('A`)ドクオは現世に残ったようです

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1代理
代理
2('A`) ◆jOBMANDKSA :2008/02/03(日) 18:15:26.87 ID:J2P6vJIuO BE:196185555-2BP(1534)
オラはしんじまっただ〜
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 18:17:22.52 ID:qX5hdoF70
ktkr
4 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:19:37.99 ID:9fJO3cbc0
初めて読む方へ


・このお話の元ネタ「メリーさん」
・若干地の文多め
・今日は修正した3話から投下
5 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:21:13.24 ID:9fJO3cbc0
――それはもう、失われてしまった話。

ドクオがまだ、この雑踏を成す人々と同じ、ただの人間だった頃の話。

ドクオ自身の記憶には、もう欠片も残っていない話。

だからもう、本当ならば、誰にも語られなかったはずの話。

バーボンハウスに住み着く、ずっと前の話。










あの風変わりな女と見た、広い世界の話だ。





('A`)ドクオは現世に残ったようです――第三話――
6 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:23:39.89 ID:9fJO3cbc0
まとめていただいているサイト様
http://bouquet.u-abel.net/index.html
7 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:25:17.98 ID:9fJO3cbc0
退屈と鬱憤の中に俺はいた。
日々の流れはただ、30日を一単位に変わるカレンダーの図柄と、洋服の変化だけにあった。

7時30分。
学校に向かわなければいけないその時間を目指して、意地悪な速さで進む時計の針。
死刑執行のカウントダウン以外の何物でもなかった。


('A`)「……行ってきます……」

J( 'ー`)し「あら、行ってらっしゃい」


無責任に手を振る母に背中を向けて、玄関のドアを開ける。

暑ぃ。外に出て一番初めに感じた感情。

涼しく、優しい家を一歩踏み出てみれば、容赦のない夏の陽射し。
アスファルトの照り返し。


('A`)「あぁっぢぃー……」


国民の自由を謳うのは、日本国憲法だったっけ?
ウソつけよ。自由なもんか。
現に自分はこうして、行きたくもない学校に向けて、自転車のペダルをこがなきゃならない。
こんな不条理はないじゃないか。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 18:27:03.83 ID:g3aa+HJC0
支援
9 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:27:20.32 ID:9fJO3cbc0
今の自分には自転車がある。
道はどこまでも続いている。

学校なんかじゃなくて、どこか遠く、とにかく行けるところまで、この自転車と一緒に行こうか。
ただ陽炎を追いかけて、制服も教科書も関係なくなるまで、ペダルを踏んで行ってしまおうか。
自分の意思で。今こそは、自分自身の思いのままに。


――分かってる。
そんなものは妄想だ。

物理的にできる、ということと、実際に行動に移す。
ということの間には目もくらむほどの高い高い壁があって。
俺にその壁を越える度胸など持ち合わせていないと言う事も。

('A`)「…………」

タバコ屋の角。
学校に向かう、最初の分岐点。

結局自分は、通学路のレールに沿ってハンドルを切っている。

自分の世界は、あのタバコ屋の角で終わっていた。
閉塞した箱庭のような日常。
少なくとも自分にとって、あの先にまっすぐ続く道は、地続きなように見えて、
その実、たどり着けないような蜃気楼のようなものでしかないんだ。

狭いなぁ。世界っていうのは、本当に狭い。
10 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:30:05.45 ID:9fJO3cbc0
商店街から、ちょっと裏道っぽいゴミゴミした裏筋に入る。
最近竣工したばかりの真新しいマンションの駐車場を横切れば、大通りとの交差点と信号がある。

あの信号が、最後の最後の砦だ。

地面に描かれた、囚人服そのままな黒と白の縞々を渡りきれば、もうそこはほとんど学校の敷地と変わらない。

自分と同じ制服を着た人間たちの領域。
そこのコンビニも、あの100円ショップも、あの本屋も、そしてあのタバコの自販機も。
全部が全部、自分の通う高校の生徒の御用達だ。


   通ーりゃんせー通ーりゃんせー こーこはどーこの細道じゃー


盲人用音響装置のついた信号機が垂れ流す、毎度おなじみのメロディー。
御用の無い者通しゃせぬ。


('A`)(オレだって通りたくて通るんじゃないっつの……)


信号待ちをしながら、そんなことを思う。
このメロディーが「この子の七つの」のところで途切れたら、もう本当にタイムリミットだ。
ペダルを漕ぎ出して、また高校に行って。

今日もまた、自分の机の上に置かれた菊の花瓶をどけることから、1日が始まる。


――始まるはずだった。
11 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:33:10.33 ID:9fJO3cbc0
  「つんつん」

肩を叩かれた。
学校で、俺は肩を叩かれ振り向くと俺の頬が相手の立ててあった指が当たり、

「きめぇwwwドクオに触っちゃったwww腐るwww」

と言われた事があったのだが、完全に油断していたのか、それとも単に学習能力が無いのか、
はい? という感じで振り返って、

えらい驚いた。

川 ゚ -゚)「もしもーし」

(;゚A゚)「どわあっ!?」

めちゃくちゃな美人がそこにいた。
え、何これ?ドッキリ? 美人局? デート商法?
見ず知らずの美人に肩をつつかれて、一瞬でそこまで疑う自分がちょっと悲しい。
だってしょうがないじゃないか、いつもは「息が臭いから呼吸もしないでね」とか言われてるんだから。

川 ゚ -゚)「もう驚いてしまったのか……」

(;'A`)「あ、いやすいません、いきなりだったんで。なんでしょ、オレ何か落としました?」

川 ゚ -゚)「いや、そういうワケじゃないんだ」

一呼吸置いて、

川 ゚ -゚)「ちょっと、驚いてもらえないか?」
12 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:35:12.05 ID:9fJO3cbc0
何を言っているんだこの美人さんは。
その考えは表情には出ているだろうから、せめて口には出さないようにと思っていたが、

('A`)「……は?」

無意識のうちに出ていた。

川 ゚ -゚)「あの、だから、驚いてほしいんだ」

(;'A`)「……驚きましたけど、さっき」

川 ゚ -゚)「そうじゃなくて、これから私がすることを見て驚いてほしい」

――新手の大道芸人?

('A`)「金ならありませんよ」

川 ゚ -゚)「お金は要らない。だから、ちょっと見てくれ。絶対驚くから」

女はそう言って、こっちが何をも言う前に、半袖の腕をぐい、っと突き出す。
何が始まるんだと思ってみれば、

川 ゚ -゚)「ほらほら。スケルトン」

いきなり、その腕が骨になった。
ウソでもないし比喩でもない。
白くて綺麗な腕が、一瞬にして理科実験室で見るようなガイコツに。
数秒間の気まずい沈黙の後、不思議そうな顔で問いかけられた。

川 ゚ -゚)「……驚かないか?」
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 18:37:20.57 ID:qX5hdoF70
支援
14 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:37:22.53 ID:9fJO3cbc0
いや、そんなこと言われても。
どっちかって言うと、驚くとかいうより悪趣味だなぁ、というか。

(;'A`)「はぁ……すごいなぁ……とは思うんですが」

川 ゚ -゚)「む。ほらほら、こんなところも」

そう言ってスケルトンの指で自分の足元を指す。
その方向を見てみると、活動的な感じのショートパンツから露出していた綺麗な脚も、スケルトンになっていた。

川 ゚ -゚)「……驚かないか?」

('A`)「まぁ、すごいとは思いますけど」

川 ゚ -゚)「普通、いきなり骨になったらビックリしないか?」

多分だけど、いきなり白骨化した手がぬっ、と突き出されたら、やっぱり自分も相当驚いたと思う。
ただ「これからすごいことしますよ」という宣言は、驚きのハードルを押し上げすぎた。

手品でも何でもそうだけど、ああいうものは感心こそすれ、驚くものじゃない。
どんなタネなんだろう? そうは思っても、「うおぉ骨だ驚いた!」とはならない。


('A`)「――と、思うんですが」

川 ゚ -゚)「そう……か」

正直な感想を口にしたら、元気が無くなった。
驚くと思っていたのに驚かなかったからだろうか。
何故か少しの罪悪感。
15 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:39:46.74 ID:9fJO3cbc0
(;'A`)「あ、いや、トリック自体はすごいと思うんですよ? 
     ただ驚くとはちょっと違うなぁ、ってだけで」

