从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
オトナ合作は、明るい明日を創造する「ブーン小説に花束を」様の提供でお送りいたします
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2 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:40:07.17 ID:2ARyGMos0
 ニューソク県VIP市。
自然がまだ色濃くその姿を残す美しい都市として、地方ではその名をよく知られています。

 そんな街の、中心部からは少し離れた郊外。
深い緑に包まれた小高い丘の上にひっそりとそびえる、小さな学校がありました。

 私立ヘリカル女学園。
半世紀に渡る歴史を持つ、この小さな学校では、
およそ五百人の穢れも知らぬ乙女たちが、勉学に、部活にと日々励んでいます。

 果てしなく高い十一月の秋空の下、
そんな学園の一室で、二人の生徒がなにやら口論をしていました。

 一人はどちらかといえば小柄で、校内だというのに白衣に身を包んでおり、
もう一人はどちらかといえば長身で、厚い冬服をカッチリと着こみ、
律儀にも膝下二十センチほどの長いスカートを履いています。

3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 21:40:36.04 ID:Rskmer0hO
支援
4 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:41:22.95 ID:2ARyGMos0
 白衣の少女の口からは、アインシュタインがどうのとか、相対性理論がどうのとか、
そんな難しい言葉が、湯水のように次から次へと溢れてきますが、
相対する凛とした雰囲気を持つ少女は、そんな彼女のことを、どこか冷めた様な目で見ています。

从 ゚∀从「……と、まあ、世の中には失敗しない人間などいないし、それは天才だって例外じゃない。
      むしろ、失敗は成功の母という言葉もあるように、天才にこそ失敗は付き物なんだ」

川 ゚ -゚)「ほほう、なるほど。
     それじゃあ、とりあえずその成功の母とやらの犠牲となった実験器具たちを弁償していただこうか」

 ガラス片を派手に散らばし、薄黒い煙を上げている実験器具を指差し、
真顔で冷静にそう一言だけ返した彼女に、
白衣の少女は背中を曲げて両手をすり合わせ、上目遣いで請うようして言います。

从;゚∀从「……ごめんクーちゃん、ほんま堪忍やて。
      今月ピンチなんだよ、再来月はスマブラXが出るからWiiも買わなきゃいけないし……」

川#゚ -゚)「……今までは目を瞑ってやっていたが、
     たった半年で、科学部の一年半分の部費を食い潰すとは何事だ!
     こう毎日のように学校の備品を破壊するのでは、これ以上は私も我慢しかねるぞ、ハイン!」

从;゚∀从「悪気はなかった。反省してる、もうしないから……」

川 ゚ -゚)「そのセリフは前回も聞いた。そのとき私はこう言った筈だ。『もう次は無い』とな」

5 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:44:48.84 ID:2ARyGMos0
 クーと呼ばれた少女は、一度歪めた口を真一文字に結び直すと、端整な顔を崩すことなく、
白衣の少女――ハインに向かって一歩、また一歩とにじり寄っていきます。
そのポーカーフェイスの裏で、怒りの炎が静かに燃えているのは、想像に難くありません。
むしろ、表情の乏しさによって感情が完全には見え切れないことが、
相手に対して与える恐怖を、さらに増幅させます。

 その気迫に圧倒されて、ハインは後ずさりますが、
部屋の隅へと追い詰められ、とうとう逃げ場を失い、
やがてその場に、へたへたとお尻から座り込んでしまいました。

从;゚∀从「ごめんなさい……前の処女でも後ろの処女でもお口の処女でも好きなのを差し上げますから、どうか命だけは……」

川 ゚ -゚)「そういう冗談は止せと、何度言ったらわかる?」

 傍から見れば彼女らの関係は、宛ら狼と、それに追い詰められた赤頭巾のようですが、
実質は、銭形平次と追い詰められた盗人というところでしょうか。

 『箸より重いものを持ったことがありません』とでも主張しそうな、
その真白い細腕のどこにそんな力があるのか、
クーは白衣の襟をぐいと掴み、ハインの身体を自分の近くに引き寄せました。
6 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:46:30.65 ID:2ARyGMos0
 右手を胸の辺りに持ってくると、それに合わせてハインの顔も、クーの眼前へと引き寄せられます。

从;゚∀从「く、くー……」

 一度目を合わせると、ハインはその視線を、クーの眼から離すことが出来なくなりました。
それどころか、どういうわけか動悸が高まり、足元ががくがくと震えているような錯覚まで覚えます。

 わけのわからない恐怖に囚われ、彼女の真ん丸い瞳が、俄かにその形を歪めました。

川;゚ -゚)「……っ」

 クーははっと我に返ったように、右手の力を緩めました。
それによって支えられていたハインの身体は崩れ、彼女は壁にだらんと、力なくもたれかかりました。

 やりすぎてしまったか。
心の中で少し反省しながら、クーは後ろを向き、
先ほどの凄みのあるそれと比べれば、幾分弱々しい口調で、背後のハインに言います。

川 ゚ -゚)「……とにかく、今回は部費から差っ引いておくが……、
     次に何かをやらかしたら、今度は前の処女も後ろの処女も無いものだと思え」

从;゚∀从「は……はひ……」

 そのまま振り向かず、クーは真っ直ぐ化学実験室の出口へと向かって行き、
そして、ぴしゃりと扉を閉めました。

7 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:48:27.31 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 生徒会室の中央に据えられた会議テーブル。
その奥の方に位置する『生徒会長』の席に、彼女、砂尾空(すなお くう)はため息をつきながら腰掛けた。

 九月で三年生が生徒会を引退し、そのまま繰上げ的に生徒会長の役割を任された。
成績優秀、運動神経も抜群で、クラスメイトからの信頼も厚い彼女がそうなるのは当然のことだったし、
彼女もそれをそれなりに誇らしく思って居たのだが、
毎日のように問題を起こす幼馴染の処理には、ほとほと悩まされていた。

 本来、もっときつく言っても構わないのだろうが、
彼女に対する情がそうさせるのか、どうしても詰めを甘くしてしまう。
お互いのためにならないとわかっていても、そうしてしまう。

(*゚ー゚)「会長、また彼女の世話ですか?」

 傍らに立っていた生徒が、窓のカーテンを開けながら言った。
胸に付けたスカーフは緑色で、それは赤色のスカーフを身に付けた二年生のクーよりは下級生であることを示している。

8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 21:49:14.52 ID:zq1VpTGL0
支援
9 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:50:40.61 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「ああ。困った奴だよ」

(*゚ー゚)「毎回同じようなことを繰り返して……放って置けばいいのに」

川 ゚ -゚)「そうもいかんだろう。あんなに頻繁に壊されるんじゃ、こっちとしては無視できない」

 少女はクーの傍らに立つと、
感心したような、それでいてどこか呆れたように言った。

(*゚ー゚)「……会長も、好きですねえ」

川 ゚ -゚)「……好き、か。違いないかもな」

 クーは口元を僅かに緩ませて、少し軽い口調でそう言いった。

10 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:52:09.63 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 騒がしくも穏やかに、秋の昼下がりは過ぎて行く。
世知辛い世の中にあって、学園内の彼女らの日常は、
まるで塀一枚を隔てて離されたように、平和である。

 クーは平和なこの日常を、たまらなく愛しく思って居た。
だから、生徒会長という面倒な役割も引き受けたし、こうして精力的に動いてもいる。

 彼女が書類の整理をしていると、
先程の後輩が、部屋の片隅に立てかけられた「それ」に目をやりながら、
怪訝そうにクーに訊ねた。

(*゚ー゚)「そういえば、会長って別に剣道部に所属してるわけでもないのに、
    どうしてそんなものを持ってるんです?」

川 ゚ -゚)「護身用さ」

 それを聞いて、少女がくすくすと笑った。

(*゚ー゚)「そんなに大げさなものを使わなくても、もっといいものがありますよ」

川 ゚ -゚)「まあ、それは私の趣味だよ」

 どこか、何かを誤魔化すように、彼女はそう返した。

11 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:54:56.08 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 ――校舎の裏庭、レンガで綺麗に縁取られた花壇の中、
何種類もの木々が植えられている。
庭師によって手入れされたそれらは、一見乱雑ながらも、
しかしよく見れば、どこか生き生きとした雰囲気を醸し出している。

 そんな庭園の真ん中で、ブラウンのコートに身を包んだ一人の女性が、
鼻歌混じりにホースで植物に水をやっていた。

('、`*川「肴は炙った烏賊でいい〜♪」

 ヘリカル女学園の理科教師、ペニサス伊藤。
二十五歳と若く、ほどけたくだけた感じの性格で生徒たちからは慕われている。
特に部活動を受け持つでもない彼女は、自身が担当する環境委員会の活動の一環として、
一週間のうち三日、放課後の空いた時間に植物の世話をしている。

('、`*川「あー、最近寒いわねぇ。もうマフラーの季節かしら」

 長いスカートを履いたり、それなりに努力はしてるんだけどね。と。
そんなことを考えながらノズルのトリガーを引いて、花々にシャワーを浴びせていると。

('、`*川「ん?」

 ふと、あるものの存在に気が付いた。
12 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:57:04.78 ID:2ARyGMos0
 場違いに置かれた、見慣れないプランター。
その隣には、自然の森をそのまま切り取って整備したようなこの空間にはまるで不似合いな、
銀色の独特の光沢を放つ、おそらく金属性の箱のようなもの。

('、`*川「……こんなもの、置いてあったかしら?」

 怪訝そうにそれを見ながら、ペニサスは呟いた。
それから少し思考時間を置いて、まあいいか、結論付けると、プランターに近づいて、ノズルを向けた。

 トリガーを引くと、豪雨のように勢い良く水が飛び出す。
それを浴びるとプランターの中の土が濡れ、やがて淀んだ水が淵まで溜まり……。

('、`*川「……あら?」

 突然、ことんと小さく音を立ててプランターが倒れ、その中身を溢した。
すぐにそれを直そうとして、彼女は駆け寄る。

 身体を屈めつつ、彼女は頭に小さな疑問を浮かべた。
果たして、プランターとはこうも簡単に倒れてしまうものだっただろうか。
こうも簡単に、中の土が零れてしまうものだっただろうか。
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 21:57:09.11 ID:70/etcBeO
支援
14 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 21:59:00.62 ID:2ARyGMos0
 手を伸ばして初めて、彼女ははっと気付く。
零れた中身が、異様なまでの広がりを見せていることに。

 それは、土と呼ぶにはあまりにどす黒く、また粘性がなかった。
例えて言うならば、B級映画か何かで工場のシーンによく見られる、タンクから染み出すオイルのように。

 やがて”それ”は一箇所に集まって、
まるで意志を持ったかのように、重力に逆らうようにして膨れ上がり。

(゚、゚*;川「い……」

 突然、そこから飛び出した無数の触手のようなものが、ペニサスの身体を捉えた。

(゚、゚*;川「い……いやあぁぁあああぁ!」

 大きな、ぎょろりと怪しく光る目玉を視界いっぱいに見たのを最後に、
彼女の意識は、そこで途切れた。
15 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:01:12.28 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

(*゚ー゚)「それじゃあ、私は部活だから行きますね」

川 ゚ -゚)「ああ、またな」

 そう言って生徒会室を出て行く後輩を見送ると、
クーは悪く言えばごちゃごちゃと、良く言えば生活的なその部屋に、ひとり残された。


 しばらくして、ひとしきり仕事を終えると、徐に席を立ち、窓を開けて外の景色を見た。

 秋の空はどこまでも高く青く、どこか暗く冷たい。
少し肌寒い外気は、ストーブで熱された部屋の空気に比べるとずいぶん新鮮で、
煮詰まってしまいそうだったクーの頭を癒した。

 クーは、平和で穏やかな、人によれば「刺激が足りない」とも言われるこの日常が好きだった。

 そしてそれ故に、自らに課せられた使命を呪うことも、決して無かった。

川 ゚ -゚)「……今日はどうも、胸騒ぎがする。何も起こらなければいいが……」

 壁に立てかけてあった竹刀入れを手にとりながら、誰に言うでもなく、そう呟いた。
16 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:02:48.36 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「……?」

 不意に彼女の耳に、かすかな物音が届いて来た。
それはある程度規則的で、小さいながらも、少しずつその大きさを増していっている。

 耳慣れた、廊下を蹴る音だった。

(*;゚ー゚)「会長!」

 声とともに、ばたんと乱暴にドアが開かれた。

(;*゚ー゚)「大変です、学校が――」

 すべてを聞く前に、彼女は刀を携え、駆け出した。

 直感は不運にも、見事に当たったようだった。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:04:04.05 ID:70/etcBeO
触手支援
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:04:14.89 ID:wYFhpfsvO
支援
19 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:04:51.20 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 化学実験室。
大抵どの高校にでも存在し、大抵なんらかの科学系のクラブが利用している特別教室。

 このヘリカル女学園のそれも勿論、例外ではない。
どこにでもあるような設備を擁し、放課後はありふれた「科学部」というクラブの活動場所になっている。

 強いて違いを挙げるとすれば、今年度になってから大規模な実験失敗が連発されており、
また、それが放課後に集中していることくらいであろうか。

 その多数の失敗の最大の原因……少女、ハインリッヒ高岡は、
この日もいつものように実験室で器具を破壊し、”生徒会長”の役職に座る幼馴染から、
毎度のようにお灸を据えられたところであった。

从;゚∀从「はぁ……あいつ、昔はもっと優しかったのになあ」

 そう漏らす彼女であるが、別にそれは、クーに対しての文句でもなければ、
自らの責任の重さを計り違えての見当違いな言い分でもなかった。
言うなれば、経ってしまった歳月への皮肉と言うか。

