「ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです!」

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どこまでもひたむきで、真っ直ぐで、目の奥に強さを秘めた瞳を輝かせる彼女。
その瞳に見つめられると、僕は心の底にある淡い気持ちを再認識させられてしまう…。
あぁ、初めて会った時から、彼女のこの瞳に惹かれていたのだ、と。
そして彼女がそうしたように、僕も心の中で決意をあらたにした。それは、何があろうとも、彼女を守るということだった。
華奢な体に不釣り合いなほど、力強く前を向き続ける瞳を、僕は守ってみせる…!
2BVLGARIア・ヨーグルト(o^ー')9m ◆2J0R1YULjw :2008/03/04(火) 09:41:31.19 ID:HhJ8BZdW0 BE:374136645-2BP(1120)
なんでコテ入れてんのおまえ
31:2008/03/04(火) 09:42:02.46 ID:OLQNnCzf0
長かった受験期間を経て、見事に合格を手にした3月。
新たな学園生活を前に、僕は中学時代の友人達と思い思いの時間を過ごしていた。
なんせ、これから進学する高校に入学するのは、クラスでは僕一人。
寂しい気持ちがどうしても抑えきれず、僕は毎日のように友人達を遊びに誘った。
普段、遊びには付き合わない僕が積極的に羽を伸ばす。
クラスメート達はさぞかし不審な行動と捉えただろう。
しかしその反面、遊び以外の時間は欠かさずに勉学に励んだ。
これから入学する高校は、県内では一番の進学校といわれているところ。
最初から遅れをとるのはさすがに勘弁だ。
中学三年の夏前からコツコツ受験勉強をしてきた甲斐あってか、幸い、机に向かう習慣は身に付いている。
自他共に認める心配性で几帳面な性格がそうさせているのだろう。
僕は自らの性分を有り難く感じる時もあれば、そうでない時もあった。
41:2008/03/04(火) 09:43:22.85 ID:OLQNnCzf0
…結局、中学三年間同じクラスだったのに告白出来なかった…
僕は中学時代、ずっと好きだった女子がいた。
一年生の時から同じクラスで隣の席になったこともある。
時々、授業で分からないところを教えてあげることもあった。
一度だけ、クラス内で相思相愛の噂を立てられたこともあった。
…でも、それだけだった。
その子を目の前にすると恥ずかしさと緊張で、何も言えなくなってしまう。
偶然目が合った時など、しばらく顔を上げられなかった。告白をしようと思ったことは幾度とある。
でも、その度に、後ろを向いてしまった。
「心配性で几帳面な性格」のせいにして、自分の中に、自分を上手に隠してしまっていた。
卒業式の日、隣のクラスの長身な男子に、第二ボタンをせがむその子を見た時に押し寄せてきた後悔の念は、
今でも胸を締め付ける。
それでも、いつまでも塞ぎ込んでいては始まらない。
あと3日もすれば新しい生活が僕を待っている。
自然と綻ぶ顔と、湧き上がる期待を感じつつ、僕は再び意識を机に集中させた。
51:2008/03/04(火) 09:45:05.89 ID:OLQNnCzf0
彼女に対する第一印象は正直に言うと、変わった子だな、程度だった。
入学式後に通された教室。
これからここで一年間過ごすのか、という感銘を受けつつ、教壇にある座席表で自分の席を探す。
窓際の三番目が僕の席だった。
窓の外には、登校してくる時に思わず感嘆の声を上げるほど見事だったグラウンドに咲く桜並木が一望だった。
それらを眺めながら席に向かうと、既に隣人が着座していた。
それが、彼女だった。
61:2008/03/04(火) 09:46:11.94 ID:OLQNnCzf0
椅子に座っていてもわかるくらい、低い背丈。華奢な体。短めのツインテール。
そんな容貌の彼女は、隣に座った僕には気にも留めず、一心不乱にノートにペンを走らせていた。
時々ペンがぴたりと止まると、頭を上げず、そのままの姿勢で眉間に少しシワを寄せ、考え込む。
そしてしばらくすると、その険しい表情を解くことなく再びペンを走らせる。
その繰り返し。
僕はその時、少し戸惑っていた。
これから少なくとも数ヶ月は共に机を並べ、勉学に励む仲になるであろう。
きちんと挨拶をするべきか、否か。
果たして、隣の勤勉家は熱心に机にかじり付いている。
声を掛けるのもはばかれるようなオーラを醸し出している。
71:2008/03/04(火) 09:47:55.41 ID:OLQNnCzf0
僕は、どうしたものかと思案した結果、几帳面な自分の性格を優先して、話し掛けることにした。
「あの〜」、声が小さかったのだろうか、全く反応しない。
今度は少し大きめの声で打診してみた。
すると、彼女はピクリと反応するとペンを止めこちらに顔を向けた。
その彼女と目が合い、僕の中で、一瞬、刻が止まった。
色白で整った、端正な顔立ち。小さくピンク色な唇。
それよりも目を惹いたのは、彼女の瞳。
どこまでも真っ直ぐで、目の奥に強さを秘めた瞳。
僕の目を、真っ正面から見据える、一点の曇りもない瞳。
空虚なガラス玉のようにも見えるが、それ自体が意思を持っている宝石のような錯覚さえ覚える。
僕は、無言のまま打診の続きを促す彼女に気づき、慌てて自己紹介をした。
「は、はじめましてっ」。
81:2008/03/04(火) 09:50:43.65 ID:OLQNnCzf0
彼女は、僕の言葉の一つ一つを分析するかのような沈黙を浮かべた後、抑揚のない声で自己紹介を述べた。
「はじめまして…」。
再び刻が止まる。
全く変化のしない表情で、僕の次の言葉を待つ彼女。
僕は必死に会話を模索したのだが、どうやらタイムオーバーだったらしい。
彼女は、一瞬で見限った僕から意識を切り離し、再び机上のノートにペンを走らせる作業に没頭し始めた。
僕はその時、少し後悔をした。
彼女が夢中になって書き続けている「何か」を話題にすれば良かった。
しかし、その時に話題にしなくても、もう時期経てば僕だけではなく、
クラス全体、いやそれ以上の範囲で話題になることを、僕は知ることになる。
91:2008/03/04(火) 09:52:08.65 ID:OLQNnCzf0
入学してから一カ月。クラスメートにも授業にもだいぶ慣れてきた頃、
クラス内で彼女に対するささやかな噂が流れていた。
僕の隣の席に座る彼女は、登校してから下校するまで、
ほとんど移動することなく机にかじりつき、ノートにペンを走らせる。
それは休み時間でさえ変わらない。
もっとも、休み時間でも勉学に勤しむ生徒は、そう珍しいことでもない。
僕も授業でわからない事があれば、休み時間を利用して復習に励む。
ただ、彼女に対する違和感はそうではなく、授業中に気付く。
たぶん、最初に気付き始めたのは、彼女の後方に位置するクラスメート達だろう。
授業中は、教師が講義を繰り広げ、重要なポイントは黒板に記載する。
生徒は黒板に書かれた内容をノートに書き写す。
それが普通の授業風景だろう。
熱心に講義をしながら教壇を左右に移動するのが教師の姿であり、
頭を上下しながら教師の話とノート記入に励むのが生徒の姿である。
しかし、彼女は違った。
101:2008/03/04(火) 09:54:00.99 ID:OLQNnCzf0
授業中に彼女の首から上が上がることはない。
ひたすらノートにペンを走らせる作業に没頭するのである。
そんな彼女の授業態度を咎めた教師がいた。
古典教科を担当する40歳半ばの男性教師である。
彼の授業の進め方は、他のそれとは異なるもので、
黒板は一切使わず、教室内の机と机の間を闊歩しながら行う。
なので、生徒達のほとんどは顔を上げ、教師の話に聞き入る形になるので、
彼女の姿勢は極めて異彩を放っていた。
授業開始から気になっていたのだろう。
その男性教師は授業が半分に差し掛かったところで、彼女を咎めた。
急に自分の名前を呼ばれた彼女は、ピタリとペンを止め、ゆっくりと男性教師に視線を合わせた。
111:2008/03/04(火) 09:57:23.34 ID:OLQNnCzf0
相変わらず感情を全く感じさせない、しかしそれでいて力強い瞳だった。
きっと、この男性教師も彼女とまともに相対したのは始めてなのだろう。
言いかけた台詞が一瞬、息を飲み、止まった。
だが、やはり自分の教師としての威厳を誇示しなければいけない性があるのだろう。
彼女のそばまで来ると、机の上に置かれたノートを眺めつつ、声高に説教を始めた。
「君はいつも私の授業では内職に勤しんでいるようだな。気付かないとでも思っていたのか?
そうやって授業内容を、その授業内に処理出来ない輩はいずれ他の生徒について行けなくなるんだ。
君は今、物理の復習か課題を消化しようと躍起になっているようだが、そんなことでは…ん……?」
彼の朗々とした演説は彼女がペンを走らせていた、それによって阻まれた。
先程の彼女と目が合った時よりも長い静止の後、男性教師は目を白黒させながら、彼女に問いた。
「…これは、何だね?」あまりにも間の抜けた質問だった。
121:2008/03/04(火) 09:59:53.10 ID:OLQNnCzf0
僕は興味本位で、彼女のノートをちらりと盗み見し、驚愕のあまり二度見をしてしまった。
彼女の後ろ席にいた男子も同じく唖然としていた。
それはそうだ。
彼女のノートには、隙間のないくらいに、見たこともない数式がびっしりと並んでいた。
物理の得意な僕だったが、さっと目を通しただけで理解出来たことは一つだけだった。
『じっくり目を通しても理解出来そうにない』。
その男性教師も同じ意見だったのだろう。
単なる内職と踏んで喰ってかかったら、それ以上のものだったのだから。
彼の中の理解という範囲網から、完全に逸脱している物件に出くわした当惑が、手に取るように分かる。
そんな男性教師からの質問に対して、10秒ほど間を空けて、彼女は
「トラルストキー波動現象と一般相対性理論上における四次元空間での相違値の算出です。」
とだけ呟くと、ますます目を白黒させる男性教師を、また見つめた。
131:2008/03/04(火) 10:02:29.93 ID:OLQNnCzf0
そして、約八秒間の沈黙を、彼女は返答に対する理解を得られたと解釈したのだろう。
再び目線を机上に移し、ノートにペンを走らせる作業に意識を戻した。
呆然と立ち尽くす男性教師は、クラス全員の視線が自分に集中している事に気付き、慌てて授業を再開した。
その日を境に、クラスメート達は彼女について盛んに噂話をし、彼女の一挙動に注目をし始めたのであった。
そんな色々と話題の中心にいた彼女だが、本人は全く意に介さず、
朝の登校から机にかじりつき、終業の合図と共に帰路につく。
毎日同じ行動を一変もさせることなく、繰り返した。
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:04:05.53 ID:ADtwEtll0
うんち!
151:2008/03/04(火) 10:05:24.39 ID:OLQNnCzf0
そんな彼女だが、一応自分が学生で学校規則に従事しなければならないことは自覚しているようだ。
講堂で全校集会があれば、皆と同じように列に加わり、
各クラスで何かしら属しなければならない委員会にも参加していた。
ただ、その委員会を決める際のクラス会で、クラスメート達はささやかな驚愕を受けたのだが…。

