1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
代理。
891 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [] 投稿日:2008/02/04(月) 20:39:40.84 ID:LYnLjxio0
スレ立て依頼。
('A`)ドクオは現世に残ったようです
本文。
ご自由に
2 :
('A`) ◆jOBMANDKSA :2008/02/04(月) 20:44:58.81 ID:yhwwrGL/O BE:235422656-2BP(1534)
あの世で豪遊したいです
3 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 20:47:12.79 ID:LYnLjxio0
4 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 20:50:07.51 ID:LYnLjxio0
自分が他人に特別劣っていると意識し始めたのは、いつからだったろう。
容姿。学力。体力。性格。
人を測るモノサシは数あれど、結局自分に合った基準はどこにもなかった。
子供の頃は、自分は何でも出来る。何にでもなれる。
そんな希望を抱いていた。
だけど、成長するにつれて理想の自分と、現実の自分との違いに気付き、ありのままの自分を受け入れるようになった。
理想と現実は違うんだと。
だから、閉じた。
だってそうだろう。自分が「外」に出る意味がどこにある?
別に、自分を笑う人々を恨むつもりはない。劣っているのは自分の方だから。
個が個を維持するためには区別が必要で、区別と差別の間の壁なんていうのは、
あってないようなものだから。
ただ、少しだけ。
――悲しかった、なぁ。
なんて、な。
('A`)ドクオは現世に残ったようです――第四話――
5 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 20:54:16.12 ID:LYnLjxio0
案の定だ。
担任の教師は、実に職務に忠実に、無断欠席をした俺を「心配して」、家に電話をかけていた。
充分予想の範疇だ。
普段は、見て見ぬフリをするクセに。こんな時は、ヤツらは見逃してなんてくれない。
給料分の仕事だけしてろよ。馬鹿野郎。
J( 'ー`)し「……学校から電話来たよ。今日あんた、どこ行ってたの?」
('A`)「…………」
とびきり綺麗な女の妖怪と遊んでました。
なんて言えやしない。どうせ信じてもらえないし、信じてもらおうとも思わない。
J( 'ー`)し「別にどこだって怒りゃしないのよ。悪いところじゃなければね」
('A`)「…………」
母親の『悪いところ』が何処かなんて見当もつかない。
けど、タバコの匂いと耳がおかしくなりそうな音の渦巻くゲームセンターが『良いところ』とも思えない。
どちらかと言うと『悪いところ』だろう。
6 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 20:57:21.68 ID:LYnLjxio0
J( 'ー`)し「かーちゃんね、ドクオが外に出てくれるようになっただけでも嬉しいの。ホントよ?
……だけど、ほら。こんな世の中でしょう? だから高校くらいは、ちゃんと出て頂戴な」
('A`)「…………」
毎日毎日いじめられるために行っているような高校。
そんなところを出て何になるって言うんだ。
ピアスを開け、髪を染めて、俺のことをいじめる奴より俺は頭が悪いんだ。
大体、こんな風に育ったのは――
J( 'ー`)し「……はぁ……」
そんな風にため息をつくな。
昼の余熱が、まだ胸のうちに残っていた。
外に出てくれるようになった。そんな風に言うな。
そんな風に気を使わないでくれ。そうじゃなくて、もっと、
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 20:59:49.51 ID:hILxEt8zO
支援
8 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:02:07.79 ID:LYnLjxio0
( A )「…………だろ」
J( 'ー`)し「ん? なんだい?」
( A )「そっ、そこはっ!」
――クーの与えてくれた熱だった。
浮遊感に近い、肋骨が浮くような焦燥があった。
壁一枚を乗り越えてしまえば、その先には地獄があることなど見えきっていた。
それでも、いつかは。
いつかは、言わなくちゃいけないことだったんだと思う。
(゚A゚)「そっ、そこはっ! そこはぁっ! そうじゃねえだろおっ!?」
言ってしまった。
みっともなくひっくり返って裏返る、情けない声だった。
ただ、それでも、俺が反抗した事は確かだった。
言ってしまおう。
クーがくれた勇気が冷めないうちに、日々の不満を言ってしまおう。
J(;'ー`)し「……え?」
9 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:05:06.34 ID:LYnLjxio0
(゚A゚)「なんっ、なんで怒らないんだよ!? 信賞必罰は当たり前だろ!?」
J(; 'ー`)し「ど、ドッくん?」
(゚A゚)「ドッくんなんて呼ぶなっ! いつまでも子どもじゃないんだよぉっ!」
いまさら止まることなどできなかった。ブレーキは弾け飛んだ。
今まで決してしなかった母親への反抗。
心の内に秘めていた不満。
嫌なことから、親の言うことから逃げていただけの引きこもりの時には、絶対に言えなかった言葉。
あのころの俺とは違う。
そうだ。違うんだよ、かーちゃん。
俺は、もう、違うんだ。
だから、ジョーカーを切るよ。
俺は今から、言っちゃいけないことを言う。あなたを裏切る。
クーの前で、胸を張るために。
(゚A゚)「そもっ、そもそもっ! あんたがっ、」
――あんたが、そんな風に甘やかすから! オレはこんなに、ダメになっちまったんじゃないのか!?
