1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
その笛の音は 私の心をポロンと弾いた
(#゚;;-゚) 「綺麗だったな……」
その笛の音は 私の心をポロンと弾いた
(#゚;;-゚) 「また……逢いたいな」
その笛の音は 私の心をポロンと弾いた
(#゚;;-゚) 「また……聴きたいな」
その笛の音を
(#゚;;-゚) 「また―――――
私が誰かに聴かせたいと想った
いや、吹かなくていいです
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 00:56:47.04 ID:IpG2Im2OO
子供の頃に、村に行商人がやってきた。
小さな村だったから、私はその人を不思議に見ていた。
背中のリュックにたくさんの荷物を飛び出るくらいに詰めたその人は、
朗らかな笑顔で村の人たちに物を売っていた。
やがてパンパンだったリュックは萎み、代わりに行商人さんは色んな物を持っていた。
隣のお家で取れた野菜とか、赤く紅葉した裏山を描いた絵とか。
たくさん、たくさん持っていた。
交換し貰った村の特産品をリュックに詰めると、もっと朗らかな笑顔をして、その人は村を出て行った。
私はそれを、家の影から見つめていた。
じーっと、見つめていた。
(#゚;;-゚) 「お母さん……」
もうすっかりぺったんこになった布団。
お母さんはその寝床から、動く事ができない。
お母さんが動けないから、布団も干せない。
だから布団はぺったんこ。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 00:58:07.88 ID:IpG2Im2OO
(#゚;;-゚) 「お母さん、ごめんね」
お母さんは動けない。
動けないから、布団はぺったんこ。
動けないから、布団が干せない。
動けないから、ここに置いていく。
(#゚;;-゚) 「ごめんね……お母さん」
もう何度謝っただろうか。
謝っても謝っても遣り切れない気持ちは、私にもっと謝れと告げる。
意味はないのに。
(#゚;;-゚) 「ごめんね……ごめんね……」
「でぃ! 早くしろォ!!」
私を呼ぶ声がする。もう来るんだ。
逃げなきゃいけない。村を捨てて。
お母さんを、捨てて。
とりあえず読んでみる
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:00:01.91 ID:IpG2Im2OO
(# ;;- ) 「…………」
「おい! でぃ!!」
……私には、できない。
(#゚;;-゚) 「……私に構わず、行ってください」
待ちきれなくなり、家に飛び込んできたおじさんに言った。
おじさんは暫く黙って私を見つめ、すまないと呟くと、唾を返し外へと向かった。
(#゚;;-゚) 「遣り切れない気持ちがあるなら……。
私は、最後までお母さんを見捨てない……」
自分に信じ込ませるように言い、お母さんへと近づく。
(#゚;;-゚) 「一緒に行こう、お母さん」
横になっているお母さんをおんぶするのに時間がかかったが、何とか担ぐ事が出来た。
よたよたと開けたままの扉に近付き、外へと出る。
既に村の人たちは避難した後らしく、静まり返った村は普段見慣れない分不気味だった。
(;#゚;;-゚) 「ふぅ……ふぅ……」
歩いていては、すぐに捕まってしまう。
でも走れ走れと身体に命令しても、私にお母さんを担ぎながら走る力など無い。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:00:44.86 ID:qumNqrU60
支援
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:02:09.31 ID:IpG2Im2OO
そんな事は分かっていたし、分かっている。
でもここまで育ててくれたお母さんを見捨て生きる事の方が、私は辛い。
(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……」
村自慢の噴水がある広場。十字に道が広がっている。
いつもは誰かしら此処にいて、話に花を咲かせていた。
でも今は……言うまでもない。
よたよた……よたよたと進む。
皆が目指したのは王都VIPだろう。だから私もそこを目指す。
だが誰が見ても、私の速度は亀よりも遅い。
いずれ追い付かれ、殺されるのがオチかもしれない。
でも私は……私は……
(;#゚;;-゚) 「ッ! キャッ!?」
ズサッと、地を滑る音。右肘が熱い。膝もだ。
足を躓き転んだと気付くのに、暫くかかった。
でもあの足音に気付くのは、そう長くなかった。
(;#゚;;-゚) 「……ッ!? ……来た」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:04:01.76 ID:IpG2Im2OO
地を踏みならすように、定期的な足音が遠くから聞こえる。
まだ視界には入らない。向こうからも入っていない筈だ。
(;#゚;;-゚) 「今の内にッ……!」
もう逃げ切る事は出来ないだろう。
私はお母さんを肩に担ぎ、村近くの山を目指す。
山奥にまで行ければ最高だけど、行けて林、行けなくて草むらだろう。
とにかく早く、早く足を動かす。
次第に足音が大きくなり、恐怖が襲ってくる。
心音がバクバクと煩い。
息も煩い。
呼吸を止める。
苦しい。
息を……呼吸を……
あれ?
