ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 19:26:34.81 ID:wA3C/Tju0
いちおつ!
4 :
ハラワタ:2008/02/13(水) 19:33:20.29 ID:pQVItnR3O
こんにちは!ハラワタだよ!
いちおつ
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 20:00:26.38 ID:+9Qh51B9O
ハルヒ「あまあああああアッー!!い」
古泉「」
保守
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 20:22:37.38 ID:0doNuUb80
いちもつ
ほ
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 21:17:08.23 ID:RI3TG2fwO
いちおつ
ほす
保守
保守
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 22:18:12.48 ID:Atgp3Rp3O
ほ
保守
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 22:46:19.75 ID:ygTie9ij0
保守
あと一時間ちょっとしたらラッシュが始まるのかな?
第5章の前半部、投下しておk?
おk
では、以下より。第4章までは
ttp://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4247.htmlを参照のこと。
↓↓↓↓↓↓↓↓
あれから、どれ位の時間が経っただろうか。
七番街――いや、かつて七番街があった場所へのゲートの向こうからは、建物が爆ぜる音、悲鳴
と絶叫、そして大切なものを失った人たちの慟哭が止むことは無かった。俺たちは、それらを耳で
聞きながら、魂が抜けてしまったかのように、荒れ果てた公園に座っていた。
――ハルヒも大分落ち着いたみたいだが、それでも気を持ち直したわけでもなく、憔悴しきった
虚ろな瞳でブランコに乗って、ゆらゆら、ゆらゆらと力無く漫然と揺らすだけだった。俺はハルヒ
にかける言葉を何一つ持てないまま、ため息を吐いて「空」を見上げた。
そう、空だ。スラムからはプレートに邪魔されて見えなかった、本当の空。ハルヒたちが忌み嫌
っていたプレート。それが神羅の手で崩落し、仲間やたくさんの人々を押しつぶした。その崩れた
プレートの隙間から、空が見えていた。そこでは星が美しく瞬き、その光が零れ落ちて俺たちを優
しく照らし出す――俺たちにとって、これ以上無い皮肉な光景だった。
『HARUHI FANTASY Z -THE NIGHT PEOPLE-』
第5章 STARLIGHT
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:09:34.40 ID:ygTie9ij0
支援
「……そうですか。ウエッジたちは……」
俺は古泉にウエッジたち3人のことを話した。あいつらは素人目にも助かる見込みは無かった。
そして、一緒に連れて行くことも叶わぬまま、支柱に置き去りにするしかなかったんだ……。恐ら
く、そのまま――
「……あなたが自分を責める必要はありませんよ。僕たちも、彼らも、精一杯やった。その結果な
んです」
ああ、ありがとな。そう言ってくれるだけで少し救われた気になるぜ。しかし――
「――ええ、非道いものです。僕たちを潰すために街一つ潰してしまうのですから。一体、何人死
んでしまったか……」
そう、俺たちが原因でテロとは全く無関係の人が死に追いやられたのもまた事実だ。失ってしま
ったものは、もう還ってこない。スラムの人々も、そしてマリンも――マリン?!
『涼宮さん、大丈夫だから!あの子、大丈夫だから!』
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:13:04.49 ID:0doNuUb80
支援
26 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/13(水) 23:15:48.59 ID:YIb/IA+u0
あのプレート支柱で朝比奈さんがハルヒに向かって叫んでいた言葉を唐突に思い出す。もし、あ
の言葉が真実なら――
「ハルヒ!!」
俺はハルヒが未だ漕ぎ続けているブランコの鎖を掴んだ。
「……キョン?」
「マリンは生きてる!」
突然嬉々として叫びだす俺に、ハルヒは訝しんだ。
「――は?バカなこと言わないでよ……マリンは、死んだの。ウエッジたちと一緒に、プレートに
潰されて……」
「違う!朝比奈さんが神羅に連れ去られた時、朝比奈さんがお前に言ってただろ?!『あの子は大
丈夫』って。あれはマリンのことだ!」
ハルヒはその時のことを思い出したのか、眼を大きく見開き俺に飛び掛る。
「嘘じゃないでしょうね!ホントのホントに大丈夫なんでしょうね!!」
く、苦しいぞ、ハルヒ……。それにお前もちゃんと聞いてたなら、後は朝比奈さんを信じるだけ
だぜ。
支援
支援
「もちろん、ミクルちゃんだもん、信じるわ。まだ会ったばかりだけど、とってもいい子だって分
かるもの。けど……」
ハルヒは急に声を落とし、七番街があった方角を見詰める。
「あたしにマリンを迎えに行く資格、あるのかしら……ううん、これから神羅と戦っていく資格も
。星を救うって粋がった所で、あたしたちは無関係の、大勢の人たちを死なせるだけだった……だ
から、もうこれ以上戦っても……マリンもみんなも不幸にするだけ……」
大きな力の前に完膚無きまま叩きのめされ、自分自身に絶望しているハルヒ。俺がこいつにかけ
るべき言葉を考えあぐねていると、傍らに立っていた古泉がハルヒの前に出る。そして「すみませ
ん」と先に詫びた後、
バシッ!!
古泉の残された左手が、ハルヒの右頬を強く叩いていた。
「…………」
突然の出来事にハルヒは怒るどころか絶句するしかない。俺もだ。まさか、古泉の奴がハルヒに
手を上げるなんてな。――何の根拠も無いのに、そんな事考えられなかったんだ。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:20:15.38 ID:0doNuUb80
支援
「――涼宮さん、しっかりして下さい!あれは何もかも神羅の連中がやった事なんです!確かに、
僕たちのやり方が正しかったわけじゃない。でも、今回のことでハッキリしたじゃないですか!!
あいつらは――神羅は、自分たちの金や権力の為に星の命を吸い取って、人の命も簡単に奪い去る
悪党なんだ!その神羅を潰さない限り、この星は死んでしまう!神羅を倒すまで僕たちの戦いは終
わらないっ!!」
「古泉君……」
「古泉……」
古泉の叫びに圧倒されると共に、俺はこいつが感情を露わにしてぶつけたのを意外に感じていた
。いつもは何考えてるか分からん微笑を浮かべてばかりだったからな。俺は古泉の過去に何があっ
たのか知らない。だが、神羅に対して何か言いようの無い激情を抱いているのは何となく分かった
。それがハルヒの活動に参加した動機なんだろう。だから、古泉はハルヒにもう一度立ち上がって
欲しくて、敢えてきつい事を言ったんだ。
「出過ぎた真似をして済みません。処分は後で如何様にも。ですが、涼宮さん。僕たちはもう……
後戻りはできないんですよ」
「…………」
ハルヒは黙って古泉を見据えていたが、急にブランコからスッと立ち上がる。
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:28:46.99 ID:ygTie9ij0
支援
「……ごめん……古泉君。あたし、どうかしてた。いろんな事がありすぎて、頭、ぐちゃぐちゃに
なって……でも、前に進まなきゃいけないんだよね。ビッグス、ウエッジ、ジェシーのためにも。
あたしたちが原因で神羅に殺された人たちのためにも……!」
「涼宮さん……」
そしてハルヒは古泉を指差して、いつものあの調子でこう言い放った。
「――古泉君!団長に向かって狼藉をはたらいたあなたの処分は、これからずっとSOS団副団長とし
てあたしに尽くす事!神羅をぶっ潰してこの星を救うまでね!最後まであたしについて来なさい!
!」
「――了解しました……閣下」
古泉もいつものスマイルを取り戻していた。とりあえずは一件落着だな。目の輝きを取り戻しつ
つあったハルヒは、黙って様子を見ていた俺に、やっと言ってきた。
「……キョン、マリンがいる所知ってるよね?案内してくれる?」
その一言、待ってたぜ。多分マリンは伍番街スラムの朝比奈さんの家にいるはずだ。
「――それに、ミクルちゃんも助けに行くんでしょ?」
支援
!――よく分かったな。それは俺一人で十分だと思ったんだが。お前が煮え切るかどうか微妙だ
ったしな。
「ふんっ、あんたの考えてる事くらい分かるわよ。どうせ『彼女を巻き込んだのは俺だ』って責任
感じてるんでしょ」
「……まあな。でもそれだけじゃない。その前に確かめたいことがあるんだ」
「何?」
「……『古代種』」
谷口や国木田が朝比奈さんの事を指すときに口にしていた『古代種』という言葉。そう、俺はそ
の言葉を聞いたことがある――
――我こそ古代種の血をひきし者。この星の正当なる継承者!――
まただ。また頭の中で『声』が――でも、これは「俺」じゃない。これは――
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:36:59.18 ID:ygTie9ij0
支援
「――セフィロス……?」
頭が強烈に締め付けられる感覚に、俺はみたびその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
「もう、キョン、しっかりしてよね!」
そして二人に起こされる俺。何かこれ定型化してきたな。一体どうしたんだ、俺の身体は――い
や、今はそんなことよりマリン、そして朝比奈さんだ。俺たちは伍番街スラム、朝比奈さんの家に
急いだ。
「何てこったい……SOSだかCQDだか知らねえが、プレートごと落っとこすなんてどうかしてるぜ!
!」
「グスッ、グスッ……ゴゴゴゴ……ってなったらバリバリバリっときてドドドドドーン!!て……
こわかったよ……グスッ」
「ミッドガルの下にいりゃ、そこそこの暮らしがきると思ってたのに、まさかあのデッカイやつが
落ちてくるなんとは……」
「そう、それよ!けどよ、だからと言って今更何処へ行きゃ……」
七番街プレート落下はすでに伍番街スラムにも伝わっており、大きな騒ぎになっていた。――ど
うせそんな事だろうとは思っていたが、プレートを落としたのは俺たちSOS団の仕業とされており、
住民は恐怖がない交ぜになった怒りの感情を、SOS団にぶつけていた。こればかりは神羅の情報操作
の巧みさに舌を巻くしかない。俺はハルヒを一瞬見遣る。
支援
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:43:29.89 ID:0doNuUb80
支援
「――大丈夫よ。それに、あたしたちがアレを招いたというのも事実だし……。それより、早く行
きましょう」
朝比奈さんの家に辿り着くと、タカコさんが俺たちを待っていたかのように迎えてくれた。
「キョン君……だったよね。ミクルのこと、でしょ?」
「……すみません。神羅に攫われてしまいました……」
タカコさんはそっと溜め息を吐き、意外なことを言った。
「知ってる。ミクルは、ここから連れて行かれたから……」
ここで?どういう事だ?俺の問いにタカコさんはどことなく自嘲的に答えた。娘を守りきれなか
ったことを責めているかのように。
「ミクルが、望んだことよ……」
……俺は、ずっと疑問に思っていたことをようやくぶつけてみた。
「――どうして彼女は神羅に狙われるんですか?」
「ミクルは『古代種』。古代種の生き残りなんだって」
やはり出たその単語。しかし引っかかるのは、まるで他人事のようなタカコさんの言葉。ハルヒ
も当然疑問に思ったようで、
「……『なんだって』、って?あなた、母親でしょ?」
タカコさんは哀しげに少し目を伏せて、こう打ち明け始めた。
「……あたしの名前は『中西』タカコ――あの子の本当の母親じゃ、ないの」
――あれは……そう十数年前……あたしは結婚の約束をしていた恋人と一緒に暮らしていた。だ
けど――あなたたちも知ってると思うけど――あの頃は戦争中でね。彼はウータイという遠い国に
徴兵で駆り出されて行った。
そんなある日、休暇で帰って来るって手紙を貰ったから、駅まで迎えに行った。列車が駅に着く
と、たくさんの疲れ切った兵隊さんが降りて来て、奥さんや恋人、お母さんを見つけては抱き合っ
てた……でもね、いくら待っても彼は列車から降りて来なかった。――あの人の身に何かあったん
だろうか?いや、休暇が取り消しになっただけかもしれない。……それからあたしは毎日駅へ行っ
た。
支援
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:52:28.80 ID:0doNuUb80
支援
支援
45 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/13(水) 23:53:05.12 ID:YIb/IA+u0
そして――あの日。
最終列車まで待っても結局彼は戻ってこなくて、肩を落としてとぼとぼと帰ろうとしたあたしの
後ろで、ドサッと何かが倒れる音がしたの。振り返ってみると、長い黒髪が綺麗な女の人がもう虫
の息でそこに臥せっていた。傍では彼女なんだろう小さな女の子がいて、彼女に取りすがって泣き
じゃくってた。
『大丈夫!?』
あたしが彼女に駆け寄って抱き起こすと、彼女はお腹からたくさんの血を流して、苦痛に顔を歪
めつつ静かに首をふるふると振った。――もう、自分が永くない事に気付いていたのだろう。彼女
は最期の力を振り絞るかのように、こう言った。
『……わたし、朝比奈……ミユキ、といいます。この子を……ミクルを…安全な所へ……』
そうして、その人はそのまま――息絶えた。……戦争中はよくある風景だったよ。
……結婚の約束をしたままあの人は帰らず、当然儲けるはずだった子供もいない。あたしも寂し
かったんだと思う。ミクルを自分の子供だと思って、家に連れて帰ることにしたの。
ミクルはすぐにあたしに懐いてくれた。ちょっと恥ずかしがり屋さんだったけど、あたしにいろ
いろな事を話してくれた。……どこかの研究所みたいな所から母親と逃げ出したこと。お母さんは
星に帰っただけだから寂しくなんかない……あたしには意味が分からなかった。夜空の星かって聞
いたら、違う、この星だって言われて……まあ、いろんな意味で不思議な子だった。
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:56:09.70 ID:0doNuUb80
支援
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:57:45.59 ID:mVAIqTMm0
48 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/13(水) 23:58:40.02 ID:YIb/IA+u0
『お母さん……泣かないでね』
ある日、ミクルが突然言い出した。何があったのかって聞いたら……
『お母さんの大切な人が死んじゃったの……心だけになってお母さんに会いに来たけど、でも、星
に帰ってしまったの……』
その時のあたしは信じなかった。でも…それから何日かして……あの人が戦死したという知らせ
が…届いたの……泣きじゃくるあたしを、ミクルは傍にいてずっと慰めてくれた。――この子がい
てよかったと、その時あたしは心からそう思えた。この子がいなかったら、ひょっとするとあの人
の後を追っていたかもしれなかったから……。
――それからは、いろいろあったけど、あたしたちは幸せに暮らしていた。そして、ミクルが今
くらいに成長したある日のこと……神羅の制服を着た、ミクルと同じくらいの若い男が突然家に入
ってきた。その男はタークスの国木田と名乗ると、あたしたちにこう言ってきたの。
『ミクルを返して欲しいんです。随分探しました』
ミクルは神羅の制服を見るや否や急に怯えてあたしの腕の裾を掴んであたしの後ろに隠れた。あ
たしは、あの子の言ってた研究所というのが神羅のものだというのに、何となく気付いた。そして
、そこでどんな非道いことをされたのかも。
支援
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/13(水) 23:59:27.70 ID:0doNuUb80
支援
『いやです!絶対いやっ……!』
滅多に出さない大声を出して拒絶するミクルに、国木田は諭すように優しい調子で言った。
『ミクル、君は大切な存在なんだ。君は特別な血をひいている。君の本当のお母さんの血。「古代
種」の血だ』
……もちろん聞いたよ。『古代種』って何だってね。
『古代種は至上の幸福が約束された土地へ我々を導いてくれます。ミクルはこの貧しいスラムの人
々に幸福を与えることが出来るのです。ですから我々神羅カンパニーは、是非ともミクルの協力を
――』
『――違う!あたし、古代種なんかじゃありません!』
必死に首を振るミクルに、国木田は穏やかに畳み掛けた。
『でもミクル、君は時々誰もいないのに声が聞こえることがあるだろ?』
『そんなこと……そんなこと無いっ!』
ミクルはそのまま二階へ逃げるように駆け上がった。――でも、あたしには分かっていた。あの
子の不思議な能力……一生懸命隠そうとしていたから、あたしは気が付かない振りをしていたけど
……。
支援
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:08:07.85 ID:YpR1HlHx0
支援
――タカコさんの話を聞きながら、少し疑問に思うことがあった。神羅は自分たちの目的を果た
すためにはどんなことでもやる奴らだ。俺たちを潰すためにプレートを住民ごと落とす位だからな
。よくこれだけの間神羅から逃げ続けることが出来たものだ。
「神羅はミクルの協力が必要だったから、手荒な真似は出来なかったんだろうね……」
「じゃあ、今回はどうして……?」
ハルヒの疑問に、タカコさんは階段の方をチラッと見遣って答える
「――小さな女の子を連れて、ここに帰ってきたの。その途中で国木田の奴に見つかってしまった
らしくて。逃げ切れなかったんでしょうね、きっと。その女の子の無事と引き換えに、自分が神羅
に行くことになったの……」
……マリン、だな。
「マリン!!マリンの為にミクルちゃんは捕まったの?!」
突然叫びだすハルヒに、タカコさんはやや睨むように見た。
「――あなたがあの子の母親?」
「……ホントの、じゃないけど、娘のように思ってるわ」
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:10:53.75 ID:YpR1HlHx0
支援
支援
すると、タカコさんはハルヒの目の前に立つと、左手を挙げ、いきなり右の頬を叩いた。ハルヒ
は暫し絶句してタカコさんを見詰める。あのハルヒが同じ日に二度も、しかも同じところをビンタ
されるなんてな。驚きだぜ。
「……ごめんね。でも、あなた、娘を放ったらかして何やってるの!!?」
タカコさんが怒ってるのは、朝比奈さんのことではない。大切な『娘』を置いて危険なことをし
ているハルヒに対する、同じ『母親』としての怒りだった。
「……分かってる。あたしもさっきまでずっと考えてた。あたしにマリンを迎えに行って、あの子
を抱きしめる資格があるのかなって……でも、答えは出ないの。マリンといつも一緒にいたくても
、戦わないと星が死ぬ――みんな、死んじゃうの。だからあたしは戦わないといけない!でも、や
っぱりマリンが心配で――心がグルグル廻ってしまうのよ!!」
ハルヒの言葉は、事情を知らない者にとってはさっぱり要領を得ないと思う。でも、タカコさん
は何かを感じたらしく、優しくハルヒの手を取った。
「叩いちゃって、ごめんね……とにかく二階で眠ってるから、会ってあげて」
「…うん。あたしこそ、ごめんなさい。あたしがミクルちゃんを巻き込んだから……」
ハルヒの目元に光る涙をそっと、タカコさんは拭う。
「気にしないで。ミクルだって、そんな風に思ってないよ……」
支援
59 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/14(木) 00:15:26.03 ID:vBi5jdLp0
取り敢えず、今回はここまでです。支援の皆様いつも感謝です。
続きはうまくいけば明け方にでも投下できるかと思います。
(余談)
今回の初登場人物は
榎本美夕紀(ENOZ)=イファルナ(エアリスの実母)、でした。
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:21:48.07 ID:YpR1HlHx0
>>59 GJ!!
FF7またやりたくなってきたなぁ
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:21:54.50 ID:gFOsh9Cv0
>>59 乙なんだぜ
個人的な感想だが、『途中下車〜』のくだりがなかったのがちと残念だったな
しかしこのままいくと、古泉とダインの辺りどーなっちまうんだwwwww
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:27:46.16 ID:YpR1HlHx0
そういえば、ラッシュが始まると思ってたけど来ないな
保守
クロス物って途中で投げられやすいイメージあるから読んでなかったけど、この作者さんは大丈夫そうだ。
ちょっくら最初から読んでくるぜよ。
確かにクロスものの未完率は異常。作者にはぜひともがんばって書き上げてほしい。
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 00:50:39.46 ID:YpR1HlHx0
クロス物やオマージュ物でも、銀河SOS伝説くらい崩せば書きやすくなるのかな?
早速感想ありがとうございます。
>>61 あの台詞はもう少し先立ったような気がします。いまんとこプレイして確認して無いので。
もちろん、名台詞なのでどこかで登場すると思います。ちなみに、あの話はただいま絶賛
考慮中です……。
>>64 >>65 嬉しいやらちょっとプレッシャーに感じるやら……でも、ありがとうございます。期待
に沿えるよう頑張る所存です。拙い文章ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 01:11:01.80 ID:JpY/yEE40
FF7やりたくなった
保守
書き込みテスト
71 :
新・孤島症候群 ◆VDgHU0rDdk :2008/02/14(木) 02:04:14.52 ID:FmWQMj0D0
72 :
新・孤島症候群 後編 上 1/12 ◆VDgHU0rDdk :2008/02/14(木) 02:07:01.85 ID:FmWQMj0D0
朝比奈さん、長門、と続き、次は古泉ではないか、と思っていた矢先、
気を失ってしまった俺。
────次に狙われたのは俺だったのか、と思っていたんだが実は…………。
新・孤島症候群─後編─上
長門の部屋で不意に意識が暗転し、気絶していた俺だったが、
どうやら誰かに揺さぶられているようだ。誰だ?
「……キョン」
いつも起こされるのは妹の声だったはずだが、この声は違うな、だけど聞き覚えのある声だ。
「起きてよ」
前にもこんなことがあったような気がするな。確かこのあと……。
「起きなさいってば!」
首をしめられるような気がした俺は本能的に身構えた。そのおかげで急激に意識がよみがえる。
「……う、うーん」
「気がついた?」
ぼんやりした頭を振りつつ起き上がり、俺を揺り起こしたであろう人物を確認する。
黄色いカチューシャが目に入る、間違いない、ハルヒその人である、
しかし、いつものような覇気のある生き生きとした表情ではなく、少し不安げに曇っていたので別人のようにみえる。
「ハルヒか、って、なんで俺寝てたんだ?」
「知りたいのはこっちよ、いつまでたっても戻ってこないから探しに出たら、
あんたはこんなところで伸びてるし、なにやってんのよ」
さて、なにしていたんだっけ? ……そうだ、長門の部屋で、ってここは廊下?
どうやら俺は廊下で伸びていたらしい、だが、たしか最後の記憶じゃ本の栞を探して長門の部屋にいたはずなんだが。
「ところで古泉は?」
長門の部屋で気を失う前に一緒にいたニヤケ顔の姿を思い出した、最後に見たのは後ろ姿だったが、
「古泉くん……?」
一瞬、何か奇妙な表情をするハルヒ、なんだ? だがすぐさま俺を睨み返して、
「それもこっちのセリフよ、あんたが古泉くんと一緒に有希を探しにいったんでしょが」
ハルヒは古泉を見ていない、ってことは俺が長門の部屋に入った後、古泉も着いてきたってことだよな、
だとすれば俺が背後に感じた気配は古泉だったのか? いや、なぜだか違う気がする、
あの時の気配は俺より低い位置から感じた、古泉は俺より背が高いからな、
だとしたら俺が気を失った直後に長門の部屋に来て、俺を気絶させたヤツを見たはずだ。
「まさか」
俺は今居る場所を再確認する、長門の部屋の前の廊下だ、
てことは部屋の中で気絶した俺をここまで移動させたやつが居るってことだ。
おそらくそれは古泉で間違いないだろう、おかげで俺は気を失う程度で済んだってことか、
そして、気を失った俺を放置していたとなると、おそらく古泉も朝比奈さんや長門と同様に、
行方不明になってしまったってことだろう、くそ、俺の身代わりに。
俺は閉ざされた部屋の扉をにらみつけながら立ち上がる。
「どうしたのよ」
ハルヒは訝しげに俺を見る、そりゃそうだろう、ハルヒにはこの状況の説明は何もしていない、
すべて古泉たちが仕組んだサプライズだと思っているんだからな。
だが、そんなことを考えている余裕はなかった。俺は後先考えず、長門の部屋の扉を開けた。
予想どおり、誰も居ない、そんなことは確認しなくても解っていることだ、
俺が今一番確認したいことは本の栞だ、しかし、その栞は本ごとなくなっていた、
どうやら犯人はそれを見られたくなかったようだ。だから俺を気絶させたんだろう。
やはり栞になにかしら長門のメッセージが書いてあったってことか。
「あんたねえ、なにがあったかぐらい少しは説明しなさいよ、いつも……」
「ハルヒ」
なにか言いたげだったハルヒのセリフを途中でとめて、
「一階の食堂に向かうぞ」
そう言って俺はハルヒの手を掴み、廊下をずんずんと歩き始めた。
「何よ? え、ちょっとキョン?」
戸惑うハルヒをよそに、俺は森さんたち機関の人達に相談しに行くことにした。
食堂に着いた俺達はさっきまで居たであろう森さんや新川さん達が居なくなっていることに困惑していた。
テーブルの上にある飲みかけのカップや万年筆、厨房には湯気が出ているケトルと、
おぼんに乗っている食器がポツンとあった。
みんな煙のように消えてしまっている。と言った方がいいかもしれない。
くそ、ここで古泉が言っていた言葉を思い出した。ハルヒの前では決して取り乱したりしないってことだったな。
とはいえ、この状況で冷静にしていられるほど俺は出来た人間じゃないってことだ、だってそうだろ。
さっきまで気絶させられていた俺が冷静にしているのもおかしな話である。
俺はしばらく呆けてしまっていたのだ。
「ねえ、キョン……」
いつもとは違うおとなしい感じでハルヒは口を開いた。
「これ、ひょっとして夢なのかな」
ハルヒはきっといつぞやのことを思い出しているようだ、まずいな、
このままいくと神人とやらが出てきてあの夜と同じことが起こるかもしれん、そうだとしたら最後は……。
いかん、それだけは回避したい、それにこの場所には俺の妹と鶴屋さんもいるんだしな。
いや、まてよ、ひょっとしたらここはすでに閉鎖空間ですでに俺達二人しか居ない、なんて事はないだろうな。
それはありえないか、ここが閉鎖空間じゃない証拠に、外で振っている雨と風の音が聞こえている、
たしかあの空間は雨も風も雲も太陽もなかったからな。
瞳を輝かせて何かを思いついた時のような笑顔のハルヒと、今の不安げなハルヒ、さて、どちらがいい?
ハルヒには笑顔が一番似合ってると思うが、それは同時に俺が苦労する羽目になるのだ、
で、しおらしいハルヒはどうかというと、これはこれで可愛く見えてしまう、さて、俺はなにを言っているんだろうね。
いかん、落ち着け俺、古泉の言葉を思い出すんだ。冷静にならないと闇雲にハルヒを不安にさせてしまう、
こいつには真相を知られる訳にはいかないんだからな。
今更だがハルヒの手前、一芝居打っておかないといかん、
「ど、どうやら古泉達に一杯食わされたようだ、な」
少々声が上ずってしまっていたが、そこは大目にみてほしいところだ。
しかし、悪いな古泉、恩を仇でかえすようなことをしちまって、とりあえず全部お前たちの仕業ってことにさせてもらうぞ。
「なに? どういうこと」
「こいつは以前お前が言っていた有名なミステリーの模倣じゃないのか、
たしか『誰も居なくなった』とかなんとか」
「ちょっと違うわよ、『そして誰もいなくなった』よ」
ハルヒはいつもの調子にもどって、
「ふうん、なるほどねぇ、キョンにしてはなかなか冴えてる推理じゃない」
不敵な流し目で俺を見下すように見るハルヒ。その姿を見て俺はなにやら無性に不安になってきた。
俺はまた余計なことを口走ったのではなかろうか。
「と、なると……」
ハルヒがあごに手を当てて思案しはじめた、そして何かに気付くようにハッとして、こちらを向く、
そのハルヒの姿を見ていた俺も同様にあることに気が付いた、同時に言葉が出る。
「ひょっとして次は鶴屋さんか妹ちゃんがいなくなるかも」
「まさか次は鶴屋さんと妹が……」
顔を見合わせたハルヒと俺は瞬きする間も惜しんで二階に駆け上がった。
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 02:15:19.24 ID:JwylBfx/O
支援
「おぉっと……、どうしたんだいっ、お二人さん」
居眠りをして船を漕ぎ出していた鶴屋さんが俺達が勢い良く部屋に入ってきたことに驚きながら立ち上がった。
「おんや? 二人だけ? 有希っこと一樹くんは?」
鶴屋さんと妹はどうやら無事のようだ、俺達は結構派手に登場したんだが、妹はベッドで熟睡したままだった。
ある意味大物になりそうだ、だが火事や地震などがあったら逃げ遅れること必至だぞ。
「それがどうやらみんな消えてしまったみたいなのよ、ていうのは建て前で、みんなどっかに隠れてるんだわ、
キョンが言うには有名なミステリーの模倣らしいんだけど……」
ハルヒは鶴屋さんに説明し始めた、去年の冬の時、ハルヒと二人で古泉が作った推理ゲームを解き明かしたからか、
鶴屋さんにも謎解きのご教授を願うみたいだ。
他力本願で悪いがもう鶴屋さんしか居ないのである、てか、ここに居る四人しかもうこの館にはいないのだ。
いや、もう一人犯人が居るのかもしれないが。
くそ、一体どうなってんだ? 本当にみんな消えちまったのか?