川  - )「…………」

フォローのつもりだったのに、さらに落ち込ませてしまった。ツボがよく分からない。
その長い黒髪で顔を隠すのを辞めてほしい。
なんかこっちが悪いことしたみたいだから。
何で学校への通学途中に俺がスケルトンを励まさねばならんのだ。

(;'A`)「あーほら、驚いた! 驚いたから、ね? 元気出してくださいよ」

川 ゚ -゚)「すまない。気持ちは嬉しいんだが……本気で驚いてもらわないと意味がない」

('A`)「……なんで?」


だってわたし。


川 ゚ -゚)「妖怪だからな」





――美人の正体は、電波だった。
16 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:41:15.16 ID:9fJO3cbc0
きーんこーんかーんこーん、と。
遠くから、HRの予鈴が聞こえてきてしまった。
その音は俺の遅刻を知らせる音。

('A`)「あーすいません、オレ学校あるんで」

電波と神には触らぬに限る。
なるほど残念だな。あんたかなり美人なのに。
あー、何でこんな人が電波やっちゃってんのかなぁ。

川 ゚ -゚)「君、信じてないだろ?」

体の一部をスケルトンにしたまま俺に詰め寄ってくる電波女。
怖いんだよ。何故このスケルトンを周りの人は警察へと通報しないんだ。

(;'A`)「うるせぇ信じられるか! おかげで遅刻にペケ1個ついちまったろーがっ!」

ペダルに全体重をかけて、自転車を漕ぎ出す。
青信号はもう点滅していて、渡る途中で赤になってしまって、右折待ちの車からクラクションで文句を言われてしまった。
勘弁してくれ、運ちゃん。何しろこちとらサイコさんから逃げなきゃならないんだ。

(;'A`)「ああぁーくっそ、遅刻すっと面倒くせぇってのにあの女っ!」

川 ゚ -゚)「それはすまない。迷惑をかけた」

耳をくすぐるような近さから声がした。
反射的に、ブレーキを思いっきり握りこんだ。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 18:41:28.91 ID:LZUGP5agO
支援
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 18:41:30.17 ID:qX5hdoF70
支援
19 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:43:44.25 ID:9fJO3cbc0
(;゚A゚)「って、何ちゃっかり俺のチャリの後ろに乗っちゃってんの!?」

川 ゚ -゚)「だってほら、私はまだドクオ君を驚かしていないだろ」

(;゚A゚)「何で名前まで!? もしかして俺、ロックオンされてるの!?」

川 ゚ -゚)「っていうか、妖怪だから。名前くらいは分かるさ」

(;゚A゚)「その設定はもういいんで堪忍してください! え!? 何、驚かなかったから!? だからですか!?」

川 ゚ -゚)「あー、ドクオ君ドクオ君」

(;゚A゚)「はい!?」

川 ゚ -゚)「あんまり大声で話さない方がいいぞ、周りの人には私が見えてないから。
     通行人達から見て、今のドクオ君、まるっきり電波さんだ」

電波はお前だ、と叫ぶ脊髄と、え、マジで? といぶかしむ理性が猛烈な銃撃戦を始めた。
口を開き、電波の「で」まで言いかかったところで、理性が身体のコントロールを奪い返した。
恐る恐る周囲を見回す。

 「……何、あの子?」                         
     「ママー、あのお兄ちゃん、どうして叫んでるの?」
           「ああ、あの高校の生徒だろ。偏差値が低いと聞くが、やはり頭もおかしいのか……」
    「救急車呼んだほうがいいんじゃない?」             
          「シッ、見ちゃいけませんっ!」
                    「きもーいww」
目線。ざわめき。嘲笑。
通行人は、誰も彼もが脚を止めて、自分の事を見ていた。
20 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:45:31.38 ID:9fJO3cbc0
腹の底に、氷を突っ込まれたような冷たさを感じた。

――何も、考えられなくなった。

真っ白な頭で、ただペダルを踏んだ。


足に伝わる、2人分にしては軽すぎる重さ。
この瞬間にはっきりと分かった、こいつは人間じゃない。

でも今はそんな事知ったこっちゃない。
この場から逃げなきゃ。


見るなよ。
そんな目で見るな。
オレはヘンなんかじゃない、どこもおかしくなんてない。

笑うな。指さすな。話題にするな。頼むから、頼むからほっといてくれっ!





滅茶苦茶にペダルをこぎ続けて、気がついてみれば、学校とは正反対の児童公園にいた。
何もここまでやらなくてもいいのに、我ながら苦笑してしまう。

結局俺は、10キロも無我夢中で逃げてきてしまった。そういうことになる。
21 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:47:34.36 ID:9fJO3cbc0
そして、

川 ゚ -゚)「学校、よかったのか?」

こいつは、まだいやがった。結局10キロずっと、荷台に勝手に座っていた。

いいわけない。
カンベンしてほしい。
誰のせいだと思っているんだこの女は。

(;'A`)「……ぜぇっ、ぜぇっ……」

文句を言ってやりたかったが、なれない運動を急にしたせいか、
息は切れ、喋るのも困難な状態だった。
情けねぇ。

自転車登校組としては、脚力と体力にそれなりの自信はあった。
それなのに、体はもうグロッキーだ。言うことをきかない。膝が笑ってる。
カッコ悪いったらありゃしねー。

ベンチに、腰を下ろすというよりは倒れこむように座った。

(;'A`)「ぜは……ごひゅ……」

川 ゚ -゚)「…………」


川 ゚ -゚)「……すまない」

(;'A`)「え?」
22 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:49:53.91 ID:9fJO3cbc0
川  - )「私のせいで。そうだな……配慮が足りなかった。
     ああいう視線の怖さ、私にも分かるんだ。何もかも放り出して、逃げ出したくなる気持ち」


――ああ、もう。
だから、そんな顔はしないでくれって。
あんたがそんな顔をすると、なんだかこっちが悪いことしてるみたいな気分になるんだ。

美人ってのは有利だよなぁ、と思う。
自分はこんなに面食いだったのか、とも思う。

話題を変えなきゃ。そうも思った。


('A`)「……あんた、妖怪なんだっけ」

川 ゚ -゚)「信じてくれたのか?」

周りには見えていなくて、自転車を漕いだ時に重量がなくて、スケルトン。
俺の知ってる知識を総動員しても、こんな人間は見たことが無い。
結果、この女は人間ではないと言う結論に達してしまう。

('A`)「あんたをケツに乗っけてチャリこいでたのはオレだ……確かにそうだよな、軽すぎるよ……」

川 ゚ -゚)「……最初からそう言ってるだろう」
23 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:52:19.44 ID:9fJO3cbc0
俺の言葉を聞いて、妖怪女はわずかに息を吐いた。普通は気付かないような小さな息。
ホッ。と安堵したような、そんなため息。だと思う。
自分の存在を認めてもらったのだから当然か。

('A`)「それから、あんたはアレだな」

妖怪女がアレ。と言う単語に反応し首を傾げる。

('A`)「ずいぶん、人間臭い妖怪なんだな?」

川 ゚ -゚)「む、そうか?」

俺の中の妖怪のイメージは、
人間を驚かしてその様子を見て馬鹿にしたように笑うとか。
人間に悪戯して困った様子を見て笑うとか。
外見が気持ち悪いとか、悪いイメージだったのだが、案外そんなこと無かった。


いや、妖怪女の性格や外見が悪ければそんな感じなのかもしれない。
24 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:54:09.89 ID:9fJO3cbc0
('A`)「そうだよ。妖怪なら謝っちゃいけねーな」

川 ゚ -゚)「しかし、あの出来事は私のせいだから……」

表情はこそ崩さないが、妖怪女が申し訳無さそうな声になっていた。
過去に何かあったのかも知れないが、追求する度胸なんて無いし、する気も無い。
そして、妖怪女が表情を崩さない所も気になった。
元々そんな性格なのか、同じように過去に何かあったのかのどちらかだろうが。
勿体無い。

素直にそう思った。

そこで俺の頭の中に一つの案が思い浮かんだ。
この妖怪女を笑わせてみたい。この妖怪女の表情が崩れるとまでは行かないが、
頬が緩む程度でも良いから、笑った表情が見てみたい。と。

