60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:38:48.11 ID:Msebil3PO
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:40:25.73 ID:TOzdLLeq0
( ゚д゚ )「しかしまあ、お前の口が安まる時というのはこの世に存在しないのか」
( ゚∀゚)「うっせ。俺はどちらかと言えば先にお前の魂が安らかになってほしいぞ」
( ゚д゚ )「ジョルジュ、ここに眠る。享年二十四歳」
(;゚∀゚)「刀の鯉口を切るな! それ笑えない冗談だから!」
眼がマジすぎて怖い。
ショボンが途中で仲裁に入らなければ、
俺は今頃天使さんから極楽行きを告げるファンファーレを吹かれていたことだろう。
あな怖ろしや。
ふと空を仰ぐと、夜だというのに星はほとんど出ていなかった。
蒼ざめた月がかろうじて見える程度。
発展に限界が訪れ始めて、
今じゃ荒廃しきってしまった機械都市VIPの薄汚れた空は、いつ見上げてもこの通りだ。
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:43:19.15 ID:TOzdLLeq0
いつものように無駄口を叩きながら、三人並んで歩いていく。
この時、俺は柄にもなく二人のことを考えていた。
ミルナは嫌な奴だ。果てしなく嫌な奴だ。
ショボンは欠点はあるがいい奴だ。強調するが『欠点はあるが』いい奴だ。
じゃあ俺は? 俺はこいつらからどう思われてるんだ?
自分の中での俺は、いつだって素敵なナイスガイで在り続けているんだけども。
呟きは闇夜に溶けていった。
第一話 <了>
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:44:38.55 ID:TOzdLLeq0
続いて二話
とりあえずプログラムはどうでもいい事だけはわかった
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:46:23.78 ID:TOzdLLeq0
第二話 「詐欺師の穏やかな一日」
(#゚∀゚)「――――ざっけんなぁぁぁぁぁッ!!」
『ノートン』から送られてきた先日のウィルス討伐に対して支払われる報酬の明細書を確認して、
俺はまず絶句、そして激昂のち絶叫した。
(#゚∀゚)「何だこりゃ、経費を引いたらほとんど残らないじゃねぇか!」
小さな長方形の紙きれに記されていた金額は、
「おいおい、豚の餌も買えないぞ」と突っ込みたくなるほど微小な数字だった。
舐めてるのか。
(#゚∀゚)「あああああ! こんなもの、こんなものッ!」
憤慨冷めやらぬ俺は明細書をびりびりと破り、宙に放り捨てた。
頭上で踊る白い紙片は、冬に舞い散る粉雪のように事務所の板張りの床にはらはらと降り積もる。
不覚にも、悪くない光景だと感じてしまった。
それがまた、神経を逆撫でして余計に腹が立つ。
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:48:44.06 ID:TOzdLLeq0
俺は怒りに任せて応接用の金属製テーブルをバンと叩きつけ、
呪いに満ちた謎の言語を呻きながら古びたソファに深くもたれかかった。
まだ腹の虫が治まらない。
厭世的になって大きく溜息を吐き、肩と首をポキポキと鳴らすと、急に脱力感が込み上げてきた。
事の発端は昼食後に起きた突然の悲劇にある。
生野菜と焙りベーコンをライ麦パンで挟んだ自家製パニーニに豆のチリソース煮という、
いつもと代り映えのしない料理を平らげた後、例の糞郵便物が届けられた。
茶封筒に丁寧に入れられた、悪夢の具象物体だ。
俺もその時は結果を知らなかったので期待に胸弾ませて開封したのだが、見事に裏切られた。
現実とは残酷である。
書かれていた額は想像以上の少なさであった。
金額を目にした瞬間、俺の魂は確実にパライゾの蒼い空へと旅に出たに違いない。
俺が正気を取り戻さなければ二ヶ月は彷徨い続けていたことだろう。
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:50:59.22 ID:TOzdLLeq0
首の骨をもう一度鳴らす。軋むような音色がした。
(´・ω・`)「まあまあ、落ち着いてよ」
俺の気を知ってか知らずか、食後の片付けを終えたショボンが俺の対面の席に座った。
(´・ω・`)「確かに報酬が小額なのは僕も不満だけどさ、
努力もなしにぼやいたって進展なんかあるわけないじゃないか」
ショボンが俺をなだめる一言をかけてくる。
こいつは尋常ならざるドケチだが、収入の少なさにはさして文句を言わない。
勿論、多いに越したことはないと考えてはいるだろうが。
ただどちらかと言えばショボンにとっては支出を抑えることが生き甲斐であり、
いくら実入りが乏しくとも節約しさえすれば何も問題ない、というのがこいつの自論らしい。
( ゚∀゚)「つってもよぉ、ウィルス駆除の対価にしては安すぎんだろ。
こんなんだから弱小事務所から脱出できねぇんだよ」
黒みがかった鉄筋コンクリートの壁に貼られた、
まったく仕事の予定が埋まっていない真っ白スカスカカレンダーを見つめながら、ショボンに返答する。
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:53:08.91 ID:TOzdLLeq0
空白の日付表。
