1 :
閉鎖まであと 8日と 20時間:
代行です
2 :
閉鎖まであと 8日と 20時間:2007/01/15(月) 00:24:40.67 ID:FFI44Tug0
それはお疲れ様でした
3 :
1:2007/01/15(月) 00:25:24.48 ID:9lokgsbX0
「いつまで赤なんだよ!もう!」
のび太は苛立った様子で横断歩道の信号を睨んだ。
学校までの道のりの丁度中ほどにあるこの信号はいつだって中々青に変わらない。
右手には陸橋があるのだけれど、今から陸橋に向かっても結局時間を食うだけだったので
大人しく信号が変わるのを待った。
「ドラえもんが起こしてくれないから、また遅刻しちゃうじゃないか!」
のび太はそうやって毒づくが、実際は少し違う。
ドラえもんは何度も布団をはがして彼を起こそうとしたのだけれど、
のび太が頑として起きようとしなかったのだ。
あと5分、もう5分……というのび太の頼みに負けた格好である。
近頃ではのび太の親もドラえもんも、彼の悪癖に半ば呆れ気味だった。
「あの子の寝坊にも困ったものだけど……遅刻して、先生に怒られて。
そういう風に身をもって知れば、少しは経験になるでしょう」
「そ、そうですよね」
のび太が出て行った後の野比家の食卓で、のび太の母とドラえもんとの間で
そんな会話が交わされていることをのび太は知らない。
「おはようございます!」
「野比!今何時だと思ってるんだ!」
教室のドアを開けた瞬間、先生の雷が落ちた。のび太は慌てて教室の壁に設えられた時計に目をやる。
「え?く、9時10分ですか?」
馬鹿正直に答えるのび太の声に、教室のところどころから押し殺したような笑い声が漏れた。
え、どうして?と首をかしげながら教室を見渡したしたのび太の目に、スネオが口の形だけで
「バーカ」と言っているのが映った。
「……もういい、お前は廊下に立っとれ!」
戸惑うのび太の鼓膜を、先生の怒号が激しく揺らす。
あまりの大声にのび太がビクッとして振り返ると、真っ赤になってプルプルと震えている先生の顔があった。
どうやら何か間違ったことを言ったらしいと悟ったのび太は「は、はい!」と甲高い声で返事をすると、
ランドセルもそのままに廊下へ駆ける。
後ろ手にドアを閉めた瞬間、教室から大きな笑い声が起きた。
「ただいま……」
のび太が学校を終えて帰宅する頃には、もうとっぷりと日が暮れていた。
結局この日は遅刻をした罰として放課後に裏庭の掃除をさせられ、それが終わると
先生からの長い長い説教が待っていた。
「おかえり。今日は随分と遅かったじゃない。空き地で皆と遊んでいたの?」
机の上に力なくランドセルを置くのび太に声を掛けるドラえもん。
片手にドラ焼きをパクつきながらだらしなく寝そべって呑気な声を上げているその姿を見ると、
不意にのび太は怒りを覚えた。
「遊んでたんじゃないよ!この時間まで学校の掃除させられて、その上先生に説教までされたんだから!
もう、こっちの身にもなって欲しいよ!」
のび太は大振りなジェスチャーで自分の感情を伝えようとするのだけれど、
ドラえもんは相変わらず口をもぐもぐさせながらゲラゲラコミックをめくっている。
あまりのび太の話には興味がないといった素振りだった。
その姿を見て、のび太の内により大きな苛立ちが募る。
「大体ね!ドラえもんが朝、ちゃんと起こしてくれないからこんなことになったんじゃないか!
全く、何のために僕の家にいるんだよ!」
のび太は唾を飛ばしながら大声を上げた。
それでもドラえもんは漫画雑誌から目を上げようとしない。
ドラ焼きの最後の一口を洗面器ほどもある大きな口に放り込むと、
欠伸を堪えたような声でのび太の方に視線を投げた。
「起こしたじゃないの。
でも、君が布団の中で『あと5分、あと5分』って言うから、それで遅刻したんじゃないか。
僕のせいにしないでおくれよ」
鋭いところを突かれてのび太は一瞬口ごもる。
けれども、この時間まで学校に居残りを命じられた怒りの根は深い。
たじろぐ頭で、それでもどこか文句をつけられる理屈を探して、のび太は再び口を開いた。
「だ、だからってそんなの素直に聞かなくっていいんだよ!
君は僕を幸せにするために来たんだろう!?
学校に遅刻ばかりするようじゃ、立派な大人になんてなれっこないじゃないか!」
「だから僕は起こしてるじゃないの」
ドラえもんは面倒くさそうに呟くと、手に持っていた雑誌を本棚に押し込んだ。
「いいかい、のび太くん。
確かに僕は君を幸せにするために未来からやって来たよ。
でもね、それはあくまで手助けをするためだけなんだ。
極端な話、僕が君の代わりにテストを受けて100点取っても意味がないんだよ。
僕ができるのは道案内まで!その後に君がどうするかは、もう君次第なんだよ」
ようやくのび太を見据えて喋るドラえもんの声は、少し困ったような、それでいて真剣なような……
様々な感情の混じる複雑な色のそれだった。
もう、同じような説教を何度繰り返したのだろうか?
――そんな、疲れにも似た気持ちが根底にはあるらしい。
「そ、そんなこと言ったって、実際に僕は起きられないわけだし」
「じゃあ僕がビシバシお尻を叩いて、布団をひっぺがして、無理やり頭にタケコプター付けて
学校まで突き飛ばせばいいの?そんな風に学校に行って楽しいの?」
今度は、少し悲しげな色の声。
今朝はのび太の母にああいう風に言われたけれど、ドラえもんにしても色々思うところがあるのだろう。
あくまで対等な、友達のような関係でいたいからこそ、厳しくしない接し方もあるのかもしれない。
「……でも!僕だってもう遅刻はしたくないんだよ」
「だったら、もっと早く起きればいいじゃない」
「それができたらとっくにそうしてるよ!ねえ、ドラえも〜ん……」
急にのび太が猫なで声を出した。幾度となく繰り返したこのパターン。ドラえもんは心の底で溜め息をついた。
「道具は、出さないからね」
「ま、まだ何も言ってないじゃないか!」
「分かるよ、そのくらい!『朝寝坊しないような道具出してよ〜』って言おうとしたんでしょ!」
ピシャリと言い捨ててドラえもんは腕を組んだ。
のび太は一瞬たじろぐような様子を見せたが、すぐに相好を崩すとニヤニヤと笑いながらドラえもんに歩み寄る。
「分かってるんだったら出してよ〜、ど・う・ぐ!」
「ダメー!さっきも言ったでしょ!僕ができるのは道案内まで!起きるのはのび太くんの仕事なの!」
「なんだよ、ケチ!」
「ケチじゃない!あのねえ、のび太くん。朝自分で起きることくらい、今時の幼稚園生だってやってるよ?
それくらいのこと、自分ひとりでやれなくて、恥ずかしくないと思わないの?」
心底哀れむような調子でドラえもんはのび太に語りかけた。
小学五年生にもなる目の前の少年が
「朝起きれないから便利な道具を出してくれ」
と懇願するのだから、彼が苦慮するのも無理はない。
しかしのび太はそんな慮りを察する様子もなく平然と言葉を続ける。
「起きられないものはしょうがないじゃん。だいたい、学校が始まるのが早すぎるんだよ!
そうだ、じゃあ朝起きる道具はいらないからさ、代わりに学校が遅く始まるようになる道具出してよ!
これならいいでしょ、ねえドラえも〜ん」
「あきれた……」
ドラえもんは自分の肩にしがみつく少年の手をうっとうしそうに払うと、ふすまを開けてスタスタと階下に向かった。
台所の方から暖かなカレーの匂いがする。
先ほどドラ焼きを食べたばかりだというのに、ふと、腹の虫が鳴るのを感じた。
「ケチー!!」
その背後から、のび太の未練がましい叫び声が聞こえた。
「でもさあ、確かにのび太の言うことにも、一理あるよな」
翌日、裏山にはジャイアンとスネオ、それにのび太といういつもの見慣れた顔が揃っていた。
「この前パパから聞いたんだけど、人間の頭ってさ、起きて何時間かしないときちんと働かないらしいんだ」
雲ひとつない快晴だった。
この日の授業は午前で終わったので、昼食をとり終えた3人は誰ともなしにこの場所に集まった。
最初は千年杉に登ったりスネオのラジコンで遊んだりしていたのだけれど、この日珍しく学校に遅刻したジャイアンが
「今日先生からこっぴどく叱られてさあ……」
などと愚痴り始めたので、のび太が昨夜の考えを二人に披露したのである。
「学校って勉強するところなんでしょ?だったら、頭が働かないうちに学校に来る必要もないはずじゃない」
「そ、そうだよね!」
ペラペラと自分と同じような考えを喋るスネオの存在を心強く思ったのか、のび太も大きな声で賛意を示す。
ジャイアンもその脇でうんうん、と目を閉じて頷いていた。
「学校がいらないわけじゃないんだよなあ」
スネオは腰を下ろしながら呟いた。
それに併せてのび太、ジャイアンと続いて円を描くような格好で地べたに座る。
「セイドが僕たちに合ってないんだよ、結局」
のび太の頭の中でスネオの発したセイド、という言葉が「制度」という漢字に繋がるまで少し時間が掛かった。
何となくその言葉の持つ意味を想像で補いながら、スネオの言葉に耳を傾けた。
「だって、今の学校の登校時間とか、勉強することなんて、全部大人が決めたことでしょ?
もちろん、勉強する内容は僕たちは決められないけど、せめて登校する時間くらいは僕たちに決めさせて欲しいよ」
「そうだ!その通りだ!」
不意にジャイアンが強い調子で喋った。
少しだけ怒ったような目をしている。今日先生から怒られたことが相当腹に据えかねているのかもしれない。
「そうだよ!大人は、仕事するだけだから朝から会社に行っても問題ないけど、僕らは勉強するんだよ?
たくさん頭を使うんじゃないか!それだったら、やっぱり朝はゆっくり寝なきゃ!」
やはり自分は間違ってなかったのだな、とのび太は思った。
学校は子供のためにあるのに、大人の都合で今の学校の仕組みがあるんだったら、そんなのやっぱり間違ってるんだ
――そんなことを考える。
「やっぱ、登校時間を変えさせよう!」
ジャイアンが拳を振り上げてシュプレヒコールを上げる。つられてのび太とスネオも「オー!」と声を上げた。
「でもさ……」
高く振り上げた拳は、行き場なく元の位置に戻される。一瞬の沈黙が3人を包んだあとに、のび太がぽつりと呟いた。
「でも、じゃあ、どうやって?」
「それは、お前……」
そこまで言ってジャイアンはもごもごと口をつぐんだ。
気持ちだけでは、どうにもならないこともある。
小学生3人にできること、考えられることは、あまりにも少ない。
「ねえ、大昔の日本に行った時も皆で話したけどさ……」
それまで黙って聞いていたスネオが再び喋り始めた。
この中で一番頭のいいスネオなので、皆で何かを考えたり話し合ったりする時は自然と会話のイニシアチブを取るようになるのだ。
「日本の土地とか、社会の仕組みとかさ。そういうのって、元から何もなかったわけじゃん。
なのに、大昔の祖先が生きていく中で勝手に決めたこととかが、今も僕たちの常識になってるわけだよね。
そんなのって、やっぱりおかしいよ。だって、今の僕たちには何の関係もないわけじゃん!」
「おお、そうだ!その通りだ!」
ジャイアンはまたもや腕組みをすると、感心した素振りを見せながらスネオに賛同した。
このコンビがいつも一緒にいるのは、やはり相性がいいからなのだろう。
「で、でもスネオ!」
「なんだよ、のび太」
「確かにそれはそうなんだけどさ、前も同じようなこと言って大昔の日本に行った時に、大変なことになったじゃないか!」
3人の脳裏にかつてのことが蘇る。白亜紀の日本にドラえもん、しずかちゃんを加えた5人で行ったあの時のことを。
「もう、雪山で遭難するのはこりごりだよ……」
「未来から来た、変なヤツと戦うのも嫌だぜ……」
ジャイアンとのび太の顔がみるみる曇っていく。
先ほどまで興奮しながら大きな声を出していたのに次の瞬間には落ち込んでいる。
感情の起伏が激しいのも、小学生ならではのことなのかもしれない。
「いや、何も大昔の日本に行くことはないさ。ドラえもんの道具があれば、色々できるんじゃないの?」
「おお、そうだ!ドラえもんの力さえ借りればなんだってできるぞ!おいのび太、すぐにドラえもんを呼べ!」
「いや、でも、それは……」
スネオとジャイアンの言葉に、のび太は昨夜のやり取りを思い出す。
『僕は、道案内しかしないよ』
あいつ、変なところで融通が利かないからなあ……
口の中でそう呟くと、のび太は目を伏せて地面を見つめた。
「なんだよのび太、乗り気じゃないっての!?」
「テメエ、俺たちに期待させといて、今更やめようったって……!」
「ち、違うよ!そうじゃなくって……」
二人の剣幕に負けたのび太は、しぶしぶと昨日ドラえもんが言ったことを喋り始めた。
・・・
「――と、いうことなんだよ」
「なんだか面倒くせえな、いいよ!俺がドラえもんぶっ飛ばして話つけてやるからさあ!」
のび太の話を聞き終えると、ジャイアンは腕を捲くって大股に裏山を下り始めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよジャイアン!」
「なんだよスネオ!お前も反対すんのか!?」
「違うよそうじゃなくて……ヘタにドラえもんの機嫌を損ねたらマズいってことだよ」
スネオはジャイアンの腕を掴んで必死に説得した。
確かにのび太にしても、力ずくでドラえもんを説き伏せることができるとは思えなかった。
彼の頑固さを考えれば――それは過去の経験からも確からしい。
「じゃあ、どうするっつーんだよ」
ジャイアンが憮然とした様子でスネオに向き直る。その言葉を聞いたスネオは、ニヤリと笑うと二人を近くに寄せてヒソヒソと喋り始めた。
「こういうのはどうだろう」
・・・
のび太が家に帰ると、ドラえもんがニコニコと機嫌よさそう顔で出かける準備をしていた。
のび太が帰ってきたことに気付くと、おかえり!と声をかけながら体に香水のようなものを振りまいた。
「嬉しそうだね、何かいいことでもあったの?」
「これからミイちゃんとデートなんだ!」
ミイちゃんというのはドラえもんのガールフレンドの一人(一匹?)だ。
ずんぐりむっくりな体型にも関らず、ドラえもんは意外とモテる。
面倒見のいい性格と、普通の猫にはない博識さが異性を惹きつけているのかもしれない。
「ああ、そうなんだ。楽しんできてね」
のび太が興味なさげにそんな声を掛けると、ドラえもんは相変わらずしまりのない笑顔を浮かべながらタケコプターを付けて飛び立った。
窓からその後ろ姿を眺めていると、澄み切った青空にドラえもんの真っ青な体がすいすいと溶け込んでいくようだった。
「無理に外に出かけさせる必要もなかったな」
のび太の背後にあるふすまがガラリと開き、ジャイアンとスネオがどすどすと大きな足音を立ててのび太の部屋に入ってくる。
声のした方に振り返ったのび太は二人と無言で目配せをすると、ドラえもんが寝床にしている押入れを開いた。
薄暗い押入れには布団が敷きっぱなしになっているが、じめじめとした様子などはなく清潔さが保たれている。
布団の足元には四次元くずかごがあるばかりで、たまにドラ焼きが隠されていることを除けば、
押入れの中には何も置かれていない。もちろんそれは「一見すれば」の話であるが。
「おい、どうだ?」
「たしか枕の下だったかな……あった!」
一人呟きながらドラえもんの枕の下をゴソゴソと漁っていたのび太は、目当ての『それ』を探り当てると
後ろでじっと見守っていた二人の方に向き直った。
「あったよ、スペアポケット」
「よし、よくやったぞのび太!」
ジャイアンが大きな手でのび太の肩を揺すし、のび太はえへへ、と照れくさそうに笑った。
しかしスネオだけは険しい表情を崩さない。
「安心するのはまだ早いよ。
もしかしたらドラえもんが急に帰ってくるかもしれないしね。
とりあえず、それを持ってもう一度裏山に集まろう!」
スネオが相変わらずのリーダーシップを発揮しながら二人に指示を出す。
ジャイアンとのび太もそのことに特に異論はないようで、コクリと頷くと一斉に駆け出した。
「あら、スネオさん、タケシさん、もうお帰りになるの?」
「まった来まあす!」
「すいませんおばさま、また来ます!あ、今日もお綺麗ですね!」
「あらやだスネオさんったら……」
スネオは走って玄関に向かいながらも、のび太の母に対するおべっかは忘れない。
このあたりは流石、と言うべきであろうか。
二人に少し遅れて、のび太がドタバタと階段から駆け下りてきた。
「あ、のびちゃん!宿題は終わったの?」
「今日はないよ!行ってきまーす!」
本当は今日もたっぷり宿題が出されていたが、今はそれどころではなかったのでとりあえずウソをついた。
ま、大事の前の小事ってヤツかな?と、のび太は今日学校で習ったばかりの言葉を頭に思い浮かべつつ
玄関を飛び出した。
「ねえ、スネオ!」
「なんだよ!」
「宿題が出されるのも、大人の勝手なツゴウだと思わない?」
のび太は走りながらスネオに声を掛けた。
スネオはしばらく何も言わず前を見据えたまま走り続けたが、しばらくするとのび太の方に顔を向け
「そうかもな!」と大きな声で言ってニッコリと笑った。
・・・
「とりあえず何を出そうか?」
裏山に着いた3人は、地面に置いたスペアポケットを取り囲むようにぐるりと輪を描いて立っていた。しばらく皆黙っていたが、
眉間に皺を寄せて考え込んでいたスネオが最初に声を上げた。
「違う星に行けばいいんだよ!」
「違う星?」
スネオの提案にのび太が頓狂な声を上げる。ジャイアンも「どういうことだ?」という風にスネオの顔を覗き込んだ。
「僕らも随分と色んなところを冒険したけど、やっぱり日本……
いや、そもそも地球であれこれするのって、無理だと思うんだ」
スネオの言葉にのび太は自分の記憶を紐解く。
確かに彼の言葉には一理あった。海底、地底、過去、雲の上――どんな場所に行っても、大抵示し合わせたように事件が起きたものだった。
「確かにそうかもな」
ジャイアンも同じようにかつての体験を思い起こしたのだろう、険しい顔でスネオの意見に賛同した。
黙って顔を見ながら二人の意見を確認すると、スネオは再び言葉を接いだ。
「もしもボックスを使うっていう手段も考えたよ。
『学校の始まる時間を遅くして下さい』って。
でもさ、そんなんだったらキリがないじゃん。さっきのび太も言ってたけど、宿題にしても何にしても
とにかく今の世の中には大人が勝手に決めた取り決めが多すぎるんだよ」
「それに、あんまり今の世の中を変えすぎちゃうと、タイムパトロールがやって来るしね」
「それもあるね。だから歴史は変えない方向で考えなきゃならない。
で、どうも地球上には僕たちが自由にできそうな土地もない。となると……」
「他の星に行って、自由に過ごすってわけか!」
結論の部分をジャイアンが大声で叫んだ。スネオは嬉しそうにうんうんと頷く。
「そうは言うけどさ……」
それでも、のび太は一人不安そうな声を上げた。
確かに様々な冒険を経験しているとはいえ、突然「他の惑星に行こう」と提案されては戸惑うばかりだろう。
「他の星に移住して、実際どうするってのさ?一生そこで暮らすわけ?僕、さすがにそんなのは嫌だよ!」
「馬鹿だなあ、何もそんなことをする必要はないんだよ。いいかい……」
スネオは手近にあった木の枝を拾い上げると、二人を近くに招いて地面に図を書きながら彼の抱いた着想を説明し始めた。
その内容は以下のようなものである。
まず、のび太・スネオ・ジャイアンの3人で手ごろな無人惑星に移動する。
そこでドラえもんの道具を使いながら、ある程度の生活基盤を築き上げる。
そうしてそれなりの環境が整ったら、クラスメイトや他の友達、最終的には学校全体の生徒を惑星に移住させる
……
「ぜ、全校生徒を移住させるだって!?」
「まあ、それはあくまで最終的な理想だけどね」
スネオは木の枝をポイ、と後ろでに放ると改めてのび太とジャイアンの顔を見渡した。
「いいかい、僕たちの目的は惑星に移住することじゃない。
あくまで『子供を無視した勝手な決まり』をどうにかすることなんだ。そこまではいいよね?」
「まあ、そうだな」
ジャイアンが相槌を打ち、のび太も頷く。
二人が自分の話に着いてきていることを確認して、スネオは更に話を続けた。
「でも、僕らは選挙に行けない。この前社会で勉強したろ?
国の仕組みを変えるには、選挙で自分と似たような考えを持っている人に投票するしかない、って」
「おうおう、やったやった。それか自分が国会選手になるかなんだよな!」
「国会議員だよ、ジャイアン。野球じゃないんだから……まあいいや。とにかく、僕らにはそのどちらも参加できないんだ」
「どうしてなんだよ!」
スネオの言葉にジャイアンが声を荒げる。あまりの剣幕にのび太とスネオは一瞬たじろいだ。
「ぼ、僕に言わないでよ!法律でそう決まってるんだから仕方ないじゃん。
だから僕はさっきのアイデアを出したんじゃないか。
いいかい、もし僕たちが今のままで『登校時間を変えろ!』って主張しでも、誰も取り合ってくれないよ。
所詮子供の言ってることだしね。一々聞いちゃいられないさ。でも僕たちは本気だ……
そのことを分かってもらわなくちゃいけない。
ところでのび太、サボタージュって言葉知ってるか?」
「し、知らないよそんな言葉」
「ま、そうだろうな。これはフランス語で『怠ける』って意味の言葉なんだけど……
ほら、僕らも『サボる』って言葉使うことあるじゃない」
「おう、それなら分かるぞ。俺もたまに家の手伝いをサボったりするしな」
「そうそう。でね、この言葉は本来、資本家……ああ、うん。
まあ偉い人たちに
『俺たちのこともちゃんと考えろよ!』
っていうのを主張するための行為を指してたんだ。
ほら、会社の人が皆休んじゃったら、社長は困るだろう?」
「そうだなあ、うちの店も母ちゃんがいなかったら閉めるしかないもんなあ」
「そこなんだよ!」
スネオはパンと両手を打つと、ここが話しの勘所、といった様子で大きく手を広げた。
のび太も押し黙ってスネオの話に耳を傾ける。
「だから僕たち生徒が学校からサボタージュしたら、どうなると思う?」
「そりゃ、学校を閉めるしかないだろうな」
「え?先生たちだけが来るんじゃないの?」
「バカだな、のび太。先生たちの仕事ってなんだ?」
「そりゃ、僕たちに勉強を教える……あ」
「そうなんだよ、僕たちが学校に行きさえしなければ、先生たちの仕事はなくなっちゃうんだよ!
そうなったら、僕たちの要求を呑むしかないんじゃないの?」
のび太はなるほどな、という風に頷いた。
確かにこの方法ならあるいは……僕らの主張も受け入れられるかもしれない。
むしろ、選挙にも参加できない以上、主張を通すにはこの方法を選ぶほかないようにも思えた。
「……でも本当に成功するのかよ、それ」
「さあ」
ジャイアンの問いかけに、スネオはあっさりと答えた。
熱弁をぶっていた割には随分といい加減な調子である。
「さあって、お前……」
「いいかい、ジャイアン。いきなり制度が変わるなんてのはやっぱり無理なんだよ。
世界的に見てもクーデターが成功した例っていうのはほとんどないんだ。
だから、もっと長いスパンで見ないといけない」
クーデター?のび太とジャイアンは新しく出てきた単語に頭の中で疑問符を浮かべたが
何となくは言葉の意味は理解できたので黙ってスネオの話の続きを待った。
「でもね、もしすぐに僕らの主張が通らなくても……僕らが実際に
『学校をサボタージュした』
っていう事実は残る。
そしてそれが僕らだけでなく、10人、50人、100人、そして全校生徒にまで数が増えれば……
ま、全校生徒とまでいかなくても、その半分もサボタージュすれば、相当大きな事件になるだろう。
そんでもって、それがテレビでニュースになれば全国の子供が僕たちの行動を知ることになる。
そうなったら大人は大パニックになるんじゃないの?」
「そうか!もしそれで他の子供たちも『僕たちもサボろうか』ってなったら!」
「そうなんだ!今回の狙いはそれなんだよ。
僕たちは選挙に行けないけれど、子供が、それも日本全国の子供が本気だって分かったら
大人だって黙って見ているわけにはいかないと思うんだよ」
「選挙に行けない代わりに、実力で大人を動かすってわけだな!スネオ、お前は天才だ!」
思わずのび太とジャイアンが拍手する。スネオははにかんだように笑うと、それほどでもないよ
とニヤニヤ笑いながら胸を張った。
「よし、その方向でいこう!」
「さんせーい!」
「じゃあ、まずは適当な無人惑星を探すか。
おいのび太、お前何かそういうのができる道具知らないの?」
「そうだなあ……」
のび太は腕組みしながら、これまでドラえもんに出してもらったあれこれの道具を思い出す。
宇宙救命ボート?いや、以前あれを使って有人の惑星に行ったことがあったな。
たずね人ステッキ?いやいや、人を探したいわけじゃない。
ええと……うんと……。
「そうだ!」
何かを閃いたのび太は足元に置いてあったスペアポケットを取り合げると、乱雑に手を突っ込んだ。
「お、おいのび太!あんまり乱暴に探るとドラえもんにバレるって!」
スネオは慌ててのび太をたしなめた。
スペアポケットは、四次元空間を通してドラえもんのポケットに繋がっている。
そのため、あまりポケットを乱雑に扱うとその感触がドラえもん本人に伝わってしまいかねないのだ。
「あ、そうだった。えへへ、ごめんごめん」
再び、静かな手つきでポケットを探るのび太。
しばらくゴソゴソとやっているうち、あった!と声を上げた。
「これで調べれば分かるはずだよ!」
「なんだい、それ?」
「宇宙完全大百科端末機、って道具なんだ。
この世のありとあらゆる情報が取り出せるんだよ。
ほら、一回ジャイアンズ対チラノルズの試合結果で揉めた時に証拠写真を出してくれたじゃない。
それがこの道具なんだよ」
「おお、あの時の!」
「よし、じゃあそれで調べてみてくれよ!」
「OK!」
のび太は端末に設えられたマイクを手に取ると、口を近づけて喋り始めた。
「無人の惑星を探して!」
のび太の声にゴトン、と機械が少し揺れたかと思うと、一瞬後に端末の後ろ側から検索結果を記した紙が出始めた。
「おお、出始めた……っておい、のび太!」
「ええ!?何これ、紙が止まんないよ!」
「当たり前だろ!この広い宇宙に、無人の惑星が一体どれだけあると思ってんだよバカ!」
「そ、そんなこと言われたって!」
端末から溢れてくる紙は止まるところをしらない。どんどんと伸びていき、ついには10mほどまでに伸びていた。
「ええい、もういい!僕に貸せ!」
スネオが声を荒げてマイクを引っ手繰ると、端末にある『検索中止』のボタンを乱暴に叩いた。
「少しは考えて検索しろよ!」
「だ、だってそんなにあるとは思わなくって……」
「もういい、黙って見てろ。あー、テステス。うん、大丈夫みたいだな。
それじゃ……『無人の惑星で、かつ地球と同じ大気の状態を備えた星、更に水や資源も豊富で
一年を通して温暖な惑星』を検索してちょうだい。
あ、『危険な生物はいない』ってのも付け加えてね」
スネオはスラスラと条件を読み上げた。
「さすがはスネオだな」
「最初からそうやって言ってくれればいいのに……」
スネオの指定が終わると、端末の画面には『OK』という文字が現れた。
しかし、しばらく待っても検索結果が排出される様子はない。
3人は固唾を飲んで見守ったが、どうにも紙が出てくる気配はなかった。
「やいのび太!お前のせいで紙がなくなったんじゃないのか!」
「し、知らないよ!僕のせいじゃないよ!」
「どう考えてもお前のせいだろうが!この野郎、ぶっ飛ばしてやる!」
「いや、ジャイアン。そうじゃない。ほら、コレ……」
拳を振り上げたジャイアンを制止すると、スネオは端末の画面をジャイアンとのび太に指し示した。
画面には『Now searching…』の文字が浮かんでいる。
「何だ?これは」
「インターネットとかで同じような英語を見たことあるけど、多分まだ検索中なんだろうね」
「で、でもさっきはあんなにすぐに紙が出てきたよ!」
「そりゃ、数が多かったからさ。逆にこんなに時間が掛かるってことは、僕の指定した条件に当てはまる星が
あまりにも少ないってことなんだよ。いや、もしかすると……」
「もしかすると?」
「この宇宙には存在しないのかも。地球ほど人が住むのに環境の整った星なんて
ほとんど奇跡みたいな確率でしか存在しないからね。
こりゃ検索条件を変えるしかないか……」
「そんなあ……」
のび太は力なく肩を落とした。ジャイアンも心なしか落胆したような表情を浮かべている。
スネオの横顔にも、それは少し。
「仕方ない、一旦検索を中止してもう一度条件を変えないと……」
「待て、スネオ!」
ジャイアンが言葉を遮った。それとほぼ同時に端末がガタン、と音を立てる。3
人が黙りこくって結果の排出される部分を見つめていると、ガガガ、と音を立てほんの10cmほどの
紙が出てきた。
「……出、た!」
頓狂な声を上げて、スネオは吐き出された紙を指差した。
「やった!やったぞスネオ!のび太!」
「イヤッホーー!」
3人は検索結果を見ることもなく声を上げて抱き合う。
これで、ようやく計画の第一歩が踏み出せる!
彼らの喜びは、存外に大きいものだった。
「おっと、喜ぶのはまだ早い。ちゃんと何て星か確認しないとね」
ひとしきり喜んだ後に冷静さを取り戻したスネオは、二人を落ち着けるように喋ると再び端末に取り組むと
後部から排出された紙を千切り取った。
もしかしたら『Not found』なんて書かれているかも……と少し憂慮したスネオであったが
心配とは裏腹にそこには一つの惑星の名前が記されていた。
『惑星ヒストリア』
「ヒストリア?聞いたこともないような星だね、それ」
「そりゃそうさ、この星は地球から何万光年も離れてるみたいだからね」
「コーネン?遠いのか、そりゃ」
「そりゃ遠いさ。光の速さでも何万年も掛かる距離にあるってことなんだから」
「新幹線でそんなに掛かるんだったら、確かに遠いよね」
「のび太、お前は本当に馬鹿だよな。
いいか、光ってのは新幹線の種類じゃなくって、太陽から出てる光
つまり分かりやすく言うと『1秒間に地球を7回半回る速さ』ってことなんだよ」
「地球を!?」
「7回半!!?」
のび太とジャイアンは同時に声を上げて驚いた。
ジャイアンものび太も、同じような説明は既にドラえもんに何度となく受けているにも関らずこの体たらくである。
スネオは少し参ったような表情を浮かべたけれど、この二人は興味のないことにはてんで
頭が働かないんだな、と思って納得することにした。
「とにかくそのくらい遠い星なんだ。今の地球の科学ではまだ確認できてなくても全然不思議じゃないってことさ」
「ふーん。でもまあ、関係ないかそんなこと!とにかく住めればいいんだしよ!」
「そうそう、住めば都、って言うしね!」
多少意味の合っていない慣用句を使うのび太のことは無視して、スネオは話を先に進めた。
「これだけ条件の整っている星だ、ドラえもんの道具は最小限のもので足りるだろうね。
あまり余計なものを持っていっても荷物になるだろうし、第一勘の鋭いドラえもんだ。
あれこれ道具を持っていくような行動は慎んだ方がいいと思うんだよ」
それはそうかもしれないな、とのび太は思った。
ドラえもんは妙なところで勘が鋭い。その代わり肝心なところで役に立たなかったりするのだけれど……。
のび太はそんなことを考えながら、じゃあ、どんな道具を持っていけばいいのだろうか?と考えた。
「どこでもドアは、必要だろうね」
「意義なーし」
「ちょ、ちょっと待ってよ!そんな大きな物持ってったらそれこそドラえもんにすぐ気付かれちゃうよ!」
ドラえもんはどこでもドアをタケコプターの次によく使う。
そんな物を持っていったら、たちまちのうちにドラえもんに気付かれてしまうに違いなかった。
「あのねえのび太。何もオリジナルの道具を持っていく必要はないんだよ」
「ど、どういうこと?」
「必要な道具は、フエルミラーで増やしてから持っていけばいいってことだよ!
もう、何で僕の方が詳しくなってんのよ」
スネオは苛立たしげにのび太を怒鳴った。
全く、どうしてこいつはこんなにもオツムの巡りが悪いのだろうか。
イライラしながら顔を上げると、のび太は「ああそうか」、とだらしなく笑いながら頭を掻いた。
「あ、でも……どこでもドアじゃ大きすぎてミラーに納まらないかも」
「スモールライト使えばいいでしょ!もう次、次!」
こいつに付き合っていると日が暮れても時間が足りない。
そう思ったスネオは独断で必要と思しき道具を次々とリストアップしていった。
のび太とジャイアンはその提案に特に反対することもなく頷いていた。
「全部でこんなもんかな」
「結構多いなあ。もう少し減らせるんじゃねえの?」
ジャイアンがリストアップされた道具の名前を見て、横から口を挟んだ。
「そうだよ、このカラオケキングとか、特にいらないんじゃないかな」
「何だとのび太!俺様の歌がない生活なんて考えられるか!カラオケは最優先だ!分かったか!」
「ま、まあまあジャイアン!
とにかく、そういう風にジャイアンの娯楽とか色々考えてリストアップしてるんだから
これだけ持っていけば間違いないんだよ。それでいいか?のび太」
語気荒くわめき散らすジャイアンをなだめながら、スネオはのび太の方を見た。
まあ実際に歌うことはないと思うし……とその目は訴えていた。
とにかくこれ以上暴れられても困るのでその場の議論はそれで終える。
それでもまだ疑問の残る道具がある。
「それは分かったけど……でもさあ、武器はいらないんじゃないの?
だって人のいないところだろ。ショックガンとか、ぶっそうじゃない」
「いや、万が一ってこともある。一応危険な生物のいない星を選んでもらったけど、
ほら、狂犬病の犬とか、暴れ牛とかいたら僕たちだけで対処できないだろう?」
なるほど、スネオはそのあたりのことも考慮して道具を選んでいたのか。
自分だけなら決して思い至らなかったことだな、と思いながら、のび太はスネオの機知に感謝した。
「で、ほんやくコンニャクはどうするんだよ?
まさか、食料代わりか?俺はコンニャクだけなんてまっぴらだぜ!」
「違うよジャイアン……僕らは何も知らない星に行くんだよ?
これを使って、その星の動物と色々話せたら情報も集められるし何かと便利じゃない。
もちろん非常食にするっていう手もあるけどね」
一通り道具を検討すると、3人は
「スネオの選んだ道具を持っていけば充分だろう」
という結論に達した。それでも随分な数である。
「じゃ、とりあえずスペアポケットから道具出して、フエルミラーでコピーしようか!」
「OK、僕がどんどん出すから、二人はそっちでコピーしておいてよ」
「任されよーう!」
「のび太、くれぐれも慎重に、ドラえもんに気付かれないようにやれよ!」
「分かってるって!」
こうして、ドラえもんには秘密裏に3人の計画は動き始めた。
「バカ、のび太!どこでもドアだけ出してどーすんだよ!