委員会というものは、必ずしもクラス全員が何かに所属していなくても、別に構わない。
全ての委員会を合わせても約10程。
クラスから各委員会2名を選出すればいいので、自然とクラスの半分は無所属でもいいようになっている。
当然ながら、誰も進んで委員会活動を行おうとはしない。
みんな自分の学業や部活を優先させたいのである。
しかし、最もそのような面倒に無関心そうな僕の隣に座する彼女が、保健委員に立候補していた。
161:2008/03/04(火) 10:07:12.27 ID:OLQNnCzf0
入学式から1ヶ月経ったホームルーム。
かなりだらけた雰囲気の中、委員会に誰が入るかを決める会議が開かれていた。
とりあえず責任感が強い人は、渋々ながら出来るだけ楽そうな委員会を決めた。
また、頼まれると断れない小心者は、周りから無理矢理に押し付けられ、決めていった。
ほとんど自分の厄介事を回避するために他人に擦り付ける、
生け贄大会になっていたので、自ら手を挙げていた彼女に、始め誰も気付かなかった。
たぶん彼女が発する初めての意思表示に、クラスは一瞬ざわめいた。
進行役をしていた学級委員もなんの意味があっての挙手かわからず、思わず確認を入れたくらいだ。
彼女が希望をしたのは、保健委員。
171:2008/03/04(火) 10:08:44.89 ID:OLQNnCzf0
学級委員がその意思表示に相違ないことを示唆すると、彼女は何も言わず、首を縦に振った。
短めのツインテールもゆっくりと揺れる。
そして、要望が受理されるやいなや、再びいつもの作業に戻ったのである。
彼女の突然な行動に興をそがれたのか、その後のホームルームは、違和感を抱いたまま淡々と進んだ。
僕はといえば、今にして思えば隣の彼女に影響されたのだろう。
特に興味がないはずの体育委員に立候補していた。
181:2008/03/04(火) 10:10:19.91 ID:OLQNnCzf0
いつも下ばかり向いている彼女が、大事なところではきちんと自分を示す。
その事にわずかな劣等感を抱いてしまったのだと思う。
…でも、それは別段彼女が責任感が強いわけでも、そういった類の会合に興味があったわけではない。
彼女は自分の目的の為には忠実に行動する性格だったし、
目的を達成するための要素が1%もないことには、全く歯牙にもかけない。
そのことに、僕はいずれ気付くのだった。
191:2008/03/04(火) 10:11:55.59 ID:OLQNnCzf0
梅雨入りにはまだ早い、春の温かな風が気持ち良い6月上旬の朝。
その日、僕は少し早めに登校をした。
教室にはクラスメートがちらほらいたが、きっと電車通学の遠方組なのだろう。
学校に間に合う時刻に合わせて電車に乗ると、どうしても早く着いてしまうらしい。
ただ、早朝の教室は思った通り静観だった。
元気に朝練をする部活動はあったが、この学級校舎と運動グラウンドの間に、
実験棟校舎があるため幸い、青春の一ページが奏でる騒音は聞こえてこない。
集中して授業の予習が出来る。
僕は、鞄から教科書や筆記具を出しつつ、こないだ行われた中間テストのことを思い出していた。
201:2008/03/04(火) 10:13:27.96 ID:OLQNnCzf0
高校に進学をしてから、初めて行われた試験。
僕は格別な意気込みで挑んだつもりだった。
授業中も先生の講義を聞き逃さぬよう集中した。
家に帰ってからも毎日欠かさず、机と長時間にらめっこをした。
休み時間も、時々だったけど予習復習に専念した。
きっとコレくらいの努力をすれば、自分が空想した以上の成果は望めただろう…
そう、僕は高を括っていた。
それなのに、思ったほどの成果が得られなかったのである。
結果だけを見れば、それ程に悪い成績ではない。
ただ、全体のレベルの高さに、僕は圧倒されてしまった。
このままの実力では、これ以上に上がることが難しいのではないか?
むしろ、置いていかれはしないだろうか?
211:2008/03/04(火) 10:15:36.61 ID:OLQNnCzf0
そんなことを一度考えてしまうと、心配性な性格がむくりと顔をあげ、僕を意地悪く焦らす。
後は不安が解消されるまで足掻くしかないのである。
とにかく、次の期末テストでは納得がいく結果が欲しかった僕は、思考を机の上にある教科書に移行した。
勉学に没頭すること数十分。
僕がいつも登校してくるような時間になると、クラスメート達がぽつりぽつりと増えてくる。
入学してから出来たわずかな友人達が、いつもより早い到着の僕に気付き、朝の挨拶から簡単な会話を始めた。
昨夜のドラマのあらすじ…夢に出てきた憧れの女性との陳腐なラブストーリー…今日の占い…
僕ははじめ、教科書に目を通しながら友人の話に耳を傾けていたが、
次第に学習意欲が薄れてきたことを感じ、机の上を整頓し始めた。
すると、いつの間にそこにいたのか、静かなる隣人、無口な彼女が、僕を直視したまま立っていた。
221:2008/03/04(火) 10:16:58.49 ID:OLQNnCzf0
普段なら挨拶を交わすことなく、そのまま席に座りいつものように机にかじりつく彼女だが、
その日は違った。
痩身で小柄な身体だが、ぴんと伸びた背筋。いつも変わらないひょこひょこ揺れる短めのツインテール。
感情を一切窺えない表情とはミスマッチな力強い瞳が、僕の両目をとらえていた。
僕はいつもなら有り得ない状態に困惑した。
何故、彼女がこちらを凝視している?
何かあったのだろうか?
何か彼女の気に障ることをしたのだろうか?
身に覚えなど全くない。
だが、彼女は視線を僕の両目に合わせたまま、一切微動だにしない。
僕の方も、金縛りにあったように動けない。
呼吸をすることも憚らるような沈黙だった。
目があってから、実際は5秒間くらいしか経っていないはずだったが、
僕には永遠に時間が止まったかのような感覚を受けた。
しかしいつまでも続くことのない沈黙を破ったのは、か細く消え入りそうな彼女の声だった。
「今日、学校が終わりましたら我が家まで同行願います」
231:2008/03/04(火) 10:19:29.87 ID:OLQNnCzf0
僕は始め、彼女の言ったことの意味を理解出来なかった。
頭の中で彼女のセリフを一度分解してみた。
「学校が終わったら」…これはわかった。大丈夫だった。
次に「我が家に」…つまり彼女の家に、だよね?
最後は「同行願います」…一緒について来い、で合ってるだろうか?
解読すると、放課後、彼女の家に、一緒に行く…。
何故!?
僕の思考はもう一度そこで停止した。
家に誘われる程に仲が良かった覚えもなければ、彼女の家に行かなけばならない理由も思い付かない。
全く思いもよらない彼女の言葉を、僕は何度も反芻したが、考えれば考える程、訳が分からなくなってしまう。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:21:13.09 ID:MdTYG15g0
   / ̄\
  |  ^o^ | < おもしろい おもしろい
   \_/    
   _| |_
  |     |
         / ̄\
        |     | < なにが ですか 
         \_/    
         _| |_
        |     |

   / ̄\
  |  ^o^ | < ぶんしょう
   \_/
   _| |_
  |     |
         / ̄\
        |     | < きがくるっとる
         \_/
         _| |_
        |     |

251:2008/03/04(火) 10:21:48.55 ID:OLQNnCzf0
急に頭をハンマーで叩かれたように、僕の頭はグワングワンに揺れっぱなしだったが、
視線は彼女の輝く宝石のような二つの瞳に縛り付けられていた。
僕は、彼女が他に何か言葉を続けるのかと、待っていたが
(むしろ、何か言って欲しかった。判断材料が少なすぎる)
彼女は僕の沈黙を了承したと判断したのだろう。
視線を外すし、くるりと振り向くと自席に座り、いつもの作業を開始した。
僕はといえば、しばらくそのままの体制で固まってしまい、口をパクパクするしかなかった。
この日一日、僕は全く授業に集中する事が出来なかった。
おかげで早朝の自主勉強が無駄になってしまったが、後悔する程の心の余裕などその時はなかった。
恥ずかしいことだが、僕は女子に家へ招待されたことも、中に入ったこともない。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:22:56.11 ID:JjWmyNesO
フィクションかノンフィクションかわかんないけど

wktk
271:2008/03/04(火) 10:24:04.83 ID:OLQNnCzf0
その機会が今日、唐突に訪れたのだった。
それも、ほとんど会話を交わしたことがない、隣の彼女から。
本来ならば喜ぶべきことなのだろうが、今はそんな気分にもならない。
僕は、彼女が何か話してくれることを期待したが、
結局放課後、「それでは」と言うまで、いつもの姿勢でペンをノートに走らせることに没頭していた。
僕の苦悩など全く意に介していない程に、放課後までは無視だった。
僕は、そんな彼女のことが、だんだん不気味に感じてきた。
281:2008/03/04(火) 10:25:49.20 ID:OLQNnCzf0
学校ではいつも同じ行動。
誰と話すことがなければ、交流を持とうともしない。
彼女が何を考えているのか、学校以外では何をしているのか、誰も知らない。
正直、彼女の家に行くということに微かな抵抗があった。
そんなに仲良くないクラスメートの家に行くのは、実際問題いかがなものか?
普通に考えておかしい。
それに、僕は少し怖かった。
学校以外での、謎に包まれた彼女を見ることが、知ってしまうことが。
何か触れてはいけないものに触れようとする感触。
それが僕の心から平静心を奪いながら、代わりに臆病な気持ちを落としていく。
結局、色々な思考や感情が頭の中で渦巻いたまま、僕は彼女の短過ぎる催促に促され学校を後にした。
291:2008/03/04(火) 10:27:18.82 ID:OLQNnCzf0
全く歩調を変えずに、姿勢が良い歩き方でスタスタ進む彼女。
その後ろを、頼りなげについて行く僕。
彼女は、僕がきちんとついて来ているかなど、いちいち確認をしない。
ただただ、前を向き歩いていく。
僕は、彼女が本当に一緒にくるよう言ったかどうだか疑問を持ち始めた頃、
先行者は、急にくるりとこちらを振り返り、
「末広町まで行きます」と告げ、また踵を返し歩き始めた。
末広町はここから二駅先である。
駅に着き、改札を抜けると間もなく電車が到着した。
電車に乗り込み、座席に座るやいなや、彼女は鞄から分厚い本を一冊取り出し、
カラフルな付箋紙が5〜6本ついてある目次から黄色い付箋紙のところのページを開き、読み始めた。
僕は、取り敢えず彼女の横に座り、所在なさ気に車内をキョロキョロ見回していた。
幸い知人はいないようだ。
ほっと胸をなで下ろし、何気なく隣の彼女を見た。
301:2008/03/04(火) 10:28:51.20 ID:OLQNnCzf0
色白な肌に華奢な身体。髪の色素も薄いのか、光があたると茶色に輝く短めのツインテール。
そして、横から見てもわかるほど、どこまでも力強い瞳。
キラキラ光る美しい瞳。
僕はしばらくの間、彼女に見とれていたが、そんな自分にハッと気付き、慌てて顔を背けてしまった。
彼女は、そんな僕が目に入らない程、本に集中していた。
視線を泳がせつつ僕は、「そういえば初めて女子と一緒に下校している」と思い、
またもや心中で一人で慌てふためいていた。
311:2008/03/04(火) 10:30:11.05 ID:OLQNnCzf0
末広町は、ショッピング街というわけでも商業都市でもない。
民家やマンションが立ち並ぶ平凡な住宅街だ。
学校からはそう遠くないが、僕のクラスメートに末広町に住んでいる人は少し聞いたことはあるがほとんどいない。
駅を抜けると、彼女はまた無言のまま僕を促し、歩き始めた。
彼女の家が近いのかと、僕はドギマギしていたが、その高鳴る思いは、やがて疲労へと変わっていく。
…20分は歩いただろうか。
一向に変わらないペースで歩を進める。
その彼女について行くが、いつになったら着くのかわからない。
駅からずっと一本道を進んでいるはずだ。
それになのに、徐々に人気が薄い街並みに進んでいく。
ここまで来ると、マンションはほとんどなく、一軒家がまばらに立っているくらいだ。
だんだんと不安になってきた僕は、言葉を忘れたのではないかと本気で心配したくなる程、無口な彼女に、
何度か声をかけようとして諦めたが、そろそろ我慢の限界である。
せめて、あと何分かかるのかくらいは聞きたい。
321:2008/03/04(火) 10:31:58.89 ID:OLQNnCzf0
僕は意を決して、話しかけようと早足に駆け寄った矢先に、突然彼女が立ち止まった。
僕はその拍子に前につんのめってしまい、情けないことに、彼女を後ろから抱き締める格好になってしまった。
突然のアクシデントで、華奢な彼女の背中に抱きついてしまい、僕はパニックになってしまった。
慌てて彼女から弾けるように離れ、
「うわああ!ごめんなさいごめんなさい!!わざてじゃないんだ!
いや、本当に違うんだ!変なことをしようとしたわけじゃなくて!
いや、してしまったんだけど!とりあえずごめんなさい!!」
と、土下座せんばかりの勢いで謝罪をした。
しかし、そんな僕をいつもの凝視で見つめて一言、「着きました」といった。
331:2008/03/04(火) 10:33:12.50 ID:OLQNnCzf0
僕は、脳内がすでに災害時並みのパニック状態になっていたので、彼女の言葉を数秒理解出来なかった。
「いや!突いたんだ!あれ?!付いたんだ!そうなんだ、着いたんだ!
本当にごめんなさい!…え?着いたの…?」
そう言うと、彼女は一度だけ頷き、真横のそれを指差した。
それは、民家とはとてもだが言える代物ではなく、少し小振りな工場のような建物だった。
341:2008/03/04(火) 10:34:39.71 ID:OLQNnCzf0
道路に面した入り口を抜けると、
そこにはところ狭しと見たこともない研究道具のようなものが、大小並んでいた。
円柱ガラスが二重になっている中に、ぐにゃぐにゃに曲がった細い鉄の管が入ってあるものが、
大きさ違いで4、5個並んであったり、
人が一人入れるくらいの、金属製の足付き球体があったり、
理科室でよく見るビーカーやフラスコを、信じらんない数が収納された棚があったり。
他にも形容しがたい実験道具がたくさんあり、そのほとんどが奇妙なモーター音を発しながら稼動していた。
この何か不思議な実験所のような室内に呆気にとられていると、
白衣に身を包み、空のビーカーを片手に持った彼女が奥から現れた。
351:2008/03/04(火) 10:36:31.10 ID:OLQNnCzf0
僕は一瞬ビクッとして、一歩後ずさったが、いつもと変わらない彼女が無表情で立っているだけだったので、
ホッと胸を撫で下ろした。
僕は、この場所に来たときから、彼女はいよいよまともではないと確信していた。
いつもノートに不可解な数式を、ひたすら書き綴っているのも、ここに来て納得出来た。
しかし、僕は彼女に対してもっと悪い意味での想像をしていたのである。
人間を人間と思わない非道な科学者のようなものとか、
裏の世界に通ずる危険な物を製造しているような団体とか。
まぁ、昔テレビやマンガで見たような、マッドサイエンテスト的なものだ。
僕の貧相な想像力では、そんな幼稚な考えしか浮かばない。
しかし今、目の前にいる彼女を、彼女の目を見ればそうではないことが、何となく分かる。
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:38:31.95 ID:eFH0fVh/0
支援
371:2008/03/04(火) 10:38:40.92 ID:OLQNnCzf0
彼女の瞳はいつもと変わらずに、僕の心まで見透かされているかのように、真っ直ぐ力強い。
まだまだ人生経験の浅い僕だが、彼女が良い人間か、悪い人間かは、その瞳を見ればわかる。
その瞳の輝きは、性根が曲がった人間が写せる光ではない。
この自分の家(?)に来て、僕にこの異様な光景を見られても、
同じように、同じ真っ直ぐさで僕を見つめる瞳に嘘は微塵もない。
きっと、彼女は大丈夫だ。
そんなに奇怪なことを僕に施すはないだろう。
まだ彼女の事は何も知らないが、この点だけは信用出来る。
僕は、彼女から送られる微動だにしない視線に、軽い微笑みを返した。
すると、彼女はそんな僕に反応する代わりに、手に持った空のビーカーを差し向け、抑揚のない声で呟いた。
「この中に可能な限りあなたの体液を抽出して下さい。唾液でも尿でも血液でも構いません。」

前言撤回。
もうしばらく彼女に対して、警戒を解くのは慎もうと思った。
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:39:03.81 ID:eFH0fVh/0
支援
391:2008/03/04(火) 10:40:30.78 ID:OLQNnCzf0
彼女が僕を玄関まで見送り、「では、また後日」と言い、ドアを閉めた後も、しばらく僕は呆然と立ち尽くした。
これまで我慢していた疲れがどっと溢れてくる。
少し大袈裟な言い方だが、僕はこの世界の隠された一部を垣間見た気分だった。
彼女は確かに奇怪でも悪人でもなかった。
ただ、理解出来ない分野に属する人だった。