とにかくやることがない。ひたすらに閑である。
何か血沸き肉躍るようなイベントがあれば幾分かマシなのだろうけど、それすらもない。
いや、あることにはあるのだ。
特別大きな催し物が。
来月頭、都市VIPの中央広場にて市民集会が大々的に執り行われる。
しかし生憎、俺は市長の催眠演説を長々と聴いていられるほどの仏様のような根気強さは持ち合わせていない。
よって不参加の方向で。
( ゚∀゚)「『金はあるに越したことはない』。お前だって偉大なる先人たちの教えは分かるだろ」
(´・ω・`)「そりゃあ、否定する余地はないけどさ」
ウィルス駆除に限らず、要所の警護やボディーガードでも何でもいいから、
隙間産業的な依頼が舞い込んだりでもすればいいのだが。
無論、ハイリターンの。
出来れば、ローリスクの。
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:55:33.53 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「この事務所を見りゃ分かるだろ、うちの貧しさぐらい」
俺たちの事務所は古い家屋を買い取って設けたために、部屋はレトロな雰囲気を醸している。
言い方を悪く、というか普通に表現すれば老朽化しているとも言えるが。
( ゚∀゚)「ご覧あれ、ショボン陛下様。我が国の惨状を!」
(´・ω・`)「毎日イヤっていうほど見てるよ」
古臭い木張りの床。過剰に金属が使われていない室内。
今にも落ちてきそうな電飾。広く開かれた窓。それらにそぐわない文明の利器の数々。
プラス、ちょっぴりのボロさ。
( ゚∀゚)「陛下、我らが民のために涙を流してくださりますか!?」
(´・ω・`)「というより、何で僕が陛下なのさ?」
( ゚∀゚)「だって財布握ってるのショボンじゃん。王様みたいなもんだぜ」
俺は投げやりに悪態を吐いた。
肩を揉みながら発した声は、微妙に間の抜けた響きになった。
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:57:13.50 ID:TOzdLLeq0
いくら衰退期とはいえ、本当に機械時代の中で生まれた建造物かよと疑いたくなる。
設立当初金が不足していたせいで、あまり大幅に改装できなかったのも原因ではあるのだけれども。
だが俺はこの内装は嫌いではない。
少なくとも、強烈な鉄の臭いがしないだけマシだ。
( ゚∀゚)「畜生、これだから大手は……理不尽な中間搾取をしやがって……」
( ゚д゚ )「嘆いたって仕方あるまい。今回は運が悪かったと思って諦めろ」
聞き慣れた声が鼓膜に響いた。
声の主はミルナ。
製品名『ミルナ』と付けられた酸素吸入式二酸化炭素製造機搭載型温暖化促進装置だ。
栄光の技術力を誇るVIPが生んだ超高機能排気機関。
要するに邪魔者である。
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:58:08.27 ID:GTW8v6TsO
>>60 「されど罪人は龍と踊る」てラノベ
化学式をガンブレード型の演算装置で算出し具現化する「咒式」がプログラムの元ネタ?
一番よく使われる咒式はTNT爆薬を精製して直線方向爆破する爆裂炸(アイニ)とか、
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 22:58:25.93 ID:TOzdLLeq0
居住区になっている二階から泰然と下りてきたスーツ男は、
こちらの様子など我関せずといった風に一人黙してゼンマイ式の時計を磨いていた。
こいつは時計コレクターなのだ。大層なご趣味だこと。
( ゚д゚ )「今のお前はひどく醜いぞ。金に不平など俗すぎる」
( ゚∀゚)「なんだって?」
( ゚д゚ )「もう耳が遠くなったか。醜悪って言ったんだよ」
( ゚∀゚)「微妙にニュアンス変えるなよ!」
俺の怒り再燃。
第二ラウンドのゴングが鳴り響く。
( ゚∀゚)「カーン!」
( ゚д゚ )「何だその知能指数の低そうな奇声は。ついに精神を病んだか」
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:00:23.99 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「てめぇは聖人か? 金銭面の不具合を嘆いて、より豊かな暮らしを求めて何が悪い!
むしろ人間として正常だっつーの、お前はヒトを早期引退したのか?」
先制攻撃。
( ゚д゚ )「猿に説教される筋合いはない。
第一だ、俺はそこまでして生活面を向上させたいと思わん。
お前のような世俗な凡人には苦痛で苦痛で堪らんのかも知れんがな」
ナイスカウンター。燃えてくる。
( ゚∀゚)「そんなこと言ってもよ、精進だけじゃ腹も舌も満足しねーんだよ。
お前も肉とか食いたいんだろ。こう、厚さ二センチぐらいの」
( ゚д゚ )「俺は魚派だ」
( ゚∀゚)「なんと!」
想定外。
作戦を練り直さねば、などと慌しく考えている間にミルナが続ける。
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:02:24.08 ID:TOzdLLeq0
( ゚д゚ )「どこのモノとも分からん雑魚と適当な野菜屑を、
簡単に塩胡椒で味付けしたトマトソースで煮込んで食すだけで十分美味い。
贅沢とは結局自分自身の感じ方で決まるもんだ」
( ゚∀゚)「うっわぁ、ここに老人がいますよ!