息の仕方が……分からない
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:06:05.12 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「ッハ!? ハァ……ハァ……!!」
落ち着いて……落ち着いて……
前を目指し歩く。右足を出し、次に左足。
よし、大分近付けた。
細いけど木もあるし、草むらも深い。
ここでならなんとか……それにもう……
(#゚;;-゚) 「……疲れたよ」
お母さんを静かに降ろし、少しでも隠れるように雑草を抜き、お母さんにかけた。
私も腰を降ろし、伏せる。
正直、コレでやり過ごせるなら苦労はないだろう。
でもコレが、私の精一杯だった。
(;#゚;;-゚) 「ふぅ……ふぅ……」
荒くなった息を抑える。
心音も少し収まり、初めて草の香りが鼻をついた。
もう鳥すらも逃げたのだろう。
聞こえるのは、アレの足音のみ。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:06:06.37 ID:jdgG7e1/O
地の文長くて携帯厨にはしんどい…
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:08:26.67 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「…………」
近づいてくる、少しずつ。
草むらの隙間から見える、私の村。右に家、左にも家。
家に挟まれたおかげで道が見えるのは視界の半分程。
そのちょうど真ん中に、噴水。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
これは私の心臓の音? なら治まって。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
これは奴らの足音? なら……。
(;#゚;;-゚) 「帰って……!」
静かに願う。
頼んで聞いてくれるのならば、私は喉が枯れるまで叫ぶだろう。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:10:16.63 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「……!」
近づいてる、間違いなく。もうそれは、すぐそこにまで。
来る……来る……来る……!
来た。
(;#゚;;-゚) 「……ッ」
ソレは、黒かった。
まるで影のように黒く、悪魔のような禍々しさをその躯から発している。
アレが……
(;#゚;;-゚) 「浸透者……」
実物は始めて見た。絵では見た事があるけど。
でも本物は、絵なんかとは比べものにならない程に、恐ろしい。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:12:03.00 ID:IpG2Im2OO
まるで黒く塗り潰された騎士。
足取りは緩慢だが、一度獲物を見つけると逃す事はないと言われている。
だから絶対に見つかっちゃいけない。
(;#゚;;-゚) 「すごい数……こんなに……!?」
既に最初に視界に入った浸透者は見えなくなった。
それからも数体が、右へと抜けていく。
まるで死者の葬列のように、ゆっくりと。
隊列を組んでいるのか、横からではその人数は数えきれない。
でも、多い。それは確かだ。
(;# ;;- ) 「恐い……恐いよ……お母さん」
浸透者は、突然この世界に現われた。
王都VIPを囲むように点在する村々、その一番北の、一番端。
名前は知らないその小さな村から、突然村民は姿を消した。
それがいつ消えたのかは分からない。
VIPの軍が村の隅々を調べたらしいけど、結果は0。
そう、0。
その村から、軍は帰ってこなかった。調査に行ったきり。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:14:17.66 ID:IpG2Im2OO
VIPはその不思議な村の周りに近づく事を禁じ、その村は魔界に繋がっていると噂された。
そしてその村の周りを警護していた兵士が、最初の浸透者の目撃者となる。
半狂乱状態でVIPに戻ってきた兵士は、叫ぶように言った。
「この世界に浸透する闇が来た」
それから浸透者は、村々を襲い始めた。
100はあったこの国の村も、今では半分。
抵抗もしたらしけど、結果は散々たるもの。
王都の、その堅高な壁に入りたいと願う人たちは多かった。
だけどそんなに広くはない王都。村人を全員収容するなど、到底無理な話。
だから浸透者が来たら、逃げ込む事を許可された。
それまでは浸透者に怯えながら村に居ろ、という事だ。
(;#゚;;-゚) 「……」
どれだけの時間が過ぎただろうか。
私はジッと、奴らがコチラに来ないかどうかをただ警戒するだけだった。
しかし神経をすり減らすほどに注視してたせいか、少しの変化だけど、
さっきまで欝陶しい程聞こえた足音は小さくなっているのに気付いた。
よく聞けば、左の音より右の方が大きい感じも……。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:16:02.24 ID:IpG2Im2OO
左から続々と現われていた浸透者。
途切れる瞬間、私が待ち望んでいた瞬間が。
やっと、やっとやって来た。
(;#゚;;-゚) 「アレで最後……! 行って……!!」
最後列に位置していた浸透者。
体躯は鎧の所為か大きく、右手に持つ黒塗りの剣は光を反さなくても鋭く恐ろしい。
それは鎧が擦れる音も立てず、ゆっくりと前へと進む。
するのは足音だけ。しかも一体だけだと、それも聞き取りにくいほど小さい。
(;#゚;;-゚) 「早く、早く行ってよ……!」
依然浸透者の足取りは重たい。
いや、重すぎる。
先に行った浸透者達の足音は小さく、奴の前に居た浸透者達すら視界から消えていた。
奴一体だけが、噴水の前で歩みを止めていた。
(;#゚;;-゚) 「…………」
私の方は見ていない。ただ正面を見ているだけ。
ならなぜ止まるの? あそこで何をして……?