ビーカーを僕に差し出し、再び動かない彼女。
同じく動かない、いや動けない僕。
またもや、脳がフリーズしてしまった。
理解不能過ぎる。
そんな僕を見つめ、沈黙する姿をまた肯定と捉えたのだろう
(どうやら彼女は、相手の沈黙を、反論無しと解釈するらしい)。
ビーカーを近くのテーブルに置くと、近くの奇妙な実験道具を操作し始めた。
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:41:18.09 ID:JjWmyNesO
体液www
411:2008/03/04(火) 10:42:21.47 ID:OLQNnCzf0
手早く実験道具の操作盤をいじり始め、作動音を確認すると次に違った形の実験道具に取り掛かる。
やっと自我が戻ってきた僕に湧き上がり始めた感情は、彼女に対する少しの怒りだった。
何故こんなところまで来て、自分の体液(?)を提供しなくちゃいけない?
そもそもここはなんの実験所だよ?
彼女は何をしているんだよ?
僕の体液をどうする気だよ?
一つも説明を受けてない。
協力なんて出来るものか!僕は、不満をぶちまけるように、彼女に詰め寄ろうとした。
「あ、あのさー!」
少し大きい声を出してしまった。
その僕の声に反応したのか、彼女は、急に首から上だけを僕に向け、
いつもの力強い視線で次に言おうとした僕のセリフを、封じ込めた。
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:42:29.53 ID:eFH0fVh/0
支援
43燃えよドラゴンズ! ◆NQRyMOEDRA :2008/03/04(火) 10:43:34.28 ID:F9ai63+K0
頑張って
441:2008/03/04(火) 10:44:03.12 ID:OLQNnCzf0
情けなくも、彼女の視線ひとつで何も言えなくなり、口をパクパクするだけの僕だったが、このままでは、男がすたる。
僕は唾を一つ飲み、やっとの思いで彼女に問いかけた。
「ここは、何をするための場所なの?」
彼女は、しばらく無表情のまま僕を見つめたが、
「突発性過発酵エネルギーについて研究をしている実験所及び私の住居です。」
とだけ言うと、また実験道具に向かい始めた。
突発…エネルギー…?
正直聞いたことのない単語だ。
全く理解は出来ないが、彼女は聞いたことには、一応きちんと答えてくれるらしい。
一度大きな声を出したせいか、少し緊張は消えたようだ。
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:44:49.28 ID:5Li5l4NUO
コピペ集に乗りそうな勢いだな
461:2008/03/04(火) 10:45:53.07 ID:OLQNnCzf0
僕は自分の中で、質問を整理して彼女に再び問いかけた。
「まずは、その突発…何とか?エネルギーについて、もう少し詳しく説明をして欲しいな。
それと、なんで僕をここに連れて来たのか、そして僕の体液?を何に使うのかも教えて欲しい。いいかな?」
さっきよりは、落ち着いた声で言えたためか、
彼女は今度はゆっくりと、こちらに振り向き、数秒沈黙した後、
「わかりました。ご説明を致します。」と言うと、いつもの抑揚のない声で語り始めた。
471:2008/03/04(火) 10:47:02.14 ID:OLQNnCzf0
「突発性過発酵とは通常ならば炭水化物などを酵母菌でアルコールと炭酸ガスに分解する発酵作用を
特殊な微粒子を加えることで一度発酵作用を抑制しそこにその特殊な微粒子を分解する因子を
投入することにより突発的に発酵させます。その時に生じるエネルギーが突発性過発酵エネルギーなのです。」
息継ぎ一つ無く、一気に喋った彼女。
そして僕を捉えた両目で、理解できたかどうかを無言で確かめる。
正直、いまいち掴めない内容だ。科学の授業でもそんな話聞いたことがない。
質問がまだ山積みだが、とりあえず彼女の話を聞こう。
「突発性過発酵エネルギーは今から30年前とある健康食品会社が研究を始めました。
当時から国内ではエネルギー源の確保に苦悩をしていましたので実験が成功すれば
かなり高効率なエネルギー源が得られるはずでした。」
全く余計な感情を挟まず、彼女は淡々と話し続ける。
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:48:30.91 ID:eFH0fVh/0
支援
491:2008/03/04(火) 10:48:43.42 ID:OLQNnCzf0
「しかし実験は全く進展せず学会や投資をしていた企業からも徐々に見放され始めました。
更に近年では当たり前のように使用されているバイオエネルギーが
一般的に庶民の生活に定着してからはこのような研究に邁進する科学者はますます嘲りを受けるようになりました。
現在ではこの研究をしている科学者及び団体は世界にも僅かしかいなく、
突発性過発酵エネルギーのことは実験の一番始めに用いられた発酵素材が
乳製品だったため『ヨーグルト』と俗称されています。」
ここに来てから、どうも鼻をつく匂いだと思っていたのだけど、
今の話を聞いて確かにヨーグルトに似た匂いだと気付いた。
僕のあまり好きじゃない匂いだ。
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:48:45.17 ID:hSeBCY6v0
ここからどうスレタイで〆るのかが気になる



ケフィアです・・・で〆るんだよ・・・な?
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:48:49.46 ID:z4z+V5KeO
まさか、アルミカンの上にあるみかんの人か?
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:49:31.18 ID:eFH0fVh/0
>>50 オチを言うなw
531:2008/03/04(火) 10:50:13.19 ID:OLQNnCzf0
「その、突発性過発酵エネルギーっていうのはだいたいわかったよ。
それで、僕を何のためにここへ連れてこられたのか、聞いていいかな?」
「先程も説明したように『ヨーグルト』を完全なエネルギー源として昇華させるには
発酵を抑制する特別素粒子とそれを分解する因子が必要と説明をしました。
その『ヨーグルト』にとって二つの必要不可欠な物質は人間の体内で生成されるのです。
ただし誰の体内でも生成されるわけではなく特別な人間にしか生成する機能がないのです。
その確率は約一万分の一。」
そこまで話すと、彼女は僕にその続きを無言で、促した。その瞳は、もう理解しただろう、と語りかけている。
「つまり、その適性があったのが、僕?」
「そうです。」
言ってから、また驚愕しかけた僕をフォローするように、
「と言っても先天性の病気でも何かの疾病を誘発することはありません。
体質みたいなものです。発酵食品が苦手では?」
「…うん。アレルギー持ち…。」
「でしょうね。その程度の障害です。」
自分の体質について、なかなか興味深い発見をした僕は、ふとあることに気付いた。
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:50:23.65 ID:eFH0fVh/0
支援
551:2008/03/04(火) 10:51:55.99 ID:OLQNnCzf0
「ところで、何で僕だってわかったの?君にアレルギーの話でもしたっけ?」
そもそも、まともに会話をすること自体が初めてだ。
しかし彼女は、僕の質問にあっさりと答えた。
「先日校内で行われた尿検査で判明しました。」
そういえば、一週間ほど前に、クラス全員の検尿を集めている彼女の姿を思い出す。
いつもと違う動作をする彼女を、物珍しげに眺めていたっけ。
僕は、一気に納得をした。彼女は、それが目的で保健委員になったのである。
「あなたの体内にある抑制作用を引き起こす素粒子は尿やその他の体液から簡単に抽出可能です。
ただしこれからはその抑制物質を増殖する手段を発見しなければなりません。」
「はぁ、それはかなり大変だね。」
少し間の抜けた返事をした僕に、彼女は変わらぬ抑揚のない声で答えた。
「いえ、それ程ではありません。分解因子の方は増殖に成功してます。きっと同じ要領でいけるかと。
あとは微調整と実験さえ重ねれば『ヨーグルト』は完成します。」
「へぇ、すごいね。…?でも、待って?その抑制物質の方は僕だってのはわかったけど、
分解する方のは誰から見つけたの?それも、やっぱり身近な人?」
「私です。」
…わずかな沈黙の後、僕はある程度認識出来た事実に、納得の意を表した。
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:52:01.72 ID:wwKlaSKp0
   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>   ゆっくりしていってね!!!   <
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ     __   _____   ______
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__    ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7   'r ´          ヽ、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'    L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!      | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´
571:2008/03/04(火) 10:53:12.80 ID:OLQNnCzf0
「わかった。じゃあとりあえず、このビーカーに入れればいいんだね。えぇと、
血は無理として、尿も恥ずかしいから、唾液でいいかな?」
「協力に感謝します。」
「それと、どのくらいの量を入れればいいのかな?ビーカー一杯っていうけど、さすがに、ねぇ?」
「抑制物質を無限増殖まで進めるためにはまず大量のあなたの体液から摘出する必要があります。
 もう少し大きな容器をご用意しましょうか?」
「…いや。まずはビーカーで結構です。」
「それでは始めて下さい。」
彼女は、相変わらず無表情のままそう告げると、再び実験道具に向き直った。
そして、目線は機械に取り付けられたディスプレイに向けたままで、静かに語り始めた。
581:2008/03/04(火) 10:54:42.11 ID:OLQNnCzf0
「学会ではこの突発性過発酵エネルギーを実験することを『ヨーグルト』と呼称しますが
これは彼ら達なりの蔑んだ呼び方なのです。可能性が限りなくゼロに近いことに執着するもの達への嘲り。
それに対して私は異存はありません。どう呼称しようがそれは単なる個体の識別方法に過ぎませんから。
事実私も『ヨーグルト』と別称しますし。」
それは、僕に対して語りかけているのではなく、まるで、自分自身に対して語りかけているかのようだった。
「ただしこの研究の第一人者は当時誰よりも先駆けて研究を始めた今は無き健康食品会社に敬意を表して
『ケフィア』と学会に提出した論文に記していました。」
「『ケフィア』?」
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:55:19.10 ID:eFH0fVh/0
支援
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:55:34.89 ID:hSeBCY6v0
ああああああ早速予想外れた俺はブラウザを閉じる
611:2008/03/04(火) 10:56:03.20 ID:OLQNnCzf0
「そうです。突発性過発酵エネルギーの研究に使用されたヨーグルトの種類がケフィア菌だったといわれていたためです。
『ケフィア』は我々『ヨーグルト』について研究を重ねる者にとっては未知なる可能性を意味します。
そして『ヨーグルト』を蔑称と感じる研究員は『ヨーグルト』とは決して言わず
『ケフィア』と言い表します。『ヨーグルト』は未だエネルギー資源になるには可能性が低い分野の研究ですが
もしも成功すれば現在一般的に使用されているバイオエネルギー、以前はバイオマスエタノールと呼称されておりましたが、
それよりも遥かに低資質で高エネルギー資源が得られるはずなのです。」
「へぇ。どういった原理でそうなるかはわからないけど、すごいんだね、『ヨーグルト』って。」
「そうです。バイオエネルギーが定着した現在でも資源の確保面が問題視されていますが、
その難題を解決する可能性を秘めているのが『ヨーグルト』…」
そこで彼女は、一旦言葉を区切り、しばらく思案するように静止した。
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:56:20.71 ID:eFH0fVh/0
フェイントだったなw
631:2008/03/04(火) 10:58:06.05 ID:OLQNnCzf0
そして、何かを決意するように、いつも以上に力強い瞳を僕に向けた。
「『ヨーグルト』…いいえ、『ケフィア』です。例え1%しかない可能性でも構わない。
この研究は必ず成功させなければいけない。私自身の為にも。そして…」
その時、僕は初めて彼女が既存の事実や事象を淡々と述べるのではなく、彼女の意思、感情を交えての言葉を聞いた。
そこで彼女は、また一旦言葉を止めた。
「…成功まで後もう少しなのです。それまで私にはあなたが必要です。ご協力を頂けないでしょうか?」
激した自分を戒めるように、いつもより更に抑揚に欠ける声で語りかける彼女だが、
両眼に宿った力強い光はそのままだった。もちろん断るわけにはいかない。
そんな重要な役割を、自分が担っているとは考えてもいなかったし、何より興味があった。
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 10:58:31.54 ID:eFH0fVh/0
支援
651:2008/03/04(火) 10:59:59.62 ID:OLQNnCzf0
それからその日は、僕に彼女は唾液の提供と明日から放課後、毎日ここに来るよう簡単に言い渡し、
再び無言で研究に没頭し始めた。
僕は、そんな彼女の姿を見つめながら、間抜けな犬のようにただ涎を垂れ流す作業に従事した。
そして、その日はビーカー半分の唾液を彼女に渡し、研究所兼彼女宅を後にした。
長い帰り道をゆっくり歩きながら、僕は今日あった色々なことを、頭の中で整理していた。
突発性過発酵エネルギーについて。自分が特殊なものを体内に持っていることについて。
彼女も特殊なものを体内に持っていることについて。
そして、明日からは飲料水持参で来たほうがいいな、とカラカラになった口の中のことを思った。
様々なことを考えていたが、さっきからもう何度目になるかわからないくらい、
彼女の整った顔には似合わない無表情と、どこまでも真っ直ぐな力強い瞳を思い出した。
その度に、僕は無意識に高鳴る胸の鼓動を感じていた。
そして、赤くなりつつある空を眺め、また一つ溜め息をついた。
661:2008/03/04(火) 11:00:56.11 ID:OLQNnCzf0
彼女に始めて研究所に招待されてから、1ヶ月が経とうとしていた。放課後だけではなく、
休みの日にも僕は研究所に赴き、彼女の手助けをした。
手伝いといっても、最初のうちは、体液の提供(今では尿を採取している)だけだったが、
ただそれだけの為に電車を使い、往復一時間の長い道のりを歩いて通うのも、勿体無い感じがして、
今では彼女の助手として活躍している。まぁ、実験結果をパソコンに打ち込んだり、機材の清掃をするくらいだけど。
それに一度だけ、僕は突発性過発酵エネルギー『ヨーグルト』を目の当たりにしている。
形のないものだが、確かに物質がエネルギーに変換され、消費される様をこの目で見たのだった。
それは先週のこと。
67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:01:42.93 ID:eFH0fVh/0
支援
681:2008/03/04(火) 11:02:17.40 ID:OLQNnCzf0
ビーカーを洗面所で洗う僕に、彼女が
「あなたから採取した体液より抑制物質の摘出に成功したのでこれより過発酵の実験を行います。」
と、相変わらず抑揚のない声で手短に告げ、奥の実験室に消えていった。
僕は、ついにこの時が来たのだと、心躍った。彼女によると、僕の体液から抑制物質を摘出するのは、
そんなに難しいことではないらしい。問題は、抑制物質の無限増殖なのだそうだ。
なので、ある程度の抑制物質が集まれば、「取り敢えず」くらいの実験は可能らしい。
しかし、その実験に用いる抑制物質は、僕の体液5リットル分くらいは必要になるそうだ。
彼女は、過発酵の実験には最初、承諾はしなかった。まずは、抑制物質の無限増殖が優先らしい。
しかし、どうしても見たいと僕が頼んだ結果、彼女は渋々了承をした。その願いが、どうやら今、叶うようである。
691:2008/03/04(火) 11:04:08.01 ID:OLQNnCzf0
厚手のガラスに囲まれた二畳くらいの部屋がある。
そのガラスは、防弾ガラスで出来ているため、万が一に実験道具が暴発しても、安全な設計になっている。
今回の過発酵の実験はここで行われるらしい。
ガラス部屋の中で、真ん中に無造作に置かれた実験道具や、
内側のガラス壁に取り付けられた衝撃を測定する装置を、念入りに点検する彼女。
その、いつもと変わらない無表情が、僕を少し緊張させた。
点検が全て終わった彼女は、一つのシャーレを僕の前に差し出した。
その中には、ほんの一摘みのご飯が入っていた。
「この白米には既に麹菌が腐食してあり発酵状態にあります。
しかしあなたから摘出した抑制物質が麹菌による発酵を抑えこんでいます。」
そして、今度はガラス部屋内に置かれた実験道具を指差す。
無骨な鉄製のメカニックと言った風貌。ここから見てもわかるが、ピストンや筒が無数についた装置だった。
「現在のそれとは大分造形がことなりますが自動原動機付二輪車のエンジンです。」
どうりでどこかで見たことがあると思った。
小さい頃、市の中心部にある、昔の機械を展示した博物館にあったそれを、思い出した。
70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:04:50.49 ID:eFH0fVh/0
支援
711:2008/03/04(火) 11:05:37.31 ID:OLQNnCzf0
数十年前は確か「バイク」と呼ばれていた、二輪車の原動部品だった。
現在で二輪車と言えば、電動式で原動部は、もっとコンパクトに出来ているはずである。
「あれを駆動させるにはこの程度で事足りるでしょう。」と言うと、
彼女はその「エンジン」の中に、白米を丁寧に流し込み始めた。
なかなかシュールな光景はずだが、僕は自分の胸が、今までにないくらいに鼓動しているのを、感じていた。
彼女のいうところの「可能性」というものが、「現実」というものに昇華する瞬間が迫っている。
準備を終えた彼女は、
「それでは始めます。予想ですが実験は一瞬で終わるかもしれません。」と、
細かい説明は一切省き、諸注意だけ促した。
そして、それだけを言うと、手元のレバーやスイッチを操作し始めた。
僕は彼女の隣で、無数のスイッチを珍しげに眺めていたが、突如、視界の端で轟音と共に爆発が起きた。
いきなりの破裂音に心臓が一瞬止まったかと思いきや、
爆破した無数の実験道具「エンジン」の破片が、ガラス壁に叩きつけられた。
721:2008/03/04(火) 11:07:12.01 ID:OLQNnCzf0
僕は条件反射でその場に頭を抱えしゃがみ込んでしまったが、彼女は微動だにせず、
冷静に手元のスイッチを操作し、傍らにあったバインダーに何やら記入をしていた。
僕はしばらくその場で放心状態になり、やっと少し正気を取り戻した。
彼女に今の状況を説明してもらおうとしたが、あまりの衝撃だったのか、声が出ず、口をパクパクするしかなかった。
そんな僕に気付いた彼女は、いつもの無表情で凝視した後、何かを理解したのか、説明をし始めた。
「抑制物質と分解因子の量があまりに不明瞭でした。
更に科学反応が起きた際に燃料庫を真空状態にしたのも失敗だったようです。
やはりある程度の空気が必要なようです。しかし、予想以上のエネルギー数値が記録出来ました。」
いつもは、よくわからない科学用語や数式を織り交ぜて説明をする彼女だが、
今回は僕が頼んだ実験だったからか、少しは分かりやすく講義をしてくれた。
つまり、実験は失敗だったが得たものもあった、ということだろう。
「それにしても、凄い衝撃だったよ。ご飯でエンジンが爆発するなんて…。今でも信じらんない。」
「調整次第では先ほど用いた白米10gでガソリン30リットルに匹敵するエネルギー量を確保出来ます。」
「そんなに!?」
「低資源で高熱量。それが『ヨーグルト』の他に類を見ない特性です。」
その日から、ご飯を食べる前に軽い違和感を覚えたことは、言うまでもない。
731:2008/03/04(火) 11:08:57.95 ID:OLQNnCzf0
ご飯といえば、僕が彼女の研究所での仕事の中に「食事つくり」という項目がある。
それは僕が始めて研究所に来てから4日後あたりの出来事から始まった。

