暇だから高校のとき書いた小説アップしていくわ

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201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:26:10.45 ID:8wjZQfHQ0
これはいい、てかこの案ほしいw
202以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:27:24.84 ID:NFrNygmd0
あげるよwwww
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:28:40.61 ID:8wjZQfHQ0
マジですか?
え、本当に?
204以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:30:21.58 ID:NFrNygmd0
別にいいよ。
あ、コンビニのモニタにしか移らない女ってのはにちゃんのスレネタだったwすまんw
脚色したw
記憶をたどるのはオリジナルだけど、ありきたりだと思うけど、いるならあげるよ。
205以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:31:45.25 ID:NFrNygmd0
途中で飽きたのは
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20070211000071&keyword=
これだな。
もうコピーするようなネタでもないし、見るようなネタでもないwwwwwwww

次はどれにするかな
206以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:32:13.61 ID:8wjZQfHQ0
サンクすww
俺もこれに脚色して
作ってみるわw

207以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:34:40.58 ID:NFrNygmd0
頑張れ。できたらどっかにアップしてくれよ。見たい。
208以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:35:09.49 ID:8wjZQfHQ0
デスノートww

下衆ってなんだよww
まぁ、実際いまの世の中は下衆だらけに
なっているがな・・・・・まさか、


お前が下衆ノートを使って?

そ、そんな馬鹿なww


さいこうのミステリ
209以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:35:24.85 ID:8wjZQfHQ0
おkww
210以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:36:32.06 ID:NFrNygmd0
>>208
ふふふ、答えは闇の中さww


タイトル:数分間
ジャンル:絵本

 男が、小さな公園の屋根のあるベンチで、本を読んでいた。ついさっき本屋で買ってきた、何て事の無い一冊の本。しかし男は、さっきから本よりもまわりを気にしていた。
「おじちゃん」
 男は、もうそこに誰かが居る事を分かっていたかのような表情で、目の前の少女を見上げた。「雨宿りしてもいい?」
 気が付くと、目の前は大量の雨が降り注いでいた。男は雨に濡れないように体を中に寄せながら、少女の方を向いた。
「いいよ、こっちに座りな」
 男は、隣に少女を座らせた。
「いっぱい降るね」「そうだな」
 自分の心の中を悟られぬよう気をつけながら、返答していく。男の心臓の鼓動は、今まで体験した事の無いぐらいに早く動いている。
「おじちゃん毎日会うね」少女がくすくすと笑いながら、男に話し掛けた。その一言に、体中に恐怖の二文字が舞い降りる。聞いたのか。
211以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:37:07.44 ID:NFrNygmd0
「そうだね。私はここが好きで。でも――」男は言葉を切った。言いたくない。
「そんなに長い間ここに居なきゃいけないわけでも……無いんだ」男の言う通り、さっきまでざあざあと降っていた雨も、今はもう小雨になっていた。
「本当だ。もうちょっとしたら行かなきゃ。ママが心配する」女がまたくすくすと笑う。懐かしい。
 男は空を見上げた。これで、心置きなく去ることができる。全て、終わったことなのだ。「何だか楽しそうだね?」「うん。今日、パパが仕事から帰ってくるの」
 男は、そこから何も覚えていなかった。ただ、呆然と少女の話を聞いているだけ。雨が止み、少女が去ってから、男は涙を流した。期待など、少しも持つべきではない、と。
 読んでいた本は逆さまだった。


終わっちゃう
212以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:40:05.09 ID:NFrNygmd0
タイトル:時の回廊
ジャンル:?


 私は水実を袋から取り出し、中に詰まった水をすった。私の歩みを妨げる、今では忌み嫌われた存在へと成り果てた太陽は、私の体を、そして地面を照り付ける。
視界に広がる砂山は、果たしてここが以前海だったろうなどと想像できるであろうか。布を纏っただけの私の格好は、果たして生命の頂点である人間に見えるのであろうか。
それでも私は歩き続ける。地球は丸い。それは周知の事実である。しかし、砂山に成り果てた今の地球に、同じことが果たして言えるのであろうか。私はただひたすら前に進む。干からびて砂山になった海の上を進む。
 目的は、と問われれば、それに明確な返答を口に出来るほど私の脳は正常な温度を保ってはいないわけであり、水実の中に詰まった水を頭にかぶり、一度このだらけきった思考をリセットしたいのだが、有限であったのでやめた。
 睡眠欲は驚くほど無いに等しい。食欲は砂を食えば補える。ただ、日影欲というのだろうか、太陽から逃れたいという欲望は、時間と共に沸々と沸き上がっている。
 のろ、のろと前に進んでいた私の体は、目の前に広がる水実の山に驚きのたまわり、一瞬視界が真っ暗になり、私は何度も目を擦り、今まで幾度となく見て来た蜃気楼とは違うことを確認した。そして私は走った。
蜃気楼ではないことを確信した。水実の山に人間が一人立っていた。何も纏わぬ屈強な鍛え抜かれた肉体の男がが、私に自慢するかのように水実を幾つも袋にしまいこんでいた。
213以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:40:55.39 ID:NFrNygmd0
 男は私の姿を見るなり、「やあ、アンタも水実当番かい?」と声をかけてきたが、
長旅で言葉を発することがなくなった私の口からは、「あ、あ」という言葉しか出ず、屈強な男は困った顔をした。
「……旅をしている。聞くが、あと何キロだろうか?」
 何度か吃り、ようやく出た言葉に、屈強な男は同じ困った顔で私を見た。
「何があと何キロだって?」
「いや、いい。手間を取らせてすまない」
 私は水実を幾つか拾い、その場を後にした。地球が丸いなど、誰が言ったのだろう。
絶対的な確証はどこにもないはずだ。しかし、私は知っていた。地球が丸いということを知っていたが、それを心の中にしまい、顔を背けていた。
認めたくはなかった。あの人が言った「地上の果てで待っている」という言葉を肯定し納得し涙を流さないためには、
地球は丸くないと、思い聞かさねばならなかった。
 私は歩く。この命尽きるまで。




