、めぐは何をしてるのかしらね」
水銀燈は、こっそりと中を覗く。
「!?」
中ではめぐとめぐの父親が話していた。
しかし、いつもと雰囲気が違う。
普段、父親が来た時はめぐが一方的に暴れて、
散々文句を言った後に泣く、ということが多かった。
だが、今のめぐは落ち着いた様子で父親と話をしている。
時折熱くなったりしているようだが、かんしゃくを起こしているわけでもない。
「めぐ……」
こんなにも早く変化が現れるなんて。
水銀燈は自分が言ったことが伝わったと理解し、安堵する。
102 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:16:30.95 ID:ayXW1Hge0
――そして。
父親が病室を出たところで、水銀燈は窓をノックした。
めぐはそれに気付くと、慌てて窓を開ける。
「水銀燈っ」
「めぐ……。理解、できたのね」
めぐはこくっと頷く。
「まずは謝らせて。ごめんなさい」
「分かってくれればいいのよ。謝らなくていいわ」
水銀燈は、窓の淵に腰掛ける。
「それで、あなたはさっき何をしていたの?
あれだけ嫌っていた父親と真面目に話をしていたようだったけど」
「うん。私ね、思ったんだ。
もしこのまま死んだら、家族のぬくもりが欲しかったって後悔するんだなあって。
だから、後悔しないために、私は家族を昔の状態に戻すと決めたの。
いなくなったママにも戻ってきてもらいたい。
また、家族みんなで笑いたい。そのために私は闘うって決めたの」
めぐは、誇らしげに言う。
「だからね。さっきもママのことでパパと話をしてたの。
どうもうまくいかないんだけど、私はくじけないわ。
少しでもいい。家族の温かさを少しでも感じることができるなら、
私はこの短い人生をそのために費やすって決めたわ」
「そう。あなたも、やっと闘うことができたのね」
水銀燈は嬉しそうに言う。
「そんな表情をしてる水銀燈、初めてみたかも」
「う、うるさいわねぇ」
病室に響く、めぐの笑い声。
103 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:20:22.60 ID:ayXW1Hge0
「私も闘わなきゃね」
水銀燈はぼそりと言う。
「アリスゲーム……だっけ?」
めぐはそれを聞き取る。
「ええ。昨日も、戦いにいったのだけれど、進展はしなかったわ」
「じゃあ、これからはさ」
めぐはにこっと笑う。
「私たち、目的は違うけど二人一緒に闘っていくんだね」
「そういうことになるわねぇ」
「ねえ、水銀燈。もし私がくじけそうになったら、
闘い続けることができるように、支えてくれる?」
「そうねぇ……。あなたも私を支えてくれるのなら、
支えてあげてもいいわぁ」
「ふふ。約束よ水銀燈」
「ええ、薔薇の指輪に誓って」
水銀燈の言葉を聞き、めぐが指輪のはまった指を出す。
「病める時も、健やかなる時も……」
「あなたは病みっぱなしだけどねぇ」
「ふふ。死が二人を分かつまで」
「死んでも一緒なんでしょぉ?」
「そうだったわね。……私たちは支えあい――」
――――闘っていくことを、誓う。
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:23:01.72 ID:ygn0Yl4r0
しえnだけど眠い 1頑張れ
105 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:24:07.18 ID:+V7Qw6vkO
支援
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:24:25.77 ID:ayXW1Hge0
case8 真紅
「ふぅ……。散々だったなぁ」
ジュンは部屋に散らばった黒い羽を次々とゴミ袋に入れる。
桜田家のリビングは散々なことになっていた。
窓は割れ、家具はごちゃごちゃになり、黒い羽が散乱。
割れた窓は真紅が時間の薇を巻き戻したために元に戻ったが、
家具と羽はほとんどジュン一人で片付けていた。
「まったく。このままここでアリスゲームが続いてたら
我が家は原型とどめなくなってただろうなぁ」
つい先ほど、水銀燈が姿を現し、
アリスゲームが繰り広げられていたのだ。
ジュンの必死な訴えにより、戦いの場所はnのフィールドに移ったため、
被る被害がこれだけに済んだ。
「それになんで僕が片付けして他のやつらは遊んでるんだよ!」
ジュンは廊下を見る。
翠星石と雛苺が楽しそうに駆け回っている。
「さっきまであれだけ必死に戦ってたのに
終わったらすぐこれか」
はあ、と呆れたようにため息をつく。
「よし、と」
部屋に散らばる羽を全て広い終わる。
「後は家具か……」
リビングでぐちゃごちゃになるテーブルやソファー。
