1 :
1:
2 :
1:2007/09/29(土) 23:24:25.94 ID:nLQ3MCln0
六
しぃと一緒に暮らしはじめて、一カ月が過ぎた。
その間のほとんどを勉強の時間に当て、何とか今までの遅れを取り戻すことに専念した。
しぃの飲み込みが早いことも手伝って、一学期分の学習予定は消化することが出来た(家庭科はほとんど進歩が見られなかったけど)
8月の頭、学生たちにとって長い夏休みの真っ最中である。
その、学生たちにとって長い楽園の期間に、ようやく俺たちは動き出した。
二学期の始まる9月までは、勉強もひとまずお休みしていい。
それまでの約一カ月の期間を、俺たちはしぃの身に起こった不可思議な出来事の解明に当てることにした。
3 :
1:2007/09/29(土) 23:26:55.88 ID:nLQ3MCln0
('A`)「おかしくなったのは春休みを過ぎてからなんだよね?」
腕を組ながら、しぃから聞いた話を整理する。
(*゚ー゚)「はい……それ以前は特にこれといっておかしなことはなかったんですけど……。
でも、私が気付いてなかっただけかも知れませんし……」
('A`)「う〜ん……でも、話を聞いてると、どうも春休みに何かが起きたって可能性が高いような気がするんだ。
とりあえず、君の春休みの行動を検証していくことから始めようよ。
それで駄目だったら、また二人で考えればいいし」
そう、とりあえず、順番に塗りつぶして行くことが重要なのだ。
漏れがないように、しっかりと。
もしそれで駄目なら、他の場所を塗りつぶしていけばいい。
そうしていけば、いずれ目的の場所に行き当たる筈だ。
('A`)「じゃあ、早速だけど、春休みに君のとった行動を、出来るだけ細かくここに書き出してくれるかな」
そう言って、一冊の真っ新なノートをしぃに手渡した。
('A`)「少し空白を空けながら書いてね。
後で思い出したりだとか、いろいろ思いついたことなんかも書き足すつもりだから」
(*゚ー゚)「うーん……わかりました」
ノートを手に、しぃが神妙な顔で頷いた。
きたー
5 :
1:2007/09/29(土) 23:29:36.04 ID:nLQ3MCln0
※ ※ ※
次の日、俺の横では、なぜか興奮状態のしぃが腕を突き上げながら、パイプ椅子に座っていた。
(*゚ー゚)「チケット手に入ってよかったですね。いけーっ! ファイティングエンジェルー!
デスクラッシャーボムで止めだーっ!」
(;'A`)「……エンジェルなのにデスクラッシャーってどうかと思うよ」
(*゚ー゚)「何か言いましたか? ああっ! つかまっちゃダメ!
そこでファニーコングの後ろにまわりこんで、必殺のデーモンクロスアタックだーっ!」
(;'A`)「………」
とりあえず、プロレスの技のネーミングはかなりいいかげんなものだということだけは理解出来た。
6 :
1:2007/09/29(土) 23:34:37.71 ID:nLQ3MCln0
俺たちは今、隣町にある、県営の大きな体育館に来ていた。
その体育館の中央にはリングが組まれ、その上で、背中に大きな天使の羽の入れ墨をした小柄な覆面レスラーが、
どこか愛嬌のある顔のごつい大柄のレスラーと必死に闘っていた。
俺たちがこうしてプロレスを観戦しているのは、何も享楽のためではない。
しぃが書き出した春休みの行動の初日に当たる日に、プロレス観戦があったからだ。
( ФωФ)「うおおおおおおお!!!!」
ファイティングエンジェルは腰を折って、ファニーコングを持ち上げる。
(*゚ー゚)「この構えは――! ドクオさん、準備!」
(;'A`)「え? 何?」
7 :
1:2007/09/29(土) 23:38:00.87 ID:nLQ3MCln0
(*゚ー゚)「「デスクラッシャーボム!」」
しぃを含めた観客が声をそろえて叫んだ。
ファイティングエンジェルは、マスクから僅かに覗く口元に笑みを浮かべて観客の歓声に応えると、
気合の入った叫びとともにファニーコングの巨体をマットに沈めた。
すかさず、レフリーがフォールのカウントをとる。
「ワン!……ツー!…………スリー!」
カンカンカンカンと、試合終了のゴングが鳴り響く。
歓声と拍手が、二人のレスラーに向かって惜しみ無く贈られる。
(*゚ー゚)「うぅ……い、いいぞー! ファニーコングもよく闘った!