ほおおおおおおおおおおお
214以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:42:00.90 ID:NFrNygmd0
よし、あいわかった。45分に60枚ほど投下する。
215以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:46:56.71 ID:8wjZQfHQ0
スマソ、いまいち状況が把握できないw
216以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:47:28.44 ID:NFrNygmd0
タイトル:車人
ジャンル:ワゴンでみんなで旅をしよう♪


 何人にも縛られないこの世界。俺の最後の財産であるワンボックスカーで、どこだかわからない道をただひたすら走っている。窓から入ってくる風がたまらなく気持ちいい。人の住む気配もない。山と草むらが広がっている。
買ってからもう何年も経っていてボロボロになっているが、そんな事気にしなくていい。女の目を気にして、ムリにかっこいい車を走らせなくてもいい。
 俺は年をとったのかもしれない。
 信号待ちの間に、ポケットをさぐる。財布の中には、免許証と万札が一枚。そして、煙草。まだ十本はある。俺は一本取り出すと、ライターで火をつけた。自然の香りと煙が肺に染み渡る。吐き出し、また煙を吸い込み、それを何回か繰り返した後、俺は窓から吸殻を投げ捨てた。
ポイ捨てをしようが、助手席でそれを注意する者もいない。独りだ。この車の中こそ、俺の家。俺の国。
 運転席と助手席以外は取り外したワンボックスは、俺の住処となっていた。ガスや水道はさすがに無いが、人が住めるようにはしている。布団や食器はもちろん、テレビ――といっても車に付ける事を目的とした小さな液晶だが――まで備え付けている。
217以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:48:24.73 ID:NFrNygmd0
>>215
なんか、意味が、ありそうな、なさそうな、みたいなwww
上は、少ない情報で描くことが出来るかを試した。
下は、うざいほど描写がしたくて、一応小さなストーリーをつけてみた。
218以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:49:28.91 ID:NFrNygmd0
 ここまでするのにどれほど時間がかかったか。いや、住む準備はすぐにできた。しかし、決心が付かなかった。今まで生きてきた全てを捨て去り、また一からやり直す。
正直、怖かった。金をかけて手に入れた学歴、何年も勤め上げて、それなりの地位を得た会社や、友人、恋人、そして家族。
 しかし、俺は一人を選んだ。よくある家出などではない。俺は、この車から、もう一度人生をやりなおす。それぐらいの覚悟はあった上で車を選んだのだ。
 行き先など無い。いや、まだ今は無い。まだこの状況を味わっていたい。それが済んでから、何がしたいか、だ。
 道路には誰もいない。俺だけの道だ。
「な、何だ」
 自分に浸っている隙も与えてはくれないのか。
俺は、急ブレーキをかけた。体が前のめりになる。後ろにおいてある家財道具が、音を立てて前に移動した。
割れたり壊れたりはしていない。しかし……。
「危ないぞ!」
 俺の車の一メートルほど先に、女が一人立っていた。年齢は結構行っているだろう。20代前半か、それぐらい。
大きな鞄を一つ持って、道路の真ん中に突っ立っていた。それも、パジャマを着たまま、裸足で。普通じゃない。
「そんなところで何してるんだ?」
 という俺の質問にも答えようとはしない。
「……どこまで行きますか?」
 女が口を開いた。しかし、こちらを見ようとはしない。下をうつむいたまま。
「決まっては無い。適当にぶらつくだけさ」
「乗せてください」
「どこまで行くんだ?」
 女を乗せることに抵抗は無かった。確かに怪しいが、それが逆にそそられる。別に、やましい気持ちで乗せるわけじゃない。
単純に、何か面白そうな事がありそう。そして、女の姿がなぜか俺自身とかぶったんだ。
「目的はありません。ただ、ここじゃない別の世界に行きたいんです」
「……後ろ、シートは無いぞ? 布団の上で座るだけだが、それでもいいのか?」
「構いません。遠くに行ければ、それでいい」
「わかった。乗れ」
「ありがとうございます」
219以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:51:35.08 ID:NFrNygmd0
 午後七時。いくら季節が暖かいとはいえ、そろそろ外も暗くなり始めてきた。
 そういえば、何も食べてない。紗江もそうだろうか。
「飯でも食べに行くか?」
「あ、はい……。作らないんですか?」
「俺は飯は作らない主義なんだ」
 紗江が、かすかに微笑んだ。はじめてみる紗江の明るい表情に、俺は顔を背けた。高鳴る鼓動を抑え、俺は車を止めた。
「じゃあ、私が作ります。道具はありますか?」
「一応、カセットコンロや鍋、フライパン、包丁など、必要最低限のものはそろっている。このダンボールに入っているよ」
 俺は、助手席の足元に置いていたダンボールを指差した。
「いいですね。具材は無いんですか?」
「米しか無いな。買いに行こうか?」
「そうですね。近くにスーパーがあったと思います。そこで停めてください。私が買ってきます。適当に作りますけどいいですか?」
「俺も金を出すよ」
「乗せてもらったお礼です」
「……そうか。ああ、靴はそこにあるのを適当に使ってくれ」
 紗江が裸足というのを忘れていた俺は、後ろにしまっておいたサンダルを指差した。紗江は一度だけ頭を下げ、そのサンダルを履いた。
 しばらくして、スーパーが見えた。駐車場に車を停める。紗江がスーパーの中に入っていくのを見届けてから、俺は久しぶりに仮眠した。
220以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:52:45.36 ID:NFrNygmd0
 いくら時間が経っただろう。いや、そんなに経ってはいないはずだ。紗江が帰ってきたのだろうか? 後ろから物音が聞こえる。
「紗江か?」
 俺は目をつぶったまま物音に声をかけた。しかし、返答は無い。まさか……。
 飛び起きた目線の先には、高校の制服を着た女が、車の中を漁っていた。
「なっ、何だ?」
「あ、いや、車間違えただけ」
 髪の毛を金色に染め、小汚い制服を着た女が、驚きを隠せない表情で俺を見た。
「いや、まぁ、別にいいけど。金目のものは何も無いから」
 俺はまた眠りに付いた。いや、付こうと目を閉じた。
「おじさん、車で生活してるんでしょ?」
「あぁ……?」
「リエ家出したんだよね。乗せてくんないかなぁ? 駅まででいいから」
 何でこうも邪魔をする奴ばかり俺のまわりに寄ってくるんだ……。車人になる前からそうだった。家でも、会社でも、絶対に俺の邪魔をする奴がいた。
俺はそれを排除しようとせずに、自分から退いた。結果、俺は車人になった。
 しかし、これが自分なんだと、諦めるしか無いのかもしれない。当分はこうなのだろう。
「駅までだな? わかった。もう一人乗るから待っててくれ」
「サンキュー! おじさん!」
 リエが嬉しさを表現するために飛び跳ねた瞬間、極限まで絞ったミニスカートから、下着が見えた。俺は得した気分で紗江の帰りを待った。
「え? だ、誰?」
221以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:53:29.20 ID:NFrNygmd0