スモールライトとビッグライトも一緒に出せよ!」
「ああ、ごめんごめん!」
「ちょっとジャイアン、タケコプターは余裕もって4つくらい作っといた方がいいんでないの?」
「おお、そうだな。悪い悪い、ガハハハハ!」
20分、30分と作業を続けていく内に、次第に道具の山が出来始めていった。
ふと耳をそばだてると、遠くの空からはカラスの鳴き声が聞こえる。
いつの間にか辺りを夕景が包んでいた。
「のび太、あと幾つだ?早くしないとドラえもんにバレちゃうぞ!」
「待って!あと一つだから……はい、これ!」
そして最後の道具『ほんやくコンニャク』をジャイアンに手渡すと
素早く4つのコンニャクがコピーされた。
「結構な数になったなあ」
人数分をまかなうために一種類の道具を何個かコピーしたものもあるため
作業が終わって見直してみるとボリュームは相当なものになっていた。
「なあ……コピーしたのはいいけど、どうするんだ?これ」
「うーん……ま、僕が何とかしておくよ。とりあえず、だ。
のび太は先に帰った方がいいね」
「え?どうして?」
「見ろよ」
そう言って、スネオは空を仰ぎ見た。
木々の隙間からは真っ赤に染まった空がところどころ顔を出している。
「もうすっかり夕暮れだぜ。
いい加減スペアポケットを元のところに戻しておかないと……」
「あ、そうか……じゃ、悪いけど先に帰るよ!また明日学校で!」
のび太は少し慌てたような口調で二人にそう告げると、駆け足で裏山から下りていった。
「ふー……じゃ、とりあえず道具を人目に付かないところに隠すから
ジャイアンちょっと手伝ってもらっていいかな?」
「任されよーう」
真っ赤に色づいた夕日が、西の空にゆっくりとその姿を隠そうとしていた。
「ただいまー!」
勢いよく玄関を開けると、乱雑に靴を脱ぎ散らかして一目散に部屋へと向かった。
ドタバタと廊下を駆け、階段を走りあがる。のび太は背中に
「廊下を走るんじゃありません!」
という母親の怒鳴り声を聞いたが、今は構っていられない。
「ただいま!」
部屋にドラえもんはいなかった。どうやらギリギリで間に合ったらしい。
のび太は安堵の溜め息をつくと、ドラえもんの寝室に向かった。
「ええと、枕の下に……と」
カラカラカラ。その時、背後で部屋の窓の開く音が聞こえた。
タケコプターを外す音も、一緒に。のび太の背中に、冷たい汗が流れる。
「ただいま。……ん?何やってんの、のび太くん」
ドラえもんが家に入ると、何やらのび太が自分の寝室をいじっているのが見えた。
心なしかドラえもんの目には、のび太の背中がギクリと反応したように映った。
(なんだ……?)
訝しがる気持ちを抑えながら、ドラえもんはのび太の背中に近づいていく。
「やあドラえもん、遅かったじゃないの」
振り返ったのび太は、にこにこと穏やかな笑顔を浮かべてドラえもんに言葉を返した。
「うん、それで君はそこで何をしてるのさ?」
「僕?ああ、今日は天気が良かったろ?だから、僕の枕と君の枕を天井のところで干してたんだよ。
たまには干さないと、ダニがわいちゃうしね」
「へえ、君にしては気が利くじゃないか。どうもありがとう」
のび太はへへへ、と笑うと、後ろ手に襖を閉めた。
その顔をよく見るとしかし、笑顔はどうも引きつっているように思える。
ドラえもんは「なんか不自然だな」と直感的に思った。
「ねえキミ……」
「のびちゃーん、ドラちゃーん、ご飯よー!」
丁度その時、階下からのび太の母親が晩御飯を呼びかける声が聞こえた。
はーい、のび太は返事をすると一目散にキッチンへと向かった。
ドラえもんは未だ釈然としない気持ちを覚えながらも、自分の腹が随分減っていることに気付いたので
「ま、いいか」と呟きながら階段を降りていった。
「おはよー!」
「お、のび太!今日は早いじゃん」
級友の言葉にまあね、と軽い調子で返すと、のび太は教室を見渡しジャイアンとスネオを探す。
実のところ計画のことをあれこれ考えると、いても立ってもいられなくて早起きしてしまったのだ。
のび太の母もドラえもんも、普段はギリギリまで起きてこないのび太が余裕を持って起床したのを見て、随分と驚いていた。
「おいのび太、こっちこっち、来いよ!」
見ると、スネオとジャイアンもすでに教室に来ていた。3人は顔を見合わせると、へへへ、と笑った。
どうやら、みんな気持ちは同じらしい。
「悪かったね、昨日は先に帰っちゃって」
「いいってことよ。それより、ドラえもんの方は大丈夫だったか?」
「うん、何とか!ギリギリだったけどね。そっちの方こそ、道具は大丈夫だったの?」
「おう、スネオの提案でな、裏山の崖に『あなほりき』で穴掘ったんだよ。
それで、『おもかるとう』で道具を紙みたいに軽くして、一気にその中に運んだんだ!」
「え?裏山に置いたままなの?それじゃ、見つかっちゃわないかなあ……」
「はは、それは平気だよ。運んだ後はもう一回『おもかるとう』でものすごい重さにしといたから。
ブルドーザーでも持ってこない限り、運べやしないさ」
そう言ってスネオは朗らかに笑う。
話しながらのび太は、相変わらずの機転を利かせているスネオを頼もしく思った。
「当番は誰だー?授業を始めるぞ!」
振り返ると教卓に先生が立っていた。
話に夢中で、いつの間にか予鈴の鳴っていたことに気付かなかったらしい。
各々の机に向かいながら、スネオが小声で「昼休み、グラウンドな!」と呟くと
のび太とジャイアンは親指を立てながら大きな笑顔を浮かべた。
・・・
「のび太くんったら、せっかく枕を干すくらいなら布団も一緒に干してくれればよかったのに……」
「ドラちゃん、ありがとうね。助かるわ」
「あ、いいんですこれくらい!」
のび太の母の言葉を笑顔で返しながら、ドラえもんは竿竹に布団を干し終えた。
たまには家事も手伝っておかないと……居候であるドラえもんは
こうしてしばしば野比家の雑事をこなすようにしている。
「はー、終わった。
どうして僕ってば、もう少し背の高い設計にしてもらえなかったんだろう。腰がメリメリいうよ」
ぶつくさと文句を言いながら階段を上がる。身長僅か129.3cmのドラえもんは、何をするにも一苦労だった。
「もう一眠りしようか……ん?」
欠伸をかみ殺しながら押入れに向かおうとしたドラえもんだったが
のび太の部屋の畳の上に一枚の紙が落ちていることに気付いた。
部屋を出るまでは確かに何もなかったはずなんだけど……不思議に思いながら
ドラえもんは紙を拾い上げ目を通した。
「何だ、未来デパートからのお知らせじゃないか。
どうせまたDM……ん?ちょっと違うみたいだな。
なになに、えー
『平素より未来デパートをご利用いただきまして云々……
昨日、午後3時より午後7時までの間、弊社の製品である【宇宙完全大百科端末機】のデータベースに
障害が発生しておりました。
現在は通常通り稼動しておりますが、該当する期間にご利用になられたお客様におかれましては、
早急に新しいデータをお調べになるようお願い申し上げます。
これからも我が未来デパートを……』
ふうん。
相変わらずいい加減なところがあるなあ、あのデパートも。
ま、僕には関係ないや。寝よう寝よう……」
「じゃ、決行は明日にしよう」
鉄棒に体を預けながら、スネオが提案した。
「明日!?それはちょっと急すぎないかなあ」
「バカ、こういうのは早いほうがいいんだよ。
それに、僕らが向こうの惑星で生活基盤整えないと、皆がやって来れないじゃんか」
「そうそう、早ければ早いほどいいっつーの」
スネオの言葉にジャイアンも賛同した。
そういうもんなのかなあ、と呟きながらのび太は首をかしげる。
「で、メンバーはどうするの?やっぱり、最初はクラスメートくらいから始めた方が……」
「バーカ、何言ってんの。この3人だけで行くに決まってるだろ」
「ええ!僕らだけなの!それはちょっと……」
さすがののび太もこの提案には承服しかねた。
いくら無人の星とは言え、3人だけであれこれができるとは思えない。
どうせ後から学校の友達を移住させるのならば、最初から誘っておいた方が楽なんじゃないか?
そんな思いを抱いていたからである。
しかし――
「あのねえ、のび太くん。
キミ、自分の胸によーく手を当てて考えてみたほうがいいんでないの?」
「え?僕の?」
「のび太、お前一度地底に子供だけの国を作ろうとしたことがあったろうが。
その時、クラスの奴らをあれこれ連れて行ったけど、それでどうしたよ?お前は」
「あ……」
のび太は記憶を振り返った。
あれはそう、ドラえもんに「どこでもホール」という道具を出してもらって地下の大空洞を見つけた時の話だ。
調子に乗った僕はその洞窟を「のび太国」と名付けて、独裁者を気取って、それで……。
「いいこと?のびちゃん。
ある程度の人数が集まっちゃえば、必然的にそれをまとめるべき人間が必要になるし
お前の時みたいに反発する人間も出てくるの。
面倒でしょ?そういうのは。だから、まずは生活環境を整える!
それまでは余計なところにエネルギーを使いたくないわけよ」
「そうそう。それに惑星を整えてから友達を連れてくるんだったら
それからは最初に色々働いた俺たちが文句なしにあれこれ指示できるだろ?
ルールも決めやすいし。ま、確かに労力はかかるかもしれないけどな。
ヘマするよりかはマシだろうが」
ジャイアンとスネオの言葉に、何も言い返えせずに頷くのび太。
それでも、3人だけというのにはやはり不安が残った。
「じゃ、せめてしずかちゃんくらいは誘ってみようよ!
これまでだって、色んなところを一緒に冒険してきたんだしさ。
それに、女の子がいたほうがあれこれ細かいところに気が回ると思うよ?」
「しずかちゃんか……」
「まあ、のび太の言うことにも一理あるかもな。
でも……来るかあ?しずかちゃんが何もない惑星に、いきなり」
「そうそう。しかも、学校をパニックにさせるなんてとんでもないわー
何て言いそうじゃんか」
「それは、まあ……でも、とりあえず声を掛けてみるだけ損はないんじゃないの?
何も、氷河期の日本に行こうってわけじゃないんだしさ。
それに本当のこと言わなくても、とりあえず『惑星開拓に行くんだ』ってことだけ伝えれば充分じゃない!
終わってから目的を告げればいいわけだし……」
しつこく食い下がるのび太に、初めは多少不服そうだった二人もついには折れた。
「のび太が誘うってことなら」
という条件付きで、ヒストリア星開拓のメンバーに静が加わることが了承されたのであった。
「じゃ、一回家に帰った後に裏山で!」
「おう!」
「じゃあ!」
声を掛け合い、3人は校門でバラバラに別れる。
のび太はその足で静の家に向かった。
(やっぱり、しずかちゃんは必要だよ!)
心の中でその言葉を何度も繰り返しながら、のび太は走る。
学校が始まるのが遅くなっても、宿題がなくなっても、それでもそこに、しずかちゃんがいなかったら。
――そんなの、何にも意味がない!
そんなキザな台詞を頭に思い浮かべて、のび太は一人はにかんだ。
「あらのび太さん、いらっしゃい。どうしたの?」
源家のチャイムを押すと、静はすぐに顔を出した。大急ぎで走ってきたせいか、のび太の息はぜいぜいと荒い。
すこし、まって……と絶え絶えに告げると、ようやくと深呼吸して3人の計画を話し始めた。
「実はね……」
太陽が少し傾いて、段々と空が橙になり初めた頃。
スネオとジャイアンが昨日コピーした道具を前にあれやこれやと話していると
のび太が力ない足取りで2人の下へやって来た。
「遅いぞ、のび太!」
「あれ?何だか随分元気がないじゃん。どうしたってのさ。
あ、分かった。お前のかあちゃんに何か怒られたんだろ!」
のび太は2人の質問には答えずに洞窟の中に入ると、声もなく座り込んで顔を腕の中に沈めた。
スネオとジャイアンは、どうしたのだろうという風に顔を見合わせるのだけれど
のび太は一向に口を開こうとしない。
しばらく待ってみても、のび太は相変わらず何も喋ろうとしなかった。
その様子に短気なジャイアンが業を煮やして大声で怒鳴りつける。
「やい、のび太!せっかくこれから惑星に飛び立とうってのに辛気くさいヤツだな!
一体何があったってんだよ!何とかいいやがれ!」
ジャイアンは大声で威圧しながらのび太の襟首を掴んだ。
のび太は突然のことに一瞬狼狽したような表情を浮かべたのだけれど、
すぐにまた悲しげな表情を浮かべ、やはり黙っているばかりだった。
「ジャ、ジャイアン!暴力は!落ち着いて聞いてみようよ、ね?
な、のび太。一体どうしたんだよ。
もしかして、ドラえもんにバレたのか?」
「お、おい!そうなのか、のび太!?」
スネオの思わぬ言葉に狼狽を隠せないジャイアンは、のび太の襟首から手を離すと
その小さな肩をぐいぐいと揺すった。
のび太は後ろに前にガクガクと体を揺さぶられながら、ようやく静かに口を開く。
「違う、そうじゃなくって……ゴニョゴニョ」
「はあ?!しずかちゃんに断られたあ?!」
「お前、たったそれくらいのことで、そんなに落ち込んでたってのかよ!?
全く、驚かせやがって……」
「そんなことくらいだって!?違う!それだけじゃないんだよ!」
2人言葉にのび太は剣幕を変えて怒鳴った。
「しずかちゃんが言うには
『惑星に行くのはいいとしても、その間ずっと学校を休むの?
そんなことしてたら、すぐに大騒ぎになっちゃうじゃない。バイオリンのお稽古もあるし……。
だから、ごめんなさい。
勉強に遅れちゃうのも嫌だから、今回はタケシさんとスネオさんと一緒に行ってね』
って……」
「……」
確かに静の言うことはもっともだった。
開拓をすると言っても、その間地球に3人の姿がなければすぐに計画は露見しかねない。
そこを何とかせずに、移住も何もあったものではないだろう。
「やっぱり、無理だったんだよ最初から……」
のび太が再び力ない声を上げた。
ジャイアンもここに至って計画が重大な暗礁に乗り上げたことに気付いたのか
何も言わずに黙って目を閉じている。そしてその横のスネオは――
「――つまり話を総合すると
『僕らが地球にいたまま、僕らがヒストリア星を開拓すれば』
何の問題もないわけだ。そうなるよな?のび太」
「そ、そうだけど!そんなの、無理に決まってるじゃないか!」
スネオのバカげた提案にのび太は声を荒げて反論した。
地球にいたままヒストリアを開拓する?そんなメチャクチャな話があるか!
のび太は内心で憤ったのだけれど、スネオの目はしかし
何やら確信めいた目つきをしていた。
「……ドラえもんの協力が必要になるな」
「ドラえもん?何言ってるんだスネオ、だからドラえもんは――」
「いいから聞け。協力って言っても、別に計画のことを話すわけじゃないさ。
のび太、お前はまず適当な理由をこじつけてドラえもんから『分身ハンマー』を借りてこい」
「あ……」
のび太は思い出した。
『分身ハンマー』、かつて二度ほど使ったことのある道具。
やらなければいけないことが2つできた時に、そのハンマーで頭を叩くと自分の分身が出てくる道具だ。
なるほど、確かにこの道具があれば静の要望も、僕らの心配も一度に解決されることになる。
しかし――
「でも、ドラえもんが貸してくれるかなあ?」
「そこはちょっと頭を使えよ。
まあ、お前自身の都合で道具を出してもらおうとしたら渋るだろうよ。
でもさ、例えば
『しずかちゃんが家の手伝いと学校の宿題を両方しなくちゃいけなくて困ってるんだ』
とか言えば、案外すんなり貸してくれると思うぜ」
なるほど、確かにスネオの言う通りかもしれない。
ドラえもんはのび太の頼みには中々厳しいところを見せるが、その友達のため
とりわけ静の頼みには結構簡単に応じる部分がある。
「確かにそうかも……うん、じゃあその方向で頼んでみるよ!」
「頼んだぞ、のび太。そこが上手くいくかどうかが計画の成功を握る鍵なんだからな!」
「失敗したら、ぶっとばす!」
スネオが知恵を出し、ジャイアンが檄を飛ばし、のび太が道具を調達する。
それぞれがそれぞれの役割を果たしている分、存外いいトリオなのかもしれない。
・・・
のび太が家に帰ると、ドラえもんは大きな口を開けて昼寝をしていた。
自分は気ままに生きてるくせに、僕に偉そうに説教しないで欲しいよな……
と内心で苦々しく思ったのび太だったけれど、本来の目的を思い出しドラえもんに声を掛けた。
「ねえドラえもん、起き……」
起こしかけたところで、はたと気付く。
(寝てるんだったら勝手に借りてっちゃお)
何も馬鹿正直に頼むこともないな、と思ったのび太はドラえもんの押入れを開けると
スペアポケットを引っ張り出す。
口の中で分身ハンマー、分身ハンマー、と呟きながら目当ての道具を探し出した。
「あった!これだこれだ」
ふと、振り向いてドラえもんの様子を確認した。
相変わらずガーガーといびきをかいて眠っていた。本当に呑気なものだ。
(もうすぐ僕が家出をするっていうのに)
そんなことを思いながら、のび太はタケコプターを頭に付けて再び裏山に向かった。
「おうのび太、無事に持ってこれたか?」
「うん、この通り!」
ジャイアンの問いかけに、誇らしそうにハンマーを振りかざすのび太。スネオが安堵の表情を浮かべた。
「よし、じゃあまずは僕たちの分身から作ろうか。のび太、このハンマーの使い方を教えてくれ」
「使い方って言っても、ハンマーで頭をコツンと叩くだけだよ……あ、でも」
「でも、何だよ」
「分身のやる気がないと、それにやる気がないぶん色が薄くなっちゃうんだよね。
だからやる気のない分身だとすぐにバレちゃうかも……」
のび太は思い出す。
一度、家の手伝いと静との用事がブッキングした時にこの道具を
使ったことがあるのだが、その分身の色が随分と薄かった。
とは言えその時は用事をこなせればよかったので、色が薄くとも不都合はなかったのであるが
「ま、とりあえず出してみるか。よしのび太、とりあえず頭貸しな」
「ええー?僕からあ?」
「経験者からすんのが一番でしょ!
どうせみんなやらなきゃいけないんだし。ほら、出す出す!」
スネオにせっつかれて、しぶしぶといった様子で頭を垂れるのび太。
それを待ってからスネオは振りかぶるようにハンマーを持ち上げ
のび太の頭をガツンと叩いた。
「痛ったー!!」
ピョコン!のび太の叫びと同時に、体から分身が飛び出す。
「おお、出たな!」
ジャイアンが目を大きくした。そこにはのび太と身長も見た目も全く同じの人間
まさにのび太の分身そのものが立っていた。
「でもやっぱ、薄いなあ。これじゃドラえもんにすぐにバレちゃうな」
二人ののび太をしげしげと眺めながら、スネオが眉をしかめた。
「じゃ、分身じゃない方ののび太が残ればいいんじゃないの?
どっちにしたってのび太はのび太なんだしよ」
「嫌だよ!僕が惑星に行くよ!」
「僕だって惑星に行きたいよ!」
「何を!僕のくせに!」
「なんだよ、そっちだって僕のくせに!」
ジャイアンの言葉に、二人ののび太がケンカを始めた。
のび太がのび太とケンカする――最初はその様を面白がって見ていたスネオとジャイアンだったが
次第に何が何やら分からなくなってくる。5分もするとうんざりした面持ちになった。
「ああ、もう!うるさいうるさい!とりあえず一つに戻れ!」
スネオは一喝すると、オリジナルののび太の頭をもう一度叩く。
コツン。
その瞬間、分身ののび太が本体ののび太の体にスポンと収まった。
「自分とケンカして、どうするんだよ!バカ!」
「だってえ……あんまり生意気だったから……」
「それも含めてのび太でしょうが!もう、真面目にやってくれよ!
いいか、どっちが惑星に行ってもいいけど、どっちものび太なんだから3日おきに交代、
とかにすればいいんだよ。
最初の目的は生活の基盤を整えるだけなんだから!
サボタージュする時は分身は不要なんだし」
「あ、そうか。えへへ、忘れてた」
「忘れてた、じゃないっつーの!」
だらしなく笑うのび太の頭にジャイアンのゲンコツが飛んだ。
ゴチン、と鳴ったその音は、ハンマーで叩かれるよりもよっぽど痛そうだった。
のび太は涙目になって、声もなくうずくまる。
「じゃ、もう一回叩くよ。僕の説明で少しはやる気出たろ」
「もう少し優しく叩いてくれよ」
スネオはOK、と言ってから再びハンマーを振りかぶる。コツン。
今度は先ほどよりも控えめに振り下ろされた。と、同時にピョコンとのび太の分身が飛び出す。
「おお、今度はどっちがどっちだか分かんないぞ!」
「うん、これなら本体も分身も同じようなもんだね!」
どっちが行っても同じ、というのが分かってのことだろう、のび太の分身は少しも色が薄くなることなく飛び出してきた。
「ま、じゃあ後は二人で話し合ってくれよな。今度は僕たちが分身を出しとくから」
「じゃ、とりあえず一カ月おきに交代するってことでいいんじゃないの?」
「そんなに待てないよ!3日おきにしよう!」
「何言ってんだい!3日じゃ短すぎるよ!」
相変わらずのび太同士はケンカを止めない。
ジャイアンはやれやれ、とため息をつきながら苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、ジャイアンもなるべくやる気だしてね」
「おう、朝寝坊のためだ。やる気はバッチリだぜ」
コツン!スネオがジャイアンの頭を叩く。
やる気バッチリ、その言葉の通り、のび太と同じく本体と遜色のない分身が出てきた。
「何か、自分で自分を見るのってあんまりいい気持ちじゃねえな」
「そりゃ、俺も同じ気持ちだって」
「それにしても……」
「ああ、いい男だな……」
うっとりと互いを見詰め合うジャイアンとジャイアン。
そのあまりにも異様な光景を見て、スネオは総毛立つ気持ちだった。
「ぼ、僕も分身を出そう」
ぶるり、と震えながらスネオは己の頭上にハンマーを振りかざす。
コツン、と音を立てて頭に当たると、スネオの横にその分身が立った。
「これで皆揃ったね。おいのび太、話はまとまったか?」
「分かった、じゃあ一週間交代でどう?」
「うーん、じゃあそこで手を打つよ。ちゃんと一週間したら戻ってきてよね!」
「俺らも一週間ってことでいいよな、俺」
「おう、それでいいぜ、俺!」
のび太もジャイアンも、それぞれの分身と話がまとまったところのようだった。
スネオはその様子を確認すると、チラリと自分の分身の方を見る。
「僕らは……」
「ああ、僕はこっちで待ってるよ。
読みたい漫画もあるし、それに元に戻れば記憶とか経験とかが一緒になるでしょ?
だったらどのみち同じことじゃん」
さすがは自分の分身だな、とスネオは思った。
分身の方もそれを察したようで、お互い無言でにやりと笑う。
「よーし、これで準備万端整ったわけだな!
それじゃ、ヒストリア星に向けて、しゅっぱーつ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
勢いよく声を上げたジャイアンをのび太が慌てて留めた。
ジャイアンとスネオ、そしてその分身が一斉にのび太の方を睨みつける。
「なんだよ!」
「しずかちゃんがまだじゃないか!しずかちゃんも連れてこないと出発できないよ!」
「もう、モタモタしてんなよ!」
「さっさと行って、分身作ってきなさいよ!」
叱咤の声がステレオで飛ぶ。
のび太はうるさそうに「分かった、分かったから!」と叫ぶと、スネオからハンマーを受け取って静の家に向かった。
「今度は了承してくれるといいんだけど……」
不安げな呟きを漏らしつつ空を飛ぶのび太。眼下に校庭が見えた。
放課後のグラウンドには、サッカーやドッヂボールをしている生徒がちらほらいた。
「学校、ずっと昼休みか放課後だったらいいのにな……」
そんな無茶な願望を、本気で祈っているのび太であった。
「しずかちゃーん!」
玄関の前で大きな声を上げて静を呼び出すのび太。
首を縦に振ってくれればいいのだけれど……。
「やっぱり一緒に惑星に行きたいよ……」
そんなことを考えながら、ドアが開くのをドキドキしながら待つ。
「あら、のび太さん。また来たの?」
「あ、うん。さっきの話なんだけどね」
「またなの?あのことだったら、私は行けないって……」
静は説明も待たずにのび太の誘いを断ろうとする。
その言葉を慌てて押し留め、のび太はハンマーをポケットから取り出した。
「ほ、ほらこれ!覚えてないかな、ドラえもんの道具で、自分の分身を作るハンマーだよ」
「分身?ああ、そう言えば一度のび太さんが使ってたことがあったわね。
でもそれがどうかしたの?」
「いや、だからさ、これがあればしずかちゃんが二人に増えるわけで、学校にも行けるし
惑星にも行けるようになるんだよ!だからさ、行こうよ惑星!ね、一緒に!」
「分身って……」
突然の提案に戸惑いを隠そうともしない静だったが、今度は無下に断るのではなく
少し冷静に考えている様子だった。
静は優等生ではあるが、男勝りに活発な部分もある少女だ。
かつて一度のび太と体を入れ替えて、男の子と野球をしたり、木登りをしたこともある。
そんな静のことなので、惑星を開拓するというのは興味のない話ではなかった。
「それならいいけど……でも、学校の勉強に遅れちゃわないかしら?」
「そ、それなら大丈夫だよ!分身がしずかちゃんの体に戻ったら
その間に分身が見たり聞いたりしたことは、しずかちゃんが実際に経験したことになるんだからさ!」
のび太は早口でまくしたてた。
ここで不安を与えるようなことを言ってしまえば、また断られてしまいかねない
――直感的にそう考えたからだ。
静は口に手を当てたまま黙って考える素振りを見せたが、それも少しのことで
「……分かったわ、行きましょう」
と朗らかに笑った。
「本当?!やった!じゃ、さっそく分身出すね!
しずかちゃん、ちょっと頭出してもらっていいかな?」
「あんまり強く叩いちゃ、やあよ」
のび太は大丈夫、大丈夫、と得意気に腕をまくると
ゆっくりとした動作で静の頭をハンマーで叩いた。
コツン。同時に静の体から、分身が飛び出す。
「出た!……って、あれ」
「本当に私そっくりなのね。でも……なんだか色が薄くない?」
静は自分の体から飛び出した分身をまじまじと見た。
背格好は全く同じなのだけれど、全体的に何か色が薄く……
いや、色がというよりは、存在感そのものが希薄な感じがしたのである。
「これじゃあダメだよ、しずかちゃん。
あのね、このハンマーで出てくる分身は、あんまりやる気がないと色が薄くなっちゃうんだよ。
だからもう一回やり直さないと……」
「え?どうして?ちゃんと分身ができたじゃない」
のび太の言葉に、静はひどく不思議そうな声を出した。
「どうしてって、この分身じゃあしずかちゃん本人じゃないって皆にバレちゃうじゃないか!」
「ううん、そうじゃなくって……この分身さんの方が惑星に行けばいいじゃない、ってことよ。
元に戻ったら、経験や記憶は一緒になるんでしょう?
それに、全く一緒の分身さんだったら、私が行っても彼女が行っても
何も代わりはないんじゃないの?」
静は淡々と語った。
それは、さっきスネオが考えていたことと全く同じであった。
もっともスネオと違って本体と分身の役割が入れ替わってはいるけれど。
最初は釈然としなかったのび太であるが、静の説明を聞きながら
「なるほど、それもそうか」
と納得する。
「じゃあ惑星開拓して来てね!記憶、楽しみに待ってるわ!」
「うん、私も勉強とかバイオリンのお稽古とか、頑張ってね!」
目の前で二人の静が快活に話しているのを見て、のび太は何となく照れくさい気持ちになった。
自然と頬が赤くなるのを感じたので、慌ててそっぽを向くと、静の方を見ないようにしてタケコプターを渡す。
「裏山、みんないるから。行こう!」
飛び立つ静を静が見送る。少し色の薄くなった静は、髪の毛が栗色になっていて
太陽の光を受けてまばゆく輝いていた。
「遅いぞのび太!」
「やあしずかちゃん、いらっしゃい!あれ?髪の毛染めた?」
やって来た二人をジャイアンとスネオが出迎える。
違う違う、そうじゃなくて……と言いながら、のび太は一部始終を説明した。
「ふうん、じゃあしずかちゃんだけは分身の方が来たんだ」
「分身って言われるのは、何だか変な気分だわ」
スネオの言葉に複雑そうな顔を浮かべる静。
それもそのはずで、いくら分身といえどそれは便宜上の呼び名に過ぎず
実際はどちらが本体でどちらが分身か、というの区分にはあまり実益がない。
スネオもそのことに気付いたのか、慌てて
「ごめんごめん!変な意味はなかったんだ。
しずかちゃんはしずかちゃんだもんね」
と紳士的な笑顔で対応した。
「じゃ、これでメンバーは揃ったわけだな!」
改めてジャイアンがこの場を仕切る。
こういう空気の運び方に長けているのは、やはりガキ大将だからかもしれない。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「今すぐに行くの?寝るところは大丈夫なの?ドラちゃんは?」
ジャイアンの言葉に、静が不安そうな声を上げた。
「あー、と。うん、大丈夫大丈夫、寝るところとかは心配ないよ。
ドラえもんに色々道具借りてるからね。
ドラえもんは、そう!
ちょっと体の調子が悪いみたいで、しばらく22世紀に帰ってるんだって!
そうだよな、のび太?」
「え?あ。う、うん!
そうなんだ、ドラえもんのやつ、今メンテナンスしてるんだよ!
終わり次第、来るんじゃないかなー?」
スネオのウソにのび太が合わせる。
少しだけ声に動揺の色が出てしまったけれど、静はそれには気付かなかったらしく
「そう。でもドラちゃんの道具があるなら安心ね」
と言ってそれ以上は異議を唱えなかった。
「ようし、じゃあ改めて!スネオ、どこでもドア!」
「はいよ、ジャイアン!」
洞穴の奥にあった道具の山からどこでもドアを取り出すスネオ。
のび太には鮮やかなピンク色のそのドアが、これから待つ楽しい未来を象徴しているように思われた。
「じゃ、行ってくるね。分身ハンマー、こっそり戻しておいてね」
「任せてよ!それと、きっかり一週間だからね」
「店番とか大変だろうけど、任せたぜ!俺!」
「おう、心配すんな!」
「じゃ、ママによろしくね。あ、ちゃんとゲラゲラコミックと少年ジャプンは買っておいてね」
「大丈夫だって、安心して行ってきてよ!」
それぞれがそれぞれの『自分』に別れの挨拶をすると
のび太、スネオ、ジャイアンは連れ立って裏山を下って行った。
「よし、それでは記念すべき第一歩です!みんなで力を合わせて、がんばろー!」
のび太が音頭を取ると、4人は声を揃えて「オー!」と叫んだ。
「惑星、ヒストリアへ!」
64 :
閉鎖まであと 8日と 19時間:2007/01/15(月) 01:32:05.97 ID:93R+ZtiN0
これは期待
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(遡ること5日前――)
「どうだ?斥候は帰って来たか?」
「いえ、まだです。この分ではおそらく……」
「そうか……」
薄暗いテントの中で男が二人、声を潜めて話し合っていた。
「タカベさん、もう一度斥候を出すよりはいっそ進軍した方がベターだと思います。斥候が捕まったとなれば、こちらの動きも向こうに知れているでしょうし」
「いや、このままパルスタ軍とぶつかってもジリ貧になるだろう。戦力に劣るこちらの血が無駄に流れるのは自明のことだ。とりあえずは様子を見た方がいい」
「しかし!」
タカベと呼ばれた男は大声を出した男の口に無言で手を当てる。
男は息だけの声で、すみません、と呟いた。
「どちらにしてもう夜更けだ。兵も休んでいる。
我々も一度体を休めてから作戦を練り直そう」
タカベはそれだけ告げると、ランタンに灯った火を消してテントを後にした。
もう一人の男も無言でそれに着いていく。
「今日は星がよく見える……」
呟いたタカベは、懐から煙草を取り出した。
「明日は暑くなりそうだな」
「この季節ですからね……」
タカベは男と他愛もない会話をしながら、胸一杯に吸い込んだ煙をゆっくりと虚空に吐き出した。
-----
「ここがヒストリア星かぁー!」
ドアを開けると、一面に広がる緑の平原。
空は抜けるように青く染まっていて、気候は汗が出そうなほどに暑かった。
「なんて心地のよい緑の匂い……」
静は目を瞑ってヒストリアの空気を胸一杯に吸い込むと、陶然とした表情を浮かべた。
その可憐な横顔を盗み見ながら、のび太は
(やっぱり連れてきて良かった!)
と、改めて思った。
「さあさあ皆さん、僕たちは地球人でこの星に来た最初の人間になったわけです。
これは非常に喜ばしいことです!」
スネオがおどけたような口調で演説を始める。
堅いことを言っているようだが、口元はだらしなく緩んでいた。
どうやらスネオも興奮しているのだろう。
ジャイアンに至っては、着いた瞬間から大声を上げてそこらを走り回っていた。
「スネオ、最初に着いたのがここっていうのも何かの縁だよ。
とりあえず、ここから全部を始めようよ!」
「そうだな、賛成!」
「異議なーし!」
いつの間にか皆のところに戻ってきていたジャイアンものび太の提案に賛同した。
チラリと横目で静の方を窺う。
相変わらずこの土地の空気を楽しんでいるようで、別段のび太の話には興味がなさそうだった。
「じゃ、まずは住むところからだね……よし、これだ!ポップ地下室!
じゃ、とりあえず地下室作るからちょっと離れてね」
のび太は皆を遠くに行くように言って、ポップ地下室の操作に取り掛かった。
「広さは……とりあえず教室くらいの大きさにして……これでよし!」
道具の調整が終わったところで、のび太はポップ地下室の取手を握り、一気に垂直に押し込めた。
その瞬間、のび太の足元で『ドド……ン』と静かで重い音が響く。
無事に地下室が完成したようだった。
「できたよー!」
「よし、じゃあ早速中に入ろうぜ!」
遠くでその様子を見守っていた3人がのび太の下へ駆け寄る。
のび太がドアを開けると、4人は地下室になだれ込んだ。
「なーんか、殺風景な部屋だなあ」
地下室の中は一面白く、がらんどうとしていた。
「そりゃあ、ただの地下室だからね」
のび太が言うと、静かはたちまち顔を曇らせた。
「こんなところに住むの?あたしこんなところいやあよ!お風呂もないじゃない」
憮然とした様子でのび太に抗議する静。
彼女にとって風呂もない居住環境というのは、まず有り得ないものなのだろう。
早くも帰りたそうな雰囲気を出し始めていた。
のび太はその様子を見て慌てて言葉を付け足す。
「ち、違うんだって静ちゃん!
それぞれの住む部屋は今から別に用意するんだよ!
そこにはちゃんとお風呂もあるからさ!」
「あら、そうなの?なら良かったわ」
お風呂がある、と聞いた途端に静は機嫌を良くした。
女心ってのは中々面倒なんだな……そんなことを考えながらのび太は安堵のため息をつく。
「じゃあ、とりあえず外においてある道具をある程度こっちに運んじゃおうか」
スネオの音頭でもう一度地上に戻る。空は相変わらず青く明るく、日の落ちる様子もなかった。
「あれは、太陽なのかしら?」
空に燦燦と光る星を指差し、静が聞いた。
「さあ、どうなんだろう?なんせ地球から随分遠い星だからね。
もしかしたら、太陽系ですらないのかもしれないし。
ま、とにかく住めるんだから難しいことは言いっこなし!運ぼう運ぼう!」
静の疑問を適当に受け流すと、スネオは両手一杯に道具を抱えて地下室に運んだ。
「のび太、大きい道具はどうする?」
「全部持っていっても狭くなっちゃうし、入り口も狭いから、どこでもドアとかはとりあえず外に置いておこうよ。
別に雨が降ったからって壊れるような代物でもないしね」
「こういう時、四次元ポケットがないと不便だよな……
おいのび太、四次元カバンとか、なかったのかよ?」
「し、知らないよそんな道具」
軽口を叩きながらも作業は順調に進み、5分程度で全ての道具を地下室に運び終えた。
「よーし、じゃあ次はそれぞれの部屋を作ろうか!」
「まあ作るって言っても、かべ紙を掛けるだけなんだけどね」
そう言いながらスネオは、道具の山の中から『かべ紙ハウス』を取り出した。
「これ、中身の構造は全部一緒だよな?」
「うん、そのはずだよ」
「じゃあ皆、好きな家を選んでいいよ」
スネオの言葉にめいめいが思い思いのかべ紙を選ぶ。のび太が黄色、スネオが青、ジャイアンがオレンジ、そして静がピンクのかべ紙だった。
「部屋の様子を確認したら、一旦ここで食事をとろうよ!」
「おお!俺もう、お腹ペコペコだよー」
「ジャイアンはいつもペコペコでしょ……」
「何か言ったか!」
「いえ何も!