古泉が言っていた存在が希薄になってるってやつなのか? だとしたら俺が感じたあの気配と、
気絶させられたことにつじつまが合わねえ、それに人だけが消えて荷物や形跡が残ってるのも変だし。
俺はハルヒと鶴屋さんがなにやら相談しながらあーだこーだと言っているやり取りを眺めつつ、
部屋にあった椅子に座り、まとまらない疑問を頭の中で渦巻かせていた。
何か見落としている部分はないか? さてどうだろうか、古泉なら色々と説明してくれそうだがな。
「本当にお解かりでないんですか? とっくに気付いていたと思っていましたが」
いつぞやの古泉のセリフがよぎった、前言撤回あいつの言い回しはわかりにくいんだった、
話がよけいややこしくなりそうだ。
いつも困った時は長門に相談していたっけ、今回も相談したな、結果は俺次第ってことだったが、
「あなたに賭ける」だから何をだよ、俺はただの一般人なんだ。
それから朝比奈さん、あなたのお姿とあなたが淹れて下さったお茶が懐かしゅうございます。
「彼女の一挙手一投足にはすべて理由がある」まさかな、それはないだろう、あいつは結構単純だ。
しかし、単純だからこそこの世界は安定していたのかもしれない、あと強情で負けず嫌いだが。
ん、ハルヒ? まさかハルヒがこの状況を望んだからこうなったのか?
いや、それはありえん、そんなことハルヒが望むわけないじゃないか、確信はないが俺はそう思うんだ、
だが、俺がそう思っていただけで実際は違うのか?
人間の心理なんてそうやすやすと計り知れるものではない、ということなのか。
「彼女には願望を実現する能力がある」こんなことを古泉は言っていたが。
事実ハルヒが望んだとされることがすべて現実になっているのはあまりない、と思う。実際はあるんだが。
ハルヒが認識できなかったらかなっていないのと同じだ、だろ?
今のハルヒならそこそこ常識的な行動を身につけてき始めているが、SOS団結成以前だったらどうだったのか、
それこそ本気でいろいろとやってたらしいからな、そのことに関しちゃ谷口あたりが詳しそうだが、
俺はあまり知らん、ひょっとしたら古泉あたりが後始末に追われていたのかもしれんがな。
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 02:18:09.21 ID:JwylBfx/O
支援
もしも、だ、ハルヒのようなトンでもパワーが俺に有ったとして、願望が実現できるとしたらどうだろう、
しかも多感な中学生くらいの時にだ、ふむ、はっきり言おう俺は超能力者になって、
悪い異星人に連れ去られたヒロインを救い出すような物語の主人公になりたかったのだ。そこ、笑うなよ。
結構本気でサイコキネシスやテレパシーの存在を信じていたんだからな。
てことはハルヒような力があればその願望が実現できたのだろうか?
それとも世界の物理法則を捻じ曲げるような願望ははなっから実現不可能として却下されてしまうのか。
ならば実現可能な願望ならどうだろうか、いやいや、そんなありえないこと考えるんじゃなくてだな、
そんな力を持った人間としてもだ、いずれ誰かと意見が衝突したりすることもあるし、
気に食わないやつがいたりすることもあるだろう、そんな状況になってどういうことを思うのか?
親しい友人でも喧嘩するときがある、親と言い争いになったりもする、
そんな心理状況の時に思ってしまったことが実現するのだとしたら……。
古泉の言葉じゃないがちょっとした恐怖だな。佐々木が辞退することも頷ける。
だがハルヒはそうじゃなかった、あいつは閉鎖空間を作り出し、巨人を暴れさせてストレスを解消してたんだ、
古泉達はどう思ってるか知らないが、ある意味平和的だといえるだろう、誰かの不幸を願ったりするよりもな。
俺だったらせめて望みがかなうのは三つくらいにしておくのが丁度いいかも知れん。
俺の望みは安定した収入と犬を洗える位の庭付きのマイホームと安穏とした老後、こんなもんか……。
────で、なんの話だっけ? あれ? ガクリとイスの背もたれに乗せていた肘がはずれ、
びくっとなって目を開いた。
なにやら幸せな家庭生活を営んでいた気がするんだが、夢か、って、寝てたのか俺。
まずい、こんなときに寝ちまうなんてなんて不謹慎なんだ、ハルヒに見られたら何を言われることやら……、
て、いない? 今この部屋にいるのは俺と眠っている妹だけだった。
ちょっとまて、冗談だろ。一気に血の気が失せた、ハルヒ、鶴屋さん、二人とも消えちまったのか?
そんな馬鹿なことがあるか、さっきまでそこにいたんだぞ、何の物音も立てずに二人を消しちまったっていうのか。
呆然と立ち尽くしていると、入り口のドアがガチャリと開いた。
びくっとして俺はその方向を見る、
「お、お目覚めかいっ、キョンくんっ、口によだれがついてるよぉん」
「つ、鶴屋さん、どこにいってたんですか、心配したじゃないですか、ほんとに」
俺は一気に全身の力が抜けて再度イスに座り込んだ。ついでによだれも拭いておく。
「いやぁ、めんごめんごっ、ちょいっとした生理現象さっ」
うぐいすの鳴き声のようにあっけらかんと言い放った鶴屋さんはベッドの上に座り込んだ。
「目が覚めたら二人ともいなくなってたからてっきり消えてしまったのかと……」
ふと鶴屋さんの顔を見るとなにやら俺の顔色を伺っているような感じでこっちを見ている、いったいなんなんだ?
「で、ハルヒは一緒じゃなかったんですか?」
「やっぱハルにゃんが心配かい?」
ニヤッと笑った猫科の生物の表情でまじまじと俺の顔を見る鶴屋さん、思わず目線をそらしてしまう。
「か、仮にも団長様だからな、一応。でも俺なんかが心配しようがしまいがあいつは自力でなんでも出来ちまうやつですよ」
そういいながら俺は立ち上がる、なんでかな、なにか急激に部屋にいるのが落ち着かなくなってきたのだ。
「ハルにゃんはついさっきまで一緒にいたんだけどねっ、急に『やっぱちゃんと自分の目で探してみなきゃだめね』
と言って下の階に走ってったのさっ」
まあ、自ら行動しはじめてイノシシの様に突き進むのはいつものことだ。
俺は立ち上がったついでとばかりに、
「俺もちょっくら生理現象のようです」
っと鶴屋さんに伝えてドアの方に進み始めた。
部屋から出る直前、鶴屋さんが俺に、
「がんばるっさ少年K」と小声で言っていた。なんですかそれは、少年Kって俺のことですか、まさか、少年Nの悲劇の次回作?
などと冗談を言っている場合じゃないな。
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 02:24:03.49 ID:JwylBfx/O
支援団体
さてっと、たしかハルヒは下に行ったんだったな。
とりあえず一階に向かう、不気味なまでに静まり返ったこの別荘で、聞こえてくるのは外の雨の音のみ、
しかも今は深夜で、俺を気絶させた者がいるかもしれないんだ、そして一番頼りにしていた長門もすでにいない。
なにか武器になりそうなものがあれば少しは落ち着くんだろうか、くそ、ビビるんじゃねえ。
とはいえ、なんの特技もない一般人の俺が、長門や古泉達をどうこうしちまったやつ相手に対抗できるとは思えん、
じゃあ、何で俺はこんな無謀なことに身を投じているんだ? 全く解らん、だがおとなしく部屋で待ってるよりかは幾分ましだ、
何か行動を起こしているほうが気がまぎれるってもんだろ。
それから、ハルヒは完全に古泉達の仕業と考えてるからな、ここはうまく誘導してやらないと簡単に敵の手に落ちてしまうかもしれん、
しかし、もし犯人が去年ハルヒが作り出した神出鬼没の何かだったとしたら、
それにハルヒが襲われるなんてことがあるのだろうか、まったくわからんが。
そういや古泉がハルヒの作り出した者が俺達に敵意をもって危害を加えるなんてことはないと言っていたな、
その意見は俺も同意しとく、とはいえ、犯人の正体もわかっていないんじゃ何の確信も持てないが。
一階を見回したがハルヒの姿はなかった。不安が倍増する。
地下の遊戯室まで行ったのか?
しかし、こんな状況でしかも静まり返ったこんな洋風の別荘の地下室に一人で向かう事になるなんて、
一体どこの体感ホラーゲームだよ、こんなアトラクションなんざ望んでねえっつーの。金返せ、払ってないけど。
そいうや、昔やったゲームに似たようなシチュエーションがあったなぁ、そんときゃ、
なんで主人公はわざわざ殺されるような危険な場所に自ら行くんだ? などと思ってたんだが、
よもや自分が実践することになろうとは……。
いかんいかん、余計なことを考えてたらゲームの映像が出てきちまったじゃねえか、ドアを開けたら血まみれの……。
「────!!」
駄目だ、駄目だ! 変な考えを起こすんじゃねえ俺の頭。
俺は雑念を振り払うように頭を左右に振った。そのときである。
「……キョン?」
背後から声がした。
天井に頭をぶつけそうになるくらい飛び上がった、魂と共に心臓も口から出てきたんじゃないかと思うくらい、
鼓動が止まった気がする。
俺は反射的に声のしたほうに向いた、だが、情けないことに向くと同時にしりもちをついてしまったのだ。
「ハ、ハルヒ……」
かろうじて声を出す。
そこにいたのは左右の靴をはき間違えて外出したことに気付いてしまったような表情のハルヒだった。
「お、驚かすなよ」
心臓が止まるところだったぞ、おっと、確認してなかったが止まってないよな。自分の胸に手をやって確認する。
「驚いたのはこっちよ、あんたがそんなリアクション取るなんて予想外だったわ、
あーミスったな、今のビデオに撮っとけばよかったわぁ」
ケケケ、と悪戯を思いついた悪ガキの様な笑みを浮かべながらハルヒは近づいてきて、しりもちをついた俺に手を差し伸べた。
俺がその手を掴もうとした時、ハルヒ少しためらいの表情を浮かべ、俺の手をしばし見つめてた気がしたが、
ハルヒの姿と思わぬ失態をさらしてしまったこととによる複雑な気分が、俺の中でマヨネーズのように混ざり合って、
まともな思考が働かなくなっていたのだ。
俺はそのまま何も考えずに差し伸べられた手をつかんでしまった。
あとから考えたらかなりカッコ悪い姿だ。また思い出したくねえ記憶が増えちまった、欝だ。
そんなことを考えてた俺は、ハルヒが手を差し伸べるなんてらしくない姿だということにも頭が回らなかったのである。
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 02:27:43.39 ID:JwylBfx/O
支援団体行動
「やっぱそう簡単には見つからないわね、みんなが隠れてる場所」
ハルヒは溜息交じりにつぶやいた、珍しくあきらめが早いな。
「まあね、推理なんて事件が終わってからでないと考えても仕方ないと思ったのよ、それに、
ちょっと小腹がすいてきたってのもあるし、続きはなにか食べてからにしましょ」
そういってハルヒは食堂の厨房に向かっていった。まったく能天気でいいなお前は。
一般市民である俺はこんな状況に陥っちまって食欲もでねえんだ、少しは俺に分けてくれ。
厨房に入って約15分くらいしてからハルヒが出てきた、山盛りのパスタを乗せた大き目の器を持っている。
「おい、お前はどんだけ食うつもりなんだ、夜食とか小腹がすいたって程度の量じゃないぞ、それは」
「一人で食べるんじゃないわよ、あんたと鶴屋さん入れて三人分作ったのよ」
それにしてもちょっと大盛りなきがしなくもないが、ハルヒにとってはこの量が三人前なんだろうか、
そういや、ハルヒの作る料理はいつも大量だったな、それはもともとコイツは大食いだからなのか?
長門がいればちょうどいい量かもしれないが、今は行方不明だからな。
「ひょっとしたらこの香りに誘われて隠れてる誰かが出てくるかもしれないじゃない」
それが朝比奈さんや長門だったらいいんだが、神出鬼没の犯人が出てくることのないように俺は願いたい。
だが、たしかにいい香りがするな、少々の騒音でも起きない妹もこの臭いで起き出すかもしれん。
「じゃ、鶴屋さんの部屋に行くわよ、食事はみんなで食べた方がおいしいもんね」
パスタの入った器で両手でふさがれたハルヒはニンマリと微笑むと、
「それからキョン、取り皿持ってきてちょうだい、人数分、あと箸も」
俺はそんなハルヒの姿を見てさっきまでの緊張感はなんだったんだろうと思いながら厨房に向かい、
小皿数枚と箸を探しはじめた。まったく何やってんだ、こんな非常事態に俺は。で、フォークじゃなくて箸でいいのか?
ハルヒに続いて二階に向かっていく。
このままハルヒのペースに流されたままでいいのかよ、俺。とは言え、俺になにか出来るのか?
つってもなんも出来ないのが実情なのだが、出来るのはせいぜいツッコミ役ぐらいだ、情けねえ。
そうこうしているうちに、鶴屋さんの部屋の前に着いた。
ハルヒは鶴屋さんの部屋のドアをいきなり開けて、
「鶴屋さん! 夜食作ったから一緒に食べましょう」
おいおいハルヒ、せめてノックぐらいしろよ。
後ろから着いて来ていた俺はハルヒを止めることも、先にノックしたり、声をかけることも出来なかったのだ。
さすがにこの元気なハルヒの声を聞いたら妹も目が覚めるかも知れんな。などと思っていると、
「缶詰のパスタソースで作った手抜きメニューなんだけど……て、あれ?」
ハルヒは献立の説明をしながら部屋に入り、数歩も行かないうちに何かに気付いたように立ち止まった。
なんだ? ひょっとして鶴屋さんも爆睡しちまったのか? そういやさっきは眠そうにしていたっけ。
「……いない」
ポツリとハルヒ。
「な……なんだって!?」
一瞬にして思考が止まってしまった。俺は部屋の入り口近くに立ちつくしているハルヒを押しのけ、中を確認した。
中には誰もいなかった、鶴屋さんも、寝ていた妹もである。
よく、衝撃的な場面に出くわした人は手に持っていた物を落としたりする表現がテレビなどであるが、
実際その状況になったらそんなことはない、逆に力が入って持ってるものを放せなくなるのだ。
あと、以外に取り乱したりするようなことはなく、何故か普段と同じ行動をとったりするんだそうだ。
ま、状況の把握までタイムラグが生じている、っと言った方がいいのかもしれない。
俺とハルヒは持っていた食器をテーブルの上に置き、誰もいなくなった部屋の中を見渡した。
沈黙がながれる。
後編 下 につづく
後編 下 は近日中に投下します、分割してすいません。
支援どうもでした。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 02:38:36.18 ID:JwylBfx/O
GJ
さっぱり謎がとけん。後半みteeeeeeeeee!!!
乙!
>>88 こういう終わり方されると、気になって眠れないじゃないか GJ!
後半に期待。
ところで、自分も投下しても大丈夫?
とは言ったものの、読み返してみたら余りの誤字脱字の多さにびっくりしたので今はやめておきます。
では、後半投下しておk?
と思ったが、スマン。眠気が襲ってきたので、昼くらいに延期します。
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 05:17:43.11 ID:dBGWhABW0
では僕も投下していいかな?
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 05:18:51.13 ID:dBGWhABW0
といっても、実はまだ何も出来てない。
初SSです。12レス程投下します。
98 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:41:42.23 ID:mHjK6gv/0
「こら!いつまで寝てるの?遅刻するよ!」
いつも以上に目覚めの悪い朝だ。変な夢を見たせいだろうか。俺を起こしたのは誰だ・・・母さんの声?
わざわざ母さんが起こしに来るほど俺は寝坊しちまったのかと思い時刻を確認するのだが、まだ6時であった。学校には7時半起きで充分なんだが?
「学校?寝ぼけてるの?早く起きないとほんとに遅刻だよ!」
「寝ぼけてるのはどっちだ、母さん・・・寝かせてくれよ・・・」
「母さん!?23にもなってあたしと母さんを間違えるなんて・・・もう、キョン君ったら!」
何?今なんと言った?・・・23?
起き上がった俺は、そこにあり得ない光景が広がっているのを見て、どうやら本気で寝ぼけてるらしいと感じた。
「あ・・・朝比奈さん?」
朝比奈さんが俺の部屋に居たのだ。これは夢か、幻覚か。例え幻でも、寝起きに朝比奈さんが拝めるなんて今日は朝からついてるね。ん?でも何かが少し違うような・・・。
「あれ、朝比奈さん、何か胸が小さく・・・」
「ちょっ・・・キョン君何言ってんの!?きもい!!変態!!」
バシン。
「いてっ!!」
「もう知らない!!」
いや、色々おかしいぞ。朝比奈さんが俺を起こしにきてくれるわけがないし、大体声がまるで母さんそっくりだ。しかもきもい変態言われた。
思い切り殴られた衝撃と痛みは確かに本物なのに、まだ目が覚めないのか幻のエンジェルが消えない。何だこれは。ハルヒの仕業か?
99 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:42:46.91 ID:mHjK6gv/0
とりあえず目を覚ますべくけだるい身体を起こして洗面所へと向かう。心なしかいつもより視界が高く感じたが、それも寝ぼけているせいにして洗面所のドアを開いた。
「あ!?」
そこでも俺はあり得ないものを見るはめになった。鏡に映った俺がやけに大人びていたのだ。それに身長も高くなっている。これは夢でも気味が悪いぞ!
俺は慌ててひんやりとした水を顔に打ち付けるが、鏡は先程見たものと同じ姿しか映さない。どうなってんだ?
「キョン君、目覚めた?」
歯ブラシをくわえた母さん声装備の朝比奈さんが鏡越しで俺と目を合わす。・・・違う。こいつは朝比奈さんなんかじゃないじゃないか。こいつは・・・。
「俺の、妹・・・」
「キョン君、まだ寝ぼけてんの!?いい加減目覚ましてよね、会社遅刻するよ!!」
「かい・・・しゃ?」
どこの会社へ行くというのだ、俺はまだ高校生・・・。
・・・いや、高校など、とうの昔に卒業しているじゃないか。
そうだ・・・俺は大学だって出ているぞ。そして今年入社一年目の・・・。
「・・・いっけね!!遅刻する!!」
100 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:44:33.22 ID:mHjK6gv/0
「聞いてよ母さん。今朝キョン君のことお越しに行ったら、あたしのこと母さんだとか朝比奈さんだとか言い出したの!」
俺が急いでパンを頬張っていると、妹が隣で母さんにそう言う。
「まぁ、寝ぼけてたの?朝比奈さん・・・って、誰だったかしら」
「朝比奈さんは高校の先輩だよ。こいつ、ほんっとよく朝比奈さんに似てるんだ」
このお転婆な性格と胸の大きさは除くがな。
「でも、なんでまた突然みくるちゃんの話なんて出てきたの?もしかして、高校時代の夢でも見てたとか?」
「あぁ、いや・・・」
実を言うと・・・さっきから変な感覚が取れないでいる。よくわからないのだが、高校生時代の記憶がすごく新しいものに感じるのだ。まるで、昨日まで高校生だったような気がして・・・。
「それ、まだ寝ぼけてるんだと思う」
やっぱりか?
「それにしても、みくるちゃん・・・か。懐かしいなあー。」
妹が感慨深い表情をしながら俺を見る。
「ハルにゃん、有希ちゃん、古泉君も・・・元気かな。もうしばらく連絡取ってないんでしょ?」
「あぁ・・・そうだな、大学入ってから全然連絡取らなくなって、多分もう2年くらい・・・」
いや、呑気に昔話なんてしてる場合じゃない。遅刻する。お前も遅刻すんなよ、受験生。
・・・そう、もう二年も奴らとは連絡を取っていない。
いないのだが、昨日奴らに会ったばかりに感じる俺はやっぱり寝ぼけているのだろうか。
101 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:48:50.07 ID:mHjK6gv/0
ワイシャツに腕をさっと通す。羽織るのはブレザーではなくスーツ・・・当たり前だ。急いで家を出て、電車に揺られながら会社へ向かう。毎朝恒例の満員電車には未だに慣れずにいる。高校の頃は楽だったな、徒歩で行ける距離で。
ギリギリだが何とか時間前に会社へ到着した俺は、まだぼんやりとした頭を起こそうとブラックコーヒーを一気に飲み干す。気分は悪いが、遅刻にならないだけ良かった。遅刻するとハルヒがうるさいからな。探索パトロールの日は遅刻しなくても俺に罰金を・・・
って!また何考えてんだ俺は!ピーターパン症候群か?いい加減目を覚ませ!
・・・SOS団か・・・。懐かしいな。皆今頃何をしているんだろうか。朝比奈さん、長門、古泉・・・ハルヒ・・・。
「はぁ・・・」
深い溜め息でパソコンのディスプレイが白く曇り、だいぶ前のめりに仕事していたことに気が付く。
「キョン、そんなに画面に近づいてたら目が痛くならないかい?」
声のする方を向くと、隣で意外な人物がこちらを見ていた。
「え・・・国木・・・田?」
「なんだいキョン、今日の僕、何かおかしいかい?」
・・・いや、何も驚くことなど無い。国木田とは同じ会社に入社したんじゃないか。それに大学だって同じ出だ。もう本当にいい加減目を覚まそうぜ俺よ。
「すまんな・・・何か、今日の俺おかしいんだよ。何か異様に高校時代が懐かしくってな」
「高校時代が懐かしい?そりゃいきなりだな。キョン、疲れてるんじゃない?」
俺は深く椅子にもたれながら、天井を見上げた。目の奥がズキズキするし、毎日パソコンに向かいっぱなしで肩もこってる。本当に疲れてるのかもな。
何だろう。昨日の記憶・・・いや、昨日までの記憶が嘘のようだ。高校時代の、SOS団で過ごした記憶だけが綺麗で、鮮やかで・・・。
あの頃はよかった。毎日黙々と読書をする長門が居る文芸部室で、麗しい朝比奈さんが入れてくださるおいしいお茶を飲みながら、ボードゲームが滅法弱いニヤケ面の古泉とオセロをやって、ハルヒの無茶に付き合わされて・・・。
あいつの思いつきはいつも俺を心身ともに徒労させるんだ。それでも俺は、何だかんだそれが楽しかったんだよな。
楽しくて仕方なかったんだ、もう戻れないあの日々が。
102 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:49:57.75 ID:mHjK6gv/0
「―――ちょっ、キョン!?」
国木田の驚いた声で我に返る。頬がスーッと一筋、冷たい。俺・・・もしかして泣いてるのか?
「はっ・・・ははは、俺・・・頭がおかしくなっちまったのかもな・・・?」
誰か教えてくれ。おかしいのは俺の頭か、それともこの色あせた日常か?
「キョン・・・」
国木田は、まるでフラれた谷口を哀れむような目で俺を見る。
「君は疲れているんだよ、きっと。昔を懐かしむことは誰にだってある。おかしくなんてないさ。・・・こんな毎日を過ごしていれば、誰だって青春時代が恋しくなるよ。」
そう言う国木田も疲れているようだった。微笑んだその顔が何だか痛々しい。
「・・・俺、今日は帰らせてもらうよ」
「うん、そうしたほうがいいよ。」
ゆっくり休みな、そう言いながら俺の肩を叩く国木田に感謝して、俺は会社を早引きした。
行く先は、決まっている。
103 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:51:25.33 ID:mHjK6gv/0
長い長いハイキングコースを登る。もうこの坂道はだいぶご無沙汰で、運動不足の俺にはかなり堪えたのだが、久しぶりだとは毛頭思えなかった。
険しい坂を登り終えた先の北高は外観がだいぶ変わって見え、俺は少しだけ驚いた。校舎の構造などは変わっていないことから、恐らく塗り替えられただけなのだろうが。
職員室の戸をノックすると、岡部が応答してくれた。しばらく近状報告をしあったり他愛の無い話をしていたが、俺は早いところ本題を切り出すことにした。
「あの、すみません、文芸部室に行かせてもらえないですか?」
「文芸部室?勿論いいとも。・・・あ、」
「何です?」
「言っていなかったが、旧館は明後日から取り壊し作業が始められるんだよ」
俺は、岡部の言葉をすぐに理解するが出来なかった。
「生徒が減ったせいでこっちの校舎に空き部屋が多くなってね。文化部の数も少なくなったし、あそこは取り壊して第二グラウンドにするんだ」
「・・・そんなの・・・」
そんなの、ハルヒが許しませんよ。そう言いかけた俺の手を取り鍵を握らせた岡部は、
「その前に、来てくれてよかったよ。あの部室はお前たちが卒業してから、一度も開かれていないから・・・」
その言葉に、何だか激しく胸が痛んだ。
こんなにもあの頃を懐かしんでいるのは・・・俺だけなのだろうか。
支援
既に泣けてきた
105 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:53:46.74 ID:mHjK6gv/0
ボロボロな文芸部室の扉。軽く一蹴りしたら突き破れそうな程だ。きっとハルヒが乱暴に扱ったからだろうな。
錆びた音を立てながら開いたその先は、まさに俺の記憶に新しいままの文芸部室だった。古いパソコン、たくさんの本、積み置かれたボードゲーム、朝比奈さんのコスプレ衣装・・・
全てほこりかぶってはいたが、俺の記憶の「昨日」のままだ。一つ違うところを上げるならば、カビの臭いが鼻の奥を刺激することくらいである。
俺は自分の低位置に腰掛ける。古くなったパイプ椅子、ちょっとケツが痛いな。だが俺にとっては、どんなに上等なソファーよりも、この椅子の方が座り心地よく感じるのだ。
校庭から生徒たちの声が聞こえる。・・・体育だろうか。俺は目を閉じる。
・・・ああ、聞こえる。聞こえるよ。あいつらの声が。
―――キョン君、今、お茶淹れますね。
―――オセロしませんか?ポーカーもいいですね。
―――今度のみくるちゃんのコスプレ衣装、これなんかどうかしら!?
―――・・・ユニーク。
・・・・・・ああ、朝比奈さん。ありがとうございます。あなたが淹れてくれるなら例え水道水であろうと俺にとってはアルプスの天然水のようです。
・・・おい・・・、顔が近いぞ古泉。どっちだっていいさ、どうせ勝敗は決まっている。
ハルヒ、朝比奈さんは着せ替え人形じゃないんだぞ・・・?
長門・・・相変わらずお前は、セリフが原稿用紙一枚分を超えないな・・・・・・・・・
106 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:55:40.24 ID:mHjK6gv/0
「皆・・・どこ行っちまったんだよ・・・」
こんなの違う、間違っている。
毎日毎日満員電車に揺られて、パソコンと睨めっこして・・・これが俺の現実だと?
違う。そうじゃない。俺の毎日にはお前らが居るんだ。
朝からハイキングコースを登って。授業中居眠りしてはハルヒにつっつかれて。放課後はここでお茶を飲みながらオセロして、土日は不思議探索パトロールに出るんだ。これが俺の日常だ。
俺はおかしくなんてない、疲れてなんてない。おかしいのはそっちだ、こんなのは違うんだ!
皆どこに居るんだよ、会いたいよ、皆に会いたい。俺は、だからここに居るんだ。
俺の頬を、涙が伝った。
ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉・・・聞こえるか?
「・・・俺は・・・、俺は・・・ここに居るぞ!!」
そう高らかに泣き叫んだ瞬間、
「・・・ピポ。」
起動音・・・――ヒューマノイド・インターフェイスの、――・・・がした。
107 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 05:59:15.37 ID:mHjK6gv/0
「・・・それが鍵。私たちが、鍵。」
「・・・長門・・・?」
「貴方は鍵を見つけ出した。」
それだけじゃない。
「朝比奈さん、古泉・・・っ・・・ハルヒ・・・!」
皆がそこに居た。
見た目は俺と同じで大人びていたが、俺にはわかる。皆あの頃のままだ。あの頃と同じ・・・
「いい年して何鼻水垂らしてんのよ?」
「もう、らしくないですよ!キョン君」
「それにしても水臭いですね。もっと早く呼んでくださればいいものの」
「本当よ!このバカキョン!!」
ハルヒが怒鳴りつけるように言ったかと思うと、腰まで伸びた髪を揺らしながら俺に近づき、優しく頬の涙をぬぐってくれた。
「ここはあんたの居るべき世界じゃないの。」
「・・・ハルヒ・・・」
「大丈夫よ、何も心配ない。また会えるわ、あたしたちに!」
ハルヒは俺の肩に、そっと手を添えた。
「ほら・・・『戻る方法』は、あんたが一番よく知ってるでしょ?」
大人びてますます綺麗になった我らが団長は、優しく微笑んだ。
「キョン・・・忘れないで。あんたの傍には、いつだってあたしたちが居るわ。ね、皆!」
ハルヒの少し後ろで、皆が頷いている。
「どんなに時が流れていこうと、どんな障害があろうと・・・それは変わらない。SOS団は不滅なんだからね!