「ひきこもりに重労働はきついぞ。ったく」
桜田家に男はジュンしかいない。
やれやれ、と思いながらもジュンは家具を片付けていく。
107 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:28:04.41 ID:ayXW1Hge0
悪戦苦闘しながらも、ジュンは家具の片付けも終える。
「片付けは終わったですかー?」
片付けが終わるのを見計らってか、翠星石が呼びかける。
「ああ、終わったよ性悪人形」
そう答えると、翠星石と雛苺が駆け足でリビングに入ってきた。
「あぶねーです。もうすぐくんくんが始まるところだったですぅ」
「翠星石ー、リモコンー」
「分かってるですよおばか苺。スイッチオンですぅ」
翠星石がリモコンでテレビの電源をつける。
テレビ画面はしばらくして、くんくんのOPを映す。
「あれ? 真紅がこないのー」
「珍しいですね。さっきの戦いで疲れて
お昼寝でもしてるのかもしれないですね。
ジュン、起こしにいってあげるですぅ」
「なんで僕が。ったく」
ぶつぶつと文句を言いながらも、
ジュンは真紅のいる二階へと向かう。
「おい真紅。くんくん始まってるぞ」
階段を上りながら、真紅に向けて
大声で呼びかける。
しかし、返事はない。
「おい、真紅!」
ガチャリ、と真紅がいるであろう自室の扉を開ける。
「真紅……?」
ジュンのベッドの上。
そこで真紅は壁にもたれながら座っていた。
108 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:32:18.59 ID:ayXW1Hge0
ジュンは真紅の傍によると、肩をたたく。
「おい、どうしたんだよ」
真紅の肩がビクッと震える。
「っ。……ジュン」
声に元気が無い。
「どうしたんだ? もうくんくん始まってるぞ」
「……いいわ。今日は見ない」
首をふるふると横に振る。
おかしい。ジュンは異常を感じる。
あれほどくんくんが好きで、毎週欠かさず見ていたのに、
急に見なくなるのは変だ。
「何があった? もしかしてさっきの戦いで何かあったのか?」
ジュンのその問いに、ピクリ、と僅かな反応を示す。
「言ってみろよ。力になれるかはわからないけどさ、
話せば少しは楽になるかもしれないぞ」
ジュンは真紅の横に腰を下ろす。
「落ち込んでちゃお前らしくないだろ。
見てるこっちが調子狂うしさ。ほら」
「ジュン……」
真紅はジュンを見つめる。
その表情からは僅かだが嬉しさが感じられる。
「nのフィールドで、水銀燈が言ったの」
少し前にあった出来事を、真紅はゆっくりと口にする。
109 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:35:45.92 ID:ayXW1Hge0
「達はこの平穏、日常のぬるま湯に浸かりきっている」
nのフィールドで、水銀燈は真紅に言った。
「私達の使命を覚えている? アリスになるという、大事な使命」
真紅はそれをただ聞き続けることしかできない。
「アリスゲーム。闘いこそが、私達のやるべきこと。生きている意味。
でも今の貴方達は何? マスターとの生活に溺れているだけ。
貴方達はそれでも闘っていると言えるのかしら?」
水銀燈の容赦のない言葉。
翠星石や雛苺はなにやら言い返していたが、真紅は何も口にしない。
「作り物の命である私達の、唯一の生きる意味。それを貴方達は放棄している。
だったらアリスゲームから降りなさい。そして、ただの人形として生きなさい」
お説教のようにも聞こえる、水銀燈の言葉。長女らしさを感じさせた。
その後、熾烈な戦いも引き分けに終わり、水銀燈も一児退散した。
しかし、水銀燈の言葉は、真紅の心に突き刺さっていたのだ。
「貴方も、聞いていたでしょう?」
「ああ」
「私は最後まで、何も言い返せなかった」
真紅は、自分の膝をぎゅっと抱く。
「だって、水銀燈の言っていることは正しいのだもの。
私には何も言い返せない」
「……」
ジュンはかける言葉が見つからず、何も言えない。
水銀燈の言っていることが本当に正しいのかどうか、
ドールではないジュンには判断できないのだ。
「ごめんなさい、ジュン。今夜は一人にさせて」
110 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:43:55.36 ID:iLSLGgXO0
鬱はイヤだZE☆
111 :
1:2008/08/17(日) 02:46:45.16 ID:IqAb6yCnO
また規制くらった
112 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 02:57:38.03 ID:iLSLGgXO0
ブラウザ一度閉じるよろし
あれ?クッキーじゃないんだっけ