「そう言えば、お着替えはどうするの?あたし、持ってきてないわよ」
「着せ替えカメラがあるから大丈夫だよ。着たい服があったら、自分でスケッチしてくれたらいいよ」
そんなことを言い合いながら、ヒストリアの初日は更けていった。
73 :
閉鎖まであと 8日と 19時間:2007/01/15(月) 01:41:53.79 ID:34/8QVEo0
やっと追いついた
これはwktk
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【パルスタ・軍本部】
「大佐、ようやくトリユの斥候が口を割りました」
のび太たちの位置する場所から、北方に50kmほど上ったところにパルスタ国は位置している。
ここはパルスタの抱える軍本部司令室。
国の中心地からは、およそ20kmほど南に下った場所にあった。
「何と言った」
「はい、どうやらトリユの軍勢はケンジュ平原を超え更に南、ウガクスの森の中にキャンプを張っているそうです。
大佐。この戦い、ケンジュをどちらが先に越えるかが鍵になるかと……」
パルスタ兵と思しき男は、かしずいたまま『大佐』と呼ばれた男に報告を行なった。
戦闘服をよく見ると、ところどころにドス黒く変色した血がこびりついている。
おそらくは、返り血であるところの血が。
「報告は以上か?」
大佐は燭台の上にある蝋燭の炎を眺めながら、兵士に問いかけた。
「……トリユの指揮を執っているのは、やはりタカベでした」
その言葉に大佐の眉がピクリと動く。
けれど表情が変わることは一切なく、吐き出すように「そうか」と呟くと、天井をゆっくりと仰ぎ見た。
「……ご苦労だった。
あとはその情報を基に、こちらで今後の動きを練る。指示を待て。
では、下がれ」
「はい!」
兵士は敬礼をすると、機械のような動きで回れ右をして部屋から去った。
「タカベ……」
大佐はぼんやりとした目つきで地図を見る。
パルスタ国とトリユ国、両国は距離にして僅か100kmほどしか離れていない。
そしてその中間地点にあるのが、ケンジュ平原だった。
「先手必勝だな……」
顎にたくわえられた髭を触りながら大佐が椅子から腰を上げると、部屋の外にいた兵士に指示を出す。
各部隊の将校を招集するよう、伝令を飛ばした。
「手加減はできんぞ、タカベ」
――のび太たちが、未だ深いふかい眠りの中にいる時のことであった。
「ふああああ……よく寝たなあ……いま、なんじ――」
そこまで言って慌てて飛び起きるのび太。
学校!大慌てで枕元にあったメガネを掛けた。
随分深い眠りに就いていたようだが、一気に眠気が醒めたようだった。
「ドラえもん!どうして起こしてくれなかったん……あれ?」
視力を取り戻した視界で辺りを見渡して、のび太はやっとそこが
自分の家でないことに気付いた。
未だよく働かない頭を回転させ、少しずつ記憶の糸を手繰り寄せる。
「ああ、そうか。ここは地球じゃないんだった……へへへ」
のび太はコツン、と自分の頭を小突くと、ベッドから起き出して寝巻きを脱いだ。
スネオのデザインしてくれたこの寝巻きは
普段袖を通しているものと違って随分着心地が良かった。
「あいつ、いつもこんなパジャマ着てんのかなふあああああ」
安心したところで大きな欠伸が漏れる。
もう一眠り、しようかな――
そう思わないでもなかったけれど、移住して二日目からぐうたらしてたら
ジャイアンにどやされそうだな、と思ったのび太は手早く着替えて部屋を出た。
「おはよう!」
大きな声で朝の挨拶をする。
中央の部屋にはしかし、誰もいなかった。
きょとんとした顔をして部屋を見渡すと、机の上に3人が食事をした跡がある。
どうやら皆は先に朝食を済ませてどこかに出かけたらしい。
「なんだよ、薄情だなあもう!」
のび太がひとり憤っていると、急にぐるぐると腹の虫が鳴るのを感じた。
さっさと地下室から出ようと思ったけれど、どっちにしても皆いないのなら
すぐに外に出ても食事をしてから出ても同じことかな、と思いとりあえず食事の準備をする。
「ホットケーキ!」
のび太が声を出すと、『グルメテーブルかけ』の上にできたてのホットケーキが現れた。
ナイフとフォークで皿の上のホットケーキをぞんざいに切り分けると
誰もいない食卓でのび太はひとり頬張った。
「みんなどこ行ったんだろうな。あんまり遠くに行ってなければいいんだけど……」
『なんでも蛇口』からグラスに注いだ牛乳を飲みつつ、のび太は考える。
部屋をぐるりと見渡して、それにしても時計がないのは不便だな、とそんなことを思った。
「ひー、疲れた疲れた」
「畑仕事なんて、あたし初めてよ」
「力任せじゃ、ダメみたいだな」
のび太が丁度食事を終わった時、地下室への入り口からどやどやと3人が降りてくる声が聞こえた。
のび太は降りてきた3人をキッと睨みつける。
「おお、のび太。おはよう」
「おはよう、じゃないよ!みんなひどいじゃないか!
僕を起こしもしないで勝手にどっかに行っちゃうなんて!」
ヒステリックにわめき立てるのび太。
それでも3人はあまりそのことを意に介していないようで、バラバラに椅子に座ると昼食の準備を始めた。
「もう!何とか言ったらどうなんだ!」
「おいおいのび太、お前は朝ゆっくり寝たいだろうと思って起こさなかったんだよ。
そんな優しい僕たちのことを怒るっての?それはちょっとひどいんじゃないの」
グルメテーブルかけから出したハンバーグランチを口に運びながら、スネオがのび太を見据える。
全く悪びれた様子もなく言ってのけるスネオの口調に、思わずのび太も口をつぐみかけた。
「で、でも!僕を放っておいてみんなだけ遊びに行くなんてひどいよ!」
「いやだわ、のび太さん。別にあたしたち、遊んでたわけじゃないのよ」
「そうだぜ、のび太。お前ちょっと表に行ってみろよ」
そう言って地上の方を指差すジャイアンの目の前には、すでに空になったカツ丼の器が転がっていた。
ジャイアンはそれに蓋を閉じると、もう更に一杯カツ丼を注文する。
のび太はその旺盛すぎる食欲に唖然としながらも、ジャイアンの言葉通り地上へと足を向けた。
「うわあ……今日もいい天気だなあ」
ドアを押し開けると、そこには昨日と同じような清清しい空が広がっていた。
暑さはかなりのものだったけれど、日本にくらべて湿度が随分低いのだろう。
カラッとした気候はむしろ気持ちよいくらいだった。
「外に何があるってんだよ……あれ?」
ぐるりと見渡した視線の先、地下室の入り口から少し離れたところにそれはあった。
「これ、畑だあ!」
のび太は駆け寄って歓声をあげた。
そこには、まだ規模は小さいながらも確かに畑があった。
「でも、畑なんて一体何に……あ!」
一人ごちながらのび太は思い出す。
記憶の隅にこびりついている、どこか見覚えのある目の前の光景。
それはかつて、大昔の日本を冒険した時に見たのと同じものだった。
「畑のレストランかあ……」
田を耕し、そこにドラえもんの道具『畑のレストラン』の種を蒔く。
土にもぐり、雨を受け、日の光をいっぱいに浴びた種はやがて芽を吹き、立派な大根……
のような形をした、ランチプレートに育つのだ。
「これを作ってたんだ、みんな」
のび太は、みんながこの暑い最中せっせと農作業に勤しんでいる姿を思い浮かべた。
すると途端に顔が真っ赤になる。
しずかちゃんたちが頑張っている時に、僕は一人ぐうぐうと寝てたんだ……
そんな風に思うと、穴にでも入りたい気持ちになった。
頭をぶるぶると振って気を取り直すと、のび太はもう一度畑に目をやった。
「そっか、たくさんの子供がやって来るんだもんな……」
確かに今の四人だけだったら食事もグルメテーブルかけでまかなえる。
けれどそのうち100人単位で人が増えていくのならば
とてもじゃないがその食事をあの道具だけでまかなうことはできないだろう。
スネオはきっと、その辺のことまできちんと考えていたのだ。
「僕もしっかりしなくちゃ!」
パンパンと自分の頬を叩き、気合を入れなおすのび太。
ふと、頭上からピーヒョロロ、という音が聞こえた。
見上げたのび太の視線の先に、トンビのような一羽の鳥。
この星の生物と地球の生物の生態系は、意外と似ているのかもしれない。
「子供が増えるんだったら、遊び場も必要だよな……」
のび太がぶつぶつと考えながら地下室に戻ると、3人はとうに食事を摂り終え
めいめいがグラスを片手にくつろいでいた様子だった。
「みんな、すごいね!あんなに立派な畑を作っちゃうなんて……」
「この前、大昔の日本に行った時も僕が畑を作ったからね。お手のもんさ」
スネオがへへ、と笑いながら胸を張った。
あの時の僕はそう言えば……そう、僕の、僕だけのペットを作ったんだ。
ペガ、グリ、ドラコ……みんな元気にしているのだろうか?
思わず感傷的な気持ちになったのび太は、ふと目頭が熱くなるのを感じた。
慌てて服の袖で目をゴシゴシとこすると、改めて3人の方に向き直る。
「ねえみんな!畑もいいけどさ、そろそろこの星を探検してみない?
何か面白い遊び場があるかもしれないよ!」
「探検か……ううん。確かにその意見には賛成だけどさ、ほら、見ろよのび太」
スネオが顎でしゃくって「左を見ろ」とのび太に促す。
見ると、ジャイアンがこくりこくりと頭で大きな舟を漕ぎながら、すうすうと軽いいびきを立てていた。
「お前はいいかもしれないけど、僕らは結構早くに起きたんだよ。
加えて今の時間まで農作業。
少し休みたいんだよな、ねえしずかちゃん」
「ええ、のび太さんの提案は素敵だけど、あたしお風呂に入りたいわ」
みんながもろ手を挙げて賛成してくれると思っていたのび太にとって
あまり乗り気でない二人の言葉は少しショックだった。
けれど、言っていることはもっともだったので何も反論できずに黙り込む。
「ま、あんまりあくせくすることもないって。
せっかく親も先生もいないんだからさ、スローライフってやつを楽しもうよ」
のび太にはスネオの言う『スローライフ』という言葉の意味はよく分からなかったものの
とにかく今日はもう働いたり遠出したりはしたくない、という意図だけは伝わった。
スネオの言う通り、せっかく目当ての惑星に来れたのだから敢えてまで気ぜわしく
動き回る必要はないのかもしれない。
しかし、このまま一人だけ怠けたままでいるというのも何だか気の引けることだった。
「じゃ、皆はここで休んでおいてよ!
働かなかった分、僕がこの辺の様子を観察してくるからさ。
何かあったらここに、ええっと、地下室……」
そこまで言って、のび太は考え込む素振りを見せる。
「ねえ、この場所に何か名前を付けない?
何だか地下室っていう呼び名のままなのもさ、味気ない気がするんだよね」
「うーん、言われてみればそうかもね。
僕たちの家、僕たちの場所。
何か、僕らだけの名前を付けてもいいかもしれないな。
でも、何て名前にする?」
「そうだなあ……」
言い出したはいいものも、のび太自身特に深い考えがあっての提案ではなかった。
何かに名前を付けることなんて、これまでほとんど経験したことがない。
ピースケ、フー子、キー坊……いやいや、これは生き物の名前だ。
のび太は色んな名前を頭でぐるぐると考えながら、それでも何も思い浮かばなかった。
「スネオ、何かある?」
「骨川京、とかどうだろう?」
「ふざけてんの?」
のび太は言下に却下した。
けれどスネオは存外本気でそのネーミングを考えていたらしい。
のび太の言葉になんで?と目を丸くした。
頼りになるのか頼りにならないのかよく分からないやつだ。
「ねえ、『ナシータ』っていうのはどう?」
それまでずっと黙っていた静が声を上げる。
「ナシータ?何だか聞きなれない言葉だね」
「ね、ね、しずかちゃん。その言葉にはどんな意味があるの?」
のび太とスネオが興味深そうに静の方に首を伸ばす。
二人から急に詰め寄られた静は少し恥ずかしそうな表情を浮かべたけれど
すぐに説明を接いだ。
「ママから聞いたから、直接はよく知らないんだけれど……
ナシータって言うのは、どこか外国の言葉みたいなの。
意味は確か、誕生、とか。
そんなことを言っていたと思うわ」
「誕生、か……」
のび太はナシータという言葉の響きと、その言葉の持つ意味をすぐに気に入った。
口の中でナシータ、ナシータ、と呟いていると、むしろその名前以外は
有り得ないような気持ちになってくる。
「うん、いいんじゃない!ナシータ、それにしようよ!
なんだか響きも『あした』に似てるしね。
縁起もよさそうじゃない!な、スネオ!」
「え?骨川京は?」
相変わらずバカなことを言っているスネオのことは無視して、地下室の名前は『ナシータ』に決定された。
ジャイアンはと言えば、よだれを垂らしながら相変わらず深い眠りの淵にいた。
「じゃ、何か見つけたらナシータに戻ってくるよ!」
付けられたばかりの名前を嬉しそうに使うのび太。
その背中に静がいってらっしゃい、と声を掛ける。
スネオはまだ諦めきれないようで、骨川京、骨川宮、などとぶつくさ呟いていた。
「とりあえず、あっちの方に向かってみるか!」
のび太は頭にタケコプターを装着すると、南の方角に向かって飛んだ。
-----
【遡ること6日前】
「タカベ、ケンジュにはまだ進軍しないのかい?」
トリユ国・中央会議場。
タカベはこの日、国家首脳の前でこれからの進軍方針を諮問されていた。
とは言え小国のトリユでは『首脳』と呼ばれるほど大した存在の人物はおらず
基本的には国を統括する王のような存在の人物とそれを脇でサポートする者が二人ほどいるばかりである。
今、タカベに質問を行なったのが、トリユ国の王たる存在の人物その人であった。
「はい。先日パルスタの様子を探るべく斥候を送り込んだのですが、どうやら敵に捕まってしまったようです。
パルスタ軍勢の動向が把握できない以上、ケンジュに攻め込むのは時期尚早かと」
「数も力も劣る僕たちの国がパルスタに勝つには、奇襲しかないって言ってたのはタカベだよね?」
国王から率直な疑問をぶつけられ、タカベは押し黙った。
彼も分かっているのだ、このままパルスタに攻め込まれでもしたらトリユが敗北するのは確実だということを。
「……私が斥候となって、パルスタに忍び込みます」
「タカベが?」
タカベから発せられた意外すぎる言葉に、国王は驚きの声を上げる。
普通、斥候というのは一般の兵がこなすべき役割のものであり、タカベのように
軍を指揮する人間がこなす役割ではないのだ。
「でも、それじゃあ……」
「これ以上能力に乏しい斥候を送り込んで、こちらの動向を察知されては元も子もありません。
なに、心配には及びませんよ。
あらかたの動向を掴んだらすぐに戻って参りますし、それに――」
「パルスタのことならよく分かってる、ってね」
国王が目を細めながらタカベの言葉を補う。
タカベはその通りです、と返事をすると、黙って国王の判断を待った。
「……うん、そうだね。それがいいのかもしれない。
トリユの軍で一番強い兵士はタカベだし、僕たちもいつまでも手をこまねいているわけにはいかないし。
ただし、二日以内には帰ってきてくれよ。みんなの士気に関わるからさ」
「ご理解いただけて何よりです。それでは早速向かいます。失礼します」
タカベは敬礼をすると、機敏な動きで会議室を後にした。
バタン、という音がして扉が閉まると、会議室が沈黙に包まれる。
「国王、果たしてパルスタに勝てるのでしょうか」
出し抜けに国王のサポート役の一人が問いを発する。
その言葉に、難しい顔をして黙っていた国王がゆっくりと口を開いた。
「分からないよ、そんなの。でも、勝つしかないんだ。それと一つだけハッキリしてるのは……」
国王はそこで一息つくと、手元にあった水を飲み干してから言葉を続けた。
「……タカベが斥候に失敗したら、その時点で僕らの負けは確実になるってことさ」
窓の外に強い風が吹く。ざざ、と音がして、トリユの国で最も背の高い木が、大きく揺れた。
「空から見ると、ホントに大きな原っぱだなあ!」
タケコプターで地下室から飛び立ったのび太は、眼下に広がる広大な平原を見下ろしながら
率直な感想を漏らす。目を凝らすと、遥か遠方のほうにきらきらと光るものが微かに見えた。
おそらく海もあるのだろう。
「海水浴もできちゃうし、本当にいい星だなあ……おや?あれは森かな?」
しばらく飛んでいると、のび太の目に大きく広がる森が飛び込んできた。
「森かあ、これは探検のし甲斐があるぞ!」
のび太は湧き上がる興奮を覚えながらゆっくりと地上の降り立つと、タケコプターを外してポケットに突っ込む。
見上げると、生えている木々は随分と背が高い。
森の中はうっそうとしている様子だったが、不気味な様子はほとんどなかった。
「見たことあるような植物と、そうでないのとが、ごちゃまぜって感じだなあ」
きょろきょろと辺りを見渡しながらのび太は森に分け入っていく。
のび太は半ズボンのままで歩いているけれど、虫に刺されないところを見ると
この暑さだというのに蚊の類は存在しないようだった。
「はあー、かなり広いなあこの森は。
こりゃ、一人で歩いて探索するのはちょっと無理がありそうだぞ……」
しばらく森を探索したのび太は少し疲れたのだろうか
脇に生えていた木の幹に背中を預けると、どっかりと腰を下ろした。
「一旦戻って、みんなと探検しよ……」
そんなことを呟いて、目を閉じる。
木々の葉っぱの隙間から木漏れ日がさしているのを瞼に感じた。
森の風が土の香りを運んで、優しくのび太の頬を撫でる。
ざざ、ざわ……という木々の葉のこすれる音が
心地よい子守唄となってのび太の鼓膜をそっと揺らした。
「気持ちいいな……」
のび太は、頭の隅の方から甘く広がっていく眠気を感じながら
そのまま眠気の海に身を委ねようとする。
僕がしたかったのは、こういう生活なんだ……そんなことを考えていた。
その時。
「ユダレユカ……イユルノユカ……」
「な、何?!だ、誰かいるの!?ジャイアン?!スネオ?!」
不意に耳に飛び込んできた、奇妙な音。
聞きなれないその音は喋り声のようにも聞こえた。
無人の惑星で喋り声?まさか!
のび太は馬鹿らしい、と考えながらも、あまりにも鮮明に聞こえたその声が
幻聴であったとも思えず、慌てて立ち上がった。
「まさか……オバケ?!」
無人の惑星にもオバケがいるのだろうか?
動揺しているのび太は下らないことを考えてしまう。
逃げ出したい、一刻も早く――怯えきったのび太は前を見たまま後ろに歩き始めた。
その膝がプルプルと震えている。
「うわっ!」
後ろ足に軽い衝撃が走った。
のび太はそのままバランスを崩し、尻餅をついて倒れる。
「あいたたたたた……何だよ一体……」
腰をさすりながら顔を上げた。するとそこには信じがたい光景があった。
「ひ……人?!」
果たしてこのスレに誰かいるのか。
94 :
閉鎖まであと 8日と 18時間:2007/01/15(月) 02:09:47.01 ID:34/8QVEo0
ノ
95 :
閉鎖まであと 8日と 18時間:2007/01/15(月) 02:11:37.49 ID:93R+ZtiN0
シ
>>94 2人だけのヨカン…!!
ありがとう( ^ω^)
ちょっと今中座してます。
97 :
閉鎖まであと 8日と 18時間:2007/01/15(月) 02:18:49.48 ID:QS/UeyTx0
まだ追いついてないけど俺もいるぞ
98 :
閉鎖まであと 8日と 18時間:2007/01/15(月) 02:20:05.11 ID:34/8QVEo0
☆ チン
ワク
☆ チン 〃 ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ___\(\・∀・)<
>>1に期待保守
\_/⊂ ⊂_)_ \_______
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
|  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :| テカ
| .|/
>>95 >>97 >>98 よかた( ^ω^)
今ストック分の丁度半分なので、3時くらいまでは投下しますne。
あとのことは・・・ちょっと分からないです(寝ちゃうので・・)
では貼ります!
無人の惑星、ヒストリア。
しかしのび太の視線の先には、確かに人が、それも血の着いた戦闘服に身を包んで――
倒れていた。
「どうして、どうして人が……誰もいないはずじゃ……」
のび太は相変わらず膝を震わせながら、それでも少しずつその『人間と思しき』人に近づいていった。
さっきの声の主はこの人なのだろうか?
パニックに陥りそうになる頭を必死に押さえつけながら、のび太は様子を窺う。
「怪我、してるのかな……」
戦闘服の太ももの辺りにべったりとこびりついているのは、初めて見るドス黒い模様。
乾燥した血はドス黒く変色するのであるが、血は赤いものと思い込んでいるのび太の目には
それが血であるとは考えることができなかった。
「生きて……ますか?」
のび太は目の前の人――性別があるかは分からないが、おそらく男――に向かって、恐る恐る声を掛ける。
するとのび太の言葉に反応してか、うつぶせに倒れていた男は弱弱しく顔を上げると
鋭い目つきでのび太を見た。
刺すように鋭い目つき、ぎらぎらとした生の色を発するその瞳が、のび太をまっすぐに射抜いた。
思わず、ひっ、と声を上げて後ずさりする。
するとその時、男がわななく口で声を発した。
「ユコクオユウ……ナユゼコユコニ……」
ほとんど掠れたような声だったが、狼狽している様子だけは確かに感じ取れた。
のび太は相変わらずがたがたと震えていたが、目の前の男が息も絶え絶えであることが分かると
誰だかは判らないけれどこのままにしてはおけない、という思いが募った。
「お、おじさん、僕のところに行こう。怪我、手当てしてあげるからさ……」
「トリユ……ユモユドル……」
言葉がお互いに通じない。
それも無理のないことで、ここは日本では……いや、地球ですらないのだ。
男はまだ何か言いたそうな目をしていたが、のび太は強引に男の体の下にすべりこむと
そのままタケコプターを付けて空に舞い上がった。
・・・
「お、おいのび太!だ、だ、誰だよそのおっさんは!」
何とか男を抱えたまま地下室に帰ってきたのび太を見て、ジャイアンが悲鳴にも似た嬌声を上げた。
スネオと静も、信じられない、といった表情を浮かべてのび太を見る。
「説明はあとでする!この人、怪我してるみたいなんだ!しずかちゃん、包帯とお医者さんカバンを!」
「は、はい!」
のび太がぜいぜいと息を付きながら静に指示を出す。
それまで呆然としていた静だったが、のび太の大声に弾かれたように反応すると
大急ぎで手当ての道具を持ってきた。
きず薬つき自動巻きほうたいが怪我の部位を見つけ、男の体にぐるぐると巻きつく。
のび太はその隙にお医者さんカバンで男の胸の辺りに聴診器を当てた。
『寝不足と栄養不足です。十分な休養と、ビタミン剤を与えてください』
ウィンドウにそのような文字が浮かんだと思ったら、バッグの中から
注射器に入ったビタミン剤が飛び出した。
のび太はそれを右手に取ると、強引に男の口をこじあけビタミン剤を注入する。
男は最初に少し咳込んだが、少しこぼしただけでそのままゴクゴクと飲み干した。
「これで、一安心だな……」
のび太が腕でぐい、と自分の額を拭うと一息ついた。
それと同時にジャイアンとスネオがのび太の下に詰め寄る。
「おいのび太、どういうことだ!この人は一体誰なんだよ!」
「そ、そうだのび太!大体、この星は無人惑星じゃなかったのか!
二人がほぼ同時にのび太を詰問する。
ジャイアンにがくがくと肩を揺さぶられるままになっていたのび太は、しかしそれでも何も言わない。
のび太にしても分からないのだ、何も。
「……タケコプターで飛んでたら、森を見つけたんだ。
面白そうだったから探検してみたんだけど、結構広くて……。
それで、今日は帰ろうと思ったんだけど、そしたらこの人が倒れてて。
怖かったけど、怪我してたから放っておけなくて……」
ぽつり、ぽつりと呟くようにのび太は一部始終を説明した。
3人は黙ってのび太の喋ることに耳を傾ける。
みな一様に戸惑ったような表情を浮かべていた。
「人間なのか?この人……」
「人間……だと思う。
なんか、言葉らしいのを喋ってたし。
ただ、地球の人じゃあないみたい。
あんな言葉、聞いたこともなかったもの」
「とにかく、目を覚ますまで様子を見よう。
幸いほんやくコンニャクがあるから、言葉は通じるでしょ。それにしても……」
言葉を区切ってスネオが男の体をしげしげと眺めた。
「戦闘服、だよな。これは」
スネオの言葉に、のび太も改めて男の全身を見た。
短く刈り揃えられた髪、額にはバンダナのようなものが巻かれている。
眉間あるのはひし形のような形の傷痕。
顎には僅かに髭がたくわえられていた。
そして迷彩の入った服と、編み上げのブーツ。
それら全ての要素が、のび太の頭で『戦争』という言葉に向かって収斂していった。
「どちらにしても、穏やかな様子ではないわ……」
「怪我もしてるしよ……」
「とにかく今は、起きるのを待とう」
部屋が静寂に支配される。
誰も、何も喋らずに死んだように眠っている男の体を見つめていた。
それから1時間ほど経った頃だろうか。
ん……と微かな声を上げて、男が目覚める兆しを見せた。
「あ、起きたみたいだ!
あの、大丈夫……あ、そうか。ほんやくコンニャク食べなきゃ」
のび太は慌ててほんやくコンニャクを頬張ると、改めて男に向かって話しかけた。
「大丈夫ですか?起きられますか?僕の言葉、分かりますか?」
「ん……ああ。生きて、いるのか?俺は……」
目覚めたばかりの男は、上半身だけを起き上がらせると首を左右に幾度か振ったあとに
瞼を閉じたり開いたりした。
そして大きな深呼吸をすると、改めて部屋を見渡し
その視線がのび太の顔のところでピタリと止まった。
「国王……!」
「え?こ、こく?」
「国王!このようなところで一体……ああ、いや、ここはどこですか?
見慣れない場所ですが。それに、この者たちは……」
喋りながら男は、ジャイアンとスネオを鋭い目つきで睨みつける。
それは、二人がこれまで出会ったどんな大人も有していない類の目つきだった。
針で刺すようなその視線を一身に受け、二人は金縛りを受けたようにすくみ上がる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!こく、国王って何のことさ!僕のこと?僕、僕は、のび太。野比のび太だよ!」
「野比……」
狼狽した声を上げるのび太に反応して、男はのび太の全身を上から下まで眺めた。
値踏みされるような視線を受け、のび太は思わず緊張する。
「……確かに、国王はそのような服を着ないな。
すまない、よく知る人物に似ていたもので、勘違いをしたようだ。
それにしても似ているものだ」
男は一人で呟くように言うと、床に手を付いてさっと立ち上がった。
「怪我の手当てをしてくれたことにまずは礼を述べる。
ありがとう、あそこで君に出会わなければ私は死んでいたかもしれない」
そう言って男は深々と頭を下げる。
大人からこんなに丁寧に謝辞を述べられたのは初めての経験だったので
のび太はひどく戸惑った。
「そ、そんな!僕は当然のことをしたまでです。死ななくて、よかったです!」
「そうか……いや、本当にありがとう。
自己紹介が遅れたな。
私の名前はタカベ。トリユ国の者だ。
ところで、君たちは一体……」
タカベは、さっきとは打って変わって今度は穏やかな目で3人を見回す。
今の彼の瞳は、どこにでもいるような穏やかな大人の目だった。
ジャイアンとスネオはほっとした表情を浮かべる。
「ええと、僕たちはその……この星に住もうかと思ってやって来たんですよ」
「星?星だって?ということは君たちは、違う星からやって来たということかい?」
「え、ええ。そうなんです。
そのー、ここから遥か遠い、地球という星からはるばると」
脇からスネオが口を挟んだ。
何か喋らないと落ち着いていられないのだろう。
それでもまだ動揺が収まらないのか、いつものような弁舌さはナリを潜めてはいたが。
「そうなのか……いや、にわかには信じ難いけれど確かに君たちの服装はこの星で見たこともない。
それに、あの傷がこんなに簡単に治ったのも考えられないことだ。
信じよう、君たちの言葉を。それに、助けてくれた者を疑う道理もないしな」
タカベはそう言ってニッコリと笑った。
笑うと、目じりに深い皺が刻まれる。それはとても優しい目だった。
のび太と、そしてスネオとジャイアンはその笑顔を見て暖かい気持ちに包まれる。
「あの、タカベさん!幾つか伺ってもいいですか?」
「ん?なんだい?」
「あの、この星……ヒストリアには、人が住んでないんじゃないんですか?」
のび太は率直に聞いた。
端末では確かに無人惑星と記されていた、この星。
しかし、今のび太の目の前では現実にタカベという男が動き、喋っているのだ。
「人が住んでないって……面白いことを言うね、君は。
ほら、現にこうして俺がいるじゃないか。俺だけじゃない。
俺の住んでいる国、トリユと言うんだけど……
そこには何万人という人が住んでいるよ」
タカベの姿を見た時から、この星が無人でないことはある程度予想していた。
けれど改めて言葉となってその事実を知らされると、やはり3人の落胆の度合いは大きかった。
「トリユだけじゃないさ。この星にはもう一つの国……大国パルスタもある」
「もう一つって、この星には2つしか国がないの?!」
タカベの言葉にジャイアンが頓狂な声を上げた。
ヒストリアには国が二つしかない。
その言葉が本当だとすれば、随分と小さい星なのだろう。
もっとも全ての星が地球ほどの規模を有しているわけではないことを考えれば
そのような状況も当然存在し得るのであるが。
「そうだよ。君たちの星には、もっと多くの国があるのかい?」
「ええ、まあ……」
「ああ、さっぱりしたわ。あら、その男の人、無事に目覚めたのね」
背後から静の声が響いた。
タカベが起きるのを待つ間、再び風呂に入りに行ったのである。
この少女は本当に風呂が大好きなようで、今日だけですでに二回目の入浴だった。
タカベは少し眉を上げると、声のした方に振り返った。
「助けて下さってどうもありがとう。私の名はタカ……」
その時、静の顔を見たタカベの顔が見る見る内に険しくなる。
それは先刻、射抜くようにスネオとジャイアンを睨み付けたあの表情だった。
「エイレーネー帝……!」
タカベは、地を這うような低い声で搾り出すように言葉を発した。
その殺意を孕んだ視線が自分に向けられているのだと気付いた静はびくん、と体を震わせると
その場に縛り付けられたように立ち尽くした。
「まさか帝自ら……」
何事か呟きながら静の方ににじり寄るタカベ。
そのあまりに異様な雰囲気に、逃げることも叫ぶこともできずに硬直する静。
その時、それまで黙ってことの成り行きを見ていたのび太がタカベに叫んだ。
「た、タカベさん!その人はエイなんとかじゃない!
僕の友達の、しずかちゃんだ!」
その言葉にタカベは我に返ったようで、静の方に歩み寄るのをぴたりと止めた。
ピン、と張り詰めていた空気が一気に弛緩していく。
それにしてものび太といい静といい、タカベは一体何を誤解したのであろうか。
「……すまない、随分と威圧するような真似をしてしまった。
私の勘違いからとはいえ、幼いお嬢さんにあのような態度を取るとは……
軍人として失格だ。非礼を詫びる、許してくれ……」
先ほどのび太にしたように、タカベは深く頭を垂れた。
そのままの状態でいつまでも頭を上げようとしないタカベを見て、静かは慌てて
「いいんです、いいんです」
と許しを与えた。
「僕もさっき誰かに間違えられたんだけどさ……
もしかしたらこの星には、日本人に似た人が多いのかもしれないね」
場の雰囲気を変えるために、のび太は軽い調子で話題を振った。
「ああ、そうかもしれないな。
確かにこの星の子供たちと、君たちの顔立ちはよく似ている部分がある。
特に君なんかは国王と……ああいや、なんでもない」
「タカベさんのお国はナシータ……ううん、この場所から近いのですか?」
「そういえば……ここは一体どこなのかな。
気を失ったままのび太君に運ばれたから、全く覚えていないんだ」
「ああ、そうですね。ちょっと外に出てみましょうか」
そこで話を打ち切ると、5人は揃ってナシータから外に向かった。
「しずかちゃん、先に行っていいよ」
のび太はどこかで聞いたレディーファーストという言葉を思い出し、静に声を掛ける。
「あたし、スカートなのよ?」
ジェントルに振舞ったはずののび太だったが、それは空回りしたようだった。
スネオが梯子を上りながら下を振り向いて、ばーか、と小声で囁いた。
「ここです、ここ」
のび太が腕を広げてタカベに草原を示す。
相変わらず日は高いままで、気温も少し上がったようだった。
この星は日照時間が随分長い。
「ここは、ケンジュ草原じゃないか!」
「ケンジュ?ここ、ケンジュって言うんですか?」
「変わった名前だなあ」
「何か意味があんのかね」
スネオとジャイアンが間の抜けた声で感想を漏らす。
しかしそれとは逆に、タカベの眉間の皺はどんどんと深くなっていった。
「……のび太くん、悪いことは言わない。すぐにこの場所から、いやむしろ……
この星から、出て行った方がいい」
「え、どうしてですか?」
突然、ここから出て行けと言われ、のび太は軽く混乱した。
スネオとジャイアン、そして静もどうして?なんで?と疑問の声を上げている。
「それは……」
タカベが口を開きかけた、その時。
「みんな!すぐに地下室に入るんだ!」
「え?え?なんですか?」
「いいから急げ!」
タカベの表情が鬼のように厳しくなっていた。
4人は、ほとんど蹴りこまれるように地下室に叩き込まれると、最後にタカベが激しい
音を立てて地下室の扉を閉めた。それと、ほぼ同時に。
ドオオオオ……ン
「な、なんだ!?」
地上に響く激しい炸裂音。
ナシータ全体も僅かに振動したようだった。
寸前に響いたあの音は、これまでの冒険で幾度か耳にしたことのある音であり
決して喜ばしい類のものではなく――おそらく、爆発音だった。
「タカベさん、一体何が起こったんですか!?」
全員が梯子を降りたところで、のび太がタカベに詰め寄る。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたタカベは、一瞬何か言おうと口を開いたが
すぐに諦めたような表情を浮かべ、話すよ、と息だけの声で呟いた。
「……この星には、トリユ国とパルスタ国の二つ国がある。
それはさっき話した通りだ。ただ、この二国は必ずしも友好的ではない。
いや……その関係は、極めて険悪なんだ。
その理由、それは少し長い話になる」
タカベはそのまま静かな調子で話し続けた。
タカベによれば、ヒストリアにはかつて大小様々な国がひしめいていた。
自然も豊かで気候も温暖なこの星は、人が生活を営むのに好適な状態だったのだ。
しかし、それは生来のものなのであろうか、ヒストリアの民はいずれも戦闘を好んだ。
あらゆる国家がそれぞれにぶつかり合い、国が興されては潰えていった。
穏やかな土壌とは裏腹に、多くの、夥しい量の血が、ヒストリアの大地に吸い込まれていった。
戦争ばかりしている国が発展するはずもない。
兵器や戦術などは一定程度発達したけれど、それ以外の文化的なもの
あるいは民の繁栄などは、望むべくもないものだった。
しかし30年前、その状況は大きく変わる。
その当時、ヒストリアで最も大きな国家であったクレキガが、ついに
ヒストリア全土の国家統一を果たしたのである。
激しい戦いだったらしい。
何千、何万もの命が失われた末の和平であった。
ただ、クレキガの優勢が様々な国家に伝わっていくうちに無条件にクレキガに
併合された国家も多くあったようだ。
大昔から続く戦乱に次ぐ戦乱、民も元首もとうに疲弊していたのであろう。
そうしてできたのが、パルスタなんだ」
4人はタカベの話をじっと押し黙って聞いた。
この穏やかな大地に、そんな忌々しい歴史が隠されていたなんて……
のび太はにわかに信じられなかったが、タカベの真剣な眼差しと口調からすれば
とてもウソをついているなどとは思えなかった。
「それが30年前ってことは……トリユは、それからできたんですか?」
スネオが沈黙を破った。
タカベは、ああ、と頷くと会話の残りを喋り始める。
・・・
統一国家パルスタに、初代皇帝にレオーンという人物が即位した。
彼はヒストリアの歴史に明るい人物で、この星から戦乱を根絶しようと尽力する。
最初にレオーンは徹底した身分制を敷いた。
様々な国家を寄せ集めるようにしてできたパルスタである。
元より民の間には『平等』という概念がなかった。
最大の戦勝国であったクレキガの出身の民が、第一に優遇されることとなる。
と言ってもそれは意識レベルの選民であり、実際に貴族の地位を与えたとか
経済的な援助を受けたとか、そういうことではなかった。
狙いは身分差を民の意識に植えつけることだった。
上の者には決して逆らわない。
人は皆、平等ではない――
そう考えさせることによって騒乱が起きることを回避しようとしたのだ。
結果、その政策は今に至るまで成功している。
次に行なったのは教育制度改革だった。
様々な国家が有していた独特な知識を抽出し、それを民に教育していく。
それは義務という形で民に背負わされ、1年中休みなく教育は施された。
そしてそれが終わると、それぞれに課された労働。
これに関しては身分差に関係なく強制された(もちろん、職業の貴賎は存したが)。
「休みがない?!」
タカベの説明に、のび太が驚きの声を上げる。
1年間、自分の時間がなく過ごすだなんて……
ぐうたらなのび太からすれば、到底考えられないことだった。
「そうだよ。まあそれでも人民は『戦争が続くよりは随分マシだ』って思ったのだろう。
血が流れるよりは、国の政策に従って安穏に過ごした方がいい……そういう風に。
もっともそれは、段々と崩れていくのだが」
「トリユ国の登場、ですか」
「その通りだ」
圧政、とまでは言わないが、それでもパルスタには自由が全く存しない状態だった。
そしてそのことに対して徐々に不満を述べ始める者が増えてくる。
自由を、もっと自由を、国家からの自由を――声は次第に大きくなった。
「……今から10年前、パルスタから逃げた大勢の人間でトリユ国が立国されたってわけさ。
パルスタからすれば、せっかく安全に住む場所と、高度な教育環境を与えてやったのにも
関わらず逃げ出した『裏切り者』国家、っていうところだろうな」
『裏切り』
その言葉が4人の頭の中でぐるぐると駆け巡る。
民を統括していた国家と、そこから逃げ出して作られた国家と。
そしてさっきの爆発音。ヒストリアの歴史――
様々な情報を得ることによって、4人はようやく現在この星を取り巻く状況を理解し始めた。
「トリユが標榜したのは『自由闊達』。
パルスタで様々なことを強制された反動だろう、トリユの国王はまず人民から一切の義務を排除した。
働きたい者が働き、学びたい者は学べばいいし、寝ていたい者は寝ていていい。
その代わり、生活は皆で扶け合う、困った人には手を差し伸べる――
それがトリユ国なんだ」
「素晴らしい国じゃないですか!」
タカベの説明を聞いて興奮の面持ちでのび太が叫んだ。
ひたすら自由に、そして気ままに。
皆で皆を扶け合って作る社会……
もしかしたらそれは、僕がヒストリアに求めていた世界そのものなのではないだろうか?