・・・約束するわ、キョン。ずっと一緒よ」
ハルヒがそっと目を閉じ、つられて俺も目を閉じる。
暖かい頬に手を添えて―――そっと、口付けた。
108 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 06:00:41.08 ID:mHjK6gv/0
―――・・・
「キョン君〜朝だよ〜!!」
聞きなれたこの声が、これ程心地よく聴こえたことは未だかつてないだろう。ボディープレスを食らう前に起き上がった俺は、眠い目をこすりながらその姿を確認する。
「えっ、キョン君もう起きてたの〜?珍しいね!」
・・・そこに居たのは、俺の「小5の」妹だった。
惜しいだなんて、そんなことはこれっぽっちも思って無いぞ。
これから学校へ行けば会えるんだからな。
・・・皆に。
放課後、ハルヒを除いた全員が揃う文芸部室で、長門に昨晩の「夢」の種明かしをしてもらった。
「涼宮ハルヒは昨日、文芸部室で地獄先生ぬ〜べ〜を読んでいた。貴方が異世界に飛ばされた理由はこれだと思われる」
そりゃまた懐かしい漫画を読んでいたことだな。
「夜中に枕元にやってきて枕をひっくり返す、または、頭を足の向きを変える『枕返し』という妖怪が作中に登場する。その妖怪に枕を返されると、返された者が望まない未来に飛ばされるという設定。」
長門は黒曜石のような瞳を瞬かせ、坦々と説明する。
その話にハルヒが心を打たれたりなんかして、俺が漫画と同じ目にあったっていうことか?
「まあ、こうして戻ってこれたわけですし、よかったじゃないですか。これも貴重な体験だと僕は思いますよ。」
お前は他人事だから言えるんだ古泉!俺はもうあんなの二度とごめんだ!
「貴方が今回飛ばされた世界は一種の閉鎖空間ですが、貴方が見てきた世界は本当にあり得る未来なのですよ。
無数に存在する未来のうちの、たった一つですが」
「未来は、簡単に変えてしまうことができるんです。それを阻止するのがあたしたち未来人の仕事なんです!・・・それより、キョン君が無事戻ってこれてよかった・・・」
朝比奈さんは何ともいじらしい笑みを浮かべるが、
「あ、そういえば、どうやって戻ってきたんですか?キョン君」
一番触れて欲しくないところをつついてきた。知らん、俺は何も知らんぞ。
109 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 06:02:11.96 ID:mHjK6gv/0
空気を読んだのか、派手にドアを開いてハルヒがやってきた。
「おっはよー!!」
もう夕方だが。
「うるさいわねキョン。目の下にクマなんか作っちゃって!」
昨日は眠れなかったんだ、誰かさんのせいでな。
「何よそれ。もしかしてあんた、北枕で寝たりしてんじゃない?」
「・・・北枕には、注意して」
朝比奈さんが短く悲鳴を漏らした。長門がそう言うなら、注意せざるを負えないな。
「そうよ!北枕には注意しなさい!そうそう、枕返しっていう妖怪が居てね、そいつが・・・」
ハルヒが実にいい顔をしながら、俺の睡眠時間を奪った原因についてを語り始める。やれやれ、当の本人は何も知らないなんてな。無茶苦茶もいいところだ。
機関銃のように唾を飛ばすハルヒに、俺はお返しとばかりに言ってやるのだ。
「・・・ハルヒ、ずっと一緒に居てくれよな」
あんぐりと口を開けて停止したかと思えば、次にはトマトのように顔を真っ赤にさせた。忙しい奴だな。
「なっ・・・ちょ、キョン、何言ってんのよ!」
その時、俺はどんな顔をしていたのだろう。しばらくあたあたとしていたハルヒだったが、俺の顔を見るなり、あの「夢」のような微笑を作ってくれたのだ。
「当たり前じゃない!SOS団は不滅なんだから!・・・ずっと一緒よ、キョン」
110 :
北枕の憂鬱:2008/02/14(木) 06:03:24.48 ID:mHjK6gv/0
以上で終わりです。読んでくださりありがとうございました!
ぬーべーwwww
いやかなり感動した
こういうはなしはすきです
読んでる最中にぬ〜べ〜でこんな話あったなと思ったら元ネタだったw
簡潔にまとまっててよかったよ。ただ、・については三点リーダーを使用することをお勧めする
>>112 ありがとうございます。
初めてだったのでそう言っていただけると嬉しい事この上無いです!
>>113 ぬ〜べ〜であの話が一番好きだったものでw
以後気をつけます!
保守
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 07:38:39.23 ID:dCIa09NsO
今日はバレンタインだから甘いものが沢山来るかな?保守
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 08:32:21.87 ID:Un+R1mCVO
☆
ほ
120 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 10:48:26.33 ID:vu5qPiW10
あげ
チョコは人にやるもんじゃない、自分で食べるものだ!
今年もバレンタイン過ぎて安くなったのでも買うか……
おひるごはん保守
123 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 12:38:31.52 ID:Un+R1mCVO
あげ
書き込みテスト
お待たせしてしまってすいません。
>>87 の続きいきますね。
8レスなので支援なくてもよさそうです。
あと、後編を上下に分けるのはやめまして、この回は新たに誤解編と命名しました。
鶴屋さんも妹もいなくなった、とうとうハルヒと二人だけになっちまった、
────最悪の事態じゃねえか。
新・孤島症候群─誤解編─
先に声を出したのはハルヒだった。
「こうなるかもしれないって思ってたけど、まさか本当になるなんて……、
でもどっかそこら辺に隠れてあたし達を驚かせようとしてるのかもしれないわ」
ハルヒは部屋の中を調べ始めた。ベッド下やらクローゼットの中を覗き込んだりしている。
俺はしばらく呆然とハルヒの行動を眺めていた。じわじわと思考が復活してくる。
とうとうみんな消えちまったてのか、古泉が言っていた最悪の事態じゃねえか、本当に俺とハルヒしか残ってないのか。
これならまだハルヒと二人で閉鎖空間をさまよっている方がいくらかましに思えるぞ、
あんときは朝比奈さん(大)や長門からヒントをもらえて脱出できたんだからな、だが、
今の状況ではなんのヒントももらってないし、相談する相手も消えちまったんだ、俺はいったいどうすりゃいい?
もし、もしも、この状況に陥った原因がハルヒ関連だったとしてだ、
他の連中はそれぞれ特殊なプロフィールを持ってハルヒに関わっていたが、鶴屋さんと俺の妹は完全に部外者のはずだ。
俺? 俺は一応一般人だが無関係とは言いがたい、最初は巻き込まれただけだったが、今は自ら首を突っ込んでいるようなもんだ。
ある意味習慣とか習性とかそんなもんだと思う。それに楽しいと思っている自分がいることもたしかなんだ。
だから俺が巻き込まれても自業自得だ。
とは言っても無関係の人を巻き込んだからとして、それはハルヒが悪いんじゃない、
ハルヒは何も知らされていないんだ、そんな力を持っていることも、使い方も、なによりそんな巨大な力を持つ覚悟さえもだ、
そんなことは解っているんだ、解っているんだが……。
いや、まて、さっきハルヒはなんつった? “こうなるかもしれないって思ってた”だと。
じゃあ、鶴屋さんと妹が消えちまったのはハルヒがやったっていうのか、しかもそう思わせてしまったのは俺か、
俺ってことなのか。俺が有名なミステリーの模倣かもしれないなんていってしまったからこんなことに……?
とは言えあの時はああでもいってハルヒの不安を解消させきゃと思って必至だったんだ、
でないとハルヒの不安が現実になっちまうかもしれないんだ。くそ、だったらどうすりゃよかったんだよ。
そのとき、自分の顔がどんな表情だったのか自分じゃわからなかった。近くに鏡がなかったからな。
だが、ハルヒには俺の表情が見えていたようで、
「キョン、あたし気付いたことがあるんだけど」
何やら真剣な表情でハルヒが俺を見ていた。
「なんだ? なにか解ったのか?」
「うん、まあね。でもここじゃ何だから廊下に出ましょ」
ハルヒはゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。正直どこだっていいと思うんだが、俺は素直にそれにならう。
廊下に出ると、ハルヒは背中を向けたまま立っていた。
首をねじり、横目で俺が部屋から出てきたのをチラリと確認すると、またもやゆっくりと歩き出す。
「正直言うとね、ちょっと前から気にはなってたのよ」
なんだ? 何が解ったんだ、この事件の真相か?
しかし、いくらなんでも古泉たちの仕組んだことだと思っているお前の推理じゃ、俺が納得できる答えは聞けそうもないんだが。
「そう、はっきり言ってさっきまで確信は持てなかったんだけどね」
ハルヒは振り返らずに淡々と話している。おかげでどんな表情なのかまったくわからない。
「それで、最初から考えてみると、つじつまが合うのよ、ほんとに、あたしとしたことがまんまと騙されちゃったわ」
俺は、ハルヒの推理を静かに聴きながら、何か別の、言い知れない不安に駆られていた。
「あんたが言ったとおり、この事件、そして誰もいなくなったの模倣ね、一人ずつ消えていくし、
そしてラストには全員いなくなってしまうのよ、でもそれじゃ事件は解決しないし、犯人もわからない」
それじゃあ迷宮入りの事件じゃないか。
「でもね、ちゃんと犯人はいるの、犯人は途中で死んだフリをした人物だったのよ」
ハルヒはゆっくりと廊下を歩いていく、何が言いたいんだ。
「その人物は死んだフリをすることによって行動の自由を得たの、だって残った人物は互いに相手を疑い始めたんだもの」
ちょっと待て、それは物語のはなしだろ?
「そう、それは小説でのことだけど、誰かがこの事件のシナリオを作ったのだとしたら、
ヒントとして似たような状況を作り出していてもおかしくないもの、それと、
みんなが消えちゃう時、共通点があったからそう言う考えになっちゃったのよね」
なんだって、共通点? そんなものあったのか。
「あったの」
そう言ってハルヒは歩みをやめ、こちらに振り返った。
「じゃあ、質問! みくるちゃんの姿を最後に見たのは誰?」
不意に質問をしてきた、その答えは俺と妹だ。
「じゃあ、有希は?」
たぶん、俺だと思う。
「古泉くんは?」
……ちょっとまて、なんだこれは、尋問か? 確かに最後に会ったのは俺かもしれないが、
それはハルヒから見てそう取れるだけじゃないのか。
「鶴屋さんと妹ちゃんもそうよね」
おいおい、まさかハルヒは俺を犯人に仕立て上げようとしているのか、
なんかまずい方向に話が進んでいるぞ。
ハルヒが変な考えを起こさないようにしてきたことが全部裏目に出ちまってるじゃないか。
もしハルヒが俺を犯人だと決め付けて、それがハルヒの変態パワーで現実になったらどうなるんだ?
まったく想像出来ん事態だ、たのむ、誰か俺に解説してくれないか?
俺が納得できる解説をしてくれた方、抽選で5名の方に粗品を進呈してやるぞ。
ハルヒは厳しい表情で俺を見ている、いや、睨んでいると言ってもいいくらい。
完全に疑っている目だ、まずい、非常にまずい、はやく何とかしなければ……。
とは言え、なにもいい考えが浮かばねぇ、どうすりゃいい。
俺は、いやな汗をかきながらハルヒの眼光に当てられ思わず後ずさり気味になっていた。
と、そこで急にハルヒがニンマリ顔になって、
「でもね、そこでキョンが犯人だ! なんて言ったりしたらソレこそ誰かの思う壺なのよ、
真相はもうちょっとひねってあるの、あたしはそれに気付いたのよ」
フフンって感じで腕を組んで勝ち誇ったように胸を張るハルヒ。
「どういうことだ」
どうやら俺が犯人だと決め付けているんじゃないらしい、少しほっとする俺。
「まあ、キョンが犯人役だったとしても、あたしを騙せるほど演技がうまくないもんね、
そんな人を犯人役にしたらミステリーが成り立たなくなっちゃうし」
まあ、そうだろうな。
「そこで、演技が出来る人を代役にしたって訳よ、ほんと、古泉くんたら手が込んでるわ」
代役? 誰のことだ? いきなりここで謎の人物か?
「今更何言ってるの、あんたのことよ、どっからスカウトしてきたのかしら、
ほんとうにキョンそっくりなんだから、全然気付かなかったわよ。そういや古泉くん、
以前はシャミセンそっくりの猫をつれてきてたわよね、で、今回はキョンそっくりの人を連れてきたってことね、
まあ、顔は特殊メイクだろうけど、声としぐさは演技賞ものだわ、でも最後にちょっとシッポを出しちゃったけど」
な、何を言ってるんだ? 俺は俺であって断じて偽者とかじゃねえ!
まったく何を言い出したかと思えば……て、まてよ、ハルヒがそうだと信じたらそれが……。
「あんた、演技がうますぎるのよ、キョンはね、少々のことでもしかめっ面で軽く受け流しちゃうのよ、
それに鶴屋さんと妹ちゃんがいなくなった時、あたしを疑いの目で見てたでしょ。
それが犯人じゃないって演技なんでしょうけど、キョンは絶対そんな目であたしを見たりしないはずだもの」
あの時古泉が、狼狽したりせずに冷静でいろって言っていたのはこんな結果にならない為だったのか?
いくら冷静にいつもの態度を取れなかったからって、俺が偽者だなんてそりゃねえだろ。
「ちょっとまて、いくらなんでもありえないだろ、それは。もし仮にそうだとして、
誰も気づかないなんてあるのか、どんなそっくりさんだよ、双子でも少し違いがあるんだぜ、
それにみんなともそこそこ長い付き合いだ、だまし通せるとは思えない、そうだろ」
「まあ、あんたの言うことはもっともね、だけどそれもちゃんとしたトリックがあるのよ」
なかなかいい反撃だと思ったんだが、ハルヒの表情は崩れなかった。どんなトリックだよ。
「途中までキョン本人だったのよ、そして隙を見て入れ替わったの、きっと廊下で伸びてたときに入れ替わったのね、
あの時倒れてたあんたを見てちょっと動揺してたあたしはまんまとだまされたってわけよ、
よくよく考えてみたら起きた時の言動もおかしかったし、その後、
無理やりあたしを誰もいなくなってる食堂に連れてってさらに動揺を誘ったんでしょうけど」
なんてことだ、どんどん立場が悪くなってるじゃねえか、ハルヒの瞳は完全に勝ち誇っている状態だ。
「そのあと、鶴屋さんの部屋に行った時、あんたはボロが出ないよう考え込むフリをして狸寝入りするし、
ほんと、感心するくらい騙されたわ、でもねもうネタは上がってるの、観念しなさい」
ネタもなにも俺は俺であって偽者じゃないし、だから観念することもない、断じてない!
「往生際が悪いわね、じゃあこれからあんたが偽キョンだってことを証明してあげる」
ハルヒの目がキラリと光った気がした、一体何をする気だ、まさか服を脱げとか言い出すんじゃないだろうな。
すーっと息を吸い込んだかと思うと、
「キョーンっ! 団長命令よっ、今すぐ出てきなさいっ!!」
ガラスにヒビが入るんじゃないかってくらい大声で叫びやがった、静寂に慣れていた耳がキーンとする。
思わず手で耳を抑える。そして、
「そんな大声をだすな」
俺以外の男の声。
耳を抑えていたからはっきりと聞き取れなかったが、聞いたことがあるような声がした、て、誰だよおい!?
ガチャリとハルヒのすぐ隣にある扉が開いた、確かそこは俺の部屋だったはずだが。
扉が開き、中から出てきたのは、なんと見慣れているようないないような人物、それは“俺”だった。
普段見慣れているのは鏡に映ってる俺だ、だが、今目の前にいる“俺”はそれの左右逆なのだ、
写真やビデオで撮った物以外でそんな姿を見ることはない、それに自分の写真や映像なんか普段まじまじと見ないしな、
ましてやナマで見ることなんて本来ありえないことなんだが、俺は二度ほどある、これで三度目か?
「何者だお前」と、これは俺のセリフ。
「何しらばっくれてるの、こっちが本物のキョンでしょ、どう? 観念した、偽キョンさん」
何をいってるんだハルヒ、偽者はそいつだ、いや、まて、まさか……。
ゴクリと喉がなった。
まさか、ハルヒがそいつを作り出したってのか? そんなバカな、俺を偽者と決め付けると同時に、
どこかに本物がいるはずだと思い込んで……?
「よう、本物はどうやら俺の方だ、まあ、後のことはまかせろ、うまくやるからさ」
違和感がある声がした。
さて、みんなは自分の声を録音などして聞いたことがあるだろうか?
聞いたことがあるのなら話が早い、実はふだん発している自分の声とは少々聞こえ方が違うのである。
思っていたより高い声だったり、低い声だったりするのだ、
それは何故かと言うと自分の声は頭蓋骨を振動させて聞いているからって訊いた事がある、
それは骨伝導といわれてて、耳を使わず直接聴覚神経に伝わって音を認識するそうだ、
まあ、ある種の聴覚障害を持った人でも音を認識することが出来る代物らしい、
そういや最近そういうスピーカーもあるらしいな。
て、なんで俺はそんな雑学を解説してんだ? そんな場合じゃねえだろ、おい。
「と、言うわけでハルヒ、サプライズパーティはこれで終了だ、みんながあっちで待ってる、いくぞ」
もう一人の俺がハルヒを手招きして歩き出した。
「ちょっと何勝手に仕切ってるのよ、それよりあたしの見事な推理、ちゃんと聞いてた?」
ハルヒがそいつの後について行く、その姿を見て俺は言い知れぬ焦燥感を感じ取っていた。
そして、もう一人の俺が廊下の奥の扉を開き、ハルヒを中に招き入れる、
ハルヒはまだ何やらしゃべっていたが既になにを言っているのか俺の耳には入ってこなかった、呆然としていたんだろうな。
そいつがハルヒを部屋に招きいれた後、扉を閉める直前に俺の方を見てニヤリと笑ったのが見えた。
それを見て俺は我に返った、違う! そいつだ、そいつが犯人なんだ。
俺そっくりの人物、朝比奈さんも、古泉も、鶴屋さんも、妹も、あの長門でさえも、
俺そっくりだったから隙を見せて消されてしまったんだ。て、ことは……。
──まずい、ハルヒも消されてしまう。
俺はすぐさま廊下を駆け出した、ハルヒとアイツが入っていった部屋に向かう。
くそ、間に合え、すごく足が遅く感じる、もっと早く走れよ俺の足。
「ハルヒ!」
扉の前までたどり着いて叫んだ、ドアノブに手を掛け扉を開ける。よし、鍵はまだかかっていない。
俺はまだ中にいるだろうハルヒに向かって叫ぶ。
「気をつけろ! そいつが真犯人だ、お前まで消されちまうぞ!」
部屋の中に俺の声がこだました。
だがしかし、俺が話しかけたい相手は既にもういなかったのだ。
誰もいないその部屋を見て一気に心拍数が上がる。
「うそだろ……おい」
愕然となった、ふらふらと数歩、部屋の中に入り進んだ俺は、急に体の力が抜けて、その部屋の中で座り込んでしまった、
もうこんな気持ちは二度と味わいたくないと思っていたんだがな……。
さて、どれくらいそうしていただろうか、ふと気が付くと背後の扉のところに誰かいる気配がした。
犯人か? だったら俺も連れてってくれよ、こんなところで一人残されたってどうしょうもないだろ。たのむよ。
コツコツと足音を響かせて近づいてくる、既に恐怖感などない、しかし、
さっきの俺の偽者はそんな足音がなるような靴をはいてなかったきがするんだが。
そう頭の片隅で思った時、その人物が俺に声を掛けてきた。
「うふ、キョンくん、そろそろ種明かしに行く時間ですよ」
懐かしく思えるその声を聞いて、気が抜けていた俺は思わず振り返った。
そこにいたのは───。
次回、解明編につづく
解明編の完成はもう少し先になりそうです、すいません。
とりあえず今日はバレンタインイラストでも描こうかな。
135 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 13:43:39.27 ID:RF5+M9VRO
すみません。今度こそ本当に後半、投下いたしますが、よろしいでしょうか?
いちいち確認取らないで投下すればいいじゃんか
すみません。他に投下する方とかぶるといけないかな、と思ったので。次からはそうします。
では、以下より。
>>57の続きから。第4章までは
ttp://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4247.htmlを参照。
↓↓↓↓↓↓↓↓
俺たちが二階に上がると、マリンが朝比奈さんの部屋のベッドにちょこんと座って俺たちを待っ
ていてくれた。ハルヒはマリンに駆け寄り、力強く抱きしめた。
「マリン……良かった……無事でよかった……」
「ハルにゃん、泣いちゃダメだよ。ちょっと痛いよぉ……」
あまりの勢いに少し困惑気味のマリンだったが――よかったな、ハルヒ。それに俺もマリンの無
事な姿が見られて柄にも無くホッとしてたんだ。何だかんだ言って、こいつのこと『本当の』妹の
ように思ってたからな――何となくだが。
ハルヒはひとしきりマリンとの再会を喜んだ後、タカコさんと今後の事を相談すると言って、一
階に降りて行った。俺も後に続こうとしたが、マリンが俺の上着の裾を引っ張り、大きめな声で耳
打ちをする。
「キョン君、あのね、あのね。ミクルちゃんがね、いっぱい聞いてきたよ。キョン君ってどんな人
って。――キョン君のことが好きなんだよ、きっと」
何だよ藪から棒に。子供はそういう事に首突っ込んじゃいけません。しかも、そんなの俺に分か
る訳無いだろ。
「ドンカン!」
するとマリンはそう俺をなじって笑う。おい、古泉。何をそこで苦笑いしてる。そんな暇があっ
たら、こいつに何か言ってやってくれ。
「すみません。このまま放って置いた方が面白いかと思いまして」
――殴るぞ、この野郎。……まあいい。とにかく俺たちも行くぞ。マリンも「あたしも行く〜」
と言ってついて来たが、まあいいだろう。
俺たちが階下に降りると、ハルヒがタカコさんと何やら話していたが、それが一段落ついたらし
く、俺に向かって、
「キョン。今からミクルちゃんを助けに行くんでしょ?――あたしも行くわ」
そう言うと思ったぜ。だがな、
「神羅の本社に乗り込む。……覚悟が必要だぞ」
「分かってる。でも、ミクルちゃんはマリンの命の恩人だし、何より、もうあたしたちの仲間みた
いなものよ。……それに、相手が神羅となれば黙っちゃいられないわ!」
聞くまでも無かったな。お前はどうだ、古泉。
「僕は最後まで涼宮さんについていくよう命じられてますからね。必然的にあなたと最後まで行動
することになると思いますよ」
とにこやかに返事してきたが、最後のそれ、どういう意味だ?その時、ハルヒが――あのハルヒ
が滅多に下げない頭をタカコさんに向けて下げていた。
支援
「タカコさん、ごめんなさい。さっきも言った通り、もうしばらくマリンを預かってもらえないか
しら」
「――いいわよ。でもね、」
タカコさんはマリンの頭を優しく抱き寄せ、俺たちに言った。
「必ず迎えに来なさい。絶対、死んじゃダメだよ――約束、だからね」
俺たちはタカコさんに、ここはもう危険なのでどこか別の場所へ移るように言い残して家を出た
。これから俺たちは神羅本社に乗り込むわけだが……
「神羅ビルにはどうやって行くの?」
それが一番の問題だ。「もう、上に行く列車は使えませんね」と古泉が言うまでも無くあらゆる
プレート都市への連絡路では俺たちはとうの昔にマークされているはずだ。神羅の警戒網を潜り抜
けて上に行くこと自体、至難の業だったりする。俺たちは3人雁首並べてウンウン唸っていたが、
ついにじれったくなったらしいハルヒが、
「…………取り敢えず、ウォールマーケットに行きましょう!あそこなら何かいい手が見つかるか
もしれないわ!!」
――それしかないんだろうな、やっぱり。俺たちは、つい半日程前までいたウォールマーケット
に再び舞い戻ることとなった。
保守
支援だよ、ボケ>>俺
144 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/14(木) 14:54:07.39 ID:vBi5jdLp0
そのウォールマーケット。ここも七番街プレート落下の件で大きな騒ぎになっていたが、それを
除けば、いつも通りの賑わいで俺たちを迎えてくれた。俺たちは手分けしてプレートの上に行く手
掛かりを探すことにしたのだ……が、
「――ぜんっっっぜん、見つからないわね!!」
数十分後、再集合すると苛立った調子でハルヒが吠えていた。古泉も両手を肩まで挙げた気取っ
たポーズで「成果無し」を告げるし、当然俺も無い。
「もう、何やってんのよ、キョン!!あんた、SOS団の団員たる自覚ある訳?」
何で俺だけ責められねばならん。見つけられなかったのはお前も古泉も同じだろうが。それに、
俺はただの雇われ兵だ。お前のけったいな団に入った覚えなどこれっぽっちも無いのだが。
「ゴチャゴチャうるさいわね!……とにかく、ご飯でも食べながら作戦練り直すわよ!!」
実は俺たちは定食屋の真ん前で話をしていた。そこに美味しそうな匂いが流れてきたもんだから
、ハルヒの腹の音がぐぅと鳴ったのだろう。まぁ、いいか。腹も減っては戦が出来ぬ、と昔の人も
言ってたしな。……その時だ。
「――あのう、ちょっといいですか」
ちょうど外に出て来て作業していた定食屋の店員が話に割り込んできた。
「何か、プレートの上に行くとか、そういう話をされてたと思うんですが……戦車爺さんの話によ
ると、体力さえあれば、上のプレートへ行けるそうですよ」
145 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/14(木) 15:00:25.26 ID:vBi5jdLp0
――何だって?
「ちょっと!!それ、どういう事なのっ!!?教えなさい!!!」
ハルヒはその店員の首を掴んでガクンガクン揺らす。待て待てハルヒ。気持ちは大いに分かるが
、その辺にしてやらんと、その人話す前にあの世に旅立つだろうが。俺はハルヒをその店員から何
とか引き剥がしてやる。彼はぜぇぜぇ息を吐くと、こんな事を教えてくれた。
「……あのドン・ヤマネの屋敷の横手に七番街が落ちて出来たプレートの断面があるんですけど、
そこには七番街に繋がっていたワイヤーやら何やらが垂れ落ちていて、登りきれば上のプレートへ
行けるそうですよ。戦車爺さんがそう言ってました」
なるほど。で、
「その『戦車爺さん』ってのはどこのどいつな訳ッ!?」
再び首をガクンガクン揺さぶるハルヒ。
「ぐわわわわぁぁぁ……ぶ、武器屋!武器屋をやってるちょっと偏屈な爺さんだよぉぉぉ……」
「……武器屋ね。ありがと!――キョン、古泉君、早速その爺さんのところ、行くわよ!!」
店員を投げ捨てて駆け出すハルヒ。当然俺たちも後に続く。
「……あのう、お客さん?お食事は……何なんだよ、もう……」
遥か後ろから店員の恨めしい声が聞こえてきたが……すまん。いつか機会があったらご馳走にな
るよ。機会があったらな。
その『戦車爺さん』がやってる武器屋ならすぐに見つかった。俺がドン・ヤマネの屋敷に侵入す
るための女装道具を揃えようとマーケット中を走り回っていたとき、ガラクタを集めて貯めまくっ
ている変な爺さんの噂を聞いていたからだ。噂通り、武器屋の周りにはうず高くガラクタの山が積
まれていた。多分、七番街の残骸も掻き集めてるんだろうな。
爺さんは店に入ってきた俺たちを見るなり、
「あんたも、上のプレートへ行くのか?この『ジンクバッテリー』が必要になるぞ。三つで300ギ
ルだ。買うかい?」
そう言って、電極に亜鉛を使用したと思われる充電式電池を取り出した……おいおい、商売する
気だぜ。しかも、これ拾いものだろ?
「お、よく知ってるな。修理してあるから、大丈夫さ」
そういう問題ではないと思うが。それに、上のプレートに登るのにどうしてバッテリーが必要な
んだ?