彼女の心にあるのは、もっとわけのわからない、抽象的なものである。

 彼女は言いながら、頭ではわかっていた。
なぜ自分が怒られたのかも、どうして自分が怒られるようなことをしたのかも。
もとより頭の回転は速いほうなので、行動の際になぜそうしたかという理由を、いちいち知っているのである。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:06:15.56 ID:70/etcBeO
百合支援
21 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:06:50.11 ID:2ARyGMos0
 地面に落としていた腰を上げ、スカートを両手で払う。
小さく伸びをしてふと体勢を戻すと、数人いる後輩のうち一人が傍に寄って来ていた。

(゚、゚トソン「部長は、会長と本当に仲がいいんですね」

 あのクーの凄まじい無言の迫力も、週一、二回のペースで見れば慣れてしまうのか、
いたって普通な様子で、後輩は言った。

从 ゚∀从「仲良く見えるか?」

(゚、゚トソン「だって、こんなに問題ばっかり起こす人間、愛想を尽かしますよ。普通」

从#゚∀从「ぶち殺すぞ」

 ハインは顔を顰めて頬を膨らませ、都村の顔を睨んだ。
しかし、童顔な上に身丈の小さい彼女がいくら凄みを効かせて睨んだところで、
頭一つ背の高い都村にはなんの威力も発揮しない。

 都村はただ笑った。ハインはそれを見て、とてもやるせなく、また情けない気持ちになった。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:08:32.59 ID:pgPIzAN/O
支援
23 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:08:40.96 ID:2ARyGMos0
从  -从「……俺って、そんなに迫力無いかな」

(゚、゚トソン「無いですね。ついでに言うと、威厳もないし畏敬の念もびっくりするくらい沸きません」

从 ;∀从「そんなハッキリ言うなよ……余計悲しくなるだろ」

 ハインは割と本気で落ち込み、顔を伏せた。

(゚、゚トソン「まあ、気にすることじゃありませんよ。
     今更部長が更生して完璧超人になっても気持ち悪いだけですし」

从 ゚∀从「……はぁ」

 会話が終わると、都村たちほかの部員は、荷物を片付け帰り支度を始めた。
その一方でハインはというと、ロッカーから掃除用具を出し、
飛び散ったガラス片や液体、化学物質などの片付けにあたった。
全部、自業自得である。

从 ゚∀从「……はぁ、あーあ」

 彼女は深く溜息をついて、掃除を始めた。
気付けば部屋には、誰も居なくなっていた。

24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:09:22.11 ID:pgPIzAN/O
支援
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:09:53.50 ID:eEK4JoeEO
ガリレオ支援
26 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:10:03.18 ID:2ARyGMos0
 ハインは特別不器用なわけでも、科学の知識に乏しいわけでもない。
実験の失敗は、ほとんど故意的なものである。
頭では駄目だとわかっているのに、ついやってしまう。それはなぜか。

 ハインは自分の中で、なんとなくその結論を得ていた。
要するに、クーに構って欲しいのである。

 なぜそんな風に思うのかも、少し考えれば簡単に分かることだった。
自分の知らない間に、クーが自分から離れて行くのが、恐くてたまらないのである。
そう思うのはやはり、心のどこかで彼女を別格に捉えているから。

27 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:10:39.64 ID:2ARyGMos0
 ハインは中学校の頃、虐められていた時期があった。
理由は何れも単純かつ幼稚で、非常にどうでもいいものである。

曰く、「生意気だから」。
曰く、「運動ができないから」。
曰く、「体が小さいから」。
曰く、「胸がデカイから」。
曰く、「混血だから」。

 こじつけである。もっとも、虐めの理由など大抵そんなものだが。
しかも、それらを解消したからといって虐めが終わるとは限らないし、
本人の努力では解消できないものを理由にされていることも多い。

 ハインの場合は、後者が多かった。
また、中途半端なプライド故に前者を解消することも芳とせず、そのスタンスも対象となった。
生意気、巨乳、チビ、混血、運動音痴。
歩くコンプレックスの塊である。
蔑みにしても嫉妬にしても、格好の的であった。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:11:26.55 ID:eEK4JoeEO
支援
29 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:12:36.32 ID:2ARyGMos0
 友人たちは、徐々に彼女から離れて行った。
いや、離れて行った、と言うと語弊があるかもしれない。
正確には、彼女に味方するものが居なかったのだ。

 それなりに会話をしたり、そういったことはするのだが、ひとたび彼女に対する攻撃が始まれば、
彼女らは皆、そっと気付かれぬよう彼女から距離を取る。
そんなこともハインは承知の上だったので、咎めはしなかった。
むしろ一人でも戦ってやると、ここでも変なプライドが働いた。

 結果として半年ほど経った後には、虐めは最高潮までエスカレートしていた。


 ある日、ハインは一人の女子生徒から呼び出しを受けた。
ハインはその生徒のことをよく知っていた。
クラスの不良グループの一員だったからである。

 シカトして家に帰ろうとすると、腕を引っ掴まれ、成す術もなくトイレに連れていかれた。

30 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:14:28.48 ID:2ARyGMos0
 その後のことは、今思い出しても反吐が出そうだ。
彼女は三人がかりで羽交い絞めにされたあと、身包みを剥がされ、
乙女としての心を、何より自らのプライドをズタズタにされた。

 けれど、そこで彼女を助けたのがクーだった。

 ハインは泣きついた。
おいおいと情けないくらいに大きな声を上げ、クーの腕の中で。
クーはそんな彼女を見て、笑うでもなく、泣くでもなく、
いつもの無表情のまま、ただすこし目を細めて、彼女の背中を摩って言った。

 私がずっと傍に居る、私はずっと君の味方だ。
だから、あんな卑劣な奴らになど、決して負けるな、と。

 クーとはずっと仲が良かった。
どこか曲がった性格のハイン、思ったことは包み隠さないクー。
これは現在に至る話だが、ハインはそんな二人が友達であることが、不思議でならなかった。

 だから、なんとなく思ったのだ。
ちょっとしたきっかけで、クーは自分から離れて行ってしまうのではないかと。
だから虐めを告白することが出来ず、彼女の前では作った笑顔で居たのだ。
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:15:37.54 ID:pgPIzAN/O
支援
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:16:00.09 ID:70/etcBeO
ミニマム巨乳!?
ハインかわいいよハイン
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:16:34.03 ID:eEK4JoeEO
支援
34 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:16:50.15 ID:2ARyGMos0
 しかし、実際はそうではなかった。
彼女は律儀で実直だった。
言葉どおり、彼女はハインのことを決して裏切ろうとはせず、むしろ以前よりもずっと、ハインに親しく接してくれた。

(後に聞いた話だが、どちらかと言えばドライで現金な性格のクーがそういった態度を取るのは、とても珍しいことだったらしい)

 やがて虐めは収束し、跡にはクーとの、少しだけ強くなった絆が残っていた。


 胸に付けた、赤いペンダントを握る。
いつかの誕生日に、クーがプレゼントしてくれた。
彼女が持つ、唯一のクーとの物的な繋がりだ。

 クーは決して裏切らない。
感覚的には理解している。
けれど、やはりどうしても不安になるのだ。特に、お互い時間を取られ、会う機会が減ると。
それ故にこうして、時に間接的にちょっかいを出し、クーとの絆が終わっていないことを確認するのだ。
35 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:17:23.65 ID:2ARyGMos0
 それを知れば、クーはどう思うだろう。
愚かだと呆れるかもしれない。気持ち悪いと思われるかもしれない。
もしかしたら、すでに内心ではそう思われているのかもしれない。
そんなことを考えると、不安でたまらない。

 最近は少し明るくなってきたと、みんなに言われるけれど、
それは研究して作った明るさであり、決して彼女の素ではない。
こうやって不安になっている自分を確認しては、彼女は自分を余計に咎めている。

 ネガティブである。
ネガティブゆえに歪み、歪んだ針金はもとの真っ直ぐな状態には戻らないのである。
そして、その歪みを受け止めている相手はクーである。

 つまり、思考は堂々巡りでパターン化しており、終わらないのだ。

36 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:18:20.59 ID:2ARyGMos0
 頭を振り払って、無限ループを打ち切った。
ほとんど無意識のうちに、掃除は終わっていた。
あとはいつものようにバッグを片付けて、いつものように家に帰るだけだ。
いつものように、いつものように、いつものように――。

Σ从;゚∀从「うおっ!」

 不意に、腕を掴まれた。
慌てて振り返ると、そこには誰も居らず。
ただ一本の太く長い触手のようなものが、窓の隙間から伸びていた。

37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:18:40.05 ID:eEK4JoeEO
支援
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:19:32.98 ID:70/etcBeO
触手!支援
39 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:20:12.16 ID:2ARyGMos0
(-_-)「やあっ」

从'ー'从「とうっ」

 二人は視界が切り替わるとすぐ、空中で体勢を整えて、気の抜けた掛け声とともに地上に降り立った。

从;'ー'从「ひゃっ!」

 しかし直後、バランスを崩して少女――渡辺は、尻餅をついた。

从;ー;从「いったあ……」

(-_-)「大丈夫ですか?」

 その様子を見て、少年――ヒッキーは素早く屈んで、手を伸ばそうとし、

(*-_-)(……あ)

 不意に視界に、少女の細く、しかしなめらかな曲線を描く白い腿が露わになるのを捉えた。

(*-_-)(ふ……太腿……渡辺さんの太腿、綺麗だな……)

 一瞬煩悩に惑い、完全に思考が停止する少年。
しかしすぐに我に返ると、雑念を振り払うようにして頭を左右に揺らし、
本来の目的通り、彼女の眼前へと手を伸ばした。
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:20:53.95 ID:eEK4JoeEO
支援
41 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:23:32.74 ID:2ARyGMos0
从'ー'从「あ……ありがとぉ……」

 差し伸べられた少年の掌に自らの細い指を絡ませ、彼の腕と自らの足の支えで彼女は立ち上がる。
足元を見ると、感触からもわかった通り、茶色い砂が一面を埋め尽くしていた。
お尻のあたりに付着したと思われる砂を、両手でパンと、何度も払った。

从'ー'从「ねえ、もう着いてない?」

 渡辺は顔だけヒッキーのほうを覗いたまま、首から下を半回転させ、
お尻のあたりを強調するようにして突き出し、訊ねる。

(*-_-)「だ……大丈夫……ですよっ!」

 幾分どもり、頬を俄かに桃色に染めながら、しかし平静を装ってヒッキーは答えた。
一方の渡辺は、そんなことには気付く様子もなく、ただいつもと同じ調子で笑顔を見せながら、

从'ー'从「そっかぁ、よかったぁ」

 と言っただけだった。

42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:25:19.62 ID:eEK4JoeEO
支援
43 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:25:32.09 ID:2ARyGMos0
 渡辺はきょろきょろと小鳥のように頭を動かしながら、あたりを見渡した。
体操服に身を包んだ女性とが数十人、グラウンドを走ったり、
或いは隔離されたスペースで球技の練習をしたりしている。
また、遠くに洒落た西洋風の小奇麗な建物が見えた。

从'ー'从「ここは……学校かな?」

(-_-)「そうみたいですね」

 同じように額に手を当てながら目を凝らし、ヒッキーが答えた。

从'ー'从「でも、生徒が全裸でランニングしてたりするわけじゃないし、
     見たところ、大したことはないような気がするよぉ」

 米神に手を当て、頭を捻りながら、そう漏らす渡辺。
もしかすると、まだここではdatの影響は出ていないのかもしれない。

(;-_-)「これじゃあ、逆にやりにくいですね」

 少し口元を歪めながら、ヒッキーが言った。
何か事件が起きる前に解決できれば、それに越したことはないのだろうが、
何も起きていないということは即ち、何も手がかりが無いと言うことでもある。
そして、切欠となるものも無いため、どうしてもアクションが取りづらい。
44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:25:56.57 ID:pgPIzAN/O
支援
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:26:14.73 ID:70/etcBeO
ふともも支援
46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:26:40.29 ID:eEK4JoeEO
支援
47 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:28:02.67 ID:2ARyGMos0
(-_-)「何か起きるまで、待ってみます?」

从'ー'从「ダメだよぉ。いつも後手に回ってるんじゃ……そんなんだから彼女もできないんだよぉ?」

 渡辺が毒づくように言った。

(;-_-)「……すいません」

 いつもと同じ可愛い笑顔。いつもと同じ可愛い声。
そこから放たれた、二重の辛辣な言葉に、ヒッキーは胸に針を突き刺されたような感覚を覚え、
そしてなんともやりきれない気持ちになり、がっくりと肩を落とした。

从'ー'从「まあいいや、とりあえず、何か起きてないか探ってみよう」

 二人は、人目につかないようにグラウンドの端の草むらを塀伝いに歩いて、校舎のほうへと向かった。

 肉付きのいい生徒を目にする度、ヒッキーが頬を緩ませ、
それをその都度渡辺が咎めたりしながらも、
ほどなくして二人は校舎の前へとたどり着いた。

(-_-)「ここまで、見事に何もありませんでしたね」

从;'ー'从「うーん……なんだか、拍子抜けするなぁ」

 時空の旅を繰り返す中、動くたび何か事件が起きていた二人にとって、
もはやこうも何も起きないことは、不自然にすら感じられた。
48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:29:40.88 ID:eEK4JoeEO
支援
49 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:30:18.41 ID:2ARyGMos0
 周りの人々が、ただいつもと変わらぬ日常を過ごしているのに、
事情を知っている自分たちだけが、浮き足立っている。
その様子に何か、不穏なものを感じずにはいられなかった。