まだ見ぬトリユの情景を思い浮かべて、のび太は馬鹿に嬉しい気持ちになった。
しかしそれとは逆にタカベは険しい表情を崩さない。
「問題はパルスタだった。
戦乱を収めるべく国家を統一したにも関わらず、ほんの20年で独立国家が現れる。
これは決して気分の良いことではない。
それでもパルスタは、最初のうちはトリユの存在に目を瞑っていた。
小さな国家が世界の片隅でささやかな生活を営んでいる、
そのくらいのことに目くじらを立てることはない……とね。
けれど段々とそうも言っていられなくなるんだ」
「どうしてですか?」
「トリユに移民する人間が徐々に増え始めたんだ。
パルスタが最初からかん口令でもでも敷けば良かったのだろうが
政府はトリユなんて歯牙にも掛けていなかったからな。
そして噂は徐々に広がっていく。
『トリユに行けば、何も強制されずに自由に過ごせる』
ってな。
この噂によって、それまで無批判にパルスタで過ごしていた人々の隠れた不満が顕在化していって……
パルスタを離れる人間が止め処なく増えたのさ。
そして昨年、ついにその状況を捨て置けなくなったパルスタはトリユに対して宣戦布告を行った。
国家を解散して、パルスタと併合しろ、と」
皮肉な話である。
パルスタ帝が行なったのは、争いを絶無にするために行なった政策であったはずだ。
しかし結果的に発生したのは、新たなる騒乱。
そんなことは誰も望んでいないにも関わらず。
「結局、パルスタとかトリユとかは関係ないのかもしれない。
我々がヒストリア人であり続ける限り、戦争という因果の螺旋からは
逃れられないのかもしれない――」
タカベはそんな言葉でヒストリアの成り立ちの説明を締めくくった。
『戦争という因果の螺旋』
――その言葉の孕む重さ、意味。
戦争も何も体験したことがない4人だったが、海底、地底、魔界、鉄人兵団……
様々な戦いを経験した彼らにはタカベの、いやヒストリア人の抱く苦悶や絶望の声が
ありありと聞こえてくるようだった。
「でも、それでも!
そんな素晴らしいトリユがパルスタから戦争を仕掛けられるなんて、やっぱりおかしいですよ!
自由気ままに暮らしたいって願うことの何が悪いんですか!」
たまりかねてのび太は叫んだ。
おそらく「学校からサボタージュしたい」と願った自分の姿と、トリユを興した人々の姿が重なったのだろう。
それにどんな理由にせよ、戦争が肯定されて良いはずがない、そんな思いが根底にあった。
「良し悪しの問題ではないんだ、のび太くん。
国家には国家の論理があるし、自分の存在を脅かす存在が現れた時に
そこに歩み寄って共に歩く道を選ぶのか、それとも対象を叩き潰して国家の安定を図るのか……
国家がある行為を選択した場合、そのどちらの目的でそれを行なっているのかは
外部からは必ずしも判然としないのさ」
「ど、どういうことですか?」
「だからのび太、こういうことさ。
のび太がラーメン屋をやってるとして、突然隣に別のラーメン屋ができたとするよね。
その影響でお客さんが減ってしまった。
お客さんからすれば、食べられるラーメンの種類が増えたから嬉しいはずだけど
じゃあのび太にとってはどうだ?」
「邪魔、に思うかも……」
「その時、
『こんなに近くの場所で客を取り合ってもいいことないですよ、一緒にラーメン作りませんか?』
って持ちかけるのか、あるいはいじわるをしてそのラーメン屋をぶっ潰すのか。
それはどっちがいいか分からないってことだよ。そうですよね、タカベさん」
「多少語弊があるけれど、そんなには違ってないな。
結局皆、自分の大切なものを守るのに必死なんだよ。
それが今、個人ではなく国家の間での意地の張り合いになってるってことだな」
自分の大切なもの、とのび太は頭の中で呟いた。
トリユが守りたいもの、それは『自由』だ。
じゃあ、パルスタが守りたいものは一体何なのだろう?
人に恨まれ、騒乱を生み出して、また新たなる血が大地に流れる。
その果てにあるものは、一体何なのだろう――
のび太は腕を組んで考える。その時。
ドオオオオ……ン
「追撃か!」
再びナシータが鳴動する。激しい爆発音とともにタカベが立ち上がった。
「タカベさん、どこに行くんですか!」
「怪我の手当て、本当にありがとう。
もうしばらく君たちと話していたいが、俺には俺の任務がある。
トリユで俺の帰りを待っている人がいるんだ。
だからここでお別れだ。早くこの星から離れるんだな」
それだけ言うと、タカベはバンダナを巻き直してナシータの出口に向かった。
のび太がその後を慌てて追う。
「タカベさん無茶だ!今外に出るなんて死にに行くようなもんですよ!
外が落ち着くまでここで待っていた方が!」
「……行かなければならないんだ。分かってくれ」
説得するのび太の方に向き直り、力強い目でそのように語るとタカベは再び踵を返した。
「みんな口をふさいで!」
背後にスネオの叫ぶ声が聞こえた。
振り向いたのび太の視線の先には、何かを構えるスネオの姿。
「タカベさん、ごめんなさい!」
言葉と同時に、スネオの手からタカベにグッスリガスが噴射される。
突然のことで何も対応できなかったのだろう、タカベはガスを顔一杯に浴びると
「な、何を……」
と呟いた後に、その場に倒れこんだ。
「眠らせたのか」
「こうでもしないと、こうでもしないと、タカベさんが……」
「いや、スネオ。お前はよくやった」
スネオの肩にぽんと手を置いて、ジャイアンは労いの言葉を掛ける。
そして4人はふと天井を見上げた。
今は爆発の音は聞こえないけれど、またいつ次の爆発が起きるとも限らない。
それに、もしここにパルスタの兵士が踏み込んできたとしたら。
「……追っ払おう!僕たちの手で!」
のび太は決意した。
タカベさんの守りたい自由と、そして僕が求めた自由と。
そこの間には、きっと何の違いもない。
『それだったらタカベさんを守ることは、僕の自由を守ることなんだ』
その思いが言葉となってのび太の口から発せられた。
「でも、どうやって?」
「スネオ、あれ持ってきてただろ。『出っちょう口目』!」
スネオは無言で頷くと、道具の山の中から『出っちょう口目』を取り出した。
のび太が素早くそれを受け取り、梯子を上るとナシータの入り口を僅かに
開けてそこから出っちょう口目を外に飛ばす。
「どうだのび太、見えるか?」
「うん……いた!たぶんパルスタの兵士だ……
大きな武器を抱えた兵士が一人と、その後ろに二人……
草むらの中に隠れながらこっちに向かって進んでる。
距離は……すぐ近くだ!」
「こっちに向かってるの?!」
「そう言えばさっき、姿を見られたのかもな……」
「分からないけど……でも、この先には森があったよ。タカベさんが隠れていたのもその森だった。
もし、森の先にトリユがあるんだとしたら。そこに向かっているのかもしれない。あ、また動いた!」
「スネオ、ショックガンと空気砲持って来い!」
ジャイアンが怒鳴るような声で叫ぶ。
スネオはOK!と応えると、手早くショックガンと空気砲を取り出した。
「よし、これをぶっ放して追い払ってやるぜ!」
ジャイアンは腕まくりをして空気砲を装着した。
しかしのび太はその様を見ると、強い口調で制止する。
「ダメだジャイアン!パルスタの兵士は草むらに隠れてる。
空気砲を撃つために外に出たら、それこそ格好の餌食だよ!」
「じゃあ、どうするっつーんだよ!このままだとここに攻め込まれちまうぞ!」
「スネオ、着せ替えカメラはある?」
「うん、ここにあるよ」
「よし、だったらすぐにタカベさんの着ている服と同じ模様のヘルメットを絵に描いて。
描き終わったらカメラに入れて、僕を撮ってくれ!」
普段ののび太では考えられないくらいテキパキとした口調でスネオに指示を飛ばす。
スネオは無言で頷くと、すぐさまイラストを描き始めた。
「のび太さん!一体どうするの?」
「僕の取り柄は、あやとりと射撃だけ……ってね」
のび太は無理しておどけたような口調で喋ると、静に向かってにっこりと微笑んだ。
けれど静の瞳には映っている、かたかたと震えるのび太の膝が。
「のび太、こっちに向かって立ってくれ!」
「OK!」
振り向いた瞬間、バチン、と音がしてシャッターが切られる。
次の瞬間、のび太の頭には迷彩柄のヘルメットが乗っかっていた。
「皆はここで待っていてくれ!」
それだけ言ってのび太は梯子の方に駆け出した。
目を閉じて、出っちょう口目の視界を瞼に映す。
パルスタ兵の頭上で虚空にぽかんと浮かんだ目玉が、更にその高度を上げた。
(ナシータの位置がここで……兵士がここにいて……よし)
脳内で外の地図を描いた。
手がぶるぶると震える。
ショックガンのグリップを握る手が、じんわりと汗で湿った。
大丈夫、僕ならやれる。
ギラーミンと対峙した時は、もっと怖かったさ――
これまでの大冒険の記憶が、のび太に勇気を与える。
『のびちゃんは、やればできる子だからねえ』
脳裏に大好きだったおばあちゃんの言葉が浮かんだ。
おばあちゃん、だるまさんは起きたよね。僕も今、ちゃんと立って、起きてるよ――
どうしてか、急にそんなことを考えた。そのうちに全身を包んでいた震えは、自然と収まっていた。
(行くぞ!)
弾かれたように梯子を握ると一気に最後の数段を駆け上がった。
それと同時に、ナシータの入り口を目の高さにだけ上げる。
目の前に広がる草むら、位置関係は全部分かっている。
後は、この銃を撃つだけだ。
それは瞬間のことだった。
のび太の内にある集中力の全てが、この時射撃に向かって収斂した。
バカン。
入り口の蓋が開く。
それと同時にケンジュの草原に顔を出すのび太。
疾風よりも速く右手のショックガンが現れると、その銃口がぱ、ぱ、ぱ、と三度光った。
刹那が永遠よりも長く感じられる。
トリガーを三度引いたのび太は、すぐに蓋を閉めると転げ落ちるようにナシータの中に戻った。
「大丈夫か?!」
「平気、のび太さん!?」
ワッと声を上げて3人がのび太の下に駆け寄る。
のび太ははあはあと口で息をつきながら再び瞼を閉じた。
虚空に浮かんだ目玉の視界。見える、倒れている兵士が一人、二人……そして三人。
目を開けたのび太は、みんなに向かって曖昧な笑顔を浮かべながらVサインをした。
「やったぜのび太!」
スネオが絶叫のような声を上げて、のび太に抱きついた。
次いでジャイアンがボディプレスのようにその上にのしかかる。
のび太は思わず苦しい、苦しいって!と悲鳴を上げたけれど、顔はくしゃくしゃになって笑っていた。
静は眼じりに涙を溜めながらその様子を見守っている。
丁度キリが良くなったので寝ようかと思うのですが……
人がいなければこのまま落としてしまおうかと思います。
お付き合い頂いて下さった方がいらっしゃれば、本当にありがとうございました!
130 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:04:47.79 ID:CbGIdEpC0
にくよくさんだよね。
面白かったです。
続き楽しみにしています。
131 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:05:27.58 ID:QS/UeyTx0
超乙でしたww
マジで面白いんだけどwww
132 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:06:11.34 ID:34/8QVEo0
>>132 ストックはまだあるんですけど、どうでしょうかね…
もし明日起きてスレが残ってたらここに投下しますし
なくなってたらブログか何かでまとめようかなー、なんて。
新しくスレ建てるのも気が引けますしね(;^ω^)
134 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:09:56.62 ID:QS/UeyTx0
じゃあとりあえず保守しておく?
>>134 負担でなければ、もし保守されてたら朝起きてすごく嬉しいです(*^ω^)
136 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:11:39.30 ID:34/8QVEo0
じゃあまだ少し起きてるからちょこちょこっと保守しにきますお( ^ω^)
137 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:13:03.63 ID:QS/UeyTx0
俺も6時くらいまでならおkですお( ^ω^)
ちょこっと目が冴えたんで、もう少し投下します( ^ω^)
皆さん、本当にありがとうございます(*^ω^)ポ
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「そうだ、こうしちゃいられない。兵士が気絶しているうちにタカベさんを帰さないと!」
「で、でもタカベさんはグッスリガスで眠っているからしばらくは起きないはず……」
そんなことを言いながらスネオがタカベの方を振り返る。そこには、想像だにしない光景が広がっていた。
「油断、したよ……」
スネオが昼食べたハンバーグランチ。その時に使われたフォークを、タカベは右手に握っていた。
フォークの先にはべったりと赤い血。
未だ眠気が覚めやらぬのか、タカベは壁にもたれかかりながらフラフラとこちらに歩いてきた。
その左足からはうっすらと血が滲んでいる。
「不思議な武器を、持っているんだな……」
怒っている様子はなかった。相変わらず穏やかな様子で笑うと、タカベは一歩、また一歩と梯子の方に歩んでいく。
「た、タカベさん!その、眠らせてしまったことは謝ります。けれど、あの時はああでもしないと……」
「いや、いいんだ。そこの彼の気持ちは、俺にだって理解できるさ」
言葉と共に、タカベはスネオの方をチラリと見た。
バツの悪そうな表情を浮かべるスネオだったが、穏やかに笑うタカベがスネオの頭を
くしゃくしゃと撫でた途端に突然ぽろぽろと泣き始めた。
「ごめん、なさい……」
「分かってる。
君は、君たちは、優しいんだな……」
「た、タカベさん!表にいたパルスタの兵士は、みんなやっつけました!」
のび太の言葉に、スネオを撫でていた手を止めるタカベ。
君たちが?という表情をのび太に向けたタカベだったがそれを聞いて緊張の糸が切れたのだろうか、
その場にどっさりと座り込んだ。
「すごいな、君たちは……」
「そんなこと……あ!し、しずかちゃん!」
「分かってる!」
のび太が言うよりも早く、静は包帯を持ってきた。
再びするすると包帯が伸びて、タカベの左足に巻きつく。
いくら眠気を覚ますためとはいえ、随分と無茶なことをしたものだった。
「これで外はもう安全です。
でも、その状態だと上手く歩けないだろうから僕たちがトリユまでタカベさんを運びます!」
「いや、そこまで世話にはなれない……」
「大丈夫ですよ!僕たちは色んな道具持ってるんですから。
タカベさんをトリユまで運ぶなんて、朝飯前ですよ!」
「それに、トリユの人たちにも会ってみたいしな!」
ジャイアンがそう言うと、皆気持ちは同じらしく、うんうんと頷いた。
「……すまない、何から何まで」
「そういうのは言いいっこなし!さ、行きましょ!」
涙を拭いながらスネオが言った。
のび太が『おもかるとう』を持ってくると、タカベの体重を紙ほどに軽くする。
「こりゃ楽ちんだな!」
タカベの体をジャイアンがおぶると、5人は揃って外に出た。
皆、笑っていた。
けれど往々にして世の中というものは、笑っていられる時間が短いものなのだ。
「ど、どこでもドアが!」
ケンジュの草原に出た5人の目に、絶望的な光景が広がる。
おそらく先の爆発のせいであろう、そこには粉々になったどこでもドアの姿があった。
散り散りになるドアの残骸、のび太は涙を浮かべながら、その前にへなへなと腰を砕いた。
「こんな、こんなことって……」
「ど、どうするんだよ!どこでもドアがなくなって、一体どうするんだよ!」
のび太の背後からジャイアンが詰め寄る。
それでも呆然としているのび太は何も答えられない。
静はバラバラになったどこでもドアの姿を見ると、手で顔を覆ってさめざめと泣いた。
「帰れなくなった、のか……」
その様子を見て、タカベが掠れた声で問いかけた。
放心したような表情ののび太は、頷いたのか、それとも絶望してのことなのか……
無言でがっくりとうなだれた。
「すまない、俺のせいで、こんな……」
「いえ、おそらく大丈夫だと思います」
その声に4人が一斉に振り返る。
声の主は、スネオだった。
「すぐに、とは言わないですが、おそらく帰れることには帰れると思います」
「ど、どういうことだよスネオ!」
「ほら、のび太とジャイアンが分身と約束してたじゃないの。
『一週間で交代しよう』
って。もし僕たちが一週間で帰らなかったら、きっと分身がドラえもんに騒ぎ立てるんじゃないかな。
もちろん一週間きっかりでドラえもんが来るかどうかは分からないけどさ」
その言葉に3人は、あ、と声を上げた。
裏山で交わした分身との約束。
少なくとも後五日もすれば4人の異変は地球に届くかもしれない。
そんな希望がのび太たちの胸に湧いた。
「そっか、そうだよな!少し頑張って待ってたら、きっとドラえもんがやって来るんだよな!」
「それに僕たちにはドラえもんのくれた道具もあるんだ。
5日くらい、すぐに過ぎちゃうって!」
「そうと決まったらこんな危ない所にはいられない。
適当に道具と荷物をまとめて、トリユに行こう!
先ほどまでぐったりとうなだれていたのび太が立ち上がると、駆け足にナシータへと向かった。
続いて静とスネオがその後を追う。
「帰れそうなのかい……?」
「大丈夫ですよタカベさん、俺たち、こういう冒険には慣れてますから!」
ジャイアンは強い調子でそう答えると、へへへ、とはにかむように笑った。
その笑顔を見てタカベは「強いな」と穏やかに呟く。
「トリユは、どっちの方向ですか?」
ベッドのシーツに包んだ道具をのび太、スネオ、静の3人が背負って飛ぶ。
先頭には、タカベを抱えたジャイアンが飛んでいた。
「もっと右だな」
「皆、右だ!」
ジャイアンが舵を取ると、一行は南に向かって速度を上げた。
「トリユってどんなところなんでしょうね」
「分からないけれど、きっとみんな幸せで、素晴らしい土地に決まってるさ!」
喋りながらのび太は再びトリユの地を思い描く。
皆が笑って、幸せそうな顔で、ゆっくりとした時間を過ごす。
そんな理想郷のような土地を頭に思い浮かべていた。
再びキリが良くなったので、ここで打ち切っておきます。
スレが残っていたら続きを投下します( ^ω^)
保守は無理をしないで下さいね。
それでは、どうもありがとうございましたノシ
145 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:25:50.63 ID:34/8QVEo0
お疲れ!続きワクテカしてまってますお
146 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:26:02.58 ID:CbGIdEpC0
乙ー
147 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:27:34.22 ID:QS/UeyTx0
乙でした、保守はまかせれw
148 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:42:43.62 ID:QS/UeyTx0
ところで、保守の間隔はどのくらいがいいんだ?
149 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:46:19.80 ID:34/8QVEo0
ある程度スレが落ちてきたらだと思うが、40分程度じゃないか?
150 :
閉鎖まであと 8日と 17時間:2007/01/15(月) 03:49:39.03 ID:QS/UeyTx0
そっか、dです( ^ω^)
それにしても、古き良き頃のドラえもん映画を思い出したよ
151 :
閉鎖まであと 8日と 16時間:2007/01/15(月) 04:11:29.77 ID:CbGIdEpC0
ほ
152 :
閉鎖まであと 8日と 16時間:2007/01/15(月) 04:24:44.56 ID:34/8QVEo0
ねるまえ保守
153 :
閉鎖まであと 8日と 16時間:2007/01/15(月) 04:42:19.53 ID:QS/UeyTx0
保守
154 :
閉鎖まであと 8日と 16時間:2007/01/15(月) 04:43:57.81 ID:0tEufCsPO
これはワクテカするしかない保守
155 :
閉鎖まであと 8日と 15時間:2007/01/15(月) 05:14:32.98 ID:QS/UeyTx0
保守保守
156 :
閉鎖まであと 8日と 14時間:2007/01/15(月) 06:04:59.08 ID:CbGIdEpC0
ほ
157 :
閉鎖まであと 8日と 14時間:2007/01/15(月) 06:43:08.15 ID:J13FbO6gO
保守
158 :
閉鎖まであと 8日と 13時間:2007/01/15(月) 07:03:17.98 ID:CbGIdEpC0
ほ
159 :
閉鎖まであと 8日と 13時間:2007/01/15(月) 07:14:34.83 ID:QS/UeyTx0
寝る前保守
160 :
閉鎖まであと 8日と 12時間:2007/01/15(月) 08:12:29.97 ID:J13FbO6gO
ほ
161 :
閉鎖まであと 8日と 12時間:2007/01/15(月) 08:54:05.29 ID:2uJCm8+9O
ほ
162 :
閉鎖まであと 8日と 11時間:2007/01/15(月) 09:32:22.89 ID:CbGIdEpC0
ほ
163 :
閉鎖まであと 8日と 10時間:2007/01/15(月) 10:16:04.11 ID:CbGIdEpC0
ほ
164 :
閉鎖まであと 8日と 10時間:2007/01/15(月) 10:44:06.91 ID:0tEufCsPO
保守
165 :
閉鎖まであと 8日と 9時間:2007/01/15(月) 11:16:51.27 ID:0tEufCsPO
保守
166 :
1:2007/01/15(月) 11:29:11.36 ID:2pacF7Bt0
保守ありがとうございます
ホントに嬉しいです( ^ω^)!!
今は所用で手が離せないので、昼杉くらいに続き貼ります。
すみませんが、もう少しお待ち下さい><
167 :
閉鎖まであと 8日と 9時間:2007/01/15(月) 11:42:32.39 ID:yTZHWQAC0
ほ
168 :
閉鎖まであと 8日と 9時間:2007/01/15(月) 11:52:48.30 ID:a7mTjAmC0
追いつき保守
169 :
閉鎖まであと 8日と 8時間:2007/01/15(月) 12:02:11.77 ID:0tEufCsPO
171 :
閉鎖まであと 8日と 8時間:2007/01/15(月) 12:32:32.92 ID:wPKtAutLO
ほ
172 :
閉鎖まであと 8日と 8時間:2007/01/15(月) 12:47:22.70 ID:0g91xjxLO
タカベの台詞が大塚明夫で脳内再生される
173 :
閉鎖まであと 8日と 7時間:2007/01/15(月) 13:21:25.50 ID:sq91eNHl0
こーーれはwktk!!!
174 :
閉鎖まであと 8日と 7時間:2007/01/15(月) 13:57:56.57 ID:noGVeRqr0
ほっしゅほっしゅ
175 :
1:2007/01/15(月) 14:12:18.11 ID:2pacF7Bt0
お待たせしました。
ようやく手が空いたので貼りますね( ^ω^)では。
176 :
閉鎖まであと 8日と 6時間:2007/01/15(月) 14:20:43.45 ID:sq91eNHl0
まってたよん
「あれじゃないの?」
4人が一斉にスネオが指し示した方を見た。
森を抜けたあたりに集落のような場所が広がっている。
もう少し遠方には大きな建物と巨木。
「あれがトリユだよ」
ジャイアンに背負われたタカベが嬉しそうに口を開いた。
それを聞いた4人は少しずつ高度を下げる。
足元を見ると、地表は土がむき出しになっていた。
ケンジュの草原と違ってトリユの土壌にはあまり草が生えていないようだ。
「もう大丈夫、ジャイアン。自分で歩けそうだ」
出し抜けにジャイアンと呼ばれたことに照れてしまったのか、でへへ
と奇妙な笑い声を上げながらタカベを背中から下ろした。
「ここがトリユかあ」
「なんだか、さっぱりとした所ね」
「さっぱりっていうか、何もないっていうか……」
見渡してみると家らしき建物はそれなりに存在しているのだけれど、華美な建築物などは一切なかった。
それに付けても目に付くのは、人々の元気のない顔だった。
木陰に座り、木の幹にもたれ掛ってぼんやりとしている人、険しい顔をして立ち話をしている人、
つまらなさそうに石ころ遊びをしている子供。
皆が笑顔で、幸せそうに暮らしている街……
そんな群像をトリユに求めていたけれど、そこにあったのはどんよりと停滞した
疲弊と諦念を孕んだ空気であった。
「何だかみんな、元気ないね」
「仕方ないさ、今は戦争中なんだ」
のび太の言葉にスネオがあっけらかんとした口調で返す。
『戦争』
先ほどまで他人事のように考えていたものが、トリユの現実を目の当たりに
するにつけ急に現実のものとして意識された。
「何かさっきから、街の人たちが俺たちの方をチラチラ見てるよなあ」
「僕たちの着ている服が見慣れないから、もの珍しいんでしょ」
「でもよ、それにしてはのび太としずかちゃんばかり見られてる気がすんだけどなあ」
ジャイアンとスネオの何気ないやり取りだったが、タカベはその言葉にハッとした様子だった。
少し急いだような口調で「こちらだ」と4人を促すと、ほとんど人気のない道を歩いた。
「これから国王と会ってもらう」
「国王、ですかあ?!」
「心配することはないさ。
トリユでは平民の国王との間にそんなに差異があるわけではない。
こう言っちゃあなんだが、あくまで便宜的な呼び名だったりするもんだよ。
それに、しばらくここで過ごすのなら最初に国王に会っておいてもいいんじゃないかな」
「ううん……そうですね、タカベさんがそう言うなら」
「もうすぐ着くからな。……まあ、少し驚くかもしれんが」
緩やかな坂道を登りきると、視界が開けた。
そこは小高い丘のようになっており、だだっ広い広場のような
場所の中心にひときわ大きな建物が位置している。
その後ろには見上げるばかりの巨大な木。
先ほど空から見た木と建物に相違なかった。
「ここがトリユの中央会議場だ。
平時はほとんど使われることはないんだが、今は非常時だからな。
この中で国のあれこれを決めるのさ。中には図書館もあるんだ」
説明しながらもタカベはずんずんと歩んでいく。
どうしてそんなに急ぐのだろうか、と思わないでもなかったけれど
おそらく先ほど口にしていた『任務』と何らかの関係があるのだろう。
そのまま後に続いて会議場の中に入った。
施設の中には本を読んでいる人がまばらにいるだけで、ほとんどがらんどうだった。
外から見ると大きな建物に見えたけれど、じっくり見てみればのび太たちの通う学校の
ワンフロア程度の大きさしかないようである。
図書館と会議場を兼ねた建物にしては幾分小さいような印象を受けた。
もっとも、個人がそれぞれやりたいようにやる、という国家にあっては
そもそも会議場が必要になることがないからかもしれない。
「突き当たった部屋が会議室だ。最初に俺が入るから、皆はその後に着いてきてくれ」
タカベはそれだけ言って、一度姿勢を正すと目の前のドアをノックした。
扉の向こうから「誰だ」という声がする。
「タカベです。失礼します」
重々しい声でそう応えたタカベは機械のような動作でノブを回すと、正しい軍人のような所作で
会議室の中に入っていった。
4人がその後にぞろぞろと続く。
部屋の中にはラウンドテーブルが1卓あり、その背後には大枠の窓。
入り口から一番遠い場所に3人座っているのがシルエットで見えたが、
背後にある窓から降り注ぐ光が逆光となって顔はよく見えなかった。
181 :
閉鎖まであと 8日と 6時間:2007/01/15(月) 14:45:58.34 ID:sq91eNHl0
緊迫
「ご苦労だったね、タカベ。
無事に帰ってこれて何よりだ。
ところで、後ろにいる人たちは?」
「はい。パルスタから帰還する途中に、森で倒れていた私を救出して
手当てしてくれた者たちです。
しばらくトリユに留まる、ということでしたので一度国王に面通ししていただこうかと」
「ああ、そうなんだ……タカベ、もっと中に入ってもらって」
はい、と返事をしたタカベは4人を会議室の中に促す。
国王に、そして会議室。
大層重苦しい雰囲気なのだろうな、と思っていたが、予想とは裏腹に
会議室の空気はフランクなものだった。
おそらく、国王の口調が柔らかいからだろう。
その一点からも、トリユという国がどんな様子なのか窺い知れる気がした。
一歩、二歩と会議室の中に歩んでいくにつれ、テーブルに座っている3人の
シルエットが明るくなっていく。
よく見ると、真ん中に座っている国王の影は横の二人に比べてひどく小さく、
あたかも漢字の『凹』の字のような風情だった。
ばかに小さい人だな、のび太がそんなことを思いながら国王の顔に目を遣る。
そこにあるのは黒髪に丸メガネ、あどけない顔。
183 :
閉鎖まであと 8日と 6時間:2007/01/15(月) 14:52:20.36 ID:sq91eNHl0
wktk
「え……」
のび太は一瞬狐につままれたような気持ちになり、目をしばたたかせる。
しかし何度見てもそこには自分とそっくりの人間が、それこそ分身ハンマーで
飛び出した分身のような存在が座っていたのであった。
「ぼ、僕?!」
「の、のび太が二人!?」
のび太は、先ほどナシータでタカベが自分のことを『国王』と呼んでいたことを思い出した。
あの時は何のことか皆目見当がつかなかったけれど、今目の前に座っている国王の
顔を見ると、タカベの誤解はすぐに理解できた。
「お、驚いたな……」
狼狽しているのは国王にしても同じようで、何度も目をぱちくりとさせながらのび太の顔を見た。
着ている服こそ違うものの、髪型も、輪郭も、声のトーンも何から何まで一緒なのである。
そのまま国王とのび太はしばらく見詰め合っていたが、ふとその視線がのび太から外れた。
「エイレーネー帝?」
どこかで聞いたことのあるその名前、それはタカベが静を見た時に発したのと同じ言葉だった。
国王はのび太を見た時よりも更に驚いたような表情で静を見据える。
国王の左右にいた側近と思しき二人も、静の顔を見て一気に表情を堅くした。
「国王、その娘はエイレーネー帝ではありません。
私も最初に見た時は随分と驚きました。
にわかに信じ難いかとは思いますが、この者は赤の他人です」
タカベはそのままのび太たちとの一部始終を国王に話した。
怪我をすぐに治してくれたこと、パルスタ兵を撃退したこと、不思議な道具を持っていること、
そしてこの星の人間ではないこと……。
「チキュウ……そんな星があるんだね」
「国王、信用されるのですか?私にはどうにも妖しいように思えるのですが……」
側近の一人が不信感を隠そうともしない様子で国王に耳打ちした。
その不遜な態度に思わずムッとした気持ちになる。
186 :
閉鎖まであと 8日と 5時間:2007/01/15(月) 15:05:06.85 ID:sq91eNHl0
むっ
187 :
閉鎖まであと 8日と 5時間:2007/01/15(月) 15:05:24.28 ID:v0F4EpND0
「お言葉ですがミヤイ殿、この者たちの持つ技術は
我々では到底考えられないものばかりです。
国王も、一度ご覧になれば疑われる気持ちも晴れるかと」
「いや、いいんだタカベ。お前の言うことなら僕は信用するさ」
「しかし国王!」
「ミヤイ、死ぬ思いでパルスタへの斥候から帰ってきたタカベが
どうして僕を騙そうっていうんだ?」
国王はピシャリと言ってのけた。
そのキッパリとした口調に、ミヤイは反論の接ぎ穂を失ったのか
不承不承といった風情で黙り込む。
「のび太さん、そしてそのお連れの方。
遠い星からはるばるこのヒストリアまでようこそお越し下さいました。
紹介が遅れましたが、私はトリユ国国王、ロイです」
国王の口調が急に改まった。
自分と同じ容貌をした人間が『らしからぬ』言葉を吐くのを見て
のび太は急にむずかゆい気持ちになる。
「国は今こんな状態でおもてなしはできそうにありませんが
せめてお帰りになるまでの間はごゆっくりしていって下さい」
ロイはそう言って目を細めて笑った。
その笑顔は未だあどけなさの残るもので、のび太もつられて
えへへ、と締まりのない笑顔を浮かべる。
「さて、来てもらって早々で悪いんだが、これからタカベに
報告を行なってもらわなくっちゃいけない。だから君たちは……」
「そうですね。のび太くん、申し訳ないんだが国王との会議が終わるまで
しばらく図書館の方にいててくれないか?
そんなに長い時間は掛からないと思うのだが」
「はい。分かりました。じゃ、外で待っておきますね!」
「うん、すまないね。それと……静くん、だったかな」
「はい?」
「君は、極力トリユの人たちの目に付かないようにしてくれ」
「え?どうしてですか?」
「理由は後で話す。とにかく今は、言われた通りにしてはくれないだろうか?」
突然のことに静は何が何だか分からない、という表情を浮かべたが
タカベの真剣そのものの眼差しを見て「分かりました」とだけ言った。
「じゃ、失礼しまーす」
間の抜けた声でジャイアンが言うと、会議室にはトリユの人間だけが残る。
ロイはタカベの顔をじっと見つめた後、ふう、と長いため息をついた。
「心配したよ、本当に。もう帰ってこないんじゃないかって」
「申し訳ありませんでした。離脱する際に思わぬ怪我を負ってしまって」
「何はともあれ、無事に帰って来れて良かったよ。
それで、パルスタの方はどんな状況だった?」
「……パルスタ軍の戦闘準備は既に整っていました。
いつ攻め込まれてもおかしくない状態と言えます」
「やっぱり激突は避けられないんだね」
「国王、我々のとれる最善の策は奇襲だけです。
けれどそれも我が軍の斥候が捕まったことによってほぼ不可能になりました。
それに、戻ってくる途中にもパルスタの兵と思しき斥候が
ケンジュにまでやって来ているのを確認しています。
国王、このまま戦力に劣る我々がパルスタとやり合うのは
みすみす死にに行くようなものです」
「タカベ!口が過ぎるぞ!」
タカベの報告を聞いたミヤイが激しい口調で意見を差し挟む。
タカベは表情を変えずに、申し訳ありません、と小声で言った。
「タカベは、どうしたらいいと思うの?」
「兵士のこと、民のこと、そして国王のことを考えれば……
パルスタの要求を呑む他ないかと、思います」
一言一言、確かめるような口調でタカベはロイに進言する。
再びミヤイが何か言おうと腰を上げかけたが、ロイはそれを無言で制した。
「もう一度、パルスタに併合されろっていうことか」
「仰る通りです」
張り詰めた空気が会議室に充満する。
兵力も足りない、策も利かない。
『降伏するべきだ』、それはあらゆる状況を勘案した上での言葉だった。
国王は眉間に皺を寄せて押し黙っていたが、数分の沈黙ののちに口を開いた。
「それでも戦って、勝ってくれ。僕らの、ヒストリアの自由のために」
「……承知しました」
「パルスタ兵がケンジュにまでやって来ていたことから考えると、
もう一刻の猶予もないだろう。
できるだけ早くケンジュに進軍してくれ。
それから先の軍の指揮権はタカベに預ける。
使える物や人は全部持っていってくれてかまわない。
残った者には、後方で負傷兵の手当てをさせる」
国王の言葉にタカベが無言で敬礼すると、くるりと回れ右をして
会議室のドアに向かった。その背中に国王が声を掛ける。
「……死なないでね」
その言葉にタカベは足を止めたが、それも一瞬のことで
大声で「失礼します!」と言うとそのまま足早に会議室を後にした。
「あ、タカベさん!」
会議室から出てきたタカベの下にのび太が駆け寄る。
ジャイアンとスネオは図書館にあった本を枕にして、机に突っ伏して眠っていた。
静はひとり黙々と本を読んでいる。
「待たせたね。さ、とりあえず君たちを寝床に案内しないとな。おっと、その前に」
タカベは静の方を見た。
静もそれに気付いたようで、読んでいた本をぱたんと閉じると
真面目な顔つきでタカベの目を見つめ返す。
「さっきのタカベさんの言葉、あれは一体どういう……」
「のび太君が我が国王に瓜二つであるように、静くん、
君はパルスタの皇帝・エイレーネーに生き写しなんだ」
やはりな、とのび太は思った。
ナシータでタカベが静に見せたあの殺気、そして先ほどの国王の狼狽具合。
静もそれはある程度予想していたらしく、そうですか、と呟いた。
「でもさあ、トリユにしてもパルスタにしても、どうしてそんな子供が国王とか
皇帝をやってんのかな。おかしいじゃん、だってこんなに沢山大人がいるってのにさ」
いつの間にか目を覚ましていたスネオが脇から口を挟む。
確かに考えてみれば、それは不自然なことのように思えた。
「エイレーネー帝は、先代パルスタ帝の一人娘なんだ。
数年前に先代が病で急死したから、自動的に娘であるエイレーネーが
皇位を継いだのさ。もちろんそれは形だけのもので、実際に政治を指揮してるのは
別の人間だがね。傀儡政権、と言ってもいいかもしれない」
「か、かいら……?」
「操り人形ってことだ。王様だけど、何もできない、言われるがまま……
ま、パルスタのような大国を年端もいかない子供が指揮できるはずもないから
当然なんだけどな。それで、トリユなんだが」
「やっぱりロイさんも、エイレーネーと同じで二代目なの?」
のび太は聞きながら、自分と同じような顔をした人間のことを『さん』付けで呼ぶ
ことには少し違和感があるな、と思った。
「ああ、それもある。
けれどトリユの場合、大人があれこれ政治的実権を持つことはよろしくないと考えたんだ。
子供の方が自由って言葉に対して貪欲だからね。
子供の持つ純粋で、悪意のない意見。
それをこの国の指針とする……結果、今の国王がいるってわけさ」
子供の持つ純粋で、悪意のない意見、か――
のび太は考えながら、自分が理想した社会がトリユに極めて近い
ことの理由がなんとなく分かった気がした。
「世襲した二代目国王同士の戦争か。因縁の戦いってわけだね」
「因縁の争い!血で血を洗う抗争!仁義なき戦い!親分ー!」
ひとり苦悶の表情を浮かべ芝居がかった声を出すジャイアンを見ながら、
こいつってこんな奴だったかな、とのび太は思った。
「そういうわけだから、静くんはなるべく顔が分からないようにして欲しいんだが……」
「そういうことだったら、な!スネオ」
「任せてよ!」
まとめられた道具の中から手早く着せ替えカメラを取り出すスネオ。
紙を広げると、ささっと静のためのイラストを描いた。
「じゃあしずかちゃん、こっち向いて!」
バチン!と音がして静の服装が変わった。
ボーイッシュな装いで、頭にはベージュのハットが乗せられている。
ご丁寧にメガネまで付けられていた。
「うん、いいね。それで髪の毛をハットの中に上げちゃえば」
「こう?」
言いながら静がお下げの髪を帽子の中に入れ込む。
パッと見ただけでは女の子とは分からないような容貌になった。
「しずかちゃん、メガネも可愛いねえ」
のび太がデレデレと笑った。
その隙にスネオが何やらカメラをいじったかと思うと、バチン!