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 21:05:54.18 ID:ferZhztrO
支援
11 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:07:07.79 ID:LYnLjxio0
J( ー )し「……ドッくん?」
(゚A゚)「オレっ、オレはぁっ! オレは、引きこもりのクズだったじゃないか! そんなヤツ、追い出せばよかったじゃないか!
どうしてそれをしなかった!? どうしてオレを甘やかしたんだよ!?」
言ってることの無茶は、百も承知だ。
ただ、俺は今、強くならなきゃいけないんだ。
クーの手を引いて、彼女に広い世界を見せるために。
そのためには、俺が変わらなくちゃいけない。
(゚A゚)「オレがこんなになっちまったのは、アンタのせいだ! オレがこんなに苦しいのは、アンタのせいだ!
全部全部、オレを生んだあんたのせいだ!」
J( - )し「ドッく……ドクオ……」
ことり、と、手がテーブルの上に置かれる。
しわがれた、ささくれきった、働く人間の手。
その意味は知ってるさ。
そうだよな。生きていくためには、そんな手にならなくちゃいけない。
俺が毎日、ろくに噛みもしないで飲み下すメシは、この手がもたらしてくれてる。
けど、
(゚A゚)「オレがどこにいようと! 何をしてようと! あんたが今更デカいツラして何か言う資格なんてねーんだよ!」
俺は止まらなかった。
12 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:09:11.19 ID:LYnLjxio0
――――――
そして今、俺は、部屋のベッドの上で膝を抱えている。
かーちゃんは震えて泣いていた。
ただ一言、ごめんね、と言っていた。
母子家庭。女手一つで俺をここまで育ててくれた。
引きこもったときも、何も言わずにご飯を用意してくれた。
ガラスで心臓を貫かれたって、あんなに痛くないに決まってた。
ただ、
('A`)「ふへへ……言ってやった……言ってやったぜ……」
そういう、恐ろしく底の深い、温度のない、比重の高い満足があるのも、事実ではあった。
壁を打ち破った。
それは、閉塞していた箱庭の壁だ。
膝を抱える手に、力を込める。
そうだ。
俺は、ここにいる。
ここから先、俺は、俺の責任で動く。誰にも文句は言われない。
俺の手で、引いていくんだ。
あの綺麗な手を。
13 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:13:33.41 ID:LYnLjxio0
――翌朝。
俺は堂々と私服で家を出たし、そんな俺に、カーチャンは何も言わなかった。
いや、言えなかった。の方が正しいのかな。
震える小さな肩に、心が痛まなかったわけはない。
お腹を痛めて産み、母親一人で育ててきた息子に『産まれたく無かった!』と叫ばれたのだから。
どれほどの悲しみか、俺にはわからない。
言い過ぎたかな、とは思うが、謝る気など無い。
今、考えれることはクーの事だけだ。
玄関に到着し、自転車の鍵を一旦ポケットに入れる。
靴を履いて玄関を出る。
駐輪所にあるはずの自分の自転車を探し出し、鍵を差し込む。
鍵を開けて、自転車にまたがったところで気が付いた。
('A`)「――待ち合わせ場所、どこだっけ?」
14 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:15:09.03 ID:LYnLjxio0
しばらく考えた挙句、初めて出会ったあの交差点以外にあり得ない、という結論に達した。
たちこぎで自転車をこぐ。
いつもと少し違ったルートで。ちょっとだけ遠回りをして。
向かっている途中に学校のチャイムが聞こえたが、無視した。
もう、チャイムは自分には関係ないのだから。
――そしてもちろん、
川 ゚ -゚)「や」
彼女は、そこにいた。
('A`)「よお」
お互いに軽く手を上げ、挨拶を交わす。
周囲の人間が少し、こちらを見てくるが、気にしない。
川 ゚ -゚)「……? 今日は私服なのか?」
('A`)「まぁな。学校、休みだから」
川 ゚ -゚)「さっきから、ドクオの高校の制服を着た生徒をたくさん見るんだが」
('A`)「オレだけ休みなんだよ。自主休講で」
川;゚ -゚)「そんな、単位ギリギリを目指す大学生じゃないんだから……」
15 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:17:16.53 ID:LYnLjxio0
冗談を交えつつ進むクーとの会話。
壁を打ち破っただけでここまで変わるものなのか。と自分でも驚いた。
('A`)「それよりほら。乗れよ」
こんなに自分は積極的だったかと。
川 ゚ -゚)「……いいのか? ホントに?」
('A`)「構わねって。1日2日休んだだけじゃ、大したことにはならねーんだから」
川 ゚ -゚)「……そうか」
クーが、荷台にちょこんと座った。
今日は一応、それ用に座布団なんか巻いてみてるんだけれど、果たして意味はあるんだろうか。
なんて思いつつ、昨日ネットで調べた『女の子が楽しめるデートスポット』を参考にして、考え付いた場所をクーへと伝える。
('A`)「今日はさ、映画行こうと思うんだよ。今おもしれーのやってんだ」
川;゚ -゚)「わ、わたしお金ないぞ? それに……」
('A`)「……忘れてないか? 誰にも見えないんだから、金払う必要はないだろ」
「またお金を借りるわけには……」と言いたそうだったのでクーが全ての言葉を言い終わる前に言ってやった。
16 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:19:18.27 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「あ、そうか」
('A`)「よっし、出発だ」