う……うぅ……ふ、二人とも最高だー!」
しぃは涙を流しながら、心からの賛辞を、リングの上で互いの健闘をたたえ抱き合う二人に贈った。
惜しむらくは、その声が二人には絶対に届かないことだが、割れんばかりのこの歓声の中ではどちらにしても同じことだっただろう。
(;'A`)「うーん……やっぱり、変わってるなぁ……」
その歓声に紛れて、本音をぽつりと呟いた。
8 :
1:2007/09/29(土) 23:41:25.47 ID:nLQ3MCln0
――…
―…
(*゚ー゚)「ドクオさん、どうでしたか?」
プロレス観戦の帰路、自転車の後ろから、弾んだ声でしぃが聞いてきた。
('A`)「どうって……うーん、まあ、少しは良さが分かったような気はするけど……」
たしかに、あの真剣勝負には人を魅了する力があると思う。
だからといって、これからもプロレス観戦を続けるかと問われれば、残念ながら答えはノーだ。
たしかに、その魅力は実感出来たが、しぃほどの感動は俺にはなかった。
('A`)「ところで、何か成果はあった?」
(*゚ー゚)「え?」
9 :
1:2007/09/29(土) 23:43:09.84 ID:nLQ3MCln0
('A`)「え〜と……今日の目的を答えなさい」
(*゚ー゚)「プロレス観戦です!」
しぃが自信をもって答える。
('A`)「ブッブー。違います。
あと5秒以内に答えられなかったら、今日のおやつは抜きです」
(*゚ー゚)「ファイティングエンジェルの勇姿を目に焼き付けることです!」
('A`)「ブッブー。はい、今日のおやつは無し」
すぐさま後ろから、しぃが抗議の声を上げる。
(*゚ー゚)「ひどいです。ドクオさんは鬼です。悪魔です。でいたらぼっちです」
なんだか、最後のはちょっと微妙だ。
(*゚ー゚)「そんな非道は神が許しても、この私が許しません!」
しぃはそう言うと、後ろから、チョークスリーパーをきめてきた。
10 :
1:2007/09/29(土) 23:44:53.44 ID:nLQ3MCln0
(;'A`)「ぐぇ! ちょ、自転車乗ってるんだぞ!」
(*゚ー゚)「じゃあ、おやつくれますか?」
('A`)「やだ。今回は君が悪いがぁほんぎでじめるな――」
しぃの腕が喉に食い込んできて、息が出来なくなった。
当然ながら、そんな状態で自転車などこぎ続けられるはずもなく――こけた。
(*゚ー゚)「いったーっ! もう、ドクオさん!
しっかり運転……って、ドクオさん、しっかりしてください!」
俺は咳き込みながらも何とか起き上がると、じっとりとしぃを睨みつけた。
(#'A`)「もう一度聞くけど、今日の目的は?」
(*;゚ー゚)「えっと……プロレス観戦?」
俺は盛大なため息を吐きだした。
('A`)「あのね、それは目的を達成するための手段。
手段がいつの間にか目的にすり替わってるみたいだけどさ。
あくまで、目的は君がそうなった原因を探すこと、だったよね?」
睨みを利かせながらそう言うと、しぃが「あっ」と声を上げた。
どうやら本気で忘れていたらしい。
11 :
1:2007/09/29(土) 23:47:56.23 ID:nLQ3MCln0
('A`)「で、どうだったの?」
俺の問いに答えようと、しぃが頭をひねりながら、必死に考える。
そして――
(*゚ー゚)「……楽しかったです」
小さな声でそう一言呟いた。
('A`)「……おやつ抜きね」
(*゚ー゚)「そ、そんな……うぅ……」
しぃが縋るような目で俺を見てきた。
だが、俺はそれを鋭い眼光で一蹴すると、倒れた自転車を起こしまたがった。
(*゚ー゚)「うぅ……」
しぃがまるで地球の終わりでも迎えるような顔で俺の後ろに座る。
(*゚ー゚)「おやつ……」
('A`)「当初の目的を忘れたあげく、逆切れして自転車を運転中の人の首を締めて
危うく大怪我させるところだったにもかかわらず、それでも何か言いたいことがあるなら聞くけど?」
しばらくの沈黙の後、 「……ありません」 というしぃの弱々しい声が後ろから響いた。
12 :
1:2007/09/29(土) 23:50:39.93 ID:nLQ3MCln0
今日はこれで終わりです。
投下量が少ないですが、私は謝らな(ry
第七話の量にご期待ください……ではでは!
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:
乙!