牛が笑った

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
しかしそれは
2ガリロリ ◆gariIYLBws :2008/07/09(水) 23:56:17.60 ID:87X9dmVG0
うッシッシとでもいうのかと
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/09(水) 23:58:31.32 ID:Lt40rn2J0
カーゥ!カッカッカッウ!とでもいうのかと
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/09(水) 23:59:14.34 ID:+AseBVCd0
しかしそれは心からの笑みではなかった。
彼は眼を薄め、私の内部を見透かすようにしていたのだ。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:01:00.56 ID:KikoPuyw0
私は、しかしながらその時服を持ってはいなかった。
服を持たなければ、その牛に見透かされてしまう。
あの森の小屋であった少女の忠告に、少しは耳を傾ければよかったと、
ため息を1つついた。
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:07:06.94 ID:ZxpU7PS90
いや、もう振り返るまい。
過去への固執は未来へ進む足を重くする。
あの牛にも、小屋の少女にも、もはや会うことはあるまい。
私は車に乗り込み、走り出す。
遠くであの牛の笑い声が聞こえた気がした。
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:13:42.81 ID:qqq6+jal0
「あれは幻聴だ」
私は自分に言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返したのだが、奴の声は聞こえ続けた。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:14:08.54 ID:oVzNzWJ00
・・・ユニーク
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:15:10.27 ID:y8w8rhMb0
耳を通り、頭の中でこだまするその声は
やがて私の心をも蝕み始めた
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:15:11.40 ID:wGROk+oQ0
小一時間位走っただろうか。
私はふとあることに気がついた。

その思いは私の頭をあっというまに侵食した。
砂にこぼした水が浸み込むように。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:15:38.36 ID:KikoPuyw0
「という夢をみた」
人の多いところは苦手なんだ。
ましてや、昼時のオフィス街の一角にある喫茶店などろくなことがない。
ちらちらと、周りを見渡しては手元のコーヒーに手を伸ばす。
「・・・それは一体何の話なんだ」
二人席の片方には自分が、そして自分の目の前にはそんな私のことなど
とても理解してそうにない、友人とも呼べる人物が退屈そうに言った。
「夢ではなかった」
私は、なおも周りに目を配らせながらちょっとずつ、コーヒーの甘味と苦味の
調節をするようにのどの奥から言葉を取り出す。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:17:23.68 ID:Y3c0kRIt0
夕暮れの林道は異世界へのトンネルのようだった
「牛はなぜ笑うのか…」
私は車内でつぶやいてみたが、その声は行き先を見失い
しばらく車内を彷徨っていたが、やがて消えた
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:25:21.28 ID:r/j/PffS0
トンネル──のような林道だが──を抜けると、そこは雪国だった。
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:26:15.93 ID:ZxpU7PS90
私は確かに自宅に向かい車を走らせていたはずだった。
しかし、ここはどこだ?
周りには鬱蒼と木々が茂り、落ち始めた陽も相まってさながら童話に出てくるような魔女の森のようだ。
迷った?
そんな馬鹿な、何百、何千と通った事のある道だ。
少しの不安を感じながらしばらく走ると、急に嘘のように木々が途切れ、ぽかん、と拓けた場所に出た。
そこには古い洋館があったのだ。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:29:18.17 ID:KikoPuyw0
不思議な景観。不思議と心が落ち着きそうだ。

しかし、それとは裏腹にわたしの心はざわめきだつ
さっきから、音がうるさいのだ。
真夏の夜中に飛び回る蚊のように、不快感を催す音が
耳の近くで鳴り響いている。
しかも、迷惑なことにその音はたまに途切れる。
途切れた瞬間の私の脳は、少しばかりの安息を覚える。
ところが、次の瞬間に、不快感を伴うその音がやってくる。
リズムをもたない音というのが、ここまで不快感を募らせるに
必要十分なものだとはこのときまで気付きもしなかった。
「うるさい・・・」
意識せずに言葉が漏れる。
耳の近くに時たま近寄るその音は、私にさらなる幻聴をもたらした。
音・・・というよりは声に近い。
声にならない声・・・人以外の声・・・捻じ曲げて例えてそんな所か。
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:31:20.31 ID:Y3c0kRIt0
車のエンジン音が何かに吸い込まれるようすぅーっと消えた
私は車を降りて洋館の門へと近づいた
恐怖心がなかったと言えば嘘になるが、
牛が笑ったのをイメージしながら歩を進めると冷静でいられた
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:37:30.83 ID:qqq6+jal0
ドアをノックしても返事はなかった。
「留守か・・・。」
しかし私はその時、家が留守なのではなく元々誰も住んでないのだと感じていた。
洋館のあらゆる窓は割れており、相当な量のツタが家を包んでいたからだ。
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:41:51.74 ID:MroKPsrw0
と、館の裏の方向から何かの音がした。
動きたくない。できればこのまま夢が覚めてほしい。
しかし、これは現実なのであると何故か私は理解していた。
何かしらの行動を起こさないとこの闇は終わらない。
私は恐る恐る館の裏側へ回り込む。
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:49:51.53 ID:r/j/PffS0
その先に、牛。
牛がいる。牛が笑っているのだ。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:51:05.36 ID:qqq6+jal0
すぐそばでは、藤崎マーケットがネタ合わせをしていた。
「ららららい」
「ららららい」
「!?」
 「!?」
「ちょっと君、無礼ではないのか?」