('A`)「そ、れ、と!」

川 ゚ -゚)「何だ?」

('A`)「さっきの骨のヤツさ。アレ、やっぱりビックリはしねーよ」

川 ゚ -゚)「そう……か」

('A`)「ああそうだ。だってさ、」

――頼む。どうか、笑ってくれますように。
そんな思いで、妖怪女がしたように半袖の腕をぐい、っと突き出す。

('A`)「オレの腕とか見てみろよ。ほら。オレのがよっぽどガイコツみたいだ」
25 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:56:12.00 ID:9fJO3cbc0
精一杯だった。
冷や汗も脂汗もダラダラだった。
だってそうだろう、自慢じゃないが、そもそもロクに女子と話したこともないんだぞ。

そんな俺が初対面の、しかもとびきりの美人を笑わす?
きっと鼻で笑われて、からかわれるに違いない。

でももしかしたら――








川*゚ ー゚)「プッ」




――やった。




26 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 18:58:40.50 ID:9fJO3cbc0
それから何分経過したか分からない。
何時間も経過したのかもしれないし、ほんの数分だったかもしれない。
俺からしてみれば、いままでの日常とはかけ離れた存在だったため、質問ばかりしていた。

話してみればみるほど、やっぱり人間臭い妖怪だった。
名前は、クー。妖怪としての種別は、骨女というらしい。

('A`)「で、骨女って何ができるの?」

川 ゚ -゚)「ほらほら、スケルトン」

('A`)「……いや、それは分かったんだけど」

川 ゚ -゚)「……それだけだ……」

迷惑な話もあったもので、オレを「驚かす」対象に選んだのは、
単に驚きやすそうだったから。だという。
ああ、きっと生っ白くて細くて、いかにも弱そうとか思われてんだろうなぁ。
事実だけどさ。

妖怪は普通、人間には見えない。例外は有るらしいが。
ただ、驚かそうと思った相手にだけは見えるようになる。
そして、人を驚かす。

――では、なぜ妖怪は人を驚かすのか?
クーに曰く、


川 ゚ -゚) 「滞在期間を稼ぐためだ」
27 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:00:44.37 ID:9fJO3cbc0
今までに聞いたことの無いような言葉。滞在期間。
海外旅行とかで使われそうな言葉。それは理解できたとしよう。
しかし、稼ぐとクーは言った。

('A`)「滞在期間を稼ぐ?」

もちろん詳細を聞くために疑問で返す。
すると、その疑問をクーが丁寧に説明してくれる。

川 ゚ -゚)「うむ。私達妖怪は、一般に言われるように無限に存在し続けられる訳では無い。
     現世にいる時間は限られていて、それを伸ばす唯一の手段が、人を驚かす、ということだ」


例えば私は、1人驚かせば7日の滞在日数が稼げる。
そう言って、クーはなぜか、ちょっと誇らしげに胸を張った。
1週間。
厳しいのか緩いのかよく分からない、そんな条件で、妖怪たちは現世に在り続ける。

――らしい。
28 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:02:08.99 ID:9fJO3cbc0
正直、映画だな、と思う。

そんなことを言われて信じろ、と言われたって、そりゃあ無茶ってものだった。
ただ、それでも。

('A`)「なるほどね」

そんな風に答えてしまったのは。
クーが、どうしても悪いヤツには見えないからで、
オレ自身だって、心の底ではこんな非日常を羨望していたからだろう。

川 ゚ ー゚)「……ふふ」

ああ、笑わば笑え。
口の端を吊り上げて笑うクーが、どうしようもなく可愛くて、この笑顔をもっと見たいと思ったからだ。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 19:05:14.17 ID:qX5hdoF70
支援
30 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:06:00.05 ID:9fJO3cbc0
ふと、時間が気になり右腕につけてきた銀色の腕時計で時刻を確かめる。
腕時計の丸い文字盤は、もうとっくに2時限目も始まってしまった現実を示していた。
それは、ひどく無味乾燥な現実だ。

突然、ベンチから立ち上がり、目の前で無意味にくるっと回って、
長い黒髪をふわっと舞わせたクーが口を開く。

川 ゚ -゚)「これから、どうするんだ?」

学校があったんだろう?とクーが言った。
そんな言葉で、じわっ、と実感が広がる。

('A`)(……そっか)

自分は今、日常の、あの狭い世界の中にはいないんだ。
あのタバコ屋の向こうに続いていた道の側にいる。

だって、そうだよな。
学校サボって、今いるここは児童公園だ。
自分の制服姿はやっぱり変わらないけれど、目の前にいるのは、妖怪で、私服で、しかもとびきり綺麗な女の子ときてる。

危機感に近い感覚と、誤魔化しようのない歓喜。
ああ、そっか。これがスリルってヤツだな。


――いま、俺は。ひょっとしたら、ちょっと凄いかもしれない事をしてるんだよな。
31 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:08:16.81 ID:9fJO3cbc0
そう思った瞬間に、空すらも開けた気がした。

入道雲。
空。
緑の木々。

全てに色がついたような気がした。
いや違うな、そうじゃないか。
全てを灰色く曇らせていたものが、拭い去られたような。そんな感じだ。
心地良い。この体験が出来るなら毎日学校をサボっても良いと思えるほどに。

('A`)「さぁ、どうしようかねぇ」

川 ゚ -゚)「とりあえず、学校か?」

いつもなら行っただろうが、今日は違う。
妖怪に出会ったと言う特別な日だ。そんな日に学校なんか行きたくない。

('A`)「やだね。せっかく今日はサボり確定みたいなモンなんだ。――なぁ、あんたさ」

川 ゚ -゚)「クーって呼んでくれないか。せっかく名前、教えたんだから」

('A`)「……じゃ、クーさ」

そして自分は高校生で、クーも多分それほど歳は変わらなくて。

なあ、これってさ。
最高の舞台じゃないか?

何かが始まるには、絶好なんじゃないか?
32 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:10:35.38 ID:9fJO3cbc0
だから、最初の一言だ。
全部を始まらせるために。

言え。この高揚に乗せて、普段の自分なら絶対言えないその一言を、言ってしまえ。








('A`)「……遊びに行かないか。これから。オレと、一緒に」








川 ゚ -゚)「私でよければ構わない」




いよっしゃあっ!
33 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:13:29.24 ID:9fJO3cbc0
自転車の後ろにクーを乗せて、住宅街を走る。
さすがに昼間のこんなところは人もまばらで、こんな時間に堂々と制服を着ていても、いちゃもんつけてくるヤツはいない。

背徳感と開放感がない交ぜになって、最高に気持ちいい。
その気持ち良さを感じている間も、俺はクーと非日常的な会話をしていた。

川 ゚ -゚)「いい風だな」

('A`)「夏ーって感じだよな」

川 ゚ -゚)「夏といえば妖怪だよな」

('A`)「……そういやそうだな」

この話題を振って来た時点で、次にクーが起こす行動は大体の予想がついた。
そんなに俺の事を驚かせたいか。

川 ゚ -゚)「ほらほら。スケルトン」

本日何度目か分からないセリフを言って、骨になった腕を俺に見せてくる。
やはりすごいとは思うが、驚きはしない。

(;'A`)「いやもう、オレを驚かすのは無理じゃないかな……」

川 ゚ -゚)「それは残念だ」

そう言うクーはどこか悔しそうで思わず笑ってしまった。
誰かが見ていれば電波さんだろうが、幸い辺りに人は居ない。
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 19:15:37.55 ID:G0LNOx9q0
支援
35 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:16:07.43 ID:9fJO3cbc0
駄菓子屋を見つけて、2つに割れるタイプのチューブアイスを買った。
バキッと割って、片方を差し出して、浮かんできた疑問を解決してもらうためクーに伝える。

('A`)「……って、そういやさ」

川 ゚ -゚)「何だ?」

('A`)「例えばクーがこのアイスを食うよな。で、人間にはクーが見えないよな」

川 ゚ -゚)「そうだ」

('A`)「そうするとさ、このアイスだけ宙に浮いて、ごきゅごきゅ減ってるように見えるのか?」

川 ゚ -゚)「そうだとホラーなんだが、その辺は大丈夫だ。
     ほら、洋服もちゃんと着てるだろ?
     妖怪の触れた物質は、やっぱり妖怪と、妖怪が驚かすと決めた人間にしか見えなくなる」

ほぉ。と、いろいろ勉強になるな
俺もいつか死ぬのだから今のうちに仕組みを覚えておくのもいいかもしれない。
そして、また疑問。

('A`)「便利なもんだな……って、そうすると、この自転車も他のヤツには見えなくなるのか?」

川 ゚ -゚)「いや。その辺は人間のドクオが漕いでるから、そっちが優先される。
     現世は、人間のものだからな」


分かったような分からないような理由だけど、そういうことらしい。
誰が決めたのか知らないけれど、本当によくできてる。
36 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:18:01.47 ID:9fJO3cbc0
――よく、できすぎてないか?
ちょっとそう思った。
なぜ、そこまで妖怪は、人間に遠慮するのだろう?