ハッと気付き、音を立てないように首だけで周囲を確認する。
周りに浸透者はいない。少し草を被ったお母さんが寝ているだけだ。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:16:20.99 ID:kVTd3MreO
支援
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:18:03.55 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「……ふぅ」
一息つき、また噴水の方を見る……。
(;#゚;;-゚) 「ッ!?」
浸透者が、こちらを見ていた。
首だけをこちらに回し、ジッと見つめている。
首から頭までを一つに纏う兜をしているから、目は確認できない。
でも確実に、コチラを見ている。
距離はわりとある。
逃げる?
逃げなきゃ。
逃げよう。
歩伏前進の体勢から、横に移動する。
視界から浸透者は外さない、外す事が出来ない。
少しずつ、少しずつお母さんに近づく。
さっき擦り剥いた肘と膝がズキンズキンと痛い。
その痛さと恐怖のせいで、知らずに涙が頬を伝う。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:20:02.42 ID:IpG2Im2OO
(# ;;- ) 「ッ!……ハァ……ハァ」
ズリと地を擦る音が続くが、浸透者はさっきから動く気配を見せない。
横を見てお母さんの位置を確認し、視線を戻す。
まだ、コチラを見ているだけだ。
ゆっくり、ゆっくりとお母さんに近づく。
やっと手が触れる事ができ、一気に安堵感が私を襲う。
ぐっと力を込めながらお母さんを寄せる。
浸透者は……
(;#゚;;-゚) 「!!」
その黒い躯を、こちらに向けていた。
もう、時間などない。奴はこちらに気付いている。
そう思うと手が震え、額から汗が吹き出る。
なんとかお母さんを掴み、少し腰を浮かせ背負う。
まだ、浸透者は動いていない。
中腰姿勢のままゆっくり進む。
もう草からは見えてるだろう。
だけど、早く動く事が出来なかった。
走ればすぐに、アイツが追ってきそうだから。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:22:28.41 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……」
右へ、浸透者の軍隊が向かった方へ。
もしかしたら遭遇するかもしれないけど、少しでも、王都に近づきたかった。
後ろを振り向き、後方を確認。
家の影に隠れ噴水は見えず、浸透者も確認できない。
姿が見えない敵から逃げる。恐怖が、私の足を重たくする。
(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……ッ!?」
もう一度前を向き直し二、三歩進んだ所で、ガサリ、と音がした。
それはさっきまで私が立てていた音に似ていた。
それよりは少し大きい音で、後ろから聞こえた。
ゆっくりと、振り向く。
(;#゚;;-゚) 「ひッ」
浸透者が、さっきまで伏せていた場所に立っていた。
そして少しずつ首を動かし、私を見据える。
汗が吹き出し、腰が砕けそうになる。
でもここで倒れたら殺される。
今は逃げる事が、最善の一手。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:22:49.56 ID:WchR2aRzO
沸く手か
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:23:07.86 ID:E6Hi4HWA0
おもしろいな
いいな
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:23:23.81 ID:kVTd3MreO
ハラハラする
支援
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:24:02.97 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「ぁ……うぁ……!?」
言葉にならない呻きを上げながら、精一杯走る。
浸透者の緩慢な歩みよりも、ちょっと早いくらいの速度。
後ろを確認する。追ってきている。ゆっくりと。
慌てて前を向き、また走りを続ける。
ガサリガサリと草を踏み分ける音が耳障りだ。
(;#゚;;-゚) 「ハッ……ハッ……ハッ……」
お母さんがずり落ちはじめたから、腰を揺らし担ぎ直す。
そんな時間すらも、もどかしい。
やがて村を抜け出し、右手に広がっている山の方へと駆けた。
獣道のような足場の悪いその道でも、浸透者は容赦なく追い掛けてくる。
右に山の斜面が上り、左は下りの斜面。
このまま真っすぐに進めば森に入れる。
そうすればお母さんだって隠せるし、私も隠れられるんだ。
やり過ごせる、そんな可能性。
(;#゚;;-゚) 「ハッ……ハッ……」
苦しい……足も痛い。
でも後少し。後少しで私は……
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:24:03.23 ID:LtVR4uZq0
支援
