13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 20:55:37.08 ID:BRf9YpGO0
支援
14 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 20:57:07.59 ID:PzVo3wD2O
( ^ω^)「そうだハインリッヒ、渡さなくちゃいけない物があったんだお」
从つ∀从「ん……」
目を擦りつつ、ブーンの方を見遣るハインリッヒ。
ブーンは鞄からボイスレコーダーを取り出すと、それを彼女に手渡した。
ノパ听)「ばつの遺言、だね」
从 ゚∀从「そうか、あいつの……」
彼女はそう呟くと、幾つかあるスイッチをいじくりまわした。
それから直ぐに顔を持ち上げ、ブーンに対してこう一言。
从 ゚∀从「ところで、何番の音声を聞けばいいんだ?」
(;^ω^)「……忘れたお」
嫌な感じの静寂が場に広がる。
从;゚∀从「おいおい、手当たり次第に聞けってことかよ」
15 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 20:59:31.95 ID:PzVo3wD2O
从 ゚∀从「えーっと、音声ナンバー1から20まであんのか。
多分最後の方に集録されているとは思うんだが」
むむむと軽く唸るハインリッヒ。
ノパ听)「あっ、そういえば私に宛てた言葉は7番に入ってたから、
もしかしたらその前後じゃないかな!?」
从 ゚∀从「んじゃ、そこから試してみるか」
その後、彼女は直ぐに正解を探し当て、黙ってそれに聞き入り始めた。
元々感情的な人なのだろうか、その泣き様は私の想像以上。
そんな、人間らしい心を取り戻した彼女のことを、
悲しいかな今の私は妬ましく感じてしまうのだった。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 20:59:57.54 ID:WDksxbjaO
支援しよう
17 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:01:14.63 ID:PzVo3wD2O
从 ゚∀从「荒巻の住家は、ヒートの家のすぐ側にある」
一しきり泣いてから、ハインリッヒが真っ先に発した言葉はそれだった。
にしても、私の家の側だって?
あんな田舎に研究所の類いなんてあっただろうか。
从 ゚∀从「居場所と言っても、研究所とはちょっと違う。
そうだな、言うなれば別荘……いや、秘密基地みたいなもんだ」
ノパ听)「秘密基地?」
雄武返しにそう尋ねる。
その問いに対し、彼女は"ああ"と言って頷いた。
从 ゚∀从「取り敢えず、お前は一度家に帰るんだ。
それからのことは……つー、任せたぞ」
(*゚∀゚)「いえっさ!」
( ^ω^)「ちょっと待つお」
从 ゚∀从「んー?」
( ^ω^)「お前が僕達に着いて来れば、つーに頼む必要もないんじゃないかお?」
从 ∀从「……違いない」
ハインリッヒの返事には、どこか陰りがあった。
何か嫌な予感がする。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:01:38.32 ID:WE3y1h3t0
支援
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:02:19.61 ID:WDksxbjaO
一話から読んでくる
20 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:02:37.26 ID:PzVo3wD2O
カツカツと四人分の足音が冷えた廊下に響き渡る。
从 ゚∀从「なあなあ、ちょっと聞きたいんだけど。
その鞄の中に、ドアみたいな形の機械は入ってないか?」
ハインリッヒはそう言いながら、ブーンが手にした鞄を指差す。
ノパ听)「それならばつが使ってたよ、空間なんたら装置ってやつでしょ?」
从 ゚∀从「そうそう、悪いがそれを出してくれないか?」
ノパ听)「ああ、そういやあれを使えば一瞬で外に出れるもんね。
ブーン、ちょっと鞄を貸してくれる?」
( ^ω^)「分かったお」
ノパ听)「ありがとう」
礼もそこそこに鞄の口を開けて中を漁る。
探していたドア型装置は、程なくして見つかった。
21 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:04:00.61 ID:PzVo3wD2O
ノパ听)「よし、早いとここれを使って脱出しよ!」
私は装置を床に設置し、手早くその扉を開いた。
幸いなことに装置は問題なく作動し、私達が今いる廊下と研究所の外とを繋げてくれた。
差し込んでくる夕の赤光に、
あぁ突入時からかなりの時間が経っていたんだなと、思わず感じ入ってしまう。
(*^ω^)「おっおっお、SFチックで恰好いいお!」
(*゚∀゚)「流石オレ様のマスターが作った機械だろ!