 俺は、また女の叫び声で眠りから覚まされる事になったようだ。紗江が、スーパーの袋を二つ抱えてドアの前に立っていた。大きく開けた目の先には、制服女リエが眠っていた。
いい年した男の前で、よく無防備に眠れるな……? 能天気というか、怖いもの知らずというか。
「家出少女だとさ。駅まで乗せてくれっていうから、乗せた」
「そ、そうですか。わかりました。ところで、どこでご飯作りましょうか?」
「公園とかでいいんじゃないか? 今の時間だと人少ないし、水道あるし」
「わかりました。その道を右に曲がったら、大きな公園がありますので、そこで食べましょう」
「了解」
 俺は、言われたとおりに右を曲がった。
 今気づいた。
 俺は、なぜ車人になったんだ? 自由が欲しかったからじゃないのか? それが今じゃ女二人の言うとおりに車を走らせる、ただのタクシーの運転手と何ら変わらない。
まぁ、この二人が降りたら俺は自由だ。また自由に車を走らせる車人になる。それまでの辛抱、か。
222以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:55:13.39 ID:NFrNygmd0
 公園に着いた。いや、公園と呼べるのだろうか。子供や子連れの家族が遊ぶために作られたそれは、その利用価値を失っていた。ブルーシートが所狭しと広がっている。中に居るのは、そう。
楽しく遊べるように作ったはずなんだ。それが今や、浮浪者の縄張りと化していた。最悪だな。
 俺は、煙草に火をつけながら二人を見た。リエは起きていた。浮浪者がそんなに珍しいのか、興味津々の目で覗いている。
「ここで飯作ったら、集られそうだぞ? 大丈夫か?」
「おじさん」
「ん?」
「いや、やっぱりいいや。早くご飯つくろ。おなかすいた」
 お前も食うのか、と言おうとして辞めた。大した問題じゃない。大きくならなきゃな。
 紗江の、さすが人妻と言わんばかりのてきぱきとした指示にて、三人分の料理が完成した。紗江が指示をしながら調理し、俺が雑用をこなし、リエは暇そうにあたりをうろつく。
 そう時間も経たないうちに、米と肉入り野菜炒めが出来上がった。料理を後部座席に置き、その周りに俺たちが座る形となった。
「紗江すごいね! これだけの具材でちゃんとしたの作って」
 リエが、尊敬のまなざしで紗江を見る。紗江は照れくさそうに笑いながら、料理を指差した。
「味は美味しいかわからないけどね。どうぞ、召し上がってください」
 正直、美味かった。毎日こんな料理を食べれる紗江の旦那が羨ましく思った。
 しかし、その気持ちを顔には出さず、黙々と料理を食べた。リエは、美味しい美味しいと騒いでいたが、俺は静かに食べた。
 その様子を心配した紗江が、美味しいですかと聞いてきたが、俺は適当に返事をして運転席に戻った。必要以上に人と接するのが恐ろしい? いや、そうじゃない。多分そうじゃないはずだ。
223以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:57:11.22 ID:NFrNygmd0
 食べ終わった食器を紗江とリエが片付けている。俺は、運転席に座って外を見ながら煙草を吸っている。浮浪者達は、寝ているのかおきているのかわからないが、沈黙を保っていた。
ブルーシートの間から、こっちを覗く目が見えるが、気にしない。関係ない。俺は、お前達とは違う。
 夕日が沈んでいく。車人としての俺の始まりの一日が、終わっていく。そして、また明日が始まるのだ。
 辺りが暗くなるにつれ、浮浪者達は活動を始めていく。俺たちは、ただ呆然と、車の中で、浮浪者を眺めていた。
「車さんは、これからどうするんですか?」
 紗江が、浮浪者を見るのをやめ、俺に話しかけてきた。俺は煙草を取りながら、紗江の方を向く。
「私は……。これからどうすればいいかわかりません」
 俺は、「俺もだ」と一言声を出すと、目を閉じた。
224以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:57:51.72 ID:NFrNygmd0
 朝まで目を覚ます事は無かった。いや、ずっとこのまま眠りに付いていたかった。目を開ければ、全てが終わりそうな気がして仕方が無かった。
 いや、始まっても居ないのに、終わる事を悲観している自分自身、どうなんろう。これが、俺がわざわざ全てを捨ててまで手に入れたかったものなのだろうか。
「車さん、そろそろ出ましょう」
 俺は考えるのをやめ、目を開けた。紗江とリエが、暇そうに俺を見つめている。俺は空のペットボトルに水を入れ、車に乗り込んだ。
「行くか」
 車のエンジンをかけ、俺たちは公園を後にした。
 景色がさまざまに変わり、俺たちを歓迎してくれる。これからどうなるのか、そんなことは分からない。読んだ事の無い小説を開いたときのような期待感や孤独感、それを味わえる。
 俺が景色に酔って、よそ見していたとき、リエと紗江の叫び声が、車の中を木霊した。そしてすぐ急ブレーキ。車の前に、男が飛び出してきた。ぎりぎりのところで止まったからいいものの、少しおくれていれば、轢いていた。
俺の全身から、滝のように汗が流れる。紗江とリエも、目を大きく開け、前を凝視している。
「ひ、轢いてないよね……?」
「大丈夫だと思う……。車さん、見てきてください」
 俺はそれに従い、外に出る。少し遅れていれば轢いていた、と思ったが、それも杞憂なのかもしれない。轢いている可能性だってある。もし轢いていたとしたら、終わりだ。
 男は、車の前でうずくまっていた。ガタガタと体を震わせて、下をむいている。轢いてはないようだな。
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 07:59:59.70 ID:NFrNygmd0
「大丈夫か?」
 男は何も答えない。すぐして紗江とリエも、車から降りて男の元へ寄って来た。
「大丈夫ですか?」
「怪我してるの?」
「……何で……」
「は?」
 男は立ち上がり、俺を睨みつける。40歳くらいだろうか、背は俺と同じ。スーツを着て、黒ブチメガネをかけている。
両手で仕事用の鞄を離さぬようしっかりと持ち、顔は、そう。ずっと俺を睨んでいる。
「何で殺してくれなかったんだ!」
 俺は、叫び暴れまわる男の頬を殴る。何回も何回も。紗江とリエの静止も聴かず、ただ殴り続けた。
次第に暴れるのをやめた男は、がっくりとうな垂れながら俺の車を見つめた。
「……すみません……」
「ああ。病院まで連れて行くから、とりあえず車に乗ってくれ」
「はい……」
226以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:01:31.56 ID:NFrNygmd0
 何で俺の周りには、こう面倒くさい人間ばっかり集まってくるのだろうか。男は、腫らした顔を紗江に手当てしてもらいながら、外を眺めている。
リエは、男をじろじろと見つめている。
「そういえば、自己紹介がまだでした。はい」
 男は、鞄の中から名刺を三枚取り出し、俺たちによこした。証券会社か。名前ぐらいは知っている企業。結構規模のでかい会社だな。名前は近藤。