と音がして一瞬でのび太の服装が変わる。
196 :
閉鎖まであと 8日と 5時間:2007/01/15(月) 15:48:27.46 ID:sq91eNHl0
の、のびた?
「わっ!何するんだよスネオ!」
「よっ!国王!」
よく見ると、のび太の服装が先ほど会った国王の服装と全く同じものになっている。
「ほう、こうして見ると本当にどちらがどちらだか分からなくなるな」
その姿を見て、タカベが率直な感想を漏らした。
スネオとジャイアンも「よっ!色男!」などと言って持て囃している。
「よし、じゃあ行こうか」
「ちょ、ちょっとタカベさん!僕、このままですか?!
ま、街がパニックになるんじゃあ」
「はは、のび太くん。
さっきも言ったと思うけど、我が国王はそんなに権威的なものではないんだ。
民との中もすこぶるいい。
街をふらふら歩いてたとしても、別段珍しいことではないさ。それに」
そこでタカベはいたずらっぽい笑みを浮かべると、腰を落としてのび太の目線に合わせた。
「何か、面白そうじゃないか」
タカベはからからと朗らかに笑った。
のび太は未だ納得いかない気持ちだったが、楽しそうに笑うタカベの顔を見ているうちに
「まあ、これもいいか」という気持ちになった。
すみません、またもやちょっと出かけなきゃいけなくて…。
6時前には再投下できると思います('A`)
断続的で申し訳ないです。
199 :
閉鎖まであと 8日と 5時間:2007/01/15(月) 15:54:16.27 ID:sq91eNHl0
まってるよん
乙
200 :
閉鎖まであと 8日と 5時間:2007/01/15(月) 15:55:54.66 ID:m5W3vttAO
zipでくれ。
嘘です、乙です。
とても面白いです。
脳内音声、絵、共に旧ドラです。
201 :
閉鎖まであと 8日と 4時間:2007/01/15(月) 16:00:31.00 ID:JF53g8jp0
ほしう
202 :
閉鎖まであと 8日と 4時間:2007/01/15(月) 16:11:08.78 ID:noGVeRqr0
乙です
保守です
203 :
閉鎖まであと 8日と 4時間:2007/01/15(月) 16:18:19.67 ID:dMtbkjJL0
\ /
_____
/ ヽ /^ \
_ /________ ヽ (_/ ヽ
|ノ─ 、/─ 、ヽ | ヽ (_\/
,| \ |・ | | j ヽ `−ノ
. || 二 | | ̄ ⌒ヽ′ / /
/ /ー C ` ─ \) _ノ / /
! ⊂──´⌒ヽ ノ/( / ノノ
\ \_(⌒⌒_) /! ヽ、/
` ,┬─_− ´/ ヽ /
/ |/ \/ く
(( /\ \ ヽ
/, ─ 、/ \ /\
. ( l l j \ ___ / ヽ
204 :
閉鎖まであと 8日と 4時間:2007/01/15(月) 16:24:09.19 ID:noGVeRqr0
((=゚・゚))<タイムマシンで6時のこのスレに行って続きを読んでくるよ
205 :
閉鎖まであと 8日と 4時間:2007/01/15(月) 16:26:46.67 ID:0tEufCsPO
乙!
昔の映画を思い出すよ。
続きに期待!
ほ
追い付いた
何このおもしろいスレ
208 :
閉鎖まであと 8日と 3時間:2007/01/15(月) 17:44:46.06 ID:6UltEEIj0
ほっしゅ
209 :
閉鎖まであと 8日と 3時間:2007/01/15(月) 17:52:32.28 ID:93R+ZtiN0
やっぱ高部はスネークですよね
210 :
閉鎖まであと 8日と 3時間:2007/01/15(月) 17:55:16.99 ID:noGVeRqr0
タカベ「こちらタカベ。パルスタの基地に潜入した。指示をくれ、ノビ」
国王は若本規夫ボイスに脳内変換していいかな?
212 :
閉鎖まであと 8日と 2時間:2007/01/15(月) 18:05:03.65 ID:noGVeRqr0
((=゚・゚))<まだうpされてないみたいだ。6時半のこのスレに行ってみよう
213 :
1:2007/01/15(月) 18:28:39.15 ID:0A52ApO+0
ただ今帰りました。
続きを貼ります。
「木の多い国ですねぇ」
坂道を来たほうに下りながら、スネオが率直な感想を述べた。
つられてのび太も顔を見上げる。
なるほど、確かにトリユの街にはそこかしこに大振りな木が生えている。
「そうかもな。
街にある自然は切り崩したりしないようにして家屋を建築してるからな。
パルスタはその逆で、路をきちんと整地したり、邪魔な木々はどんどん伐採しているんだけれど」
ふと、のび太は自分の住む町のことを思い出した。
昔にくらべるとあの町からも随分緑が減った気がする。
かつてであれば他人の庭先に生えた柿の木から柿を盗んだりして怒られたりもしたけれど、
今では柿の木自体ほとんど見なくなったように思う。
「ここが俺の家だ。皆はここを自由に使ってくれていい。
ま、そんなに大した物はないけどな」
タカベが右手に示した先には、古いとも新しいともつかない木造の家が建っていた。
どこか宿か何かに案内されるものとばかり思っていた4人にしてみれば、
いきなりタカベの家に案内され少し驚く。
「お気持ちはありがたいんですが……タカベさんはどうするんですか?」
「俺かい?俺はこれからしばらく軍の本部に戻るよ。
おそらくしばらくは帰ってこれない。だから気兼ねせずに使ってくれ」
「軍の本部って……」
のび太は再び『戦争』という言葉を思い出した。
タカベと談笑しているうちにすっかり失念していたけれど、
今トリユ国は戦争の真っ只中にいるのだ。
そうだとすれば、軍人であるタカベがいつまでも自宅でゆっくりしているはずはない。
それは当たり前のことであるはずだが、しかしのび太は戦場に赴く
タカベの姿を想像して暗澹たる気持ちに包まれた。
「俺はこれから本部に向かう。無事に地球に帰れるように祈っておくよ。じゃあな」
軽く手を上げてタカベは踵を返す。
足早に4人の下から遠ざかっていくタカベの背中に、強い西日がじりじりと照りつけられていた。
「タカベさん!」
意識してのことではなく、のび太の口から自然と声が出た。
その声は思いのほか大声で、思わず周りの3人もびくりと肩を震わせる。
タカベが立ち止まり、まっすぐにのび太に振り返った。
「また、会えますよね!」
突然強い風が吹き、むき出しになった地面から砂埃が舞い上がる。
慌てて腕で顔を覆うのだけれど、どうやらメガネの隙間から砂が入り込んだらしい。
のび太の目が涙で滲んだ。
「……るよ!」
「え……?」
砂埃に目が眩んでいる瞬間、タカベの声が鼓膜を揺らす。
けれどその言葉はどうにも上手く聞き取れなかった。
のび太はごしごしと強く目をこすると、もたつく手でメガネを掛けなおしてタカベの背中を目で追う。
視界に捉えたタカベの背中は今は遥か遠方、すぐにでも森の中に入ってしまいそうな場所にあった。
「タカベさーん!」
もう一度、声の限りにのび太が叫ぶ。ねえタカベさん、さっきあなたは何て言ったんですか――そんなような思いを託して。タカベはしかし、振り返ろうとはせずただゆっくりと右手を上げて応えると、迷彩の戦闘服に溶けて森へと消えた。
・・・
「退屈だなあ、それにしても」
タカベの家のベッドにごろりと寝転んだまま、ジャイアンが不満の声を上げる。
あたりは夕景に包まれており、窓の外に目を遣ると
日が完全に落ちてしまうまであと何時間もないことを感じさせた。
「それにしてもテレビもないなんてなあ」
ジャイアンは相変わらずぶつくさと言っている。
退屈はのび太も感じていたけれど、無言で消えていったタカベの背中が
妙に頭に残っており、胸がざわざわと騒いだ。
「ねえ、ロイさんのところに行って一緒にご飯食べましょうよ!」
「国王のところで?一緒に食べてくれんのかなあ」
「地球の食べ物を食べましょうって言ったら、きっと興味を示してくれるわよ。
それにロイさん、そんなに偉そうな感じじゃなかったわ。
もし断られても、ここでジッとしてるよりはいいじゃない」
結局3人は静の意見に賛同し、のび太がグルメテーブルかけを手にすると
タカベの家を出た。通りにはほとんど人がいない。
トリユの民も夕食を摂っている頃なのだろうか。
「あれ?ここを左じゃなかったっけ?」
「右だよ、この方向音痴!」
タカベの家から中央会議場はそれほど遠くなかった。
5分ほど歩くと先ほど下った坂道が姿を現す。
4人とも何となく無言になってしまい、沈黙を保ったまま坂道を登りきった。
「夕方に来ると、あの大きな木がちょっと不気味だよなあ」
会議場裏の大木が西日を受けて真っ赤に映える。
会議場も背中に日の光を受けているせいか、ほとんど真っ黒な建物に見えた。
のび太の目にはその光景が少しばかり異様に写り、思わず寒気がした。
「まだ居てくれたらいいんだけど」
図書館にはさっきまでまばらにいた人たちの姿が既になくなっていた。
シーンと静まり返った図書館は、まるで本だけがその世界を支配して
いるかのような佇まいだった。
「ごめんくださ……」
会議室のドアをノックしかけたのび太の手が止まる。
ジャイアンがどうしたんだよ、とばかりにのび太の肩を掴んだが、
のび太はすぐに振り返って「静かに」というようなジェスチャーをした。
「……トリユは捨てて……逃げるべきです……!」
「……それでは……兵士たち……」
耳をそばだてると、中から諍うような声が聞こえてきた。
トリユを捨てる?
逃げる?
声の主はおそらくロイと、側近のミヤイのそれだった。
「揉めてるの?」
スネオがのび太に小声で問いかける。
のび太は口の形だけで「分からない」と伝えた。
そのままじっと集中して会議室の会話を盗み聞く。
「……スタが恐れているのはタカベ……やつの首さえ……」
「……カベは仲間だ……できない……!」
のび太は思わず息を呑んだ。
どうしてここでタカベさんの名前が出てきているの?
同時に、脳裏に先ほどのタカベの煤けたような背中が浮かぶ。
どうしようもない胸騒ぎが心臓のあたりに小さな穴を空けると、それは一息に全身まで広がった。
「何か、よくないことが起ころうとしている」
それは幾多もの冒険を潜り抜けた、のび太の直感だった。
「失礼します!」
さっきよりクリアーな声がドア越しに聞こえる。
次いで、怒ったような強い足跡。
誰かがこのドアから出てくるのだと理解した4人は慌てて
ドアの前から飛びのいて壁に体をくっ付ける。
バタン。大きな音でドアが開き、ミヤイが肩を怒らせながら会議室を後にした。
「何が、あったんだろう」
図書館を抜け、ミヤイの姿が消えたことを確認してからスネオがぽつりと呟いた。
何かがあった。
しかし何があったのかは、分からない。
「とにかく、ロイさんと話してみよう」
「おう、俺はもう腹がペコペコだぞ」
「ジャイアンはいつもペコペコじゃないの」
スネオとジャイアンがいつものように掛け合う。
その何気ない光景が、のび太のざわつく心を優しく癒してくれた。
「失礼します」
ノックをして静が会議室に足をいれる。
次いで、のび太。部屋の真ん中にはラウンドテーブル、西日を受けて
部屋全体が真っ赤に染まっているようだった。
ロイはその中でひとり眉間に手を当てて座っていたが、
4人の来訪に気付くとにっこりと笑った。
「やあ、地球の――どうしたんだい?何か不都合でもあった?」
声に疲れが滲んでいた。
無理のないことだろう、いくら建前的な国王といえど、今は戦時中である。
平民ですら疲弊するというのに、一国の元首たる者がどれほどのプレッシャーを感じているのか。
それはいくら考えても及びのつかないものだ。
「あのう、もしお食事がまだだったら、私たちと一緒にいかがかなと思いまして。
地球の料理に、ご興味はありませんか?」
「地球の?」
「そうです!こうやって知り合えたのも何かの縁ですし、
ヒストリアと地球との文化交流ということで、ひとつ!」
相変わらずスネオは弁舌にベラベラと喋る。
末は詐欺師か弁護士だな、そんなことを考えながらのび太は国王の隣に歩み寄った。
「ねえ、ロイさん。色々大変だろうけどさ、ご飯はきちんと食べないといけないんじゃないかな。
ロイさんが倒れちゃったら、それこそ大変なことになると思うよ」
「お、おいのび太!お前国王にそんな失礼な口……」
「いや、いいんだ。僕と君たちはそんなに年齢も変わらないみたいだし、
変にかしこまった態度を取られたらこっちが恐縮しちゃうよ」
ロイはそう言って機嫌よさそうに笑うと、4人に席を勧めた。
ロイから一つ席を空けた横にのび太、その隣に静、スネオ、ジャイアンと続く。
「じゃあせっかくの厚意に甘えることにするよ。
でも、見たところ何も持っていないようだけど?」
「ここから食事が出てくるんですよ!」
のび太は得意気に言うと、机の上にグルメテーブルかけを広げた。
「ただの布切れに見えるけれど」
「カツ丼!」
脇からジャイアンがすかさず叫ぶ。
それと同時に、テーブルの上にできたてのカツ丼が現れた。
目を剥いてその光景を見るロイに、4人はにやにやと笑った。
「こうやって好きな食べ物を注文したら、ここからぽんぽん出てくるんですよ」
「あたし、スパゲッティー」
「僕はビーフシチュー!」
静、スネオが立て続けに注文した。机の上に注文どおりの品が並ぶ。
出来たての食事のいい匂いが会議室を包んだ。
「すごいな、これは……」
ロイは心から驚嘆した様子でその模様を見つめた。
ジャイアンはいただきますを言うこともなく、早くも丼を半分空にしていた。
「じゃ、ロイさんもどうぞ!」
のび太はそうやって勧めたが、ロイは困ったような表情を浮かべた。
「僕には地球の食べ物のことがよく分からないから……
そうだな、のび太くんと同じものでいいよ」
「ぼ、僕と?」
「ロイさん、こいつと同じ食べ物だったらおこちゃまランチになっちゃいますよ」
スネオがビーフシチューをすすりながら混ぜっ返した。
のび太はスネオのことを睨みつけたけれど、図星だったのだろう、
小さな声で「おこさまランチ」と注文する。
チキンライスにハンバーグ、スパゲッティーに、そしてデザート。
彩りだけは豊かなランチプレートだった。
けれどロイはそれをもの珍しそうな目で見る。
「きれいな食事だね。うん、僕もそれを貰うよ。
ええと、『おこさまランチ』!」
テーブルにのび太と全く同じおこさまランチが現れた。
のび太がそれを手に取ると、ロイの目の前に差し出す。
「これが地球の食べ物かあ。美味しそうだね!
ところでこれは何ていう食べ物なんだい?」
そう言ってロイはチキンライスに突き立てられていた小さな旗を手にした。
「ろ、ロイさん!それは食べ物じゃないんだよ!それはその、飾り?」
「え?食事なのに飾りが付いてるの?」
予想外ののび太の言葉に、ロイがびっくりした声を上げる。
そのやり取りを聞いて静がくすくすと笑った。
「じゃあ、他のみんなの食事にも飾りが付いてるの?」
「さ、さあロイさん!とにかく食べましょう!」
全く同じ顔をした二人が漫才のような掛け合いをしているのを見て、
残りの3人は大声で笑った。
・・・
「とっても美味しかったよ。
こんな食べ物、ヒストリアにはないな。どうもありがとう」
皆がすっかり食事を終えた頃、ロイは4人に向けて感謝の言葉を述べた。
ジャイアンの目の前には、丼のほかにカレーライスの器も転がっていた。
「ところでロイさん、一つ聞いてもいい?」
出し抜けにのび太がロイに問いかける。
ロイは振舞われた日本茶の熱さに悪戦苦闘しながらも、なんだい、と答えた。
「こんなこと聞いていいかは分からないんだけど……
さっき、ミヤイさんと一体何の話をしていたんですか?」
ロイが表情を強張らせた。
急に雰囲気が変わったことに、思わずのび太もたじろいでしまう。
けれど先ほどの胸騒ぎが忘れられないのび太は、なおも黙ってロイの言葉を待った。
「まもなく我が軍がケンジュ草原に進軍を開始するんだ。
だから、そのことに関する話し合いだよ。君たちに関係のある話じゃない」
ケンジュ草原に進軍する――
のび太は昨日パルスタ兵をショックガンで撃ったことを思い出した。
おそらく、今回の戦いはあんな小規模なものではいられないのだろう。
何百、何千、いやもしかしたら何万もの兵士があそこで戦いを繰り広げるのだ。
そうなればタカベさんだって……。
のび太は自分の胸に沸いた胸騒ぎの意味が分かった。
「そ、そんな!戦争は、戦争は避けられないの!?」
こんなことを言うのは筋違いだと分かっていてものび太は言葉を止められない。
タカベの優しい言葉、笑い顔。
今までに会ったことのない種類の大人だった。
一緒にいた時間は短かったけれど、タカベはどこか人好きされる何かがある。
それは静も、スネオも、ジャイアンにしても同じらしく、皆一様に複雑な表情を浮かべていた。
「そうは言うけれど、これは僕たちが持ちかけた戦争じゃない。
パルスタが一方的にトリユに宣戦布告をしてきて、戦争を仕掛けている。
だからこそ僕は、僕たちにはトリユを守る義務がある。
トリユを守る、そのためには武力で応じるしか途はないんだよ」
「でも、トリユの人たちを守りたいんだったら、パルスタの言うことを聞いて
ある程度譲ってもいいじゃない!」
「じゃあ君は、僕たちにしたくもない勉強を、やりたくもない労働をやれって、そう言うのかい?
偉い人からあれこれ強制されて、自分の時間もないままに毎日を過ごして、
そうやって死んでいけって言うのかい?
パルスタに戻るってことは、そういう意味なんだよ」
「でも、それでも死ぬよりは――」
言いかけてのび太はハッと口をつぐんだ。
学校、遅刻、宿題、居残り……
ヒストリアにやって来た当初の目的が次々と思い出される。
『学校ってそういうもんだから、我慢しないとだめなのよ、のびちゃん』
いつか母親に言われた言葉が、急に記憶に蘇った。
学校に行きたくない
どうして宿題があるの?
遅刻したらなんでダメなの?
そんなことを素直にぶつけたあの日。
『学校だって、楽しくないことばかりじゃないでしょう?』
母は、最後には決まってそう言った。
友達と遊べるんだから
日曜日は休みなんだから
夏休みだってあるんだから
だから、だから、だから……。
『我慢しなさい』
死ぬほど納得できなかったその言葉と。
「死ぬよりはマシ」と言いかけた僕の言葉と。
では一体何が違うと言うのだろう?
思わずのび太は考えこむ。
しかしのび太の幼い頭では、頭のどこを突いても答えは出てきそうになかった。
「心配してくれてるんだね。ありがとう。
でも、大丈夫だよ。トリユの人たちは強い。それに……」
すっかりぬるくなった日本茶の器を手の中で弄びながら、ロイは一つ息を継いだ。
「トリユには、タカベがいるからね」
「タカベさん……?」
「うん、君たちは聞いてないかもしれないけれど、タカベは兵士の中でも別格なんだ。
ヒストリアの歴史は聞いたかい?」
「ええ、それは。30年前にパルスタが独立した、って」
「そう。それと前後して、この星では大きな戦争があった。
小国同士が潰しあい、大国が小国を取り込んだ。血で血を洗い、
更にまた新しい血が大地に流れる。
僕の生まれるずっと前の話だけどね、それはもの凄い戦いだったらしい。
ま、その辺はどうでもいいんだけど、のび太くん。
タカベの父親は、その長く続く戦いの中で『伝説の傭兵』として名を馳せていたんだ」
「ヨーヘイ?」
「雇われ兵士のことさ。
それぞれの国が全部軍隊を持ってるわけじゃないからね。
戦争ってのは金食い虫なんだ。
小さい国なら、軍隊のない方が普通だ。
だから、戦争になれば兵士を雇う。
雇われた兵士は、金を貰って戦場に赴く。
戦争が終わればまた違う国に行く。
『戦争はありませんか?』って言いながらね」
平和な日本に住むのび太には、その『傭兵』という職業の存在を
にわかには信じがたい気持ちだった。
お金を貰うために戦争に行く?
なんでそんなことを?
どれだけ考えても、のび太にはその気持ちは理解できそうになかった。
「タカベの父親は先の戦乱の中で、あらゆる国を渡り歩いた。
その実力は各国の間に響き渡り、どの国もこぞって彼を欲しがった。
そして終戦の1年前、タカベの父親はパルスタの前身・クレキガへとその身を預けたのさ」
ナシータの中で淡々とこの国の歴史を語っていたタカベの口からは、そんな話は一言も出てこなかった。
あそこまで詳細に歴史を話しておきながら、どうしてそのことを話してくれなかったのか?
色んなことが頭を巡ったけれど、とにかく今はロイの話に集中することにした。
「一進一退だった戦況は一変したらしい。
タカベの父は固体の兵士としても優秀な能力を擁していたけれど、
その真価はむしろ戦術や師団を指揮する部分にあったそうだ。
少数の兵を率いてその何倍もの数の兵力を打ち破る……とにかく凄まじい実力だったらしいよ。
それに、噂っていうのは一人歩きするものだからね。
『クレキガにはタカベがいるらしい』
そんな噂が広まるにつれ、敵軍の兵士の士気は相対的に下がっていって、
クレキガの勝利の数を面白いように増えていった。
そしてタカベの父がクレキガに付いて1年後、ついに統一国家パルスタが誕生したってわけさ」
長い話だった。
けれどのび太は一言も口を差し挟まずに聞いた。
理由の一つには、単純な好奇心から。
もう一つには、あの優しいタカベにそんな獰猛な血が流れていたのか、という思いからだった。
「でも、その話とタカベさんと一体どんな関係が……」
「一つには、彼に流れる最強のDNA。
そんな親父さんの子供だからね。
普通の兵士とは違って当たり前さ。
それともう一つは、タカベに施された英才教育だ」
「英才教育?」
「そう。確かに戦争は終わったけれど、タカベの父親の中には戦闘の血が流れ続けた。
父親はしきりと言っていたそうだよ
『このパルスタには再び必ず戦争が起こる。その時に必要なのは、人をどう殺すか……そのスキルだ』
って。タカベにしても小さい頃から戦場を転々としながら育ったんだ、父親のその言葉にも
特に疑問を持たずに格闘術や戦術のあれこれを学んだらしい」
タカベは見たところ30代中ごろの年かさだ。
ということは、今ののび太よりもずっと幼い頃から戦争を経験していたことになる。
小学校に上がるよりも幼い子供が――と思わないでもなかったけれど、あの時
ナシータで静に見せた刺すような殺気の理由が分かった気がした。
「それが、どうしてトリユに?」
「……最初はタカベたちも優遇されたらしい。
父親は戦勝の最大の立役者と言っても過言ではなかったからね。
けれど国が安定し、最早戦争が起こることもないだろうと分かり始めた頃から
周りの見る目が変わり始めた。
『あの親子は殺人しか取り柄がない』『いつか何かをやらかすに決まってる』
そんな風に。除け者にされて、迫害されて――
それでトリユに、ってわけさ」
「え?でもおかしいじゃない。
そんなに実力のある兵士なら、パルスタの軍だって放っておかなかったんじゃないの?
是非来てください!ってのが普通だと思うんだけど」
「その辺のことはよく分からないんだけど、タカベはこんな風に言ってた。
『軍人っていうのはプライドの塊なんですよ』
どうも傭兵上がりが軍隊の将校に上り詰めたりするのは、軍のお偉いさんが認めなかったらしいんだ。
タカベの父親にしても自分より実力のない上官の下に就くのは耐えられなかったらしい。
そうこうしているうちに国とタカベと、民とタカベとにどんどんと溝が生まれた……ってことだそうだよ」
軍人にもなれず、平民にもなれなかった最強の男。
功を立てたはずなのに、年を追うごとに嫌われ、疎外されて。
それは一体どういう気持ちだったのだろうか?
「そういう訳で、タカベの実力は折り紙付きってわけさ。
確かに戦力に劣るトリユの軍勢だけど、タカベがいればあるいは……
僕はそう考えているんだ」
ロイは朗らかに語った。
静たちもへえ、という風に聞いている。
しかしのび太だけは険しい顔を崩さず、そして静かに口を開いた。
「……もしくは、その最強のタカベさんの首を差し出してパルスタに命乞いをしよう、とか?」
平板な声でのび太が言った。
その言葉にロイがぎくり、とした顔をする。
「……何のことだい?」
「さっき!僕はドアの外で聞いたんだ!
ミヤイさんが『タカベの首を』って言ってるのを!
あれは、パルスタも恐れるタカベさんを向こうに差し出して戦争を止めさせようとか、
そういうことを話してたんでしょ?!ねえ、ロイさん!」
「何を言ってるのか、よく分からないな……
僕はタカベにそんなこと……しないよ」
ロイは悲しそうな顔で呟いた。
自分の顔を鏡で見たようなその表情に、
のび太は感情的になり過ぎていた自分の胸中を恥じる。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた……」
「いや、いいんだ。
さあ、じきに外も真っ暗になる。
そうなると足元も危ない。
食事、本当にありがとう。
気をつけて帰ってね」
ロイが椅子から腰を上げると、それにつられて4人も席を立つ。
ふと会議室に設えられた大枠の窓を見た。
外は薄っすら西の空が明るくなっているばかりでもうほとんど夜だった。
キリがいいのでメシでも食ってきます( ^ω^)ノシ
243 :
閉鎖まであと 8日と 0時間:2007/01/15(月) 20:17:19.09 ID:Ioql7VOH0
乙
主題歌でもイメージしてみる・・・
>>242 乙
これ本当に面白いわ
最後までがんばって。
246 :
閉鎖まであと 8日と 0時間:2007/01/15(月) 20:56:17.67 ID:JrbKP+YpO
やっと追いついた
今世紀最大のwktk
「じゃあ僕たちはこれで」
スネオが代表して挨拶すると、ロイは笑顔を浮かべながら軽く手を上げた。
のび太はテーブルかけをギュっと握り閉めながら会議室のドアをくぐる。
「どうしたの、のび太さん?」
そこで足が止まった。瞼の裏に、タカベの煤けた背中がフラッシュバックする。
戦争の因果、と悲しい顔で語ったタカベ。
死ぬことも恐れずにナシータから外に出ようとしたタカベ。
優しい顔でスネオの頭をくしゃくしゃと撫でたタカベ。
一緒にいた時間を越えて、いつの間にかタカベはのび太の心に深い足跡を残していた。
「ロイ!」
振り返ってのび太が叫ぶ。
薄暗い会議室の中で、ロイは黙ってのび太を見つめた。
「君が守りたいのは、トリユっていう国なの?
それとも、トリユの国に住む人たちなの?
ロイ、答えてくれよ!」
「のび太くん……」
「ロイ、どうなんだ!?ロイ!」
「おい、お前ら!何を大声出してるんだ!」
会議場の入り口から咎めるような声が響いた。
4人が一斉に振り返ると、そこにはミヤイが立っていた。
「国王への無礼は許さんぞ!」
「おいのび太、行くぞ!」
強い力でのび太を引っ張るジャイアン。
それでものび太はロイから視線を外さない。
「ロイ、ロイ!
人も何もないところで、自由もへったくれもないじゃない!
なあロイ、そうだろ!ロイ!」
静寂に包まれた図書館に、のび太の声だけが木霊する。
その様子をギロリと睨み付けるミヤイの脇を抜けて、のび太はずるずると
会議場から外に引っ張り出された。
「国王、この危難の時にあのような者たちと……
慎んでいただきたいものですな」
「うん、分かってる。すまない。
ところでミヤイ、何かあったのか?」
「はい。先ほど伝令が来まして……
ケンジュにて、交戦が開始された模様です」
「そうか……」
ロイの脳裏に、先ほどののび太の叫び声が蘇る。
人か、国か――か。
(それは択一的に選ばなければならないのだろうか?)
ロイは考える。
できることなら、人も国も一緒に守りたい。
そう考えてしまうのは自分のエゴなのだろうか?
そんなことを。
それでもどちらかを選ばなければならないのだとしたら……。
(父さん……)
「国王、どうしますか?」
「……まず公民館に傷病兵を受け入れる体制を整えよう。
そこに手の空いた者を集めて、それから――」
-----
こうして、ついにパルスタとトリユ、両軍勢による本格的な激突が開始されたのである。
-----
( ^ω^)ええと…
改行の仕方とか読みにくくないですか?
とりあえずペタペタ貼るばかりになっているから気になったもんで…。。
254 :
閉鎖まであと 7日と 23時間:2007/01/15(月) 21:16:30.71 ID:noGVeRqr0
読みやすい。
これくらいのがンギモヂィイイ!
ノープロブレム
いままで読み辛さなどのクレームがあっただろうか?
>>254 ありがとうございますオッスオッスアッー
>>255 じゃあこのままで行きますNE( ^ω^)
>>256 いや、そういうのはなかったんですけどJANEだけで見てると
よく分からないから見辛かったら悪いなあ、と('A`)
では、続きいきますNE。
「のび太、あれはまずいよ。
いくらフランクだって言っても、仮にも一国の王様なんだからさあ」
「そうそう。せめて『さん』くらいは付けないと。
お前、客商売と出世には向いてないぞ!」
ジャイアンが商売人の息子らしい言葉でのび太をたしなめる。
のび太も口を尖らせながら、そんなこと分かってるけどさ、などとブツブツ呟いた。
「でも私も気になってたわ。
私たちが会議室に入る前にロイさんとミヤイさんが話していたことは
確かに不穏な感じがしたもの」
「そ、そうだよね!」
静が賛同してくれたことで、のび太は元気を取り戻した思いだった。
スネオとジャイアンも「まあそれはそうだけどさ」と言った表情を浮かべる。
「それでもさ、結局僕たちにできることなんて何もないんじゃないの?
友達のケンカじゃなくて、これは戦争なんだよ?
第一トリユとパルスタの戦争なんて、僕たちには何の関係もないじゃない」
「それを言っちゃあおしまいだけどさあ……」
あれこれと言っているうちにタカベの家に着いた。
ドアを開けると部屋は暗闇に包まれている。
「ちょっと誰か電気点けてよー」
「あるのか?そんなもん」
「えっ、ないの?!」
「ちょっと、足踏まないで!!」
「うわ、何か踏んだ!」
「あーもう、うるさいうるさい!」
暗闇に広がる喧騒がようやく収まったころ、タカベの家は暖かな明かりに包まれた。
「電気もないんだな……」
ジャイアンがぽつりと言った。
テレビもない、と嘆いていた彼だったけれど、それどころか電気すらなかったのである。
思わずタカベの言葉を思い出した。
『戦争ばかりしてきた民族だから』
ナシータで聞いたあの爆発音。
あれは確かに大きな兵器のそれだった。
そんな技術力はあるのに、反面、人民は電気すらも享受できない文化、社会。
「考えちゃうよなあ」
パルスタでは各国家独特の知識を抽出して、それを体系的に教育していると言っていた。
勉強、という言葉の字面に囚われてネガティブな印象しか抱いていなかった4人だけれど
もしかしたらそういう教育の結果として色んな文化というのは生まれるものなのかもしれない。
もちろん、勉強を無理やり押し付けられるのはまっぴらだけれど。
「おっし!カラオケでも歌おうぜ!」
ジャイアンがベッドから飛び起きた。
その言葉に3人は一瞬ギクリとした様子になる。
ジャイアンの歌……
それは説教よりも宿題よりも、何よりも大きい災厄のようの思われた。
261 :
閉鎖まであと 7日と 23時間:2007/01/15(月) 21:57:49.52 ID:wPKtAutLO
ほ
「えーと、カラオケキングはっと……」
「じゃ、ジャイアン!こんな非常時に歌なんて!歌なんて非常識だよ!」
「馬鹿野郎!こんな時だからこそ、だろうが!
元気がない時は歌を歌う!歌を聴く!これが一番なんだよ!
俺の歌を聴けば争いも一発で解決だぜガハハハハ!」
(違う意味で解決しそうだけれど……)
と3人は思ったけれど、それは口には出さなかった。
「ジャイアン!いきなり歌ったら喉に悪いって!