ペダルをこいで、走り出す。
今まで馬鹿にしてきたが、案外ああ言う本は役に立つのかも知れない。
そんな事を思いながら。
交差点は渡らずに。商店街のはずれにある、映画館の方へと向かった。
クーと一緒の一日が始まる。
それは、彼女に広い世界を見せるための、夏の、平凡の外の一日だ。
閉塞した世界から抜け出した記念すべき一日だ。
17 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:24:26.72 ID:LYnLjxio0
数時間後。
俺たちは、パフェがうまいと評判の喫茶店で、差し向かいに腰を下ろしている。
男一人のご来店で、コーヒーといちごパフェという注文に、店員は首をひねっていたけれど。
店員がコーヒーとパフェが俺の目の前に並べた。相変わらず首をひねって。
「パフェは俺じゃないです」と言いそうになったが、クーは他の人には見えないことを思い出し、その言葉を飲み込んだ。
周りに誰も見てないか確認してから、クーはパフェを手に取った。
川 ゚ -゚)「もぐもぐ」
('A`)「……うまいか?」
川 ゚ -゚)「なかなか」
('A`)「そっか」
自分の顔よりもまだ巨大なパフェを、クーはごしゃごしゃ流し込んでいる。
一心不乱というか。悪く言えば欠食児童っぽいというか。
('A`)「ま、喜んでもらえてるならいいや」
川 ゚ -゚)「うん……もぐもぐ」
ああ、見るからに胃の容積より多そうなのになぁ。
腹壊さないのかな。いやそもそも、妖怪にそういう概念があるのかどうかはよく分からないけれど。
18 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:26:31.09 ID:LYnLjxio0
('A`)「……どうだったよ、映画」
川 ゚ -゚)「ん、面白かったぞ」
('A`)「そっか。上映中、あんまり無反応なんでどうかな、と思ってたんだけどな」
川 ゚ -゚)「ああ、うん。昔からよく言われるんだ、ご飯をもっとうまそうに食べろとか、話をもっと面白そうに聞けとか」
('A`)「…………」
それは、そうかもしれない。
クーの無表情は、明確な二面性を持っている。
冷たさ、というのが。その一片には、確実にある。
話を聞く限り、過去になにかあった訳では無さそうだ。
('A`)「まずはさ、笑ってみたらどうかな」
川 ゚ -゚)「……うん、実は笑う練習をしたことはあるんだ」
('A`)「え、そうなのか? どんなの?」
川 ゚ -゚)「……無理だった」
('A`)「え……? どう言うこと?」
川 ゚ -゚)「……面白くも無いことや、興味も無いことで表情を崩すと言う事が無理だった」
19 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:29:07.45 ID:LYnLjxio0
なるほどね。とは思う。
俺自身、そんな事は良くある。
けど、面白くなくても面白い、興味も無いことでもある振りをする。
嘘をつくことだってある。そんな事が必要な時もある。
嘘も方便と言うだろう。
だから、クーは喜怒哀楽が薄いんじゃない。
面白くないものは面白くない。興味が無いことは興味が無い。
他人に何を言われようが、自分の意思を言える。
クーは素直なんだ。
他人の顔色ばかり気にして生きていた自分には出来ない生き方。
正直、憧れる。
('A`)「いいんじゃない?」
川 ゚ -゚)「え?」
('A`)「クーはそのままでいいんだよ。無理に変わろうとする必要なんか無いさ」
川 ゚ -゚)「そうか……そうだな」
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 21:29:42.38 ID:gOKkOyHVO
支援
21 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:31:59.35 ID:LYnLjxio0
ああ、そうだ。
クーの自然な表情は、ちょっとはにかむようなあの笑顔は、最高に綺麗だから。
('A`)(……なんてまぁ、言えるはずねーけどな)
川 ゚ -゚)「む?」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「どうしたんだ? こっち見て」
クーが綺麗だから見てました。
なんて言える筈も無く黙っていると、クーが何かを思いついたかのように口を開いた。
川 ゚ -゚)「……あ、食べたいのか、パフェ」
(;'A`)「え?」
どうやら俺がクーの食べるパフェを欲しそうに見ていた様に見えたらしい。
別に欲しくないのだけれど、クーは申し訳無さそうに、言葉を続けた。
川 ゚ -゚)「そうだな。ごめん、わたしばかり食べ過ぎた。ええっと、ちょっとまてよ……」
そう言って、クーは、柄の長いスプーンに器用にイチゴとクリームとスポンジを載せて、
――いやちょっと待て、これってまさか、
22 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:35:03.88 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「はい、あーん」
(;'A`)「マジっすか」
川 ゚ -゚)「どうしたんだ? バランスが難しいから、早くしないと落ちてしまうぞ」
('A`)「あ、あーん」
このやり取り、周囲の人にはどう見えているのだろう。
クーが触っているスプーンなのだから、周囲の人には見えない。
つまり、俺が向かい側の席に向かって口を開けている。と言う事なのか。
そう考えると、急に恥ずかしくなってきたのだが、
スプーンの先に乗ったスポンジが落ちないように必死にバランスを取っているクーを見るとどうでも良くなってしまった。
これ以上待たせると、パフェを落としてしまいそうだったので、
差し出されたスプーンの先に、イチゴやクリームが盛られたパフェを、口に入れた。
川 ゚ -゚)「うまいか?」
