ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」
いちおつ
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:47:39.63 ID:OUJKd+Zo0
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:50:18.55 ID:2tF2VqHdO
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:50:41.78 ID:OjCZm5zWO
乙
7 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:51:10.22 ID:2tF2VqHdO
長門の部屋
殺風景とも無機質とも言い表せるこの部屋の真ん中、テーブルの前に俺は腰を落ち着かせていた
息を整えながら俺は長門が話し始めるのを待っている
激しい動悸とともに高ぶった心が焦れったさを訴える
だが、やっと話される言葉に俺はこれまでにないぐらいの驚きを覚える
「あなたには死んでもらう」
8 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:51:50.09 ID:2tF2VqHdO
その言葉の意味を理解できずにいる瞬間、バケツに入った絵の具を引っ繰り返したように一気に景色が変わっていた
狭いとまではいわないが、それでも走り回るのには不十分だった広さの部屋が、どこまで走っても何も見えなさそうな、だだっ広い砂漠に変わった
…長門は今なんて言った?
俺に死んでもらう?
いったい何があったっていうんだ!?
「あなたに以前話した朝倉涼子の再構成の理由は嘘」
嘘だって!?…だったらなぜそんな嘘を?
…俺に知られてはまずいことが…今の状況に関係あるのか
「朝倉涼子はあなたを殺害するために再構成された」
…殺…害…?朝倉…が…?
そんなこと…信じられるか!だって朝倉は…朝倉は…
「そう、朝倉涼子はあなたを殺害するのを試験的に実装された感情と呼ばれるエラーによって拒んだ…だから私があなたを殺害する」
朝倉は急進派だったんだろ!?だったら主流派のお前が俺を殺す理由なんてないじゃないか!
「今の情報統合思念体にそういった概念は皆無…おしゃべりは終わり」
長門は俺に向けて手をかざした
「IANUKATIANIHSUOWATANAOKOYR」
そして例の呪文を詠唱する
すると俺に対し、無数のナイフが飛んでくる
9 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:52:40.90 ID:2tF2VqHdO
そこにいるいつも本を読んでいて、いざというとき頼りになる寡黙な少女は、ただ冷酷に俺の命を奪おうとする饒舌な殺人者に変貌していた
ナイフと俺の距離がどんどん縮んでいく…チェックメイトだ、これは避けきれない、俺は諦めて目をつぶった
…爆発音がした
ナイフが俺に届く前だった
何が起きたか確認する暇もなく爆発音とともに発生した爆風と思われる強風にあおられ、俺は後方に吹っ飛んだ
倒れながらも慌てて目を開けると、すべてのナイフを吹き飛ばした爆発音の中心に朝倉が立っていた
「お前…どうして!?」
長門と対峙していた朝倉はこちらを見るとニコッと笑顔になって言った
「喧嘩したままお別れっていうのはいやなの、何よりあなたに死んでほしくないっていうのが一番ね」
助けがきたと考えていいんだよな
…この状況、いつぞやと逆だ…まさか、長門に襲われて朝倉に助けられるとは思ってもみなかったぜ
「長門さんにしては情報の構成プログラムが稚拙ね、ホントはキョン君を殺したくないんじゃない?」
朝倉のこの言葉に長門は子供の口喧嘩よろしく口を開く
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:53:01.93 ID:sEfMH19dO
饒舌まってたよ
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:53:28.17 ID:sEfMH19dO
支援
12 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:55:13.06 ID:2tF2VqHdO
「あなたは駄作、このSSぐらい駄作…感情など我々にとってエラーでしかない」
何の表情も見せない長門は抑揚なく言い切る
「そんなことないわ、このSSだって本スレでwktkって言ってくれる人ぐらいいるのよ」
ちょっと待て、フォローするのはそっちなのか?
俺の生きるか死ぬかのシリアスな場面でお前らは何の言い争いをしているんだ
「それは社交辞令、まとめの雑談所でこのSSが話題にあがったことはない」
…この話を止める気はないらしい
俺はしばらく傍観者の立場を貫くことにした
「残念ね、一度赤コーラうめえwwwwって書き込みがあったわ」
「…しまった…情報不足…ただ、その内容はこのSS自体ではなく、ギャグの流れを誉めただけ…やっぱりこのSSは駄作」
「それでも評価は評価よ」
「聞こえない、それと一度、なんもおもしろくないとかうんことかの書き込みが本スレであったが、あの評価は妥当」
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:55:13.42 ID:sEfMH19dO
支
14 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:55:52.82 ID:2tF2VqHdO
「あら、あの人達荒らし扱いされてたじゃない」
「そんなことはない、彼らは感想を言っただけ」
「あんまり言うと作者が凹むわよ」
「大丈夫、私にこの台詞を言わせているのは作者」
「自虐的ね、危ない趣味があったりして」
「そう、作者はドM」
「…流れはこれでいいの?」
「しまった…これはきっと作者の陰謀…話を戻す」
「彼を殺さなければあなたは消えてしまう…わかっているはず」
ん?俺を殺さないと朝倉が消える…どういうことだ
「…」
朝倉が俯く、こいつあゆみちゃんのこと好きなんだぜーとあゆみちゃんの目の前で言われた小学生の男の子のような悔しそうな、恥ずかしそうな顔で
「タイムリミットは今日の24時、それまでに彼の生命活動を停止させないとあなたは消滅する」
言い聞かせるように長門が淡々と言葉を吐く
「そうね、何度も何度も考えたわ…私が消えるか…キョン君が死ぬか…でも、いつでも答えは同じだった」
俯いていた朝倉は真っすぐに長門を見る
そして力強く言い放った
「私は大好きな人がいる世界を守りたい!キョン君がいる世界を守りたい!」
15 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:56:22.49 ID:2tF2VqHdO
朝倉の言葉を聞いた長門はわずかに落ち込んだように見えた
「…そう……」
待て、話をまとめよう
現在時刻23:30あと30分で俺が死なないと朝倉は消滅する
朝倉は自らが消滅するのを望んだ
長門は俺を殺すことを望んだ
…だったら…俺の答えは…?
記憶がフラッシュバックする
教室で俺に謝った朝倉のはにかんだ表情
不思議探索の時の朝倉の膝枕
俺をデートに誘った朝倉の赤い顔
遅刻してしまった時に見た朝倉の怒った顔
観覧車の中にいた、朝倉の妖艶な雰囲気…
朝倉の笑顔
朝倉の声
朝倉の
朝倉の…
「長門!俺を殺せ!」
俺は叫んでいた
…朝倉は、わざわざ感情なんてものを無理矢理押し込められて勝手に再構成された
そして時間制限まで設けられて命を弄ばれた
…俺も朝倉が大好きだ
こんな…終わり方でいいわけない!
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 00:57:09.19 ID:sEfMH19dO
また今日もドMな作者を叩く仕事が始まるのか
17 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:57:26.44 ID:2tF2VqHdO
「…殊勝な羊…それでいい」
音もなく長門がこちらに歩いてくる
覚悟はできている…朝倉…生きてくれ
「そうはさせないわ」
長門の前に朝倉が立ちふさがる
その後ろ姿からは俺以上の覚悟を感じた
「退くべき、彼を殺せない」
ジェットの宝石のような目で長門が朝倉を見る
「朝倉…いいんだ、俺はお前に生きてほしい」
俺の目の前で朝倉は振り返り笑顔で俺にこう言った
「あなたが私の消滅を拒んだのが先よ…意地の張り合いね」
言い終わると一つウインクをする
…どうしてこいつは…自分が死ぬための行動を笑顔でできる…!?
「怖く…ないのか?」
思っていたことが口に出てしまう
俺にとっても不意打ちだった質問に朝倉はあっけらかんとした態度で答える
「そりゃ、怖いわよ…だけどね…私はキョン君のためならなんだって笑顔でできるの♪」
…打ち拉がれた
こいつはこんな俺なんかのためにここまでの覚悟をしていたなんて…
だけど、認めたら負けだ
朝倉が消滅しちまう
何か方法はないのか!?
18 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:58:04.01 ID:2tF2VqHdO
「UROMAMAGIHSATAWAHNUKNOYK」
朝倉が例の呪文を呟く
長門が大きく後ろに飛んだ
「でたらめにも程があるだろ…」
長門のいた場所の地面から俺の身長を余裕で越えるぐらいの無数の針が突き出していた
「あ〜あ、残念…奇襲で潰そうと思ってたのに」
この言葉に長門は反応したようだ
話し合いの姿勢を崩し、上へ大きく飛んだ
「…あなたには少し眠っていてもらう」
長門は上空で態勢を作り、呪文を唱える
「EKADIISOHETIKIINATNAAHIHSATAW」
すると、長門の背中から天使のような翼が生える
それだけでも驚愕なのにその羽の一つ一つを飛ばしてきた
「IIHSOHETIKIINNUKNOYKAHIHSATAWODEKIIHSREUAHIHCOMIK」
朝倉は俺を含めた自分のまわりに竜巻を起こして羽を吹き飛ばした
「OYONOMUIOTUOJNAKAGEROKNASOTAGAN」
続け様に朝倉は長門の背後から小規模の隕石を飛来させる
一般人の俺が見ても、朝倉の優勢は明らかだ
「ATIHSNADUYINEUYUOJNAKAHATANAUOS」
長門は空中で呪文を詠唱しながら器用な動きで隕石郡を回避する
19 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:58:35.19 ID:2tF2VqHdO
「…終わり」
最後の隕石を回避して一言呟く長門
すると上空に多量の剣、刀、槍等の武器が現われる
長門が大きく後方にはばたいた瞬間、その無数の凶器が朝倉に向かって飛んでいく
「この程度で終わりなんて舐められたものね」
長門の言葉とは裏腹に朝倉には余裕があるように見える
「ARAKURAAGONOMUROMAMAWIANIHSETNANNADUY」
朝倉はやたらと口径のでかいガトリングを発生させ、飛来する武器郡を次々に撃ち落とす
怖いものなしと思われた朝倉だったが、次に見た光景はあまりにも信じがたい、信じたくないものだった
「…そんな…!」
刀が勢い良く朝倉の胸を貫いた
前方の大量の武器に気をとられ、背後から突っ込んでくる一本の刀に気付かなかったのだ
両膝をついて崩れ落ちる朝倉の体
勝負はついた、そう言いたいのかずっと上空にいた長門が地上に降りてくる
「まだ終わらないわ♪」
朝倉がにやりと笑った瞬間だった
長門が地面に足をつけた瞬間だった
それは唐突だった
20 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:59:05.99 ID:2tF2VqHdO
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
聞いたことのないような長門の悲鳴が耳を貫く
長門が着地した地面から電気の帯が発生した
電気が筋肉の収縮を促し、体が痺れ長門はその態勢のまま動けなくなっていた
「あれだけ稚拙な構成プログラムなんだもの、トラップを仕掛けるのは簡単だったわ」
余裕有りげのように朝倉が解説を入れるが、その声に余裕はあまり感じなかった
「ARANUOYASUOTAGIRA」
呪文を唱え、朝倉が暗い声で囁く
「…情報連結解除開始」
光の粒となって長門が消えていく
…これでよかったのか?
これで、長門が消えた
すぐに朝倉も消滅する
俺は長門と朝倉というふたりの友人を失った…
「―――作――戦―――――失敗―――――――」
一言だけ残し、砂浜に書いた絵が風に吹かれてさらさらと消えるように、長門の体も優しく消えてしまった
ドサッという音をたて朝倉が倒れた
膝をついた状態でもきつかったっていうのかよ
「朝倉!!」
俺は慌てて朝倉に駆け寄った
朝倉を抱き抱えれば、腕が確かな重みを伝え、朝倉がまだここにいると訴えてくれる
21 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 00:59:41.70 ID:2tF2VqHdO
「意地の…張り合いは…私の勝ちね」
その台詞とその力のない笑顔が俺の頬に一筋数滴を走らせる
時計を見ればすでに11:58をさしている
…もう2分しかない、カップラーメンも一緒に食べられない
「AWIANETIHSAHIAKUOK」
朝倉の呪文が耳に響き、異質な空間は爆音とともに今までいた長門の部屋に戻された
「…キョン君ここ怪我してる」
朝倉の手が俺の頬に触れる
どうやら切り傷があったらしく、鋭い痛みが走った
それは痛みのはずなのに…やさしかった
朝倉の手がまだ温かさを保っていたから
「URETIHSIAIKUSIAD」
傷口が心地よさで包まれる
再び触れた朝倉の手は、痛くなく、ただただ温かかった
「ねぇ…最後にお願い聞いてくれる?」
俺の頬から手を離し、儚い笑顔で朝倉は言った
「なんだ?」
情けなかった
朝倉がせっかく笑顔でいてくれるのに俺は涙声だ
朝倉が俺を生かすために戦ったのに俺には何もできない
「観覧車の中でできなかったこと……して」
俺は黙って頷き、朝倉にキスをした
なんですぐにこの行動を起こしたかと聞かれると困ってしまう
俺が単純にしたかったから、と答えておこう
朝倉の口唇はまだ朝倉が存在していることを証明している
この口唇を離したら朝倉は消えてしまうだろうか
…違う、これは現実逃避だ
例え口唇を離さなくても朝倉は消えてしまう
…もう…会えない…近くて…遠い……
22 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:00:05.12 ID:2tF2VqHdO
朝倉の最期を看取った証明
朝倉がここにいたという証明
朝倉がまだここにいる証明
互いの証明を貪るこの塩辛いキスは
―塩辛くひたすら苦いキスは
生涯忘れることはないと思われるほど深く俺の心に刻み込まれた
…朝倉を抱き抱える俺の手が楽になっていく
わかっている、朝倉が消え始めたんだ
離れるのではなく、消えていく口唇の感触
タイムリミットを告げる残酷さは無情にして冷静だった
‘さよなら…’
不意に脳に響く朝倉の声
終わった、そう告げるように
最期に聞いた朝倉のさよならは…私はここにいたと、間違いなく存在したとそう、主張していた
別れの言葉が存在の証明になるとはなんと皮肉だろうか
俺は逃げたくなるくらいの悲しみを木偶の坊の体に背負って、長門の家を出た
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:00:15.57 ID:sEfMH19dO
支援
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:00:20.40 ID:te43l9hd0
支援
25 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:00:49.09 ID:2tF2VqHdO
「うかつ…今回のことはすべて私のミス」
俺が学校に行ったのは翌々日のことだった
その日の放課後、いつものように部室に入ったら長門がいてこう言った
ん?なんで長門がいるのかって?
俺もよくわからん
実は長門がいるのを確認した瞬間、俺の本能が逃げろと叫んだ…もちろん昨日の昨日に殺されかけた相手だからだ、しかも俺の命をくれてやる理由などもうないしな…が、俺のすぐあとに古泉が入ってきたため2人いれば殺されないだろうとたかをくくって長門の話を聞くことにした
今、俺にいえるのはそれだけだ
「私はこの1週間、天蓋領域によって機能を停止に近い形で制限されていた」
ん?1週間前っていうと春休み中だよな
長門はちゃんと新学期から学校に通っていたじゃないか
26 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:01:21.10 ID:2tF2VqHdO
「あれは天蓋領域が造ったヒューマノイド・インターフェースが擬態したもの」言われてみれば新学期からの長門には少しだけ違和感があった
ファミレスでカレーではなくハヤシライスを食べていたこと
朝倉の話に出てきた長門がカレーではなくプリンを食べていたこと
そしていくつかの言葉遣い
なぜそれに気付けなかったのかと考えながら横を見ると古泉が微笑を消して絶句していた
ショックで固まったといった感じだ
…そういえば、古泉が長門とデートしたと言っていたな
それが日曜日…なるほど、古泉がデートした長門は天蓋なんとかの変装だったわけだ、ご愁傷さま
きっとパラレルワールドでは古長が流行るさ、もしかしたらその天蓋なんとかのインターフェースとラブラブになるかもしれんぞ
「今回のことは情報統合思念体と天蓋領域の情報戦が発端」
何もいえずにいる古泉を無視して長門が続ける
何かスケールのでかい話になっているが大丈夫だろうか
「情報戦の一部で情報統合思念体が敗北し、思念体の一部が天蓋領域に吸収される、その中に朝倉涼子の構成情報を含んでいた」
…ほら、ついていけない
宇宙ってすごいよなぁ…
と俺が現実逃避していると、地獄の底から這いずり上がって来たのか、古泉が割ってはいってくる
27 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:01:54.31 ID:2tF2VqHdO
「では、信長の野望に例えましょう…信長が近畿一帯を有している際、長政に近江に侵攻され、近江の護りについていた秀吉が相手の家の武将になってしまった、といったところでしょうか」
何かに例えるのが好きな奴だな
しかも細かい、長政って誰だ?
黒田か、浅田か
「浅井です、やはり近江地方といえば浅井でしょう、浅井家の家紋が米俵をモチーフとしているのは近江でよく米がとれるからですし」
そんな豆知識いらん
なおさらわからなくなってきたのは気のせいか
「ではMGSで説明しましょう、オタコンがメタルギアを…」
「もういい」
どこまでも説明同好会な古泉を一蹴すると古泉は微笑みのまま肩をすくめた
さっきのことがショックなのはわかるが、お前の説明はわかりにくい
「天蓋領域はその情報をもとに朝倉涼子を構成し、涼宮ハルヒの鍵であるあなたの殺害を試みた」
俺が理解できているかは無視ですかそうですか、まあここのくだりぐらいはわかるぞ
…なんで殺害なんだ?俺はどこぞの宇宙人の恨みを買う真似をした覚えはないぞ
「鍵がなければ門は開かない、天蓋領域は涼宮ハルヒを無効化しようとした」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:01:54.80 ID:OUJKd+Zo0
支援
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:01:56.87 ID:sEfMH19dO
支
30 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:02:16.84 ID:2tF2VqHdO
でも天蓋の方の長門は下手に怒らせると宇宙消滅の危険があるって言ってたぞ
そんな賭けに出たのか?
「天蓋領域にはその際の情報爆発を吸収する術を持っていたと思われる」
佐々木か
「…その発言は謹むべき」
ん?なぜだ?
「このSSの舞台は2年の新学期、タイムパラドックス」
ああ、そうか分裂で佐々木と再会したのはその時期だっけ
だから九曜って言わずに天蓋領域のインターフェースって回りくどい言い方をしてるんだしな
「そう」
そうか、だいたいわかったよ
…俺が想った朝倉もまがい物だったんだよな
「それは本物、以前の朝倉涼子の構成情報と相違は1%未満、記憶データも当時のものを実装された」
…なんだって!朝倉は本物!?
じゃあ感情があったってのは?
「恐らく事実、以前私に生じたエラープログラムも朝倉涼子の構成情報とともに天蓋領域に吸収されているためその際、融合した可能性は99.8%」
…朝倉
心が熱くなった
心が痛くなった
朝倉に会いたい、誰よりも会いたい
31 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:02:59.27 ID:2tF2VqHdO
「お待たせー!今日もみんな…ってあんた何泣いてるの!?」
どでかい音を立てて入ってきたハルヒに指摘されて気付いた
俺は涙を流している
昨日散々流すだけ流して、もう流さないと決めたはずの涙を流している
俺はなんてことないふりで涙を拭った
「いや、長門が前読んだ本の話をしてくれたんだが、感動してな」
今、俺が吐ける精一杯の嘘を吐く
「へぇー…キョンが泣くほどねぇ…有希!あたしもその話聞きたいわ!」
長門は首をふり、本棚から一冊の本を出した
そしてその本をハルヒに差し出した
「読んで」
「え?」
長門の唐突な行動にハルヒが戸惑っている
長門、それじゃあ言葉が足りん
「あなたには読書家の一面もある…私はあなたにこの本を読んでもらって…あなたと一緒に本の話をしたい」
長門のこの台詞に思わず笑みがこぼれちまった
…長門も人間らしくなったよな
隣にいる古泉の微笑にも温かさを感じることができた
考えていることは一緒らしい
32 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:03:25.27 ID:2tF2VqHdO
「わかったわ!本の話をするのにキョンじゃ役不足だもんね!ありがたく借りていくわ!」
失礼な奴だ
俺だって本くらい読む
それにお前は役不足の使い方を間違っているぞ
ホントに読書家かどうかあやしいもんだ
なんてやっているうちに朝比奈さんもやってきていつもの団活が開始される
いつもの光景だ
平穏な日常だ
…なのに俺は心にぽっかり穴が空いたような気分だ
目の前のことにも集中できず、久しぶりに古泉にチェスで負けた
…心ここにあらずとはこのことを言うのかもな
どうしょうもないもやもやを抱えたまま長門が本を閉じる音を聞いた
そのうちこの空虚感にも慣れるのかと考えたが、慣れてしまう自分に嫌悪を感じるのもまた事実だった
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:04:05.89 ID:sEfMH19dO
支援
34 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:04:27.20 ID:2tF2VqHdO
「本日19時、私の部屋に来てほしい」
ハルヒと朝比奈さんが先頭で料理の話に華を咲かせる帰り道のことだ
長門が俺に言った
長門がそう言ったからには断る理由などなく、俺はさも当たり前のように了承した
「あなたも」
その視線は俺の横、古泉に向けられていた
「僕ですか?」
古泉が疑問を口にする
そりゃそうだ
俺が古泉でも同じ疑問を持つ
しかも日曜のこともあり、複雑な気持ちだろう
「そう」
漆黒の瞳に見つめられる古泉が根負けし、その意見を了承するのに時間はかからなかった
「わかりました」
そんなこんなで長門宅である
マンションの前で会った古泉とともにエレベータを降りる
長門はなぜか自分の部屋の玄関の前で俺たちを待っていた
35 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:04:54.62 ID:2tF2VqHdO
「こっち」
俺たちの存在を確認すると長門は歩き出した
古泉と顔を見合わせる
…って顔が近い!
俺は一歩退いた
表情を見るかぎりでは古泉にも意図は読めなかったようで互いに疑問符を浮かべながら長門に着いていく
そして辿り着いたのは、マンションの一室…玄関の前だった
「ここから先はあなた一人で行くべき」
…この部屋番号…覚えているぞ
ハルヒとこのマンションに来たとき、管理人のじーさんにいろいろ尋ねた番号だ
…もしかして、と鼓動が揺れる
長門はとっとと古泉を伴って自分の部屋に戻ろうとしている
…期待していいんだよな
俺は逸る気持ちを押さえ、力強く、確かな動きでドアノブを捻った
36 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:05:21.84 ID:2tF2VqHdO
―夢、じゃないよな
試しに太ももをつねってみる
痛い、間違いない…現実だ
そう確信すると俺の目から大量の涙が溢れ出てくる
「…ただいま、キョン君」
照れ臭そうに薄紅に染まって笑う朝倉が目の前にいる
俺の目が霞んだ視界の中に朝倉を確かに確認している
堪らず、俺は朝倉を強く抱き締めた
映像としてではなく、実体として感じる朝倉の存在
その感触が、その温もりが直に伝わってくる
もう離さない、離したくない
あんな思い二度としたくない
さらに強く朝倉を抱き締めると朝倉が苦しそうに息を漏らす
朝倉は…ここにいる……生きている
ただでさえ溢れ出ていた涙がとめどなく量を増やす
もっと朝倉を感じたかったが、これ以上強く抱き締めるわけにもいかない
だから俺は…代わりに朝倉に口付けた、この想いが誓いに変わるように、このキスが永遠の誓いになるように
俺の心の中、涙のキスで途切れていたた朝倉の存在が、静かにもう一度、涙のキスで動きだす
二つ目の生涯忘れることのないキスは前と同じように塩辛かった
だが決して苦くなく
―ただただ甘かった
FIN
37 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:06:25.22 ID:2tF2VqHdO
おまけ
「朝倉涼子は情報統合思念体により再々構成された」
「そうですか、でもなんでまた?」
「今回のように我々ヒューマノイド・インターフェースが天蓋領域の支配下におかれた際、他のインターフェースが破壊できるように」
「喜緑さんがいらっしゃるじゃないですか」
「1対1より2対1の方が勝率が高い、それに喜緑江美里は穏便派…観察に撤することが多い」
「そういえば今回、彼女の出番はありませんでしたね」
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:06:28.30 ID:sEfMH19dO
乙
起きたら読む
39 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:06:56.52 ID:2tF2VqHdO
「そう…ただ今回の観察の報告は受けている…日曜日のあなたのことも」
「…あ、あれはですね…」
「…古泉一樹、私はあなたにあの時と同じことをしてほしい」
「若気のい…って長門さん?」
「…」
「…わかりました…じゃあお願いがあるのですが、僕のことをいっちゃんと呼んでくれませんか」
「………いっちゃん……」
「ありがとうございます…これはお礼です」
「…いっちゃ……ん…あ…んん…」
FIN
40 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:07:26.72 ID:2tF2VqHdO
おまけのおまけ
「あたしの出番全然ありませんでしたぁ〜」
「みくる!泣かない泣かない!今回ははるにゃんだって空気だったし、あたしなんか出番ここだけっさ!」
「鶴屋さんも涼宮さんも他のSSで何回も主役はってるじゃないですか!あたしなんて…恋愛系のSSほとんど書かれないんですよ!」
「んん〜しょうがないなぁ〜…じゃあこのスレにいる職人さん達におねがいしてみる!っていうのはどうにょろ?」
「やってみますぅ〜…み、皆さ〜ん、あたしのSS書いてくださぁ〜い…できれば禁則事項とか関係なくキョン君と結ばれたいですぅ〜」
「うん!なんかみくるのSS少ない理由がわかった気がするよ!それじゃ!みんな今度こそめがっさ!めがっさ!」
本当にFIN
41 :
饒舌な殺人者:2008/05/27(火) 01:09:48.75 ID:2tF2VqHdO
これで完結だ
今まで読んでくれた人、支援してくれた人、あと個人的にみるくと推古、みんなにありがとう
今日は支援が多くてとても嬉しかった
じゃあまた俺は読者に戻るよ
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:13:50.80 ID:OUJKd+Zo0
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:14:09.43 ID:kED/f1HG0
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:17:19.11 ID:te43l9hd0
饒舌な殺人者
長い間超おつかれさまでした!