とりあえずこのアメ、喉によく利くアメだから舐めてみてよ」
「おうスネオ、気が利くじゃねえかガハハハハ」
ジャイアンは機嫌よさそうにアメを口に放り込む。
スネオのやつ、調子いいよな……と思いながらため息をつくのび太。
ふとスネオの方を見ると、にやりと笑ってのび太に近づいてきた。
「あれ、声のキャンディーなんだよ。だからジャイアンの音痴も問題ないってわけさ」
さすがスネオ、である。
「よっ!日本一!」
歌が終わるとスネオが大声ではやし立てた。ジャイアンもまんざらではない様子で手を上げる。
「これ、ピリカ星で聞いた曲かあ!」
「そ。懐かしいでしょ?あの後、この曲を日本でも発売したみたいだよ」
目を閉じると、ピリカ星での光景が瞼に浮かぶ。
そう言えばあの星でもクーデターが起きたんだよな……パピ君、元気かな……
のび太は遥か遠く、ピリカ星の友人に思いを馳せた。
・・・
「えー、それでは次の曲です――」
勢いに乗ったジャイアンは、更に次のナンバーをカラオケに打ち込んだ。
-----
「ジャ、ジャイアン!さすがにもうそろそろ苦情がくるんじゃないかなあ?」
カラオケを始めて一時間半。
途中スネオが声のキャンディーを継ぎ足したりしながら、延々とジャイアンのリサイタルが催されていた。
いくら道具のおかげで音痴ではないとは言え、一時間半も同じ人間の歌を
聴かされてはたまったものじゃない。3人はうんざりとした表情を浮かべていた。
「ん?そうか?まあ夜も更けたしな。
いくら俺の美声でも、さすがに睡眠の邪魔になっちまうかなガハハハハ」
気分よく笑うジャイアン。
ようやくカラオケから解放されるのかと思うと、一同は揃って安堵のため息を付いた。
「それじゃ、〆の一曲を歌って……」
予想外の言葉に3人がぎくりとした、その時のことだった。
「こっちだ!こっちに運べ!」
「あまり動かすな!もっと慎重に!」
喧騒、怒号。家の外で大きな声が飛び交っている。
「何かあったんだ!」
言葉より先にのび太が家を飛び出すと、残りの3人も後に続いた。
通りには先ほどまで存在していなかった松明があちこちに立てられていた。
そしてあちこちで散見される人、人、人。
空気はすこぶる緊張しており、みな気ぜわしく動き回っていた。
4人はとりわけ人の声のする方角に向かう。
「何かあったんですか?!」
走りながら、のび太が途中にいた人を捕まえて尋ねた。
「戦争だよ!ついにパルスタとの本格的な戦争が始まったんだよ!」
のび太に掴まれた腕を振りほどくと、その女性は再び走り始めた。
戦争が始まった――
その言葉がのび太の頭の中で空転する。
戦争、戦闘、トリユにパルスタ――しばらく動けないまま、その場に立ち尽くした。
「もっと!もっとお湯を沸かして!」
公民館は騒然としていた。
中にいた大半の人は女性。
体育館ほどの広さの公民館には所狭しと布団が敷かれている。
その上には幾人かの負傷した兵士が横たわっていた。
まだ全体の二割程度の布団しか埋まっていないけれども、このままいけば
ここが満杯になるのもそう先のことではないのかもしれない――
のび太はそんなことを思った。
「邪魔だよ!」
どん、とのび太は背中を突き飛ばされる。
女性も皆険しい顔をしていた。おそらく彼女たちも戦争に参加している意識があるのだろう。
たとえ直接的な参加はできなくとも、彼女たちもたしかに戦争に参加しているのだ。
その自負は彼女たちの表情を見ればよく分かった。
「あんたたち、ぼーっと突っ立てるくらいなら何か手伝いな!」
女性の一人がのび太たちに向かって叫ぶ。
ここには何もしない人間がいてはいけないのだ。
思わず公民館の中に目を遣る。血を流しながら呻く兵士が横たわっていた。
「ううっ……」
初めて見る光景に、胃の中からこみ上げてくるものがあった。
手近に洗面器がないか探すがどこにもなかった。
のび太は慌ててトイレに駆け込むと、胃の中の物を全て吐いた。
「う、うう……」
嗚咽を漏らしながら顔を洗う。
どうしてこんなことに――
誰も戦争なんて望んでないはずだろ――
自問自答を繰り返すけれど、答えはどこにも見つからない。
(ドラえもん……助けてくれよ……)
心の中で呟く。今は遥か遠い、故郷の親友。
少し前まで毎日顔を合わせていたはずなのに、その顔をばかに懐かしく感じる。
帰りたい、帰りたい、何もかも見なかったフリをして、今すぐにここから逃げ出したい――
口の中で呟いて、のび太は顔を上げた。
『守りたいのは国なの?人なの?』
「ロイ?!」
見上げた先には一枚の鏡。
土気色になったのび太の顔が映し出されていた。
その表情が国王ロイのそれと、そして
――先ほど発したのび太の言葉とリンクする。
『……るよ!』
ねえタカベさん。
あの時、あなたが言おうとしたことは一体何だったんですか?
ねえタカベさん、教えて下さいよ。
ねえ、タカベさん。
ねえ、僕はもっとあなたと色んなことを話したいですよ。
タカベさん、タカベさん……。
「しずかちゃん!包帯とお医者さんカバンを持ってくるんだ!」
「はい!」
トイレの外から、スネオたちの声が聞こえた。
『…強いな』
ジャイアンの背中で穏やかに呟いたタカベさんの声も、少し。
のび太は自分の顔を両手で叩くと、トイレを外に出た。
「ジャイアン!スネオ!」
外で慌しく動き回っていた二人の姿を見つけると、のび太が声を掛ける。
――タカベさん、僕は、僕らは強くなんてありません。
――学校からも逃げようとしました。
――朝は寝坊してばかりです。
――立派な大人になれるのか、いつだって不安です。
でも、それでも――
「スネオ!ジャイアン!」
「のび太!お前一体どこに」
2人の言葉を遮ってのび太は叫ぶ。
「僕はタカベさんのところに行ってくる!二人がどうするかは任せる!」
僕は人を、あなたを、守りたいと思ったんです。
キリがいいので風呂に行ってきます。
280 :
閉鎖まであと 7日と 22時間:2007/01/15(月) 22:20:18.72 ID:noGVeRqr0
乙、保守してます。
281 :
閉鎖まであと 7日と 22時間:2007/01/15(月) 22:21:20.43 ID:0tEufCsPO
その風呂を覗きたいほどワクテカしながら保守
282 :
閉鎖まであと 7日と 22時間:2007/01/15(月) 22:27:38.18 ID:6UltEEIj0
ドラえもんマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
風呂上りました。
こっから一気に投下します。
けど、まだオチまでは書いてないので尻すぼみになります。
なので、貼り終って、結局中途半端な状態でスレが終わるかもです。
ま、その辺のことはおいおい考えます。
このスレに何人いるかも分からないですしねw
無計画で申し訳ない。
それでは。
「のび太さん!」
タカベの家の入り口のところで静が驚いたような声を上げる。
のび太はハアハアと荒い息をつきながら、少しだけ深呼吸すると
静に向かって笑顔を見せる。
「僕は今から、タカベさんのところに行ってくる。
スネオとジャイアンは、どうするか分からない。
静ちゃんは公民館で傷ついた人の手当を手伝ってて欲しい」
「そんな!無茶よ!本当に死んじゃうかもしれないのよ!」
「分かってるよそんなの!
でも、僕にだって分からないけど……分からないけど!
ここでじっとはしてられないんだ!助けたいんだよ、タカベさんを!
トリユの人たちを!」
のび太は大声で叫びながら、どうしてこんなに自分が必死なのかを考えた。
ふと、今日の昼間のことを思い出す。
『タカベさんの守りたい自由と、そして僕が求めた自由と。
そこの間には、きっと何の違いもない。
それだったらタカベさんを守ることは、僕の自由を守ることなんだ!』
ああ、そうなのか。
タカベさんはきっと、僕だ。
そんなことを言ったらタカベさんは嫌がるかもしれないけれど
ごめんなさいタカベさん。
今はそう思わせて下さいね。
タカベさんは僕で、僕はタカベさんで。
そういう風に思ったら、何だか勇気が湧いてくるんだ――。
「のび太ぁー!」
背中から聞こえる聞きなれた声。
振り返らなくても声の主が誰かは分かる。
のび太は静に向かって無言で頷くと、タカベの家の中に入った。
部屋の奥に入ったのび太は手早く道具の山に手を突っ込む。
まず手にするのはショックガン、次にタケコプター。
念のためにグッスリガスも持っていくことにした。
それと――
「のび太!空気砲も出せ!」
背後でジャイアンが叫んだ。
振り返ることはしない。そのまま頷いたのび太は、空気砲と瞬間接着銃、それとタケコプターを2つ取り出す。
のび太はその他にもいるものはないか、と道具の山を漁った。
「ジャイアン!のび太!こっち向いて!」
振り返った瞬間にバチン、とこの星に来て何度も耳にした音が鳴った。
思わず自分の体を見る。そこにはタカベが着ていたのとほとんど同じデザインの戦闘服があった。
「やっぱこういうのは、形からも入らないとね」
そう言ってスネオがはにかむように笑う。
タカベと同じ格好になると、一層力が湧いてくるような気持ちになった。
「おいスネオ、この頭に付いてるのはなんだ?」
「それは暗視ゴーグルだよ。
夜でも周りが見えるようになるんだ。
って言っても見よう見まねで描いたから、上手く作動するかは分からないけどさ」
「スネオ!後の道具は適当に見繕っといて!」
残りの仕事をスネオに任せると、のび太はタケコプターを頭に付けて夜空に飛び立った。
行く先は、中央会議場。
暗視ゴーグルはスネオの心配とは裏腹に、きちんと作動してくれた。
眼下に会議場を見る。
うっすらとではあるが、明かりが漏れていた。
おそらくロイはあそこにいる……
のび太は高度を落とし着地すると、走って会議場の中に入った。
「ロイ!」
会議室ではロイとミヤイが地図を広げて話し込んでいた。
その方にのび太はつかつかと近づいて行く。
「何だ貴様は!今は会議中だぞ!」
ミヤイの怒声を無視して、のび太は地図を覗き込んだ。
「タカベさんは!」
「え?」
「トユリの軍隊は、今どこにいるんだ!」
のび太は一気にまくし立てた。
あまりの剣幕に怖気づいたのか、ロイは「ここに」と呟いて地図の一点を指差す。
ケンジュからウガクスの森に少し入ったところ、そこにトリユの軍本部が展開されているとのことだった。
「分かった!」
それだけ確認すると、のび太は会議室を後にする。
呆然としていたロイだったが、去り行くのび太の姿にようやく平静を取り戻したのか
慌ててのび太の後ろ姿に声を掛けた。
「の、のび太くん!まさかそこまで行こうってんじゃないだろうね!」
「ああ、その通りさ!」
「無茶だ!子供の遊びじゃないんだぞ!」
唾を飛ばしてロイが叫ぶ。
ミヤイは口の端を持ち上げて侮蔑的に笑っていた。
「……無茶でもなんでも、僕には守りたい人がいるんだ!」
それだけ言ってのび太は会議室を後にした。
「馬鹿な子供だ」
「……」
「国王。とにかく先ほど申し上げた通りです。パルスタの密使の言うことに従いましょう」
開戦から既に6時間。
それぞれの思惑が、静かにゆっくりと動いていく。
「のび太、早く行くぞ!」
タカベの家の前に戻ると、スネオとジャイアンはすっかり準備を整え終えていた。
「本当にいいのかい?無理して君らまで僕に付き合わなくても」
「バーカ、それはこっちのセリフだっつーの」
「そうそう、のびちゃん一人で何ができるって言うの?運動神経も全くないくせに!」
2人は軽い調子で言い合って、のび太を笑い飛ばした。
普段なら腹を立ててしまうようなその言葉は、今日だけは妙に嬉しい。
のび太は笑いながら「うるさいなあ!」と言うと、拳を上げる素振りを見せてまた笑った。
「行くか……」
ひとしきり笑い合った後にジャイアンが静かに呟く。
のび太とスネオも無言で頷いた。
「スネオ、この暗視ゴーグルちゃんと使えたよ!」
「よし、じゃあそれを着けて出発だ!」
トリユの夜空に、地球から来た小さな兵士が3人、勇ましく飛び立った。
「方角はどっちだ!」
「タカベさんの家があそこで、僕らが抜けてきた森の出口があそこだから……左だ!」
「本当に大丈夫かよ、のび太のナビで!」
自信があるとは言えなかったけれど、さっき見た地図は必死で頭に叩き込んだはずだ。
それに戦闘が繰り広げられているのならば、嫌でもそのマズルファイヤーは目に付くはずだった。
3人は無言で速度を上げる。
「スネオ、ジャイアン!あそこ!」
叫んだのび太が指し示した先、森の中。
おそらくトリユの野営であろうか、うすぼんやりと光っている部分があった。
暗視ゴーグルでその光が増幅され、とりわけ目立った。
「降りよう!」
「待て、のび太!このまま降りたら僕らが敵と間違われない保障もない。これ、被れ!」
そう言ってスネオが2人に何かを手渡す。見ると、それは石ころ帽子だった。
「よくこんな物持って来てたなあ」
「かくれんぼの時にでも、一人でこっそり使おうと思ってたんだよね」
この時ばかりは、のび太はスネオのこすい考えに感謝する。
姿を消してトリユ軍本部に降り立つ。
ピリピリとした空気が辺りを包んでいた。
テントの入り口には見張りと思しき兵士が2人。
姿を消したのび太たちは、その間を堂々と歩いてテントの中に入る。
中ではタカベが難しい顔をして地図を睨んでいた。
その顔を見た途端、のび太の胸にじんわりと暖かいものが広がっていく。
「タカベさん……」
思わず声が出た。
タカベがその声に即座に反応すると、脇においてあった小銃を瞬時に構える。
「誰だ!」
「ぼ、僕です、のび太です……」
「のび太くん……?」
そこでのび太はようやく自分が石ころ帽子を被ったままだと気が付いた。
相変わらず小銃を構えたままのタカベを前にしてのび太、そしてスネオとジャイアンは帽子を脱ぐ。
「タカベさん、来ちゃいました……」
そう言ってえへへ、と笑うのび太。
突然現れた3人の姿に一瞬ぽかんとした表情になったタカベだったが、
すぐに怒ったような表情になって怒鳴った。
「何をやっているんだ!こんな所で!
いいか、これは遊びじゃないんだ!戦争なんだぞ!
すぐにここから帰れ!」
「そ、そんなことは分かってます!戦争だってことくらい、分かってます!
それでも僕はタカベさんを守りたくって!」
「俺を守る?ふん、俺も見くびられたものだ。
こんな子供に守られようなんてな……」
タカベは自嘲気味に笑った。
思わぬタカベの言葉にのび太は少なからずショックを覚える。
自分たちがやって来たら喜んで迎え入れてくれるに違いない。
おそらくそんな思いがどこかにあったのだろう。
けれど実際に目の前に出てきたタカベは、昼間見せた表情とは全く違う軍人の顔。
最強の傭兵の息子が、そこにいた。
「気持ちは嬉しい。けれどな、戦況は君たちがやって来たくらいでは変わらないんだ。
それに君たちはトリユとは何の関係もない……」
「関係なくなんてない!」
タカベのその言葉に堪りかねたのび太が叫ぶ。
「トリユの人たちが目指した社会は、僕が地球で夢見た社会と全く同じものでした。
そして今、それが脅かされようとしている。それだけじゃ理由になりませんか?
理由にならないんだとしたら、じゃあ、タカベさんが戦う理由って、一体何ですか?」
「俺が戦う理由……」
「隊長!一次防衛ラインが突破されました!」
テントの中に兵士が飛び込んでくる。
のび太たちのことを見て一瞬怪訝な顔をしたが、今はそれどころではないのだろう。
荒い息を付きながらタカベの指示を待った。
「残りの兵の数は?」
「正確には把握できませんが、3000は割っています!」
「パルスタの兵は?」
「およそ10000です!」
「分かった、これより前線は俺が指揮を執る!お前もすぐに戻れ!」
やって来た兵に指示を飛ばし、タカベはその場から立ち上がる。
もう一度地図を睨み付けると、足早にテントの出口に向かった。
「タカベさん!」
「血、だよ」
「え?」
不意に発せられたタカベの言葉に、思わずのび太が頓狂な声を上げた。
「戦う理由、それは俺の中に流れる血だ。
騒ぐんだよ、戦え戦えってな。
だからそれが俺の理由だ。
自由も、トリユもパルスタも関係ない。
俺はただ戦うことが――好きなんだよ」
それだけ言ってタカベはテントを後にした。
スネオとジャイアンと、そしてのび太は、冷たく言い放たれたタカベの言葉を聞いて
しばらくその場から動けなかった。
【ケンジュ攻防戦】
299 :
閉鎖まであと 7日と 22時間:2007/01/15(月) 22:50:35.84 ID:rIOMQzC00
h
「反撃が止んだな」
パルスタの先行部隊がケンジュに掘った塹壕に身を隠しながら呟いた。
「元々戦力ではこちらがずっと勝ってるんだ。
トリユが黙り込むのも当たり前だろ。
ちょっと時間が掛かりすぎたぐらいだな」
「違いないな」
蛸壺の中で兵士が軽口を叩き合う。
隣の塹壕から二、三発ほどぱん、ぱんと乾いた発砲音が聞こえたがそれも少しのことで、
すぐにまた静寂が闇を包んだ。
「こりゃ、本格的に降参したんじゃねえの?」
「既にウガクスから撤退したかもな」
言いながら兵士たちがククク、と声を絞って笑った。
その刹那。
ドオオオオ……ン!
「なんだ?!」
「ウガクスからだぞ!」
兵士が素早く蛸壺から顔を出した。
再び轟音が鼓膜に突き刺さる。
視界の端に鈍い光を捉えた。次いで、また轟音。
「おい、ウガクスにすげえ爆撃が起こってんぞ!」
「ウガクスに砲撃!?どこの部隊だ?!」
「知るか!けどこれで決定的だろ。直に突撃命令が来るはずだ!」
「そんなの待つ必要ねえよ!おい、手柄は取ったモン勝ちだ!行くぞ!」
「おい!上官の指示を待てって!」
しかし昂ぶり切った兵士は制止を聞くこともなく、うおお、と雄たけびをを上げると
蛸壺から飛び出した。見るとケンジュの平原には、暗闇に紛れて数多くのパルスタ兵が
ウガクスに向かって疾走している。
彼はそれを見て苦々しい気持ちになりながらも、功を立てたい気持ちは同じであるらしく
蛸壺から飛び出すと前を走る兵士の後に続いた。
「おい!進軍を止めろ!」
ケンジュの草原に立ち、指揮官が叫ぶ。
先ほどから胸騒ぎが止まない。
おかしい、そもそもあのような爆撃の指示すら出していないのだ。
しかし実際にウガクスの森に三発の爆発が発生した。
そして突然起こったトリユ軍の静寂。できすぎている、あまりにも。
「止まれ!止まらんか!」
野生の動物は火を恐れる、と言うが人間はどうなのだろうか。
この夜、ケンジュ草原に潜伏していたパルスタの兵士はただでさえ大量に分泌されていた
アドレナリンが、先のウガクスの大爆発を見ることによって一気に臨界点に達した。
爆発、そして発光。
その光景は兵をすくませるのではなく、殺人の本能を一気に鼓舞した。
指揮官の声はもはや遥か遠く、どの兵士の耳にも届かなかった。
「一番乗りだ!」
喚声を上げながらパルスタ兵がウガクスの森に足を踏み入れた。
せめてもの頼りである月の光も高く生い茂った木々の葉が遮り、森の中は漆黒そのものに
包まれている。
その後に2人、3人10人とパルスタの兵が続いた
先ほど起こった突然の爆撃、その閃光。
そしてケンジュよりも更に深い闇を孕んだウガクスの森。
様々な要素が相まって、パルスタの兵士は完全に夜目が利かなくなっていた。
だから彼らには見えようはずもない、暗闇の中に潜んだトリユの兵・数百の姿が。
「…てぇぇ!」
地を這うように低い声だった。
タカベは指示と同時に土を踏み付けて立ち上がる。
兵たちはタカベの声を聞くが早いか、暗闇に慣れるために瞑っていた瞼をこじ開けると
立ち尽くすパルスタ兵に向かって小銃を掃射した。
最初にウガクスに赤く瞬いたのはタカベの一発、
続いて数百のマズルファイヤーが森を左右に広がっていく。
赤く激しく明滅するその光は、パルスタの兵士を次々となぎ倒して行った。
「右舷!左舷!留まるな!展開しろ!」
タカベが叫んで左方に転がった次の瞬間、パルスタ兵が掃射した銃弾が光の渦となり
タカベが先刻までいた場所に植わる草木をミンチにする。
完全に乱戦にもつれ込んだ。
が、パルスタ兵は先ほどまで余裕の雰囲気を醸していただけにその混迷の度合いは大きい。
先手は取った、後は蛸壺から出てきた兵を始末するだけだった。
305 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:01:59.75 ID:rIOMQzC00
h
「走れ!走りながら撃て!」
地理的条件もトリユに味方した。
森の迷彩、生い立つ木々、加えて今は夜である。
ケンジュにぽつねんと立ち尽くすパルスタ兵には、トリユの弾がどこから飛んでくるか
把握できるはずもない。
草原からでたらめな調子で銃撃がやってくるが、
銃弾というのはそもそもかなり小さいものである。
狙いも付けずに発射してもそう簡単に対象に命中するものではないのだ。
大半の銃弾はパルスタ兵の願い虚しくウガクスの木々を削り取るばかりだった。
「馬鹿者どもが……!引けぇ!倒れた兵はもう見捨てろ!とにかく引けぇ!撤退だっ……」
森の暗闇に一つの明かりが灯る。
温かみはなく、ただただ激しい真っ赤な灯り。
そこから発せられた鉄の礫は闇に溶け宙に舞い、ケンジュの大地で声を限りに叫んでいた
指揮官の脳漿を正確に吹き飛ばした。
確認はしない、手応えはトリガーを引いた瞬間に感じているのだから。
タカベは小銃を撃った次の瞬間、再びウガクスの闇を駆け出した。
-----
タカベが前線にやって来た時、物量に劣るトリユの軍勢は完全に劣勢の状態にあった。
加えてパルスタの兵は蛸壺に身を隠しながら射撃を行なっていたため、幾ら撃っても中々弾が当たらない。
このままいくと徒に兵力が減耗していくのは自明だ、と考えたタカベは、兵たちに大胆な作戦を指示する。
『何もせずに伏せてろ。弾が当たっても声を出すな』
タカベは、パルスタ兵に『トリユの兵が撤退した』と錯覚させて蛸壺から引きずり出そうと考えたのだ。
トリユ兵は指示通りにウガクスの闇に溶けて沈黙する。
最初の内はパルスタからの銃撃が止まず、幾らかの銃弾は伏したままのパルスタ兵に突き刺さった。
それでも兵はタカベの命令を忠実に守り、声は上げない。
そのまま絶命した兵も幾十人――。
(ここだ……)
沈黙を保ってきっかり三十分後、タカベは遥か前方に手榴弾を放った。
慌てて顔を伏せ、光を見ないようにする。
そして耳をつんざく大音声。次いで右舷、左舷からも爆発音が聞こえ、大地が鈍く鳴動した。
タカベの思惑にはまり、蛸壺からぞろぞろと沸いて出るパルスタ兵士。
まだだ――もう少し、あと少し引きつけろ――もう2メートル――1メートル――
「…てぇぇ!!」
-----
これが、この数分の間に起こった全ての事実。
結果パルスタの先行兵、その9割がケンジュに滅した。
「撤退したか!?」
駆けていた足を止め、タカベは誰ともなしに叫んだ。ケンジュからの銃撃は既に止んだようであったが、
未だ油断はできない。タカベは身を低くしてケンジュの様子を窺うべく目をこらした。
兵の姿はない……かに見えた次の瞬間、直近の蛸壺に駆け寄るパルスタの兵の姿が見えた。
馬鹿な、単独で一体何ができる、タカベはそんなことを思ったがその兵士のシルエットを見て戦慄した。
小銃よりも随分でかい重火器を持っている……?
そう、あれはおそらくパンツァファウスト――
(あんなもん撃ち込まれたら何人吹き飛ぶか分からんぞ!)
思考より体が先に動く。
DNAに刷り込まれた流体力学が、ごく自然な動きでタカベに小銃を構えさせた。
一瞬でパルスタ兵に狙いを定めると、タカベは無感情にトリガーに力をこめる。
――けれど小銃からはガチリ、と乾いた音がするばかりで銃弾が発されなかった。
「クソッ、ジャミングしやがった!」
(ジャミング=弾詰まり)
一気に感情が昂ぶる。
見るとパルスタ兵はパンツァファウストを携えて今まさに蛸壺に飛び込むところだった。
撤退だ――いや、間に合わんか――どうする――!
「伏せろぉぉぉ!」
「ドカァァン!」
タカベの叫びと同時に遥か頭上から大きなダミ声が聞こえた。
一瞬後に草原の方からドウッ、という音が響く。
タカベがケンジュに目を遣ると、先ほどパルスタ兵が飛び込んだ蛸壺からもうもうと土煙が上がっていた。
(今の声は……ジャイアン君か?!)
一体何が起こったのか、もはや分からないと言うつもりもない。
聞き覚えのある彼の声。
トリユ軍のキャンプにまでやって来たのび太たち。
そして彼らの持つ不思議な力、道具――そして目の前の土煙と、パルスタ兵の沈黙。
(また、助けられてしまったな)
苦笑しながら天を仰ぎ見る。
木々に覆われて空はほとんど見えなかったけれど、僅かに覗いた葉の隙間から
のび太たちがこちらに向かって降下してくるのが見えた。
ストックしてあるのはここまでです。
さてどうしよう…(;^ω^)
312 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:10:46.62 ID:34/8QVEo0
>>1のやりやすいようにやればおk
続きのためならいつまでだって保守してる
明日までに書き上げな!
個人的に、「ジャミング(弾詰まり)」とかしたほうがいいかななんて
思っちゃたりしちゃったり
314 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:35:50.16 ID:0tEufCsPO
保守
315 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:36:36.29 ID:J13FbO6gO
明日までに書き上げな保守
316 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:41:40.07 ID:6UltEEIj0
保守
317 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:53:14.60 ID:5KnzBAeO0 BE:162756162-2BP(3001)
今北産業
318 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:58:51.16 ID:0tEufCsPO
>>317 のび太
スネーク
うほっ!じゃあなくて古き良きドラえもん映画
319 :
閉鎖まであと 7日と 21時間:2007/01/15(月) 23:59:13.25 ID:34/8QVEo0
保守
320 :
閉鎖まであと 7日と 20時間:2007/01/16(火) 00:03:24.29 ID:DnndKLAO0 BE:976536498-2BP(3001)
>>318 把握
大先生こりゃまた長いの書いたねwwww
スレで投下しつつブログでまとめもやるのって初めて見たwww
321 :
閉鎖まであと 7日と 20時間:2007/01/16(火) 00:04:16.97 ID:CvpTEmS7O
322 :
1:2007/01/16(火) 00:22:19.93 ID:AO8O+7IT0
保守支援どうもありがとうございます( ^ω^)
その、非常に申し訳ないのですが…。
実は明日、レポートの提出期限になってまして。
なので続きを書けるのが早くても明日(1/16)の深夜からになりそうなんですよね。
なので、このまま保守を続けていただくのも何か申し訳なく思う次第です。
万が一このままスレが続いていればここに書きますが、おそらく落ちると思いますので
その時は同じスレタイで【完結】と付けてスレ立てします。
もしスレが立ってなかったら
ttp://2949.seesaa.net/にまとめる予定なので、
そちらを見てみて下さい。(最近アクセス規制でスレが立てられないので('A`))
それでは、お付き合い頂いてどうもありがとうございました!
324 :
閉鎖まであと 7日と 20時間:2007/01/16(火) 00:33:06.31 ID:UMQBFVCG0
乙乙!
325 :
閉鎖まであと 7日と 20時間:2007/01/16(火) 00:54:59.41 ID:+wVsoo0DO
これはおもしろい
326 :
閉鎖まであと 7日と 19時間:2007/01/16(火) 01:25:41.24 ID:GQrGmH2I0
h
327 :
閉鎖まであと 7日と 19時間:2007/01/16(火) 01:51:07.03 ID:iAAkgGv/O
wktk
328 :
閉鎖まであと 7日と 18時間:2007/01/16(火) 02:03:54.83 ID:+wVsoo0DO
寝る前に保守
329 :
閉鎖まであと 7日と 18時間:2007/01/16(火) 02:16:39.64 ID:Iqr5EYGRO
オヤスミの保守
330 :
閉鎖まであと 7日と 18時間:2007/01/16(火) 02:33:15.63 ID:oGhPuw1o0
ほほほほほほほ
ほしゅ
331 :
閉鎖まであと 7日と 17時間:2007/01/16(火) 03:02:19.11 ID:iAAkgGv/O
マッシュ
332 :
閉鎖まであと 7日と 17時間:2007/01/16(火) 03:34:48.89 ID:PdMquho/0
hosh://
333 :
閉鎖まであと 7日と 16時間:2007/01/16(火) 04:20:28.08 ID:Iqr5EYGRO
保守
334 :
閉鎖まであと 7日と 15時間:2007/01/16(火) 05:13:11.17 ID:oGhPuw1o0
捕手
335 :
閉鎖まであと 7日と 15時間:2007/01/16(火) 05:42:18.33 ID:oGhPuw1o0
ほっほ
336 :
閉鎖まであと 7日と 14時間:2007/01/16(火) 06:29:28.27 ID:LwXhi/9E0
ほとぅ
337 :
閉鎖まであと 7日と 13時間:2007/01/16(火) 07:19:30.94 ID:SJ8IzWkdO
ほ
338 :
閉鎖まであと 7日と 12時間:2007/01/16(火) 08:07:44.90 ID:mGYV9QeaO
ほあ
339 :
閉鎖まであと 7日と 12時間:2007/01/16(火) 08:08:09.11 ID:Iqr5EYGRO
保守
340 :
閉鎖まであと 7日と 11時間:2007/01/16(火) 09:02:14.58 ID:Iqr5EYGRO
仕事前に保守
341 :
閉鎖まであと 7日と 11時間:2007/01/16(火) 09:44:20.15 ID:LpNImem40
保守
342 :
1:2007/01/16(火) 09:58:27.76 ID:6HE+IuT90
おはようございます。
>>1です。
まさか保守されてるなんて・・・
ホントに嬉しいです
レポート頑張ってきます( ^ω^)ノシ
343 :
閉鎖まであと 7日と 10時間:2007/01/16(火) 10:28:14.12 ID:LpNImem40
344 :
閉鎖まであと 7日と 9時間:2007/01/16(火) 11:23:57.39 ID:NpH5rDSOO
フォスュ
345 :
閉鎖まであと 7日と 9時間:2007/01/16(火) 11:56:02.32 ID:LwXhi/9E0
hosh
346 :
閉鎖まであと 7日と 8時間:2007/01/16(火) 12:13:23.85 ID:UBWncGfp0
君が書くまで保守をやめない!
347 :
閉鎖まであと 7日と 8時間:2007/01/16(火) 12:22:14.81 ID:2IKH5L7A0
, -‐;z..__ _丿
/ ゙̄ヽ′ ニ‐- 、\ \ ところがどっこい
Z´// ,ヘ.∧ ヽ \ヽ ゝ ヽ ‥‥‥‥
/, / ,リ vヘ lヽ\ヽヽ.| ノ おちません
/イル_-、ij~ ハにヽ,,\`| < ‥‥‥‥!
. N⌒ヽヽ // ̄リ:| l l | `)
ト、_e.〉u ' e_ ノノ |.l l | ∠. 現実です‥‥‥!
|、< 、 ij _,¨、イ||ト、| ヽ
. |ドエエエ「-┴''´|.|L八 ノ -、 これが現実‥!
l.ヒ_ー-r-ー'スソ | l トゝ、.__ | ,. - 、
_,,. -‐ ''"トヽエエエエ!ゝ'´.イ i l;;;;:::::::::::`::ー/
ハ:::::::::::::::::::::| l\ー一_v~'´ j ,1;;;;;;:::::::::::::::::::
. /:::;l::::::::::::::::::::;W1;;;下、 /lル' !;;;;;;;;;::::::::::::::::
/:::::;;;l:::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;|: :X: : : : : |;;;;;;;;;;;;;;::::::::::::
/:::::;;;;;;|:::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;|/: : >、: : :|;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::
348 :
閉鎖まであと 7日と 7時間:2007/01/16(火) 13:17:44.17 ID:LpNImem40
ほshう
349 :
閉鎖まであと 7日と 6時間:2007/01/16(火) 14:33:17.59 ID:kFLKTAHhO
ほつ
350 :
閉鎖まであと 7日と 6時間:2007/01/16(火) 14:49:46.82 ID:Iqr5EYGRO
保守
351 :
閉鎖まであと 7日と 5時間:2007/01/16(火) 15:20:45.79 ID:gvK5meAOO
ほしゅ
ここでやってたの気付かなかった
>>1愛してるよ頑張ってNE
352 :
閉鎖まであと 7日と 4時間:2007/01/16(火) 16:17:49.46 ID:iAAkgGv/O
ハッシュ
353 :
閉鎖まであと 7日と 4時間:2007/01/16(火) 16:42:38.13 ID:LpNImem40
保守
354 :
閉鎖まであと 7日と 4時間:2007/01/16(火) 16:59:34.54 ID:gvK5meAOO
ほしゅ
355 :
閉鎖まであと 7日と 3時間:2007/01/16(火) 17:18:07.78 ID:pKLxGFZ3O
だから僕は弱虫なんだ
356 :
閉鎖まであと 7日と 3時間:2007/01/16(火) 17:39:07.69 ID:mGYV9QeaO
マッシュ
357 :
閉鎖まであと 7日と 3時間:2007/01/16(火) 17:44:20.83 ID:WFUAlDiW0
おちんちんISSP
358 :
閉鎖まであと 7日と 2時間:2007/01/16(火) 18:25:32.51 ID:Iqr5EYGRO
保守
359 :
閉鎖まであと 7日と 1時間:2007/01/16(火) 19:23:44.01 ID:iAAkgGv/O
ハッシュ
360 :
閉鎖まであと 7日と 1時間:2007/01/16(火) 19:55:14.72 ID:j/KSRup+0
361 :
閉鎖まであと 7日と 0時間:2007/01/16(火) 20:10:22.01 ID:zK+WKF1K0
ほしゅ
362 :
閉鎖まであと 7日と 0時間:2007/01/16(火) 20:24:37.44 ID:LpNImem40
____ r っ ________ _ __
| .__ | __| |__ |____ ,____| ,! / | l´ く`ヽ ___| ̄|__ r‐―― ̄└‐――┐
| | | | | __ __ | r┐ ___| |___ r┐ / / | | /\ ヽ冫L_ _ | | ┌─────┐ |
| |_| | _| |_| |_| |_ | | | r┐ r┐ | | | / | | レ'´ / く`ヽ,__| |_| |_ !┘| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|‐┘
| r┐| |___ __|. | | | 二 二 | | |く_/l | | , ‐'´ ∨|__ ___| r‐、 ̄| | ̄ ̄
| |_.| | / ヽ | | | |__| |__| | | | | | | | __ /`〉 / \ │ | |  ̄ ̄|
| | / /\ \. | |└------┘| | | | | |__| | / / / /\ `- 、_ 丿 \| | ̄ ̄
 ̄ ̄ く_/ \ `フ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | | |____丿く / <´ / `- 、_// ノ\ `ー―--┐
`´ `‐' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`‐'  ̄ ` `´ `ー' `ー───-′
363 :
1:2007/01/16(火) 20:26:31.46 ID:3TwGR4BJ0
やっとレポートの山が見えてきました。
保守、本当に本当にありがとうございます( ^ω^)
364 :
閉鎖まであと 7日と 0時間:2007/01/16(火) 20:31:34.32 ID:LpNImem40
もうだめぽ、明日深夜三時までにスレが落ちない事を願うしかない
365 :
1:2007/01/16(火) 20:39:21.00 ID:3TwGR4BJ0
>>364 遅くとも10時までには終わる予定なので多分大丈夫かと…。
366 :
閉鎖まであと 7日と 0時間:2007/01/16(火) 20:50:15.99 ID:DnndKLAO0 BE:651024768-2BP(3001)
レポートがんがってNE
ε=ε=ε=(┌ ^ω^)┘シュタシュタシュタ...
367 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:13:12.61 ID:gvK5meAOO
ほしゅるよ!
368 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:21:52.75 ID:UMQBFVCG0
ほしるよ!
369 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:23:13.01 ID:Iqr5EYGRO
ほるよ!
370 :
1:2007/01/16(火) 21:25:13.42 ID:3TwGR4BJ0
無事終わりました( ^ω^)
メシ食ってから開始しますね。
今回は即興になるので見づらかったりテンポ悪かったりするかもですけれど
悪しからずご了承下さい('A`)
371 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:42:20.62 ID:NpH5rDSOO
WKTK
372 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:53:59.00 ID:8hJL1TwU0
無問題待つよ待つよ
373 :
閉鎖まであと 6日と 23時間:2007/01/16(火) 21:59:36.67 ID:I1LoD3M10
待ってたよ肉さん
ブログで読めないからこっちまで出張してきたぜ
食べ終わりました。
続きの詳細を考えがてら、折角vipでスレ立てしたので『らしく』ということで
最初にケンジュに降りてくるのはのび?スネ?ジャイアン?
>>375
のびちゃん
376 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:10:00.34 ID:UMQBFVCG0
おかえり!