113 :
1:2008/08/17(日) 03:08:30.81 ID:IqAb6yCnO
無理だった
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:14:58.71 ID:ayXW1Hge0
「……ああ。わかった」
それだけ言うと、ジュンは部屋から出て行く。
「真紅ー、遅いですよ……って、いねーですぅ」
「ジュンー、真紅はー?」
翠星石と雛苺が、階段を下りる音に反応して、
ジュンに声をかける。
「いろいろあってな、今夜は一人にして欲しいってさ
だからお前らも今日は姉ちゃんの部屋でねてくれ」
「んー、よくわからんですけど了解ですぅ」
「はーいなのー」
翠星石と雛苺は、すぐにテレビ画面の方に向き直った。
こいつらは単純でいいな、とジュンは思う。
ジュンはのりにも事情を説明する。
のりは翠星石達が自分の部屋で寝ることに快く許可してくれた。
「ジュン君はどこで寝るの? なんならお姉ちゃんと一緒に寝る?」
「誰か寝るかブス。僕はリビングのソファーで寝るよ」
「ソファーじゃ疲れは取れないわよぅ? ほらお姉ちゃんのベッドに……」
「今夜だけだから」
そう言ってジュンは会話を無理やり終わらせる。
――夜。
翠星石と雛苺は九時を回ったためすでに寝ている。
「お姉ちゃんも寝るわねぇ」
のりもあくびをしながら自室へと向かう。
「おやすみジュン君」
「おやすみ」
リビングはジュンだけになる。
「パソコンが使えないだけで凄い暇になるんだなあ」
パソコンはジュンの部屋なので、リビングではできない。
「僕も寝るか」
ジュンは電器を消し、ソファーで横になった。
しえんぬ
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:18:29.04 ID:ayXW1Hge0
真紅は鞄にも入らず、ベッドの上で座っていた。
いろいろなことを考える。
アリスゲームのこと。ローゼンのこと。自分のこと。姉妹のこと。
そして、ジュンのこと。
「…………」
何もかもが分からなくなる。
不安に押しつぶされそうになる。
もしアリスゲームに敗れたら、私は魂だけで延々とさ迷うことになるのか。
お父様はなぜこんな方法でアリスを求めるのか。
どうして私には人並みの心があるのだろうか。
他の姉妹達はアリスゲームについてどう思っているのか。
ジュンは、私達のことをどう思っているのか。
「わからない……わからないわ」
日常を楽しんできた真紅には、突然の水銀燈の言葉を重く感じる。
「私は、闘っているのかしら」
考えることすら、難しくなる。
「私は、生きているのかしら」
人形なのに自分で動き、考え、話すことができる。
現実的に考えておかしい話だ。
真紅はとうとう自分の存在を疑いだす。
「もしかしたらこれは全て夢で、
目が覚めれば私は普通の女の子として生活する」
真紅は、自分でも馬鹿みたいだと思う考えを口にする。
「そんなこと――あるわけないじゃない」
答えはでない。何も分からない。
真紅は頭を抱え、悩むばかりだ。
夜が、更ける。
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:22:19.45 ID:ayXW1Hge0
――翌日。
台所の騒がしい音でジュンは目を覚ます。
「あら、ジュン君おはよう。今日は早いのね」
「おはよ。そりゃ、近くで騒がしければ目も覚めるさ」
ジュンは目をこすりながら身体を起こす。
「ジューンー。おっはよーなのー」
雛苺がジュンの腹にダイブする。
「ごぶふぁっ」
ジュンは苦痛で再び横になる。
「ほら、チビ人間! とっとと起きるですぅ」
そんなジュンの頭を翠星石がおたまで叩く。
「あだっ。おたまはやめっ」
「元気な朝は翠星石のスコーンから! 早く顔洗って席に着くですぅ」
翠星石はそういうと、台所へとかけていく。
「顔、洗うか」
ジュンは立ち上がると、洗面所へと向かう。
途中、階段の前を通る時に、真紅のことを思い出す。
「あいつ、大丈夫かな?」
洗面所に到着。冷水で顔をゆすぐ。
「ふぅ。いっきに目が覚めたな」
「ジュンー。はーやーくー」
雛苺のせかす声。
「真紅の様子を見に行くか。飯食ったあとで」
ジュンはまず朝食をとることにした。
118 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:25:52.28 ID:ayXW1Hge0
「ごちそうさま」
ジュンはあっという間に朝食をたいらげる。
「今日は食べるのが早いですね」
「真紅のことが気になるからな。今から様子を見てくる」
「レディは繊細ですから、言葉には気をつけるですよ」
「わかってるよ」
ジュンはそういうと、席を立つ。
「さて、どうするか」
階段を上りながら、どんな言葉をかけようか考える。