寧ろそれと同列以上の存在のオレ様って凄くない? 凄くない?」
从;-∀从「はいはい」
ノパー゚)「……」
(;゚∀゚)「あっ、おい、そこの女! なんかオレ様のこと内心馬鹿にしただろ!
寧ろ馬鹿だと確信したろ!?」
22 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:05:38.90 ID:PzVo3wD2O
ノパ听)「ううん、"寧ろ"羨ましいと感じたよ」
(#゚∀゚)「あーっ、やっぱ……って、えっ? 羨ましい?」
(*゚∀゚)「そかそか、ならいいや」
つーは嬉しそうに笑ってそう言った。
……羨ましいというのは本当だ。
彼女は、私に欠けた感情を持っているから。
(*゚∀゚)「ふんふふーん」
彼女が機械である以上、それはあくまで人工の産物に過ぎない。
しかしだからといってその事は、つーの持つ感情が人の持つそれに劣るという理由になりはしない。
彼女の場合、下手したら普通の人間よりも感情豊かかもしれない。
ハインリッヒとのやり取りを見ていたら、そうと感じすらした。
ノパ听)「羨ましいと思った理由はもう一つあるんだけどね」
(*゚∀゚)「ん、何か言った?」
ノパ听)「……何にも」
彼女は私やブーン、ハインリッヒと違って、大切な人を失ってはいない。
だからこそ、こうも無垢な笑みを浮かべられるのかもしれない。
なんとなくそんな事を考えた。
23 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:07:30.12 ID:PzVo3wD2O
从 ゚∀从「あっ!」
私達が次々と扉をくぐり抜け、残るはハインリッヒだけとなった時のこと。
彼女は扉の向こう側で短く声を発し、その場に立ち止まった。
从;゚∀从「いやー、悪いが忘れ物があったのを思い出した!
ちょっと戻って取ってくるから、三人は先に行っててくれ」
(*゚∀゚)「ハインはおっちょこちょいだなぁ!!」
从;゚∀从「悪い悪い、あそこに見える道の先に広けた場所があるから、
先にそこ行って待っててくれ」
ハインリッヒは口早にそう告げ、
扉のその又向こう側に見える、廊下に立ち並んだドアの一つに入っていった。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:08:10.49 ID:Cf7sM8p50
ふむ支援
25 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:08:43.26 ID:PzVo3wD2O
おかしい。
疑念が鎌首を持ち上げたのは、ハインリッヒの言った広場とやらがうっすら見えてきた頃だった。
ノパ听)「ブーン、今日はきっと野宿をするんだよね?」
( ^ω^)「もう日が暮れて移動が難しくなってきてるし……そうなると思うお」
急かされるようにして出て来てしまったけれど、
冷静に考えると研究社に泊まりさえすれば、野宿の必要など無くなるではないか。
ノハ--)「……」
ハインリッヒは切れ者だ。
当然、そんなことには端っから気がついていたに違いない。
だからきっと、忘れ物をしたというのは人払いをするための嘘。
そんなことをしてまで彼女が成そうとしている事って?
