ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 16:58:42.77 ID:e0E4g30B0
新しく作ったから一度上げるの
いちおつ ほ
いちおつ
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 17:59:21.62 ID:zZNcF1X8O
あげ
いちおつ!
乙です
昨日夜中に投下した涼宮ハルヒの死体の続きを投下します。
9 :
涼宮ハルヒの死体:2008/06/01(日) 18:40:51.08 ID:dta3VLgAO
第二話
「あ、涼宮さん。こんにちわー」
メイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。
「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉君は?」
「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」
温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。
「そうなの。…ん?」
机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。
「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」
冗談めかして言ってみる。
「え?あぁっー、そ、それは…その…」
んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね!
10 :
涼宮ハルヒの死体:2008/06/01(日) 18:43:58.63 ID:dta3VLgAO
「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」
瞬間的に思考が凍りついた。
嬉しそうな顔したみくるちゃんが私の机にお茶を置く。
ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…?
自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。
「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ち伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」
その言葉を聞いてさらに私の嫉妬は叫びをあげる。
「そん……対……許……わよ」
「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」
聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。
「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」
机の上に置かれたお茶を思いっきり叩き落とす。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 18:46:44.81 ID:qxuyJRrPO
シエンタ
12 :
涼宮ハルヒの死体:2008/06/01(日) 18:46:55.84 ID:dta3VLgAO
ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。
「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」
泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。
「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」
自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。
「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンは私のものよ?あんたなんかより私の方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」
そして気づくと私はみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。
「あっ…」
みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。
みくるちゃんはしばらく痛そうにうめいていたがやがて動かなくなった。
13 :
涼宮ハルヒの死体:2008/06/01(日) 18:50:10.39 ID:dta3VLgAO
ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめる…
「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」
震える手でみくるちゃんをゆさぶる…
でも…ぴくりとも動かない。
「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああ!」
私の叫び声が響き渡る…
どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの…
その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。
―――――――――
乙です!
これは希望なので、無視してくださってOKですが、願わくば、規定事項が維持されますように。
乙。
だが、もうちょっと1レスに詰めれるな。
>>15 すいません…規定事項とは…?なんでしょうか?
>>16 一度詰め込みすぎで文章途切れたのがトラウマになってまして…
精進して次回からはもっとまとめるようにします。ご指摘ありがとうございます。
・1行には全角120文字、1レスには最大30行まで入るけど、全角で2048文字の制限があるから気をつけて欲しいのね。
らしい
15です。いやいや失礼失礼・・・以下は駄文です。忘れてOKですよ。
ハルヒの一人称は「あたし」なのです。また、「古泉君」ではなく「古泉くん」ですね。
もちろん、ID:dta3VLgAO 様が意図してやっている可能性もあったので、無視してOKと付け加えました。
では、失礼いたしました。
VIPは30行だから4KBの規制は引っ掛かりにくいけど、余所だと最大60行だから簡単に引っ掛かる。
そんな保守
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 20:00:09.69 ID:jXHJR6WU0
SOS団が部室に現れた蜘蛛やゴキブリを倒すSSってある?
>>18 >>20 なるほど!アドバイスありがとうございます。
>>19 あー、そういうことでしたか。原作読み直して修正します。
貴重なご指摘ありがとうございます!
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 20:18:12.56 ID:wxnUnljCO
ほ
>21
黒い悪魔(ゴキ)の話ならいくつかあるよ?
「恐怖の館」←部室じゃないです
とか「長門有希の戦慄」、「饅頭怖い」すべて、wikiにあります。
蜘蛛は、部室じゃないけど「ふぁいなるふぁんたじー」に巨大蜘蛛がでますね。
と情報と一緒に保守
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 20:34:52.13 ID:jXHJR6WU0
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 20:54:00.09 ID:jXHJR6WU0
保守
27 :
【だん吉】 :2008/06/01(日) 21:00:35.25 ID:ctmTlTyfO
ん?
ちょっとテスト
保守だよ
29 :
【ぴょん吉】 :2008/06/01(日) 21:34:39.61 ID:ctmTlTyfO
うん。ID変わったな。
保守
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 21:36:43.89 ID:cadzF9Oa0
ほしゅ
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 21:54:13.75 ID:gPiYsEEx0
age
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 22:04:41.56 ID:gPiYsEEx0
すみません、とても短いですが投下します。
2レスお借りします。
題名は「谷口と国木田の恋」
です。
33 :
谷口と国木田の恋 ◆mj1HydLja6 :2008/06/01(日) 22:06:15.19 ID:gPiYsEEx0
「まったく世の中広いな、涼宮とつきあう奴がいるとは……」
隣にいた谷口が、数人の人だかりができている方向に視線をやり、そうつぶやいた。
今日は北高の卒業式の日。空は澄み渡るほど青く雲ひとつない。淡いピンクの花びらをつけた桜の木は、その花びらを惜しげもなく舞い散らし、僕達の門出を祝福しているかのようだった。
谷口の視線の先にはキョンと涼宮さん、そして彼らとともに高校三年間を過ごしてきた長門さんと古泉くん、彼らの卒業を祝福するために駆けつけた朝比奈さんと鶴屋さんの姿があった。
「いまじゃあ涼宮も少しはおとなしくなったのかもしれないが、中学の時は本当にすごかったんだぜ。あの時は絶対関わりたくないと思ったものだ。
いまでも中学時代のダチに涼宮に彼氏ができたって話をすると、最初は『冗談だろ』と言って笑い、最後は顔をしかめるんだ。中学時代を知ってる奴なら、絶対アイツとはつきあえないわな」
SOS団のメンバーに祝福されて笑顔のキョンと涼宮さんを眺めている僕の横で、谷口は独り言なのかそれとも僕に話しかけているのか分からないような感じでそう言うと、大きくため息をついた。
キョンと涼宮さんから視線を外し、隣に視線を移すと、彼らの様子を複雑な表情で眺めている谷口の姿がそこにはあった。そんな谷口の顔をしばらく眺めていると、僕の視線に気がついたのか、こちらを向いて僕の顔を見る。
「ん、どうしたんだ国木田」
「別に、キョンがうらやましいのかなって思っただけだよ」
「ハッ、バカいうなよ、涼宮とつきあうなんざ、頼まれてもごめんだね」
谷口は両手を広げてあきれたようなポーズをとりながら、僕をおきざりにするように数歩前を歩き始めた。
再び、人だかりほうに視線を向けると、涼宮さんが、その中心で、拳を天に突き出して何かを宣言し、そんな彼女をSOS団のメンバーが拍手で祝福している光景が飛び込んできた。
周囲には、後輩に見送られる運動部のOBや、おそらくつきあっていたのであろう後輩との別れを惜しむ卒業生の姿が見受けられたが、その中にあっても、涼宮さんの姿はまぶしく輝いているように見えた。
「おい、ちょっと待ってくれ谷口」
彼女を眺めるのをやめ、前を歩く谷口に声をかけて、小走りで追いかる。
僕が追いついても、谷口は不機嫌そうな顔でこちらを見ず、スタスタと無言で歩いていた。仕方がないので、僕も谷口の隣を無言で歩くことにした。
卒業式とはいっても、僕や谷口には別れを惜しんでくれる人も、卒業を祝ってくれる人もいない。そんな風に考えるとちょっとだけキョンが羨ましいような感じがした。
そんな僕の心情を察したのか、谷口が独り言のようにつぶやく。
「しかしまあ、キョンを見ていて思ったよ。やっぱり青春には彼女がつきものだってな。まあ、だからといって涼宮とつきあうってのもどうかと思うがなあ。そう思わないか、国木田」
谷口は気づいてないのだろうか。自分が涼宮さんに惹かれているということに。
キョンと涼宮さんが仲がいいことを冷やかしたり、涼宮さんの過去の言動や行動を振り返って悪態をついてみたりするのも、自分が涼宮さんに惚れていることが原因なのに……
きっと気がついていないのだろう。だから、ふたりを見ているうちに、自分の胸のうちにあるモヤモヤとした感情にイラつきを覚えて、そういう行動に出てしまうのだろうな。
思えば、涼宮さんのことを一番よく知っているのはキョンではなく谷口なのかもしれない。キョンは高校に入学した後の涼宮さんしか知らないけど、谷口は中学時代からずっと涼宮さんを見続けてきたわけだから。
中学時代に谷口が涼宮さんを見続けてきたことは、彼の涼宮さんに対する言動や行動から容易に判断できるしね。もし仮に、僕がこのことをここで告げたとしても、谷口は絶対に僕の言うことを事実だと認めないんだろうな。
34 :
谷口と国木田の恋 ◆mj1HydLja6 :2008/06/01(日) 22:06:59.96 ID:gPiYsEEx0
「そうかもね」
僕が澄んだ空を仰ぎながら答えると、谷口は少しだけ笑みを浮かべながらいつもの提案を行う。
「だからな国木田、これからふたりで軟派に行かないか?」
「ちょっと、今日は卒業式だよ。そんな日に軟派だなんて……」
「バーカ、だからいいんじゃねえか。考えてもみろよ。このまま大学生になっちまったら、彼女もいないまま大学生活を過ごすことになりかねないぞ」
いつもと同じ様子で、谷口は独り身の空しさについて熱く語りだした。僕もいつもと同じように彼の言葉に耳を傾ける。きっと谷口の軟派は成功しないだろう。だって、彼はふたりの女性を同時に愛せるほど器用じゃないから。
「そんなこと言って何回も女の子を口説いてるけど、成功したことは無いんじゃなかったっけ」
「バカ言うな、一年の文化祭の時には彼女ができたじゃないか。他にも、ええっと……」
「なんで軟派が成功しないか考えたほうが有意義だと思うよ。成功しない軟派を何度も繰り返すよりはね」
谷口の軟派が成功しない理由、それは相手にあるんじゃなく自分の心の中にあるのに……
無意識のうちに涼宮さんと比べてしまっていること。それが谷口の軟派が成功しない理由。涼宮さんより魅力的な女性なんてそうそういるわけないからね。この様子だと、当分気づくことはないだろうな。
谷口は少しだけ戸惑った様子で立ち止まり、僕の言葉の意味を考えるそぶりを見せた後、置き去りにされていることに気づいて、あわてて僕を追いかけてくる。
「おいちょっと待て、そりゃどういう意味だ。まさかその余裕、お前すでに彼女がいるとかいうんじゃないだろうな」
「さあね」
もちろん彼女なんかいるわけがない。なぜなら、僕もふたりの女性を同時に愛せるほど器用な人間じゃないからだ。
ふと、疑問が頭に思い浮かんだ。どうして僕はこんな風に他人事のように自分の恋心を見ていられるのだろうか。自分のことなのに。
きっとそれは、自分の気持ちだけではなく、涼宮さんの気持ちにも気づいてしまったからだ。涼宮さんが好きなのはキョンだけで、ふたりの間には僕の入る余地など無いということに。
「チッ、しょうがねえ、軟派はやめだやめ。でも、ゲーセンぐらいつきあってくれてもいいだろ」
自分の気持ちにさえ気づいていない谷口と、涼宮さんの気持ちにさえも気づいてしまった僕。果たしてどちらの方が幸せだったのだろうか。比べても仕方ないか。どちらも五十歩百歩だろうからね。
「しょうがないなあ。じゃあ、つきあってあげるよ」
いつか谷口も自分の気持ちに気づくときが来るのだろうか。そのときは、傍で彼の愚痴でも聞いてあげることにしよう。
親友として、同じ女性を愛した男として。
「じゃあ、行こうか」
少々ふて腐れた表情の谷口の肩を叩き、いつも行くゲーセンの方向へと走り出した。
〜終わり〜
35 :
谷口と国木田の恋 ◆mj1HydLja6 :2008/06/01(日) 22:08:10.70 ID:gPiYsEEx0
以上です。
保守ネタなみに短いですが、読んでいただけると嬉しいです。
では、失礼します。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 22:32:47.31 ID:xKECZhNT0
いいなぁ。こういう感じの好きだわ〜
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 22:37:20.36 ID:v1utj4tJ0
お疲れ様。
切なくてよかったよ
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:00:01.10 ID:1xe7YxO0O
切ねえw
保守
39 :
【大吉】 :2008/06/01(日) 23:08:55.90 ID:heqwuvmj0
一周年おめでとう保守
>>35 GJだけど、人付き合いは長さではなくて深さだと思う…と、年寄りじみて
言ってみるw
>>35 GJ
原作でも谷口はなんだかんだいってハルヒのこと好きそうだよね。国木田はよくわからんが。
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:19:43.31 ID:jXHJR6WU0
とりあえず書いてみようと思ってしまった。
後悔はしている。
ゴキブリ嫌いな人はスルーしてくれ。
43 :
黒い悪魔とキョンの死闘:2008/06/01(日) 23:20:38.90 ID:jXHJR6WU0
それは、ある日曜の夜のことであった。
「……助けて」
「な、長門? どうした、何があったんだ」
俺はびっくりしたね。眠気も全部吹き飛んだ。
何せ、あの長門からのSOSだ。
「一体何が起きたんだ? 今どこに居る」
「日常生活に支障をきたす自体が発生した。急いで私の部屋に来てほしい」
「わかった。待ってろ長門。すぐ行くからな」
俺は相当焦った。
一体長門に何があったんだ。あんな弱々しい長門の声は初めてだ。
天蓋領域からの攻撃か? まさか、情報統合思念体が今度こそ長門の処分を決定したのか?
悪いことしか思い浮かばない。
……無事でいてくれ、長門!
俺は今までにないくらいのスピードで長門のマンションへと向かった。
何か武器を持ってくれば良かったのかもしれない。しかし、そんなことを考えている場合じゃない。
44 :
黒い悪魔とキョンの死闘:2008/06/01(日) 23:21:15.70 ID:jXHJR6WU0
「長門、無事か! 安心しろ、俺だ。敵はどこだ? 確かに俺はただの人間だが、」
「落ち着いて」
これが落ち着いていられるかよ。
「……敵は向こう」
長門の指差すほうを見て、俺は背筋が凍った。
何もない真っ白な長門の部屋に、『黒い悪魔』がいた。嫌でもすぐ分かるな、これは。
「な、なぁ長門。確かにこれはアレだが、お前の力で何とかできるんじゃないのか?」
「……不可能ではない。しかし、推奨はできない」
「そりゃまた、何でだ?」
「以前、一人で対処したが失敗、この部屋は半壊した」
ふむふむ。
『これ』が怖いとは、やっぱり長門も女の子なんだな。
「それ以降、朝倉涼子に『それ』の始末をしてもらっていた。彼女は優秀。中身が飛び出さない程度に潰し、その後の処理までしてくれた」
なるほど、朝倉も良いやつだったんだな。
「だが、もう朝倉はいない。そこで俺に頼んだってわけか」
「そう。『あれ』を見ると、エラーが蓄積する。早急に対処してもらいたい」
滅多にない長門のお願いだ。聞かないわけにもいかない。
「しかしまあ、面倒くさいものだよな。情報統合思念体の力で『こいつ』の存在を消すことはできないのか?」
「その点については、何度も試してきた。しかし、完全に消し去ることはできなかった。情報統合思念体はもう諦めている」
……おいおい、まじかよ。
ところで、どうすればいいんだろう。そう思っていると、長門は
「これを使って」
と言い、青色のスリッパを渡してきた。
ふっ、長い戦いになりそうじゃねーか。
45 :
黒い悪魔とキョンの死闘:2008/06/01(日) 23:22:01.97 ID:jXHJR6WU0
――速い。
俺が『そいつ』を叩こうとする度、『あいつ』はそれをかわす。
これは、今までで一番の長期戦だ。
気づけば俺は、汗だくになっていた。そろそろ決着をつけないと、体力の限界だ。
今まで黙って俺たちの戦いを見ていた長門が、水とタオルを渡してきた。
「貴方はそろそろ限界。無理はしないほうがいい」
「わかっているさ。次でけりをつける」
水分を補給し、汗を拭く。
深く深呼吸をする。
『お前』もそろそろきついだろ?
決着をつけようじゃないか。
「うおおお」
俺はスリッパを構え、『やつ』に向かって一直線に走った。
乾いた音が、何もない部屋に響いた。
……やった、のか?
俺は恐る恐るスリッパをどけた。
『何か』が落ちる音がした。勿論、俺にはそれが『何』なのかわかる。
「……すごい。中身は全く出ていない。私は、貴方に対する認識を改めないといけない」
俺は十枚ばかりのティッシュで『そこにあった物』をくるみ、トイレへ流した。
「疲れた。今は何時だ?」
「一時二分五十秒。……今一時三分になった」
まじかよ。俺は三時間も死闘を繰り広げていたのか。道理で眠いわけだ。
「今日はここに泊まってほしい」
「それは流石に悪い」
「お願い」
そんな顔で見られたら、断れないじゃねーか。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂く」
46 :
黒い悪魔とキョンの死闘:2008/06/01(日) 23:22:40.13 ID:jXHJR6WU0
こうして俺はその日、急遽泊まることになった。
その後、汗を流すために風呂に入ったんだが、途中で長門が入ってきた。
そこでもある戦いを繰り広げたってのは別の話だ。
一つだけ言えるのは、長門でもあんな顔するんだなってことだけだ。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:23:27.70 ID:jXHJR6WU0
いや、後悔してるって、まじで。
すみませんでした。
48 :
【中吉】 :2008/06/01(日) 23:24:52.38 ID:9CiAA043O
てく
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:28:50.19 ID:9QdqVU4qO
限りなくぬるま湯な短編ショートショートを投下。
そういえばしばらくG見てないな。
>>46 GJ!
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:36:55.60 ID:9QdqVU4qO
『涼宮ハルヒの納涼』
「ハァ………」
夏も近づく八十八夜と申しますけれどもね、八十八夜にしてはちょっと近づき
すぎじゃぁありませんか、夏さんとやら。
「…………ハァ………」
天気はハレ。文句なしに。腹立たしいくらいに。が、我らが団長様のご機嫌は
西から下り坂の模様。まぁなんだ、この暑さじゃ無理もない。無理もないが、そ
の溜め息はやめろ。これ以上空気に淀みはいらん。湿気だけで十分間に合っている。
「……どぉーしてこう毎日まいにちクソあっついのかしらねー………」
頬杖をつきながら、誰に言うでもなくボソッともらす。正確には、俺の方を向
いてはいるが。しかしハルヒよ、そいつは仮にも異性である俺に向けて然るべき
顔ではないと思うぞ。
「もう夏になりますもんねぇ」
朝比奈さんは相変わらずメイド服で絶賛奉仕中だが、見るからに保温性抜群な
恰好で健気に働く姿は、見る者の涙を誘う。
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:38:37.76 ID:9QdqVU4qO
「……みくるちゃん、そのカッコ暑くないの?」
お前が着せてるんだろうが。
「……うーん、ちょっと汗ばんできちゃいました…」
「ふーん………あたし着替えようかな。汗かいちゃったし。ってことでキョン、古泉君」
「ええ、どうぞごゆっくり。行きましょうキョン君」
「あぁーそれからキョン!」
「何だ」
「アイス」
あ?―という俺の心の呟きを、どういうわけか彼女は読み取れてしまうらしい
。全く、やれやれだ。
「ア・イ・ス。今すぐ買ってきて」
「却下。自分で行け」
「アンタ人の話聞いてたの?あたしは今から着替えるの!アンタはどうせ外に出
なきゃならないんだから、ついでに買ってこれるでしょっ!団長命令よ」
これを屁理屈と呼んだら屁にばちがあたりそうなくらいの、正真正銘の屁理屈
だ。屁さん、申し訳ない。
「そうだ!ねーぇキョン?こないだの数学のテスト、赤点回避できたのは、だー
れのオカゲだったのかしらねぇ?」
ぐっ……汚いぞハルヒ!俺は点数の良し悪しで人を評価する世界なんて心底嘆
かわしいと思ってやまない!
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:40:38.85 ID:9QdqVU4qO
「仕方ありませんよ、キョン君」
古いず……近い!ち…近いし暑苦しい!
「ギブアンドテイクっていうのが世の定めです」
「そそ。よくわかってるじゃない」
「…あのなぁ」
「みくるちゃんは?」
朝比奈さんを出せば絶対に断れないと思ったらそうは問屋がおろさんのだ。
「ふぇ…い、いいんですか?」
買ってきます買ってきます買ってきますからそんな哀れみを湛えた目で見ない
で下さい朝比奈さん。
「えっと、うーん……じゃぁ……バニラなら、なんでもいいです」
どうやら選ぶ手間を省いてくれたらしい。違うかもしれないがそうに違いない
と都合よく解釈するとしよう。あぁ、なんて出来た人なんだ本当に。それに比べ
てこのダンチョーときたら。
「あたしはチョコチップモナカ。待って!……クッキーサンドって線もアリね…
…んーん、今日はモナカ。モナカよ。やっぱりチョコチップモナカね。但しコン
ビニ3軒回ってもし売ってなかったら、クッキーサンドでもよしとするわ」
モナカはなかったことにする。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:42:22.15 ID:9QdqVU4qO
「有希、あんたは何にする?」
「………いい」
そういえば長門のやつ、いつも通り着込んでるのに顔色一つ変えてないな。情
報なんとか体には暑さ寒さの概念はないのだろうか。でもまぁ、カーディガンは
脱いでもいいと思うぞ。いや、ホント変な意味じゃなしに。
「長門、遠慮すんな。お前にだけなしってのもアレだし、何か好きなの言え」
「そうよ、ケチなキョンのおごりだっていうのに勿体無いじゃない」
「慎みたまえ」
「………小豆」
渋いとこいくんだな。
「さー行った行った!10分以内よ、遅れたら罰金!」
「いってらっしゃぁーぃ」
帰ったら我らが団長様に熱射病という危険な病気について小一時間講義してやろうと思う。
―バタン
「あっ、言い忘れていましたが僕は抹茶が」
「自分で買え!」
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:43:58.77 ID:9QdqVU4qO
―――――――――――――――
―トントン
「只今帰りました。入っても構いませんか?」
「……どーぞー……」
「ふぇ!?待ってくだ」
ガチャ
「なっ………!!!」
「…なんと」
3%くらいの確率でややもすればと予想はしていたが、本気でやってくれやが
ったのだ。おそらく「着るモノ」としては最も涼しい部類に入る服に身を包んだ
美少女が2人。なんという光景だろう。世の男子生徒諸君に問う。これは幻覚か
?否、違う。幻覚なはずはない。何故ならその2人の奥に座るもう1人の美少女
は、相変わらず暑苦しい服装でけったいな分厚い本を読み耽っていたからであるッ!
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:45:03.62 ID:9QdqVU4qO
「…ハルヒ、何だこれは」
「……見りゃわかるでしょ、水着よ……あと5分遅刻。罰金」
罰金払ってもお釣りがきてしまう程のモノが目の前に二つほどでーんとあるんだが。
「何をどうやったらこんな結論に至ったのかを俺は質問している。それに朝比奈
さんまで、あ、あさ…あさ朝比奈さ」
「……うっ……だめです……見ちゃだめですぅっ!」
KOOLになれ、キョン!
「…そうだ……キョン、あんたにいいこと教えてあげるわ………」
汗のつたう無駄に整った顔をずいっと近づけてくる。そして、例のじとーっと
した目で俺を見つめる。こいつの無遠慮さは時たま俺の心を深くえぐるのだ。駄目だハよ」
「暑い時はね……」
ゴクリ。生唾を飲むのにこんなに神経を使ったのはいつ以来だろうか。
「……どんな服着ても暑いってことよ………」
「そりゃぁ……真理だな」
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:47:39.19 ID:9QdqVU4qO
そう言うや否やパイプ椅子にくたっとへたり込んで、うーともあーともつかな
いような、何とも珍妙な呻き声を上げ始めたのだった。天下無敵の団長様は、意
外にも自然の脅威にはあっさり白旗をあげてしまうらしい。古泉、一体これのど
のあたりが神様なのかもう一度詳しくお聞かせ願おうか。
「ぅ……うぅぅ……ひぅっ……」
問題は朝比奈さんだ。このまま放置はあまりに気の毒だし、何より俺の精神衛
生上極めてよろしくない。だが……うかつに近寄れん。ある種の閉塞空間と言っ
ても言い過ぎではないだろう、何故か。それは彼女がどういうわけか学校指定の
水着、つまり「スクミズ」とやらを着用しているからである。全国数百万の男子
生徒諸君にお見せできないのが非常に残念でならないっ!
「こんなもん一体どっから持ってきたんだ…」
「……あたしの私物よ……文句ある?」
なるほど。見れば東中1年涼宮ハルヒと書いてある。……しかしなんだって寄
りによって1年の時のやつを!
しえn?
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:48:45.13 ID:9QdqVU4qO
「ハルヒ、正直俺の口からは言いたかないんだが一応言っておくぞ。お前の水着
はお前が着る為にお前用のサイズになっているわけで決して朝比奈さんの」
「うっっさいわねっ!!!みくるちゃんのおっぱいが超人サイズなことくらい百
も千も承知よ!!!ちょーっとくらい小さめサイズのほうがみくるちゃんみたい
なロリ巨乳タイプは映えるのよ!!!」
「はうぅぅ………」
オブラートよりもしっかり言葉を包めるモノ、誰かこいつに教えてやってくれ。
「………溶けてる」
「ん、何だ長門?」
「………小豆」
「え?………………!!! しまっ…忘れてた!…………うおぉっ!!!」
「あーーーー!!!こんのバカキョン!!!あんた即死刑!!!」
「んー、抹茶と迷いましたが紅茶味も案外いけますね」
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:49:24.33 ID:TyhgyiI6O
しえん
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:49:54.74 ID:9QdqVU4qO
―――――――――――――――
そんなこんなで、夏を目前に控えたSOS団のしょうもなくダラダラした一日
は幕を閉じるのである。もっとも、そう毎日波乱含みの展開が訪れてもらっても困るのだが。
ともあれ、暇潰しに延々と暇を持て余すという自己矛盾に満ちたこの生活にど
こか愛着がわきつつあるのも、また事実であった。毎日ハイキングコースのよう
な通学路を歩き、授業を受け、部室に顔を出して、何をするでもなく実に贅沢に
時間を浪費する。絵に描いたような青春とはお世辞にも言えないが、そう悪くもない。
そういう意味で、こんな過ごし方を提示してくれた我らが団長様こと涼宮ハル
ヒには、少なからず……いや、やっぱりちょっとだけ感謝の意を表したい。無論
朝比奈さんにも、長門にも、古泉にも一応。
夕方になり、涼しくなってきた。追い風に背中を押され、自転車も心なしか軽
い。帰ったら何をしようか。
……疲れたから飯食って風呂入って寝よう……
ちなみにあの後もう一度アイスを買いに行かされたのは言うまでもないっ!
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:50:24.54 ID:9QdqVU4qO
―――――――――――――――
夕暮れ、とあるマンションにて。
「あら長門さん、何か買ってきたの?」
「………(ガサッ)」
「ん?………あずきばー?」
fin
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:55:05.89 ID:9QdqVU4qO
ミスった途中切れてるわ……
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:56:40.70 ID:9QdqVU4qO
以下のくだり修正
KOOLになれ、キョン!
「…そうだ……キョン、あんたにいいこと教えてあげるわ………」
汗のつたう無駄に整った顔をずいっと近づけてくる。そして、例のじとーっと
した目で俺を見つめる。こいつの無遠慮さは時たま俺の心を深くえぐるのだ。駄
目だハルヒ、それは仮にも異性である俺に近づいて然るべき恰好ではない、断じ
てない!男としての俺が胸をときめかせても人としての俺は許さん!フロイト先
生、見ていますか。俺、頑張っています。必死に耐えています。これこそが超自
我、スーパーエゴなのでしょうか…?
「な…何だよ」
「暑い時はね……」
ゴクリ。生唾を飲むのにこんなに神経を使ったのはいつ以来だろうか。
「……どんな服着ても暑いってことよ………」
「そりゃぁ……真理だな」
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/01(日) 23:58:35.00 ID:9QdqVU4qO
ぬるま湯日常系なんでラブコメネタはありませんですごめんなさい
古泉が「キョンくん」……
アナルに来たかと思ったわwww
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 00:01:21.38 ID:qlTy0hcwO
>>67 立ち位置どうしようか迷ってそのまま変な感じになっちゃった
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 00:08:43.60 ID:y6b6ySEaO
放課後・・・
さ〜て、今日の団活は何にしようかしら?今日はみくるちゃんにメイドじゃなくてチャイナドレスでも着せてみようかな〜。
そう思いながら文芸部室めざして部室棟を歩いていると、部室のドアの前でキョンが座り込んで中を覗いているのを見つけた。
もしかしてみくるちゃんの着替えを覗いてるんじゃないでしょうね・・・
そう思ってそっとキョンの後ろから
「ちょっと、何みてんのよ、キョン!?」
と、私が声をかけると、キョンは一瞬驚いて
「うおっ、なんだハルヒか・・・脅かさないでくれ」
と言ってから、私の心を見透かすように
「別て有希の座っている机の上を指差した。何か袋が置かれている。あれは・・・
「チキンラーメン?」
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 00:10:52.05 ID:y6b6ySEaO
そう、有希の前に置かれていたのは、お馴染みの袋入りのチキンラーメンだった。
「長門が今からあれをどのように食べるか、興味ないか?」
「え、えぇ?普通チキンラーメンはどんぶりに入れて、お湯入れて、ラップして3分経ったら食べる。でしょ?」
「いや、長門は意外に凝り性だからな。鍋でにて、しっかり調理して食べると俺はおもうな」
「いーえ、チキンラーメンのもっともポピュラーな食べ方で食べるに決まってるわ!賭けてもいいわよ」
「言ったな、ハルヒ・・・よし、負けた方は今度の不思議探索で奢るんだぞ。」
「ふん、望むところよ。・・・あ、静かに!」
そこまで話した時、有希が動いた。どうやら調理を始めるようだ。私は内心ほくそ笑んでいた。ふふん、残念だけどこの賭けは私の勝ちよ、キョン。キョンは忘れてるみたいだけど、この部屋に鍋なんて無いもの。
そう思いながらキョンを見ると、キョンは驚愕の表情を浮かべていた。
え?っと思って部室を覗き直した私もフリーズした。
私の目には有希がチキンラーメンを何も調理せずにバリバリと食べているのが映っていた。
賭けの結果―引き分け
ほしゆ
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 00:17:30.69 ID:125lUGibO
みんな乙!
長門の食べ方俺と同じだ
72 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:18:46.00 ID:ZaEprhNg0
73 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:22:23.38 ID:ZaEprhNg0
「地球の自転を逆回転にしてほしい。」
ハルヒがとんでもないことを短冊に書いたおかげで、律儀にも地球は逆回転しやがった。
地球の自転をもとにもどすため俺と朝比奈さんは3年前の七夕に時間遡航した。
と、ここまではよかったのだがどうやって、地球の自転を戻すんだ。
だいたい、なぜ3年前の七夕なんだ?昨日に戻って笹の葉に短冊をつけることを断念させればよかったんじゃないのか?