現世は人間のものだから。
その言葉には、何か裏がある気がした。







もしかしてそれは――


37 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:20:52.04 ID:9fJO3cbc0
俺の頭の中で浮かんできた疑問。
恐らく、もっとも重要な疑問。
本当は聞きたくないのに、俺の口は勝手に動く。

('A`)「なぁ、クー」

川 ゚ -゚)「ひゃい?」

アイス銜えたまま返答すんな。
ちゃんと喋れてないぞ。

そう返答して、他愛も無い会話をすれば良いんだ。
だけど、俺の口はその言葉を口にしようとしない。

('A`)「……もしかしてさ、妖怪ってさ、」

止めてくれ、聞きたくない。
今ならまだ質問を変更できる。
そんな俺の意識とは関係なく、疑問をはっきりと言ってしまった。


幽霊みたいな、もんなの?
それはつまり、クーはもう――


俺のそんな疑問にも、クーは顔色一つ変えること無く、受け止めた。
そして、先程まで銜えていたアイスを手に持ち、真剣な顔で俺に教えてくれた。


川 ゚ -゚)「こんなに早くバレるとは予想外だったよ。正解だ」
38 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:25:27.04 ID:9fJO3cbc0
そうだ。君の予想通り妖怪は、死してなお現世に残ることを選択した人間だ。
人間は死んだ後、成仏するか、妖怪として現世に残るかを選択することができる。
成仏した先にどんな世界があるのか。それは分からない。
けれど、その先は確かにあるんだそうだ。


そして私は、現世に残ることを選択した。
妖怪は、人を驚かすことで現世に居続けることができる。
驚きと恐怖は、人の記憶に残って、誰かに語り継がれて行く。


トイレの花子さんもメリーさんも、本当に存在するんだ。
一反木綿さんとか子泣きジジィさんも、私は見たことないが、多分本当にいたんだと思う。




クーは、そこまで一気に語った。



39 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:27:26.17 ID:9fJO3cbc0
川 ゚ -゚)「アイス、おいしいな。生きててよかったよ」

冗談めかして言った「生きててよかった」も、何かを誤魔化すかのように一心に
チューブアイスを吸う姿も。
なんだか、一気に哀しいものに見えてきてしまった。

こんなときにかけるべき言葉を、自分は知らない。
情けないことに、こんな時にどうすれば良いか分かるほど、俺は頭が良くないし、恋人関係でもこんな経験をした事が無い。

そうさ。おれは、ただの平凡以下の高校生にすぎない。
人の死。それに付帯する感情。そんなものは結局のところ、絵空事の中でしか知らない。

今、クーが、この人の域を逸してしまったこの妖怪が、どんな気持ちで夏の日の中にいるのか、なんてことは。
もちろん、想像もつかなかった。


('A`)「――そんなにうまい?」

川 ゚ -゚)「うむ。おいしいぞ」

('A`)「俺の分も食うか?」

川 ゚ -゚)+「いいのか?」

('A`)「ん。よく考えたらさ、オレちょっと腹の調子悪いんだ」

川 ゚ -゚)「じゃ、遠慮なくいただくぞ」

結局、できるのはそんなところ。
程度の低い気遣いひとつだ。
40 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:29:56.26 ID:9fJO3cbc0
再び自転車にまたがって、住宅街を走り始める。

自転車を発明したヤツに、今は感謝したい。
縦に並んで座った今は、お互いの顔が見えないから。


多分きっと、酷い顔してるぜ、オレは。

ぶっさいくな顔を歪めて、眉を寄せて。
いや、ぶさいくはぶさいくなりに、必死に考えてるんだけどさ。


いきなり首筋に、冷たいものが押し当てられた。


川 ゚ -゚)「ほれ」

(;'A`)「ひゃぁっ!?」


冷たすぎていきなりすぎて、コケるかと思った。
弾くようにハンドルから両手を離してしまった。
自由になったハンドルが、アスファルトの凹凸とペダルを介して伝わる動力と慣性質量の複雑な合力でぐらっとよろめいて、


(;'A`)「っ!」


サドルに座るケツで車体を振り、一輪者の要領で、何とかバランスを持ち直した。
41 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:31:57.11 ID:9fJO3cbc0
(;'A`)「いきなり何すんだっ」

川 ゚ -゚)「暑いかなーと思ってな。暑い時は首筋を冷やすといいんだぞ」


で、いきなり他人の首筋にアイス押し当てるんかお前は。


(;'A`)「……気持ちはありがたいけどな、先に言ってくれそういうのは……」

川 ゚ -゚)「それはすまない」


くすくす、と笑う声が肩越しに聞こえた。


('A`)「って、確信犯かよっ!」

川 ゚ -゚)「すまない。でも可愛かったぞ、『ひゃぁっ』って。まるで女の子だ」

(;'A`)「……いい根性してるなお前……」


――ああもう、オレは何を思っていたんだっけ?

考えていたことの全部が全部、綺麗に吹き飛ばされてしまった。
ええっと、ええっと。
42 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:33:28.34 ID:9fJO3cbc0
あ、そうだ。


('A`)「……クーさ、どっか行きたいトコとかあるか?」

川 ゚ -゚)「行きたいところか」

('A`)「おうよ。なんかないのかよ、遊園地とか言われても困るけどな、金がないから」

川 ゚ -゚)「んー、そうだなー……」



かっこんかっこん、自転車をこぐ音が、しばらく。
いい加減沈黙が気まずくなってきた頃、唐突に口を開いてクーは、



川 ゚ -゚)「楽しいところ」



――うわぁ、それは難しいや。


43 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:35:33.22 ID:9fJO3cbc0
そして結局、自分が思いついたのは、タバコの匂いと耳がおかしくなりそうな音の渦巻く、ここだ。

川 ゚ -゚)「げーせん?」

('A`)「でございます」


なんつーつまんねー思考回路なんだ、とは自分でも思う。
なんかの本で読んだことがある気がする。女の子を誘う場所としてゲーセンは最悪だ、とかなんとか。
誰が書いたか知らないが、書いた奴に文句を言ってやりたい。

――うるせー、仕方ねーだろ、他に楽しいところ思いつかなかったんだからさぁ。




それにほら、見てみろよ。


川 ゚ -゚)+「これかわいいな」


クーは、クレーンゲームの景品の人形に、あられもなく目を輝かせてくれている。
なんだか知らないけど、バナナにやたら渋い顔が書いてある。グレートバナナ、らしい。


俺にはクーの感じた可愛さは理解できそうにも無いが。


(;'A`) 「……かわいいか? これ」
44 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:37:29.57 ID:9fJO3cbc0
川 ゚ -゚)+「とてもかわいいじゃないか」

そうかなぁ、と思う。どう見ても気色悪いのだけれど。
それが証拠にグレートバナナは、景品台に山と積まれてしまっている。余りモノなんだ、要するに。

そりゃそうだろうなぁ。多分きっと、今まで誰も取ろうと思わなかったんじゃな
いだろうか。



――でもまぁ。


('A`)「欲しいか?」

川 ゚ -゚)「え?」

目をキラキラさせながらクレーンゲームを覗き込んでいたクセに、クーはあからさまに遠慮した顔をした。

('A`)「これ。欲しけりゃ取るぞ。設定もえらいヌルそうだ」

川 ゚ -゚)「しかし、」

――押し切れ!
クーが全ての言葉を言い終える前に俺は言葉を続けた。

('A`)「ゲーセンに来て何もしないのもバカみたいだからな。いいよ、取るからさ」
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 19:38:58.21 ID:LZUGP5agO
支援
46 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:39:13.11 ID:9fJO3cbc0
クーの返事は待たないで、コイン投入口に100円玉を突っ込む。
設定なんか確かめるまでもない、クレーンアームの強度も景品の置き方も、イージーモードにもほどがある。

案の定、テロテロテロテロ言いながら降下したクレーンアームは、あっさりとグレートバナナの1体を掴み取った。

でれーっでっでれっでれー。
チープで下品なファンファーレとともに、取り出し口に落ちてくる。

('A`)「……ま、こんなもんよ」

川 ゚ -゚)「……すごいな」

('A`)「すごかねーさ、こんな設定の台、誰でも取れちまう」

なんてことを言っちゃあみるが、内心は誇らしくてたまらない。
学校帰りにゲーセン通いしててよかった。ここでなら、自分はいくらでもカッコつけることができる。

('A`)「……ほい、やるよ」

さり気なく取り出し口からグレートバナナを引っ張り出して、なんでもない感じに差し出してみる。
周りで誰か見ていたらどういう風に見えているのだろうか。
何も無い空間に俺がバナナを差し出しているように見えるのだろうか?