「登ってみりゃわかるよ。さぁ、どうする?」
肝心なところは明かさない。チャッカリしてるな、この爺さん。呆れを通り越して感心するくら
いだぜ。
「キョン、ホントに買うの?」
147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 15:07:09.86 ID:lgU73RYP0
支援
支援
支援
うーん。全員の有り金合わせて買えないことは無いが、ちと高いな。それに、この爺さんの言う
事がホントかどうかも分からんし……。俺は少し迷ったが、
「……分かった、買おう」
ハルヒは少し納得がいかないようだったが、結局は折れて三人で100ギルずつ支払ってバッテリ
ーを手に入れた。後は現地に行ってその目で確かめるだけだ。
――その前に、ヤマネの奴にお礼参りしなければな。そこはハルヒも当然賛成して勢い良く乗り
込んでみたものの、そこには人の気配が微塵も無い。あの『おしおき部屋』で手下の一人が三角木
馬の上で縛られていたが、そいつが言うには、
「あの後、神羅の連中がドカドカやって来て『情報をリークした』だの『役立たず』だの……。ド
ンは無理矢理何処かへ連れて行かれて、それっきり……オレもこんなザマさ。頼む、助けてくれ〜
〜!!」
そうか、それは自業自得だな。大人しく消されるがいいさ。それが分かればこんな所に用は無い
。俺たちは泣き叫ぶそいつを置き去りにして当初の目的地へと急いだ。
スプレーでそこら中に落書きされた高い高い壁、それよりも高く天にそびえる細い細いワイヤー
。それをずっと見上げると、プレート都市が僅かに見える――ここがプレート断面。確かに、この
ワイヤーはプレートの上にまで繋がってるように見える。そして、多分、この辺の子供たちだろう
。あくなき冒険心に任せてそのワイヤーを登っていた。その根元で、小さな女の子が泣いている。
支援
「みんなこのワイヤーを登って上に行っちゃったよ。怖くないのかな……ブルブル」
その子をあやしながら、ハルヒは尋ねる。
「これ、登れるの?」
「うん。上の世界につながってる」
ハルヒはそれを聞いて覚悟を決めたように頷いた。
「よし!このワイヤー、登るわよ!」
それは無理な話だな。プレートまで何百メートルあると思ってるんだ。
「無理じゃないわ!見て!これは何に見える?」
何の変哲も無いワイヤーだろ。
「そう?あたしには、金色に輝く希望の糸に見えるわ!!――ミクルちゃんを助けるには残された
道はもうこれしかない。本当は分かってるんでしょ?」
その時、俺は唐突にある小説を思い出した。地獄に落ちた咎人が極楽に昇ろうと垂らされた細い
細い蜘蛛の糸を伝い登って行く話を。どこで読んだっけな……。あれは確かバッドエンドだったし
、この『糸』もそれと同じくらい頼りないが、ハルヒ、お前の気持ちはわかった。
「――じゃあ、行くか!」
俺は覚悟を決め、ハルヒも古泉も続いてワイヤーを昇り始めた。しばらく行くと、巨大な壁のて
っぺんにまで来た。そこでは、さっきの子供たちが眼下に広がる、全てを粉々にされ、まだ至る所
で火が燻る旧七番街の無残な光景を眺めていた。
「うわ〜!すげ〜、ヒサン……」
「な、こえ〜だろ?とうちゃんは『しんら』ってやつののしわざだっていってたよ」
……世の中には垂れ流される情報を鵜呑みにせず、真実をちゃんと見極める目をもった奴もいる
んだな。その事に俺は少し救われる思いがした。多分、それを聞いて微笑っていたハルヒも古泉も
同じ思いだろう。――少年、その『とうちゃん』の言う事聞いて真っ直ぐ育ってくれよ。
複雑に絡まりあったワイヤーやパイプを伝い、さらに上へ上へと登って行く俺たちだったが、つ
いに行き止まりにぶち当たった。その先には飛行機のプロペラとさらなる上からぶら下がっている
鉄道のレール。あのプロペラが回れば先に行けそうだが……
そのプロペラにはどういう訳か電気コードが付いていて、それを辿ると四角いソケットを見つけ
た。
「……バッテリーをはめれば、あのプロペラが回りそうですね」
古泉の言にハルヒも頷く。武器屋の爺さんが言ってたのはこの事か。取り敢えず大金積んだ甲斐
はあるって事だな。その後も、再びバッテリーを使ったり、奇跡的なバランスで垂れて来ているレ
ールをよじ登ったりして、数十分。人生でもそう無いであろう「ロッククライミング」を経験した
俺たちは、ついにプレートの上に立つことに成功したのだった。
支援
――そして、今。俺たちは零番街――神羅本社ビルディングの前に立っていた。
「キョン、このビルには詳しいんでしょ?」
……知らない。そういえば本社に来るのは初めてだ。すると古泉が怪訝な顔してこう言う。
「――あなた、本当にソルジャーなんですか?」
失礼な。俺はれっきとしたクラス1st……と反論しようとしたが、瞬間妙な違和感を感じて口を
つぐんでしまう。何だ、これ。だが、どうやら古泉は冗談のつもりだったようで、俺の様子に気に
した素振りも無く続けたから、俺はそれ以上気にするのをやめた。
「……まあ、いいでしょう。前に聞いたことがあります。このビルの60階から上は特別ブロックで
社員でも簡単には入れないそうです。朝比奈さんが連れて行かれたのも、恐らくそこかと」
「そう。じゃあ、行くわよ!」
ってハルヒ。お前まさか正面から乗り込む気か?もっと見つかりにくい方法もあるだろうが!俺
たちまで捕まったらヤバイだろ!?
「そんなかったるい事やってられないわよ!グズグズしてたらミクルちゃんがどんな目に遭うか…
…それに――」
ハルヒは最大級の笑顔を見せて言い放つ。
「――これが一番あたしらしいやり方、そうでしょ、キョン!!」
これを見せられるとさすがに逆らえねえな。それに、六番街で落ち込んでたお前より何倍もマシ
だと思う。よし、では突っ込むぞ!!
「SOS団の意地、ビッグスたちの分まで奴らに目に物見せてやるわよ!!」
そして、俺たちは全速力で敵のど真ん中に突入する。夜空から照らしてくる星明り――それは無
謀な挑戦に賭ける俺たちを祝福してくれているのか、それとも……それは多分、神のみぞ知る、っ
て奴だな。
...to be continued
157 :
HARUHI FANTASY Z 第5章 STARLIGHT:2008/02/14(木) 15:26:54.65 ID:vBi5jdLp0
第5章はここまでです。支援の皆様いつも感謝です。
(余談)
この投下分では、新登場キャラはありませんでしたが、次回はあの子とかあの人とか
が来るんじゃないかな?と言ってみるテスト。
しかし、次回やっと神羅突入編か……長いな。
乙ー
そういやFF、最後までやってねえや……
>>157 乙!
そして失礼承知で、投下終了直後なのにごめん。今投下して大丈夫?
これから深夜まで仕事で投下できそうなのは、今だけなんだ。
ヴァレンタインネタだから、今日中に投下したいんだけど……だめ?
ごめん、間に合いそうにないんで勝手に投下します。ほんと失礼で申し訳ない。
教科書文通【
http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3063.html】の後日談です。
すいません、ラストのオチが書きたくて書き始めたのに、前置きが長すぎます。
しかも、前半野郎ばっかです。しかも、古泉とオリキャラ(山田)です。
本当は、キョンハル版ってことでキョンと谷口と国木田の会話とキョンハルなオチも書きたかったんですけど、
時間が足りませんでした……orz あと、話の内容が下世話ですんませんorz
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……古泉、俺正直この言葉大嫌いなんだけど、今日ばっかりは言いたくなったわ。ごめん、言わせて。」
挨拶より先にこう切り出した山田くんが妙に生ぬるい笑みを湛えながら発した次の言葉に、僕は持っていた小さな箱を落とした。
「しね。」
中に甘い菓子類が入っていると見えるピンク色のリボンがかわいらしい箱は、僕の机の上にいつの間にか積まれたものの一つであり、
少なくとも僕が登校してきた時には似たような箱や袋が5つほどあった。おそらく、中身も皆同じようなものだろう。そういう季節だ。
「ちょ、なんですか。おはようより先にしねってなんですか。」
「そうだな。死ねは言いすぎた。やっぱこの言葉嫌いだ。うん、言い換えよう。往(い)ね。」
「意味変わってないですよ、それ! 古語になっただけじゃないですか!」
「ほら、今日の1時間目古典だし、小テストだし、勉強なんてしてねーし。」
「最後のひとつ明らかに関係ないでしょうが。って、なんでぼくが死ななきゃいけないんですか!」
「なんでお前ばっかりこんなにチョコ貰ってんだよ! ムカつく!!」
しえん
しえん?
タイトル入れ忘れた。
―――――――――――――――――――――
今日、2月14日は聖ヴァレンタインディである。
一体だれが決めたのか、日本では女性が意中の男性や、日頃世話になっている相手に男女問わずチョコを贈る日だ。
女性が意中の男性に贈り物をするなんていうのは、日本の他には僕が知っているのでは韓国ぐらいで、
向こうでは、14日にチョコレートを貰えなかった男たちが黒いジャージャー麺を啜るブラックディなるものもあるらしい。
なんでも、ホワイトの逆はブラックだかららしいのだが……そんなことをやるほうが余計惨めになると思うのは僕だけだろうか。
お隣の国の話はさておきとして、今日はヴァレンタインディである。
今では、女性が友人や自分自身に高価なチョコレートを買い与える日としてのイベント性の方が高いといわれている行事だが、
それでも、女性から好意を寄せる男性に贈り物をする日と言う本来の機能はちゃんと残っているらしい。
今日、この9組の教室に来るだけで何人かの男女がチョコレート贈呈の儀を取り行っているのを見かけたし、
何より、あの涼宮さんが今朝が早くにチョコを“彼”にちゃんと渡せるかというかわいらしいストレスに苛まれ、
閉鎖空間を発生させて、僕は5時起きでその処理に向かってその足でこの北高へ続く心臓破りの坂を駆け上がってきたのだから。
……なんでこんな日に限って日直なんですか。あー、閉鎖空間発生を理由に公欠とか取れればいいのに。無理に決まってるけど。
くどいようですが、今日はヴァレンタインである。
僕だって、去年の晩夏から秋にかけてのすったもんだの紆余曲折の末に結ばれた恋人がいる身としては、楽しみにしていたイベントだ。
今年は何と! 長門さんから……
「世の中不公平だ!」
山田くん、僕のモノローグ遮らないでください。
「このクラスの学力レベルはトントンのはずだ。多少の上下はあっても大きなもんじゃねぇ。
おまけに、運動神経に関しちゃ現役野球部員の俺と謎の文化系サークル所属のお前とでは明確だ。
まぁ? お前も文化部にしちゃ相当なもんだけど? しかーし! 100メートルのタイムは俺の方が速い!
性格だって、俺が完璧じゃないようにお前だって完璧じゃないはずだ! 大雑把だし、卑屈だし、偏食だし……。
大体、こーんな字を書くやつが聖人君子なわけがない! なんだ、これ、宇宙文字か。
本当にガッコのセンコーってのはすげぇな。これを毎回採点してんのか……。尊敬するわ。」
「そんなことを言われましても……これでも、まだましになったんですよ。」
「確かに、長門と付き合いだしてから随分丁寧に字を書くようにはなったが……、
それでもお世辞にもうまいとは言えんぞ、これ。ミミズが這ったというか、なんていうか。」
「……で、結局、何が仰りたいんですか。」
「俺が何を言いたいかだって? そんなの簡単だ。俺が言いたいのはな……」
僕が書いていた日誌を覗き込みながら、失礼なことを(しかし、悔しいことにすべて事実)をつらつらと述べる山田くんは、
もう一度、視線を日誌から僕の方へ向けて、大きく息を吸ったのち、こう言い放った。
クラス中に響き渡るような大声で。ズビシィッと僕を指さして。
「なんで、お前ばっかりこんなにモテるんだぁあああ!!!! 顔か、顔なのか!?」
人を指ささないでください。あと、顔、顔って言わないでください。気にしてるのに。
「知りませんよ。第一、ホントにこれ、全部僕あてとは限らないじゃないですか。
誰かの机と勘違いしてるんじゃないですか? ロッカーに入ってたのも、隣の人と間違えたとか……」
「お前のそういう卑屈なところがむかつく!」
「卑屈って……。去年もそうでしたけど、これ、ほとんど知らない人からばっかりなんですよ。
隣のクラスとか、知りませんもん。上級生とか、一年生のとかもありますし……やっぱり間違い……」
「お前のそういうとこ本当に腹立つ! 自覚しろ! お前の顔は平均以上なの!
自意識過剰や奴もムカつくけど、お前みたいな顔良いくせに無自覚で卑屈なのも問題だ!」
「あー! もう! そんなカッカしないでください、たかがチョコレートで!」
「今、たかが、たかがって言った――――!!」
……もういい加減、この人うざくなってきた。いや、基本的にものすごくい人なんですけど。
谷口くんをあまりよく扱わない“彼”の気持ちがほんの少しわかった気がする。
支援
「大体、恋人がいる身で他の女性からヴァレンタインに贈り物をされても困るだけじゃないですか。」
「うおう! その発言もムカつく! って、そりゃそうか。
長門にも申し訳ないし、相手の女の子にも申し訳ないわな。」
「直接渡しに来て下さる方に対しては、きちんとお断りできるんですが、
このように置かれてしまうと、せっかくの贈り物を捨てるわけにもいかなくて……」
「まぁなぁ。モテんのも、考えもんだ。……俺には一生関係ない悩みだけどな。」
「今日はまだ、始まったばかりですよ。もしかしたら、チョコレート頂けるかもしれないじゃないですか。」
「ま、期待せずに待ちますよっと。」
新学期早々行われた席替えで僕の前の席になった山田くんはそう言うと、
どっかと自分の席に腰かけたのち、椅子ごと振り返ってまた話し始めた。
時々、この人はSOS団所属の女性陣達よりおしゃべり好きなのではないかと疑ってしまう。
「ところで、古泉。肝心の長門からはもう貰ったのか?
あいつ、世間知らずっぽいからヴァレンタイン知らない、って言われてもおかしくないぞ。」
「ああ、その点は大丈夫ですよ。去年、SOS団の企画でチョコレート発掘をしましたから。
……それに、今日は……」
「チョコレート発掘?」
「え? ああ、涼宮さんが考えたイベントですよ。鶴屋さん……SOS団の名誉顧問の上級生の方なのですが、
その方のおうちが所有している山にお3方特製のチョコレートケーキを埋めて、
それを、“彼”と僕で発掘するというゲームです。」
「……またけったいなことを……」
「否定できません……。」
乾いた笑みを貼りつかせる僕とは対照的に山田くんは、ニタニタと話を続ける。
「で、話をもどすが、お前、長門からチョコ貰ったわけ?」
「まだですよ。しかし、今日のほうか……」
「そうか、部活の時に渡すわけか。」
この人と谷口くんは、人の話を最後まで聞くスキルを手に入れるべきだと思う。
「いえ、今日は涼宮さんと“彼”が放課後デートに行かれるそうなので団活はお休みです。」
「じゃあなにか! お前らは恋人なのにもかかわらず、会いもしないというのか!」
「いいえ、ちゃんとお約束していますよ。今日の放課後に、長門さんのお家にお邪魔することになってるんですよ。
晩御飯をご一緒する予定なんです。僕が一人でいると何食べてるか心配だからって……。」
やっとこさ(朝、山田くんと会ってからもう2度言い損ねた)言えたこの事実に、目の前の丸坊主は白目をむいて驚いている。
ちょうど、一昔前の少女漫画のキャラクターが人差指と小指をピッと立てて「こわい子!」と言っている絵柄を想像してほしい。
ちょっと、驚きすぎだと思う。
「お邪魔するって、長門ん家にか! しかも、夕飯時に!?」
「だから、そう言ってるじゃないですか。」
この人は、いったい何に対してこんなに驚いているんでしょう。僕が頭を少し傾けると同時に、坊主頭はこう叫んだ。
「お前、つまりそれは、長門の親御さんに挨拶するということだぞ!!」
よし、情報を確認しましょう。
普通、よほどのことがない限り高校生は家族と暮らしている。
勿論、山田くんも妹さんを始めとするご家族と暮らしている。その感覚で言うと、
彼氏が夕飯時に彼女の家に行く=彼氏を両親に紹介する=家族ぐるみのお付き合い≒結婚前提のお付き合い
と、言う公式が出来上がる。彼女が彼氏の家に行く場合でも同じだろう。
普通の、一般的な一高校生からすれば、一大事だ。
しかし僕たちの場合、二人とも一人暮らしなのでそういう話にはならないだろう。
ところで、長門さんの親御さんと言えば情報統合思念体だけれど、
長門さん的に言えば、情報統合思念体は、はたして、お父さんなのかお母さんなのか。謎だ。
そもそも情報統合思念体には、僕と長門さんの関係なんか筒抜けだろうし、どんなふうに思ってるのか気になる。
支援
「3ヶ月以上経っても、初々しく仲がいいと思っていたらもうそこまで進んでたのか!?」
「落ち着いてください。まだ僕は長門さんの親御さんに挨拶はしませんよ、筒抜けみたいですけど。
それに、長門さんは僕と同じ一人暮らしで……」
「なにぃ!? 一人暮らしぃ!?」
こ ま く が い た い。
「若い男女が、夜に一つ屋根の下に2人きりだとぉ!? お前、夕飯と一緒に長門まで頂く気……」
「あなたの頭には、おピンクな展開予想しかないんですか!! と、言いますか、声が大きい!」
僕がつっこみを入れたところでチャイムが鳴り、それと同時に担任教師が教室に入ってHRを始めたため、
この会話はここでいったん中止となった。
しかし山田くんは隙あらば、やれ、早まるな、うぶなお前にはお前にはまだ早いだの、やれ、初めては優しくだの、
やれ、買うのが恥ずかしくとも用意するのが嗜みだの、下世話なことばかり吹き込んできた。
例え、それが昼食時の学食でも、隣り合ったトイレでの会話でも、放課後の下駄箱前でもだ。勘弁して下さい。
あれ? この人こんなにうざい人だったっけ?
☆★☆
「ダーッ! そんなことばっかり言われてると考えがそういう方向に向いちゃうじゃないですかー!!」
「そういう方向ってどういう方向?」
「ええーと、あははは、なんでも! なんでもないんです!」
「……そう。」
ひっそりとした街灯はあれど日が落ちて薄暗い、人通りの少ない長門さんの住むマンションへと続く道に響く声に我に返る。
今はもうすでに放課後。僕は、下世話な友人と下駄箱前で別れてから、校門で待ち合わせをしていた長門さんと合流し、
帰り道、何か所か長門さんが寄りたいと仰ったお店を冷やかして(最近、長門さんは買物の楽しみに目覚めたらしい)、
最後に、長門さんのマンションの近所のスーパーに立ち寄り夕飯(勿論、カレー)の材料を購入し、
今現在、約束通り、長門さんのお宅へと向かっていた。勿論、ジャガイモや玉ねぎなどの重い食材の入った袋は僕が持っている。
ちなみに、そういう方向とは、そういう方向である。長門さんに言えるはずがない。
長門さんに言えないことはそれだけではない。正直に言おう。僕は今日一日、長門さんを幾度となくそういう目で見てしまった。
セーラー服の襟から延びる白い首、彼女がショートカットであるがゆえに見えるうなじ。小柄な体、細く、白い脚……。
なにより、うっすらグロスが塗られている控え目で派手ではなくともふっくらしていそうな、薄紅色の唇にどうしても目が行ってしまう。
そういえば、手をつなぐのにも2ヵ月かかった僕らは、キスすらしたこと無かったな。どんなのなのかな、やはり、甘いのかな。
などと、考え始めると、思考が長門さんの唇の方へ向いてしまい、そのせいで彼女の話を聞きそびれて、拗ねられてしまった。
すぐに仲直りできたのが幸いだ。……僕が、いきなりキスしましょうなどと言ったら、長門さんは僕に失望するだろうか。
「古泉一樹。」
「はいい!!?」
急に彼女に話しかけられびっくりする。よもやまさか、この下心丸出しの心でも読まれたのではないかと、ひやひやする。
「着いた。」
長門さんの言葉につられ、ゆっくりと見上げるとすぐそこに長門さんが住む高級マンションがあった。
何度見ても僕のところのボロアパートとはけた違いだ。情報統合思念体の収入源ってなんなんだろう。
「急いで。日が暮れる。」
「は、はい!」
長門さんに急かされてエントランスに入ると、計ったようにエレベーターが一回に着き、僕たちはそれに乗り込んだ。
エレベーター内には、僕と長門さんの2人きりだ。今更になって、緊張してきた。
長門さんのお宅には、SOS団のメンバーとお邪魔したことがあるが、僕だけでは初めてである。
しかも、今現在の僕らの関係を考えると、なおさらに緊張する。
いいんですか、長門さん。男は狼なんですよ。やっぱやめたって言うなら、今のうちですよ。
あ、何か自分で言ってて悲しくなってきた。本当に拒否されたら、立ち直れないかもしれない。
ばくん、ばくん。心臓の音だけが響く。
もともと無口な長門さんと、普段はおしゃべりなくせにこういう時は何も喋れなくなってしまった僕。
二人を乗せて、エレベーターは黙々と上階を目指す。沈黙と心臓の音が耳に痛い。意識しすぎだ。
僕の視線は、また、長門さんの唇を追っていた。キスというのは、いったいどんな味がするのだろう。
誰の唇でもいいわけじゃない。僕は長門さんの唇が知りたい。どんな感触がするのか、どんな味がするのか、自分の唇で確かめたい。
初めてのデートの際の、オールドファッション間接キスを思い出して、脳味噌が沸騰しそうになった。
ああ、なんでこんな時に限ってそういうことを思い出すんだ。邪念を、邪念を捨てろ、古泉一樹!
支援
「古泉一樹。」
「はいい!!?」
さっきから黙り通しの僕を不審に思ってか、怪訝そうな顔をした長門さんが、エレベーターの出口で僕を待っている。
気がつけば、エレベーターはもうすでに僕らを長門さんの部屋のある階まで運んでいた。
両手に持ったスーパーの袋を持ち直し、覚悟を決めなおし、僕はエレベーターの個室を出る。
あくまで、紳士に。下心を捨て去って。そう言いつつも僕の眼は、確実に長門さんのつややかな唇を追っていた。
「どうぞ。」
ガチャリというドアの開閉音の後に、勧められて入った長門さんの部屋は暗い。
他に誰もいないことが今更ながらに、思い知らされる。このある種の閉鎖空間に長門さんと二人きり……。
いけないいけない! 不埒なことを考えるな! 古泉一樹!
キスは神の前で誓いのそれを! 操は結婚初夜! ああ、結婚だなんて、気が早すぎる……
「お邪魔します……」
「いらっしゃい、それとも、お帰りなさいがいい?」
お願いですから、そこで微笑まないでください。
おまけに冗談でもお帰りなさいって、そんな、変な妄想しちゃうじゃないですか。ああ、長門さんに下心なんてないんだろうな。
おそらく、涼宮さんか朝比奈さん、もしくはクラスの誰かに入れ知恵されただけなんだろう。
長門さんはやっぱり、こんな風に見られているなんて想像もしてないだろう。
僕だけが一人舞い上がって恥ずかしいやら、申し訳ないやら……。
ああ、でも、長門さんが奥さんかぁ……かわいいだろうなぁ。ご飯は……毎日カレーかなぁ。それでも、幸せかもしれない。
僕がそんな不埒な妄想に取りつかれていた次の瞬間、大事件が起こった。長門さんが、こんなことを言い出したのだ。
「待って、古泉一樹。」
未だ、キスもしていない、手をつなぐにも2ヵ月かかった彼女がいる身であることを想像した上で、僕の気持になってください。
「このようなシュチュエーションにおいて、前々からあなたに言ってみたいセリフがある。」
その、未だキスもしていない、手をつなぐにも2ヵ月かかった彼女からこんな風に前置きされて、
「試してみても、いい?」
と、聞かれた場合、Yes、と答えるしかないでしょう。たとえ、その言葉がどのようなものであろうとも。
僕だって一瞬、考えましたよ。別れ話じゃないかとか、実は長期間をかけたドッキリでした、じゃないかと。
しかし、次のセリフは、それ以上の破壊力がありました。ええ、テポドン級ですよ。長門さんは、こう仰ったのです。
「お帰りなさい、あなた。ご飯がいい? お風呂がいい? それとも、わ・た・し?」
言われた瞬間、僕の中の何かヒューズのようなものが切れる音がして、一気に世界が暗転しました。
え? 理性を捨てて、彼女を頂いたのかって? 僕にそんな度胸があるとお思いですか?
あまりのことに、驚き、喜び、興奮し、高揚し、テレまくった挙句、脳がショートして気絶しました。
次に目が覚めたのは、朝でしたよ。
チョコレートの代わりの長門さん手作りカレーを朝食にして、2人で学校に向かう為マンションを出た際に、
ばったり出くわした山田兄妹と谷口くんにからかわれたのは、もう思い出したくありません。
「古泉、あとでちょっと体育館裏来い。」
おや、“彼”からのお呼び出しのようです。いったい何があったのでしょう……?
<END>
お粗末でした。仕事行ってきます。
山田じゃなくても絡みたい、キョンじゃなくても殴りたくなるな
畜生古泉の癖に・・・って思って読んでたらこのオチか!
GJ!甘くて面白かった
山田はいいキャラだなwww
しかし古泉がこんなにも壊れるとは先が思いやれるぜ……
GJ!
179 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 16:50:15.40 ID:4o9NPg4l0
あげ
180 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 17:29:09.05 ID:SZ0WImK6O
保守
>>176 GJ!
良いね、違和感の無いオリキャラは。
古泉ガンバレw
保守
183 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 18:41:54.54 ID:+Mx2mUVo0
なあ、少し時間があって、超長編の良作上げてくれないか
保守
186 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 19:47:14.57 ID:YpR1HlHx0
保守
教科書来てたwww
このシリーズ好きなんで後でじっくり読ませてもらうぜ!!
保守
jp
保守
191 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 21:16:50.48 ID:drBprnn8O
保守
保守
193 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 21:52:38.26 ID:bDpfJ9TU0
保守
194 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 22:12:07.93 ID:gyj0t8qe0
195 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 22:29:32.85 ID:XXyDwhOy0
ほ
バレンタインで投下ラッシュが来ると思ったんだけどこないね・・・
保守
なんか重いな……
199 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/14(木) 23:21:35.34 ID:SkQcsOZA0
保守
保守
寝る前保守
202 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 00:16:51.89 ID:eqGytKKIO
3ヵ月ぶりにプリンきた。保守
保守
204 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 00:33:59.66 ID:c+NBRGjo0
>>196 一時間以内に甘い奴投下してやるから待ってな保守
ホシュ
保守
上げ保守
209 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 01:30:20.94 ID:c+NBRGjo0
昨日書き出したやつを、今チョコレート食いながら仕上げたぜ。
投下してもOK?
> チョコレート食いながら
駄目
支援する。
212 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:36:08.68 ID:c+NBRGjo0
>>210 すまん。
じゃあ、よろしく頼みます。
「ねえ、バレンタインデーの起源を知ってる?」
ハルヒが実にタイムリーな話題を振ってきたのは、学校中が甘い香りで満たされる日の朝のことだった。
「ん?何だって?」
「だから、バレンタインデーが始まった理由を知ってるかって聞いてるのよ!」
ふっ。聞いた相手が悪かったな。倫理の時間は寝てても、フロイト全集を網羅している俺に聞くとは。
「ローマ時代に殉教した司教を記念して始まったんだろ。戦争好きのバカ皇帝が強い兵士に妻はいらんと言って結婚を禁止する法律を作って、
それを破って愛し合う男女を結婚させていたのが我らが聖ヴァレンティヌスだ。けっきょく皇帝にバレて処刑されちまったが、
その涙ぐましい偉業を記念してできたのがバレンタインデーってわけだ」
俺が自慢げに知識を披露すると、ハルヒは残念そうなカオの総天然色見本みたいな顔をした。
「なーんだ。つまんない。せっかくキョンの頭を叩きながら教えてあげようと思ってたのに。
まあいいわ。ここ、テストに出るから覚えておくように」
謎めいた言葉を残して、ハルヒは窓の方を向いた。俺が慌てて問い詰めようとすると、岡部が教室に入ってきちまった。
支援
214 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:37:24.52 ID:c+NBRGjo0
「今日は巷で噂のバレンタインデーであるが、こんなもの菓子会社の陰謀であること甚だしい。こんな金の無駄遣いに引っかかるのは中学生までである。ソンナコスルンダッタラ、ハンドボールヤロウゼ!」
ってな感じの、チョコレートをもらえない哀れな男臭がぷんぷんする迷演説でどっちらけのホームルームは締めくくられた。
それで午前の授業が始まったのだが、ぶっちゃけて言おう、先生方のありがたい言葉はまったく耳に入らなかった。
世の青春まっしぐらな男子生徒と同じく、今年は女子からチョコレートもらえるかな〜などと甘っちょろい妄想をしていたわけではない、と言ったら嘘になる。俺はチョコレートのことばかり考えていた。
その最もたる原因は言わずもがな、ハルヒだ。
去年はニヤケやろうと鶴屋家の裏山を掘り返しただけで良かったが・・・・・・全然良くなかったと筋肉が猛烈な抗議をしているが忘れよう。とにかく、あの北高暴走特急は何をするか分かったもんじゃない。
アメリカ軍から爆撃機を強奪してきて「キョン〜たんとお食べ〜」と俺の頭に三十トンほどチョコレート爆弾を落とすことだって平気でやらかすだろう。ああ恐ろしや。
今年のキーワードは聖ウァレンティヌス。これは間違いないだろう。あいつから言ってきたからな。しかしながら、午前中全てを費やしても答えは出てこなかった。まったく思いつかん。
支援。
216 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:39:03.03 ID:c+NBRGjo0
休み時間にハルヒに話しかけても「うっさい」「放課後まで待ってなさい」「しつこい」「・・・・・・そんなに聖バレンタインデーの虐殺を再現して欲しいの?」と取り付く島がなかった。
どうなっちまうんだろうな、俺。チョコレートと一緒に煮られて公開釜茹での刑にでもされるのか?