朝比奈さん(大)曰く、未来の俺は、『解決法を知っているが教えられない』と言ったそうだ。
未来の俺よ。何考えてんだ。
ともかく俺はハルヒに会わなければならない。
74 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:23:55.75 ID:ZaEprhNg0
俺は東中へ向かう。
ハルヒが絵を描き終え帰るところを捕まえるため校門近くで待ち伏せるしかなさそうだ。
とにかく昨日の俺に見つかることだけは避けるべきだ。2人で隠れるより1人のほうが見つかる確率は低い。
俺は万全を期して朝比奈さんは学校から少し離れたところで隠れてもらい、1人で東中に乗り込むことにした。
東中に着いた俺は塀をよじ登り、中の様子を伺う。暗闇故に顔は見えないが2人の人影が見える。
俺は正門から少し離れた電信柱の陰に身を潜めた。
時間遡航する前、長門は俺にアドバイスをくれた。
『涼宮ハルヒとの接触は23時以降は避けるべき。』
なぜだかはしらん。しかし長門が言うのだから正しいのだろう。
長門が示した期限11時が近づく。早く描き終わってくれ!何だらだらやってんだ。俺!
時計の針が11時3分前を示した時、ハルヒが校門から出てきた。
俺は急いで飛び出す。ハルヒが角を曲がったところで追いつく。
10時57分
「待て!」
ハルヒは振り返る。
75 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:25:03.00 ID:ZaEprhNg0
「言い忘れたことがある」
「何よ」
俺はポケットから2枚の短冊を取り出す。長門が俺に手渡したアイテム。
きっとこの難題を突破する手掛かりとなるはずだ。
「これ、なんだかわかるか」
「七夕の短冊?」
「そう、短冊。織姫宛と彦星宛の2つある。知っているか。織姫と彦星はベガとアルタイルのことなんだ」
話を延ばし説得の方法を考える。
ハルヒが絵を描くのを待っている間に言うことを考えておくべきだった。
10時58分
「ベガとアルタイルは地球からら25光年と16光年もあるんだ。」
「それで」
「えーと、そうだな。あれだ。相対性理論というものがあって物質は光より速く移動できない。
よって願い事を書いたとしても織姫のもとに届くのに25年経つわけだ。だから俺は25年後と16年後の夢を書くようにしている。」
おれは2枚の短冊をハルヒに差し出す。
「これをおまえにやる。25年後と16年後の夢をここに書いて笹の葉に吊すんだ。きっと願いが叶う。」
「ふん。あんた子どもみたいね」
といいながらハルヒは2枚の短冊を受け取る。
「じゃあな」
ハルヒは振り向きもせず帰って行った。
76 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:26:24.56 ID:ZaEprhNg0
10時59分
俺はすぐに朝比奈さんのもとに向かう。
俺を見るなり心配そうな目で
「どうでした」と朝比奈さん
「まあ、なんとかなったと思います。それよりもうすぐ11時です。すぐに元の時間に戻りましょう」
こうして俺と朝比奈さんは元の時間に戻ってきた。
「今は、私たちが時間遡航をした1分後です。」
部室には誰もいない。俺はすぐさま外を見る。時刻は12時過ぎ。太陽は南にある。
ふと部室の隅に立て掛けてある笹をみると、吊るされている短冊の数が多い。全部で10枚。
俺の記憶では昨日一人一枚、計5枚のはずだが、どうやら短冊は織姫宛と彦星宛の2種類があり1人2枚書いているようだ。
ハルヒ、簡単に感化されやがって。
もうすぐ昼休みが終わる。俺と朝比奈さんは授業へ向かうことにする。
昼休みの教室にハルヒの姿はなかった。俺は谷口をつかまえ
「太陽が昇る方角はどっちだ」
「はあ」
谷口は若くして不治の病に倒れた病人をみるような目でみてきやがった。
「”東から昇って西に沈む”で正しいか」
「キョン。重傷だな。太陽が西から昇るとでもいうのか。バカボンの世界じゃあるまいし」
どうやら世界は正常に動いているらしい。
どうやら成功したらしい。俺は安堵した。
77 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:27:32.38 ID:ZaEprhNg0
授業が始まる直前、俺のよく知っている高校生のハルヒが戻ってきた。
念のため確認を取る
「なあ、ハルヒ。今日何か変わったことはなかったか。」
「変わったことって何よ」
「太陽が西から昇るとか」
「あんた。バカじゃないの。さては昨日私が短冊に地球の自転が逆回転しますようにって書いたのが現実になったんじゃないかって心配してんの。
そんなに簡単に願い事は叶えてもらえないんだから。それに昨日言ったはずよ。
特殊相対性理論によると願い事が叶うのは16年後よ。昨日今日でかなえられたらありがたみがないでしょ」
俺はそんな話、聞いていない。そもそも、それを言ったのは俺だ。
とは言わなかった。どうやらこいつはジョンスミスの迷言を信じこんでいるよう
だ。おかげで地球逆回転は起こらなかった。16年後に突然逆回転しだすかもしれ
んがそんときはそんときだ。16年後の未来まで責任は持てん。
俺はみごと地球の平和を守ったのだ。
ノーベル平和賞とまでは言わないが文化功労賞ぐらいはよこしてもそさそうなものだが、世の中は理不尽なもので、勲章の代わりにテストという魔物がすぐそこまでやってきている現実に気付き愕然とした。
78 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:28:57.75 ID:ZaEprhNg0
あれからもう1年が経とうとしている。
ハルヒは今年の七夕にも何か企んでいるのだろうか。
今から俺は光陽園公園に行かなければならない。今日学校の下駄箱に朝比奈さん(大)からの手紙が来ていたのだ。
去年の七夕の翌日に起きた地球逆回転事件の解決法を知りたいそうだ。
しかし、俺はそれを教えることはできない。
俺たちは地球逆回転を止めるため3年前の七夕にそこうし朝比奈さんがハルヒの説得にあたる。その説得が失敗したからこそ、思わね結果を招いたのだ。あの時、朝比奈さんはいきなり説得する役を任じられ動揺していた。その動揺がなければ、説得は失敗しなかったかもしれない。
過去の俺には悪いが解答は教えられない。
しえn
80 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:30:36.97 ID:ZaEprhNg0
「涼宮ハルヒとの接触は23時以降は避けるべき。」
俺は長門の言葉を思い出す。あの言葉の意味がわかったのは七夕から半年後のことだった。
なぜ11時以降はだめだったか?ハルヒは俺と別れた後、もう一度ジョンスミスと再会する。
そう、俺は長門が改変した世界を再び改変するため3年前に遡航し、ハルヒと会っている。長門は俺が未来の俺と会わないようにするためにアドバイスをしたのだ。
ハルヒが消失して俺は精神的に参っていた。その時の俺は過去の俺をみつければ、間違いなく脱出プログラムの「鍵」を教えただろう。
今の俺にとっては世界が改変された3日間もいい思い出だ。しかし、当時の俺はそうではなかった。
つらい体験を避ける方法があるなら誰でもそうする。
長門は俺に知られたくなかったのだ。
長門は自分が世界を改変することも、俺が世界再改変を行うことも知っていた。
その上で、自力で鍵を探せと言いたかったんだ。
以前俺がどうしてバグることを事前に言わなかったか聞いたとき長門はこう言った
「仮にわたしがそれを伝えたとしても、異常動作したわたしはあなたから該当する記憶を消去した上で世界を変化させるだろう。
また、そうしなかった保証はない」
しかし、それは嘘だ。本当は教えたくなかったんだ。だから、長門は俺に23時以降にハルヒと会うなと言った。
あいつだって秘密にしたいことだってある。
だから俺も秘密にすることにする。
朝比奈さん(大)に伝えることはただ一つ。
「解決法を過去の俺に教えることはできない」
江ン
82 :
涼宮ハルヒの短冊その3:2008/06/02(月) 00:31:15.33 ID:ZaEprhNg0
おわりです
ありがとうございました
乙!
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 01:10:36.24 ID:mUTVzyfEO
●<アッガーレ↑
保守
ほ
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 03:18:01.63 ID:hoDcPj6NO
ほ
ほしゅ
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 03:34:14.47 ID:RVDRtiuoO
保守
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 04:22:37.14 ID:nETyYaUzO
久しぶりに保守
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 07:41:58.55 ID:zRGlVq9AO
復活保守
よし俺は学校へ行く
お前ら保守しとけよな
その方向はしなくていいです
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 08:52:02.04 ID:5+giFGtFO
今日は休校日だ保守
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 10:02:06.60 ID:2fiOAr4+0
仕事中だ保守
流れを読まずに初SS投下。ハルキョンスレに書くはずが、完成したら古キョンになってた謎。
なげーです。ごめんなさい。
<プロローグ>
サンタクロースや宇宙人や超能力者や未来人やUMAやらUFOやらの存在を、今の俺は信じざるをえなくなってしまっている。
まぁサンタクロースとUMAとUFOについては、まだ未確認なんで保留にしておくが、一年ちょっと前の俺のように鼻を鳴らしながら肩をすくめて、それらの存在を即座に否定するようなことはできなくなっちまったってわけだ。
なにしろ、ちょいと振り返ってみれば俺の回顧録上には異常で非日常な出来事の数々がすぐに浮かんでくるわけで。あんな経験をすれば誰だって同じように考える事になると思う。まず間違いないね。
即ち『不思議なこと』なんてのは、案外身近に転がってるもんだってことだ。
特に、今日もまたどこかで世界を大いに盛り上げるべく五里霧中を前方不注意なまま東奔西走しているであろう我が団長殿――涼宮ハルヒと一緒にいれば、なおさら、な。
しかし、ハルヒのいうところの『不思議』なる存在に対して、こんなけったいな精神構造を持つにいたってしまった俺ではあるが、純粋にそれらの存在を信じていた時季もあった。
いや『信じていた』わけじゃないな。『期待』していたんだ。今じゃ口にするのも恥ずかしい形容詞ではあるが、それこそ純粋に、ね。
高台から見下ろす集落は、あの頃とは少し違っていた。間違い探しクイズみたいに左右に当時と現在の風景を並べられるわけもないから、どこがどう変わったってのを列挙できるわけでもない。
だけど、例えばあんなところに鉄柱は立っていなかったし、あそこも畑だか田んぼだったはずだし、そもそも砂利道だったところが舗装されたりもしていたり、とか。まぁそんな感じの変わり様だ。
父方の実家、つまり俺のじーさんばーさんの家がある、この山間の集落に来るのは正月以来だ。だから、そんなに時間が経ったわけじゃない。でも、この高台に最後来たのは、もう何年前のことだか思い出せないくらいだ。
小学5年生? 4年生? 確か妹が幼稚園に上がったくらいだから、多分そのあたりだろう。
俺はパノラマ的風景に背を向けると、自転車へと向かった。
「こんなに簡単に登れるようになっちまったとはなー……」
誰ともなしに独りごちる。そりゃそうだ、この高台には今誰もいないんだからな。いるとしたら虫か鳥くらいのもんだ。猿は……いないと思う、多分。
スタンドを足の外側で弾いて、この高台まで登ってきた坂道へと向かう。足下から伸びた階段付の下り坂。何メートルくらいあるんだろう? 200mくらいかね?
ガキの頃は自転車で登りきれなかった坂道。その道程の中ほどにある踊り場が、当時の俺の到達限界だったことを思い起こす。それが今日試してみたら――なんのことはない。登りきれちまったんだ。それもあっさりと。
なんとも拍子抜けしたというかなんというか……そりゃあ小学生時分と比べれば体力は比べものにならないくらいついてるだろう。それに高校生活一年間で鍛え上げられたのは忍耐力と不思議耐性だけじゃない。
校門まで続く強制ハイキングコース。あれで随分と下半身の筋力も鍛えられたってことなんだろう。
まだ妹が小さかった頃(まぁ今でも体格的にも精神的にも十分小さいが)から、この坂にチャレンジしては失敗していた。
『一度も足をつかずに、下から上まで』。
誰が決めたわけでもない俺ルールだ。田舎に来るたびに、それを達成することを最大の目的としていた。でもって結果は全敗だったわけなんだがな。
どれだけ頑張っても踊り場から先はキツくって足をついてしまう。立ちこぎしようが、助走をつけて登りはじめようがダメ。まぁ、まだ成長しきっていない身体にはでかすぎる自転車だったことも敗因にあげられるだろう。
なにしろ普通サイズのママチャリだ。一番低い位置にサドルをセットしても、つま先が着くか着かないかでプルプルしてたしな。
そもそも、この坂道は歩行者用に丸太で簡単な階段も作ってあるから、登るだけなら歩いていけば問題ない。自転車を押しながら登ることだってできる。
でも、どういうわけか当時の俺は自転車……っつーかチャリで登りたかったんだよ。なんか、ここをチャリで一気に登り切る事ができれば自分の中でなにかが変わるっていうか……うーん……ほら男ならわかるだろ?
テレビの特撮ヒーローものとかで、新必殺技とかを身につけるためにやる特訓とか。あんな感じだよ。まぁほっといてくれ、文字通りのガキだったんだからな。
で、それを数年ぶりに、ふと思い立ってやってみたら、あっさり登れちまったってわけだ。そりゃ少し息は上がったし、太腿の筋肉も脹ら脛の筋肉も張ってるし、汗だってかいた。だが、それでも、さほど苦もなく登れちまったんだ。
かといってじゃあ、あの頃考えていたような……新必殺技とかパワーアップとか新たな力とか……そういうものが身に付いたかっていうと、全然そんなことはない。当たり前だけどな。
変わった事といえば、年相応に身体がでかくなって、年相応に力がついて、年相応に普通サイズのチャリに乗れるようになった(少し小さく感じるくらいだ。ばーさんのだしな)。それだけだ。
別に、そんな夢みたいなっていうか、ガキっぽい空想世界の非現実的な変化を期待して、今日この坂道を登ったわけじゃない。ハルヒじゃあるまいし、俺には現実的な分別があるからな。
でも、ひょっとしたら、なにか自分の中に変化を感じられるんじゃないかって――少しだけ、ほんの少しだけだぞ――期待していたんだ。心のどっかでな。
「やれやれ、世はなべて事もなしってか」
また独り言。しかもまるで意味のないセリフだ。そして、そんな独り言を溜め息とともに吐き出すことで、俺の短い『過去との遭遇』と臨時帰省は終わりを告げた。
<1>
「ちょっとキョン! あんたどこいってたのよ!」
月曜日の朝一番から、俺は後ろの席の女に詰め寄られていた。
誰あろうSOS団・団長の涼宮ハルヒに、である。「びしっ!」という描き文字の効果音が見えそうな感じに突きつけられた人差し指。んで、その向こうには、これまた「びしっ!」とつり上がった眉毛。
眉間に分度器あてて角度を測ってみたいね。120度くらいか?
「どこいってたっつっても、田舎だよ。父方のな」
「はぁ? あんたそんな予定全然いわなかったじゃないの!」
そりゃそうだ。急に決まった帰省だしな。土曜の昼に学校から帰ったら、みんな出かける支度していてな。俺も制服から着替えたらすぐでかけちまったし。
「そんな急にって……なんかあったの?」
そう言うとハルヒの吊り上がっていた眉毛がストンと落ちて水平より下になった。こいつにしちゃ珍しい表情だ。突きつけた人差し指もフニャリと曲がる。俺の身内の事を心配してくれてるってことでいいのかね。
でも別に大層なことがあったわけじゃないんだ。じーさんが畑の木から落っこちて、腰を打ったって電話があったらしくてな。そう遠いわけじゃないし一家総出で見舞いに行ったってわけだ。
「そ、そう……で、でも、そういうときは一言連絡をよこしなさいよねっ」
怒るのか心配するのかどっちかにしてくれ。大体なんでお前に俺の身内の健康具合をいちいち報告せにゃならんのだ。
「そうじゃないわよ! 日曜は市内パトロールするつもりだったのに何回かけても電話がつながらなかったから言ってんの!」
あーそりゃスマンかったな。土曜に家をでたときにケータイの充電がもう切れそうでな。夕方には残量ゼロで電源切れてたんだ。充電器も持ってきてないし、特に急な連絡が入る予定もなかったんで、そのまま放置してたんだ。
「あんたって、ほんっと使えないわね! コンビニとかで電池使って充電できるのとか売ってるじゃないの!」
なんで俺がそんな余計な投資をせにゃならんのだ。家に帰れば充電できるのに。
「団長からの電話がすぐにつながらないなんて、とんでもない重罪だわ。大体こまめに充電しておかないのがいけないのよ! いーい? キョン! SOS団の雑用係として、常にケータイはフル充電しておきなさい!
わかったわね! 次同じ事があったら、罰金よ罰金!」
へいへい。
「で……どうなのよ?」
言いたい事を一通り言って落ち着いたのか、すとんと自分の席に腰を下ろしたハルヒは、さっきまでの激怒テンションとは打って変わった表情で尋ねてきた。
どうって、なにがだ?
「あんたのお祖父様の具合よ!」
ああ、じーさんね。まぁ腰を強く打ったってだけで骨にも内臓にも異常はないらしい。さすがに身体を起こそうとすると顔をしかめてたけどな。検査も兼ねて、ちょいと入院って感じだな。
「そう、それならよかった……ってこともないけど、命に別状がないのはなによりね」
ほっとしたように微笑むハルヒ。コイツがこんな表情を見せるようになるなんて一年前は考えもしなかったよな。といっても、他の連中――つまりSOS団員だとか、クラスでいえば阪中だとか――。
そういうハルヒと、そこそこに関わった人間以外には、こんな表情を見せる事はないんだろうとは思うけどな。
そう考えると、なんというかこう、得した気分っていうか……ハルヒはハルヒで、この一年間で大人になったんだなっていうか……うん。
「心配してくれてありがとな。ハルヒ」
ハルヒの気遣いに素直に感謝した俺は、思わずそのままを口に出してしまっていた。
そして目の前で、なぜかぼーっとした表情で心なしか頬を赤らめて俺を見ているハルヒに気づいて、なんとなーく後悔した。そうだな、今朝食べた目玉焼きには醤油じゃなくてソースをかけるべきだった……っていう程度の後悔だがね。
しかし、そんな冷静な俺とは真逆に、ハルヒは妙にあたふたしはじめている。おまけに顔は真っ赤だ。なんだかしらんが耳まで赤いぞ。どうしたんだお前?
「ど、どうしたんだはあんたでしょ? ちょ、ちょっとキョン! あんたホントにキョンなの?! ニセモノなんじゃないの?!」
なにがどうなったらそんな風に考えられるのか、お前の頭の中を覗いてみたい様な気がしないでもないが、それはたとえ実現できたとしても遠慮しておくとして、だ。お前こそなに言ってんだ? 俺は俺であって俺以外の何者でもないだろうが。大丈夫か?
「そっ……そりゃ、そうだけどっ……だっていつものキョンはそんな風に……」
そんな風に、なんだよ?
「なんでもないわよ! ほら岡部きたわよ!」
強制的に椅子を90度回転させられて話を打ち切られる。おいおい力づくかよっていうか、お前やっぱり力あるよなー。
「うっさい!……まったく……」
ホームルームがはじまってからも、ハルヒはずっと何事かをブツブツ言っていた。時折そのブツブツに「……キョンのくせに……」とか「……絶対おかしいわよ……」とかいうセリフが入っていたのが気にはなったが、まぁ触らぬ神に祟りなしってヤツだ。
俺は気にしないことにした。藪を突いて出てくるのは蛇だけとは限らないからな、こいつの場合は。
昼休み。俺は声をかけてきた谷口と、なんかしらんが俺をジト目で見ているハルヒに「ちょっと行きたいところがある」とだけ言うと、弁当を持って教室を抜け出した。少しばかり確認したいことがあったんでね。
行く先は、というと我々団員が習慣のように引き寄せられる文芸部室……ではなく、俺が目指したのは校舎の屋上だった。扉を開けると、まだ生暖かい風が顔に吹き付けてくる。ぱっと見回したところ先客はいないようだ。
俺は柵の側まで行くと校門側を見下ろす。校門の先に続くのは強制ハイキングコース。で、さらに下には俺たちが住む街が広がっている。
「なるほど、ね」
誰にともなく呟くと、俺は柵に背を向けて座り込んで弁当の包みを広げ始めた。
「おや、珍しい」
顔を上げると屋上への扉から古泉が見慣れたニヤケ面が顔をみせていた。手には購買の紙袋を持っている。中身はパンかなんかだろう。
珍しいのはお互い様だろうよ。
「そうでもないんですよ。僕はときどきここで昼食をとるものですからね。開放されているとはいえ、あまり生徒が来る事はありませんし、ここでなら上級生と昼食を一緒に食べていても不自然ではありませんからね」
そう言いながら、例の曖昧な笑みを浮かべながら近づく。
「ご一緒させていただいても?」
勝手にしろ。お前の言い分じゃ、ここじゃお前の方が常連みたいだしな。
「では、お言葉に甘えさせていただいて」
隣に腰をおろした古泉は、紙袋を開けると中からサンドイッチを取りだしてラップの包みを破きはじめた。
「聞かないんですか?」
なにをだ?
「上級生と昼食、ということについてですよ」
ああ、そんなもん聞くまでもないだろ。お相手は例の二重人格の生徒会長様だろ? お前んとこの関係者だか協力者だかの。
「ははっ、さすがに一年も付き合いがあると、話が早いですね」
まぁな。それにここなら、さして人目につくわけでもないしな。表だってお前と会長が繋がってるってのが広まると、それはそれで問題なんだろ?
「まぁ確かに。思い切ってつまびらかにできる関係ではありませんね。今のところは。ただ……」
ただ、なんだ? お前の持って回った話し方は一年経っても、かわらんな。核心だけを話せよ。
「これは失礼。いや、どうもあの偉大な先輩は、僕を次期生徒会役員に推薦しようとしているようなんですよね……困ったものです」
別にやりゃあいいじゃないか。SOS団の副団長なんて立場より、よっぽど実利がありそうじゃないか。悔しい話だが女子票なら結構集められるだろうしな。お義理で俺も一票投じてやってもかまわんぞ。
「貴方に高評価をいただけるのはありがたいのですが、それではミイラ取りがミイラに……ですよ。それに僕はSOS団副団長という立場の方が、生徒会役員よりもよっぽど重要に思えますしね」
そりゃ奇特な価値観だな。同意はしかねるぞ。
「そうですか? ですが僕にはバイトもありますしね。生徒会などという責任ある立場になったら、そうそう電話一本で抜け出す、なんてこともできなくなります」
まぁ、そりゃそうかもしれな。
俺は卵焼きと白飯を同時に口に放り込みながら、古泉がサラっと放った「SOS団副団長職には特に責任が伴わない」ともとれる、ハルヒが聞いたら眉毛の角度が上がりそうな問題発言を聞き流した。
「それに朝比奈さんのお茶も味わえなくなりますし……貴方とのゲームもできなくなりますしね」
サンドイッチを缶コーヒーで流し込みながら言った古泉に目を向けて、俺は、ちょっとだけ顔を綻ばせる。
そうだよな。なんだかんだいって、こいつも「あの部屋」が好きなんだ。“機関”の任務だとかなんだとかもあるだろう。
ハルヒの監視とご機嫌取りっていうのが、コイツの任務であり、最初はコイツもその目的のためだけに部室に引っ張り込まれた事を了承していたんだろうが、今は違う。
あの雪山でトンデモハウスに閉じこめられたときに、こいつが言った言葉。俺はそれを信じているし、それ以上に今ではこいつが『仲間』であることを信じている。
これもまた、この一年で大きく変化したことなのかもしれない。いや、成長ってとこか? まぁどっちでもいいか。
「そう、だな」
そんなわけで、俺は古泉の意見に同意を示した。途中で唐揚げを口に放り込んだのは、ちょっとした照れ隠しだ。ほっとけ。
だが、唐揚げの旨味を口中に感じていると、視界の端に古泉がチョココロネを口に持っていこうとしたまま硬直している姿がひっかかった。
どうした、購買のおばちゃんがパンを間違っていれてたのか? ちなみに俺はチョココロネは太い方が頭だと思ってるぞ。
「い、いえ。ちょっと……その、意外だったものですから」
ん? なにがだ? お前は細い方が頭派か?
「いや、その……なんでもありません」
そう言うと古泉は、俺でいう頭側からガブリとチョココロネに噛みついて、口の周りに盛大にチョコをくっつけた。なにやってんだお前? と突っ込むと、あわてて口を押さえてポケットをまさぐりはじめる。
おいおい落ち着けよ。大丈夫か、なんかキャラが違うぞ。あとチョコが頭からはみ出しそうなときは、尻尾をちぎって、最初のチョコを塗って食べるという手段もあるらしいぞ。
「め、面目ありません……」
いいから口拭くか食べるか喋るかどれかにしろよ。お前のファンの女子が見たら、大喜びするか幻滅するかの二択みたいになってるぞ。まぁ誰も来てないみたいだけどな。
古泉は口元をティッシュで拭きながら、いつものように曖昧な微笑を浮かべてようと努力しているようだった。一体なんだっていうんだろうね。
<2>
放課後、掃除当番という強制労働任務を済ませてSOS団アジトである文芸部室のドアをノックすると、中から「はーい」と、語尾に四分音符か星印のついた返事がかえってきた。
ああ、この声を聞くだけで心も体も癒されるぜ。この部室に回遊魚のように来てしまう悲しい習性も、この癒しの為と思えばどうということもない。断言できる。
そんな事を考えながらドアを開けると、部室にはメイド姿に着替えた朝比奈さん、そして窓側の指定席には既に本を広げている長門の姿があった。
あれ? ハルヒと古泉はまだなのか? 古泉は知らんがハルヒは俺より先に教室を出たはずなんだがな……。
「あ、涼宮さんと古泉君なら、さっき二人で『ちょっと出てくる。すぐ戻るから』って言って……」
へえ。珍しい組み合わせですね。ハルヒのやつ、またぞろなんか思いついて古泉に無茶言ってなけりゃいいんですけど。
「あは。でも、そういう感じではなさそうでしたよ?」
手際よくお茶の支度をしながら笑う朝比奈さん。
ふーむ。それならそれでなんなんだろうな。ここじゃ話せないことなのか? まぁなにかあるならあるで、戻って来ると同時に大本営発表があるだろうさ。
俺は朝比奈さんから湯飲みを受け取ると、冷ますまでもなく飲み頃のそれに口をつけた。
あー美味い。なんといえばいいのか、この愛らしい上級生は、高校三年生にして、そこいらの社長秘書に匹敵するくらいの、お茶煎れ技術を身につけたのではないだろうか。
いや、俺は社長秘書の煎れるお茶を飲んだ事もないし、そもそも社長秘書なる役職がお茶煎れのプロフェッショナルなのかどうかも知らんのだが。
「うふふ。誉めてもおかわりくらいしかでませんよ? あ、クッキーがあったかなぁ?」
ぱたぱたという擬音が似合いすぎるほど似合う仕草で、茶葉の容器やらポットやらが収納された、俺名称『朝比奈ゾーン』に向かうメイドエプロンの後ろ姿に微笑みながら、俺はもう一口で一杯目のお茶を飲み干すと、窓辺の宇宙人に視線を動かした。
今度は何を読んでいるんだろうか。声に出して尋ねてみる。
「……」
無言の返答と共に、読みかけの本を胸の前に持ち上げて背表紙を見せる。珍しく文庫本だが、分厚さには変わりがない。
どうやら原書じゃないようだが、目をこらして見ると、なにやら無慈悲な女王様がどうこうとか、相変わらず内容が想像できないようなタイトルだ。どうやら古いSF小説らしい。
長門はそういうの好きだよな。いつだったか貸してくれたのもそうだったが。お前が何十年も前の地球人の想像した宇宙の話を読むってのは、なんかこう不思議な感覚だけど、楽しそうに色々な本を読んでる姿を見ると安心するよ。
「……どうして?」
んー……特に理由はないんだけどな。お前がそうやって本を読んでいられる間は大抵の事は大丈夫っていうかさ。なんとなく、だ。その内、オススメの本があったら俺にも紹介してくれよ。ただし俺でも読めそうなヤツでな。
「………………」
いつもより長い沈黙の応答と数ミリあごを引いてみせる肯定の仕草に満足する。
だが長門。なんでお前『ぱちくり』って感じの顔してんだ? いや、お前の表情の変化は俺にしかわかんないかもしれないがさ。
「……別に」
そか、まぁいっか。すまんな読書の邪魔しちまって。
「……いい」
「たっだいまー!」
朝比奈さんが注いでくれた二杯目のお茶を飲もうとしたところで、ハルヒが部室に戻ってきた。後ろに古泉もいるな。さてはて何を話してたのやら。
部室に入ってきたハルヒはつかつかと俺の横に来ると腕を組んで一息つき、それから意を決したように言い放った。
「キョン! あんたに聞きたい事があるの。ひょっとしたら話し辛いことなのかもしれないけど、団員の状態に気を配るのも団長の役目だからね。そういうわけだから正直に話しなさい!」
どういうわけだかわからんし、藪から棒になんだってんだ。クッキーならお前の分もあるみたいだぞ。食うか?
「違うわよ! あ、みくるちゃんありがと。あんふぁの様子ふぁ変な理由よっ!」
ものを食べながら話すんじゃありません。行儀の悪い。それに俺の様子が変ってなんだよ。なんにもありゃしないぞ?
俺は対面側の定位置に座った古泉に「なんなんだこりゃ?」と視線で呼びかけたが、ヤツは頭をかきながら曖昧な苦笑を返すだけだった。ええい役に立たんヤツめ。
「朝からちょっと様子が変だし……聞けば昼休みは屋上にいたっていうじゃない。しかもそこでも様子が少しおかしかったって……」
今度はジト目で古泉を睨む。おかしかったのはお前の方だろうが。チョコを口の周りにべったりつけてたくせに。
「だから……なんか、あんたが悩んでるんじゃないのかって古泉くんと話してたのよ。朝あんたからお祖父様が木から落ちて入院したって聞いてたし……ねぇキョン、本当に大丈夫なの? あんたなんか隠してるんじゃないの? あたし達にできることない?」
俺は目の前でくるくると表情を変えるハルヒに当惑していた。つまり、なんだ。さっきまで古泉と二人でどこぞで話してたってのは、俺の様子がおかしいってことで、その原因を色々考えた結果、最終的に俺に直球の疑問をぶつけてみることにしたってわけか。
あーハルヒよ。とりあえず落ち着け。じーさんのことは今朝話した通りだぞ? それ以上でもそれ以下でもないし、第一俺は別におかしくないし、なにかがあったわけでもない。
「でも、入院したんでしょ……?」
そりゃ入院くらいするだろう。もう還暦越えて長いしな。でも今朝も言ったが、骨にも内臓にも異常はない。入院したのも大事を取ってってだけだ。ばーさんもついてるしな。
「むー……じゃ、なんなのよ、今朝からのあんたの態度は!」
なんなのって言われてもなあ。別になにかおかしかったか? っていうか朝の話なら様子がおかしかったのはハルヒの方だろうが。
「あっ、あれは! その……あんたが……へ、変な顔してありがとうとかいうから……」
お前ね。人が感謝して礼を言ったってのに、それを変な顔呼ばわりとは、ちょっと失礼じゃあないか?