でぃは抗い護るのせいでこんなイメージなかった
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:24:13.74 ID:bxC8Nw740
なかなか上手い奴が書いてるな
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:26:12.49 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「うぁッ!?」
そんな少しの油断からか、私は転んでしまう。
足がもつれ、顔から地を擦る。頬が……熱い。
(;# ;;- ) 「ッ〜……」
悶える。じゃないともう、挫けそうだから。
でも奴は、そんな私の気などお構いなく、近付いてくる。
トッ トッ トッと妙に軽い足音が、徐々に後ろからやって来ていた。
(;# ;;- ) 「立たなきゃ……立たなきゃ……!」
後ろ手にお母さんを押さえていた手を解き、立ち上がろうとする。
でも人一人の体重は重く、もたつく。
(;# ;;- ) 「立たなきゃ……立たなきゃ立たなきゃ立たなきゃッ!!」
力を込め、肘を使いお母さんから体を抜かす。
やったと喜ぶ暇などない。
すぐに立ち上がり、後ろを見た。
見えたのは、右の黒剣を振り上げる浸透者。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:28:03.02 ID:IpG2Im2OO
(;# ;;- ) 「キャッ!!」
振り下ろされる瞬間を見てから、右に飛びその剣を躱す。
体が勝手に動いた。まず目の前の危険を回避するために。
次の危険には対応できない、体の仕組み。
(;#゚;;-゚) 「ッ!? うぁッ!?」
坂のような斜面に、右足を取られた。
ぐらりと重心が傾く。落ちたくなんかないのに。
その抵抗として私は、思わず俯せに倒れるお母さんを掴んでしまった。
落ちる力には逆らえず、坂に飲まれるように私とお母さんは転げ落ちる。
いつの間にか私は、山の中腹辺りまで来ていたらしい。
私はそれに、転がりながら気付いた。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:28:12.69 ID:E6Hi4HWA0
にげてぇぇぇぇ
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:30:07.70 ID:IpG2Im2OO
(# ;;- ) 「…………ぅ」
(#-;;-゚) 「ん……」
頭が痛い……私は、確か……
(;#゚;;-゚) 「ッ!! 浸透者!!」
上半身だけ起こし、辺りを確認する。
浸透者はいないようだけど……傷がひどい。
所々を擦り剥いたようで、赤い血が滲んでいる。
(#゚;;-゚) 「そうだ、お母さん……!」
落ちる時にお母さんを掴んだから、二人で落ちた筈。
立ち上がり、もう一度周りを見回す。
そして丁度私の後ろに、倒れているお母さんを見つけた。
その時だった。遠くから何かの足音が聞こえたのは。
(;#゚;;-゚) 「!? 浸透者……?」
姿勢を低くし、警戒する。
どうやら山の麓まで落ちたようで、周りには家などは見当たらない。
ただ緑の、背の低い草が生え揃うだけだ。
32 :
ヽ(´〜`)ノ ◆JKQoeTqG.A :2007/09/30(日) 01:31:22.77 ID:jdgG7e1/O
もしかしてこれって…
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:32:02.54 ID:IpG2Im2OO
次第に音は近付き、私の心臓も激しくなる。
骨は折れてないみたいだけど、もう逃げる体力は残ってない。
(;#゚;;-゚) 「……ッ!?……あれは、馬……?」
良く聞けば浸透者の足音とは違う。
それに視界奥に見えたのは、黒い馬に跨った白銀の騎士。
王都VIPの、騎士だ。
(# ;;- ) 「た……助かった……」
思わず力が抜け、その場にへたれ込む。
黒い馬は軽快な音でコチラへと走ってくる。
その歩みは速い物ではなかったが、私に気付いたのだろうか、騎士は手綱を使い愛馬の速度を上げた。
あっという間に私の傍まで馬を走らせた騎士。
浸透者のような顔を覆う兜をつけたまま、馬から降りずに声を掛けてきた。
「どうした? ここは危険だぞ」
その声は、女性の声だった。
野太い声を予想していたが、随分と耳に優しい声。
仮面のような兜を付けている筈なのに、その声は凄く澄んでいた。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:34:05.08 ID:IpG2Im2OO
「……どうした?」
(;#゚;;-゚) 「……あ、すいません。あの私、浸透者に追われて……」
「……そうか、奴らはまだこの付近にも居る。
今我々が食い止めているが何分数が多くてな、手が離せないのだ」
女の騎士さんはそう言うと馬を降り、首に手を当て兜を剥ぎ取った。
それは一見で分かる、綺麗な女性。
目は青く透き通り、鼻もスッと通っている。
輝く金の長髪は、首を振りながら掻き上げるとサラサラと綺麗に流れた。
川 ゚ -゚)「ん? そこに誰か倒れているが」
(#゚;;-゚) 「あ、あれは……母です」
兜を脇に構え、騎士さんはお母さんへと歩んでいく。