「下手に傷つけないように慎重に言葉を選ばなきゃな……」
足が止まる。
「うーん……」
気付けば階段に腰を下ろしていた。
「あー駄目だ駄目だ。僕もわけわかんなくなってきた」
頭をくしゃくしゃとかきむしる。
「こんなところで何をしているの?」
背後から声をかけられる。
聞きなれた上品な声。
「真紅?」
「おはようジュン。昨日は迷惑をかけたわね」
ジュンのすぐ後ろに真紅が立っていた。
その表情は暗く、悩みが解決していないことが分かる。
「…………」
かける言葉が見つからない。ジュンは黙り込む。
「?」
真紅はそれを不思議そうに見る。
「えーと、その。あれだ。気分転換! 散歩でもいくか」
ジュンはとっさに口にする。
「わかったわ。外はいい天気だし。気分転換にはちょうどいいかもしれないわ」
支援
120 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:29:35.91 ID:ayXW1Hge0
「…………」
眩しい日差しの下、河川敷を真紅と共に歩く。
長い沈黙。
ジュンは気まずそうにしているが、真紅はそうでもなさそうだ。
「こうして歩いていると、不思議と気持ちが落ち着くわね」
沈黙を破ったのは、真紅だった。
「さっきまでは、何がなんだかわからなくなっていたというのに」
「お前まさか……」
一睡もしていないのではないか、ジュンはそう察する。
「大丈夫よ、ちょっとくらい寝なくてもなんとかなるわ」
真紅は平気そうに答える。
「やっぱり、私達ドールは争わなければいけないのかしら」
真紅は唐突に話題を深刻なものに変える。
「私は私のやり方でアリスゲームを制する」
ジュンはその言葉に聞き覚えがあった。
「そういえばそんなことを前に言ってたっけな」
「ええ。私は誰のローザミスティカも奪わずに、
誰も傷つけずにアリスゲームを制する方法を考えたわ」
前方にベンチが見える。
「続きは、あそこに座ってはなしましょ」
二人はベンチまで歩くと、腰を下ろす。
「続きなのだけれど。
私はアリスゲームを制する方法を考えたの」
「ああ」
「アリスになる方法じゃなくて、アリスゲームを制する方法をね」
「……どういうことだ?」
121 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:32:53.41 ID:ayXW1Hge0
「つまり、逃げの考えなのよ」
「逃げ?」
「アリスになれるのはたった一人。例えば私がアリスになったとするわ。
誰のローザミスティカも奪わずに、誰も傷つけずにアリスになったとする。
そうすると、他のドール達はどうなるのだろうって」
真紅は、物悲しそうな表情で、淡々と言う。
「私だけがお父様に認められて、他の子達はお父様に会うことも叶わない」
「それって、すごく残酷なことなんじゃないのか」
「私もそう思うわ。もしアリスになったとしても、私はずっと後ろめたさに悩まされると思うもの。
アリスにならなければよかった。そう考えてしまうかもしれない」
「でも、アリスゲームは止まらない。そうなんだろ?」
「ええ。だから、私はどうしていいかわからないの。もしアリスゲームをすること自体拒否したとする。
でもそれは私の存在意義を拒否するということ。水銀燈が言ったとおりのことになるわ」
「…………」
ジュンは歯を噛みしめていた。
感じるのは怒り。怒りの対象は、ローゼン。
「アリスゲームをしてアリスを目指すことが、私たちの生きる意味。
他のドールを蹴落として、アリスという座を目指すと言うこと。
生きるためには、大好きな姉妹を犠牲にしなければいけない」
真紅の目に涙が浮かぶ。
「作り物の命だけれど、私は毎日を生きている。
でも、他者を苦しめなきゃいけないなんて、私には耐えられない。
それでね、一つの結論に達したわ」
真紅は袖で涙を拭く。
「生きるのを、辞めればいいんだって。そうすれば、誰も苦しめなくてすむもの」
真紅は、平然と言ってのける。
「なに、言ってんだよ」
――もう我慢の限界だ。
「なんでお前が生きるをを辞めなくちゃならないんだよ!!!」
ジュンは、大声で叫ぶ。
122 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:37:47.28 ID:ayXW1Hge0
「っ……ジュン?」
突然の大声に、真紅は少し驚く。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「しょうがないの。他の子のことも考えると。これしか思いつかないわ。
一晩考え続けた、私の精一杯の解決策なのよ」
「そんなの、一人で考えた結果だろ。それが精一杯なわけがない」
「じゃあ……どうすればいいのよ! 誰かに相談すれば、なんとななるの?
