('A`)ドクオが透明少女と出会うようです

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2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 20:50:55.45 ID:wX52sNWd0
>>1
ニャー速でやれ

∧_∧
≡ΦωΦ≡ http://tmp6.2ch.net/cat/
 ̄@
3:2007/09/26(水) 20:53:18.94 ID:NqhDjqmK0




翌日、僕達はしぃの自宅を訪れた。
教科書などを取りに行くためだ。

俺としては、そんな物は新たに買えばいいから気にするなと言ったのだが、
しぃの方が勿体ないから、と頑として折れず、仕方なく彼女を後ろに乗せて自転車でここまできたという次第である。

それほど大きくないごく普通の2階建の住宅。
怪しまれないように、その家の門から少しはなれたところに自転車を停める。

('A`)「本当に大丈夫?」

(*゚ー゚)「はい。この時間だとお母さんしかいないはずですし、部屋に直行して、
     荷物をまとめたらすぐに出てきますから大丈夫です」

しぃは笑顔でそう言ったが、その笑顔が無理して作られた物であることは明らかだった。

('A`)「わかった。じゃあ、待ってるから」

本当は引き留めたかったが、ここまで来たら彼女も引けないだろう。
4:2007/09/26(水) 20:56:36.70 ID:NqhDjqmK0

(*゚ー゚)「じゃあ、行って来ます」

意を決したしぃが玄関の前まで進み、ドアを開けようとしたところで、想定外の出来事が起こった。

(*;゚ー゚)「!?」

ドアが内側から開いたのだ。
しぃがあわてて後ろに下がると、中から、派手なヒョウ柄のジャージに身を包んだ三十半ばほどの美しい顔をした女性が出て来た。

从 ゚∀从「今日もいい天気だなっ、と」

(*゚ー゚)「あ……」

一目見ただけで、その女性がしぃの母親だと分かった。
それくらいに、しぃは母親似だった。

(*゚ー゚)「……おはよう」

从 ゚∀从「〜♪」

しぃが母親に話しかける。
だが、母親はそれが全く聞こえていないかのように無反応だ。
5:2007/09/26(水) 20:58:15.36 ID:NqhDjqmK0

母親は、しぃの存在を無視したまま、ドアの横にある郵便受けから新聞を取り出すと、
バタンと扉を閉め家の中に消えてしまった。

(* ー )「ぁ……」

しばらくして、しぃが崩れ落ちるようにその場にしゃがみこんだ。
俺は急いでしぃに駆け寄ると、その華奢な体を抱き締めた。

('A`)「大丈夫、俺は見えてるから」

(*;ー;)「…………」

しぃは答えず、ただ俺の胸に顔をうずめて静かに嗚咽を漏らしながら泣いた。
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:00:10.81 ID:jZD/tzsPO
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7:2007/09/26(水) 21:00:59.82 ID:NqhDjqmK0

――…


その後、しばらくしてしぃが泣き止むと、僕俺はしぃを連れて家に帰ることを選択した。
その決定をしぃに告げる。

(*゚ー゚)「あの、大丈夫ですから。……だから」

('A`)「大丈夫じゃない。無理はしちゃ駄目だ。
    ここは嫌でも俺の言うことを聞いてもらうからね」

しぃの腕を引き、立ち上がらせた。
そして、自転車に戻ろうとしたところで、再びドアが開いた。

从 ゚∀从「あら、何か用かしら?」

外から声がするので覗いて見たのだろう。
しぃの母親は、若干胡乱げな視線を俺に向けていた。
8:2007/09/26(水) 21:03:10.99 ID:NqhDjqmK0

(*゚ー゚)「……」

しぃがぎゅっと俺の腕を痛いくらいに掴む。
その腕に、空いている方の腕を優しく乗せてやる。

もちろん、しぃの母親には娘の姿は見えて無いので、奇怪な動きをする青年としか映らないだろうけど、仕方が無い。

从 ゚∀从「うちに何か御用?」

俺は震えるしぃの手を優しく摩ると、意を決し、口を開いた。

('A`)「突然の訪問、お許しください」

(*゚ー゚)「……え?」

しぃが驚いて顔を上げる。
俺は彼女に笑みを見せると、しぃの母親に向かって話しかけた。

('A`)「実は、僕、少し特別な力があって――」

从;゚∀从「……はぁ」

しぃの母親の目が変わった。
僕をそういう人間だと判断したようだ。
すぐさま俺の言葉に割って入るように口を開く。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:05:07.17 ID:7dM9ZP7X0
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10:2007/09/26(水) 21:06:29.90 ID:NqhDjqmK0

从;゚∀从「申し訳ありませんが、うちはそう言うのは――」

だが、そう言われることくらい想定済みだ。
断りの言葉を最後まで言わせず、俺は畳み掛けるように言葉を続ける。

('A`)「宗教の勧誘とか、何か買ってほしいとかじゃ無いんです。
    ただ、見えちゃったものですから、このまま通り過ぎるのもどうかな、と思いまして」

しぃの母親の疑惑の目に揺らぎが走る。

('A`)「でも、突然こんなこと言われても絶対信じてもらえないだろうから、どうしようか迷っていたんです。
    あの、せっかくこうして出て来ていただいたのですから、お話だけさせていただく訳にはいきませんでしょうか?」