>>41 ついに完結か! 乙だっぜ! いやしかし感謝しすぎだからwww
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 01:47:14.62 ID:QwLGZRGu0
ほしゅ
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 03:06:40.21 ID:QwLGZRGu0
寝る保守
保守
起きたので保守
>>50 投下時以外はコテ外した方がいいよ。
荒れることあるから。
>51 様
すいませんでした><
以後、きをつけます
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 06:34:23.20 ID:bJPLqcNZ0
保守
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 07:51:02.06 ID:ncqLJovqO
プリンの前スレにアクセスすらできないのはなぜだ?
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 08:24:26.03 ID:3ISMQzpK0
保守
饒舌読んだ、乙!
メタなネタ自重www
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 08:39:22.62 ID:FuTtIx43O
保守
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 09:46:17.69 ID:re57NEJGO
ほしゅ
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 11:27:07.39 ID:nkoG0l2hO
ほ
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 11:39:23.65 ID:FuTtIx43O
ほしゅ
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 12:27:00.94 ID:FuTtIx43O
保守
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 12:56:23.74 ID:z0H/SDuZ0
ほしゅ
保守
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 14:35:54.27 ID:rpXFkKF/O
保守あげ
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 15:21:40.03 ID:re57NEJGO
ほ
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 16:23:32.07 ID:QwLGZRGu0
保守
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 17:20:08.19 ID:FsglxTUGO
ほしゅ
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 17:52:48.62 ID:re57NEJGO
ほしゅ
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 18:08:58.39 ID:v7fiacxQ0
保守
保守
こんばんわ。昨日の続きを投下したいと思います。
よろしくお願いいたします。
第2話 長門有希 文芸部員の正体
SOS団設立直後のごたごたは・・・俺にもかなりのトラウマとなっているのでふれたくない。
まあ、SOS団室(正式には文芸部室)にいろいろなものが増えたことだけ報告しておこう。
団長の机とパソコン、それにハルヒ手製と思われる団長と書いた三角錐。
やかん、急須、カセットコンロ・・・後、朝比奈さんにトラウマを田植え機のごとく植え続けているコスプレ衣装の数々である。
ちなみに、ハルヒと朝比奈さんの活躍?によりSOS団の知名度はうなぎの滝登り(ハルヒ談)である。
俺の評価がナイアガラの滝から落ちる樽のように下がっているのは触れたくない。国木田や朝倉だけじゃなく谷口にまで同情されたさ・・・
そして、SOS団に五人目がやってきた。
そのときまで、ハルヒは口癖のように、「無口キャラと萌えキャラは揃えたわ。次は謎の転校生よね。」といっていた。
まだ、5月である。普通に考えて、転校生の来るような時期ではない。そんなに都合良く転校生がくるわけないだろ。という俺の考えをわざわざ否定するように、その転校生は文芸部室にやってきた。
「みんな、紹介するわ。即戦力の転校生、古泉一樹くんよ。」
と紹介されて姿をみせたのは、ほとんどの人間がイケメンと評価するような顔に人畜無害を形にしたような笑顔を貼り付けた男子生徒だった。
部室に入るなり、古泉一樹の視線が長門と朝比奈さんへ向けられたのを俺は見逃さなかった。
古泉の前に立つハルヒには見えなかっただろうけどな。
「古泉一樹です。よろしくおねがいします。」
とまるで入学試験の面接のような挨拶をしたそいつは、言葉を続けた。
「すいません。SOS団に入るという件は涼宮さんから伺っているのですが、それは一体どんな活動をする団体なのですか?」
・・・いきなり、核心をつくやつであった。
俺は、朝比奈さんと長門にまず視線を向けたが、朝比奈さんは首を横に振り、長門は本から視線を外そうとはしなかった。
結果、俺はハルヒにいい加減説明しろ!という風に視線を送るしか選択肢がないことに気づいた。
ハルヒは待ってましたという表情で、満面の笑みと共に宣言した。
「SOS団の目的!それは、超能力者とか未来人とかそうね・・・妖怪とかそういう不思議な存在と友達になって一緒に遊ぶことよ!」
・・・・・・世界が止まったかと思った。というのはうそであるが、俺はハルヒの最初の自己紹介を思い出していた。
『妖怪』が加わっているのがちょっと気になったが、それ以前に呆れていた。
ちょっと落ち着いて、周囲を見渡すと、朝比奈さんは呆然としている。長門ですら、本からハルヒに視線を向けていた。
古泉の表情は読み取れないが多分呆れて入団をやめるといいだすだろうと思ったよ。
しかし、古泉は再び朝比奈さん、長門、俺を一通り見回した後、
「さすがは涼宮さんですね。わかりました、入りましょう。」
と予想外の答えを返していた。こいつも変わっているな・・・と自分のことを棚にあげて思ったものだ。
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 19:06:22.41 ID:z0H/SDuZ0
しえん
そろそろ部活動の時間も終わりに近づいていた。
明日は土曜日だから、やっとゆっくりできると考えている俺の思考を断ち切るように、ハルヒの声が再び室内に木霊した。
「SOS団もメンバーが揃い、本格的な活動をすべきときが来ました。不思議な存在というものを待っている時代は20世紀で終わりました。
現在は21世紀、あたしたちは積極的に不思議な存在を探すべきだと思います。明日土曜日午前9時に駅前に集合し、SOS団全員で不思議探しを決行します。
来ない場合は死刑よ!」
とまあ、理不尽な宣言と共にその日の活動は終わり、解散となった次第である。
帰り際、長門が珍しく声をかけてきた。
「本読んだ?」
「ん?いやまだだが、返したほうがいいか?」
一頁も読んでないとは答えられん。
「必要ない。でも、今日読んで」
有無をいわさないという視線で長門はそういってきた。ふむ、あの本になにかあるのだろうか。
長門は表情には出さないが、文芸部室占領という事態に直面しているわけだし、いつの間にやらよくわからない団体の一員扱いだ。
しかも、SOS団の存在は学校中の噂になっている。
この無口無表情でおとなしい文芸部員が本で何かを伝えようとしてるのだろうか?
帰宅してすぐに借りていた本を開いてみると、栞が落ちてきた。これかな?などと思いながら目を通す。
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 19:08:05.99 ID:OUJKd+Zo0
支援
『貸した日に読んでくれると思ったのにキョンたんひどいよ〜っ!(。>0<。)
今日の午後七時。光陽園駅前公園で待ってるから、絶対に来てね♪絶対だよ! by長門有希』
・・・えっと、ずいぶんと長門のイメージと違う内容なのだが、というか俺の名前と最後の部分がなかったら、前に読んだ人宛てのものだと判断して間違いなく無視したな。
年賀状印刷の毛筆のようなきれいな字で書かれたその内容を無視するには謎が多すぎた。
まあ、長門の悪戯という可能性もないわけではないが、一応、指定の場所に向かって、自転車を飛ばすことにした。誰もいなかったら笑うしかないな。
まあ、笑わずに済んだ。公園のベンチにいつもの制服姿の長門がいて、本を読んでいた。どこか寂しげな印象は否めない。
「待たせたか?」
俺に気づいて無感情ないつもの視線を向けてきた長門にそう声をかける。さっきみた栞のイメージとはかけ離れたいつもの長門だった。
「少し」
まあ、家から公園までは20分近くかかる。7時を5分ほど過ぎてしまったことはやむを得ない事情と理解してほしいものだ。
「あの栞はお前からだったのか?」
「そう」
「部室や学校では話せないことなのか?」
「そう」
「ここならばだいじょうぶなのか?」
長門は目線を落とす。おそらく、ここでも話せないことなのだろう。
「わたしの家に来て」
唐突な発言だった。しかも、長門はそのままおそらく家のある方向に歩き出していた。なるほど、家でなければ話せないほど困っているということなのか・・・と思った。
まてよ、家といえば、この時間だ。親御さんがいるはず・・・俺の頭の中にひとつのストーリーが生まれた。
長門はもの静かでおとなしい性格だ。しかし、こいつの親もそういうキャラとはかぎらない。モンスターペアレントなんて言葉もあるくらいだしな。
で、長門に文芸部のことを尋ねた親が、今の状況を聞いて・・・
怒り心頭して、学校に殴りこみに行こうと言い出し・・・
長門はなんとかそれを止めようとして、しかし、ハルヒには連絡できないから、俺をここに呼び出したんじゃないか?
とすると、俺はハルヒの暴挙の協力者として、長門の親に釈明しないといけないのか・・・どうやって?
SOS団なる団体の説明をして、喜んで娘を差し出す親がいるだろうか?
まして、学校での噂というかやっちゃったことを見聞きしていたら、orz。
気分は失意体前屈だった。キョンたんぴんちってやつだ。
そんなことを考えながら、長門に案内されて、家だというマンションの一室の前についた。ここは相当な高級マンションだったはず。
・・・やばい。マジやばいって。
防刃ベストを着てくるべきだったか?
「防刃ベストって何?」
「いや、なんでもない。ここがお前の家なのか?」
しまった口に出ていたか。親馬鹿な父親が包丁を持ち出してくるところまで想像して、俺の中の長門の親御さん釈明プロジェクトは立案途中で中断を余儀なくされた。
「そう、入って、中に」
中は、3LDKクラスの普通のマンションだった。
いや、普通というと語弊があるな。なにせ、玄関から見える範囲のほぼすべてを本棚が占領していて、しかも全部本がぎっしりつまっていた。
古本屋かここは?と思ってしまうような光景だった。
「奥に」
そういわれて、室内に入ると、コタツ机がひとつ。
向かい合わせに腰を下ろすと、長門は電気ポットからお茶を入れてくれた。
・・・・・・
しばらく、沈黙が続いた。いたたまれない気分でお茶を飲んだ後、俺から話を切り出した。
「長門、一人暮らしなのか?」
そうなのだ、親御さんの姿が見えないし、この部屋の状態で複数人が生活してるという感じはない。
「そう、最初からわたししかいない。」
おいおい、それじゃあ、別の意味でやばくないか?とりあえず、釈明プロジェクトを実行しなくて済んでほっ、としたが。
「すごい本の量だな。本が本当に好きなんだな。」
しえn
「この本はわたしの・・・一部。」
えっと、この本はわたしのコレクションの一部とでもいいたいのか?ってことはこいつはちょっとした書店より大量の本を持っていると?
まあ、娘に高級マンション暮らしをさせている親なのだから、それなりに金持ちなのかも。
「それでだ、学校や公園で出来ないような話って何だ?」
本題をきりだす。
「涼宮ハルヒのこと・・・それと、わたしのこと」
長門は背筋を伸ばしたきれいな正座で話始めた。
「あなたに教えておく」
といって、また黙った。沈黙が痛い。長門はうつむいて俺の方の茶碗をしばらく凝視している。もしかして、躊躇しているのか?
「涼宮とお前がなんだって?」
俺がそういって即すと、長門は立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出してきた。
「うまく音声化できない。文章化でも情報の伝達に齟齬が生じるかもしれない。でも、読んで。」
そういって、その本を渡してきた。
題名は・・・なんだこれ?
『涼宮ハルヒとSOS団』
しかも、著者名が、俺?俺は夏休みの日記を書くのも31日にまとめてやるくらい文章を書くのが嫌いだ。当然こんな本を書いた記憶もない。
「読んで」
これはなんだ?と聞く前に長門はこちらをじっとみてそういった。
パラパラとめくると、へんな本であることに気づいた。この本、最初の一部を除いて全部真っ白じゃないか。
とりあえず、空白を読むのは無理なので、文章が書かれている最初の部分から目を通した。
そこには高校入学時のハルヒとの出会いからSOS団設立までの経緯が書かれていた。俺の言葉で・・・だ。
そして、ここで長門と会っている部分まで書かれている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
長門有希はその夜はじめて自分の正体を俺に明かした。長門の説明によると、彼女は『妖怪』なのだという。
この本を読んでいるやつ、笑うなよ。こいつは本当のことなんだからな。
妖怪なんて古臭い存在、俺も信じてはいなかったさ。このとき、俺が信じられなかったことはいうまでもないことだろう。
まあなんだ。まず『妖怪』とやらの説明をしとかないといけないな。俺たちが普通に思う『妖怪』とはちょっとばかし違うんだ。
『妖怪』と長門たちが自称している存在を生み出しているのは、人の想いであるらしい。
たとえば、狸が人を化かすと人々が信じていれば、人を化かす『妖怪』化け狸が生まれると・・・
じゃあ、長門の正体とやらはなにか?というと、文車妖妃(ふぐるまようび)という『妖怪』だ。
メルヘンチックにいうと本の精というか、文字の精とでもいうのかね。つまりは、こいつは文章に込められた想いが『妖怪』化したもの。
ちなみに、3年前に前世と呼ぶべき存在が東京で起こったあれのせいで滅んでいるが、人の文字への想いの強さのおかげで再生したのが今の長門有希なのだそうだ。
まあ、俺にもよくわからなかったがね。
そうそう、重要なことを書き忘れてしまうところだった。
その長門有希の説明によると、ハルヒも普通の人間とは違うらしい。
長門とは違い、ハルヒは普通の人間として、生まれている。
事情が違ってしまったのは、3年前・・・つまり、長門の前世とでもいうべき存在が滅んだのとほぼ同時期だ。
『妖怪』たちのなかでも最強クラスのやつがそのとき滅んだのだが、そいつは自分の力をある呪いと共に人間に宿らせることを考えたらしい。
・・・で、選ばれちまったのが、涼宮ハルヒだった。
その力は、相当なもので使い方次第では人類を滅ぼすことも容易なほどだという。正直、今でも信じられないがね。
しえn
その強大な力とやらに、長門の仲間たちが気づき、再生したばかりで過去の記憶と知識を失っていた長門に白羽の矢が立ったというわけだ。
長門自身も本来ならば相当強い妖怪であったから、ハルヒの力の歯止めとしての期待もあったし、人間社会と自分の力の制御をもう一度学習するよい機会にもなるだろうというのが、その仲間たちの主張であった。
そんなわけで長門は中学時代からハルヒと同じ学校で離れた位置から監視していたらしい。
長門に言わせると、ハルヒの中学時代にも多少の事件はあったが、大事にはいたらなかったとのこと。
そして、高校もおなじ学校へ進学し、文芸部で本に囲まれながら、監視を続けようと考えていた矢先に、涼宮ハルヒの強襲を受けたというわけだ。
「妖怪と妖怪は惹きあうもの仕方ない。」とは長門たちの発言である。
しかし、SOS団に俺が巻き込まれたことは・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ここで文章は終わっていた。
「長門、この本は何だ?」
こういう本を書くのが趣味なのかね、こいつは。
「書いてあるとおり。その本は書かれなかった本の一部。わたしの力。」
正直よくわからなかった。
「文字での情報伝達にも限界がある。でも、理解してほしい」
んなこと言われても。
「何で俺なんだ。本当にお前が妖怪だとして、ハルヒに特別な力があるとしてだ。なぜ、俺にそのことを教えたんだ?」
「あなたは選ばれた存在。妖怪と妖怪は惹きあう関係にある。だから、わたしと涼宮ハルヒは出会った。しかし、あなたは普通の人間、あなたが選ばれたのには理由がある。」
「ねーよ」
「ある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。あなたと涼宮ハルヒが、すべての可能性を握っている。」
「本気で言っているのか?」
こくり、と長門ははっきりとわかる動作でうなずいた。
俺は、今までになくマジマジと長門有希の顔を直視した。度を越えた無口なやつと思っていたが、頭の中ではこんな電波なことを考えていたのか。ここまで変なやつだったとは・・・
妖怪?文車妖妃(ふぐるまようび)?ありえん・・・
「あのな、そんな話なら直接涼宮に言ったほうが喜ばれると思うぞ。あいつはそういう話題には飢えているからな。悪いが、俺はそういう話題にはついていけないし、今信じることはできないな。」
「わたしの仲間たちの意見では、呪いの影響で直接伝えることはできない。もし、伝わったとしても、現在の涼宮ハルヒでは自分の力を自覚した場合、その力を制御することは困難。」
「俺が今の話をそのまま伝えたらどうするんだ?」
「涼宮ハルヒはその話を信じない。信じることができない。それが彼女が受けた呪い。」
呪い云々はともかく、確かに信じないのは事実だろうな。
「涼宮ハルヒの周りにいる妖怪はわたしだけではない。また、妖怪の中にはあの力を利用しようという動きもある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。危機が迫るとしたらまずあなた。」
付き合いきれなくなってきた。
これ以上、電波話を聞くのはさすがにつらいので、長門の部屋からおいとまさせてもらうことにした。まあ、お茶はおいしかったよ。
長門もこれ以上留めようとはしなかった。ちょっと、寂しそうではあったが・・・
家に帰って、親に遅くなった言い訳をして、自分のベッドに横になった。
妖怪 文車妖妃(ふぐるまようび)ねえ・・・
気になって仕方が無いので家のパソコンで検索すると、確かにそんな妖怪が紹介されているページはあった。まあ、絵の方は長門とはイメージが違う。
そりゃそうだ。妖怪なんて実在するわけがない。実在すれば、ハルヒは喜ぶだろうがな。
あんな風に本に囲まれて一人寂しく生活しているから、長門もあんな妄想に取りつかれたのだろう。思春期の少女に集団妄想などが起こるケースがあるというのもそのホームページには書かれていた。
『妖怪』
この言葉と俺がこれから長きわたり付き合っていくことになるとは、このときひと欠片も思っていなかった。
しかし、おだやかな俺の日常はこのときすでに圧倒的な存在による激変しつつあったのだ。
しえn
以上で、第2話終了です。支援ありがとうございました。
一応、本作の題ですが、「涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver」とすることにしようかと思います。
ちなみに、現在登場している純正の妖怪さんは4人です♪
乙!
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:10:13.10 ID:QwLGZRGu0
乙!なかなかいいんじゃないでしょうか
ほしゅ
9時頃に投下しようと思うのですが、他の方の予告は入っていませんか?
「まず、キョンくんとみゆきには中学生の涼宮さんを迎えに行ってもらいます。みゆき、昨日教えた魔法の使い方はしっかり覚えてる?」
「うん、大丈夫っ。機械を操縦するときに使うんだよね?」
……魔法、ね。恐らく情報操作能力のことだろう。大人の朝比奈さんはみゆきに頷くと喜緑さんへと顔を向け、
「そして二人が過去に向かうために、喜緑さんには思念体へアクセスしてもらって、時空改変以前の……涼宮さん以外の世界の時を止め
て貰います。次元構造の中から涼宮さんを連れてきたり、その中で行動するにはそうしないとダメなので」
「了解しました。それだけでいいのでしょうか?」
やんわりとした笑顔で答える喜緑さんに、
「いえ、もう一つ。……長門さんの思念体を凍結状態から復帰させてください。そして――」
大人の朝比奈さんは振り返り、今度は古泉に向かって、
「キョンくんとみゆきが過去へ行っている間、古泉くんには、長門さんの思念体と共に四年前の七夕へと時間遡行をして、長門さんの
部屋へ行ってもらいます。そこでは、わたしとキョンくんが《あの日》へ行く為に訪ねてくる予定ですから、そのわたし達が
やってくる前にリビングの隣の部屋へと隠れていてください」
……ん?それって、俺が長門の作り変えた世界から脱出プログラムで過去の七夕に飛んだ後、長門から話を聞くためにあいつの部屋へ
行った時の話だよな?あの時長門は、隣の部屋は俺と朝比奈さん(小)の為に丸ごと時間を止めたから開かないって言ってたはずだが……。
「そうなんですか?」
朝比奈さん(大)が俺に聞いてきた。
「ええ。っていうか、あなたも居たじゃないですか」
「そっかぁ」と何やら考える様子で、
「じゃあ、扉を開けられないように気をつけないといけませんね」
「……どういうことです?」
「……えっと、」少し思案顔を浮かべた後、俺に微笑みながら「このわたしは、まだその七夕でキョンくんを導いてはいないの。
それはわたしが、これから行うことです」
ん……つまり、、あの七夕の日に来ていた大人の朝比奈さんは、この朝比奈さん(大)だったってことなのか?