全身を覆う銀の鉄鎧が光を反射し、彼女の美しさに拍車をかける。
川 ゚ -゚)「……亡くなっているな」
(# ;;- ) 「……はい。先日病気で……」
川 ゚ -゚)「……そうか、辛かったな」
騎士さんは母の亡骸に十字を切ると、懐から布を取出しその顔に巻いた。
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:34:48.67 ID:kVTd3MreO
おお、助けが
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:37:15.36 ID:y2+0N4n/O
支援
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:37:30.29 ID:WchR2aRzO
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:37:53.16 ID:Txys+scEO
これは良スレ
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:38:04.23 ID:IpG2Im2OO
川 ゚ -゚)「擦り剥いたようだ。……君もだが。
手当ては必要か?」
(#゚;;-゚) 「あ、大丈夫です……」
川 ゚ -゚)「わかった。君は強い子だな」
お母さんをお姫さまのように抱き、こちらへと来る騎士さん。
その表情は全く変わらないが、無感情という訳でもないようだ。
川 ゚ -゚)「私はここに残らなければならない。まだ浸透者は居るからな。
だから馬を貸す。よく調練しているから、王都まで真っすぐ行ってくれる筈だ」
(#゚;;-゚) 「あ……ありがとうございます」
ブルル、と応えるように鳴く黒馬。
毛並みがとても美しく、目が力強い。流石彼女の馬、という感じだ。
川 ゚ -゚)「馬は乗れるか?」
(#゚;;-゚) 「いえ……」
川 ゚ -゚)「手綱を掴み、ただ乗っているだけでいい。
下手に足は動かすなよ?」
騎士さんはお母さんを馬の後ろに乗せ縄で固定すると、私の腰を掴み押し上げ乗せてくれた。
暖かい黒馬のその脈動は、初めて感じる不思議なものだった。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:40:03.76 ID:IpG2Im2OO
川 ゚ -゚)「そうだ、君の名は?」
(#゚;;-゚) 「でぃです。あの……本当にありがとうございます」
川 ゚ -゚)「気にするな。では、生きていればまた合おう。
行けッ! さらばだ、でぃ!!」
騎士さんが馬を叩くと、勢いよくそれは駆け出した。
ひどい振動が私を襲い、今にも振り落とされそうになる。
なんとか手綱を掴み踏張ると、まだ騎士さんの名を聞いていない事に気付いた。
(;#゚;;-゚) 「あのッ!! あなたのお名前はッ!?」
川 ゚ -゚)「クールだッ!! クーで構わんよッ!!」
騎士さん、もといクーさんのその声を背に受け、私は激しく揺られながら王都を目指した。
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:41:48.51 ID:kVTd3MreO
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:42:03.73 ID:IpG2Im2OO
随分と長い間馬に揺られていた。
さっきまで頭上にあった太陽は地平線に沈み始め、橙色の光が辺りを覆っている。
しかしその幻想的な光景に感動する間もなく、腰や首、腕が悲鳴をあげる。
もう身体は、とっくのとうに限界を迎えていた。
でも、私は助かったんだ。
クーさんがあそこに通りかかってくれなかったら、どうなっていたか分からない。
今になって、もっと感謝するべきだったと後悔した。
(#゚;;-゚) 「あ……見えてきた……!」
ずっと草原ばかりが続いていたが、やっと正面に少しずつ、大きな石壁が姿を現した。
王都はその壁に囲まれた円形をしているが、私は丁度正面の門へと着いたようだ。
少し、身体の疲労が治まった気がする。
それに比例するように黒馬が速度を落とし、門へと向かう。
本当に頭の良い子だ。
でもクーさんは、馬が無くて帰って来られるのだろうか……。
「おーい、止まれー!」
門の両脇に槍を持った二人の兵。その内の一人が、手を大きく振りながら叫んだ。
ただ止まれと言われても、止め方などは分からない。
足は動かすなというクーさんの忠告もあったし、下手に何かしない方がいいのだろうか。
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:44:18.02 ID:IpG2Im2OO
しかしそんな心配も、この黒馬には不要だった。
門まで来ると自分で止まり、着いた事を知らせるように一つ鳴いた。
「これは……隊長の馬じゃないか」
(#゚;;-゚) 「あ、あの……私、クーさんにこの馬を借りて……」
兵士さんは、クーさんの馬に私みたいなのが乗ってきた事に驚いたようで、
少し怪しむような目でこちらを見つめている。
そんな私は馬から一人で降りれずに、とりあえず事情を拙い言葉で伝えようとしていた。
「なぜ隊長の馬にお前が乗っているんだ?