ノパ听)「……行かなくちゃ!!」
(;^ω^)「おっ……?」
(;゚∀゚)「おーい?」
困惑する二人を置き、私は研究所前に設置された扉型装置の方へと引き返した。
26 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:09:54.55 ID:PzVo3wD2O
耳障りな電子音と共に、デジタル表示のタイマーが数字を減らしていく。
これがゼロになった時、研究所中央にある格納庫からミサイルが発射される。
从 ゚∀从「後少しで私も、この世とグッバイおさらばか」
格納庫の蓋は閉じられたままだ。
そんな状態で、例え小型とはいえミサイルが発射されたら、
少なくとも私がいるこの部屋はドカンだ。
从 ゚∀从「極端に火力の弱いミサイルを自爆用に使うなんて、なかなか斬新じゃね?」
味方にも、それが自爆用であると気がつかれない。
メリットはその一つしかないけどな。
支援
28 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:11:40.15 ID:PzVo3wD2O
从 -∀从「しっかし、私は結局何をしてきたんだろな」
変に意固地になっていた数瞬前までの自分は、本当に何がしたかったのやら。
从 ゚∀从「だってのにばつの奴、最後まで優しい言葉ばっか言うもんだから……」
从 ∀从「グッと……きちまったじゃねぇかよ……」
もう少し、構ってやれば良かったかな。
恥ずかしいからあまりやらなかったけど、人形遊びは嫌いじゃない。
そもそも人形型のロボットがあったら可愛いなって思ったのが、
私が科学者という仕事に興味を持った理由の一つな訳だし。
从 -∀从「言うなれば、つーは私の夢の結晶でもあるんだよなぁ」
だから私は、底抜けに明るいあの人形に、おかしな程の親しみを持っていたんだ。
29 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:13:15.33 ID:PzVo3wD2O
そろそろカウントがゼロになる。
『5』
なんだか呆気ないもんだな。
『4』
でもま、現実ってこんなもんなのかもね。
30 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:14:43.61 ID:PzVo3wD2O
『3』
ここに来てやたらカウントの進みを遅く感じる。
たくさんの思い出が脳裏に浮かんできた。
『2』
ああ、海水浴とか懐かしいなぁ。
思えば私が……ドクオを好きに思う自分を意識したのは……あの時が初めてだったかもな。
大人げ無くばつに嫉妬したりして、その癖ドクオに素直に接する事ができなくて。
馬鹿だったな、どうせなら好きって伝えたかったな。
……なんで先に死ぬんだよ、いや、死なせたんだよ。
私の大馬鹿野郎。
31 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:17:10.37 ID:PzVo3wD2O
『1』
畜生、どうして幸せだった時の事ばかり思い出しちまうんだ。
どうして今になって、自分が幸せだった事に気がついちまうんだ。
多分私は、荒巻の口車に乗せられた事で、本当に大勢を不幸にしてきたんだろう。
……荒巻のせいにする事じゃない、悪いのは私自信だな。
そして私は、罪を背負って生きる強さを持っていない。
ヒートもブーンも、どこかの農夫も、仲良しそうな兄妹の片割れも、
他にも大勢を……私は……。
みんな、迷惑かけてごめ……
『0』
32 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:18:23.28 ID:PzVo3wD2O
ノパ听)「あ……」
たった今、自分が向かっていた研究所が、轟音と共に崩壊した。
短い期間だったけれど、一緒に旅をした仲間の命を二つも飲み込んだ研究所が……。
ノハ )「無責任過ぎるよ……」
それはね、逃げなんだよハインリッヒ。
心の中で、そう呟く。
ノパ听)「ホントに、頭はいいけど……馬鹿なんだから」
やはり涙は零れなかった。
33 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:20:14.62 ID:PzVo3wD2O
Episode21、アップルパイ
/ ,' 3「ハインリッヒは死んだか」
ここまでは概ね計画通り。
ヒートはこれまでの出来事で、負の感情を大量に燃やした筈だ。
後は直接ここに来るのを待ち、最後の演出をすればいい。
/ ,' 3「焦がれた時は目前だな」
34 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:21:51.87 ID:PzVo3wD2O
/ ,' 3「ふうっ」
