1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
代理
2 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:43:02.74 ID:c+e/RhsPO
3 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:45:07.23 ID:c+e/RhsPO
第九話 風と共に去りぬ
━━月明かりが照らすガラブ砂漠は、その静寂を持って埋葬所の如き荘厳さを僕に知らしめた。
夜食のドーナツを摘みながら、マグカップに入れたコーヒーを飲み干す。
そういえば、このマグカップは兄とお揃いのものだったか。
(´・ω・`)「兄、か」
欠けたマグカップの口を見つめながら、兄についての思い出なんかを今更になって頭の中から引っ張ってこようとしてみる。
が、サルベージの結果引きあがったものは錆び付いた憎悪と使いものにならない憤りだけだった。
(´・ω・`)「……」
兄弟。
そんなものが、どれほどの価値を持つのか。少なくとも、僕にとってはネズミの糞程でしか無い。
元々、家族だとかそういったものに対する“愛着”みたいなものが希薄だった僕にとっては、「兄さん」だとか「父さん」だとかは血縁はあってもどこかよそよそしいものだった。
ACのパーツを見ていると思う。父がコアで兄が頭、僕は肩部武装。製造元の違うパーツの寄せ集めで形成された、ちぐはぐなAC。そんな家族だったと思う。
期待
5 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:45:55.31 ID:c+e/RhsPO
彼らが僕に対してどんな思いを持っていたかはわからない。
いや、むしろ彼らは僕に対して好意的だったと言えよう。おかしかったのは僕だけだ。
(´・ω・`)「……彼が、何をしてくれた」
思い出の中の兄は、いつも僕より遠い位置に居た。
いつも考えなしに突っ走っては独断先行して、「夢」とか「理想」だとかを吐露するだけ吐露して僕をおいていく。
正直、今時の若者みたいな直情馬鹿にしか見えなかった。
挙げ句、家を飛び出して行方知れずにもなって。
それで、僕は……。
(´・ω・`)「何、考えてんだか」
そこで僕は思考を閉ざして、嫌な気持ちを胸から無理やり追い出す。
僕には関係無いさ。
いつものような、華麗なる現実逃避だった。
━━━━
どこまでも続くかのような白い砂の絨毯。
見渡す限り、砂、砂、そんな広大な大自然の埋葬所の遥か向こうに、僕は小さな岩山を発見する。
( ^ω^)「……あそこ、かお」
いよいよ、だ。
これからの事を考えると、あまり気が進まない。
6 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:46:44.39 ID:c+e/RhsPO
重い操縦桿を倒しながら、ツンの言葉を思い出す。
ξ゚听)ξ『ガラブ砂漠をここから二百キロ北上した先に、小さな岩山があるの』
システムを巡航モードから戦闘モードに変更、ブースターを抑えながら砂の上に着地、機体を歩かせる。
砂漠にぽつねんとそびえる岩山。それを真ん中から真っ二つに裂いている割れ目の中へと、ナイト・ホライズンの細身な機体は侵入した。
レーダーを確認。ドクオのバッドエンドが着いてきているのを見て、僕はまたナイト・ホライズンの歩みを再開させる。
機体の両側は崖となっており、その間を砂の道が蛇のようにくねくねと伸びていた。
ξ゚听)ξ『そこに、彼らが居るわ。まずは彼らと合流して』
ナイト・ホライズンの足元には、象が歩いたかのような足跡。
ドクオの機体を振り返る。
バッドエンドは、無言のうちに僕を促した。
僕たちはその足跡を辿って崖の間を進む。何かを考えてしまいそうになる脳みそを、必死に押しとどめてただひたすらに進む。
7 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:47:38.22 ID:c+e/RhsPO
やがて崖の間隔が広がってくると、その先に十数機、人の形をした重裝型MTが散らばっているのが見えてきた。
『遅かったじゃないか』
僕たちが通信を入れる前に、向こうからの通信が入る。
声質からして、僕たちよりもずっと年上だろうか。いや、今はそんな事などどうでもいい。
( ^ω^)「…あんたらの大将は?」
無駄なやり取りはせずにすぐ要件に入る。一刻も早く、この仕事を終わらせたかった。
『あぁ、大将なら……』
そんな僕の気持ちをかき乱すように割り込む声。
(`・ω・´)『ここにいる』
( ;^ω^)「!」
それは懐かしくも、残酷な音色。その堂々たる響きに、僕の胸は揺れた。
(`・ω・´)「こいつがぃょぅが応援として雇ったレイヴンか。ふむ」