隊長はどうした」
(;#゚;;-゚) 「えーと……浸透者から逃げてたら、クーさんが通りかかってくれて……」
口下手が災いして、上手く説明ができない。
そんな私を睨む兵士さん。
そんな目で見られると、更に私は喋れなくなってしまった。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:46:05.97 ID:IpG2Im2OO
(;#゚;;-゚) 「あの……えと……」
「クーが帰って来たってッ!?」
(;#゚;;-゚) 「……?」
閉じられた門の向こうから、女性の声がした。
正面門だからかそれはなかなか大きく、わざわざ人一人が通る度に開けるのは面倒だ。
その為か門の隅には小さな扉がある。常時はあそこを使うのだろう。
そんな事を考えていると、扉が勢い良く開かれ、剣を腰に差した女性が現われた。
从 ゚∀从「クー……ん? 誰だお前。
なんでクーの馬に乗ってんだよ」
(;#゚;;-゚) 「あ、あの……私……」
どこか威圧的な女性に対し言葉が詰まっていると、突然黒馬が暴れるように前脚を上げ、高らかに鳴いた。
(;#゚;;-゚) 「キャッ!? な、何?」
从 ゚∀从「早く降りろ、ってよ。オラ、手伝え」
門番の二人にそう言うと、彼女は私に手を差し出し、降りろ、と顎で指図する。
黒い手袋で覆われたその手を掴むと、強い力で引かれ無理矢理馬から降ろされた。
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:46:59.05 ID:y2+0N4n/O
支援
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:48:03.32 ID:IpG2Im2OO
从 ゚∀从「そっちは何だ?」
(;#゚;;-゚) 「あ、あの……母の」
「遺体、ですね……」
从 ゚∀从「……ヘッ、変わんないね、アイツも」
彼女は腰の短剣を抜き縛っている紐を切ると、母さんを馬から降ろし抱いた。
またお姫様のように抱かれた母さんだったが、人形のようにだらりとする腕を見て、少し切なくなった。
从 ゚∀从「ふぉら、ひゃぶにぇきゃらひゃなれろ」
短剣の柄を噛みながら言った所為か聞き取りにくかったが、離れろ、と言ったのだろう。
言われるがまま、後退りで黒馬から少し距離を置く。
……足が痛い。
と、黒馬がまた高らかに鳴き、思わず私はビクッとしてしまう。
それを余所に黒馬はゆっくり方向転換すると、背に誰も乗せず草原を駈けていった。
夕暮れの草むらを駆けるそれは絵にできそうな程に美しく、私は少し見惚れてしまう。
从 ゚∀从「ふぉい、ふぉれふぉれ」
そんな私に掛けられる、どこか間抜けな声。
え?と振り向くと、また彼女はふぉれを連呼する。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:48:56.25 ID:qumNqrU60
支援
でぃいいな
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:50:19.34 ID:IpG2Im2OO
从 ゚∀从「ふぉれだひょ!」
(;#゚;;-゚) 「……?」
从#゚∀从「ふぁひふをふぉれッ!!」
(;#゚;;-゚) 「あ、これを取れ、ですか……」
珍言の意味をやっと理解した私は、背伸びをして彼女が咬む短剣を取った。
どうやら唾液が溜まっていたらしく、彼女は横に唾を吐き捨て、私を睨み付ける。
从#゚∀从「ったく、ちょっと考えりゃわかんだろうが。
これだからガキは嫌なんだよ」
(;#゚;;-゚) 「ご……ごめんなさい」
从 ゚∀从「ほら、戻せ」
右腰をこちらに向け、ナイフを鞘に入れろと促す。
私は何故か震える手でそれを戻し、彼女を見上げた。
少しクーさんより背は低いだろうか、でも彼女はクーさんの数倍威圧的だ。
それを思わせるのは、右目だけを見せているからかもしれない。
肩に付かない程度の金髪で左目を隠し、それだけでは飽き足らず黒い眼帯まで付けている。
眉間には皺の後が濃く残っているし、頬にも薄いが傷がある。
クーさんが綺麗なら、この人は格好いいだろうか。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:54:03.77 ID:IpG2Im2OO
軽装で胸を強調した服だから女性だと分かったが、
ちょっと低めの声から出される男言葉だけ聞けば、普通は間違えるだろう。
クーさんとは知り合いのようだが、見事に対極。馬鹿っぽいし。
从 ゚∀从「……何ジロジロ見てんだ。とっとと行くぞ」
(#゚;;-゚) 「行くって……何処にですか?」
从 ゚∀从「墓地だよ。その為に連れて来たんだろ?
分かったら着いてこい。日が暮れちまう」
背の低い扉を抜け、王都に入った女性の後を追う。
彼女は身体を横にしくぐっていたが、私には少し小さいくらいで簡単に抜けれた。
門の先は砂利が敷き詰められ、すぐに王都が広がっていた。
夕方だというのに露天は賑わい、行き交う人の多さからまるで別世界に来たような錯覚を覚えた。
从 ゚∀从「そうだ、お前の名前は?」
(#゚;;-゚) 「あ、でぃです……」
从 ゚∀从「俺はハインリッヒ。ハインでいい。
離れんじゃねぇぞ、迷子探しなんざ勘弁だからな」
そう名乗ると振り向き歩いていくハインさん。
私は彼女を早足で追いながら、町を見回した。
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:56:04.27 ID:IpG2Im2OO
布の上に果物を並べ、威勢のいい声を張りお客を呼び込むおばさん。
その隣の木台の上には色とりどりな商品が並んでおり、見ているだけでも退屈しなさそうだ。
こんなご時世こんな状況なのに、村から出た事のない私は、初めて見る城下町に少し興奮していた。
从 ゚∀从「なにキョロキョロしてんだよ」
(#゚;;-゚) 「あ……こういう賑やかな所、初めてで……」
从 ゚∀从「慣れりゃあ煩くてしょうがねぇよ」
ハインさんはそう言うが、むしろ私には安心できる賑やかさだ。
幅の広い道は真っすぐに続き、遠くにはお城が見える。
丁度その真ん中辺りに広場があり、大きな噴水が忙しなく水を吹き出している。
私の村のそれよりも二回りは大きく、少し嫉妬した。
広場からは村と同じく十字に道が別れ、左手は家の密集地帯へと、正面は城へ繋がる道に行けるようだ。
ハインさんは迷う事なく右を行き、私も並ぶように駆け足で着いていく。
少し人通りが減り、幾分かは静かになる。
少し間が淋しくなり、私はハインさんに話し掛けてみた。
(#゚;;-゚) 「ハインさんは……クーさんのお知り合いなんですか?」
从 ゚∀从「あぁ、同じ騎士だよ。
ま、アイツは隊長、俺は副長補佐だがな」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 01:58:03.75 ID:IpG2Im2OO
副長補佐という初めて聞いた単語に首を捻っていると、ハインさんは前を見ながら話を続けた。
从 ゚∀从「今回はVIPからも遠くねぇし、クー自ら出たんだよ。
俺も副長もお留守番ってやつだな。だからって暇な訳じゃねぇぞ」
(#゚;;-゚) 「あ、ありがとうございます……」
从 ゚∀从「礼ならクーに言え。俺は真似してるだけだ」
……真似?