普段より元気二十%ダウンで迎えた昼飯は、本命チョコと今日のオールバックに関する話を延々とする谷口のせいで、お袋の手作りコロッケの味すら分からなくなってしまった。
谷口よ。お前はどんなに頑張っても義理チョコどまりな男臭がぷんぷんするぜ。
例によって午後の授業も身が入らず、あっという間に放課後を迎えてしまった。
「諸君はチョコレートを渡すなどという青少年にあるまじき行為をしないように。ソンナコスルンダッタラ、ハンドボールヤロウゼ!あと、先生は下校時間まで職員室にいるからな〜質問や悩みがあったら軽い気持ちで来るんだぞ〜いいな〜?」
クウェート行き決定のハンドボールバカが教室から出て行くと、望外なことにクラスの女子一同から男子全員にチョコレートが配られた。これ考えたやつ頭いいな。
女子は安上がりに義理チョコを配れて、男子はとりあえずみんな幸せになれる。本命さんには後でゆっくりと、って寸法だ。じゃんけんに負けて岡部にチョコレートを渡しに行った坂中は少し涙ぐんでたが・・・・・・
「こんな偽物はいらない。俺は真の愛が詰まった一品だけを求めるのさっ!」
この大バカ者の名をあえて晒す必要があるだろうか?女子がドン引きしてるぞ。
「やれやれ」
俺はありがたい義理チョコをしばし堪能すると、クラスの中から一人だけ姿を消していた誰かさんの待つであろう文芸部室へと足を向けた。習性ってやつは恐ろしいね。
SOS団の根城になっている部屋の前に来ると、俺はまずドアに異常がないかチェックした。雑巾も挟まっていなかったし、対人地雷も仕掛けられていなかった。
次に朝比奈さんの着替え対策に軽くノックをする。
「入っていいわよ」
一番聞きたかった気もするし、一番聞きたくなかった気もする声がした。俺は呼吸を整えてから一声かけて中に入る。
支援
218 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:39:49.40 ID:c+NBRGjo0
「入るぞ」
一瞬目を疑ったね。ついでに心臓も一回転した。いつもは俺が座っているパイプ椅子に足を組んで座っていたハルヒは、それはそれは魅力的だったのだ。
俺が小説家だったらハルヒの美しさを表す表現が二十通りくらい湧き出てたね。何でだろう、出ているオーラが違うというか。これでポニーテールだったら最高だったんだが・・・・・・って俺は何を考えてるんだ。
「みくるちゃんたちには帰ってもらったわ。はい、これあげる」
すくっと立ち上がったハルヒは一直線に俺の前に来て、丁寧に包装された箱を突きつけた。
「これを・・・・・・俺に?」
「そうよ。感謝しなさい。団長であるこのあたしが、しがない雑用係のために作ってきたんだから」
ハルヒは俺から視線をそらして答えた。ほんのわずかに頬が赤くなって上気しているからだろうか。
「おい、ハルヒ」
「何よ?」
「この箱と聖バレンタインはどんな関係があるんだ?」
「はあ?」
「空けようとしたら箱が爆発して俺がチョコまみれになって公開・・・」
やってくれたな、俺の口よ。見事に期待を裏切ってくれるなんて。いや、口のせいにするのは良くない。全ては俺のヘタレ根性が原因だよな。
はあ、なんでこんな態度でしかハルヒに接することができないんだよ。このやり取りが一瞬でできたことにも嫌悪感を感じるぜ。
「・・・・・・っ!もう!」
ハルヒはマッハを超えたかと錯覚するくらいの素早さで後ろを向いた。遅れて風が俺の顔面をしたたかに打つ。
「チョコを渡したのがあたしで助かったわね。普通の女の子なら呆れ果てるか泣いてるところよ!」
表情をうかがうことはできないが、口調から察するにハルヒは怒っている。当然だよな・・・・・・俺は何も言えずに、ただハルヒの後頭部を見つめていた。ハルヒの髪ってこんなに綺麗だったんだな。
支援
220 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:40:40.21 ID:c+NBRGjo0
「あたしはSOS団の団長スズミヤ・ハルヒ様よ!常に不思議なことを捜し続けているから、恋なんていう病気にかかってる暇はないの!」
ハルヒの声が窓で反射して入り口のところに立っている俺に突き刺さる。
「でもね・・・・・・でもね、たまにはあたしを一人の女の子と見て欲しい。あんたにそれを望むのは贅沢かしら?」
おい、こんなハルヒ・・・・・・もう反則としか言いようがないぞ。俺は無意識のうちに最良と思われる行動を取っていた。
「ごめん。ハルヒ」
「悪いと思ったなら、何をするべきか考える!」
「分かった。チョコ、ありが・・・のわっ!?」
「ぷっ・・・あはははは!!」
箱の上面に触れた瞬間、黒い物体が飛び出してきて、俺は思わずしりもちをついてしまった。ハルヒの笑い声が哀れな俺に追い討ちをかける。
やられた・・・・・・ハルヒから渡されたのは、ばねで仕掛けが飛び出すびっくり箱だったのだ。ご丁寧に飛び出したばねの先っぽにチョコレートの塊が刺してある。
「キョン、あんた最高だわ!あはははは!こんな・・・くくっ・・・こんな簡単な手に引っかかるなんて!」
不思議と怒る気にはなれなかった。既に毒気を抜かれてしまっていたし、大声で笑い続けるハルヒに罵声を浴びせることなんかできなかったからな。
しかし、俺は悟りを開いた人間じゃなかったし、ましてや頬をぶたれたら反対側の頬も出してやれ、なんてのたまったキリストでもない。
怒りはしないが、何か仕返しをしたくなる。俺は床に倒れた状態でできる最善の方法を取った。
「このっ!」
喰らえっ!必殺足払い!
「きゃっ」
見事にハルヒの足をすくった、までは良かった。後悔後先に立たず。
221 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:41:43.85 ID:c+NBRGjo0
「あ・・・・・・」
倒れたハルヒは床にダイブすることは避けたものの、なんと、俺に覆いかぶさる体勢になってしまったのだ。
ほのかな甘いシャンプーの匂いが降ってくる。いかん。理性が、息子が・・・・・・
二人の間にしばし沈黙が流れた。バレンラインデーなのに、けなげにグラウンドで練習している野球部の連中の叫んび声が良く聞こえる。
「おい、ハ・・・」
正気を回復した俺が声を出した刹那、誰も来るはずのない文芸部室のドアが開かれた。
「うい〜っす。WAWAWA忘れ物〜♪・・・・・・のわっ!?」
はい、質問。今の俺たちを谷口のようなアホが見たらどう思うだろうか?答え、十中八九抱き合って愛を確かめている最中だと勘違いするだろうな。とっても簡単♪
「すまん。ごゆっく・・・うげふっ」
「あんたは今、何を見たの?」
俺がこの場を急いで去ろうとした谷口に声をかける暇もなく、ハルヒがやつの首に手をかけていた。目測だが、今のスピードは確実にカール・ルイスを超えていたぞ・・・・・・
「な・・・何って・・・・・・お前たちがあがががががががが」
「あんたは今、何を見たの?」
あの〜ハルヒさん。少し手の力を緩めないと谷口が極楽浄土へ旅に出ちまいそうですよ。ところで、人の顔ってこんなに青くなるんだな。あっ緑になってきた。
「見て・・・はがっ・・・・・・見てないっ!・・・何も見てない!だから・・・・・・」
「そう。それでいいのよ」
ハルヒが森さんの妖絶な微笑に匹敵するほどの笑顔をして、ようやく手を離した。俺は悟った。この女を本気で怒らせてはならない。神に誓います・・・・・・神はこいつだったか。
「まったく。どうしてSOS団の本拠地にあんたが来るのよ」
のた打ち回っていた谷口がとたんに、手違いで砂漠に連れてこられて死に掛けていたトノサマガエルに水をかけたかのように生き返った。
「そうそう。そのことなんだけどな!俺、長門さんが部室に本を忘れ・・・ぐぎゃっ」
「有希が何であんたに忘れ物を取りに行くよう頼むのよ」
悪い、谷口。俺にはこいつを止める勇気がない。しかし、何故長門が谷口に?
「長門・・・・・・さんが俺・・・に・・・チョコをくれ・・・て・・・」
「おい、長門は今どこにいるんだ?」
冷静沈着なヒューマノイド・インターフェイスがこのアホにチョコを?ありえん。
222 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:42:38.36 ID:c+NBRGjo0
「渡り・・・廊下に・・・・・・あべしっ」
「キョン!確かめに行くわよ!」
「おう!」
谷口を放り投げると、ハルヒと俺は一目散に走り出していた。やわらかいものがつぶれる音がしたが、かまいやしない。
「有希!!」
「長門!!」
谷口の供述通り、長門は渡り廊下の真ん中に立っていた。そして、俺たちが質問の山を投げかける前に、頭を下げて謝ってきた。
「ごめんなさい。わたしは明日本をとりに行くと言ったが、彼を止めることができなかった。結果としてあなたたちの楽しみを中断させてしまった」
「あたしたちのことはどうでも・・・・・・良くはないけど。そんなことより有希!谷口にチョコをあげたって本当なの?」
ハルヒが長門の両肩をつかんで尋問を始めた。おい、ゆすりすぎだ。長門がエラーを起こしちまう。
「本当」
「どうして!?」
「彼はユニーク」
俺の長門レーダーは、長門がわずかにむきになったのを探知した。どうやら長門は本気のようだな。
「でもあんなアホに・・・」
「止めとけ。ハルヒ」
俺はハルヒの肩に手を置いた。
「長門の好きなようにさせてやれよ。それに、他人の恋愛に手を出すつもりはないって言ってただろ」
「うぐっ・・・・・・それは・・・そうだけど」
ハルヒは黙ってくれた。お前が長門のことを心配してるのは分かるよ。だがな、変な気を起こした俺は谷口を信用しても良いと思っているのさ。
さて、自分の子供に対してノータッチを決め込んでいる長門の保護者に代わって、俺が少しだけ保護者面をしてやるか。
「長門が本気なら俺はただ、一つだけ聞いておくぞ。長門にとって谷口は何だ?」
この二年間で飛躍的に感情が豊かになった長門なら答えることができるはずだろ。長門は液体ヘリウムを溶かし込んだような目を二回まばたかせてから答えた。
支援
224 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:43:16.88 ID:c+NBRGjo0
「彼は・・・・・・わたしのペット」
渡り廊下の空気が全て宇宙空間へ吸い出された。あはは。情報伝達時の齟齬だと信じたいが、そう真顔で言われるとなぁ。隣を向くと、ハルヒも目が点になってる。
「よしっ、ハルヒ、部室に戻るぞ!!」
「そっそうね、キョン!じゃ、じゃあね、有希!!」
俺はハルヒの手をとって全速力で走り出した。途中で天に舞い上がりそうな調子で本を持ちながらスキップしてた谷口とすれ違った。頑張れ谷口。骨くらいは拾ってやる。残ってたらの話だが。
「ちょっと待って、キョン」
文芸部室まで十メートルほどになってハルヒが両足でブレーキをかけた。
「もっと手、しっかり握りなさい」
「・・・・・・はいよ」
知らない間にハルヒとはこんな間柄になってたのか。驚天動地だ。まあいい。俺がびっくり箱を開く前に遭遇したハルヒの心情はどうやら本物のようだったからな。
俺はどこまでも付いていってやるよ。神でもなくSOS団の団長でもない。涼宮ハルヒという目の離せないおっかない女にな。
ついでに、これに気づくきっかけを作ってくれた聖ヴァレンティヌスにも感謝してやってもいい。サンキュー、バレンタインデー。
225 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 01:44:24.12 ID:c+NBRGjo0
以上で終わりです。
支援ありがとうございました。
支援
阪中「名前を覚えてもらえないのね。とても悲しいのね」
乙!
保守
230 :
聖ヴァレンティヌスに乾杯:2008/02/15(金) 02:35:30.86 ID:c+NBRGjo0
>>228 アーッ!!
ごめんよ阪中・・・・・・
指摘どうもです。
保守代わりに投下します
おもろかったよ。
おお。甘い展開ーと読んでたら……
谷口ペットかよ長門www
やべー。女王様ルックを身に纏いムチを振り回す長門と「もっとぶってください」と長門に哀願する谷口の姿を幻視してしまったじゃないか
と思ったけどすみませんが明日に
変更させていただきますという保守
保守
236 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 05:27:53.01 ID:e5Ao/sjfO
保守
237 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 06:51:32.77 ID:KeKXQbplO
ほしゅ
時事ネタ投下しようとして寝過ごしたorz
ちょっと今から投下してみます。
朝なんで、少し間隔をあけて投下します。
「ふう……」
俺は溜息一つついて外を見上げた。俺の気分は憂鬱まっしぐら、絶賛鬱々中である。
うちの学校の校長のエゴで行われる地獄の補習期間に辟易し、これが終わったら終わったで無駄に体力を奪われる球技大会にも閉口し、おまけに今冬最大イベントである期末試験も構えている。
そのため俺のテンションはリニアモーターカー並みに低空滑走中であった。これらイベントを思い浮かべる度にフィールソーバッドは拡大し、溜息をつく。そんな無限とも思われるループを繰り替えしていた。
そんな中、俺は空に流れる一縷の雲を目で追っていた。どこかの団長さんと違って、授業中にはそんなことしてないぞ。現在は休み時間だ。
その団長さんは今、俺の後ろの席で俺の背中をシャープペンシルでつついたり、思い付いた事を逐一ノートにメモったり……していなかった。休み時間はどこかフラフラと出かけて行方不明になるから……これも少し違う。
実はハルヒは先ほど――昼飯からずっとだな――姿を眩ましていたのだ。
突然姿を消してしまうのは今に始まった事じゃないし、どうせ何か思い付いて部室でコソコソと悪巧みをしているんだろうと俺は楽観視していた。
こう言う時の俺の勘はよく当たるんだ。忌々しい事に。
ハルヒの姑息な企みは今に始まった事じゃないし、それ俺たちは散々振り回されて来た。中でも一番振り回されているのは圧倒的高ポイントで朝比奈さんであり、俺は次点であるものの、一位である小柄なメイドさんとはその差は歴然である。
どちらかと言えば、ハルヒよりも他の奴等に振り回されているからな、俺の場合。寡黙な宇宙人や、グラマーに成長しきった未来人や、隠密活動が趣味の超能力者達に。
俺がハルヒに振り回されたと言えるのはあいつと一緒に閉鎖空間に閉じ込められた時が過去最高であり、今後もトップであり続けると自負している。
……ええい、あの時のことを思い出すと、いまでも自己嫌悪に陥る。世界を救うためだったとは言え、あいつにあんな事をしてしまったからな……しかも無理矢理……
いやいや、あれは夢だったんだ。そうでなければ、俺があいつに好き好んであんな事をするはずかないな。
ん? だが待て。夢ってのは自分の妄想を具現化する症状だって聞いたこともあるな。そうすると俺はハルヒにキスをしたがっているとでも……?
馬鹿言え、それこそナンセンスだ。俺はあいつに手出しするほど欲求不満では……
「なぁにバカ面引っ提げてぼーっとしてるのよ、キョン」
突如、涼宮ハルヒが俺の視界を遮った。
「突如じゃないわよ。さっきから話しかけているのにあんたは上の空で何にも反応しなかったじゃない」
はて……俺はそんなに反応が鈍くなってしまったのだろうか? 第一確かにハルヒはここにいなかったからな。少し前まではな。
「ちょっと前に戻って来てたのよ。悪い?」
そんなことはないが……
「まあいいわ、それよりあんた、今日は必ず部室に来ることね。今日来なかったら人生の63%くらい損をするんだから。分かったわね?」
そんなことを言わなくても行くから安心しろ。一日一回は目の保養と美味しいお茶を飲まなければ、SOS団でやって行く自信が無いからな。お前が来るなと言っても行ってやるさ。朝比奈さんさえいればな。
そんな俺の本心は一切顔に出さずああわかったよと頷くと、ハルヒはご機嫌なのか不機嫌なのか分からない、微妙な顔をして自分の席に座ったのだ。
そして放課後。俺は一人部室へと向かっていた。ハルヒはホームルームが終わるや否や、過給器を効かした高性能モータースポーツの如き加速度で部屋を後にしたため一緒にはいない。
どうせ何か企んでいるのだろうし、俺は部室に来いと言われただけなのでいつもどおりいけばいいやと思い、普通に歩いて旧館までの廊下をのそのそと歩いていた。
当然ではあるが、廊下で特別なイベントが起きるわけでも無く、すんなりと文芸部室の部屋の前にたどり着く。イベントが起きたのはこの後からだ。
ノックをしようとして入ろうとすると中で声が聞こえてきた。
「……ってね、……じゃん!」
「……ごい。……すね……」
「にゃはっ…………っさ!!」
中から聞こえて来たのは数人の女性の声。すべて聞き覚えがある声ではある。が……
「おや、どうされましたか? あなたがここに滞在しているということは、現在朝比奈さんがお着替え中ということでしょうか?」
俺が少し考えごとをしていると、横から見た目爽やかな好青年がいつものように微笑を携えて登場した。いや、多分違うと思うが……。
「着替え中で無いのであれば、ささ早く中に入りませんか? ここに長時間滞在するのは心身共に冷えきってしまいそうですからね」
「ああ」と俺。だが何故かこの部屋に入ることをためらっていた。何故かと言われれば説明しづらいのだが、何と言うか、中にいる女性陣の何やら楽しそうな声に、少し不安に感じるものがあった。
またしてもハルヒが俺の予想を越えた、突拍子もつかぬ事を考えているんじゃないかと思ってだな……
「大丈夫ですよ。言い争っているのであればともかく、談笑ならば問題ないでしょう。涼宮さんの機嫌が悪いというわけではありませんしね。それに……」
それに、何だ?
「今日くらいは涼宮さんの思いつきに乗ってもらわないといけませんね。でなければ、僕達に甚大な被害を被る可能性がありますから」」
僕達……ってことは、俺も入っているのか? 何でだ? 俺がそう言うと古泉は怪訝そうな顔をして、
「まさか、今日が何月何日かお忘れですか?」
おいおいふざけるな。健忘症になるにはまだ早いぜ。今日は二月……
「……あ」
「くくくっ、どうやらお忘れのようでしたね。今日の事を忘れる男子高校生も珍しいですね。絶滅保護種に認定してもいいかも知れません」
うるさい、黙れ。思いだしたからいいじゃないか。
「ならば早く部室に入りましょう。あまり待たせすぎますと叱られてしまいますよ」
確かに今日という日の事を失念していた。去年の件も合わせたら、俺はIUCNからCRクラスの絶滅危惧種に指定されるかもしれない。が、古泉にそれを指摘されるとムカつき度が当社比3.2倍ほどアップしてしまうので、無視してドアノブに手を掛けることにした。
刹那、辺りに漂う甘い匂い。噎せ返すかのようなカカオの香りが部室中に広がっていた。長机の中心にはステンレス製のボールだか鍋だかが置かれ、その中には茶色い液体が鎮座していた。これがこの香りの元凶だ。
そしてその横に並べられた様々なフルーツ、ビスケット、ウェハース、アーモンド……
「やっときたわね、キョン!」
ハルヒの声に俺は我に返る。ハルヒ、何だこれは?
「今日はバレンタインだから、今からチョコレートフォンデュ大会をやるわよ!」
ハルヒの宣言に、横にいた朝比奈さん、そして名誉顧問の鶴屋さんがニッコリと笑った。
「去年はケーキをつくったけど、あれって結構時間がかかるのよね。面白かったけど。だから今年は簡単に作れるのにしたの。チョコは溶かすだけだし、他のものは特別な用意は必要ないしね」
ハルヒは得意気に自慢かつ解説を続けた。鶴屋さんから材料を特別手配し、昼一から準備をし始めたらしい。だが意外と時間が掛かったようで、休み明けの授業をさぼって一人準備をしていたそうだ。
「さっき少し味見したけど、めっちゃ美味しいのよ! 鶴屋さんが持って来てくれた、特製調味料のおかげね!」
特製調味料?
「にゃはははは! これっさ! あたしの家に置いてあったんだけど、誰も使わないから持ってきたっさ! チョコやコーヒーに入れると美味しいんだよっ!」
そう言って鶴屋さんは琥珀色の液体が入った瓶を見せてくれた。なんですか、それ。どういった調味料なんですか?
「ちっちっちっ、ダメダメ。何かは教えてあげられないね。鶴屋家秘伝の調味料ってことで勘弁してけろっ!」
鶴屋さんは含みのあるようでしかし軽快な笑い声を上げつつ言葉を濁した。
「みくるちゃんや有希もちゃんと手伝ったんだから、ちゃんと感謝して味わうのよ。古泉くん、キョン」
俺は古泉に目配りをすると、古泉は分かってますよと言わん許りの表情をして、
「皆さん、ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして早速頂くことにします」
近くにあったビスケットをチョコレートに入れて一口食べた。
「……!」
「どう、古泉くん?」
「あ……、はい、とても美味しい……ですが……」
おやっと首を傾げる。古泉にしては歯切れが悪い。いつものスマイルも陰り気味だ。
「そうでしょうそうでしょう! あたしたちが心を込めて作ったんだからまずいはずは無いわ。ほらほら、キョンも食べなさい! ちゃんとあたしへの感謝も忘れずに!」
ハルヒはそんな古泉の表情に全く気付かないようで、俺にも様々なフルーツに彩られた茶色い液体の喫食を薦めてきた。少し気にはなるが、別段毒や薬が入っているわけでは無さそうだし、食べないと後が怖い。
それにハルヒの顔を見ていれば、何か余計なことを企んでいるかなどすぐ分かる。あの満足げな顔からして、今回はこれ以上の仕込みは無いだろう。朝比奈さんはニコニコしているし、長門だっていつもどおりの無表情だ。ならば安心して頂くことにしよう。
へいへい、あざーす。頂きますよ。
「ち、ちょっと待ってください!」
しかし、俺が手にしたイチゴをチョコにつけようとした瞬間、待ったをかけたのは古泉だった。 どうしたんだ古泉?
「あ、いえ……」
「本当にどうしたの古泉くん。さっきから様子がおかしいわよ? もしかして不味かったとか?」
「そ、そんなことはありません。とても美味しゅうございました。ですが……その、なんというか、少し独特の味が、僕には初体験でして……」
困った顔で言い繕う古泉。どうやら味が変だと言いたいのだが、ハルヒにそのようなことを言うのは古泉にとっては自殺行為である。だから言葉を選んで柔らかく嗜めようとしている。そんな感じだ。
「ははぁ、なるほど! 一樹くん、それは鶴屋家特製調味料の味だよ! 食べ慣れて無いとちょろーんと気になるかもしれないけど、ナノ気にしなくていいっさ!」
「は、はあ……」
なんだ、ただの食わず嫌いか。心配して損したぜ。
「気を取り直して頂くぞ」
「あ、はーい、どうぞ」
俺は朝比奈さんから渡された苺を手に取り、チョコの中に沈めた。ハルヒと鶴屋さんは満面の笑みで、長門はポーカーフェースで、そして未だ困った顔の古泉を視界に入れながらそれを口に運ぶ。
一口、二口……噛みしめて……
「……うまいっ!」
俺の言葉に、女性陣の笑みが色濃くなった。古泉。うまいじゃないか。普通のチョコより味が濃くて且つ食べやすいじゃないか。これが鶴屋家特製調味料の味なんだな。確かに素晴らしい。
古泉、お前が変な顔をするから心配したぜ。何か変なものが入っているかと思ってな。
(え、ええ……ですが、何とも無いのですか?)
古泉は声を潜めて俺に話しかけてきた。何がだ?
(これを食べて、体に異変は発生しませんか?)
おいおい……流石に言わせてもらうぜ。ハルヒ達は俺たちのためにこれだけ美味しいチョコを作ってくれたんだ。いくらなんでもそれは失礼だろうが。お前が食べたくないんだったら俺が貰うぜ。
「あ……」
俺は古泉の手にあるビスケットを奪い取り、そして食べる。
お前のやつも食べて見たが、やっぱり変な味はしなかったぞ。お前の杞憂にしか過ぎんってことだ。朝比奈さん、長門。お代わりをください。
「はいはい。今たくさん作りますからね」
「…………」
こんなに美味しいのに、食べなければ罰が当たる。古泉が食べたくないなら俺が食べてやるさ。見ろよあの満足そうなハルヒの顔。お前もあいつがあんな表情をしていた方がいいんだろ?
「ええ……確かに、そうですが……」
どうしたんだ本当に。お前おかしいぞ?
「あなたが何とも無いのであれば、僕の杞憂ですみますが……」
ないない。あるわけが無い。俺は至って正常だ。
「そう……ですか……」
「さあキョン! 古泉くんも。お代わりもって来たからジャンジャン食べなさい!」
やたら心配性な古泉を差し置き、ハルヒはさらに大量のチョコレートを俺たちの前に用意してくれた。これはありがたい。では頂くとしよう。
長門が用意してくれたフルーツを、朝比奈さんがチョコレートにつけて手渡してくれる。そして俺はひたすら食べ続ける。対照的に古泉は先ほどから殆ど手を付けていなかった。古泉、もったいないお化けに祟られるぞ、そのうち。
ハルヒも鶴屋さんも俺の食べっぷりをみて満足そうな表情をしていた。俺は食欲をエスカレートさせ、本気でここの食材を全部食べてやろうかと言う気になってきた。出来そうだ。すごく調子もいい。低空飛行だったテンションもストップ高だ。
だが同時に俺の身体に異変が起きてきた。体が熱い。少し虚ろな感情も現れてきた。なんだろうな、このポワーッとした感じは。なんだかとっても気持ちいい……
「おやぁ? チョコレートが切れかかってきたっさね。まだ残りがあったはずだから、あたしの教室まで一緒に運びにいってくれないっかな?」
「オッケー、鶴屋さん。行きましょう! キョンの食べっぷりがなかなか豪快だし、チョコが尽きるのが早いかキョンの食欲が尽きるのが早いか、勝負ね!」
――このハルヒ達の会話を聞き取ったのが、俺の最後の記憶であった。
――さあサッサと取りに行って、ガンガン作るから待ってなさい、キョン――
涼宮さんの溌溂とした声が廊下中に響き渡りました。彼女は鶴屋さんと共に材料確保のため鶴屋さんの教室に向かったようです。
今しかありませんね。僕は彼に話しかけました。
「さて、これでおおっぴらに話せそうですね。しかし、このチョコレートフォンデュには参りましたね。まさかあんなものが入っているとは……」
「え……? あんなものって、なんですか?」
キョトンとした目で、朝比奈さんは不思議そうな顔をしました。どうやら朝比奈さんは今回の一件には荷担していないようですね。
それはですね……
「おい、古泉」
ガタンッ
僕の説明を遮るかのように、彼が椅子から突然立ち上がりました。僕は思わず彼を見上げ……
「うっ!」
思わず声を上げてしまいました。彼のその表情に、思わず驚いてしまったからです。
「なぁに言ってんだお前はよぅ。あんまり作った喋りばっかしてるとそのうち禿げるぞ。くひゃひゃひゃひゃっ!」
頬がほんのり紅く、そして目が座っています。おまけに口からはアルコール独特の匂いが漂って来ました。
やはり、遅かったでしたか……
「え? え? な、何が起きたんですか? キョンくん、どうしちゃったの?」
「彼は今、酩酊状態、つまり酔っ払っています。原因は恐らく、チョコレートに加えられた例の調味料です。あれは恐らく蒸留酒の類……恐らくウイスキーでしょう。朝比奈さん、鶴屋さんから何か聞きませんでしたか?」
「えーっと、そう言えば鶴屋さん、バレンタインにちなんでバレンタインっさ、って言って涼宮さんにあの調味料を……」
「バレンタイン……ですか?」
さて、少々困りました。僕の知識の中にバレンタインと言った酒に記憶がありません。言うまでもなく僕は高校生ですし、お酒に造詣が深いわけではありませんし……こんなことであれば、先週絡み酒をしてきた森さんに聞いておくべきでした。
「うーん、バレンタイン……じゃ無かったかも。少し違ったような……」
朝比奈さんは過去の記憶を総動員してお酒の名前を思い出そうとしていましたが、やはり僕の記憶にある名称にはヒットしませんでした。
「バレンタラン……違うかな、バリンタイン……」
「バランタイン」
――口を開いたのは、長門さんでした。彼女はいつもの定位置に戻り、そしていつもどおり本を読み始めていましたが、いつの間にかその行為を中断し、顔をこちらに向けていました。
「バランタイン……ですか?」
「そう。モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混合したブレンデッドウイスキーの一種。スコットランドを代表するウイスキーと言っても過言では無い。この風味からして数十年は寝かした逸材」
な、なるほど……ブレンデッド、しかもアイラモルト風味が強いものなのでしょう。森さんにスペイサイドモルトウイスキーの薀蓄は沢山聞かせされていたので、そちらなら多少なりとも知識があったのですが……
「ブレンデッド故、アイラモルトのピート香が和らいだこと、そして長期熟成による風味緩和により、判断が遅れた可能性がある」
さすがは長門さんです。ウイスキーに対する知見も深いですね。
「あの、それよりも、キョンくんをどうにかしないと……」
っと、すっかり失念していました。彼は相変わらずチョコを食べながらウケケケケケと笑い声を上げていました。
「そうですね……さて、どうしましょうか」
僕が対策案を練ろうとしたその時。豹の如き駿足を以て、朝比奈さんに迫る姿がありました。
「朝比奈さんっ」
「ひぇっ! な、なんですかキョンくん!?」
「貴女は罪な人だ。僕は貴女が憎くてならない」
「ど、どうしてですか? あたしなにか悪い事しましたか?」
「ええ……貴女は誰に対しても優しく、愛らしい。そしてその美貌を分け隔てなく振りまくのが堪らなく憎い」
「えええっ!!」
なんと彼は爆弾発言をしでかしました。そして朝比奈さんの手を握り、言葉巧みに口説き始めたのです。
「出来る事なら僕が独り占めしたい……」
「ああっ! キョ、キョンくん、だめぇ! こんな所を涼宮さんに見られたら……!」
「なんてか細くも美しい手だ。肌も透き通るように白い。これほど美しいものは、重要文化財か特別天然記念物に指定すべきです」
「ひゃ……あ……あ……」
彼の執拗な口説き文句に朝比奈さんは顔を真っ赤にしています。どうやら思考回路が暴走気味のようです。
「願わくば、あなたを一生守り続けるナイトであり続けたい。朝比奈さん、許可を……」
「は……はひっ!」
「……ありがとう。僕のだけのプリンセス」
「……!!」
「何と……」
「…………」
――彼は身の毛もよだつような臭いセリフを述べた後、事もあろうに、朝比奈さんの手の甲に誓いの口付けを施しました。
「…………」
この三点リーダは長門さんのものではありません。朝比奈さんが延々と発しているものです。完全にオーバーヒートを引き起こしたのでしょう、顔中……いや、雪のように白かった手までいまや真っ赤に染まっております。
彼のチョコによる唇型を残して。
な、なんと言う破壊力……彼が本気で口説き始めたら、この程度の事など造作もないようです。朝比奈さんがああなったのも頷けます。……しかし、できることならそれを涼宮さんにしてくれれば僕たちは相当助かるんですが……
「…………」
――はっ! この冷たい目線はっ!!
