( ^ω^)と冬の潮風のようです

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
代理でございます
2 ◆8jBqY.xodw :2008/01/11(金) 00:45:34.04 ID:7+/1tkP1O
代理ありがとうございます。

まとめサイト

ブーン速。
http://hoku6363.fool.jp/huyu-sio/huyu-sio00.html

コチニールって何だろう。そんな第三話。ちょっと短めなのです
3 ◆8jBqY.xodw :2008/01/11(金) 00:50:44.88 ID:7+/1tkP1O
容量で規制されてんのか

半分ずついきます
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 00:52:06.01 ID:7+/1tkP1O

「よっこら せ っ く す」

 いつまでもこんな所にいても、体を冷やして風邪を引くだけだ。

 僕は高いフェンスに囲まれた岬を後にして、内陸部へと進む。
 風が静かになってくると、人通りも多くなる。

「あ、ごめんなさいですお」

 そのせいか、単に僕が衰えているだけか。対向して歩いてきた人に肩をぶつけてしまった。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 00:54:04.02 ID:7+/1tkP1O

「いえ、大丈夫ですから。おい、早く立ち上がれ」

「ご、ごめん……」

 別段、体が大きい訳でもない僕にぶつかっただけで、その男は転倒し、
 傍らの長髪の女性に手を貸してもらっている。

 もしかしたら、と僕は気付いた。
 ここまでひ弱なのは貴重なものだろう。

「……毒島くん?」

「え? あ、まさか……」
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 00:56:18.90 ID:7+/1tkP1O

 男の目が輝いた。それに呼応するように、女性も僕が誰か気付いたようだ。

「それに、そっちは素直さんですお?」

「はい。ご無沙汰してます」

 毒島の背は全く伸びてないし、素直さんの美貌もまるで衰えていない。

「……お変わりないようですね」

「でも、関係は進展しましたよ?」

「え? ……も、もしかして」
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 00:59:04.26 ID:7+/1tkP1O

「はい。ナニから結婚まで、全部済みましたよ。あとは一緒のお墓に入るだけです」

 危うく眼球を落としそうになった。

「……何かショックですお。毒島に負けたような気がしますお」

「何を言ってるんですか。先生だって美人の奥さんがいるじゃない」

 心底が抉られるようだった。その傷は、未だに鮮血を流すほどに深かったというのに。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:00:17.55 ID:7+/1tkP1O

「……まぁ、ね。しかし、同窓会は明日なのに、やたら生徒に会うもんだお。
 二人はどこに行こうとしてたんだお?」

「……あ、そうだ!」

 僕が訊くと、毒島は手を打って素直さんに耳打ちをした。

「ふむ……それは良いな。先生、私たちはこれから高校に戻って、
 ちょっと記憶をたぐり寄せてこようと思っていたのですが、
 もしお暇なら一緒にいかがですか?」
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:03:28.10 ID:7+/1tkP1O

「高校に? ……そうですね、行きましょお」

「やった! じゃあ、急ぎましょう! もう俺待ちきれなくて……!」

「少し落ち着け、ドクオ」

 彼らを見ていると、何となく胸の奥がしめつけられる。
 歯を噛み、唇を結んで、無理矢理に笑顔を作った。

「おっおっ、良い夫婦だお」
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:06:06.28 ID:7+/1tkP1O

 しばらく歩いた。
 やっぱりよせば良かったかな、と胸に沈んだ気持ちを抱えながら、無為な後悔を続けて歩いた。

 僕は、どうしていたら、彼らのように会話と笑顔の絶えない家庭が作れただろうか。

「……学校が見えてきたお」

「懐かしいなぁ……もう、11年かな? 」

 全てが始まって、全てが終わった、この場所。

「……」

「先生? どうかしましたか?」
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:09:48.33 ID:7+/1tkP1O

 その高校の門を、僕はまたくぐって行く。
 あの、潮風の吹く岬なんかより、ずっと記憶が詰まっている。

「……何でもないお」

 影の自分に挑むような気持ちで、僕は一歩を踏み出した。

 一陣の風が吹き抜けた。乾ききった落ち葉が、カサカサと音を立て、流れていった。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:14:50.98 ID:7+/1tkP1O