流石偏屈ジジイの言う事は違いますね! 含蓄が!」
( ゚д゚ )「俺とお前の歳は一つしか変わらんぞ!」
( ゚∀゚)「うっせー、俺は四捨五入すれば二十歳だ。お前は三十路になるだろ」
痛いところを突いてやった。多分。
( ゚д゚ )「貴様、普段は先輩面を吹かすなと言っておきながらっ」
( ゚∀゚)「精神年齢は俺の勝ちだけどな。こんな雑言でムキになりやがって」
効果的な追い討ち。
( ゚д゚ )「精神年齢が上? お前が?
報酬の額にうだうだと愚痴を垂れ流す幼稚な糞餓鬼がか?」
( ゚∀゚)「大人であればあるほど金の有難味が分かるってもんだぜ、馬鹿侍!」
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:04:29.51 ID:TOzdLLeq0
ここで決めてやる、とばかりに俺は大きく息を吸い込み、喉の奥を震わせた。
(#゚∀゚)「いちいち突っかかってくんなよ、俺の意思を尊重してくれてもいいだろ!!」
俺が反抗心剥き出しで怒鳴った刹那、
ミルナが視認できないほどの手の早さで机上の『哀悼』を抜き、その無頼な刃を走らせた。
(;゚∀゚)「おおぅッ!?」
反射的にぐっと仰け反ると、俺の喉に達する間際で熱量のない銀色の弧が描かれた。
その正体が網膜に焼き付いた斬軌道だと理解するまで、およそ二秒。
一寸の躊躇いもない太刀筋に、俺は背筋に悪寒を覚えた。
それこそ凍るような。
冷や汗がこめかみから流れ顎を伝う。
( ゚д゚ )「ちっ、仕留め損ねたか……」
(;゚∀゚)「お前はアホかっ、すぐに武力行使に打って出るな! この天然殺戮兵器ッ!」
こんなところでこいつに斬られて死のうものなら、冗句では済まされない。
俺の意気は崩れた岩石が崖から急角度で転がり落ちていくように、みるみる消沈していった。
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:04:46.67 ID:Dd6WfDnK0
内容おもしろそうだから
読みにくさとか、説明描写がんばれ
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:06:37.10 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「お前今掟破りの技使ったからな、俺の勝ちだからな」
( ゚д゚ )「勝手にしろ」
俺は姿勢を正してソファに掛け直し、ミルナは憮然とした表情のまま時計の手入れに戻った。
先程まで速射砲のように飛び交っていた会話が一気に絶えた。
険悪な空気。
ミルナの手の中にあるビンテージ時計の針が進む抑揚のない音だけが聴こえる。
ほぼ無音の世界。
(´・ω・`)「ジョルジュ、ミルナの弁にも一理があるよ」
それをショボンが切り裂いた。
俺にとっては最悪な、仇敵ミルナへの肩入れだったが。
( ゚∀゚)「おいおいおい、ショボンまでミルナに加勢するのかよ」
(´・ω・`)「そうじゃなくて、現状を憂いたってしょうがないってこと」
ショボンは声に少し力を込めて、眼差しにも真剣みを帯びさせて俺に忠言する。
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:08:06.35 ID:TOzdLLeq0
(´・ω・`)「だからさ、『ノートン』に掛け合ってみるとか、何かしらの手段をとってみたらどうかな」
( ゚∀゚)「ふぅむ、成程。成程成程」
ショボンの助言を頭の中で咀嚼し、心中で反芻する。
間接的にはミルナの助言であることが癪に障る、
ひいては自殺したいぐらいに鬱になるが、確かに納得すべき点もある。
( ゚∀゚)「決めた。俺、これから苦情をぶち撒けに行ってくるぜ!」
( ゚д゚ )「おうおう行ってこい。そして幸運にも警備員に叩き殺されてこい」
(#゚∀゚)「交渉が成功しても、お前には分け前は絶ッッッ対やんねぇ!」
突然遺産相続会議に現れた見知らぬ親戚に言うような口調で吐き捨てて、
俺は鞘に封じられた演算機『グラマラス』を掴み取り、腰に下げた。
( ゚∀゚)「俺の舌の有能っぷりを見せつけてきてやるよ」
玄関の、外見だけは無駄に立派な拵えのドアを押すと、錆びた蝶番がキィと甲高い音を立てて軋んだ。
靴底を鳴らして一歩外に踏み出すと、
窓から取り込んだ分よりもずっと多量の日差しが降り注ぎ、俺の角膜を焼いた。
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:09:58.88 ID:TOzdLLeq0
※
そびえ立つ堅牢な鋼の門を過ぎて、
白らかな陽光をガラス張りの壁に反射させて爛と輝く超高層ビルの前に俺は立ち尽くした。
業界最大手のウィルス討伐会社『ノートン』。
社員約一八〇名。社屋二七階建。実績、実力共に申し分なし。
総統の異名をとる社長シブサワが一代で築き上げた、業界シェアナンバーワンの大企業である。
当然俺たちの事務所『アヴァスト』など足下にも及ばない。
影さえも踏めない。
背中は遥か彼方、地平線の向こうまで歩かないと見えてこないといった次第である。
( ゚∀゚)「さて」
だが今回の抗議に遠慮はいらない。それとこれとは話は別だ。
決して安くない運賃を支払ってまで転移プログラムシステムを利用してここに来たのだから、
思いの丈を真正面からぶん殴るくらいの勢いでぶつけてやる。