「そういうことです。今のわたしは、世界の歴史を整える為に、上層部からの指令をあなた達に説明をするよう頼まれているだけなの。
わたしもこれからあの七夕へと向かって、世界を修正するために頑張ります」
パチリとウインクをかまし、朝比奈さん(大)の放ったハートマークが俺の顔に当たるまでの束の間、
俺の生体活動は停止していたかのように思われた。
しえn
――なんてこった。じゃあ、長門と俺と朝比奈さん(大)があのアパートで《あの日》について話していた時……隣の部屋には、
古泉が居たってことじゃないか。なんとゆーか……あいかわらず眩暈がするね。
朝比奈さん(大)は古泉へと面を返し、
「そしてそこのわたし達が《あの日》へと飛んだ後……古泉くんには、あなたにしか出来ないことをお願いしますね。そしてそのまま、
小さいわたしがこの規定事項を終えて迎えに来るまで待っていて下さい」
古泉は真剣な顔で首肯すると、
「……なんとなく、僕がやるべきことは感じています。つまり僕は、副旋律を担当するのだと言うのでしょう?」
「……副旋律?なにがだ?」
俺がそう聞くと前髪をピッと弾き、
「これから行う規定事項の為に、僕達はそれぞれ自分のパートを受け持つということですよ。音楽的にいえば、
つまり僕達は演奏者で、《あの日》へと直接赴くあなた方は主旋律を担当し、そこへ行かない僕は副旋律を
担当するようなもの。そして、長門さんが変えてしまった世界から続くこの世界は、僕達がこの規定事項を
完遂させた結果……言わば一つの『楽曲』なのです。あなたの行動によってあの三日間が発生し、
僕のこれからの行動には……恐らく、『長門さんの小説』が関係しています」
「あいつの小説が?どうしてだよ」
古泉は少し悩んだような顔を浮かべ、
「……僕はずっと、思念体が長門さんを疎遠にしていた問題の答えは、彼女の小説の三枚目の中にあると考えていました」
だから最近、お前はずっと機関紙を読んでいたのか。
「ええ。あれに書かれている内容ですが……まず、棺桶というワードに『死』という隠喩があるのは間違いないでしょう。
次に、その小説の中で長門さんらしき人物はその『死』を望んでいて、そしてその『死』を阻む存在として、
僕や朝比奈さんらしき存在が示されていました。そして物語は、事の顛末を見ないままに終えられている。
僕は長門さんに後のストーリーについて聞いてみたのですが、彼女は、この小説は殆ど無意識に近い状態で書き綴ったために
答えることが出来ないと仰っていました。そして今……長門さんは『死』を願った代償として思念体から制限を受け、
記憶を無くしてしまっています。――これから僕がやることは、あの小説の中で表現されている……
彼女が忘れてしまった自らの発表するものを思い出させることです」
「つまり、お前は何をするんだ?」
古泉は大人の朝比奈さんに意味ありげな目配せをして、
「……とにかく、僕は長門さんが抱える問題を解消します。ですが、僕の行動にもあなたの協力が必要不可欠です。なので……」
古泉は決心に満ちた視線で、
「――許可を」
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:31:49.20 ID:z0H/SDuZ0
支援
もちろん良いに決まってる。何をするのかはわからんが、わざわざ許可を得る必要なんてないぜ。
「そう言ってくれると信じていました」
古泉は目を細くしながら言い、
「あの小説を読解しましょう。長門さんの忘れている自分が発表するものとは、僕達も知らない『長門さんが望んだもの』
だったのです。そして発表会とは、《あの日》のこと。……僕は、長門さんが発表の舞台へと戻ってこれるように尽力します。
あの物語を紡ぐのは、長門さん自身なのですから」
……ってことは、あの長門の小説は何かしらのヒントだったのか?じゃあ、他の一枚目と二枚目にはどんな意味があるんだろうか。
「ええ。経緯はまだ不明ですが、恐らくあの小説は、長門さんの識閾下から綴られた僕達へのメッセージだった。そして、
二枚目については何となく見当が付いています。あの二枚目こそが長門さんの思い出であり、長門さんの歴史なのでしょう。
現在の長門さんはそれを失ってしまっているので、僕はこれから、あなたの協力を得てその失われたページを取り戻すのです」
「……そっか」俺は長門を見る。「……こいつは、こんな風になっちまっても、俺達を助けてくれるんだな。――次は、俺達が長門を助ける番だ」
ここに集まった全員が一致して頷き、意思の固まりを確認する。大人の朝比奈さんは俺へと微笑み、
「《あの日》へ行く際の詳細については、キョンくんが涼宮さんを連れてきた後にお話しますね」
そして粛々と、
「……では、行動を開始します」
さて。俺が今からやるのは、みゆきと一緒に中学ハルヒを連れてくることだ。
俺とみゆきが大人の朝比奈さんに率いられてトラックへと向かっていると、
「中学生の涼宮先輩、どんな感じなんでしょうね?フフ、楽しみです」
みゆきが無邪気に話掛けてきた。なに、俺は一度会ったことがあるが、中学のハルヒは身体的特徴が若干小さいだけで、
全く今と変わらんさ。
「フフ。涼宮先輩らしいです」
クスクスと笑みをこぼし、前を向く。そしてトラックの荷台の後部へと着くと朝比奈さん(大)は扉を開け、
「……これが時粒子転換探知装置、タイムパーティクルスダイバージョンディテクターです。一般的な概念から言えば、このTPDDこそがまさにタイムマシンと言えますね」
「……ん、」
俺は呟く。中に入っていたのは、一般乗用車程度のサイズのお椀を伏せたような形状の半球から、車ならタイヤがあるべき
四方の位置に三十センチメートルほどの突起物が等しい形で付いており、こちらへと向いている正面には、
それらよりも二倍ほど長い突起物が……ええい、説明が面倒だ。それにこれはどっからどう見ても……、
「亀じゃないですか」「うわあ、大きいカメさんですね」
そのフォルムはまさに亀であった。
「これは、時量子理論が基になったTPDDなの。この形に意味は無いんだけど、ハカセくんがあの時、
川の流れの中を泳ぐ亀を見たことによって生み出されものだから……ふふ、単なる遊び心です」
えらく茶目っ気の効いた科学者達だなと思いながら、俺は藤原の言葉を思い出していた。
なるほど、物質的なTPDDの形は浦島太郎ね。あいつは俺をおちょくりやがった訳じゃなかったのか。
ってことは、もしかしたら浦島太郎の話は実話なのかな。
「うふ。禁則事項です」
大人の朝比奈さんはそう言ってみゆきに、
「じゃあ、今から時空間の座標を教えるね。みゆき、手を出して」
みゆきが差し出した小さな手のひらに朝比奈さん(大)がちょんと触れると、
「りょーかいっ。フフ、失敗しないように頑張ります」
頑張ってね、と言いながらみゆきの頭をナデナデしつつ、
「……じゃあ二人とも、これから直ちに出発して下さい。キョンくん……健闘を祈ります」
「了解しました、朝比奈さん。あのじゃじゃ馬娘を、縄ででも繋いで引っ張ってきますよ」
――よし。今から……中学生を拉致しに行くとするか。
そして時間遡行。亀的TPDDの内部には、後部にやたらでかいグラウンド整地用のローラーみたいなものが取り付けられており、
みゆきが稼動させている間中、それに対応するように幾何学的な模様が描き出されていた。これが技術革新によって、
あの小さい金属棒へと変貌するんだろう。とまあ、これ以外に時間遡行中に特筆すべきものは無かった。そして俺達が着いた先は……。
しえn
「……同じ公園、か?」
多分、さっきまで居た公園と一緒なのは間違いない。ただ、備え付けの設備が若干綺麗だったり、
後でペンキの塗り替えでもしたのだろうかという感じで俺の知っているものとは色違いな遊具がある。それに……、
「フフ。ちゃんと時間が止まってるみたいですね」
なんで時間を止めなければならないのかも疑問だが、それは瑣末な問題でしかない。
朝比奈さん(大)に聞けばわかるかも知れんが、俺は実行あるのみだ。よって聞かない。
「……ハルヒは、どこだ?」
こっちの方が重要なのであり、俺にとってこれ以外の考え事は要らないのだ。
「えっと、たしか……あ、いましたっ」
みゆきが嬉しそうに指を差す方向には空中で停止したブランコがあり、その下に何やら伏した人影があった。
「あれがハルヒか」
もしかしてあいつ……ブランコ漕いでる最中に時間が止まって、そのまま下に落下したんじゃないだろうな?
それちょっと面白いなと思いながら近づき、
「おい、大丈夫か?」
俺は人影へと話しかけた。その人はまさしくハルヒで、ハルヒは立ち上がりながら東中の制服についた泥を払い、
「…………」
俺の呼びかけに全くの無反応を示した。
「お前、涼宮ハルヒだよな?」
「…………」
ハルヒはまるで死ぬほどツマラナイギャグを言った奴を見るような冷徹な視線を俺に向け、直ぐに踵を返しスタスタと歩き去ろうとした。
「ちょっと待ってくれ」
「…………」
なおも無視して何処かへ行こうとするハルヒ。俺はハルヒの腕を掴んで静止させようとすると、
「なにすんのよ!」
お前は何でなにも反応しないんだと言いたい。
「……ふん」
顔を背けやがった。
「ってかさ、この状況がまず変だと思わないのか?お前が乗ってたブランコを見てみろ。あいつ、ニュートンにケンカ売ってるぞ」
不自然に宙へと浮かぶブランコの椅子を見せると、
「くだらないわ」
「……くだらないだって?お前、こういう不思議なモンが好物じゃないのか?」
「……まず、あんたは誰なのよ」
「ジョン・スミス」
「帰れ」
帰るわけには行かないので、
「お前さ、宇宙人や未来人や超能力者に会いたいって思ってるんじゃないか?」
「…………」
「喜べ。あそこで手を振ってる女の子はな、実は、宇宙人で未来人で魔法使いなんだ」
「……じゃあ、あんたは何者なのよ?」
「強いて言うなら……未来人だな」
「あの子と被ってるじゃない。あんた必要ないわね」
「……とにかく、今から俺について来て欲しいんだ。理由は、行けば分かる」
「ぶっ殺されたいの?」
ぶっ殺されたくはねえな。
「じゃあ帰れ」
……と言って、沈黙。なんか、一つだけ分かったことがある。無口なハルヒは……
本気でまったくもってハッキリと可愛くない。
なんなんだ?このダークハルヒの覇気の無さは。これなら、まだ俺の知ってる……雪も降らずに庭駆け回るハルヒの方がマシだ。
それにこいつ、中学に入ってからは不思議探しに精を出すんじゃ無かったのか?今、目の前にタイムマシンやらなんやらがあるというのに、
なぜこんなに興味を示さないんだろうか。
「キョン先輩っ、どうしたんですか?早く帰らないと怒られちゃいますよー?」
離れからみゆきがそう叫ぶと、
「なによあんた。キョン?ジョンじゃないの?」
うーん……ばれても良かったのだろうか。だがまあキョンもジョンも、このハルヒにしたら変わりゃしないか。多分。
しえn
「馬鹿キョン」
チョップ。
「……痛いわねっ!なにすんのよ!」
「わがまま言ってないで、早く行くぞハルヒ」
「無茶言ってんのはどっちよ!?」
悲しいくらい俺だったが、
「今から、他の宇宙人や未来人や超能力者と会いに行くんだ。お前、そーいうのに会いたいんじゃないのか?」
……これに対してハルヒは、俺の耳がオカシクなったのかと思うような言葉を吐いた。
「――そんなの、居る訳ないじゃない!」
このハルヒは何を言っているんだろう。いや、至極まともなことを言ってはいるが、おかしいじゃないか。
こいつは、それらを探してこれから中学時代を過ごしていくはずだ。なんでそれを否定する。むしろ、喜び勇んで飛びついてくるとばかり思っていたが。
「……いい加減にしてよ」
ハルヒは呆れたように言い、盛大な嘆息を一つついた後に、
「……あたしもヤキがまわったものね。現実がツマンナイからって、こんな夢を見るだなんて。……ホント、なっさけない」
――こいつは、これが夢だと思ってんのか。確かに常識人は、このイレギュラーな状態をそのまま認知はしないのだろうし。
「……夢だってかまわん。とにかく、お前はどうする?俺についてくるのか、こないのか」
来ないと言われたら困り果てる次第だったが、
「……わかったわよ。どうせ夢だしさ。ついてったげる」
「――ああ、すまないな」
この特異な空間が功を奏したのだろう。ハルヒはついてくると言い、俺達はハルヒを連れて元の時間の公園へと戻った。
「二人とも、お疲れ様。大変でした?」
いやあ、途中で殺されかけましたが概ね問題なしです。
「ふふ。みゆきもごくろうさま。操縦はどうだった?」
「んー。なんだか、絵を描きながら計算してるみたいだったかな?」
みゆきはなにやら意味深なことを言っている。
「ねえキョン。この女の人は何?宇宙人?」
このハルヒも俺に対する呼称はキョンに決めたのかと思いながら、
「この美人なお姉さんは朝比奈みくるさんと言ってだな、未来人だ。あそこに居る可愛らしい童顔の女の子も同一人物で、
彼女のもっと未来の姿がこの朝比奈さんになる」
「ふうん。他には?」
「あの不揃いのショートヘアと緑髪の人が宇宙人で、順繰りに長門有希と喜緑江美里さんだ。超能力者は……ん?」
古泉は……そうだった。あいつは今、長門の思念体と一緒に過去に行ってるんだっけ。
「古泉くんの紹介は、規定事項が終わってからで」
朝比奈さん(大)はハルヒに言い、
「今から、《あの日》についての説明を始めます」
「まず、一つ疑問があるんですが」
俺が朝比奈さん(大)に、
「俺達が《あの日》へと行くのは二回目になりますよね。これはどういうことなんですか?」
と質問すると、
「この間の時間遡行は、時系列的に言えば二回目になるの。そして、これからの行動が一回目の《あの日》になるんです」
理解しかねていると、
「キョンくんが朝倉さんに刺されてしまった時、あなたはこの中学生の涼宮さんを見ていたはずです。それが一回目の《あの日》……つまり、
これからのわたし達の行動を、あの時のキョンくんは見ていたの。そして前回の時間遡行の際、朝倉さんが消えて世界を修正した《あの日》は……
実は、あれはSTCデータを切り取って未来に繋ぐための作業だったの」
ますます理解しかねていると、
「書きながら説明しますね」
そう言って朝比奈さんはしゃがみ込み、地面の砂に指でなにやら、
支援
『過去→X→未来』
と書いた。
「まず、これがおおまかな時間の流れ。『X』が《あの日》の時間軸になります。そして《あの日》には二つパターンがあります。
朝倉さんが消えた《あの日》をB、これから行く《あの日》をAと置くと……」
『過去→A→1月→B→現在』
「これが世界の歴史です。つまり、これから行く《あの日》でのわたし達の行動Aによって未来が発生し、
その後の一月、キョンくんが時間遡行をして世界を修正したというデータBがあって、現在の世界へと繋がっているの。
そして前回の時間遡行は、まず『X』をBに変えてそれを切り取り、未来に繋いだことによって現在を発生させたんです。
これはどういうことかというと、」
そう説明しながら、最初に書いた『過去→X→未来』からXを消し、そこにBを書いて、
『過去→B→未来』
こう表した。そしてBを消し、未来の次へとBを持ってきて、
『過去→X→未来→B→現在』
と書いた。
「つまりこういうこと。そしてわたし達は、これから『X』をAに変え、世界の歴史を完成させます。でね、AとBのデータは、
長門さんが世界を改変した後のそれぞれの分岐なの。だから、歴史を整える為に、長門さんが世界を改変した後にわたし達は行動をしたんです。
そしてこれが、STC理論における世界の構成理論。ホントはもっと色々あるんだけど、これ以上は言葉では伝えられません」
……ここに古泉が居ないのが惜しまれる。俺には何がなんだかサッパリだ。
「音楽理論で言えばね、『小節』を切ったり作ったりして、元となる『楽譜』と同じように成形するということ」
ニコヤカに仰っているが、もう俺は考えるのをよそう。とにかく、なんか色々とあって俺は行動するみたいだ。
……そう、俺がやることは唯一つ。単純明快だ。これからハルヒと長門と朝比奈さん(小)と《あの日》へ行き……朝倉に会う。
俺は朝倉にどう対応するのかを考えるべきなのさ。
「あの……」
っと、朝比奈さん(小)が、
「あたしは、また眠ってないといけないんですか……?あたしだって、その、みんなの力に……」
振り絞るように言い連ねると、朝比奈さん(大)は、
「あなたの気持ちは良く分かります。だって、わたしなんだもの」
過去の自分をニッコリと見つめて、
「今回は、あなたに眠って貰うことはありません。眠らせる理由もありませんし、あなたの力も必要なの」
「……あたしでも、長門さんの力になれるんですねっ!」
喜々として朝比奈さん(小)が言う。俺も、この朝比奈さんが自分で頑張れることには大いに賛成だ。
「……少し、よろしいでしょうか?」
「ふえ?」
不意に喜緑さんが言葉を挟み、長門を一瞥してから、
「現在この長門さんの端末には、長門さんの思念体が入っていません。ですので、暫定的なパーソナルデータを付加し
自律的に行動できるよう設定しています。この長門さんは彼女本来の能力を発揮出来ますので、朝倉さんが襲ってきたと
しても心配は無いでしょう。ですが、その数の皆さんを守りながらではこの長門さんでも対応は厳しいと思われます。
なので、そちらの小さい朝比奈みくるさんの情報を、暫定的にインターフェイスにおける知覚外領域へと変更する処置を行いたいのですが」
「それ、どういうことですか?」
俺が尋ねると、
「わたし達のようなインターフェイスに、彼女の存在を捉えることが出来ないようにするということです」
つまり、あれか。九曜なんかが俺達に姿を認識させない感じの情報操作だろう。確かにこの朝比奈さん(小)は俺達の中で最もか弱き守るべき存在だし、
あの殺人鬼に狙われでもしたら一瞬だろう。
「でも、」朝比奈さん(小)は申し訳なさそうに「それだと、あたしが行く意味がないんじゃ……」
確かにそうである。姿を隠して不意打ちでもやるなら話は別だが、そんなことを朝比奈さんに任せる筈もなければ、俺もそんな朝比奈さんの姿を見たくはない。
「――えっと、小さいわたしには……視覚認識操作だけを行ってください。それで大丈夫ですから……」
大人の朝比奈さんはなぜか恥ずかしそうにそう言うと、
「了解しました。では……」
喜緑さんはスタスタと、朝比奈さん(小)はパタパタと互いに近寄り、そして『チュッ』という音を立て――――?
支援
「――ひゃっ!な……きみどりさ、ええええ!?」
「なんでしょう?」
いや、「なんでしょう?」って喜緑さん。さっき俺はすごいもんを見た気がするんですが。
という俺の質問は、
「キ、キス!?」
という単語でしか言葉に表されなかった。
そりゃそうだ。いきなり目の前で女子同士のキスなんぞ見せられたら、誰だって困惑して冷静な質問など口をつく訳もない。それが知った人同士だったなら……特に。
「わたしは、彼女にプログラムを送っただけです。それ以外の意味は先程の行動にはありません」
「……でもっ長門さんは、噛み付いてから、その……」
朝比奈さん(小)が火照った顔を両手で隠しながら、俺をそろそろと見ている。
「――長門さんが?それはどういう……」
と不思議そうに喜緑さんは言い、そして「――ああ、恐らくは」と何かに気付いた様子でニッコリと、
「長門さんは、照れていたんでしょう」
長門はキスが恥ずかしいから、手首に噛み付き攻撃をしてたってのか?――なんだ、あいつにもそういう可愛い所が……、
「……ちょっとキョン。あたしはどうすればいいのよ?あんた、あたしに女同士の濡れ場を見せたかったわけ?」
なわけないだろうが。時まで超えてそんな目的って、どんな変態だ。それ。
俺とハルヒがヒソヒソ話――ハルヒは大声だったが――をしていると
「……説明が長くなってしまってすみません。でも、後は行動あるのみです」
そして朝比奈さん(大)はここ一番凛々しく決意に満ちた顔で、
「この規定事項は、SOS団とわたしの未来……いえ、わたし達の未来を発生させる為に必要な《最重要項》になります。
そして、これから向かう《あの日》には他の分岐も存在し、もしそちらが選ばれてしまった場合、
この世界は存在できなくなってしまいます。その分岐とは――――いえ、これは言わなくてもいいですね。
わたしはキョンくんを……みんなを、信じていますから」
朝比奈さん(大)はみゆきを自分へと呼び寄せ、
「みゆきはお留守番。わたし達が帰ってくるまで待っててね」
「うんっ。待ってるっ」
みゆきは元気な笑顔で返事をし、俺を向いてシャドーボクシングをしながら、
「いまから朝倉っていう悪い人と会いにいくんですよね?あたしの代わりに、先輩がその人の根性を叩き直してあげてくださいよっ」
相手はナイフ持ちだから実力行使は出来ないが、とにかくまた刺されるようなことには…………ならないよな?
「情報統合思念体……そしてわたしからも、長門さんをお願いします。朝倉さんは長門さんにとってのバックアップですので、
今回の行動では彼女が鍵になっているでしょう」
喜緑さんに受けた恩もありますし、第一、長門に受けた恩も計り知れない。だが……そんなこととは関係なく、
俺は全力で長門を助けにいきますよ。……長門の為に。
「キョンくんたちが向かう時空間座標は前回と同じです。喜緑さん、みゆきをお願いします」
そして大人の朝比奈さんは俺の目の奥を見通すような視線を向け、
「……きっと、大丈夫」
お色気お姉さんから元気を注入されて俄然やる気になっていると、
「ねえ、またどこかに行くの?あたしも何かやんなきゃいけないの?」
決まってる。《あの日》へ行って、長門を助けるために、あいつに話を聞きに行くんだ。
「……わけわかんない。大体、SOS団ってなによ。あんた達はなんなのよ?」
「ん。SOS団ってのはだな、世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団の略称で、俺達はその団員なのさ。そして、
もちろん団長はお前だ。お前が高校に入って、俺達を集めてくれる予定なんだ」
……ハルヒ。俺達は、お前に団長になってもらわんと非常に困る。お前じゃなきゃダメなんだ。高校に入って俺達を
見つけられるのはお前以外にいやしないだろうし、俺だって…………涼宮ハルヒって奴は、嫌いじゃないんだしさ。
「…………ふうん」
ハルヒはにべもなく呟くと、そのまま何かを考えるように沈黙した。
「あ、いけない。忘れるところでした」
朝比奈さん(大)は紺色ミニタイトのポケットへと手を入れ、
「これ、キョンくんにあげます。お守り。失くさないでね」
ポトンと俺の手に渡されたのは、あの幾何学模様が入った金属棒だった。
「良いんですか?頂いたりして」
「どうぞ。あなたの好きなように使ってもらって構いません」
使いどころなど思いつかないが、くれるのならありがたく頂戴しておこう。
「わたしはみなさんを見送った後、あの七夕へと向かいます。じゃあ、朝比奈みくる。みんなをお願いします」
小さいほうの朝比奈さんに合図をし、
「はい。では……行きますね。キョンくんと涼宮さんは目をつむって下さい」
俺は指示に従う前に、長門の姿を目に入れた。
――長門。今まで……待たせてすまかったな。
そして目をつむった俺に降りかかってきたのは、いくら体験しても慣れようのないTPDDの時間遡行に付属する強烈な不快感。
ハルヒにこれを注意しておけばよかった、そういえば、亀的TPDDの乗り心地は悪くなかったな、などと考えていれるのは、
やはり少しはこの感覚に慣れてきているからだろうか……。
そして目を開けた俺に見えたものは、校庭にたたずむ俺。それを見守る俺達。だが、俺の視線を捉えて放さなかったのは……。
眼鏡姿の長門だった。
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:14:23.38 ID:OUJKd+Zo0
支援
……と、ここまでです。支援ありがとう御座いました!
やっとここまでこれたって感じです。大体ここで3分の2位かな?
早く完結させれるように頑張ります。
乙!
保守
保守
この時間帯に30分近く空けて大丈夫って何気にすごいな
120 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:43:20.26 ID:ClQItD8D0
保守
誰か前スレのDATの完全版持ってない?