 しぃやジョルジュが二年生となり、僕にもついにクラスを担任する事になった。

 二年生からはクラス替えもないから、このまま繰り上げて、
 特殊な場合がなければ、彼らの卒業を送ることになる。

 一番面倒で、つらい仕事だと聞いた。その代わり、達成感もあるとも。
 僕が任された2年3組は、比較的治安の良いクラスらしいから、問題という問題はないだろう。

 僕には初めての事が多かったけれど、けっこううまくいっていた。
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:19:11.76 ID:7+/1tkP1O

 毎日のHRとかは、僕だってそれなりに口は動かせるから、何とかなる。
 進学のどうこうだって、そんな相談は幾度も受けて研究してある。

 ただ、問題があるとすれば。

(;^ω^)「……まずは皆さん、進級おめでとうございますお」

 名簿には、よく聞いた名前ばかり揃っていた。
 やりやすいと言えばやりやすいが、距離が近すぎて気まずい人もいる。
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:25:17.43 ID:7+/1tkP1O

(;^ω^)「進級したのは良いけども……あんたら、本当にクラス替えしたのかお?」
 _
( ゚∀゚)「一人たりとも変わってないっす!」

(;^ω^)「……何やってんだか、上の人たちは……。
       ま、これなら自己紹介も必要ないお。さっさと係と委員会を決めるとしようかお」

 1年3組が、2年3組になっただけのクラスだから、当然しぃだっていた。

 何も言わなかったが、彼女との肉体関係はその時もまだ続いていた。
 暇があればしぃは僕の帰りに付いてきて、家で二、三度交わっていた。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:31:37.96 ID:5YX9bAfA0
ここは一発、支援すべな
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:32:21.36 ID:7+/1tkP1O

 近すぎて気まずい人というのは、彼女の事だ。
 一度も二度も罪は罪と言いくるめられていて、性行為に抗う理由もその気も、日に日に失せていた。

 ジョルジュが学級委員、ドクオとクーが文実委員など、
 生徒たちが勝手に配役してくれて、僕自身のやることは進級を祝うぐらいだった。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:36:57.70 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「……ふぅ」

 やるべき事が終わり、美術室に戻るとすぐ、久しぶりに一服した。
 精神が疲れたときは、ハイチュウよりもタバコを吸った。

 その方が、気分がすっきりするからだ。

(´・ω・`)「おいっす、初HRはどうだった?」

 今年も暇な警備員が、人の作業室から堂々と出てきた。
 とりあえず一発くれてやって、鍵をかけ直した。
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:39:13.43 ID:PwTQFjwX0
支援
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:39:45.90 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「まぁ……上々っちゃ上々だお」

(´・ω・`)「そうかい。まぁ最初はそんなもんだろうね」

 やがて、辛く大変になって、悩むだろうけどもね。

 警備員はカーテンをいじりながら、そう笑った。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:42:38.48 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「……いやな事言うなお」

(´・ω・`)「まぁ、絶対にそうなるとは言わないけどね。
       クラスを受け持つなら挫折は付き物さ。誰かが経験したようにね」

( ^ω^)「……どうにかなるお」

(´・ω・`)「自分の人生すら危ういのに何がどうにかなるのやら」

(;^ω^)「うるさいなぁ……」

 いつからこんなに鋭いトゲを生やすようになったんだ、こいつは。
 タバコは控えて、ハイチュウを口に含む。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:45:30.11 ID:7+/1tkP1O

(´・ω・`)「まだ……ずるずる引きずられてるんでしょ?」

( ^ω^)「……踏ん切りをつけるべきかお?」

(´・ω・`)「いい加減怒るよ?」

(;^ω^)「ですよね……」

(´・ω・`)「……ジョルジュ君に、自分大事にしろよって言って、
       アッパーまで仕掛けておきながら自分の身は放っときますか、おい。
       ……ちょっと、よく考えてくれるかい?」

 警備員はまた作業室に入り、寝転がったらしい。もしくは、コケたか。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:48:57.66 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「……」

 このままでは駄目なんだというのは、重々承知している。
 しかしながら、僕は彼女を突き放すような真似は出来なかった。

 おこがましい言い方だが、彼女はまだまだ、目の前だけが明るいくらいで、
 暗闇の中ではっきりわかる僕という支えがなければ、
 彼女は躓き転んで立ち上がれないかも知れない。

(;^ω^)「でも、もう……何とかうまく、せめて体の関係だけでも解消できないかな……」
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:51:07.59 ID:7+/1tkP1O