俺は意気揚々と玄関口まで闊歩していった。
80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:11:49.17 ID:TOzdLLeq0
都市VIPの中心部は企業ビルと工場と機械施設で溢れている。
システムの設置場から『ノートン』社へと行くまでの間、
呼吸をする度に新鮮な鉄の臭いが嫌でも飛び込んできていた。
歩道脇に立ち並んだ無骨な建築物を凝視すると、
快適さや景観をまるで考えていない設計であるのが素人目にもよく分かる。
多数の曲線直線を彩りとし、大小様々な直方体を積み重ねて造られたような都心の外観は、
洗練されてはいるが随分と無機質で面白みに欠ける。
有り体に言えば、「いろ」がないのである。
鉛色の世界。
ここだけ近未来の情景を切り抜いて貼り付けたかのような、けれど希望を見出せない街の姿。
現市長の方針で機械依存型社会体制は解体の方向で進められているのだが、
俺には余計なお世話にも思える。
そのせいで、逆にVIPの荒廃を加速する破目になってしまっているからだ。
新しい社会体制を一から作り上げるのにどれほどの時間と労力を要するのか、検討もつかない。
どっちにしろ、賛否の分かれる政策であることは間違いないだろう。
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:13:59.12 ID:TOzdLLeq0
……とまあ色々と小難しく現状をありったけ嘆いてみたが、これじゃ社会に対しての不平不満だ。
規模がでかすぎる。
こんなもん、自称革命家が拡声機片手に街頭で主張するような内容じゃないか。
とにかく、俺が訴訟すべきなのは「給金がカスすぎるぞ超絶強欲野郎」という事項だけだ。
なんてシンプル。
こんな具合にくだらない思考巡りをしているうちに、玄関まで辿り着いた。
やたら壮大な自動ドアの前には二人の警備員が立ち、俺に奇異の目を向けていた。
どちらもぴしっとした濃紺のスーツを身に纏った若い男である。
( ゚∀゚)「『アヴァスト』の人間だ。シブサワに会わせてくれ」
「「お引き取り下さい」」
お願いしていない御唱和。
「社長は現在ご多忙のため、面会の申し出は拒否するようにと承っております」
右側に立つ男が他人行儀な、まあ実際に他人なのだが、ひどく冷淡な口調で説明した。
もっともな理由だが、こんなことで引き下がるわけにはいかない。
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:15:43.02 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「まあまあ、そんなに時間は取らせないからいいじゃないか。
ちょっと報酬の上乗せを交渉するだけだから。な?」
くだけた調子で話しかけた――――それが裏目に出たか。
「申し訳ございませんが」
片方の警備員がそう呟いた瞬間、両者の演算機が抜かれ俺の鼻先に突きつけられた。
一瞬で肝が冷やされる。
動けない。
上体を少し揺らすだけで、双方から斬りかかられそうな気配がある。
「社長の指示ですので」
(;゚∀゚)「ちょっ、おま、こんなとこで武器を使うな! つかお前らプログラムも練っているだろ!」
「あまり長居しますようですと、警察を呼びますが」
(;゚∀゚)「汚ねぇぞ! 究極の力『権力』を持つ公安の手を借りるとは!」
どこまで卑怯なんだ、と続けようとしたが、警備員の握る長剣の先端がさらに俺の顔面に接近。
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:16:50.54 ID:nSITe2XjO
とりあえず支援
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:17:57.29 ID:TOzdLLeq0
堪らず一歩後退する。
今度は、下がっていなければ眉間を突き破られていたかも知れない抗撃だった。
(;゚∀゚)「お前らは限度というものを知らんのかッ!」
「「お帰り願います」」
驚くほど綺麗なハーモニーで紡がれた言葉は、要約すると門前払いの御達しである。
聞く耳持たず、ってことか。
というより、これ以上粘着すると俺の命の危機に瀕しそうな気がするのだが。
( ゚∀゚)「死ね! 社屋が倒壊してその瓦礫に圧し潰されて死ね! 死ね死ね死ねッ!」
去り際にしこたま暴言を吐いて、敷地内に唾まで吐いて、俺は振り返りもせずに走り去った。
別名、逃亡。
真名を敗走という。
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:19:48.39 ID:TOzdLLeq0
※
自動転移プログラムシステムで瞬間的に移動し、我が住み慣れし町に戻ってきた。
VIP中心部とは違う、寂れた情景が侘しくも暖かい。
町は崩壊五、六歩手前である。
以前はここも中央の街とさほど変わらない景観を維持していたそうだが、
それは俺が生まれる以前のお話なので半信半疑でしかない。
色褪せた灰色と茶色が入り混じった、廃れ具合を象徴する薄汚れた建造物コレクション。
外壁にはそこかしこに鉄板で補修した形跡がある。
レンガなどという、旧世紀の遺物を一部建材として使用した住居まで存在していた。
そんな下手すれば二世代は前程度の繁栄しかしていないようなチンケな場所だが、