('A`)「…………」
恥ずかしさからなのか、現世の境目を超えたからか、
味なんて、分からなかった。
でも、
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 21:37:49.21 ID:UB2nJE/EO
支援
24 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:38:49.22 ID:LYnLjxio0
('A`)「ああ、うまい。すげーうまい」
川 ゚ -゚)「そっか、よかった」
うまく無いなんて言って、がっかりさせたくない。
スプーンを引っ込めて、クーはためらうことなくパフェを食い続ける。
先っぽをふいたりとか、特にそういうことはしないまま。
(*'A`)(…………)
真っ赤な顔が悟られないだろうか、それだけが心配だった。
25 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:41:40.58 ID:LYnLjxio0
そして、また――ゲーセンだ。
さすがに昨日と同じところに行くだけの勇気はなくて、しかし驚くべきことに、
この店にもグレートバナナは存在した。
もちろん、余りに余っていた。
どうやら、クーと同じ美的感覚を持つ者はそう居ないらしい。
川*゚ -゚)「うう……ゲームセンターはバナナがいっぱいだ……たまらんな」
(;'A`)「そ、そうか」
筐体のガラス壁に顔を押し付けんばかりにして、クーのやる気も充分のようだから。
まぁ、いい、のかな、うん。いいんだ。
自分で勝手に納得して、財布から100円玉を3枚取り出す。
('A`)「ほいよ、300円」
俺の差し出した100円玉3枚を、しかしクーは見つめてしばらく、受け取ろうとしなかった。
どうしたんだ?と俺。
川 ゚ -゚)「……ん、その」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「……ありがとう」
('A`)「何だよ、いまさら?」
26 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:44:51.80 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「うん。いまさらだな。パフェもおいしかった。お金を出したのはドクオだ」
('A`)「ん、まぁそうだな」
川 ゚ -゚)「おかしな話なんだが、今こうやって100円玉を差し出されて、なんだかその……不安になったんだ」
('A`)「なんで?」
川 ゚ -゚)「その、わたしの中の話なんだが、パフェのお金は、店員さんに払った。でも、このお金は違う」
('A`)「どう違うんだ?」
川 ゚ -゚)「難しいんだが……えっと、このお金は、ドクオがわたしに直接くれるものだ」
それは、形になった意思だから。
100円玉の3枚に気持ちを乗せて、クーに直接手渡されるものだから。
唯一クーと会話できる俺の気持ちの乗った100円玉だから。
そういう、ことか?
川 ゚ -゚)「……うん、そうだ」
27 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 21:49:27.10 ID:LYnLjxio0
それが、どうして不安になるのか。
分かる気がした。
善意の薄さを知っているんだ、クーも。
そうだよな。
切れ味がいいんだ、善意ってヤツは。
押し付ける。すると、切れる。
カミソリの刃のような、善意のそういう一面は、俺だってよく知ってる。
だから、言った。
('A`)「……礼だよ」
川 ゚ -゚)「……礼?」
('A`)「昨日取ってやったぬいぐるみの礼。まだもらってないだろ、オレ」
川 ゚ -゚)「え、あ、うん」
('A`)「ついでに言えばアイスの分も。なんなら、今日のパフェも上乗せだ。そろそろ返してもらわねーとさ」
俺が損するだけじゃないか。とクーに告げてわざとらしく肩を竦める。
本当はそんな事など微塵も思っていない。
むしろ、俺が感謝したいほどだ。実際、もうしてる。
クレーンゲームの筐体を、その中で不気味に笑うバナナのぬいぐるみを指差した。
これで俺が何を言いたいか分かるだろう。
お返しとしてあの不気味なバナナをとってくれ――、と言う事だ。
支援
支援
30 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:01:45.41 ID:LYnLjxio0
バレバレの建前ではある。
名目はどこまで行っても名目で、そんなもの、ウソかホントかで言えば間違いなくウソだ。
だけど、そんな筋の通るウソのひとつ、有るか無いかでは、やっぱり。
川 ゚ -゚)「……わかった」
クーが頷いた。
頷かざるをえないはずだった。
でも、分かってはくれたはずだ。俺がそういう風に仕向けた意図は。
それはつまり、安心してくれ、と。
この300円は、決して押し付けるものじゃないんだ、と。
ヘタすると、全部が全部俺の自己満足で、善意ですらないんだ、と。
川 ゚ -゚)「……ドクオは、優しいな」
(;'A`)「やっ! 薮から棒に何を言い出すんだよっ!」
川 ゚ ー゚)「ふふ」
差し出した手のひらに乗る300円を掴み取って、さーやるからには取るぞー。
と意気込んで、筐体に突っ込む。
昨日と同じようにテロテロと音を鳴らしながらクレーン動きだした。
クーが真剣な顔で景品が取れるであろう場所へと移動させ、ボタンを放した。
31 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:06:00.14 ID:LYnLjxio0
……まぁ、そんなやる気は往々にして空回りするもので、
川 ゚ -゚)「…………」
('A`)「…………」
5回のチャレンジ権は、あっという間になくなってしまったワケだけど。
川 ゚ -゚)「むぅ……」
('A`)「そうショゲるなよ。悪くなかったぜ、昨日よりは上達してた」