聞き返そうかと思ったけど、ハインさんに着いたぞ、と先を越され、私は言葉を呑んだ。
着いた先は、墓地。
黒い鉄柵とその延長の簡易な門は、先程までの城下と違い落ち着いた雰囲気を放つ。
ハインさんが門を身体で押し開くと、キィ、と小さく音が鳴った。
ハインさんを先頭に墓地に入るともうそこには喧騒などなく、不気味な程に静かだった。
(#゚;;-゚) 「………すごい数……」
墓地内は薄い草が広がり、定期的に並ぶ、盛られた土と黒い十字の墓石。
緑に映えるそれらの数は、とても数え切れるものじゃなかった。
从 ゚∀从「皆VIPに埋めたがるからな。
まぁ最後まで残るのは此処だろうし、当然っちゃ当然だな」
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:00:16.24 ID:IpG2Im2OO
ハインさんは広い墓地内の奥を目指し歩く。
お墓には白いお花が添えられていたり、手を合わせ祈る人も数人居た。
从 ゚∀从「ほら、それ持ってけ」
(#゚;;-゚) 「あ、はい……」
それ、とは細い木の下に立て掛けてあったシャベル。
二本あったがハインさんが一つでいいと言うので、それを両手に持ち彼女の後を追った。
暫らく歩くと、土穴が並ぶ場所へと着いた。
おそらく空きの墓なのだろう。
从 ゚∀从「よし、ちょっと向こう行ってな」
(#゚;;-゚) 「……いえ、私もやります」
从 ゚∀从「……分かった」
それなりに深く掘られた穴に、ハインさんはお母さんを静かに降ろす。
私はシャベルを横に置き、手を合わせ、母が天国へ逝けるよう願った。
父が早くに亡くなり、お母さんはずっと一人で私を育ててくれた。
命が消える直前まで、お母さんは微笑み、私の手を握っていた。
今はその顔は見れないけど、ずっと、ずっと私の心に生き続ける。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:01:58.18 ID:y2+0N4n/O
支援
眼球痛いから寝る
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:02:11.24 ID:IpG2Im2OO
(# ;;- ) 「ありがとう、お母さん。さようなら……」
从 -∀从「……」
目を瞑り、ハインさんは黙祷をしていてくれた。
私は立ち上がり涙を拭くと、ハインさんを呼ぶ。
从 ゚∀从「……それじゃ、埋めるぞ?」
(#゚;;-゚) 「……はい」
シャベルを持ち、脇に固めてある土を掬い母に掛けるハインさん。
私も手で取り、穴へと入れる。
ほんのちょっとの量で、埋める行為に大した影響はないけど、
少しでも身体を動かしていないとまた泣きそうだったから、私は黙々とそれを続けた。
暫らくの間、私たちは無言で土を入れていた。
悲しくはなかった。
だって、あのまま一人で逃げていたら、お墓も作れなかったから。
今こうやって母の墓を作れる事が嬉しかった。
……けど、もう会えないと思うと、淋しい。
だからずっと、手で土を掬っていた。
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:03:22.56 ID:kVTd3MreO
せつねえ…
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:04:03.51 ID:IpG2Im2OO
从 ゚∀从「……よし、こんなもんでいいだろ」
(#゚;;-゚) 「……はい」
横に盛ってあった土はなくなり、代わりに墓石の前に茶色の山が出来た。
本当ならお父さんの隣にお墓を作ってあげたかったけど、それは叶わなかった。
心の中で、お母さんに小さく謝る。
そんな中ハインさんは足元にシャベルを寝かすと、墓石に近付き短剣を抜いた。
从 ゚∀从「母親の名前は?」
(#゚;;-゚) 「しぃです。……ハインさんが彫るんですか?」
从 ゚∀从「お前字書けるのかよ」
(;#゚;;-゚) 「い、いえ……」
从 ゚∀从「なら俺に任せろ」
そう言うとハインさんは、また目を閉じ胸に手を当て、何かを唱え始めた。
从 -∀从「VIP騎士団ハインリッヒが、しぃの冥福を祈り、此処に刻む」
短剣を逆手に持ち、十字が広がる真ん中の、少し広くなった所に彫り進める。
何処か神聖な雰囲気の中、カリ、カリと音が続く。
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:05:14.28 ID:IpG2Im2OO
从 ゚∀从「……」
(#゚;;-゚) 「……」
無言のまま、ハインさんを見守る。
最初は恐かったけど、今はそんな事思わない。
ハインさんは、優しい良いひtガリッ
从;゚∀从「あ゙……」
(;#゚;;-゚) 「……え?」