メインモニターに映る紅茶色の四脚型AC。両手にショットガンを握り、右肩に積んだグレネードが威風堂々と自己主張している。
その姿は、資料として送られてきた“ハードフェイス”と一致した。
( ;^ω^)「……」
(`・ω・´)『私はシャキン。こいつらの大将だ』
8 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:48:34.62 ID:c+e/RhsPO
話し掛けないでください。そう願うしか無かった。
(`・ω・´)『……』
口を開くなんて、到底僕には出来ない。
(`・ω・´)『挨拶も無しか。まぁいい。とにかく、事態は急を要する。作戦は移動しながら説明するとして……』
ハードフェイスが僕に向かって背を向けた。
沈黙なんて、望んではいない。だけど、そうする他には無かった。
何故なら……。
ξ゚听)ξ『合流したら、隙を窺って。出来るだけ、MT達から離れたところを狙って』
ツンの言葉が脳内をリフレインする。
操縦桿を握る手が震える。
飲み込んだ唾が喉に絡まる。
ナイト・ホライズンがレーザーライフルを構える。
照準を合わせる。
懺悔の言葉が、喉元までせり上がる。
僕は、トリガーを引いた。
━━━━
“急な依頼で戸惑っていると思うが、最後まで読んで欲しい”
三十分前に突然送られてきたバーテックス残党そのMT部隊隊長からのメールは、そんな書き出しから始まっていた。
9 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:49:21.01 ID:c+e/RhsPO
“我々が依頼する事は至って単純。我々の大将であるシャキンを抹殺する事だ。
裏切り者、そう呼んでくれても構わない。最も、君たちのような金で動く人種に言えるような事では無いだろうが。
もう、我々も疲れたのだ。奴が勝手に盲信する「レイヴンによる秩序の創設」などに付き合ってやる程、我々は奴に恩義など無い。
初めは、もっと有能な指揮官だと思っていたのだが、このタイミングでのアライアンスへの奇襲など全くもって馬鹿げている。
奴は策士家を気取っているが、考えの無い革命ごっこにはもううんざりだ。君たちの手で、我々を解放してくれ。報酬は期待してくれて構わない”
なる程、と思った。
確かに、とも。
実の兄の名前がそこに載っていた事には大して驚かなかった。
幼少期に僕たち四人のリーダー格だった彼ならば、ちょっと声を上げるだけでそれなりに人を動かす事も出来たろう。
そして、言うことだけは立派で実際には何の考えも持たない彼は、このメールに記されているようにいつかは必ず見限られる。
10 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:50:10.59 ID:c+e/RhsPO
別段、驚くような事でも無い。
こういう風になるのは、昔からわかっていたのだから。
唯一驚いた事と言ったら、彼がまだ生きていたという事くらいだろうか。そこだけは案外にしぶといんだな、と賞賛してやってもいい。
( ;^ω^)『シャキン兄さんが、生きてたなんて……』
ブーンは依頼の内容すら理解できずに、随分とうろたえていた。無理もない。彼は純粋過ぎるから、こういう時には冷静でいられないものなのだろう。
(;'A`)『おい……これ』
ドクオも似たり寄ったりだ。
ブーンと違うところと言えば、この依頼を理解した上でどう扱ったらいいかを決断出来ていないところか。
そういえば、彼は昔随分とシャキンに懐いていたっけ。
シャキンが何かする時は、ブーンと二人で金魚の糞みたいに彼の後ろをついて回っていた。
ξ;゚听)ξ『ショボン……』
ツンは沈痛な表情で僕の判断を待っていた。
冷静なのは僕を抜かしては彼女だけだったろう。
幼なじみを殺せ。そんな依頼を突きつけられ、平然とした顔をしてられる奴の方がおかしいのならば、四人の中では僕だけが狂人だった。
11 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:50:59.25 ID:c+e/RhsPO
何せ、実の兄を殺せと言われても躊躇無くこう言ったのだから。
(´・ω・`)『請けよう。どの道ここで断ったところで、バーテックスの残党が生き残れるわけがない。それなら、いっそ僕らの手で……』
まるで悲劇の主人公気取りなのが自分でも気に食わなかった。
もとより兄に対する同情など持ち合わせてはいないのに、まるで哀れむかのような口調。僕は嘘つきだ。
( ;^ω^)(;'A`)『ちょっ!』
ブーンとドクオは猛反発した。
(´・ω・`)『いいんだよ。僕らはレイヴンだ。いや、レイヴンなのは君たち二人か。これがレイヴンの仕事というものさ』
( ;^ω^)『でも!助ける事だって!』
聞き分けの無いブーンは、なおも食い下がろうした。けれど、僕が折れるわけが無い。
(´・ω・`)『助けて、それからどうする?アライアンスを敵に回すのかい?