行き交う人々の表情はヤケクソなのかと邪推してしまうぐらい明るかった。
滅びの美学っていうヤツか。いや、よく分からないけれど。
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:21:47.94 ID:TOzdLLeq0
とりあえず只今のジョルジュさんは『ノートン』でのムシャクシャがしぶとく継続しているので、
この、導火線のない爆弾じみた気分を吹き飛ばすために何かしら行動しなくてはならない。
謎理論だとは自分でも承知。
でもだ、哲学ってのはきっとこんな風に飛んだ思考回路をしていなければ理解できないに違いない。
なんという苦行の道。
理不尽とはかくも強大なり。
やべぇ自分でも何言ってんだか分かんねぇ。
……前置きが長くなったが、要するに俺は酒で気を紛らわせたいのだ。
そこで行きつけの飲み屋に入ることにした。
事務所から少し離れたところ、大通り沿いにある馴染みの店。
掲げられた看板には崩した字体で『くおり亭』と、見慣れた文字が書かれてある。
引き戸を開け、軽く挨拶をしつつ入店する。
(`・ω・´)「いらっしゃい、何名……ってなんだ、ジョルジュか。よく来た」
大柄な体を縮こまらせてカウンターで自慢の包丁を揮っていた店主のシャキンが、
手を休ませることなく調理を続行しながら俺に朗々とした笑顔を向けた。
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:23:57.44 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「よっ。久々だな」
(`・ω・´)「何が久々なもんか。つい三日前に来たばかりだろうが」
( ゚∀゚)「ああ、そうだっけ?」
俺はとぼけたフリをした。
(`・ω・´)「さっき俺が『よく来た』って言っただろ。
『よく』ってのにはな、頻繁にっていう意味もあったんだぜ」
( ゚∀゚)「むしろそっちが大本命じゃねぇか」
他愛もないシャキンとの談笑を終えカウンター席に座り、店の造りに一瞥を投じる。
床、壁はやはりコンクリートにアルミプレートを張り付けただけの代物だが、
椅子やテーブルなどの設置物は珍しく木製であった。
木の家具を用いている店はここぐらいなものである。窓辺には、花が飾られていた。
一通り店内の雰囲気を満喫した後で、置かれたメニューに目を落とす。
88 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:26:07.32 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「地麦酒をグラスで、それから適当なあてを頼む」
(`・ω・´)「昼から酒とな?」
シャキンが軽く口角を上げ、薄笑いを作って俺を見てくる。
( ゚∀゚)「うっせー、飲まなきゃやってらんねーんだよっ」
(`・ω・´)「ふぅん。何があったんだか、な」
お節介な店主は意味深気に呟いた後、グラスに琥珀色の液体を注ぎ始めた。
何を勘ぐっているのかは知らんが、大した事じゃねぇぞ。ホントに。
(`・ω・´)「ほれ」
グラスをシャキンから受け取り、俺はすぐに口を付けて喉を数回鳴らした。
よく冷えている。
麦芽の芳しい香りとホップ独特の苦味が口一杯に広がり、すっと鼻から抜けていく。
一気に飲み尽くすと、痺れるような感覚が喉の奥で自己主張を始め、舌には心地良い余韻だけがあった。
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:27:55.76 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「もう一杯!」
(`・ω・´)「お前、早死に確定」
嫌味を言いながらシャキンが小皿を手渡してきた。薄くスライスされたサラミが並べられていた。
( ゚∀゚)「……ん? おいおい、なんか普段より薄くないか?」
盛られているうちの一枚を指先で抓み上げながら、悪党っぽくクレームをつけてみる。
( ゚∀゚)「まさか……この店にも不況の煽りがっ!」
(`・ω・´)「お前の発言、全部裏を衝いているぞ」
シャキンは俺からグラスを取り上げ、また地麦酒を泡が零れそうになるまで注いだ。
グラス満杯の麦酒を、今度は塩味の利いたサラミをつまみつつゆっくり飲むことにする。
(`・ω・´)「仕事に不満でもあるのか?」
部下を気遣う上司の口調でシャキンが訊いてきた。
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:29:15.75 ID:rZOsLKN30
C
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:29:58.76 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「不満、ねぇ……まあ当たらずも遠からずだけど」
(`・ω・´)「いや、俺も予想で喋ったんだけどよ。
俺はプログラムとやらがまったく分からんから、お前の職にどうこう言えないからなぁ。
……大体、『プログラム』ってどんなモノなんだ?」
( ゚∀゚)「魔法だよ。平たく言ってしまえば現代の魔法」
サラミを一枚口に放り込む。
( ゚∀゚)「ファンタジー小説とかでよくあるじゃん?