655が最後のやつ
保守
保守
124 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 01:15:32.84 ID:+i84kCFwO
保守
落ちたり復活したりややこしいなって保守
キョン「朝比奈さんあーんしてくれますか?」
みくる「あ゙ーん?」
ほす
127 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 02:32:01.86 ID:5f3NIWTOO
かまどうま戦
キョン「何か、何か武器はないのか!?」
保守
保守
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 03:31:57.54 ID:Z6oYQn2Q0
>>121 うPロダのDATを完全版に差し替えました。
言われるまで気が付かなかったorz
ありがとうございます。
131 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 04:47:06.98 ID:5f3NIWTOO
ネタはない保守
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 04:47:58.54 ID:RxLR6cvGO
みくる「変えることのできない未来――そう運命って言えます」
ハルヒ「…………」
みくる「キョンくんが死ぬのは運命なんです。そうとしか言えないんです」
ハルヒ「……そう」
みくる「でも、イヤなんです。このままキョンくんが死ぬのをただじっと見ているだけなんてっ! でも運命に逆らう事なんて……!」
ハルヒ「――全く運命運命っていい加減聞き飽きたわよ、みくるちゃん」
みくる「……え?」
ハルヒ「聞きなさい。運命なんて、後出しの予言に過ぎないわ。何かが終わってその後でこう言えばいいのよ」
ハルヒ「全部運命だったってね!」
みくる「…………!!」
何か熱い展開保守(前後のシチュエーションはお好きなように想像して)
133 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 05:19:34.27 ID:Ot0M9sog0
古泉「仕方ないのです。これも運命でしょう。」
キョン「・・・・・・」
古泉「神が不在となるこの世界がどうなるか。まったくわかりませんが、運命と思って受け入れるしかないですね。」
キョン「・・・・・・そうか。」
昔の俺ならそうしたかもしれない。
キョン「・・・・・・認めん。」
古泉「・・・えっ?」
キョン「ハルヒはまだどこかにいるのだろう?それが閉鎖空間だろうが、天蓋領域だろうが、
ハルヒはいる。それで十分だ。あきらめるには早すぎる。」
古泉「あなたは・・・ずいぶんと変わりましたね。」
こんな展開・・・古キョンバージョン保守
キョン「長門ォォオオ!!!」
朝倉「バカね 人間の味方なんてするからそうなっちゃうのよ」
キョン「なん・・だと・・・?」
朝倉「情報統合思念体はとっくに方針を変えていたのよ
あなたを殺して涼宮ハルヒの出方をみる・・とね」
キョン「バカな・・・そんなことは一度も・・」
朝倉「長門さんは思念体の指示に逆らって一人で様々な危機からあなたを守ってたの
その危険が自分にも向くと知りながら」
キョン「・・・」
保守レスなのに続く・・・
135 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 06:32:22.08 ID:RxLR6cvGO
朝倉「でもそれも今日でおしまい
結構時間はかかったけど長門さんのしたことは全て無駄になるわ
ほんとにバカよねー
一人で情報統合思念体に勝てるとでも思ってたのかしら?」
キョン「・・・」
朝倉「それじゃあ・・・・死になさい!!」
パシッ!
朝倉「!?(とめた!?)」
キョン「あぁぁぁぁさぁぁぁぁくぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
何か熱い展開保守(前後のシチュエーションはお好きなように想像して)
136 :
早朝保守:2008/05/28(水) 07:00:23.86 ID:HkRjAtBs0
「ねぇ、キョン。できちゃったみたいなんだけど…」
「え、ハルヒ、何が出来たって…………え、マジ?」
「そうよ。キョンは身に覚えあるでしょ?」
「……やっぱりあの時?」
「キョンのせいだからね」
「俺のせいって…あれはお前が何度もおかわりするから、ゴムがなくなって仕方なく……」
「それはキョンだけ先に気持ちよくなっちゃうからじゃない」
「いや……その…」
「それに外に出さないで中に出したのはキョンじゃない」
「えっ、あの時は外に出そうとしたらお前が離してくれなくて……」
「言い訳しないの、『やっぱり中に出すと気持ちがいい』とかいってたじゃない。とにかく責任とってくれるのよね」
「あ、あぁ……勿論…だ」
「これからあたしんちにいってアイサツしてもらうけどいいわよね?」
「アイサツ!……あぁ…」
「どうしたの? はっきりしないわね、もしかして嫌なの?」
「いや、その……急な話なんで…心の準備が…ちょっと」
「もう男っていざとなるとヘタレっていうけどホントね」
「…そうだ。ハルヒはもう妊娠してるんだよな」
「さっきからそういってるでしょ」
「じゃぁとりあえず、ナマでやっとくか。これ以上妊娠しっこないしな」
「はぁ?」
「気分をすっきりさせて気持ちを落ち着かせないとな。ナマでいいだろハルヒ?」
「……(今からでも考え直した方がいいのかしら……)」
137 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 07:57:45.11 ID:Teixo8QtO
あっがーれ
☆3不毛な喧嘩
「なあ、ハルヒ」
「なによ」
いい加減こっちを向いてくれないか、と言おうとして、やめた。
そんな事を言ったって無駄だろう。
背中の紫色のオーラが目に見えるようだ。やれやれ。
「だからそれは俺が悪かったって」
素直にごめんと言えないのは俺のほんの少しの抵抗だと思ってくれ。いや本当に。
しかしこれ以上機嫌を損ねたら、明日古泉の顔を見るのが怖いな。あいつは今も赤い球になってせっせと働いているのだろうか。
仕方ない、か。
パイプ椅子に沈んでいた重い腰を持ち上げる。
そして、
「ちょっと、それずるくない?」
真っ赤にしたハルヒの顔を愛しく思うのさ。
(翌日、古泉に聞いたらバイトは入っていなかったらしい)
139 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 09:20:25.38 ID:IH+mstqgO
140 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 10:17:29.23 ID:WiYnUOtx0
保守
142 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 11:08:52.61 ID:jcl6QM/+0
保守
143 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 12:26:00.39 ID:YLMHZdmk0
保守
144 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 13:23:06.44 ID:cS9dGPrq0
保守
145 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 14:01:46.67 ID:01X2gqQy0
ハルヒちゃんの憂鬱買った保守
146 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 14:50:10.20 ID:IH+mstqgO
ほしゅ
147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 14:59:39.57 ID:a4QH/CEOO
ハルヒかわいいっていう作品はないかな?
保守
149 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 16:27:56.90 ID:IH+mstqgO
150 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 17:00:07.88 ID:a4QH/CEOO
>>149 やっぱりまとめにないのか、そりゃ残念だ
152 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 17:47:58.89 ID:cS9dGPrq0
保守
153 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 17:49:45.59 ID:YLMHZdmk0
154 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 18:00:36.15 ID:01X2gqQy0
キョン「外との連絡が取れない?」
古泉「産めや増やせでいいじゃないですか」
俺達SOS団は、いつかのような孤島に来ていた。不幸中の幸いか、当分の食料の心配は無さそうだ。こんな状況にも関わらずハルヒの機嫌はかつて無いほどに良い。俺はうんざりを通り越して国民栄誉賞でも授与してやりたいくらいだった。
ハルヒ「何かしら、あの洞窟」
キョン「みんなが心配するし、帰るぞ」
なによ! と、ふんぞりかえるハルヒを無視して、俺はさっさと館へと歩を進めた。今にして思う、この時俺がしっかりとハルヒを連れ帰るべきだったと。
長門「涼宮ハルヒはこの時空から消失した」
キョン「なんだって!」
捜索の途中、俺と朝比奈さんは浜辺に打ち上げられた小箱を発見した。中身には見た事もない奇妙な文字が刻まれていた。
朝比奈「これは……、未来の私達からのメッセージです」
島の言い伝え、神隠しと、火龍の伝説。
キョン「まさか」
ドアが開く音がして振り返ると、そこには古泉が居た。その手には、銃。服には返り血なのだろうか、所々が赤く染まっている。
古泉「涼宮さんの身柄の拘束、そして僕達の隔離。全て最初から仕組まれていた事だったのですよ」
その時だった、神人が出現したのは。
黄緑「遅れてしまってすみません! あのインターフェイスは私がなんとかします!」
キョン「黄緑さん!」
黄緑「ふふ、早く行ってあげてください」
その笑みに含まれる意味を考える余裕は、今の俺には無かった。
劇場版、涼宮ハルヒの憂鬱 今冬公開!
なんというイエローグリーン。
尻穴時間切れ。
157 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 18:47:45.86 ID:WuzjoHsB0
保守
えっと・・・支援いただけるなら、19時30分から
「涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. 第3話」を投下したいのですが、無理そうなら20時からにいたしますね。
よろしくお願いいたします。
>>158 期待してる。
ただあの改行スペースは読みにくくてしょうがない
>159様
ご指摘感謝いたします。
全文の修正に取り掛かりますので、>158は取り消させてくださいませ。
誠に申し訳ないです><
「ちゅーぅりっぷの、こーいごころぉー ちゅーすればするほど…」
心を洗う天使の歌声。朝比奈さんの大塚愛は最高だ。なんか、涙が出てくる…
長門にカラオケのレッスンを受けるようになってから--つまり、あの人格改造キャンプに入隊してからと言うもの、
俺は最近変に涙もろくなってしまい今回のようにちょっとした事ですぐ涙ぐむようになっている。また、谷口達によると
授業中などイスに座っているときに不自然に体がこわばっていたり、普通に立ったり歩いたり
している時も体が左右に少し傾いたりしているらしい。自分では気付かないんだが。
その事を長門に告げると、「だいぶ『できて』きたな」と言われたが、俺には一体何が出来てきたのか見当も付かない。
あと、このまえハルヒから「あんた、なんか最近白髪増えた?」と言われた。
そう言えば、状況を説明してなかったな。
今、俺達SOS団は全員でカラオケボックスに来ている。予想はついていたと思うが。
ただ、ここで一つ意外な事は今回の宴席に朝倉が同席していると言う事だ。
長門によると
「現在各インターフェースの負荷が増大している傾向にあり、急遽バックアップの再設が検討された」
との事だ。そんな訳でか、数日前から朝倉はカナダより一時帰国したと言う形で復学しており、
長門によれば今後の働き具合を見て本格的に採用するかを決定するそうである。
カタログをめくる朝倉と目が合うと、ニッコリと微笑まれる。こいつの笑顔は、いまだに背筋に冷たいものが走る。
「今後の活動では、現在私が行っている処理の3分の1ほどを彼女に移管する予定。」
「これにより、今後の彼女の活動では涼宮ハルヒとの接触がより頻繁に行われる事が見込まれる。
従って今後彼女は涼宮ハルヒに対する心理的な親和性を高めておく必要があり、そのために今後彼女と
涼宮ハルヒとの間に懇談の場を設ける事は妥当と言える。」
「以上の様な観点から、今回彼女の帰国祝いの名目で、我々団のメンバーと朝倉涼子とで本日放課後
カラオケを行う事が妥当であると、情報統合思念体は判断した。」
いや、それお前だろ判断したの。思念体じゃなくて。あと、前半ってなんか本編でもありそうな展開じゃね?
歌い終わった朝比奈さんが、やんややんやの喝采で迎え入れられる。
「お、おそまつさまですぅ〜」
お粗末だなんてとんでもない。こんないいもの耳にできるなんて、そうそうありつける機会じゃありませんよ。
身をよじって恥ずかしがる朝比奈さん。
和気藹々と進む宴席のなかで、今回ばかりは長門もおとなしくコーラを啜っている。ハルヒや朝比奈さんの嬌声と、
古泉、朝倉の笑い声、人も羨む麗しい青春の1ページがここにある。
「じゃあ決めた、私これにするわ」
朝倉がデンモクを取り上げ、リクエスト曲を入力する。一曲も溜まっていなかったため、リクエスト曲は即座に再生される。
『あなたのとりこ/IRRESISTIBLEMENT SYLVIE VARTAN 作詞J.RENARD 作曲G.ABER』
「へえ、朝倉さんってシルヴィーバルタン歌うんだ。これあたしも好きなのよ。一緒に歌っていい?」
申し出るハルヒを、朝倉は笑顔で首肯する。懇談の目的は順調に達成されつつあるようだ。
『Tout m'entraine irresistiblement』
『vers toi comme avant〜』
ハルヒと朝倉の澄んだ声が響き渡る。
先ほど朝比奈さんの歌を天使の歌声と言ったが、ならばこれは天上のハーモニーだろう。
少女たちのシンクロした歌声に、その他のメンバーは半ば畏敬の念を持って耳を澄ます。一人を除いて。
曲のイントロが始まってからと言うもの、長門はレモンスライスが2枚浮かんだコーラを手にしたままぐっと顎を引き、
半眼になってモニタを凝視している。モニターの光が照らす白い顔はいつも通りの無表情だが、その目には称賛や憧憬ではない
何かが青白く燃えている。
歌い終わったハルヒと朝倉が、マイク片手にお互いハイタッチをする。
二人がお互いを称えるやり取りの間で、俺以外の誰が気付いていたであろう、
他でもない、長門の眉と眉が、1フェムトメートルほどくっきりと顰められていた事に。
手を取り合ってはしゃぐ二人に朝比奈さんと古泉の二人が加わろうとしたとき、モニタが光った。
『CHA-LA HEAD-CHA-LA 作詞:森雪之丞 作曲:清岡千穂』
「えっ!?何?これ?誰か歌うの?」
ちなみに、朝倉がシルビーバルタンを入力してからデンモクには誰一人として触れていない。長門が情報操作で装置に直接入力したのだ。
黙って立ち上がり、マイクを取りあげる俺。つまり、そういうことなんだろ。
「何キョン、あんたドラゴンボールなんか歌うの?似合わないわね!」
何も言うまい。特訓の成果を出すだけだ。練習通りにやればいい。
イントロの流れるままに、マイクを口元に運ぶ。ここからでは表情は確認できないが、長門が、黙って頷いた。そんな、気がした。
--------------------------------------------
歌い終わって長門に目をやると、長門は振り向きもせずに口だけで呟いた。
「…75点」
75点、一応及第点と言う事か。しかし、世間的な評価はどうなんだろうと思って他のメンバーに目をやると、
残りの皆はそろって虚ろな目つきで斜め下を見つめたまま、何かを言いたいんだが言う訳には行かない、そんな雰囲気で沈黙を続けている。
「ドラゴンボールと言うより、セックスピストルズ、ですかね…」
固く結んだ唇から漏らすように、かすれた声で古泉が呟く。
いつまで続くかと思われた沈黙の中、空々しく新曲案内を繰り返していたモニタが一閃、新しいリクエスト曲の再生を始めた。
「…私の、番」
マイクを手に取り、ゆっくりと立ち上がる長門。またデンモクを使わない直接入力だ。
沈黙から解き放たれた一同が、助かったと言わんばかりにモニタに目を向ける。モニタに映し出された曲名は
『メドレー 中島みゆき』
地獄の釜の蓋が、開いた。
---------------------------------------------
長門が歌う中島みゆき、それはさながら手負いの虎が目の前で咆え狂うが如き迫力で、聴衆全員瞬きすらできない。
歌声に込められたいわば蒸留された女の恨みとでも言おうか、限りなく透明の癖に、おそらく象ですら膝をつくであろう強烈な情念は
俺達の血管を瞬く間に駆け巡り、神経を染み透ってまるで脳髄に手を突っ込まれたかのような感情の渦へと否応なしに引きずり込む。
完全に麻痺させられた心身の中央で宙ぶらりんになった心臓は歌声の掌に鷲づかみにされたまま右へ左へと引きずりまわされ、
俺達は絶叫マシンに振り回される乗客のように頭を低くしてその場にしがみつき、ただただこの時間の終わりを待ち望む事しか許されない。
この歌、人が、殺せる。
目を閉じ、結んだ口の中で歯を食いしばっているハルヒ、固く拳を握り締め、これ以上ないほどに体を小さく縮みこませている朝比奈さん、
眉間に深いしわを寄せ、頭痛をこらえるかのように側頭部に手をやったまま1mmたりとも身じろぎしない古泉。そして、乱れ髪の向こうから
恨めしげな目つきで長門を睨み付ける朝倉。
そうした累累たる屍たちを尻目に、涼しげに席を中座する長門。
「…お先に、失礼」
そう言って後ろ手に部屋のドアを閉める瞬間、俺は目にした。扉の陰に隠れる長門の口元に、かつて目にした事のない笑みが浮かんでいるのを。
それから時間終了をつげる内線が鳴るまでの三十分程、俺達は各人座ったままうつむき、今日と言う日の出来事をそれぞれの人生でどう位置
付けるのかを考える作業に没頭した。
受付で会計を済ませ、朝倉とぎこちなく別れた俺達は、三々五々に帰路につく。
薄暗い夕暮れの帳の中、踏み切りの音が響き渡る。
雲を踏むかのごとき虚脱状態の俺の懐で、バイブレーター設定の携帯が鳴り響いた。
『送信 長門有希
25点分の底上げの為の練習をする。終了後、私の自宅まで来られたし』
煉獄は、続く。
165 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 19:43:04.03 ID:01X2gqQy0
166 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 19:45:32.99 ID:F5Gk1XRaO
168 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:21:31.53 ID:Y7edx3SWO
あげとこう
169 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:39:07.92 ID:WiYnUOtx0
保守
さげとこう
保守
172 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:23:33.42 ID:01X2gqQy0
h
o
s
y
u
保守
えっと、手直しはしたのですが、読みやすくなったのか自信がありません。
それでよければ投下しますが、よろしいでしょうか?
いらっしゃーい
涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. 第3話いきます!
第3話 ネットワーク 『鶴屋家』と『機関』
土曜日、朝、9時5分前。
昨日の長門の話を聞いて、インターネットで調べたり、考え込んだりして夜更かししてしまった結果、約束の駅前に到着したのはその時間である。普通に考えれば間に合っ
たというべきなのだが・・・
すでに俺を除く4人が揃っていた。昨夜電波話をしてきた長門も含めてだ。長門は文芸部員ではなかったのか?
「遅い。罰金!」
顔を合わせるやハルヒは言った。
俺の約束の時間には間に合っているだろうという反論を無視して、SOS団規則第9条を押し付けてきた。ちなみに、団則はすべてハルヒの頭の中にしかなく、俺たちに確
認することはできない。
しかたなく、渡橋おばさんからもらった福沢さんが財布から消えていくのを心の中で嘆きつつ、駅前喫茶店でおごることになった。
そして、店内でコーヒーを飲みつつハルヒ団長様から今日の計画を拝聴したわけだ。
ハルヒの提案はこうだ。
5人で二つの班に分かれて、市内の探索を行う。不思議なものを発見したら、即座に互いの携帯で連絡を取る。12時にはまた駅前に集合するという単純かつ多分無意味な
ものだった。
3時間程度で見つかる不思議なんてあるわけないからな。
で、くじ引きで班分けが行われたわけだ。
結果、俺と朝比奈さんの二人とハルヒ、古泉、長門の三人の二組に分かれた。
ハルヒはしるしのついていないくじ(楊枝)を不満そうに睨んでいたが、まあそれはそれだ。俺としては朝比奈さんと二人というくじ運に感謝したいところだ。
「キョン解ってる?デートじゃないんだからね。まじめに探索しなさいよ!」
「わあってるよ」
と答えはしたものの、俺の頭の中は3時間弱のデートの時間をどう過ごすかで埋め尽くされていた。
そして、俺と朝比奈さんは川沿いを歩いていた。
傍目にはデート中のカップルに見えるだろうか?などと不埒な考えを抱きつつ、朝比奈さんと手をつなぐタイミングを狙っていたりした。
「水がきれいですね。」
朝比奈さんは、川面を覗き込みながらそういい、川の中から石を拾いあげようとしていた。
「きゃっ!」
このかわいい悲鳴も朝比奈さんのものだ。そして、俺の体に朝比奈さんのやわらかい・・・胸があたっていた。どうやら、石の裏にくっついていた変な虫に驚いたらしい。
つい、俺が抱き寄せようと考えたのは、まあ、健全な男子高校生の思考としてはごく普通だと信じたい。
「ちょい、少年!うちのみくるにおいたはダメにょろよ!」
へっ?
今日は土曜日だというのに近くに犬の散歩をしている人もめずらしくいない状況で、つまり周囲には誰もおらず、俺と朝比奈さんだけだ。
今の声はいったい何だ?