前回は運が良かったとはいえ、今度もまたそれが続くと思うかい?甘ったれた考えは捨てるんだ』
( ;^ω^)『……』
こんな言動だけれど、モラリスト気取りじゃないのがブーンだ。だから、僕は彼が好きなのだ。
12 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:51:54.12 ID:c+e/RhsPO
(´・ω・`)『バーテックス残党ともなれば、アライアンスは絶対にほうっておかない。依頼を達成してはい終わりじゃ無いんだ。
それに、向こうもバーテックスの存続なんて願って無い。ここは、彼らの望みを叶えてあげよう』
( ;^ω^)『じゃ、じゃあ、シャキン兄さんを説得すれば……』
(´・ω・`)『彼は昔から熱中すると周りが見えなくなるような性格だった。今はバーテックスの正義に熱を浮かせていて、聞く耳も持たないと思うよ』
( ;^ω^)『……』
(´・ω・`)『ここは、黙って引き金を引こう。それが、誰も傷付かない方法なんだよ』
その一言で、ブーンは黙った。そして、何かを堪えるようにして装甲車を出ていった。
そんな彼の後ろ姿を平坦な目で見つめる僕。
そう、僕は嘘つきだ。
━━━━
紫の閃光は思った以上に激しく爆ぜると、ハードフェイスのコア周りの装甲をごっそりと溶かした。
(;`・ω・´)『貴様、何のつもりだ!』
憤りを露わにした声と共に振り返るハードフェイス。
13 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:52:45.93 ID:c+e/RhsPO
その両手が握るショットガンの銃口と湧き上がる罪悪感から逃げるべく、僕はナイト・ホライズンの機体を大きく後ろへと跳躍させた。
(`・ω・´)『まさか、増援を偽り我々を一網打尽にしようとするアライアンスの犬か?』
ショットガンを僕に向け、静かに詰問するシャキン兄さん。
その声に、昔シャキン兄さんに怒られた時の事が重なり、背筋が震えた。
(#`・ω・´)『答えろ!貴様はアライアンスの犬かと聞いているのだ!』
( ;^ω^)「!」
激昂したシャキン兄さんの怒声。思わず呼吸が跳ね上がる。
だが、ここで答えてはいけない。
声を出したら。僕たちであるという事がばれたら。今よりもっと辛いことになる。
( ;^ω^)「……」
だから、声を出すわけにはいかないのだ。
(`・ω・´)『語る言葉も持たぬ……か』
ハードフェイスが右手のショットガンを下ろす。
代わりに右肩のグレネードを構えた。
(`・ω・´)『よかろう。その卑しき決断、今すぐ後悔させてやろうぞ!』
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 01:53:14.28 ID:t/ef5duP0
早いな
追いつけん
15 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:53:32.73 ID:c+e/RhsPO
怒りの咆哮猛々しく、右肩の砲口から火炎の塊を吐き出すハードフェイス。
その巨大なる破壊のプレッシャーを僕が右跳びに回避したところで、後方に待機していたドクオのレールガンの放った翡翠の光条がハードフェイスの左肩を貫いた。
(`・ω・´)『ふんっ、もう一機潜んでいたか。おいお前たち、援護を怠るな』
シャキン兄さんが周りのMT部隊に向けて発した命令。
しかし、それに対してシャキン兄さんの期待通りに応えてくれる者は“もう”いない。
今まで僕とシャキン兄さん二機を取り巻くように散らばっていた重裝型MT達は、今やハードフェイスの紅茶色の機体を取り囲むようにして円形に距離を取り、各々のバズーカを構えている。
(`・ω・´)『おい、何をやっている貴様ら。構える方向が違うだろう』
自分の権力を信じて疑わないとても真っ直ぐで、愚鈍な言葉。
僕はそれに胸が引き裂かれんばかりの憐れみを抱いた。
『大将、もう終わりにしましょうや』
シャキン兄さんを取り囲んだMTのパイロットが、嘆息するように呟いた。
16 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:54:40.84 ID:c+e/RhsPO
『あんたにはもう付き合ってられない。悪いが、ここに居る全員があんたの言う“レイヴンによる秩序”だとかの為に命を張ろうとなど考えてはいないんだ』
(;`・ω・´)『何を……言っている……?』
初めて、困惑の色を声に浮かべるシャキン兄さん。
『もう疲れたんだよ。あんたの元で戦っていたって、この先にオレ達が望む未来なんて見えてこねぇんだよ』
(;`・ω・´)『貴、様……』
『はっきり言うぜ、大将。あんたは器じゃない。下らない支配者ごっこは終わりだ』