川 ゚ -゚)「いいのか? 返さないぞ?」
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 19:39:15.43 ID:G0LNOx9q0
好きだわ
48 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:41:01.47 ID:9fJO3cbc0
('A`)「ん。遠慮すんなって。もらえるものはミカンの皮でももらっとけ」

川*゚ -゚)「……かわいい」


それでもまだ遠慮がちにクーは手を伸ばして、愛しそうにバナナを撫でる。
うん、そんなことするあなたの方がよっぽどかわいいです。はい。

あと見ようによってはちょっとエロいよな、とか何とか。そんなことを思っていると、いきなりクーが俺の肩をつついて、


川 ゚ -゚)「よし。私もやる」

決心を込めた目だった。

(;'A`)「え? 2個欲しいのか?」

川 ゚ -゚)+「そうじゃない。
      でも、さっきからアイスもバナナももらいっぱなしだ。お返ししないとな」

(;'A`)(えぇぇー……)

お返し、っていうのは、このグレートバナナをくれるんだろうか。
正直、こんな無駄に渋いバナナは要らないんだけどなぁ。

あと、

49 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:43:34.51 ID:9fJO3cbc0
('A`)「……金、持ってんの?」

川 ゚ -゚)「…………」

('A`)「…………」

川 ゚ -゚)「…………」

('A`)「…………」

この沈黙の後さらに、









5秒後。


川 ゚ -゚)「すまない、貸してくれ……」

クーが申し訳無さそうに、頼んできた。
遠慮すること無いのに。

(;'A`)「はいはい」
50 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:45:24.40 ID:9fJO3cbc0
結局俺は100円玉を三枚財布から出し、クーに渡した。
俺に向かって礼を言うと、いきなり300円を突っ込んだ。
こうすれば、チャレンジ権を5回獲得できる。
多分きっと、クーは1回で景品を取ることはできないだろうと思ったから。

そう言ったらクーは、

川 ゚ -゚)「私をあまりナメるな。こんなの簡単だ、一発だ」

表情こそ崩さないが、口調は怒っていた。まぁ冗談程度なのだが。
いやまぁ、そうなんだよな。
クレーンゲームってのは、ハタで見てる分には簡単に見えるんだ。
てか、簡単で一発で取れるならいくつ欲しいんだよグレートバナナ。

川 ゚ -゚)「じゃ、やるぞ」

無意味に勢い込んで、まずは横軸を動かすボタンを押し込む。
真剣にクレーンを睨むその姿が、素人丸出しだ。
所詮は遊びなのだから、もっと気楽にやればいい。

川 ゚ -゚)「よし、ぴったり」

('A`)(いや、右にあと4センチだな……)


もちろん、口には出さない。


川 ゚ -゚) 「よし、縦もぴったりだ」
51 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:47:11.71 ID:9fJO3cbc0
テロテロテロテロ言いながらクレーンが降下して、グレートバナナの渋い顔を鷲掴みにして、

川*゚ -゚)+「やっ――、」

クーの顔が輝いた瞬間に、バナナは無情にもずるり、とずり落ちた。
重心も外しまくっていたし、何よりクレーンアームの力を信用しすぎる位置取りだった。
いかにイージーモードとはいえ、強度が最強近くまで高められているとはいえ、
見た目ほど強くはないんだ、アレは。

川 ゚ -゚)「…………」

('A`)「はっはっは。やっぱな。まーそんなもんだよ」

川 ゚ -゚)「……ドクオみたいにできたら、カッコよかったのに」

ゲームの筐体が、「ワンモアセッ!」と声をあげる。
クレーンを恨めしそうに睨んで、しかしクーはめげずに、


川 ゚ -゚) 「……次こそは」

と、意気込んでいた。
52 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:49:33.34 ID:9fJO3cbc0
結果から言うと、

5回のチャレンジ権をもってしても、クーは一つもグレートバナナを手に入れることができなかった。
始めはそんなものなのだが、クーは言葉を失っていた。

川 ゚ -゚)「……」

(;'A`)「あんまり落ち込むなよ、初心者ってのはそんなもんだ。それよりやるか? もう1回」

川 ゚ -゚)「何回やっても取れる気がしないぞ」

(;'A`)「そ、そうか? でもさ、練習すればさ」

川 ゚ -゚)「きっと私には無理だ」

('A`)「オレだって最初はそうだったよ。何日か通って練習すりゃ、こんなのはすぐだ」


だからそれはつまり、


('A`)「……ま、明日も来りゃいいよな?」

遠まわしにクーを誘っている訳だ。
ああ、さっきかららしくねぇな、とは我ながら思う。
自分はこんなことをサラッと言うヤツじゃなかったと思う。絶対。


川 ゚ -゚)「……そうだな」
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 19:49:47.71 ID:USj2THL4O
作者よ…
http://www35.atwiki.jp/merry_san/
これ読んだか?
54 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:51:52.45 ID:9fJO3cbc0
('A`)「よっしゃ。じゃあ次は何を――」

クーが頷いてくれたことが、つまり明日もこんな風にして一緒にゲーセンに来る約束をしたことが、どうしようもなく嬉しかった。
照れ隠しにヤケクソな声を張り上げて回れ右して、目の前にあわられたのは大きな顔。

|  ^o^ |「…………」

(;'A`)「…………あんた、誰?」

|  ^o^ |「ここの てんいん です」

('A`)「そ、そうですか」

|  ^o^ |「そして あなたは そこのこうこうの せいと ですね?」

('A`)「はい、まぁ」

|  ^o^ |「いまは まっぴるま です」

('A`)「そうですね」

ここまではニコニコした優しそうな顔で、ひらがなばかり話す少し変な人だと思っていた。
ちゃんと謝れば見逃してくれるだろう。
そんな甘い考えが頭の中で回っている間に、

|  ゚o゚ |「真昼間から制服来てご来店って、ナメてんのかテメー。ちょっと裏に来い。ポリに突き出してやる」

目の前の人は先程までの人と同じ人とは思えない口調で俺を威圧してきた。

(;'A`)「……やべ」
55 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:54:00.19 ID:9fJO3cbc0
恐らく無理だと思うが、一つ提案をしてみる。

(;'A`)「……ここはヒトツ、穏便に見逃してもらうワケには」

|  ゚o゚ |「いくかクソゆとりが。貴様らの怨嗟の声が、明日のオレ様の活力なんだよ。一名さま、警察署までご案内だ!」

一名さま。
あ、そうか。他のヤツにはクーが見えないんだっけ。

再確認したその事実が、不思議な勇気を与えてくれた。
そうだよな。今の自分は主人公なんだ。何の物語かは知らない、だけど、こんな店員Aとは格が違うんだ。

勇気がエネルギーに変わる。今は、どんな無茶だってやれるに違いなかった。

      パァンッ!

| ; ゚o゚ |「ほ、ほあァ――っ!? ほあァ――――っ!?」

両手を店員の前に突き出して、思いっきり猫だましをしてやった。
ひとたまりもなく狼狽した店員に中指を突き立てて駆け出す。

('A`)「ズラかるぞ、クーっ!」

川;゚ -゚)「あ、え?」


クーの手を引いて。
56>>53アフォで読んだ ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:56:09.38 ID:9fJO3cbc0
|  ゚o゚ |「あ、テメ待ちやがれ! クーって誰だ!? 仲間がいやがんのか!? 2人パックで地獄に送ってやるよボケがっ!」

メダルゲームのコーナーの椅子を蹴散らし、格ゲーの筐体に駆け上がって飛び越え、入り口の自動ドアをブチ破らん勢いで店を飛び出す。
何事か、と注目を集める観衆の一人一人にあかんべーをしてやりたいけれど、何しろ今は時間がない。

|  ゚o゚ |「オイ! 器物破損だぞコラ! 殺す! もう殺す!」

今さら店員も飛び出てくるけれど、もう手遅れだ。ざまぁみろ。
自転車のハンドルを握る。
初速を得るために最初の5メートルは押して走って、ペダルに脚をかけて、脱兎のように、