「だ、だって……! そっ、それに昼休み突然屋上にいったじゃない! あんたのお弁当食べようと思ってたのに!」
何を図々しい事をサラっと言ってやがる。自分の弁当を食え自分のを。足りなきゃ学食か購買にいけ。人の弁当を盗み食いしようとするな。それに屋上に行ったのだって、たまたまだ、たまたま。ちょっと確認したいことがあってな。
「うるさいわねっ!……って、確認ってなにをよ?」
んー……。
俺はちょっと考え込んでしまった。屋上に確認しにいった事ってのは、田舎のあの高台からの眺めと学校の屋上からの眺めを比較したかったからだ。
なにしろ小さな集落の小山だしな、標高何メートル、なんてデータがあるわけじゃないから、どのくらいの高さなのかわからない。
だから学校の屋上からの眺めと比較してみようと思ったわけなんだが。
まぁ違う場所の違う風景だから比べようもないわけで、我が校のハイキングコース分の標高+校舎の高さでは、圧倒的にこちらの方が高かったということぐらいしかわからなかったんだがな。 実にマヌケな話だ。
そんなことを説明しようかどうかと悩んだ挙げ句、俺の脳内会議は全議席数の90%を越える得票数で「めんどくさい」という結論に達した。
まぁ別に。大したことじゃないからな。すぐに済んだし。気にすんな。
「っきー! そういう言い方されたら余計気になるっていう人間心理がわっかんないのかしらねー! だいたい雑用その一のくせに団長からの質問に応えないなんて、これは反逆罪よ! ちょっとみくるちゃん! コイツに自白剤入りのお茶飲ませて!」
「ええ〜? そんなのないですよぅ〜!」
こらこら朝比奈さんまで困らせるな。っていうか朝比奈さん、なんで茶筒やら道具やらをごそごそ探してるんですか。心当たりでもあるんですか。
「まぁまぁ涼宮さん。そんなに問いつめては彼もかえって意固地になってしまいますよ。ここは一つ搦め手から攻めてみてはいかがでしょう?」
古泉、余計な事を言うな。まぁ言ったところで、こいつには搦め手から攻めるなんてことできるわけもないが。っていうか搦め手ってなんだっけ? どこの手だ?
「そうねぇ……」
ハルヒはアゴに指を当てて思案顔でいたが、やがてなにか思いついたのか、悪戯をひらめいた悪ガキのような表情で笑って……っていうか、今のこいつは「そのもの」だ。
おい、なんだ。背後に回って何する気だ? 怪しい動きをするな! 古泉、弁護士を呼べ! 俺には黙秘する権利があるはずだっ!
「残念ながら……」
諦めるのが早すぎるぞ古泉ぃ! わざとらしく十字を切るな! お前クリスチャンじゃないだろ! っていうか法治国家じゃないのかここは!
「雑用係に人権も黙秘権も蟷螂拳も蛇鶴八拳もないわっ! さー吐きなさいっ!」
そう言うやいなや、ハルヒは俺の両脇腹に指を突き立ててきた。身をよじって逃げようとするが後ろから覆い被さられてはそうもいかない。
ちょっ! やめっ! いたっ! アゴで鎖骨をぐりぐりするなっ!
「やめて欲しかったら吐きなさいっ! でないと次は覚えたての経絡秘孔を突くわよ! 最終的は喉仏をクルミみたいに割るくらいまでやるわよっ! さー吐きなさい!」
先週末にコイツが何を観たかわかるな。影響されやすいヤツめ。お前そんな趣味があったのか。っていうか痛いしくすぐったいしやめろ! あと喉仏潰したら喋れるものも喋れなくならないか?
ええい、お前が週末に観た香港映画には『よい子は真似するな』のテロップがなかったのか?!
「うるっさい! さっさと喋んなさいっ! さもないとー……」
そう言うと脇腹を攻めていた右手が、ぬーっと顔の前に上がってきて、なおかつ喉元に迫って来る。その様子を見て、さすがの俺も無駄な抵抗をやめた。いや、別にこいつの殺人技を本気で怖れたわけじゃないぞ?
ただ、その、なんだ。どっちかというと背中にのしかかられた密着状態が色々とナニだったからだ。長門がなんか新種のミュータントでも見つけた様な目で見ているのも気になったしな。うん。
あと朝比奈さん。その手に持ってる見覚えのない容器はなんですか? まさか探し当てたんじゃないですよね。その……未来的な自白剤っぽいなにかを。朝比奈さん……?
<3>
「とまぁ、そういうわけなんだ」
ハルヒに開放された俺は、田舎であった事から昼休みの屋上での事までをかいつまんで説明した。ちなみに朝比奈さんが持っていたのは別に自白剤入りのお茶でもなんでもなかったようだ。
色々助かった。セーフ。いや結局全部話してる時点でアウトなんだがな。
しかしなんだね、こういう自分の過去の遊びっていうか、なんていうか、そういうのを話すってのは気恥ずかしいもんだな。だから話すの躊躇ったんだがな。
「実に興味深い話ですね。それに少々共感するところもあります。もっとも僕の場合は自転車で坂道を登ろうとしたわけではありませんが……子どもの頃に挑戦していた事はありますよ」
へぇ、なんか意外だな。そういうのとは無関係っぽいようなイメージがあるっていうか、ガキの頃からなんでもスマートにこなしてそうっていうかさ。
「そんなことはありません。ごく普通に少年期を過ごしてきましたから、テレビのヒーロー達のように難関を乗り越えて何かを身につけようと考えて無茶な事をしたりもしましたよ」
古泉の場合、前に住んでいた街の公園の木に登って、色々な高さから飛び降りたりしていたそうだ。忍者にでも憧れてたのか?
「ふふっ、そんなところです」
いつもより屈託のない笑顔で応える。こいつにもこんな顔ができるんだな。
「ですが、ある時、着地に失敗して足をくじいてしまいましてね。親に原因を話したりはしませんでしたが、なんとなく察されてしまったのでしょう。二度とするなと、酷く叱られまして……それで僕の秘密特訓は終わってしまったわけです」
まさかその数年後に、息子が忍者じゃなくてエスパーになるとは親御さんも思っていなかっただろうな。古泉のお母さん、あなたの息子さんは変態空間限定ではありますが、最近は赤い光球になって空を飛び回ったりしてます。
とりあえず足の捻挫の心配はなさそうですよ。場合によっちゃもっと酷い怪我をしそうではありますが。
「なるほどねー。古泉くんもそんなことしてたんだー。ふーん……なんか男の子は、そういう想い出があっていいわねぇ」
意外といえばこいつの方が意外だったな。てっきり「そんなわけのわかんないことでセンチメンタル気取ってたなんてバッカじゃないの?!」くらいのことを言われると思っていたんだが。
初めから終わりまで興味深そうに聞いた上で、この反応だもんな。本当にこいつの思考回路はわからんな。
「そうですねえ。少年時代の夢っていうんでしょうか……うふふっ、なんか可愛いですよね! その頃のキョンくんや古泉くんに会ってみたいなぁ〜」
朝比奈さん、誉めていただくのは非常に嬉しいんですが、あなたがそう言うと若干洒落にならなさそうで、そこはかとなく不安です。あ、でも4年前までしかいけないんでしたっけ。
「涼宮さんも活発な少女時代が想像できますが、なにかそういう事をなさったりはしなかったんですか?」
古泉が水を向けるとハルヒは少し考えた後に応えた。
「そうねぇ、色々秘密特訓はしたけど、あんまり身体を使うのはやんなかったわねぇ。スプーンを念力で曲げようとしたり、時間移動の方法を考えたり、あと宇宙人を呼ぶ方法を考えて試してみたりとか、そんなところね。あたしは肉体労働向きじゃないのよ」
ハルヒは、あはは、と快活に笑ったが、部室内には微妙な空気が流れた。朝比奈さんも古泉も微妙に顔が引きつっている。長門は……なぜか俺の方を見ていた。
視線が重なると4年前の七夕に出会った、眼鏡をかけた長門の姿がフラッシュバックする。まぁこいつはハルヒのお試しUFO召喚で呼ばれたわけじゃないんだがな。
「まぁ俺の場合は、秘密特訓ってわけでもないんだけどな。そういう空想を投影して遊んでたってなだけでさ。
で、それがこないだやってみたら、あっさり登れちまったもんで、なんとなーく拍子抜けっていうか……年取ったっつーか、成長したんだなーって、少ししみじみしてただけさ」
両手を挙げて肩をすくめてみせる。と、同時に口に出して初めて気づいた事があった。
どうやら俺は本当にしみじみしていたようだ。そうか、しみじみ、ねえ。うーん、しみじみってのがどんな感覚なのかよくわからないが、なんとなく違う気がしないでもない。
もう少し噛み砕いていうとなんだろうか。がっかり? さみしい? なんかネガティブ過ぎる気もするな。でも当たらずとも遠からずって感じがしないでもない。
ガキの頃は登れなかった坂、そこを登ってみたら、なにもなかった。だからがっかりしたり、さみしくなったりした? うーん。どうだろうか。
フフフ…支援
そもそも「なにもなかった」ってのもどうなんだろう。そりゃ物理的になにかがあるわけじゃないだろうさ。歩いて登ったって自転車で登ったって、そこにあるものは同じだ。そんなことはガキの頃からわかっていた。
ハルヒが週末に観た映画じゃあるまいし、登った先の高台に怪しげな白髭のお師匠さんがいて秘伝の書をくれたりするわけもない。第一そんな空想をしていたわけでもないしな。
じゃあ一体。俺は、自転車であの坂を登り切った先に、一体何を求めていたんだろう――。
「ちょっとキョン。聞いてるの?」
ん? ああスマン。ちょっと思考の迷宮に入ってた。
「なにいってんだか。どうせあんたの迷宮なんてスタートからゴールまで一直線でしょ! 人の話はちゃんと聞いてなさいよね!」
随分な言われ様だな。俺の脳内迷宮は渡り廊下かよ。っていうか、それは最早迷路でもなんでもないじゃないか。いくらなんでも、もう少し複雑だと思うぞ。で、なんだって?
「あんたの田舎って遠いのかって聞いたのよ」
田舎? そう遠くはないぞ。それでも親の故郷という意味の田舎以上に田舎だがな。
「ふーん。日帰りできそうなの?」
ああ、こないだは泊まってきたが日帰りできないこともないだろうな。急行で一時間半でローカル線に乗り換えて四駅二十分ってとこだ。そこからはバスな。大体二時間半っくらいか?
「そう、じゃあ決まりね!」
へ? なにがだ?
「今週の土曜日はあんたの田舎に行くのよ!」
……なんで?! 今の話の流れからどうやったらその結論に辿り着くのかわからん。お前の思考の迷路は途中にワープゾーンとかあるんじゃないか? 何面か飛ばしてないか? 大丈夫か? 途中のアイテムとかちゃんと揃えてるのか?
「お見舞いよ、お・見・舞・い」
そんな噛んで含んだように言い聞かせんでも、それぐらいの日本語は知ってるぞ。だが、お前が見舞いに行く理由がないだろう。そもそもじーさんだってその頃には退院してるかもしれんし。
「あら、それならなおさらじゃない。お見舞いが快気祝いに変わるわね!」
いやいやいや、快気祝いにかわったところで、お前がそれをやる理由がないって言ってるんだぞ俺は。ちゃんと人の話を聞いてるか?
「そんなの団長が団員の家族に気配りするなんて、当たり前のことでしょ!」
いや、お前はそれでいいかもしれんし、最悪俺もその理由に納得したとしよう。だが相手、つまり俺のじーさんやらばーさんには、まるで意味がわからないと思うぞ。
「キョンくんが小さい頃に遊んでたとこですかー……えへっ、ちょっと気になりますねっ」
ああ、朝比奈さん。そりゃ俺だって貴女を「将来の嫁さんです」とかいって親戚に紹介できたらどんなに嬉しいでしょう。でも今回はそういうことじゃないんですよ? 下手にハルヒを煽らないでください。
「いつもの街から出ての不思議探索、なんていうのもいいかもしれませんね。彼の話では随分と自然の多い場所のようですから。ひょっとしたら面白いものがみつかるかもしれませんし」
黙れ忍者のなりそこないめ。くっそー……ああ、お前はそういうやつだよな。忘れてたわけじゃないんだが、さっきのガキの頃の話に少し共感なんぞもっちまったから、目が曇ってたみたいだ。
頼むから煽らんでくれ。そもそも田舎っつっても極普通の田舎だぞ。変な伝説もないし、河童のミイラもないし、天狗の団扇もないし、謎の双子の老婆もいないんだ!……多分な。
「それもいいわねえ! さっすが古泉くん! で、やっぱりお見舞い品は花かしら? それとも果物とかの方がいいかしらね?」
「……見舞い品は嵩張らず匂いなども少ないもののほうがよい。花束は定番だが匂いの好みなどもある。飾る場所や花瓶などを用意する必要もある。
よってこの場合は不向き……見舞う相手の好む果物などを詰め合わせにしたものなどが最適。果物ナイフがセットになっているものなどが便利……」
「そっか! じゃあ、やっぱり果物ね! キョン! お祖父様の好きな果物ってなに?!」
ああ、じーさんならリンゴとかが好きだが……じゃなくって! 長門ぉー! お前まで裏切るのか! 俺の田舎なんかなんもないんだぞ? それより図書館に行ったりした方がいいんじゃないのか? せっかくの休日なんだぞ?
「先週借りた本をまだ読み終えていない……だから図書館には行かなくていい。返却は二週間後。大丈夫、リンゴを剥くのは得意」
うう、そっか……俺が連絡つかなかったから先週末は休みになったんだよな……ってリンゴ剥くって、そんなことしなくていいんだって! 見舞う気まんまんじゃないか!
「僕もリンゴの皮剥きには、ちょっと自信がありますよ?」
古泉、お前は巻物でもくわえて黙ってろ。ついでに煙と共に消えてもいいぞ。俺が許す。よかったな、免許皆伝だ。
「じゃ、決まりね! 日帰りだから朝はちょっと早い方がいいかしら? あ、そうだ! みくるちゃん! 有希! 前の晩に集まってお弁当つくらない?」
「わぁ〜いいですね〜! そしたら電車の中でお弁当食べられますよね!」
「かまわない」
「じゃ、有希の家に集合でいいかしら? そのまま泊まって朝出発ってことで。いい? 有希」
「いい」
「じゃ、当日は朝ごはん食べないで集合ね! 時間は8時! 果物は金曜の放課後に買いに行きましょ!」
……どうやらそういうことになってしまったらしい。一体なんだって言って、ばーさんに説明すりゃいいんだ? やれやれ……。
<4>
そろそろ顔中の筋肉が悲鳴を上げそうだった。なにしろ今日の俺は朝からずーっと、そう、それこそずーっと薄ら笑いやら苦笑いを浮かべっぱなしだったからな。古泉、今ばっかりはお前を尊敬するよ。そのニヤケ面のコツを今度教えてくれ。
「僕のこれはクセみたいなものですから、コツなどはないんですけどね」
そう応えて笑う古泉。まったくよく言うよ。
俺たち、つまりSOS団の五人は、今俺の田舎である集落へと向かうバスの車内だ。
それでも朝の集合から電車に乗ってる間は、幸せに笑っていられたんだ。なにしろ朝比奈さん特製のクラブハウスサンドイッチに朝からありつけたわけだからな。
ああ、語弊と後の苦情が無いように言っておくと、もちろん朝比奈さんだけが作ったワケじゃない。SOS団の女子達が腕を振るってくれたサンドイッチというべきだな。
気が進まない旅路とはいえ、朝から美味いメシにありつけるというのは嬉しいもんだ。十五分前に到着したのに遅刻扱いの罰金刑を喰らったのは、この際大目にみてもいい。
飲み物五人分で1000円未満程度で済んだわけだしな。いつもの喫茶店奢りに比べりゃ安いもんだ。
だが、病院最寄り駅に到着したことを、ばーさんのケータイに告げてからは苦笑のオンパレードだった。そもそも週末の予定が決まった日の夜に、ばーさんに電話をしたときから話が微妙に変な方向にいきそうだったからな。
百種類くらいのエクスキューズを考えてから電話をしたわけだが、実際話そうとすると、やっぱりばーさんに対して繕いようもなく、じーさんの見舞いがてら友達と一緒に遊びにいきたいんだけど、と正直に告げるたわけだ。
しかし、それを聞いたばーさんは、それじゃあ御馳走を用意しなくちゃいけないね、布団は必要かい? とかなんとか盛り上がりだしたので、まずはそれを断ったりするので一悶着だった。
それにしても、ばーちゃん「じーさんなんかほっといても平気よぉ! ムスっとしたのがいなくてかえってせいせいするわ。部屋も広く使えるしねぇ」はないだろ。
しかも電話を終える間際に「で、どんな子なんだい? お嫁さん候補は」なんて、含み笑いしながら言うもんだから、誤解と誤りと誤認をただすのに、また一悶着だ。まったく、元気だしいつまでも若いのは嬉しいが、場合によっちゃ困りもんだよな。
支援
「やっぱり血の繋がりってあるんですねぇ〜。キョンくんのお祖父様、やっぱり面影がありますもん! キョンくんもおじいさんになったら、あんな感じになるのかしら? うふふっ」
確かにばーさんや親戚やら集落のご近所さんなんかには、よく「似てきた」って言われますけどね。本人としちゃ、よくわかんないです。でもじーさんよりは愛想があると思いますけどね。
「うふふっ。でも優しそうなお祖父様でしたね〜。お祖母様も素敵だし!」
どこがですか。いや、じーさんが優しくないわけじゃないですけど、ずっと無愛想だったじゃないですか。今日もずーっとブスっとしてたし。まぁいつものことなんですけどね。
「身内じゃわかりにくいこともあるのかもしれませね。うふふっ」
はぁ、そんなもんですかねえ。
俺はまた曖昧な笑みを浮かべる。ああ、頬の筋肉が痛い。
孫が見舞いにやってきたのはともかく、そこに四人もツレがいたんで、何事にも動じないじーさんも、さすがに面食らってたな。おまけにその四人中3三が女だったもんだから、余計に驚きもしたんだろうさ。
ばーさんはといえば、病院の玄関前で合流したときからハルヒ達を見て大喜びだったしな。古泉のニヤケ面に「まー若い頃の初恋の人にそっくりだわー」なんて手を握ったりして、テンション上げすぎだって感じだったからな。
まぁ、あの時の古泉のツラは、ちょっとした見物だったな。ポーカーフェース的ニヤケ面も年の功には敵わないってこったろう。
そんなこんなで随分と賑やかな見舞いになっちまったわけだけど、むすっとしながらも、じーさんの口数が普段より少し多かったのは、やっぱり賑やかなのが少しは楽しかったのかもしれない。
といっても先週も賑やかだったんだけどな。入院なんて形で環境が変わると、じーさんでも心細いもんなのかもしれないな。
でも喜んでくれたんだろうっていうのは、わかりにくいじーさんの表情以外の形で俺のポケットに収まっていた。病室を出る前に、じーさんが俺だけを呼び止めて渡してくれたのは折りたたんだ紙幣だった。
「村にゃなんもねーから、帰りに美味いもんでも喰え。一人で使うなよ」
なんて言ってな。なんだよ、じーちゃん。これじゃ小遣いもらいに来たみたいじゃないか。まぁ帰りは夕飯時になるだろうから、その時にでもありがたく使わせてもらうけどさ。でもじーちゃん、これ全部使ったら結構豪勢な晩飯になりそうだぜ?
ちなみにばーちゃんからも病院前からバスに乗るときに「お昼にジュースでも買いなさい」って漱石さんを二枚ほど渡されている。そんなわけで、夕方まで病院にいると言うばーさんと別れて、俺たちは集落に向かうバスに乗り込んだってわけだ。
「で、あとどれくらいで着くの?」
隣に陣取ったハルヒが、俺と朝比奈さんの会話終わりに尋ねてきた。えーと……あと二・三十分ってとこかな。俺はバス停の名前を確認しながら応える。
「ふーん。しっかし聞いてた以上の田舎よねー。二時間くらいしか移動してないのに、こんな風景が広がってるなんて意外だわー」
だから言っただろ。田舎以上に田舎だって。今更ブツブツ言うなよ。
「バカね。別に文句いってるわけじゃないわよ。あたし、こういうの嫌いじゃないし」
ちょっと意外だぞ。ハルヒはなんとなく都会っ子のイメージがあるからな。
「まぁ確かに、あたしには田舎っていう田舎があるわけじゃないからね。縁がないのよ。だから、こういう風景にちょっと憧れてたところもあるのよ。ほら、あのアニメみたいじゃない? 女の子二人とでっかいおばけの」
ああ、言われてみりゃそうかもな。
俺は頭に巨大な猫のバスの姿や、コウモリ傘をさしたトロールの姿なんかを思い描いて、口元を綻ばせた。
駅近くの病院から集落へと向かう路線バスは、ちょっとレトロな内装だ。口悪くいえばオンボロ。そのバスの一番後ろの5人がけを占領したSOS団は、思い思いに窓からの風景を楽しんでいるようだった。
あの長門までが、今は本を開かずに窓の外に視線を泳がせている。こいつは4年間、イベントの時以外はずっとあの街にいたわけだから、違う場所の風景が珍しいのかもな。
「これは期待できるかもしれませんね、涼宮さん」
「そうね! どう見てもカッパや天狗の一匹や二匹いそうだわ! それに田んぼの方も要注意ね! くねくねしてる変なものが見えたら、すぐに教えなさいよ!」
いねーよ。それにくねくねってのは見ちまったらヤバいんじゃないのか?
「あのぅ、くねくねってなんですかぁ……?」
えーと……見ると気が触れるとかいわれる、なんでしょうね。化け物なのかな? 田んぼとか畑の中にいて、カカシかと思ったら、なんかがくねくね動いてるとかっていう……まぁ取るに足らない都市伝説ですよ。
「ひえぇぇ……なんか怖いですぅ……」
こらハルヒ。お前が余計な話ふるから朝比奈さんが縮こまっちゃったじゃねーか。
「大丈夫よ、みくるちゃん! くねくねなんて見つけたら、そのままとっ捕まえて文化祭のライブでバックダンサーにしちゃうんだから!」
こいつならやりかねないが、やめとけ。観客の生徒達が次々ぶっ倒れたらどーすんだ。
「じゃあ、呪わないように契約書にサインさせるわ!」
お前は悪魔かなんかか。大体、この村の関係者でお前に巻き込まれる被害者は俺だけで十分だっつーの。平穏な村を不当に脅かすな。
お前が期待を膨らませると、冗談抜きで俺の田舎が奇妙な伝説やら事件の舞台になりかねないからな。見舞い品は果物だけで十分だぞ。騒ぎも事件もいらんからな。
さて、バスに乗り続ける事数十分。昼飯時が近づいてくるころになって、バスはようやく路線終点近くの集落に到着した。冷房の効いた車内から出ると、突然熱気に包まれる。暦はとっくに夏を過ぎて秋に入っているのに、未だに残暑の日差しがキツい。
「ねーキョン、暑いわー……喉も渇いたし……」
朝から喋りっぱなしだからだろ。自業自得だ。もうすぐ着くから我慢しろ。ばーさんが飲み物と昼飯用意してあるって言ってたからな。
よろず屋前のバス停から連れだって歩く俺達。なんか自分の田舎への道をツレを先導して歩くってのは、実に妙な感覚だ。自然に歩調が早くなってくる気がする。照れくさいっていうか、なんていうか……わからんな。
だけどイヤな気分じゃないことは確かだ。その証拠に今俺の頬の筋肉は自然に緩んでるしな。
「適当にそこいらに座ってくれ。荷物があったら、こっちの部屋に」
縁側の掃き出窓を次々と開け放ちながら言う。湿気と温度が充満していた室内の空気が一気に動き出して、ようやく一息つく。ふう、こりゃ夏と変わらんな。
「ねー! 玄関開けっ放しでいいのー?」
ああ、田舎はな。別に盗るものもないし、第一この集落はみんな顔見知りだからな。
「へー。あたしらの街じゃ考えられないわね」
「地域コミュニティ自体が、自然と自警的な組織になっているんでしょうね。その分余所者が警戒されるという閉鎖的な環境にもなるようですが。ある意味では理想的なセキュリティかもしれません」
もっともらしく聞こえるが、まぁ田舎特有なアレだ。暢気なだけだよ。お前は難しく考え過ぎだ。
「わあー! 縁側は涼しいんですねぇ〜!」
そうですね。風が通るし、日陰ですからね。それだけで温度差が出来るから涼しく感じるみたいです。おい長門。本広げるならもう少しこっち来なさい。そこはもう少ししたら陽があたるから、暑くなるし目にも良くない。ほれ座布団。
支援
「ありがとう」
あれ? ハルヒはどこだ?
「キョーン! スイカがあるわよー!」
あぁ? あいつどこ引っかき回してんだ? こらハルヒ! 人の家をあんまり漁るもんじゃないぞ!
俺はぶつくさ言いながら声の方向に急いだ。土間を抜けて勝手口から外へ。井戸の前でしゃがみ込んでいるハルヒを見つけると、腰に手をあててお説教しようと構える。
「すっごくおっきい! わ、冷たい! すごいわね! おいしそう!!」
だが嬉しそうにスイカをつついたり、スイカの浮かんだ井戸水に指をいれたりして喜んでいるハルヒの後ろ姿をみると、どうにも説教する気が薄れてしまう。
ふむ。朝からばーさんが冷やしといてくれたのかもしれないな。メール入れて確認してみるから、OKだったら後で喰おう。
「うんっ! 楽しみ!」
一ヶ月くらい前に見た満開の向日葵みたいな笑顔で振り返るハルヒを見て、俺は眩しいものを見た様に目を細めてしまう。この調子なら今日は不思議探索だなんだとか言い出さないで、平和に済みそうだな。
俺にとっちゃ当たり前のもんでも、こいつにとっちゃ、そこかしこにある全てが物珍しいだろうからな。不思議探索どころじゃなくなるだろう。
そんな事を考えた俺は、なんとなーくハルヒの頭をぽむぽむと撫でてやりたくなって手を伸ばしかけたが、
「ひゃあぁぁぁぁ〜! キョンくん! キョンくん! ハチが、おっきいハチがあぁぁ〜! ふえぇぇえ〜!」
という朝比奈さんの悲鳴で我に返り、その場からダッシュで居間へと向かった。ええい! 朝比奈さん! 暴れたら刺されますよ! 慌てず騒がず避難してくださーい!!
<5>
ばーさんが用意しておいてくれた昼飯は、たっぷりとジャコ節が浮いた麺つゆと、大量の素麺だった。井戸水を沸かして麺を茹で、冷たい井戸水でしめて、氷をたっぷり浮かべた大鉢に山盛りに盛りつける。
ところどころ混ざった薄い緑や赤の食紅のついた麺は「あたり」だ。といっても特になにがあるわけじゃないんだけどな。それでも、それを狙ってしまうのはなんでだろうね? まぁ主に狙っていたのはハルヒと俺だけだったんだが。
そういえば長門は今日の今日まで素麺を食べた事がなかったみたいだ。箸ですくい上げようとしては大半をつるりと落としてしまう。
箸に残るのは数本。それを麺つゆにつけて、ちゅるりと食べては、また同じ事を繰り返す。健啖家のコイツにしちゃ食が進まないなと思って聞いてみたら、どうもうまく箸の力加減ができないらしい。
確かに強く掴めば素麺は切れてしまうし、緩けりゃこぼれ落ちる。うどんやそばと違って絶妙な角度と力加減が要求されるからな。
そんなわけで長門の分は俺がひょいひょいと取ってやっていたのだが、その中にちゃんと赤やら緑やらの麺をいれてやったのは、ちょっとしたサービスだ。
まぁ入れた端から長門の口の中にあっという間に吸い込まれていったんで気づいていたかどうかはわからんがね。わんこそばならぬ、わんこ素麺状態だったぜ。結局、素麺も追加で茹でたしな。
食後のスイカを食べ終えて涼んでいると、ハルヒが食卓の楊枝入れから数本を引っ張り出して印をつけようとしている。おいおい、まさか不思議探索とやらをするんじゃないだろうな。
「あったりまえじゃない! なんのために来たと思ってるのよ?」
いや、じーさんの見舞いに……って、まぁいいか。でもチーム分けなんかして平気か? 狭い集落だからそう遠くにいかなきゃ大丈夫だろうけど、みんな土地勘もないわけだし、迷ったりしないか?
「ケータイの電波も届いてるし、合流するには事欠かないでしょ。あそこのバス停に戻ってくればいいし」
いや、村の中は結構入り組んでるぞ。なにしろちょいと道を外れれば、どこも似たような田んぼと畑と山だしな。電波だって、どのあたりから届かなくなるかわからん。
「うーん……じゃ、五人で動く?」
思案顔とアヒル口の中間みたいな表情のハルヒに、それが一番なんじゃないかと言おうとしたところで、古泉が口を挟んだ。
「その件なんですが……申し訳ありませんが、僕は午後別行動を取らせていただけないでしょうか?」
こりゃまた珍しい。どうしたんだ?
「いえ、お恥ずかしい話なんですが、僕はご存知の通り古いゲームや玩具などが好きでして……こちらの二つほど手前のバス停近くに、ちょっと気になる佇まいのお店をみかけたものですから……」
ああ、なるほど。あそこの玩具屋のことか。ガキの頃はよくお年玉やら小遣い持ってチャリで行ったもんだな。確かにあそこになら、お前の好きそうな古いゲームとかあるかもしれんな。なにしろ俺の記憶じゃ、品揃えごと十年以上時が止まってるからな。
「ええ、こう、お宝のにおいがプンプンと……ダメでしょうか?」
ハルヒに視線を移す。古泉が自分の意見を願い出るなんて珍しいことこの上ない。よっぽど見に行きたいんだろうな。
「あのう、それでしたら私も……」
え? 朝比奈さんもですか? あの店に?
「あ、それとは違うんですけども……その、ちょっと手前の街道沿いに、小さくて可愛い喫茶店があったでしょう? あそこに紅茶葉ありますっていう看板がでていたの。ちょっと気になるなぁって」
「ああ、それでしたら僕の行きたいお店と同じバス停ですね」
「うーん。不思議探索に来たっていうのに、二人ともお買い物したいのぉ?」
ハルヒはちょっと考え込んでいる。機嫌が悪くなったってわけでもなさそうだが……。
「いえいえ、ちょっと覗くだけですよ。それにその後はしっかり不思議を探すつもりです。ねぇ? 朝比奈さん」
「え、あ、はい! そのつもりですぅ」
「もーしょうがないわねぇ……。じゃ、有希とキョンとあたしだけってことでいいかしら?」
縁側の日陰で文庫本を読んでいた長門に問いかけると、長門は本から顔を起こして、少し考える様な仕草(まぁ俺にしかわかんないかもだが)をしてから、こいつも意外な言葉を言った。
「私も、いかない」
「えぇー? なんでよ有希?」
「ここには沢山の本がある。特に学校にも図書館にもない、古い時代の本が数多くある。彼の祖父の蔵書には現在の出版流通からは失われたものも多い。とても興味深い。できれば午後はここで本を読ませて欲しい」
確かにじーさんの蔵書は、数こそそんなに多くはないが、古い全集なんかもあるし、物持ちがいいというかなんというか、じーさんの若い頃の本なんかもあるんだよな。歴史小説と推理小説なんかがメインだが、長門が興味をもつとはね。
「それに……留守番が必要」
長門は俺に視線を合わせて、そう続けた。そりゃお前が留守番してくれてりゃあ世界中のどんな警備保障より安心セキュリティだろうけどもな。
俺の眼を見つめる黒曜石の様な瞳には珍しく強い意志を感じる。心なしかキラキラ光ってるんじゃないかってくらいだ。うーん、こりゃ説得するのは無理だろうな。諦めろハルヒ。
「もー……じゃあ、あたしとキョンの二人だけってこと?……まぁいいわ。じゃあ集合場所はここでいいかしら?」
意外な事にあっさりと折れたハルヒは、危うくその存在理由以外の用途で生涯を終える寸前だった楊枝を容器に戻しながら言った。
てっきり不機嫌になるかと思ったら、そうでもないようだ。まぁいつもの市内から場所を移したせいかもな。みんな珍しいこと言い出してるし。
「それでも構いませんが、どうでしょう? 彼の秘密特訓場所で再集合というのは」
ああ、確かにあそこなら集落のどこからでもわかるしな。でも長門はどうする? 留守番でここにいるんだろ?