 頭を抱え、地団駄を踏み、回転椅子に座って目を回し。
 そんな馬鹿な事をしてたから、ドアが開いたのに気付かなかった。

ξ゚听)ξ「何やってんのよ、アホブーン」

(;^ω^)「……へ、ツン?」

 残像が伸びた影は、顔のパーツも見えないほどだったが、
 声と、生徒にはないくらい鮮やかなブロンドの髪色で、ツンと特定できた。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:55:42.78 ID:7+/1tkP1O

ξ゚听)ξ「ま、別にどうでも良いけどね。市コンクールの結果が来てたわよ」

(;^ω^)「あー、来たかお……」

 正直言って、全く自信がない。
 調子が乗らずに、妥協ばかりで進め、出来上がりは酷く稚拙だった。

ξ゚听)ξ「開けてみたら?」

(;^ω^)「いい結果じゃ無いと思うお……」

 封を破いて、三つ折りにされた紙を引き出す。
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:57:58.31 ID:7+/1tkP1O

 ふわっ、とせっけんの甘い匂いが鼻腔を柔らかく刺激する。

ξ*゚听)ξ「ほら、さっさと開けなさいよ」

 ツンは、その真っ赤なほっぺたと擦れあってしまいそうなぐらい近くで、
 取り出された紙をじっと見ていた。

 入選への期待を感じているのか、それとも。
 気分が高揚するのを感じながら、そっと書簡を開く。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 01:59:10.99 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「ぶははwwwそりゃお前落選だわwwwww」

ξ゚听)ξ「そうね」

( ^ω^)「……」

 大したダメージではなかったが、やたらと死にたくなった。

(;^ω^)「……ま、しゃーないお。来年にかけるかお」

ξ*゚听)ξ「ん、頑張りなさいよ。……じゃあ、私はもう戻るから……」

( ^ω^)「お、分かったお。届けてくれてありがとうだお!」

ξ*゚听)ξ「どういたしまして。」
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:01:03.97 ID:7+/1tkP1O
 しかし、そこからツンは一向に動かなかった。
 もちろん、ずっとずっと微動だにしない訳ではない。
 ゆっくり、ほんの何ミリかずつ、僕のほうに寄ってきていて。

 ツンが、こちら側に顔を向けてきた。
 しぃとセックスした時は、何もかもが回転椅子で回っているかのように
 はっきりとは見えず、あっという間に現れては消えてしまって、
 あまりはっきりとは覚えていなかったのだが。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:02:15.63 ID:7+/1tkP1O

 体の末端まで、血が送られているとはっきり実感出来るほど、僕の心臓は大きく動いていた。
 バクバクと高鳴る訳ではないのだが、心臓の鼓動の音が耳に入ってくるほど大きい。

ξ*゚听)ξ「……」

(;^ω^)「……」

 ツンの呼吸が聞こえる。その空気の流れを感じる。

 吐息は熱く頬を馳せ、耳たぶにかかる。ちょっぴり湿り気があって、
 彼女が息を吸うと、急に冷えて。その感覚が妙に強烈だった。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:03:03.42 ID:7+/1tkP1O

 ただ、彼女が僕の耳元で息を吸ったのはそれが最後だった。
 コツ、コツ。ゆっくりと一歩後退するヒールの足音。

ξ゚听)ξ「……もういい」

(;^ω^)「お?」

ξ#゚听)ξ「少しは男らしいって想ってたのに……とんだ意気地無しじゃない! 見損なったわよ!」

 彼女が見えなくなり、カンカンと階段を下る音も聞こえなくなり。
 作業室と繋がるドアが開いた。
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:04:22.53 ID:7+/1tkP1O

(´・ω・`)「ねぇ、内藤先生」

 どうしてか、彼は僕と距離をとったまま、厳しい口調で言った。

(;^ω^)「……何?」

(´・ω・`)「そんなに社会的に殺されたいの?」

(;^ω^)「そ、そんな訳ないお。表社会で生きたいですお」

(´・ω・`)「君にそんな権利があるとでも?」

 普段は二次元にいそうなポーズで格好つけるばかりの警備員に、
 今ばかりは真剣に恐怖を覚えていた。
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:05:16.42 ID:7+/1tkP1O

(;^ω^)「え、えっと……何をそんなに怒ってるんだお?」

(´・ω・`)「お前は……何の理由も無しに女があんな近くに居るような人生だったか?
       なぜ気付かない。お前だってこの状況を捨てたいんじゃないのか?
       それとも、本気であんな売女の為に人生を投げうる気か?」
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:06:24.96 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「気付いてたのに、気付かない振りをしたのは悪かったお……でも、売女って?」