その言葉を引き金に、ハードフェイスを取り囲んでいたMT達が、かつての大将めがけて一斉にバズーカの咆哮を上げた。
(`・ω・´)『裏切った。……つまりは、そういうことなのだな?』
八方位より飛来するバズーカの弾頭を小ジャンプで回避し、ハードフェイスはその右肩に鎮座する大口径グレネードキャノンの砲身を構える。
未だMT達の包囲網の中にあるシャキン兄さんの凛とした声に、その場の誰もが口をつぐんだ。
17 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:56:41.37 ID:c+e/RhsPO
(#`・ω・´)『そういうことかと聞いている!』
一転した怒声。
その雄叫びに、僕を含めたその場の全員が微かに怯む。
(#`・ω・´)『許さん……許さん、ぞ……』
震える声は、怒りを殺しきれず。
(#`・ω・´)『貴様ら全員、塵芥も残さずに殺してくれる!』
哀れな道化は、怒りの叫びと共にグレネードの咆哮を上げた。
爆裂する憤怒の炎が、たじろぐ重装MTの姿を飲み込み灰に変えたのを合図に、憎悪渦巻く悲劇の殺し合いが始まる。
『オレは、故郷に妻と娘を残して来てるんだ!あんたの為に、妻子を悲しませる訳にはいかないんだよ!』
(`・ω・´)『俗物が……我等の理想は全てにおいて優先される気高きものだということを、忘れたのか!』
バズーカの砲弾が飛び、グレネードの火薬弾が炸裂して。
お互いがお互いの守るべきものの為、その鍛え抜かれた牙を振るう。
( ;^ω^)「……」
僕はそのあまりにも悲惨な光景を正視する事が出来ず、ただただ戸惑いながら機体を弄ばせていた。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 01:56:52.59 ID:BLAr+n3F0
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 01:57:01.59 ID:R02ex4Kw0
支援
20 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:57:56.29 ID:c+e/RhsPO
('A`)『ブーン、何してるんだ!』
ドクオの声で我にかえる。
見れば、シャキン兄さんの駆るハードフェイスは両手に握ったショットガンの銃口を、僕のナイト・ホライズンに向けていた。
(#`・ω・´)『貴様も私の邪魔をするならば、容赦はせん!』
弾ける散弾が蜂の群れの様相で僕らに迫る。
近い。避けきれない。機体を無理矢理に右へ横跳びさせるが間に合わず、ナイト・ホライズンのコクピットは被弾の衝撃で揺れた。
( ;^ω^)「うっ……くっ……」
幼なじみ。
今僕が戦おうとしているのは、僕たちにとっての兄貴分だった人。
さっきは引き金を引けたとはいえ、目の前の彼が僕らに対して純然な敵意を持っているとはいえ、僕の胸はいまだに躊躇いに揺れていた。
(`・ω・´)『金と力にすり寄る汚らわしい犬共が……私の最も憎むべき大敵よ、灰になるがいい!』
続けざまの発砲。
銃弾、火薬、MT、AC、それら鉄と破壊の象徴が入り乱れる中を、ハードフェイスは巧みに動き回り確実とは言えないながらも、かつての部下達を葬っていく。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 01:58:33.86 ID:R02ex4Kw0
支援
22 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:58:58.45 ID:c+e/RhsPO
『死んでたまるか!あんたなんかの為に、死んでたまるかよ!』
生きる為に戦う兵士達。
(`・ω・´)『意地汚い外道が!目を覚ませ!』
理想を追い、抗いの炎を燃え上がらせる鴉。
僕は、どっちだ。
不意にどうでもいい事が頭をよぎる。
理想。そんなもの、僕には無い。ただ、生きるために依頼をこなし、この手を真っ赤に染める。
それが僕の生き方。意地汚いだとか、外道だとか、罵られようともそれが僕の生き方。
いや、果たしてそれでいいのだろうか。
ξ#゚听)ξ『ブーン、ぼうっとしてないで!あんた、今自分がやるべき事がわかってんの!』
ツンの怒鳴り声がスピーカーから聞こえる。
それに被せるようにして、また一機MTの爆散する音が響いた。
今、僕がやるべきこと。
( ω )「わから、ないお……」
わからない。
ξ#゚听)ξ『あんたねぇ!』
( ;ω;)「わからないお!どうして、どうして!どうしてシャキン兄さんを殺さなきゃならないんだお!嫌だお!殺したくなんかないお!」
23 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 01:59:57.33 ID:c+e/RhsPO
ξ#゚听)ξ『ブーン!』