「鍵を渡してくれれば……大丈夫、戸締まりは得意」
そりゃ構わんが、ばーさんが帰ってきて入れなくなる様な戸締まりはするなよ? 余計なところは閉じなくていいんだからな? 空間とか空間とか空間とか。
「……わかった」
俺がポケットから鍵を取りだして渡すと、長門は自信と決意に満ちた表情(もちろん俺にしかわからん)で頷いた。まぁ任せといて大丈夫だろ。
「じゃ、決まりね! 集合時間は……そうね、4時にしましょうか。帰りのバスは6時台ってとこかしらね?」
それくらいの時間帯で乗れれば、まぁ地元には10時前には余裕で着けるだろうな。
「そう! じゃ早速出発しましょ! 行くわよキョン!」
それから俺は、庭先に出て全員に高台の場所を教え、朝比奈さんと古泉を見送ってから、ハルヒと二人で納屋に向かった。
まずは、ばーさんの自転車を引っ張り出す。こいつが今日の俺とハルヒの足だ。
午後になってますます日差しが強くなってきていたので、古い麦わら帽子も引っ張り出してハルヒに被せる。ばーさんが昔使っていたもので、かなりくたびれた農作業用のものだ。
ハルヒは、そのオシャレとは程遠い実用一辺倒のデザインにぶーぶー言っていたが「日射病にでもなってもらっちゃ困る」と言い聞かせると、なんとか大人しく従ってくれた。よしよし、郷に入りては郷に従うべきだからな。ちゃんと被っておけよ?
さて、次は俺だ。奥の戸棚から白い手ぬぐいを引っ張り出すと、それを被って端を頭の後ろで縛る。これだけでも結構な日差し避けになる。
ついでにタオルを首にひっかければ、首の後ろへの直射日光もガードだ。もちろん汗拭きにも使えるし一石二鳥ってわけだ。
ガキの頃から田舎で遊びにでるときには、じーさんかばーさんに、必ずこの装備をさせられた。おかげで一度も日射病だのなんだのになったことはない。効果覿面ってやつだ。
ハルヒの首にもタオルをかけてやって、出かける準備は完了だ。
お互いの格好を見て、ちょっと笑ってしまう。
「あはははっ! キョン、なんかあんた、どっかの悪ガキみたいよ?」
なんとでもいえ。お前だって麦わら帽子のアゴヒモ締めたら、立派な農家のねえさんだぞ。草刈り鎌とかが似合いそうな感じだぜ?
「ふふん、なんとでもいいなさい! さーて! じゃあ、あんたの村の不思議探しに出発よ!」
自転車の荷台にまたがったハルヒは、そう高らかに宣言すると俺の肩をバンバンと叩いた。おいおい俺は馬車馬じゃないぞ。
「いけー! キョン号出発進行ー! ハイヨー!」
だから馬じゃねーっての。やれやれだ。
縁側に大量の本を積み上げいる長門に見送られて、俺とハルヒの二人乗り自転車は出発した。不思議なんかあるわけもないんだがね。
それからの時間は、さすがにちょいと疲れはしたものの、なかなかに面白い時間だった。
俺の後ろではしゃぐハルヒは、時速10キロほどで進む視界の中に気になるものを見つけると俺の肩をパンパンと叩いては興奮した子どもの様な声で「キョン! あれなに? あれは?」などと聞いてくる。
その度に俺は、あれは農耕用水路の水量調節施設だとか、あれは新型のビニールハウスだとか、あれは農薬用のタンクだとか、家畜小屋だとか、旧街道の道祖神だとか、お社の宝物殿だとか、そんなことをいちいち説明しながら、自転車で集落を駆け回った。
不思議なことにハルヒがいちいち気にして説明を求めてくる様々なオブジェクト達は、俺がガキの頃――そう、超能力者やテレビヒーローや宇宙人なんかの存在に、まだ『期待』をしていた頃――に空想を投影していたものだった。
当時の俺にとって、ダム施設は悪の秘密結社の秘密基地だったし、ビニールハウスは怪人製造施設。農薬タンクは悪の組織の最終兵器の毒ガスのタンクで、家畜小屋は傷ついたヒーローが隠れる場所。
道祖神の後ろには秘密の暗号が書いてあって、宝物殿にはヒーローのパワーアップアイテムが隠されている――そんな空想をしていた。そこ、笑うなよ。誰だってガキの時分は似た様なもんだろ?
ファファファ…支援
そんなわけでハルヒに『現実』を説明する度、俺の脳内にはそうした過去の空想が甦ってきて少し苦笑してしまう。
でも、それは決してイヤな感覚ではなく、ちょっと恥ずかしいような、そしてちょっと誇らしいような、そんな感覚だった。我ながらよくわからんのだがね。
一通り集落を回り終えた頃には、陽が少し傾きかけていた。バス停そばのよろず屋に自転車をとめた俺は、ハルヒに店先のベンチに座って待つように促してから店に入る。
「くださいなー!」
そんな言葉を口に出してから、慌てて口に手をあてる。ガキの頃じゃあるまいに俺はなに言ってんだろうね。懐かしい場所をまわったせいか、ちょっと精神がタイムトリップしちまったみたいだ。いかんいかん、もう十六だぞ俺。
「はいはーい……あらまぁキョンちゃん! こないだも来てたのに、どうしたの?」
ここでもあだ名で呼ばれる俺。まぁそもそも田舎(ここ)で伯母さんが言い出したことだしな……従兄弟どもとここに来ても「キョン兄ちゃん」とか呼ばれてるわけで、まぁ仕方ないっちゃ仕方ないんだが。
それにしても「キョンちゃん」はちょっと……なぁ。
苦笑しながら、じーさんの見舞いがてら高校の友達と日帰りで遊びにきたなんていう事情を話しつつ、年代物のアイスボックスから白とピンクのアイスを取りだしてポケットの小銭で代金を払う。
「外の子がそうなのかしら? あらあら、こっちみてるわよ? 急いであげなさいな」
そう言われて振り返って外を見れば、ハルヒがジト目で俺を睨んでいる。あの顔は「なにアンタだけ中で涼んでんのよ」って感じだな。急いだ方がよさそうだ。
俺は、おばちゃんの「可愛い子じゃないのー! 大切にしなさいよ!」なんていう言葉に曖昧に返事をしながら慌てて外に出た。おばちゃんの言う意味とは違うが、ハルヒを大切にしないと、俺の命も大切にできなさそうだからな。
「悪い悪い。ガキの頃から知ってるおばさんなもんでな、少し話しこんじまった。で、どっちがいい?」
白と赤のアイスを掲げてみせる。アイスといっても甘い色つきジュースが細長いチューブの中で凍っているだけのものだ。先端には吸い口がついていて真ん中から半分に折る事もできる。
そう、いわゆる一つのチューチューアイスってやつだ。口に出して名前をいうと、どうして気恥ずかしくなるんだろうね?
「んー……両方!」
はいはい。こいつはそういうやつなんだよな。食いしん坊将軍め。だが俺はどっち? って聞いたんだぞ?
「だって暑いし喉かわいたもん! それにどっちも食べてみたいし! あんた自分のは新しく買ってきなさいよー!」
我が儘娘め。奢りが当たり前だと思ってやがんな? でも二本いっぺんにはダメだ。冷たいもんをいっぺんに食うと腹壊すからな。昔からチューチューアイスはおやつに一本って決まってるんだ。これは我が村では厳格なるルールだぞ。
そう言うと、アヒル口になりそうなハルヒに、とりあえず白を一本渡してから、手持ちの赤を捻って真ん中から2つに分けた。吸い口のついている方をハルヒに渡して、持たせていた白を取り上げる。
そして白も捻って半分にしようとしたのだが、なかなかねじ切れない。時々あるんだよな、これ。
じれったくなってきた俺は、折り曲げた真ん中の部分を口につっこんでで、犬歯をひっかけて噛み傷をつける。ええい、ポリエチレン容器の分際で人間様に抵抗しようとは。この不届き者め! 大人しく分断されやがれ!
数十秒の闘いの後、俺の鋭い牙によって傷をつけられたチューチューアイス(白)は無惨にも切り裂かれ、その屍を二つに分かたれた。俺は戦果に満足しつつ吸い口が着いている方をハルヒに渡す。
妹や従兄弟どもと遊ぶ様になってから、すっかり習慣づいたのだが、チューチューアイスは吸い口付の上半分の方が、その分だけ量が多いのだ。微々たる差なんだけど、それを年少者に譲るのは、兄として当然のことなのだ。
まぁこいつはタメなんだが、一応今回はお客さんだしな。
「どーした? 溶けるぞ?」
俺は赤い方を口にくわえたまま、ハルヒに促す。
どういうわけかわからんが、コイツは白い方を手に持って凝視したまま固まっているのだ。なんだなんだ? 両方食べたいとかいってたのに。喰えばいいじゃないか。
「あ、う、うん……」
少し悩んだような素振りを見せてから、ハルヒはまず赤を口にくわえて容器ごと噛み砕いてシャーベット状にしてから一気に吸い出して食べるという、豪快かつ、なにげに通な食べ方をした。ふむ、なかなか知ってるじゃないか。
だが、赤を食べ終えると、またぞろ白の容器とにらめっこを再開するハルヒ。なんのつもりかしらんが、早く食べんと溶けるぞ。
すっかり吸い出し尽くされたポリエチレン容器を店先のごみ箱に放り込むと、ハルヒのケータイが鳴った。
にらめっこ相手をあわてて持ち替えて、ポケットからケータイを出そうとしたのだろうが、持ち替えた時に既に溶けていた中身が容器から盛大に溢れてハルヒの左手を濡らしてしまった。まったくなにやってんだか。早く喰わないからだぞ。
あわあわしているハルヒの手からチューチューアイスだったものを取り上げ、とりあえず電話に出る様に促す。
「もしもし、あ、古泉くん? え、もう上にいるの? みくるちゃんも一緒?」
どうやら二人は店に行った後、直接高台に行ったようだ。まぁバスに乗らないでも歩ける距離だしな。それにしても朝比奈さん、あの階段ちゃんと登り切れたのか。ちょっと心配だったんだが。まぁ古泉が手伝ったのかもしれんけどな。
「あ、うん。え? こっち見えてるの? へえ! おーい! あ、見える? こっちからは見えないなー」
なにやら立ち上がって手を振るハルヒ。高台からなら確かに見えるかもな。っつーかお前の手についたジュースが俺に飛んできてるっつーの。
俺はハルヒから取り上げたチューチューアイスだったものをくわえて一気飲みすると、ハルヒの首からタオルを取り、ぶんぶん振っている手を掴むとベタベタになりはじめているそれを拭いてやる。
あーあ、こりゃ濡れタオルで拭くか、手を洗わないとダメだぞ。
ん? どうしたハルヒ?
見ればハルヒは電話を持ったまま俺の口元を凝視してワナワナと震えている。「涼宮さん? もしもし、もしもーし」という古泉の声が電話からかすかに漏れ聞こえてくるが、当のハルヒには聞こえてないようだ。おーい、どうしたんだ?
「あ、あんた、それあたしのでしょ! なにやってんのよ!」
仕方ねーだろ、こぼすお前が悪い。両手塞がってたら拭けないだろうが。っつーか拭いてもらっといて、その態度はなんだ。礼の一つもいいやがれ。まぁアイスが欲しいなら特例でもう一本買ってやってもいいぞ? もう飲み干しちまったからな。
「……うー……もう!」
なんだか知らんがハルヒは顔を赤くして唸っている。うーむ……そんなに食べたかったのか。にらめっこしてたのは溶けるの待ってたのかもしれんな。まぁ確かに飲み干しちまったのは悪かった。よし、もう一本買ってやるから許せ。
「バカキョン! 早く買ってきなさい! それと、もうみくるちゃんも古泉くんも高台にいるんだって! 有希も向かってるらしいから、急ぐわよ!」
やれやれ、食い物の恨みは怖ろしいね。
<6>
どこかでひぐらしがカナカナと鳴いている。俺の目の前には「あの坂」。
俺は自転車にまたがってそれを見上げている。坂の頂上で大きく手を振っているのは朝比奈さんだ。さすがに小さくしか見えないな。隣に古泉もいる。おいおい、なんだその買い物袋は。ちゃっかりお宝発見してきたってわけか?
ガキの頃の限界到達点だった、坂道半ばの踊り場には長門が立っている。そして俺の後ろ、つまりばーさんのチャリの荷台には、相変わらずハルヒが乗っている。
数分前に集合場所に到着した俺とハルヒは、高台へと続く上り坂を見上げていた。
「キョンくーん!」
いついかなる時も癒しを与えてくれる愛らしい声で、上から呼びかける朝比奈さんに手を振り返す。
「古泉くんよ、電話かわれって」
俺に新しく買い与えられたチューチューアイスを吸い口からゴージャス一本食いしながら、肩越しにケータイを渡すハルヒ。
なんだ?
「今、朝比奈さんと涼宮さんとも話していたんですけどね。どうでしょう? 貴方が先日達成したという自転車でのヒルクライムを見せてはいただけませんか?」
はぁ? なんだって突然そんなことをしなくちゃいけないんだ?
俺は坂の上にいるはずのニヤケ面を睨み上げる。ちくしょう、ここからじゃ見えないけど絶対にニヤニヤしてるはずだ。
「ふふっ、そもそも今回の旅のきっかけは、貴方がここでの目標を達成したことで、ちょっとした変化を僕たちに見せたことに端を発するんです。貴方自身はどうやらお気づきではないようですが……。
ですから、旅のしめくくりにそれを見てみたい、ただそれだけのことですよ」
わけがわからんぞ。大体、登ったところで何も変わらなかったっていっただろうに。
「そうでしょうか? 少なくとも涼宮さんと僕は、そうは考えていませんけどね」
まぁいい。どうせこれ以上は水掛け論になるだけだからな。それはともかくとしても俺は午後の間中、ずーっとハルヒを乗っけてチャリを漕いでたんだぜ。
その上でこの坂をチャリで登るってのは、さすがにキツい。無駄な体力も使いたくない。そういうわけだから、お前の提案は却下だ。
「おやおや、それは意外なことを。少年時代の貴方は半分までしか登れなかったのに、今の貴方は楽々と登れてしまい拍子抜けしたと仰っていたじゃないですか。
ならばそれくらいの疲労は、ちょうどいいハンデじゃないですか? 達成感が倍増するかもしれませんよ?」
なんだお前、ひょっとして挑発してるのか?
「そうかもしれません。なにしろ少年時代の僕は『秘密特訓』を断念してしまいましたからね。成長して再挑戦した結果、軽々と達成してしまい拍子抜けした……そう語った貴方に嫉妬しているのかもしれません。
いや貴方がうらやましくもあったんですよ。そして今日、現場に来てみて思った事を正直に言わせていただければ、本当にここを登れたのか、とも思ったんです。実際大した勾配ですからね」
挑発するにしても随分安い挑発だな。そんなもので俺が動くとでも思ってるのか? 熱さでやられたんじゃないか?
「いえいえ、僕は至って正常ですよ。確かに安い挑発です。だからこそ乗ってください。なんなら賞品をお出してもいいですよ? 来週の学食3回分くらいでいかがでしょう?」
俺はなんとなく身体のどこかに熱を感じ始めていた。それは古泉の持って回った言い方から伝わってくる事に対するガキっぽい苛立ちであり、そしてガキっぽい血の熱さだ。
「涼宮さんも期待してるんですよ。先ほど、貴方に電話を変わってもらう前に『こんな坂を本当に登れるのか』と仰っていましたからね。言葉尻だけをとらえれば疑うような口調でしたが……おわかりでしょう?
ああ、それともう一つ。その意見と期待は朝比奈さんもです。おそらくは長門さんもでしょうね」
見上げれば、さっきまで踊り場にいた長門は、さらに階段を上がっていた。俺の視線に気づいたのか、ちょっとだけ振り返って俺たちを見下ろすと、またすたすたと階段を登っていく。上で待つってことか。
古泉よ。安い挑発を重ねるのはよせ。核心だけを話せと、いつも言っているだろう?
俺は身体の中に拡大していく、どこか懐かしい熱を感じながら、古泉から決定的な一言を引き出そうとしていた。なにを熱くなっているんだ、と言いたい俺も頭のどこかにいたが、どうやら熱に打ち負かされちまったらしい。
「ではリクエストにお応えしましょう。『登れるもんなら登ってみろ。お前の根性見せてみろ』……いかがですか?」
一瞬だけだったが電話の向こうにいるのは、ニヤケ面のポーカーフェイスをまとった長身の同級生ではなく、忍者に憧れるこまっしゃくれた顔の少年だったような気がした。もちろんガキの頃の古泉会った事などないのだが、俺はそう感じたんだ。
自然に口元に笑みが浮かんでしまう。
「よし……目にものみせてやるぜ。学食3食分だな? チョココロネもつけろよ」
「お待ちしています。チョココロネの件も了解です。入手しづらい人気商品ですから、こちらも覚悟を決めておくことにしましょう。ああ、もちろん涼宮さんは乗せたままですよ? それもまたハンデとしてちょうどいいでしょう?」
そういうと電話は切れた。おいおい。最後の最後でハンデ追加はズルいだろ。まぁ……こっちもハナから、そのつもりだったんだけどな。
俺の背中で、チューチューと音をたてながら、すっとぼけてアイスを吸っているハルヒにケータイを返す。
「ハルヒ」
「んー? なによ?」
「けしかけたのお前だろ? っつーか最初っからお前の仕込みか?」
「なーんのことかしらね?」
鼻歌交じりにとぼけた応えを返してくる。まったくコイツときたら……。後ろの席の悪戯っ子は、上にいる忍者くずれと同様に、きっとニヤニヤしているに違いない。
まぁいい、ハルヒの体重がなんぼなのかは知らないし、その数字を本人に聞くなんていう恐ろしい真似もできないが、午後一杯乗せてまわった感じでは、別段重いとも感じなかった。
だがこの坂が相手ともなれば、前回に比べてそこそこ以上のハンデになるだろう。
しかし挑発されて、それに乗った以上、そんな言い訳は通用しないし必要もない。
「ハルヒ」
「んー? なーによ?」
数秒前と同じやりとりに、ハルヒは若干苛立ったような返事をかえす。言外に「早く登りなさいよ」ってな声が聞こえてきそうだぜ。
でも俺はそれを聞き流しながら右手にペッと唾を吐きかけると左手と擦りあわせ、
「しっかりつかまってろよ!」
そう叫ぶと坂道に向かってペダルを力一杯踏みこんだ。
「きゃあっ! ちょっ! ちょっとキョン!」
後ろのハルヒが急発進に慌てて声をあげつつ腰に手を回してくる。よーし、それでいい。いっくぞぉ!!
勾配角度が強くなる前に、俺はがむしゃらにペダルを高速回転させた。勢いのままに未舗装の坂道に乗り上げる。ヒルクライムのスタートだ。
前輪が持ち上がると同時に、立ち漕ぎにシフト。
ペダルの一踏み一踏みに視界がぐぐっと進む。最初の加速分は既に消えて、あとは重力に逆らって進むだけだ。ひたすら左右交互にペダルに体重をかける。
右、左、右、左、右、左、右、左。
繰り返す、繰り返す、繰り返す。
脹ら脛と太腿に鈍痛のような刺激信号が送られ始める。汗が噴き出しはじめ、心臓の鼓動が強く速くなる。こりゃ予想よりキツいハンデみたいだな!
中間地点が近づくと、勾配が少し緩くなる。ガキの頃は限界だった場所。でも今の俺はまだまだいける。いけるはずだ。ハンデなんか関係ねえ! ハルヒの一人や二人背負ったところでなんてことねーよ!
「ちょっとー! 一人や二人ってなによー!」
なんだ? いま俺声に出してたか?
「まったくもう! ほら! 頑張りなさい! GOGO! GOGO!」
「キョンくーん! 頑張ってくださぁーい!」
後ろからハルヒの声、そして頭上からは朝比奈さんの声援。これで頑張れなきゃ男の子じゃないね。勢いよく踊り場に乗り上げる。
ここはほんの少しだけ平地だ。だがここで休まず一気に再加速だ!
声に鳴らない声をあげながら、チャリを左右に揺さぶり、勢いよくペダルを踏み込む。余勢をかって踊り場から再度勾配に乗り上げる。ここからが本番だ!
右、左、右、左、右、左、右、左。
熱い息を吐きながら、繰り返す、繰り返す、繰り返す。
どれくらい登った? 顔を上げる。
うわ、まだこんなところかよ! 朝比奈さんが遠いなー!
おい古泉! そこ動くんじゃねーぞ! 見てろ!
お、なんだ長門はちょい手前でお出迎えか。よーし、そこまで一気に行くからな!
前輪を抑え込むことで勾配を押し潰そうとするかのように前傾しながら、俺はペダルを踏み続ける。後ろのハルヒはしっかり抱きついているらしい。腰に回された腕はがっちりとクラッチされている。
俺が前傾してるんで、こいつもかなり前傾させられてるんだな、腰のあたりに当たってるのは、こいつの頭かな?
「っー! 大っ丈っ夫っかっ?! ハっルっヒっ!?」
ペダルを踏む動きに声を出し、ハルヒの安否を確認する。
「あんたそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ! さっさと登りきっちゃいなさい! ちゃんとつかまってるから!」
お前の安否は「そんなこと」ってもんでもないんだがな!
でも無事ならいい! さーいくぜっ!
「ほら! 頑張れキョン! 男の子でしょ!」
その通りっ! アイアム男の子だぜっ!
全身が心臓になったかのように、身体のあらゆるところで脈動を感じる。
太腿も脹ら脛も痙攣しそうなほどに疲労している。
だが、それでもペダルを踏み込む。
身体を軸にチャリを右に揺すって踏み込む。左に揺すって踏み込む。
既に歩いて登った方が速いくらいの速度しかでていないだろう。
それでもなお、踏み込む。
顔を上げるのも辛くて、もはや直前の地面しか見ていられない。酸素が足りなくなって、ちょっとばかり意識のたがが緩くなってきてるようだ。こりゃマズイかな?
そう思いはじめたとき、俺の視界の端に青いスニーカーと白い足が飛び込んできた。よっしゃ、長門のとこまで来たぜ!
「長門ー! 右手出せー!」
すれ違う直前。喘ぐように叫んだ俺に、少し驚いたような顔で従う長門。軽く差し出された右手に一瞬だけ片手運転になった俺は、左手を叩きつける。
ぱちーん! という乾いた音を左耳に心地よく聞きながら、俺は長門の横を通り過ぎる。
長門、びっくりしただろうな。不可解な行動だ。宇宙人じゃなくってもわかんないだろう。なにしろ俺にもわかんないからな。アレだ、ランナーズハイってやつだ!
不可解だろ長門? でもこれが人間なんだぜ? 面白いだろ? ユニークだろ? 俺がお前に教えてやれることなんか、ないかもしれないけどさ。今のハイタッチで、人間のなにかを感じ取ってくれたらいいんだけどな。
あと少し、あと少し!
ぐっ……ぐっ……ぐっ……ぐっ……。
朝比奈さんがなんか潤んだ瞳で俺を見つめている。少しだけ顔を上げて、歯を食いしばって笑顔を浮かべてみせて、その横を通り過ぎる。
「キョ……キョンくん! が……頑張ってくだしゃぃっ!!」
朝比奈さん、なんで泣き声なんですか? なにはともあれ頑張ってますよっ! だから笑ってくださいよ。貴方の笑顔でどれだけ救われてるかわかんねーんですから。
自分は無力だとか思わないで、笑顔見せてくださいよ。それだけで単純な俺は元気になるんですから。
あと少し、あと少し!
ぐっ……ぐっ……ぐっ……ぐっ……。
その先にいるのは古泉だ。おいおい、どうしたいつものニヤケ面は? 眩しそうな顔してんじゃねーよ。歯を食いしばった笑顔のままで睨み付ける。その横を通り過ぎる。
よお、来たぜ? 忍者になりそこねたエスパー少年。俺にはなんの後ろ盾も力もねーけどな。お前の挑発に乗って、鼻を明かす事くらいできるんだ。
だからあんまり侮るんじゃねーぜ。いつまでも仮面つけてねーで、真っ向から来てみろって。なぁ古泉。
そして前輪が平地に達した瞬間、スタートからずっと背中に感じていた熱の主に声をかける。
「ハルヒー! 最後だ! いくぞーっ!」
「え? ええっ?」
俺は叫ぶと同時に思いきり身体を起こして伸び上がると、最後の右ペダルを思い切り踏み込んだ。ぐぅっと進むチャリ。全体が平地に乗り上げる。
そして俺とハルヒを乗せた自転車は、そのまま高台の中程まで惰性で進んでいった。
――つまり、俺たちは坂を登り切ったのだ。
サドルに腰を下ろし、足を地面につけようとしたのだが、どうにもうまく力が入らず。そのまま完全にバランスを崩してしまった。
「ぅおあっ!」
「えっ? ちょっ…! きゃーっ!」
俺とハルヒの時間差での悲鳴のあとに続く「ガッシャン」という鈍い音。そして衝撃と痛み。俺たちは仲良く横倒しになってしまった。明後日の方を向いた前輪が、カラカラと回っている。
うわ、すまんハルヒ。そりゃあんだけ強くしがみついてたら一緒に転けるよな。
おい、ハルヒ、怪我、ないか?
「あいたたたた……! ちょっとキョン! 転ぶなら転ぶで先に言いなさいよ!」
すま、ん。だが、ちょっと、まだ、呼吸が、な。
次から気をつける、そう言おうと開けた口の中に、不意に甘く冷たい味が広がった。
「と、とりあえずそれ飲みなさい! な、なにいってるかわかんないから!」
ふまん(すまん)。
俺は仰向けに寝ころんで自転車の下敷きになったままで、ハルヒにくわえさせられた半分ほど残っていたチューチューアイスを鼻息も荒く飲み干した。身体の中心に冷気が流れ込み、少し楽になる。その豪快な甘さも、すぐにエネルギーになりそうな勢いだ。
「大丈夫ですかぁ〜!」
顔を起こすと、とてとてと朝比奈さんが駆け寄ってくるのが見えた。そのままの姿勢で、親指を立ててみせる。だいじょーぶです。まだまだその気になりゃあ空だって飛べますよ。飛行機かヘリを用意していただければね。
「今のあんたがなにいっても、強がりにしか見えないわよ?」
呆れた様にハルヒが言う。まーな、確かにただの強がりだ。正直に言えば、一歩も動きたくないし、一歩も動けない。
「まぁそうでしょうね……って、あいたた、ちょっとキョン! 擦り剥いちゃってるじゃないのよ! どーしてくれんのよ! 乙女の柔肌に傷つけてー!」
すまん、あとでツバつけてやっから、カンベンしろ。
「ツ、ツバって……! そんなんで治るわけないでしょ!」
じゃー舐めてやるから。責任取れっていうなら取るから。お前がどんな無茶やらかしても、雑用係としてどんな責任でも取ってやっから。
暴走しそうになったら、首根っこひっつかんでやるし、いざとなったらチャリの後ろにのっけて逃げてやっから。これくらいの坂なら見ての通りだしな。安心して暴れろ。
だから、今はちょっとほっといてくれ。せめて呼吸が整うまで。全身が心臓みたいになってんだよ。足もガクガクだしな。
「……っ!! バカ! バカキョン!!」
あーそーさ、バカだよ。バカ。なにをこんなに熱くなってムキになってるかね。自分でもわけがわからんし、さっきから今まで自分が何を口走ったのかも全然わかんねーや。あーチューチューアイスうめー……。
「お疲れさまでした。確かに目にものを見せられましたね。賞品の件は……まぁいいでしょう。既に口にされているような気もしますが、ちゃんと守りますよ」
なんだよ? あー? これか? このチューチューアイスは俺がハルヒに買ってやったもんだから、元は俺のもんだぞ。こんなもんが賞品の代わりになるわきゃねーだろ。ちゃんと三食+チョココロネ奢れよな。
「ええ、わかってますよ。さ、どうぞ」
自転車を引き起こしながらそう言うと、古泉は俺に手を差し出してきた。掴まれってことか。まぁ今日のところは助けられといてやるよ。っつーか一人じゃ起きあがれそうにないしな。
古泉に助け起こされ、自転車にすがりながら立ち上がる。見回してみると、朝比奈さんは妙に顔を赤くしているし、どういうわけだか少し泣いてらっしゃるようだ。どうしたんです?
長門は長門で、自分の右手と俺の顔を交互に見つめてるし。強く叩き過ぎたか? すまんな、なんかテンション上がっちまってな。
支援
で、ハルヒはっていうと、なにやら顔を真っ赤にしてそっぽ向いてブツブツ言ってる。かと思えば人の顔をちらちら見ては、またそっぽ向いてブツブツ言ってやがる。
よくわからんが「キョンのくせに」とか「このあたしが」とか「絶対認めない」とか漏れ聞こえてくるが、なんなのかさっぱりわからん。
おい、なんか俺の顔についてるのか? っつーか人の顔をチラ見するのはよしなさい。って! ぶつな! なんなんだお前は!
おい、古泉。こりゃどういう状況なんだ? 説明しろ!
「さぁ……多分、今の貴方が、非常にいい顔をしてるからってところではないでしょうか?」
さっぱりわからん。やっぱりなんかついてるのか?
「ええ、多分」
意味ありげに笑いながら差し出された拳に、俺は自然に自分の拳をこつっと合わせた。意味なんかない。なんとなく、だ。なんとなく、な。
<エピローグ>
帰りの急行に乗り込んで数分もすると、ハルヒと朝比奈さんは、ぐっすりと眠り込んでしまった。朝比奈さんはどうだったのかわからんが、ハルヒは随分はしゃぎ回ってたしな。
まぁ寝る前まで、ずーっと俺とは視線あわせようとしなかったんだが。ありゃ一体なんなんだろうな。
ちなみに長門はというと、ばーさんに許可をもらって借りてきた本を読んでいる。こっちはハルヒとは逆で、時々視線を向けると目が合うのが気恥ずかしい。本に集中してていいんだぜ?