魔術師がドッカンドッカン派手に魔法を操ってるの。それとほぼ同じだよ。
呪文の詠唱の代わりに、脳内でソースコードと呼ばれるプログラム構築式を組むんだ。
んで杖の代わりが、媒介となる演算機ってとこかね」
(`・ω・´)「へー」
素っ気ない返事。
( ゚∀゚)「おま、質問してきておいて何で仏頂面なんだよッ」
(`・ω・´)「いやぁ、全然興味が湧いてこなかったから。終盤は聞いてなかったし」
( ゚∀゚)「時代が時代ならここで斬り捨ててるぞ」
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:31:56.58 ID:TOzdLLeq0
俺の冗談に、まあ半分本気だったのだが、
シャキンは目を細めてこっちが清々しくなるくらいに小気味よく笑った。
俺はこの数十秒間の記憶をなかったことにして、また一人酒に没頭。
するとだ、店奥のテーブルを片付けていた女店員が、こちらに歩み寄ってきた。
ミセ*゚ー゚)リ「ジョルジュさん、あんまり飲み過ぎると体に悪いですよ……」
消え入りそうな、華奢な体相応の声。
『くおり亭』看板娘(シャキン談)のミセリである。胸には雄大な平地が広がっている。
( ゚∀゚)「うるせぇ、俺の体がどうなろうと俺の責任なんだからいいだろ」
俺はこいつが苦手だ。
この威勢のいい暴言だって、実はただの虚勢。
あっちにいけ光線を全身の毛穴から放出しているのだが、虚しくも今のところ効果なし。
ミセ*゚ー゚)リ「そんな、体が資本のお仕事ですのに……」
( ゚∀゚)「頼むからほっといてくれよ」
突き放す。
され竜の完全劣化版じゃん
設定とか文章とか何よりギャグのセンスをもっと頑張りましょう^^
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:33:59.27 ID:TOzdLLeq0
傍目から見れば、俺がミセリをいじめているだけのように思えるだろう。
だが俺はあえて傍観者たちに言いたい。
俺の立場になってみれば、お前らも同じ行動をとらざるを得なくなるぞ、と。
ミセ*゚ー゚)リ「でも……」
ああ、このままではマズイ。
変な感じの追い込み方になってしまった。
カウントゼロになるまでに、俺からこいつを遠ざけなければ。
そう思い、俺は大声で怒鳴った。
すまんミセリ。別に心の底から嫌悪してるってわけじゃないんだ。誤解しないでくれ。
( ゚∀゚)「でもじゃねぇ! 俺に構うな! 向こうに行け!」
その瞬間。
ミセリの両目が泳ぎ、まったく見当違いの方向を見つめ始めた。
(;゚∀゚)「あっ、やべ……裏目?」
失敗だった。
95 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:35:55.08 ID:TOzdLLeq0
(`・ω・´)「終わったな」
御愁傷さまの意を込めたシャキンの眼差しが、優しくて、だけど悲しくて。
ミセ* ー )リ「…………」
暫くの沈黙の後、ミセリの意識が復活した。
そして二つの青くつぶらな瞳が、かっと開かれる。
局所的轟音炸裂兵器搭載式人造人間『ミセリ改・超々攻性型はいぱー』、出現。
ミセ#゚ー゚)リ「てめぇぇぇぇ! 人が心配してやってその態度は何だ、あぁん!?
死にてぇのか!? 若くして死にてぇのか!?
肝臓が糞尿のような色になって腹ン中グチャグチャの状態で墓に入りたいのか!?
いっそ今すぐ俺がここで殺してやろうかッ!? あぁ!!」
怒号が『くおり亭』の狭い店内全域に渡って響いた。
デシベル測定装置があったなら、多分いや絶対壊れてた。確信アリ。
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:37:47.97 ID:TOzdLLeq0
凄まじい反響に、鼓膜が破れるどころか外耳中の耳殻まで粉微塵にされるかと思った。
(;゚∀゚)「落ち着け! 鎮まれ! 悪霊退散、悪霊退散!」
そう、こいつは二重人格なのだ。
ミセリがこうなってしまったら、もうどうしようもない。
あとは野獣彷彿の極大の叫び声に耳がイカれてしまわないよう願うのみ。
俺はミセリがこっちのモードに切り替わらないよう心を鬼にして努力していたというのに、致命的ミス!