川 ゚ -゚)「そう、だろうか」
('A`)「ああ、マジだ。ターゲットの重心を捉えることはできてる。後は小手先の技術だな」
川 ゚ -゚)「そっか……」
('A`)「どうだ、もう1回やっとくか?」
尻ポケットに突っ込んだ財布から、もう300円を出そうとした俺の手に、何かが触れた。
川 ゚ -゚)「ううん。また明日にする」
クーの手だった。
その事実に気付いた瞬間。顔が赤くなったことが自覚できた。
耳まで真赤に染まった俺の顔は、クーに見られるとすぐにバレてしまうぐらい熱く火照っいる。
そんな状況だったので、クーから言い出してくれた明日の約束も耳にあまり入っていなかった。
32 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:08:17.01 ID:LYnLjxio0
(///)「そっ、そうか」
川 ゚ -゚)「ん。……ドクオ? 顔が赤くないか?」
(*'A`)「べっ、別に何でもねーよ。それよっかほら、行くぞ」
気分が高揚したので、勇気を出した。
まだ俺の腕をつかんだままだったクーの手を、握り返した。
川 ゚ -゚)「あ、」
何を言う暇も与えずに、その手を引いて、ずんずん歩く。
鼓動の、分あたり120回だって余裕で超えてそうな、この早さに気づかれるわけにはいかない。
タコよりもまだ真っ赤になって、だらしなく歪んでいるに違いない顔なんて、何があっても見せてはならない。
そういう焦りが、足を空回りさせた。
(;'A`)「うおっとぉっ!?」
33 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:11:03.43 ID:LYnLjxio0
薄暗いメダルゲームコーナーの、誰かが乱暴にのけたままだった椅子の足につま
づいた。
バランスを崩して、ああこれじゃカッコ悪ぃ、なんて思って、けれどもつれた足は今さらどうにもならなくて、
川 ゚ -゚)「っ!」
肩が抜けそうな、ものすごい力で引っ張り起こされた。
(;'A`)「ぐえぇっ!?」
自分の体重と引っ張られた腕との圧力に、胸郭が軋んでそんな声が出た。
ああ、これじゃますますカッコ悪い。
34 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:13:56.89 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「……ふう、危なかった」
(;'A`)「ああ、さんきゅ。意外と力、強いんだな」
川 ゚ -゚)「生前は剣道をやっていたからな。少しは。それより気をつけろ、足元が暗いからな」
('A`)「ああ。悪ぃ」
そしてまた、何気なく差し出された手を取って、
取って、
――違和感。
35 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:19:16.91 ID:LYnLjxio0
(゚A゚)「――!」
ちょうどそれは、手首の辺り。
手を取るために、偶然、人差し指の先がほんの少し触れたあたり。
絹か、でなければ上等な洋菓子のような肌触りのクーの肌に、不似合いな凹凸。
無意識に指を滑らせていた。
何かを確かめるような、顕微鏡で物を見るような、そんな指つきになってしまっていたと思う。
川;゚ -゚)「……!」
だからもちろん、クーは少なからず不快だったはずだ。
でも、気づけなかった。
そこはきっと、何人たりとも触れてはいけない部分だったのだ。
唇よりも、ひょっとすると操よりも神聖な、クーが文字通りの手の内に隠した深淵だったのだ。
無遠慮に過ぎた。
でも、マトモな思考を吹き飛ばすだけの威力があった。ごまかしの笑いすら浮かべられなかった。
それは、自傷行為の痕だ。
深く深く傷つけすぎた皮膚組織に残る、もう二度と再生してはくれない、烙印のような痕だ。
36 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:23:29.24 ID:LYnLjxio0
もしかしたら、俺だって気づいていた。
ヒントはどこにも転がっていたし、この無防備な妖怪は、ろくに隠そうともしていなかったかもしれない。
たとえば、昨日の夕方の、あの河原だ。
電信柱と電線と、垣根の上を走る猫。
たとえば、今さっきの、あの300円だ。
今時、それだけではジュースの3本も買えやしない、綺麗な銀色に輝く硬貨。
川 - )「…………」
('A`)「…………!」
何十秒、そうしてバカみたいに突っ立っていたんだろう。
ようやく気づいた。
クーは、やめての一言もなく、俺の手を振り払うこともせず、ただ温度のない顔
で立っているだけだった。
何かに、耐えるように。
その間、ずっと俺の苦手な顔をしながら立っていた。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:25:44.10 ID:LYnLjxio0
(;'A`)「わっ、悪ぃ、つい……」
川 - )「……いや」
慌てて、クーの手首から手を離した。
クーはその手を、ただ少し痛そうにさするだけだ。
照明は意地悪に薄暗くて、ただスロットマシンの液晶の照り返しを受けるクーの顔の、表情がまったく読めないのが怖かった。
沈黙に耐え切れなかった。目の前の脅威に引き金を引く兵士とまったく同じ心理で、言葉をほじくり出した。
(;'A`)「そゆっ、そういうのはさ、まぁ、けっこうよくあることだと思うんだよ。ウチのクラスの女子もさ、何人かいるぜ。
だから、ウチのクラスは30人だから、その中でも何人かいるくらいなんだよ。もしかしたら10%以上の人がやってんだ」
なんてつまらない言い訳だろう。
10%以上という数字が、何の救いになるんだろう。
自分だって知っているはずだから、やりきれなかった。
事情を知らないが故の一般化ほど、ウザったいものはないんだ。こういう時は。
なのに、何故、必死に縋る思いで言い訳をしている?