 そして違和感はやがて、現実となって正体を表す。


『キャアアァァアアァァ!』

 突然、耳を劈くような甲高く、鋭い叫びが、辺りに響き渡った。

 玄関の前で、いつものように姦しく、お喋りに勤しんでいた数人の女生徒たちが、
一瞬、まるでその間だけ時間が止まったかのように、固まった。
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:31:41.43 ID:eEK4JoeEO
支援
51 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:32:08.20 ID:2ARyGMos0
Σ从;'ー'从「!」

(;-_-)「い……今、誰かの声が……」

从;'ー'从「あ……あっちのほうから聞こえたよぉ」

 渡辺はシンメトリーに造られた華やかな校舎の外観を二分するように、
その玄関の真ん中を指差した。
遠かったが、小さかったが、けれど確かに聞こえた、恐怖に染まったあの声。
あの向こう側で、いったい何が起きたというのか。

(;-_-)「行きましょう!」

从;'ー'从「うんっ!」

 事情を確認すべく、すぐに二人は駆け出した。
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:33:15.03 ID:eEK4JoeEO
支援
53 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:35:11.71 ID:2ARyGMos0
 ヒッキーは玄関の扉に手を掛け左右に大きく開いた。
がたん、と大きな音を立て、端に置かれていた傘立てが揺れる。

(;-_-)「うわっ!?」

 ヒッキーは玄関の光景を目にし、思わず立ち止まる。
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。

(;-_-)「しょ……触手?」

 倒れたロッカー、散乱する無数の靴。その中央。
どこからか、機械のコードのように何十本もの緑色の植物の弦のようなものが伸び、
その先は何れも、一人のか弱い少女の痩躯にきつく巻き着いていた。

ξ;゚听)ξ「た……たすけっ……」

 少女は搾り出すように、小さく声を上げる。
四肢をばたつかせて弦を引き払おうとしているが、抵抗むなしく、
胴に巻き着いていた弦が何本か手足に移り、その動きを止めた。
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:36:15.39 ID:pgPIzAN/O
支援
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:36:43.96 ID:eEK4JoeEO
支援
56 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:36:56.31 ID:2ARyGMos0
 少女の身体が、歪なXを描くように固定されたかと思うと

ξ///)ξ「ひゃうっ?!」

 新たに現れた弦が二本、少女の胸元から衣服の中へと侵入して行き、
彼女の身体を弄る様に、くねくねと動き回った。

ξ///)ξ「やめっ……やっ……」

 微妙なタッチで撫でられる身体。
四肢を拘束された羞恥からか、その感触からか、
少女の頬は徐々に紅潮し始め、掠れた声に興奮の色が混じり始める。
その得体の知れない感触から逃れるように、彼女は必死に上半身を左右に捩じらせる。

ξ///)ξ「……っく」

 やがて、弦の動きは収まり、彼女へのタッチは止まった。
しかし弦は、今度はその先端をフックのようにして曲げ、襟に引っ掛けたかと思うと、

ξ;゚听)ξ「きゃあっ!」

 ブレザーごと、白いワイシャツを思い切り左右に引き裂いた。
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:37:08.29 ID:pgPIzAN/O
支援
58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:37:50.86 ID:eEK4JoeEO
支援
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:39:03.55 ID:70/etcBeO
支援
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:39:07.57 ID:pgPIzAN/O
支援
61 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:39:09.12 ID:2ARyGMos0
 ピンク色の、可愛らしいブラジャー。
それに守られた、小振りながらも形の良さそうなお椀型の膨らみが露わになる。

(;-_-)「わっ!」

 それを目にして、殆ど反射的にヒッキーは目を伏せた。

从;'ー'从「ど……どうしよう!?」

(/;-_-)「どどど、どうしようと言われましてももも」

从;'ー'从「でも、このままじゃあの子は裸に剥かれて、めくるめく禁断の触手ワールドにフォーリンダウンだよ?
      なんとかしなきゃ!」

(/;-_-)「わ……わかってます、わかってますけど!」

 狼狽しながらも、ヒッキーはその場にあった掃除用具入れから自在箒を一本取り出し、
見よう見まねで、剣道のように下段の構えを作り、

(;-_-)「い……行くぞ!」

 少しだけ躊躇ったあと、決意を固めるようにそう呟いて、床を蹴って飛び込んでいった。
62 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:39:47.40 ID:2ARyGMos0
(#-_-)「う……うおおぉぉぉぉぉおお!」

 体力派と言うには貧相すぎるその身体、身軽さだけが頼りである。
しかしもとより、反射神経と瞬発力だけには自信があった。

 一瞬だ。
一瞬だけ、彼女が逃げる隙を作ればいい。

 自在箒の先端が、右足に巻き付いた弦へヒットする。
そして、

ξ;゚听)ξ「ああっ?!」

 少女に巻き付いた弦が、突如としてその力を緩めた。

(;-_-)「あれ?」

 あまりに手ごたえのない一撃。
こんなもので弦に対抗できるはずがない。
しかし弦は先程までの元気を失ったかのように、少女から手を引いていく。

 ヒッキーは怪訝そうにあたりを見渡した。
嘘だ。
こんなに弱いはずが……。
63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:42:06.82 ID:pgPIzAN/O
支援
64 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:42:08.57 ID:2ARyGMos0
 その瞬間、背後に気配を感じた。

(;-_-)「……っ!」

 慌てて箒を上段に構え直し、振り向いた。
先端に、一本の弦が巻き付く。
弦はそこから螺旋を描くように、柄を張ってヒッキーの手元へと素早く動く。

(;-_-)「くっ!」

 思わず彼は、箒を投げ出した。
そしてまた背後より感じる、殺気。

(#-_-)「逃げて!」

 叫ぶように強く、彼は少女に促した。

ξ;゚听)ξ「あ……あ、うんっ!」

 ぎこちない足取りで、少女が玄関から外へ出て行くのを見届けた。

 息つく暇は、一秒たりとも無い。
二本、四本、八本……。
無数の弦がヒッキーに、四方八方から雨霰のように降りかかってくる。
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:43:07.03 ID:70/etcBeO
支援
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:44:51.98 ID:eEK4JoeEO
支援
67 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:46:47.25 ID:2ARyGMos0
(;-_-)「くっ! このっ!」

 すべて紙一重で何とかかわしながら、彼は弦の動きを分析する。
人間と同様、素早く動くときは複雑に曲がることができないようである。
だからこそ、彼は攻撃をかわせている。

 しかし彼はすでに、自分の体力の限界も感じ始めていた。
普段から運動は殆どしないのだから、当然と言えば当然である。
心臓がばくばくと早く脈打ち、息も荒くなる。
それに併せて動きが鈍り、足がもつれ、

(;-_-)「うわぁっ!」

 とうとう、右足を捉えられた。

(;-_-)「は、離せっ!」

 網に掛かった魚のように、バタバタともがくヒッキー。
しかし片足だけではバランスを保つことは出来ず、
ようやく立ち上がりかけたところで、右足が引っ張られる方向へと豪快に倒れこんだ。

(;メ-_-)「くっ……」

 膝に鈍痛が走る。
どうやら、体が捩れたときの衝撃で強く捻ったようだった。
68 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:47:52.64 ID:2ARyGMos0
 抵抗も出来ず、そのまま強い力で足が引っ張られ、
ヒッキーは背中を床に付けたまま、勢いよく引き摺り回される。
そして、不意に身体が宙に浮いたかと思うと。

(;メ-_-)「うわぁぁああ!」

 そのまま思い切り、地面に叩き付けられた。

从;ー;从「ヒッキー!」

 渡辺の、悲鳴にも似た叫びが耳に響く。

 聞こえる。
見えないけれど、わかる。
恐らく、泣いているのだろう。あの美しい瞳を、涙に滲ませて。

(;メ-_-)「ぐ……」

 ヒッキーはなんとか両手で上体を起こす。
身体に力を入れると、頭皮の裂けた部分からドクドクと血が溢れ始める。
額から鼻筋を伝って、血液が一滴落ち、床に跳ねた。

 彼女と組み初めて、もうどれだけの時間が流れただろう?
自分の力不足で彼女を傷つけたり、呆れさせたり、
もうそんなことにはさせまいと、この旅が始まる前に誓ったんじゃなかったのか?

 頭の中で、自問自答を繰り返す。
状況は絶望的だ。しかし、諦めは即ち、死に直結する。
69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:48:14.92 ID:smpXT80PO
童貞くさすぎ
つまんね
70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:49:03.90 ID:eEK4JoeEO
支援
71 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:49:40.50 ID:2ARyGMos0
 自分なんかどうでもいい。いつ死んだって、構わない。
彼はそう思っていた。
ただ、それは彼女に会う前の話だ。

 負けられない。

(;メ-_-)「……っ!」

 ふと、視界に見慣れない何かが飛び込んでくる。
弦の先を辿れば行きつく、がらんと大開になった窓。
その付近にぽつんと存在する、毒々しいほどに紅い、大きな花。

(;メ-_-)「イチか……バチかだ!」

 ヒッキーは、床に転がっていた箒を一本拾い上げると、
上体の力を上手く使い、それをめがけて思い切り放り投げる。

 見事な放物線を描きながら飛んでいったそれは、花弁に囲まれた中央部へ、ぐさりと突き刺さった。

 左足に巻き付いた弦がその力を緩め、周りの他の弦たちも、次々にその動きを鈍らせていく。

(;メ-_-)「やったか?!」

 立ち上がり、花びらの内側を覗いた。
なにやらどす黒い、固体とも液体ともつかないようなもので満たされた空間に、
自在箒の先端が突き刺さっていた。
72 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:50:36.49 ID:2ARyGMos0
 それを見て、ほっと胸を撫で下ろすと、

从;ー;从「ヒッキー!」

(;メ-_-)「わっ!」

 渡辺が甲高い声を上げながら、彼の身体に向かって飛び込んできた。
背中に手が回されて、彼女はこれ以上ないほど、ヒッキーに身体を密着させる。

(*メ-_-)「わ……渡辺さん」

 同じように、彼も渡辺の華奢な身体を抱き締めた。
みぞおちの辺りに、丸く柔らかい、女性特有の膨らみを感じる。
役得だ。
そう思いながら、その感触を楽しんでいた彼だったが、
そのうちになんとも言えない激しい欲望のようなものに掻き立てられたので、
それを必死に抑えつつ、泣く泣く身体を離した。

从;ー;从「もう……ムリ、しないでよ、ね?」

 渡辺は、涙で塗れた顔をヒッキーの胸に埋めたまま、
涙声でそう、途切れ途切れに言った。
それを聞いて少し頬を紅潮させながら、彼は答えた。

(メ-_-)「大丈夫ですよ、このくらいの傷」

 渡辺の柔らかな頬が、鎖骨のあたりに当てられる。
彼女の頬を伝って、涙が肌に触れた。
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:51:08.25 ID:eEK4JoeEO
支援
74 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:51:52.33 ID:2ARyGMos0
 お互いに、感情が昂ぶってる。
今なら、言えるかもしれない。
彼は決意を固めて口を開き、言葉を紡ぎだそうとした。

 しかし、次の瞬間。

(;-_-)「――!」

 油断していた。
反応が遅れてしまった。気付けなかった。
こちらに向かって飛んでくる、一本の太い弦。

从;'ー'从「ひゃう!?」

 それは渡辺が声を上げる間に、彼女の括れたウェストを、二本の細腕を巻き込んできつく締め上げた。

从;'ー'从「ひぃやっ……たすけ……」

(;-_-)「渡辺さん!」

 肩に当てていた手が、無理矢理離され、渡辺の身体が宙ぶらりんの状態になる。
75 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:52:50.32 ID:2ARyGMos0
从;ー;从「嫌、イヤぁっ! 助けて、ヒッキー!」

 劈くような高い声を上げて泣き叫び、彼女は両脚を激しくばたつかせるが、
新たに何本か伸びて来た触手が両方の足首に巻き付き、その自由さえも奪った。

(;-_-)「くっ!」

 ヒッキーは渡辺を助けるべく、先程と同じように、弦の本体と思しき”花”を探す。
やがて天井近く、渡辺のちょうど背後に、先程とは違う青色のそれが見えた。

(-_-)「そこかっ!」

 彼は先程の箒を手にすると、花を目指して勢いよく駆け出した。

 しかし、彼の行く手を阻むように、一本の弦が彼に向かって水平に打たれた。

(;-_-)「わっ!」

 思わず足を止め、屈む。
彼の額の上、僅か数センチのところを、弦は掠めて通り過ぎて行き、
そのまま勢い余って、ロッカーを幾つか吹き飛ばした。

 見れば、倒れたロッカーを上下に裂くように、金属製品独特の、鋭い凹みが現れていた。
彼は、背筋に強烈な寒気が走るのを感じた。
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:53:24.93 ID:eEK4JoeEO
支援
77 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:54:37.73 ID:2ARyGMos0
 紙一重だった。
あれをまともに食らったなら、どうなっていただろう。
後ろに思い切り吹き飛んで、もしかしたら肋骨の二本や三本くらい折れていたかもしれない。
安堵の直後に襲ってきたさらなる恐怖に、ヒッキーの足が竦む。

 一瞬の隙を突くかのように、また弦が彼に襲い掛かってきた。

 彼はすぐさまそれを察知し、殆ど反射的に床を蹴って飛び上がった。
風を切るような音とともに、彼の足元を弦が通り過ぎていく。
しかし、

(;-_-)「ぐわああぁぁぁ!」

 遅れて高めにもう一本打たれた弦が、彼の腹部を直撃する。
彼の身体はそのまま勢いよく吹っ飛ばされ、無数のロッカーの残骸の上に倒れ込み、金属板に頭をぶつけた。
あまりの痛みに後頭部を押さえ、そして、手の平にべっとりとした感触を覚える。
どうやら傷口が開き、多量の血液が噴き出しているようだった。