まだ彼女とこの研究について詳しく理解していない頃、
僕は研究所の一角でただただビーカーに間抜けな犬のように涎を垂らしていた。
彼女から申し付けられた作業が「体液の採取」だけなので、そうするしかなかったが、
当時は僕の中に多少の羞恥心があったため、おしっこをクラスメートの女子に差し出すなど出来るわけなかった。
今では毎日の習慣のように平然とビーカーに入った尿を提供しているけど・・・
そんなわけで、形も大きさもさまざまな実験道具に並んで、頭が悪い犬のように唾液の採取に励んでいた僕は、
多数の実験をこなしている彼女を自然と目で追い、あることに気付いた。
彼女は実験道具をいじったり、観測データを懸命にバインダーへ記入したり、時にはパソコンに入力したり、
とにかくそんなに広いとは言えない研究所内をせわしく右往左往している。
そしてその合間、これまたせわしく袋入りのお菓子やタブレットや果物、果ては栄養剤などを口に運んでいる。
時々、ビーカーで沸かしたお湯でカップラーメンを食べているのを見たこともある。
その姿を眺めながら僕は、随分栄養が偏るような食生活をしているなと思った。
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:09:19.48 ID:eFH0fVh/0
支援
751:2008/03/04(火) 11:10:49.77 ID:OLQNnCzf0
栄養剤などでバランスを取っているつもりだろうが、やはりお菓子や即席麺では満足な栄養は補えないだろう。
しかもあの量を食べれば、どんな大飯食らいでもお腹が満たされるはずである。夕飯代わりなのかな?
だったらなおさら健康に良い食事とは言えない。
僕は体液の採取という唾液を垂れ流す作業を一時中断して、研究所内に設置されてある大型冷蔵庫を開けてみた。
『ヨーグルト』の研究は米や乳製品などの食品を研究対象として扱うため、自然と製品保持用の冷蔵庫が
他にも4つほどある。その中の一つ、この大型冷蔵庫をどうやら彼女は自分の食料庫として使っているらしい。
彼女がこの中から、果物や飲料水を取り出しているのを何度か目撃している。
中を開けて、僕は愕然とした。冷蔵庫の壁側には大量の清涼飲料水。これは普通だが、
普段彼女が食べている果物、お菓子、栄養剤だけではなく、カップラーメンまでもが冷蔵庫内に入っていた。
栄養剤やカップラーメンは普通に室内に置いてもいいんじゃないか?
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:11:21.72 ID:eFH0fVh/0
支援
771:2008/03/04(火) 11:11:56.00 ID:OLQNnCzf0
しばらく呆然と冷蔵庫内を眺めていると、いつの間にか彼女が後ろに立っていた。
「そちらの飲料水とバナナ、カロリーメイトを取って下さい」
急に話し掛けられて驚いたが、丁度良い機会だったので彼女にこの中の物について聞いてみた。
「あの、いつもこういうものしか食べてないの?」
彼女は、相変わらず無表情だが、力強い瞳を僕に向けて
「あなたはこの食品及び食材を食べた事がないのですか?」
と、これまた抑揚のない声で僕に質問返しをした。
「いや、そうじゃなくて。もちろん食べたことはあるよ。ただこういうのばかりだと栄養が偏らない?」
「栄養摂取の偏りで私の身体能力や思考能力に現在異常は発生していません。
空腹が満たされれば問題がないのでは?」
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:12:42.69 ID:jPNVqVMRO
長すぎだろwwwwww
791:2008/03/04(火) 11:12:49.59 ID:OLQNnCzf0
僕はそれを聞いて、ため息を一つ吐いた。どうも研究については素晴らしい集中力を発揮する彼女でも
こういう面に関しては、トンと無頓着らしい。
「今はいいかもしれないけど、僕たちみたいな成長期に入った子供には充実した栄養が必要なんだよ?
それにきちんとした美味しいご飯を食べたほうが、食事って楽しいじゃないか。」
「興味がありません。それよりも早急に先程申請した食べ物を渡して下さい」
僕は再び大きなため息をつくと、冷蔵庫から彼女に食べ物を渡した。
80以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:13:34.35 ID:eFH0fVh/0
支援
811:2008/03/04(火) 11:14:25.79 ID:OLQNnCzf0
次の日の放課後、いつもは彼女と仲良く(?)研究所兼彼女の自宅に向かうのだが、
駅についてから僕は彼女と別ルートで行動することにした。先に行くよう彼女を促すと、
彼女は数秒間僕を凝視した後、「では」と短く言うと、自宅へ足を向けた。
その彼女を見送って、僕は駅構内にあるスーパーマーケットへと向かった。
都心から少し離れているためか、そんなに大きくない駅だったが、ちょっとした住宅地のためか、
きちんとしたスーパーマーケットが構内にある。
僕はそこで食材を調達し、急いで彼女の元へと赴いた。
研究所に入って「遅くなってごめん」と声を掛けると、彼女は僕のほうを見向きもせず「いいえ」と呟き、実験に専念していた。
僕も特に気にせず、大型冷蔵庫脇にある簡易型電気コンロに電源を入れた。
もちろん、料理をするためである。
821:2008/03/04(火) 11:15:46.76 ID:OLQNnCzf0
実は僕は中学校のときにどこの部活にも所属せず、「料理研究会」に属していた。3年生の時には会長も務めていた。
もともと料理が好きだったということもあったが、それ以上に運動が苦手だったという事実もある。
それに、僕は小学生の頃に父親を病気で亡くしているので、時間が不規則な勤務の母親と二人暮らしなせいか自然と料理を覚えた。
なので、人一倍料理や食事に興味がある僕としては、不摂生をむさぼる彼女の生活がどうしても我慢出来なかった。
僕はスーパーで買ってきた食材を近くの台に並べながら、これから作る料理の調理手順を頭の中で確認していた。
昨日、冷蔵庫内にある食ベ物を見たところ、栄養剤で補ってはいるものの、確実に不足しているのは
野菜などのビタミンや食物繊維。そして、たんぱく質。簡単なところで野菜のスープと魚介のパスタでも作ってみよう。
野菜のスープは手軽に飲めるようにジャガイモのクリームスープ。パスタはペスカトーレ。
まずは手始めにジャガイモの皮を剥く。この家の包丁は長年使ってなかったのになかなか切れ味が良いな、などと思いつつ、
ジャガイモの皮を剥くシャリシャリという心地良い音に合わせて、いつの間にか鼻歌を歌っていた。
83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:16:18.61 ID:eFH0fVh/0
支援
841:2008/03/04(火) 11:17:09.08 ID:OLQNnCzf0
ジャガイモの他に玉葱と長ネギ、にんにくも下ごしらえをして、軽く鍋で炒めた後、固形ブイヨンと一緒にじっくり煮詰める。
その間、残ったジャガイモを細かいサイの目切りにして、フライパンに厚めに油を敷き揚げる。
スープの最後に入れて、浮き身代わりにするのだ。触感も良くなる。
次はペスカトーレに取り掛かる。浅利と何か海老があればいいかな、と思っていたがなんと手長海老が売っていたので、
僕はついつい値段も確認せず買ってしまった。
トマトはホールトマトの缶詰でいいかと思ったけど、運良く色がしっかりとした完熟トマトがあったので、そのまま使用することにする。
あの駅構内のスーパーマーケットはなかなか良い品を取り揃えていることに関心をした。
85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:17:52.02 ID:r0swTFHJO
がんがれ
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:18:25.97 ID:eFH0fVh/0
うむ カレーにはトマトが合うね
871:2008/03/04(火) 11:18:46.73 ID:OLQNnCzf0
浅利を白ワインで蒸して、にんにくやバジルで香り付け。最後にぶつ切りにした手長海老と、サイの目切りにした完熟トマトを
軽く炒めてこちらは完成。後は時間を見てパスタを茹でるだけだ。
だいぶ煮詰まったスープをミキサーにかけたら丁寧に裏ごしをしてまた鍋に戻す。
ミルクと塩コショウで味付けをしたら完成だ。
その間にパスタも茹で上がり、フライパンで絡めてこちらも完成。
戸棚にあった皿に盛り付けて、食卓兼実験用台に乗せようと振り向くと、彼女がすぐ後ろに立っていた。
僕はびっくりして飛び上がったが、なんとか皿は落とさずに済んだ。
後ろにいるなら声くらいは掛けてくれてもいいのに…。というか、いつからそこにいたんだろうか?
彼女は僕には一切目を向けず、皿に盛られたパスタをさっきから凝視している。なんだかその視線が怖い。
調理台を勝手に使ったことを怒っているんだろうか?
「あ、あのさ。勝手にここ使ってごめんね。なんか料理がしたくなっちゃってー・・・なんてねー…」
料理から全く視線を逸らさず微動だにしない彼女に、僕は恐る恐る伺いを立てた。
「あ、あのー。…食べます?」
すると彼女は無言で頭を二度、縦に振った。
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:19:12.47 ID:eFH0fVh/0
カレーじゃなかったwww
891:2008/03/04(火) 11:20:07.10 ID:OLQNnCzf0
僕はホッと胸を撫で下ろす。別に怒っているわけではないみたいだ。
安心して食卓に皿を並べ、彼女を座らせる。僕はその向かい側に座り、「いただきます」と食事の始まりを合図した。
彼女も小さく「いただきます」と呟くと、黙々と料理を食べ始める。
僕は始めドキドキしながら彼女の食べる姿を見ていたが、特に味には問題なさそうだ。
今まで研究の合間にイスに座りもせず、栄養剤やお菓子を食べている彼女しか見てなかったので、
きちんと座り、食事を取る姿を見ていると嬉しくなる。
彼女はすぐにジャガイモのスープを飲み干したので、僕はさらに嬉しくなりスープボールに二杯目を並々注いであげた。
「どう?美味しい?」
「んぐ。はい」
嬉しさのあまり、僕はまるで新婚当初の専業主婦のような質問をしてしまったが、彼女は素っ気無く返事を返してきた。
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:21:49.41 ID:eFH0fVh/0
支援
91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:25:26.54 ID:JjWmyNesO
なんか…萌えてきた
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:30:14.94 ID:eFH0fVh/0
さるったかな
931:2008/03/04(火) 11:30:31.83 ID:OLQNnCzf0
「ジャガイモが残ったからさ、鍋にポトフを作っていくよ。そうすれば朝とかにも食べれるから」
「もぐ。感謝を申し上げます」
そんな会話を交わしつつ、僕は良い機会だと思い前から抱いていた懸案事項を聴いてみることにした。
「あのさ、君っていつまで経っても喋り方が堅苦しいよね。僕も普通に喋っているんだからさ、君も敬語抜きで話そうよ」
すると彼女は両手に持ったスプーンとフォークの動きを止めずに、返事を返してきた。
「ぱく。母に人と会話をする際には必ず丁寧語もしくは敬語を用いるように指摘をされましたので」
「なんで?」
「んん。私の会話内容が感受性に乏しく他人に威圧感や不快感を与える恐れがあるからだそうです」
今でも充分威圧感は感じているのに、これが普通の言葉だったらもっとすごいのか・・・。
僕は納得しつつも、ここにきて初めて気付いたことがあった。
「そういえば、君って一人暮らし?おうちの人っていないの?」
「もぐ。おりません。当建築物の世帯主は私ということになっております」
「え、じゃあ君のご両親は?」
「2年前に事故でなくなりました。んぐ。」
僕は質問をしてから、しまったと思った。よくよく考えればすぐわかるようなことだったのに。
デリカシーに欠ける自分を心の中で罵った。
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:30:46.71 ID:JjWmyNesO
そんなまさか
95以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:31:02.33 ID:eFH0fVh/0
支援w
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:31:33.40 ID:MhBm58vF0
誰かまとめサイト頼む
971:2008/03/04(火) 11:32:08.16 ID:OLQNnCzf0
それでも黙々と食事を続ける彼女。よっぽど口に合ったのか、僕には目もくれず一心不乱にスプーンとフォークを動かす。
しばらくは気まずい空気の中、食器が触れ合う音だけが研究室に響いた。
しかし、その沈黙をやぶったのは珍しく彼女の方だった。
「もぐもぐ。私の両親は2年前に渡米の最中に飛行機墜落事故により亡くなりました。以来私は自分の意志でここにいます」
急に話し始めたので、僕は少し驚いて彼女の方を見た。
さっきの僕の質問に対する返事の捕捉のつもりなのだろうか?
まだ何か言うのかと待っていたが、彼女はそれっきり相変わらずの無口を守った。
僕は彼女について何も知らない。
彼女が自分から話すことはなかったし、知ろうとすることが怖かったというのもある。
でも、それで本当にいいのだろうか?
別に彼女にとってはどうでもいいのだろう。研究に支障があるわけでもないし、不必要なことには興味も示さないだろう。
ただ、僕の中で彼女に対する興味が沸いてきた。
以前の様な研究を間に挟んだ興味ではなく、素の、そのままの彼女に対しての興味だった。
どういう環境で育ち、何を感じ、何を思って生きているのか。
彼女のことをもっと知りたい。そう本気で思った初めての瞬間だった。
「リクエストがあったら今度作るよ。何が好き?」
「小麦粉や澱粉質を使用した食品。むぐ。」
これはまた、幅の広い指定できたな。でもいい。こうやって少しづつ彼女のことを知っていけばいいんだ。
華奢な身体に詰めるだけ詰め込む、といった勢いで僕が作った食事を平らげていく彼女。
そんな姿を見て、僕は思わず微笑んだ。
981:2008/03/04(火) 11:33:52.24 ID:OLQNnCzf0
僕がこの高校に入学して初めて彼女に出会った。そして、驚愕の事実を知らされ
『ヨーグルト』の研究を手伝うようになったのが6月。
その日からは休みの日も毎日彼女の家に通った。
おかげで期末テストの結果は散々だったけど、僕は大して気にならなかった。
中学生の頃はただ「やらなければいけない」というだけで、目的もなく学業に精を出したが、
今にして思えばそんなに大事な事だったのだろうかと、不思議に感じる。
彼女の側で一緒に研究や実験をしてると、その思いはますます強くなる。
今あるこの瞬間がいかに有意義なものなのだろうかと。
991:2008/03/04(火) 11:34:48.65 ID:OLQNnCzf0
季節は夏になり、ほとんどのクラスメートは部活動に専念したり、
学習塾の夏期集中講座に参加をしていたが、僕と彼女は変わらずに研究所に籠もっていた。
むしろ学校がないぶん朝から晩まで研究に没頭出来た。
長時間の作業やデータを必要とする実験が出来ることから、夏休みは実に好都合だった。
僕は彼女と研究所にいるこの時間が楽しかった。と、言っても彼女は根っからの無口で、
1日の会話が全くない日もあったが、一緒に実験をして(僕は助手だが)予測通りのデータが得られた時は、
僕の方を向き「この理論は実証されました」と、いつもの無表情と抑揚のない声で言うのだ。
でも、僕にはそれがとても嬉しそうに見えた。
私見や感想を一切交えず、淡々と事実だけを語っていく彼女だが、長い時を一緒に過ごすと、
なんとなく彼女の中の極端に幅が狭い感情の揺らぎを、感じることがあった。
それもまた、楽しかった。
100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:36:03.00 ID:eFH0fVh/0
支援
1011:2008/03/04(火) 11:37:02.78 ID:OLQNnCzf0
それに、僕が作る料理を黙々と口に運ぶ彼女をみるのも、楽しかった。
特に「美味しい」だの「不味い」だの料理対する評価を下すわけではないが、
僕が作ったものは残さずに食べてくれた。
そして作り置きしていった料理も、次の日にはキレイに平らげ、鍋を洗ってくれていた。
今では駅構内スーパーマーケットで食材の買い出しに、彼女も付き合っている。
「私の食費なので」と、お金は全て彼女が出してくれる。
一緒に買い物をするのが、楽しかった。
時々、僕が持つ買い物カゴに鶏肉や魚、お菓子などを無言で入れていく彼女を見るのが、また楽しかった。
僕はこの数ヶ月間、まるで夢のような時間を過ごした。
彼女と一緒に実験をするのが楽しかった。
一緒に食事をするのが楽しかった。
一緒に買い物をするのが楽しかった。
一緒に居るだけで、楽しかった。
ずっとこの時間が続いてくれればと、心の奥底でそっと願った。
永遠なんてありえないと知りつつも、そう願っていた。
短い夏が過ぎて、暑さが徐々に涼しさに変わっていくにつれ、実験回数がだんだん減ってきて、
論文作成の為にパソコンに向かう時間が増えてきた。