誰も嫌な思いをせずにアリスゲームを制することができるようになるの?」
自分の精一杯の考えを簡単に否定され、真紅は向きになって反論する。
「アリスゲームを制することができるかはわからない」
「でしょう? だったら軽々しく私の考えを否定しないで!」
「軽々しくなんかないさ。お前を苦しみから開放するために、
僕はお前の考えを否定したんだ」
「私を苦しみから解放するため? できるの?
あなたにそれができるの? しょせん私と契約しただけのあなたに?」
怒りのあまり、真紅はジュンに暴言をぶちまける。
しかし、ジュンはひるまない。
「ああ、僕はただ契約しただけの子供さ。
でもな、僕だって考える事はできるんだ。
お前とはまた違った考え方で、解決策を考える事ができる」
「そこまで言うなら、助けて! 私を助けなさいよ!」
真紅は涙を流しながら叫ぶ。
きっと、いろいろなものを心に溜め込んでいたのだろう。
ジュンはそう察し、あくまで優しく真紅に話しかける。
「別に、アリスゲームを制さなくてもいいんだよ」
真紅「おれは人形を止めるぞ!ジュンーッ!!
おれはアリスを超越するッ!」
124 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:41:44.53 ID:ayXW1Hge0
「何言ってるの。アリスゲームこそが私達の最大の使命なのよ。
私達は、アリスゲームに勝つためだけに生きているの。さっきから言ってるでしょう?」
「そんなもん知るか。それは誰かが勝手に決めたものだろ?
お前達が生きる理由は、お前達が決めればいいんだ」
「駄目よ。私達は作られた命だもの。
作り物風情が、そんなワガママは言えないわ。
創造主の、お父様の決めた使命に従うのみ?」
「作り物? 何自分達が特別みたいな言い方してるんだ。
生物なんて、みんな作り物じゃないか。
自分の両親が、えーと……その。まあアレをして作った命なんだ。
ただ作り方が違うだけで、お前達も僕たちも、同じ命なんだ」
「ジュン、あなたは自分が作り物だっていうの?」
「ああ、そうさ。僕は両親によって作られた命さ。
でもな、親に生きかたなんて決められた覚えはないぞ。
僕は親に決められたレールを、生きてるんじゃない。
自分の意思で、生きてるんだ」
「私だって自分の意思で――」
「いいや、違うね。お前達。いや、少なくとも今のお前は、
自分の父親の意思で生きてるようなもんじゃないか」
「…………」
沈黙。
真紅は何も言い返せない。
「アリスゲームの勝者にしか会わない。ローゼンはそう言ってるんだろ?」
「……ええ。お父様はそう言ってるわ」
「考えたんだけどさ」
「……?」
125 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:44:23.24 ID:ayXW1Hge0
「ローゼンが会わないって言ってるだけでさ。
会えないわけじゃあないんだろ?」
「確かに会えないとは言ってないけれど、会うなんて不可能よ。
お父様はnのフィールドの奥深くにいるわ。到底たどり着けないわ」
「試したこともないのにか?」
「どういうこと?」
「簡単なことさ。やらなきゃなにも始まらない。
僕が偉そうに言えることじゃないけどさ」
ジュンは、今の言葉を自分にも当てはめた。
外に出なきゃ、殻から出なきゃ何も始めらない。
「僕もローゼンに会ってみたいな。なあ、今度一緒に探しに行かないか」
「あなたが会ってどうするの?」
「そうだなあ。とりあえず怒るな。なんでドール達にこんな過酷な思いをさせるのかって。
もしかしたら、怒りのあまり手を出しちゃうかもれない」
「駄目よ、お父様に暴力だなんて。私が許さないわ」
「じゃあさ、お前が止めればいい」
「え?」
「一緒にローゼンを探してさ。二人で。いや、もしかしたら他のやつらも探すっていうかもな。
とにかく、みんなで会うんだ。ローゼンに」
「無理よ」
「やってみないと分からないさ。それで、ローゼンに会ったら、
僕はアリスゲームのこと、全てを洗いざらい吐いてもらおうと思ってる。
それで、納得いかなかったら、僕はローゼンに殴りかかる」
「だから駄目っていってるでしょう!」
「さっきも言ったとおりお前がそれを止める。
当面の目標はこんなもんでいいんじゃないか?」
「え?」
126 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 03:48:34.88 ID:ayXW1Hge0