慌てて僕は冷凍ビームの発信源を見ました。言うまでもありません。案山子のように根を生やして動かなかった長門さんの目線です。
いつもの視線とは異なります。冷たいだけでは無く突き刺すような視線を彼に向かって浴びせ続けていました。
「ん……? どうした、長門」
完全に硬直した真っ赤なメイドさんから手を放し、長門さんに向かって行く彼。
「危ないです! 逃げてください!」
長門さんは敵意むき出しのオーラに身の危険を感じ、僕は思わず後退りをしました。しかし彼は全く意に介さず、逆流に逆らうかのように長門さんの横手に近付きました。
「…………」
「どうしたんだ、そんな怖い顔をして」
「…………」
「もしかして、朝比奈さんにちょっかいをかけたのが気に食わなかったのか?」
「………………」
長門さんの気が一段と黒さを増しました。これ以上長門さんを刺激しないでください! 下手をしたら消されてしまいますよ!
「……ふふふ、馬鹿だな、長門」
「馬鹿なのは、あなた」
長門さんの目付きが傍から見ても分かるくらい強張りました! もうダメです! 僕は逃げます! 任務放棄による森さんのお仕置は怖いけど、長門さんの怒りはもっと怖い!!
「俺はな……嫉妬してたんだよ。他の男とイチャつきやがって」
――そう思った矢先、彼はまたしてもサプライズアクションをしでかしました。何と彼は長門さんの肩に手を回し、耳元で囁き始めたのです。
「イチャ、っついて……など……いな……」
言葉数が少なく噛みそうな言葉でもないのに、長門さんは何故か途切れ途切れに語りだしました。
あからさまに動揺しています、あの長門さんが。
「嘘つけ。この前もコンピ研の奴等と楽しくおしゃべりしゃがって」
「あれは、新規製作ソフトに於けるバグの改善シミュレーションを……」
「バカ……そんなことは知ってるさ……だけどな、そんな会話すらして欲しくないんだよ、俺は」
「…………」
「なあ頼む……俺だけの長門でいてくれよ……後生だ」
な、なんと言うわがままな……しかもさっき朝比奈さんに『僕だけのプリンセス』って言ったのに、その辺はどうなんですか!? そんなヒモ野郎なんかほっぽいた方がいいですよ、長門さん!
「……あなたが……そう望むなら……」
な、長門さん!? 本気ですか!?
「ああ、それでこそ俺の好きな長門だ。こいつはお礼だ――」
――ハミハミハミ――
――パサッ――
「…………」
あまりの出来ごとに僕は絶句していました。
とは言え、このまま硬直していても仕方ありません。甚だ遺憾ではありますが、解説する事に致しましょう。
彼は長門さんに愛の囁きをした後、長門さんの耳を甘噛みし始めたのです。そして、その行動に驚いた長門さんが読んでいた本を落してしまったのです。
「…………」
長門さんは本を落としたのにもかかわらず、先ほどから身動き一つ取っていません。朝比奈さんとは違い、顔色こそ変えていませんが、動揺具合は似たり寄ったりです。
「本……落としたぞ……」
彼が甘噛みを止め、そう呟くと、
「そう……」
と言って長門さんは本を拾いなおし、また読書に耽っているように見えました。傍目からはいつもと変わりないように見えます。しかし、長門さんはかなり動揺していました。何故か?
それは長門さんの手足がカタカタと小刻みに揺れ、瞳は虚ろで焦点が定まらず、そして何より手に取った本が逆さまなのに、それを全く直そうとはしなかったからです。
「よし、よく出来たな。お利口さんだ」
「頑張ったから、ご褒美……欲しい……」
「そうかい、じゃあご褒美だ……」
そうして彼は長門さんの耳に息を吹きかけました。
「……………」
言葉こそ発していないものの、長門さんはなんだかとっても嬉しそうです。
「やれやれ……」
あまりといえばあまりの光景に、僕はこのセリフしか発する事が出来ませんでした。ですが、このまま傍観するわけにはいきません。そろそろ止めさせなければ涼宮さんが帰って……
――バンッ!!――
……うかつでした。彼女がこんなに早く帰って来るとは……
破裂音かと思うくらい大きな音を立てて、部室の入口である木製のドアが開かれました。そこにいたのはもちろん……
「キョン、あなた有希に何してんのよ!?」
先ほどまではキリマンジャロの頂上にいるかの如くだった彼女の機嫌は、今やグランドキャニオンの谷底に飛び下りるかのように降下しました。
「早く止めなさいっ! 不潔よ不潔! みくるちゃんも固まってないで二人に……って、どうしたのみくるちゃん? カラスウリみたいに真っ赤になっちゃってさ……っ! なにその手のキスマーク! これはチョコレート……」
ああっ! またしてもうかつでした! 朝比奈さんのことを失念していました!
「……ちょっとキョン。これはどういう事か、説明してくれる? 場合によっちゃあ、二階級降格処分で一生奴隷だからね、あんた」
例えではなくリアルにゴゴゴゴゴと音を立てながら、涼宮さんの機嫌はついにマリアナ海溝の奥底にまで沈んでいきました。
同時に携帯電話の着信が鳴りだしました。神人討伐要請の着信でしょう。これまでにないペースで閉鎖空間が広がっているのはこの場にいても分かります。
正直この場から逃げ出したいのですが、そんな訳にもいきません。少しでも機嫌を直して頂き、少しでも閉鎖空間の拡大速度を抑制しなければ。万に一つの望みをかけて説得を試みることにしましょう。
「お待ちください、涼宮さん。これには訳が……」
さるった……続きは会社行ってから携帯で投下しますorz
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 08:30:10.12 ID:KeKXQbplO
保守&支援
「古泉くんは黙ってて。あたしはキョンに聞いているの」
「畏まりました」
……ヘタレなどと言わないでください。あれ以上言葉を続けたら指数関数的に閉鎖空間が加速してしまう可能性があったのです。本当です。嘘じゃないです。決して涼宮さんに恐れおののいた訳では……
「……んあ、ハルヒ? どうしたんだ、そんな怖い顔をして」
僕が涼宮さんに睨まれ小さくなっていると、こちらのやり取りに気付いたのか、彼が長門さんへの甘噛みを止めて話しかけました。
今ごろ何を言ってるんですかあなたは! 全てあなたのせいなんですよ! あなたが責任を持って沈静化してください!
「……わかったよ」
彼は僕の方を見て何かを悟ったらしく、ニヤけた笑いを浮かべて合図を一つ送りました。まさか、僕の言わんとすることを理解したとでも……?
彼はそのまま涼宮さんの方に歩みより、そして涼宮さんの顔をじっと見つめていました。そして……
「ハルヒ、すまなかった」
「なによ……言い訳なんて聞かないわよ。謝っても無駄よ」
涼宮さんはその怒りを真っ正面から彼にぶつけていました。
「すまん、このとおりだ。謝る」
「ダメって言ったらダメ」
「どうしたら許してくれるんだ?」
「どうしても許さない。あんたは最低よ」
「そんな事言わないでくれ」
「言わないも何も、あんたが全部悪いんでしょ。もう部室に来なくていいわ。顔も見たくない」
く……手遅れですか……閉鎖空間の拡大速度も休まる気配がありません。彼を持ってしても説得は不可能無理でしたか……
「あんたがあたしの団員達を傷物にした責任は重いわよ。みくるちゃんや有希だって自由に恋愛したいはすだったのに……」
「ハルヒ。お前何を言ってるんだ?」
「はぁ?何って……」
「俺は別に傷物なんかにはしてないぜ。二人にチョコのお礼をしただけだ」
「何下手な言い訳こいてんのよ! そんな嘘じゃあたしは騙されないわよ!」
「嘘じゃないさ。今日のお礼として、二人が俺にして欲しかったことを実行したまでさ。それが証拠に、二人とも拒絶してなかっただろ……そう言えばお前が指揮を取ってこのチョコレートフォンデュをつくってくれたんだったな。ありがとうな、ハルヒ」
「……っ、い、今更そんな事言っても遅いわよ……」
「お前にもお礼をしなきゃな」
「……んなっ!!! ちょ、キョン! 離しなさい!」
彼はそういいつつ、涼宮さんを抱き寄せました。涼宮さんは必死になって抵抗するものの、彼は彼女を握り締めた腕を放すことはしませんでした。恐るべきは彼の抱擁能力です。あのパワーに溢れた涼宮さんが何もできずにもがいています。
「キョーン!! あんたこのあたしに何してるか分かってるの!! それ以上気まぐれで不謹慎な態度をしたら本気で許さないわよ!」
「……ふふふっ」
「何がおかしいのよ、キョン!」
「ふふふっ……いやなに、つまり生真面目で真摯な態度だったらOKってことだな?」
「なっ……!! ちょっと本気なの!?」
「ああ本気さ。俺はお前が好きなんだよ」
「!!!!」
「おーおー、顔を真っ赤にしちゃって。本当にかわいい奴だな」
「……ばかっ!!!」
涼宮さんはとうとう我慢の限界に達したのか、彼を思いっきり突き飛ばし、束縛から解放されました。
「ってぇえな……そんなに釣れない態度をとるなよ、本当の事なんだしさ。特にお前がヤキモチ焼くところなんていじらしくて最高だぞ?」
「ななななななにいいっいいいっいてて……」
「いつだったか、俺が朝比奈さんと買出しにいくことになった時、お前が買出しの店を指名した店はムードもへったくれもない所だったな。他に近くて安いところがあったのに、恋人が良く行く店ってことだけで反発していたよな」
「……!」
「長門に何か面白い本を紹介してくれって頼んだ次の日に、お前がこれすっごく面白いからあんたも読みなさいって言って、ショルダーバッグに詰め込んだ書籍を俺に突きつけた事もあったよな」
「…………!!」
「まだまだあるぞ。市内探索の際、長門と同じものを注文しようとしたらお前に却下されたり、朝比奈さんと俺の服が似ていることに憤慨したり……そうそう、偶然佐々木に会って昔話をしてたらお前突然俺を……」
「ストーーーーップ!!!」
「どうした、ハルヒ」
「あ、あん、あんたななになに根も葉もにゃいことをいいいいいてってて言ってんんのよ……」
「いいや、全部実話だろ。俺が他の女の子にちょっかいかけるのが嫌なんだよな、ハルヒは」
「ち、違うって言ってんでしょ!! バカァ!!!」
――バシンッ――
涼宮さんは羞恥の極みに達したのか、叫び声を上げながら彼に平手打ちを喰らわせました。
「ってぇ!! 本気で叩くな!!」
「あんたが悪いんでしょうが!!!」
さらにもう一回振りかぶって、彼の頬に――
『!!!』
――なんと驚きです。彼は涼宮さんの手首を掴み、神速ビンタを遮りました。何と言う反射神経でしょう。彼の潜在能力は、もしかしたら涼宮さん以上なのでは!?
「ちょ……離しなさい、キョン!!」
刹那。彼は僕の方を振り向き、ニヤリと含みのある顔をしました。渾身の力を込めた涼宮さんの腕を掴みながら。
「……なあハルヒ。お前は怒ってる顔より笑っている顔の方が素敵だぞ」
「……え?」
「お前の笑顔は、明るく照らしてくれる太陽のように必要な存在なんだ。俺にとって。だから、笑ってくれよ」
「……あ、あんた何恥ずかしいことをしれっと……」
「なあ、だめか? お前の輝いている顔が見たいんだよ」
「う……」
彼の説得により、涼宮さんの腕の力は見る見る減衰していくのが分かりました。今や彼女の腕には、生卵を握りつぶす力もこもっていないでしょう。
しかし、あの気難しい涼宮さんをこうも簡単に沈静化させるとは……『鍵』としての本領発揮、といったところでしょうか。いつもこうであって欲しいものです。
その後も執拗なまでの口説きを施す彼に、とうとう涼宮さんが折れました。
「……だ、だめってわけじゃないけど……あ、あんたがそんなにいうなら……笑ってあげなくもないけど……」
「お願いだ、この通りだ」
「わ、わかったわ……笑ってあげるから、感謝しなさい……」
そして、涼宮さんは不承不承ながらも少し照笑みを彼に披露致しました。
「……最高だ。ありがとう、ハルヒ」
「ちょ……また! 抱き付かないでよ!!」
「これは俺からの礼だ。さっきの分も含めて、特別大サービスだぜ」
彼は涼宮さんの顔に近づき、ってまさか――!!
「え……ちょ……キョン! 顔近付けすぎ……むぐっ!」
――そのまさかでした。彼はお礼と称して、涼宮さんに……その……ディープなやつをかましたのです。
「むぐっ……むーっ……むふっ……ふぅん……ふんふん……んぐっ……」
彼女は最初抵抗していたのですが、燦燦と輝いていた瞳に力が無くなり、彼の熱烈なテクニックの虜になってしまったようです。むしろ自分からねだるように体をくねらせ、彼を求めてきました。
そして……
「うっ……はぁ……はぁ……キョン……もっとぉ……」
「続きは、皆が帰ってからな。それまで少し休んでな、ハルヒ……」
「うん……キョン、約束よ……」
……涼宮さんは彼の胸の中で、幸せそうな顔をして眠りについたのでした。
「どうだ古泉。俺が本気になればこんなもんだ。お前が恐れおののく涼宮ハルヒとて敵ではない!! 俺は最強なんだ覚えておけ!! アーッヒャヒャヒャ!!」
彼は完全に『墜ちて』しまった涼宮さんを抱き抱え、意味不明な勝利の雄叫びをあげていました。なお、先ほどまで光の速さを以って拡大していた閉鎖空間はあっさりと崩壊をしたことだけは付け加えておきましょう。
――しかし、なんでしょうね、この忌々しい気分は。
「ハルにゃ〜ん! ごめんよっ! ちぃーとばかり遅れちゃってさ! ……ん? みくる? 有希っ子? どうしたのさボーッと突っ立って? ハルにゃんとキョンくんもどうしたんだい? ……古泉くん、これは一体どういうことか、お姉さんに説明してくれないっかな?」
「まあ……セントバランタインデイ、ってところですかね。はははは……」
タイミング悪くやってきた鶴屋さんには、僕は苦笑いをすることしかできませんでした……
その後の事をお話ししましょう。酔いから醒めた彼は、やはり全ての記憶がきれいさっぱり無くなっていました。
彼が記憶を失っていた間何をしでかしたのか教えて欲しいと言う打診がありましたが、本当のことを申し上げると彼は当分立ち上がれなくなってしまう可能性も否定できないため、すぐに寝てしまったと言葉を濁すことにしました。
あのドランクンチョコレートの作製秘話については鶴屋さんから聞きました。味に物足りなさを感じた涼宮さんが、例の調味料をドバドバと、ボトルの半分程の量をチョコレートの中に入れてしまったのが原因のようです。
――名酒と言われるもの注意が必要よ。あまりにも美味しいから飲みすぎてしまい、お金と自我、両方を失うことになるわ――
森さんが僕に教えてくれた言葉を思い出しました。なるほど、確かにその通りかもしれませんね。
そして我がSOS団の女性陣ですが、あれ以来チョコレート作りがここ暫くのブームになりました。そして鶴屋さんに秘伝の調味料……バランタインの年代物を無心するのもまたここ暫くの慣例となってしまいました。
鶴屋さんは頭にクエスチョンマークを浮かべながらも用意をしてくださり、こうして彼専用アンチフラクラチョコレートは精練を重ね、一流パティシエをも凌ぐ出来栄えになっていきました。
ただ……記憶がなくても何かを感じ取ったのか、彼はそのチョコレートを一口も食べようとはしませんでした。恐らく、酔っ払って記憶を無くしたことに対する恐怖でしょう。ですがそれしきの事で涼宮さん以下3名が許してくれるわけがありません。
そして今日も……
「こらーっ、キョン! あたしが精魂込めて作ったチョコレートを食べなさい!!!」
「彼の弁当の情報操作開始。中身はすべてチョコレートになった」
「キョンくん……お茶どうですかぁ? ……え? ちょっと茶色い? 嫌ですねぇ。気のせいですよ。チョコレートなんて入ってませんよぅ♪」
全く、やれやれですね……
以上です。
一日遅れた上に途切れていまい申し訳ないです。
最近山崎12年が中に入ったチョコがロ○テから発売されましたが、あれ美味しいです。
酒に弱い知人が食べて酔っ払って、今回の元ネタにもなりました。
最後に、決して山崎の製造元及びバランタイン輸入元であるサ○トリーの回しものではありません。
……失礼しました。
これはいいセントバランタイン
256 :
HARUHI FANTASY Z:2008/02/15(金) 10:21:01.96 ID:z5uAjS280
第6章これから投下します。前後編に分けないので20レス以上になるかと思います。10分空けてから
投下しますので、他に投下予定のある方はレス願います。
どんとこい
「?!――ちょっと、困ります!アポイントメントの無い方はこちらで……」
神羅ビル1階。ID認知式のセキュリティゲートを軽々と飛び越えて、突如乱入してきた俺たちに
、ビルの受付嬢が慌てふためく。しかし、当然「アポイントメント」なんて上品な事などしてない
ぜ。
「悪いわね、ちょっと急な用件なのよ。怪我したくなかったらひっこんでなさい!!」
ハルヒの戦闘開始を告げる雄叫びと共に、古泉がスマイル状態を保ったままで右腕の機関銃をあ
ちこちにぶっ放す。
「キャアーッ!!」
「何なんだあいつら!?」
「ま、まさか奴らがSOS団!?」
「侵入者だ!捕まえろ!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ回る神羅の一般社員。そしてそれと入れ替わるように俺たちを捕ま
えようとマシンガンや手榴弾を抱えて向かってくる神羅の一般兵たち。俺は背中のバスターソード
にそっと手を掛ける。あの高揚感が段々身体を支配していく――さあ、楽しい戦いの時間の始まり
だ!
「行くぞ、ハルヒ、古泉!!」
「先に言わないでよ!アホキョン!!――ミクルちゃんは絶対助けるわよ!!」
「――どこまででも、行きますよ!」
俺たちは一迅の疾風の如く、迫り来る神羅兵の団体に向かって走り出した――
支援
すみません。第5章までは
ttp://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4247.htmlを参照のこと。
では、以下より再開。
↓↓↓↓↓↓↓↓
『HARUHI FANTASY Z -THE NIGHT PEOPLE-』
第6章 RUN! RUN! RUN!
ついに神羅本社に乗り込んできた悪逆非道のテロリスト「SOS団」を己の手で倒して名を挙げよ
うと、一目散に階段を正面の駆け上がる俺たちに、次々に襲い来る神羅兵。だが――
「邪魔だッ!」
俺は剣を横に薙ぎ払って、前を塞ぐそいつらの胴より下を真っ二つにし、
「退きなさいっ!!」
ハルヒもドロップキックを食らわせて階段の遥か下まで真っ逆さまに落とし、
「そこを、通してくれませんか――ふんもっふッ!」
そして、古泉は右腕の機関銃で敵の頭を蜂の巣にしていく。
――3階のショールームに辿り着いた頃には、敵兵はあらかた殲滅し、その他の社員も逃げ伏せ
てしまったので、辺りには俺たち3人以外人影は見えない。俺がひそかに憧れていた『ハーディ=
デイトナ』――1160ccの大排気量を誇る神羅製の最新式オートバイ――の漆黒のフォルムもすぐ傍
にあったし、ここまで一気に駆けたので一息をつきたい所だったが、まごまごしてると他の階や外
から増援が来かねない。ソルジャーまで投入されればまずい事になるのは請け合いだ。
俺たちは丁度いいタイミングで到着したエレベータに乗り込み、一般社員でも入れる最上の59階
のボタンを押した。ドアが閉まり上昇を始めると、俺は今の今までの激闘の分、深く溜め息を一つ
吐いた。
「どうしたの、キョン?」
「朝比奈さんを助け出すまで騒ぎは起こしたくなかった。まあ、無理だろうとは思っていたけどな
……」
特にハルヒと一緒じゃあな。すると急に古泉がふふっと微笑い出す。何だよ、気持ち悪いな。
「さっきから思ってたんですよ。――あなたでも他人のために戦うことがあるんですね、と。あな
たの事、見直しましたよ」
「……お前に見直されても嬉しくも何ともないんだがな」
それでも古泉は微笑を絶やさずに、俺に手を差し伸べる。
「これまでの数々の非礼、ここでお詫びします」
支援
そう言って俺と半ば強引に握手した瞬間、エレベータ内が真っ赤に染まり警報音が鳴る。見ろ、
古泉。お前が柄にも無いことするからだろ。エレベータはガクンと揺れると、17、26、13、38、23
……と階数表示が急に出鱈目になり、エレベータ自体も上へ下へと乱高下を繰り返す――すなわち
暴走を始めた。暴れまわるエレーベータのあちこちに俺たちは何度も身体をぶつける。このままミ
キサーにする気か。
「キョン、どこでもいいから止めて!!」
ハルヒの言葉に俺は何とかボタンを押すと、エレベータは15階を表示して止まり――まるで待ち
構えていたかのように、神羅の赤い強化服を装着した戦闘員が入り込んできた。
「――そっちがその気なら、何度でも戦ってやるわよっ!!」
ハルヒの言葉通りかどうかは知らないが、それから俺たちは暴走するエレベータを止める度に待
ち構えていた神羅兵との戦闘を繰り返し、一人残らず倒していった。すると兵も尽きたのだろう。
ようやくエレベータも暴走を止め、59階に辿り着くことができた。
「侵入者を排除しろ!」
いきなり強化装備の神羅兵が襲い掛かって来た。
「――ここは僕が」
古泉は右腕の銃を神羅兵に向け全エネルギーを溜める。集まったエネルギーは真紅の球状に巨大
化してゆき、
「『ヘビーショット』!――ふんもっっっふ!!!」
支援
例の謎の掛け声と共に紅い玉を撃ち出す!その直撃を受けた敵は一気に粉砕された。吹っ飛ばさ
れていく敵から何か光るものが落ちたので、拾ってみると、これは……『カードキー60』……これ
が60階以上に入ることが出来るIDパスって奴だな。案の定、さっきまで乗ってたものとは別のシー
スルー状エレベータのカードリーダーに通すと、60階のボタンが明るく点灯した。しかし、他の階
は点かないな。
「恐らく、そのカードでは60階までしか許可が与えられてないのでしょう。61階以上はまた別のカ
ードが必要になると思います」
じゃあ何か、1階1階昇る度にカードを一々手に入れないといけないのか?かなり面倒だな、そ
れは。だが、そう愚痴っていても仕方ない。ここまで厳重なセキュリティシステムがあるという事
は60階以上こそ、神羅の中枢を担う部分。そこに朝比奈さんは必ずいるんだ。――ここからが本番
なんだ。
「そうね。ミクルちゃんの無事を確認するまで、決して油断するんじゃないわよ」
エレベータは無機質な音を立てて上昇し、俺たちはついに60階に足を踏み入れた。
「――見て、警備の奴らがウロウロしてるわ。キョン、まずあんたが見つからないように先に行っ
て合図して。あたしたちはその後に続くから」
簡単に言ってのけるよな、お前。これだけの人数見つからずにやり過ごすのは結構難しいぞ。え
?「元ソルジャーなんだからそれ位出来て当然でしょ!」だって?確かに、ソルジャーの任務には
『敵施設への侵入』も当然含まれているが……まあ、いい。やってみるか。
支援
支援
支援
269 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 10:51:49.15 ID:z5uAjS280
しかし、全て後一歩のところで何故か見つかってしまい、四回ほど戦闘を繰り返すと、フロアに
は3人以外誰もいなくなっていた。そして、辺りに転がる兵士の亡骸の山。
「……やっぱりこうなるのね。こんなことなら最初から……」
「……結果オーライでいいんじゃないですか?」
古泉、何か慰めになってないぞ、それ。
61階は神羅上級社員のリフレッシュ・フロアとなっているようだ。高そうなスーツを着た奴らが
思い思いの姿でくつろいでいた。この階のセキュリティーパスを持っていなかったが、エスカレー
タから登ると、フロアドアが壊れて開けっ放しとなっていたのでまんまと侵入できた。
「さっき下のほうが騒がしかったけど何かあったのかしら?」
「さあな。ま、60階から上は何があっても安全だ。気にすることも無いって」
ここにその騒ぎの原因がいるってのに、何だこのまったりした空気は。変に騒がれて敵がわんさ
かやって来るような事態よりかは何倍もマシではあるが……するとまだ若い外見のOLが俺に近づい
て来た。
「あら、見かけない顔……新しく配属されたのね?いいわ、私が色々教えてあげる」
「い、色々?」
その一言に一瞬たじろぐ俺をハルヒがジト眼で睨んできたが、見なかったことにする。しかし、
こんな格好をした神羅の社員って……業腹だな。
支援
271 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 10:56:29.70 ID:z5uAjS280
「なーに、変な顔して。教えてあげるのはここから上のフロアのことよ。60階より上は役員クラス
の社員の多い特別フロア。カードキーが無いと入ることも許可されないの。カードキーがあれば階
段もエレベータも自由に使えるわ。でもね、カードキーにも何種類かあって、一枚でどこでもって
訳には行かないのよ。そうね、例えば『カードキー60』なら60階まで。『カードキー65』なら65階
まで。そういうことよ。まあミッドガル、いえ、今や世界のエネルギー流通を一手に引き受ける神
羅カンパニーの本社としては、当然のセキュリティよね。……あらやだ、長くなっちゃったわ。そ
れじゃお互いお仕事頑張りましょうね」
長々と古泉の推測を裏付ける台詞を述べて、OLは投げキッスを付けてその場を去った。すると、
いきなりハルヒが俺の右足を踏みつける。――痛ッ、何しやがる!