('∀`)「ひゃっほぉ――――――っ!」

駆け出す。

川;゚ -゚)「あわっ!?」

あんまり運転が乱暴すぎて、振り落とされそうになったクーが身体にしがみついてくる。
最高だ。今は、今こそは、人生の最大瞬間風速だ。

どいつもこいつも間抜けヅラ並べた人波を掻き分けていく。

|  ゚o゚ | 「顔覚えたからなぁ―――――っ! ぜってーサツガイしてやるからなテメ――――っ!」

ゲーセンの前でそんな風に吼える店員の声も、今は最高のBGMだった。
57 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 19:58:12.53 ID:9fJO3cbc0
ゲーセンから脱兎の如く駆け出し、少し遠くにある川へと向かった。
先程のような騒ぎになるといけないので、人が少ないような川。

ギラギラした、昼間と夕焼けの中間の太陽が、水面に写り込んでいる。
遠くで、子どもが水きり遊びをしている。

探せば、どこかにふやけたエロ本の1冊や2冊は絶対に落ちている、夏の河原に、
2人で並んで、腰を下ろしていた。

川 ゚ -゚)「……よかったのか? 怒られてしまったぞ」

('A`)「あー、いいんだよ。最高に気持ちよかったろ。何もゲーセンはあそこだけじゃねーしな」

川 ゚ -゚)「そうか……」

そう言うクーはどこか申し訳無なさそうだった。
自分に責任があるとでも思っているのだろうか。
その事を伝えるか迷っていると、

川 ゚ -゚)「ドクオの毎日は、いつもこんな感じなのか?」

どうやらものすごい勘違いをされてしまったらしい。
湧き出てくる苦笑いをかみ殺すのに苦労した。

そんなワケあるか。
いつもなら、そうだな。今ごろ、どこかのゴミ箱に捨てられている上履きの片方を探して、校舎をさまよっている頃だ。

――でも、今は。今日くらいは。いいよな、ちょっとだけ。

('A`) 「おうよ、まぁな」
58 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:00:29.21 ID:9fJO3cbc0
ちょっとだけ、見栄を張った。
いやちょっとなんてモンじゃないか。
あんなに大騒ぎしたのも、あんなにスカッとしたのも、多分一生ではじめてだったんだから。

本当の自分は、朝、クーと会話している時のアレだ。
あの人々の視線を恐れてみっともなく逃げ惑った、アレだ。
けど、

('A`)「あんなもんは序の口だな。手が出なかっただけマシな方だ。いつもなら乱闘になってると思う」

川;゚ -゚)「乱暴な日常を送ってるんだな……」

('A`)「ん、まぁな」

川 ゚ -゚)「じゃあ、アレか? やっぱりこう、30対30の学校同士の抗争とか……」

('A`)「ああ、去年の冬にあったよ。ありゃすごかった、血みどろのヤツが何人も出てさ」

言葉は、ウソは、次から次に出てくる。
いつも、そんな風になりたいと妄想していたことだから。
現実ではありえない、理想の自分。

('A`)「ま、弱いヤツはさ、まず腹だよ。腹に一発ブチ込めばさ、それで大体カタがつく」

川 ゚ -゚)「はぇー……」

ケンカの作法だって、幾らでも知ってる。
それが、自分の日常の中にある、というのも、あながちウソじゃあない。
やる方とやられる方、という違いはあれど。
59 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:03:32.04 ID:9fJO3cbc0
たとえば洋服だとか。ピアスだとか。髪を染めるだとか。
そういうことの意味が、自分には、今の今まで分からなかった。
それどころか、心の中で見下していた。

金をかけてまで下品な金髪にして、痛みを我慢して耳に穴を開けて、それがなんになるんだって、そう思ってた。

でも、意味はあったんだな。
どうしてもどうしても、カッコつけたい相手っていうのは、いるんだ。




姿が綺麗だから、とか、そういう理由じゃない。
――なんて言やぁ、そんなもんはウソに決まっていた。

綺麗だ。茜色の照り返しを受けて、少し影が深くかかったクーの顔は。とても。
でも、決してそれだけじゃあないのも、本当のことだ。

あのゲーセンで。店員に声をかけられたあの時。
自分の分のアイスをやった、駄菓子屋の前のあの時。
不思議と勇気が沸くんだ、クーといると。

そして何より、形はどうあれ、あの交差点の先にあったはずの、平凡な今日の一日から、手を引いて連れ出してくれたのは。



やっぱり、クーなんじゃないかな、と思う。
60 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:06:17.84 ID:9fJO3cbc0
('A`)「……クーはさ、」

川 ゚ -゚)「何だ?」

('A`)「クーは、何なんだ?」

川 ゚ -゚)「? 妖怪だ、ほらほら、スケルトン」

(;'A`)「いや……それは分かったんだけどさ。なんていうかさ。
     あの時、現世に残ることを『選択した』って言ったろう。なら、残るなりの理由があったはずだ」

川 ゚ -゚)「……そうだな」

('A`)「もっと言や、滞在日数を稼ぐために驚かすだけなら、誰でもいいんだろ?
    オレは驚かなかった。なら別のヤツを驚かしに行けばよかったはずだ。なのに、オレについてきた理由は、何だ?」

川 ゚ -゚)「…………」



川 ゚ -゚)「――広い世界を、見てみたかったんだ」

('A`)「広い、世界?」

川 ゚ -゚)「そうだ。なんていうか――壁の外の世界を。
      私の世界の壁の外には、どんなものがあるんだろう、って。そう思った」

('A`)(――!)
61 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:08:55.54 ID:9fJO3cbc0
川 ゚ -゚)「最初は、あの交差点のときは、とにかく驚いてもらいたくて必死だった。
     公園のときは、申し訳ないなぁって。正直、それだけだった」

俺は黙ってクーの話を聞く。
真剣な人の話はちゃんと聞け。って小さな頃から母親に言われ続けていたことだ。

川 ゚ -゚)「でも、なんていうか――空が、広かったんだ」

('A`)「そら?」

川 ゚ -゚)「空だ。ドクオの自転車の荷台から見た空が。
     電信柱があって、電線が走ってて、家の屋根があって。それだけじゃない、すれ違う人がいて。垣根の上を猫が走ってて」

('A`)「…………」

川 ゚ -゚)「風が気持ちよくて、アイスおいしくて――ずっとここに座ってたら、もっともっと広い世界が見られるかな、って」

――なあ、クー。それはさ、別に、何も珍しいものじゃないぞ?

そんなものが、そんな当たり前のものが見たかったのか、お前は?
だとするなら、お前の世界というのは、どんなに狭いものだったんだ?

川 ゚ -゚)「迷惑、か?」

('A`)「――まさか」

まさか。
むしろ、

62 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:12:02.62 ID:9fJO3cbc0
('A`)「もっと見せてやるよ。色んなものを。オレの自転車の荷台から」

川 ゚ -゚)「……ありがとう」

同じなんだ。
クーと自分は。

あの時、クーが自分のことを、平凡から引っ張り出したのと同じに。
自分もまた、クーのことを引っ張り出していたのだ。恐ろしく狭い、彼女の世界の中から。


彼女の手を引いて、いろいろなものを見に行きたいと思う。
そのために食らう、校長訓告の1回や2回、調査書につく遅刻の10や20はなんでもない。

共犯者、という、平等で公平で対等な立場に、とんでもなく胸が躍る。




それからしばらくは、ただ河原に座って。

最後に、約束をした。


――また、明日。




――――第三話 終了
63 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:20:53.66 ID:9fJO3cbc0
自分が他人に特別劣っていると意識し始めたのは、いつからだったろう。

容姿。学力。体力。性格。

人を測るモノサシは数あれど、結局自分に合った基準はどこにもなかった。

子供の頃は、自分は何でも出来る。何にでもなれる。
そんな希望を抱いていた。
だけど、成長するにつれて理想の自分と、現実の自分との違いに気付き、ありのままの自分を受け入れるようになった。
理想と現実は違うんだと。

だから、閉じた。

だってそうだろう。自分が「外」に出る意味がどこにある?