「これは僕の提案だ。決して強制じゃない。
お前はローゼンに会い、そして僕の暴挙を止めるために、毎日を生きる
アリスゲームなんかよりよっぽど平和で誰も苦しまないと思うな」
「ジュン……」
「お前がどうするかは自分で決めろ。
その変わり、生きるのをやめるなんてまた言ったら、
今度はもっと怒るぞ。それに」
「それに?」
「お前がいなくなったら、みんな悲しいから。
姉ちゃんも雛苺も翠星石も蒼星石も金糸雀も、
水銀燈もきっと悲しむんじゃないか? 張り合う相手がいなくなるわけだし」
「それ以外の生きかたを、自分で選んでくれ。
僕は翠星石あたりに頼んでnのフィールドでローゼンでも探すよ」
「……あら、それは問題ね」
真紅の声に、普段の調子が戻ってくる。
「あなたや翠星石じゃ、きっとお父様に無礼なことをしそうだもの。
私がついていかないとお父様が大迷惑だわ」
真紅の目から、涙はなくなっていた。
そこにあるのは、見慣れた強気な笑顔。
「家来の面倒はしっかり見なきゃいけないわ。
しょうがないけど、私もあなたがお父様を探すのに同行するわ」
ジュンはその言葉を聞き、思わずにやける。
「だーれが家来だ。面倒見てもらう立場なんかじゃないぞ僕は」
「家来のくせに偉そうね。もっと言葉使いをしつけるべきだったかしら」
「んだとー!?」
127 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:02:39.77 ID:ayXW1Hge0
雲ひとつ無い晴天の下で、二人の声が響く。
「なあ真紅」
「なあに?」
「家、帰ろうか」
「そうね」
ジュンはベンチから立ち上がる。真紅はそれを上目遣いで見る。
「ジュン、抱っこしてちょうだい」
「ああ。よいしょっと」
ジュンは真紅を抱きかかえる。
「私を抱くのもだいぶ慣れてきたわね。私の調教のおかげね」
「なんだよ調教って。僕はお前の家来じゃないしマゾでもないぞ」
「あら、てっきりジュンはマゾっけがあると思っていたのだけれど」
「ない! これっぽっちも! ない!」
「そんなにムキになって否定しなくてもいいじゃない。
ちょっとからかっただけよ」
真紅はふふふと笑う。
この楽しい時間が、続けばいいのに。
真紅は思う。
こんな私だけど、幸せな時間の中で生きることを、許して欲しい。
ねえ、お父様。私は今、幸せです。お父様にもこの幸せを分けてあげたいくらい。
でも、お父様の決めたアリスゲームは、そんな幸せを無に変えてしまいます。
どうして私達は闘わなければいけないのでしょうか?
大好きな姉妹と戦わなければいけないのでしょうか?
いつになるかわからないけど、お父様の口から、その理由をお聞かせください。
それまでは、この幸せな時間を、私に享受させてください。
彼、ジュンともっと一緒にいさせてください。
真紅はまだ見ぬ父親に向けて、願う――。
128 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:03:52.57 ID:ayXW1Hge0
――。
――――。
――――――――。
扉が、閉じる。
「どうだったでしょうか? 彼女達の日常は」
現れたのは、ラプラスの魔。
「残念ですが、お見せできるのはここまででございます」
ぺこりと一礼。
「これから先、彼女達の戦いがどうなるのか?
アリスに孵化するのは誰なのか?
今の私達には知る手段はありません」
クックック、とラプラスの魔は不気味に笑う。
「時がくれば、全てが分かる時がくるのでしょう
それでは私はこれで失礼。間に合わなってしまう」
先ほどとは違う扉が開く。
「それでは皆様、ごきげんよう」
扉が、閉じる。
――END。
乙、泣いた
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:09:05.89 ID:ayXW1Hge0
正直真紅の話は書いてて意味分からなくなった
個人的に真紅、金、きらきーは駄作
131 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:09:59.48 ID:ayXW1Hge0
読んでくれた人、ありがとうございます
こんな遅い時間まで申し訳ない
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
お疲れ様