涼宮ハルヒの<SOS団>の会

このエントリーをはてなブックマークに追加
1 ◆2hvhgO6UGM
<SOS団>の会員
涼宮ハルヒ……暗号専門家
キョン……画家
長門有希……有機化学者
朝比奈みくる……作家
古泉一樹……特許弁護士
鶴屋さん……数学者
新川……給仕

 本スレの登場人物はすべて架空の人物である。生死を問わず、万一実在の人物をいくらかでも彷彿とさせるものが
あったとすれば、それはまったくの偶然である。

1 会心の笑い

 <SOS団>のその夜のゲストは、森さんだった。彼らは毎月、邪魔の入らない静かな場所で例会を開いた。そして、何
はともあれ、月に一度のその夜だけはいかなる部外者の闖入も断じてこれを許さなかった。
 出席者の数は毎回変わった。その晩は5人だった。
 その夜のホスト(主人役)は古泉一樹であった。彼は長身で、静かな微笑み顔をした若い男だった。
 会食のはじめを飾る儀式張った乾杯の音頭を取るのはホストとしての彼の役目だった。嬉々として彼は声を張り上げ
た。「聖なる思い出のオールド・キング・コールのために。そのパイプの火の永遠に絶えざらんことを。そして、そのボー
ルの永遠に満たされてあらんことを。彼のヴァイオリン弾きたちの永遠に健勝たらんことを。そしてまた、彼がそうであっ
たように、われわれも残る生涯を快楽のうちに過ごし得んことを」
 彼らは銘々に「アーメン」を唱えてグラスに口を運び、着席した。古泉は彼のグラスを皿の脇に置いた。二杯目のグラ
スで、ちょうど半分まで空けられていた。食事中、彼は決してそのグラスに手を触れぬであろう。彼は特許弁護士で、そ
の仕事が要求する緻密さを、日常の生活にも持ち込んでいる。こうした席では酒は一杯半と、彼は自ら厳しく定めていた。
2純白のぶりーふ(正☆義) ◆.8/./.8F.s :2007/09/15(土) 19:40:16.77 ID:r+Zd4Bod0 BE:269175252-2BP(1002)
\               U         /
  \            ____      /
             /⌒  ⌒\
           /( ●)  (●)\       / _/\/\/\/|___
   \    ノ///::::::⌒(__人__)⌒:::::\ミヽ    /  \            /
    \ / く |     |r┬-|     |ゝ \    <2getはいつもやるお>
     / /⌒ \      `ー'´    / ⌒\ \ /            \
    (   ̄ ̄⌒            ⌒ ̄ _)  ̄|/\/\/\/\/ ̄
      ` ̄ ̄`ヽ            /´ ̄    
           |             |  
  −−− ‐   ノ            |
          /             ノ
         /            ∠_
  −−   |    f\       ノ     ̄`丶.
        |    |  ヽ___ノー─-- 、_   )    − _
.        |  |             /  /
         | |           ,'  /
    /  /  ノ            |   ,'    \
      /   /              |  /      \
 /  _ノ /               ,ノ 〈           \
    (  〈               ヽ.__ \        \
     ヽ._>               \__)

3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 19:40:28.85 ID:gypoLhb/O
ゴメン>>1聞いてなかったもう一回言って
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 19:41:08.32 ID:l1TjmQ9K0
長門が化学者?