溜め息をつき、年にそぐわないアップルパイをほうばる。
パイの香ばしさ、生地に溶けたバターの滑らかさ、林檎のしゃりしゃりとした食感。
それら全てが同時に口の中へと広がっていく。
いつも思うのだが、アップルパイという食べ物は一口目がピークだ。
初めは旨いのだが、やたらと早く飽きが来るからである。
/ ,' 3「最も、あいつは毎日飽きもせずにアップルパイばかり食っていたがな」
そういえばあの時はまだ、わしも爺という程の年では無かったな。
……なあ、もう一人のヒートよ。
35 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:23:57.75 ID:PzVo3wD2O
あの日、偶然見かけた子供の一団を、"俺"は一種好奇心と共に眺めていた。
「やーい、やーい、化け物!!」
(゚ー゚;ノ从「私はただ、皆と一緒に遊びたいだけ……」
「来るな!!」
( ー ;ノ从「あ……」
酷いものだった。
楽しそうに遊ぶ子供達の集団におそるおそる近寄る少女を、
彼等彼女等は全力で押し返してしまうのだ。
(;ー;ノ从「う…ううっ……」
彼女はしかし何も言い返すことなく、涙を流してその場を去っていった。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:24:30.24 ID:BRf9YpGO0
支援
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:26:25.84 ID:4DPBPZ6H0
来てた支援
38 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:26:39.83 ID:PzVo3wD2O
( ー ノ从「……」
俯きながら町外れへと歩いていく華奢なそれを、
何故だろう普段は余り他人に興味を示さない筈の"俺"は、
しかしながら旺盛な何かを引き連れてその跡を着けていった。
( ー ノ从「……っ!」
突然、少女がうずくまった。
俺とて、良心を持たぬでは無い。
慌てて彼女に近寄る俺は、きっと冷たい汗水を垂れ流していたに違いない。
(゚ー゚*ノ从「わあっ、綺麗なお花!!」
縮こまって咲く薄紫の花を見て満面の笑みを浮かべる彼女とは、丁度正反対に。
39 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:29:12.47 ID:PzVo3wD2O
/ ,' 3「なんだ……」
俺はホッとし、と同時にそう漏らした。
(゚ー゚;ノ从「誰っ!?」
少女は勢い良く振り返る。
(゚ー゚ノ从「あっ、違った……」
こちらに振り返った瞬間、彼女は確かに恐怖の様相を浮かべていた。
が、俺の姿を確認すると、なにか安堵した様子を見せた。
そして凍りついた恐怖の面を溶かし、直ぐさまそれを笑顔に作り替えた。
(゚ー゚ノ从「伯父ちゃん、だぁれ?」
/ ,' 3「俺は荒巻、荒巻スカルチノフだ」
40 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:31:18.35 ID:PzVo3wD2O
(゚ー゚ノ从「へえっ、伯父ちゃんは荒巻さんっていうんだ!
私はね、笑顔ヒートっていうんだよ!!」
/ ,' 3「ヒートか、いい名前だな」
(゚ワ゚*ノ从「本当? そんな事言われたの初めてだよ、嬉しいっ!!」
社交性に欠けるこの俺ですら、あからさまな社交辞令をこうも真には受けないだろう。
だがしかし、この見目通りに純な少女を見ていると、何かこう清々しい想いがした。
って、おいおい、俺はロリコンかよ……。
(゚ー゚ノ从「ねえねえ、荒巻さん」
/ ,' 3「何だ?」
(゚ー゚ノ从「その、ね」
( ー *ノ从「一緒に遊んでくれないかな、なんて……」
/ ,' 3「……別にいいぞ」
(^ー^*ノ从「やったあ、ありがとうっ!!」
……畜生め、可愛いじゃねーか。
41 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:33:19.91 ID:PzVo3wD2O
(゚ー゚ノ从「荒巻さんは何をやってる人なの?」
/ ,' 3「技術開発をしたりだとか……まあ、俗に言う研究者ってやつだ」
(゚ー゚*ノ从「へえっ、偉い人なんだぁ!!」
/;,' 3「別にそんな訳じゃ……特にめぼしい成果を挙げたでもねぇし……」
(゚ー゚ノ从「でも、荒巻さんならきっと凄い研究者になれるよ。
頭良さそだし、優しいし……」
(^ー゚ノ从「だから、頑張ってね!」
ヒートの一丁前に可愛らしいウインクは、俺の荒んだ心を多少なりとも癒してくれた。
/ ,' 3「ああ、ありがとな」
気がつけば俺のヒートに対する興味は、もはや好意に近いものへと変わり果てていた。
とはいえ、流石に男女としてのそれではなく、