 彼の身体は、すでに満身創痍であった。
目を開ければ、視界がくらむ。
殴られたときの鈍痛とは別に、鋭く激しい痛みが絶え間なく腹部を襲う。

 それでもなんとか、彼は上体を起こす。
渡辺を助けたいというその思いが、気力だけが、彼にそうさせた。
しかし、そこから立ち上がって戦うだけの力は、彼には最早残っておらず、
ただ歪む視界の中に、水平に引かれた緑色の直線を捉えるのが精一杯であった。
78 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:55:26.21 ID:2ARyGMos0
 ――ああ、これまでか。
心の中でぼんやりと呟きながら、彼は恐怖から逃れるように、その目を強く閉じた。

 そうして、どのくらいの時間が経っただろう。
いや、大した時間は経過していないのだろうが、それにしても、あまりにも長すぎやしないか。

 予測し、恐れ慄いたあの強烈な痛み。
いつまで経っても襲ってこないそれに対し、彼は著しい違和感を覚える。
いったい、何が起きたというのだ。

(;-_-)「どうなって……」

 現状を確かめるべく、彼は薄く目を開けた。

 しかし、彼が目にしたのは、左右に伸びた緑の直線でもなければ、その身代わりとなった何かでもなく、

川 ゚ -゚)「……間に合ったか」

 本体から切り離され、床の上で死ぬ間際の蛇のように力無くうねる弦と、
一本の日本刀を構え、この殺伐とした場の中において、あまりにも凛とした雰囲気を保っている、
黒髪の少女の姿であった。
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:56:07.57 ID:eEK4JoeEO
支援
80 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:57:40.77 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 少女は向かってくる弦を、片っ端から薙ぎ払った。
その一連の動作は、一つ一つに一切の無駄が無く、それ故とても美しく、
もともとの彼女の容姿とも相まって、見るもの全てを魅了せんばかりの雰囲気を醸し出している。

 ヒッキーもつい、その様子に思わず魅入ってしまっていた。
力ではない。
何か別の、もっと凄まじいものを以って、襲い来る弦を断ち切っている。
彼女の舞いを見ながら、ぼんやりと直感的に、彼はそんなことを思った。

 やがて、彼女は弦の密集した部分への突入を試みた。
それまでとは比べ物にならない、無数の弦が彼女に襲い掛かるが、
その猛攻が身に届くよりも早く、剣先が花を捉え、真っ二つに割いた。

 途端に弦の動きが止み、それと同時に、縛り上げられていた渡辺の身体も解放された。

从'ー'从「ふえぇ……あ、ありがとう……」

 へたりと床に膝を着きながら、いつものように間の抜けた声を上げ、渡辺は少女の方を覗いた。
末広がりの二重目蓋、すっと通った鼻筋に、シャープな顎のラインが印象的な整った顔立ち。
それは、女の渡辺の目から見ても充分過ぎるほどの美しさを持っていたが、
同時に、まるで作り物のような冷たさも感じられた。
81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:57:47.87 ID:uiQ6xXb00
支援
82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 22:58:23.32 ID:eEK4JoeEO
支援
83 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 22:59:01.52 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「二人とも、怪我は……」

 言いかけて、少女は言葉を止めた。
それは、顔を血塗れにしてぐったりと座りこんでいるヒッキーの姿が目に入ったからに他ならない。
すぐさま彼女はポケットからハンカチと包帯を取り出し、ヒッキーに傷の手当てを施した。

(;-_-)「あ……ありがとう」

川 ゚ -゚)「よし、ひとまずこれで大丈夫だ」

 表情一つ変えないままに手当てを終えた彼女に、ヒッキーはどもりながら訊ねる。

(-_-)「あ……あの、君は?」

川 ゚ -゚)「……それはどちらかといえば、私の台詞だと思うのだが」

(;-_-)「あっ……ご、ごめん」

川 ゚ -゚)「構わない。私の名前は、砂尾空。この学校の生徒会長だ。
     ところで君たちは、ここで何をしていたんだ? 見たところ、うちの生徒ではないようだが」

 少女――クーは極めて簡潔に自己紹介を済ませると、自らが持っていた疑問を口にした。
その問にヒッキーが口をもごもごと動かして答えようとしたが、それより先に、渡辺が話し始めた。
84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:00:43.36 ID:eEK4JoeEO
支援
85 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:02:12.48 ID:2ARyGMos0
从'ー'从「えっと……こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないけど……
     私たちは、別世界から来たんだよお」

川 ゚ -゚)「別世界?」

 幾分調子を上げて、クーが聞き返した。
渡辺はこの世界に至るまでの経緯を大まかに説明した。
datという装置を探している事。それによって、この異変は起きたということ。
それらを聞きながらクーは、口に手を当てて顔を小さく伏せていた。

 渡辺の説明が終わった所で、ふん、と呟きクーが顔を上げた。

川 ゚ -゚)「君たちは、別世界から来たのだな?」

从'ー'从「そうだよぉ」

川 ゚ -゚)「実はな、私もその『別世界』というものには心当たりがある」

 突拍子も無い、発言。
渡辺は思わず声を漏らして驚くき、あわてて口を塞いだ。
一方でヒッキーは一瞬驚愕の表情を見せながらも、何も言わずに黙ってクーの言うことを聞いていた。
86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:04:07.84 ID:pgPIzAN/O
支援
87 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:04:32.09 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「普通なら、誰に言っても信じないだろうが、君たちなら信じてくれるだろう。
     この世界の裏側には、もう一つ『魔界』と呼ばれる別世界が存在する」

从;'ー'从「ま……まかい?」

川 ゚ -゚)「その世界の住人……私たちは俗に『淫魔』と呼んでいるが、
     奴らは読んで字の如く、自らが放出する煩悩をエネルギーに換えて生きている。
     まあ、あっちの世界だけで収まっていればよかったんだが……」

 クーは一旦喋るのをやめて、唾を飲み込んだ。
渡辺が、急かすように言った。

从'ー'从「何か、あったんですか?」

川 ゚ -゚)「所謂『魔王』の出現さ。数年前に出現した魔王は、通常の淫魔とは比べ物にならないパワーを持って、
     この世界と『魔界』を繋ぐゲートを世界のあちこちに作り出した。
     その結果、こんなことが今、世界中で頻発している」

(-_-)「エネルギーを得るために……ですか?」

川 ゚ -゚)「その通りだ。後は察しが着くと思うが……、
     私の一族は、こちら側に来た淫魔を追い返し、ゲートを塞ぐ仕事を行っているわけだ」

从'ー'从「ふぇぇ〜……なんだか、日曜朝のテレ朝のアニメみたいな話だねぇ……」
88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:06:42.50 ID:eEK4JoeEO
支援
89 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:06:44.29 ID:2ARyGMos0
 もし、あのまま自分の世界に居て、何事も無く平和に過ごしていけば、こんな話はハナから信じなかっただろう。
そうでなくなったのは、やはりこの異世界の旅に慣れてしまったからか。
まるで他人事のように暢気なことを言いながら、渡辺はそんなことを考えた。

川 ゚ -゚)「前置きが長くなったが……話を戻そう。基本的に淫魔は、この世界では大した力を発揮しない。
     せいぜい、卑猥な悪戯をする程度さ。さほど戦闘能力も持たない。
     なのに今回は、こうも大規模なものが学校を襲っている。
     それが私はどうも納得が行かなかった。
     けれど、もし君たちが言う『dat』というものが一枚噛んでいるとすれば、それも合点が行く」

 クーは何か急ぐように早口でそう説明した。そして一度口を止めると、少し間を置いて、言った。

川 ゚ -゚)「単刀直入に言う。協力して欲しい」

 渡辺は頷いた。

从'ー'从「いいよ! こっちからお願いしたいくらいだよ。ね、ヒッキー」

 ヒッキーは頭を押さえながら、しかし嫌そうな表情は微塵にも見せず、答えた。

(-_-)「勿論です」

 それを聞いて、クーの口元が綻んだ。
しかしすぐに表情を戻し、彼女は言った。
ありがとう、と。
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:08:24.49 ID:eEK4JoeEO
支援
91 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:08:56.66 ID:2ARyGMos0
 クーと渡辺、ヒッキーの二手に分かれて、ジェネレーターの捜索が始まった。

 窓の外では、無数の弦が地面で蠢いている。

川 ゚ -゚)「恐らく、この触手の本体とdatとかいう装置は、校舎の外にある。
     しかし、この中を通っていくのは流石に無謀だ。
     だが、どうやら校舎の内部には、まだそれほど侵攻が進んでいないらしい」

 二階に上って内側から様子を見よう。
そう、クーは提案した。

 渡辺は不安に肩を震わせながら、クーに渡されたペンダントを、両手で固く握った。
紐の先には、赤色の宝石のようなものが付いている。
これには魔法が込められており、いざというとき、淫魔の攻撃から身を守ってくれる優れものだと、クーは言っていた。

 二手に分かれてから、なぜか渡辺は恐くなった。恐くなったから、ペンダントを握っている。
彼女自身は、そのことを不思議に思っていた。
先程まではある程度、精神的に余裕があったのに。

川 ゚ -゚)「そう怯えるな。安心しろ、君に手出しはさせない」

 言いながら、クーは渡辺の肩に手を当てた。
それでもなお、渡辺の不安は消えなかった。
この類の気持ちを、何度か経験したことがあるような気がする。
なぜだろう、と彼女は考えた。
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:10:25.83 ID:eEK4JoeEO
支援
93 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:11:30.85 ID:2ARyGMos0
 クーは強い。それは先程の戦闘で明確なことだ。
それに、信憑性はともかくとして、お守りのようなものも持っている。
危害を加えられることに対しての恐さは、さほどでもない。
ならば、もっと違うところに原因があるのだろう。

 先程と違う点。
それを考えた時、渡辺は何かがわかった気がした。
ヒッキーがいないのだ。
見知った人が傍に居ること。その安心感が先程まであった。そして、今は無い。
いくらクーが強くとも、これだけは賄えなかったのだ。

 彼女はそう、自分を納得させた。
おかげで、恐怖心が少しだけ薄まった気がした。

川 ゚ -゚)「……居るぞ!」

 突然、クーが呟いた。
その視線の先を、渡辺も追ってみた。
角の向こう。そこからなにやら、不気味な気配がするような気がした。

川 ゚ -゚)「離れていろ」

 クーは鞘から刀を抜き、駆け出した。
途端に彼女の身体は、見えないオーラを纏ったかのように、強い気配を発する。
渡辺は、曲がり角の隅のほうへ移動した。
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:12:41.04 ID:hOrBEM/10
しいえん
95 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:13:00.17 ID:2ARyGMos0
 窓から伸びる、おぞましい程の数の弦の集合が、まるで海底の磯巾着のように不気味に蠢めき、
そのうちの幾つかが、一人のセミロングの少女の身体に、貪るように絡み付いていた。

川 ゚ -゚)「!」

 途端に、五、六本の弦が素早く動き、クーの制服に絡み付く。
しかし彼女は冷静にそれを元から刀で断ち切り、振り払う。
そしてその勢いを殺さず、弦の根本へ向かって飛び込む。

 絶え間なく襲い掛かる弦。
しかし彼女はそれらを一本一本確実に、しかも素早く処理していく。

 彼女の刀に込められた魔力は、その威力を何倍にもさせると彼女は言っていた。
自分が強いのは、だからだと。
しかし、それだけではない。彼女は間違いなく、強かった。

 流れるように、次から次へと、襲い来る弦を危なげもなく刈っていく。
一つの動作から次の動作に移るまで、隙が無い。
無駄の無い洗練されたその動きはある種の美しささえ感じさせ、
戦っている彼女は、まるで蝶のようであった。
渡辺は何もできず、口をあんぐりと開けている自分にも気付かずに、
その様子に、ただただ見惚れていた。
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:13:52.77 ID:eEK4JoeEO
支援
97 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:14:31.90 ID:2ARyGMos0
 あっという間に、彼女は本体である花を真っ二つに切り裂いた。
触手の動きは止んで、表面から徐々に色を失い萎れていく。
支えを失って、掴まっていた少女がばたりと床に倒れた。

川 ゚ -゚)「気を失っているようだな……」

 クーはそれだけ言うと、「行くぞ」と渡辺に移動を促した。
一瞬、夢見心地だった渡辺は、その一言ですぐにはっと我に返り、
そしてふと、あることに気付いた。

从'ー'从「放っておくの?」

川 ゚ -゚)「ああ。断言は出来ないが、おそらくここはもう安全だろう。気付いたら逃げ出すだろうし。
     それに生憎、私はあまり人に正体を見られたくないのでな」

 少ししこりが残る感じを覚えつつも、渡辺は彼女に従って進んだ。
窓の外の弦のせいか、相変わらず、辺りには不穏な空気が漂っている。

 この空気に慣れていない渡辺には、踏み出す一歩一歩がとても重く感じられた。
どこか宙ぶらりんな気持ちを抑えるように額に手を当てると、僅かに熱を帯びていた。
向こうの角を曲がれば、もうすぐ、校舎の裏側に到着しようとしていた。
98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:16:13.59 ID:eEK4JoeEO
支援
99 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:17:04.12 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