「あの〜、鶴屋さん。声を出しちゃだめですよ。」
朝比奈さんがへんなことを言い出していた。
「大丈夫っさ!『人払いの結界』は張ってあるにょろ!」
また、聞こえた。どうやら幻聴ではないようだ、朝比奈さんのポーチの中から聞こえてきている。
「みくる・・・そろそろ出してほしいにょろ。めがっさ息苦しいっさ。」
「あっ、はい」
朝比奈さんがポーチから出したのは、人形?人形というかぬいぐるみというのか、コロボックルのような髪の長いそれを朝比奈さんは取り出し、そして地面に置いた。
「ふ〜、息苦しかったにょろ。ポーチの中は無理があったにょろ。」
・・・こいつ、動いてるぞ。
俺は、とうとう幻をみるようになったらしい。その人形は背伸びをして、こっちに目をむけてきた。ちょこちょこと動き回る姿はちょっと愛らしかった。
「きみがキョンくんだね〜?みくるからよっく話は聞いているよ〜。ふーん。へえーっ。」
などと言ってきた。
俺は生きてるかのように話す人形のせいで固まってるし、朝比奈さんは真っ赤になって慌てていた。
俺の状態を把握したらしいその人形は、
「この姿に驚いているにょろ?みくる〜、スモークチーズはあるかい?」
などと言い出すしまつだ。
ここでなぜ、スモークチーズなのか?夢をみているにしても意味不明だ。
しえn
しかも、朝比奈さんはポケットからスモークチーズを取り出して(持ってるんですか!?)人形に手渡していた。
人形の方もそれをかじってるし・・・そして、次の瞬間・・・
目の前にいたのは、ポーチサイズの人形ではなく、かつてのハルヒ並みに腰まで届くきれいな髪をした女の人だった。
「自己紹介が遅れたね。あたしは鶴屋、みくると同じクラスなのさ。鶴にゃんと呼んでくれてもいいにょろよ?」
鶴屋さんは自己紹介をしてくれたわけだが、一番重要なことが欠けている気がする。つまり、自分は何者かってところだ。
「えっと、朝比奈さん・・・」
俺は助けを求めるように朝比奈さんの方をみる。
朝比奈さんは、何かを決心したかとような真剣な表情をしていた。
「キョンくん」
朝比奈さんの栗色の髪がふわりとゆれた。
「お話したいことがあります。」
小鹿のような瞳になにかを決意したようすが浮かんでいた。
「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと未来から来ました。それに・・・普通の人間とも違います。」
桜の木の下のベンチに座り、朝比奈さんは語り始めた。かなり躊躇していたようで、鶴屋さんから、あたしが話そうか?といわれてはじめて口を開いた。
「歴史を改変してしまう可能性がありますから、わたしがいつの時代から来たのかをお話することはできません。ただ、わたしがこの時代に来た目的はお伝えできます。」
昨日に引き続きいろんなことが起こるものだとある意味関心していた。
ちなみに、鶴屋さんは俺たちからちょっと離れて、川で石投げをして遊んでいる。おっ、8回か。
「涼宮さんのことです。」
また、ハルヒか・・・
「涼宮さんは時間の流れに影響を与えるほどの力を持っています。彼女の行動がわたしたちの未来に大きな影響を与えることがわかり、監視を行うことを決定し、わたしが派遣されてきました。」
つまり、未来からの監視役ってことか・・・信じられない話ではあるが、
「で、あの人は?」
俺はさっきから無邪気に遊んでいる人を指差して尋ねた。
「鶴屋さんはわたしのこっちに来てからの友人です。鶴屋家に代々伝わる人形に魂が宿った存在、『妖怪』ちゅるや人形が鶴屋さんの正体です。それ以上のことはわたしからはちょっと・・・」
また、『妖怪』かよ。
「あとは、あたしが補足するっさ。」
さっきまで離れた川面で遊んでいた人が目の前にいた。
「あたしたちもハルにゃんには注目していたのさ。まあ、あたしは『鶴屋家』の方が忙しいという事情もあったけど、なにより、みくるがハルにゃんに選ばれたので『鶴屋家』としてみくるに協力することにしたというわけ。」
鶴屋さんの家に朝比奈さんが下宿でもしているのだろうか?押入れの上段で寝ている朝比奈さんのイメージが・・・
俺の勘違いを否定するように、鶴屋さんはやれやれと続けた。
「違うさ。『鶴屋家』はあたしたちの所属する妖怪ネットワークさ。」
まあ、鶴屋さんの説明を要約するとこうだ。
鶴屋さん自身は齢数百歳という古い人形に魂が宿った存在で、代々鶴屋というそれなりに知られた名家の主であり、かつ、この付近の妖怪を束ねる『鶴屋家』という妖怪集団(これをネットワークと呼んでいるらしい)のリーダーを務めている。
『鶴屋家』のような妖怪集団は各地にあるらしいが、『妖怪』には単独行動を好むものや対立するものもいるため全体像は不明らしいが。
『鶴屋家』の存在もあって比較的安定した状態だったこの街に降って沸いたのが、『涼宮ハルヒ』という存在。
それに対する各所からのアプローチに対応するのに『鶴屋家』が手一杯になっていたところに、未来から朝比奈さんがやってきたと。
朝比奈さんたちと自分たちの利害が一致したことから、同盟関係を結び、『鶴屋家』は朝比奈さんに協力しているというわけである。
「個人的にもみくるのことがめがっさ気に入ったというのが本当のところ。みくるは面白い子だからっさ。ハルにゃんもそれでみくるに目をつけたと思うにょろ。」
と鶴屋さんが屈託のない笑顔で付け加えたとき、朝比奈さんはちょっとはずかしそうにしていた。
「えっと、信じてもらえないでしょうね。こんなこと。」
鶴屋さんの説明が終わった後、朝比奈さんは川面を眺めながら、つぶやいた。
まあ、今目の前で起こったことは普通でないとは理解し始めていた。本当に『妖怪』とやらがいるということも納得しないといけないようだ。
しかし・・・
「いや・・・でも、お二人は何で俺にそんな話をしたんですか?」
「あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。」
と俺の方に振り向いて朝比奈さんは真剣な表情で、
「さっきいったように未来のことを伝えるのは禁則事項だから、詳しくお教えすることはできません。でも、キョンくんは涼宮さんにとってとても重要な人なんです。」
「長門や古泉はどうなんです?」
たしか長門も自分は『妖怪』だといっていた・・・しかし、古泉はどうなんだ。あの人畜無害そうな笑顔が頭に浮かぶ。
「あの二人はあたしたちに近い存在っさ。正直、ハルにゃんがこれだけ的確にみくるたちを集めるとは思わなかったにょろ。」
「そうなんです。わたしも距離を置いて観察するつもりでした。まあ、『妖怪は妖怪と惹きあうもの』ですから。」
また、その発言か・・・あれ、そうすると・・・
「おそらくハルヒにそのことを伝えるとかは禁則事項ってやつでしょうが、ひとつだけ教えてください、朝比奈さん。」
「はい・・・?」
「あなたの正体はなんですか?」
朝比奈さんは微笑んだ。いい笑顔だった。
「いまは・・・禁則事項です♪」
彼女はいたずらっぽく笑った。
そろそろ、駅前に戻ると正午になりそうな時間だった。鶴屋さんもついてくるというので、3人で駅前に向かうと、すでにハルヒたちが戻ってきていた。
「遅い!ってその人誰?」
ハルヒは文句を言いかけた後で、鶴屋さんに気づいたらしくそう問いただしてきた。
「えっと、わたしのクラスメイトで友人の鶴屋さんです。」
朝比奈さんが鶴屋さんを3人に紹介した。
「みくるちゃんの友達ね。よろしく、鶴屋さん。」
「よろしくっさ、ハルにゃん、あたしのことは鶴にゃんでいいにょろ?」
ハルヒはちょっと戸惑っていた。おそらく、先輩からこんな風に声をかけられたことはないんだろうな。
「えっと、鶴屋さん。あたし、名前言ってないけど・・・」
鶴屋さんはあだ名で呼んでもらえないことがちょっと不服そうだったけど、さすがに鶴屋さんの雰囲気は朝比奈さんと違って上級生っぽいというか、大人っぽいもので、さすがのハルヒでもちゃんづけで呼ぶのはためらわれたようだ。
「みくるからよーく話は聞いているっさ。こっちの眼鏡っ子が有希っこで、そっちが古泉くんだね。あっ、そうにょろ。みんなはご飯まだにょろ?」
鶴屋さんはハルヒにこれ以上問いただされないようになのか、上手に話を変えた。
「この近くに知り合いの店があるっさ。あたしのおごり。一緒にご飯たべるにょろ。」
「それはありがたいですね。どんなお店なのですか?」
これは古泉の発言である。ずっと、鶴屋さんを見つめていたが、惚れたか?古泉よ。
「ん〜、なんでも大丈夫っさ。和洋中からタイ料理までこの辺にあるにょろ。」
さすがに驚いた。発言からすると、この付近の数店舗のお店が知り合いというか、おそらく鶴屋系列のお店なのだろう。
「じゃ、ご飯にしゅっぱーつ!」
団長の元気な言葉と共に、俺たちは鶴屋さんに案内されて、近くのイタリア料理店に向かった。
「おいしかったー♪学食とはえらい違いだったわね。」
3人前くらい食べた後、ジェラートをぱくつきながら、ハルヒは料理の感想述べている。よく入るな。ちなみに、長門とハルヒ二人で6人前を食べているわけで・・・鶴屋さんもちょっと驚いていたぞ。
「鶴屋さん、これ本当におごりで大丈夫なんですか?」
普通にパスタを堪能した後、コーヒーを飲みながら尋ねた。それなりに高級そうなお店だったし、全員で10人前食べたわけだ。福沢さん2枚でも足りそうにない。
「大丈夫っさ。」
鶴屋さんは軽くながした。さすがは鶴屋当主ってことなんだろうな。
「さて、午後の部を開始しましょう。鶴屋さんはどうするの?」
ハルヒは不思議探索とやらを、午後も続けるつもりらしかった。
「あたしは午後は予定があるっさ。だから、みくるのことよろしく頼んだよ。」
と言い残して、鶴屋さんは去っていった。『鶴屋家』が忙しいというのは本当らしい。
ちなみに、午後の部もくじ引きで班分けされたわけだが、今回は、俺と長門がペアで、もう一班はハルヒと朝比奈さん、古泉の3人となった。ハルヒが不満そうにくじを睨んでいたのも、出発前にデートじゃないと釘をさされたのも午前中とおなじだった。
ハルヒたち3人が出発した後、俺と長門が残された。
「・・・」
「どうする?」
長門は無言。
「・・・行くか。」
とりあえず、ハルヒたちと逆の方に歩きだす。長門も無言でついてきた。
「長門、昨日の話だけどな」
「なに?」
「信じざるを得ないような気がしてきた」
187 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:54:30.77 ID:01X2gqQy0
しえん
「そう」
長門と会話を試みるも、成功とはいえない状態が続いた。昨日の夜同様にいたたまれない沈黙が・・・
どこか時間をつぶせる場所はないかと脳内検索をかけると、昨日の長門の部屋を思い出した。こいつは部屋を本で埋めるくらいの本好きだ。ということは、図書館あたりに
いけばいいかもしれない。
「長門、この街の図書館へ行ったことはあるか?」
「ない」
ちょっと意外ではあったが、好都合でもあったので、図書館へ向かうことにした。
図書館に来るのは久しぶりというか・・・小学生依頼だったかもしれない。以前の記憶よりかなりきれいになっていた。
館内に入ると長門は、夢遊病患者のようにふらふらと歩いていった。とりあえず、退屈することはないだろう。読み終わるのに数時間は軽くかかりそうな分厚い本を手に取って、立ち読みをはじめた長門の様子を見てから、俺は手ごろな本を一冊みつけて、席に座り読み始めた。
『おーともないせかいにー』
やばっ!本を読みながら寝ていたらしい。しかも、携帯をマナーモードにするのを忘れて・・・自分の携帯の着ウタが流れたのに気づき、大慌てで携帯を取り出す。周囲の迷惑そうな視線に目であやまり、携帯を受けられる場所に向かう。
「何やってんのこのバカ!」
ハルヒの声がこだました。おかげで目がはっきりと覚める。
「今何時だと思ってるの!」
時刻を確認すると、4時をまわっていた。
「すまん、寝過ごした。」
「はあ!?なにやってんのよ、このアホンダラゲ!」
「すぐ戻る」
「30秒以内にね」
「長門とはぐれたんだ。さがしてすぐ戻る。」
「はあ・・・一分待つわ。すぐ来なさい。」
長門とはぐれたと言った後、なぜかハルヒの声に安心したような感じが混じっていた気がしたが、気のせいだろうな。
その後が大変だった。
長門はさっきの場所にいたんだが、
「まだ、読み終わっていない。あと、352ページ。2時間39分で読み終わる。」
多いって!てか、閉館時間は5時だ。
「その本は貸し出し禁止じゃない。借りていけばいいだろ?」
「借りる?」
どうやら、図書館で本を借りた経験はないらしいので、大慌てで図書カードの作成手続きをして、本を借りて・・・駅前に戻ったときは4時30分をすでに超えていた。
その結果・・・おろおろする朝比奈さんと肩をすくめる古泉、そして、怒った顔のハルヒと合流し、
「遅刻!罰金!」
という託宣をいただいた次第である。財布が軽くなっていく・・・
最後に、朝比奈さんから、
「今日はわたしたちの話を聞いてくれてありがとう。」
という言葉をいただいたのが、まあ、最大の戦果だな。
長門の
「ありがとう」
という声も聞こえた気がするが、小さい声だったのでほんとうにそういったのか自信はない。
しえn
月曜日・・・朝からハルヒは不機嫌だった。
まあ、さわらぬ神に祟り無しということで、その日は声をかけるのは避けた。俺も考えることが多かったからな。
放課後、ハルヒは掃除当番に当たっていたので、部室には、古泉と長門の二人だけだった。朝比奈さんも不在らしい。
さて、最後の一人か・・・こいつもなのだろうか?
「古泉、お前も俺に涼宮のことで話があるんじゃないのか?」
古泉の口元の笑みがほんの少し意味合いを変えた。
「お前も、ということは、すでにお二方からアプローチをうけているようですね。」
図書館で借りてきた本を読んでいる長門の方を一瞥して答えた。まるで、何でもわかっているような表情が気に入らない。
「場所を変えましょう。涼宮さんに聞かれてはまずいですからね。」
古泉と俺は食堂の屋外テーブルに自動販売機でコーヒーを買ってから向かった。コーヒーは古泉のおごりだ。
「どこまでご存知ですか?」
古泉はすべてお見通しというような笑顔で質問してきた。
普通に答えるのはしゃくだが・・・
「涼宮がただものじゃないってことくらいだな。」
「それなら話は早い。その通りなのです。」
193 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 22:00:49.75 ID:01X2gqQy0
しえn
まあ、この返答は予想の範囲内だった。土曜日の会話でも人間は俺だけといわれていたからな。
「お前も『妖怪』とかいう存在なのか?」
「先に言わないで欲しいですね。それに、僕は人間ですよ。」
ほう、ちょっと意外だ。朝比奈さんたちの間違いだったのだろうか?
「ただし」
そうきたか。
「普通の人間か?と問われたら『いいえ』と答えないといけないでしょうね。」
「どういう意味だ。」
「そうですね・・・今の僕は超能力者ってことになると思います。」
超能力者か・・・たしかにハルヒの望みの中にもあった言葉だな。
「『妖怪』と無関係か?という問いにも『いいえ』と答えますよ。僕に超能力と呼ぶしかない力を与えている存在は、『妖怪』とでも呼ぶべきものですから。」
そこで『妖怪』なのかよ。
「本当はですね。この段階で接触する予定ではなかったんです。しかし、あのお二人がこうも簡単に涼宮ハルヒと結託するとは思わなかったもので、急遽転校してきたら、
涼宮さんに捕獲されたという次第です。」
ハルヒが虫取り網で古泉を捕獲しているイメージが浮かんだ。
「僕の所属しているネットワーク『機関』は涼宮さんをずっと監視していました。距離を置いてですね。彼女の力は危険ですから。」
ストーカーかよ。
「我々も必死なんですよ。自覚されていないとはいえ『神』の力というのは危険きわまりないものですから・・・」
はあ?
「なんだ、その『神』の力というのは?」
「おや、まだ聞いていませんでしたか。涼宮さんに力を与えた存在、それは『神』という妖怪です。」
「・・・それは、貧乏神とか厄病神のたぐいか?」
古泉はやれやれという風に顔を横に振った。
「たしかに貧乏神という『妖怪』も存在しています。しかし、ここでいう『神』は違います。僕としては、それを『神』とは呼びたくないんですけどね。
しかし、それを表現する言葉は『神』しかないんですよ。数十億の人々がその存在を信じている唯一絶対の存在、それゆえに最強の存在だった『妖怪』・・・それが『神』です。」
とうとう、神様まで『妖怪』かよ?
「これは聞いていませんか?人がその存在を信じたら、『妖怪』が誕生すると。」
長門の本に書いてあった気がする。
「ならば、『神という妖怪』が誕生してもなんの不思議もないでしょう?」
ふむ
「しかし、涼宮に力を与えた存在は滅んだんじゃないのか?『神』は死んだとでもいうのか、ニーチェが言ったように?」
「僕自身は3年前のことには直接関わっていなかったので、これは『機関』の仲間からの受け売りですが、涼宮さんに力を与えた『神』というのは旧約聖書などの神が妖怪化したものだったそうです。旧約聖書を読んだことは?」
「ほとんどないな。アダムとイブとか、ノアの箱舟とかその程度の知識だ。」
「それならわかると思いますよ。ノアの箱舟で神は何をしましたか?」
まわりくどい言い方だな。こいつの癖なのだろう。
「雨を降らせて洪水を起こし、ノアの箱舟に乗ったもの以外を絶滅させただったかな。」
「ご名答です。ある意味残忍な殺戮者だと思いませんか?動物を含めて自分が選んだもの以外を絶滅させる。『神』とはそんな存在だったわけです。」
「まあ、物語の上ではそうだな。」
「そこが重要なのです。そのような『神』の実在を人類が信じたから、『神』はそのように妖怪化したのです。」
わかるようなわからないような話だ。
「しかし、その『神』は滅んだと・・・」
「その通りです。考えてもみてください。我々が今現在イメージしている神は、どのような存在でしょう?人類を殺戮し、選んだものだけを天国へ送り、自分に従わないものを地獄へ送る。そんな存在をイメージしていますか?あなたは望んでいますか?」
「少なくとも俺は望まないな。」
しえn
古泉はうなずくと話を続けた。
「そういうことです。その結果、『神』は二度目の滅びを迎えた。しかし、強大な力を持っていた『神』はその力をこの世界に不満をいだく誰かに託し、世界を破滅させる最後の賭に出たのです。そこで選ばれたのが・・・」
「涼宮というわけか・・・」
「そういうことです。」
いつもの笑顔で古泉はうなずいた。その目に真剣さが垣間見えた気がした。
「さっきお前は、長門と朝比奈さんが涼宮と結託するのが都合が悪いような言い方をしていたが、どういうことだ?」
「それも簡単にご理解いただけるかと思いますよ。核ミサイルをどこかの一ヶ国だけが持っている世界があったら、その世界はどれほど危険だと思いますか?」
強大な力をどこかが独占してはまずいということか。
「今は僕たちの『機関』も、『バロウズ』も、『鶴屋家』も比較的友好な関係を結んでいます。それ以上にたちの悪い存在があるものですから。」
「なんだ、『バロウズ』というのは?」
「ああ、それもご存知でなかったですか。3年前の『神』との戦いにおいて重要な役割を果たしたネットワークの後身にして、長門さんが属しているネットワークですよ。」
なるほど、長門のいっていた仲間たちか。
「僕としては一番不思議なのがあなたの存在なのです。」
199 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 22:06:15.26 ID:1fVvtCWd0
支援
「俺がか?」
「その通りです。
僕たちの『機関』も『バロウズ』や『鶴屋家』、おそらく対立組織もですが、お互いの存在を調べようとやっきになっています。
知っている分有利になりますからね。しかし、あなたはごく普通の人間です。これは僕たちが保障します。」
うれしいような微妙な気分だな。SOS団内では俺だけが普通の人間というわけか。普通なら逆なのだが・・・
「そうではありません。『妖怪と妖怪は惹きあうもの』ですし、それは僕に力を与えている存在にしても同じです。
しかし、あなたにはそんな存在は確認できない。それなのにSOS団にいて、しかも重要な存在となっている。これはちょっとした謎ですよ。」
たまたまってやつじゃないのか?
「神はサイコロを振らないといいますから。」
いやそれは否定されてるだろ。
「いずれにせよ、今お話したことは涼宮さんには話さないでください。
まあ、話しても信じないとは思いますが、『神』は涼宮さんが間違ってもこの世界に満足してしまわないように、彼女の願望を実現しない、もしくは、実現していることを自覚させないという呪いをかけているらしいのです。」
やっかいなものだな。
「ふたつ質問していいか?」
「どうぞ」
「涼宮の力がそれほど危険なら、涼宮を消すとかという方向に流れてしまいそうなものだが・・・」
「そのような強硬意見や世界の破滅をむしろ望む存在もいます。しかし、それでは『神』のおもうつぼと僕たちは考えています。
涼宮さんは今は潜在的とはいえすさまじい力を秘めています。僕たちとしては、爆弾の解体に自信がない以上解体よりもその力が潜在状態で維持されることを望んでいるわけです。」
「ふたつ目だが、お前は超能力を持っているといったが、それなら、証拠をみせてみろよ。例えば、この冷めたコーヒーを温めるような。」
その問いも予想していたかのように古泉は肩をすくめてみせた。
「申し訳ありません。超能力者ではあるのですが、超能力の矛盾も同時に持ってしまっているのです。
観測条件下などでは超能力は使えないのです。例えば、ほら、そこの監視カメラとかね。
わずかでも超能力が記録に残る可能性のある場所では使えない。それが僕の超能力の欠点なのです。
僕に力を与えた存在がそのように生まれたためだと思われます。カメラ付き携帯電話には参りました。
おかげで超能力が使える場所なんてほとんどありませんから。」
しょうがないので、冷めたコーヒーをのどに流し込んだ。たしかに冷めたままだった。
「そうそう、『機関』でこの学校の監視を担当しているのは僕だけではありません。その人の能力ならお見せできますよ。」
ほう、みせてもらいたいものだ。
「それでは先に戻っていますね。多分、すぐにわかると思いますよ。」
特になにをするでもなく、古泉は部室の方へ歩き去っていった。何がわかるというのだ?と思いながら、紙コップをくずかごに捨てようとしたとき、紙コップがきれいに真っ二つになっていることに気づいた。
おいおい、なにがおこったんだ。カマイタチでもあるまいし・・・
202 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 22:10:31.09 ID:01X2gqQy0
しえn
支援ありがとうございました。
以上で涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行.ver 第3話 投下完了です。
修正ミス・・・orz
とりあえず、テキストはできているので、連載完結目指してがんばってみようと思います。
皆様、よろしくお願いいたします。
乙!
乙
206 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 22:52:57.90 ID:1fVvtCWd0
保守
やっぱり読みにくいなぁ。なんでいちいち一行ずつスペース空けんの?
目がチカチカする。まあ、もうメンドクサイから読まないし、好きにすりゃいいけど。
209 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 23:41:53.02 ID:cS9dGPrq0
保守
保守
211 :
原付免許1/3:2008/05/29(木) 00:14:55.62 ID:JuynvgG/0
書いてみた。
「免許を取りに行くわよ!」
中間試験前最後の授業の放課後、部室のドアを勢いよく開け放った我らが団長は高らかに宣言した。
「探索の効率が悪い理由がわかったの。行動範囲が狭いのと移動時間が長いのが原因だったわけ。
原付なら移動も速いし、現地に到着してから使う体力も温存できるし言うことないわ!」
ハルヒがこんなこと言いだした原因は何となくわかっている。
谷口が試験休み中に原付免許を取りに行くなどと言ってたからだ。
それにしてもハルヒ、お前が谷口なんぞの言葉に影響を受けるとは思わなんだ。
まぁそう思いつつもだ、確かに俺も免許やバイクが欲しい。しかし免許取得は校則で禁止じゃなかったか?
「だまってりゃバレないわよ。現にクラスでも何人か持ってるでしょ。」
バレなきゃいいのかよ。
「いいのよ。今度の試験休み取りにいくからね。みくるちゃんも有希も古泉くん、ついでにキョン!あんたもよ!」
えらく急だなおい、ってか中間試験と免許取得の両方勉強するのか?
「そうよ、善は急げ、思い立ったが吉日よ!安心しなさい、原付免許の問題なんて小学生でもわかるわ。」
「ふぇぇ、涼宮さん、急すぎませか〜??」
「確かに善は急げと言いますが、免許を取るのに住民票やら講習の受講やら準備が必要ではないのですか?」
「講習は次の土曜でいいじゃない。不思議探索は中止ね。」
試験前なのに探索やる気だったのか。長門、お前はどう思う?
「校則に違反する行為は推奨できない。また、原動機付自転車自体危険の多い乗り物。
この点でも推奨できない。」
「んもー固いわね。いいわ、あたしが先に取ってくるから、あんた達はあたしを参考にして後に続きなさい。」
やれやれ、やる気マンマンだ。こうなったハルヒは暴走機関車のごとく誰にも止められない。
いや、この場合は暴走原チャリか?
212 :
原付免許2/3:2008/05/29(木) 00:16:19.26 ID:JuynvgG/0
無事中間試験とその試験休みが終わって最初の授業の日の昼休み、俺は文芸部室にいた。
「長門、もしかしてお前が仕組んだのか?」
「違う。偶然。わたしの計画は今日の解散後、あなたに話すつもりだった。」
計画?
「涼宮ハルヒに原動機付自転車の所有および運転を諦めさせるのに2種類の方法が考えられた。
一つは免許証を取り上げられること。もう一つは身近な人間が原動機付自転車で怪我をすること。」
いちいち原動機付自転車は長いだろう。原チャリとかバイクでいいぞ。
「知ってのとおり原チャは便利な反面危険な乗り物。運転者本人が気をつけていても外的要因により事故に巻き込まれる確率が高い。」
お前が『原チャ』と略すとは思わなかったな。
「ただ免許証を取り上げられても反発し、余計な情報爆発を起こされる可能性がある。
だからわたしが原チャに当て逃げされて骨折するようするつもりだった。」
「おい、そこまで体を張る必要はないだろう。」
「大丈夫、本当に怪我をする必要はない。見せかけだけ。」
それにしても長門じゃなくても。それくらい俺が…
「あなたでは駄目。かえってあなたにいいところを見せようとして余計な挙動を示す可能性が高い。」
確かにあいつは俺を馬鹿にしているところがあるからな。
古泉や朝比奈さんは?
「古泉一樹に依頼すると彼の機関によって大げさな状況が生まれるかもしれない。」
俺の脳裏にライダースーツの森さんや岡持ちバイクの多丸兄弟が大立ち周りする情景が浮かんだ。
「朝比奈みくるの場合、芝居がばれるか本当に重傷を負う可能性がある。」
朝比奈さん、長門の評価は低いですよ…。それに残念ながら俺の評価も似たり寄ったりです。
にしても免許取得者一斉摘発とはねぇ。運が悪かったな、ハルヒ。
岡部がたまたま大型二輪免許を取りに行ってたとは。
213 :
原付免許3/3:2008/05/29(木) 00:18:34.51 ID:JuynvgG/0
それにしても一斉摘発って岡部にしては厳しい態度じゃないか?
「涼宮ハルヒが担任と運転免許試験場で会ったのところまでは偶然。」
会ったところまで?
「涼宮ハルヒは担任に免許取得がばれたことによって校則違反による免許の取り上げと停学を想像した。」
「まぁ普通そう思うわな。」
「そこで彼女は逆恨みに近い感情を抱いた。
『なぜ私だけ。他の人間はばれていないのに自分だけ罰を受けるのは不公平だ。』」
それで道連れを…。
「そう。実際のところ岡部教諭は黙認しようとしていたと思う。しかし涼宮ハルヒの思い込みの力によって」
岡部は一斉摘発を校長に進言して、校長もハルヒの影響ですぐそれに乗ったわけか。やれやれ。
おかげでひとクラス平均5人が停学処分になっている。
しかし団長とすでにこっそり免許を取ってた古泉が校則違反で停学3日、
これは生徒会も黙ってないんじゃないか?
「生徒会長も摘発の対象。」
マジで?