どちらかというと親子間で生じるものに近いと思う。
何分所帯を持たないので、あくまで推測の域を出ないのだが。
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:33:49.01 ID:Cf7sM8p50
支援支援
43 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:35:24.57 ID:PzVo3wD2O
(゚ー゚ノ从「さ、到着到着ー!」
ヒートのその言葉を聞き、やっとこさ俺は、
自分がいつの間にか彼女に先導されていた事に気がついた。
で、肝心の彼女はというと、木組みのボロ小屋を指差して嬉しそうに笑っている。
(゚ワ゚ノ从「……」
/ ,' 3「このボロい建物がどうかしたか?」
(゚ー゚ノ从「……」
(;ー;ノ从「うぇぇ……」
/;,' 3「へっ?」
(;ー;ノ从「ボロくなんか、ボロくなんかないもん……私の大事なお家だもん……」
/ ,' 3「あっ……」
悪い事を言った、素直にそう感じた。
だから俺は……
/;,' 3「……食うか、アップルパイ?」
後から自分で食べようと思っていたアップルパイをポケットから取り出し、
苦し紛れにそう言ったのだった。
44 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:37:28.81 ID:PzVo3wD2O
(;ー;ノ从「アップルパイ? それって美味しいの?」
何だ、アップルパイも知らないのか。
そう言おうとして、止めた。
その言葉には小馬鹿にするようなニュアンスが含まれていると、
鈍い俺には珍しく感じとったからだ。
/ ,' 3「アップルパイってのはな、サクサクでトロトロで甘いんだ」
(;ー;ノ从「サクサク、トロトロ、甘い……」
/ ,' 3「まあ、あれだ、要するに旨い」
(゚ー゚ノ从「食べてみたいなぁ」
/ ,' 3「仕方ないな、特別だぞ」
(゚ー゚ノ从「うん!」
満面とまでは言わないまでも、そこはかとなく彼女の顔に覗く喜びの色。
(゚ー゚*ノ从「美味しいっ!! 美味しいよこれっ!!!」
彼女の歓声を聞き、俺は確かに自分が安堵したのを感じた。
45 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:39:45.02 ID:PzVo3wD2O
(-ー-ノ从「ああ、美味しかった」
/ ,' 3「そりゃ良かった」
(゚ー゚ノ从「ありがとね」
/ ,' 3「どういたしまして」
礼を言いたいのはこっちの方だ。
何を貰ったでも無いのに、何故だかそう返したくなった。
( ー *ノ从「それでね」
/ ,' 3「ん?」
( ー *ノ从「おっ……」
(>ー<*ノ从「おかわりっ!!!」
/;,' 3「そこまで用意周到な訳ねーよ」
(゚ワ゚;ノ从「あはは、ごめんね、そうだよね」
/ ,' 3「……でも」
アップルパイ、また暇な時にでも持って来てやろうかな。
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:39:47.58 ID:Cf7sM8p50
パイはアップルだよな
47 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:45:23.67 ID:PzVo3wD2O
Episode22、不要な包帯
/ ,' 3「ヒート、遊びに来たぞ」
俺がそう呼び掛けると、彼女は直ぐさま小屋の中から飛び出してきた。
(゚ー゚ノ从「わっ、いらっしゃい!」
そんな彼女の白い頬に、俺は小さな紙包みを押し当てる。
(-ー-ノ从「ぬくぬくぽかぽか……」
/ ,' 3「中身は大体予想がつくだろ?」
(>ー<ノ从「……アップルパイ!!」
/ ,' 3「そ、正解」
(゚ー゚*ノ从「やったぁ!」
48 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:46:24.79 ID:PzVo3wD2O
(-ー-*ノ从「今日も美味しかったぁ!」
/ ,' 3「にしても、これで二月連続だぞ。
たまには違う菓子でも持って来ようか?」
(゚ー゚ノ从「んー、それはいいの。
だって私、アップルパイ大好きだもん!」
/ ,' 3「まあ、お前がそれで良いなら……」
(゚ー゚ノ从「私はそんな事より、毎日ここにやって来る荒巻さんが、
ちゃんと本職をこなせてるかの方が気になるなぁ」
/;,' 3「いや、これでも頑張ってんだぞ、本当」
(^ー゚ノ从「冗談、荒巻さんなら大丈夫ってちゃんと分かってるよ」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:46:41.02 ID:BRf9YpGO0
|∀゚)パイ?