川 - )「…………」
(;'A`)「そっ、それに別に、悪いことじゃないと思うぜ。なんていうか、生きる事を真剣に考えてるっていうかさ」
38 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:27:30.84 ID:LYnLjxio0
もういいから喋るな。そんな言葉が、お前自身の保身以上の何になる。
そう思うのに、怖くて怖くてたまらなかった。
失いたくない。嫌われたくない。頼むから。クー、頼むからさ。
川 - )「ドクオは、よく付き合ってくれたと思う。こんな、こんな……私に」
抑揚がなさ過ぎる。感情がなさ過ぎる。
思考のうちに、真っ黒なものが広がっていく。
川 - )「お金も出してくれた。かわいいぬいぐるみもくれた。たった2日だったけど、楽しかった」
この世にきっと、硬貨ほど冷たいものなんてないに違いなかった。
即物的で現物的で下らなくて浅ましくて。吐き気がする。
川 - )「でも、ダメだな。ウソなんてすぐバレてしまう。わたしは、こんな子だ――こんな子、なんです」
クーが急に他人口調になった。
その瞬間、全身の血の気が引いた。
寒気がした。汗を掻くほど暑いのに、可笑しかった。
(;'A`)「だっ、だからなんだよ、別にオレは、そんなことでクーを、」
川 - )「ドクオ君は、やっぱり優しいですね。私なんかに構ってくれた。私、ヘンな子だったでしょう?」
('A`)「ああ、ヘンなヤツだよ。図々しいのか謙虚なのかよく分からねーし、妖怪だし、……でもオレは別に、」
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:28:50.05 ID:MYIWbN2D0
支援
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:29:42.95 ID:LYnLjxio0
川 - )「……ありがとうございます。でも、ダメなんです」
('A`)「ダメ?」
川 - )「怖い、んです」
('A`)「……何がだよ?」
川 - )「わたしの手首を触っていたときの、ドクオさんの、目が」
41 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:31:43.49 ID:LYnLjxio0
これ以上ないくらいの言葉だった。
考えうる全ての反論を封じる、強力すぎる一撃だった。
本当に殴られたような、重くてキツい衝撃だった。
本当に殴られた方が、どれだけマシか分からなかった。
(;'A`)「あ……あ……」
川 - )「ごめんなさい。勝手すぎるとは思うけど。さようなら。楽しかった、です」
クーが踵を返す。長い髪が、ふわりと舞う。
それは、ほんの2日前にクーが見せた、あの公園の姿だ。
たった2日の短い時間、俺を、あのタバコ屋の角に見えていた「向こう」に連れ出してくれた、そのきっかけだ。
綺麗すぎる。
やっぱりそれは、角の「向こう」の光景だ。
自分にも見える。でも、自分なんかとは一生関係のない。間に一枚、透明で絶対の壁が挟まれていた。
行ってしまう。
('A`)「…………」
何も、できなかった。
あっけなさ過ぎる幕引き。
自分が主人公だったはずの物語。
望んでいた非日常と過ごしていた2日間。
明日からはまた日常に戻って、クーにしていた自慢話をされる側になるのか?
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:32:52.96 ID:MYIWbN2D0
支援
43 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:34:25.06 ID:LYnLjxio0
('A`)(これで、いいのか?)
俺は昨夜、何のために母親を傷つけたんだろう。
('A`)(これで、いいのか?)
俺は今日、何のために学校を休んだんだろう。
('A`)(これで……いいのかな?)