出来るだけ丁寧に、そして、あくまで決定権が向こうにあるように。

('A`)「もちろん、信じていただかなくても結構なのでお話だけでも聞いてください。
    お願いします」

深々と頭を下げる。

从;゚∀从「やだ、頭を上げてください。お話くらい聞きますから」

落ちた。
後は、うまく話を進めれば、契約は取ったもどうぜ――って、いやいや、待て待て俺。
そうじゃないだろう。なんだか、自分の意外な才能を見てしまった。

詐欺師になるつもりは毛頭ないが、駄目人間度はさらに上がった気がする。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:07:13.40 ID:dZ1QBeKNO
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12:2007/09/26(水) 21:08:48.06 ID:NqhDjqmK0

从 ゚∀从「こんなところでは何ですから、どうぞ上がってください」

見ず知らずの若い男をこうも簡単に家に上げるとは、少しばかり警戒心が薄いのではないだろうか。
ともかく、しぃがこの状態では家に上がる訳にもいかないだろう。

('A`)「いえ、すぐに話は済みますので。
    では、早速本題に入りますけど、最近何かを無くしたようなことはありませんか?」

从 ゚∀从「何かを無くした? うーん……」

しぃの母が首を捻りながら考える。
こういう仕草をされると、ほんとにしぃにそっくりだと思う。

从 ゚∀从「とくに……思い当たるようなものはありません。けど……」

しぃの母親が言い淀む。何か言おうかと迷っている様子だ。

('A`)「何か大切な物を無くされているはずなんですが、思い出せませんか?」

思い当たるものは無いか、とは問わない。
確実に彼女は大切な物を無くしているのだから。
それがこんなに近くにあるというのに、気付けないでいる。

从 ゚∀从「そう言われると、最近、何かが抜け落ちてしまったような気がしてるんです。
     それが何かを考えても、ちっとも分からなくて……お分かりになります?」
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:09:27.88 ID:dZ1QBeKNO
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14:2007/09/26(水) 21:10:40.63 ID:NqhDjqmK0

当たり、だ。
いくら存在を忘れてしまったとしても、喪失感は残る。
原因は分からないが、皆、しぃに関する記憶のピースが抜け落ちた状態になっているのだ。

他人であれば、その抜け落ちた穴は小さくて気付きもしないかもしれない。

だが、彼女は違う。
しぃが生まれてからずっと一緒に暮らしてきたのだ。

彼女から抜け落ちたしぃに関する記憶のかけらは、とても大きな穴を残しているはずなのだ。
その穴が埋められていないなら、当然ながら違和感を、そして大きな喪失感を感じているはずなのだ。

('A`)「やっぱり。……でも、申し訳ないんですが、僕には無くした物が何であるかまでは分かりません。
    ただ、無くした事実しか見えないものですから」

从 ゚∀从「そうなんですか……」

しぃの母親が僅かに落胆の色を見せる。

('A`)「ただ――」

从 ゚∀从「ただ?」

しぃの母は真剣な瞳でこちらを見ている。
もし、今ここで、怪しげな壷を売り付けたとしても、彼女は喜んで買うに違い無い。

もちろん、そんなことはしないけど。
15:2007/09/26(水) 21:12:28.25 ID:NqhDjqmK0

('A`)「失せ物によく効くおまじないを知っているんです。
    それをあなたにお教えしますので、毎日一回は唱えるようにしてください」

从 ゚∀从「そんなので……本当に見つかるんでしょうか?」

心配そうに問うしぃの母親に、にっこりとほほ笑みながら俺は言った。

('A`)「シィ、アイシテル。
    これがおまじないの言葉です。騙されたと思って言ってみてくれませんか?」

しぃの母は神妙な顔で、その言葉を口にした。


从 ゚∀从「シィ、アイシテル」


言い終わると同時に、しぃの母の顔が穏やかに笑んだ。

16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:12:48.57 ID:dZ1QBeKNO
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17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:12:58.50 ID:VtVaoDfKO
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18:2007/09/26(水) 21:13:50.67 ID:NqhDjqmK0

从 ゚∀从「なんだか、不思議だわ。……とっても落ち着く。
     ねえ、これを毎日唱えてれば、いつか無くしたものが見つかるかしら?」

('A`)「ええ、きっと……。時間はかかるかも知れませんが、きっと思い出せます。
    あなたがそれを思い出せば、すぐに大事なものは戻ってきますから」

从 ゚∀从「そう、ふふっ。シィ、アイシテル……。
     なんだか気に入っちゃったわ」

('A`)「それは良かったです。それじゃあ、用も済んだので、俺は失礼しますね」

俺は泣いているしぃを立ち上がらせると、しぃの母親に一礼して、踵を返した。

从 ゚∀从「あ、待って。何かお礼をしたいのだけど」

俺は振り返ると、笑顔でそれを固辞した。

('A`)「お礼はいりません。でも、そうですね。ひとつお願いがあります」

从 ゚∀从「?」
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:14:53.03 ID:7dM9ZP7X0
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20:2007/09/26(水) 21:15:15.78 ID:NqhDjqmK0