「うわあ、乳でっかい。牛みたいwwww」

「マジックでおっぱいに『メス牛』って書いてやればいいんじゃね?」

「鬼才あらわる」

「洗濯バサミ胸に付けていくつまで耐えられるか実験してみない?」

「お、面白そうwwwwやれやれーwwwwww」

「うわ、コイツ下の毛まで茶髪じゃんwwwwwマジで混血なんだwwwww」

「こいつ処女じゃんwwwwww遊びまくってるのかと思ってたwwwwww」


 やめろ、やめろ、やめろ。
思い出す感触。屈辱、羞恥、そして恐怖。
頭の中に深く刻み込まれた傷が、じくじく痛む。

 ハインは必死の抵抗を試みるが、所詮彼女の腕力では抵抗のしようが無く、
もがけばもがくほど、弦の拘束はキツくなっていく。

100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:17:41.98 ID:eEK4JoeEO
支援
101 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:18:19.77 ID:2ARyGMos0
从 ;∀从「痛ッ!」

 右肘を、捻じ切られるような激痛が襲った。
もう、力が入らない。彼女の右手がだらんと垂れ下がり、触手に弄ばれる。

 抵抗したら、本当に腕を持っていかれる。
ハインは恐怖のあまり抵抗をやめ、自由を得ることを放棄した。
もともと恐がりな性分である。
一度抑圧の恐怖を覚えてしまうと、もうそれ以上の抵抗ができないのだ。

 触手が伸びる。
白衣の袖からゆっくりと、絶妙なタッチで彼女の身体を這って進んだ。
やがてそれは鎖骨のあたりに到達すると、ハインの豊満な左右の膨らみを割って、
さらにその中へと侵入していく。

从 ;∀从「やめ……やめ、ろ……う……」

 まだ太陽が沈まないうちから、学校で、触手に襲われている。
あまりにも非日常が過ぎる自体。わけがわからない状況への恐怖。
助けを呼びたいが、もう声が上がらない。
戦慄に身体が震え、短い言葉を発するのにも、ぶつぶつと途切れ途切れになる。
102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:18:48.63 ID:/DGldRMGO
支援
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:19:42.98 ID:eEK4JoeEO
支援
104 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:20:43.73 ID:2ARyGMos0
 ぷちん、という何かが切れる音と同時に、胸のあたりがすっと自由になった気がした。
袖から触手がするりと抜けていった。
横目に見れば、一枚のレース生地が、フックのように曲がった先端に掛かっている。

 ああ、剥かれていく。あの時と同じだ。
絶望に身体を強張らせ、見構える。
目の前にさらに二本、触手が現れた。

 不意に、身体に緩く巻き付いていた触手が蠢き、ハインの乳房の上下で激しく食い込んだ。
それにつられるようにして、少し余裕のあった白衣がぴっちりと乳房に張り付き、
その綺麗な半球形を強調した。

从 ;∀从「うぅぅ……ひっくっ」

 声を抑えようとしても、嗚咽が漏れる。それが耳に届くたび、ますます自分が惨めに思える。
自分は無力なんだ、自分はこうやって理不尽に突き付けられた状況に従うしかないんだ。

 クーは優しかった。賢しかった。けれどそれ以上に強かった。精神的にも、体力的にも。
自分はどうだ?
他人のことなんか考える余裕もない。勉強はできても、こんな状態になると機転が効かない。おまけに体力も皆無だ。
さらに、この期に及んで諦めることも覚悟することもできず、誰かが助けに来てくれることをまだ願っている。

 愚かだ。どこまでも愚かだ。
こんな愚かな私は、いっそこの変な怪物に食われてしまえばいいんじゃないか。
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:22:20.66 ID:eEK4JoeEO
支援
106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:22:33.08 ID:Rskmer0hO
支援
107 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:22:42.68 ID:2ARyGMos0
 止まらない嗚咽、涙、動かない四肢。
シャツの上から胸の先端が撫でられ、それに合わせて背筋に弱い電流が流されたような感覚を覚える。
水滴が熱を帯びた頬を、冷たく伝っていく。

 とてつもなく気持ち悪いのに、悔しいのに、でも感じさせられている。
生理的反応だ、仕方ないんだ。
いくら言い聞かせても、自己嫌悪が止まらない。

 自然と、声が出た。

从 ;∀从「クー……助けて……くぅ……」

 弱々しい声。弱々しい表情。でも確かな、助かりたいと思う気持ち。その現れ。

「……誰か、いるのかい?」

 声は、届いた。
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:24:05.19 ID:eEK4JoeEO
支援
109以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:25:02.09 ID:pgPIzAN/O
支援
110 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:25:19.68 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 クーは窓から外の様子を見渡した。
彼女が睨んだ通り、やはり多くの弦の根本は裏庭に繋がっているようであった。

 慎重に階段を降りて行き、手すりから顔を覗かせて一階の様子を確認する。
裏口は閉ざされ、一枚の厚いガラスが弦の侵入を拒んでいた。
淫魔の気配も、強くは無い。
ほっと一息ついて、彼女は渡辺を手で招いた。

川 ゚ -゚)「降りてこい、下は安全だぞ、渡辺」

 渡辺は相変わらず、どこか覚束無い足取りで階段を降りて来た。
そんな渡辺の様子を見て、クーの頭にある疑問が浮かぶ。

川 ゚ -゚)「まだ恐いのか?」

从;'ー'从「……」

 否定はしなかった。否定しなかったと言うことは、多少なりとも肯定の意を孕んでいるということだ。
いったい、彼女は自分に何の不満があるというのだろう?
それを考えたとき、クーはふと、あの細身の少年の存在を思い出した。

川 ゚ -゚)「そういえば、彼はまだ来ていないが……まあ、心配するほどのことはない。
     いざと言うときのために武器も渡してあるし、淫魔にも好き嫌いがある。
     自ら男にも女にも手を出す奴はいないよ」

 彼女を安心させるために、言葉を並び立てた。けれど、表情は曇ったまま変わらない。
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:26:47.51 ID:eEK4JoeEO
支援
112 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:26:53.96 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「彼はそれなりに有能さ。きっと大丈夫。
     それは、君が一番よくわかっていることだろう?」

从;'ー'从「……うん」

 力無く、渡辺は答えた。
なんとなくクーは、自分は信頼されていないのだな、と思った。
そして、こうも彼女に心配されているあの少年のことが、少し羨ましく思えた。

川 ゚ -゚)「彼とは、どういう仲だい?」

从;'ー'从「ふぇぇ?! ど、どういう仲って……」

 突然のクーの問いに、渡辺はうろたえる。しかし構わず、クーは続ける。

川 ゚ -゚)「露骨に顔に出ているぞ。いくら私が彼より強いと言っても、本当は彼と居たほうが良いのだろう?」

从;'ー'从「そ……そんなことないよ! だいいち、彼とはただの友達で……」

川 ゚ -゚)「……まあ、ただの友達でもそこまで思われているのなら、きっと彼は幸せ者だな。
     そして彼も君のことを、いざとなれば身を呈して守ったって構わないくらいに、大切に思っている」

 何か自嘲的な表情を浮かべながら、クーは返した。
自分でもなぜそうしたのか、わからない。
ただ、何か強い嫉妬のようなものが自分の中で渦巻いているのを、彼女は感じていた。
そしてやがて、感情は不意に、言葉となって現れる。
113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:28:43.46 ID:eEK4JoeEO
支援
114 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:29:13.29 ID:2ARyGMos0
川 ゚ -゚)「私も、君に対する彼のような友達が欲しかったよ」

 やめろ、馬鹿な真似は止せ。
自分の中でそう言い聞かせても、どうしても、抑えが効かない。

 きょとんとする渡辺を前にして、なおも思考は止まらない。
唇が、震えだす。たまらず、彼女は何かを言い出しそうになった。
けれど、必死に言葉を飲み込んだ。
ちょうどそれは、幼い頃に経験した、涙を堪えるときの感覚に似ていた。

 クーは感情の正体にようやく気付く。
自分は、渡辺に嫉妬している。
もっと言えば、渡辺と彼女の相棒が、互いに互いを意識し合っていることに。
今言うべきことではない。彼女に言うべきことでも無い。
自分の中で、処理すべきことだ。

 クーは黙り込んで階段に腰掛け、考え事を始めた。

 つまるところ、自分は彼女のように、誰かともっと深い関係になりたいのだ。
では、その誰かとは、誰だろう。
115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:30:42.63 ID:eEK4JoeEO
支援
116 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:32:30.46 ID:2ARyGMos0
 不意に彼女の脳裏に、ある人物の像が現れる。

 小柄で華奢な、まるで西洋人形が動き出したかのような風貌。
それに不似合いな、自己主張の激しい胸。
少し上に目を向ければ、色素の薄い、しかし綺麗な長髪。
睫毛の長いぱっちりした瞳と高めの鼻は、垢抜けない童顔にアクセントを加えている。

 その姿は鮮明に、はっきり見えた。
なぜならば、その像の彼女は、例え遠く離れても決して忘れまいというくらい、
クーには馴染んだ存在だったからである。

 飽きるくらい見てきた。
飽きるくらい一緒に居た。
なのに私は、君に対してまだ何かを望んでいるというのだろうか。
まったく、私という人間は全くもって貪欲だ。

 なあ、ハイン。
117 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:33:24.03 ID:2ARyGMos0
 クーがそんなふうに思索に耽っていると、突然、ガラスの向こう側に動く影が現れた。

川;゚ -゚)「!」

 嫌な予感がした。
思わず、影に焦点を合わせる。手元ばかり見てぼやけていた視界がはっきりしていき、
やがて、その輪郭が徐々に浮かび上がってきた。

 その姿は、ちょうど先程、彼女が網膜に結んだ像と一致した。

川;゚ -゚)「ハイン!」

 彼女は柄にも無く、大声を張り上げた。
冷静になることを一瞬だけ忘れ、無我夢中で扉を開き、裏庭へと飛び出していった。
118以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:33:53.42 ID:eEK4JoeEO
支援
119 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:35:43.96 ID:2ARyGMos0
 ようやく自由になった四肢を揺らし、ハインは確認する。
助かった。まだ純潔だ。
下着を失った胸元が心もとなく、思わず抱くようにして押さえた。
固くなりかけた乳首とシャツが擦れて、思わず身体がびくっと震える。

 よくわからないが、見ず知らずの少年が現れ、自分を助けてくれた。
小刀で弦を断ち切って、四肢の拘束を解いた。

 彼は「逃げて」と言ったが、ハインはそれに応じず、急いで戸棚に手を伸ばし、それを取った。
無茶な実験の副産物。
つまり、簡易的な爆弾を。

 爆風が収まったあと、ハインはひょっこり顔を覗かせた。
窓ガラスが何枚か割れ、火の点いた触手が力なくうねっている。
紙が燃えるときの様子に似ているな、とハインは妙に冷静にそんな感想を持った。

 辺りに目を向けると、遮蔽物として利用した実験机が少し焦げている。
また、とりあえず慌てて隠れたはいいが、衝撃で吹き飛ばされ、頭を打って気絶している少年も目に入った。
下手したら警察沙汰になるかもしれないな、なんて考え、けれど気持ちはどこか高揚していた。

从 ゚∀从「さーて……」

从#゚∀从「絶対許さねえ! ぶっ殺す!」

 拳を振り上げ、火炎瓶を片手に、ハインは走り出した。
身体の上下運動に合わせて、自己主張の激しい胸が揺れるのも気にせずに。
怒りが冷めれば、また恐くなりそうだったから。
120 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:36:43.96 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 突然の疾走。
半狂乱になって飛び出したクーに、渡辺は驚きが隠せない様子だった。

从;'ー'从「く、クー?」

川;゚ -゚)「そこで待っていろ! すぐ戻る!」

 クーは一瞬だけ振り向いてそう告げると、再び、庭の奥へ向かって走り出す。
駆ける、駆ける、駆ける。
階段を三段飛ばしで上り、林の間を抜ける。
躓いた、転んだ、かまうもんか。

 弦が左右から二本、飛んでくる。しかし動じず、一振りで片付ける。
彼女の目は、常に一点を向いていた。
ビール瓶のようなものを片手に走る、親友の姿。
それは突然、ふっと動きを止める。

 あれを投げる気か。無茶だ。倒せるわけが無い。
彼女が瓶を投げようと構えに入る。
しかし、それを待つはずも無く、弦は彼女の身体を襲う、襲う、襲う――。
――間に合え!