50 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:47:39.68 ID:PzVo3wD2O
(゚ー゚ノ从「さて、いつまでも立ち話ってのもなんだし、そろそろお家に入ろうか」
/ ,' 3「ああ、そうだな」
初めボロ小屋だと思ったそれは、いつの間にか、
世界で三指に入る程に大好きな場所になっていた。
(^ー^ノ从「……」
小屋に入ってから、ヒートがやけに嬉しそうな顔をしている。
こういう時は、例えば新しい小物を置いたりだとか、
何かしら内装をいじった直後である事が多い。
自分好みに改装した家を他人に見てもらえる事が、
きっと嬉しくて堪らないんだろう。
/ ,' 3「んっ、ランプカバーが変わってるな」
ほら、案の定。
(゚ー゚*ノ从「気がついてくれた、嬉しいなぁ」
/ ,' 3「まあ俺は、前に使ってたやつの方が好きだったけどな」
(゚ー゚;ノ从「え……」
/ ,' 3「なんてな、新しいやつの方が可愛いと思うよ」
( ー *ノ从「……うん」
51 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:49:07.21 ID:PzVo3wD2O
/ ,' 3「にしても、やけにしょっちゅう家の内装をいじるよな」
(゚ー゚ノ从「あはは、だってね」
( ー ノ从「少しでも荒巻さんに、ボロ小屋を好きになって欲しいなって……」
もしかしてこいつ、俺がこの家をボロ小屋と言った事を、
今の今までずっと気にし続けていたのか?
/ ,' 3「ボロなんかじゃねーよ、俺はこの家が大好きだ」
( ー *ノ从「そか……」
(^ー^ノ从「そう言って貰えると嬉しいな」
52 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:50:35.18 ID:PzVo3wD2O
(゚ー゚ノ从「はい、お待ちー!」
ヒートは両手に余る程に大きな木製のボウルを、
いかにも手作り感漂う机の上に置いた。
ボウルから立ち上る湯気は、食欲を誘う香りを存分に纏っている。
/ ,' 3「おおっ、旨そうなスパゲッティーだな」
今日のメニューは、きのこスパゲッティーのようだ。
(゚ー゚*ノ从「えへへ、たくさん食べてね」
/ ,' 3「いただきます」
(゚ー゚ノ从「いただきます」
うん、旨い。
三ツ星シェフのそれに匹敵する程旨く感じてしまうのは、
やはり俺の彼女に対する贔屓目の賜物なのだろうか?
いや、違う。
やはりこの味は本物だ。
53 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:51:55.35 ID:PzVo3wD2O
/ ,' 3「料理屋でも開いたらいけるんじゃねーかな」
(゚ー゚ノ从「えっ?」
/ ,' 3「割と本気だぞ」
(゚ワ゚;ノ从「でも、私がレストランで料理するだなんて、想像もつかないよ」
/ ,' 3「もしかしたらいっつも満員の人気レストランになったりしてな」
(゚ー゚ノ从「そか、満員かぁ……それなら今のままでいいや」
/ ,' 3「どういう事だ?」
(゚ー゚ノ从「この家の定員は、二名様までとなっております」
( ー *ノ从「……お客は私と貴方です」
なんだ、そりゃ。
軽く笑い飛ばそうとして、赤面している自分に気がついた。
(゚ー゚;ノ从「もっ、もしかして引かれちゃった……かな?」
/ ,' 3「いや、そんなこと無い」
"無い"って部分を言う時に声が裏返った。
二人して思い切り笑った。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:52:20.33 ID:Cf7sM8p50
支援!
55 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:53:30.29 ID:PzVo3wD2O
/ ,' 3「ごちそうさま、相変わらず旨かったよ」
(゚ー゚ノ从「そう言って貰えると嬉しいな」
/ ,' 3「……」
(゚ー゚ノ从「ん?」
不思議だ。
この少女は少しぼーっとした所があるが、明るく、目鼻立ちが整っている。
なのにどうして他の子供達から、あんな風に化け物呼ばわりされていたのだろう?