俺は今、何のためにゲームセンターになんかいるんだろう。
全部、クーのため。だったよな。
いや、違うな。
クーと一緒に広い世界を、見てみたかったんだ。
俺は果たして、この短い日々の中で、彼女にどれだけの世界を見せてやれたんだろう。
ウソなんてすぐバレてしまう。
ウソをついているのは、果たしてクーだけだったろうか。
44 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:36:57.51 ID:LYnLjxio0
('A`)(このままじゃ――ダメに決まってるよな)
まだだ。
まだ、クーは完全に行ってしまったワケじゃない。
俺が主人公でいられる時間は、ギリギリで残されているはずだ。
床を蹴った。ゆっくり歩くクーの背中に追いついた。
川 ゚ -゚)「!?」
肩に手をかけて、
言った。
('A`)「俺、クーの事が――好きだ」
はっきりと言った。
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:39:20.74 ID:XzPcS77/O
支援
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:39:36.61 ID:XzPcS77/O
支援
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:39:57.93 ID:LYnLjxio0
拉致とほとんど変わらない暴挙だったようにも思う。
一時の感情で行動する。それが相手にとってどれだけ迷惑なことか俺は知っていたはずだ。
けど、この感情は一時のものでは無いと確信出来る。俺はクーに惹かれていたのだから。
川 ゚ -゚)「……」
俺の手がクーの肩を掴んでいる。
その様子をクーは手首を触られていた時の様に黙って見ていた。
ただ一つ違う事は、クーが顔色一つ変えないと言う事。
('A`)「返事……聞かせてくれないか?」
クーの姿が見えていない周囲の人間の目には、果たして俺はどんな風に映っていたんだろう。
やっぱり、電波として映るのだろうか。構わない。クーさえいてくれたら。
たとえ、全てが嘘だったとしても俺は構わない。クーが俺を愛してくれる限り、俺はクーを愛し続ける。
俺以外の人には見えなくても、だ。
48 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:41:51.06 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「とりあえず、場所を変えようか」
ここじゃ色々と迷惑だろう。とクーが言って初めて気がついた。
ゲーセン内のほとんどの人が俺のほうを指差し、笑っている。
あの時の交差点と同じ様に。
('A`)「そうだな」
ゲームセンター内のほとんどの人の視線を背中に感じながら、外へと出た。
駐輪所に止めていた自転車を取り出し、座る。
クーが荷台に座った事を確認してからペダルを踏んだ。
もちろん向かう先は一つだ。
49 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:44:08.74 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「やっぱりここか」
到着した場所は、昨日ゲーセンから逃げ出した後に来た河原。
昨日とまったく同じようにギラギラした昼間の太陽が、水面に写り込んでいた。
昨日と同じように遠くで、子どもが水きり遊びをしている。
('A`)「交差点かここしか思いつかなかったからな」
川 ゚ -゚)「この時間だと交差点は不味いから人の少ない河原。か」
('A`)「大正解」
そして、沈黙。
自転車を漕いでいた時、クーは一言も喋らなかった。
俺への告白の返事を考えていてくれたのだろうか?
何分経過しただろうか。俺が口を開かずに、じっと水面を見ていた時間は。
いい加減じれったくなって、俺から口を開こうとした。
川 ゚ -゚)「なぜ、」
なぁ、クー返事はどうなんだ?
と言う言葉の『な』の形で俺の口が固まった。
川 ゚ -゚)「何故、私に告白したんだ?」
50 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:47:01.29 ID:LYnLjxio0
('A`)「何故、って……」
好きだからに決まってるだろ。その言葉を思わず飲み込んだ。
もちろん、恥ずかしさからだ。
川 ゚ -゚)「ただの気まぐれか?」
('A`)「違う」
川 ゚ -゚)「じゃあ何故だ?」
あぁもう。何でこの妖怪女はそこまで追求してくるかな。
ここまで来たら察しろよ。て言うか理由がそれしかないだろう普通。
(*'A`)「す、好きだからに決まってるだろ」
言った。言えたぞ。始めの言葉のように。
普段の自分なら絶対言えないその一言を、言った。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:47:52.06 ID:XzPcS77/O
支援
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:48:18.19 ID:XzPcS77/O
支援
53 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:50:12.96 ID:LYnLjxio0
川 ゚ -゚)「いや、それは解っている」
(;'A`)「え?」
川 ゚ -゚)「私の何処が好きなんだ?」
クーのどこが好きなのか。そんな物言い切れない。
その長い黒髪。学校の女子なんか比べ物にならない顔立ち。
自分の意見に素直。時々、遠慮する。
('A`)「そんなの……挙げきれないね」
俺は変態さんじゃ無いんだし。
それもそうだな。とクーが口の端を吊り上げる。その様子を見て、俺も笑った。
川 ゚ -゚)「でも、私は虐められていた」
('A`)「そんな事、周りの奴の嫉妬だろ」