 僕が訝しく思って彼を睨むと、警備員はしまったという顔をした。

(´・ω・`)「いや……すまない。
       でも、僕は君がしぃのせいで安楽な人生を失うことを快く思わないよ」

( ^ω^)「……ごめんだお。でも、僕にはどうしぃを拒んでいいのか……」

 彼女を罵ったことも、僕からは責められる事ではない。
 彼の握る秘密が白日に晒されれば、彼女の後々までも危うくなるのだ。
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:07:02.65 ID:7+/1tkP1O

 見捨てられてはかなわない。それ故僕は、苛立ちを抑えた。

(´・ω・`)「バカ言うなよ。最初の時だって、内藤は彼女を拒んだだろ?」

( ^ω^)「けど、それじゃ彼女は……」

(´・ω・`)「それは君が童貞だったからだよ。結局了承したのは君だ。
       どうしてもと言えば、彼女だって分かってくれない筈ないさ」

( ^ω^)「……だと良いけど」
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:08:07.92 ID:7+/1tkP1O

( ^ω^)「ともかく、今度そういう事があれば、言ってみるお。
       しぃだって、君が知っていることを言えば、考え直すかもしれんお」

(´・ω・`)「頼むよ、本当に。君はもう38の生徒を抱える教師なんだから」

(;^ω^)「うん……心しておくお」

 それから、5日が過ぎての休日の事、しぃが僕の家を訪れた。

 クラスを受け持った事で忙しい中にも、暇を見つけられるようになってきていた。
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:08:45.25 ID:7+/1tkP1O
(*゚ー゚)「おいすー」

 覗き窓からちょこんと顔を出した君を見て、僕は青ざめたのだった。

( ^ω^)「おいお前ちょっと中入れ」

(*゚ー゚)「はーい、お邪魔しま〜す♪」

 時間はまだ正午過ぎ。夕食の買い出しに行く主婦や、
 軒先の道路でキャッチボールを楽しむ親子もいるだろう。
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:09:53.09 ID:7+/1tkP1O

 姿を見られてはいないだろうか。
 春らしい配色のボーダーの背を眺めながら冷や汗を垂らす。

(;^ω^)「しぃ、ここに来る過程で誰かに会ったかお?」

(*゚ー゚)「え? それは、まぁ……電車乗るし、数え切れないくらい……」

(;^ω^)「そうじゃなくて……君が今日ここに来たことを知ってる人間はいるかお?」

(*゚ー゚)「いないと思いますよ。今日は誰とも話していませんし」
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:10:16.06 ID:7+/1tkP1O

(;^ω^)「ならよかったお……。とりあえず、座ってくれお」

 しぃを座布団に座させる。
 それから、コップに氷を3つ落とすと、作り置きのウーロン茶を注ぐ。

 この動作を二回繰り返した。

( ^ω^)「……」

 僕はこたつ布団のないこたつを挟んで、君と対面して座って、
 ウーロン茶を一口含み、唇と喉を潤した。

( ^ω^)「……さて」
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:11:16.19 ID:7+/1tkP1O

 僕は、クリクリした吸い込まれそうな瞳を見据えた。
 併せて二人、僕が映っている。

 おおかた、文字通り吸い込まれた哀れな僕の分身なんだろう。

( ^ω^)「念の為訊いておくけど……今日は何のために?」

 もう、やめにしよう。
 君がそう言い出すことを蚊ほどに期待しながら、そんな事を言った。

(*゚ー゚)「そんなの、決まってるじゃん」
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:12:07.14 ID:7+/1tkP1O

 しかし案の定、君は立ち上がると、僕の腿の上まで来て、座った。
 僕と向き合う形で、胸にちょこんとおでこを乗っけて。

(*////)「先生と……エッチな事しに来たの」

 目を伏せながら、純真無垢な子供の声で言う。
 しかしその言葉は淫猥で、巧みに僕を誘ってきた。

( ^ω^)「……しぃ、大事な話がありますお」
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:13:02.66 ID:7+/1tkP1O