別に、自分を笑う人々を恨むつもりはない。劣っているのは自分の方だから。

個が個を維持するためには区別が必要で、区別と差別の間の壁なんていうのは、
あってないようなものだから。

ただ、少しだけ。

――悲しかった、なぁ。

なんて、な。


                                    
('A`)ドクオは現世に残ったようです――第四話―― 
64 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:22:49.99 ID:9fJO3cbc0
案の定だ。


担任の教師は、実に職務に忠実に、無断欠席をした俺を「心配して」、家に電話をかけていた。
充分予想の範疇だ。
普段は、見て見ぬフリをするクセに。こんな時は、ヤツらは見逃してなんてくれない。
給料分の仕事だけしてろよ。馬鹿野郎。

J( 'ー`)し「……学校から電話来たよ。今日あんた、どこ行ってたの?」

('A`)「…………」

とびきり綺麗な女の妖怪と遊んでました。
なんて言えやしない。どうせ信じてもらえないし、信じてもらおうとも思わない。

J( 'ー`)し「別にどこだって怒りゃしないのよ。悪いところじゃなければね」

('A`)「…………」

母親の『悪いところ』が何処かなんて見当もつかない。
けど、タバコの匂いと耳がおかしくなりそうな音の渦巻くゲームセンターが『良いところ』とも思えない。
どちらかと言うと『悪いところ』だろう。
65 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:26:17.33 ID:9fJO3cbc0
J( 'ー`)し「かーちゃんね、ドクオが外に出てくれるようになっただけでも嬉しいの。ホントよ?
      ……だけど、ほら。こんな世の中でしょう? だから高校くらいは、ちゃんと出て頂戴な」

('A`)「…………」

毎日毎日いじめられるために行っているような高校。
そんなところを出て何になるって言うんだ。
ピアスを開け、髪を染めて、俺のことをいじめる奴より俺は頭が悪いんだ。
大体、こんな風に育ったのは――

J( 'ー`)し「……はぁ……」

そんな風にため息をつくな。

昼の余熱が、まだ胸のうちに残っていた。

外に出てくれるようになった。そんな風に言うな。
そんな風に気を使わないでくれ。そうじゃなくて、もっと、
66 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:28:55.61 ID:9fJO3cbc0
( A )「…………だろ」

J( 'ー`)し「ん? なんだい?」

( A )「そっ、そこはっ!」

――クーの与えてくれた熱だった。

浮遊感に近い、肋骨が浮くような焦燥があった。
壁一枚を乗り越えてしまえば、その先には地獄があることなど見えきっていた。

それでも、いつかは。
いつかは、言わなくちゃいけないことだったんだと思う。



(゚A゚)「そっ、そこはっ! そこはぁっ! そうじゃねえだろおっ!?」

言ってしまった。
みっともなくひっくり返って裏返る、情けない声だった。
ただ、それでも、俺が反抗した事は確かだった。

言ってしまおう。
クーがくれた勇気が冷めないうちに、日々の不満を言ってしまおう。

J(;'ー`)し「……え?」
67 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 20:30:20.84 ID:9fJO3cbc0
(゚A゚)「なんっ、なんで怒らないんだよ!? 信賞必罰は当たり前だろ!?」

J(; 'ー`)し「ど、ドッくん?」

(゚A゚)「ドッくんなんて呼ぶなっ! いつまでも子どもじゃないんだよぉっ!」

いまさら止まることなどできなかった。ブレーキは弾け飛んだ。
今まで決してしなかった母親への反抗。
心の内に秘めていた不満。
嫌なことから、親の言うことから逃げていただけの引きこもりの時には、絶対に言えなかった言葉。
あのころの俺とは違う。

そうだ。違うんだよ、かーちゃん。
俺は、もう、違うんだ。

だから、ジョーカーを切るよ。
俺は今から、言っちゃいけないことを言う。あなたを裏切る。


クーの前で、胸を張るために。


(゚A゚)「そもっ、そもそもっ! あんたがっ、」


――あんたが、そんな風に甘やかすから! オレはこんなに、ダメになっちまったんじゃないのか!?
68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 20:37:23.36 ID:LZUGP5agO
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69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 20:58:51.99 ID:g3aa+HJC0
・・・あれ?保守?
70さるga ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:02:07.94 ID:9fJO3cbc0
J( ー )し「……ドッくん?」

(゚A゚)「オレっ、オレはぁっ! オレは、引きこもりのクズだったじゃないか! そんなヤツ、追い出せばよかったじゃないか!
   どうしてそれをしなかった!? どうしてオレを甘やかしたんだよ!?」

言ってることの無茶は、百も承知だ。
ただ、俺は今、強くならなきゃいけないんだ。
クーの手を引いて、彼女に広い世界を見せるために。
そのためには、俺が変わらなくちゃいけない。

(゚A゚)「オレがこんなになっちまったのは、アンタのせいだ! オレがこんなに苦しいのは、アンタのせいだ!
   全部全部、オレを生んだあんたのせいだ!」

J( - )し「ドッく……ドクオ……」

ことり、と、手がテーブルの上に置かれる。
しわがれた、ささくれきった、働く人間の手。

その意味は知ってるさ。
そうだよな。生きていくためには、そんな手にならなくちゃいけない。
俺が毎日、ろくに噛みもしないで飲み下すメシは、この手がもたらしてくれてる。


けど。


(゚A゚)「オレがどこにいようと! 何をしてようと! あんたが今更デカいツラして何か言う資格なんてねーんだよ!」

俺は止まらなかった。
71さるがものすごい長い ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:02:31.53 ID:9fJO3cbc0
J( ー )し「……ドッくん?」

(゚A゚)「オレっ、オレはぁっ! オレは、引きこもりのクズだったじゃないか! そんなヤツ、追い出せばよかったじゃないか!
   どうしてそれをしなかった!? どうしてオレを甘やかしたんだよ!?」

言ってることの無茶は、百も承知だ。
ただ、俺は今、強くならなきゃいけないんだ。
クーの手を引いて、彼女に広い世界を見せるために。
そのためには、俺が変わらなくちゃいけない。

(゚A゚)「オレがこんなになっちまったのは、アンタのせいだ! オレがこんなに苦しいのは、アンタのせいだ!
   全部全部、オレを生んだあんたのせいだ!」

J( - )し「ドッく……ドクオ……」

ことり、と、手がテーブルの上に置かれる。
しわがれた、ささくれきった、働く人間の手。

その意味は知ってるさ。
そうだよな。生きていくためには、そんな手にならなくちゃいけない。
俺が毎日、ろくに噛みもしないで飲み下すメシは、この手がもたらしてくれてる。


けど。


(゚A゚)「オレがどこにいようと! 何をしてようと! あんたが今更デカいツラして何か言う資格なんてねーんだよ!」

俺は止まらなかった。
72 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:06:10.12 ID:9fJO3cbc0
――――――

そして今、俺は、部屋のベッドの上で膝を抱えている。

かーちゃんは震えて泣いていた。
ただ一言、ごめんね、と言っていた。
母子家庭。女手一つで俺をここまで育ててくれた。
引きこもったときも、何も言わずにご飯を用意してくれた。


ガラスで心臓を貫かれたって、あんなに痛くないに決まってた。


ただ、

('A`)「ふへへ……言ってやった……言ってやったぜ……」

そういう、恐ろしく底の深い、温度のない、比重の高い満足があるのも、事実ではあった。

壁を打ち破った。
それは、閉塞していた箱庭の壁だ。

膝を抱える手に、力を込める。
そうだ。
俺は、ここにいる。

ここから先、俺は、俺の責任で動く。誰にも文句は言われない。
俺の手で、引いていくんだ。
あの綺麗な手を。
73 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:09:11.55 ID:9fJO3cbc0
――翌朝。

俺は堂々と私服で家を出たし、そんな俺に、カーチャンは何も言わなかった。
いや、言えなかった。の方が正しいのかな。
震える小さな肩に、心が痛まなかったわけはない。

お腹を痛めて産み、母親一人で育ててきた息子に『産まれたく無かった!』と叫ばれたのだから。
どれほどの悲しみか、俺にはわからない。
言い過ぎたかな、とは思うが、謝る気など無い。

今、考えれることはクーの事だけだ。

玄関に到着し、自転車の鍵を一旦ポケットに入れる。
靴を履いて玄関を出る。
駐輪所にあるはずの自分の自転車を探し出し、鍵を差し込む。
鍵を開けて、自転車にまたがったところで気が付いた。