 歯切れの良い音とともに、ブツッと弦が弾け跳んだ。
121以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:37:46.90 ID:eEK4JoeEO
支援
122以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:38:11.12 ID:pgPIzAN/O
支援
123 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:38:38.23 ID:2ARyGMos0
 目を固く瞑ったまま、身体を縮めて身構える白衣の彼女。
少し時間を置いた後、おどろおどろしく辺りを確認するように、震えながら目を開く。

从;゚∀从「……クー」

川;゚ -゚)「間に合ったか」

 クーは息を荒げながら一言そう言うと、次の攻撃に備える。
前に向き直った。
樹齢何百年もあろうかという大木、にもかかわらず身体のあちこちから弦をうじゃうじゃと伸ばし、
その中心には、赤くぎらりと光る目玉を備えている。

川 ゚ -゚)「あの赤い目玉……やはり淫魔か」

 クーはいつものように妖気を感じようと探る。
異常に強い妖気が、やはりあの大木から発せられている。

从;゚∀从「い……淫魔?」

川 ゚ -゚)「……君には知られたくなかったのだがな。私の正体は」
124 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:39:37.39 ID:2ARyGMos0
 少女は真ん丸い目をさらに丸くして、ぽかんとしながらオウムのように、耳慣れない単語を繰り返す。
飛び込んできた情報の多さに困惑しているのだろう。
しかし彼女に構っている時間は無い。
迫り来る無数の弦をすべて確実になぎ払う。

 一本たりとも、ハインに触れさせはしない。

从;゚∀从「つ……強っ……」

 弦の数は減らない。二本三本が一度に飛んでくる。
けれどクーは負けない。彼女の前では、二本三本の弦など二束三文ほどにしかならない。
押されてなるものか。後ろにあるものの違いを見せてやる。

 鬼気迫る勢いで太刀を振るうクー。しかし。

川;゚ -゚)「むっ……」

 徐々に、徐々にだが弦の数は増している。
拙い、このままでは埒が空かない。
碌な考えも無しに飛び出したことを悔やむ。

 汗を拭う暇すらなく、もう一度刀を振り下ろした、その瞬間。
125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:39:48.26 ID:eEK4JoeEO
支援
126 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:41:06.16 ID:2ARyGMos0
川;゚ -゚)「くっ……後ろ!」

 虚を突かれた。
普通ならなんてことのない一撃。しかし、隠した珠玉が弱点になる。
体勢が、完全に崩れた。

从;゚∀从「クーッ!」

 切っ先に弦が当たらない。斜めに入ってしまった。
痛手を免れた弦は、蛇が木の枝に巻きつくように刀身を巻いて滑る。

川;゚ -゚)「ぐっ!」

 耐えろ、耐えてくれ。
前進の力を集中させ、思い切り刀を引くクー。
しかし無常にも、これ幸いと次から次へ弦が刀身へ巻き、その力は鼠算式に肥大化する。

川;゚ -゚)「うわぁっ!」

 瞬間、辺りに火花のようなものが飛び散り、クーの身体が、真後ろに飛んで二転、三転した。
慌てて起き上がり、手元を確認する。
127 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:41:40.75 ID:2ARyGMos0
泥に汚れる手、そこには確かに柄の感触があった。
刀は、クーの手の中にあった。

 そう、鍔から上を除いて。

川;゚ -゚)「そんな……そんなバカな……」

 幼少より携えてきた、退魔の力を持った剣。
何年経っても、血を浴びても錆びず、どれだけ魔物を切っても切れ味が落ちることはなかった。
ましてや、折れることなど。

 けれど今、確かに折れた。
原因は、そうだ、きっと魔力に刀身が耐えられなかったのだ。
赤く変色した折れ口、熱を帯びた柄。それらからクーは結論付けた。

 自然とぼんやりする頭。定まらなくなる視点。
私は、どうすればいいのだ。
剣を失った私は、彼女と同じように、狼に突け狙われた赤頭巾に過ぎないのか。
128以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:42:14.31 ID:pgPIzAN/O
支援
129以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:42:33.04 ID:eEK4JoeEO
支援
130 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:42:55.04 ID:2ARyGMos0
 勝てると思った。変な確信があった。
しかし、その正体は慢心に過ぎなかった。
これが、datというものの力だというのか。

 刀身を持っていった弦は、標的をハインへと変更した。

川 ; -;)「やめろ! やめろ! やめろぉぉ!」

 クーは半狂乱になりながら、ハインの右手を掴み、身体に纏わり付く弦を手で引き剥がそうとする。
その姿に最早、先程の凛とした面影はどこにも見当たらない。
泣き、叫び、もがき、転び……。

 彼女は自分でも驚くほど、無力になっていた。
蝶のように舞っていた身体はただ華奢で、蜂のように刺していた腕はただ細かった。

川 ; -;)「うわあぁぁぁあああぁぁ!!」

 ただ慟哭を響かせる、頼り無い、なんでもない、か弱い少女。
わけがわからないというような様子で、泣き狂う親友を見詰めている小柄な少女。
掴んだ手、指は解け、二人は引き離された。
131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:43:48.53 ID:eEK4JoeEO
支援
132 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:45:16.09 ID:2ARyGMos0
―― ―― ――

 頭が働かない。
目の前には依然として、弦に巻き突かれ目を白黒させる親友と、
表情こそないが、してやったりとでも言いたげにクーをぎょろりと睨み付ける、
不気味な巨大植物の姿がある。

 クーは退魔家の家庭に生まれ、幼少から特別な教育を受けて育った。
いわば退魔の為に生まれ、退魔の為に生きる人間である。
才も努力も、兄弟、いや一族の誰と比べても劣らなかった。

 それ故に、物心着いたころから淫魔との戦いには、一度として負けた事はない。
もちろん、このように窮地に立たされたことも。

 敗北。
考えたこともなかった。
常に勝ってきたから。誰にも負けなかったから。
負けたらどうなるかなんてことは、頭の片隅にも置いておく必要はなかったから。

 敗北、それが意味する事は即ち、喪失。
今ひとつだけ、彼女は知った。
133 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:46:51.25 ID:2ARyGMos0
从;゚∀从「クー……」

 淫魔は淫行によりエネルギーを得る。
捕縛した女にコイツが何をするか。そんなことはもう、火を見るよりも明らかだった。

 ぼとっ、と土の上に何かが落ちる。
泥に塗れた、学校指定の内履き。遅れてその上にひらりと、紺色の生地が乗りかかる。
ややあって、クーは何が起きたのかをようやく理解した。

 ハインは大股を晒していた。
西から射す夕陽に照らされて、真白い肌はほんのりと赤く染まっている。

从;゚∀从「ちくしょう、やめろっ、やめやがれぇ!」

 ハインは身を激しく捩じらせ、左右の膝を交差させるようにして合わせている。
必死の抵抗だ。
しかしその姿はあられもなく、動きもどこか艶めかしく見えてしまう。

 彼女はついに見ていられなくなり、目を閉じて、悔しさに歯を食いしばった。
ハインが犯されようとしているのに、私は何も出来ないのか。
握り拳を土に埋め、幾度も幾度も自らを謗る。
何が退魔家だ。何が天才少女だ。剣がなければ無能じゃないか。
134以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:47:38.40 ID:eEK4JoeEO
支援
135 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:49:02.94 ID:2ARyGMos0
 無論、道具がなければ何も出来ない、というわけではない。
淫魔の抜け道、つまりゲートを塞いだりするのは紛れもなく彼女自身の力であるし、
剣の威力も、彼女が持っている「力を引き出す能力」が無ければ半減してしまう。

 しかし、彼女の持つ能力は所謂二次的、三次的なものであり、
それ単体では、大したことは全くと言っていいほど出来ないのが現実である。

 自分に今、何が出来るだろう。
逃げることは出来る。
先程、実家に応援を求めた。もうすぐ兄弟やらが助けに来る筈だ。
そうすれば、事態もなんとか収拾が付く。

川 ; -;)「……でも」

 彼女は顔を拭い、自分を鼓舞するように呟いた。
それは逃げである。例え試合に勝っても、勝負においては紛れも無い敗北だ。
何より、応援を待っている間にハインが何をされるか、わかったものではない。

 ハインは一般人である。クーのように淫魔の悪戯に耐えうるような精神力も、体力もない。
早く助けなければ、けれど助けられない。
このまま、彼女が犯されるところを指を咥えて見ていろと言うのか。
136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:50:49.28 ID:eEK4JoeEO
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137 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:50:53.65 ID:2ARyGMos0
川  - )「そんなのは……」

 彼女の心に、激しい波が起こる。

 感情を殺すのは得意だった。
情は決断を鈍らせるから。
慢心は油断を生むから。
憎しみは判断を狂わせるから。
怒りは視野を狭めるから。
そんなものは、命取りにしかならないから。

 冷静になれ、いつもタガを固く締めていた。
自分を出すな、相手に悟られるな。
戦闘時だけではない、日常に於いても常にそれを実践した。

川#゚ -゚)「御免だ!」

 ただひととき、彼女の泣き顔の前以外では。
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:51:11.73 ID:pgPIzAN/O
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139 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:51:48.55 ID:2ARyGMos0
 転がっていた枝を取り、先端を化け物の目に向け、突っ走った。
一撃だ。剣などなくても、急所を突けば、自分の力なら。
信じる。ただ愚直に。無謀とも言える。
けれど彼女は疑わなかった。自分を騙して、疑わせなかった。

 一本の触手の鋭い動きが、彼女の胴体を上下に割くように捉えた。

川メ;゚ -゚)「っ!」

 反動で吹き飛び、後ろ半身から柔らかい地面にめり込む。
一瞬だけ視界が真っ暗になって、意識が飛びそうになる。
やっと我を取り戻すと、今度は腹部にじくじくと痛みが走った。
見れば、制服に一筋の裂け目が現れていた。

从;゚∀从「クー、大丈夫か!」

 大声でハインが呼びかけた。
痛い、苦しい、それらすべてをまやかしだと振り払い、身体を小刻みに震わせながらクーは立ち上がり、
無言のまま、一度頷いた。

 クーが思ったことは、時間稼ぎであった。
応援が来るまで、敵の意識をハインに向けさせまいとする。
それだけなら、今の自分でも充分こなせると。
140以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:52:56.81 ID:eEK4JoeEO
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141 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:53:16.67 ID:2ARyGMos0
川メ゚ -゚)(役目を……最後まで、果たす!)

 また枝を取り、赤い目を睨む。
飛び交う弦を身軽に交わしながら、果敢、というよりはむしろ健気に、彼女は目標への特攻を試みる。
目標まであと5メートル、3メートル、2メートル、1メートル。

 いけるか、そう思った瞬間、世界が瞬時に姿を変えた。
遅れて頬に鋭い痛みと熱っぽい感触を覚え、彼女はコースを捻じ曲げられて右肩から倒れこんだ。

 ひりひりする部位を右手で抑えた。
制服の左肩部分が弾け、むき出しになった肌の表面に着色したような青が見えた。
頬を液体のような物が伝う。すくってみると、今度は絵の具の原色のような赤色が指先に着いた。

 普段の戦闘では負わないような傷、それを身に受けても、クーはまだ屈さない。
歯を食いしばり、立ち上がった。
もう二度と、彼女を泣き顔は見たくない。自分がどうなっても。
負けるか、負けるか、負けるか。

川メメ゚ -゚)「その程度か! 私はまだ戦えるぞ!」

 視界が一瞬眩んだ。額を押さえながら、そう叫び、挑発する。
助けが来るまで、倒れてなるものか。
142以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:54:07.28 ID:70/etcBeO
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143以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:54:21.51 ID:uiQ6xXb00
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144 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:54:38.78 ID:2ARyGMos0
从;゚∀从「クー! やめろ、もうやめて! 俺はどうなっても……」

 ハインの声を遮るようにして、クーが言った。

川メ゚ -゚)「ハイン、君は黙っていろ! 私は退魔家だ! これは私の仕事だ!」

从;゚∀从「だって、お前もう傷だらけ……」

川メ゚ -゚)「関係ない、気力さえあれば戦える」

 クーは突っ込んだ。何度も、何度も。
その度に弾かれ、飛び、倒れ、傷を負う。
次第にその数は増え、それに反比例するようにクーの動きは鈍くなり、鮮麗さを失っていく。

 気絶しそうになるほどの痛みを堪え、口腔内に入り込んだ砂粒を吐き出す。
もはや衣服は破れてその役目を殆ど果たさなくなり、
露出した肌は一部皮膚が破れ、肉が剥きだしになってさえいる。
立っているのにさえ、凄まじい苦痛が伴う。

从 ;∀从「クー、もういい! もういいから!」

川メメ -゚)「君が良くても……私は……このままじゃ、終われないんだ」

 張り上げていた声もいつしか弱々しくなり、それがハインに届いているのかさえ、クーにはよくわからなかった。
ただ立ち上がり、破滅への道を突き進む。
吹き飛んだ。飛ばされた。倒れた。
これでもう何度目か。恐らく、足の指まで使わなければ数えられない回数になっているだろう。
そんなことを考えた。
145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:55:32.77 ID:eEK4JoeEO
支援
146以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:55:49.74 ID:70/etcBeO
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147 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:56:11.61 ID:2ARyGMos0
 繰り返し、またクーは立ち上がろうとした。
けれど、もう身体が動かなかった。

川メメ - )「……無念」

 やれるだけのことはやった。
気を抜けば意識を失いそうだった。
悔しい。力が及ばなかった。

川メメ -゚)「せめて……剣さえあれば」

 自分の未熟さを呪う。予備の小刀は、渡辺の相棒に渡したままなのだ。
あれさえあったなら、状況は変わっていたかもしれないのに。
一瞬考えて、しかしその思考を振り払った。
もう、なるようにしかならないのだ。全て、自分のせいだ。

 風切り音が聞こえた。間もなく、自分の身体にまた鞭が打たれるのだろう。
目を瞑って歯を食いしばり、痛みに備え――

しかしそれは、やってこなかった。
148以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:56:25.71 ID:pgPIzAN/O
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149以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:57:20.29 ID:eEK4JoeEO
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150 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:57:31.13 ID:2ARyGMos0
 クーは困惑しながら薄目で上を見た。
そこには紛れも無く、あの少年がいた。

(メ;-_-)「遅れてすみません、クーさん。ちょっとアクシデントが……」

 弦は吹き飛び、土の上を這いずって歪な模様を描いている。
後ろを見ると、少し離れたところで童顔の少女が立っていた。
なんとなく、その面影にハインに近い物を見出した気がした。

 ヒッキーの登場が突然だったからであろう、怪物は怯み、少しだけ動きを止めた。
クーは立ち上がる。少しだけ、気力が戻ってきた気がした。

川メメ -゚)「そういえば、君が居たのだったな」

(メ-_-)「はあ……勝手に飛び出したって聞いたときは何事かと思いましたけど、やっと状況が見えてきました」

 お互いに意外と冷静であるのは、頭に上った血が外に流れてしまったせいだろうか。
そんなことを思い、クーは俄かに口角を上げた。
なぜか、可笑しくなった。

川メメ -゚)「それを私に貸してくれ、私でなければ、あいつに止めは刺せない」

 ヒッキーは少し狼狽したが、すぐに言葉の意味を理解したのか、
戸惑いながらも素直に小刀をクーの手に渡した。
151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/17(月) 23:59:04.68 ID:eEK4JoeEO
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152 ◆175R.0ombs :2007/12/17(月) 23:59:34.17 ID:2ARyGMos0
 下がっていろ、と言い、彼女は攻撃に備える。
先程までのがむしゃらな姿勢とは違う、力の抜けた、自然体の構えで。