しかし、今回の旅は一体なんだったんだろうな。
俺はボックス席の向かいに座った古泉に問いかけた。
見舞いにきてくれたのはありがたいけど、不思議もなんもないし、いつもみたいな変態的なことも起こらなかったしな。まぁ平和なのはいいことだが、この後でお前のバイトの出番が増えるなんてことはないだろうな?
「まず断言できますね。そのような事はありえません。今回、涼宮さんは非常に満足してらっしゃるようですから」
なんでだ? 天狗もカッパもくねくねも見つけられなかったぜ?
「確かにそれはそうですが……それよりも、よっぽど好いものを見られたから、といったところですかね」
ふーん……なんの変哲もない普通の田舎なんだがな。まぁ楽しんではいたみたいだが。
「ちょっと違いますね。貴方の田舎の風景、それも確かに楽しんではいたのでしょうが、あの高台で見たものの方が、涼宮さんにとってはもっと価値あるものだったのだと思いますよ」
確かに、夕暮れ時のあそこからの眺めは、ちょっとしたもんだよな。
「……まったく、これを韜晦でもなんでもなく言ってるんだから、困ったものですね……」
ん? なんだ?
「いいえ、なんでもありません……それでは、逆にお伺いしますが、貴方にとって今回の旅はどうだったのですか?」
疲れた。精神的にも肉体的にもな、それだけだ。まぁ、じーさんの見舞いには素直に感謝するよ。ダシに使われた感は否めないけどな。
「どういたしまして。来週には退院されるそうですし、大事がなくてよかったですね……では最後の質問です。あのヒルクライムについてはどうです? 登ってみて、なにか変わりましたか?」
古泉の問いに俺は少しの間だけ返答を保留した。そして窓の外に目を向け、宵闇の鏡越しに、寝たり読書したりニヤついたりしている俺の仲間達を確認してから、応えた。
「なんもかわんねーよ」
古泉は「処置なしですね」なんていいながら肩をすくめて見せ、今回の遠征での戦利品らしい古い小型ボードゲームの箱を取りだして、パッケージの説明書きを読み始めた。
その様子を見て、俺も狸寝入りを決め込もうと体勢を整えて目を閉じる、
なにか変わったかだって? そんな簡単に何かが変わる様な都合のいいことはねーよ。
でもな、古泉。お前の質問が「前にと比べて何か違ったか」だったなら、応えは違ったんだぜ。
なにしろ前回はあっさり登れちまった上に、まぁ実際坂の上には何もなかったわけで、だから俺は、ガキの頃と比べて体力的な面でしか自分の変化も成長を感じられなかった。
だから、そんな当たり前の変化しか感じられなかったことに、しみじみ……いや、やっぱりどこかで、がっかりしていたんだ。ただ歳を取って身体がでかくなっただけじゃないかってな。
お前やハルヒが言ってた、俺の様子がおかしかったってのは、多分俺が自分の中で変わったところってのを模索してたからだと思う。なにか変わってて欲しかったんだよ。自分の成長を確認したかったっていうかさ。
それと同時に俺を取り巻く周囲、つまりはお前達の変化ってのも模索してたんだ。この一年で何か変わったことはないかってな。そんなんだったから、確かにちょっと俺の様子はおかしかったかもしれないな。
で、今回だ。もう前回とは全然違ったからなぁ。第一、登った先に何もないどころか、坂の上には宇宙人やら未来人やら超能力者がいたんだぜ? おまけに背中にはお前らでいうところの神様まで背負ってたしな。
そんだけ揃えば達成感もひとしおってもんだろ?
だからってわけでもないんだがな、今日登り切ったとき、俺は「変わったのは自分自身の体力や体格だけじゃない。お前らという大切な仲間を得たってことが最大の変化なんだ」って――そう改めて感じたんだ。
もちろん、そんなこと口に出していったりはしないけどな。言えるかそんなこと。こっ恥ずかしい。
でもな、お前にそう聞かれていたら、このくらいの事は応えたんだぜ。
――ガキの頃に描いた空想とはちょっと違うが、坂を登りきったら空想以上に面白い現実を手に入れてた……ってな。
<了>
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以上です。スレ汚し失礼しました。規制支援していただいた皆さん、ありがとうございました。
サポート
乙なのです!
良いねぇ、こういう日常的なSOS団は。
しかしキョンはさりげなくカッコイイが素晴らしく鈍感だなwww
GJ!
保守
>>125 日常GJ!
ただ古キョンという表記はやめてくれ
古泉+キョンまたは友情として欲しかったというこだわり
電波の日なのに何も受信しない保守
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 13:00:44.81 ID:qItAP7GHO
ほ
133 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 13:42:21.49 ID:X/9z9QNsO
ほ
電波の日なんて知らなかったよ
上司のいない間に保守
投下するのである
「キョンくんあさだよ!」
「おきなさいっ!遅刻しちゃうよっ!」
「はやくぅ〜」
むぅ…妹よ、大学生は必ずしも土日が休みというわけではないんだ。カリキュラムによっては平日を休みにすることもできる。
そして俺の定休日は水曜と日曜だって言ったじゃないか。ハルヒの時間割に合わせたからな…ん?ハルヒ…!
「うぉわっ!」
「わぁあっ!」
まずい、まずいぞ大変まずい。
いくら外見上はそう変わっていないとはいえ思春期真っ盛りの妹にハルヒと添い寝している所など見せたくない。
教育上完全にアウトだ。さぁどう言い訳しようか。
とりあえず起きろハルヒ、おい…
「何やってんのあんた」
ベッドのハルヒがいた辺りをバンバン叩いていた俺を正気に戻したのは、母親のエプロンを着けたハルヒだった。
…寝ぼけてたんだよ。悪いか。
「いくら寝ぼけてたとは言っても、自分の妹を突き飛ばすような男はダメね。さっさと起きて顔洗ってきなさい」
階段を降りていく足音を見送り足元を見れば確かに妹がベッドの下に転がっている。すまん。
「いたい〜…」
すまんと言ってるだろ。
手を差しのべるとすがりついてくる。よいしょ。軽すぎやしないか?兄としては少しばかり心配だ。
「キョンくんだって昨日ハルにゃんと一緒に寝てたくせにぃ」
バレてたのか。
「まだ子供だねっ」
動揺が思い切り顔に出ていたらしい。妹はにへっとした顔を作ると階下へ降りていった。
覚醒していくと共に妹の顔から朝比奈さんを連想し、自然に昨夜の事を思い出す。ダメだ。朝っぱらから胸がムカつくような事を考えるもんじゃない。
ハルヒのいで立ちから考えるときっと朝メシを作ってくれているのだろう。あいつの料理の腕は数々の前例によって証明されているし、
そうでなくともしこたま飲んだ翌朝に(まだ7時を回ったとこだ)、わざわざ起き出してくれたんだ。御相伴にあずかるとしよう。
−−−−−−−−−−−−−−
朝メシは文句なしに美味かった。美味かったのだが、妙に和気藹々とした朝食の場で味わう料理と複雑な感覚には未だに慣れない。
恋人の家族と飯を食った事のあるヤツなら分かってくれるかもしれんな。
ただ何より複雑なのは両親が俺よりもハルヒを一層気に入ってしまっていることか。うーん…疎外感。
「いってきまーす」
最後に家を出る妹を見送りハルヒと俺だけが残る。母親は俺が大学に進学して以来パートに出ている。父さん母さん、ありがとう。
食器を洗いに行ったハルヒを手伝うとしよう。こんな事を思ったのは昨夜の出来事のせいかな。いいや、歳のせいだろう。
そうに決まってる。そうじゃなきゃ、こんな柄にもない事は考えないさ。
この時が永遠に続けばいい、なんてな。
−−−−−−−−−−−−−−−
眩しいほどの白で統一された部屋。時間を跳躍する際の精神統一を助ける色調である。
今日(『そこ』ではそんな時間概念はそう重要ではないが)、世界人類共同体にとって最重要任務である涼宮ハルヒの時空震対策のエージェントが帰還した。
帰還した彼女に立体映像が告げた言葉は非情な物であった。表面上は労いの皮を被ってはいたが、
彼女にとっては耐えられる物ではなかった。
立体映像の送信者は言った。
『常に正解となる選択はない。ゆえに、一度なされた選択を最良の結果に持っていくことが我々の義務である』
出発前の研修の際にも聞いた言葉。同じ言葉が、今彼女の胸に深く突き刺さる。
最良の結果。
本当にそれが最良の結果なのか。
真っ白な部屋で朝比奈みくるは涙を流した。声を出して泣き続けた。
同じ顔の立体映像の送信者も涙を流した。
違うのは涙の理由が解るか、解らないか。
−−−−−−−−−−−−−−−
「ちょっと、あんた洗剤ちゃんと流したの?いくら植物生まれとか言っても危ないもんは危ないんだからね」
失敗した。感傷に浸った流れで「手伝うぞ〜」などと言った途端ハルヒは後方支援に徹する事にしたらしく、
洗いからすすぎまでは俺の役目となりハルヒといえば拭くのと文句を言う任務を帯びて隣に待機している。やれやれ。
「溜息つかない!面倒な仕事ほど明るくやらなきゃダメなの!」
…やれや…わ、分かったやるから睨むなよ!
明らかに質量を持ったハルヒの視線に突かれながらカチャカチャと皿を洗う。朝食に使ったやつだけだからな、そう時間はかからない。
仕事を終えるとエプロンを外したハルヒが無言で二階へ上がる。…まぁいつもの俺だったらとりあえずほっとくのだが、
よくよく考えるとハルヒも昨日朝比奈さんとの別れを終えたばかりなのだ。俺のモヤモヤとは少し種類が違うが…
いや、何考えてやがる俺!朝比奈さんは未来に帰っただけだ。分かっていた事だ。
ちゃんちゃらおかしいね、モヤモヤする必要なんかないのさ。さて、ハルヒに構ってやりに行くか。
いつだか国木田には話したが、ハルヒのヤツは実はかなりの淋しがり屋だって事が一歩進んでみて分かった。その時の国木田の妙な笑いが気になるが…
あぁそういえば谷口もその場にいたな。まぁ、あいつはどうでもいい。何を言ってたかも忘れたがどうせ裏切り者とか何とかだろう。
とにかく、こういう時はハルヒの側にいなくちゃならん。仕方ないヤツだ。
決して俺が不安なわけじゃないからな。
−−−−−−−−−−−−−−−
部屋を覗くとハルヒはベッドに顔を埋めていた。何やってんだ…?まさか泣いてたり?いやいや、まさかな。
「ハルヒ」
「ぅあい!?」
やたらと大きな声を出すな。平日の午前とはいえ。
「うるさいわね!もっとちゃんと足音たてて階段昇りなさいよ!」
どういう説教だそれは。わざわざうるさく歩行するメリットが俺には全く解らないぞ。
「プライバシーってもんを考えなさいって言ってるの!」
俺の部屋で俺のベッドに突っ伏している奴のプライバシーをどう保護しろというのだ。
とか何とか言いつつ、ハルヒが思ったより元気なのに安心する。情緒不安定なだけか?
試しにベッドの上に座り込むハルヒを眺めてみるとエネルギーゲージのごとく顔が赤くなっていく。
100%に達した所で発射された枕キャノンを受け止め、隣に座ってみることにした。
「……」
「……」
ハルヒが無言を保ったまま足元を見つめているので何とも居心地が悪く、天井を見上げている事にした。
やはりさっきのはカラ元気というか強がりだったようで、ちらと隣をうかがうと実にしんみりとした表情だ。
こう言うのも何だが、ハルヒがこの弱さを俺だけに見せる事をひそかに嬉しくまた誇りに思う気持ちがある事は否定できない。
あの涼宮ハルヒが、だぜ?
「…会えるわよね?」
会えるさ。確証はないが、こう言うしかないだろう。しんみり顔はいいが泣き顔までは行かせたくない。
「何でそう言い切れるのよ」
それはな、お前が会いたいと思っているからさ。朝比奈さんだってもう一度お前に会いたいだろう。
高校時代、朝比奈さん(大)はSOS団を懐かしんでいた。
お前の力が失われたからと言って、お互い会いたがっているのに会えないなんて事はない…と思いたい。
ってな感じの事を胸中で語りながら、
「わからん、でも確信してる」
と言った俺の言葉に納得したかどうかは確かではないが、ハルヒは笑顔を取り戻して言った。
「…そうよね!」
不覚にもその顔にクラッと来たね。思わず抱きしめてしまったのを責めるかい?
…とは言ってもベッドで隣り合って座っていたわけで、抱き着いた時ハルヒは後ろに倒れて…
…まぁゴニョゴニョ…な体勢にだな…
−−−−−−−−−−−−−−−
起きたら夕方五時半だった。
さすがに慌てたね。妹がまだギリギリ部活から帰って来ていなかったのが不幸中の幸いで猛スピードで服を着るとハルヒは帰っていった。
送っていかなきゃダメだクズ男などと言うなかれ。お互いそのそういう事はファーストエクスペリエンスだったわけで…
気恥ずかしいものがあったのさ。理解してくれ。
とはいえ、一人になった部屋でしばらくぼーっと過ごしていると淋しさと共に幸福感が込み上げてくる。
相互間の愛情を確かめられたというか…まぁなんだ、固い言葉を使ってることから察してくれ、恥ずかしいんだ。
しかしそれを三回りくらい上回って幸せなのも確かだな。幸せ過ぎるくらいだ。
幸せ過ぎて、ハルヒが机の上にある物を忘れて行った事に俺もハルヒ自身も全く気付かなかったくらいだ。
−エアコンをつける程ではない暑さに耐えかね開けた窓から吹く風に、俺の背後のソレがパラパラとめくれた。
ちゃぷたさんおしまいなのです。
ニヤニヤ。
乙!
ほ
150 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:30:46.78 ID:labohIfb0
投稿します。
古泉一樹と橘京子の話です。
タイトルは「Killing Me」です。
151 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:32:28.60 ID:labohIfb0
僕は愕然としました。
「森さん・・・?今なんと」
「言ったとおりよ。古泉」
「いや、その作戦は・・・あまりにも」
「もう一度言う。橘京子らが所属する機関Bの人間を
全て抹殺する事に決めた。」
「何故急に?」
「先日の機関の上層部の会議で決めた。機関Bは
驚くべき速度で拡大している。」
「ですが、そんなことをして警察が黙っているわけは無いと思いますが」
「警察とはもう話がついてる」
「そんな・・・」
僕は彼女の笑顔を思い浮かべた。
彼女を殺すなんて無理だ。僕には出来ない
152 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:35:22.37 ID:labohIfb0
僕はあの日死ぬはずでした。
SOS団が解散して急に閉鎖空間と神人の発生が増加してから、
数ヶ月が経った日のことでした。夏休み中のある日
僕は精神的にも肉体的にも限界でした。
彼女や他のみんなと同じように、
SOS団がなくなって日常に酷く退屈を感じていた僕は、
精神的に参っていました。それでも閉鎖空間の発生は止まず、
もうほとんどぶっ通しで蒼い巨人と戦う毎日。
153 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:36:13.65 ID:labohIfb0
その日僕は決心しました。死のう、と。
死に場所は僕が生涯一番幸せに過ごせた、
高校時代の学び舎の屋上。
僕は思いました。人に与えられる幸せには限界があるのだ、と。
僕はあの3年間で一生分の幸せを使ってしまったのです。
僕はフェンスを越え力を抜きました。
さよならSOS団・・・。
154 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:37:01.24 ID:labohIfb0
その時。
誰かが僕をもとの場所に抱き寄せたのです。
目を開けるとそこには目を真っ赤にして怒る橘さんがいました。
そしてフェンスの向こうに戻るよう、指示しました。
安全な場所に戻った所で、橘さんは僕の頬を平手打ちしました。
「死んだら何も残らないです!」
僕の目から涙が溢れ出しました。
泣き崩れた僕をそっと抱き寄せる橘さん。
ここから僕の幸せは限界突破しました。
155 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:38:38.05 ID:labohIfb0
「まず改めてありがとうございます」
「別にいいですよ」
そういいながら彼女は誇らしげに胸を張った。
「どうしてあんなタイミングで屋上に?しかも北高の」
「つけてたんです」
「え?」
彼女は再び頬を赤らめた。
「指令ですよ!機関からの」
「そうですか」
「それよりなんであんな事しようとしたんですか?
なんか悩みがあるんですか?
あたしに言えない事ですか?
あたしに言えなかったら誰に言えるんですか?」
質問攻めをされた僕は彼女に自分の悩み全てを話しました。
SOS団がなくなって寂しい事、
アルバイトが忙しくて大変な事、
橘さんは黙ってうんうんと聞いてくれてます。
聞いてくれてるように見えます。
156 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:39:58.35 ID:labohIfb0
「SOS団が無ければ自分で作ればいいのです!」
彼女はなにやらニコニコしてます。
「新SOS団です」
「どういうことですか?」
「世界を
おおいに盛り上げる
サイキック達の団です!」
「略してSOS団ですか・・・。橘さんよく聞いてください。
僕はSOS団と言う名称が好きなのではありません。その中身です」
「中身があたしと古泉さんでは不満ですか!」
「いやそういうわけじゃ」
「もういいです」
橘さんは頬を膨らましてそういうとそっぽをむいてしまいました。
「いや、問題があるでしょう・・・僕達は本来敵対すべき者なんですから」
「ホントは地面に落ちて内臓飛び出させてたあなたを
助けたあたしは敵ですか。へー、そうですか」
「本当にありがとうございました。しかし・・・」
「バレなきゃいいんですよ。結成しましょう!」
こうして新SOS団は結成されました。
ああ、森さんにばれたらどうなることやら・・・。やれやれ
157 :
晴樹:2008/06/02(月) 16:55:04.06 ID:labohIfb0
とりあえずここまでです。今日中に全部投下するつもりなんで
よかったらみてください
乙!投下期待してます。
☆10・宣誓
さあ、神に向かって誓いなさい!
あたしの手を一生振りほどかないって。
あたしの手を一生離さないって。
真剣な目と目で睨めっこ。
どちらが先に吹き出すのかしら?
絶対に負けない!あんたも案外負けず嫌いね。
でもそうね。笑う時は一緒がいいわ。
喧嘩は思いっきりしましょう。
けどあたしが泣いてる時はそっと頭を撫でて欲しいわね。
あんたのゆっくりと落ちる瞼に合わせてあたしの視界もブラックアウト。
唇が触れるまで後5センチ。
(宇宙最大の祝福の中であたしは不思議よりも大切なものを見つけた)
159 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 17:37:21.97 ID:labohIfb0
甘い・・10個目乙です!
乙!
そして保守
161 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 18:45:13.41 ID:BfHMb+nCO
書けるかな?
162 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 19:01:53.08 ID:X/9z9QNsO
ほしゅ
☆
164 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:27:53.12 ID:labohIfb0
投下します。>>156の続きです。
彼女はそのあと僕にSOS団での出来事を話させました。
思えばいろんなことをやってきたものです。
彼女は終始羨ましそうに話を聞いていました。
「それ全部やりましょう!とっても楽しそうです」
「え?」
橘さんは僕の手を引いて走り出しました。
「まずはプールにいきましょう」
「えっそんなに急がなくても・・・」
「失った時間はとりもどせないのよ!だからやるの!
この一度きりの高一の夏に!」
橘さんは僕が話した通りに涼宮さんの名言を叫びました。
165 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:28:42.82 ID:labohIfb0
水着は市民プールの売店で買いました。
小学生みたいな体系の橘さんの水着姿は、
やっぱり小学生みたいで、市民プールに妹と来ているような気分です。
「古泉さん、ビーチボール買ってきてください」
「あの、僕水着買ったばかりなんで、
もう帰りの電車賃ぐらいしかお金が・・。」
「じゃああたしのお金で買ってきてください」
そう言うと橘さんは小学生みたいな財布から、
一万円札の札束を出して僕に渡しました。
あっちの機関の給料が気になります・・・。
「こんなにいりませんよ。何個買うつもりですか」
「じゃあこれで」
橘さんは一万円札一枚を僕に渡しました。
まわりからみたら異様な光景でしょうね。
「お菓子も買ってきてください。あたしポッキーがいいです」
166 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:29:22.61 ID:labohIfb0
その後、プールの閉園時間ぎりぎりまで遊びました。
ひさしぶりにこんなに笑いましたよ。
橘さんすごい運動音痴みたいです。
ビーチボールは前に飛ばすもんですよ、
あと大学生で犬掻きはやめましょうね。
167 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:29:46.53 ID:labohIfb0
「明日は花火ですよ!古泉さんちゃんと買ってきてくださいね!」
橘さんは「夏は一度きり」と叫びながら駅の改札へと消えてゆきました。
気がつくともう日が暮れていて、遠くの空に太陽が沈んで行くのが見えました。
「綺麗だ」
久方ぶりに空なんて見上げました。
世界をおおいに盛り上げるサイキック達の団ですか。悪くないですね
168 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:30:44.74 ID:labohIfb0
その後の1週間は大変でした。
花火にお祭りにアルバイトに天体観測。
野球の練習もしましたね。
橘さん、フルスイングで一回もバットに当てないなんて
逆にすごいですよ。
169 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:32:06.57 ID:labohIfb0
「もうすぐ夏休みも終わりですね」
「そうですね」
僕達は今、SOS団でよく使ったベンチに座ってます。
夕暮れ時で人はまばら。今日も夕陽が綺麗です。
「夏休みが終わってもSOS団の活動は終わりませんよ!」
「フフ、わかってますよ」
「少しは元気になりましたか?」
もう僕はすっかり元気になっていました。
「ええ。橘さん、感謝していますよ。」
そのとき橘さんの顔が赤くなったのは、
夕陽に照らされたからではなかったのでしょう。
「いいんですよ・・・。」
僕を救った直後のようにいいました。
僕は橘さんの小学生みたいな小さな手を握りました。
「え?」
橘さんはそう言って僕の顔を驚いて見つめました。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないです」
そういって彼女は僕の手を握り返しました。
夏で、夏でした。
――――――
「僕には無理です・・・」
「任務の拒否は許さない」
「少し考える時間をください・・・」
僕はベッドの中で一晩考えました。
考えても、考えても彼女の笑顔が頭から離れはしない
僕は彼女が好きだった。
170 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 19:40:41.00 ID:X/9z9QNsO
支援
171 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:53:46.24 ID:labohIfb0
「古泉一樹。これより指令を言い渡す」
「はい」
「お前はこれから橘京子の家に侵入し、寝ている橘京子を刺殺しろ。
その後すぐに本部に戻れ。死体はすぐに別のが回収しに行く。
しくじったらすぐにばれるからな。きもにめいじておけ」
「了解」
僕は折りたたみ式のナイフをポケットに入れ、
橘京子のもとへ向かった。
172 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:54:53.66 ID:labohIfb0
家の鍵はを高校のときに訓練されたピッキングですぐに開いた。
音を立てずに入り、寝室のドアを開ける。
橘京子は起きていた。
「古泉さん・・?」
「こんばんは」
「どうしたの?こんな時間に。どうやって中に・・・」
僕は質問には答えずにナイフをポケットからとりだした。
「え?」
橘京子の顔が青ざめる。
173 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:55:40.07 ID:labohIfb0
「古泉さん・・・嘘でしょ?」
「これより任務を遂行します」
唖然としている橘京子を羽交い締めにする。
「ちょっと、古泉さん?どうして・・」
橘京子は泣きながら必死に抵抗する。
しかし訓練を受けた男に力でかなう筈がない。
動けなくした状態のまま質問に答える。
「僕達の機関はあなたの所属する機関Bの人間を
抹殺する事に決めました。」
「え?そんな・・・」
「抹殺を実行します」
「古泉さん・・・」
橘京子は抵抗をやめた。
「どうして抵抗しない?」
「あなたも苦しかったんでしょ?もういいよ」
「ぼ、僕は苦しくなんかない!」
「だって古泉さん部屋に入ってからずっと泣いてるじゃない!」
そう。僕は涙を流していた。昨日から流れっぱなしだ。
「いいの私を殺して・・。お願い、私を殺して」
「すまない・・・。」
僕はふりかぶりナイフを振り下ろした。
174 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:56:11.60 ID:labohIfb0
ザクッ!
「古泉君?!どうして」
僕は自分の左手をナイフで刺した。
続いて右手も刺そうと、振りかぶる。
「ダメッ!」
橘さんは僕からナイフを奪うとナイフを折った。
「すごい力ですね・・。これではあなたを殺せない。
やむをえない任務失敗です」
僕は微笑んだ。
「古泉さん!」
橘さんは僕を強く抱きしめた。
僕も無傷な右手で橘さんを抱きしめた。
「逃げましょう。まもなく機関の人間がやってきます」
「でも、どうやって・・」
「僕が乗ってきたバイクがあります。
とりあえずそれに乗って遠くへ逃げましょう」
しえn
176 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:57:33.87 ID:labohIfb0
僕は家をでてバイクに乗りハンドルを握った。
左手に激痛が走る。
「あたしが運転します!」
「すいません・・。お願いします!」
2人を乗せたバイクは夜中の車道を勢いよく走り出した。
長い夜が始まる。
177 :
晴樹:2008/06/02(月) 19:59:16.68 ID:labohIfb0
とりあえずここまでです。
読んでくれた方ありがとうございました。
8時半に投下します
乙
179 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:23:41.06 ID:labohIfb0
機関の人間は本当にすぐにやってきました。
バックミラーには一台のパトカーがうつっている。
中には恐らく多丸兄弟がいるのでしょう。
段々と僕達のバイクとの距離を縮めてゆく。
橘さんは偽パトカーに追いつかれまいとスピードを上げる。
こんなにスピード出したらリアルパトカーが追ってきそうですが、
そんなことを言ってる暇はありません。
だんだんと追ってくるパトカーの数が増えていきます。
パトカーに追われてる強盗犯のような気持ちです。
それにしてもいくら夜中だからって高速道路が僕達と機関の人間しか
いないのはどういうことでしょう。きっと機関の手配でしょうね
180 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:24:43.99 ID:labohIfb0
ろをつけているパトカーはもう五台になっていた。
そのうちの2台が僕らの両脇につく。
「そこの二人乗りバイク止まりなさい」
多丸佑さんですね。止まるわけにはいきません
僕が橘さんを守って見せます。
僕は拳銃をポケットから取り出すと、
両脇を走るパトカーのタイヤに銃弾を打ちこむ。すいません・・・
「止まれと言ってるだろ・・うわ!」
2台のパトカーはスリップして止まった。
「古泉ぃ!ただで済むと思うなよ!」
圭一さんの怒声が響く。
ええ。でも僕は彼女を殺す事なんてできないんですよ。
必ず守り抜いて見せます。僕の命の恩人ですから。
181 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:26:07.04 ID:labohIfb0
ピピピピピ
僕の携帯が鳴った。発信源は森さんだ。
「古泉!お前これはどういうことだ!」
「まだわかりませんか。僕は彼女を選んだんですよ」
「これは世界のためのやむをえない任務だ」
「僕は世界がどうなっても、彼女を見捨てる事は出来ないんです」
橘さんが鼻水をすする音が聞こえた。泣いているようだ
「そうか。わかったお前を機関の敵と判断し抹殺対象とする」
電話が切れると同時に前方のビルの陰から、
ヘリコプターが現れた。銃器を装備してる。
戦闘用のヘリコプターだ。
182 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:27:08.18 ID:labohIfb0
「橘さん、ここからは僕が運転します」
橘さんの後ろから彼女を抱きかかえるように、
ハンドルをつかむ。左手が痛む。
「わ、わかった」
「しっかりつかまっててくださいね」
僕は軽くバイクをウィリーさせてから全開までアクセルを踏んだ。
ヘリコプターから弾丸が飛び出した。
ドドドドドドドド!
バイクをドリフトさせて避ける。
「古泉さん、後ろ!」
後ろを見るとパトカーのまどから銃を持った手が何本も出ていた。
まずい・・・。
183 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:27:50.35 ID:labohIfb0
「高速道路を出ましょう。民間の前では銃を乱発など出来ないはずです」
「でも、出口はまだまだ先ですよ!?」
「飛んででます」
「へ?」
バイクをパトカーのほうへ向ける。
そのまま真ん中のパトカーへ突っ込んでいく。
「何を血迷った?」
新川さんですね。血迷ってなどいませんよ
SOS団副団長をなめないで頂きたい。
そのままウィリー状態になり突っ込んでいく。
「何のつもりだ?」
バイクをパトカーのフロントガラスへ乗り上げさせる。
そのままアクセル全開。飛んだ
「うわぁ!」
橘さんの悲鳴が聞こえる。
計画通り。バイクは高速道路の脇のビルの屋上へ着地。
184 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:29:07.64 ID:labohIfb0
「さすが。古泉さんですね!」
「バイクは得意なもんで」
橘さんが親指を立ててみせる。
僕も親指を立てる。
「まだ安心はできません。バイクはここに捨てて
徒歩で逃げましょう」
185 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:29:44.76 ID:labohIfb0
ビルを出た僕達はすぐ近くの駅に走りこみ電車に乗った。
「これでひとまずは安心です。民間が使用する電車では大騒ぎは
起こせない筈ですからね」
「ええ。そうですね」
橘さんも僕もようやく一息ついていた。
「甘いな」
僕は顔を挙げ絶望した。
そこには銃を僕にに向けた森さんが立っていたからだ。
「どういうことだ・・・」
「この電車はすでに機関が占領している」
「そんな・・・」
完全にしくじりました。機関がそこまで手を回しているとは・・。
186 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:30:36.37 ID:labohIfb0
「銃を渡しなさい」
銃を渡す。
「これで終わりだわ。まずは古泉、あなたから殺させてもらう」
森さんが銃を僕に向けようとした時に、隙ができた。
橘さんが一瞬の隙をついて、銃を奪った。
「なっ・・!」
よし形勢逆転です。橘さんよくやりました
橘さんから銃をうけとり、森さんを人質にとる。
こんな荒荒しいことしたくなかったんですけどね・・。
今この車両には7、8人の機関の人間がいる。
全員、こちらに銃を向けている。
しかし、こちらには森さんという人質がいる。
さてこれはどっちが優勢なのでしょう?
「機関のみなさんに要求します。電車から僕達を降ろしてください」
「そんなことできるかぁ!この裏切り者!」
柄の悪い男が怒声をあげる。
187 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:31:50.91 ID:labohIfb0
「落ちつきなさい」
森さんが冷徹な声をあげた。
「古泉、あなた自分が私を撃てると思ってるの?」
・・・まずい。
「あなたは私を撃つ事なんてできない」
そして息を大きく吸って叫んだ。
「みんなやってしまえ!」
くそ・・・。気づかれましたね
バンッ!バンッ!バンッ!
銃声が響く。橘さんを抱えた僕は電車の上へ逃げた。
「古泉さん・・・足が」
僕の足に一発当てられてしまったようだ。
右足が自由に動かない・・。
すぐに機関の者は上がってきた。
今度は他の車両から上ってきた機関の人間も合わせて、
十数人が僕らに銃口を向けている。
「堪忍しなさい」
森さんが言った。
「僕が・・・僕が誇りをもって所属していた機関はこんなのじゃない!」
「最後の言葉はそれだけね。まずはあなたから消えなさい」
森さんが橘さんへ銃を向ける。
しえn
189 :
晴樹:2008/06/02(月) 20:39:41.01 ID:labohIfb0
バババァン!