私は少し戸惑ったのだが、とりあえず謝っておいた。
「す、すいません・・・あの、道を聞きたいのですが」
 「らららい」
彼はその呪文のようなフレーズを口にした。
どうやら私を受け入れてくれたようだ。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:52:03.10 ID:KikoPuyw0
いや、幻だ。いや、幻ではない。ただの見間違いだ。
打ち捨てられた木材に塗られた白と黒のペンキの跡が
それらしく形を残しているだけだ。
それを私は・・・やはり疲れているのだろうか。

それにしても、やはり誰も住んではいないのか。
回り込む道には、膝丈までのびた草・・・これはなんという草かは私は知らない
私は、特別に草の勉強をしたわけでも趣味で調べたこともない。
確か、一度だけ薬草に興味を持ち公民館においてあった本を手にとって数ページ
眺めてはみたが、ただそれだけで、なんの印象も記憶にもその内容は残っていない。
とにかくも、それほどのびきった草を掻き分けるようにして
やっと裏庭と見られる場所へたどり着く。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 00:55:03.46 ID:Y3c0kRIt0
裏庭には古びたブランコがあった
(あぁ…、やっぱりな)
私は完全に諦めた
このブランコには見覚えがある、しかしいい思い出では無い
そして、私はその事実を知りながらここにやって来てしまったのだ
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:07:07.20 ID:KikoPuyw0
あぁ・・・思い出したくもない。
その思い出は、まるで黒い霧のように私の体を蝕んでいた。
それを思い出すたびに、私は自分の体のどこかが無くなるのを感じていた。
最初は腕だった。利き腕だった。
私は、それから2週間。ペンも箸も持つことができなかった。
いや、持つことはできたのだ。ただ、力が入らない。
私の脳はペンを持つことを嫌い、箸を持つことを嫌った。
次になくしたものは、鼻だった。
何のにおいも感じなかった。だが、味覚はあった。
だから鼻がなくなったのでもなく、嗅覚が失われたわけでもない。
あぁ、こんどはどこを無くすのだろうか。一抹の不安を心臓が鼓動で表現する。
波打つ血液が私の体の全ての酸素を、二酸化炭素を体の外へと出そうとしている。

私は、今度は何を無くすのか?
だれかが語りかけるように、頭の中に住む鼻持ちならない爺が直接小脳に語りかける。
あぁ・・・どうして思い出してしまったのだろうか。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:08:42.39 ID:MroKPsrw0
ギィ・・・ギィ・・・
ブランコは風がないにも関わらずひとりでにゆっくりと揺れている。
いつのまにか消えていた幻聴が再び大きくなってきていた。
得体の知れない声、朽ちたブランコの軋む音、混ざり合った不協和音は
私の脳をどろどろと掻き回し抉っているようで、目眩がする。
まるで何者かが私の記憶を奪おうとしているかのような感覚。
自力で立っていられなくなり地面に膝をついて屈んだ。
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:11:50.40 ID:TGKTK6Z8O
(間奏)

ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:13:32.46 ID:KikoPuyw0
吐き気吐き気吐き気吐き気
眩暈眩暈眩暈眩暈眩暈眩暈
あぁ・・・ぐらぐらする。
世界が私の視界という小規模の世界が回っている。
あぁ・・・気持ちが悪い。
飲みすぎたのとは違う。熱があるのとも違う。
この吐き気と眩暈と気持ち悪さ。
あぁ・・・脳が溶けていく。
溶け出した脳がこぼれていく。耳の穴から、目の奥から、鼻の中から、
あぁ・・・地面に脳がこぼれていく。

ふと、そのこぼれた脳であった液体に影が映る。
人とは思えない奇妙な影。
影はゆらゆらゆれている。
ゆれながら・・・音を出している。例の・・・音。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:19:11.11 ID:qqq6+jal0
そのこぼれた脳はメタファーであるのだが、この五感だけは真実そのものである。
360度全方位から投げかけられる痛み、軋み。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:21:26.23 ID:ZxpU7PS90
あの声だ!
忌々しい、あの牛の笑い声!
私はやはりあの瞬間からこいつを忘れる事なんて出来なかった!
ああ!
自分自身のなんという愚かな事か!
わかっていたのだ、こいつから逃げられる事など出来ないのだ。
いや、逃げるという表現は相応しくない。
こいつはずっとずっと、僕のそばに居たのだ!
なんだ・・・。
なんでこんな簡単な事に気がつかなかった?
気付けば眩暈も吐き気も忘れ、目の前はかつてないほどに澄み切っている。
「僕は間抜けだ・・・おまけにひどく滑稽だ」
思わず私は笑ってしまった。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:27:02.23 ID:KikoPuyw0
牛(これが牛なら象は土星のようなものだ)は、なおも音を出していた。
笑い声のような音。音のような笑い声。
幻想のような風景は、理想の状態へと私の心を簡単に運んでくれた。