从;゚∀从「……ごめん」
……御免で済むか。
(#゚;;-゚) 「いえ、気にしないでください」
从;゚∀从「ホント……ごめんな。
でも! ちょっと間違えただけだからさ!!」
(#゚;;-゚) 「気にせず続けてください」
从;゚∀从「ご……ごめんなさい……」
失敗を踏まえ慎重になったのか、ハインさんの手はかなり遅くなった。
どうせなら最初からそうやって欲しかったが、そこまで言うのは忍びない。
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:05:42.65 ID:WchR2aRzO
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:06:23.97 ID:IpG2Im2OO
ハインさんへの恩は大きい。
从;゚∀从「……よし、出来たぜ」
(#゚;;-゚) 「……ハインさん」
从;゚∀从「あ、ごめん! ホントちょっとなんだ!
いや言い訳か……ごめんな!」
(# ;;- ) 「……ありがとうございました」
从;゚∀从「……?」
ハインさんに向かい頭を下げ、深く礼をする。
感謝の仕方が礼だけってのが情けないけど、これが精一杯の感謝だ。
少ししてから、草を踏みしめる音が聞こえた。
下を見つめる視界にも、長く伸びた影が見える。
从 ゚∀从「……頭上げろよ」
(#゚;;-゚) 「……はい」
言われ、上げた私の頭に、ハインさんが手を乗せる。
从 ゚∀从「言っただろ? 俺はただ、真似してるだけ。
それより怪我してるみたいだし、とりあえず城行こうぜ?」
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:08:03.34 ID:IpG2Im2OO
(#゚;;-゚) 「え……お城、ですか……?」
从 ゚∀从「なんだ、嫌なのか?」
(;#゚;;-゚) 「いえ、嫌というか……私みたいなのが入っても……」
私がそう言うと、ハインさんは乗せたままの手を動かし、私の頭をぐらんぐらん揺らした。
从 ゚∀从「お前なー……副長補佐舐めんじゃねぇよ。
こう見えて結構偉いんだぞ?」
(;#゚;;-゚) 「そ、そうなんですか……」
从 ゚∀从「それに身体も汚れてるみたいだしな。城行こうぜ」
(;#゚;;-゚) 「そ、それじゃぁお言葉に甘えさせて頂きます……」
从 ゚∀从「かってぇなぁ、お前は」
今度は私の髪をぐしゃぐしゃっと乱暴に撫で、笑いながらハインさんは歩き出した。
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:10:04.86 ID:IpG2Im2OO
私は揺れる視界が元に戻るのを待って、お墓の前に立つ。
目を閉じると、お母さんの笑顔がすぐに浮かんできた。
(# ;;- ) 「……お母さん、また来るからね?
今度はお花、持ってくるから」
「おーい、追いてくぞー?」
(#゚;;-゚) 「あ、すみません。今行きます!」
シャベルを拾い、私は駆け足でハインさんを追った。
……さよなら、お母さん。
お父さんに、私を守ってくれて、ありがとうって言っておいてね。
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:10:47.29 ID:kVTd3MreO
65 :
◆OTZxCCpfj. :2007/09/30(日) 02:14:06.25 ID:IpG2Im2OO
本日はここまでです
一応酉出しておきますが、完結まで安心できない酉でごめんなさい……
ただ短篇にしたかったのであと2、3回で終わらせる『予定』です
地の文多いので次回がいつになるか分かりませんが、気長にお待ち下さい
それでは、絵、支援、ありがとうございました。乙
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:15:29.83 ID:WchR2aRzO
乙
>>66 >◆指定されたページは存在しないか、携帯端末以外からのアクセスは許可されていません
>※アクセス許可はこのページを作成された方のみ設定できます
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:16:55.20 ID:WchR2aRzO
連続書き込みですまんが
>>1乙!!
次回も楽しみに待ちます!
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/30(日) 02:18:30.74 ID:kVTd3MreO
乙
次回も楽しみにしてます
解除しました
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
でぃって久し振りに聞いた