 名刺をしまいこみ、俺たちも自己紹介を適当にする。
「車人さんですか……珍しい名前ですね」
「まあ、な」
「え、本名だったの?」
「てっきり偽名だと思っていました」
「ん? 本名は捨てたからな。俺の今までの人生は、全てゴミの日に出してきた」
 ちょっと子供臭かったかもしれない。しかし三人は突っ込まず、俺の顔を少しだけ見て、目をそらした。
「僕も、今までの人生を捨てて、また一からやり直したいですよ……」
「何でだ? いい企業に就職してるし、結婚もしてるんだろう?」
「先週の頭に解雇されまして……。さっきも、あなたの車にぶつかって、そのまま死んでしまおうかと思っていました」
 もう暴れる事は無さそうだ。男は、俯きながらぼそぼそと言葉を出していく。
227以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:03:25.52 ID:NFrNygmd0
「子供も小学校へ行きますので、お金がかかるんですよ。まだ解雇された事は言っていません。幸い高い保険に入っているため、そのまま僕が死ねば、嫁と子供二人にお金が行く、という事になっています」
「保険入らないぞ、自殺だったら。多分だけど」
「自殺じゃ保険って入らないんじゃ?」
 紗江と俺は、同じ言葉を近藤にぶつけた。近藤は、今まで知らなかったと言わんばかりの形相で、俺たち二人を交互に見渡した。
「え、そ、そうなんですか?」
「ああ。だから、自殺ってばれないように自殺しなきゃいけない」
 少しの沈黙の後、近藤が口を開いた。
「いや、実は、知ってたんですよ……。自殺をしても、金は入らない、無駄な行為だって」
 近藤は紗江が差し出した水を一口飲み、また話始める。
「自分の周りの人間に、迷惑をかけたまま死にたかった……。希望ですが。死にたくはありません。死ぬ勇気もありません。でも、ちょっとした僕の最後の抵抗、という奴でしょうか……」
「リストラされたぐらいで、死にたいって思うの? それも、何で、みんなに迷惑をかけて死のうと思うの?」
 リエが、少し怒った表情で、近藤を見る。
「今まで僕は、人に従う人生しか送ってきませんでした。結婚、就職、そして生きる道まで。家庭には、金を運ぶだけの存在、職場では便利な奴という存在……。最初は、それが僕の人生だと。諦めってわけじゃないですが、そういう人生もありだと思っていました。
しかし、どこかで歯車が狂いだすように、僕の人生、人生のとらえかたが狂ったんだと思います」
 近藤は、少し興奮した表情で話を続ける。
「会社に尽くしてきたんですが……ね」
「近藤さんはこれからどうするんですか?」
 重くなった空気を元に戻そうと、紗江が少し明るい声で近藤に話しかけた。
228以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:08:22.43 ID:NFrNygmd0
「わかりません……。死場を探すのか、元の生活に戻るのか……」
 やはりこういう流れになるのか……。
「じゃあ、決まるまでここにいたらいいじゃん。いいよね、おじさん」
 この車は、どうやら俺だけの世界には当分ならないらしい。しばらくは、問題がある人間を乗せて走る車になるようだ。俺だって問題のある人間。
神父でもないのに、そういう人間を導いたり助言する立場にはなれない。だが、どうせ乗せる事になるんだろうな。
「決定! だんだん人が増えていくねぇ」
 リエは、俺の返事を待たずに、勝手に決定した。
「よろしくお願いします、近藤さん」
 当然ながら、紗江もリエに賛同する。近藤は、困った表情を顔に浮かべながら、俺の方を向き、
「車人さん、いいんでしょうか……?」
「……いいも悪いも、この二人はもうその気らしい。降りたければ勝手に降りてくれ」
「ありがとうございます。ああ、お金のことは心配しないで下さい。持って来てますので」
 と言い、近藤は財布を見せてきた。死ぬ気だった人間が、何故財布を持ってくるのか、俺にはわからないが、結構な厚みはあるようだ。
「じゃあ、ガソリン入れて出発しよう!」
 俺は、サイドブレーキを引き、車を出した。もう人が乗れるスペースは無いぞ……。でも、また増えるんだろうな、
などと、多量の絶望と少量の希望を胸に秘めながら、俺は車を飛ばした。
229以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:09:05.73 ID:NFrNygmd0
 少し車を走らせていくうちに、周りの景色が変わっていく。山畑に囲まれていた道が、いつの間にか人の手によって建てられた山畑に変わっていった。高いビルや住宅街、そして店が立ち並ぶ。
眠らない街に入ったようだ。紗江やリエ、そして近藤も、景色を愉しんでいる。俺も煙草をふかしながら、周りを見つつ運転していた。
「おじさん、何かあそこでお祭してるみたいだよ」
 街中を走っている途中、リエが窓を叩きながら少し浮かれた声を出した。
「あ、本当ですね。春の祭でしょうか。広場全体を使っているみたいですね」
「車さん、行ってみましょうよ。ずっと車の中だし、ちょっと気晴らしになるかもしれませんよ」
 近藤と紗江が、興味眼で俺を見てくる。リエは、もう行く気なんだろう。祭だけを見ている。もう、行くという選択肢しか無いじゃないか。
「そうだな。ちょっと行ってみるか。じゃあ、今十一時だから、一時間後に車のところに戻ろう。それでいいか?」
 俺は、三人からOKという返事を貰ったと同時に、祭広場の近くにあった有料駐車場に車を停め、外へ出た。
 中に閉じこもる。確かにそれは、至高の事だが、こうやって外へ出てみると、それはそれでいいものだなんて気づいた。暖かい日差し、新鮮な――と言っても街のだが――空気、そしてざわめきながら歩みを急ぐ人々。
毎日毎日時間という概念に追われ、あくせくと動く。のんびりしているのは、俺たちや学生、年寄り、そして浮浪者ぐらいだろう。
230以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:11:25.12 ID:NFrNygmd0
 人ごみを掻き分けるように歩いていると、すぐに祭の広場が見えた。昼間だというのに、広場は人で溢れかえっている。
露店も所狭しと開いている。既にリエと紗江の姿は無い。もう広場に入ったのだろう。
俺は、入り口付近で腰掛けている近藤の隣に行った。煙草に火をつける。
「近藤は行かないのか? まぁ、そんな年齢でも無いか」
「そうですね。私は、この辺りの店で適当に食事してます。朝から何も食べてないもので」
 苦笑いを浮かべながら立ち上がった近藤は、すぐそこに開いている露店でたこ焼きを買った。そして俺の隣に腰をかける。焼きたてなのだろう。湯気がたこ焼きから立ち上っている。
美味そうにたこ焼きを食べる近藤を見ていると、俺の腹が鳴った。
「そういえば、俺たちも朝から何も食べてないな。祭見終わったら、昼飯にするか」
「それでは、女性二人が戻ってくるまでここでゆっくりしておきましょうか」
「ああ」