彼女曰わく、『ヨーグルト』は完成していた。

102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:38:02.05 ID:eFH0fVh/0
支援
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:38:50.47 ID:eFH0fVh/0
>>96
いちおうページは用意できたけど投下終了後に>>1と相談したい
1041:2008/03/04(火) 11:38:53.07 ID:OLQNnCzf0
夏休みも終わり、学校も二学期が始まった。久々に見るクラスメートの顔が違ったように見えた。
みんな部活動や塾に精を出していたが、それだけではなく健全か不健全かわからないが
それぞれ充実した夏休みを過ごしたのが、会話の端に触れただけでわかった。
夏祭りや海、女の子、果てはナンパなんて単語も飛び出して、僕は友人の会話を聞いてドギマギした。
僕もそれなりに充実した夏休みだったと自分では思っていたが、どうやらみんなとは違った夏休みを過ごしたらしい。
僕は友人の会話に混じれず、話の内容に目を白黒させていると、友人の一人が急に
「で、おまえはどうなんよ?またあの無口っ子とデートしてたん?」
と、話を振ってきた。僕は驚いて返答に困ったが、周りの友人達は僕を見ながらニヤニヤしていた。
「オレ、あの無口っ子と結構近所でさ、おまえ等がスーパーで買い物してるの、何回も見てるんだよね〜」
と、その中の一人が額に指を立てて、ワザと考えるような仕草をした。
そういえば、こいつも末広町方面だった。他の友人達も
「その話、かなり有名だよな!」
「で、結局おまえ等ってどういう関係なん?」
と、騒ぎ立て始めた。他のクラスメートも、いつの間にかクスクス笑いながらこっちを見ている。
1051:2008/03/04(火) 11:40:03.49 ID:OLQNnCzf0
僕は正直焦った。僕達が一緒にいたのが、知らない間に噂になっていたなんて。
まぁ、いつも一緒に下校をしてたんだから、それは当然だろう。ただ、どういう関係だと言われても、困る。
なにせ、僕自身がその質問に答えられない。まさかみんなに研究のことを話すわけにはいかない。
そもそも信じてくれるわけがない。それに、彼女自身も僕の事をどう思っているのかすら知らない。
多分覚えが悪い助手か、はたまた便利な家政婦か、はたまた単純に発酵抑制物質としか見ていないのではないか。
僕がほとほと悩んでいると、そこにタイミング悪く、彼女が登校してきた。
みんなの好奇の目が、一斉に彼女に向けられる。
それを待ってましたと言わんばかりに、友人の一人が弛緩した顔で彼女に訊ねた。
「お前、こいつと付き合ってるの?」
周りの友人達が目を爛々と輝かしている。他のクラスメートはヒソヒソしたり、固唾を飲んで見守っている。
僕は赤い顔をして呆然と彼女の答えを待った。
この場から逃げ出したかった。
106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:41:03.78 ID:eFH0fVh/0
支援
1071:2008/03/04(火) 11:41:25.99 ID:OLQNnCzf0
彼女は常と変わらず、無表情だが相手をその場に張り付けるような力強い瞳を、不躾な質問をした友人に向け、数秒静止した。
本当に僅か数秒だったが、クラスメートはしばらくの長い休みのせいで忘れていた、
彼女が作る重い沈黙の効力を思い出し、黙り込み顔を伏せた。
同時に思い出した友人は、調子に乗りすぎた自分をたしなめるように、ツイと顔を背けたと同時に彼女は沈黙を破った。
「質問に対する的確な返答内容が該当しません。」
これまたいつもと変わらず抑揚のない声で答えたが、それで充分だった。
クラスメートは更に沈黙し、友人もそれ以上何も言えなくなった。
そのクラス全体の無言を彼女は、またもや返答に対する了解を得たと判断したのだろう。
視線を離すと自席に座し、一学期と変わらずノートにペンを走らせる作業に没頭した。
きっとみんなは、今の質問が彼女の逆鱗に触れたと思ったのだろう。
確かに彼女の返答は、言い換えれば「なんであんたに答えなくちゃいけないの?」と捉えることも出来るだろう。
でも、僕には彼女の言っている意味がそのまま理解出来た。
彼女は余計な揶揄や皮肉を混ぜて話さない。
さらに個人の感想や主観も挟まない。ただ、誰に対しても事実のみを伝える。
つまり彼女にもわからないのである。
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:42:39.87 ID:eFH0fVh/0
支援
1091:2008/03/04(火) 11:42:49.77 ID:OLQNnCzf0
多分、さっき僕が聞かれた「どういった関係?」といった質問だったら、
彼女ならば研究のことや僕の中にある特殊物質のことも、事細かに説明しただろう。
でも、今回の質問は「付き合っているか」否かである。
答えられるわけがない。
彼女には恋愛感情が理解出来ないのだから。
彼女が「付き合い」という単語を知らない訳がない。
ただ彼女にしてみたら「僕と彼女が付き合っている」という状態に、僕達とは齟齬が出てしまうのだ。
故にあのような答えしか返せないのである。
僕は騒ぎがうやむやのまま終わってくれた事にホッとしつつ、少し残念に思っていた。
やっぱり彼女にとっての僕は単なる協力者らしい。
わかっていたことだったけど、改めて実感してしまうと寂寥感が胸を占めていく。
それに多分、そう遠くないうちに研究は終わる。
彼女との繋がりが消える日がきてしまう。

1101:2008/03/04(火) 11:44:13.52 ID:OLQNnCzf0
すんません。一度、ランチタイムに入っていいですか?

eFH0fVh/0さん、乙です。
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:46:54.55 ID:eFH0fVh/0
どうぞどうぞ
112以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:48:01.79 ID:zE2r0vbu0
しえぬ
113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:48:32.79 ID:eFH0fVh/0
スレまるごと貼るだけじゃ芸がないな
ちょっとバイオネタが専門的なんで1自身にコメントなり注釈なりつけてもらったほうがよさげだ
114以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 11:48:50.80 ID:JjWmyNesO
待ってます
1151:2008/03/04(火) 11:51:19.49 ID:OLQNnCzf0
>>113
バイオネタもなにも・・・オレ自体書いててよくわからないよwwwwwww
1161:2008/03/04(火) 12:02:24.75 ID:OLQNnCzf0
では、再開します。
1171:2008/03/04(火) 12:02:50.59 ID:OLQNnCzf0
二学期が始まり約一カ月がすぎた頃。いつもは多種多様な回転音を響かせていた実験道具は今は鳴りを潜め、
変わりに研究所にはパソコンのキーボードとマウスを操作する音だけが響いていた。
夏休みが始まって6日目。僕の体内から摘出し続けた『ヨーグルト』に必要不可欠な抑制物質の無限増殖に成功した。
それからは実験がスムーズに進行していった。
きっと彼女の頭脳の中には、既に『ヨーグルト』の構築式が完全に出来上がっていたのだろう。
彼女にしてみれば、実験なんかはいわゆる確認作業なのである。
そうとしか思えない程、実験結果は彼女が言い表した数値と誤差がなかった。
彼女と僕は夏休みのうちに出来る限りの実験をし尽くし、数々のデータをはじき出した。
学校生活に縛られる今、その莫大なデータの集計に追われつつ、論文作成を手掛けていく。
彼女と僕は、並んでパソコンの前に座り、彼女は論文の作成。
僕はデータの整理やグラフの作成をするのが、最近の作業だった。
「しかし、僕にはどうにも不思議だよ」
「何が、でしょうか?」
僕達は目線はデスクトップから離さず、声だけで会話をした。
「だってさ、この『ヨーグルト』ってさ、普通に考えたら世紀の大発明じゃん。
そんなのが僅か、えーとだいたい四カ月で出来ちゃうんだもん」