「マジ。」
ここで長門が一瞬微妙な表情をしたのを見逃す俺ではなかった。
なんだ?その呆れたような、苦笑のような、縦線が入ったような顔は。
「……喜緑江美里も停学になった。」
まさかの一斉摘発www
しかしキョン以外が自転車乗ってる事すら想像できないのに、いきなり原付とは。
保守
216 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 01:01:54.26 ID:B9TgYcIw0
jp
保守
218 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 01:36:09.54 ID:/C3yCkCd0
/ /・\ /・\ \ __〜〜〜〜
|  ̄ ̄  ̄ ̄ | 〜〜〜〜´´´´´
| (_人_) | ぶうぅぅぅううんんんん 何sageてコソコソやってんだよ
| \ | | 〜、 ,〜〜〜、
\ \_| / ^^^^ ~〜〜〜
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Ccccc | \ /――――――――――
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保守
220 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 02:53:22.35 ID:B9TgYcIw0
jp
221 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 03:17:52.67 ID:h+TVYGc2O
キョンは巨根
涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. の作者です。
おはようございます。
>208様
・・・そうですか。大変申し訳ない。
ご協力いただいた方々にも申し訳ないですが、初投下したもののどうやら、わたくしには無理だったようです。
お目汚ししてしまいました・・・
>>222 何を仰るうさぎさん。わたしは内容的に楽しみにしてる。
ここでそんなに遠慮してたら何も出来ないよ。
本当に酷い時には、桁違いの総攻撃があるから、この程度気にしない。
ただ、携帯で見ている人には辛いかもね。
224 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 06:21:31.19 ID:52OvG349O
あげ
俺も楽しみにしているから書ききってくれ
>>222 たった一人の批判を真に受けて、他に読んでくれている人の気持ちを無視するのは
後者の人たちを愚弄していると言ってもいい。どんな批判を受けようが、一度投下した以上はやりきる。これは義務である。
あと我らが団長様もこのようにおっしゃっておられる。
----------------------------------------------------------------------
1 投下の際の心得みたいなもの教えるわ
「まず、テンプレをちゃんと読みなさい。長編は最後まで責任を持って書ききること。
長編にレスがつかないとか気にしないの。とにかく最後まで書く。話はそれから!」
「感想くれなんて言うもんじゃない。絶対に言わないこと!いいわね?叩かれてもあんたの事なんか知らないんだから!
…ころんでも泣いちゃだめよ。」
「スルーされても見てくれてる人はいるはずよ。その人たちのことも考えてとにかく最後まで書きなさい!」
----------------------------------------------------------------------
とにかく最後まで書き上げるべし。すべてはそこから始まる。
227 :
早朝保守1/2:2008/05/29(木) 06:55:14.16 ID:riDHj5f00
「後藤君、クラス委員の仕事大変そうね」
「あぁ葉山か、ちょっと困っててな」
「困ってるって…文化祭のクラスアンケートの集計ね、それがどうしたの」
「いや…この項目なんだけど……そうだ葉山これお前じゃないよな」
「これって……えっ、クラスのベストカップルに『葉山と後藤』ってこれあたし達じゃない」
「そうだよ、それ葉山じゃないよな?」
「違うに決まってるでしょ、大体男子の字じゃない、後藤君じゃないの?」
「いや違うよ、確かに俺達付き合ってるけどさ、大体ベストカップルといえばこのクラスじゃあの二人に決まってるだろ」
「それって……あの二人よね、あたしもそう書いたわ」
「俺もだ、そしてほぼクラス全員があの二人に一票だ」
「…ほぼ…クラス全員が?」
「あぁ、この俺達の名前が書かれているこの一票を除いてな…」
「……つまり………」
「俺達に入れたこれは…あいつだろうな……」
「…じゃぁ彼女も、自分とキョン君に……」
「あぁ白紙、棄権なしだからそういうことになる。誰にもバレてないから自分が書いても大丈夫って本人は思ったんだろうな」
「ホントよね、彼女の気持ちはクラスどころか校内中が知ってるのに。あ、でもバレてはいないでしょ、キョン君には」
「あぁそういやそうだな。しかしなんでアイツはあそこまで鈍いんだろうな」
「でもそれにしちゃするどいじゃない、あたしたちのことはまだ誰にも話してないわよね」
「あぁそうだな、しかし無駄なところで鋭いよな、あいつ」
「ホントね、その鋭さをほんちょっとでもいいからキョン君自身のことにむければ……」
「という訳で俺はどうしようかと悩んでいるわけだ、どうしたもんかねぇ葉山」
「これは…このままでは発表できないわね。キョン君がもうちょっと空気が読めればねぇ……」
「……考えてても仕方がないな、俺が書いたのはこれだからと……」
「どうするの?」
「こうするのさ、葉山も協力してくれるよな」
228 :
早朝保守2/2:2008/05/29(木) 07:12:51.65 ID:riDHj5f00
>>227 翌日
「おいキョン、クラスアンケートの結果でベストカップルみたか?」
「あぁ谷口、アンケートがどうした」
「お前と涼宮がこのクラスのベストカップルに目出度く認定されたぞ、白票が2、葉山ー後藤が1でそれ以外は全部お前らだ」
「はぁ…、なんだかクラス全員誤解してるな…」
「なにいってんだ。どうせ、お前と涼宮も自分達の名前書いたんだろ」
「ちょっと谷口!いい加減なこといわないでよ! あ、あたしがそ、そんなことするわけないでしょ!」
「げっ! 涼宮……ごゆっくり〜」
「まったく失礼しちゃうわよね、キョン」
「あぁ、ハルヒ…じゃぁお前は白紙だったんだ」
「え、あたし? そ、そう…は、白紙よ」
「意見なしだなんてハルヒにしちゃ珍しいな」
「…キョ、キョンこそなんて書いたのよ、まさか美少女のあたしに血迷ってあたしたちの名前書いたりしなかったでしょうね」
「いや……、違うし」
「…と、とにかくSOS団は団内恋愛禁止だからね、いい? キョン」
「あぁ…」
「それと今日は通常の団活は中止よ、これから不思議探索に出発よ、組みは面倒だからあたし達よみくるちゃん達の二組ね」
「あっ?これから」
「なによ、文句あるわけ?」
「あっいや…」
「それから団長のあたしを労うために喫茶店はキョンのおごりね。そうだ駅前に新しいジェラート屋さんが出来たからそこに行きましょう」
「おっおい、なんで俺が!」
「いいからキョン、団長命令よ、早くでかけるわよ」
「なぁ葉山…まったく、こっちの苦労も知らんといい気なもんだなあの二人」
「まぁいいじゃない、後藤君は頑張ったよ、私も帰りにアイスおごってあげるよ」
「さんきゅ」
さそいうけ?
誘い受け
231 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 10:51:08.77 ID:p/Vl0am0O
jp
232 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 11:21:30.20 ID:aQfJYcUF0
ho
タイムリーにしようと思って温めてたら、今日は雨という。
☆4・ペットボトル
「飲む?」
と差し出されたミネラルウォーターのペットボトルの口を思わず見つめてしまう。
エロキョン、とハルヒに殴られた。
外から太陽がジリジリと俺達の肌を焦がす。
正直、喉は嫌って位乾いている。
しかし、その差し出されたペットボトルの口は先程までハルヒのそれとディープキスを交していたわけで、俺がこの水を飲むという行為は所謂、
「間接キス」
OK。そうだ。そういうことになるな。
「別にいいじゃない。いつも直でしてるんだし」
おい、ハルヒ。そういうことを大声で言うんじゃありません。
皆こっち見てるじゃねえか。
谷口、お前は後でシめる。
「だから、はい」
そんな5月の終わりの午後。
(間接キスも真っ赤な顔を背けられたら、いつもよりも緊張してしまう)
なんという恥ずかしいバカップル。
さっさと結婚してしまえ。
235 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 13:12:52.86 ID:EdHGDWReO
いいねいいね
236 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 14:06:14.66 ID:h+TVYGc2O
うぎゃぁぁああああ
237 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 14:56:15.19 ID:cFYXrHL8O
アナルアッー!
238 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 15:36:38.23 ID:cFYXrHL8O
保守
239 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 15:50:28.29 ID:CSx9z7A90
ハルヒがキョンにベタベタするのは
キョン以外に理解者がいない必至さの現れに見えることがあるのが、ちょっとなー
ハルヒが神でなくてキョンがもっと黒かったら、ヤリ捨てされたり影でうまく浮気されたりしそう
野生の勘で、キョンが浮気しない人間だとわかっているor浮気しそうになったらすぐ気付くのなら良いのだが
242 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 16:50:59.37 ID:52OvG349O
>>222 間違い探しみたいで、というか殆どそのままな文章や、改行は確かに問題かもだが、
辞めるのは工夫してからにした方が良いね。
244 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 16:59:39.82 ID:cFYXrHL8O
245 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 17:52:20.44 ID:cFYXrHL8O
ほ
ほしゅ
ほしゅ
ほしゅ
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 20:09:03.60 ID:p/Vl0am0O
jp
保守
保守
保守
ほしゅ
こんばんは、独創性がなく、文章に問題があり、作者が書くのが苦痛になってしまっている物語を
どうすればいいのでしょうね。
物語を途中で投げ出すのは、それはそれで苦痛です。
今日、支障がないなら21時40分から投下します。
先に謝罪しておきますが、持病の関係で携帯から読みやすい文体にするのは困難でした。
行間を空けないとまともに読めないのです。ですので、携帯からは読みづらい文章となることを
お許しくださいませ。
第4話 敵対存在 『獣』と『神人』
最初の事件が起こるとしたら、それはSOS団室だと思っていた。
しかし、事件は部室で起こらず、俺の机の中でひそかに起こっていた。それは、ハルヒが席を外していたとき、俺が一枚の紙片を見つけたことから始まった。
『放課後誰もいなくなったら一年五組の教室に来て』
とそれには女子の文字でこのように書かれていたのである。ハルヒにみつかるとやばそうなので、俺はこの意味ありげな紙片をすばやくかばんの奥へとしまいこんだ。
とりあえず、脳内検索実行。
可能性@ 涼宮ハルヒの場合
キョンちょっと来なさい。俺のネクタイを引っ張り、屋上へつながる階段の踊場へと引きずる。
よし、ハルヒの可能性は消えた。
可能性A 朝比奈みくるの場合
女の子らしい便箋にきれいな文字で書き、それをやはり飾りつきの封筒にきちんと封をして・・・
うむ、朝比奈さんでもないな。
可能性B 長門有希の場合
気づかないうちに教科書に栞が・・・そこには印刷されたようなきれいな字で・・・
長門でもないな。
可能性C ちゅるやさんの場合
机を除くと人形が・・・いきなり起き上がり、「キョンくん、スモークチーズはあるかい?」
ねえよ!学校にスモークチーズを持ち込む高校生ってどうよ?ちゅるやさん消去っと。
まあ、それは冗談として、鶴屋さんもサバサバした性格だ。手紙などというまどろっこしい手を使うタイプじゃなさそうだった。
可能性D 上記以外もしくは悪戯
この可能性が最も高いが検索条件の再設定が必要です。
とりあえず、再設定できないので、可能性Dを前提に行動するとしよう。谷口あたりの悪戯の可能性とかな・・・
その日の部活動?では、ハルヒから以前作成したホームページの改装命令を受けるはめになった。
この前の不思議探索でハルヒが撮影した街の画像などだったが、一部とても公開できないものも混じっていた。朝比奈さんのコスプレ写真群だったのだが、どこで撮影しやがりましたか?
しかも、きわどい写真まであるぞ。どうみても街中なんだが?
しばらく考えた結果、思い当たる時があった。あのときだ・・・不思議探索午後の部のとき。
ハルヒと古泉、朝比奈さんの3人で行動していたわけで、俺の目はそこにはない。
結論・・・この写真群はそのとき新しいコスプレ衣装を買ったハルヒが朝比奈さんに試着させ、その場で撮影したものと判断。
昨日朝比奈さんが部室に来なかった件については、このトラウマによるものと推察できる。
警告 この写真群をホームページで公開するのは朝比奈さんにストーカー被害にあってくださいというようなものであり、万難を排して止めるべし。
結果、俺はハルヒと口論になりながらも、なんとかこの写真をホームページに載せることを思いとどまらせることに成功した。
ネットで個人情報を流す危険性と朝比奈さんのプライバシーの保護を必死に訴えて、最後に、朝比奈さんが転校してしまう可能性をほのめかすことまですると、さすがのハルヒもあきらめた。
パソコン内の写真については、削除する手前までいって、魔が差した・・・隠しフォルダーを作成し、パスワードを設定。MIKURUホルダーとして保管してしまったのだ。後で、個人的に鑑賞用に使おうという思惑があったのはいうまでもない。
そんなこんなで、街の風景メインの写真をホームページに載せて、もちろん、個人情報関連に十分に注意してだが、その日の部活動は終了した。ハルヒが写真の一件で不機嫌になり、ホームページの更新が終わったのを確認するとさっさと帰ってしまったためである。
古泉もハルヒが帰った後、「おそらく、バイトが入るでしょう。」と不思議な言葉を残して帰っていった。
ハルヒと朝比奈さんのことが気にならなかったかというとうそになるが、俺的には、まずはずっと気になっていた手紙の件から片付けようと決めて、一年五組の教室へ向かった。
しえn
夕日に染まる教室内にいたのは、意外な人物だった。可能性Dに対応して、誰がいてもよい心積もりでいたのだが、さすがに実際予想していない人物にあうと心の準備というものの意味の無さを実感する。
そこにいたのは、一年五組の委員長 朝倉 涼子だった。
「あら、意外と早かったのね。」
朝倉は笑顔を浮かべてそういった。
「ああ、部活がいつもより早く終わったからな。」
「ふーん、ところであなたはどこまで知っているのかしら?」
「なんのことだ?」
朝倉の様子がいつもと違うと感じた。普段学校でみせている笑顔なのだが、なにかが違っている。そう、アニメとかなら、身にまとっているオーラの色が違うという感じだろうか。
「とりあえず、急がないと邪魔が入るから・・・」
そういって、朝倉はナイフを取り出した。ちょっと古風な外国製っぽいナイフ・・・なんで、日本の高校生がそんなものを持っているんだ?
あまりに非日常的な光景に言葉を失った。
「そうそう、死ぬ前に誰に殺されるのかくらいは知っておきたいでしょうね。わたしは、『ザ・ビースト』に雇われた『妖怪』 ミセリコルデ。本業は暗殺ね♪今回の依頼は、あなたを殺して、涼宮ハルヒの出方をみる!」
そういって、朝倉はナイフで切りかかってきた。
それは、一秒にも満たないタイミングだったのだろう。俺の喉に向かってきた朝倉のナイフをぎりぎりで避けた。頬が切られたらしく、痛みがはしった。
「わたしの一撃を避けられた人はすくないのに。最初から後ろに回っておくべきだったかな。」
そういう発言を笑顔でいうな!
「意味がわからないし、笑えない。いいから、そのナイフをどこかへ置いてくれ」
朝倉は、自分の手のナイフに目をやり、
「うん、それ無理。それにわたしは本当にあなたに死んで欲しいんだもの」
といいやがった。
入ってきたドアから逃げようと振り向くと、ドアがない。というか、窓も消えてやがる。
「ドアがないのに驚いた?ほら、殺人鬼って誰にも見つからない空間に獲物を引きずり込んで殺してるってイメージあるじゃない。
あなたたちがそう思ってくれたから、わたしにはそういう力があるの。」
だから、笑顔でいうな!
とりあえず、朝倉から距離をとる。
「そろそろ、おしまいにしないとね。じゃあ、死んで♪」
やばい、実にやばいぞ。マジでくたばる5秒前だ。同級生の殺人鬼に襲われる予想はさすがにしてなかった。
朝倉は再び俺に向かって突進してきた。避けられない!?
最後の瞬間を覚悟して目をつぶる。しかし、予想していた痛みはやってこなかった。
目を開けると、そこには手を血を滴らせ、朝倉のナイフをつかんで止めている長門有希の姿があった。
「結界を使用するのが常に有効とはかぎらない。観察できない空間の発生は異常を意味する。」
「邪魔する気?生まれて3年程度のあなたではわたしには勝てないわよ。」
朝倉は長門の突然の侵入に驚いた表情を浮かべたが、焦った様子はない。
こいつになら勝てるという確信をいだいているのかもしれない・・・笑顔でその奥の表情は読み取れないが。
「わたしが来た時点であなたの計画は破綻したはず。」
長門も手にけがをしているのに、普段とかわらない平坦な口調で・・・表情にも変化がない。
命のやり取りに慣れているということなのだろうか。
「そうかしら?やってみなくてはわからないはずよ。」
朝倉は、長門に切りかかる。長門も、武器を取り出し・・・って、本!?長門が取り出したのは、図書館で借りたあの分厚い本だ。これが武器なのか?
長門が取り出した本を開こうとしたとき、朝倉は俺のときにはそうしたように長門の体を狙うのではなく、ナイフで的確にその本を弾き飛ばして手につかんでいた。
ほんの一瞬の出来事だ。
「あなたの本体がこれだってことは教えてもらっていたから。これを切り刻んだらどうなるのかしら?」
「・・・・・・」
長門は文字の精霊みたいなものだ。つまり、今はあっちが本体ってことか。
「じゃあね。」
朝倉は、手につかんでいた本をバラバラに切り裂いた。そして、勝利を確信した笑みを浮かべ長門へと目を向ける。
その表情は驚愕へと変わった。
「なんで・・・?本体を失った『妖怪』は存在できないはず。」
『あなたは勘違いをしている。』
それは長門の声だったが、長門がしゃべっているわけではなかった。長門がポケットから取り出した携帯電話・・・そこから声が聞こえていた。
『文字への人の想いがわたしをつくった。それは手紙でもおなじ。この機械の中の文字でも同じ。』
「ふーん、その携帯電話内の文章が今のあなたの本体ってわけね。それを壊せば・・・」
『あなたの負け。あなたはもう一歩も動くことができない。』
「えっ!?」
『わたしの能力は知っているはず、この空間は今はわたしの管理下にある。今この空間内では、わたしの言葉が現実となる。』
「負けかあ、残念。」
朝倉は笑顔に戻っていたが、それは敗北を確信したあきらめの表情だった。
『あなたの敗因は、その本をわたしの本体だと思ってしまったこと。
その本にあなたが展開した結界の情報を書き込んでおいた。あなたが自分の意思で本を破壊したとき、結界も崩壊した。』
「・・・」
『あなたは自分の本体をわたしたちに明かす。』
朝倉は無言で自分の手にしていたナイフを指し示した。長門の携帯のようにあのナイフが朝倉の本体『妖怪』ミセリコルデというわけか。
しえn
『あなたは自分の手でそのナイフを・・・』
「まてっ!」
長門の携帯からの声がおそらく朝倉にナイフを破壊するように命じる前に・・・俺は止めた。
「なんで?」
長門が不思議そうな表情でこちらをみつめてきた。
「よくわからんが、そのナイフを破壊させるということは、朝倉を殺すということだろう?」
「そうね。わたしは付喪神(つくもがみ)の一種だから、長門さんのような再生はないわね。」
だったらなおさらだ。
「長門、そのナイフを破壊するのはやめてくれ。」
俺の発言に二人とも怪訝な表情を浮かべる。
「あなたを殺そうとした」
「わたしはあなたを殺そうとしたのよ?」
それはわかっていたが、『妖怪』とはいえ同級生だったやつが殺されるのをみるのは耐えられそうになかった。
「長門、朝倉が俺たちに危害を加えないようにすることはできないか?」
長門はしばらく俺の方を見つめた後、あきらめたように携帯を取り出す。
「命令しなくてもいいわよ。教えるから、長門さんの力の入ったものを鞘にして、そこに本来の役割を果たすこと。と書いておけばいいの。
ミセリコルデは自殺を禁じていたキリスト教徒が致命傷を負ったとき、仲間が止めをさしてあげるための慈悲の短剣。本当なら快楽殺人の道具に使われるためにつくられたものじゃないもの。」
俺は自分の机からノートを取り出し、長門に渡した。
長門がそこから一枚を切り取りそれに何かを書き込み、折りたたんで鞘状にしてくれたので、俺は朝倉からナイフを取り上げ、その鞘にしまいこんだ。
その瞬間、そこにいた朝倉の姿が消えた。
「長門!朝倉は・・・」
『大丈夫よ。人間の形態を維持できなくなったから、ミセリコルデに戻っているだけよ。一週間くらいは戻れないかもね。長門さんあとはよろしく。ちょっと休むから。』
鞘に入ったミセリコルデから声が聞こえてきた。
「後は、この空間とあなたの傷を元通りにする。朝倉 涼子の件に関しても入院ということにしておく。」
便利な能力だな。
「そう?」
よく見ると、長門の手の傷だけが治っていない。
「長門、その手は直せないのか?」
「この体はかりそめのもの。文章が自己を束縛しないように、わたしの文字はわたしには効果が無い。」
「直す方法はないのか?」
長門はかすかに不思議そうな表情を浮かべていた。
「この傷はわたしの状態に影響を与えない。あなたがなぜそれを気にするのかわからない。」
「直す方法は?」
少し語気を強めて再び尋ねた。
「・・・ある。この紙にあなたが文字を記入すればいい。」
長門がノートの切れ端を渡してきたので、俺は、そこに「長門の手の傷は跡形も無く消える。」と書き込んだ。
それを長門の傷口に当てると、手の傷は確かに無くなった。
「俺を助けて一生ものの傷を負わせたら立場が無いからな。」
「そういうもの?」
「そういうものだ。あと・・・ありがとな、長門。」
「いい、ザ・ビーストの刺客を発見できなかったのは、こちらの不手際。ただ・・・」
長門の悲しげな視線は散らばっていた本の残骸に向けられていた。本を元通りにすることも無理らしい。
「本か?」
こくり・・・とうなずく。
そうか、文字の精霊とでもいうべき長門にとって、本は大切なものなのだろう。俺にとっての去年死んだ猫のような・・・
それを長門は犠牲にして俺を救ってくれたのか・・・
「この子を犠牲にしないと朝倉涼子には勝てなかった・・・わたしの力不足。」
俺は、無言で散らばった本の残骸をみのがさないように回収し、長門に渡した。
しえn
「本当にありがとな、長門。あと、こいつにも感謝しないとな。」
俺に言えるのは、そのくらいだった。
帰宅の途につきながら、長門からザ・ビーストとやらについての情報を聞いた。
ザ・ビーストというのも妖怪ネットワークのひとつで、しかもネットワークの中では最も大きなもののひとつであるらしい。
ヨハネ黙示録に記載されている獣の記述が元になり、そのトップは7人であること、7人は、傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲の7つの大罪とやらの化身。
ちなみに、『神』との戦いの時には、2人が殺されたが、まあ、世界中にこの大罪は満ちているわけで、今は7人で元気にしてる。
・・・といいたいところだが、この7人のこびとならぬ7人の獣というのが、たちが悪く現在進行形で世界征服とやらをがんばっちゃってるわけで、当然、ハルヒの力にも興味を示しているらしい。
やれやれ・・・だ。
幸いなのは、この組織自体が『神』の力とは相容れない関係にあるので、直接しかけてくる可能性は低いだろうということくらいだ。
今回のように、流れの『妖怪』とでもいうのかね・・・そういう存在を使ってくる可能性が残っているが。
家の前に黒塗りの車が止まっているのをみたときは、すこしばかり不安になった。なにせ、クラスメイトに襲われたばかりだったしな。
まあ、待ち構えていたのは、タクシーとその脇で手を振るニヤケ顔のハンサム野郎だったわけだ。ちょうど、今日のことで苦情をいいたいと思っていた。
「ちょっと、大変だったみたいですね。」
俺が言う前に、相変わらずすべてわかってますよとばかりの笑顔でそういいやがった。こいつ、監視していたのか?