377 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:11:30.01 ID:3TwGR4BJ0
「タカベさん!」
ジャイアンが空気砲を放ったが早いか、のび太はウガクスの森へと降下した。
暗視ゴーグルを着けているとは言え、星の明かりもまばらにしか届かない暗闇の中では
その機能は期待するほどの役割を果たさない。
草むらに降り立ったのび太は即座に周りを見渡し、タカベの姿を探す。
「タカベさん!タカ……」
その時、後ろから腹部に何か硬いものが押し当てられるのを感じる。
決して大きくないそれは、おそらく棒状の、いや筒状の何かで、おそらくは……。
のび太は全身からどっと冷や汗が出るのを感じた。
「戦場で大声を出すなよ、のび太くん。狙ってくれと言っているようなもんだ」
言葉と同時に禍々しい感触が消え去る。
確かめるまでもない、それはタカベの声だった。
378 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:18:19.78 ID:3TwGR4BJ0
のび太が振り返ったそこには、全身が土にまみれたタカベの姿があった。
彼のトレードマークであるバンダナは今にも解けそうになっている。
おそらく木々を駆け抜けたからだろう、戦闘服から露出された手足には無数の擦り傷があった。
それら全てがここで行なわれた戦闘の激しさを雄弁に物語っている。
「タカベさん……」
のび太は先ほどからそれしか口にできない。
『さっさと帰れ』
3人を突き放すように発せられたその言葉が、今も鼓膜にこびり付いている。
「タカベさん、俺、俺たち……」
いつの間にかやって来ていたスネオとジャイアンの声が背中越しに聞こえた。
彼らも、それ以上の言葉は接げないでいる。
その時タカベが無言で腕を上げるのが見えた。
(ぶたれるのかもしれない)
その痛みも甘受しなければならないのかもしれない。
遊びではなくこれは戦争。誰よりもその言葉の意味を知っているタカベの言いつけを、
僕たちは破ってしまったのだから。
のび太は奥歯を噛み締めて目を閉じた。
「……ありがとう」
タカベの手は大きくてゴツゴツしてて、でも暖かかった。
髪の毛をくしゃくしゃと撫でられていると、火薬の香りが微かにのび太の鼻腔を
くすぐる。
ぶたれるものばかりだと思っていたのび太は、目を丸くしてタカベの顔を見上げた。
タカベはのび太の言わんとすることを視線で察したのか、ゆっくりと口を開く。
「言ったろ、君たちの気持ちは、理解できるって」
その言葉に、ナシータでスネオの頭をくしゃくしゃと撫でたタカベの姿が蘇った。
「無茶ばかりする子たちだ」
暖かく笑いながら、なおものび太の頭を撫で続けるタカベの顔を見上げる。
「…っきてて……生きてて……よっ、よかた……」
涙が溢れた。止まらなかった。
380 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:31:00.27 ID:3TwGR4BJ0
「タカベさん!パルスタの敵影はもう見えません!撤退した模様です!」
嗚咽の止まらないのび太の耳にトリユ兵の声が届く。
頭上の暖かな感触がそこで消えた。
「のび太くん、スネオくん、ジャイアン。
君たちの助けがなければ一体どのくらいの被害が増えたか分からない。
本当に感謝している。ありがとう」
タカベが深々とお辞儀をする。しかしそれも一瞬のことで、頭を上げたタカベは
再び軍人の顔つきを取り戻していた。
「我々はこれからパルスタに進軍する。
再びケンジュに突っ込まれたら今度こそ防衛でないだろう。
夜明けを待ちたいところだが、生憎そんな余裕すらないんだ。
だから――」
「で、でも帰りませんよ!」
タカベの言葉が終わる前にのび太は声を荒げて答えた。
「僕たちだって、役に立てるんだ!」
スネオものび太を後押しする。ジャイアンも一歩前ににじり寄った。
「タカベさん、俺らの道具の凄さは分かってんだろ?
今は少しでも兵力が欲しいんじゃないのかよ!
足手まといにはならねえ、約束する!
だから……」
「……もう帰れなんて言わないさ」
「タカベさん!」
その時、トリユの兵が突然割り込んできた。
おそらく本来ならならば、こうやって悠長に話している暇すらないのだろう。
タカベが何やら早口で兵士に指示を出すと、再び4人だけの世界になった。
「お願いがあるんだ。
君たちにはウガクスの森を守るのを手伝って欲しい」
「ウガクスを?」
「ああ、俺たちはこれからパルスタに乗り込む。
けれどその間隙を突いてパルスタ兵がトリユに乗り込まないとも限らない。
だから、残る兵と一緒にここで防衛ラインを築いて欲しいんだ」
382 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:43:15.26 ID:3TwGR4BJ0
「タカベさん……」
野球で失策しては詰(なじ)られ。
テストで0点を取っては叱られ。
未来道具を使っては失敗し。
いつも誰からも、バカにされていた。
そんなのび太に寄せられた、最強の軍人からの信頼の言葉。
「……任せて下さい!
僕が、僕たちがいる限り、トリユには蟻の一匹だって通しません!」
力強く言い切ったのび太を、タカベが優しい眼差しで見遣った。
「よし、じゃあまず傷病兵の回収を手伝ってくれ。
スネオくん」
「は、はい!」
「僕をトリユまで運んだ時、僕の体を軽くしてくれた道具があったね。
あれを使って倒れた兵士の体を軽くしてくれないか?」
「は、はい!」
スネオは嬉しそうに頷くが早いかすぐに駆け出した。
383 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:50:35.88 ID:3TwGR4BJ0
「ジャイアンもそれを手伝ってあげてくれ。
君なら2、3人は担げるだろ?」
タカベはそう言って挑戦的な笑みを浮かべる。
「バッカにしないでくれよ!5人は軽いって!」
このようにして人の心の機微を読むのに長けているというのも
軍人としての必須条件なのかもしれない。
「さて、のび太くんだが……ちょっと付いてきて欲しい」
「え?」
戸惑うのび太をよそに、タカベはスタスタとケンジュに向かって歩き始めた。
のび太は慌ててその後を追う。
「この塹壕だな……」
たどり着いた先は、空中からジャイアンが空気砲を放った塹壕の目の前だった。
のび太の視線の先にパルスタ兵がぐったりと倒れているのが見える。
空気砲には殺傷能力が備わっていないから、おそらく気絶しているだけなのだろう。
ぽつねんと倒れた兵士を見ていると、タカベがその中にぴょんと飛び込んだ。
384 :
閉鎖まであと 6日と 22時間:2007/01/16(火) 22:56:02.89 ID:3TwGR4BJ0
「しかしまあ……よく暴発しなかったもんだ」
何かしらぶつぶつと呟きながらタカベが塹壕の中で動いた。
どうしたんだろう?というように見つめていたのび太だったが、
目の前にいきなり真っ黒な物体を突き出され、驚きの声を上げる。
「わ、わ!な、何ですか?」
「ああ、ちょっとそれ持っててくれないか?」
強引にその物体を受け渡される。
ズシリとした重みが、腕全体にのしかかった。
思わずふらつきそうになる足ををぐっと堪える。
「な、なんですかこれ!?」
「パンツァファウスト……ま、大砲みたいなもんさ」
事も無げに言いのけるタカベだったが、思わずのび太の目の前がクラクラした。
(子供に大砲を持たせるなんて、一体どういう神経をしてんだろ?)
そんなことを考えていると、タカベがパルスタの兵を負ぶって塹壕から這い上がる。
385 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:02:07.96 ID:3TwGR4BJ0
「よし、じゃあ一旦森に戻るぞ」
「た、タカベさん、その人は?」
背負われたパルスタ兵を見つめながら、のび太が怪訝そうな声を出した。
敵を背負うなんて、一体――そんなのび太の疑問を察したのか、タカベが歩きながら
口を開く。
「あのままあそこに寝かしとくわけにもいかんからな。
かと言って殺すわけにもいかないだろ。
ホリョ、ってやつだよ
「ホリョ?」
のび太が間抜けな声を出した。
その声にタカベは苦笑しながら「ま、人質みたいなもんだよ」とあっけらかんと答えた。
「傷病兵の回収、ならびにパルスタへの進軍準備、整いました!」
森に着いたと同時に、ピンと背筋の伸びた兵士がタカベの下に駆け寄る。
分かった、と静かに呟いたタカベは、手近なトリユ兵を呼ぶと
背中に負ぶったパルスタ兵を引き渡した。
「のび太くん」
タカベはバンダナを巻きなおしながらのび太を見据える。
「君の仕事は、あの捕虜の見張りだ。
もちろんそれだけに縛られることはない。
戦場で求められるのは柔軟さ、臨機応変な機転だ。
ヤバいと思ったらすぐ逃げる、仲間がピンチだったら何を置いても助ける。
軍人の鉄則だよ。いいね、忘れちゃいけない」
タカベはそれだけ言うと、親指で自分の眉間をぐい、とこすった。
眉間に付いたひし形の傷痕はかなり深そうだったが、そういう仕草をとるあたり
タカベ自身は結構気に入っているのかもしれない。
「分かりました。でも、約束して下さい!」
「なんだ?」
「……軍人の鉄則。ヤバいと思ったら、すぐに逃げて下さいね」
予想外の言葉にタカベはきょとんとした顔になったが、すぐに参ったな、という風に笑った。
「わ、笑わないで下さい!ね、タカベさん。約束ですよ」
タカベはそれには答えず、無言でポケットから吸いかけの煙草の箱を取り出す。
何だろうと思って見ていると、タカベはそれを無言でのび太の手の中に押し付けた。
「なんですかこれ?」
のび太の父親はチェリーという煙草を吸っていたが、手の中にあるのは全く違う煙草だった。
「俺はな、ヘビースモーカーなんだ。一日に三箱は吸う。
俺の生活からタバコがなくなりゃ、まあ死ぬな。
で、そいつは最後の一箱なんだ」
「タカベさん……」
「大切に持っといてくれよ。
折角帰ってきても、そいつがなかったら俺は死ぬぜ」
その言葉に、のび太とタカベは盛大に笑った。
388 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:19:39.03 ID:3TwGR4BJ0
「じゃあ俺は行くよ。少々喋りすぎた」
タカベが小銃を抱えなおす。のび太はその言葉に無言で頷いた。
「兵士を、トリユを、頼んだぞ!」
瞬間にタカベは駆け出す。
森の中は深い暗闇だと言うのに躓く様子すらなかった。
のび太が暗視ゴーグルを掛けてタカベの背中を追うと、視線の先には
うすぼんやりと何百かの兵士が待機しているのが見えた。
「……!……スタ……う……!」
何事かタカベが大声で叫ぶ声が、遠くに聞こえる。
次いで、大勢の男が雄たけびを上げた。
「……進軍……!!」
その様を遠巻きに見ながら、のび太は静に、丁寧に……敬礼した。
389 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:22:29.25 ID:AZOWqZZd0
wktk
390 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:24:03.26 ID:FLaHTfXu0
あまりに良スレ
森の中のキャンプに戻ると、残った兵士とスネオたちがブルドーザーのような勢いで
食事を掻きこんでいた。
「おおのび太!遅かったな!お前も食え食え!」
机の上を見るとグルメテーブルかけが広げられている。
続々と現れる兵士たちが、グルメテーブルかけの前に立って次々に注文した。
「カツ丼!」
「カツ丼!」
「カツ丼!」
言葉と共にもの凄い数のカツ丼が机の上に現れる。
その異様な光景に思わずのび太は目を丸くした。
「か、カツ丼、大人気だね……」
「おう!カツ丼って言葉しか教えてないからなガハハハハ!」
ジャイアンが二杯目のカツ丼を頬張りながら大声で笑う。
のび太はその胸中で
(カツ丼以外にも美味しいものはたくさんあるんですよ、トリユの皆さん)
と静かに呟いた。
___ _
/ ____ヽ /  ̄  ̄ \
| | /, −、, -、l /、 ヽ
>>1きみ天才?
| _| -|☆ | ☆|| |` |―-、 |
, ―-、 (6 _ー っ-´、} q -´ 二 ヽ |
| -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ ノ_ ー | |
| ̄ ̄|/ (_ ∪ ̄ / 、 \ \. ̄` | /
ヽ ` ,.|  ̄ | | O===== |
`− ´ | | _| / |
【その頃の出木杉】
「明日はテストかあ。しずか君、準備できてる?」
「あんまり自信がないわ。出木杉さんは?」
「そうだね、後は簡単に復習するだけかなあ。
じゃ、また明日!」
「さよならー」
玄関を開け、部屋へと駆け上がるとガチャリと鍵を掛ける。
今日は赤ペン先生から返事が返ってくる日だった。
先日送った問題用紙には少し茶目っ気を入れた。
「先生、何カップ?」
家でも、学校でも、地域でも優等生たることを求められる出木杉。
孤独だった。いつも心はひとりだった。
そんな彼のとったその行動は、日常へのささやかなレジスタンス。
小さな革命家は、地球にもいたのだ。
『黙ってたけど俺、男なんだ 室伏』
出木杉は躊躇うことなく嗚咽を漏らした。
【the end】
394 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:30:31.40 ID:UMQBFVCG0
カツ丼!
395 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:31:37.45 ID:AZOWqZZd0
396 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:31:48.98 ID:C6gFAukw0
英才ぃぃぃぃぃ!!!!!!
397 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:33:06.93 ID:pKLxGFZ3O
398 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:35:23.86 ID:UMQBFVCG0
「少し落ち着いたかしら……」
呟きながら、静は服の袖で額を拭う。
公民館は既に傷病兵で一杯になっており、入りきらなかった兵士は図書館に運ばれた。
「あんた、よく働くねえ。助かったよ」
背中から恰幅のよい中年女性に労いの声を掛けられ、はにかんで振り返る。
その女性はこの夜、大声を張り上げながら公民館を指揮していた人だった。
「これ以上、怪我する人が増えないといいんですけど……」
「戦争だからね。どうなるかわかりゃしないさ」
平板な声でその女性は言いのけた。
確かにそういうものなのだろうけれど、更に怪我人が増えることを想像すると
静の心が鈍く痛む。
「次に誰か運ばれてきたらカーテンでも巻くしかないねえ」
「どういうことですか?」
「もう包帯なんてないってことさ。ていうかね、うちの国は慢性的に物が不足してんだよ」
「え?」
400 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:44:13.78 ID:3TwGR4BJ0
静は不思議そうな顔をして女の方を見る。
物が、ない?
「そりゃそうさ。この国にはそもそも真面目に働こうって人間が少ないんだから
その日暮らしっつーのかね。ま、生きてれば御の字みたいなところがあるんだよ
そんな国さ。余分なモノなんてありゃしないよ
よく働いてる方だよ、今日なんかは……」
その言葉に、タカベの言っていたことを思い出す。
『何も強制されない。自由に、気ままに』
『物なんてありゃしないさ』
頭の中で2つの言葉がぐるぐると回る。
物のない暮らし、その日暮らし、自由と怠惰。
自由とは何もしないことなのだろうか?
それは果たして――自由なのだろうか?
「あんた、お湯沸かしてきてちょうだい!」
「は、はい!」
思索は、突然の大声に打ち切られた。
今はとにかく、お湯だ。
静は火のある場所に走った。
「じゃ、これ。何かあったらすぐに連絡しろよ」
のび太はスネオから『糸なし糸電話』を受け取ると、分かったと頷く。
捕虜はキャンプの中央から少し西に下ったところに設営されたテントに収容された。
(僕だけで大丈夫かな……)
内心に沸く不安がどうしようもなく膨らんでいく。
いくら拘束されている状態とは言え、敵兵を一人で監視するのだ。
のび太が重圧を覚えるのも無理のないことだった。
「スネオたちはどうするの?」
「ジャイアンはトリユの人たちと一緒に見張り、僕は武器のメンテナンスさ」
そう言ってスネオは『技術てぶくろ』をひらつかせる。
プラモにも詳しいスネオのことだ、その役割は適任だろう。
のび太は軽く手を上げつつスネオに別れを告げた。
403 :
閉鎖まであと 6日と 21時間:2007/01/16(火) 23:56:17.87 ID:TJxPl48MO
先生
「こ、交代にやって来ました……」
テントの外からおどおどと声を掛ける。
少しすると中からがたがたと音が聞こえて、テントの入り口が開いた。
「ありがと。暴れることはないと思うから大丈夫だろうけど、何かあったらすぐに言ってな」
優しそうな顔のその兵士はのび太にそう伝えると、あー腹減った、と呟きながらテントを
後にした。
のび太はおそるおそるテントの中に入る。
テントの中は自分の部屋と同じくらいの広さだった。
簡単な椅子と机、上ではランタンが煌々と光っている。
そして――中央の柱に縛り付けられた捕虜。
目はとっくに覚ましているらしく、のび太がテントに入ると力なく顔を上げた。
405 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:01:55.83 ID:6NgWa+h20
「……随分幼い兵隊ですね」
のび太の顔を見て捕虜が呟く。
その言葉とは反対に、のび太は「随分歳の食った兵士だな」と率直に思った。
相変わらずびくびくとした様子を崩さないのび太は、なるべく捕虜の傍には
近寄らないように気を回しながら椅子に腰を下ろした。
「そんなに怯えなくても平気ですよ。暴れたりはしませんから」
年配の兵士とはいえ、彼に老獪さは見て取れなかった。
僅かに口角を上げ、むしろ優しい口調でのび太に語りかける。
どこかで見たことのあるような顔をした捕虜に、のび太も少しだけ親近感を覚えた。
「……」
今、何時なのだろう。そんなことを考えながら無為な時間を過ごす。
捕虜の方を見ると、どうしても何かを喋らなければならない気がしたのび太は、
地面を見たり貧乏揺すりをしたりして息苦しい時間を過ごした。
「きみ……」
不意に捕虜が口を開く。
のび太は思わず腰につけていたグッスリガスのグリップを握った。
「きみは、戦場に出たのかい?」
捕虜が喋る。
その問いかけの真意を汲み取ろうとしたが、困惑するのび太の頭では
何も分からなかった。
(もしかしてバカにされてるのか?)
不意にそんな思いが頭をもたげた。
「で、出たさ!立派に戦ったんだからな!あんただって僕が倒したんだからな!」
咄嗟に口からでまかせが出た。
この兵士を打ち抜いたのはジャイアンの空気砲だ。
けれど、僅かばかり頭に血の上っていたのび太は、その言葉を訂正することなく
捕虜を睨み付けた。
捕虜は厳しい顔をして黙り込む。
こんな子供にやられたとあって、兵士のプライドが傷ついたのかもしれない。
のび太は、再び息苦しい時間を押し付けられた。
「……寒い時代とは思いませんか」
「え?」
難しい顔をして黙り込んでいた捕虜はしかし、怒るでも昂ぶるでもなく、相変わらず静かな調子で
のび太に喋りかけた。
「さ、寒い?むしろ暑いくらい……」
「君みたいな子供まで戦場に駆り立てられ、勝ち目もないくらい少ない兵士で戦争に向かう……」
まあそれに負けてしまったんですがね、と呟いて捕虜は苦笑する。
けれどそれも少しのことで、再び硬い表情になると男は言葉を続けた。
「君たちの国は一体何のために戦っているんでしょうね」
「お、お前たちが言うな!」
椅子から腰を上げてのび太は叫んだ。
408 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:17:43.18 ID:6NgWa+h20
「あなたたちが、パルスタがトリユに戦争を仕掛けなければ、何もこんなことには」
「本当にそう思ってるんですか?」
予想外の言葉に、思わずのび太はえ、と間の抜けた声を出した。
ロイの声を思い出す。
『1年前にパルスタがトリユに宣戦布告をしたんだ』
確かに彼はそう言った。ケンカを売ったのはパルスタのはずだ。
では、この男の言葉は一体――
「パルスタの物資輸送者を襲って。
精米工場を襲って。
我々の国に忍び込んでは窃盗を繰り返して。
そんな国が戦争をしてでも守りたいものとは、一体何なのですか?」
男の言葉が鼓膜のあたりで空転する。
409 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:27:44.13 ID:6NgWa+h20
「何を……そんな、襲うって……ふざけたこと言うな!」
言葉は未だ耳から離れず、のび太と脳裏でふわふわと悪戯っぽく回転する。
それを吹き飛ばさんとのび太は男を怒鳴りつけた。
けれど男は少しも表情を動かさずのび太の目を見る。
2人は無言で視線をぶつけ合った。
まっすぐな瞳だった。
「……なんだよ……」
そして、のび太は先に目を逸らす。
それと同時に男は短いため息を付いた。
「子供には教えてないんですか……
そうですね、子供には関係のないことでしょう。
私が同じ立場でも隠すかもしれない」
一人ごちるように男が呟く。
のび太は相変わらず何のことか分からない様子だったけれど、
さりとて男が強ちデタラメばかり言っているとも思えなかった。
「話、聞かせてくれませんか?僕、実は……この星の人間じゃないので」
男は突拍子のないのび太の言葉に「意味が分からない」と言った顔をしたが、
「知りたいのなら話します」
と言うと、トリユとパルスタの真実を語り始めた。
410 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:32:12.73 ID:cBgdHnOS0
昨日あたりから追っかけてたが……俄然面白くなってきたな。
>>1ガンガレ
411 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:32:39.65 ID:6NgWa+h20
「トリユとパルスタの関係について、どのあたりまで知ってるのですか?」
「えっと、30年前にパルスタが国を統一して、それから20年後にトリユが独立して、
それからトリユに行く人が増えて、1年前に宣戦布告を受けて……」
天井を向きながらタカベとロイの言葉を頭の引き出しから引っ張り出す。
細かい部分ははしょったが、大体外れていないはずだった。
「そうですね。大枠はそれで合っています。
けれど真実というものは往々にして細部に宿っているものです。
細部、それこそがこの戦争を紐解く鍵になるのです」
時折難しい言葉を交えながら男は語る。
細部?ロイとタカベが語っていない事実が何かあるっていうの?
その時不意にのび太はタカベの言葉を思い出した。
『国家には国家の理論がある』
あの時聞いたのは、トリユの理論。
そうだとするならば、これから語られるのはパルスタの理論なのだろう。
のび太は注意深く耳を傾けた。
412 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:34:41.50 ID:6NgWa+h20
ちょっとパリスタ・トリユの細かい部分を詰めるので少し時間を下さい。
なるべく早く書き上げますが、危なそうだったら保守してくれるとありがたいです(*^ω^)
あと、適当に何か書き込んでくれたりすると、僕が凄く喜びます(*‘ω‘ *)
413 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:36:20.85 ID:+z2ii16DO
wktk
414 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:37:25.20 ID:r1+EDWQ40
ワクテカがとまらない!
415 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:38:50.97 ID:Sgb3F15Q0
まだタカベ裏切られフラグが回収されてへん!
スネェェェェェェク!
416 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:45:25.84 ID:9cojRRVg0
どうでもいいことかもしれないけど、
のび太たちは、目の前で人間が死傷していく様子を目撃しているんだよね?
417 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:45:32.70 ID:oTspDjU1O
わくわくてかてか
418 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:46:30.54 ID:6NgWa+h20
「トリユの先代国王……現国王ロイの父親ですね。トリユは彼の立ち上げた国です」
「それは知ってる」
「最初は小国でした。それはそうでしょう、いくらパルスタが厳しかったといえ、
何もないところから国を立ち上げる何て無謀もいいところです。
その苦労は相当のものでしたでしょうね。
それでも彼は血を吐くような努力を重ね、ついに何もなかったトリユの地に
人が住めるだけの土壌を築き上げる。トリユの第一歩です。
ところで君、そもそも国を立ち上げることができたのはどうしてだと思います?」
出し抜けにそんなことを聞かれた。
あまりにも理解に苦しむその質問にのび太は憮然とした様子で答える。
「だから、ロイの父さんが頑張ったからでしょ」
「それは二次的要素です。そもそも頑張るためには、その基盤が必要なんですよ」
「どういうこと?」
「知識ですよ。作物を作り、建築の基礎を知り、絶やさずに火を起こすスキルを持つ。
それがあって初めて『頑張る』土台ができるのです。
そして、その知識を与えたのがパルスタの教育なんですよ」
419 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:47:57.74 ID:6NgWa+h20
>>416 そこは、来た時にはタカベの知略でパルスタが全滅してたという少年誌的平和展開です。
まあ死体は見たでしょうけど、一応夜ということで脳内修正しといて下さい。
昼間なら多分ゲロ吐く描写とかブチ込んでたかもw
420 :
閉鎖まであと 6日と 20時間:2007/01/17(水) 00:54:42.22 ID:6NgWa+h20
勉強と教育。
意味合いは似ているはずなのに、実際に耳にするとその響きは全く異なって聞こえた。
「自由に、そして扶け合う……でしたかね。トリユの国訓は。
素晴らしい標榜だと思います。それはパルスタもトリユも関係なく目指さなければならないでしょう。
おそらく最初の何年かはそれを実践できていたんでしょうね。
国を立ち上げる何て、一人でできることではありませんから」
「……」
ヒストリアに来た当初、ドラえもんの道具を駆使して何の苦労もなく生活環境を整えたのび太には
耳が痛かった。のび太はこの時、自由は本来絶え間ない苦労の末にあるものだと知る。
「自由を担保するものは何だと思いますか?」
「え?た、たん?」
「責任ですよ。誰も彼もが自由に過ごして、そんなので共同生活が
成り立つわけないじゃないですか。誰かの自由を支えるために誰かが少し我慢する。
その代わりに誰かが我慢してくれたお陰で、新たな自由を手にする。
そうやって少しずつ扶け合っていったから、自由国家トリユは誕生したんです」
男は淡々と、諭すように語り続けた。
421 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:00:34.41 ID:6NgWa+h20
ふと放課後の掃除のことを思い出した。
月に一週間だけ割り当てられる掃除当番。
その時はものすごく面倒だけど、よく考えたら残りの三週間は他の誰かがやってるんだよな――
そんなことを思った。
この男はそんなことを言ってるのだろうか、と思って男の顔を見る。
その表情からは何も読み取れなかった。
「けれどトリユの自由は段々と歪になります。
最初に建国した人意外の民が増えすぎたんですね。
彼らからすれば、トリユは何もない大事ではなく最初から国家として
『そうあるもの』として存在しました。
当然、その裏にある苦労も辛酸もしりません。
パルスタで厳しくされた分、働きもしません。
傲慢な自由ですね。
先代国王も何度か方針を変えようとしたらしいのですが、まあそれはできないでしょう。
何せ、そこで労働を強いたらパルスタと同じなんですから」
「で、でも!そんなのって後から来た人があんまりにも勝手じゃないか!」
「それを許したのは、トリユでしょう」
口調は優しかったが、厳しい言葉だった。
423 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:07:40.30 ID:6NgWa+h20
「働かない。頭を使わないから知識も消える。人はどんどん増えていく。
当然国家は立ち行かなくなる。
そうして先代国王が死んだ2年ほど前から、トリユの民による略奪が始まります。
楽して生きようとした人間の成れの果てですね。悲しいことです」
「略奪って、そんな……」
「信じられないですか?でも君、トリユで少しでも畑を見ましたか?
まあ元々あそこは農作業にはあまり向いていない土地ですがね。
信じる信じないは自由ですが、とにかく私の語る『事実』はそうです。
幾ら歯牙にも掛けない小国とは言え、そこまでされたらパルスタも黙っていられません。
遂に1年前、宣戦布告を行なった、というわけです」
語られなかった細部。
それはあまりにも厳しい――そう感じてしまうのは、のび太の幼さ故なのだろうか。
のび太はゆっくりと考えながら、思い出す。
トリユの人たちの顔に覇気がなかったのは、何も戦争だけが理由ではなかったのかもしれない。
424 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:12:42.10 ID:6NgWa+h20
「君は素直な少年ですね」
見上げると、縛られているというのに男は笑っていた。
「突然悲しそうな顔になりました」
悲しくない、といえばそれはウソになる。
トリユはのび太の求めた社会そのものだったのだ。
けれどその実態はあまりにも悲しく業が深く――
「大事なのは自分の信念を見失わないことです。
トリユの人だって、ぐうたらしてる人ばかりじゃないでしょう。
こうやって戦争になれば戦う人もいる。
私の言葉だけを鵜呑みにしては危険ですよ」
腐したり持ち上げたり、目の前の男は一体どういう神経をしているのだろうか。
のび太は不思議に思いながらも、何だかおかしくなった。
「それにもうすぐ、この戦いも終わります」
「え?」
「タカベが討ち取られますからね――」
「どういうこと?!」
勢い込んでのび太は叫んだ。
そのあまりの剣幕に、男が初めて表情を崩す。
「タカベがいなくなればこの戦争は終わるんですよ」
「でたらめ言うな!」
426 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:21:40.33 ID:6NgWa+h20
「本来であれば、敵軍の指揮官を討ち取ったくらいで戦争は終わりませんよ。
ロイ国王――彼を討ち取るか、あるいは国家が降伏するか。そのどちらかです。
でもね、『こと』はそう単純じゃないんですよ」
「うるさい!うるさい!」
「聞きなさい!」
男はピシャリと言ってのけた。
その鋭い声に、思わずのび太は体を硬直させる。
「知ってるかもしれませんが、タカベは元々パルスタの民だったんです。
それが1年前、丁度宣戦布告を前後してトリユに渡りました」
知らなかった事実だ。
のび太は勝手に、もっと前からトリユに移民したものとばかり思っていた。
「パルスタとしては最初、宣戦布告さえしてしまえば簡単にトリユは軍門に下ると思ってたのです。
しかしそれを阻んだのがタカベだった。
彼はろくな兵力もなかったトリユに渡り、戦闘のイロハを一から仕込んだ。
トリユにも名が響いたタカベでしたからね、皆諸手を挙げて歓迎したことでしょう。
逆に言えば、タカベさえいなければ、そもそもトリユには戦争をする術すらなかったんです」
のび太は言葉を発せないままでいる。
『血だよ。戦闘しろって騒ぐんだ』
先ほどのタカベの声が耳朶に蘇った。
427 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:24:03.59 ID:6NgWa+h20
ちょっと小休止します(;^ω^)
頭が湯だってきた…。
少し内容が冗長になってますね。すいません。
428 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:28:56.30 ID:r1+EDWQ40
乙乙!無理スンナよ!
429 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:31:29.97 ID:gHWfujMR0
乙!!!!!!!!!!!!!!!!
疲れたら休みねえ!
ふらふらの頭じゃいい文章も出てこないぜ!
430 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:43:44.94 ID:6NgWa+h20
ちょっと頭がスッキリしてきた( ^ω^)
エンディングテーマを決めかねる僕です。
ぶっちゃけどんな曲イメージします?
とか、聞いてるあいだに続きを書きますノシ
431 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:51:52.72 ID:YQWxYVHM0
大魔境の曲とか
432 :
閉鎖まであと 6日と 19時間:2007/01/17(水) 01:52:48.66 ID:4ZiGcgRmO
たまたま今、戦場のメリークリスマス聞いてるがどうかな
てか全然追い付けない
>>441 ようつべになかった('A`)
何となくは覚えてるんですけどね。
>>442 まさに戦場ですからね( ^ω^)
参考になります。
派手にレス番号間違えた('A`)
続き書きます。
435 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:09:43.15 ID:cBgdHnOS0
wktkwktk
436 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:09:51.23 ID:gD6tPsA7O
肉さんファイトー
応援してるぞおおおお
437 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:11:12.76 ID:6NgWa+h20
「怨恨なのでしょう。君のタカベの父親のことは聞いたんじゃないですか?」
思い出す。迫害され、差別された不遇の兵士。
その意趣返しとしてトリユに渡ったのだとすれば。
「その怨恨が続く限り、譬えトリユが潰れても意味がないのです。
いつしか問題は『トリユを抑えること』から『タカベを消すこと』に擦り替わっていました。
結局タカベが生存し続ける限り、第二第三のトリユが現れ続ける可能性があるのですから」
タカベの言った言葉、戦争という因果の螺旋――
あれは、もしかしてそういう意味だったのだろうか?
ヒストリア人であり続ける限り、戦争はなくならない。
タカベは確かにそう言った。
438 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:12:52.91 ID:YQWxYVHM0
439 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:17:13.88 ID:6NgWa+h20
「でも、そうだとしても。
タカベさんがそう簡単にやられるわけがない!」
のび太はポケットにしまったタバコの箱を握り締める。
タカベとの再会の記し、タカベはタバコを吸うためにきっと戻ってくる。
のび太はそう信じていた。
「……普通にやればそうでしょう。
けれどいかに屈強な兵士といえども背後から撃たれたら」
「え……」
「死ぬだけです」
『タカベの首を差し出しましょう』
ミヤイの言葉が捕虜の言葉と結びつく。
「もしかしてそれは」
「トリユの首脳は、承諾したそうですよ。」
言葉を最後まで聞くことなく、のび太はテントから飛び出した。
440 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:18:20.76 ID:6NgWa+h20
>>438 おお懐かしい!ありがとうございます( ゚∀゚ )
441 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:29:09.43 ID:6NgWa+h20
「スネオ!ジャイアン!すぐに来てくれ!」
糸なし糸電話に怒鳴りつけながらのび太は走った。
その間に幾人かの兵士が何事かとのび太の方に振り返ったが、最早視界には映らない。
「のび太、どうしたんだ?」
中央のテントに辿りつくと、外にはスネオとジャイアンが立っていた。
「すぐにタカベさんのところに行こう!」
「おい、どういうことだ?」
「このままだとタカベさんが殺されちゃうんだよ!」
その声に周りにいた兵士も一斉に振り向く。
「何だって?!タカベさんがどうして!」
「説明してる時間はないんだ!ねえ、タカベさんはどっちに行ったの?!」
近くにいた兵士を捕まえて、のび太は問い質した。
「ぱ、パルスタの城だよ。途中にある軍本部を一気に突き抜けて、城まで攻め入るつもりらしい」
それだけ聞いくと、のび太はタケコプターを付けてタカベのいたテントへと飛んだ。
442 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:33:25.11 ID:6NgWa+h20
テントには誰もいなかったが、幸いにもランタンの火は落とされていなかった。
のび太は無言でずんずんと中まで入ると、広げられていた地図に目を落とす。
(パルスタは……これだ!)
「おいのび太!きちんと説明してくれよ!」
「そうだよ!わっけわかんねーよ!」
声にのび太が顔を上げる。
その表情は泣いているような、怒っているような、複雑な色を浮かべていた。
「ロイが、裏切った」
「ええ?裏切ったってお前……」
「タカベさんを殺したら戦争を止めてやるってもちかけられたんだ!
ロイは、それに乗った!」
涙交じりの声でテントを飛び出す。
むせ返るような暑さがのび太を包んだ。
途端に汗が噴き出す。
ベト付いた手でポケットの中のタバコを握ると、のび太は星を纏って空を飛んだ。
443 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:40:11.45 ID:6NgWa+h20
のび太は、タケコプターを最大出力にして夜空を切り裂く。
発砲音は未だ耳に届いてこない。
パルスタ軍の本部まではおよそ20km……。
タカベと別れてからはおよそ2時間は経過している。
ふと見ると、東の空が薄っすら白くなり始めていた。
「……び……の……!」
遥か後方から2人の叫ぶ声が聞こえる。
のび太は待とうとする素振りも見せずにケンジュの草原を突っ切った。
…タタ……タ…タタタ……
(聞こえた!)
音と同時に前方に漆黒の広がりが現れる。
おそらくあれがパルスタの眼前に広がるリツブの森だ。
そしてタカベも、そこに。
のび太は速度を落とすことなく、斜め下に向かって降下した。
444 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:40:33.93 ID:6NgWa+h20
【リツブ攻防戦】
445 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:50:29.44 ID:6NgWa+h20
「固まるな!散開しろぉぉ!」
叫んでタカベはパンツァファウストを撃ち込む。
狙いも付けずに放った砲弾は木々の間を掻い潜りパルスタの群兵の中に炸裂した。
その凄まじい爆風と破片はパルスタ兵の身体を引き裂き、その後に襲う
数千度の高熱の火球が、その引き裂かれた肉と骨を焼き尽くす。
一瞬の苦痛さえも与えない劫火。
即座に森を不自然な灯りが包む。
「伏せろ!狙われるな!明かりのあるうちに撃て!撃ちまくれぇぇ!」
激しい銃撃の音にタカベの声は半ば掻き消される。
強襲だった。
素早い進軍と、獰猛なまでの火力。
ケンジュが破られたことが伝令されていなかったのが功を奏した。
体勢も整わないままに襲われたパルスタの兵になす術はなかった。
446 :
閉鎖まであと 6日と 18時間:2007/01/17(水) 02:58:06.24 ID:6NgWa+h20
「中心を制圧しろ!敵をかく乱しろ!
直線に動くな!常に狙いを逸らせ!」
タカベは激しく動きながらも適切な指示を飛ばす。
トリユにすれば円の中心にある本部を狙えばいいのだから進軍は容易だ。
けれど、パルスタにとってみれば。
円状に攻め込まれたとあっては、果たして円のどの部分を狙えば良いのか?