「現在、多数の科学者が行っている余たの実験など単なるジグソーパズルのピースをはめているだけだと言われています」
「?どういうこと?」
118以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:04:01.81 ID:eFH0fVh/0
支援
1191:2008/03/04(火) 12:04:19.71 ID:OLQNnCzf0
「相対性理論なとが良い例でしょう。
アインシュタインが件の理論を世に排出するまでは科学者は古典力学を元に研究を重ねていました。
しかし相対性理論が真理に近いとなれば今度はこぞって相対性理論を元に研究を重ねる。
結果理論の証明をより確固たるものにしていく。
つまり一摘みの科学者を除けばその他の科学者は既存の理論の枠でしか研究が出来ないのです。」
「なるほどね。でも『ヨーグルト』は違うでしょ?君が独自に開発した研究だろ?」
「以前説明した通りにこの研究を最初に着手したのは今は無き健康食品会社と一部の団体です。
私もジグソーパズルをしている者の一人なのです」
「そうだっけ。でも、僕の抑制物質や君の分解因子を考えついたのは君じゃないの?」
「私の父です」
1201:2008/03/04(火) 12:05:34.21 ID:OLQNnCzf0
前に聞いた不慮の事故で亡くなった彼女のお父さん。
そうか、彼女はお父さんの研究を引き継いでいたのか…。
今更ながら、ここに色んな実験道具があることや、彼女がここで寝る間も惜しんで研究をしている理由がわかった。
ちょっと考えればわかったようなことなのに。自分の浅はかさに嫌気がさしてくる。
しばらく考え込んで黙っていたせいで、僕と彼女の間にイヤな沈黙を作ってしまった。
彼女は気にしないと思ったが、僕はわざと話題を変えようと違う質問を投げかけた。
「この論文が出来たらさ、勿論学会に発表するんだろ?その後はどうなるの?」
「どうもしませんが」
即答だった。
「弱小ですが『ヨーグルト』を学会内で認めさせようと躍進している団体があります。
そこにこの論文を父の名前で提出し、後は団体の活躍に期待します」
「それは…それじゃあ君が頑張ったことが、世の中に認められないじゃないか…」
「単なる一介の女学生が発表する研究なぞに学会が興味をしめすとでも?各々が各々の得意分野で合理的に努力するべきです」
僕は何も言えなくなった。
1211:2008/03/04(火) 12:07:57.72 ID:OLQNnCzf0
彼女の言うことは確かに正しいと思う。
でも僕は今まで彼女の頑張りをずっと見てきたつもりだった。
朝、学校に来てから帰るまで机にかじりつく彼女。
食事もろくに取らずに実験を繰り返す彼女。
徹夜をしたのがすぐに判るほど目の下にクマを作っているときもある彼女。
それを思い出すと、彼女が何一つ認められることなく『ヨーグルト』が世の中に認められるなんてことがあるのなら、
あまりにも報われないのではないか?
僕はやるせない気持ちになり、手を止めて下を向いてしまった。
彼女はちらりと僕を一瞥すると、また淡々と作業に戻った。
1221:2008/03/04(火) 12:09:13.96 ID:OLQNnCzf0
次の日。いつものように放課後彼女の家に着くと、僕に論文作成の課題を言い渡した彼女は研究所の奥へと消えていった。
少し不思議に思ったが、昨日まで手を着けていたデータ整理を思い出し、僕はパソコンの前に向かった。
一時間程作業に集中し、そろそろ夕飯の準備でもしようかと思い、僕は冷蔵庫の中を点検するため席を立った。
そして立ち上がり振り向くと、すぐ後ろに彼女がいた。
僕はびっくりしてたたらを踏むと、彼女は相変わらず抑揚のない声で
「あなたにお見せしたいものがあります」と言うと、くるりと振り返り奥へと向かった。
いつもながら、まったく後ろにいるなら声くらい掛けてもいいじゃないか、
と心の中で文句を言いながら僕は彼女の後に続いた。
彼女から招かれた場所は、二畳くらいのガラスで囲まれた部屋。
いつしか『ヨーグルト』がこの目で見たいとせがむ僕に、渋々了解した彼女が実験を行った部屋だった。
結局、エンジンを木っ端微塵に破壊して度胆を抜かれた苦い経験だけが残ったが…。
ガラス部屋の内側には、あの時と同じようにエンジンがポツリの鎮座していた。
ただ以前と違うのは、動力部にだけ複雑に導線が絡んでいたが、その他の配線は見当たらない。
どうやら今回は測定するための実験ではないらしい。
1231:2008/03/04(火) 12:10:51.38 ID:OLQNnCzf0
彼女は何を僕に見せたいのだろう?疑問に思っていると、乳白色の固まりが入ったシャーレを持った彼女が僕を見つめていた。
なんだろう?カリフラワーにも見えるような気もするが、少し違う。
それにもっと近くで見てみると柔らかそうな、僕が嫌いなこの臭いは…。
僕はシャーレの物体を凝視して「ヨーグルト」と呟くと、彼女は「いいえ。ケフィアです」と短く反論した。
これがケフィア…。初めて目にする。
「これより原動機を用いた突発性過発酵エネルギーの検証を行います」とだけ言うと、
彼女はガラス部屋の中に入り、エンジンにセッティングを始めた。
僕は前回の実験を思い出していた。
目を離していたスキに突然爆発して終わった実験。
今、思い返しても恐ろしい光景だった。
耳を裂くような爆発音。
ガラスに叩きつけられた金属の破片。
またアレが起きるのかもしれないと思うと、身震いがする。
セッティングが終わり操作盤の前に戻ってきた彼女は「では始めます」と、短く開始を告げた。
そしてレバーを無造作に引くと、ガラス部屋の中でエンジンが静かに稼動を始めた。
124以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:10:59.72 ID:eFH0fVh/0
支援
1251:2008/03/04(火) 12:12:32.52 ID:OLQNnCzf0
最初はゆっくりとピストンしていたエンジンは次第に動きを増し、10秒もしないうちに安定した動作を保っていた。
ホッと胸をなで下ろし、決まったリズムで稼動するエンジンを眺めていると、彼女もガラス部屋に視線を向けながら語り始めた。
「あなたもご存知のように突発性過発酵エネルギーは小資源で高効率なエネルギー供給が得られますが
バイオエネルギーのような一般生活での使用には向いていません」
「えーと、熱量変換効率が良すぎるんだっけ。だから発電所での活用が最も適している、だよね?」
「そうです。ただしこのケフィア菌ヨーグルトに関してはご覧のように
何故か突発力が抑えられた安定感あるエネルギーが得られます。」
「それについては研究しないの?」
「真理の探求を生業とする科学者ならばさらに追求すべきでしょうが…」
何故か彼女はそこで言葉を区切り、小さく溜め息をついた。
「今後の課題にしましょう」
普段の彼女からは想像出来ない弱気な仕草だったが、僕は触れてはいけない部分と思い、相槌を遠慮した。
そしてまたしばらく静かに稼働するエンジンを眺めていたが、いつの間にか隣で彼女がこちらに体を向けているのに気付いた。
僕も彼女に向き合うと、彼女はペコリと頭を下げた。
126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:12:59.70 ID:eFH0fVh/0
支援
1271:2008/03/04(火) 12:13:51.66 ID:OLQNnCzf0
「あなたのご協力のおかげで私の目的が完遂することが出来ました。多大なる感謝を申し上げます」
急にお礼を言い始めた彼女に戸惑ったが、僕は彼女の真意を悟った。
「研究の完成を祝しあなたが以前要望した実験を完全版でご覧頂きました。
あなたには実験だけではなく食事の面までお気遣い頂き、本当に何度お礼を述べても足りないくらいです。
今日で研究は終了です。どうぞ明日からは普通の生活をお過ごし下さい」
もう一度深く頭を下げ、小さくありがとうございましたと彼女は呟いた。
僕はこの時が来るのをわかっていたのに、いざ彼女に面と向かって告げられると、ただただ頭が真っ白になった。
何も考えられず立ち尽くす僕に、彼女は無表情に力強い瞳で見つめていた。
どのくらいの時間、そのまま見つめ合っていただろうか。
僕はようやく口を開き、
「夕飯だけは作っていくよ」
という言葉だけ、絞り出した。
1281:2008/03/04(火) 12:15:45.75 ID:OLQNnCzf0
外はすっかり薄暗くなっていた。顔に当たる風が少し肌寒い。
いつものように、玄関まで見送ってくれた彼女は、
「明日からはしばらく学校を休もうと思います」
と小さく呟いた。大きく目を開けた僕をそのまま見据え、
「研究所の整理をしたいですし学会や団体から連絡があるかも知れませんし…なにより…」
そこまで話すと、さっきのガラス部屋の実験室で見せた弱気な顔を下に伏せて、
「私は少し疲れました…」と、消え入りそうな小さな声で呟いた。
それはそうだ。
二年前に両親を亡くして精神的にも辛い状態だったろうに、誰にも頼らず黙々と研究を続けてきたのだ。
彼女にしてみたら、やっと今になって束の間の安息を得たのだろう。
僕も小さな声で「わかった」とだけ呟くと、後は何も言えなくなった。
こんな時はなんて言ったらいいんだろう?
129以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:16:32.12 ID:Q5wqZKxaO
目にゴミが・・・
130以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:16:52.25 ID:eFH0fVh/0
支援
131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:16:57.45 ID:HAhbK1240
今来たけど読んでる奴いるのか?
132以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:17:27.56 ID:V2hhKIXmO
エラいスレを開いてしまった
133以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:19:19.88 ID:EbKQElvkO
今来たから読んでくる
134以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:21:49.01 ID:Q5wqZKxaO
>>131
全部読んでる
全部読むのに40分ぐらいかかってるw
無口っ子萌え
135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:22:50.52 ID:cHykg6rdO
これはwww
誰か7行くらいであらすじ頼む
136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:24:18.40 ID:cKBxg/zKO
シャイニングフォースのヨーグルト知ってるやつ
いないだろうな・・・
137以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:24:46.86 ID:eFH0fVh/0
まだ昼飯以降の分読んでないw
1381:2008/03/04(火) 12:25:09.85 ID:OLQNnCzf0
伝えたいことや話してみたいことはいっぱいあったのに、いざとなると何も言葉に出来ない。
ありがとうと言いたかったのはむしろ僕のほうだった。
これまで味わったことがないような楽しいことをくれたのは、彼女だった。
今日で終わりなんかじゃなくて、明日からもここで一緒に肩を並べて研究をしたかった。
彼女に食べて欲しい料理だってまだたくさんある。
そして…一番伝えたいことだってある。
彼女と一緒に「これから」をもっと作っていきたかった。

…でも、僕の思いは何一つ言葉にすることは出来なかった。

そしてやっとの思いで顔を上げ、精一杯の空元気を作り
「ご飯はちゃんと食べるんだよ」とわざと声を弾ませて言った。
すると彼女はゆっくり顔を上げ、いつもの無表情に不似合いの強い光を宿した瞳を僕に向けて「考慮します」と短く告げた。
139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:25:10.82 ID:jWyKR4Q/O
今追い付いた
支援
1401:2008/03/04(火) 12:25:38.24 ID:OLQNnCzf0
そして、明日にでもまた会うような短い挨拶を交わし、僕は思い出がたくさん詰まった研究所を後にした。
しばらく歩いてから振り向くと、彼女はまだ僕を見送っていた。
またしばらく歩いてから気になって振り向くと、彼女はまだそこにいた。
少し歩いて振り返りまた進み、それを何度も繰り返したが、彼女はいつまでもそこにいた。
僕の姿が見えなくなるまで、見送ってくれた。
帰りの電車に揺られながら、僕は明日から何をしようか思案していた。
まずは遅れがちだった学業を励み、みんなに追いつかなくちゃ。
自主学習だけでは不安だからいっそのこと、塾に行こうかな。
明日学校に行ったらクラスメートに良いところがあるか聞いてみよう。
そんなことを考えていたが、頭の中は彼女のことでいっぱいで、勉強のことは浮かんでは消えてまた浮かんでは消えた。
そして最後には何も考えられなくなり、不意に彼女の感情に乏しい顔にそぐわない力強い瞳を思い出した時、涙がこぼれた。
電車の中、人目もはばからず僕は泣き続けた。
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:26:31.60 ID:bFqixs/aO
どうやらとんでもないスレを開いちまったらしい
142以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:26:55.71 ID:jWyKR4Q/O
>>1今何分目?
1431:2008/03/04(火) 12:27:02.80 ID:OLQNnCzf0
夏の残暑が完全に木枯らしに変わり、中間テストを終えて既にクラスの大半は期末テストに向けて勉強を進めていた。
彼女から研究の終わりを告げられた日から、1ヶ月が経とうとした。
少し休むと言ったはずの彼女は、未だに学校に顔を出さない。
よっぽど研究所の片付けが取り込んでいるのか、はたまた学会や団体に引っ張りだこにされているのだろうか。
しかし今の僕には知る由もない。あれから一度も彼女には会っていない。
実際のところ、あまりに学校に来ないので心配になり、何度か研究所に行こうかなと思ったが、なんとなく行きづらかった。
それよりも僕自身、かなり忙しい毎日を過ごしていた。
予想はしていたが、中間テストの成績をだいぶ落とした。
今まで見たことのない数字が答案用紙の端で僕を嘲笑っていた。
全ての採点済み答案用紙が戻ってきたとき、僕は焦燥感と屈辱感に駆られ急いで学習塾に申し込んだ。
それからは毎日寝る間も惜しんで、勉学に励んだ。
朝は早めに登校してその日の授業の予習。放課後は学習塾に通い、夜は遅くまでその日の復習。
高校受験の時でもこれほど机には向かわなかった、というくらいに必死に勉強をした。
幸い机にかじりつく習慣は体から抜けていなかったから、そんなに勉強をするのは苦にならなかった。
でも全然楽しくなかった。
1441:2008/03/04(火) 12:28:07.18 ID:OLQNnCzf0
>>142
ページで言うと今、17ページ。ちなみに全部で21ページ。
145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:28:20.24 ID:eFH0fVh/0
支援
1461:2008/03/04(火) 12:28:53.03 ID:OLQNnCzf0
忙しい毎日ではあったが、その中でも必ず一度は彼女のことを考えた。
今、何をしているだろうか?
ゆっくりと過ごしているだろうか?
きちんとご飯は食べているだろうか?
論文はどうなったのだろうか?
きちんと学会や団体は取り上げてくれただろうか?
一人で寂しくないのだろうか?
今、何を考え何を思っているのだろうか?