 左右から飛ぶ二本の弦。
避けるように、流れるようにクーの身体が動く。
次の瞬間、弦は彼女の身体を掠めることなく横に飛んで行った。

川メメー゚)「なんだ、まだまだ動けるじゃないか」

 やはり自然に、顔の筋肉が緩んだ。
決して作ったものではない、力の抜けた、彼女本来の表情だった。

川メメ -゚)「さあ、覚悟するんだな」

 飛び交う何本もの弦。しかしクーは水を得た魚のように跳ね回り、それをかわし、或いは裁ち切る。
ゆっくりと少しずつ、本体との間合いを詰めていく。

 リーチに入り込んだ。

 今だ。
153以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:00:29.22 ID:bILnMStS0
支援
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:00:32.52 ID:IcHvmfGbO
支援
155 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:01:21.56 ID:iZpPwbxf0
 両足をばねの様にして、飛び込む。
勝った。そう思った。

川メ;゚ -゚)「!」

 しかし、彼女は慌てて攻撃の手をとめた。
いや、止めざるを得なかった。

从;゚∀从「……っ!」

 弱点である目を覆うようにして、縛り上げられたハインが目の前に現れた。

从;゚∀从「ク、クー……」

川メ;゚ -゚)「く……畜生め!」

 クーは再び、悔しさに唇を噛み締めた。
そうだ、人質が居たんだ。

 ヒーローは現れる。けれど、どれだけ強いヒーローにも弱点はある。
いかなる盾よりも効果を発揮する、最強の防御壁。
最後の最後で、阻まれてしまった。

 逃避するように、クーは辺りを見回した。
渡辺が、ヒッキーが、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
使えそうなものは、何も無い。
八方手詰まりだった。
156以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:02:57.05 ID:IcHvmfGbO
支援
157 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:03:02.74 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

 触手が伸びて行く。
それはハインの張りと弾力に富んだ若い肌の上を滑り、白衣の襟元から内部へ侵入していく。

从;゚∀从「は……はふっ!」

 突然、白衣に染みが現れたかと思うと、ハインの身体がびくりと跳ねた。
クーは何が起きているか、一瞬で理解した。
媚薬作用を持つ液体を分泌したのだ。
そうだ、わかりきったことだが、こいつは間違いなくハインを犯そうとしている。

 気持ちが逸る。頭が混乱し始め、どうすればいいのかわからない。
そうしている内にも、白衣の中で触手は蠢いている。
濡れた薄い生地に、ぴったりと張り付く乳房が透けて見える。
それ歪み、形を変えるたびに、ハインの口から白い吐息が漏れる。

从//∀从「は……はぅっ!」

 身体を小刻みに振るわせ、なんとか声を抑えようとしているのが痛いほど伝わる。
早く、早くしなければ。
触手が彼女の純潔を奪い去るのも、もはや時間の問題でしかなかった。

 びりっ。
白衣の襟に掛かった弦が左右に引かれ、胸の部分が肌蹴た。
締め付けられ、ひしゃげた乳房の上部が露わになる。
ハインはというと、そんなことに気を配る余裕すらないのか、頬を染め、顔をしかめて、嗚咽混じりの嬌声を上げていた。
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:04:34.31 ID:IcHvmfGbO
支援
159 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:05:09.18 ID:iZpPwbxf0
川;゚ -゚)「……あ!」

 肌蹴た胸元を見詰めるうちに、クーはあることを思い出した。
そうか。
そうだ、そうだった。
瞬時に、頭の中で点と点が繋がる。

川;゚ -゚)「このぉっ!」

 間に合え、間に合ってくれ。
飛び込んで右手を伸ばし、クーは掴みに掛かった。

 ハインの胸元にある”それ”を。
そして、その先にある”勝利”の二文字を。

 人肌で俄かに温まった金属。
それに守られるように据えられた、透き通った紅色の石のような物質。
クーの手の平の中で、それが弾けた。

 刹那、瞳を貫かんばかりの強烈な赤い光が、五指の隙間から差し込んだ。
160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:05:56.32 ID:fkSa32EH0
支援
161 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:06:12.97 ID:iZpPwbxf0
从;゚∀从「うわあぁっ!」

 あまりの照度にハインが目蓋を固く閉じる。
しかし、クーは目を見開いたまま動こうとしない。
見据える先は、ただその一点。

川 ゚ -゚)(チャンスは……一瞬だ!)

 怪物の低い呻き声が辺りに轟く。
ハインに巻き付いた弦は、遂に拘束する力を失った。
彼女の身体が傾く。

 同時に露わになる、その背後に守られるように存在した、赤くぎょろりとした巨大な瞳。

川#゚ -゚)「くたばれええぇぇ!」

 甲高い咆哮を轟かせながら、左手に握った小刀の切っ先を、力任せに思い切り突き立てた。
162 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:06:46.82 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

 終わった。
身体から力が抜けて行く。
こんなにも疲労していたのか、こんなにも傷を負っていたのか。
激痛と息切れ、激しい動悸と眩暈に襲われながらも、クーは額に手を宛て、両足でしっかり地面を踏み締める。

 四方八方に際限なく伸びていた弦は、先端から昇華するようにして、黒い煙へと変貌していく。
やがてそれは怪物の本体へ及んで全体を包むような形になり、
その様子はなんとなく、カーテンの後ろに隠された美女が消滅する陳腐なマジックショーをクーに思い出させた。

 煙が消え去った後、そこには「いかにも」といった感じの鉄製の箱と、

川メ゚ -゚)「む?」

 身体を縮めた体勢で、ぐったりと横たわる長髪の女性が残された。
クーはそれが誰だか、彼女に何が起こっていたのかを一目で理解した。
おそらく彼女、つまり伊藤先生は、あの怪物のエネルギー源として取り込まれていたのだ。

 ちなみに、なぜ彼女がそこまで理解することができたかと言うと、
黒いカーテンが消え去った時点で、伊藤は衣服をすべて剥ぎ取られた状態で、
身体全体が茹ったように薄紅色に染まっていたからである。

 クーは伊藤の身体を揺すったが、起きなかったので、
適当に間に合わせで自分の上着を着せて校舎の中へと放り込んで置いた。
(ちなみに後日、伊藤はその状態で生徒に発見され、危うく教師生命を失い掛けることとなるのだが、それはまた別のお話)
163以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:07:46.36 ID:IcHvmfGbO
支援
164 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:08:20.21 ID:iZpPwbxf0
 箱はクーが全体重を掛けて踏み潰すと、あっさりひしゃげて、その機能を失った。
箱の中から、緑色の大きな無数の光の粒が漏れ、渡辺の持っていた小型の機械のようなものの中に吸い込まれていった。

从'ー'从「ありがとう、これで私たちの目的は果たせたよぉ!」

 背の低い少女がはにかみながらお辞儀をした。
ヒッキーもその隣で、少し照れくさそうに礼を述べた。

川 ゚ -゚)「こちらこそ。君たちがいなければ、私もどうしていいかわからないところだった」

 クーはいつものように短い言葉で申し訳程度に礼を返す。
うんうんと低い機械音が鳴っている。
別れの時が近いのだな、と、クーは直感で悟った。

川 ゚ -゚)「二人とも、達者でな」

 二人は笑顔で並んだまま、クーの前に現れた時と同じように、突如として姿を消した。
ほんの一瞬の付き合いではあったが、なかなか悪くない奴らだったな、と。
165 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:09:32.53 ID:iZpPwbxf0
川 ゚ -゚)「……む?」

 何かを見つけ、ふと視線を下に落とす。
そこにあったのは、渡辺に渡したお守り。
昔、ハインにプレゼントしたものとよく似たものである。

川 ゚ -゚)「律儀な奴だ、わざわざ返さなくとも……」

 身体を屈め、紐の部分に触れる。

 しかし、そこで初めて、クーはあることに気付く。
首に装着するために付けられたそれは、まるで刃物か何かを使ったように、綺麗に裂かれていた。
初めは結び目が解れたのかと思ったが、別のところにそれが存在するのを見ると、どうもそうではないらしい。
彼女がやったのか? けれど、一体なぜ?

 何を思ったか、いや、何も考えず、ただなんとなく、クーは本体に手を触れた。
ぱきん、と小さな音が鳴った。

川 ゚ -゚)「悪い予感がする……」

 クーの記憶の片隅に、小さな歪ができた。
しかし、彼女今からやるべきことを考えるうち、それはすぐに覆い隠され、消え失せた。
166以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:09:35.03 ID:IcHvmfGbO
支援
167 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:11:03.57 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

从*゚ -从「ん……」

 呆然としたままのハインの身体を抱く。
弦に巻かれていた部分は少し後が残っており、もう冬も近いというのに背中は俄かに汗ばんでいる。
白衣に触れると、軽く糸を引いた。

 自分と言うものがありながら。
クーは自らに対して小さく憤りを感じ、しかしハインの純潔がまだ無事らしいことに安堵を覚えた。

川 ゚ -゚)「気持ち悪かったろう。どこかで着替えるか」

从*゚ -从「あ……うん」

 手を戻してくっつけていた身体を離すと、クーはハインの頬が先程よりも幾分紅潮しており、
身体がうずうずとゆっくり震えていることに気付いく。
これも先程の粘液が原因だろうか。
そう思って、深くは考えなかった。今はただ、彼女が無事なのが何より嬉しかった。
168以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:12:13.65 ID:IcHvmfGbO
支援
169 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:12:39.76 ID:iZpPwbxf0
 校舎内に入り、倒れている伊藤を無視し(ハインは若干、それを訝しげに見詰めていたが)、
誰も使わなさそうな部屋を探した。

川 ゚ -゚)「ここなら大丈夫だろう」

 三階まで上って、クーが言った。
スライド式のドア、窓から見える閑散とした内部。
入り口の上には「視聴覚室」と白抜きの文字で書かれたプレートが掛けられている。

 中に入ると、冷たい空気に身体が震えた。
普段使われない部屋だから、当然暖房も入っていないのだということを、今更ながら思い出す。
やたらに広い部屋の隅に、申し訳程度に置かれた石油ストーブのスイッチを入れ、
ハインにその近くに座るよう促した。

川 ゚ -゚)「生徒指導課に行って換えの下着を貰ってくる。落ち着いて待っていろ」

从*゚ -从「う、うん」

 先程からハインは、何を言っても「うん」と相槌を打つだけか、あるいはただ首を縦に振るかだけで、
その口数は、煩わしいまでに饒舌な普段と比べれば格段に少なかった。
あんなことがあった直後だ。きっと動揺しているのだろう。

 普通なら、一方的に拒絶されても何も文句は言えないような状況だが、
これまでのところ、まだハインはクーに対して嫌悪感を示してはいないようだった。
良かった、とまた胸を撫で下ろし、クーは部屋を後にした。
170以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:12:45.47 ID:2iE4Vp9hO
支援
171以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:13:46.52 ID:2iE4Vp9hO
支援
172 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:14:16.81 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

从*゚ -从「ん……」

 見てない、よね。
自分で自分を納得させつつ、誰もいなくなった部屋の片隅で、ハインは壁を背にして座りこむ。

从*//-从「あ……ん」

 畳んだ足を八の字に崩して開き、腿と腿の付け根にゆっくりと手を滑らせる。
下着と肌の間の隙間に細い指を差し込んで広げると、そこがしっとりと濡れていることがわかった。
我慢しきれず、まだ触れてもいないのについ息を荒げてしまう。

 こんなこと、しちゃいけない。分かっていても、なぜか手に自制が効かない。
彼女の頭の中は、夢見心地で宙ぶらりんだった。
初めて目の当たりにした”魔物”に、剣を持って戦う親友。
それらの出来事が、彼女から現実味を奪ったのかもしれない。

 先程、魔物に変な粘液を浴びせられてから、身体がどうも可笑しい。
気持ちが高揚し、何か小さな刺激でも敏感な部分に受ければ、それは波紋を広げたように全身に伝わっていく。
指先で、秘所に引っかくように触れた。
173以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:15:07.85 ID:IcHvmfGbO
支援
174 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:15:34.99 ID:iZpPwbxf0
「はあぁ……」

 思わず、身体が跳ね上がりそうになる。
喉を詰まらせるようにして、なんとか声を抑えた。
いつクーが帰ってくるのか、わからない。けれど彼女は、それまで行為を続けるつもりだった。

 右手で左の乳房を鷲掴みにしながら、左手で股間を下着の上からまさぐる。
一見すると相当な変態であろうが、やはり彼女は本能のままに、手の動きを止められなかった。

「はぁ……く、クー……」

 自らを昂ぶらせるように、愛しい人の名前を呼ぶ。

 わかってしまった。
彼女が助けに来てくれたとき、自分のために、ボロボロになるまで歯向かってくれたとき。
あのとき感じた胸の高鳴りは、初めてではなかった。
そんなわけがない、ありえないと、理性ではいくらでも否定できた。

 けれど、クーに優しく抱き締められた、あの瞬間。
ハインの中で何かが弾けて、否定されていた感情は、理性を覆して完全に表面化した。
世界が180度回転したような気分だった。
175以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:17:01.96 ID:IcHvmfGbO
支援
176 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:17:34.81 ID:iZpPwbxf0
 次第に手の動きは早まる。心臓が一層強く脈を打ち、体中至る所に血液が廻っているのがよくわかる。
目蓋を閉じると、眼前に裸のクーがいるような錯覚を覚えた。
想像の中でクーは、股を無理矢理割るように自分の足とハインの足を絡ませていて、
右手で彼女の顎を掴み、自らの唇と彼女の唇を繰り返し重ね合わせていた。
そのうちに、クーの長い右手がハインの下腹部を這いながら、ゆっくりと下に降りてくる。