('A`)「おそらく、旦那さんも奥さんと同じような想いを抱いているはずです。
    そのおまじないを旦那さんにも教えてあげてくれませんか?」

从 ゚∀从「そんなことで?」

俺は笑顔で頷くと、再び頭を下げて、しぃの手を引きながら自転車まで歩いた。
自転車にまたがり、後ろにしぃを乗せると、しぃはしっかりと僕の胸に手を回し、しがみつくように抱き着いてきた。

スタンドを外し、ペダルをこごうと思ったところで、再びしぃの母親から声をかけられた。

从 ゚∀从「ねえ、最後にひとつ聞いてもいいかしら?」

('A`)「なんでしょう?」

从 ゚∀从「このおまじないの意味を教えてほしいの。
     シィってもしかして、人の名前なのかしら?」

俺はペダルに置いた足に力を込めながら、笑顔でしぃの母親に告げた。

('A`)「それも、大切なものが見つかった時に分かりますよ」
21:2007/09/26(水) 21:16:39.14 ID:NqhDjqmK0

しぃの母親の「ありがとう」という声を背に、俺は自転車をこぎ始めた。

(*゚ー゚)「ドクオさん」

('A`)「ん?」

(*゚ー゚)「ありがとう」

俺はその涙声に「どう致しまして」と答えると、さらにスピードを上げて自転車を走らせた。

背中が濡れているのが、しぃの涙か、俺の汗か分からないようにするために。

22:2007/09/26(水) 21:18:24.43 ID:NqhDjqmK0

しぃの家を出た後、俺たちは大きな書店に寄って、必要そうな教材を購入し、無いものは取り寄せを頼んだ。
その間、何度かしぃが「やっぱり家に取りに戻る」と言ったが、俺は取り合わなかった。

いずれ、恋しくなって家に戻りたくなることもあるかもしれないが、今はまだその時では無い。
それから近くのスーパーで、歯ブラシなどのこれから必要な小物をそろえた後、俺はしぃをとある場所に連れて行った。


  ※    ※    ※


(*゚ー゚) 「あの……本当に私はいいですから」

頻りに申し訳無さそうな顔でそう言い続けるしぃを無視して、俺はしぃの手を引いて店内を歩き回る。

('A`)「あ、これなんか似合いそうだけど、どう?」

浅葱色のワンピースを手にとってしぃの体に合わせてみる。
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:19:20.21 ID:jZD/tzsPO
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24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 21:19:32.89 ID:vJv6SMxUO
試演
25:2007/09/26(水) 21:19:57.45 ID:NqhDjqmK0

(*゚ー゚)「だから、私は……それに店員さんが……」

しぃの視線の先。
二十代後半らしき女性店員が、こちらに不審げな視線をおくっていた。

('A`)「気にしない、気にしない。
    たとえ相手が婦人服売り場で怪しげな独り言をつぶやきながらおかしな動きを見せる若い男だったとしても、
    いきなり追い出すようなまねはしないから安心して」

俺はそう言うと、先程のワンピースの代わりに黒のキャミソールをしぃに合わせてみる。

('A`)「お、何か予想以上に……仮にこれで寝込みを襲われたら、思わず身を委ねちゃうかもしれないよ」

(*゚ー゚)「何で私が襲う方なんですか!」

('A`)「襲わないの?」

(*゚ー゚)「襲いません! それに、こういう服は趣味じゃ無いです!」

('A`)「そう……それじゃさっきのワンピースは?」

(*゚ー゚)「あれは私もちょっと気に入りましたけど……じゃなくて!
     本当に私はいいですから!」

('A`)「ダーメ。買うのは既に決定時項だからあきらめなさい」
 
しぃの叫びを無視して先程の浅葱色のワンピースをカゴに入れる。
これで3着目だ。
26:2007/09/26(水) 21:21:26.06 ID:NqhDjqmK0

('A`)「まあ、服はこんなものか……あとは、何かない?」

俺がそう言うと、しぃはなんだかぐったりとした目で俺を睨んできた。

(*゚ー゚)「お願いですから、もうすこし周りを気にしてください。
     ドクオさんは恥ずかしくないんですか?」

('A`)「うん、全然」

(*゚ー゚)「うぅ……私はこんなに恥ずかしいのに……神様、お願いです。
     どうかこの人に人並みの羞恥心を与えて上げてください」

なんだか、神に願われてしまった。
実際には、恥ずかしさを感じていない訳ではないので、しぃの願いは無効だろうが。

顔には出さないが、いくら俺でも、さすがにこの状況は少しばかり恥ずかしい。
だが、それを顔に出せば、しぃに余計な気を使わせてしまうので表に出さないだけだ。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
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