( ;ω;)『シャキン兄さんは僕たちのお兄ちゃんだお!ツンだって昔、シャキン兄さんに遊んでもらったお?ドクオだって、よく僕たち三人で遊んであるいたお!そんな、そんな……』
戦災孤児。
僕とツンと、それからドクオ。三人は気付いたら親という者を知らずに生きていた。
そんな身よりの無い僕たちを引き取ってくれたのが、ショボンのお父さん。
まるで僕たち五人は実の兄弟のようにして育ってきた。
( ;ω;)「シャキン兄さんは……そりゃあ、ちょっと空気読めないとこもあったけど、それでも僕たちはいつも一緒だったお!
僕がピーマン食べれなくて困ってる時も、シャキン兄さんがこっそり自分の皿にうつしてくれたお!
眠れない夜だって、変な子守歌唄ってくれたお!シャキン兄さんは、シャキン兄さんは……」
とめどない思い出。浮かび上がるのは、いつも豪快に笑うシャキン兄さんの顔。
確かに僕たちは、兄弟だった。
(#´・ω・`)『ブーン!』
( ;ω;)「ショボンなんか、血を分けた兄弟じゃないかお!それなのに何とも思わ……」
24 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:01:30.58 ID:c+e/RhsPO
(´・ω・`)『……やるんだ』
冷たい、声。
( ;ω;)「ショボ……」
(´・ω・`)『いいから、早くやるんだ』
それは、あまりにも冷たい声。
( ;ω;)「おっ……おっ……」
(`・ω・´)『戦場で何をぼうっと突っ立っている?こないなら、こちらからいかせてもらう!』
目まぐるしく錯綜する声、想い、銃弾。
全てを把握する暇も与えず、ハードフェイスは僕の機体目掛けてその身を踊らせる。
( ;ω;)「うわぁぁぁぁああああ!」
25 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:02:18.60 ID:c+e/RhsPO
考えている時間なんか、無かった。
やらなきゃ、やられていた。
後でそう言い切るのは、すごく簡単だ。
気付いたら、ナイト・ホライズンはハードフェイスの放ったグレネードの火球をくぐり抜け、その懐に深々と左腕のレーザーブレードを突き立てていた。
( ;ω;)「あうっ……」
飛び散る火花。
鉄を引き裂く感触が、操縦桿を伝って僕の腕を震わせた気がして、思わず手を離す。
(;`・ω・´)『な……んと……』
シャキン兄さんの虚を突かれたようなうめき声が、遠い。
( ;ω;)「ひうっ……」
その日僕は、兄に等しい存在に手をかけた。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:02:34.08 ID:YmuG45Sd0
お前、偉いな
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:02:35.04 ID:R02ex4Kw0
(;`・ω・´)『何を……言っている……?』
ンジャムジか
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:02:36.98 ID:HMw7FxwC0
支援
29 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:03:23.44 ID:c+e/RhsPO
━━スピーカーから零れるようにして、ブーン達の声が聞こえる。
( ;ω;)『あっ……あうっ……』
装甲車内の管制室、そのメインモニターに映し出されたナイト・ホライズンのメインカメラの映像は、まさにハードフェイスにトドメを刺す瞬間だった。
(;`・ω・´)『私が……負け、た?』
ブーン達には回線を装甲車以外には漏れないよう、予め言っておいたがシャキンの方は違ったようだ。
おかげで、吐き気のするような彼の下らない理想論なんかも聞けて、胸糞が悪い。
(;`・ω・´)『そんな…筈が……』
ナイト・ホライズンがレーザーブレードを引き抜く。
ハードフェイスはよろけるように、一歩二歩と後ずさった。
その様子があまりにも滑稽で、僕は内心で彼を嘲笑う。
無様だ。これが、夢を追って家を飛び出した親不孝者の末路か。
(;`・ω・´)『くそっ……誰か、誰か援護はいないのか?ぃょぅ、ぃょぅはどうした?早く私を助けろ!くそっ、こんなところで!』
レーザーブレードが空けた傷口から飛び散る火花。
それがシャキンの最後の旅立ちをカウントダウンするように煌めいていた。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:03:55.55 ID:R02ex4Kw0
支援
31 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:04:24.04 ID:c+e/RhsPO