「ここを触って欲しいのか?」

 ハインは小さく、一度頷いた。
クーはよく見なければ分からないほど薄い笑みを浮かべ、下着の中へと手を入れて行き――。


 ――と突然、がらがらと大きな音を立てて、部屋の扉が開いた。
ハインははっと我に返り、手の動きを止め、足を元通り組んで身構えた。
気を抜けば、また衝動が襲ってきそうな気がした。

川 ゚ -゚)「着替えを、持ってきた」

 言いながらクーは、簡素で大き目の白いスポーツブラと体操服を、会議用の長机の上に置いた。

川 ゚ -゚)「……どうしたんだ、機嫌でも悪いのか」

 暫く部屋に沈黙が訪れたあと、クーが訊ねた。
ハインの淫らな行いに、気付くはずもなく。
177以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:19:06.33 ID:IcHvmfGbO
支援
178 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:19:45.25 ID:iZpPwbxf0
 ああ、そうだ、こいつはこういう奴だった。
ハインはほっとしながらも、なぜか内心では少しもやもやした気分であった。
その理由がなんなのか、少しだけ考えて気付く。
本当は、見つけられてしまいたかったのだ。

 想像と違い、現実のクーは彼女のことを襲わない。
その逆も然り、だ。

 わかっている。
わかっているはずなのに。

「んっ……!」

 もう自分を咎めるのも限界で、ハインはクーの身体に飛び付き、
そのまま勢いだけで、お互いの唇を重ね合わせた。
ファーストキスだった。
もっと激しいことをしてしまいたい衝動に駆られたが、
どうすればいいかわからないまま理性が働きを取り戻してきたので、すぐに顔を離した。

川;゚ -゚)「ハイン……」

 やってしまった。
とても馬鹿で、残酷で、罪深いことを。
179以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:19:58.03 ID:IfYsyvBMO
支援
180 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:21:03.83 ID:iZpPwbxf0
 もはや相手の顔を直視するのすら心苦しく、ハインは細く目を開いてすぐに閉じた。
一瞬だけ薄ぼんやりと視界に移ったクーは、驚いて顔の筋肉を若干引きつらせていた。

从 ; -从「……ごめん」

 閉じた目蓋の端から、水滴が頬を伝って流れる。
涙が止まらない。自分の愚かさのせいだ。
高校生にもなって泣きながら謝っているのでは、本当に世話がない。

 外側から歪み始める視界の中、クーはやはり、困惑した表情を見せていた。

从 ;∀从「あはは、だよね、レズなんて気持ち悪いよね……」

 ハインももうどうしていいかわからず、自らを嘲る言葉を漏らした。
目を閉じれば、視界は真っ暗なままだ。相手の顔もわからない。
いっそもう、目を開けないほうが幸せに生きて行けるんじゃないだろうか。
最低だ、私は。

 自己卑下に陥るハイン。
しかし、

川 ゚ -゚)「ハイン」

意志の強そうな、はっきりした声が聞こえた後、彼女の後頭部に両手が回された。
181以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:21:05.20 ID:IcHvmfGbO
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182 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:22:52.07 ID:iZpPwbxf0
从;゚∀从「えっ……」

 驚きのあまり、つい目を見開く。
そして視界に映ってきたのは。

川 ゚ー゚)「私は、君が大好きだぞ?」

 想像の中でそうされたのと同じように、クーは自らの薄紅色の唇を、ハインの唇に重ねた。

 突然の出来事で、侵入を拒むように閉じていたハインの唇。
しかし、それをゆっくりと割って、クーの舌はハインの口内へ侵入する。
状況もよく理解できないまま、お互いの舌が絡まりあい、
その微妙な感覚と甘美な背徳感に、ハインはただ身悶えた。

「んん……」

 唇が離れる。唾液が糸を引いているのが見えた。
けれど不思議とそれは、ハインの目には汚らしく映らなかった。

「……こういうことをするのは、初めてか?」

 クーは、普段は滅多に見せない極上の笑顔で訊ねた。
頭がぼおっとして、ハインは質問の意味がよく理解できなかったが、とりあえずクーが喜ぶかなと首を縦に振った。
クーって、こんなに美人だったっけ。ああ、そうだ、何せ私が惚れたんだもんな。
状況が飲み込めず、的外れな考えが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
183 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:24:27.68 ID:iZpPwbxf0
 急に、視界が九十度傾いた。
ふと気付くと、頭に回されていたクーの手がいつの間にか肩に据えられており、
そこから、身体を横にされたのだということがわかった。

川 ゚ -゚)「私も初めてだが、これがどういうことかは知っている。あまり人に話したくない事情があるんだがな」

 クーは自らも横になると、両手を背中に回し、ハインと身体を密着させる。
クーの小振りだが形の綺麗な胸と、ハインの豊満な膨らみが触れ合って擦れる。
思わず、驚きの混じったような、変な声を上げてしまう。

 そのうちに、クーはそのしなやかな脚を、ハインのむちむちした肉付きの良い腿と腿の間に割って差し込んだ。

从*;゚ -从「あっ」

 ちょうど膝の辺りが股間に触れる形になり、つい声を上げてしまう。
じくじくとした独特の感覚が体中に伝わり、そこが一層熱を持った気がした。
恥ずかしさの余り、耳まで真っ赤にしてしまう。

川 ゚ー゚)「収まらないんだな。私が気持ちよくしてやる」

 クーは悪戯っぽい表情を作ると、膝を上下に優しく運動させ始めた。

从*///从「あああ、ああぁぁぁ」

 少しずつ早く、徐々に激しく動きを変えていく。
膝が股間に当たるたびに、ハインの身体に甘い電流のようなものが迸る。
184以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:25:44.88 ID:IcHvmfGbO
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185 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:26:31.09 ID:iZpPwbxf0
「いやっ……」

 わけもわからず涙が出そうになり、ハインはつい声を漏らした。
すると突然、クーが脚の動きを止めた。

川 ゚ -゚)「嫌か? それなら止めても構わないが」

从*///从「あっ……」

 しかしハインは拒否するでもなく、ましてやクーに何か一言告げるでもなく、
自ら快感を貪るように、腰を前後に揺らし始めた。
その姿は、さながら発情期の猫のように淫らで、しかし愛らしくもあった。

川 ゚ー゚)「本当に可愛い奴だな、お前は」

 クーはそれに応じるように、脚の動きを今までよりさらに激しくした。
絶え間なく秘所を攻められて、ハインは全身を振るわせたまま、脚の動きに合わせて嬌声を漏らす。
自らに対する嫌悪。咎める倫理。止める理性。
そんなものより、大好きな人に受け入れられた嬉しさと、快感に身を委ねたいという欲望が勝った。

 くちゅくちゅと、小さな水音が耳に届いてきた。
感覚が麻痺してよくわからなかったが、どうやら彼女は恥部を相当ぐっしょり濡らしていたようだった。
186以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:28:17.35 ID:IcHvmfGbO
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187 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:28:30.88 ID:iZpPwbxf0
川 ゚ -゚)「これだけ感じてれば、痛くは無いかな」

 クーは身体を離して膝を床に着け身体を起こすと、ハインを仰向けにし、
両手で股を割り、その間に身体を挟むようにして置いた。

 左手をハインの背に回して抱き上げ、頬に伝う涙と汗を、唇で拭うようにして舐め取り、

从*///从「はうぁ……」

そして、脚の付け根に沿えていた右手を下着の中へするりと滑りこませ、
彼女の秘所をゆっくり弄り始めた。

从*///从「ひゃあっ!」

 手の甲で下着をめくると、襞の内側に隠されていたピンク色の柔肉が露わになる。

从*///从「ひゃめ……そこは……」

川 ゚ -゚)「嫌か?」

 クーが聞くと、やはりハインは好奇心に負け、何も言えずにおとなしく脚の力を抜いた。

 ハインの意志とは無関係に、彼女の中へとクーの指が侵入していく。
クーは中の柔らかでぬめりとした感覚を楽しむように、くにゅりと指を回し、一通り撫で回す。
すでに声も抑えが聞かず漏れっ放しになっており、その羞恥すら快感の推進剤へと昇華されていた。
188 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:29:11.71 ID:iZpPwbxf0
 しばらくそうして遊んだあと、突然、クーは手を激しく前後に動かし、
指を第二間接から折り曲げて、中を乱暴に抉るように弄った。

从*///从「ああ、あ、ぁああああっ!」

 クーが手の動きを早めると、やはり喘ぎ声のスパンもそれに合わせて短くなっていく。
それは、すでに限界が近いということを明確に示していた。
頭の中が真っ白になる。
薄れ行く意識の中、クーが耳元で小さく囁くように、言ったのを、はっきり聞き取った。

川 ゚ー゚)「愛してる、ハイン」

 ハインの身体に、それまでより一層強い波が訪れた。
激しく、淫らに嬌声を上げ、強く身体を振るわせて、彼女は達した。

 はあはあと息を荒げる彼女の、愛液に塗れた股間をハンカチで丁寧に拭く。
行為の後はその部分が一層敏感になってしまうのか、クーの手が動くたびに、ハインは小さく身震いし、甘い声を漏らしていた。
それが終わると、持ってきた下着を上下に着せてやる。

 ハインは蕩けそうな表情で、クーのことを見詰めた。
傍らに腰を下ろすと、彼女はクーを求めるように、上半身を寄せ、細腕をクーの身体に絡ませた。
クーはそれを見て、にこりと微笑む。

 穢れを知らない乙女がふたり、戯れに身を落としていく。
どちらからとなく、ふたりはまた唇を重ね合わせた。
189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:30:14.25 ID:IcHvmfGbO
支援
190 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:31:04.93 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

(*゚ー゚)「お疲れ様でしたー。さようなら、会長」

川 ゚ -゚)「ああ、お疲れ。……さて、今日も遅くなってしまったな」


 いつものように退屈な仕事を終えて、クーは帰路に着く。
昼間の強い日差しで溶けて水分を含み、固くなった雪は、踏むとガリガリと音がする。
滑らないように気を付けながら、坂道を降りていく。

 薄暗い道の隅に、彼女は居た。
悴む手をすり合わせ、温めている。
そっと気付かれぬよう背後から近づき、肩にちょんちょんと触れた。

从 ゚∀从「……クー」

川 ゚ー゚)「どうした、こんな遅くまで。そんなに私に逢いたかったのか?」

 ハインは無言でクーの肩に手を回し、もう一方の肩に頬をすり寄せた。
すぐに直るが、少し照れくさかったのか、それとも寒さのせいか、頬は幼子のように赤く染まっていた。

 手を繋ぎ、二人は歩く。
白銀の世界に、幅のちぐはぐな二つの足跡が延びて行く。
191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:32:32.46 ID:IcHvmfGbO
支援
192以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:32:54.53 ID:2iE4Vp9hO
乙かれさまー!
193 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:33:41.30 ID:iZpPwbxf0
「……本当に、私で良かったのか?」

「……わからない、けど」

「けど?」

「……たぶん、俺はクーじゃなきゃ駄目なんだと思う」

「……それは、プロポーズの積りかい?」

「そう受け取ってくれるかな?」

「お前みたいな甲斐性無しの旦那は、こっちから願い下げだね」

「あはははは」

 他愛もない会話。冗談を交えては笑う。
そこにほんの少しの、強い気持ちを加えて。
今まではそうだった。でも、今は。

「ね、クー」

 ハインは照れくさそうに、ポケットに手を突っ込んだ。
ようやく中身を探り当てると、両手でそれを持って、クーの前に差し出した。

「いつも一緒にいてくれて、ありがとう」

 歪なハートの板の上に、白い文字が浮かんでいた。
194 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:34:12.23 ID:iZpPwbxf0
―― ―― ――

 私はもっと強くなれる気がする。
彼女もきっと、もう少し強くなれるだろう。
それは、曲がりなりにも私たちが一緒になったからだ。
強がることじゃなくて、お互いの本当の弱い部分を知ったから。

 愛してると言えば拒絶されると恐れていた私はもう居なくて、
代わりに、愛してると言われて照れくさそうにする彼女がいる。
願わくば、これが何時までも続くと良いと思う。

 形としては最悪のものだったけど、きっかけを作ってくれた運命の神様と、
もう会うことはない君たちに感謝したいと思う。

 ありがとう。
195以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:34:48.51 ID:IcHvmfGbO
支援
196 ◆175R.0ombs :2007/12/18(火) 00:38:13.97 ID:iZpPwbxf0
本編に時間を費やし過ぎた結果、エロに掛ける時間が限りなく減ってしまうという本末転倒な結果に。
でも欲望の赴くままに書けたからいいや。

次はみんなの心のファブリーズ、オナリストさんです。
明日も元気にちんこを握りながらこの時間にお会いしましょう。
197以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:39:25.96 ID:IcHvmfGbO
乙乙

198以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:40:55.48 ID:34zXGkELO
乙!たのしかた
199以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:42:07.84 ID:2iE4Vp9hO
乙かれさまー!
200以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:48:30.55 ID:pFdC8FscO

しかしそろそろ抜かせてくれよ
画像に浮気しちゃうぞぷんぷん
201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/18(火) 00:56:21.32 ID:47INMDfd0
乙です。
202以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
讃岐調子悪杉ワロタ
やっとこさ追いつけた
乙でした!百合良いよ百合