ミセ#゚ー゚)リ「ああ、どうなんだ! 選べ、でっど・おあ・あらいぶッ!!」
(;゚∀゚)「ひぃッ!」
と、ミセリに胸倉を掴まれかけた時である。
短い静寂の合間を縫って、
景気よくパラパラピリリプルルルルと、場にそぐわない能天気な着信音が流れた。
俺の携帯電話が鳴っているのだと、即刻気付いた。
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:39:10.09 ID:TOzdLLeq0
役目を終えた携帯端末をたたんで懐に仕舞い込み、
恐いもの見たさで肝試しに臨む純粋無垢な少年のような心境で恐る恐るミセリに視線を戻すと、
もう既にチャンネルが切り替わっていた。
ミセリは顔に気恥ずかしそうな色を浮かべて、店の裏に駆け込んでいった。
(;゚∀゚)「ああ……解放か……」
とりあえず一安心。
そしてすぐに椅子から立ち上がり、貨幣を数枚取り出して支払いを済ませる。
(`・ω・´)「毎度ご贔屓に」
シャキンは俺から受け取った清算金を編み籠に放り入れながら、ふと頬を緩めて語りかける。
(`・ω・´)「しかしまあ、どうしてお前がこの店を気に入ってるんだか分からんな。
ミセリに何度も聴覚の危機に遭わされてるくせに」
( ゚∀゚)「そんなの単純だ」
入口から出口に性質が変わった扉へと歩きつつ、俺はシャキンのほうを振り返ることなく言葉を継いだ。
( ゚∀゚)「ここは鉄の臭いがしないからいいんだよ。
鉄ってのはな、流れたばかりの血の臭いがするんだ」
台詞を言い切るより早く俺は扉をくぐっていた。
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:40:32.06 ID:TOzdLLeq0
※
事務所に帰ると、『カスペルスキー』の社長モナーが接客用のソファに腰掛けていた。
その左隣には見覚えのある社員、対面には見覚えがありすぎて困る人物約二名、
つまりうちの所員であるミルナとショボンが机を挟むようにして座っていた。
( ´∀`)「待ってたモナ」
老いたモナーの顔には幾分か皺が刻まれていた。
前回会った時よりも増えたような気がする。
( ´∀`)「周知のことだとは思うけど、一応名乗っておくモナ。
私は『カスペルスキー』社長のモナーだモナ。よろしくモナ」
モナーはソファから腰を浮かせて、やけに丁寧に頭を下げて自己紹介を交えた挨拶をした。
相変わらず不可思議な話し方だ。
『カスペルスキー』社といえば業界でも老舗である。
近年では、開発研究部門に力を入れているとかいないとか。
曖昧な言い方をやめると、いるとか。
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:40:46.24 ID:4R8jpMqb0
94 名前:あぼ〜ん[あぼ〜ん] 投稿日:あぼ〜ん
95 名前:あぼ〜ん[あぼ〜ん] 投稿日:あぼ〜ん
96 名前:あぼ〜ん[あぼ〜ん] 投稿日:あぼ〜ん
97 名前:あぼ〜ん[あぼ〜ん] 投稿日:あぼ〜ん
98 名前:あぼ〜ん[あぼ〜ん] 投稿日:あぼ〜ん
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:42:16.94 ID:TOzdLLeq0
俺もソファに尻をつけた。
( ´∀`)「あまり時間も取れないから、早速本題に入るモナ」
袖を通していた上着を脱ぐ暇もなく、交渉に入る。
( ´∀`)「……実は、数週間前から我が社がある町にウィルスが大量発生しているモナ」
( ゚д゚ )「その駆除が『カスペルスキー』の力だけではとても追いつかない、
それで俺たちを頼る、ってことか」
ミルナがモナーの話を先読みし、続きを述べた。
モナーはくすんだ銀色のテーブルに両肘をつけて手を組み、その上に顎を乗せて答える。
( ´∀`)「その通りだモナ……でも、まだ続きがあるモナ」
モナーの声は極めて平静である。
( ´∀`)「ウィルス駆除は『カスペルスキー』と共同でやって欲しいモナ。
我が社の問題であるのに何もしないというわけにはいかないので。
お願いできるかモナ?
あっ、もちろん報酬は弾むモナ。そちらが希望する額を払うつもりで……」
俺はそこでモナーの弁明を遮った。
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:44:13.06 ID:TOzdLLeq0
( ゚∀゚)「それさぁ、『アヴァスト』が手出しせずともソイツ一人で十分対応できるんじゃねぇの?」
俺はモナーの横でくつろぐ女を――――ハインを指差した。
从 ゚∀从「アタシ一人で? 無茶言うなよ」
前髪を掻き上げ碧眼を凛と見せつけながら、女戦士はせせら笑いを零す。
『カスペルスキー』営業部署員、ハイン。
乱雑に切られた秀麗な金色の髪が、しかしながら彼女の容貌によく似合っている。
化粧っ気のない顔。
その中で、一際目立つ紅い口唇。
目尻の吊り上がった中世的な顔立ちは、女性的な柔らかさとは対極にある鋭さを漂わせている。
にも拘らず、全体の印象は綺麗としか云い様がない。
丈の長い、ごく薄い灰褐色のコートを羽織り、
その下には黒いタンクトップと、膝上で破れたハーフパンツをいちどきに覗かせている。
タンクトップはハインの体に密着していて、乳房の形を強調させていた。小ぶりだが。
102 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:46:06.56 ID:TOzdLLeq0
从 ゚∀从「いくらアタシでも出来る事と出来ない事があるぜ。
どこぞのバカみたいに無鉄砲じゃないんだよ」
( ゚∀゚)「ほう、そうは見えないけどな。例えば?」
从 ゚∀从「まあ出来ない事の代表は、ジョルジュとの性行為とか」
茶も何も含んでいないのに、得体の知れない液状化物質を噴き出しそうになってしまった。
从 ゚∀从「だってお前、目つきがやらしーもん。胸ばっかり見やがって」
(;゚∀゚)「アホかッ、こっちからお断りさせてもらうっての!」
从 ゚∀从「しかも何かアルコール臭いし。
昼から飲酒とか、底辺のそのまた底辺の人間の所業じゃん」
( ゚∀゚)「うっせぇ! 本当に犯すぞ!