(゚ー゚ノ从「〜♪♪」
強いて言えば家が貧困で、身寄りもない所が他人と変わっている。
かといって、それだけが理由で化け物と呼ばれる事は無いだろう。
(゚ー゚ノ从「私、お皿洗って来ようかな」
/ ,' 3「……ん、なら俺も手伝うよ」
(゚ー゚ノ从「ううん、枚数が少ないから一人で大丈夫だよ」
/ ,' 3「いいんだ、今日は何と無くそんな気分だから」
(゚ー゚*ノ从「分かった、ありがとね」
56 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:55:21.00 ID:PzVo3wD2O
バシャバシャ、ガチャガチャ。
/ ,' 3「水、冷たいな」
(゚ー゚ノ从「そうだね」
バシャバシャ、ガチャガチャ……バリン!!
……バリン? 皿が割れる音?
(-ー-;ノ从「いったたたぁ」
/;,' 3「って、おい、大丈夫かよ!
あちゃーっ、手に切り傷が……」
(゚ー゚;ノ从「駄目えっ!!」
ヒートに近付こうとした瞬間、強い力で押し返された。
/;,' 3「うおっ!?」
それが急だった事もあり、俺は床に尻餅をついてしまう。
( ー ;ノ从「あ……えと……」
彼女は見ていて気の毒な程にオロオロとしていた。
押された事を怒る気なんて、全く湧いてこなかった。
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:56:06.56 ID:RaBOMk590
sien
58 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:56:58.46 ID:PzVo3wD2O
(;ー;ノ从「荒巻さん、その…えと……私のこと嫌いにならないで……」
/;,' 3「別に怒ってなんかないから、ほら、落ち着けよ」
(;ー;ノ从「本当に……?」
/ ,' 3「ああ、本当さ」
(;ー;ノ从「ぐずっ、うえぇ……良かったよ……ぐずっ、…本当に……ヒクッ…良かったよ……」
/;,' 3「……」
……なんて事だ。
たった今、彼女が化け物呼ばわりされている理由に気が付いてしまった。
さっき彼女が割れた皿で作ってしまった筈の切り傷。
見落とす事はない程にザックリと深く切れていたあの傷が、
今ちらりと見えた彼女の手には無かったのだ。
"再生者"
科学者仲間の間でそう呼ばれ、噂になっている特異体質者。
どんな怪我でも一瞬で治してしまう、強い自然治癒力の持ち主。
目の前の彼女は、正しくそれだったのだ。
59 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 21:58:27.36 ID:PzVo3wD2O
その晩、俺は考え事に耽っていた。
/ ,' 3「再生者の体質を解明できれば、きっと医療技術は大きく進歩する……」
だがその為には、彼女の平穏を犠牲にする事となる。
自分の治癒力を隠そうとした辺り、彼女は自分の体質を好意的にとらえていない。
それを研究するなどと、まるで心の傷口をえぐるような真似、やはり俺には……。
/ ,' 3「決めたぞヒート、俺はお前の事を……」
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/05(火) 21:58:52.44 ID:BRf9YpGO0
支援
61 :
◆Cs058I7w36 :2008/02/05(火) 22:00:14.25 ID:PzVo3wD2O
翌日。
/ ,' 3「おーい、遊びに来たぞ」
(^ー^*ノ从「やったぁ、また来てくれたんだ!」
/ ,' 3「当たり前だろ」
彼女は"傷があった筈の場所"に包帯を巻いていた。
そうか、お前がそのつもりなら、俺は……
/ ,' 3「左手、大丈夫なのか?」
(゚ー゚ノ从「んー、後一ヶ月くらいかかりそうかな」
……それは長すぎる、設定ミスにも程があるぞ。
/ ,' 3「なら、その間は色々手伝ってやるよ」
(゚ワ゚*ノ从「わあっ、ありがとう荒巻さん!!」
普通の少女として扱おう。
何も知らないフリをしよう。
きっとそれが、一番だから。
これで今日の投下は終わりです、読んでくれてホントにありがとう!
なるべく早く次回投下したいです
それと、何か疑問が有ったら遠慮なく聞いて下さい
どうでもいいことなんですが、初めてのブーン系投下から今日で丁度一年立ちました
月日の立つのは早いもんだー