森さんが銃を撃った。
橘さんを・・・!橘さんを守らなければ・・・!
――――――
「古泉さん!」
橘さんが悲鳴をあげる。
僕は正面から銃弾を数発食らって倒れている。
「古泉さん!しっかりしてください!」
橘さんが泣いている。
「すいません・・・。僕はあなたを守れなかった・・・。」
「いいんです。もういいんです、だからもう喋らないで・・!」
僕はそろそろのようだ。目が霞む
霞み行く景色の中で僕は一筋の希望を見た。
今、電車は鉄橋を走っている。
下は湖だ。助けれるかもしれない・・!
最後の力をふりしぼって、僕は橘さんを抱えて湖に落ちた。
190 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 20:59:00.94 ID:BfHMb+nCO
しえん
191 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:00:26.20 ID:labohIfb0
ドボーン
漁船の人達に助けられ、僕らは岸まで上がった。
「一体どうしたんだあんた達。な・・・血が出てるじゃないか!」
「いいんです。それよりお願いがあります」
「今から話す事は事実です。それをマスコミの方に伝えてもらえませんか?」
「それはいいが、手当てをしないと・・・」
「お願いします!」
「わ、わかった」
おじさんは事実を話すと青ざめた顔ですぐに車を走らせてくれた
192 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:06:26.00 ID:labohIfb0
「橘さん・・・お別れですね」
「嫌です!まだまだSOS団の活動は続くのです!
古泉さんは死んじゃダメなのです・・!」
橘さんは涙を流しながら僕に泣きついた。
「橘さん・・・僕は楽しかったです。
あの短い夏休みのでのこと。涼宮さん達との活動に負けず劣らずね」
「あたしも楽しかったですよ!あたし古泉さんの
ことが・・・好きだったんです・・・」
「偶然ですね。僕もです」
そこで橘さんは驚いた顔をして最高の笑顔を見せた。
ええ、涼宮さんにも負けないぐらいにね。
「橘さんにお願いがあります。
僕がいた機関はもう壊滅するでしょう。
これからはあなたの機関が世界を保全していくのです」
「はい。わかりました!・・・だから一緒にがんばりましょう」
「フフ・・・すいません。それはできません」
「・・・・」
「死にぎわの人間は死があとどれくらいで訪れるか
自然と分かるものなのですよ」
「嫌です!あたしは・・・」
僕は口づけをすることによって、橘さんの言葉を遮った。
長い長い口付けだった。このまま世界がとまってしまえばいいのに。
そんな事を思った。
携帯からの投稿なのかな?がんばれ!支援
194 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:09:34.63 ID:labohIfb0
「橘さんいやSOS団の団長さん。
ぼくをSOS団にいれてくれてありがとうございました」
「いいんですよ・・・」
「またいつか会うときはみんなで・・・S・・OS団を・・・」
――――――
「古泉さん!古泉さん!!!」
古泉さんは安らかに眠るようにこの世を去った。
195 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:15:28.21 ID:labohIfb0
あれから4年・・・。
あのあと機関が取ろうとしてた行動は、
マスコミにて報じられ古泉さん達がいた、
機関はすぐに壊滅しました。
196 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:16:38.42 ID:labohIfb0
あたしは今、新機関のトップにいます。
あれから機関の存在はばれてしまいましたけどね。
表向きでは機関はもうないことにされています。
あたしの会社は表向きでは、普通の商業会社。
裏では涼宮さんの対処をおこなっています。
会社の名前はSOS団です。
先日、涼宮さんが怒って乗りこんできました。
でも、「私とキョンを入社させるならその名前で良いわ」なんて言うので
無職だった彼女らも今ではあたしの社員です。表向きの方ですけどね
キョン君にはたまに裏向きの方も手伝ってもらってます。
涼宮さん、本当に役に立つ社員なんですよ。
キョン君は普通だけど、最近優しくしてくれるからいいの
197 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:17:52.01 ID:labohIfb0
古泉さん、あたしはいまでもあなたの事が忘れられません。
あたしを守る、て言った時の古泉さんとってもかっこよかったですよ。
今日は涼宮さんとキョン君の結婚式です。
あたしもウエディングドレスは着たかったです。
いつかまた会えたら今度は涼宮さんや佐々木さん達も一緒に
SOS団をつくりましょうね?
勿論、古泉さんは副団長ですよ。頼れる、ね?
あー、そろそろ夏休みです。
あの日の事覚えてますか?
初めて古泉さんが手を握ってくれたときのこと。
あたし嬉しかったんですよ?すっごく
プールも花火も天体観測も
また行きたいなぁ
きっといけるよね?副団長さん!
fin
198 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:19:10.87 ID:labohIfb0
ありがとうございました。これで終わりです
感想待ってます。指摘も待ってます
乙です!
でも感想をむやみに求めちゃだめだよ?
非難されないのが一番の感想だと思えばいいんだからね。
200 :
晴樹:2008/06/02(月) 21:49:54.91 ID:labohIfb0
<<199
読んでくれてありがとうございました。
そうですね。反省します
でも、あんたが望むならツッコミいれるけど、へこんだりしないって約束しないとダメよ?
VIPがイカレまくってる中ホントに乙である
ぽんぽん読めるなぁ乙
ただどうしてSOS団が解散したのか、それはちょっと書いて欲しかったかも
乙です!
流れ読めてないかもしれませんが涼宮ハルヒの死体の続きを投下しようと思います。
ふぁいとだよ!
今回は前より長めに投下します。
「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」
部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。
最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて…
「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」
大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。
どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ!
「脈がない…死んでる、のか…」
キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。
「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」
「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」
すごい顔をしながら睨んできた。
「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」
必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな…
もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。
しばらく沈黙の時間が続く。やがて、
「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」
さっきとはうってかわって
>晴樹さんへ
最初に言っておくけど、僕は論理性を重視する人間なんでね。
気になったことがあったんだよ。
それは、マスコミに情報が無事にどうして流れたのかってことさ。
高速道路を封鎖できる権力機構がマスコミを抑え忘れるとは思えないからね。
あと、田丸弟は田丸裕さんだからね。
あ、厳しい指摘をするのは、期待してのことなんだから勘違いしないでね。
ものすごく優しい声でキョンが言った。
最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに…
「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」
「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」
「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」
我慢しきれず涙がこぼれる。
「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
「うん…うん。二人で…頑張る!」
あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。
こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。
だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。
でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを…
―――――――――
ごめん、流れ切っちゃった。
>206さんへ
第何回か書き込むと途中から読む人がわかりやすいと思うよ?
210 :
晴樹:2008/06/02(月) 22:11:35.75 ID:labohIfb0
>>207 そうですね・・・。そこには矛盾が残りますね。
多丸さんの件はあとで修正します。
読みこんでくれてありがとうございます。
「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」
キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。
「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」
キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。
「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」
「うん…わかった。」
私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、
「いやあ、遅れてすみません。」
「……………」
相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。
「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」
「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」
キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。
私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。
「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」
>>209 すいません!第三話です。
キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。
「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」
「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」
キョンのフォローで助かった。
「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」
いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ…
「あ…えっと…」
「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」
またもキョンがフォローしてくれる。
でも、少しずつ身体が震えてきた…
「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」
心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。
「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」
「おう。わかった」
「かしこまりました」
「……………了解」
それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、
ガタッ…!
掃除道具入から音がした。
本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃…
「それじゃあお先に失礼いたします」
「………お大事に」
二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。
「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」
「う、うん…大丈夫…ありがと」
キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。
「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」
そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。
「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」
「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」
キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。
これから一体どうなるんだろう…
誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか…
私は椅子に座り込み目を閉じた…
―――――――――
以上です。ご指摘ありがとうございました!
乙です、続き無理の無いようにがんばってね♪
ふええ・・・
続き『無理しないで』がんばってねなのね。
間違えたのね。期待してるのね。
乙!
>>216 あざす!話自体は最後まで完成してるのですが細かいとこ直しつつ様子みて投下しようと思います。
>210 晴樹さんへ
『情報を流す』という方法ならいくつかあるんですよ。
たぶん、一番身近なのは、ここですよね?つまり、ネット環境です。組織が手を回す前にかなりの人数が情報を見てしまいますよね?
次に、事件現場という手ですね。「カリオストロの城」の手法です。すでにリアルタイムで報道が行われている場所なら止めることは不可能でしょう。
まあ、参考までに♪
>214様
わたくしといたしましては、完結していない作品には感想を書かないことにしておりますので(作者様のテンションに影響しますからね♪)
感想は完結後書かせていただきますね。だから、完結することを楽しみにしております。
220 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 23:14:52.38 ID:Ey27QjgpO
みくる好きな俺には色々と辛いぜ
久しぶりに来たが、人が変わってるなあ
ほ
223 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 23:59:13.22 ID:zRGlVq9AO
jp
保守
ほしゅ
227 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 01:18:27.49 ID:NSikG/uR0
ほしゅ
228 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 01:47:39.86 ID:NSikG/uR0
ho
保守
230 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 02:11:37.22 ID:8D+1TZSlO
鶴キョン
朝キョン
森キョン
橘キョン
喜キョン
いいな
久々に来たが良作で賑わってるな。
>>125 遅レスでスマンが初SSとは思えんくらい完成度高くて驚いた。
個人的にここ最近で一番のツボ。新作も期待してるぜ。
保守
おはようの保守
234 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 06:25:04.61 ID:4a3jp7vVO
あげ
235 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 06:26:04.38 ID:5TpyFJvNO
>>125 乙ですた
寝る前に素敵な文が読めて良かったよ
保守さ〜
保守し〜
ちょっと教えてちょ
鶴屋さんの一人称って「あたし」でいいんだっけ?
>>238 うん
俺も教えて欲しいが、一人称が「私」なのは生徒会長(ハルヒの前のみ)でいいんだっけ?
6秒差…
242 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 10:56:41.21 ID:81D/K9+dO
ほ
243 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 11:00:35.13 ID:Wm6UEeFpO
244 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 11:13:35.72 ID:AwRme2bbO
245 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 11:54:47.39 ID:3u1bZIlo0
ほしゅ
246 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 12:49:23.78 ID:AwRme2bbO
ほ
ほしゅ?
>>243 >>244のとおりです。説明が足りなくて申し訳ない。
因みに長門も「あたし」と言う場面もあったはず。憂鬱に確か…。
>>244 フォローthx
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 14:28:47.14 ID:AwRme2bbO
ほしゅ
251 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 16:32:41.65 ID:AwRme2bbO
ほ
>>248 それはハルヒが鶴屋さんのことを鶴ちゃんと呼ぶくらい黒歴史だw
まぁ、幻の「荒川さん」も居た訳だし、各人称ミスはながるんの十八番なんだろうな。
254 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 17:50:52.24 ID:xSH12QIX0
保守
┏ ━ゝヽ''━.,,ハ,_,ハ,.━.从〆A!゚━━┓。
╋┓“〓┃ < ゝ\',冫。’ .;゙ ・ω・ミ/^l ..∠ _ ,'´ゝ.┃. ●┃┃ ┃
┃┃_.━┛ヤ━━━━ ,-‐-y'"゙"''゙゙"´ | ..━━━━━━━━━ ━┛ ・ ・
∇ ┠─へ ヽ、,;' # ・ ω ・ ミ 冫そ _'´; ┨'゚,。
.。冫▽ ,゚'< ミ∩===[==]=l==つ;; 乙 / ≧ ▽
。 ┃ ◇> ミ ; 、'’ │ て く
┠─ム┼. ';, ミ ゙》凵レ─┨ ミo'’`
。、゚`。、 i/ ;;, ,;⊃ o。了、'' × o
○ ┃ `、,~ "∪"゙''''''''''"゙ .ヽ◇ ノ 。o┃
┗〆━┷ Z,' /┷━'o/ヾ。┷+\━┛,゛;
話 は 聞 か せ て も ら っ た !
朝 倉 と 長 門 に は 山 ほ ど 説 教 が あ る !
保守
携帯用のURLだ…ゴメンナサイ。
『国木田の戸惑』次から投下します
259 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:11:19.55 ID:EaHbGfcjO
あれ以来ちょっと涼宮さんの様子がおかしい。何だが妙にキョンの方を気にしてるっていうか…あと僕にも結構話しかけてくるようになった。
とは言っても仲良くしてもらうのなら嬉しいんだけど、すっごい喧嘩腰なんだよね…。ひょっとして敵視されてる?僕。
鶴屋さんはどう思う?
「ふむーっ」
はははっ、おかしな顔で考えるんだな鶴屋さんて。
「わかった!」
は、早いね…最初から分かっていたんじゃない?
「ハルにゃんは複雑なよーで単純だからねぇっ。簡単っさ」
アイスティーをごくりと飲んで言う鶴屋さん。鶴屋さんは単純なようで複雑だよね。なんて事は言えないけど。
「それより国木田くん、仲良くしてくれるのが嬉しいってのはちょっと聞き捨てならないねぇ」
…ほらね?
−−−−−−−−−−−−−−−
260 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:13:56.27 ID:EaHbGfcjO
喫茶店を出て、段々暖かくなってきた並木道を歩くのがお決まりのコースになっている。
手を繋いでるんだけど、僕は鶴屋さんの長い髪がさらさら揺れるのを見るのが好きだから一歩後ろを歩くんだ。
絵的には引っ張られてる感じでちょっと格好悪いけどね。
やがて、川沿いに置かれたベンチにすとんと二人して座る。
さっき、わかったって言ったよね?どういう事?
「そんなにハルにゃんにどう思われてるか気になるのかいっ?」
…ち、違うよ。僕が好きなのは…あっ!
真面目顔の僕を鶴屋さんがニコニコ見つめていた。
「にゃははっ♪」
むむっう、つっつかないでよ…もう。
−−−−−−−−−−−−−−
支援
262 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:15:09.80 ID:EaHbGfcjO
「ハルにゃんは身近なあたしたちが付き合い出したせいでキョンくんをすっごく意識してると見たねっ」
ん〜そうかなぁ。涼宮さんがキョンを気にしてるのは前からだと思うけど。
「何て言うのかなぁっ、気にし具合が増したっていうかさぁ、多分あの子キョンくんとあたしと国木田くんみたいな関係になりたいんじゃないかなっ」
付き合うって事?
「ラブラブになるって事っさ♪」
うぐ…ずるいなぁ。僕が鶴屋さんを照れさせる時は僕もドキドキなのに、何てことない表情でこういう事言うんだもん。
何も言い返せないよ。
「ふふん♪だから、きっとハルにゃんが国木田くんにやたら話しかけてくるのはキョンくんの事をいろいろと聞き出そうとしてるんじゃないかなっ。
あたしはそう推理したよっ」
う〜んなるほど。そう言われるとそうかもしれない気がしてきた。でもなぁ…それにしちゃああの態度は−
「そうじゃないほうがいいって?そんなにハルにゃんに好かれたいのかなぁっ?」
……
今度は僕が鶴屋さんの頬をつついてやった。
「じょうでゃんじょうでゃん、ムニュニュ、そこでだねっ、ちょっと耳貸してっ…」
−−−−−−−−−−−−−−
263 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:16:25.56 ID:EaHbGfcjO
うぅーん…どうしようかなぁ。
昨日からずっと考えてる。せっかくの日曜なのに。まぁ、元々塾だったし休みじゃないようなものだからいいか。
『さりげなくハルにゃんにキョンくん情報をリークしてあげるっさ♪』
耳元で鶴屋さんが楽しげに囁いた言葉。さりげなくって言われてもなぁ。
涼宮さん鋭そうだし、キョンにばれないよう情報横流しするのってかなり難易度高いよ。
でも放っておいたらいつまでたってもあの二人が付き合う時は訪れない気がする。
高一からあんなに仲良いのにそれじゃ涼宮さんがあまりにかわいそうだ。キョンは鈍すぎだよ。
…うん、決めた。明日から鶴屋さんに言われた通りにしよう。鈍キョンにはお灸が必要だ。
あっ、もうこんな時間だ。塾に行かないと。
−−−−−−−−−−−−−−−
264 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:17:18.54 ID:EaHbGfcjO
弱点だった英語も鶴屋流感覚翻訳術で結構分かるようになってきた。ふふふ、これであの大学に一緒に行けるかも。
涼宮さんに似た声の人がトップランナーって番組で『目標は決めたくない』なんて言ってたけど、受験生には目標は必要だね。
どんどんそれが近づいてきてるのが数字で実感できて、自信にもなるし。何より勉強が苦にならないのがいい。
さて、今日は母さんも父さんも遅くなるみたいだし喫茶店で勉強しよう。昨日鶴屋さんが飲んでたストレートアイスティーでも飲みながら。
…このチョイスは失敗しちゃったかも。昨日の彼女の言葉を思い出してどうしても明日学校でどうするかを考えてしまう。
「おや」
「また会ったね」
苦笑してる僕に声をかけたのは佐々木さんだった。
−−−−−−−−−−−−−−−
265 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:18:39.84 ID:EaHbGfcjO
「前回とは打って変わって上機嫌じゃないか。悩みが解決したようで何よりだ」
向かいの席に座った佐々木さんが言う。あの時佐々木さんと話した事が僕の心を後押ししてくれたのは確かだ。
佐々木さんのおかげだよ。勉強にも集中できるようになったんだ。
「くっくっ、それにしてもあの時のキミは完全に心ここに在らずのようだった、あれほどわかりやすい人間はキミくらいだ」
そうかなぁ。僕はキョンの方がわかりやすいと思うけど…
「キョンは第三者的視点で見た時『何かを隠している』とか『自分の本心に気付いていない』という事については外見から判断しやすいと言えるね。
しかしキミは殊に恋愛沙汰となると非常に本心を推測しやすい表情をする。
有り体に言えばキョンは隠し事をしているという事を隠せない、そしてキミは隠している事そのものが明け透けだという事だよ」
言い終わって喉を鳴らして笑う佐々木さん。けど僕の耳は後半をほとんど聞き取っていなかった。
支援するよ
267 :
国木田の戸惑:2008/06/03(火) 19:23:19.61 ID:EaHbGfcjO
佐々木さんの事を考えると、鶴屋さんの作戦を実行するのには結構…いやかなり気が引ける。やっぱり自然な流れに任せるのがいいんじゃ…
っていうか今この場でキョンの名前出したのが完全にミスだよね。僕はバカだ。
謝るのもおかしいしな、どうしよう…。
「大丈夫だよ」
え…?顔を上げると佐々木さんは微笑んで、
「僕はキョンを恋愛対象としては見ていない。あぁ、よき友人だとは思うよ」
思わず鏡を探してしまった。そんなに僕、わかりやすい?
「くっくっく、彼女さんには隠し事をしないことだ。では僕はお先に失礼するよ。バスが無くなってしまう」
そう、それじゃ…
「あぁそうそう、キョンと涼宮さんの事だけれど、存分に応援してやってくれたまえ。
お互い親友に鈍感などという不名誉な称号を定着させたくないだろう?」
と言って手を振った彼女の顔には、清々したような笑顔が広がっていた。
ちょ、ちょっとトイレで鏡を見てこよう。表情はこのままで。
こんなに考えてる事を完全に読まれるとは思わなかったよ…。
鶴屋さんにも読まれてるのかな。恥ずかしいな。
なんて事を佐々木さんの背中を見送りながら考えていた。もう勉強なんかできないのは確定だ。
帰って寝よう。
おしまい
乙です!ちょっと質問!これって続きますか?
家の電波悪すぎワロタ
支援アリガトゴザマシタ。こっちは頭使わないですむからつかれないのだ
>>268 もしかして国木田の憂鬱の作者さん?多分続くと思いますけど、タイトルは被らないように次からいろいろと考えます。
ただ『陰謀』は使いたかったりするw
さて、19時40分から投稿したいと思うのですが、いくつか問題が・・・
銀河英雄伝説外伝とのクロスオーバーなのです。
まあ、問題ありという意見がでたら、止めますので、投稿してよろしいでしょうか?
>270様
『国木田の憂鬱』の作者ではないですよ。続くときは感想を書かないので確認したかっただけなのです♪
続編続くなら楽しみにしてますね。
これは、涼宮ハルヒの憂鬱と銀河英雄伝説外伝「ダゴン星域会戦記」とのクロスオーバーですが、
後者を知らなくても大丈夫なように書いてあるはずです。不都合な点があるときは指摘してくださいね。
では、拙作ですが、投稿開始!
『クロトス星域会戦記』
宇宙暦640年は人類の歴史上、辛苦の・・・じゃない、あれ?でも間違っていない気もするな・・・真紅の文字を持って特筆されるべき年である。
この年の2月、銀河帝国とSOS同盟(The United Stars of Sagittarius)の二つの勢力がはじめて接触し、長きにわたる抗争劇の幕が音も無く開いた。そして、12月には帝国の遠征軍と迎撃する同盟軍との間に、大規模な戦闘がおこなわれるに至った。
世に言う、「クロトス星域の会戦」である。
自分の店はコスプレ会場ではない、とは、SOS同盟の首都星ケイロンで安ホテル「ガウディ」を営む主人がことあるごとに主張するところだが、
真摯なその訴えを信じるものはケイロンどころかSOS同盟内にも一人もいなかった。
今、彼の前にたたずんでいる青年も、主人の主張をまったく信じていないのは明らかだった。
そもそも、彼の店をコスプレ会場にしている諸悪の根源(by ガウディ主人)のお仲間なのだから・・・
「あいつはここに来ているか?」
不機嫌そうな声で無愛想な質問をするその青年の本名をガウディの主人は知らなかった。
彼の仲間たちもあだ名でしか彼のことを呼んでいないようだったし、主人にとっても重要なことでは無かったからだ。
後に、彼らの写真をフロントの壁一面に貼り付けて、代々語り継ぐことになろうとは、予想もしていなかったであろう。
「ええ、今日『も』 来ておりますよ。いつもの505号室です。」
主人は慇懃にそう答え、部屋の場所を館内案内で指し示した。
「ハルヒ、居るか?」
青年の声に反応して出てきたのは、可憐なという印象のメイド姿の女性だった。
もちろん、このホテルの制服などではない。
「キョンくん、いらっしゃい。涼宮さんなら中にいます。」
「お久しぶりです、朝比奈さん。朝比奈閣下とお呼びした方がいいですか?」
「軍学校時代からの仲間じゃないですか。堅苦しい呼び方はやめにしましょう?」
「そうですね。」
初めて、青年は顔をほころばせた。
「あら、キョン。どうしたの?今日も軍務で忙しいとか言ってたのに。」
部屋の中にはさらに二人の女性の姿があった。一人は窓際でこの時代では希少となっている『紙の』本を読んでいる軍服の女性
、その襟章は若さに似合わない少将のものであり、小柄なこともあってコスプレの参加者と誤解されることしばしばなのであった。
そして、もう一人が今、青年に声をかけた勝気な印象の女性であった。
歴史上、先ほどのメイド服の女性を含めてSOS同盟の三女神と呼称されることになる女性たちである。
「ハルヒ・・・お前も呼ばれていただろうが・・・」
「そうだっけ?みくるちゃんたちとの約束があったから忘れてたわ。」
やれやれと青年はため息をつく。涼宮ハルヒという女性は軍学校時代から、この辺はまったく変わっていなかった。
「岡部から命令書を受け取ってきた。お前の分もある。朝比奈さんたちには明日渡すそうだ。」
「ふーん、キョンとあたしだけに先に渡すってことはこの前の始末書が原因じゃなさそうね。」
「お前、あの始末書の件の呼び出しだと思って、サボったな?」
「さあね。どうだっていいじゃない。で、内容は何?」
彼女は、命令書を机の上に放り出して、そう尋ねた。
「その命令書に書いてあるだろうが・・・といっても、読まないよな、お前は。」
「わかってるじゃない。」
「俺の軍人生活でおそらく二番目に困難な命令だ。お前と組んで、帝国軍を迎撃せよ・・・だとよ。お前が司令官、俺が参謀長だ。」
「楽しそうね、それ。SOS団のメンバーは集めてくれたのかしら?」
やれやれといった印象の彼とは反対に涼宮ハルヒは目を輝かせていた。
「今回は演習じゃないんだぞ。この前みたいに突出したら、死ぬことになる。」
「わかってるわよ。キョンだって、あの帝国相手にいつかは戦うことになるって、軍に入ったときから覚悟していたでしょ?SOS団員に敵前逃亡は許されないわよ!」
「まあ、言われるまでもないさ。予想より早かったな。」
退役して年金生活になるくらいまで大丈夫だと思ってたんだがなあ。これもハルヒと知り合っちまったせいかな・・・などと不謹慎なことを彼は思っていたのだが・・・
「そうだ。さっきの質問だが、岡部教官、まあ、今は岡部本部長だな・・・は、わかるひとだからな。古泉たちももうすぐここに呼び戻されることになるだろうよ。久しぶりにSOS団勢ぞろいってわけだ。」
「持つべきは話のわかる上官ね。しかし、岡部も出世したものよね。」
「お前ほどじゃないだろ、SOS同盟最年少の中将で宇宙艦隊司令長官、涼宮ハルヒ閣下。」
SOS同盟最高評議会議長、つまり元首にして最高行政官であり、さらに軍最高司令官でもある田丸氏は、強力な指導者としてよりは温厚中正な調停者として評価されていた。
風采は上がらないものの能力的にも人格的にも政治家としての評価は高かったが、帝国軍との戦争という事態の発生を国民が予想していたなら、おそらく元首として選ばれたかは疑わしい。
紳士ではあっても、巨大な危機に際して頼りになる人物だとは、考えられていなかったし、本人もその評価は正しいと思っていた。
強力な指導者としてのイメージは、むしろ田丸氏の対立候補であった国防委員長の方にこそ強かった。
彼は、田丸氏よりも20歳近く若く、最高評議会議長としては若すぎるため議長の椅子を田丸氏に譲ることになったと言われていた。
しかし、軍士官学校の代表を務めて以来、軍部の綱紀粛正に尽力し国民の評価を受け、首都星ケイロンの議員として選出され、経済及び社会改革で政治家としての手腕を認められており、
現在はともかく10年後には議長の椅子は彼のものになるであろうというのが、大方の予想となっていた。
このとき、彼は進歩派の旗手として田丸氏の対立候補となり、敗れた後、田丸氏からの入閣の求めに応じて国防委員長の椅子を得ており、涼宮ハルヒを上回る出世であるといえた。
なお、彼もまた、涼宮ハルヒと同時期に軍士官学校にいた為、後世の歴史家の中には涼宮ハルヒの一派とみなすものもいるが、本人はそういわれることを激しく嫌っていたらしい。
今回の人選を聞いたときも、彼は田丸氏のオフィスを訪れ、苦言を述べる義務が自分にあると感じていた。
「軍最高司令官でもある議長が、岡部統合作戦本部長の進言でお決めになったことですから、私としては、認めざるを得ないわけですが、できればご再考願いたいものです。」
「そうかね?」
「あのトラブルメーカーズに国家の命運を任せるというのは、どうかと思いますが?涼宮ハルヒという女性のことはご存知で?」
「わたしも直接会ったことがあるよ。よくない噂もあるが、無能でも臆病でもなく、部下からの評判もよいと聞いているが?」
「たしかに、彼女はその点では間違いありません。」
田丸氏の発言を肯定した上で、委員長は付け加えた。
「しかし、士官学校卒業以来の上司からの評価はほとんどが最低です。とにかく、教師、上官、国防委員たちに対する態度は最悪です。彼女を評価したのは、岡部本部長と・・・」
しえn
「そして、君だ。」
田丸氏は委員長に手に持ったペンを向けてそういいきった。
「わたしは評価に私情を挟むことはしません。能力は能力として評価します。」
「その通りだね。上司からの評価は悪いが、有能なトラブルメーカーであるからこそ、最上位に置いておく方が中間に置いておくより、よい結果を生むというものだ。
その点ではわたしの経験を評価してもらいたいね。」
田丸氏は年長者の余裕をもって、そう答え、委員長はそれ以上反論する術を失うこととなった。
認めたくはなかったが、彼もまた同意見であったからである。
委員長はタバコを取り出し、一服した後、
「・・・なるほど、そういうものかもしれないですね。」
そう付け加えて、田丸氏のオフィスを辞することとなった。まさしく、しぶしぶ認めるといった風であったが・・・
そして、国防委員長はオフィスに戻るなり、涼宮ハルヒの暴走に歯止めをかけるため、とは言わずに、
「戦場外で戦闘の勝敗を決するのは情報と補給だ。」と岡部本部長に宣言し、情報と補給を担当する後方勤務本部の設置を命じ、
涼宮ハルヒが嫌がりそうな艦隊の準備・整備・補給・戦闘予想宙域の情報収集及び帝国辺境の動きなど地味だが重要な仕事を岡部本部長と
喜緑後方勤務本部長(新任)の二人に一任した。
その結果、涼宮ハルヒらは、戦略及び戦術レベルの検討のみに集中できたといわれている。
国防委員長が個人的な友人でもある(好意を抱いていたという説もある)喜緑後方作戦本部長への労いを兼ねて、士官専用の高級レストランへ訪れ、
そこで食事をする涼宮ハルヒとキョンと出会ったのは、ハルヒたち二人が辞令を受け取った二週間後、準備万全な艦隊の出発前日のことであった。
「涼宮君、出発前日に二人で食事とは実に悠長なことだ。この戦いに負ければ、SOS同盟は滅び、帝国の専制支配下の一地方となるというのに。」
かなり嫌味のこもった声であり、涼宮ハルヒの性格を知る周囲の同盟士官たちに緊張が走った。
「へえ、一大事ね、それは。えっと、デザートにプリンアラモードとアイスコーヒーね。キョン、ウェイターを呼びなさい。」
涼宮ハルヒは委員長の嫌味を軽く受け流し振り返りもせず、食後のデザートをキョンに命じていた。
「食欲があって結構なことだ。君はこの国よりデザートの方が大事なのか?」
あきれたように委員長はいった。その下手な皮肉も涼宮ハルヒにはまったく効果はなかった。
「あたしは好きなものを食べられる国家だから、守ろうと思うのよ。そうじゃないなら、こんな国のために危険を侵す気はないわ。それに、たとえ国防委員長でもプライベートを邪魔されるのはあたしの士気の低下につながるから、国家反逆罪で軍法会議で死刑にしたいところよ。」
「相変わらずだね、君は。まあ、健闘を祈る。君たちにこの国の命運を任せるのは私としては不本意だが。」
「あんたに祈られたら、幸運の女神とやらも逃げちゃうでしょ?さっさと消えてよ。」
「了解だ。私の方もこれ以上会話を続けるのは無駄と感じていたところだ。」
「いいのか、あんなことを言って?」
国防委員長が奥へと去った後、キョンがお前はまた・・・という表情でそういった。
「いいのよ。勝てばあいつは何もいえないし、負ければこの国が滅んで、あたしたちも戦死か、よくても帝国の政治犯収容所行きよ。」
そう言い放つ涼宮ハルヒの言葉に、
「あいつ、何で俺たちに声をかけてきたんだろうな?ほっといてくれればいいのに。」
そう答えながら、あいつと話すとハルヒの機嫌が悪くなるからなあ・・・とキョンは思い、コーヒーを口にした。
なお、キョンはあれは国防委員長なりの激励ではなかったかと、後日回想している。
涼宮ハルヒと国防委員長はとにかく仲が悪かったという説をとる歴史家もいれば、反発しながらも理解しあっていたのではないかという歴史家もいる。
本当のところを知るものは、本人たちしかいないのであろう・・・それすらも定かではないが・・・
翌日、涼宮ハルヒ提督の艦隊は、ハルヒ提督以下、キョン参謀長、長門有希、古泉一樹、朝比奈みくるの4名の少将と谷口、国木田、鶴屋、阪中他の合計8人の准将の指揮の下出撃した。総兵力は約3万隻SOS同盟が準備できる最大規模の艦隊であった。
一方の銀河帝国は、人類発祥の地である地球からつづく正統な政府であると自称しており、歴史的にはそれは正しかった。
彼らの立場では、SOS同盟は一世紀近く前に逃亡した政治犯の子孫に過ぎず、すでに三世紀に渡り人類に君臨するこの皇帝専制の帝国のみが国家であるということになる。
クロトス星域会戦を指揮した人物については、当時の第二十代皇帝の次男であるということは伝えられているが、名前などは歴史的に抹殺されており、不詳となってしまっている。
同様の理由から、指揮下の提督たちの名前も不詳であり、今後の歴史家の努力に期待するしかない状況である。
なお、長男である皇太子が病弱であることから、皇帝は次男への皇位継承を考え、彼に指揮を任せたというのが定説である。
今回の記録では、指揮官を大公、各提督をA、B、C、D、Eと仮称させていただくが、これは記録作成者の手抜きではないとご理解いただきたいものである。
参加した軍人の中で、名前のわかっている最上級者は、参謀であった朝倉涼子大将である。
なお、帝国軍には大将の上に上級大将があり、各提督たちはそこに位置し、大公は出撃前に元帥の位を得ている。
銀河帝国側の指揮官の人選に否定的な発言をした人物がいることも知られている。
それは、皇室に連なる佐々木公爵夫人であり、後に銀河帝国第21代の女帝として君臨する人物である。
佐々木公爵夫人は夫人と呼ばれているが、帝国では珍しい女性当主として知られており、男性として生まれていれば、大臣として辣腕を振るっているだろうという評価をすでに得ていた。
「僕としては、今回の遠征の3つの不利な点を指摘せざるを得ない。
ひとつ目は、時間の不利だ。準備時間が不足している。調査と情報収集よりも遠征を急ぐのは危険であると指摘したい。
ふたつ目は、地理の不利だ。これは情報の不利ともリンクしているが、遠征の距離は過去の実績をはるかに超えており、帝国はこれほどの距離の遠征の経験がない。補給などの点でも不利となるだろう。
最後に、人的資源の不利だ。指摘した二つの不利を抱えた状態の遠征に熟練の提督ではなく、苦労知らずの若造に委ねるのは危険極まりない。
以上、三点から今回の遠征を延期し、再検討すべきだと思う。」
後に佐々木女帝は、この指摘を行ったことを自分のミスであったと認めている。『発言内容に』、ではなく、『発言したことに』対してである。
「正鵠を射る指摘というものは、かえって相手を意固地にさせるものさ。僕も若かったからね。」
というのが、記録に残されている女帝の述懐である。
事実、佐々木公爵夫人はこの発言で皇帝の不興を買い、公国領の半分を没収され、さらに、領地での蟄居を命じられている。
蟄居期間中に敗戦による宮廷の混乱を予想し、それの対処を行っていたのはさすがは後の帝国中興の祖というべきだろう。
佐々木公爵夫人の指摘に反発するように、皇帝は長距離移動能力を有する軍用及び民間用宇宙船の大規模動員を急テンポで実施した。
民間船舶は、不足する輸送力及び索敵能力の補助を目的としている。これは、人類が地球という一惑星の上で活動していた時代にも見られたものである。
この銀河帝国建国以来最長の遠征に参加した大公殿下指揮下の艦隊は約7万隻うち補給艦艇など民間徴用船が3万隻を数えるもののSOS同盟の2倍以上の兵力であった。
はじめて両軍の索敵艦艇が接触したのは、銀河系中央部の不安定地帯である。
帝国軍の中でも優秀な参謀として、地方反乱鎮圧などで実績を積んでいた朝倉大将は、このような不安定地帯で戦闘を行うことに対して、大公殿下に意見具申を行った。
「この付近は、未知のブラックホールや白色矮星などが多数存在します。情報を集めたあと行動を開始しましょう。」
この意見に、早急に戦果を上げ皇位継承者としての地位を確立しようと望む大公とその取り巻きである提督たちは非難の声をあげた。
「勇将と名高い朝倉参謀の言葉とも思えんな。民間徴用船を先行させ、情報収集及び索敵を行いながら、主力を前進させる。それでよいではないか?」
「それでは、民間人に無駄な犠牲者がでます。」
「平民どもが大公殿下のために血を流すのです。大公殿下即位のあかつきには名誉の戦死として、報いてさしあげればよいのです。」
朝倉参謀は、この言葉を聞いて、犠牲になるであろう民間船舶の乗員の運命とそれを軽視する帝国内の風潮に危機感を感じていた。
この戦いというよりも、今後の帝国の運命に暗澹たる思いを抱かずにはいられなかったからである。
結果として、三千隻あまりの民間船を犠牲にして、帝国軍はSOS同盟軍の位置を把握することができた。
この損害を多いと考えるか、少ないと考えるか・・・犠牲となった十五万人にも及ぶ民間人の声は記録に残っていない。
わくわく支援
「やっと来たわね!全軍突撃!」
帝国軍が不安定宙域の中の安全な回廊部を抜けてきたのを確認したハルヒ提督はそう発言したが、
その命令は、通信オペレーターに命じて回線をOFFさせていたキョン参謀長の機転により、全軍に通達されることはなかった。
「まてまて、ハルヒ。回廊部出口で迎え撃つのも手だが、こちらにも相当の損害がでる。
ここは、長門が計画してくれた作戦に基づいて行動すべきだと思うが?」
「なによ、キョンは有希の判断の方が正しいと思うわけ?」
「長門の意見に聞くべきものがあっただけだ。情報では、おそらく敵の先頭は民間徴用船だ。
これを虐殺したとして、お前は戦果として胸を張れるか?