二十四時間をちょっと過ぎるぐらいまでの時間休むことなく犯し続けるぞ!」
从 ゚∀从「そんな持久力ないだろ、早漏」
男として物凄くショックな一言を俺に浴びせて、ハインは歯を見せて明朗に笑った。
早漏ではないことを立証したいのだが、この場で証明する訳にもいかないので、泣く泣く断念。
103 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:48:13.50 ID:TOzdLLeq0
(´・ω・`)「まあまあ、商談に戻ろうよ」
崖の上から冬の海を独り望んでいるかのような悲しみに打ちひしがれている俺を、
ショボンが背中を軽く叩きつつ優しくなだめてくれた。
ミルナは無言のまま俺に冷たい視線を投げかけていた。体感温度、マイナス五〇度。
( ゚∀゚)「……おほん」
顔を上げ、小さく咳払いをした後で、一つ疑問に感じたことをモナーに問うてみる。
( ゚∀゚)「なんで駆除の手伝いごときに、わざわざ離れた地区にある俺たちの事務所を選んだんだ?
『アンチウィル』や『エーヴイジー』のほうが近くてお手軽だぜ」
( ´∀`)「それは」
そこで一旦言葉が切られる。
( ´∀`)「それは私が皆さんの腕を買ってるからだモナ。
一番最初に『アヴァスト』に下請けを頼んだ時から、その実力に惚れこんでいるモナ」
( ゚∀゚)「ふぅん、そうですかい」
モナーの応答はやや歯切れが悪かった。
隣でミルナが不信感に満ちた苦々しい顔をしている。あ、元からか。
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:48:55.04 ID:EGAPiVNOO
追い付いた
支援
105 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:50:05.74 ID:TOzdLLeq0
だけど、だ。
モナーの思惑がどうであろうと、俺が選択すべき返事など既に決まっている。
( ゚∀゚)「うちとしても仕事が入るのは有り難い。アンタのオファーを受諾するよ」
利害を再度考慮した末、俺は了解することにした。
何せ、明日以降のスケジュールがまったく埋まっていないのだから。
割と切実な状況だったので、今回モナーが依頼をしてきたのは助かる。
しかも条件もいい。
手を貸す程度の働きでいいということは案外楽できる筈。
さらに言うと、戦闘力ではなく人員不足が問題なのだから、当のウィルスも大した強さではないのだろう。
勿論この先のことは分からないが、
傾向から言って、これまでが弱い種類であったのに、いきなり強大な輩が発現するとは考えにくい。
( ゚∀゚)「謹んでお受けするぜ」
( ´∀`)「おお! いやはや、感謝するモナ」
モナーが俺の手を取って強引に固く握った。
年寄りの握力か、これ。
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:53:02.63 ID:TOzdLLeq0
从 ゚∀从「社長、こんな奴に鄭重になる必要ないって。だって早漏だぜ?」
(#゚∀゚)「だから違うわい! つか早漏イコール論外の構図はお詫びして訂正しろ!」
男の人権を主張する俺とニヤニヤ笑うハインを手で制しつつ、モナーが口を開く。
( ´∀`)「出現時間を場所は当社の研究部員たちが操作プログラムを使役して絞ってあるモナ。
四日後の午後、『カスペルスキー』本社がある町に置かれた教会。
そこに三人で行ってくれモナ。
こちらからはハインと、何人かの営業部員を派遣するので」
( ゚д゚ )「ああ、あの教会のことか」
ミルナが顎を突き出して相槌を打った。
説明された教会とは、おそらく町の片隅に建てられた朽ち果てた聖堂のことだろう。
まだあったのか、というのが正直な感想だ。
あそこは今じゃ――――これも最早過去の情報なのだが、祈りを捧げに来る人など滅多におらず、
挙式と葬式ぐらいにしか使われていなかったと記憶している。
107 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:54:24.63 ID:TOzdLLeq0
ともかく、話はまとまった。
( ´∀`)「それじゃ、よろしくお願いしますモナ」
( ゚∀゚)「いえいえ、こちらこそ」
最後に社交辞令を交わすと、モナーはゆっくりと重い腰を上げてハインと共に事務所を出ていった。
去り際にハインが舌を出していたような気がしたが、蜃気楼だったと思い込むことにする。
( ゚∀゚)「ふぅん、四日後に教会で、ねぇ……」
モナーの言葉には何か漠然と引っ掛かる部分があったが、
俺はひとまず机脇のペン立てに刺さってあった赤い油性マジックを手にカレンダーへと向かい、
四日先の日付に大きく丸を描いた。
空っぽの白紙だった哀れなカレンダーが少しだけ華やかになった。
本当に、少しだけだが。
第二話 <了>
108 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/22(火) 23:55:15.61 ID:TOzdLLeq0
今日はここまで
ありがとうございました
109 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
いちおつ