僕は彼女に会いたかった。
でも会いに行けなかった。
勇気がない意気地なしな自分を罵った。
そんなことを思い、少し落ち込んだ後、僕はまた机の問題集に取り組んだ。
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:30:38.87 ID:jWyKR4Q/O
>>144なるほど、把握した
1481:2008/03/04(火) 12:30:42.30 ID:OLQNnCzf0
季節は止まることなくまた過ぎ冬に入る前の大きな砦、二学期の期末テストが目前に迫っていた。
僕が通う学校は期末テスト期間に限り、テスト前には3日間学校は丸一日休みになる。
学生達はこの3日間で詰め込めるだけ詰め込める。僕もこの3日間は朝早くからずっと部屋にこもって勉強をするつもりだ。
1日目はそれこそ一日中部屋に閉じこもり、 食事以外はずっと問題集とにらめっこしていた。
そして二日目。この日は午後から塾に行く予定だったので、昼食のあとにリビングでくつろいでいた。
昨日は夜の3時まで勉強をしていたので少し骨休めである。
僕はぼんやりとテレビを眺めながら、一学期はテスト休みの時も彼女の家で実験をしてたっけ、とまた彼女のことを考えていた。
テレビではとある国家間での紛争の特集を放送していた。
原因は詳しくわからないが最初は小さい国同士の宗教思想の違いに大国が軍事参入した結果、
大規模で長期間の醜い紛争になってしまったらしい。
日本からも前線ではないものの、自衛隊が派遣されているところをみると、実に苦々しい気持ちになる。
僕はテレビ画面を眺めながら頭の中では別の事を考えていたが、ニュースキャスターの言葉で時が止まった。
1491:2008/03/04(火) 12:32:20.09 ID:OLQNnCzf0
『皆さんは現在この紛争でヨーグルトという兵器が投入されているのをご存知でしょうか?』
ヨーグルト?兵器?僕は一瞬で頭の中が真っ白になり、画面に映されたニュースキャスターに釘付けになった。
『なかなか変わった名前の兵器ですが、皆さんが朝食で食べるヨーグルトというわけではありません。
詳細は全く伝えられてませんが、植物や食品の発酵作用を利用した小型爆弾のようです。』
僕は途中までみた後、急いで外に飛び出した。息が切れるのも気にする余裕がなく、駅に向かい電車に飛び乗った。
平日の昼下がり。座席はかなり空いていたが、僕は腰を掛けずに手すりに掴まった。
心臓の鼓動の音が早く、うるさい。息が上がって喉が乾く。意味もなく耳鳴りが響き渡る。
さっきのニュースキャスターが言ってたことが頭の中でグルグル回っていた。
『百年近く昔に日本の広島と長崎に投下された原子爆弾を覚えてますでしょうか?
放射能などの後遺症は今のところ観測されてはいないものの、匹敵するほどの破壊力を持つというのが
ヨーグルトという兵器なのだそうです。
更にその特長は火薬を用いず低コストで高威力を発揮する量産性が高い爆弾ということです。なお、この小型爆弾を前線に投入したアメリカ軍は形勢を一気に有利に進め、専門家によると紛争は沈静化に傾いていくだろうとのことです。』
僕は目を固くつむり、何に祈ったらいいのかわからないけど、とにかく強く祈った。
そして一度も呼んだことのない彼女の名前を何度も心の中で叫んだ。
『そしてこれもまた不確定な情報ですが、
このヨーグルトと呼ばれる小型爆弾が開発されたのは、なんと我が国、日本かも知れないとの噂が囁かれています。
もしも本当のことならば非常に許すことの出来ない事実ではないでしょうか?
なお現在まで確認出来ています犠牲者の数は…』
1501:2008/03/04(火) 12:34:31.08 ID:OLQNnCzf0
彼女の家の鍵は開いていた。
僕は駅からここまでの長い道のりを走り続けたため、ほとんどなだれ込むようにドアを開けた。
肩で荒く息をつきながら室内を見回すと、彼女がこちらに背中を向けて立っていた。
僕は彼女に話し掛けるため呼吸を整えようとしたが、運動不足な体はそう簡単に回復してはくれない。
随分前から稼働を止めた実験道具。
闖入者があったのに微動だにせず、振り向こうともしない彼女。
静まり返った研究所は、しばらく僕の情けない呼吸音が支配した。
どのくらいの時間が経ったのだろう。僕の心肺機能も正常に戻りかけ、額から流れていた汗も引きかけてきた頃、
彼女はそのままの姿勢でいつもの抑揚のない声で僕に語りかけてきた。
151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:34:37.03 ID:JjWmyNesO
マジカヨ…
152以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:35:46.19 ID:eFH0fVh/0
支援
1531:2008/03/04(火) 12:36:18.17 ID:OLQNnCzf0
「あなたも報道番組をご覧になったのですね。
あれで紹介されていた小型爆弾は我々が研究した『ヨーグルト』を元に開発されたとみて相違ないでしょう。
どうやら実用段階では合格点なようです。」
彼女は僕に話し掛けいるはずなのに、こっちを見ようともせず、淡々と話を進める。
「もともと科学の進歩に犠牲は望まぬとも生じるものです。
今回のヨーグルトの実用実験は戦争の道具として利用されましたが
原子力とて同様の事例を経て現在に至るわけですから問題はありません」
僕は彼女の言葉を受け入れるごとに、悲しさが胸の奥から込み上げてきた。
「こう表現しては語弊があるかも知れませんが、私は喜ばしいことだと思っております。
科学の、更なる進歩の軌跡を実感することが出来たのですから」
だって彼女の肩が
「そしてその礎を築いたのは、私達なのです。私達の研究は決して、無駄では、なかったのです。そうです。私達の、研究は…」
彼女の声が
「……こんなことのために…今まで頑張ってきたんじゃない!」
こんなにも震えていたから。
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:37:19.47 ID:eFH0fVh/0
支援
155以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:38:08.75 ID:Q5wqZKxaO
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
1561:2008/03/04(火) 12:38:53.34 ID:OLQNnCzf0
僕はその時まで気付かなかったが、彼女は右手に鉄パイプを握り締めていた。
確か研究所の奥にある廃材置き場にあったものだった。
そして目の前にあるいびつな形の管が無数伸びている実験道具に向かって、鉄パイプを両手で持ち頭上にゆっくりと振り上げた。
いけない!僕は弾かれるように彼女に向かって駆け出した。
壊しちゃダメだ!
彼女は短く息を吐くと、握り締めた両手を強く握り締めた。そして小さく息を吸い、鉄パイプを振り下ろした。
僕は間に合わないと思って急停止し、顔を伏せた。

157以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:41:43.37 ID:eFH0fVh/0
支援
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:45:59.26 ID:Q5wqZKxaO
ん?
1591:2008/03/04(火) 12:47:08.50 ID:OLQNnCzf0
ガラスや金属片が砕ける音が聴こえると思ったが、変わりに聴こえてきたのは、小さなすすり泣く声だった。
僕は恐る恐る顔を上げると、華奢な背中を丸め鉄パイプを握り、両手を震わせてた彼女がいた。
そのままの姿勢で始めは弱々しくすすり泣いていたが、理性の糸が切れたのだろう。
関を切ったように声を振り絞り泣き出した。
彼女が今まで大事に扱ってきた実験道具を壊すことなど出来るはずもない。
それはそうだ。
彼女にとってここにある全ての実験道具が、きっとお父さんの肩身なのだろう。
手からするりと落ちた鉄パイプが空しく地面を打つ。
彼女は感情の起伏に乏しく、常に理性的に行動する女性だった。
そうなるように心掛けたわけではなく、元々そういう性格なのだろう。
でも、両親の死や残された研究の完遂に追われてしまい、
さらに彼女の心の中に残されたたくさんの思いや気持ちといったものを隠してしまった。
それが今、崩れていく。
160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:48:08.39 ID:eFH0fVh/0
支援
1611:2008/03/04(火) 12:48:51.54 ID:OLQNnCzf0
彼女自身も止めどなく流れ出す感情に耐えきれないように、声を上げ泣き叫ぶ。
僕は泣き叫ぶ彼女の後ろに立ち、肩に手をかけると、ここに来て初めて彼女は振り向いた。
彼女の両目にはいつもの力強い輝きは見られず、変わりに頬を濡らす宝石のような涙が、光を放っていた。
彼女は自分の瞳からこぼれ落ちる輝きをすくわんとするように、両手で目を押さえようとしている。
僕は彼女の瞳を見て、ますます何も言えなくなったが、そんな僕に彼女は力なくしだれかかった。
僕は何も言わず彼女を抱き締めると、彼女はさらに大きな声で泣きながら、何度も「ごめんなさい」と叫んだ。
戦争で亡くなった人達への懺悔だろうか、
亡き父へ研究を汚してしまったことへの謝罪だろうか、
それとも今まで手伝ってくれた僕へのお詫びだろうか、
わからない。
僕は強く彼女を抱き締め、精一杯の優しさを込めて「いいんだよ」と囁いた。
彼女はまた、その痩身が引き裂かれてしまうのではないかと思う程、強く泣き叫んだ。
何が正しくて何が間違っているかはわからないけど、一つだけわかることがある。
彼女は決して悪くない。

162以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:49:50.88 ID:eFH0fVh/0
支援 誰か絵師いる?
163以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:53:30.96 ID:7tT3NUY0O
ここまで全部よんだ
絵スレに宣伝すればよくね
1641:2008/03/04(火) 12:54:08.61 ID:OLQNnCzf0
ここに来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
もう外はすっかり暗くなり、研究所の中は外から入ってくる街頭の明かりでやっと見えるくらいだった。
彼女は、全身の水分が無くなるんじゃないかと心配するくらいに泣き叫んだが、
今はだいぶ落ち着いたようで僕の胸の中で大人しくしゃくり上げている。
壁にかけられた時計を見たが、暗くてなかなかよくわからない。
仕方なく腕時計を見ようと彼女の背中に回した腕を離すと、彼女も顔を伏せた格好のまま華奢な体を離した。
そして身を翻すとパソコン台に近づきボックスティッシュから二、三枚取り出すと、豪快に鼻をかみ始めた。
歩いた足取りが少し覚束無くて不安だったが、力いっぱいちり紙を使う姿を見てホッと胸を撫で下ろした。
どうやら一度では納得いかないらしく、彼女が何度も鼻をかむ間、僕は壁際まで手探りで進み照明のスイッチを入れた。
165以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:54:22.71 ID:eFH0fVh/0
既成のやつでこんなんしか出来ないがスマン
http://www13.atwiki.jp/kefir/
1661:2008/03/04(火) 12:55:55.70 ID:OLQNnCzf0
蛍光灯に照らされた研究所。ここしばらく足を運ぶことがなかったが、つい昨日来たばかりのような錯覚に見まわれる。
それ程、短かったが濃密な時間を過ごしてきた証拠だ。
初めはわけも解らずに連れて来られ、衝撃的な事実を告げられた。
次の日からはビーカーに涎を垂れ流す作業を言いつけられ、それだけではヒマなので彼女にご飯を作る仕事も加わった。
ここに来ることに慣れてくると実験やデータ作成の手助けをするようになった。
初めて『ヨーグルト』の威力を目の当たりにした時は本当に心臓が止まるかと思った。
そして毎日実験に明け暮れた夏休み。全く外に出ず、不健康この上ないことだったが楽しかった。
夏が終わってからはひたすらデータ整理とグラフや資料作りに終われた。
そしてここで過ごした最後の日。
僕らの研究の成果を実証する静かに稼働していたエンジン。
いつまでも僕を見送ってくれた彼女。
全て鮮明に思い出せる。
167以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:55:57.62 ID:Q5wqZKxaO
>>165
GJ!
1681:2008/03/04(火) 12:57:50.35 ID:OLQNnCzf0
彼女と僕が大切に作り上げた研究。
でも尊いたくさんの命を奪う結果になってしまった研究。
今となっては無邪気だった思い出一つ一つが、残酷に思えた。
何がいけなかったのだろうか?僕と彼女が望んだことは研究の成功だけで、地位も名誉も栄光も望んではいない。
こんな結果になるなんて考えてもいなかった。その浅はかさがいけなかったのだろうか?
結果だけを見ればそうなのだろう。そして決して許されない罪を作ったのは僕達だ。
どんなに詫びても許しを乞おうとも、償いきれないほどの罪を抱えた。
だから望まなくても生まれてしまった結果を、僕達は受け入れなければいけない。
169以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:58:06.73 ID:eFH0fVh/0
支援
1701:2008/03/04(火) 12:59:05.20 ID:OLQNnCzf0
視線を彼女に戻すと、もう鼻はスッキリしたのか、無表情で僕を見つめる。
相当泣きはらしたため、目の周りは赤く腫れぼったくなっていたが、彼女だけが持つ力強い光は既に両目に宿っていた。
僕はそんな彼女を見つめ返し、安堵しつつも気持ちを引き締め小さな科学者に尋ねた。
「で、これからどうするの?」
彼女は相変わらず抑揚がないが決意を新たにした声で答えた。
「結論から申し上げれば研究を再開します。」
彼女は、僕が大きくゆっくり頷くのを確認すると、話を続けた。
「まずは研究の更なる追求による一般的活用段階の提示まで進展させ『ヨーグルト』の兵器外利用を訴えます。
それには突発性が低く熱量変換率が安定している『ケフィア菌』の性質を解明することが先決でしょう。
今後はこの研究を中心に進めていきます。それともう一つ。私達が作り上げた論文の行方です」
僕は自分の顔が強張るのがわかった。
彼女のお父さんの理論を元に、僕達で完成させた『ヨーグルト』は一体どういった経由で戦争に利用されたのだろうか?
「疑いをかける最有力候補としては私が論文を提出した研究団体でしょう。
そちらには父のつてで知り合いがいるので調査をして頂きます。
171以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 12:59:22.97 ID:eFH0fVh/0
支援
1721:2008/03/04(火) 13:00:50.04 ID:OLQNnCzf0
学会も疑念の余地ありですがそちらに打診をするには少し難しいのでしばらく対策を練るとしましょう」
「ちょっと待って。例えばさ、その戦争で兵器として利用されたのは、本当に僕達が作った『ヨーグルト』だったの?
他の人が僕らとは違った方法で開発した可能性だってあるんじゃないか?」
「その可能性も否定出来ないでしょう。しかし我々が開発した『ヨーグルト』と断言しても良いと判断します。
学会や団体が公表する研究内容では新たな理論を構築しない限り実用化は皆無でしたから。
そしてもう一点。ただ報道番組で紹介されるほど大々的に『ヨーグルト』という単語が出てくること自体に違和感を感じます。
本当に『ヨーグルト』…」
彼女はそこで一旦言葉を区切ると、軽く目を閉じた。
そしてもう一度目を開けた時、いつも圧倒されるような力強い輝きを放つ瞳に、
更なる頑なな決意という意志を込めて堂々と宣言をした。
「『ヨーグルト』…。…いいえ、『ケフィア』です!
本当に心から研究の成就を願う科学者なら人の命を奪う道具に自らの研究題目を名付けるわけがありません!
私としては『ケフィア』を研究するものに被害が及ぶことを望んでいるものがいるように思えるのです!
だとしたら決して座視出来ません!」
普段研究に対しては冷静沈着な彼女が、このときばかりは声を荒げ激昂した。
1731:2008/03/04(火) 13:02:59.82 ID:OLQNnCzf0
以前、彼女に聞いた事がある。初めて『ヨーグルト』の研究を試みた科学者が、
最初の実験材料として使用したのが『ケフィア』という菌を元に作られたヨーグルトなのだそうだ。
それ以来、『ヨーグルト』を研究する科学者の中には、その未知の可能性溢れる研究の敬意を表して『ケフィア』と呼ぶらしい。
きっと彼女は、悪用された自分の研究が良いことに使用されたいという願いを込めて、今『ケフィア』と呼んだのだろう。
それに、報道番組でニュースキャスターが何度も『ヨーグルト』と呼んでいたことを、
自らが言うことで思い出してしまったのではないか?あのテレビ画面が映し出していた惨劇を。
彼女の以前より輝きを増した瞳を見つめ返し、僕は改めて実感していた。
あぁ、初めて会った時から、彼女のこの瞳に惹かれていたのだ、と。
そして彼女がそうしたように、僕も心の中で決意を新にした。
もう絶対に、僕が大好きな彼女の瞳を陰させはしない。彼女は僕が守ってみせる!
174以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:03:05.03 ID:eFH0fVh/0
支援
175以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:03:30.22 ID:JjWmyNesO
来たかケフィア…
1761:2008/03/04(火) 13:04:24.03 ID:OLQNnCzf0
「今後の対策は以上です。あなたにはまたご足労をお掛けするかも知れません。それを承知でご助力頂けますか?」
答えは決まっている。
「もちろん。ただしその前に…」
彼女は訝しげな顔で顔を横に傾げる。
「夕飯の買い出しに行こうか?どうせろくなもの食べてなかったんでしょ?」
僕はニッコリと笑う。彼女もつられて笑っ…たら良かったんだけど、いつもの無表情で首を縦に振っただけだった。
でも、それで充分だ。
177以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:04:30.58 ID:Q5wqZKxaO
書籍化決定
1781:2008/03/04(火) 13:06:26.02 ID:OLQNnCzf0
駅までの長い一本道を彼女と肩を並べて歩く。辺りはすっかり暗くなり、
帰宅する人影もまばらで、どことなく寂しい雰囲気が漂う。
でも、僕の心の中は温かい気持ちで満たされていた。
さっきここを通って彼女の家まで向かっていた時とは、全く別の感情で溢れている。
何はともあれ、取り返しのつかない出来事で打ちのめされた彼女は、
今はすっかり立ち直ったようで、いつものように無言だが姿勢良く道を歩く。
僕としても、明日からまたいつも通りの日々が始まると思うと、嬉しくて仕方がない。
高校に入学してからの僕の日常は、いつの間にか「放課後に彼女の研究所に行くこと」になっていたようだ。
でもそんな生活に不服など一片もありはしない。
今の僕にはそっちの方が充実している。
しかし、明日からと思いすっかり忘れていた期末テストのことを思い出した。
一気に意気消沈すると共に、焦燥感が胸をよぎる。
いくら彼女との研究が楽しいからと言って、こればっかりは疎かに出来ない。
そういえば、塾を休んでしまったことも思い出し、今日は徹夜だと覚悟した。
1791:2008/03/04(火) 13:08:12.14 ID:OLQNnCzf0
「あの、ちょっといいかな?」
申し訳ない気持ちを込め、彼女に声を掛けると、「はい?」と顔をこっちに向けず短い返事だけ返した。
「実は明後日から期末テストが始まるから、研究の再開はテストが終わった後でいいかな?」
恐る恐る伺いをたてると、しばしの沈黙のあとに、「了解しました」と、これまた短く返答がきた。
「では私も明後日からは学生らしく慇懃と登校することにします」
「はぁ。その方がいいよ。ところでテストは大丈夫なの?」
「問題ないと思われます」
即答だった。でも彼女が勉強をしているところは一度も見たことがない。
学校では机にかじりつき、ノートに研究に必要な構築式を書き殴っているし、家に帰っても実験に没頭する姿しか記憶にない。
まぁでも、彼女自身が大丈夫というならば、大丈夫なのだろう。
そんなことを考えていたら、不意になことを彼女が口を開いた。
「今日は来て頂きありがとうございました。もしもあなたが来なかったら私は最悪の選択をしていたかも知れません」
僕は、何て返事をしたらいいのか迷った。
1801:2008/03/04(火) 13:10:15.14 ID:OLQNnCzf0
彼女が僕に感謝するなんて何だかこそばゆいし、彼女がいう最悪の選択というのに、胸がつまった。
実際にそうなっていたかも知れないと思うと、ゾッとするし何とも言えない気持ちになる。
隣にいる彼女を見ていると、とても想像なんて出来ない。
「それにあなたがいたから研究を再開しようという気持ちになれましたし。あなたが…」
何故かそこで一旦言葉を区切り、彼女は遠くを見つめ何やら思案する顔になった。
僕はどうしたのかと訝しげていると、彼女は頭一つ大きい僕の方を見上げ感情が一切こもっていないような声で続けた。
「そういえば私はあなたの名前を知りません」
まさに呆気に取られるというのは、このことだ。
僕は半分苦笑い、半分驚きという器用な顔を作り、彼女に突っ込んだ。
「いや、だって入学した時は隣の席だったじゃん?しかもほぼ毎日顔を合わせていた仲だったのに?…うそでしょ…?」
「あなたという個体の識別には問題がなかったので」
彼女の力強い瞳は、今は僅かな探求心で輝いている。
その宝石のような眼差しに、僕は苦笑いで答えるしかなかった。
たぶん今日一番の、いや彼女と出会ってから今までで一番の驚愕だ。