('A`)「――待ち合わせ場所、どこだっけ?」
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 21:10:57.22 ID:qX5hdoF70
支援
75 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:11:23.13 ID:9fJO3cbc0
しばらく考えた挙句、初めて出会ったあの交差点以外にあり得ない、という結論に達した。

たちこぎで自転車をこぐ。
いつもと少し違ったルートで。ちょっとだけ遠回りをして。
向かっている途中に学校のチャイムが聞こえたが、無視した。
もう、チャイムは自分には関係ないのだから。

――そしてもちろん、

川 ゚ -゚)「や」

彼女は、そこにいた。

('A`)「よお」

お互いに軽く手を上げ、挨拶を交わす。
周囲の人間が少し、こちらを見てくるが、気にしない。

川 ゚ -゚)「……? 今日は私服なのか?」

('A`)「まぁな。学校、休みだから」

川 ゚ -゚)「さっきから、ドクオの高校の制服を着た生徒をたくさん見るんだが」

('A`)「オレだけ休みなんだよ。自主休講で」

川;゚ -゚)「そんな、単位ギリギリを目指す大学生じゃないんだから……」
76 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:15:04.19 ID:9fJO3cbc0
冗談を交えつつ進むクーとの会話。
壁を打ち破っただけでここまで変わるものなのか。と自分でも驚いた。

('A`)「それよりほら。乗れよ」

こんなに自分は積極的だったかと。

川 ゚ -゚)「……いいのか? ホントに?」

('A`)「構わねって。1日2日休んだだけじゃ、大したことにはならねーんだから」

川 ゚ -゚)「……そうか」

クーが、荷台にちょこんと座った。
今日は一応、それ用に座布団なんか巻いてみてるんだけれど、果たして意味はあるんだろうか。
なんて思いつつ、昨日ネットで調べた『女の子が楽しめるデートスポット』を参考にして、考え付いた場所をクーへと伝える。


('A`)「今日はさ、映画行こうと思うんだよ。今おもしれーのやってんだ」

川;゚ -゚)「わ、わたしお金ないぞ? それに……」

('A`)「……忘れてないか? 誰にも見えないんだから、金払う必要はないだろ」

「またお金を借りるわけには……」と言いたそうだったのでクーが全ての言葉を言い終わる前に言ってやった。
77 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:17:33.32 ID:9fJO3cbc0
川 ゚ -゚)「あ、そうか」

('A`)「よっし、出発だ」


ペダルをこいで、走り出す。
今まで馬鹿にしてきたが、案外ああ言う本は役に立つのかも知れない。
そんな事を思いながら。
交差点は渡らずに。商店街のはずれにある、映画館の方へと向かった。


クーと一緒の一日が始まる。
それは、彼女に広い世界を見せるための、夏の、平凡の外の一日だ。


閉塞した世界から抜け出した記念すべき一日だ。
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 21:20:02.74 ID:qX5hdoF70
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79 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:20:08.25 ID:9fJO3cbc0
数時間後。


俺たちは、パフェがうまいと評判の喫茶店で、差し向かいに腰を下ろしている。
男一人のご来店で、コーヒーといちごパフェという注文に、店員は首をひねっていたけれど。
店員がコーヒーとパフェが俺の目の前に並べた。相変わらず首をひねって。
「パフェは俺じゃないです」と言いそうになったが、クーは他の人には見えないことを思い出し、その言葉を飲み込んだ。

周りに誰も見てないか確認してから、クーはパフェを手に取った。

川 ゚ -゚)「もぐもぐ」

('A`)「……うまいか?」

川 ゚ -゚)「なかなか」

('A`)「そっか」

自分の顔よりもまだ巨大なパフェを、クーはごしゃごしゃ流し込んでいる。
一心不乱というか。悪く言えば欠食児童っぽいというか。

('A`)「ま、喜んでもらえてるならいいや」

川 ゚ -゚)「うん……もぐもぐ」

ああ、見るからに胃の容積より多そうなのになぁ。
腹壊さないのかな。いやそもそも、妖怪にそういう概念があるのかどうかはよく分からないけれど。
80 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:23:48.04 ID:9fJO3cbc0
('A`)「……どうだったよ、映画」

川 ゚ -゚)「ん、面白かったぞ」

('A`)「そっか。上映中、あんまり無反応なんでどうかな、と思ってたんだけどな」

川 ゚ -゚)「ああ、うん。昔からよく言われるんだ、ご飯をもっとうまそうに食べろとか、話をもっと面白そうに聞けとか」

('A`)「…………」


それは、そうかもしれない。
クーの無表情は、明確な二面性を持っている。

冷たさ、というのが。その一片には、確実にある。
話を聞く限り、過去になにかあった訳では無さそうだ。

('A`)「まずはさ、笑ってみたらどうかな」

川 ゚ -゚)「……うん、実は笑う練習をしたことはあるんだ」

('A`)「え、そうなのか? どんなの?」

川 ゚ -゚)「……無理だった」

('A`)「え……? どう言うこと?」

川 ゚ -゚)「……面白くも無いことや、興味も無いことで表情を崩すと言う事が無理だった」
81 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 21:27:03.73 ID:9fJO3cbc0
なるほどね。とは思う。
俺自身、そんな事は良くある。
けど、面白くなくても面白い、興味も無いことでもある振りをする。
嘘をつくことだってある。そんな事が必要な時もある。
嘘も方便と言うだろう。

だから、クーは喜怒哀楽が薄いんじゃない。
面白くないものは面白くない。興味が無いことは興味が無い。
他人に何を言われようが、自分の意思を言える。
クーは素直なんだ。

他人の顔色ばかり気にして生きていた自分には出来ない生き方。
正直、憧れる。

('A`)「いいんじゃない?」

川 ゚ -゚)「え?」

('A`)「クーはそのままでいいんだよ。無理に変わろうとする必要なんか無いさ」

川 ゚ -゚)「そうか……そうだな」
82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 21:27:39.63 ID:g3aa+HJC0
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83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 21:39:20.95 ID:nL0H6zixO
適当に驚いたフリをすれば滞在日数加算されるように原作はなってなかったっけ?
84さる長い ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 22:00:09.31 ID:9fJO3cbc0
ああ、そうだ。
クーの自然な表情は、ちょっとはにかむようなあの笑顔は、最高に綺麗だから。

('A`)(……なんてまぁ、言えるはずねーけどな)

川 ゚ -゚)「む?」

('A`)「ん?」

川 ゚ -゚)「どうしたんだ? こっち見て」

クーが綺麗だから見てました。
なんて言える筈も無く黙っていると、クーが何かを思いついたかのように口を開いた。

川 ゚ -゚)「……あ、食べたいのか、パフェ」

(;'A`)「え?」

どうやら俺がクーの食べるパフェを欲しそうに見ていた様に見えたらしい。
別に欲しくないのだけれど、クーは申し訳無さそうに、言葉を続けた。

川 ゚ -゚)「そうだな。ごめん、わたしばかり食べ過ぎた。ええっと、ちょっとまてよ……」

そう言って、クーは、柄の長いスプーンに器用にイチゴとクリームとスポンジを載せて、

――いやちょっと待て、これってまさか、
85 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 22:00:54.57 ID:9fJO3cbc0
川 ゚ -゚)「はい、あーん」

(;'A`)「マジっすか」

川 ゚ -゚)「どうしたんだ? バランスが難しいから、早くしないと落ちてしまうぞ」

('A`)「あ、あーん」

このやり取り、周囲の人にはどう見えているのだろう。
クーが触っているスプーンなのだから、周囲の人には見えない。
つまり、俺が向かい側の席に向かって口を開けている。と言う事なのか。
そう考えると、急に恥ずかしくなってきたのだが、
スプーンの先に乗ったスポンジが落ちないように必死にバランスを取っているクーを見るとどうでも良くなってしまった。

これ以上待たせると、パフェを落としてしまいそうだったので、
差し出されたスプーンの先に、イチゴやクリームが盛られたパフェを、口に入れた。

川 ゚ -゚)「うまいか?」

('A`)「…………」

恥ずかしさからなのか、現世の境目を超えたからか、
味なんて、分からなかった。
でも、
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/03(日) 22:01:09.72 ID:g3aa+HJC0
しえ
87 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 22:02:08.06 ID:9fJO3cbc0
時間無いや。
どうせ見てる人もほとんど居ないから明日にします。
88 ◆LbLtdVn9Cs :2008/02/03(日) 22:02:30.67 ID:9fJO3cbc0
支援。ありがとうございました。
89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
楽しみにしてるんだぞ!?