 その頃リエと紗江は、人ごみを掻き分けながら、露店を眺めていた。ヨーヨーやポテト、綿菓子、お面などを両手に持ちながら、次はこれ、などと言っている。
「祭なんか、何年振りだろう……」
「紗江、子供と行ったりしなかったの?」
 まわりには、親子で祭りを楽しんでいる者が絶えず歩いている。紗江は、祭りに参加しながらも、そういう子連れが気になるのか、時折そちらに目を移している。やはり、母として気になるのだろうか。
「そういえば……行ってなかったと思う」
「旦那さんってどんな人?」
 俯く紗江とは対照的に、リエは明るい顔で綿菓子を食べている。会話をしていようが食事をしていようが、目はよさそうな露店を探している。
「うーん、そうだね。家族サービスが嫌い、浮気性、子供嫌い、ギャンブル狂、亭主関白……って感じかな?」
 リエが、驚きのあまり右手に持っていたポテトを落とした。しかし今はそれを気にしている時ではない。
「何でそんな奴と結婚したの?」
「……何てね、冗談よ冗談」
 紗江が、どこか元気の無い表情で、リエに笑いかけた。
「えぇ、ポテト返してよぉ」
「フフ……さあ次行きましょう」
「も、もう!」

231以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:12:17.54 ID:NFrNygmd0
 いくらなんでも遅すぎる。もう時計は十二時を回っている。俺たちはすることも無く、ただ腰掛けて煙草をすっていた。
「二人、どうしたんでしょうね。何かあったんでしょうか」
 俺たちの腹の虫が鳴った。今で何回目かもわらない。煙草ももう無くなった。
「わからんが、とにかく煙草を買いに行きたい。あと飯を食べたい」
「私もです。でも何かいいですね」
「ん?」
「こうやって、普通に生活していたら出会わない人たちが集まって。自由に生きている、そんな感じがします」
「俺は、一人でやる気だったんだがな。まぁ、これも悪くは無い。楽しいよ」
「そうだったんですか……。すみません」
「いや、いい」
「今後どうするか、がわかりません」
 紗江もそんなこと言っていたな。俺だってそうだ。リエもだろう。そういう奴の集まりなんだ。
だけど、先の事なんて考えていたら、何もできない。今できることを、一つ一つしていくことが大切なんじゃないか。
今、俺ができること。それは、三人をそれぞれの居場所に戻すこと。そして、俺一人で車に乗ること。
「おじさん、近藤さん」
「遅れてすみません」
 そんなことを考えている内に、リエと紗江が戻ってきた。両手いっぱいに食べ物やおもちゃをぶら下げている。
「なんだか、祭りを満喫してきたみたいだな」
「そういうおじさんは、近藤さんと世間話?」
 リエが、持ち物を見せびらかすように両手を広げて見せた。かなりの量だな。わたがし、お面、金魚、ヨーヨーなど。
232以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:17:14.60 ID:NFrNygmd0
「まあ、な。のんびりしたい時もあるさ」
「常にのんびりじゃないですか。煙草、足元にたくさん落ちてますよ」
「ん? そうか? まあいいじゃないか。飯食べに行こう。俺も近藤も腹減って腹減って」
「あ、ごめんなさい、近藤さん」
 リエが、俺ではなく近藤に謝罪した。俺はあきらめて、車の方へ歩き出した。続いて、三人もそれについてくる。
「じゃあさ、ご飯食べたらショッピングに行こうよ。欲しい服があったんだ」
「いいけど、リエ、金あるのか?」
「四、五万ぐらいしかないけ――あ」
「リエちゃん、結構持ってるんだねぇ。私より持ってるんじゃないかな」
 リエがあわてて口を閉ざす。近藤はのん気なものだ。それには気にせず、自分の財布を手に取り、中身を数えている。少なかったのだろう、少し落ち込んだ表情で歩き出した。
「リエ、何でそんなに金持ってるんだ?」
「内緒。それより、はやくご飯いこう?」
 俺たちは、リエに連れられるようにして車へ急いだ。俺が運転席、三人は後ろの布団の上で座り込む。窓にフィルム張っておいてよかったな。
傍から見れば、犯罪の臭いしか無いじゃないか。
歳食った男二人と若い女二人。それも片方は女子高生だ。
「それじゃあどこ行きます?」
「リエは、ファミレスでオッケー」
「私もファミレスでいいです。近藤さんは?」
「僕もそこでいいよ」
「決まりだな。ファミレスに行くぞ。その前にガソリン入れに行く」
「りょーかいー」
233以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:19:06.34 ID:8wjZQfHQ0
けっこう楽しい内容ww
234以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:24:02.83 ID:NFrNygmd0
>>233
今までとは一味違うぜwwww
235以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:24:39.40 ID:8wjZQfHQ0
まさかのどんでん返し?ww