それに、こちらはその武装商船群と戦ってその損害を受けた後、後から続く帝国軍主力と戦うんだぞ?
それに朝比奈さんの補給艦隊も合流していない。」
「そうね。あたしとしても英雄って呼ばれるならともかく虐殺者って呼ばれるのはできれば避けたいわね。じゃ、計画通りにクロトス星域へ移動!戦闘開始はディナーの後ね♪」
涼宮艦隊はその全兵力をクロトス星域へと移動し、それを察知した帝国艦隊も続くことになった。
「・・・ここはまるで異空間ね。」
朝倉参謀は、クロトス星域に味方艦隊が集結したことを確認し、周囲の情報を収集した後、つぶやいた。
クロトス星域は銀河中央部の星域らしく、付近にブラックホールが複数存在し、そのため多数の宇宙潮流とでも呼ぶべき小惑星群の流れが存在していた。
しかも、その中には金属を多量に含有する小惑星もあり、レーダーなどの探知システムがほとんど使えない環境であった。
朝倉参謀としては、全軍をむやみに散開させることなく、周囲の情報を把握し、敵の本隊の位置を把握した後、全力で叩き潰す。
という、帝国軍の常道とも呼べる作戦を展開する予定を立てていた。
帝国軍の索敵隊をSOS同盟小艦隊が潰すという小戦闘の繰り返しの中で発生したお互いの戦闘艦隊同士の初対決は、帝国側に勝利の凱歌が上がった。
谷口准将の指揮する約一千隻の小艦隊が、帝国軍の索敵隊をつい深追いしてしまった結果、朝倉参謀のつくった縦深陣へと誘い込まれ、
全体の五割を失う大損害を出してしまったのである。
幸いにして、長門、鶴屋、国木田の3艦隊がすばやく救援し、全滅は避けられた。
「なにやってんのよ!このナンパ魔!敵までナンパしようとでもしたの!?」
「すまん・・・」
「まあなんだ、ハルヒ。敵の力量を把握する威力偵察と考えて、谷口を許そうぜ。とにかく、帝国軍にも相当のやつがいるというわけだ。注意しないといけないな。」
「そうね。でも、全力で当たって来なくてよかったわよ。あいつらの本隊まで動いていたら、おそらくあたしたちの負けだったわね。」
「この宙域は帝国軍にははじめて足を踏み入れるミラーハウスみたいなものだが、俺たちには遊びなれた裏山だからな。不安なんだろ、敵さんもさ。」
不安ゆえに索敵完了まで動き出さないだろうという二人の予想は、まったく違ったかたちで裏切られることになった。
朝倉参謀は、大公殿下からの新たな命令をみて、呆然となった。
「敵は少数にして畏怖するに足らず。何をもって逡巡の理由となすや、各艦隊は直ちに攻勢に出るべし。
皇帝陛下の敵を殲滅し、帝国の辺境を平定するのだ!戦果をあげたものは地位も爵位も思いのままだ!」
この命令の結果、大公直卒艦隊を除く五提督の三万隻及び民間船団のうちの武装船一万隻あまりの艦隊は散開し
、各自で敵を見つけ殲滅するという無茶な命令に従うことになった。
「なっ、帝国軍が動いただと?」
「そんなはずはないわよ!帝国軍の索敵妨害は順調だったはずよね、有希?」
あまりにも常識外な帝国軍の動きを直接司令部にやってきた長門少将から聞いたキョン参謀長及びハルヒ提督はそう声をあげた。
「そう・・・帝国軍が把握しているこの宙域の情報はおおよそ5%。散開するには危険。」
「わからん・・・」
「どういうことかしら・・・」
二人は考え込んでしまい、しばらくの間、SOS同盟司令部内が静寂に包まれることになった。
「計画通りわたしが敵の後方をかく乱する。」
沈黙を破ったのは、意外なことに長門少将であった。
「今は危険すぎないか?」
「無茶しちゃだめよ、有希。」
二人の不安の声に対して、長門少将は昔から変わらない平坦な口調で、
「大丈夫、許可を。」
といった。
その様子に、決死の覚悟とかそういうものとは無縁な長門少将の性格よく知っているキョン参謀長は、
「よし、長門、やっちまえ。それでいいだろ、ハルヒ?」
といい、
「まあ、キョンがそれでいいなら・・・」
ハルヒ提督も許可し、長門少将は指揮下の三千隻余りの艦艇を率いて出発していった。
かたや、帝国軍の提督たちに降りかかっていたのは災難以外のなにものでもなかった。
散開した提督たちはお互いの情報交換・連絡・補給がほとんど不可能になってしまっていた。
ある提督に至っては、
「いったい敵はどこにいるんだ?」
と情報オペレーターにたずねる始末となった。
それより深刻だったのは、その答えの方であったが・・・
情報オペレーターは、
「それよりも、本艦隊がどこにいるのか、各艦艇はすべて追従できているのか、この2点を把握することの方が現在急務であると思われます。」
と答え、その提督を絶句させることになった。
キョン参謀長とハルヒ提督の困惑は、長門艦隊を送り出した後も解消されることはなかった。
とりあえず、各艦隊に対してヒットアンドウェイによるかく乱作戦を実施するなど戦術レベルでは適切に対応していたが、
敵の戦略があまりに常道から外れていたため、大きなアクションを起こせなかったのである。
その二人の困惑を解消する出来事は、意外な人物からもたらされた。
戦術対応に疲れたキョン参謀長が部屋でくつろぎながら、対策を検討していたとき、通信オペレーターとして乗り込んでいた妹がはさみを借りに来たのである。
「キョンくん、はさみ貸して〜」
「お前の部屋にも備え付けのがあったはずだぞ?」
「えっとね〜。壊れちゃった。」
「はあ?」
「通信機のネジがゆるんでいるところがあってね。それをはさみで回そうとしたら、折れたの。」
「・・・・・・」
このとき、キョン参謀長の頭に閃いたのは、地球時代から伝わる古い言葉だった。
そして、キョン参謀長は部屋を飛び出し、同じく軽い休憩を取っているはずのハルヒ提督の個室へと向かった。
「おい、ハルヒ!」
と扉を開けたキョン参謀長に、枕が投げつけられたわけだが、これは着替え中に飛び込んだ方が悪いというべきだろう。
「ノックぐらいしなさい!いくら・・・」
「それどころじゃない。帝国軍の意図がわかった。」
「・・・そうなの?」
「そうだ、一言で言うぞ。やつらは・・・というかやつらの指揮官は馬鹿だ。」
「へっ?」
ハルヒ提督にして、めずらしい間の抜けた声であった。しかし、しばらくして・・・
「・・・賛成ね。」
と短い同意の意思を表明したのであった。
二人の結論は、それまで二人が危惧していたどの条件よりありえそうにないものであったが、しかし、論理的帰結としては最も適合していたのである。
「結論から言うわ。これから、有希の艦隊を含む全艦隊は敵本隊を攻撃するわよ!」
ハルヒ提督は総旗艦アルナスルに出撃中の長門提督を除く艦隊指揮官たちを呼び集め、宣言した。
「あのぅ・・・涼宮さん、それはあぶなくないですか?」
「そうだぜ、もし敵の罠だったら、全滅するぜ?」
と朝比奈少将、谷口准将の2名が全員を代表するように不安の声をあげた。
「大丈夫よ!あたしにまっかせない。」
「まあ、詳しく説明するとだな。分散した敵艦隊は互いの連絡がまともに取れていないと考えるのが妥当だ。
したがって、敵本隊は孤立している。これは殲滅のチャンスと考えるべきなんだ。お前らはそう思わないか?」
ハルヒ提督の説明の無い自信まんまん発言をいつものようにキョン参謀長が補足する。
「そう考えることもできますが、やはり危険ではないでしょうか?」
「そうだよ。敵の罠だったら、反転包囲されて全滅だよ。」
古泉少将、国木田准将の二人が常識的な不安を口にする。
「そうね。反転包囲されたら、殲滅されましょう。その程度の危険を恐れちゃ勝てないのよ。」
ハルヒ提督は断言し、
「了解っさ。長門っちへの連絡は谷口くんにまかせるにょろ。めがっさ重要な任務にょろ。」
「ナンパ魔の谷口には最適ね。かならず、有希に連絡をつけてよね。」
すでに作戦を了解した口調の鶴屋准将の発言でSOS同盟の計画は決定されたのであった。
支援
帝国軍C艦隊が壊滅したのは、あまりに不幸な誤謬と偶然の産物であった。
このとき、長門提督は自分の艦隊を6つに分割し、通信によってそれぞれに指示を与えて、天才的な指揮で帝国軍を翻弄していた。
通常、長距離通信はこの宇宙時代の戦闘では使われない。敵に傍受されるからである。
しかし、長門提督は、あらかじめコンピューター内に実に数千通りの行動パターンを入力しており、そのパターン番号のみを伝達していたのである。
結果、帝国軍は傍受した情報を活用する術が無かったのだ。
そのような状態で混乱したC提督は長門提督の艦隊を味方と、D提督の艦隊を敵と誤認する過ちを犯し、
D提督艦隊に攻撃するため、長門艦隊に無防備な側面を晒した。
この機会を逃すことなく、右後方から長門提督は攻撃命じた。
「αは1852パターン、βは2253パターン、本艦隊はこのまま攻撃・・・」
その声は静かであったが、この一撃でC艦隊は25%を一瞬で失った。慌てたC提督は反転を命じようとして、
いまだ敵と誤認していたD艦隊に後方を晒す危険を恐れ、再反転の後、左に逃れようと試みた。
そして、秩序を失い大損害を出しつつなんとか逃れようとしているところで、不幸にも谷口艦隊に接触。
C提督は旗艦ごと蒸発することとなったのである。
D提督が気づき救援にはせ参じたときには、C艦隊は旗艦を含む80%を失っていた。
「この無能参謀が!」
C提督戦死の報を受け取った大公は、衆人環視のなかで、朝倉参謀をののしり、参謀の階級章を引きちぎったのである。
屈辱に手を振るわせる朝倉参謀に大公は追い討ちをかけた。
「朝倉くん、君は君の大切な民間船団の指揮でも執っていればいいのだ。出て行きたまえ。」
そう言い放ち、朝倉参謀を総旗艦から追い出した。この事実を知ったとき、ハルヒ提督はこのとき勝利が決まったのよ。といったものである。
しえn
同盟の罠は着実に帝国軍を締め付けはじめていた。
本隊の周囲に敵艦隊が集中しはじめていることに大公が気づいた時、彼は最後にして最悪の選択をおこなってしまった。
ごく普通に長距離通信を発し、総旗艦の位置、本隊の孤立の事実、各艦隊の動きと補給の不備そのすべてを同盟側に明らかにしてしまい、
同盟に自己の有利を帝国に不利を確認させてしまったのである。
さらに、朝倉参謀が慎重に行おうとした兵力集中を拙速に行った結果、脱落艦を続出させてしまったのだ。
「全艦突撃!敵の指揮官を地獄の業火で焼き尽くすのよ!」
ハルヒ提督の激とともに、同盟軍の爆発的大攻勢がはじまった。
「エネルギー艦からの補給は完了しましたか〜。」
「はい、朝比奈提督!」
朝比奈艦隊は補給艦隊という位置づけであったが、攻撃力が低いわけではなかった。
むしろ、無防備なエネルギー補給艦の随伴とエネルギー充填時間が必須な長距離ビーム艦を多数装備していたため、絶妙なタイミングで使用すればSOS同盟最大の攻撃力を発揮できる存在だった。
そして、その時が来たのである。
「では全ビーム艦総攻撃です〜、みくるビーム発射!」
一千隻を超える長距離ビームのそれは、ビーム光線というより光の奔流、いやむしろ光の壁であった。
攻撃の警報が鳴り響くなか帝国軍艦艇は回避するすべを失い、右往左往の挙句互いにぶつかり、光の壁の直撃により蒸発していった。
この瞬間にE提督は戦死したと言われている。
帝国軍は、よろめくように古泉艦隊の方へ流れていった。
古泉艦隊は突撃すべきタイミングだった。そして、彼は突撃した。
「第一命令!突撃!第二命令!突撃です!第三命令!全艦ただ突撃あるのみです!」
SOS団内でも温厚で慎重として知られていた彼が、猛将として歴史に名を留めているのは、この単純かつ強烈な命令によってである。
強烈な一撃に晒された帝国軍では、D提督がこのとき行方不明となったと記録されている。
この段階までに帝国軍主力艦隊は、提督三名他を失い、指揮系統がほぼ完全に麻痺してしまったのである。これ以降の戦いは実質虐殺に等しい状態となった。
朝倉参謀・・・この時点では民間船団指揮官が独自の命令を発したのはこの瞬間であった。
「民間船団の皆さん、戦術コンピューターのZ命令に基づき行動してください。これが最後の命令です。」
その結果、民間船団はくもの子を散らすように散開しはじめた。
「なにをしているのだね、朝倉くん。」
民間船団の不可思議な動きに気づいた大公は朝倉大将の艦に総旗艦を寄せて通信を送り詰問した。
「民間船団に降伏許可を出したのよ。」
朝倉大将は笑顔でそう答えた。
「なんだと?」
大公は敗北を続けて青ざめていた顔をさらに蒼白にした。
「このままでは全滅確実でしょう?わたしの指揮下で犬死は出せないから、降伏させたのよ。」
「すぐに取り消せ!従わなければ君を軍法会議で死刑に。」
怒り狂う大公に対して、朝倉大将は至って冷静であった。むしろ、冷酷であったというべきだろうか。
「うん、それ無理。だって、殿下はここで名誉の戦死を遂げられますから。」
「・・・なんだと!」
「無能な指揮官の下で死んでいった部下たちにヴァルハラで謝ってくださいね♪」
つぎの瞬間、巻き込まれないだけの距離を取っていた朝倉大将の艦及び周辺に集まっていた彼女の子飼いの部下たちの艦から集中攻撃を受け、総旗艦は爆砕された。
大公の最後の言葉はどの記録にも載っていない・・・
支援
『大公殿下は名誉の戦死を遂げられました。帝国軍参謀朝倉涼子の名において、全艦艇に戦闘行為の終結を命じます。
わたしたちの帝国本土への帰還は絶望的。ここはわたしの指示に従ってください。同盟軍司令官、通信回線を開き、降伏交渉に応じてくれることを希望します。』
クロトス星域の会戦はこの段階で事実上集結した。帝国艦隊のうち、A、B両提督の直率艦隊は抵抗をつづけたが、長門艦隊と鶴屋艦隊によって撃滅された。
ごく一部は脱出を試みたが、帰還できたのは千にも満たない数であった。
「あんたが朝倉?」
涼宮ハルヒの声には普段の横柄な態度に勝利の余裕がさらに加味されていた。朝倉涼子の裏切り行為も気にいらなかったのかもしれない。
「はじめまして、涼宮提督。帝国軍参謀 朝倉涼子です。」
そんなハルヒ提督の態度を気にする様子もなく朝倉涼子は少しやつれた声で答えた。
「堅苦しい言い方は無し無し。あたしたち同年代みたいだし、もうちょっと気軽に話しましょう。」
「変わった人なのね。」
朝倉涼子の顔に普段の笑顔が戻っていた。
「それで帝国軍は全軍捕虜ってことでいいのかしら?」
当然のごとく、ハルヒは宣言したが、朝倉の答えは彼女の予想とは違っていた。
「本来そうなのよね。でも、それ無理。」
「ふーん、抵抗するの?」
意外そうにハルヒがいうと、
「違うわよ。わたしたち軍人は捕虜でいいわ。でも、民間船団の人たちは言葉通り民間人なのよ。
捕虜じゃなくて亡命者として扱って欲しいの。本当なら帰国を希望したいところだけど、おそらく、帰国したら収容所送りだから。」
と朝倉参謀は依頼してきたのである。
「最終決定件は田丸議長にあるから、完全に約束はできないけど、あんたの主張には一理あるわね。あたしの職にかけて約束するわ。」
涼宮ハルヒのその答えに朝倉涼子はほっとした表情になり、最後に付け加えた。
「ありがとう、涼宮さん。」
・・・帝国軍参謀 朝倉涼子大将が自害したのは、SOS同盟首都星ケイロンへの到着直前のことであった。
かくして、クロトス星域の会戦は、銀河帝国の敗北をもって終了した。
これは、銀河帝国とSOS同盟の長い抗争劇の始まりではあったが、ある人物にとっては最初で最後の艦隊戦となった。
「あたしの役割は終わり。帰国したら退役するわ。」
と涼宮ハルヒが宣言したのである。
「はあ?」
「なんでですか?どうして?これからどうしたら?」
「・・・意外。」
SOS団5人で集まって勝利を祝っているときに、行われたその宣言に、普段から笑顔で表情の読めない古泉を除く3人はそれぞれの反応を示した。
「だって、この勝利で大将でしょう。退役後には元帥くらいにはしてくれるはずよ。」
「まあ、それは確実だろうな。」
ハルヒの発言にキョンは同意する。
「それに朝倉の話だと帝国は外征艦隊のほとんどを失ったって。だったら、数年から十数年は攻めてこないはずよ。だから引退。」
「ずいぶんと唐突だな。」
「馬鹿キョン。あたしの夫なんだから、妻の気持ちくらいわかりなさいよ。」
ハルヒ提督は珍しく顔を真っ赤にしていた。アルコールの影響ではないだろう。
「なるほど、涼宮さんはそろそろ・・・むぐっ」
アルコールの影響でじょう舌になっているらしい古泉の口を長門有希が塞いだ。
「まっ、面倒ごと古泉くんたちに任せるってことで後よろしく〜。」
そう誤魔化して、勝利の立役者は夫の腕を掴みながら、私室へとひっぱって行った。
しえん
亡命者の扱い(涼宮提督は帝国貴族を除く希望者全員を亡命者として扱うことを命じた)、捕虜からの情報収集、損害集計などの雑務は、すべて古泉、長門、朝比奈の3少将へと委ねられたわけであるが、
彼らは特に不満を述べるでもなく、適切にこなした。
この会戦から数ヵ月後、涼宮ハルヒは双子を出産、育児に専念する日々を送る。
キョン参謀長は、ハルヒ元帥の後任の宇宙艦隊司令長官となり、最終的には統合作戦本部長を務めあげ、SOS同盟初の夫婦元帥となった。
彼の名は最高評議会議長となった元国防委員長と古泉国防委員長、朝比奈後方作戦本部長らと共に同盟黄金時代を築きあげた立役者の一人として歴史に燦然と輝いている。
長門有希はキョンの元で、艦隊総参謀長、情報部長を務め、キョンの仕事を陰ながらサポートし続け、同盟最高の参謀として、
そして新しい戦術システムの開発者として、SOS同盟では知らないもののいない存在となった。現在に至るまで、彼女の確立した戦術システムは士官学校の必須科目とさえいわれている。
涼宮ハルヒの子供たちが活躍するのは、後の世の話であり、この物語はここで筆をおくとしよう。
ある歴史家志望の青年の記録より
以上で完結です。支援ありがとうございました。
楽しかったです。ありがとう。
>>300 乙だぜ!元ネタ知らない俺でも十分楽しめたよ
投下終わりかけにしか支援できなくてすまん
乙!
304 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 20:52:29.35 ID:WB18UUu+0
>>300 乙!銀英伝とうまくクロスできてて非常に面白かった!!
306 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 21:27:27.86 ID:EaHbGfcjO
落ちた…?
307 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 21:31:01.16 ID:6vDA3DC6O
秘守
保守
保守
310 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 22:21:32.43 ID:6vDA3DC6O
ほ
保守
312 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 23:04:53.82 ID:411Gzeoe0
保守
313 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 23:12:55.03 ID:O0TWPLR40
保守
さて、今度はシリアスモード。
投下しまふ。
火曜以来、俺とハルヒはお互いに連絡すら取れずにいた。別に疎遠になったわけじゃないぜ。
あんな事をした直後だ、向こうも何となくどう接すればいいのか分からないのだろう。少なくとも俺はそうだ。
ホントにどう接すりゃいいんだ?邪推かもしれんがこっちから連絡すると体だけの関係だと思われそうだ等と考えてしまう。
そんなわけで今日まで五日間、口も聞いてなければメールもしていない。どうしたものかね。
「どう思う、シャミセン」
尋ねてみても元化け猫は喉を鳴らすだけだった。
…まぁ考えていても仕方ない。一週間もたてばどちらからともなく会う事になるさ。そのくらいの信頼関係は築けたはずだ。
それよりせっかくの日曜だ、久しぶりに睡眠欲を存分に満たすとしよう…。その方がいい…ふぁあ…
妹も出かけているし、よく眠れそうだ…。
−もしこの時の俺に声をかけるならこうだね。
『お前はどうしようもないバカだ、惰眠を貪るのはシャミセンの仕事だろう。さっさと起きて机の上を見ろ』
しかし後悔は先に立たずに後で悔いるから後悔なわけで、この時このアホは一片の悔いも残さずα波に沈んでいくのに夢中であった。
−−−−−−−−−−−−−−−
携帯がけたたましい着信音を鳴らす。ハルヒだろうか。いや、ハルヒであってほしいというちょっとした期待と共に通話ボタンを押した。
「古泉です」
…切っていいか?
「そんな事を言っている場合じゃありません」
電話の向こうから深刻な声が聞こえてくる。ここしばらくコイツのこういう声は聞いていない。何だ。
「長門さんから連絡がありました。時間平面に歪みが観測されたとの事です」
…それがどうした。
「…何者かが時間遡航してきたという事ですよ」
手短に用件を話せ。
言わんとしている事は俺にも分かるぜ?まだあの月曜の夜からそう時間は経っていないんだ。
分かるが認める事はできん。
「あの夜のあの男の言葉をお忘れですか?僕は少しでも可能性があれば潰しておくべきだと…」
忘れるはずがないだろう!
思わず荒げた俺の声に古泉は言葉を遮られ沈黙する。あぁ、意地になっているさ。
絶対に認められないものはあるんだ。こいつは朝比奈さんよりあの藤原を信じるというのか。
永遠にも思える沈黙を破って古泉が口を開く。
「…人は変わります。僕も長門さんも涼宮さんもあなたも…そして朝比奈さんも」
「あなたは朝比奈さんの成長した姿、異時間同位体を知っているでしょう?我々にとっては同じ時間に存在していたとはいえ、
あの愛らしい朝比奈みくると大人になった彼女との間にはかなりの時間の隔たりがあると推定できます」
一拍置いて、
「僕としても、いかに時間をおいてもあの朝比奈さんがあの男…藤原と言いましたか、彼の言うような凶行に出る等とは信じたくありません」
「しかし現在ですら刷り込みによっていくらかの心情操作…いわば洗脳は可能なのです。
未来においてその技術が更に高いレベルで確立されている可能性は否定できません」
ぐうの音も出ないとはこの事だ。俺は確かにあの朝比奈さん(大)の言動に不信感を持っていた。
未来の為に何も知らない者を利用する、そんな言動に。
だが、それはあくまで過去の自分自身にだけ向けられる物なのだからと自分を納得させていた。
自分の知っているはずの過去の事項が揺るがされていたら、全く違うものになっていたらどうする…
ここ数日で忘れようとしていた疑念が足元から沸き上がる。まさか本当に…?
「僕は長門さんと一緒に涼宮さんを探します。信じるか信じないかは今すぐ決めないでも結構です。
しかし協力はして頂きますよ。涼宮さんを発見次第あなたの家にお送りしますからそのつもりでいて下さい」
頭がごちゃごちゃになる。どうなっているんだ…時空平面の歪み…何者かの時間遡航…本当に朝比奈さんなのか?案外藤原じゃないのか?
電話が切れる。通話が切れた事を示すプーップーッ、という音が俺の頭に響いていた。
ほんの数秒だけ。
耳に当てたままの携帯が再び鳴り出したのだ。
思わず取り落としたそのディスプレイには−
−−−−−−−−−−−−−−−
319 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 23:23:00.81 ID:3u1bZIlo0
支援
「彼は来ません」
「そう」
「怒らせてしまいましたよ」
「仕方ない事。それは彼の長所でもある」
「信じる事…ですか」
「彼が怒ったのはあなたの事も信じているから」
「そうでしょうか…あまり自信がありませんが」
「わたしの見解では、SOS団内ではあなたが彼にとって最も良好な友人関係を結んでいる」
「……」
「本気で怒り諍う事の出来る友人関係は恋愛関係よりも得難い」
「そう…ですね」
「今は走って」
−−−−−−−−−−−−−−
ハルヒ、と表示されていた。
何だこのタイミングは。動悸を抑えつつ携帯を拾い上げる。通話ボタンを押すやいなや喋り出すのは高校時代から変わっていない。
「あ、キョン?思い出したんだけど…あ、あのこの前の火曜日にさ、あたしあんたの部屋にノート忘れちゃってさ」
恥じらいを含んだ声とあまりにも日常的な内容に脈拍が落ち着いていく。ほら見ろ、こいつはいつも通りだ。大丈夫、大丈夫…
「どこだ?」
「机の上」
「えっと…これか。持ってくか?」
「いいのいいの。もうそれ必要ないから。答えは見つかったし♪悪いんだけど処分しちゃって」
「はいよ」
「そいじゃね♪」
ハルヒの口から『悪いんだけど』などという言葉が聞ける日が来るとはね。まぁ何だ、何にしろハルヒの声が聞けてよかった。次はいつ会おうかね。
正直な所今すぐ会いたいって気持ちもあるのだが、今の電話でハルヒが会いたいと言わなかったって事はおそらく何かしらする事があるんだろう。
322 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 23:26:14.78 ID:3u1bZIlo0
支援
しかし見覚えのないノートが机の上にあるのに気付かないとは、どれだけ勉強しないんだと自分にツッコミを入れざるをえない。
そういや、ハルヒの大学とは語学の教科書は同じだったな。処分していいと言われたノートを覗いても罪にはならんはずだ。
頼むぜ神様、英語かフランス語のノートであってくれっ!