AV女優か肉便器の間違いだろ
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 19:41:52.24 ID:wChGBrIC0
中の人、カウント中。まで読んだ
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 19:46:03.47 ID:u6tYBvW9O
昨日のエリートの人か
7 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 19:54:55.69 ID:4NT80bXk0
 涼宮ハルヒは例によって最後の瞬間に階段を駆け上がって来るなり大声で言った。
「新川さん。死にかけている女にソーダ割りのスコッチをお願い」
 彼らの例会の給仕を務めてすでに何年にもなる新川(<SOS団>の誰一人として、彼の本名を知ってる者はいなかっ
た)はすっかり心得たもので、ソーダ割りのスコッチを用意して待っていた。すでに60代だったがその顔には皺一つな
く、まるで年齢を感じさせなかった。彼が口を開くと、その声はどこか遠くのほうへ吸い込まれて消えていくかのようであ
った。「さあ、どうぞ。涼宮さま」
 ハルヒはすぐに森さんに気づくと、そっと古泉に尋ねた。「古泉くんの客人?」「是非来たいといいますので」古泉は言っ
た。彼としては精いっぱい声を落として囁いたつもりだった。「面白い女性です。きっと気に入ると思います」
 <SOS団>の例会の常として会食の顔触れは名士済々であった。朝比奈みくるはその席で今一人の胸が豊かな女性
だった。彼女は文士村からやって来て、書き上げたばかりの小説のことを細々と話して聞かせた。静かな無表情を携
えた長門有希は、あまりかかわりのない他の作品の記憶を辿りながら茶々を入れていた。長門は有機化学者だった
けれども、三文小説に関しては百科事典のような知識を誇っていた。
 暗号の専門家ハルヒは、自分が政府の内幕に精通しているつもりでいた。そして、キョンの政治的な発言を目の仇
にしていた。「馬鹿なことは言わないことね」彼女にしては控え目な侮辱をこめてハルヒは叫んだ。「あんたは阿呆臭
いコラージュだの麻の叺の芸術とやらのことだけを考えていればいいのよ。天下国家のことはあんたなんぞよりはも
っと相応しい人間にまかせてなさい」
8 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 20:05:07.10 ID:4NT80bXk0
 ハルヒはその年のはじめに開かれたキョンの個展で受けたショックからまだ立ち直っていなかった。キョンはその点
を理解して屈託なく笑って言った。「俺よりも相応しい人間がいたらお目に掛かりたいな。たとえば?」
 メイド姿の森さんはゲストの立場をよくわきまえていた。彼女は彼らの話にじっと耳を傾け、誰に対してもにこやかに
笑いかけ、自分からほとんど何も話さずにいた。
 やがて、新川がコーヒーを注いで回り、各人の前にいかにも馴れた手つきでデザートの皿を並べた。これをきっかけ
に、当夜のゲストの尋問が開始される仕来りであった。
 最初の尋問者は、これも半ば習慣として涼宮ハルヒと定まっていた(彼女が出席していればである)。彼女は凛然と
した顔に皺を寄せ、何やら憮然とした表情で、それなしでははじまらない第一の質問を発した。「森さん。あなたは何を
もってご自身の存在を正当となさいますか?」
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 20:11:08.58 ID:u6tYBvW9O
支援
10 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 20:17:28.41 ID:4NT80bXk0
 森さんはにっこり笑った。非常に歯切れの良い口ぶりで彼女は答えた。「そのようなことは考えたことがありません。
わたしの依頼人たちは、わたしが彼らに満足を与えた場合に、わたしの存在を正当と認めるのです」
「依頼人?」
 朝比奈さんが言った。「お仕事は何をなさっておいでですか、森さん?」
「わたしは、私立探偵です」
「……そう」長門有希が言った。「この席に私立探偵が来るのはこれがはじめて。彼女の正確な資料を元に冒険活劇
を書くことを朝比奈みくるに推奨する」
「わたしのところには、そのような話はありません」森さんはすかさず言った。
 ハルヒは眉を顰めた。「諸君。ここは尋問者として任じられているあたしにまかせなさい。森さん、あなたは依頼人に
満足を与えた場合に、と言われましたが、あなたは常に依頼人を満足させるのですか?」
「時によっては、議論の余地なしとしない場合もままるのです」森さんは言った。「実を申しますと、わたしは今晩、特に
疑問を残したある事件についてお話ししようと思うのです。あるいは、そのことで皆さんのうちのどなたかにお知恵を拝
借できるかもしれないと思いまして。この集まりのことをつぶさに伺って、わたしは親友である古泉一樹に、是非ともこ
の例会に招んでくれとねだったようなわけなのです。彼はわたしの願いに応えてくれました。わたしは大変嬉しく思って
います」
「ではその、あなたが依頼人を満足させ得たか、あるいはさせ得なかったのか、疑問を残したという事件について話して
いただけますか?」
「ええ、お許しがあれば」
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 20:28:36.90 ID:U1geR9E9O
ほす
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 20:36:14.23 ID:u6tYBvW9O
ほし
13 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 20:39:19.32 ID:4NT80bXk0
 ハルヒは彼らをひとわたり見回して承諾を求めた。キョンは森さんに言った。「途中で質問を挟んでも構いませんか
?」彼はメニュー・カードの裏にさらさらと無駄のない筆遣いで森さんの似顔を描いていた。すでにずらりと壁を飾って
いるこれまでのゲストたちの似顔絵に加えられるはずのものであった。