これは無理やり終わらせないでくれww
236以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:25:20.34 ID:NFrNygmd0
>>235
大丈夫だw真面目に終わらせるぞww
237以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:25:59.00 ID:NFrNygmd0
 手近なガソリンスタンドで、満タンまでガソリンを入れた俺たちは、同じく手近なファミレスへと寄った。何てことも無い、その辺にいくらでもありそうなファミレス。ちょうど昼飯時だからか、客であふれかえっている。駐車場に車を止め、俺たちは中へと入った。
 入るなり、ウエイトレスの声が聞こえた。俺たちは案内されるまま後ろについていく。端の席に座った。
「今の時間は、子供連れが多いですね」
 近藤が、まわりを見渡しながら、誰に話しかけるでもなくつぶやいた。同時にウエイトレスが箸やフォークを持ってきた。水はあちらにあります、というと、すぐ奥に帰っていった。
「何食べよっかなぁ」
 リエは一人メニューを真剣に見つめ、紗江はまわりを気にし、近藤は一人水を取りに行く。俺はそれを静かに眺めていた。煙草を一本取り、火をつける。最後の煙草。俺は紗江がとある席に見入っているのに気づき、それを目だけで追った。
特に何の変哲も無い家族連れを、紗江はじっと見ている。
両親と子供が二人。両親は俺と同じぐらいの年齢だろう。
飯を食らいながら子供に手を焼いている。子供は小学校高学年ぐらいが一人と低学年が一人。どちらも男。飯を食い終わったのか、単に興味がなくなったのかはわからないが、低学年の男の子は席を立ったり座ったりと忙しい。
高学年の男の子の方は両親と話をしながら飯を食っている。リエに文句を言われ、俺は目をメニューに向けた。
 少したって注文していた商品が席に運ばれてきた。紗江はスパゲティとサラダを、リエはハンバーグ、近藤は定食を、それぞれほおばっている。
紗江はリエの話に適当に相槌を打ちながら、あの家族連れが気になるのか目をやっている。近藤は静かに飯を食っている。俺は目の前に出された丼をほおばりながら、三人を眺めていた。
238以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:26:27.61 ID:NFrNygmd0
「次はショッピングだよね!」
「私はどこでもいいよ。車人さんにまかせます」
 リエと近藤はいつの間にか笑って話せる関係にまでなったようだ。父と娘以上に年齢は離れているが、それが逆にいいのかもしれない。
俺はポケットに手を伸ばし、ライターを取り出した。ああ、そういえば煙草さっき切らしたんだったな。
「ちょっとリエ、入口のところで煙草買ってきてくれないか」
 俺は三百円をリエの前に出した。それを手に取ったリエは、頬を膨らまし、俺を睨みながら席を立った。
「何か完全に三人のペースに飲まれてるな。ショッピングって」
「ハハハ。すみません。でもこういう時って男は弱いもんです」
 俺は、一人笑っている近藤に適当に相槌を打ち、紗江を見た。もう家族を見ることは辞めたようだが、暗い表情は変わらない。
「紗江、次ショッピングでいいか?」
「ん? ああ、いいですよ。リエちゃんと服とか見たいですし」
 暗い表情のまま無理やり笑顔を作り、水を手に取った。
「煙草買ってきましたよぉ!」
 リエがすねた表情で俺に煙草を渡してきた。俺がいつも吸うやつとは違う銘柄だが、ここは黙っていたほうがよさそうだな。俺は礼を言い、煙草に火をつけた。
 一人になるためには、ある程度この三人に合わせなければならない。それは分かっているけど、三十前半の俺が、ショッピング、か。
俺が欲しいのは服でも靴でもなく、銘柄の合った煙草と一人の時間だよ。