何も解決してはいない。音をださないでくれ。
私は、のどの奥からやっとの思いで引っ張りあげた声を出した。
溶け出した脳しか視界に入らない。首が上がらない。
その影を見ることしかできない・・・が、その影はぴたりと動かなくなった。
影は、動かなくなった。
動かなくなった・・・?
違う、私は違いに気付いた。世界の違いに気付いた。
影は既にいない。
私は溶け出した脳を集める自分をふと想像した。
必死になって、水に近い脳を両の手で救い上げ、やかんのふたを持ち上げるように
頭蓋骨と毛髪を引っ張り、その中へ溶け出した脳を戻す。
想像の中の自分は、それで満足しどこかへ歩いていった。
まるで悩みなど、最初からなかったみたいだったように軽快に。
どこか、ラジオで聞いた変哲もない興味もない曲のサビを口ずさみながら。

その外側では現実の自分が、影と戦っている。
あぁ違う違う。

自分を取り戻せ!

こうして影は消え、私は草むらのなかの荒れ果てた庭へと帰ってくることができた。
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:36:41.13 ID:Bwb02y2x0
おまんこかゆい
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:41:07.63 ID:Y3c0kRIt0
>>30
やっちまったなww
みんなこの緊張感とカオスを楽しんでいたのに…
俺は離脱する!
みんな乙です(´・ω・`)ノシ
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 01:43:14.19 ID:qK5RZs9f0
>>30
696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/10(木) 01:20:38.69 ID:Bwb02y2x0
くそ・・・壁殴っちまった・・・どいつもこいつもイライラするな・・・


やっぱりお前は死ぬべきだった
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 02:03:57.17 ID:RivF0/Qr0
禍々しい空気は消え去っていた。
ふとブランコを見ると、先ほどまでとはうって変わって真新しいブランコへと様変わりしている。
視線を感じ洋館の方へ顔を向けると、塗り立ての真っ白な壁があり、綺麗に整えられた草木が目に入った。
どういうことだろうか。
感じた視線の主は緑色をした窓枠の内側に見つけることができた。
髪の長い少女だった。
目が合うと少女はゆっくりと手を招き、私はそれに吸い込まれるように近づく。


私は、この少女を知っている。


そして、少女は笑った。
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 02:04:02.69 ID:KikoPuyw0
まだ間に合う。・・・気がする。

あぁ・・・どうしよう。どうしよう。
暗い部屋の中で、私は髪を手で弄りながら必死になっていた。
髪を手で弄るのは、あせったときの私のクセだ。
小さい頃から、ずっと続けてきたものだから、24になっても
なかなか癖は直らない。
最近は、別にどうということもないし、直さなくてもいいかとも思っている。
それにしても、それどころではない。
暗い部屋の床に、両の手を置き、四つん這いになって手探りで探す。
ひんやりした床の感触が、妙に寒々しくそして不気味に鳥肌を立たせる。
無くした物は、みつかりましたか?
暗闇の向こう・・・この触っている床の向こうから声が聞こえた。
まただ・・・また、この声。
いつだって、私が苦しいときに私の手の向こうに現れ、私をあざ笑う
若く高い男性の声。紳士のように優しい言葉遣いも、私を苦しめるだけの言葉は
なんの感情の起伏も起こさせることはない。
なくしたピアスは、どこへ転がっていったのだろうか。
この暗い部屋にあるのだろうか。私の右手薬指の第二間接あたりから音が軋む。
痛みはない。音だけが響く。
この部屋の暗闇は、その音は受け取らない。どこかにある壁に反響し、何度も何度も
私の耳に入ってくる。
たまに入る日差しのカケラが、なくなった後の暗闇には白と黒とが混ざり合っている。
ピアスはない。手探りで探してもない。この暗い部屋にはないのだろうか。
目に焼きついた日差しの白が、目の前に張り付く暗闇の黒の隙間を縫い。
ふと、牛のようだと私に微笑を取り戻させた。
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 02:11:01.13 ID:Y3c0kRIt0
おぉっ!!まだ続けるのかww
みんな、無駄に文才あるから大好きww
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 02:11:43.60 ID:ZxpU7PS90
牛の笑いも、髪の長い少女の憂いを含んだ瞳も、みんな夏の空に吸い込まれていった。
私だけが残された。
気付けばいつも。
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/10(木) 03:04:31.99 ID:qK5RZs9f0
誰か続けろよ
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
みす