 くちびるを上向きに、キスを待っていた君を膝から下ろし、隣に座らせた。
 呆けた表情で君は僕の顔を眺めて、やがて口を開いた。

(*゚ー゚)「……何?」

 その非難するように動く瞳にたじろぎながら、僕は眉をしかめて最初にこう切り出した。

( ^ω^)「実は……僕らの関係を知ってる人がいるんだお」

(*゚−゚)「!」
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:13:36.90 ID:7+/1tkP1O

 君は声こそは上げなかったけれども、その驚きははっきり見てとれた。

( ^ω^)「その人は、これ以上僕と君がエッチい事をするなら、
       教委に告発するって言ってるんだお……」

(*゚−゚)「……そんな。そしたら、私は……」

( ^ω^)「うん……多分退学になると思うお。それに、僕だって無傷ではすまないお。
       下手したら石塀の中で暮らすことになるお。そうなったら君だって辛いはずだお。だから……」
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:19:57.84 ID:7+/1tkP1O

(*゚−゚)「……」

 それ以上の言葉はかけずに、僕は待ち続けた。届け、とだけ祈りながら。

 君はずっと黙っていた。そこにどんな逡巡があったかなんて知らない。
 僕の中ではただ、辛苦と焦燥ばかりが駆け回っていた。

 長すぎる時に、君と出会った何時だかの日を思い出していた。
43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:20:25.14 ID:7+/1tkP1O

(*゚−゚)「……そう……ですよね。バレちゃったなら仕方ないですもんね……」

 僕が思っていたより、君は早く冷静な結論に至ってくれた。
 不登校でも、人間性が欠けているわけではなかったのだろう。

(*゚−゚)「……先生」

( ^ω^)「お?」

(*゚ー゚)「また、綺麗な絵を見せてくださいね」

( ^ω^)「……約束するお」

 帰り際、君は夕日のように笑った。
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:20:28.39 ID:CWIiMZrXO
支援だお
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:21:04.25 ID:7+/1tkP1O

(´・ω・`)「……よくやったよ。後悔はしてないよね?」

 後日、放課後。
 昨日の旨を話すと、警備員はほっと息をついた。

( ^ω^)「勿論。これで心置きなくツンの気持ちに答えられるお!」

(´・ω・`)「もう見捨てられたけどね」

(;^ω^)「あ……」

 ひとまずは、平穏な日常が訪れるらしい。
 僕には、色恋に悩んだりは似合わないんだ。
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:21:32.39 ID:7+/1tkP1O
( ^ω^)「……まぁいいお。気長にやってきますお」

(´・ω・`)「そうかい……さて、今日はそろそろ仕事に戻らせてもらうよ」

( ^ω^)「はいはいばいばいばいばい」

(´・ω・`)「可愛くない奴」

 そろそろ気が楽になってきたから、何か絵でも描こうか。
 少しはまともになっているかも知れない。
47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:21:55.85 ID:7+/1tkP1O

 小さめのキャンバスを張り、パレットも用意した。
 筆に赤色を取り、描くは鮮やかな抽象画。

( ^ω^)「……」

 どちらにしろ、完成品は単なる落書きに見えなくもないのだが、
 ただ描き殴るのと、ひとつひとつを頭に描いてからそれを映しだすのとでは意味が違う。

 描き殴れば、単なる色の渦で、それはもはや絵の具が塗りたくられたカンバスでしかない。

 後者なら、自身の心が現れる。
 線が細ければどうとか、そんな公式はなくて、僕の感覚のみにその読心は任される。
 僕自身の感情の軌跡として、それらのキャンバスは家に保管されている。

 全てが無計画に配置される、心の欠片ではない。
 意味もなく時計やコップや男性の横顔などを描いてみることもある。

 今回は、それが無かった。全てが僕の頭の中に作り出された模様であった。
 ただ模様と呼ぶには相応しくないほどの生命力に溢れていた。
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:25:42.89 ID:7+/1tkP1O
( ^ω^)(……これが芸術っていう奴かお。もっと昇華できるだろうけども)

 自画自賛と言うだろうが、写実から抽象へと、画風の転向を考えるほどの出来だった。
 だがしかし、このキャンバスは少し奥まで映せる鏡のようなもので、
 僕の心情で作品の出来は大きく左右される。