「――ニヤケ面」
そう言って不機嫌オーラを撒き散らすハルヒ。俺何かしたか?古泉は苦笑してるだけだし、誰か
分かる奴解説してくれ。そうこうしてる内に俺の肩が誰かに叩かれた。――しまった、敵か……と
思ったが、そうではなく、今度は男性社員がにこやかな顔で立っている。
「君たち、修理課の人だろ?あのドア、セキュリティ装置が壊れてて危なっかしいんだよね。早く
直してくれないかなあ……そうそう、これあげるから上の方も点検しておいてよ。じゃ、頼んだよ
!」
男性は爽やかにそう言って『カードキー62』を渡して去っていった。
「……ラッキーって言うのかしら、これ」
さあな。ただ、どんなに立派なセキュリティを持っていても、所詮は扱う人間次第ってのがよく
分かるエピソードだよな。俺たちはあまりの成り行きに拍子抜けしながら62階に登った。
支援
273 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 11:00:01.38 ID:z5uAjS280
――この階は、あまり人の気配がしなかった。いや、無駄にシックで豪華な造りの大きな扉の前
に、眼鏡をかけた男が所在無げに突っ立っていた。
「あ、これはどうも。こちらはこのミッドガルの市長室でございます。この中には後藤市長がいら
っしゃいます。ちなみに僕はミッドガルの助役、豊原です。困ったことがありましたらぜひ僕にで
も……」
「へぇ、市長って噂に聞いてたけど、本当にいたのね」
『本当に』って、どういう意味だ?こんな大都市だ。市長がいない方がおかしいだろ。
「あんた、バカ?ここはね、神羅の総本山よ。市長なんて形式的な存在で、プレジデント神羅が全
ての実権を握ってるんだから」
ハルヒの俺を完全に馬鹿にした解説を真横で聞きながら、豊原とかいう助役はハアと盛大に溜め
息を吐く。……それだけでも、この2人がどんな境遇に置かれているか想像つくな。
「ひょっとすると、市長に頼めば上のカードキーくれるかもしれないわ!」
そう言ってハルヒは市長室のドアをノック無しに思いっきり開け放つと、
「こんちわー!上の階のカードキー、頂きに来ましたー!」
いきなり現れたハルヒにあまり驚いた様子もなく、後藤・ミッドガル市長は憂鬱そうに言葉を切
り出した。
「あ〜?なんだね君たちは?ああ、君らが例の……私?私はこの魔晄都市ミッドガルの市長、後藤
だ。……とは言っても名前だけ。ホントの所、ミッドガルの全ては神羅のものだ。今の私の仕事と
いったら神羅カンパニーの資料管理……ミッドガルの市長が!神羅の資料を!ハア……」
支援
段々とテンションを上げ、最後には豊原と同じく盛大な溜め息を吐く後藤市長。かなり鬱積して
るな、こりゃ。すると、後藤は至極あっさり、
「君ら、上へ行きたいんだろ?いいとも、私のカードキーをやろう。合言葉を言えたらな。そう、
合言葉だ。それを言えたら、カードをやろう」
と言ってきたが、何だ合言葉って。だが、後藤はそのままドカッと椅子に座り、それ以上何も語
らない。おい、ヒント無しかよ。ここで粘っても喋りそうに無かったので、諦めて外に出ると、豊
原が話しかけてきた。
「市長の話はお聞きになりました?は?合言葉?ははあ、なるほど……あの人も暇なんですよ。な
んせミッドガルの実権はほとんどプレジデント神羅のものですからね。何年来友人やってる僕なら
分かるんですよ。――そういうことなら僕がお手伝いしましょう。何でもお答えしますよ。市民の
皆さんにサービスすることこそ私たち役人の喜び。快くヒントをお教えしましょう!……500ギル
で」
「ふざけんな!」
よく言ったハルヒ。それって立派な袖の下だろ、役人のやることか。役人だからやるんだろって
突っ込みは無しだぜ。
「ハア、そうですか。では仕方ありませんね。頑張ってご自分で見つけてください」
支援
――とは言うものの、合言葉って何なのかこのままではさっぱり分からん。取り敢えず、この階
に何かしらのヒントがあるだろう、というハルヒの言に従って、フロアの探索を始めた。すると、
なにやら分厚い本や資料が並べられている部屋に辿り着いた。部屋のディスプレイのスイッチを押
すと、機械音声がこの部屋について教えてくれた。
『ここは科学部門の資料室です。他の三つの資料室にはそれぞれ……都市開発部門、治安維持・兵
器開発部門、宇宙開発部門の資料が保管されています』
「さっきの後藤の話だと、ここの資料を管理してるのね。もしかするとここにヒントがあるのかも
……キョン、古泉君!本を片っ端から調べるわよ!!」
これだけ大量の本をか?調べ終わるのは何時になると思ってんだ。早く朝比奈さんを見つけない
といけないんだぞ。
「だって、仕方ないでしょ?あの調子じゃ、どんなに脅してもカードキーくれなさそうだったし」
しかしだな……俺は改めて書棚を見渡してみる。
『5.生物体の高レベル魔晄による影響に対する調査』
『8.伝承における古代種の生物学的特性』
『3.ガストファイル 生物博士ガスト・朝比奈』
『7.歴史の中の古代種 生物博士ガスト・朝比奈』
『2.魔晄炉建設工事 都市部着工予定表』
『2.ミッドガル周辺に生息する突然変異生物実験データ』
支援
支援
……さすがに『科学部門』だけある。頭の痛くなりそうなタイトルばっかりだぜ……?よく眼を
凝らすと、『2.魔晄炉建設工事 都市部着工予定表』と、一つだけ明らかに科学部門ではありえ
ないタイトルの本が書棚に鎮座していた。整理ミスか?俺がその本を手に取ると、ハルヒが横から
それを奪い取り、難しい顔をして考え始める。
「……ハルヒ?」
すると、ハルヒはいきなり顔を笑顔で輝かせ、
「わかったわ、キョン!これよ、これがヒントなのよ!!恐らく他の部屋にもあるはずだわ、ジャ
ンルがたった一つだけ異なる本が。みんなで手分けして持ってくるのよ!」
訳が分からずハルヒに従って都市開発部門の資料室に行くと、果たしてハルヒの言う通りに『1
.魔晄兵器の長期使用に関する特別規定』という本が不自然に並べられていた。それを持って元の
場所に戻ると、古泉は宇宙開発部門から『4.生物の爆発的進化と魔晄エネルギー』、ハルヒは治
安維持・兵器開発部門から『4.宇宙開発部門栄光の歴史 下巻』を持って来ていた。
で、これで何が分かるっていうんだ?ハルヒはそこでキョトンとした顔になる。……その先、考
えてなかったようだな。すると、古泉が眉間に皺を寄せながら、
「――本に書かれた番号に注目するといかがでしょうか」
と言ってきたので、番号を改めて注視する。『1.魔晄兵器の長期使用に関する特別規定』……
1、1番目……?!なるほど、そうか。そういう事だな。ハルヒも納得したように頷いている。よ
うやく分かったぜ、市長さんよ。
支援
「合言葉が分かったのか?――では、言ってみたまえ」
意気揚々と市長室に乗り込んできた俺たちに、後藤は不敵な笑みを浮かべている。「分かるもん
か」と言いたげだな。しかし、ハルヒは自信満々な表情でバッと後藤を指差す。
「ええ。結構味な真似してくれたけど、この涼宮ハルヒ様の前に掛かれば、答えなんてお茶の子さ
いさいよ!!――四つの資料室の各部屋に一つだけジャンルの違う本があったわ。その本に付けら
れた番号を本のタイトルの文字の順番に当て嵌めてゆき、それを並べ替えると――答えはズバリ『
魔晄爆発』ね!!」
ハルヒが長い解説交じりで答えを叫ぶ。どうでもいいが、番号に気付いたのは古泉だぞ。本のジ
ャンルに目を付けたのは褒めてやるが。市長はニヤッと口元を歪めると、スクッと立ち上がり、
「魔 晄 爆 発 !!」
「――何と素晴らしい響き!その通り!魔晄エネルギーを爆発させろ!そして私を真の市長に!…
…フン、まあいいだろう。ホラ、持って行け」
全ての憤懣を込めて絶叫した後、『カードキー65』をハルヒに手渡した。ところで、何でこんな回りくどい事をさせたんだ?すると、後藤はさも当然のように、
「決まってるじゃないか。嫌がらせだよ。嫌がらせ。いいか、神羅はずっと私を苦しめてきたんだ
ぞ。だから私はここで君たちを悩ませ、今度は君たちが上へ行って神羅の奴らを困らせる。どうだ
、これでおあいこだろ。ヒ、ヒヒ、ヒヒヒ……」
支援
そう言って不気味に笑い出した。く、狂ってやがる。……人間、ああはなりたくないもんだな。
と俺が人生について軽く考えていると、後藤は「それから、」と続けて言った。
「言っておくが、私のカードでは65階までしか登れんよ。神羅め、この私を……この私を一般社員
と同じ扱いに……」
……このまま愚痴が止まりそうに無いので、俺たちはそのまま市長室を出て64階、65階へと昇っ
ていった。そう言えば、さっきの本持ち出してきたままだったが……まあ、いいか。行きがけの駄
賃に持って行くことにしよう。
65階は都市開発部門のテリトリーらしく、中央の巨大な部屋には中央にそびえる高い塔とその周
りを囲むように立つ八つの塔――ミッドガルの模型がそこにあった。
「ミッドガル……魔晄エネルギーを吸い出し生き続ける都市の模型か……この建設中の六番街が完
成したとき、神羅の野望も完全なものとなる。その野望の為に朝比奈さんを……?」
所々模型が欠けていたので、もしやと思いフロア中に散らばった欠片を集めてはめ込むと、まん
まと『カードキー66』を手に入れ、その足で66階へと走った。
しえb
「また重役会議だってよ。こないだのプレート落としの一件じゃないのかな」
66階。俺たちとすれ違った社員がそんなことを話している。彼らの無警戒ぶりにもようやく慣れ
てきた。ここのセキュリティ、完全に信じ切ってるんだな。世の中には『絶対』という物なんて無
いんだぜ。それにしても……重役会議か。朝比奈さんは神羅にとって重要人物。彼女の行方は重役
の誰かが知ってるんじゃないか。ハルヒも古泉も当然そう思ったようで、
「何とか会議の様子、覗けないかしらね」
「排気孔か何かに潜り込めればいいのですが……」
そう都合よく見つかるかと思いつつ、フロア中を探し回る俺たち。すると、廊下をプレジデント
・ケイイチ・神羅が歩いて来る。奴は俺たちの顔を知っている――慌てて男子トイレに駆け込んだ
。すると、個室の上から生暖かい空気が流れ込んでいる。見ると、排気口の蓋が外れている。人一
人潜り込めそうだな。
そのままトイレの排気口に飛び上がって入り込み、匍匐前進で排気孔を進むと、重役会議室と思
しき部屋の直上に辿り着いた。3人頭を並べて排気口から下の様子を覗く。ちょうど会議が始まっ
たみたいだ。列席してるのはそうそうたる顔ぶれだ。社長のプレジデントに、治安維持部門統括の
多丸、都市開発部門統括の新川、宇宙開発部門統括の……名前、何と言ったかな。それから――
「――兵器開発部門統括、森ソノウ」
古泉が紅いドレスを着た妙齢の美女を睨みつけながら、淡々とそれでいて憎々しく、まるで呻く
ように呟いた。古泉がここまで感情を露わにするのも、あの六番街でのことぐらいしか見たこと無
かったので、少し気になったが、新川の声が下から聞こえてきたので、そっちに集中することにし
た。
支援
「七番街の被害報告が出ました。既に稼動していた工場部分と現在までの投資額を考えると我が社
の損害は100億ギルは下らないかと……また、七番プレートの再建にかかる費用は……」
白髪頭の新川がやや憂鬱気に、自分たちが仕出かしたプレート落下の被害を報告する。あまりの
苦々しげに、この人はあんな暴挙に反対だったんだな、と俺は何となしに感じていた。すると、プ
レジデントが意外な言葉を吐いた。
「再建はしない」
「は?」
新川は信じられないという面持ちでプレジデントを凝視する。
「七番プレートはこのまま放って置く。その代わりにネオ・ミッドガル計画を再開する」
「……では、古代種が」
新川の言葉に、プレジデントはニヤリと嘲笑う。
「約束の地は間も無く我々のものになるだろう。――それから各地の魔晄料金を15%値上げしたま
え」
「値上げ値上げ!うひょうひょ!ぜひ我が宇宙開発部にも予算を!」
プレジデントは舞い上げる宇宙開発部門統括を無視して新川と森を見遣る。
「魔晄料金値上げによる差益は新川君と森君で分配したまえ」
支援
290 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 11:36:43.11 ID:z5uAjS280
森は事務的に「わかりました」とだけ告げたが、新川は慌てて立ち上がる。
「プレジデント。これ以上の魔晄料金の値上げは住民の不満を招き……」
――神羅にもまだ良心のある重役がいたんだな。俺が妙に感心しながら様子を見ていると、プレ
ジデントはくくくと笑い出す。
「大丈夫だ。愚かな住民たちは不満どころかますます神羅カンパニーに信頼を寄せることになる」
「その通り。『テロリストどもから七番街の市民を救った』のは神羅カンパニーですからねぇ」
プレジデントの実弟、多丸ユタカが皮肉気な笑みを新川に向ける、新川は苦々しげに自分の席に
座りなおした。
「くっ……なんて汚い……」
ハルヒも苦々しげに会議の成り行きを見ていた。そりゃそうだろ。俺だって胸糞悪くなるぜ。出
来ればこの模様を世界中の人間に見せてやりたいぜ。俺たち3人がそんな怒りに身体を震わせてい
ると、白衣を着た明るめの茶髪の、これと言って特徴の無い顔をした男が悠然と会議室に入ってき
た。プレジデントは、まるでその男を待ち焦がれていた風に顔を見るなりこう尋ねる。
「おお、宝条君。あの娘はどうかね」
支援
292 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 11:41:26.17 ID:z5uAjS280
「サンプルとしては母親に劣る。母親ミユキとの比較中だが初期段階で相違が18%」
「その検査にはどれくらいかかる?」
プレジデントの質問に男はクククと奇妙な笑い声を立てる。
「ざっと、120年。我々が生きてる間は無理だろう。もちろんあのサンプルもね……だから古代種
を繁殖させようと思うのだ。しかも、長命で実験に耐えうる強さを持たせることが出来る」
「約束の地はどうなる?計画に支障は出ないのか?」
「……そのつもりだよ。母は強く……そして弱みを持つ」
そう再びクククと笑う宝条。――プレジデントが確認したかったのは実はこれだけだったようだ
。満足したように頷くと豪奢な椅子から立ち上がる。
「では、会議を終わる」
その言葉と共に、重役たちは三々五々会議室から退出して行く。
「――今のは朝比奈さんの話……だよな」
「確証は持てませんが……」
「たぶん、ね」
宝条って奴か……恐らく奴が朝比奈さんの居場所を知っている。と言うか、朝比奈さんを使って
何かをするつもりなんだ。そうと決まれば話は早い。
293 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 11:45:51.55 ID:z5uAjS280
「後を付けよう」
急いでもと来た排気孔を引き返し、トイレから宝条を追いかける。ゆったりとした足取りが幸い
して、まだ宝条はこの階にいた。こっそり後を付けると、宝条はそのままエスカレータで上の階へ
上がって行く。
67階。宝条がセキュリティドアを潜り抜けて閉まる寸前、ハルヒがつま先を押し込んでドアを再
び開かせてドアを突破した。歩いてみると、様々な機械がフロアを埋め尽くしている。ここはどう
やら科学部門の研究プラントらしい。
「――思い出したわ。あの宝条って奴。神羅の科学部門の責任者よ。キョン、あいつの事知らない
の?」
「いや、実際に見るのは初めてだ。そうか……あいつが……」
そうは言ったものの、妙な既視感が残るのは何故なのか……無くした記憶の中で何かが俺に向か
って叫んでいるような気がするが、それを振りほどくように、宝条の後を追っていく。すると色ん
な道具やら何やらが乱雑に置かれた物置のような空間に辿り着いた。
宝条はそこにある大きなシリンダーの前で立ち止まった。その中では、アッシュブロンドの髪を
短く切った小柄な少女が、膝を抱えたまま虚ろな瞳で座っていた。その光景に驚く俺たちだったが
、後ろから研究員らしき白衣の男が現れたので、慌てて物陰に隠れる。男はシリンダーを眺める宝
条に声を掛ける。
「今日の実験サンプルはそいつですか?」
「そうだ。すぐ実験に取り掛かる。上の階に上げてくれ」
しえん
シェン
紫煙
支援
298 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN! さるった:2008/02/15(金) 12:24:46.59 ID:z5uAjS280
研究員は宝条の指示に頷くと、もと来た道をとって返す。……俺たちには気付かなかったようだ
な。危ない危ない。すると、宝条は恍惚の表情で、
「かわいいサンプルよ……」
と呟きながらひとしきりシリンダーの壁を撫で回した後、その場離れ、奥の方へと歩いていく。
俺たちは周囲に誰もいない事を確認するや否や、少女が閉じ込められているシリンダーに駆け寄っ
た。
「…………」
よく見ると、左腕に『]V』と何処かで以前見たような刺青が施されている少女は、シリンダー
越しに不思議なものを見るような眼で俺やハルヒ、古泉を見遣るが、一言も発する気配も無ければ
、その場から動く気配も無い。ハルヒはシリンダーの壁をドンドンと叩き始めた。
「『かわいいサンプル』って、女の子じゃない!……あの宝条って奴、この子を生物実験なんかに
使うつもりよ!!早く助けなきゃ!!」
それには俺も激しく同感だ。俺たちはシリンダーを叩き割ろうとしたが、ヒビ一つ入らない。古
泉、お前のその銃で何とかならないか?すると、古泉は力無く首を横に振った。
「……すみません。このシリンダーはどうやら特殊な素材で出来てるようです。恐らく外側からは
高性能爆薬でも破壊することは難しいでしょう……」
畜生、それでも他に手は無いのか――そう思って周囲を見回したその時だ。ピンク色の輝きを放
つ大きく奇妙なケースに目が留まった。これは――自分でも、気付かぬうちに――俺は、それに近
づく――
「『ジェノバ』……」
その窓を覗き込むと首の無い女性の形をした異形の生物の姿が眼に飛び込んできて――?!また
、だ……頭、あたまが、わ、れ……る――
「キョン!?」
俺の異変を感じ取ったハルヒが慌てて駆けつけ、俺を抱き起こしたので、やっと我に帰る事が出
来た。俺は前頭部を押さえつつ立ち上がる。俺の中で過去の光景が浮かんでは消えてゆく。
「ジェノバ……セフィロスの……そうか……ここに運んだのか」
「キョン、しっかりして!」
「…………見たか?」
「何を?」
俺は、ケースのピンク色に光る窓を指差した。
「動いている……生きてる」
ハルヒは中を覗き込んだが、興味なさ気に、
「何、この首無し?気持ち悪いわね……――それより、キョン!今のあたしたちにはあの子のこと
、どうしようもないわ。それに、この様子だったらミクルちゃんもどんな事されてるか分からない
!とにかく宝条を捕まえて2人とも解放してもらわなきゃ!!行くわよ!!!」
確かにそうだな。それが先決だ。宝条が向かった先に行って見ると、そこには別のエレベータが
あった。どうもここは研究員しか使わないらしく、セキュリティシステムは無いみたいだ。そのま
まエレベータに乗り込み、68階に降り立った。すると――
「――ミクルちゃん!!」
さっきの少女が入れられていたシリンダーより一回り大きなやつに朝比奈さんが閉じ込められて
いた。宝条はハルヒの叫び声に鷹揚と身体を向けると、
「ミクル?――ああ、この娘の名前だったね。何の用?」
俺はバスターソードを抜き、宝条に向け構えた。古泉も機関銃の安全装置を外し、奴に銃口を向
ける。
「朝比奈さんを返してもらおうか」
「…………ところでキミたち誰?ひょっとして部外者?」
最初に気付かなかったのか?
「世の中にはどうでもいい事が多くてね」
そう言うと、既に戦闘体制に入っている俺たちをじろりと眺め回した。
「……僕を殺そうというのか?それは止めた方がいいな。ここの装置はデリケートだ。僕がいなく
なったら操作できないだろう?ん?」
支援
「くっ」
俺は剣先を下げる。今すぐこいつを斬り刻んでやりたいが、悔しいけど奴の言う通りだ。
「そうそう。こういう時こそ論理的思考によって行動することをお勧めするよ。……さあ、サンプ
ルを投入しろ!」
下のシリンダーはどうやらエレベータにもなっていたらしい。宝条の指示で遠隔操作ルームから
研究員が機械を作動させると、シリンダーの床が開いて、あの少女がせり上がってきた。少女はス
クッと立ち上がると、
「…………」
無言のまま、朝比奈さんに向かってゆっくり近づいていく。朝比奈さんは恐怖に駆られてシリン
ダーの壁をドンドン叩き始める。
「キョン君、助けて!」
「何をする気だ!」
俺の問いに宝条はクククと嫌らしい笑みを浮かべる。
「滅び行く種族に愛の手を……どちらも絶滅間近だ。僕が手を貸して『配合』しないとこの種の生
物は滅んでしまうのでね」
しえん
「……生物?非道いわ!ミクルちゃんもその娘も人間なのよ!許せない!!」
まずい、このままでは朝比奈さんが――
「古泉、焼け石に水でも何でもいい、とにかく何とかしろ!!」
「分かりました!ちょっと下がってください!!」
古泉はそう朝比奈さんに向かって叫ぶと、右腕の銃にエネルギーを込め始める。
「な、何をするんだぁ!!」
宝条が慌てて止めに入るが、もう遅い。
「――ふんもっふ!!!」
古泉は渾身の力を込めて『ヘビーショット』をシリンダーに向けてぶっ放す。すると、シリンダ
ーが内部から青白く光り出す。……どうやら、このシリンダー。下の奴より幾分やわに出来てるら
しいな。精密機械だからだろうか。
「な、何ということだ。大事なサンプルが……」
宝条が呆然とシリンダーに駆け寄るが、そこに、
「うりゃあっ!」
「げふをっ」
ハルヒのドロップキックが炸裂し、宝条は真横にすっ飛んでいった。ナイスだ、ハルヒ。すると
、シリンダーの発光が止み、扉が開いた。今のうちに朝比奈さんを!俺はシリンダーの中に駆け寄
り、倒れていた朝比奈さんを抱き起こした。――大丈夫ですか?!
「――ありがとう、キョン君。やっぱり、来てくれた……」
いつもの様に微笑んで俺に応える朝比奈さん。どうやらなんとも無い様だ。しかし、よくよく考
えれば、どっちも女の子だよな。『配合』ってやっぱり、アレ、だろ……どうするつもりだったん
だ、一体。
「……し、しまった――」
いつの間にか復活していた宝条は、その『事実』にようやく気付いたらしく、愕然としたように
呟くが……最初に気付けよ、そういう事。だが、宝条は白衣のポケットに入れていたリモコンを取
り出して何事か操作する。すると、シリンダーのエレベータから何か音が聞こえてきた。
「どうしたの?キョン……」
「……エレベータが動いている」
「ふっ、今度はこんな半端な奴ではないぞ。もっと凶暴なサンプルだぁ!――ぐぼぁ!!」
宝条が勝ち誇ったように叫んだ瞬間、再びハルヒの蹴りを喰らってその場に昏倒した。……当面
立ち上がることは出来ないだろう。しかし、エレベータの下の方から、不気味な唸り声が聞こえて
きた。
支援
「……あのサンプルは少々手強い。わたしの力を貸す」
いつの間にかシリンダーから外に出ていた、アッシュブロンドの髪をした少女が、俺たちにそう
言った。……そう言えば初めて喋ったな、こいつ。
「あの化け物は俺たちが片付ける。ハルヒ、朝比奈さんを安全な所へ」
「わかったわ」
「……キョン君。気をつけて」
ハルヒは朝比奈さんの手を引き、その場から離れた。これで思う存分暴れられる。
「――さあ、かかって来い!」
出て来たのは、どこかのゴミ捨て場から産まれたかのような、同じ『サンプル』であるはずの傍
に立つ少女と似ても似つかぬ、何とも異様な生物だった。色んな生き物を無理やり合成して造った
ような、そんな感じだ。右肩にくっ付いてるでかい口みたいなやつが不気味さを更に醸し出してい
る。すると、そいつは俺たちに向けて、変な息を吹きかけてきた!
「ぐっ……」
何だ、この感じは。身体が、気分悪……
支援
「……恐らく、毒のようですね。僕たちの体力を少しずつ削っていくつもりのようです……」
古泉も毒を喰らって苦しそうにしている。あの少女は――と、気になって見ると、毒の影響を受
けているはずなのに平然と立って、早口言葉で何か呟いている。何かの呪文か?
「…………右腕の属性情報を変更。ソニックモード。『スレッドファング』」
そう呟くや否や、少女は己の右腕を光の刃に替え、音速を超える速さで敵に突っ込み、何重にも
切り裂く!!
「……いま」
その光景に一瞬呆然としていた俺と古泉に、少女が変わらず平坦な調子の声で促す。
「――くっ、『凶斬り』!!」
「『ヘビーショット』!ふんもっふ!!」
俺は少女の攻撃により大ダメージを受けて突っ立っていた怪物を「凶」の字に切り刻み、その斬
撃によって生じた衝撃波がそいつの身体を内側から破壊すると、古泉が放ったエネルギー光球がす
かさず直撃した!――モンスターはたちまち粉砕される。それと同時に、毒の効果も消えたらしく
、身体も楽になった。それにしてもあの少女――
「――お前、一体何なんだ、その能力は?マテリアか?」
「わたしの構成情報の一部を操作した」
……さっぱり分からんのだが。とにかく便利な能力であるらしいことだけは分かった。それより
も聞かねばならん事があったな。
「お前の名前は?」
「……宝条はわたしを『レッド]V』と名づけた。だがわたしにとっては無意味な名前。パーソナ
ルネームは『長門ユキ』。……呼び方は任せる」
分かった。長門ユキ、ね。宝条なんかが付けた名前で呼べる訳無いしな。とにかく助かったよ。
ありがとうな。俺は自分の名前を告げて手を差し出すと、長門は「そう……」とだけ言って握手に
応じた。無口な奴なんだな、お前って。
その後、長門は、古泉や、戦いが終わって駆け寄ってきたハルヒや朝比奈さんに一通り自己紹介
――当然、必要最小限の事しか話さなかったが――を交わした。朝比奈さんは少々怯えていたよう
だったが、俺が口添えするとやっと納得したようで、何とか打ち解けたようだ。暫くすると、長門
はラボへ繋がる通路を指差し、
「出た方がいい。道案内は任せて」
とだけ言った。そうだな。朝比奈さんを助ければ、もうこんなビルに用は無いしな。俺たちは気
絶した研究員から『カードキー68』を奪い取って、長門の案内で66階に一気に走り降り、そのまま
シースルーのエレベータに乗り込んだ。ひょんな事で一人増えたが、取り敢えず無事全員脱出だ。
――そう思った――
ガチャ
――後ろから銃を突きつけられるまではな。
「お、おい!何だ?」
「上を押してもらおうか?」
振り返ると、えらくガタイのいい長身で相応の肩幅のある、漆黒の特徴的な制服を着た男がそこ
にいた。
「タークス?罠……か」
すると、さらにその後ろから国木田も現れる。くっ、完全に嵌められた。国木田は呆然とする俺
たちに向かって、ニッコリと微笑を浮かべた。
「ご苦労、中河。――さてスリリングな気分を味わえたと思うけど……楽しんでもらえたかな?」
...to be continued
312 :
HARUHI FANTASY Z 第6章 RUN! RUN! RUN!:2008/02/15(金) 13:10:40.48 ID:z5uAjS280
第6章はここまでです。いつもながら支援感謝です。今回はレスが長くなり、ご迷惑をお掛けしました。
(余談)
今回の初登場人物は、
長門有希=レッド]V
森園生=スカーレット
コンピュータ研部長=宝条
中河(ヒトメボレLOVER)=ルード
後藤(1年5組学級委員)=ドミノ・ミッドガル市長
豊原(1年5組)=ハット・ミッドガル市助役
あと、絶対分からないと思いますが、
コンピ研部員D=パルマー、でした。やっとSOS団全員が揃った……。次回は、序盤のクライマックスを迎えそうです。
313 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 13:54:23.78 ID:wMqS+jxkO
書き込めない!?
サクサク読めるね
鶴屋さんはまだかね
保守
乙!
317 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 15:35:38.49 ID:Qjl90O+E0
保守
鶴屋さんはやっぱりウータイ出身のあいつかな……だといいな……
保守
>>254 おお、GっJ!!
なんていうデレキョンwww あんたサイコーだ。
そういや鶴屋さんまだだな
亀だが
>>254 GJ!
キョンの壊れっぷりがwww
322 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 17:00:58.13 ID:KeKXQbplO
保守
保守
324 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 18:03:39.46 ID:c+NBRGjo0
保守
保守
保守
327 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 19:19:27.57 ID:qAj/m81l0
保守
保守
329 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 20:21:59.82 ID:w7bR2gYw0
保守
保守
ヤンメガ続き投下いくぜ!
長い間電車に揺られて紋白高にたどり着いた俺達だが……この光景は一体どういう訳なのかね。
俺のふり絞り過ぎて、既に枯渇しているのではないかと思われる脳みそでは、
答えにたどり着かないことは目に見えているので、ここは早々に最も適当な奴に尋ねるとしよう。
「ハルヒ?これは何だ?
「何って、紋白高に決まってるでしょ?」
いや、そういうことじゃなくてだな……
「あれ?もしかして文化祭終わっちゃったんですかぁ?」
いえ、そんなことはないでしょう。俺も先程、朝比奈さんと同じ壮大な勘違いをしたのは内緒だが、今はまだ昼間の三時である。
今日は目前に迫っている試験に奮闘しろという意味の教師から与えられたありがたーい短縮授業だったからな。
やれやれ、そんな時に俺達は一体何をやっているのかね。
とにかく、そんな真っ昼間から文化祭の片付けをする学校があるはずないので、今目の前に広がっている光景は、
生徒総出で準備をしてると考えるのが妥当だろう。
「俺はてっきり今日が文化祭当日だと思っていたんだが?」
ハルヒは何て返せばいいのか精一杯悩んだ挙げ句、それ意外に返す言葉が見つからないとでも言いたげな表情で、
「そう思ってたあんたが悪いんじゃない?」
とのたまった。
はあ、もっと早く気付くべきだったんだ。あの時もっとポスターをちゃんと見ていれば、
今日が平日ということの意味をよく考えていれば……
いやそれに気付いた所でハルヒが俺の意見を聞き入れるはずないか……
さて、どうしたものか。今日が部外者大歓迎の文化祭ではないと分かった以上、
俺の意思は、いかにハルヒを説得して連れて帰るかにシフトした。
そもそも何でここなんだ?例えば光陽園学院だったら近場だし、佐々木という知り合いもいるから手頃じゃないか。
「やだ。」
一気にハルヒの周りを取り巻いているオーラの性質が変わった。何だ?俺まずいこと言ったか?