「監視といいますか・・・僕たちは常に学校には注意を払っていますからね。長門さんが危ない状態になったら、動く予定でしたよ。
まあ、鶴屋家が動いてない時点で、未来情報で安全とは判断していましたが。」
ほう?俺の恐怖体験とか長門のけがや本を失ったショックは計算にいれてないってわけか。
バラバラになった本に悲しそうな視線を送る長門の様子を思い出して、少し怒りを感じた。
「もうしわけありません。手すきであれば、お手伝いしたかったのですが、部活のときにお話したように、バイトが入っちゃいましてね。」
バイトねえ。おそらく、じと目になっていただろう俺の表情にわれ関せずの笑顔で古泉のやつは答えてきた。
「これから、2度目に行くのですが、ご同行いただけますか?僕の相棒をお見せするよい機会ですので。」
正直、疲れきってはいたが、古泉のいう相棒とやらに興味もあったので、同行することにした。
古泉は黒塗りのタクシーに乗るようにいってきた。・・・運転席に人の姿がない。
「では、出発します。よろしくお願いします。」
古泉が運転するのかと思いきや、やつも俺の隣に乗り込んできた。ということは、誰が運転するんだ?
結論からいうと、そのタクシーは運転席に誰もいない状態で走り出した。・・・だいぶ慣れてきたが、このタクシーも妖怪とやらなわけか。
「だいじょうぶですよ。僕たちには誰も運転していないように見えますが、外からみると、きちんと運転手がみえるのです。」
「『妖怪』タクシーというわけか?」
「ええ、そういうことです。これは今日の最初のバイトの後、情報交換でわかったことなのですが。」
そう前置きして、高速道路を走っている運転手不在のタクシーの中で、古泉の説明がはじまった。こいつ、説明の好きなやつだな。
「新たな不思議が判明したのです。あなたは普通の人間のはずなのですが・・・」
まあ、その通りだな。ここ数日でいろいろ経験させられて、自信が無くなってきたが。
「なぜか、僕たちはあなたに『妖怪』の存在を信じてもらいたくなるのです。長門さんや朝比奈さんとのアプローチの際にもそんな感じはありませんでしたか?」
・・・2人のアプローチのときねえ・・・
長門は、不思議な本を手渡してきたな。俺の言葉で書かれた書かれていない本。
朝比奈さんは・・・人形状態の鶴屋さんを伴って、目の前で変形?を見せてくれた。
ふむ、たしかに『妖怪』らしい行動をわざわざ取ってくれたという見方もあるか。2人ともそんな必要はないといえば、その通りだからな。
「そのことに気づいた僕たちは、涼宮さんには正体を明かせない・・・
『神』の呪いの影響でですが、そういう状況下にあるので、あなたにはむしろ積極的に不思議体験をしてもらい、『妖怪』の存在を信じてもらうという決定をしました。
タクシーさんにこのような行動をしてもらっているのも、その一端ですね。」
それは喜ぶべきなのか?かなり迷惑な気がするぞ。
「むしろ安心していただきたいですね。あなたに正体を知られても構わないというのは、あなたの身を守る上ではむしろ好都合なのです。」
そういうものかね・・・
「ああ、もうそろそろ目的地に着きますよ。」
運転手不在のタクシーは俺たちを降ろした後、走り去っていった。古泉の話では、バイトにはちょっと不向きなので・・・とのことであった。
古泉の案内でたどり着いたのは、港のそばのどこかの会社の屋上だった。鍵はどうしたのか・・・という質問は無意味だろうな。
エレベーターに乗って屋上から見た世界は、建物に入る前とは一変していた。世界はすべて灰色に染まり、人の姿が消えている。
「この空間は涼宮さんの世界のイメージが実体化したものと僕たちは考えています。」
丁寧な解説ありがとよ。しかし、ハルヒの世界というのはこんなに寂しいものなのか・・・
「この空間の発生は『神』の力が無意識に発動したものです。僕たちが隠里(かくれざと)と呼ぶものの一種で、特別に閉鎖空間と呼んでいます。
涼宮さんが僕たちの世界に不満・不安・憂鬱などを感じるとこの空間が発生します。そして・・・あれが生まれます。」
古泉が指差した先には、巨大なひとがたが姿を現していた。灰色の空間に現れた青い光を放つ巨人は30階立てのビルほどの大きさがあった。
「はじまります。」
そのひとがたは近くのビルを破壊しはじめた。
「あの体で重力の影響を普通に受けていれば、立つこともできないはずです。つまり、あれも『妖怪』の一種ですが、一人の想いではこれほどの大きさの妖怪をつくれないはずなのです。
僕たちはあれを神の力がかたちになったもの『神人』(しんじん)と呼んでいます。もし、『神』に計算違いがあったとすれば、自分がかけた呪いのせいで涼宮さんがあれを現実世界で暴れさせることができないということでしょうね。
まったく幸いなことです。」
たしかに、あんなのが現実世界に現れたら、パニックになるな。
「あれを止めることはしないのか?」
俺が神人とやらを指差し、古泉の方をみると、おおきな白い何かが目に入った。
「紹介します。僕の相棒の『白いカラス』です。」
カラス?・・・なるほど、それは人間ほどの大きさがあるが、たしかにカラスのかたちをしていた。
「この『白いカラス』は、超能力に関する人々の願望が『妖怪』になったものです。超能力は実在してほしいというね。
超能力と呼ばれているものにはたしかにインチキがある。しかし、すべてのカラスを調べなければ、白いカラスはいないとはいえないはずだという願望です。」
古泉はそういうと、『白いカラス』にまたがる。実にシュールな光景だが、もう慣れたさ。
「さて、僕も参加しないと・・・では、ちょっと行ってきます。」
そういって、青い巨人の方に飛び去っていった。
巨人の周囲には、さっきまではいなかったなにかが飛び回っていた。手が鎌状の細長いネズミとか、火の玉とか、円盤とか、プロペラ飛行機までいやがる・・・SF映画にしては適当すぎるな。安物SFでももう少しましだ。
しえn
「古泉は仕事がありますので、わたしが説明は引き継ぎます。」
いつの間にいたのか、初老の紳士がそこに立っていた。どなたでしょう?
「自己紹介が遅れましたな。わたくしは新川と申します。今回のわたくしの任務は、情報の転送とあなたさまの護衛です。今後ともよろしくお願いいたします。」
非の打ち所のない敬礼であった。なんで、敬礼なんですか。
「失礼、驚かれましたか?『幻の日本兵』がわたくしの正体なもので、つい癖がでてしまうことがあります。
あと、さきほど古泉になさっていた質問ですが、わたくしどもはあの『神人』を暴れさせておくことはいたしません。
この世界の破壊が涼宮様の心にどのような影響を与えるのか判りかねますし、漠然とではありますが、放置しておくのは危険と感じておりますもので。」
この人もあそこで飛び回っている何かと同じ『妖怪』というわけか。そして、あそこで飛び回っている妖怪たちは『神人』を倒すために集まったと。
『スネーク、スネーク、こちら、クロウ。位置情報を送りますので、転送をお願いします。』
新川さんの携帯から古泉の声が聞こえてきた。
「来ましたな。しかし、便利な時代になったものですな。ガ島のときにこれがあれば。。。」
しみじみと手に持った携帯を眺めて、新川さんはどこからか取り出した無線装置のようなものになにかを打ち込んでいた。
「これをつけてください。耳を痛めてはいけませんから。」
新川さんが手渡してきたのは、ヘッドフォンのようなもの。言われるままにそれをつけた。
「さて、来ますよ。」
その合図とほぼ同時にヘッドフォンを通してすら聞こえる轟音が響く。
さっきまで風すら吹いてないことに気づいたのは、その轟音を圧力として体に感じたからだった。音が空気の振動であるということを実感させられた。
そして、青い巨人の周囲で覆い尽くすような爆発が起こる。すでに飛び回っていたものたちの姿は巨人の周囲から消えていた。
なんなんだ、いったい。
「あれです。」
新川さんが指差したのは海の方角。そこには昔、本でみた軍艦の姿が複数あった。たしか、あれは戦艦・・・
「あれらも妖怪です。軍艦の『妖怪』たちです。『大和』、『土佐』、『天城』・・・。」
戦艦 大和くらいは聞いたことがあったが、残りはよく知らない名前だ。
「便利な時代になったものですな。戦艦の主砲というのは、映画や小説と違ってそうそう当たるものではありませんし、こんな至近距離では使えません。
しかし、誰もそんなことは信じていない。おかげで、初弾必中になります。」
もうもうたる土煙が消えた後には、半分崩れかかった巨人の姿があった。
「後は『鎌風』たちで大丈夫です。古泉はすぐ戻ってきますのでわたくしはこれで失礼いたします。」
新川さんはまた見事なというしかない敬礼をして去っていった。
「後は大丈夫なのか?」
『白いカラス』に乗ってもどってきた古泉に俺はそういった。
まだ、巨人は動こうとしている様子だった。しかし、その体はかなり崩れており、昔テレビでみた火の七日間を引き起こしたという巨人の末裔のような無残な姿となっていた。
早すぎたんだ腐ってやがる・・・というわけじゃないだろうけどな。
周囲で攻撃を加えているらしい『妖怪』たちによって、さらに巨人の姿は崩れ、その輪郭もぼけてきていた。
「大丈夫でしょう。幸い今回は海のそばでしたので、筒井さんたちの協力が得られましたから、すぐ片付きました・・・おっと、今の名前のことは忘れてください。」
さすがに、緊張が解けて油断したんだろうな。おそらく、筒井さんというのは、今は姿がみえない『軍艦妖怪』の名前なのだろう。
間もなく、その青い巨人の姿は完全に崩れ、そして消えていった。残ったのは灰色の空間と崩れたビルの山、そして飛びまわる『妖怪』たち・・・その『妖怪』たちも姿を消していく。
「最後にもうひとつおもしろいものが観れますよ。」
空を指差す古泉。
俺はこれ以上なにがあるんだと思いながらも、灰色一色の空を見上げて、それをみた。
古泉の指が指し示す青い巨人がいた上空辺りに、亀裂が入っていた。最初は雲の切れ間から差し込む太陽の光のような状態だった。それが、くもの巣のように広がり、
「あの『神人』が消えると、閉鎖空間も消滅します。ちょっとしたスペクタルですよ。」
古泉の説明が終わるかどうかのうちに、光のくもの巣は空全域を覆い、砕け散った。
つんざくような騒音が俺の耳にダメージを与えなかったのは、さっきから耳につけていたヘッドフォンのおかげだろう。それでも遠くから聞こえる船の汽笛の音、潮の香り、ビルの間を吹き抜ける風が世界が元に戻ったことを俺に教えていた。
遠くから聞こえてくる汽笛の音は、去り行く平凡な日常の別れの合図のようだった。
以上にて、涼宮ハルヒのゆううつ第4話の投下を完了しました。
支援してくれた方々ありがとうございました。
えっと、これってアナルスレの方がよいということでしょうか?
違う違う。
コメントついでに立てただけだからw
あ、失礼しました。
えっと、まとめて投下してもう楽になりたいと希望しております。
差し障りなければ、第5話を22時30分から投下したいと思いますが、よろしいでしょうか?
これって何かのパロ?
3話が初投下らしいけど今まではどこに投下してたの?
プリン・アナルDAT保管庫
ttp://vipharuhi.s293.xrea.com/cgi-bin/DatHtml.cgi [555]〜[592]【2008/05/26(月) 20:52:35.18 ID:RDyPrqwQ0】に第一話が、
[72]〜[87]【2008/05/27(火) 19:01:21.94 ID:gimnZE5b0】 に第二話が、
あります。
まとめWikiには諸事情により、まだUPしてないです><
ちなみにガープス妖魔夜行世界ベースに改変した涼宮ハルヒの憂鬱でございます。
妖魔夜行については、Wikipedia などを参照くださいませ。
なるべく、知らなくても読めるように努力したのですが、作者の能力に限界がありまして(汗
第5話投下してよろしいでしょうか?
ドゾー
第5話 危機 『ハルヒ』と『神』
同級生に命を狙われ、『妖怪』同士の対決を見せられて、さらに夜には『妖怪大戦争』をリアルタイムで経験した翌日。
俺が、眠い目を擦りながら、机の中をみると、かるい既視感(デジャ・ビュ)を感じることとなった。
つまり、また、ハルヒが席にいないときに、手紙を発見したわけだ。
ただし、今回は誰が書いたのか。について悩む必要はなかった。前回の可能性Aの予想のままに、きれいな封筒に入ったその手紙は女の子らしい筆跡で最後に朝比奈みくるの名前があったからだ。
『今日の昼休みに部室で待っています♪ 朝比奈みくるより』
誰かが、朝比奈さんの名前を語っている可能性も否定できないが、SOS団室(文芸部室)には長門もいるはずだ。多分安全であろう・・・それに麗しの朝比奈さんの手紙を無視できるわけ無いじゃないか。
というわけで、俺は昼休みになるなり、そそくさと文芸部室に向かった。
トントン・・・とノックをする。以前、部室のドアを開けたら、朝比奈さんの生着替えをみてしまったわけで・・・
俺と古泉は必ずノックしてから入ることにしている。まあ、古泉は一応こうしているだけですよ?といっていたがな。中の様子はわかるんだな、あの微妙超能力者は・・・うらやましくなんてないぞ。
「はーい♪」
朝比奈さんらしい声が聞こえたので、俺はドアを開けたが、そこにいたのはたしかに朝比奈さんに似ている人物だった。しかし・・・
sien
「あっ、キョンくん、ひさしぶり。また会えるなんて、夢みたい。」
俺が考えをまとめる前にその人は抱きついてきた。背が高く、以前抱きついてきた朝比奈さんよりさらにボリュームのある胸が俺に当たる・・・正直、たまりません。
「あっ、今、不謹慎なこと考えたでしょう?お姉さんはお見通しです。」
えっと、朝比奈さんのお姉さんですか?その女性はたしかに朝比奈さんにそっくりだったが、背も・・・胸もあきらかに朝比奈さんより大きく、よく似たお姉さんといった雰囲気だったのだ。
「違いますよ。わたしはわたし・・・朝比奈みくる本人です。ほら♪」
さっきまでいた朝比奈さんが大人になったような姿をしていた女の人は、次の瞬間、朝比奈さんそっくりな姿になっていた。
「信じてもらえました?」
こくこく
「ちなみにドッペルゲンガーとか鏡の『妖怪』でもないですよ。例えば、ほらここのホクロとか。」
そういって、朝比奈さんは胸をちょっとだけはだけさせて、ホクロを見せてくれた。星型のめずらしいホクロだった。
「えっと、ホクロといわれても・・・俺はそれをみるのは初めてなんでが?」
ちょっとしどろもどろになりながら、答えた。顔が熱くなっていたはずだ。
「えっ?このホクロのことを教えてくれたのはキョンくんで・・・あっ、このときはまだ、そっか、どうしよう。」
朝比奈さんは、あたふたした様子で、それはそれで朝比奈さんらしい行動であったわけで
「あなたが朝比奈さんであることは信じます。でも、なんで俺をここに呼び出したんですか?あとさっきの姿は?」
お互い冷静になる必要を感じて、話を変えた。
「そうですね。実は、この世界の運命のとても重要な分岐点がせまっているのです。そこで、わたしは再び許可を得て、少しでもキョンくんの手助けをしたくてやってきました。後、さっきの姿はわたしがここの時代にいたころよりさらに未来からきたからです。」
つまり、さっきの大人の姿は朝比奈さんの未来の姿だったというわけか。何年後なんだろうな。
「この時代の朝比奈さんは?」
「このことは知りません。実際知りませんでしたから。今頃鶴屋さんたちと教室でお昼ご飯を食べているはずです。」
そして、俺に正体を告白したときのようなちょっと真剣な表情になった。
「時間がありません。2つだけお伝えします。一つ目は、長門さんに注意してください。」
長門が?昨日俺の命を救ってくれたあいつがおれになにかをするとは思えないのだが・・・
「長門さんに悪意はなかったんです。ただ、えっと彼女は生まれて3年程度だったの、それがちょっと問題でした。すいません、それ以上は禁則事項です。あ、これも久しぶりですね。」
まあ、俺は数日前に聞いたばかりですけどね。
「最後にひとつ・・・白雪姫って知ってます?」
「童話のですか?」
「そうです。これから危機に直面したら思い出してください。」
まあ、昨日同級生に襲われて、さらに『妖怪大戦争』を経験したばかりですが。。。
「それとは違うのです。そのとき、キョンくんのそばには涼宮さんがいるはずです。それ以上は・・・残念ながら、禁則事項です。」
こころしておきましょう。
「よろしくお願いします。わたしたちの未来につながる重要な分岐点なのです。おそらく世界の運命すら・・・」
また、世界ですか・・・めちゃくちゃ重いですね。
「涼宮さんの力というのは、そういうものだからです。よろしくお願いします。じゃあ、そろそろ時間ですから、失礼しますね。」
「わかりました、お願いされます。ところで、最後に質問をしていいですか?」
大人モードに戻り、ドアから出て行こうとする朝比奈さんは立ち止まった。
「朝比奈さん、禁則事項でしょうから、あなたがいつから来たのかは聞きません。でもひとつだけ教えてください、あなたの正体は何ですか?」
朝比奈さんはかわらないきれいな栗色の髪をふわりとひらめかして、振り返り、笑顔でこういった。
「禁則事項です♪」
みたものすべてが恋に落ちそうなそんな天使のような笑顔だった。
教室に戻り、残りの時間でせめておかずだけでも食べようかな。などと思って教室に戻ると、それすらハルヒに妨害された。
「あんたに話があったから、お昼も食べないでまってたのに、どこいってたのよ。」
その言葉、幼馴染が照れ隠していっている感じで頼む。
「はあ、なにいってるのよ。今日は部活のとき話があるから、必ず来なさいよ。」
まあ、いわれなくても部活には顔をだすつもりだったが、なぜ念押しされるのかわからなかった。しかもハルヒは怒りのオーラを身にまとっているし、背中に殺気を感じます・・・誰か助けて・・・
「で、この紙はいったいなんなのかしら?」
現在の状況、SOS団室(文芸部室)内、目を怒らせているハルヒから俺は問い詰められている。生命の危機すら感じるぞ。
原因はいたって簡単だった。ハルヒは昼休みにはさみを忘れたことに気づき、俺のかばんを漁った。(おいおい・・・)で、あれをみつけちまったんだな。これが・・・
そう、それは昨日俺が朝倉からもらった手紙だ。昨日のあわただしさでかばんにいれたまま忘れていたのだ。・・・朝比奈さん(大)からの手紙はきちんと持ってSOS団室にいっていたのが不幸中の幸いってやつだ。
しかし、言い訳はしないとな。なにせ、傍目には告白のために呼び出された文章にしかみえないからなあ。
『放課後誰もいなくなったら一年五組の教室に来て』
はあ、俺はかばんの奥で寝ている『ナイフ妖怪』をうらめしく思った。
あーーーー、妖魔夜行シリーズか。
初めて読んだのが十ン年前だから、忘れてたわwww
「これ、朝倉の字よね。」
「まあ、そうだな。」
否定しても無意味だろう。朝倉はクラス委員長だ。ハルヒがクラスメイトにいくら無関心でも記憶力はたしかだ。HRとかでみたことがあるだろう朝倉の筆跡を記憶している可能性は高い。ごまかしが通じる相手ではない。
なにせ、ミステリー研仮入部の際には、出されたミステリークイズとやらをひとつ残らず正答したらしいし。ホームズの踊る人形を一回みただけで全部覚えるって、お前は人間かよ。まあ、普通の人間じゃないわけだが・・・
「つまり、朝倉から告白されたと・・・それで朝倉は今日からなんか入院とかの理由で休んでるんだけど?一体なにがあったのかしら?」
はい、命狙われましたと答えるわけにはいかないわな・・・どうするよ?俺。
俺は、窓際で本を読む恩人?に無意識に視線を向けた。
「なんで、有希に視線を向けるわけ?有希が何かを知っているとでも?」
「知ってる。」
お、長門の助け舟だ。俺は大型船に救助された漂流者のような気分になった。
「朝倉涼子は今精神的ショックで寝込んでいる。」
頭の中で俺を助けてくれた大型船は氷山に激突していた。たしかに、朝倉は長門に負けて、ナイフ形態で眠っているわけだが・・・
「ふーん、そのショックって どうして起こったの?」
「襲ったから」
・・・その大型船は有名な四本煙突の豪華客船だった。沈没まであとわずかだ。どうしよう。たしかに、長門の発言に間違いは無かった。
朝倉は、俺を『襲って』、長門に敗れて、『精神的ショックで眠っている。』と言いたいのだろう。
しかしだ、今の長門の発言を元に連想したら、こうならないか?
『俺が』、朝倉を『襲って』、『精神的ショックを与え』、そのショックで朝倉は寝込んでいる。
・・・俺、犯罪者確定?弁護してくれそうな存在は・・・古泉はついさっき「バイトです。」と慌てて出て行った。
朝比奈さんは、どうしたものかとおろおろしている。
長門以上に饒舌かつ当事者で説得力ある説明をしてくれそうな朝倉は・・・しばらく、ナイフ形態から戻れない。
・・・終わった。\(^o^)/
「ふーん、あんた、委員長萌えだったわけ?SOS団から犯罪者が出るなんて・・・団長として引責辞任ものよ。」
目がマジだ・・・ハルヒはかなり怒っている。冗談では通りそうにないし・・・やれやれ、どうしたものか・・・
俺は、昼休みの朝比奈さん(大)の警告の意味を今更ながら理解していた。人生経験の少ない長門には、最低限の言語が与える誤解というものがよくわかっていなかったのだ。
「ま、まて。朝倉が退院してくれば・・・」
朝倉の家に行くまたはお見舞いに行くという選択肢の無い選択ウィンドウが悲しい。まあ、朝倉はここにいるわけだしな・・・それに、朝倉の仲間がいてもそれは敵だろう?
「言い訳は見苦しいわよ、キョン。まあ、SOS団員ってことで、あたしたちから通報はしないであげるわ。みくるちゃんも有希もいいわね。これが最後の情けよ。おとなしく自首しなさい。まったく、襲うなら・・・」
ハルヒが口ごもったので最後の部分は聞き取れなかった。
そういって、ハルヒは床を10回、ドアを1回蹴飛ばして、帰っていった。・・・ハルヒよ、そのドアは引き扉だ・・・。
蝶つがいが壊れた部室のドアは悲しげに揺れていた・・・
「えっと、キョンくん・・・わたしはキョンくんを信じてます。涼宮さんの誤解も解けると思います。ただ・・・」
しかたなくドアを修理している俺に、朝比奈さんは慰めようと声をかけてくれた。すごく不安そうな表情が浮かんでいたが・・・
「言語による情報の伝達に齟齬が発生した。申し訳なく思う。」
長門もそういってきた。いや、長門に弁護を求めてはいけないのは朝比奈さん(大)から警告されていたのに、それを失念していた責任は俺にあるし、長門は命の恩人だ。恨む気にはなれない。
「だいじょうぶです。朝倉が退院してくれば、問題は解決しますよ。」
時間が経過し朝倉が人間形態に戻れば、誤解は解けすべてが解決すると考えていた。即断即決・直情径行、待つという選択肢をまったくもっていないハルヒの性格のことを俺は失念していたのだ。このときは・・・それがあんなことの原因になるなんてな・・・
その夜は、朝倉復活まで針のムシロに正座しているような気分になることが容易に予想できる一週間弱、部活を休もうかなどと思いながら、朝比奈さんの甘露と針のムシロを天秤にかけながらひたすら悩み、それでもなんとか眠りについた。
ハルヒの一瞬みせた悲しそうな顔がちらついていたのは気のせいと信じている。
そして、翌朝を迎えるはずだった・・・しかし、まさしく新約聖書のメシアの言葉を守るように、それはすぐに来たのである。
「キョン、キョン、起きなさい。」
「あと、5分・・・」
妹のフライングボディプレスが来るまでの癖でそう答えていた。
「ばかキョン!とっと起きなさい。」
それは、妹の声ではなかった。キンキンとよく響くこの声は・・・
目を開けると、ハルヒの輝く瞳が目に入った。その後ろの空が夜空の黒ではなく、灰色をしていたからその瞳は普段よりさらに輝いて見えた。・・・灰色?ここは閉鎖空間か?