( ^ω^)「ま、こいつも乾いたら倉庫行きだお……」

 すっかり暗くなった階段を下り、僕は家路についた。

( ^ω^)「……まだ夜の冷え込みはキツいみたいだお」

 その晩、僕は久しぶりにオナニーをした。

 警備員に言われ、慌てて嘘をついたが、後悔していないはずがなかったんだ。
 白く薄い紙に、煩悩の種を吐き出すだけの行為に、虚無を感じずにはいられなかった。

( ^ω^)(……大丈夫だお。ここで折れる訳にはいかないんだお)

 自分に言い聞かせることで、僕はずっと理性を保っていた。
49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:28:24.13 ID:7+/1tkP1O
 いよいよ無用な暇が生まれだして、内藤先生相談室を再開した矢先、奴はやって来た。

('A`)「先生!」

( ^ω^)「……早速ですかお、ドクオ。して、今日はどんな?」

('A`)「素直さんが僕を受け入れてくれません!」

( ^ω^)「だと思いましたお。さ、まずは座って」

 ドクオは急にガスが抜けたように意気消沈して椅子に座り込んだ。
 無理なハイテンションが祟ったのだろう、何も訊いてやらないほうがいい。

( ^ω^)「さて。……素直さんに受け入れてもらえない、ですかお。
       僕の言葉は記憶に残ってますかお?」

('A`)「えぇ。灰色の喩えですよね。あれを聴いてから、少しずつ自重していくようにしたんですけど……」

(;^ω^)「効果がない、と」

('A`)「はい。……会話くらいはしてくれるようになりましたけど、それ以上は」
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:29:03.22 ID:7+/1tkP1O
 背もたれが曲がるくらい後ろに体重をかけながら、僕は唸った。

( ^ω^)「……まぁ、良いんじゃないかお?」

('A`)「……へ?」

( ^ω^)「昔の君は、素直さんと目が合うことすら許されてなかったじゃないですかお。
       それに比べたら、ずいぶん進んでるじゃないですかお」

 ドクオはえ、と絶句した。
 僕の狙ったとおりに、僕の言葉にショックを受けている。

('A`)「……そうですけど。でも、俺は単なる友達のまま終わりたくないんです」

( ^ω^)「ふーん……」

 頭を抱え、ドクオは呻く。ガタガタと身を震わしながら、歯を食いしばっていた。

( ^ω^)「じゃあ、終わらせなければ良いじゃないですかお」

 僕はちょっと含み笑いを浮かべながら言った。
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:29:49.01 ID:7+/1tkP1O

(;'A`)「え? そりゃあもちろんそうですけど……そのままで上手くいく訳が……」

( ^ω^)「ドクオ……この世に絶対っていうのはありませんから、
       それで絶対上手く行くとは言いませんお」

 僕が椅子を半分回すと、切なげな悲鳴があがった。

( ^ω^)「……恋愛には、3つの「さ」が必要だと言われていますお。
       まず、慎重さ。闇雲に気持ちを伝えても、鬱陶しいだけですお」

 様々な思いを巡らせながら、ゆっくりと言葉を口にしていった。

( ^ω^)「次に、大胆さですお。時には拒否されることも恐れず、抱きしめてやるんですお。
       そのタイミングは、慎重さをもって見切るんですお」

('A`)「大胆さと、慎重さ……それで、最後は?」

 ドクオはもはや身を乗り出し、真剣に話を聴いていた。
 いかに落ち込んでも、すぐに回復するのが彼の良いところだ。
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:30:17.15 ID:7+/1tkP1O
( ^ω^)「最後、三つ目の要素は、……温度差ですお」

('A`)「おんどさ……ですか?」

( ^ω^)「ですお。女の人は、結構これに弱いんですお。
       はじめに、鬱陶しいほど熱烈なラブコールを送る。
       頃合を見計らい、徐々にでも突然でも、それを止めるんですお」

('A`)「……あ、それ! 聞いたことありますよ!」

 唇を指で撫でていたドクオが、突如はっとして瞳を輝かせる。

('A`)「付きまとうように愛を叫び続けていると、それが聞こえなくなりしばらくした後、
    その愛の言葉が自然と懐かしくなる。それはやがてこっち自身への愛に勘違いされる。……とか」
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:30:44.18 ID:7+/1tkP1O
(*^ω^)「そう、そうですお! 分かってるなら話は早いですお。
       この機で素直さんへのアプローチをぴったり止めるといいですお」