「おいおい、お前佐々木のことそんなに嫌ってたのか?」
「ふん!いいからとっとと乗り込むわよ!バカキョン!!」
まてまて、耳を引っ張るな!おい古泉、ニヤニヤしてないで止めろっての!!
乗り込んだって教師に見つかれば即刻放り出されるぞ!
「皆うかれているし、OBって言えば大丈夫よ!」
OBってお前!俺達制服……いてて!
「大丈夫。」
「長門?」
長門の声が頭に響いてきた。こいつ、テレパシーまで出来たのか、まあ驚かないが。
「情報操作は得意。」
はは、ありがとよ……やれやれ。
「何かあっけないわね。少しは教師達がいちゃもんつけてくると思ってたのに。」
俺達は廊下を堂々と歩いている。長門の情報操作――不可視フィールドだっけか――のお陰で教師達の目に止まることはなかった。
まあ生徒達は奇異の視線を向けていたが、コスプレとでも思ってくれ。
「これからどうするんですかぁ?」
「ふふふ、敵地を支配するには中枢を手中に治めるのが一番!生徒会に殴りこむわよ!」
何で学校を支配することに話がすり変わっているんだ!そもそも学校の中枢を生徒会とするのが間違ってる。
「じゃあ職員室に殴りこんでみる?」
ごめんなさい間違ってましたすいません。
「あれゴミ箱?随分と立派ね。」
ハルヒの指差す先には木で作られたゴミ箱が置いてあった。紋白蝶の模様がついているが、
どことなく文化祭のキャッチコピーと同じセンスを感じる。
ってこら触るなハルヒ!どう見てもペンキ塗りたてだぞ!
「うわ、何これ?まだ乾いてなかったの?」
「おいコラてめぇ!!何勝手に触ってやがるんだ!?」
「品川さんが折角作ってくれたんだぞ!弁償しろよなぁ!」
後ろから何かやば気な奴等が怒鳴りつけにきた。
ギャル男二人を連れた見るからに不良学生な金髪頭は品川というらしい。
「な、何よ!あんた達!」
ずっと黙ってこちらを睨んでいたヤンキーは眉間にしわを寄せながら『紋白祭―ゴミ』と書かれたシャツを摘んで見せつけてきた。
「これ見りゃわかんだろ。俺は紋白祭ゴミ係のリーダーだ!!」
「「俺達はゴミ係その1と2だぜ!!」」
「はあ?ゴミ係?」
さすがのハルヒも呆気に取られたようだ。ここまでゴミ係を誇らしげに名乗る奴はそういないからな。
「たく!気を付けやがれってんだ。あーあー、チョウチョの羽が消えちまってるじゃねーか。
めんどくせぇなぁ、クソ。」
そう言いながらヤンキーたちはまた作業を開始し始めた。言ってる割りにはやけに楽しそうだ。
「ふええ、怖かったです。」
「関わらない方がいいでしょう。涼宮さん、手を洗わなければ。」
放心状態だったハルヒを古泉が促す。そうだな、ついでに用を足すとするか。
ハルヒがトイレで手を洗っている間、俺は便器に座り込んでいた。汚いって?仕方ないだろ生理現象なんだから。
にしても、さっきの……品川だっけか。奇妙な奴だったな。
睨みを利かした顔は、うちの生徒会長に勝るとも劣らないが、何でゴミ箱作りに夢中になっていたんだろう。
あれか?不良が猫に優しくすると、すごいいいやつに見えるっていうあの効果を狙っているのか?
ドガン!!
そんなことを考えていると、トイレのドアの反対側から殴られたような音がした。
何だ何だ?ハルヒが待ちくたびれてせかしに来たのか?いやでもあいつも女だ。
男のクソを邪魔する程変態ではないだろう、多分。
俺がどうしたらいいかわからずにいると女の声がした。
って女ぁ?!
「またサボってるんですか!?Tシャツ着ただけじゃダメですよ!!」
ハルヒではないが、かえって緊急事態だ。おいおい、この学校の女子は男をアレ 中に襲撃するのか?
「ちょ、待ってくれ、誰か知らんが人違いだ!」
「品川くん!声色変えてもだめです!早く開けないと…………」
品川?まさか………
と思ったら急にドアが迫ってきた。一瞬隙間から女子のキッキングポーズが見えたが、
次の瞬間にはドアが脳天に直撃し、俺は意識を失った。
以上!!
337 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 21:23:30.58 ID:Deo9cd1qO
乙
乙!
339 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 21:49:47.18 ID:w7bR2gYw0
保守
保守
保守
342 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 22:34:14.34 ID:l0B5B3aQO
ハルヒ「キョン! 大発見よ、大発見!」
ハルヒ「物凄い生き物見つけたの! きっとイスカンダルから送り込まれた刺客に間違いないわ」
キョン「はあ、何言ってんだお前は?」
ハルヒ「いいから、これを見なさい!」
◯<お腹すいたペポ
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「何? やっぱりさすがのあんたでも驚いちゃったの?」
キョン「元いた場所に捨ててきなさい」
ハルヒ「何言ってんの。これは歴史的大発見なのよ! しかもほら、メチャクチャ柔らかいんだからこいつ」
◯→〇<伸ばすの止めるペポ
キョン「ハルヒ、さっきも思ったがこいつ普通に喋ってるぞ」
ハルヒ「そうね。まあ宇宙にはほんやくコンニャクぐらいあるんでしょ」
◯<コンニャク……ゴクリ
古泉「おや、お二人だけでs」
◯<コンニャクウウウウ!!!
古泉「うわああああ」
◯<ゴクン
◯→●<ウホッ
ハルヒ「うわっ気持ち悪! あいつに古泉くんの髪生えちゃった」
キョン「目の毒だな」
●<ウホォーアッ!! ウホォーアッ!!
「ペポ」って事は、こいつはひかわVerか
みくる「みなしゃん遅れてしゅみましぇーん」
みくる「ひいい! な何なんでしゅか、その気持ちわりゅいのは!」
●<ウホッ、いいみくる。お茶でも一緒にいかがペポ?
ハルヒ「見てキョン。甘々よ、甘々に違いないわ」
キョン「とりあえず眼科に行こうな、ハルヒ」
348 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 23:30:02.37 ID:bt4T/33oO
保守
350 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/15(金) 23:52:33.46 ID:sf/C0db00
>>347 明日投下しようと思ってるのもあるんで、それが終わったら同時にアップします。
保守
353 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 00:35:37.69 ID:g13NAgtT0
保守
保守
355 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 01:13:17.16 ID:g13NAgtT0
保守
保守
357 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 02:27:22.52 ID:2L0985cA0
復活カキコ
358 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 02:46:24.24 ID:NlvLYRDc0
保守
ほ
360 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 04:16:42.48 ID:BORyjst2O
保守
361 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 04:25:55.12 ID:DrJQ8BWMO
なあ、
>>1よ、ちょっと聞いてくれ
翌日休みで暇でたまらない時はSS書く気にならないのに、
翌日仕事で忙しい時に限ってモチベーションが上がるんだ。
これってなんて病気
はいすいの じん
しめん そか
ほし
GYAO見てたらハルヒやってて吹いたw
おはよう保守
a
367 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 07:51:08.00 ID:6zyoHGekO
夜勤明け保守
ハルヒ「はいキョン、義理よ」
キョン「お、チョコか、すまんな」
ハルヒ「義理なんだからね?分かってる?」
キョン「何も言ってないだろ?まぁ、ありがとう」
ハルヒ「勘違いしないでよ、義理よ、義理!」
キョン「いや、だからだな」
ハルヒ「義理義理義理義理!もうこれでもかってぐらい義理なんだからね」
キョン「………。」
ハルヒ「義理も義理なんだから、限界よろしくのギリギリアウトってぐらいの義理よ!」
キョン「もう分けわかんないぞ…」
369 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 10:04:29.76 ID:K0xIGqlSO
保守
ほす
保守
372 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 12:41:50.12 ID:K0xIGqlSO
ほ
373 :
前置き:2008/02/16(土) 12:53:51.13 ID:eNmjn/cK0
以前、別のトコに投下して途中で放置してたんだが最後まで書けたんで今度はこっちに投下するぜ
全部で5か6レスくらいです。
374 :
題名未定1:2008/02/16(土) 12:54:54.75 ID:eNmjn/cK0
放課後の掃除中、なぜか背後に殺気を感じた俺は左に身をかわした。
するとバランスを崩したらしき何者かが倒れる気配がした。
気配の方を確認するとそこにはホウキをもって床に倒れこんでいるあいつがいた。
「よけるんじゃないわよ! このバカキョン!」
どこの世界に後ろから襲撃されてよけない奴がいるんだ? いたら教えて欲しいね。
トコトン理不尽大王だ、いや女だから女王か? 古泉なら女神っていうだろうな。
まぁそれより…今日は白か……意外に普通だな
「このエロキョン! どこ見てんのよ!」
……いやどこも……ふむコットン100%………さらに基本だな。
いいから早く立て、どうしたどこか怪我したか?
「うるさいわね、痛っ!」
捻挫のようだな。保健室いくか?
「ちょっと痛いわね、アンタのせいなだから……つ、つれていきなさいよ」
俺のせいとは理不尽だが歩けないんじゃ仕方ないな。俺は倒れこんでいるハルヒを両腕で抱え上げた。
「ちょ、ちょっとなにすんのよ!」
何って保健室いくんだろ、足が痛いんじゃ歩けないだろうからこうするしかないだろが。
すまない、みんな。保健室いくからあとは頼む。
「…引き受けたのね」
「ごっごゆっくりー」
「み、みんな見てるじゃない、おろしなさい…よ」
お前が大声で騒いで暴れてるからだろ、おとなしくしてろ。
ハルヒは俺の腕の中でなおも暴れようとする、連打される胸板が痛い。
おい保健室はすぐそこだからおとなしくしてろ。
「は、恥かしいから、早くおろしなさいよ!」
だったら、スカートおさえとけ、でないと今日はお前がクマさんはいてるって学校中に知れ渡っても知らないぞ。
「!……、やっぱり……見たんじゃない…」
スカートを押さえおとなしくなったハルヒを保健室に押し込み、男子禁制との妄言を聞き流し外で終わるのをまった。
375 :
題名未定2:2008/02/16(土) 12:56:26.54 ID:eNmjn/cK0
「二人の荷物持ってきたのね」
「っておい、持ってきたのは俺だろうが」
あぁすまない、阪中に谷口。あいつは今みてもらってるところだ。
「掃除は済ませておいたのね」
悪い、この埋め合わせは必ず。
「いいもの見せてもらったから気にしなくて良いのね、涼宮さんがうらやましいのね」
「阪中、俺様でよければいつでもいいぞ」
「お断りなのね」
何がうらやましいんだろうな……。あーとにかく二人ともありがとうな。
おっとあれは古泉達だな、SOS団総集合って感じか?
「涼宮さんの怪我の具合はいかがでしょうか」
「キョン君、私心配しちゃいました」
「……」
あぁみんな、ハルヒは捻挫っぽいな。しかし随分早耳だな。
「うわさの広がるのは早いですからね、こういった話題は思春期真っ盛りの我々高校生なら特にですよ」
そりゃ、高校生にもなってホウキなんか振り回したり大声で暴れてれば目立つだろうが、皆暇なんだな。
「……そうではなくですね……」
んっ? どうした古泉。
「キョン君がカッコ良かったって評判ですよ」
いや偶然ですよ朝比奈さん、運が良かったからアイツの攻撃をよけれただけです、別に武芸の達人とかじゃないすよ」
傍若無人な神様や可愛らしい未来人、万年スマイルの超能力者、無口だが頼れる宇宙人などと違いあくまでも俺は一般人中の一般人だからな。わがいとしの朝比奈さんには誤解のないように説明しないと。
「……、そっちじゃなくてお姫様のほうですよ」
お姫様ってなんです? おっ、どうだったハルヒ。
「軽い捻挫みたい、これから病院へ行くから今日の団活は中止にしましょ」
あぁそうした方がいいだろうな、いいですよね、朝比奈さん。
「え、えぇ…」
376 :
題名未定3:2008/02/16(土) 12:57:15.63 ID:eNmjn/cK0
「みんな! これからどうするの?」
「僕はバイト先に用事があるのでこのまま帰ります」
「私は駅前までお茶の買出しに」
「図書館に…、部室の戸締りはすませてきた」
「なら、このまま一緒にかえるわよ。ほらキョンいくわよ」
おいハルヒ、俺の予定を聞かないのはなぜだ! まぁ確かに決まった予定がある訳じゃないが出来れば朝比奈さんのお供と洒落込みたいね。
「何いってるのよ、キョンはあたしと一緒に病院でしょ、ちゃんと…さ、最後まで責任とりなさいよ。そういう中途半端だからアンタはいつまで経ってもバカキョンなのよ」
仕方ない、理不尽な女神様につき合わされるのは俺の宿命らしい。前世の因縁か? 俺は一体どんな酷いことしたんだろうな、誰か教えてくれ。
それで足は大丈夫なのか? 歩けないんならまた俺がお前を運んでやるぞ。
「だ、大丈夫よ。歩けるから、キョンはあたしの荷物をもってちょうだい。さぁみんないくわよ!」
おいハルヒ、靴を履き替えたんならさっさといこうぜ、なに座ってんだ? それとも足が痛いのか?
「キョン、あたしを病院まで歩かせる気? さっさとアンタの自転車とって来なさいよ」
さっき歩けるって言わなかったか?
「それは短い距離だけよ。ここでみくるちゃん達と待ってるから早くしなさい」
……しょうがないな、さすがにあの長い坂をアイツを抱えておりるのは疲れるしな、自転車をとってくるか。
「僕もお供しましょう」
すまんな古泉。
しかし、また自転車で坂を上らないといかんとは億劫だな。古泉、いつものタクシーかなにかでハルヒを送るのは駄目なのか?
「今日はタクシーはちょっと……」
都合がつかないのか、新川さん達も忙しいんだな。
「いえ都合はつきますよ、ただ重傷ならともかく軽い捻挫でそれは不自然でしょう、毎回都合よく無料送迎ではちょっと……」
あぁ確かにそれもそうだな。
「せっかく上機嫌でいらっしゃるところをわざわざタクシーにして涼宮さんのご機嫌を損ねてはいけませんしね」
あれ、あいつ車嫌いだっけ? というかあれで上機嫌なのか?
「えぇ、これまでにないほど素晴らしく……、やはり状況の変化というか好転でしょうか? 進展への足がかりが見えて来たのがよろしいかと」
好転ねぇ……まぁ確かに怪我したけど捻挫は軽そうだしな。
「……あなたの自転車は我々の方ですぐそこまで運ばせて頂ましたのでこの坂を往復していただく必要はないですよ、たしかそこの電柱の影にある筈です」
サンキュー、古泉。出来れば毎日頼みたいね。
377 :
題名未定4:2008/02/16(土) 12:58:48.51 ID:eNmjn/cK0
「聞いてよみくるちゃん。全部このバカキョンのせいなのよ」
ふざけるな、いきなりホウキを振りかざしてきたのはどこのどいつだ。俺が押す自転車の後ろに乗るハルヒは上機嫌で俺の悪事とやらを話している。人様の悪口を喚き立てて喜んでるとは随分悪趣味なやつだ。しかし、まぁ確かに素晴らしく上機嫌ではあるな。
「不真面目に掃除してたキョンへの罰よ、いわば正義の制裁ね」
いい加減にしろ俺にはお仕置きとかそういう特殊な趣味はない。
「でも良かったですね、涼宮さん」
あぁ朝比奈さん、捻挫は軽そうですからね、不幸中の幸いでしょう。
「キョン君、そうじゃなくて……あの時の涼宮さんの様子がとても幸せ「み、みんな今日はここで解散するわ、あたし達は……こっちだから、また明日ね、ほらキョンそこを曲がりなさい」
「なにやってんのよ、押してないでさっさと自転車にのって漕ぎなさい、歩きのみくるちゃん達に合わせる必要はもうないのよ」
あぁ、無駄だと思うが一応断っておく、二人乗りは道交法違反ってのは知ってるよな。
「それがどうしたのよ、大体ちんたら押してたら病院がしまっちゃうじゃない」
全くワガママな女神さまだぜ、そうだ病院で思いだしたが保健証はいいのか? なんなら家に電話して車で持ってきてもらったらどうだ、ついでに病院まで一緒にいけばいいじゃないか。
「な、なに言ってるのよ、そんなの駄目よ、……と、とにかくあとで保健証を持ってけば返金してくれるから問題ないわよ、それに……な、なんでもないわ、とにかく先に病院よ、あたしんちはその後よ」
そうなのか……って病院だけじゃなくてお前の家までつきあわなきゃいけないのか?
「勿論そうに決まってるじゃない、最後まで責任とりなさいよ、ちゃんと…あ、あたしを……家まで送りとどけなさい!」
しゃーない、自転車を漕ぐとするか。ほらハルヒ、しっかり俺につかまれよ。
「えっ……」
おい危ないから、もっとしっかりつかまれ。
「う、うん……、あ、汗くさいわね……」
あー、いやなら降りろ。
んっ? どうした、顔くっつけ過ぎだろ、汗臭いんじゃなかったのか。
「あ、安全のためよ、背に腹は変えられないっていうでしょ」
ついたぞハルヒ、ここでいいんだな。じゃぁ俺はそこら辺で時間潰してるから終わったら携帯に
「ま、待ちなさいキョン、荷物持ちとして使ってあげるから……い、一緒にきなさい。それに外にいてキョンが風邪引いたりしたら……、だ、団員の健康管理も団長の責任よ」
あぁ、わかった、気を使ってくれてありがとなハルヒ。
*サル回避のためちょっと休憩します
マルチすると転載疑うけど良いのか?
379 :
題名未定5:2008/02/16(土) 13:19:26.27 ID:rffDmLXu0
制服姿で病院の待合室にいる高校生男女二人、これが産婦人科なら顰蹙モノだが整形外科だから大丈夫だろう……、多分。
念のためレントゲンをということで今は写真待ちだ。
「あたし、ちょっと家に電話してくる、呼ばれたら教えにきて頂戴」
しかし今日のハルヒは様子がおかしいな、ねんだかやけに顔が赤いし、視線もあらぬ方向を見ている、なんだか焦点あってない感じだ。風邪でも引いたんだろうか……。おっとハルヒが呼ばれてるぞ、どれ呼びにいくか。
……だ、だからあいつとは…そんなんじゃ……。と、とにかくこのあと一緒にいくから…その…部屋の写真を…
おいハルヒ呼ばれてるぞ。
「!? キョ、キョン……びっくりするじゃない」
そうかすまんな。
「……ねぇ今の聞いてた…」
ん、今のってなんだ?
「な、なんでもないわよ!」
おまえんちはここでいいのか?
「えぇ。……せ、せっかくだから……上がって来なさいよ、御茶くらい出してあげるから。ノドかわいたでしょ」
あー、悪いちょっとトイレ貸してくれないか。
「それでどうなりました?」
別にどうもないよ、ハルヒの部屋で御茶を呑んで早々に退散したよ。
えっ…涼宮さんのご自宅で彼女の部屋で二人きりだったんですよね?
あぁ…なんか丁度俺達が着いたらはみんな出かける所で遅くならないと戻ってこないっていってたな。
「それで直ぐに帰ってしまわれたんですか?」
だって御茶呑みながら俺が話しかけてもアイツは下向いてウンともスンとも何にも言わないんだぜ。
良くわからんが機嫌が悪かったみたいだぞ、これじゃぁすぐに帰るのが正解ってもんだろ?
「……それ本気でおっしゃってるんですか? 馬に蹴られても知りませんよ、もっとも…あなたの場合は他人のではないからセーフですかね」
− 終わり
>>378 疑いたきゃどうぞ、としかいえんな。
向こうは規制されたのかなんだかわからんがずっと書き込めないんだ。
381 :
題名未定6:2008/02/16(土) 13:25:00.81 ID:rffDmLXu0
*おまけ
「こ、この前は阪中さん達にまかせてを途中ぬけちゃったから、今日はあたし達だけで掃除させてもらうわ」
「わかったのね。今度こそ頑張るのね、涼宮さん」
「ごゆっくりー」
「おい、まだ掃除するのか? というかさっきからなんで俺達は並んで床を磨いてるんだ二人手分けして別々に動いた方が効率よくないか?」
「そ、それは……キョンがサボってないか監視するためよ! ほら、しっかり磨きなさい」
なぁ一体何度同じところを磨けばいいんだ。
「ちゃ、ちゃんときれいになるまでよ、阪中さん達に代わって引き受けたんだからしっかり綺麗にしないと駄目なのよ」
「やっと終わったな…というか今何時だ?」
「キョ、キョン。すっかり暗くなっちゃたわね…、あ、あたしを家まで送ってきなさい。団長命令よ!」
*おまけのおまけ
「…そういえばこないだハルヒのお母さんが俺の事見てさ、お前の部屋に飾ってる写真よりずっとカッコいいとかいってたろ」
「……そ、そうだったかしら……覚えてないわ」
「どうせみんなと一緒の写真で俺のとなりがイケメンの古泉だったんだろ。でなきゃそんなこといわないよな」
「そう、たしかそうよ、……そんな写真だったわ」
「ふーん、じゃぁ今日行ったら見せてくれよその写真、こないだお前の部屋にいったけど写真なんて飾ってなかったよな」
「!?」
ほしゅ
383 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 14:16:44.43 ID:nO3zEcNc0
保守
ちょw橘京子の陰謀の投下予告ktkr!
ちょっと予告スレ見てくる保守
保守
388 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 15:45:22.47 ID:nO3zEcNc0
保守
>>381 GJだぜ!
俺も先に投下されたスレの住人だw
390 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 16:12:23.95 ID:K0xIGqlSO
保守
今までのお話はこんな感じ
http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4235.html 「御主人様、次はデザートですよ」
そ、そうか…今度はまともだといいな……ってハルヒ、テーブルの下に潜ってなにしてんだ?
「デザートの準備ですよ、御主人様」
えっ? なんで?
「さぁキョン足をひらいて頂戴」
あぁこうか、ってお前一体なにを?
「何って『机の下』でしょ、背徳的なのが萌えよね。さぁおズボンをおろしますよ、御主人様」」
はぁ? どういうことだ?
「普通は社長室で秘書がするもんだけど食卓の下でメイドが御主人様にするとご奉仕って感じが高まって更に萌えよね」
お、おい、ちょっとまてやめろ。
「あら御主人様、『椅子の上』がいいんですか? じゃぁキョンの大好きな『着たまま』ね」
それも違う!
「嘘は駄目ですよ、御主人様はあたしに色々着せてするのが大好きでしょ、この間だって」
……た、確かに時々北高の制服や体操着をお前に……忘れてくれ只の妄言だ。
それよりあれだ、……そう…買い物だ。確か洗剤やトイレットペーパーが切れかけてたろ。ほらハルヒ、買い物に出かけるぞ支度しろ。
「えっ、キョン……あたし…『首輪』とか『お犬様』とか『お散歩』とかそっち方面はちょっと……」
違うー! 誤解だ。普通に買い物に行くだけだ。
「そりゃキョンがそういうDVDをあたしに隠れて持ってるのは知ってるけど……、見るだけならいいけどあたしに試すのはやめてね」
お、おい。あれは谷口が無理やり俺に押し付けて……。っていつの間にバレてたんだ。
「……DVDは没収でいいわよね」
と、とにかく出かけるから支度しろ、支度。
>>391 「準備が整いました、御主人様」
……あぁ、ハルヒ。その格好で買い物に行く気か?
「勿論よ、メイドがお使いに出かけるんならメイド服に決まってるじゃない」
一体どんな羞恥プレイだ……。頼むハルヒその格好はとにかくやめてくれないか、そんな短いスカートは駄目だ。
「あらメイドに絶対領域はデフォルトでしょ」
……そ、そんな格好で外に出てみろ、他の男たちがお前をジロジロ見るに決まってんだろ。
「妬いてらっしゃるんですか、御主人様?」
……お前のそんな格好を見ていいのは俺だけだ。いつもいってるだろ……。
「ワガママな御主人様ですこと」
……。
「……スカートを膨らませているこのパニエを外せば普通の長さになるし、これで上からこのコートを羽織れば大丈夫よね、どう?」
あぁ……、やっぱりこいつは何を着ても似合うよな……。
「どうしたのキョン、あたしのことじっと見て、ちょっと『エロ目』ね」
いや……そのなんだ…似合ってるぞ、一緒に出かけるのが楽しみだぞ。
「ありがとキョン、……でも『お外』は駄目よ、まだ寒いし……おまけに近所じゃ恥かしいし……、出す時はいつも『中』なのに出かけるときは『お外』でなんて御主人様は矛盾してますよ」
あの…ハルヒさん一体何を…。
「で、でもキョンがどうしてもっていうんなら、もちょっと暖かくなってからちょと遠出して……それなら……、だからそれまで我慢してくださいね、御主人様」
……それ違うから……。
「御主人様、お出かけの時間ですよ、さぁまいりましょ」
メイド保守キター!!!
395 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 17:23:14.08 ID:qi3H1r/BO
あげー
投下予告。2レス予定。
397 :
キョンだって思春期なんです(1/2):2008/02/16(土) 17:39:50.09 ID:YbkOXVVv0
昨日の夜、俺は悪夢を見た。風呂に入ってたら…寝小便オチはないから安心しろ。
風呂に入ってたら突然、ハルヒがすっぽんぽんで入ってくる、という内容だったんだ。
別にオチはねえ。入ってきたところで終わったんから。これなら、この間の閉鎖空間の
ようにキスで終わるほうがはるかにマシだ。比較の問題だが。
しかし本能というのは恐ろしい。俺の脳内カメラはそのハルヒの登場シーンを
超高速度モードで録画した挙句、脳内スクリーンでノンストップ上映を続けている。
おかげで寝れやしなかった。なにしろ、あいつは外見だけで言えば北高トップクラスの
美少女であるわけだからな。上映内容を詳しく描写しろってか?残念、禁則事項だ。
その本能とのバトルが終了したのは恒例の早朝ハイキング中だった。だが問題は学校だ。
本人と会うと倒したはずの本能が復活する可能性が大だ。そして、相変わらず席は俺の後ろ、
つまり、ハルヒを視界にいれずに教室に入るのは不可能ということだ。
最後の可能性、ハルヒが俺より遅く来る、を信じてドアを開ける。いない!
やったぜ!今日は遅い!これならなんとか一日耐えられそうだ!
と思ってたら目の前に突然現れやがった。入り口に程近い席の阪中辺りと話してたらしい。
398 :
キョンだって思春期なんです(2/3):2008/02/16(土) 17:42:23.02 ID:YbkOXVVv0
「ねえ、キョン!」
切るところ間違えたので3レスになりますorz
〜〜〜〜
朝から元気だなお前は。寝不足の目には光り輝いて見えるぜ…って畜生、予想通りまた本能が
復活してきやがった!無意識に胸のほうへ行こうとする視線を必死で戻す、が、妙にまばゆい鎖骨
から喉のあたりが目に飛び込んできたあたりで、俺の脳は服に覆われた部分の補完を開始しやがった!
ハルヒは何か言ってるが正直それどころじゃない。
「ちょっとあんた聞いてるの?」
いきなり俺の腕をつかみやがった。妙なことを意識してるせいか、つかまれた部分がやたら
ムズムズする。そしてつい反射的にその部分を手ではたいてしまった。瞬間、ハルヒはもともと
大きな目をさらに大きく見開いて
「…キョン…あんた…」
とつぶやいたっきり固まってしまった。こっちはあまりにも無意識での行動だったので、ハルヒの
突然の停止がしばらく理解できなかったが、阪中の「ちょっとキョン君あんまりなのね!」の一言で
我に返った。
399 :
キョンだって思春期なんです(3/3):2008/02/16(土) 17:43:11.03 ID:YbkOXVVv0
そうだ、たしかに客観的に見れば、汚いものに触られたときのリアクションそのままであり、
ハルヒが傷つくのも無理はない。
だからって、どうやって謝ればいいんだ?正直に「全裸のあなたを夢に見てしまい、妙に意識して
こういう行動をとってしまいましたごめんなさい」なんて言えるわけがないだろう?しかしハルヒは
相当ショックを受けたのか、固まったまま動こうとしない。殴りかかってきたほうがはるかに
救われただろう。どうすんの、どうすんの俺?
他人から見ればそれから0.5秒後、俺にとっては5時間後。大量の「どうすんの俺?」でいっぱいに
なった俺の脳はついにエラーを起こし、暴走した。具体的に言うと叫びながら屋上へ走り去って
しまったのだ。そして暴走する瞬間まで、平行して補完シミュレートしてやがった俺の脳に乾杯。
すまんハルヒ。…ああ、教室から古泉が携帯電話片手に青い顔して飛び出してったのが見えた。
すまん古泉。
…はあ、どうすっかなあ〜。
2つ目、コメント入れるところも間違えた…orz
つづきを!たのむ!つづきをかいてくれいや書いてくださいお願いします
今書いてるからまたれいや
403 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 18:39:14.22 ID:K0xIGqlSO
保守
>>400 なんつーか、推敲…いやもう少し見直してから投下した方がいいぞ。
焦ったってスレは逃げないんだから。早漏は嫌われるぜ。