もう、後わずかでこのクソったれの兄貴ともお別れだと思うと、清々する。
(`・ω・´)『……やれ、やれだ。情けないものだな』
今更になって、愚考に気付いたのか。
もう、遅すぎるんだよ。バカが。
(`・ω・´)『ジャック様の理想も成し遂げられず、故郷に錦も飾れず……私は、一体何をしてきたのか……』
本当に、あんたは何をしてきたんだろうね。
(`・ω・´)『故郷か。……思えば、ショボンのやつには何一つ兄貴らしい事をしてやれなかったな』
ショボン。その単語に、僕の背中は小さく震えた。
(`・ω・´)『今、あいつはどこで何をしているのだろうか。せめて、最後に一度だけ会いたかったものだ……』
何故、僕の手は震えているのだろうか。
こいつが死んだら、清々するっていうのに。
(`-ω-´)『もしも。もしも最後に一度だけ会えるなら。こんなダメな兄貴を許してくれ、ショボン……』
何故かは、わからない。どうしてかは、わからない。
ただ、僕は。僕の口は開いていた。
(´・ω・`)「今更何を言ってるんだよ!何偉そうにほざいてるんだ!」
32 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:05:25.04 ID:c+e/RhsPO
叫んで、いた。
ξ;゚听)ξ「ショボン……」
隣にいるツンが、ヘッドセットをつけたまま僕の手を握る。
それを振りほどきながら、僕は叫んだ。
(;´・ω・`)「何が許してくれだ!兄貴?笑わせるな!僕がお前を兄貴だなんて思った事なんか一度もない!」
走馬灯。蘇るは、幼き日に見たシャキンの後ろ姿。
(;´・ω・`)「散々、僕らの事を引っ掻き回して、挙げ句勝手にどっかに消えちまって、そして死ぬ間際にごめんなさいだって!?
許すもんかよ!許されてたまるかよ!」
どんなに手を伸ばしても、ついていけない、追い付けない。
(;´・ω・`)「いつもあんたは僕たちの事なんか置いてけぼりで、振り向く事なんかしなかった!」
置いていかれる。いつも、置いていかれるんだ。
だから、僕は追い付きたくて。追い付きたくて。
(´;ω;`)「ふざけ……るなよ。また、僕を置いていくのかよ。勝手に突っ走って、勝手に死んで、それでごめんなさいだって?」
涙なんて、何年ぶりだろうか。
あの日、あんたに置いてけぼりを食ってから、あんたの後を追おうと決意した僕には、久々に流すものだ。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:05:38.40 ID:uKpcGx1OO
賛同する強いレイヴンがいなけりゃ、こうもなるか……
支援
34 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:06:29.84 ID:c+e/RhsPO
(´;ω;`)「許すわけないだろ!どれだけ勝手な事すれば気が済むんだよ!そういう、あんたの真っ直ぐなとこが気に食わないんだよ!」
ハードフェイスのコアから吹き出る火花と黒煙。
それはもう限界である事を知らせていた。
(´;ω;`)「兄さんなんて、兄さんなんて……」
知らず知らずのうちに口をついた「兄さん」という単語。
(´;ω;`)「大っ嫌いだぁぁぁぁああああああ!」
最後の雄叫びよろしく爆裂するハードフェイス。
久々に発した「兄さん」の四文字は、違和感なく空気を震わせ。
目の前に映し出されたハードフェイスと共に、散り散りになって消えた。
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:07:24.93 ID:R02ex4Kw0
支援
36 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:08:06.78 ID:c+e/RhsPO
第九話、おしまいです。
うーんオレも投下の緊張で手がふるえてるぜ。
こ、これは武者震いなんだからねっ!///
以下、機体紹介でございます。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:10:34.92 ID:R02ex4Kw0
支援
38 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:10:47.13 ID:c+e/RhsPO
機体紹介(第九話)
◎機体名:ハードフェイス
◎シャキン
http://p.pita.st/?0khjeopz 機体構成案提供:ID ys6llmO40氏
assembly
頭部:CR-H81S4
コア:YC99UL
腕:マカキュー
脚:LF71
ブースター:CR-B83TP
FCS:CR-F73H
ジェネレーター:G91
ラジエーター:アナンダ
右肩:WB78GL
左肩:サイレン
右腕:WB84S