「あまりかけはなれたご質問でなければ」森さんは言った。彼女はやおらコーヒーを啜って語りだした。「ここに、斉藤
という男がおりました。この席では、斉藤とだけ申し上げておきます。この男は大変なアクゥィジター(握り屋)でした」
「インクゥィジター(宗教裁判長)ですか?」キョンが眉を寄せて尋ねた。
「アクゥィジターです。何でも抱え込んでしまうのです。人から貰ったり、買ったり、拾って来たり、蒐集したり。彼にとっ
ては、世の中はたった一つの方向に流れているのです。すべてが彼に向かって動いている。決して彼から遠ざかる方
向には行かないのです。彼の家にはそうやって手に入れた品物があふれていました。高価なものもあれば、がらくたも
あります。が、とにかく一度彼の手に入ったものは、二度と再び他所へ渡るということがないのです。長い間には、それ
が積もり積もって大変な量になりました。その種々雑多なことといったらありません。彼には仕事の上のパートナーが
おりました。ここでは榊原とだけしておきましょう」
 ハルヒが顔を顰めて遮った。別に深い意味があったわけではない。彼女はいつも顔を顰めているのだ。「これは、実
際にあった話ですか?」
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/15(土) 20:49:48.26 ID:U1geR9E9O
15 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 20:56:26.40 ID:4NT80bXk0
 「わたしは実際のことしか話しません」森さんはゆっくり、そしてはっきりと答えた。「作り話をするだけの想像力は持
ち合わせておりませんので」
「他聞を憚ることですか?」
「誰のことか、わかるような話し方はいたさぬつもりではおりますが、もしそれがわかってしまったとしたら、他聞を憚り
ます」
「その仮定はわかります」ハルヒは言った。「しかし、これははっきりと申上げておきますが、この部屋の中で話された
ことは、壁の外へ一歩出たら、決して口外されることもないし、たとえわずかだとしても、それにかかわりのあるような
ことはありません。それは新川さんも心得ています」
 二人の女性のカップにコーヒーのお代わりを注いでいた新川は微かな笑みを浮かべてうなずいた。
 森さんもにっこり笑って先を続けた。「榊原もまた欠点を持っていました。彼は正直者だったのです。救いようもない
ほどの底無しの正直者でした。この性格は、もう早いうちから彼の全人格を決定していたに違いないと思われるほど、
彼の精神を厳として支配していました。」
「斉藤のような男にとっては、パートナーとして榊原という正直者がいることは何よりも好都合でした。と申しますのは、
彼らの仕事……これは敢えて詳しくお話しすることを控えますが、彼らの仕事は一般の人々との接触を必要としてい
たからなのです。これは斉藤の柄ではありませんでした。彼の貪欲な性格が邪魔になるのです。彼が何か一つ物を
手に入れると、そのたびに彼の顔には陰険な皺が一本増えました。ですから、その頃はもう、彼の顔はまるで蜘蛛の
巣そっくりで、蝿などはそれを見るとたちまち逃げだしてしまうほどでした。そんなわけで、人に会うのは真面目一途で
正直者の榊原の役でした。未亡人などはいそいそと虎の子を彼に預けます。孤児ですら、なけなしの小遣いを彼に渡
すほどでした。」
16 ◆2hvhgO6UGM :2007/09/15(土) 21:05:55.71 ID:4NT80bXk0
「一方、榊原もまた、斉藤を必要としていました。正直な男なのに、いえ、むしろあまりにも正直だったためにでしょうか、
榊原はまるで金を殖やす才覚というものがなかったのです。彼一人だったら、決してそんな心算はないのに、託された
財産をたちまち残らず失ってしまったでしょう。そうして、せめてもの償いに自らの命を絶つ羽目に追い込まれたことで
しょう。ところが、斉藤は金を太らせることを知っていました。肥料が薔薇を大きく咲かせるようにです。そんなわけで、
彼と榊原は実にうまい組合せで、仕事も大いに繁盛していました。」
「とはいえ、うまいことはそういつまでも続くものではありません。持ってうまれた性格は、放っておけばますます強く根
を張って、もっと極端なものになっていきます。榊原の誠実さは、それはもう大層なもので、斉藤はそのために、彼の
老獪さにもかかわらず、時として二進も三進も行かずに金銭的な損害を被ることになったりしました。同様に、斉藤の
強欲はまったく底知れぬものでして、そのために榊原は彼の潔癖な性分にもかかわらず、時として、いかがわしいや
り方に手を染めるようなことにもなりました。」
「斉藤は損をすることを嫌いましたし、榊原は自分の人格に傷が付くことを何よりも厭がりましたから、当然、二人の間
には冷い風が立ちはじめました。こうした状況では、斉藤のほうに分があるのは明らかです。彼は自分のやり方にこれ
と言って限界を意識していませんでしたけれども、榊原のほうは自分の倫理観に縛られていることを感じていましたか
ら。」
17 ◆2hvhgO6UGM
「斉藤はひそかに手を打ちました。やがてとうとう、気の毒に、正直者の榊原は共同経営者としての権利を、それはも
う、考えられる限りもっとも不利な条件で人手に渡さなくてはならない立場に追いつめられてしまったのです」
「斉藤の強欲は、言わば最高潮に達しました。彼は事業を一手に支配するようになったのです。彼は、毎月の仕事は
人手を雇ってまかせ、自分は利益をポケットに入れることだけを心配することにして、引退する決心でした。一方、榊
原は自分の正直だけを頼りに生きて行かなくてはならなくなりました。正直であることは、大変結構です。しかし、正直
を質に入れるわけには行きません」
「ここで皆さん、はじめてわたしが登場するのです……あ、新川さん、ありがとうございます」
 ブランデーのグラスが配られているところだった。
「森さんは、そもそもはじめからその二人をご存知ではなかったのですかぁ?」朝比奈さんが(朝比奈さんなりに)鋭く
い目をしばたたきながら尋ねた。
「まったく存じてませんでした」森さんはブランデーにそっと上唇を当てて静かに香を嗅ぎながら答えた。「もっとも、今
この部屋にいるうちの誰か一人は知っていたと思いますが。もう、ずいぶん前のことです」