「気づいたら、制服でここにいたのよ。隣にやっぱり制服姿のあんたがいて・・・なに、この灰色の世界、なんか・・・気持ち悪い。昔の・・・」
ハルヒ、怖ければ腕につかまっても構わんぞ。
「するわけないでしょ!」
よしよし、これでこそハルヒだ。まずは確認だな。
「古泉を見なかったか?」
「なんで、古泉くんなの?みてないわよ。とりあえず、これからどうする?学校から出る?」
どうだろうな・・・この空間がどの程度の広さか不明だが、一定範囲以上は多分・・・
予想の通りだった。今回の閉鎖空間は北高の敷地全体だけを覆っていた。透明な壁に阻まれてそれ以上は出られそうになかった。
しかたないので、職員室で鍵を調達し、SOS団の部屋へ行く。
「とりあえず、喉渇いてないか?」
そういって、俺はハルヒにお茶を勧める。朝比奈さんの甘露には程遠いだろうがな・・・
「あんた、あまり驚いてないのね。」
いや、驚いているさ。ここに俺とお前しかいないことにな。
「電話とか通じないか調べてくる。キョンはここにいて。動いちゃだめよ。」
こんな状況でも仕切るのはさすがハルヒといったところか。
俺は、ハルヒに言われた通り、SOS団室に留まった・・・ここにいるのが一番確実という確信があったからだ。その予想は、完全には当たらなかったが概ね正しかった。
「いやあ、遅くなりました。」
窓の外にいたのは、古泉の声でしゃべる白いカラス(普通サイズ)だ。多分、古泉で間違いないだろう。普通に姿を現すと思っていたのだがな、この微妙超能力者なら。
「遅かったじゃないか。」
「時間がありません。はっきり言ってこれは異常事態です。」
発言内容に比べて、古泉の声には焦った様子はない。相変わらずの声。おそらく笑顔もそのままだろう。
「どういうことだ?」
「ここは普通の閉鎖空間とは違います。隠里への入り口を開くことができる仲間たちの総力でもこの『白いカラス』の分身が通れる大きさの穴しか開けませんでした。しかも、今はほぼ完全にふさがっています。僕がここから弾き飛ばされるのも時間の問題でしょう。」
つまり、ここには俺とハルヒしかいないということか?
「そういうことです。涼宮さんの力が原因なのは間違いありません。しかし、これからどうなるかはまったく見当がつきません。」
おいおい・・・ハルヒと二人でこんなところに閉じ込められるのか?助かるかもわからない状況で?
「いいじゃないですか。アダムとイブですよ。『神』があなた方にエデンの園を準備したのかも知れませんよ?」
殴るぞ・・・ずいぶんと殺風景なエデンの園だな。蛇どころか多分ねずみ一匹いない。
「おっと時間が・・・」
カラスの姿は今ではスズメ程度まで小さくなっていた。
「最後に、朝比奈みくると長門有希から伝言です。朝比奈みくるからは『信じてます』と、長門有希からは『PCの電源を入れるように』・・・とのことでした。では、また、会えることを・・・」
古泉の姿は小さくなり、小さな白い玉になって消えていった。
PCの電源?
俺は、団長席のPCの電源ボタンを押した。OSの画面が立ち上がる様子は無い。しばらく、黒い画面をみていると。。。
YUKI.N >(*^ー゚)ノ ぃょぅ みえてるかな?
長門・・・なのか?
ああ、みえているぞ。
YUKI.N >この回線もあとちょっとしか持ちそうにないの。だから、ちゃっちゃっと話すよん。
・・・長門が壊れた・・・というわけじゃないな。これもこいつの特徴と考えるべきだ。
YUKI.N >えっとね。『かくれざと』っていうけど、どっちかというと『妖怪の巣穴』みたいなものなのよん。
だから、そこにも『巣食う妖怪』がいるって考えるほうが自然なのよね。
『神人ちゃん』がそうなのかもしれないけど・・・ちょっと疑問なのだよ、ワトソンくん。
結論いっちゃうと、今のわたしでも何が起ころうとしているのか、というかそいつが何しちゃおうとしてるのかはぜんぜんわかんないの。
正直お手上げ ┐(´ー`)┌
しかたないので、せめて護衛役をおいといたよ。(  ̄ー ̄) ニヤリッ
わたしが、最初に読んでた本の間にあるよん。説明書はきちんと読むんだぞ?
判りにくいが・・・とりあえず、本を探せばいいのか。
YUKI.N >後は、あなたを信じるしかないね。こちらの世界のためにあなたたちは必要だと思うのん。だから、戻ってきてね。
それに、わたしという個体もあなたに戻ってきてほしいと思ってるの。ちょっと、はずかしい(*^-^*)けどね♪
YUKI.N >また、図書館に・・・
YUKI.N >Prince
その言葉を最後にPCはまったく動かなくなってしまった。
長門が最初に読んでいた本か・・・たしかこれだな。
かちゃり、という音がして、みたことのある紙の鞘に包まれたナイフが落ちてきた。これは・・・俺にかばんにしまっておいた朝倉じゃなくて、ミセリコルデとかいう西洋の短剣だな。
『痛いわね。あら?わたし、なんでこんなところにいるわけ?』
朝倉か?何でここに?たしか、こいつは俺のかばんの中の隠しポケット(普段は、男子高校生のためのひみつ空間)にしまっておいたはず。
『あら、質問に質問で返すように学校で教わったかしら?』
・・・えっと、すまん。今はこいつが最後のよりどころなのだ。
で、説明書がこれか、ナイフのあったページに長門文字の説明書きがあった。
『注意:鞘から取り出すと人間形態に戻る。でも、一週間経過していないと、殺人鬼モード(怖いよ(*´・д・)(・д・`*)ネー)が健在なので注意しないと駄目だぞ。(・∀・)ニヤニヤ 』
丁寧なのかよくわからん説明だが、今朝倉を鞘から出すと、襲われるかも・・・ということか?
「とりあえず、事情を説明する。ここは・・・」
『必要ないわよ。今朝から起きてはいたから、それに殺人鬼が周囲の物音に鈍いと思うの?』
なるほど、聞こえてはいたというわけか・・・『妖怪』ってのはよくわからん。
「で、どうしたらいい?」
『それはあなた次第じゃない?わたしを信じてここから出してくれれば、涼宮さんの誤解を解く協力をするかも知れないし、あなたを殺してここから脱出するってのもありかもね♪』
こいつは・・・
・・・俺は、何も言わずに鞘からナイフを取り出し、床に置いた。
「あら、信じちゃっていいの?」
「俺はお前を信じる。裏切られたら、その時はその時だな。」
朝倉は、消えたときの姿・・・つまり北高一年五組の委員長に戻り、不可思議とでもいう風に俺を一瞥した。
「そう・・・ただの人間だと思っていたけど、ほんとに不思議なひとね。涼宮さんが興味を持つわけだわ。」
そうかね。単にジタバダするしかないなら、できる限りのジタバタをしようとしているだけだがね。
「まあ、いいわ。とりあえず、涼宮さんを探しましょう。」
とりあえず、俺を襲うという選択肢は選ばないでくれたらしい。
「あ、ああ・・・」
俺と朝倉が部室を出て、ハルヒを探しに行こうとしたとき、窓から光が差し込んできた。青い・・・どこかでみた光だ。
「神人・・・」
呆然とつぶやく声は俺のものだ。
朝倉は険悪な表情で窓の外を睨んでいる。
「ちょっと、キョンなにあれ!?って、涼子。」
ハルヒは部室の扉を壊さんばかりの勢いで飛び込んできて、俺と朝倉がいることに驚いているようだった。
「こんなところでも逢引なの?」
「いや・・・涼宮それは・・・」
まだ、心の準備ができていなかった俺はしどろもどろだった。
「今はそれどころじゃないわ。ここは危険よ、ついてきて・・・涼宮さんを頼んだわよ。」
朝倉は、そういうと部室飛び出していった。
支援
「涼子、逃げるの!」
ハルヒはそう叫んでいたが、俺はハルヒの手を掴んで朝倉を追いかけることにした。
「馬鹿っ!それどころじゃない、ほら、行くぞ!」
今は朝倉の指示が正しいだろう。あの神人がこの部室棟を攻撃しないという保障なんてない。
あれは、ビルを一撃で破壊できるだけの力がある。それは、昨夜みせてもらったばかりだ。
近くでみた神人は昨夜よりはるかに巨大に見えた。動き出さないのが幸いだった。
「おかしいですね。選ばれた人間一人だけのはずなのですが・・・」
声だと?この閉鎖空間に他に誰かいるのか?
グラウンドまで逃げた俺たちの上、灰色の空から、声が聞こえてきた。神秘的な、しかしどこか蔑むような色の混じった声だった。
「隠れてないで出てきたら?」
朝倉は、灰色の空の一点を睨んで笑顔でそういった。
「いけませんね。慈悲の短剣らしからぬ言葉ですよ。」
「あなたに言われたくないわね、サンダルフォン。」
「ほう、ばれてましたか?」
そこに姿を現したのは、『神人』ほどではないが、巨大な、それに白い翼を供えた人間のような姿をした存在・・・簡単にいえば、天使ってやつだ。
「あの戦いで全滅してはいないといわれていたしね。ザ・ビーストの情報力を甘くみないでよね。」
朝倉は笑顔のまましかし警戒するような口調でそういった。俺も、この『天使』というやつから敵意を感じていた。
「わたしのことがわかったとして、あなたに何ができます?もうすぐ、あの御方が降臨されます。この空間には『あれ』は干渉できませんし、この国の連中にしても同じですよ。」
「・・・そうね。わたしにできるのは、あなたの妨害くらいね。」
「そういうことです。もうすぐ、三年間待ち望んでいたときが来るのです。邪魔して欲しくないですね。」
そういって、サンダルフォンと呼ばれた天使は、神人の方に目を向ける。
神人は姿を現してから不思議なことに動く様子がない。しかし・・・大きくなっていないか?
神人はその大きさを増し、どこか神々しい雰囲気をかもし出していた。
そう、まるで神をイメージしたら、こんな風になるんじゃないかという雰囲気だ。
「サンダルフォン。少し時間くらいもらえるかしら?」
「ふっ、構いませんよ。わたしは争いは嫌いですし、あの御方が復活されればすべて片付きますからね。兄弟たちも再臨します。わたしが手を汚すまでもありません。別れの言葉をいう時間くらい差し上げますよ。」
いやなやつだ・・・天使に抱く感想としては不適切かもしれないが、テレビドラマの陳腐な悪役のようなその発言と蔑む声色は、その姿とのギャップもあり、実に不愉快だ。
朝倉は、俺には聞こえないようにハルヒに耳打ちした。ハルヒは驚き、その後、顔を真っ赤にしていたが・・・なにをいったんだ?
「そういうことだから、涼宮さん、お幸せに。」
そういって、ハルヒから離れて、つぎに俺に耳打ちしてきた。
「涼宮さんの誤解は解いておいたから、あと、わたしの能力はここでも使えるから、サンダルフォンをなんとかする。あなたたちは逃げる方法を考えて!」
「おいおい、朝倉。」
それは、死亡フラグってやつだろうが・・・殺人鬼の、ではないけどな。
「時間がないから、後は任せたわよ。それじゃ、涼宮さんとお幸せに。」
朝倉のその言葉と共に、朝倉も、サンダルフォンと呼ばれた天使も、神人も姿を消し、俺たちはグラウンドに取り残された。
・・・違うな、これは朝倉の能力だ。おそらく、俺たちの周囲に結界を張っているのだ。つまり、姿を消しているのはむしろ俺たちと考えるべきなんだろう。
「涼宮・・・」
俺は混乱していた。時間がない。頭の中はまとまらない。
「なによ。」
「お前にはなにが起こっているか、わかるか?」
「そうね。あたし自身が不思議な体験をしてるってことくらいね。天使とか巨人とかちょっと楽しいかも・・・」
相変わらず能天気なやつだ・・・しかし、おかげで少し頭の整理ができそうだ。
神人はまるで神のような姿になりつつある。そして、古泉に言わせると、ハルヒには『神』の力と呪いがかかっている。
そして、あの天使の発言・・・
要するに、『神人』ってのは『神のさなぎ』みたいなもんだったんだ。そして、今、『神』が羽化しようとしているわけだ。
人類を絶滅させようとしたたちの悪い、しかし、全知全能の『神』とやらが・・・
防がなくてはならない・・・のかな。
やれやれ・・・俺はこんな主役的立場は望んでないぞ、と苦情を言いたくなった。しかし、このままでは言う機会も相手も失うんだな・・・
「ハルヒ、お前こんな世界が楽しいか?ここには何もないし、誰もいないぞ。」
「うーん、よくわかんないけど、あたしはずっと孤独だったから、今わくわくしてることの方がいい。」
こいつが孤独だったのは、『神』の呪いのせいだったはずだ・・・ハルヒをここまで追い込んだ『神』に怒りを感じた。
「俺は断る。こんな世界はいやだ。どこかの誰かに運命を委ねるのもごめんだ。それに、俺はあいつらと一緒に居たいと思う。長門、朝比奈さん、古泉、国木田、谷口・・・やつらと一緒に世界を体験したい。」
「なによそれ!あたしと一緒じゃ駄目ってこと?」
「そうじゃない。俺にとってお前は・・・」
長門風にいうなら言語での情報伝達では不完全だ。ハルヒを説得するには・・・
俺が、朝比奈さん(大)と長門のヒントを思い出した。
朝比奈さんは「白雪姫」と、長門は「Prince」といっていた。もしかして、それはこの状況へのヒントだったのでは?朝比奈さん、長門、もしかして俺にそんなベタなことをやれと?
パリーン・・・ガラスが砕けるような音が響く・・・
「てこずらせてくれましたね。」
無傷の天使とぼろぼろの姿で横たわる朝倉の姿がみえる・・・朝倉、お前そこまで・・・おそらく、サンダルフォンを止めるため命がけで戦ってくれたのだ。時間を稼ぐために、絶望的な戦いを・・・
「しかし、もう終わりです。力を受けついだ人間よ。こちらに来なさい。世界を変えるのです。」
天使のくせにイブにリンゴを勧めたという蛇のような発言だな。
「ハルヒ、お前の孤独はこいつらのせいだ。それにもう、お前は孤独じゃない俺がいる。長門も朝比奈さんも古泉もそこの朝倉さえ、お前のことを気にかけてた。むしろ、世界はお前のためにあったんだ。」
天使の誘惑にハルヒ耳を傾けないように俺は叫んだ。
「小ざかしいですね。力仕事は嫌いなんですが、邪魔されたくはありませんからね。ごみが、これでもくらいなさい。」
そういって、サンダルフォンは俺に手を向けてきた。おそらく攻撃してくるつもりだろう・・・
ヒュン!
「ぐっ!?なんだと・・・」
風を切る音がして天使の手にはナイフが刺さっていた。そう、朝倉の本体 ミセリコルデだ。
最後の機会だ!
「ハルヒ、俺、実はポニーテール萌えなんだ。いつだったか、お前のポニーテール反則的なまでに似合ってたぞ。」
「はあ?バカじゃないの、こんなと・・・」
抗議の声をあげようとするハルヒの口をふさいだ・・・もちろん、俺自身のくちびるで・・・だ。ハルヒがどんな表情をしていたかは知らない。
こういうときのマナーを守って目をつぶっていたからな。
周囲の世界がどうなっていたかも、見てはいない。しかし、なにかの絶叫のようなものが聞こえた気がした。
目を開いたとき、最初に視界に飛び込んだのは、見慣れた俺の部屋の天井だった。
・・・夢か?夢なのか?・・・夢にしてはいやにリアルで、くちびるには感触が・・・
・・・フロイト先生、爆笑してください・・・
ジギスムント・フロイトが知人にいないことに心底感謝した。いたら、何と言われることか。
おそらく、夢判断とやらを聞いた後、朝倉にナイフを借りにいくところだ。こんなときこそあいつの出番だろうし・・・
『あら、それはわたしが慈悲の短剣だからかしら?』
かばんの中から声が聞こえた気がした。気のせいだったが・・・そういえば、朝倉はどうしたろう。
あれが夢だったのか、それとも現実だったのか・・・
いずれにせよ。ひとつ確かなことがある。
その後一睡もできなかった・・・
以上、第五話の投下完了しました。
支援ありがとうございました。
乙!
ずれちゃったり、気に入らなかったりと批判などいろいろありますでしょうが、
とりあえず、エピローグ投下して消えますね。
スレへのSS投下って難しかったです>< それ以前に才能の問題なのでしょうが・・・
エピローグ 神はすべてを見守りたまう
翌朝・・・俺はほとんど徹夜明けの体を引きずるように学校へと向かう。親からは顔色が悪いから休んだら?といわれたわけだが、行かないと今夜も眠れなくなるだろう。
教室のドアを開けると・・・机に突っ伏しているハルヒと「大丈夫?」と声をかけている委員長の姿があった。
ハルヒの頭には後ろでくくった黒髪がちょんまげみたいに突き出していた。ポニーテールと呼ぶには無理がある。
「おはよう♪昨日はお疲れ様。」
俺に気づいた朝倉は笑顔でそういってきた。無事だったのか。
「じゃ、涼宮さんをお願いね。あと・・・」
朝倉は周りの連中に聞こえないように耳打ちしてきやがった。それもこんなことを・・・
「涼宮さんにはわたしが告白してふられて、あなたを無理やり押し倒そうとしたけど、あなたが好きな人の名前を叫んだから恥ずかしくて休んだってことにしてあるから。」
そうか・・・誤解が解けてよかったよ。
「ちなみに、好きな人っていうのは、涼宮さんね♪」
はあ?なんですと?
いつもの笑顔に悪戯に成功した子悪魔の表情が混じっていた・・・こいつ・・・
「じゃ、後はよろしく♪」
朝倉は、自分の席に戻っていった。
・・・声かけづれー
「よう、元気か?」
俺は、机に座り、少し心が落ち着くのを待ってから、後ろのやつに声をかける。
「元気じゃないわね。昨日、悪夢をみたから」
ほう、そいつは奇遇だな。
「おかげで全然眠れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」
「そうかい」
机に伏していた顔をあげ、ハルヒは窓から外を眺めた。こちらを直視したくないかのようなそのしぐさで表情を読み取れないが、すくなくとも上機嫌ではなさそうだ。声だけは・・・
「ハルヒ」
「なに?」
窓の外を流れる雲をじっとみているハルヒに、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」
その後のことを少しだけ話そう。
昼休みに古泉に呼び出されて、昨夜の説明をうけることになった。つくづく説明好きなやつだ。
「『機関』を・・・いえこの世界を代表してあなたには感謝の言葉を送りますよ。」
相変わらず無駄に爽やかな笑顔だ・・・俺としては昼休みに少しでも寝ていたかったんだがね。
「それは失礼。しかし、あなたもあの後のことを知っておきたいかと思いまして。」
あの後ねえ・・・思い出したくないんだがな、こっちとしては。
「『神』の再臨は防がれました。閉鎖空間崩壊後に逃げ出そうとした『天使』は僕たちが片付けましたよ。」
そうか、あのいやみな声の『天使』にはもう会わず済むわけだな。
「さあ、生き残りがほかにいないという保障はありません。」
おいおい、また面倒が起こるかもしれないということか?
「どうでしょうね。僕たちとしてはそれよりも不思議なことがあります。」
ほう?
「『神』は再臨直前でした。誰がそれを止めたのでしょう?」
「ハルヒじゃないのか?」
「僕たちは違うのではないかと考え始めています。中で起こったことは、確保した朝倉さんから聞くことができましたから。」
朝倉を治したのは、こいつらか。
「まず最初ですが、『天使』にけがを負わせたのをあなたは朝倉さんだと思っているでしょうが、実は違うのです。あのとき、朝倉さんは動くこともできない状態だったそうですから。
そして、『神』が再臨できなかった理由です。
朝倉さんに協力し、『神』を妨害したなにかがそこにいたからではないかと。」
よくわからないな。
「まあ、神はこの世でただひとつの存在ですから。」
なにがいいたい?
「あなたについて、普通の人間であると思っていました。しかし、それが空気のように全世界にあまねく広がり存在するものなら、僕たちが空気の存在を感じないのとおなじように、単に気づけなかったのではないかと考えはじめています。」
徹夜明けの頭がショートしそうだ。その後もいろいろ説明を付け加えてくれたが、半睡眠状態の頭では理解不能だ。
「まあ、神の奇跡ってことにしておきましょうか。」
と古泉は解説をまとめて、
「未だ涼宮さんの力は失われていません。僕たちのバイトもまだ終わらないというわけです。あなたとも長いつきあいになるかもしれませんね。では、また放課後に。」
と最後に不穏なことをいって去っていった。
放課後、部室には長門の姿があった。
「昨日はありがとな、長門。」
「わたしは何もしていない。」
相変わらずの無感情な声だ。それにほっとしている自分がいるわけだが・・・
「見て」
長門は机に置いてあった本をこちらに向ける。あれ、これは・・・
「再生できた。」
そうか、これは朝倉に破壊された本だったな。しかし、ばらばらになった本を直せるとは『妖怪』ってのは便利だな。
「違う。本当なら無理。でも、直せた。不思議。」
お前から不思議って言葉を聞く事になろうとは思わなかったよ。
「話しておかないといけないことがある。朝倉 涼子はわたしと一緒に住むことになった。」
そうか・・・二人がどんな会話をしているのか、ちょっと気になった。朝倉が一方的にしゃべりそうだな。
「これからも二人であなたを守る。」
「キョンくん・・・よかった、また会えて・・・」
ドアから飛び込んできた朝比奈さんは俺の胸に顔を埋めて涙声になっていた。
「もう二度と・・・(ぐしゅ)戻ってこなんかと、思、」
つい抱きしめたくなる衝動にかられて、背中に手を回そうとすると、
「だめ、だめです。こんなところを涼宮さんに見られたら、同じ穴の二番煎じです。」
「意味わからないですよ、それ」
そんな朝比奈さんをみて、俺はあることを確認してみたくなった。ちょっとしたいたずら心だ。
「朝比奈さん、ここのところにほくろありますよね。星型の。」
左胸のところを指差す俺を、朝比奈さんは古泉の相棒が豆鉄砲をくらったような表情できょとんとした後、後ろを振り向き、なにかを確認すると、その耳はリトマス紙のようにわかりやすく真っ赤に染まった。
「どっ、どうして知ってるんですか?わたしも今まで星の形なんで気づかなかったのに!いいいいいいつ見たんですか?」
もっと未来のあなたが教えてくれました。と正直に言ったほうがいいかな。
「なにやってんの、あんたら?」
戸口でハルヒがニマニマと笑っていた。
「みくるちゃん、この前買った服まだここでは着てなかったわよね〜。さあ、着替えの時間よ♪」
といって、朝比奈さんを脱がしにかかる。
「や、だめ、せめて、ドアだけは閉じてぇ!」
という、願いをかなえるため、俺は部室を出て、ドアを閉める。
長門はというと、何事もないようにずっと窓際で本を読んでいた。
この世はある意味平和だった。
俺は、不思議探索のときハルヒと一緒になったなら、今回の一件を話してやろうと思う。
あいつは信じないだろうけど、それでもこんな不思議な体験を一緒に語れる人間は、ハルヒだけだからな。
涼宮ハルヒとの運命の・・・とは信じないぞ、奇妙なってことにしよう・・・出会いからはじまった俺の物語はいつまで続くのか・・・それはまさしく神のみぞ知るってやつだろう。
叶うならば、少し騒がしいくらいだが退屈しないこんな日々が続いて欲しいと雲ひとつない青い空を眺めながら想っていた。
とりあえず、おしまい♪
以上にて、涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. は、一応終了です。
支援いただいた皆様ありがとうございました。
義務・・・果たしましたよ、団長殿。
あと、Wikiの編集がありますが、それは後日ということでお願いします。
さすがに気力が尽きました。では、おやすみなさいませ。
おぉ、ちゃんと書き上げたな。
乙&GJ!
320 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
保守