川 ゚ -゚)「学校同士の乱闘をするようなドクオとは違うんだ」
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:52:07.77 ID:LYnLjxio0
学校同士の乱闘。クーに見栄を張るための嘘だ。
その嘘を、クーは信じ続けていた。
なら、その嘘を利用してやれば良い。
('A`)「そうだな」
川 ゚ -゚)「だから私は――」
('A`)「クーを虐めている奴がいたらぶっ飛ばしてやるよ」
川 ゚ -゚)「――!」
('A`)「誰だ? この辺りにいるか? 誰でもぶっ飛ばしてきてやるぞ」
もちろん、そんな事できるはずがない。普段の俺ならだ。
でも、クーのことを虐めていた奴なら、クーが頼んできたなら、出来ないことなんで何も無い。
川 ゚ -゚)「……ありがとう」
55 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:56:05.37 ID:LYnLjxio0
('A`)「クーはもっと自分に自信を持てよ」
川 ゚ -゚)「自信?」
('A`)「あぁ自信だ。言っちゃあなんだが、クーはその辺の奴らの何倍も綺麗なんだし。
腕力だって多少はある。こんな俺だって自信を持って生きてんだ。
もっと自分に自信を持っても良いと思うけどな」
嗚呼。クーの前では嘘ばかりついてるなぁ。
どうしてもどうしても、カッコつけたい相手っていうのは、いるんだ。
やっぱり俺はクーが好きなんだ。
川 ゚ -゚)「そうだな。その顔の君でさえ自信を持ってるんだ。私も持たなきゃな」
(;'A`)「それはちょっと言いすぎじゃないか?」
そして二人で笑い合う。
こんな時間をクーとずっと過ごせるなんて、考えるだけでも楽しかった。
けど――
川 ゚ -゚)「君は、優しい人間だな」
('A`)「へ?」
川 ゚ -゚)「生きている内に君と出会いたかったよ」
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:56:41.64 ID:XzPcS77/O
支援
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 22:57:54.40 ID:XHiKwSML0
私怨
58 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 22:58:56.59 ID:LYnLjxio0
生きている内に、その言葉で急に俺の中の熱が冷めた。
わかっていたはずなのに、クーがもう死んでいるって事を。
川 ゚ -゚)「だから、返事は返せない」
('A`)「そう……か」
急に、涙が浮かんできた。
もうクーがどこかに行ってしまうと思うと、心が苦しくなる。
クーを荷台に乗せて、自分の壁の外の世界を見に行けないと思うと、胸が締め付けられた。
(;A;)「……」
川 ゚ -゚)「泣いて……いるのか?」
(;A;)「泣いてなんか……いねぇよ」
ズズッ。と鼻を啜って、手で涙を拭きとった。
しかし、涙は止まらず、鼻水は垂れて来る。
川 ゚ -゚)「安心しろ、まだいなくなったりはしないさ」
(;A;)「本当……か?」
川 ゚ -゚)「あぁ。私が嘘をついたことがあったか?」
しばらく、俺の鼻を啜る音しか聞こえなかった。
その間、クーはずっと黙って俺の頭を撫でてくれた。
59 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 23:01:10.08 ID:LYnLjxio0
俺が泣き止んでから、クーと他愛も無い話が続いて、笑い合う。
気がついた頃には、既に水面がオレンジ色になっていた。
そこで、一つの事を思い出した。
('A`)「なぁ、クー滞在期間は大丈夫なのか? 交差点の時、俺驚かなかったろ?」
川 ゚ -゚)「ん……まぁな」
('A`)「滞在期間ヤバいなら他の人驚かしに行けよ。俺ここにいるからさ」
川 ゚ -゚)「いや。良いんだ」
クーの言葉を聞いてから、今何時か確かめる。
この河原から帰る事を計算に入れたら、丁度自分で決めた門限の時刻。
('A`)「とりあえず今日は帰るわ。また明日な」
川 ゚ -゚)「ドクオ!」
自転車に跨って漕ぎ出そうとした時、珍しくクーが大声を出したので、ビクッと身体が跳ね上がった。
そのせいで自転車を倒しそうになり、なんとか持ちこたえた。
(;'A`)「な、何?」
川 ゚ -゚)「今夜11時。この場所に来てくれ」
60 :
◆LbLtdVn9Cs :2008/02/04(月) 23:03:52.63 ID:LYnLjxio0
いつものクーとどこか違う、些細な違和感
なんだか、寂しそうな声。俺が行くことを拒むような声。
けどそんな違和感は次の瞬間には吹き飛んでしまっていた。
('A`)「把握した。11時だな」
川 ゚ -゚)「うむ」
('A`)「じゃあ後でな!」
川 ゚ -゚)「……また後でな」
ペダルを踏んで、自転車を動かす。
下校途中の生徒に会わないように気を付けながら、家へと向かう。
今日の晩御飯は何か楽しみにしながら、ペダルを漕ぎ続けた。
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/04(月) 23:04:27.30 ID:XzPcS77/O
支援
62 :
◆LbLtdVn9Cs :
J( 'ー`)し「……おかえり。今日はドクオの好きなハンバーグだよ」
('A`)「……」
ただいまも言わずに、テーブルの上に並べられている晩御飯を見た。
手を洗うために洗面所へと向かい手洗いうがいを済ませる。
自分の指定された椅子に座り、手を合わせて、
('A`)「……いただきます」
かーちゃんに聞こえ無いように呟いた。
J(*'ー`)し「おかわりもあるからね」
かーちゃんの嬉しそうな声。
聞こえたにしても、食前の挨拶だけでそんなに嬉しい表情を取られても困る。
食事中にも何か話しかけてきたが、全て無視した。
('A`)「……ごちろうさま」