1811:2008/03/04(火) 13:12:50.62 ID:OLQNnCzf0
長いこと読んで頂きまして本当にありがとうございました。
途中でなんどもサルってマジびびりましたが、
苺ましまろ見ながらなんとかがんがりましたww

もしよければ点数を付けてもらえれば幸いです。
酷評でも結構ですんで、よろですwwwwww
182以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:14:16.27 ID:eFH0fVh/0
乙 これから後半読むw
183以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:15:05.41 ID:DMYei/MmP
文句なしの100点だよ
読んでないけど
184以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:15:08.74 ID:eFH0fVh/0
ページを区切りたいんでスレ番号で章立てを教えてくれると助かる
185以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:15:52.68 ID:7tT3NUY0O
おつーー
ちょっと描いてくる
この手の口調のは苦手だったけど面白かった
終わりがちょっと突然すぎたような気がするけど
ケフィアからよくここまでwww
186以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:17:34.44 ID:Q5wqZKxaO
文章が読みやすくてとてもよかったと思います
全俺が泣いた
187以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:18:41.79 ID:JjWmyNesO


100点だよ
とっても面白かった
1881:2008/03/04(火) 13:23:27.42 ID:OLQNnCzf0
>>184ハアクwww

第一章1-8
第二章9-18
第三章19-65
第四章66-72
第五章73-97
第六章98-140
第七章143-176
あとがき178-180


区切り過ぎたか?
189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:23:51.49 ID:VEKb6UoUO
ラストシーンで「僕」はもっと喜んでいいはずだぜ

100点!
190以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:24:24.20 ID:eFH0fVh/0
>>188
了解した 携帯の人多いからそれくらいでもおk
1911:2008/03/04(火) 13:25:13.08 ID:OLQNnCzf0
>>185 >>186 >>187
あざーすwwwwww

一応、続きも書く予定。でも今、違うのを書いてるからソレ終わったらします。
1921:2008/03/04(火) 13:26:23.00 ID:OLQNnCzf0
>>189 あざーすwwwwwww
心配性で几帳面な性格、ということになっていたので。
193以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:30:46.47 ID:jWyKR4Q/O
これは前編として読むなら100点
ここで終りなら消化不良ということで75点
1941:2008/03/04(火) 13:33:59.45 ID:OLQNnCzf0
>>193 あざーすwwww
まとめる文才なくてスマソwwwwwww
195以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:38:10.48 ID:eFH0fVh/0
>>178-180はあとがきでおk?あとがきつーと作者のコメントっぽいからエピローグかな?
1961:2008/03/04(火) 13:39:07.15 ID:OLQNnCzf0
>>195
あ、それですwwww
197以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:39:31.57 ID:4+JQ9WHwO
なげEEEEEEwwwww

後でゆっくり読むよw
とりあえず>>1乙!
1981:2008/03/04(火) 13:41:08.69 ID:OLQNnCzf0
>>197
長くてスマソwwwでも宜しくですwwwwww
199以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:43:56.40 ID:EdF5X4d80
よかったです

とてもよかったです
2001:2008/03/04(火) 13:47:57.29 ID:OLQNnCzf0
>>199
長いのに読んでくれてありがとwwwwwwwwwww
201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:53:46.34 ID:hDdDZG680
ツインテールは…
ウルトラマンのあれじゃないよな支援
202以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:54:40.27 ID:jWyKR4Q/O
後編は明日上げるのかい?
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 13:56:35.75 ID:eFH0fVh/0
http://www13.atwiki.jp/kefir/
修正個所あったら教えて っていうか修正してくれてもおk
204以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:00:27.32 ID:eFH0fVh/0
絵スレで頼んでみたけど無理ぽw 気長に待ってみるかな
205以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:03:09.74 ID:hDdDZG680
それでも・・・それでも絵師ならやってくれる・・・!
206以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:08:05.88 ID:eFH0fVh/0
>>185
見落としてた もしかして今描いてくれてる?
207以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:09:18.11 ID:EbKQElvkO
二時間かかったが今読み終わった
 おもしろかった!!100点だね
208以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:10:06.51 ID:hDdDZG680
185は俺だけど
他の画力のある人の登場待ちながら構想練ってるww
2091:2008/03/04(火) 14:11:05.22 ID:OLQNnCzf0
>>201
ウルトラマン…?オレは単なるツインテール萌えですwwwww

>>202
すんません。まだ買いてもいません。

>>203
多大なる支援、乙!!111

>>204 >>205
書いてもらえるならなんでもwwww
ちなみにオレの「彼女」のイメージはバンブレのさとりんから眼鏡取った感じww
210以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:11:47.18 ID:eFH0fVh/0
>>208
wktkせざるをえない
2111:2008/03/04(火) 14:13:45.05 ID:OLQNnCzf0
>>207
二時間も貴重な時間を費やしてくれてありがとうwwwww
212以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:18:59.51 ID:zE2r0vbu0
乙・・・。いいえ、お疲れ様です!
2131:2008/03/04(火) 14:22:53.26 ID:OLQNnCzf0
>>212
そちらさんこそ、乙…、…いいえ、お疲れ様です!
2141:2008/03/04(火) 14:42:52.65 ID:OLQNnCzf0
>>204
どこのスレに頼んだん?
215以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:45:21.65 ID:eFH0fVh/0
>>214
俺の頼み方が悪かったんだと思うw

お前ら!絵を描きまくってうpスレは落ちるものだと理解したッ!
http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1204588401/
2161:2008/03/04(火) 14:57:10.24 ID:OLQNnCzf0
>>215
う〜ん、良い人がいるといいなwwwww



ところで変なこと聞くけどさ、コレを何かの大賞に応募したらどうなると思う?
率直な意見を聞いてみたいのだが・・・・・
217以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 14:59:46.40 ID:eFH0fVh/0
>>216
俺には文学賞とかの類はちょっと分からんw
みんなに聞いてくれw
218以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:13:32.10 ID:eFH0fVh/0
これからも書いていくなら自前のblogがあったほうがいいかもなぁ
219以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:13:34.11 ID:zE2r0vbu0
ヨーグルト…。…いいえ、ケフィアです。
のネタがわからない人にはあれか・・・
220以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:13:59.37 ID:hDdDZG680
賞なあ…
ラノベ的な方向なのだとしたら全く分からない
普通の賞も全く分からない
221以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:20:56.41 ID:eFH0fVh/0
>>219
千年ケフィアのCMはおよそ見てるからいいんじゃねw
2221:2008/03/04(火) 15:25:07.05 ID:OLQNnCzf0
ブログ作ってそこで小説のせるよりさ、
VIPで小説スレ立てるほうが似合ってるかもww

VIPが好きだしwwwwwwww

てか、スレで発表したら大賞に応募出来ないのかな?
223以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:27:36.66 ID:eFH0fVh/0
いや スレで投下して終ったらまとめる感じで

未発表作品に限るってのはよくあるかも<大賞
ここに貼ったら2chと住人に著作権が発生してしまうとか
2241:2008/03/04(火) 15:30:37.21 ID:OLQNnCzf0
>>223
なるほどね

前に自分でブログ作ったことあるけど、途中で辞めちゃって
それ以来、作るのが億劫…。
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:42:11.98 ID:eFH0fVh/0
ちょっと出かけてくるお もしスレ落ちてもまとめは覗くから
2261:2008/03/04(火) 15:47:23.28 ID:OLQNnCzf0
>>225
行ってらっしゃいwwwwwww
オレも5時半には出かける。嫁と息子を迎えに行かねばwww
227以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:47:57.09 ID:hDdDZG680
いてらー
萌え絵スレに宣伝したけどだめか…くっ…
2281:2008/03/04(火) 15:56:41.22 ID:OLQNnCzf0
>>227
たぶんね、このスレが長すぎて最後まで読む気が失せてくるのが原因かとww
229以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 15:57:42.95 ID:eFH0fVh/0
ちょwww妻子持ちだったのかよwww
2301:2008/03/04(火) 16:03:13.68 ID:OLQNnCzf0
実は…。
嫁が2ちゃん大嫌いだから昼間しかVIP出来ないwwwww
231以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 16:04:46.42 ID:hDdDZG680
なんとwww
232以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 16:05:45.95 ID:n7ee8Yhq0
最初の2、3レスしか読んでないんだけど、、
400字詰換算枚数で100枚無いみたいだから

賞に応募するにしても文学界新人賞あたりになるんだが、

本気で投稿するなら5回くらい改稿した方がいいと思うよ。
純文学ではないみたいだけど。
2331:2008/03/04(火) 16:14:41.34 ID:OLQNnCzf0
>>232
dクスwwwww

スニーカー新人賞とかどうかな?なんて夢見た時期もあたwwwwwwww
234以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/04(火) 16:55:05.83 ID:hDdDZG680
http://up2.viploader.net/upphp/src/vlphp152372.png
雑でごm・・・。・・・いいえ、全力です!
2351:2008/03/04(火) 17:08:16.75 ID:OLQNnCzf0
>>234
何故だ・・・見れない
2361:2008/03/04(火) 17:10:04.19 ID:OLQNnCzf0
すんません、見れました!
男の方は大体こんなイメージでした!dクスwwwwwwwwww
女の方も見たい!
237ケフィア ◆JtVKWCnPUo :2008/03/04(火) 17:35:45.57 ID:OLQNnCzf0
そろそろ出かけますw
今後、また続きや新しいのを投下するかもしれないんで一応酉つけていきます

読んでくれた皆さん、本当にありがとうございましたwwwwwwwwwwww
238以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
筆が進まないwww
いてらー