239以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:31:40.59 ID:NFrNygmd0
 飯を食い終わった俺たちは、早速次の目的地であるデパートに車を走らせた。
外の景色は相変わらず俺を魅了し、ブレーキを踏むタイミングを狂わせる。後ろの三人も相変わらず雑談に必死になっている。
たわいも無い景色、たわいも無い会話。しかしそれが、俺の心を潤してくれる。そんな気がした。窓を開ければ心地よい風が吹いてくる。
それにせかされるように、俺はアクセルを強く踏んだ。煙草に火をつけ、風と煙を一緒に吸い込むように、肺に流し込んだ。
 俺は今から行くデパートに行ったことは無かった。こんなに大きいとは思っていなかった。無駄に広い駐車場は俺を迷わせ、
後ろの三人の文句が俺の耳に飛び込んでくる。休日というだけでなぜこんなに人が来るのだろう。することが無いのか? 駐車場、どこをうろついてももう車が先に止まっている。
同じようにうろつく車と接触しそうになる度、苛々が募ってゆく。我慢できずに煙草に火をつけた瞬間、丁度出て行く車を見つけ、何とか駐車することができた。エンジンを切り、外へ出る。
俺の家の何十、何百倍以上に広いであろうデパートを見上げる。田舎者に何でもある、と思い込ませるには十分な広さだった。休日に一杯になるのがその理由だろう。他に行くところが無い。
煙を吐き出しながら、車の前ではしゃぐ紗江とリエを見た。近藤は俺と同じくデパートを見上げている。思い出でもあったのかもしれない。家族水入らずの休日にデパートに行く。至って普通。
紗江もリエも同じだろう。俺だけが違う。デパートに来た、というだけで心臓の鼓動はとどまることを知らない。俺だって田舎者か……。
240以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:32:37.77 ID:NFrNygmd0
 煙草を地面に落とし、デパートの入り口へと歩いた。三人も揃うように、俺の後についてくる。
「なんかおじさんつまんなさそうな顔してない?」
 リエが、俺の隣に走りより、顔を覗きながら言った。
「ん? いや、こんな大きな店に来たことが無かったから、ちょっと緊張してるだけだ」
「おじさん結構イナカモンなんだ」
 リエが笑いながら、俺の隣をスキップしだした。
「俺は一言も都会人だなんて言ってないぞ。ただ、あんまり娯楽ってのを知らないだけだ」
 俺が少しムッとしながらぶっきらぼうに答えるが、リエは何も感じないようだ。スキップを止めず、空を眺めながら、
「だから性格が暗いんだねー」と一言だけ言った。
 俺は暗いのか? わらからない。確かに、あまり言葉を出すほうでは無い。友人と呼べる人間も少なかったかもしれない。
だから、今の状況が少しだけ楽しいと感じるのか? 俺よりも何歳も年上の男と、若い女と女子高生と一緒に行動することが楽しい?
「リエはなんか馬鹿な猿って感じがするけどな」
 俺は少しだけ反撃した。紗江と近藤が後ろで少しだけ笑った。俺も同じように笑った。リエは頬を膨らまし、怒った表情をしながら、スキップを止める事は無かった
241以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:38:31.30 ID:NFrNygmd0
 デパートの中は、当然のように人であふれかえっていた。この状況で、ショッピングとやらを楽しめるのか?
 紗江とリエは相変わらずはしゃいだままだが、人の波を避けるように移動するのは俺は好きではない。波に乗りながら、流されるように商品を見てゆく、というのが本当にショッピングといえるのだろうか
。紗江とリエの表情を見る限り、これはショッピングなのだろう。
 一階は食品売り場しか無いので、俺たちはエレベーターを探し二階に移動した。二階は服や靴など、ファッション関係の商品が大量においてある。いろんな店が立ち並び、人々は服をあれこれと眺め、手に取っている。
紗江とリエも同じように、洋楽が大ボリュームで鳴り響く一つの女性服の店へ入っていった。近藤は近藤で靴の専門店へと足を急がせる。俺の行き場は無い。ファッションなんてどうでもいい。服に何千何万も出すぐらいなら、その金で飯を買ったほうが生きる上では重要だろう。
年をとったからかもしれない。街を歩く若者のファッションには理解不能。シンプルイズベストじゃないか。
 俺は辺りを見回すのを止め、エレベーターの近くにある自動販売機へ移動した。
コーヒーと俺の吸う銘柄の煙草を買い、小さなベンチに腰をかける。
「よっこらしょ」
 煙草を手に取った所で、ここが禁煙なのだと気づいた。することが無い。しかし、逆にそれが楽しい。
こんなにのんびりすることは今まで無かったのだから。回転寿司のように機械的に動く人を眺めながら、俺はゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。
人の波にあえて逆らうヤンキー、オバチャンファッションに身を固め、両手を大きな買い物袋でふさがった状態で歩く中年女性、自由に動く子供に手を焼く母親、子供が離れぬようにと肩車をしてあるく父親。
俺だけ、ベンチに座りコーヒーを飲んでいる。
 暫くすると、袋を片手に持ち、満足げな顔をした近藤がベンチに近づいてきた。
「いいのあったのかい?」
242以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:39:23.97 ID:NFrNygmd0
「ええ、一つだけ買いました」
 そう言いながら、買い物袋を少しだけ上げた。俺は頷き、コーヒーを飲み干した。
「煙草でも吸いに行かないか?」
「外に行きませんか?」
 同じ事を考えていたようだ。俺たちは少しだけ笑いあい、二階の外へ続く扉へ行った。
 外も相変わらず人でごった返していた。煙草を片手に持つ男たちの合間を抜け、出来るだけ人の少ない場所へと移動する。壁に背を傾け、煙草を手に取った。
雲ひとつ無い晴天を汚すかのように煙を吐いた。近藤も同じように煙草に火をつけ、一度だけ煙を吐いた。
「もう死ぬことは考えてないのかい?」
 近藤は少しだけびっくりした表情を俺に見せてきた。
「悪い」
「いえ。そうですね。死ぬ、か。もう私は死んでいるようなもんですよ。全てから逃げ、自分勝手に生きている。自分は死んだのだと思い込めば、妻や子供は心配してくれているのだろうか、
支払いはどうしているのか、生活できているのか、何て考えなくて済む。」
 俺は、「それは逃げているだけじゃないか」という言葉を飲み込んだ。俺が言える筋じゃない。近藤はお構いなしに話を続ける。
「聞きましたよ、紗江さんが車に乗った理由。私と似ているせいか、紗江さんが今何を考えているかがわかります」
「紗江はもうすぐここから抜ける」
 近藤が少し微笑みながら煙草の灰を地面に落とした。俺はまだ半分も吸い終わっていない煙草を地面に落とし、足で踏み潰した。
243以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:40:07.44 ID:NFrNygmd0
「なんだか寂しいですね」
「ああ。慣れ、なのかもしれないな。俺はもう自分から降りてくれなんて思わない。三人が降りたいときに降りればいい。一人になるのに怯えているだけかもしれない」
「私だってそうです。家が怖い、会社が怖い」
「何でこうも俺の周りには、問題のある人間ばっかり近づいて来るんだ」
 俺は、自分自身に言い聞かせるように言葉を吐き出した。近藤は笑いながら、「金のある所に金はやってくる、それと同じことですよ」と言い、