左腕:WL88S2
バーテックス残党、大将のシャキンが駆る軽量四脚型AC。
右肩のグレネードを主兵装とし、接近してきた敵を両手のショットガンで薙払う。
搭乗者であるシャキンは、そこそこの腕を持つようだが人徳と知謀には恵まれなかったようで、本編では無残な最期を遂げている。
39 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:12:27.82 ID:c+e/RhsPO
平日のこんな時間からお付き合いいただいた皆さん、有り難うございました。
質問、批評、その他諸々ご意見などありましたらどうぞ気兼ねなくwww
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:14:40.46 ID:R02ex4Kw0
>>39 乙ー
他のMT乗り、奇襲作戦とアジト防衛のドサクサに紛れて離反したほうが確実に逃げれたんじゃね?
ぃょぅのAC奪ってもよかっただろうし
乙
乙
43 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:21:52.55 ID:c+e/RhsPO
>>40 彼等が謀反を考えたのは、シャキンと共に奇襲作戦に駆り出された時と考えていただければ。
ぃょぅの目が光っている間は、勝ち目が無いと思っていたんでしょう。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:25:17.60 ID:R02ex4Kw0
>>43 ふむ
時折LRネタを混ぜ込んでくれるあんたが好きだぜ
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:27:02.11 ID:cLApuy57O
俺のAC4の愛機の名前もナイトホライゾンなんだ……
46 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:29:54.22 ID:c+e/RhsPO
>>44 アザースwww
正直、会話の流れから自然に出てくるだけだけどねwww
他に何か質問、批評、突っ込み、他諸々などございますか?
なければオナニーして寝ます!
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:31:56.29 ID:cLApuy57O
48 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:32:25.43 ID:c+e/RhsPO
>>45 これはオレのものだ!オレだけのものなん(ry
>>38 こんなオレンジの機体に乗った上に妄言や理想ばかりを口にするレイヴンにMT乗り達はよく従ったなw
乙
50 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 02:54:50.56 ID:c+e/RhsPO
>>49 ショボンが独白している通り、彼は上辺だけはいっちょまえの張りぼてカリスマだったのです。
最初はその気になってホイホイついていった兵士達も、彼の考え無しな作戦に疑問を抱くようになっていき、この第九話でついに我慢出来なくなって射精しちゃったのでしょうね。
紅茶色のカラーリングは案外気に入ってます。アッサムティーみたいで、見てると癒されます。
一家に一台欲しいです。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 02:57:50.23 ID:R02ex4Kw0
>>50 そういってもらえると、カラーリングも一緒に指定した俺も嬉しい限りだ
52 :
◆LDjQ6B8uYg :2007/12/12(水) 03:10:58.02 ID:c+e/RhsPO
>>51 あなたがアセン提供してくれた方か……
見てくれているとわかっただけで、凄く嬉しいんだぜ。
それだけで勇気が沸いてくるんだ。
意地でも完結させてやろうっていう勇気がね!
さぁて、そろそろ寝るので何かあればまとめのBBSにでも書いとくれ。
VIPACに投下するSSのまとめ依頼も受け付けてるから、もしまとめさせてやってもいいって人は注意書きを読んだ上であまり期待せずに投下してくれ。
ノシ
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/12(水) 03:42:42.44 ID:g8WYLdHgO
アーマードコアはラストレイブン買ってみて三ステージ目で投げた記憶しかないな・・・
最初に買うACシリーズを間違えたのだろうか
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
つ 初代AC