(*'A`)「はい! もっと早く言ってくれると助かりました!」

 僕はその時忘れていた。
 この方法には、ある最悪のリスクが伴っていることを。

 その事を知っていたからこそ、今まで話さなかった。
 しかし、その事に気付いても、僕は彼を止めなかった。
 これで望みがもてるのならと、彼を止めることなど出来なかった。
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:31:28.04 ID:7+/1tkP1O
(´・ω・`)「おい、ニート」

( ^ω^)「誰がニートだカス。で、用事はなんだお?」

(´・ω・`)「今夜……久々にエロゲでもどう?」

( ^ω^)「あー、確かに最近めっきりだったお……。そうするかお」

(´・ω・`)「よっしゃ!」

 日々、下らない談話や遊びに時間を費やしては、退屈だと欠伸をして、
 生徒たちの努力の結果たる数値を打ち込むばかりの仕事に、大変だと閉口する。

 それが楽しくて、僕は過去しぃと交わったことなど、もはや悪い夢を見たとしか考えていなかった。

 人為の音のすべてが、時の走る足音であるかのようだった。
 この間があまりに平和で、悪く言うと平々凡々だったから、大した記憶も残っていない。
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:32:51.55 ID:7+/1tkP1O

「先生?」

「……え?」

 気がつくと、二人の顔が眼前にあった。
 もちろん、僕が呼び掛けに応えれば、すっと身を引いたのだが。

 僕は、風の匂いにやられて、またふと夢を見ていたようだ。
 まだもう少し意識を失くして、夢の続きを見ていたかった。

「大丈夫ですお。……少し、柄にもなく感傷に浸ってしまったようですお」

「そうですか。やっぱり、先生も懐かしいんですね……」

「ま、そんなところですお。……僕だって、ここへの思い入れは強いですから」

 しかし、それはならない。
 この夢の先は、辛苦と悲哀に満ちた悪夢なのだから。
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:33:09.86 ID:LbCdNLnuO
支援
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:34:36.63 ID:7+/1tkP1O

「……そっか、そっか。内藤も、いよいよその事を生徒さんたちに打ち明けるのかい」

 その自称警備員は人懐っこい笑顔を見せて、僕の方を向いた。
 慌てて僕は両手を胸の前で振り、その意思の無いことを示した。

「ちょっと、ショボ沼さん……でしたか? あなた、一体何者なんですか?
 何故そんなに、内藤先生に対して親しげに話しているんですか?」

 素直さんがその頬をより白くして警備員に詰め寄る。

「伊達に20年、学校に引きこもってる訳じゃ無いんだ。
 ……口外しないというなら、内藤先生の秘密を話してあげてもいい」

 全く予想しなかった言葉に、僕ですら初めて聞くような声を上げてしまった。
 彼らの注目の矛先が、警備員から僕に変わる。
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:34:51.38 ID:7+/1tkP1O

「いや、あの……何、君たちはそんなに僕の過去が知りたいんですかお?」

「……ただ単に、先生が嘘をついてまで隠した出来事とは何なのかが気になるだけです。
 ……ですが、隠し事をされるのは、些か気分がよくありません」

 つまり、興味津々と言うことか。僕は深いため息をついて、立ち上がった。
 ハイチュウをひと粒、銀紙を剥がして口に放る。

「解りましたお。……どうせショボ沼が話すなら、
 せめて僕の口から語らせて下さいお。二人とも、着席して」

「……」

 二人はおずおずと隣り合う椅子に着き、姿勢を正した。
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:36:40.11 ID:7+/1tkP1O
 僕の頭の中で、セピアトーンに霞んでいた記憶が、
 この街、この学校、この潮風によって、再度筆が当てられる。

 忘れきることなど出来ない。

 道行く人の足音の音色さえ思い出せそうなほど、鮮烈な記憶を辿りながら、
 僕は一種諦めのようなものを感じていた。

「……それじゃあ、」

 僕は、かつて綾川しぃと結んだ関係を、二人に告白すると、さらに話を続けた。

 僕が入院したとうそぶいてまで隠した事と、同情の涙を売るような始終を語りだした。
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:37:11.76 ID:7+/1tkP1O



第三話 ( ^ω^)と(*゚ー゚)は恋人同士のようでした

ねくすとだいよんわしーゆーふぉえばー
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:39:12.80 ID:qOlccI/o0
乙!
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:39:56.09 ID:+GIq9TAc0
63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:40:30.27 ID:LbCdNLnuO

毎回楽しみにしてるぜ
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/11(金) 02:44:58.32 ID:MdHclN6k0
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
乙乙