煙草を近くにある灰皿に落とした。
「あ! 外に行くなら外に行くって何で言ってくれないの! リエたちほったらかして勝手に言ったと思ったじゃん!」
 見つけたリエが、買い物袋を両手に抱えながら俺たちの所へ走り寄った。その後に、同じように両手のふさがった紗江がゆっくりと歩いてくる。
リエは購入した服に着替えていた。
さすがに学生服じゃ目立つからだろう。買ったばかりのシワの無い服に身を固めていた。
「いやぁ、すみません。あ、荷物持ちますよ」
 一瞬にして顔つきを明るく変えた近藤は、頭を下げながらリエの荷物を持った。紗江が断るのを聞いてか聞かずか、紗江の荷物も軽く持ち上げる。
「もうショッピングは済んだようだな」
「ええ、結構買っちゃいました」
「リエもー」
「じゃ、行くか」
244以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:43:04.99 ID:NFrNygmd0
 俺はポケットにしまいこんでいた鍵を手に取り、駐車場へ歩いた。その後に、手が空き身軽になったリエがスキップしながらついてくる。紗江と近藤は、二人で荷物を持ちながら、ゆっくりと歩いてきた。
 車に乗り込めば、またうるさい時間がやってくる。今回は話すネタもあることから、今まで以上にうるさいだろう。リエは何を買ったのかを見せびらかしている。紗江もリエの勢いに負け、自分の袋から商品を取り出している。
近藤は微笑みながら、その話をただひたすら聞いていた。俺は車のエンジンをかけ、車を出した。
 リエは服を大量に買い込んだようだ。一枚一枚袋から取り出し、二人に見せびらかせている。最初の一、二枚は俺にも見せてきたが、俺の反応が面白くなかったのだろう、それ以降は紗江と近藤だけに見せていた。
紗江は自分のものも買っていたようだが、ほとんどが子供の服だった。
小さな服や玩具、ぬいぐるみ。紗江の表情は明るい。
「見せ合いっこもいいが、次はどこに行くか決めているのか?」
 という俺の言葉は、リエの耳には入っていないようだ。服を自分に合わせながら、似合っているかどうかを聞いている。
そんな事聞かれても、二人は「似合っている」としかいえないのを知ってか知らずか、満面の笑みでそれを繰り返している。俺は一度だけため息をつき、煙草を手に取った。
「あ、また煙草」
 口に咥え、いざ火をつけようかという時に、リエの手が俺の煙草をむしりとった。
「吸いすぎは癌になるって、知らないの」
 俺はまたため息をつき、仕返しにアクセルを踏み込んだ。前のめりになっていたリエの体が後ろに吹っ飛んだ。俺はバックミラーでわざとリエに笑いかけ、
服の下敷きになったリエも同じようにバックミラーに睨みを効かせてきた。紗江と近藤は、それを笑っていた。
245以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:45:47.33 ID:NFrNygmd0
 日は沈みかけている。それだけあのデパートに長居していたのだろう。腹が減ってきた。俺たちは近くにあった小さなスーパーでレトルトのご飯とカレーを買った。
そのまま駐車場で晩御飯を取ることになった。紗江と近藤がコンロを用意し、
俺は公園で入れたペットボトルの水を小さな鍋に入れる。
リエはただそれを見ているだけ。少ししてカレーが出来上がった。それを紙の皿に移した。昼にファミレスに行ったせいか、美味しいとは思わなかったが、とりあえず腹は一杯になった。
俺は煙草に火をつけ、外を眺める。星が少しだけ出ていた。星と周りに見える家々の明かりが、ひっそりと輝いている。
「ひ〜ま〜」
 満腹になって満足そうな顔でドアにもたれかかっているリエが、間抜けそうな声を出した。近藤は俺と同じように空を眺めている。紗江は、スーパーで貰って来たのか、街のパンフレットを見ている。何か気に入った所でもあったのだろう、所々にペンでチェックをしている。
「暇だし体が痒い!」
 俺はリエに助手席に置いてあったタオルを投げた。
「どっか水道で濡らして体でも拭けばいい」
「あ、じゃあ私が行ってきますよ」
 紗江がタオルを手に取り、ドアを開けた。
「そんな事ぐらいリエにさせればいいのに」
「ちょっと夜風に当たりたくなって」
「夜道気をつけてねぇ〜」
 紗江が外に出ると同時に、リエは車をあさりだした。
「暇つぶしになるもん無いの!」
「無いなぁ」
「さいころ発見!」
 さいころ? 自分で判断できないときに、さいころに委ねようと思って持ってきたやつだった。使わなかったので忘れていた。
246以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:49:05.04 ID:NFrNygmd0
「さいころなんかあっても暇つぶしにならないっつーの!」
「子供はもう寝る時間だぞ」
「なんか話しよう!」
 俺の話に耳もくれず、近藤の肩を叩いた。近藤は少しびっくりした表情でリエを見る。
「近藤さん、面白い話面白い話!」
「え……? はぁ、面白い話、ですか」
近藤は少し考え、口を開いた。
「リエさんの今までの暮らしを教えてくださいよ。私や紗江さんは教えたのに、リエさんはまだ聞いていないので」
「リエの話? そんなの面白くないよ。おじさん何か面白い話してよ」
 リエが、助けを求めるような顔で俺にせがんできた。俺は煙草を外に投げ、二人を見た。
「そうだなぁ。――昔々あるところに――」
「あぁもう!」
 助けた俺の話を遮断するように大きな声を出したリエは、観念したかのように横に転がった。
「紗江さん遅いですね」
「それもそうだな。リエ、暇なら紗江呼んで来い」
「それだったら最初からリエが行けばよかった。何でこんなに暇なの。何か話ししようよ話ししようよ」
 延々とリピートする文句を止めるように、近藤がドアからリエを出した。リエは観念し、がっくりとうなだれたまま駐車場を歩いていった。徐々にリエは見えなくなり、
俺たちはつかの間の静かな時間をゆっくりと過ごすことが出来た。
 特に会話は無い。
 ただただゆっくりとした時間をすごしている。リエを外に出した事に意味は無い。
たぶん紗江はもうここには戻ってこない。泣きそうな顔をしたリエを直視することができなかった。
近藤は、まるで実の娘をあやすかのようにうなだれた肩に手を置き、いろいろと言い聞かせていた。


――紗江編 終了――
247以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 08:49:39.67 ID:NFrNygmd0
この先が……無い!
プロット決めてただけで書いてなかったw
書いた気になってたwwwwwwwwwっうぇw
248以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 09:12:16.48 ID:8xERq+szO
続きが気になるww
249以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/04(日) 09:15:25.63 ID:NFrNygmd0
サンクス。
しかし、2006年に書き始めて、今ここだからいつ完結するやらwww
250以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
VIPでここまで伸びたのは始めてだ!
まあほぼ自分のレスだが!
下記子しすぎて規制になったのも初めてだ!
みんな差君クス、とくに>>248サンクス。楽しかった。
それでは僕は落ちる。12時にさらしてくれ、読むぜ
じゃあな! あばよ!