祈りを捧げてから開いたページには、俺を恐慌状態に叩きこむ字面が並んでいた。
『世界を大いに盛り上げるためのその二・現在、過去、未来全てに置いて突っ走る方程式覚え書き』
血の気が引き、一瞬で脳内メモリから高校一年三学期の記憶が呼び出される。
インチキ生徒会長との闘い。文芸部の機関誌作り。俺の恋愛小説…はどうでもいい、その時ハルヒが書いたのは…
『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』
それを読んであの人は何て言った?愛くるしい瞳を見開いて、
『これ、時間平面理論の基礎中の基礎なんです。…』
そうだ。それをハカセくんが見て…見るはずだったんじゃないのか?
しかしここには何て書いてある?『現在、過去、未来全てに置いて突っ走る』だ。『明日に向かう』からだいぶグレードアップしている。
今ハルヒは何て言った?『もうそれ必要ないから。答えは見つかったし♪』答えって何だ…?
不安が燃え上がり吐き気に変わる。ハルヒ、ハルヒ!
くそ、携帯がうまく掴めない。着信履歴の一番目にコール。早く出てくれ…!
「もしも…」
「今どこにいる!」
「んん?駅前よ。ビックリした、大声出さないでよ」
とりあえず無事らしい。
…朝比奈さんがハルヒを殺すとは思っていないさ。
ただあのバレンタイン頃の朝比奈さんとの不可解ミッションの時の規定事項に対する執着を思えば…
恐らく予定外に時間平面理論について重要な発見をしてしまっただろうハルヒを未来が放っておくとは考えられない。
「とにかく家に来てくれ」
「ど、どうしたの?珍しいじゃない…あ、あれ?」
「いいから来てくれ、頼む!」
汗が止まらない。携帯を握る手が滑る。くそ、古泉…早くハルヒを見つけてやってくれ!
と、ついさっきの自分を全く省みず我ながら自己中な事を思ったバチが当たったのだろうか。
最悪のケースを想像させるのには十分な台詞が俺の耳に飛び込んできた。
「なんか、みくるちゃんにソックリな萌えOLがいる!」
お、おわりである…
支援アリガトゴザマシタ…
327 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/03(火) 23:31:53.41 ID:3u1bZIlo0
乙 楽しみにしてます
乙!
SOS大戦の作者です。このスレって急に落ちたりするんですね…。
いきなり無くなっていたので驚きました。
遅くなりましたが、第4話を投下しようと思いますm(__)m
第4話『戦士、集結』
「現在、僕が把握している情報はこれぐらいです。なにぶん、事態は予断を許さない状況だそうでして…、
機関も対応に追われています。そこで、機関も本来はきちんとした場所で我々との会合を望んでいましたが、事態は一刻を争うらしく、こちらまで『地上の』機関の構成員がやってくるそうです。」
なんだと?でもハルヒのやつには何て説明する気なんだよ?まさか正直に僕は超能力者で、話し合いに来た人間は僕の仲間です、なんて言う気か?
「いえ、機関のことを涼宮さんにお話するのは早計かと。実は、僕は組織の末端の人間ですから…あまり詳しい状況はつかめていません。」
時間もありませんでしたしね。と古泉は付け足した。
「ですが、これから機関がとる行動は恐らく、貴方はもちろん僕も納得がいかない行動になるでしょう。」
「どういうことだ?」
「機関…正確には『月の』機関は涼宮さんの身の安全を確保したい。そのためには機動兵器が必要。何故だか解らないが、機関には機動兵器が存在する……。」
だからわざとらしく区切るなっての。
「失礼。要はそれを使って、記憶を操作されていない人間たちに闘って頂きたい…あの恐らく世界を改変した張本人が送り込んできた機動兵器と……。」
端的に、恐らく俺に理解しやすいように古泉は淡々と言う。
「何故なるべく記憶を操作されていない人間に闘って頂きたいか、それは涼宮さんを精神的に守ることにもなるからです。こんな世界を当たり前と思っている人間しか周囲にいなかったら、涼宮さんでなくとも精神的に参ってしまうでしょうから。」
カツーン、カツーン。遠くで足音が聞こえる。俺は一瞬、北高の生徒が担ぎ込まれて来たのかと考えたが、すぐに集中力を古泉に戻す。
「どうすれば世界を元に戻せるか?それは涼宮さんの奪われた半分の力を彼女に還元し、彼女に世界が元に戻るように願って頂く他ないでしょう。そのために機関が出した結論が…世界を改変したアンノウンと闘う、なのです。」
足音が近づいてくる。俺は、正直そんなのはごめんだと思った。俺だけならまだしも、朝比奈さんや長門まで巻き込めるか。機関の都合かなんだか知らんが、俺たちの命をなんだと思ってやがる。ふざけるな。
しかし──世界が改変された。これは全人類に普遍的に影響を及ぼす事実だ。なにも機関は利益を求めて行動しているわけじゃねぇ……。
「ちくしょう……そんなの、俺には決められねぇよ…。」
カツーン。足音が止まった。気づけば、その音の主は俺の左側に立ちつくしていた。
古泉の説明によると、この人物も機関の一員であるらしく、もう既に何人か病院に到着しているらしい。
俺たちの元へやってきたその女性は、漆黒のスーツで身を包み、サングラスをかけていた。まるで映画とかでよく見るエージェントだな、こりゃ。
古泉が言うには「さしもの涼宮さんでも、いきなりアンノウンと闘おうなどと考えはしないでしょう。命に関わることですからね。自分だけならまだしも、SOS団の団員を巻き込みたくは無い、そう考えるかと思われます。」 だそうで…
「ですので、闘わざるを得ない状況を、機関が作り出す必要がある。これが機関の上層部の考えです。僕もその『状況』を作り出す際の機関の行動については詳しく聞かされていません。ただ……。」
古泉は少し躊躇ったようだが「多少手荒な行動になるそうです。ですので、たとえ僕やあなたが納得がいかないとしても、これから起きる事を黙って何もしないでほしい、だそうです。」
と言った。おいおい、手荒なことをされて黙っているのか?ただでさえこっちは長門たちのことで苛々しているんだ。黙っていられる保証はないぞ。
「上層部の方は、決して誰かを傷つけたりはしないと約束してくれました。それに、闘わなければどのみち涼宮さんはもちろん、僕たちもアンノウンによる攻撃を受けるでしょう。ですので……。」
珍しく古泉は懇願するような表情を俺に向けていた。ちくしょう、俺だって解ってるさ。あんな話を聞かされたら、俺たちがまた襲われるってことくらいはな。そして、身を守るためには『力』が必要だってことぐらい…。
「それと一応補足しておきますが、涼宮さんは機関のことを知りません。もちろん、僕と機関の繋がりもそうです。ですが一応、これから涼宮さんを導く機関の面々は、涼宮さんに対してはこの世界の『軍』という偽りの立場で接するらしいです。」
らしい、ってのが少しひっかかったが、古泉も詳しく聞かされてないのだろう。
「ですので、今から行われることは軍による我々SOS団への尋問という形になるでしょう。まぁ、ひらたく言えば機関は悪役を演じることになりますね。ですが、これも涼宮さんや他のSOS団の団員……ひいては世界を守るために必要なことなのです。」
そうは言うがな、あまり納得はできんな。
「実のところ、僕自身もそうです。」
古泉が耳元で小声で囁いてきた。やめろ、吐息があたって気持ち悪い。
「すみません。ですが、彼女に聞かれたくなかったので。」
古泉は俺たちの少し前を歩く機関の構成員である女性を指差してそう言った。
「今回の機関の動きはいささか急すぎます。いくら元の世界とは組織の事情も変わっているとはいえ、今回は強硬手段もやむなし、と考えているようですしね。」
じゃあなんだ?お前も今回の件には不服なのか?
「ええ…。事情は理解できますが、涼宮さんの周りを機動兵器に乗った機関の構成員が守る、という策もあると思い提案してみました。。が、すぐに却下されました。」
いつになく古泉の顔は申し訳なさそうだった。
「いくら時間が無いとはいえ、涼宮さんに戦場へ行けというのは危険な賭けです。涼宮さんの身にもしものことがあったらどうするつもりなのか…。」
当たり前だ。もしそんなことになったら、俺は一人でも機関に殴りこみを仕掛けるぞ。
「ふふ、その時は僕も御一緒します。冗談はさておき、とにかく今回の件は僕も納得がいきません。ですが、立場上逆らうこともできなければ、涼宮さんたちの身を守るためにも、とりあえずはこれから起こる事態を静観しようと思います。」
解ったよ。俺も納得がいかんが、お前が今回の機関の動きに完全に同調しているわけじゃないのなら、俺も今から起こることは静観する。だが、誰かが傷つくようなことになれば、俺は暴れるぞ。
「解りました。ありがとうございます。」
あと、それから……
長門の件についてまだ疑問点が残っていた俺は、歩きながら古泉に訊いてみた。
「長門や他のインターフェースが情報操作を受けているかもしれん、というお前たちの推測は理解できたのだが…。」
「どうされました?」
「なら長門は今、人間なのか?それとも宇宙人なのか?」
「それは……すみません、そこまでは解りません。ただ、先ほど長門さんは貧血だと言いましたが、たとえそうではなくても、ここの医者には涼宮さんの前ではそう言ってもらう他ありません。」
俺は黙って古泉の話に耳を傾けた。
「ですが、僕がみなさんより先に医者に症状を伺ったところ、その際にも貧血だと言われました。以前の長門さんのままだったら、貧血なんて起こすでしょうか?」
「それはつまり、長門は普通の人間になっちまったってことか?」
「その可能性もありますし、記憶が操作され能力は制限を受けているが、本質的には以前の長門さんと変わっていないということも考えられます。」
「そうか……。」
ややこしい上に腹が立つ。アンノウンや強行手段に移ろうとしている機関の面々に対してもだが、何より長門に何もしてやれない自分に、な。
そうこうしているうちに、俺たちは長門の病室まで戻って来た。中が何やら騒がしいが、もう既に何か始まっているのか?
「先に到着している組織の者です。多少荒っぽいやり方になりますが、こちらの言うとおりにして頂ければ、危害は加えません。」
そうサングラスをかけた女性は言った。気に入らない物言いだったが、今は何もできない。言われた通りにするしかないのか…。
中に入ると、俺たちの元へやってきた女性と同格好の人間が何人かいた。ハルヒが何やら騒いでいたが、俺たちが入って来るなり静かになった。
「来たか。」
俺の方を向き、長身のグラサン男が呟いた。
「君だな?軍の機密兵器を勝手に使用したのは。今彼女たちにも聞いていたが、何故勝手にアレに乗った?」
これは……質問に答えれば良いんだよな?古泉の方に目をやると、真剣な眼差しでただ俺を見つめるだけだった。
「いや……あの時は頭が混乱していて…とにかく学校を守らなきゃと思って。そしたら目の前にあんなモノがあったので、使わせてもらいました。」
嘘は言ってないよな?俺。
「だが、アレは軍の重要機密だ。非常事態とはいえ、勝手に民間人が扱って良いものではない。」
男がそう言い終わると同時に、ハルヒが割り込んできた。
「だからアンタたちは何者なの!?軍って何よ?自衛隊とは違うわけ?それにどうしてあんな兵器が存在するの?誰が何の目的のために造ったの?まずはこっちの質問に答えなさいよね!」
「何を言っている?我々は連邦軍の者だ?まさか、連邦軍を知らないというわけではないだろう?」
「知らないわよ!」
「我々を知らないとは……余程平和な環境で育ってきたのだな。それに、他の質問には答えられん。軍の機密に抵触する。話を戻すが、とにかく君たちの行動は非常事態だからと言って許されるものではない。」
「意味わかんないわよ。あたしたちに何をしろってわけ?」
次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
カチャ。
部屋の中の軍を自称する機関の面々が、銃を構えていたからだ。
「どういうつもり?」
おいおいハルヒ、お前ちょっと強気過ぎやしないか?ってかこれは演技なんだよな?本気じゃ無いよな?
古泉の方に再び目をやると、あいつも驚いたような目をしていた。ばかやろう、お前までそんな顔をしたら俺まで不安になるだろう。
「こちらの指示に従えば、手荒なマネはしない。」
「なによそれ。脅しのつもり?悪いけどあたしはそんなものじゃ…、」
そこまで言いかけてハルヒは言葉を詰まらせた。ハルヒの目線の先には怯えて目から涙を流す朝比奈さんがいた。
「君は怖くなくとも、他の者はどうだ?無論、我々とて本当はこんな手段は取りたくない。ただ君たちの学校での行動を帳消しにしようと提案しているんだ。」
「どういうことよ?あたしは自分の取った行動を間違っていたとは思わないわ。それに、あたし以外の人は関係ないでしょ。キョンだって、あたしが無理矢理乗せたのよ。」
「おい、それは違うだろ。俺だって自分の意思で…、」
「いずれにせよ、」
俺の言葉は黒ずくめの男によって遮られた。
「ここにいる者は皆連行する必要がある。君たちからあの機体についての話を聞いていないとも限らないからな。」
なぁ古泉……これは本当に演技なんだろうな?話を聞かされていても、冷や汗が出ていた。
「事情聴取をする必要もあるが…それよりも、他に君たちに話しておくことがある。とりあえず、近くの我々の支部に来てもらおうか。」
ハルヒは少し考えた後に、
「……解ったわ。ただし、みんなに何かしたらタダじゃおかないわよ。」
「君たちが大人しくしているのならば、約束しよう。」
「それと、有希は無理よ。体調のこともあるし、今はそっとしておくべきだわ。」
「それはできない。」
なんだと?それは俺も許せなかった。
「おい、長門は記憶喪失かもしれないんだ。無茶なこと言うんじゃねぇ!」
思わず口走ってしまった。何故だかは解らないが、長門は不思議そうな顔で俺を見ている。
「君たちには悪いが、あまり時間が無い。それに、これは地球人類……いや、全宇宙に関わる事なのだよ。」
この男からあまり敵意を感じない。ハルヒもそう感じたのだろうか、俺たちは長門を支えながらスーツについていった。
外に出ると、既に数台の車──案の定例の黒塗りのものであった─が到着していた。
俺はハルヒと長門と同じ車に乗った。運転席にはハルヒと口論をしていた男が乗っている。
目的地に向かうまでの時間も惜しかったのか、運転席の男はこの世界の異変について話し出した。
内容はさっき俺が古泉から聞いたものとあまり変わらなかったが、ハルヒに特別な力がある点等はもちろん言わないように、何とか辻褄を合わせたものだった。
ハルヒは最初『何言ってんのコイツ?』という顔をしていたが、次第にその表情は変わっていった。
自分たちの組織については、秘密裏に世界の国々がまとまって出来た連合軍だと説明した。世界が改変されたことについては説明するのが難しそうであったが、なんとか説明を続けた。
自分たちは突如襲撃してきたアンノウンと以前から交戦していた。和議の道も試みたが、コミュニケーションが成立することは無かった。また、ほとんどの人間は集団催眠をかけられているかの如く、この世界を不思議に思わない。
記憶が正常な彼らは、この世界に異変をもたらしているであろうアンノウンと闘うことを決めた。
ちなみに、機動兵器やその生産ラインはある日突然現れたということも補足した。だが、闘える人間は少ない。そこで機動兵器のパイロットを探していたところ、敵の襲撃を受けて墜落した輸送機の機体で闘う俺やハルヒの姿を見つけ、スカウトに来た。
多少強引に事実を歪曲した表現もあったが、彼らの話をハルヒは受け入れているようだ。
「にわかには信じられない話ね……。でも、あんなモノを見た後じゃ、少しは信じても良いようね。」
あんなモノってのは虫メカのことだろう。ちなみに、ハルヒ自身に特別な力があることは伏せているが、世界が不思議パワーで変えられてしまったということは隠さなかった。機関も断腸の思いで決断したのだろうな。
目的地に着くまで話は続けられたが、ここでは割愛させてもらう。めんどくさがるなって?仕方ないだろ、俺も疲れてるんだ。
数分後、俺たちを乗せた車は目的地に到着した。降りた途端に小泉が耳打ちをしてきた。どうやら、こっちと同じ話を古泉と朝比奈さんが乗った車でもしていたらしい。ただしハルヒが乗っているため、こっちの話は多少解っていることも原因不明で片付けてはいたが。
というか、こんな話わざわざ耳打ちしてまで話す必要があるか?
「大いに有りますよ。残念ながら、涼宮さんにはまだお伝えできない話もあります。そのため我々は互いに聞いた話を共有し、涼宮さんがいつ先ほどの話について触れてもボロが出ないように努める必要があります。」
それもそうだな。しかし、今に始まったことじゃないが、ハルヒを蚊帳の外に置いて話を進めるのもなんだか後ろめたいな……。
「それは……仕方ありません。しかし今までは世界に異変が起こっても、それすら涼宮さんには隠してきました。ですが、今回は機関も多少スタンスを変えてきたようです。」
確かにな。だが、俺はやっぱり機関所属のお前が機関の意向を把握しきってないのが不安だぜ。
「すみません…。今回ばかりは、僕自身の力不足は否めません。」
いや責めるつもりは無かったのだが…。
男二人で耳打ちをしつつ、案内された入り口に入ろうとする。ってここどこかで見たような風景だな。そう思いつつも、俺たちは施設の中へと入っていった。
俺たちSOS団の面々は、そこそこ広い部屋に通された。もうスーツの集団は銃を向けてはいない。
「車の中でも話したが、」
病院からずっとイニシアチブを握っている、似非連合軍のスーツの男が話し出す。
「ともかく今は我々も人手が欲しい。君たち二人の戦闘映像を見たが、パイロットとしての適正が有るようだ。そこで…、」
誰かさんのようにわざとらしい間を空ける。古泉、機関の人間はみんなこうなのか?
「取引をしよう。我々に協力してほしい。もし承諾してもらえるのなら、君たちが勝手に我々の機密に触れたことは帳消しにしよう。」
「なによ?急に態度を変えるなんて怪しいわ。どうせ何か裏があるんでしょ?」
「先ほど話した通りだ。世界は今、未曾有の危機に直面している。私利私欲のためにこんな申し出をしている訳ではない。」
「わかったわ。」
へ?
「何?」
「協力してあげるって言ってるのよ。アンタたちの話に乗るのはシャクだけど、地球がアンノウンに攻められてるってのはホントっぽいし。事実あたしも襲われたわけだしね。ただし…、」
「何だ?」
「あたし以外の団員は協力しないわよ。命にも関わるし、あたし一人の独断でみんなを巻き込むわけにはいかないわ。」
ハルヒ……お前!
「しかしそれでは……、」
「俺もやるぜ。」
「もちろん、僕もお付き合いさせて頂きます。」
俺が名乗りを挙げると、すかさず古泉もそう言った。俺だってただごとじゃないのは理解しているし、敵はハルヒを狙ってきてるんだ。なら俺は……全力で団長様を守らさせてもらうぜ。
「キョン!古泉くん!」
「良いんだハルヒ。俺だって、このまま世界が滅茶苦茶にされるのを黙ってなど見ていられない。それに…お前一人じゃ誰がお前の暴走を止めるってんだ?」
「キョン……あんた…。」
「そっちの二人はどうする?」
スーツの男は朝比奈さんと長門に目をやってそう言った。朝比奈さんは恐怖で震えてしまっている。
「わ、わたしも行きますっ!!」
え?本気ですか朝比奈さん…?
「み、みなさんが世界を守るために闘うのに……わ、わたしだけ逃げるわけにはいいいいきませんっ!!」
朝比奈さんは半泣きの状態だ。そんな無理して付き合わなくても…。
「みくるちゃんまで…!いいのよ、あたしに気を遣わなくて。」
「違います!わたしも涼宮さんの率いるSOS団の一員だからですっ!わたしだって、わたしだって闘えます!」
「み、みくるちゃん…。」
朝比奈さんに圧倒されるハルヒを見るのは初めてかもしれない。しかし無理も無い。いつもの朝比奈さんからは想像も出来ないような真剣な眼差しで、ハルヒを見つめていたからな。
朝比奈さんの決意に驚いていた俺だったが、不意に小さな力によって制服の後ろを引っ張られた。
「………。」
力の主は長門だ。どうしたんだ?心配しなくてもお前は連れてかせやしねぇよ。俺がスーツの連中に言ってやる。
「……ちがう。」
ん?ならどうしたんだ?
「……本当に、あなたも行くの?」
どう表現していいのか解らないほど悲しそうな眼差しで、長門はそう呟いた。
「ああ、世界がピンチだって話だしな……俺にもできることがあるなら、やってみようと思う。」
「行かないで……!」
小さな、耳を澄ましていなければ聞き取れないほどの声だったが、その声には力が篭っていた。
「長門?」
「……そんな危険なところに行かないで…。」
「心配するなって。今は忘れてるかもしれないけど…みんな結構やるときゃやるメンバーだ。だから大丈夫だ。」
大丈夫なんて保証はどこにも無かったが、こうでも言わないと長門は今にも泣き出してしまいそうだった。
「君はどうする?」
ついに長門の番か……。だがさすがにこいつを行かせる訳には…、
「………行く。」
な、なんだって!?
「ち、ちょっと有希!むちゃよそんな状態で!」
「ああ!ハルヒの言う通りだ。今は安静にしてるんだ。」
どうしてだ長門。何で記憶を失っているのに、俺たちに付き合おうとするんだよ…!
「身体は大丈夫……ただの貧血。わたしも行かせて。」
「有希…気持ちは嬉しいけど……。」
その後、俺とハルヒの説得が30分程続いたが、ついに長門を説得することはできなかった。
しえん
「なら、五人全員だな。今すぐパイロットの適正を測りたい。実は、我々の前に突如現れた機動兵器の数々は、何らかの適正を持っていないと動かせないらしくてな。君たちが動かせるか、簡単なテストを行いたい。とは言っても、機体を歩かせるぐらいのテストだが。」
「ちょっと、そういうことは先に言いなさいよね。まぁいいわ、さっさと案内しなさい!」
「すまなかった。ただ、そういう理由もあって、機体を動かせる者はほとんどいないのだ。」
威勢よくスーツの男にケチをつけるハルヒに続き、俺たちは地下施設へと案内された。
テストは簡単なものであり、男が言った通り機体を軽く動かす程度だった。
「君はBランクだな。」
俺はBランクらしい。嬉しいような嬉しくないような。ランクは6ランクで、上からS・A・B・C・D・Eだ。
他の団員の結果は……涼宮ハルヒ:S、古泉一樹:B、朝比奈みくる:E
らしい。ハルヒは流石だな。俺は古泉と同じか。朝比奈さんは……何も言うまい。
しかし驚いたのは長門が……
長門有希:E
やっぱり長門は普通の平凡な女子高生になっちまったのか……?いくら調子が悪かったとしても、俺たちが知る長門だったら、軽くSSランクぐらいは叩き出しそうなのだが……。
それに、俺たち以外にこのロボットに乗れるやつは何人いるんだ?
それから俺たちは、これから乗ることになる機体がある場所へと案内されることになり、一旦施設を出た。どうも一度地上から外に出て、裏に回ってまた地下に行くらしい。ややこしい話だ。
少し俺は気が抜けていたせいもあったのか、次の瞬間目の前の景色に驚かされた。
「ここは……!」
施設の裏側には変じんたちのメッカである公園があったからだ。他の面々も初めて気づいたらしく、皆それぞれ驚いている様子だった。
「どうした?この公園に何か想い出でもあるのか?……まぁいい、地下に案内するぞ。」
そうスーツの男は言ってそそくさ歩き出す。これは何かの偶然なのか?と考えていた俺だったが、すぐさま後を追った。
男はリモコンのようなものを取り出し、スイッチらしきものを押した。
ゴゴゴゴゴ。
「うぉ!!」
またも情けない声を出してしまった。でも無理も無いだろう、急に地面が揺れて階段らしきものが現れたのだからな。
俺たちは男の後ろをついて階段を下りる。
「それと、言い忘れていたが……。」
「何よ?まだ何かあるわけ?」
「君たち以外にも協力者がいる。調べによると、君たちと同じ高校の者だ。この世界に関しての質問を幾つかしたが、集団催眠の類にはかかっていないようだ。学校へ堕ちた輸送機を回収する際に、瓦礫によって逃げ場を失っていたところを我々が保護した。」
なに?俺たち以外にも正気のやつがいたのか!?だが古泉の話だと、それは機関やハルヒと近い存在のやつらだけじゃなかったか?
俺はなにやら嫌な予感がしたが、既に目的の場所へ着いたみたいだ。
「これで、君たちには闘ってもらいたい。」
男は胸ポケットからカードキーを取り出し、それを目の前の巨大なゲートの機械に通した。
ゴゴゴゴゴ。
ゲートが開く。そこで俺は……いや俺たちは、またも信じられないモノを目にした。
「ちょっと何よ…?コレ。」
俺たちの眼前には、SFロボットアニメにはよくある『戦艦』らしきものが現れた。
「これが君たちの乗る艦、『ハガネ』だ。」
でけぇ……。戦艦ってこんなに大きいのか…?
「ちょっと…こんなの本当に人間が造ったの……!?」
「お、おぉきぃですぅ〜!」
「………。」
「まさか……これは驚きですね。」
ああ、驚きだ。
「そして、彼らが君たちと共にこの艦に乗る者だ。」
隣の部屋の扉が開く……ってお前らは!?
「「キョン!?」」
俺たちの目の前には、驚いた様子の国木田と、泣きそうな顔をしている谷口がいた。
「な、なんでお前らが!?」
「驚いたわね…まさかあんたたちまでいるなんて…。」
流石のハルヒも驚きを隠せないらしい。
「ひ、ひゃぁ!!?」
!!?あ、朝比奈さんどうしたんです──
シェーン
おいおい、協力者はまだいらっしゃったのですか…。
別の扉から入ってきたのは、朝比奈さんのクラスメートであり親友であり、SOS団名誉顧問の……
「「鶴屋さん!!?」」
であった。ちなみに、今大声をあげたのはハルヒと朝比奈さんだ。
やれやれ、このメンバーを見るところ、やっぱりこれもハルヒ絡みなんだな。
古泉からそう聞かされてはいたが、半信半疑だったからな。もう今日は一生分驚いたぜ。
しかし──
まだ俺は理解していなかった。闘うことの重さを。あんな悲劇が待っているなんて………。
支援ありがとうございますm(__)m
今回はいつもより長くなってしまい、10レスも消費してしまいましたorz
チェックはしていますが、誤字脱字等多いかと思われます;;
今回でやっと世界観(?)の解説は終わりです。
徐々に盛り上げていくつもりですので、グダグダ感はご容赦下さい。
駄文失礼しましたm(__)m
乙!
保守
347 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 01:20:53.23 ID:VcwpMRLOO
保守
348 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 02:01:52.06 ID:15ZVG4xFO
鶴屋さんはかわいい
ほしゅ
寝るほしゅ
351 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 04:55:27.06 ID:5NMr3Rp6O
jp
保守
保守だよ
354 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 07:20:18.17 ID:TEnLM4if0
保守
ほす
356 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 08:16:44.18 ID:W4nW+6g+O
ほし
保守っさ!
外出前の保守………
359 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 10:52:05.37 ID:gZF0EpZM0
ほも
360 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 12:10:45.99 ID:MzcF0xaT0
ほす
仕事中に上司の目を盗んで保守ネタ投下!
wonderwall
いつもの放課後、あたしは部室のドアを勢いよく開けた。
「やっほー!みんない――あれっ?」
部室には誰もおらずあたしの声だけが響いた。
なによ…みんなまだ来てないのか…たるんでるわね!
カバンを放り投げ、いつもの席にドカッと座る。
あー、誰もいないと退屈だわー…早く来ないかしら…
退屈しのぎに周りを見渡すと、ちょこんと置かれたラジカセが目に入った。
そうだ!たまにはラジオでも聴いてみようかな。
あたしはラジカセのスイッチを入れ、チューニングをあわせた。
しばらくノイズをたてた後、ラジオからは古い洋楽の歌が流れてきた。
聴いたことある曲だけど…タイトルを思いだせない。何だっけ…
思い出そうと頑張っているとドアをノックする音が聞こえてきた。きっとキョンね。
「どーぞ」
返事をするとキョンが部室へ入ってきた。
「遅い!罰ゲームよ!」
「しかたないだろう…谷口と国木田につかまってたんだ。おっ?なんだ?ラジオ聴いてるのか?」
その辺のイスに座り、珍しそうな顔でキョンが言った。
「まあね。あ、そうだ!キョン、これなんていう曲だっけ?どうしても思い出せないのよ」
「ああ、これはoasisの曲だな。wonderwallってタイトルだ」
oasis…確かイギリスの仲の悪い兄弟がやってるバンドね。
「そうなの。ねえ、これどんな歌なの?」
>>361 あたしが聞くとキョンは考えるような顔をして、
「確か…君が僕を救ってくれるだとか、結局最後に戻る場所は君だとか…そんな感じだったと思うぞ」
と答えてくれた。
救ってくれる?最後に戻る場所?なんだか甘甘な歌詞ね。
でも…ふと思う。
きっとあたしを救ってくれたのはキョンだろう。
誰にも理解されず一人ぼっちで退屈だった中学時代…
高校生になってもたいして変わることなく、つまらない毎日が続くと思ってた。
けどキョンに出会ってから少しずつ変わり始めた。
不思議なものは見つからないけど、そんなことどうでもよくなるくらいに一緒にいると楽しかった。
そう、あたしは…キョンに救われたんだ。
「どうした?俺の顔に何かついてるのか?」
ジッとキョンの顔を見ていたからだろうか、怪しむような顔で聞いてくる。
「何でもないわよっ!…これ、いい曲ね」
「そうだな。このバンドは他にもいい曲がいっぱいあってな!例えば―」
得意げに話し始めるキョン。
今はまだ…素直になれないけど。いつかはあたしがキョンにとっての最後に戻る場所になれるといいな…
ま、当分先の話なんだろうけどね…それまでちゃんと待っててよね!
覚え始めたメロディーを曲にあわせて口ずさみながら、そんなことを考えていた。
以上!そして保守
363 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 13:03:44.18 ID:7TmeAzlZ0
仕事中だというのに・・・
なんという保守
364 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/04(水) 13:51:43.80 ID:hnUdFOlnO
あと三時間か…
俺も仕事中だけど保守。
保守
ラスト保守