パルスタ軍は混乱に陥っていた。
さらにパルスタは波状に軍を展開しているため、後方からパンツァファウストを
撃ちこむことも叶わない。
もちろん前線の兵士の幾人かはその凶暴な兵器を持っているのであるが
最前線に来た瞬間、彼らはタカベの手により正確に葬り去られる。
「すまんな、代わりに俺が使ってやろう」
パンツァファウストを抱えたまま朽ちた兵の手を蹴り上げると、タカベは再び砲弾を
パルスタ兵群に向けて構えた。
禍々しい光が森に明滅する。
447 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:05:08.32 ID:6NgWa+h20
(パルスタにさえたどり着ければ――)
タカベは頭の中でシミュレートする。
おそらくパルスタ軍は現在全兵力を前線に傾けているだろう。
逆に言えば城内に兵はほとんどいない、いたとしてもそいつは木偶だ。
使えないから前線に送られなかった兵士、それをタカベは兵とは考えない。
(ここを突破できればパルスタは制圧できる――)
軍本部周辺は、タカベの強襲により蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
慢心がなかった、といえばそれはウソになる。
数にして遥かに劣るトリユが、まさか本部に特攻してくることはなかろう――
『まさか』
全ての敗戦は、ここから始まるのだ。
448 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:10:17.04 ID:cBgdHnOS0
パルスタ軍、後詰めなしか……一回頂点に立っちゃってるだけに、隙の無い用兵とはいかんのかな(´・ω・`)
449 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:11:11.02 ID:6NgWa+h20
「引け!兵を引けぇぇ!」
苛立つ頭でパルスタ軍大佐・ギノ=レケマスは叫ぶ。
相手がタカベと聞いた時点で油断は握りつぶしたはずだった。
しかしそれでも斥候からトリユ軍勢の概要を聞いた後、
どこか『ゆるみ』が生じなかったかと言えば――
「前線にはもう兵を送るな!本部を固めろぉぉ!」
ギノは己の甘さを呪った。
そして、タカベ。
その血に眠る最強の遺伝子を畏怖した。
450 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:20:03.67 ID:6NgWa+h20
「パルスタを突破するには本部を超えねばならん!
敵の策にはまるな!散開すればトリユの思う壷だぞ!」
ギノのその指示は決して間違っていない。
けれどその声は遅すぎた、そして遠すぎた。
ケンジュの草原で散った兵士が全体の3割、そして今更にその3割がリツブの地に朽ちた。
360度、全方向から明滅するマズルファイヤーに、パルスタの兵力が4割にまで削ぎ落ちる。
「動かなければ死ななかったのにな」
中心に向かって収斂していくパルスタ兵の様を見ながら、タカベは喉の奥で笑った。
そう、最初から兵を中心にだけ集めていればトリユの策は軌道にも乗らなかったのだ。
全ては油断と、混乱から起こった結果である。
往々にして敵は身内に潜む――そんな言葉のよく似合う戦場だった。
451 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:24:28.42 ID:6NgWa+h20
そしてこの展開もタカベの想像の範疇にある。
撹乱して兵を蹴散らせば、自ずと兵は内に戻る――
攻撃が意味を持たない以上、防御に兵を回すのはある意味必然だ。
『兵が引いたら、一度リツブの入り口に戻れ』
それは事前にタカベが指示していたことである。
パルスタの兵を蹴散らすことはそもそも本懐ではない。
中央突破――その成否こそが勝敗を分けるメルクマールなのだ。
(ここからが、戦争だ)
頭の中で呟きながら、続々とリツブ入り口に集結する兵を眺めた。
452 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:32:04.77 ID:6NgWa+h20
「いいか。先ほども話したと思うがここからはもう小細工なしだ。
敵も完全に目が覚めただろうよ。総力戦だ。
一つだけ付け入る隙があるとすれば、奴らのオツムには俺たちが円状に攻めてきたことが
宿便のようにこびりついてる。そこを逆手に取るんだ。
いいか、奴らは今本部に固まってる。それは球体のようなもんだ。
でもな、球体を潰す時には律儀に周りから圧殺する必要はない。
針だ。俺たちは針になって奴らを潰す。
一点突破だ。腹を括れ。戦力差は甚大だ。死ぬかもしれん。
でもな、仮に銃弾に倒れても、俺たちは笑って、負けてやらんのだ!」
咆哮は上げない。けれど兵の目にみるみる内に力が篭る。
常に率先して前線を駆け抜けたタカベの一言一言は、誰のどんな言葉よりも説得的で
扇情的で、トリユの兵を鼓舞した。
無言でタカベに敬礼するトリユ兵。
そのシルエットだけがリツブの森に浮かび上がる。
「……行くぞ!」
低い声でタカベが唸った。
453 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:33:21.26 ID:6NgWa+h20
【パルスタ軍本部激突】
454 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:39:57.34 ID:P+LIi1N4O
wktk
455 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:41:20.04 ID:6NgWa+h20
「誰だよ、トリユの軍なんて楽勝だって言ってたヤツは……」
パルスタの一兵が銃を構えながら呪詛を漏らす。
突然の強襲、そしてあらゆる方向から降り注ぐ銃弾。
気付いた時には本部に逃げ戻っていた。
本来なら敵前逃亡で処罰されるところであるが、大佐が「本部帰還」の
指示を出していたことが幸いした。
「来るなよなあ、来てくれるなよな……」
軍にいれば職にあぶれることもない、志願の動機はそんな安易なものだった。
統一国家、そこにおいて戦争に駆り出されることなど永劫ないと信じていた。
宣戦布告にしても形だけのものだとタカを括っていた。
トリユだろ?どうやって負けるんだよ。
軍内で聞こえる声はいつも同じで、だから今直面する光景は未だに受け入れ難い。
「どっから来るんだよ……」
本部を取り囲むように展開した大量のパルスタ兵、数は……把握していない。
「いくらなんでもここを突破するのは無理だろ……どのみち右翼には門がないし……」
ギノ大佐の指示で、兵の大半は門前に集められている。
来ない、俺の所にはきっと来ない。頭の中で呟いていた。
目の前に、タカベのシルエットが現れるその時までは。
456 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:50:33.15 ID:6NgWa+h20
「え……トリユ……トリユだ!右翼にトリユが来たぞぉぉぉ!!」
叫びながら一兵は銃を構える。
けれどそのトリガーは永遠に引かれることはない。
痛みもない。熱さもない。
仮に死への苦痛が存在するとしても、死ぬ『その』時は常に刹那だ。
パルスタの一兵、名をノムと言った。
パンツァファウストの劫尽火に焼かれ、命を散らす。
---
タカベは一人右舷に回った。
ゆっくりと足音を立てずに本部に近づく。
しばらくすると右翼を固める兵の姿が見えた。
松明の火を受け、数十名の兵が銃を構えて森を睨んでいるのが分かる。
タカベはギリギリまで近づくと、『その時』を待った。
数分もしないうちに狙い通りにことが運ぶ。
一人の兵がタカベの姿を捉えると、ギクリとした顔になった。
「トリユが来たぞぉぉぉぉ!!」
ありがとう。俺がその叫びをどれだけ渇望したことか。
タカベはリツブで拾ったパンツァファウストを持ち上げると、即座に砲弾を射出した。
457 :
閉鎖まであと 6日と 17時間:2007/01/17(水) 03:58:59.21 ID:6NgWa+h20
「撃て!撃て!撃ち殺せぇぇ!」
兵が続々と本部の東側に集まる。
まさかの方向からの砲撃に、パルスタ兵は三度目の混迷に陥った。
一点突破はギノ大佐も予測していた。
けれどそれはあくまで『正面から』に限ってのものである。
誰が右翼からトリユが突っ込んで来ると予想できようか。
正面に固まったパルスタ兵は爆音を聞きつけると、弾かれたように右翼に回った。
パルスタの兵の放つ銃弾が光の矢となってタカベのいた位置に降り注ぐ。
いくら『あの』タカベといえども、この火力にあっては生きてはいられないだろう。
誰もがそう思った。いや、タカベだけじゃない。トリユのやつらはこれで全滅だ。
パルスタの兵は小銃を掃射しながらそう思っていた。
けれどタカベの思惑は、更にその上を行った。
458 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:02:41.83 ID:6NgWa+h20
「正面!正面!正面からトリユ兵ぃぃ!!」
「何ぃぃ?!!」
「っんざけんなぁ!!」
パルスタ兵の鼓膜を怒号と銃撃音が激しく掻き鳴らす。
正面から?じゃあ右翼は一体どういうことだ?
この軍勢に単騎でタカベが突っ込んだのか?まさか!?
敗戦は『まさか』から始まる。
タカベはこの鉄則を徹底的に遵守した。
「突破しろぉぉぉ!!」
タカベに変わって指揮を執るクロダが叫んだ。
球体を貫く鋭い針。
トリユ兵は今、何よりも先鋭な刃となってパルスタ軍本部へと突撃した。
459 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:06:45.37 ID:6NgWa+h20
では激しく掃射されたタカベはどうなったのであろうか。
特攻、否そうではない。
常識的に考えれば、あのどれだけ左右に散ろうともあの射撃からは
逃れる術があろうはずもない。
けれどタカベは知っていた、戦に勝つ術、常識を超えることを。
父の教えから、そして本能から。
「撃ちすぎだろ……幾らなんでも……!」
呪詛を吐きながらタカベはパルスタ軍本部東から撤退する。
背中に、リツブに倒れていたとりわけ体躯の大きいパルスタ兵を抱えながら。
パルスタから放たれた鉄の礫は、まとめてその死体にめり込んでいた。
460 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:09:14.63 ID:6NgWa+h20
もう少し書こうかとも思ったのですが、4時を越えたので断念します
申し訳ない('A`)
もう少しでクライマックスなのですが…。
明日には完結させたい気概です( ´・ω・)
もし保守が続いていればこのスレで、落ちていたら同名のスレタイで【完結】と付けて
スレを立てます。あるいは
>>322。
それでは、お付き合い頂いてありがとうございました。
お休みなさい( ^ω^)ノシ
461 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:12:04.48 ID:BRQ9moVA0
>>1は神
最高におもしろかった。
ちなみにタカベのモデルは現役傭兵の高部正樹氏?
462 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:12:59.79 ID:6NgWa+h20
>>461 そうです!よく分かりましたねー。
でも脳内ではソリッドスネークですけどw
463 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:16:16.40 ID:kuMvIoUV0
464 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:16:23.88 ID:psOuI8Vv0
続きを楽しみにしとくよーノシ
465 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:20:45.89 ID:pffOPz/+0
466 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:38:03.29 ID:K1LX3hjCO
ほし
467 :
閉鎖まであと 6日と 16時間:2007/01/17(水) 04:51:46.60 ID:dB+pvHDP0
ショウヘイヘーイ…
ショウヘーイ、ヘーーイ…
保守
468 :
閉鎖まであと 6日と 15時間:2007/01/17(水) 05:43:39.05 ID:dB+pvHDP0
保守
469 :
閉鎖まであと 6日と 15時間:2007/01/17(水) 05:45:14.44 ID:aaWJXmEh0
追いついた
先が気になって気になって全部読み進めてしまった
470 :
閉鎖まであと 6日と 14時間:2007/01/17(水) 06:07:57.60 ID:gD6tPsA7O
ほす
471 :
閉鎖まであと 6日と 14時間:2007/01/17(水) 06:23:47.52 ID:aaWJXmEh0
おす
472 :
閉鎖まであと 6日と 14時間:2007/01/17(水) 06:24:42.44 ID:WURWz3ivO
>>1おまえのせいで寝れなかったじゃないか!
責任とってよね!
473 :
閉鎖まであと 6日と 13時間:2007/01/17(水) 07:11:09.26 ID:P+LIi1N4O
ほく
474 :
閉鎖まであと 6日と 13時間:2007/01/17(水) 07:47:26.98 ID:5cmCHWL7O
海底鬼岩城のしずかちゃんの見せる勇気は異常
475 :
閉鎖まであと 6日と 12時間:2007/01/17(水) 08:43:41.60 ID:K3kYkDDz0
保守
476 :
閉鎖まであと 6日と 11時間:2007/01/17(水) 09:47:41.74 ID:K1LX3hjCO
ほ
477 :
閉鎖まであと 6日と 11時間:2007/01/17(水) 09:48:10.68 ID:K1LX3hjCO
ほ
478 :
閉鎖まであと 6日と 10時間:2007/01/17(水) 10:15:09.29 ID:gD6tPsA7O
もす
479 :
閉鎖まであと 6日と 10時間:2007/01/17(水) 10:43:06.00 ID:OdZaTMU2O
ホセ
480 :
閉鎖まであと 6日と 9時間:2007/01/17(水) 11:15:43.79 ID:mJxOdErdO
保守!
保守ピタル
482 :
閉鎖まであと 6日と 8時間:2007/01/17(水) 12:33:13.12 ID:WwiD4yoR0
守れ守れー
483 :
閉鎖まであと 6日と 7時間:2007/01/17(水) 13:12:24.61 ID:gD6tPsA7O
トス
484 :
1:2007/01/17(水) 13:16:29.10 ID:vkNizOf+0
保守どうもありがとうございます!
昼だしそんなに落ちる心配もないかと思いますので、しばらく書き溜めながら投下しますね( ^ω^)
今日で完結させたいなあ。
ではもう少しお待ち下さいノシ
485 :
閉鎖まであと 6日と 7時間:2007/01/17(水) 13:17:24.24 ID:q+z0ZbnAO
ktkr
486 :
閉鎖まであと 6日と 7時間:2007/01/17(水) 13:44:02.56 ID:OllSiSJ10
やっと追いついた、wktk
487 :
閉鎖まであと 6日と 7時間:2007/01/17(水) 13:54:27.80 ID:PFZlWqOHO
wktk
人生3回目のセンター受験前なのに毎日チェックしちゃうよ!
>1責任とってよね…(///)
488 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:13:31.97 ID:vkNizOf+0
「 だ ・・ るぞ ・!」
喧騒は司令室の中にまで響き渡る。ギノは苛立ちながら外からの伝令を待った。
まさかこの堅牢なパルスタ軍本部が突破されることはあるまい、そんなことを考えながら。
「大佐!トリユが右翼を強襲!その間隙を縫って手薄になった正面が破られました!」
叫ぶようにしながら司令室に飛び込んできたのは一人の兵士。その顔は完全に青ざめている。
正面が突破された?馬鹿な!門扉にどれだけの兵を固めたと思っているのだ!
ギノはぎりぎりと奥歯を噛み締めながら力を限りに机を叩きつけた。
「カノン砲を放て!蹴散らせ!」
「不可能です大佐!自軍の兵まで消し飛びます!城壁も無事ではいられません!」
ギノはその馬鹿げた抗戦方法しか思いつかない自分を呪う。
平和にかまけて能力を後逸させたパルスタの兵を呪う。
猛然と攻め込んで来るトリユ兵を呪う。
そして――親子二代に渡り己の無能さを痛感させてくれる、タカベの血を呪った。
「これが貴様の、貴様らの復讐かぁぁ!」
叫びと共に、足元の椅子を蹴り上げられた。
「大佐ぁ!草から報告が来ました!!タカベは今単独で行動しています!もう間もなくトリユの兵が、タカベを捕捉します!!」
パルスタの遥か上空、雲を抜け大気を貫き宇宙の外の遥か外、そこに浮かんだ運命の歯車。
それが今この瞬間、決して誰の耳にも聞こえない音を立てて噛み合いだす。
これより後、数分のこと。全てを決する破滅のトロッコが、パルスタとトリユの行く末を乗せて猛然と動き始めた。
489 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:20:41.18 ID:KmmS60PW0
今来たが のびたと一年戦争書いてた人と調子が似てる・・・
もしや・・・?
490 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:21:37.49 ID://k+BzZX0
あふぇ
491 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:22:58.96 ID:vkNizOf+0
>>489 今ググって初めて知りました。
そんなスレがあったんですねえ。
今度読んでみよっと!
492 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:50:04.48 ID:PFZlWqOHO
さりげなくドラえもん人気w
493 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:50:59.74 ID:oGBS9P+JO
あむ
494 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:52:02.94 ID:vkNizOf+0
「……しょっと」
幾分疲れた色の声を出しながら、タカベは背中に負ぶった兵を地面に落とす。
まじまじと見ることはしないが、何百発もの銃弾の盾になってくれた『勇敢な』
パルスタ兵の遺体はもはや原形を留めているはずもなかった。
「すまんな。成仏してくれ。
次に生まれ変わるならトリユとかパルスタとか何も関係のない世界に――」
刹那、右頬に軽い違和感。その次に焼けるような熱さ。
そして液体の流れ出す感触、もっと後から、痛覚。
一番最後に意識したのが、乾いた発砲音を確かに聞いた記憶だった。
たった1秒かそこらのことなのに、全ての刺激が順繰りにゆっくりと伝達されたかのような錯覚を受ける。
総毛立つこの空気、それは久しく味わっていなかった『誰かに確実な照準を定められている』感覚だった。
瞬時に地面に倒れこみながら、銃弾の放たれた方向にあたりをつける。
パルスタに着けられたのか?!馬鹿な!そんな気配はどこにもなかった。
だとしたら、一体――
パン、今度は先に銃声が聞こえた。右の脇腹が燃えるように熱くなった。
どくどくと流れ出す血が、リツブの大地に吸い込まれていくのを感じる。
囲まれたのか?痛みに顔を歪ませながらタカベは背後を振り向く。
そこに立っていたのは、間違いなくトリユの兵士だった。
495 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:53:35.28 ID:vkNizOf+0
「どこだ?!」
のび太は暗視ゴーグルに目を凝らしながら早暁の空を翔る。
発砲音は耳に捉えたが、未だトリユとパルスタの兵は見えない。
戦闘は森の中で行なわれているのではないのだろうか?もう森は抜けた?
そしてリツブの森から目を上げたのび太の視線の先に、パルスタ軍の要塞の陰が飛び込んだ。
見ると、そこだけに光の渦が集中している。
周辺にあるのは多くの人間の怒号、銃声、爆音そして聞こえるはずもない、呪詛。
あそこに――
ぱん
消えてしまいそうなくらい微かに鳴った銃声。
のび太は反射的に首を捻じ切るようにして下を向く。
ぽ、と小さな光が森の中で灯りその後にまた、ぱん。
タカベはあそこにいる。
直感したのび太は一気にその光を目掛けて急降下した。
496 :
閉鎖まであと 6日と 6時間:2007/01/17(水) 14:58:30.93 ID:+z2ii16DO
のび太の一年戦争
のまとめをwiki以外で
誰か拾ってきていただけませんか?
497 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:14:51.35 ID:vkNizOf+0
「タカベさん。いや、タカベ。あんたはここで死んでもらう」
平板な声が鼓膜を揺らす。
小銃を杖にして立ち上がると、そこにはトリユの兵が2人銃口をタカベに向けたまま立っていた。
「どういうことだ」
冷静を装って言葉を返すタカベだったが、足に力が入らない。
流れる出す血も止まる気配がない。
払暁のうすぼんやりとした光に照らされた2人の兵は、色のない顔でタカベを睨み付けた。
「どういうことだ!」
大声を出すと腹部が裂けるように痛んだ。
思わず腰を落としかけるが、気力で耐えた。
おそらくこの2人のどちらか一方の銃弾がタカベの頬を掠め、もう一方のそれが脇腹を貫いたのだろう。
「国王の命令だ。
あんたをパルスタに差し出せば戦争は終わる。
トリユも元通りだ」
498 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:16:09.01 ID:vkNizOf+0
「あんたは強い。いや強すぎるんだよ、タカベさん。
パルスタもトリユも、あんたの力を皆持て余しちまってる。
上はな、あんたがいる限り国家が動揺し続けるって思ってんだ。
だからあんたはここで死んでくれ。
トリユのために、パルスタのために――ヒストリアのために。
それで全部終わりだ」
トリユのため、パルスタのため、ヒストリアのため。
全部空疎の言葉だな、とタカベは思った。
いつからこの星の人間たちは、そんな綺麗な大義名分を振りかざしてしか
戦争ができなくなったのだろうか?
根底にあるのは、いずれも薄汚れた欲望でしかないはずなのに。
499 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:16:41.71 ID:vkNizOf+0
『ヒストリアにはまた戦争が起こる』
父の言葉がふと蘇る。
ああ本当、その通りだったよ。
でもね父さん、俺はこれを最後の戦争にしたかったんだ。
「パルスタの兵も随分殺せて、恨みも晴れただろう?」
こいつらはいつだって分かっちゃいなかった。
恨み?俺を動かしているのは、そんなチープな感情じゃない。
俺も、父も。
人を殺したのはいつだって『結果』だったさ。
そんなこと誰も信じちゃくれなかったけれど。
「俺は、俺の血は、タカベだ」
胆力を込めて、自分に確かめるようにタカベは口を開いた。
「さよなら、タカベ」
2人の兵が、同時にトリガーを引いた。
500 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:37:28.62 ID:vkNizOf+0
タカベは静かに目を閉じる。
何も感じることはなく、また何にも祈ることはない。俺はこのヒストリアという土地でただ生きた。
そして今、ただ死んでいく。俺の血はこれから更に流れ出し、リツブの、パルスタの、そしてヒストリアの大地に
吸い込まれ溶け出し昇華するのだろう。
俺の中にある戦いの血よ――タカベの遺伝子よ。
欲しくもなかった最強の称号と共に、国に星に混ざり込め。
そしてヒストリア、いつまでも戦争を絶やさず残せ。
この地から争いがなくならないのは、俺たちが常に流す血のおかげなのだから。
トリユもパルスタも根底にあるのは同属嫌悪だ。同じような種類の人間が銃を持ち寄って撃ち合いをやっている。
ああ何て不毛なのだろう。そしてその不毛さに気付けないことがまた生み出す、不毛。
それは未来永劫循環していく不毛の連鎖。俺は何人殺したか?分からない、けれども。
俺は確かにこの手で不毛の根を毟り取ろうと思ってたんだ。でもそれも今は叶わない。
できないくらいならばあんなに沢山の人間を殺すこともなかったのかもしれない。
それはカルマなのだろう。死んでも拭いきれない、俺の中にある罪業。それが今爆発する。
鉄の礫が俺の体を引き裂いて、体の中から罪を放出させるのだ。それは死ぬことでしか達成されない。
ならば俺は受け入れよう。そしてそれを餞にして、ヒストリアよ滅びろ永遠に。
タカベはゆっくりと目を開けた。
目の前には戦闘服を着た小さな兵士が、両手を広げて立っていた。
501 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:45:25.28 ID:oGBS9P+JO
ななな
502 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:46:45.96 ID:Z1v3hits0
ににに
503 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:47:23.89 ID:gD6tPsA7O
ぬぬぬ
504 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:50:45.61 ID:vkNizOf+0
突然、音のない世界に飛び込んだ。
眼下には銃を杖にして弱弱しく立っているタカベの姿。
そこから数メートル離れたところに銃を構えた2人の兵士。
『タカベの首を――』
いいえ、ロイ。それはできないんだよ。だって僕がこれから『責任』を果たすんだから。
そしてタカベさんはそれを代わりに『自由』を生きるんだ。
そりゃ僕だって、少しだけ不便になるかもしれないけれど、
その後僕にだって自由が来るんだぜ、ロイ、ロイ――
のび太はタカベの目の前に着地する。足元からもうもうと砂煙が上がった。
突然のことに何が起きたのか把握できないトリユ兵士。
けれど指に込めた力は既に不可逆であり、左右それぞれから放たれた銃弾は素早く
そして正確に、のび太の体目掛けて中空を切り裂いた。
「 ・・び太・・ぁ ・・!」
ツブリの上空でジャイアンが悲鳴のような声を上げているのが遠く聞こえる。
スネオが大声で喚きながら瞬間接着銃を放ったのだが、それより一瞬先に
トリユの兵が引き金を引いた。
タカベの目には映る。横顔だけを見せて自分に笑いかける少年の笑顔が。
肩を掴んで払いのけようとするのだけれど、体には塵とも力が入らない。
銃弾は中空を舞う。
505 :
閉鎖まであと 6日と 5時間:2007/01/17(水) 15:56:01.69 ID:P+LIi1N4O
のび太ぁぁぁぁ
506 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:10:19.16 ID:vkNizOf+0
『僕ができるのは道案内まで!』
なんだよ、こんな時に思い出すのがドラえもんの言葉かよ。
ちぇ、冴えないなあ。でもまあ、いいか。
あいつとの付き合いも短いようで長かったような、長かったようで短いような、ええと……
もうよく分かんないや。沢山ケンカもしたっけか。
『ケチ!』『分からず屋!』
ああほんとに僕は、分からず屋だったかもしれない。
でもドラえもん、お前も随分ケチだったぜ。ドラ焼き分けてくれたこと、一回でもあったか?
おやつの取り合いもしたっけ。それでも何度も家出の手伝いをしてくれたよね。
今回のこともちゃんと話せば分かってくれたのかなあ。
もうどうでもいいか、そんなこと。
ドラえもん。
もう一回キミと空を飛びたかったな。
ドラえもん。
ドラえもん……。
「ドラえもぉぉぉーん!!」
「キミは本当に泣き虫だな」
507 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:12:42.07 ID:psOuI8Vv0
ドラえもぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!1111!!!1
_____
/−、 −、 \
/ | ・|・ | 、 \
/ / `-●−′ \ ヽ
|/ ─ 、 ─ 、 ヽ ヽ |
| ・|・ |─ | |
| ` - c`─ ′ | l
ヽ (_ |____ / /
\ / /
l━━(t)━━━━┥
508 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:24:56.87 ID:vkNizOf+0
スネオは眼下に青く丸く寸胴の影が見えた。
ジャイアンの視界の端に、白く丸っこい手とひどい短足が映った。
のび太が目を開けると、円錐のような形の銃弾が胸の寸前、
ほんの10cmくらいのところでピタリと静止していた。
その更に10cm後ろには白いお腹に長い猫髭、赤い鼻にまん丸とした目の、
だからそれは――
「ドラえ……もん?」
銃弾の向こうに目を上げると、青頭。
タンマウォッチを持って笑顔で立っていた。
509 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:26:14.09 ID:65OgIZOM0
鉄のブタゴリラー無敵ブタゴリラー
510 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:26:16.84 ID:OyxEgX6U0
こんなにカッコイイドラえもんははじめて見た
511 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:28:13.33 ID:Z1v3hits0
なんてこったい!
512 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:29:49.38 ID:P+LIi1N4O
たぬきktkr
513 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:32:14.08 ID:fYvg6yRT0
ドラえもんかっこeeeeeeee
514 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:37:03.90 ID:gD6tPsA7O
ドラ!ドラ!
515 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:37:14.27 ID:vkNizOf+0
「ドラえもん!」
自然と涙が溢れる。
のび太はそれを拭うともせず、目の前にいたドラえもんに手を広げて抱きついた。
機械であるはずの彼の体はあんまり温かくないのだけれど、のび太の体はじんわりと温もっていく。
「ドラえもん……ドラえもん……」
のび太はそれ以上の言葉を接げない。
嗚咽を漏らしながら何度も何度も彼の名を呼ぶと、さめざめと泣いた。
のび太の頭が優しく撫でられ、その光景を見たスネオとジャイアンも思わず目頭を熱くする。
彼らも今、同じように故郷の母のことを思った。
「さ、あんまり時間を止めたままじゃいられない。
しずかちゃんはどこ?こんなとこからはすぐに帰ろう!」
ドラえもんがポケットに手を突っ込むと、するするとどこでもドアが出てくる。
これで終わる、この旅とそして、僕たちの戦いが。
そう思った瞬間、全身からどっと疲れが沸いた。
これでやっと――
(終わる?)
516 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:39:19.37 ID:vkNizOf+0
では果たして、何が終わるのだろう。のび太は後ろを振り返った。
タカベの左手が所在なげにのび太の肩のところで動きを止めている。
一体何をしようとしたんだろう――とは思わない。
きっとタカベさんはあの一瞬のうちでも僕を助けようとしたんだ……のび太は悟った。
「ドラえもん……」
「さ、しずかちゃんの場所を教えて。どこに――」
「頼む、力を、キミの道具を、貸してくれ」
「いや、でも」
「守りたい人がいるんだ」
517 :
閉鎖まであと 6日と 4時間:2007/01/17(水) 16:59:43.07 ID:vkNizOf+0
ちょっと一気に書いてきます。
集中しないとダメだー。
すいません('A`)
518 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:03:31.84 ID:gD6tPsA7O
おk!
wktkしておくよ!
519 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:12:53.24 ID:fYvg6yRT0
がんばれ。
期待しながら保守。
520 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:15:54.90 ID:B2o2vbsBO
やっと追い付いた
ガンガレ
>>1 そのネーミングセンスが堪らなく好きだ
521 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:19:24.64 ID:nIT0gR0s0
本当に泣いた。
「キミは本当に泣き虫だな」
もうね、おまえね、
藤子ふじおF襲名していいよ・・・・。
オレが許す・・。
522 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:29:38.75 ID:AwH0PivQO
待たせたな
523 :
閉鎖まであと 6日と 3時間:2007/01/17(水) 17:32:33.14 ID:jrZLCXhu0
524 :
閉鎖まであと 6日と 2時間:2007/01/17(水) 18:04:18.67 ID:YoqvXNRuO
ほあ
525 :
閉鎖まであと 6日と 2時間:2007/01/17(水) 18:13:56.91 ID:Rf0n4Y0J0
>>507みたいなスナイパーがいるからこそvipでやる意義があるってもんだ
ですよね
>>1さん
526 :
閉鎖まであと 6日と 2時間:2007/01/17(水) 18:24:59.02 ID:c0BulPoa0
ほ
527 :
閉鎖まであと 6日と 2時間:2007/01/17(水) 18:27:20.13 ID:to+vTq0/0
ヒーローは遅れてやってくるものだ
ドラちゃん蝶かっけぇーーーーーーーー
528 :
閉鎖まであと 6日と 2時間:2007/01/17(水) 18:54:44.03 ID:fYvg6yRT0
ほしゅ
529 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:01:25.89 ID:vkNizOf+0
「ドラえもん、俺からも頼むぜ」
「僕も、このままじゃ帰れないんだ」
スネオとジャイアンものび太の頼みを支える。
てっきりすぐに帰るものとばかり思っていたドラえもんは思わず眉をひそめたが、
3人が適当な気持ちで言っているわけではないことを知ると、浅い溜め息を付いた。
「一体この星で、何があったっていうんだよ」
「それは今から話す。とにかく今はタカベさんの手当てを先に」
「タカベさん?」
ドラえもんはのび太の後ろに立っていた屈強な男を見据えた。
傷痕に戦闘服、小銃にそして腹から流れた血。
決して穏やかな状況ではない。
ドラえもんの知っているのび太ならば、一も二もなくこの場から逃げ帰っているはずだった。
「分かった。どこか安全な場所はあるの?」
「うん、トリユってところが――」
そこまで言ってハッと口をつぐむ。
そうだ、トリユにはロイとミヤイがいるのだ。
裏切った者と裏切られた者。
その両者がかち合いかねない場所に行くのは、決して賢明な判断ではないだろう。
530 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:02:13.98 ID:vkNizOf+0
「ナシータ、ナシータに行こう!」
ジャイアンが固まったままのタカベを背負うと、4人はどこでもドアの扉をくぐって
ナシータへと足を踏み入れた。久方ぶり、と言ってもそれは精神的なレベルの話であり、
最後にここを離れてから未だ24時間も経っていない。
ナシータの中はタカベを担ぎ出した時と寸分違わぬ様子でそこに在った。
「よし、とりあえずタンマウォッチを解除しよう」
ドラえもんがカチリと音を立てて時間の流れを元に戻す。
それと同時にタカベがどすんと腰から崩れた。
「タカベさん!」
「のび太くん?一体ここは……」
混乱した様子でナシータの内部を見渡すタカベ。
それも無理のないことで、寸前までリツブの森で銃口を向けられていたはずなのに
気付いた時には全く違う場所にいるのだ。
取り乱すなという方が無理であろう。
「ここはケンジュか?!ぐっ……」
「タ、タカベさん!ひとまず横になって下さい!ねえ、ドラえもん!」
のび太がドラえもんに声を掛けるよりも早く、ポケットから道具が出てくる。
久しぶりだな、この感じ……こんな時だというのに、のび太はその状況が染み入った。
531 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:02:53.67 ID:vkNizOf+0
「『すぐきずを治すばんそうこう』を貼っておいたからもう大丈夫だと思うよ」
「すまないな。ところでキミは……」
「ご紹介が遅れました。こんにちは、ぼくドラえもんです!」
ドラえもんときたら、異星でしかもこんな状況だというのに自分のスタイルを崩さない。
のび太は何やらおかしくなって思わず吹き出す。
「ところでさあ、ドラえもんはどうしてここまでやって来たの?」
「そうそう、分身まで置いてきて万全の準備だったのにさ」
「急に虫の知らせアラームが鳴り出したんだよ。
でものび太くんは家にいるんだ。
そう言えばここ何日かのび太くんの様子がおかしかったのを思い出してね。
それで彼に問い詰めたら、とうとう白状したってわけさ。
全く、勝手な真似されちゃ困るよ!」
ここに至ってようやく怒りを思い出したのか、ドラえもんがもの凄い剣幕で3人を怒鳴りつける。
反論する道理は全くないのび太たちは、シュンとしてうつむいた。
「いや、ドラえもんくん。そんなに怒らないであげてくれ。
のび太くんは……3人は、何度となく私たちを助けてくれたのだから。
責められるとしたら、それは彼らの帰る手段を奪った私だ。
だからどうか彼らを怒らないでやってくれ。この通りだ……」
532 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:03:32.82 ID:vkNizOf+0
タカベが黙って顔を伏せる。
まさか目の前の屈強な男からこんなに丁寧な謝罪を受けられるとは思っていなかったのだろう、
ドラえもんはひどくうろたえながら「いいんですいいんです!」とまくし立てた。
「それでドラえもん、タカベさんが今すごく困っているんだ。
見ただろ?この星で大きな戦争が起きているんだよ。だから……」
「ちょっと待ってよのび太くん、一つ聞きたいんだけど、どうしてキミたちはこの星にやって来たの?」
3人が「あ」と短く叫んで顔を見合わせる。端末の結果――
忘却の彼方にあった『それ』の存在を不意に思い出した。
「そうだよドラえもん!僕らは宇宙完全大百科端末機で無人の惑星を調べたんだよ!
それなのにこの星には人がいたんだ!一体どういうことなんだよ!」
「そうだよ、あの機械壊れてるんじゃないの?」
「壊れてるってそんな……うん?」
『未来デパートからのお知らせ』
533 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:04:01.01 ID:vkNizOf+0
「もしかしてキミたち、3日前にあの端末機使わなかった?」
「3日前?ええとあれは確か」
「トリユに来て今が2日目で、その前日に端末使ったから……そうだね、3日前だ」
「やっぱり……。未来デパートから手紙がきてたんだけど、丁度その時端末の
データベースに障害が発生してたんだよ。おそらくそのせいだろうね」
点と点が線となって繋がる。
これでようやくヒストリアに人がいたことに説明が付いた。
それにしてもいくら壊れていたからと言っても、あまりにデタラメな結果ではないだろうか?
3人は内心で憤りを抑えきれない。
「もう一度調べてみればきちんとした結果が出るはずだよ」
ドラえもんは淡々とした調子で喋りながらポケットに手を突っ込む。
今更調べたって、と思わないでもなかったけれど、のび太は止めなかった。
(この戦争の行方が分かるんじゃないか?)
534 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:05:22.29 ID:vkNizOf+0
宇宙完全大百科端末機、その膨大な量の情報は惑星ほどの大きさにまで膨れ上がっており、
データベースは宇宙空間に人工衛星のように浮かんである。
これで分からない情報はないよ、とドラえもんは豪語していた。
それならばヒストリアの未来すらも、そこから弾き出されるはずだ。
のび太は固唾を飲んで見守る。
「この星の名前、何だっけ?」
「ヒストリアだよ」
「よし……ええと、惑星ヒストリアについて……検索」
すぐに端末がガタン、と音を立てた。確かあの時はほんの10cmほどの紙切れしか出てこなかったはずである。
のび太たちが端末の後ろ側を注視していると、すぐに検索結果が排出されはじめた。
しかしそれは10cmどころではなく、ゆうに3mほどの長さとなった。
「こ、こんなに?!」
「……よく分からないが、もしそれがヒストリアの歴史に関しての資料ならば
そのくらいの長さがあっても不思議はないさ」
突然タカベが喋ったので、のび太はドキリとした。
戦争の歴史、争いの系譜。それがこの紙の中に全て収められているのだとしたら。
確かに3mでも短いくらいなのかもしれない。ドラえもんが出てきた紙を切り取ると、手にとって目を通した。
「ふんふん……ほうほう……」
「ふんふん、じゃなくって……僕にも読ませてよ!」
535 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:06:27.61 ID:vkNizOf+0
「ちょっと待ちなよ。せっかちだなあ。はあー、ものすごい争いの歴史だ。
ここまで戦争に特化した歴史って、ちょっと他にはないよ」
くるくると紙を巻きながら、ドラえもんは上から下まで目を通して行く。
ふだんはぼうっとしていることの多いドラえもんであるが、その処理速度は中々のものなのだろう。
かなり速いスピードで紙面に目を通していった。
「ん……!」
そしてついに最後の一行あたりまで差し掛かった時。ドラえもんの表情が一変する。
「そんなバカな……この文化レベルでどうしてこんな……!
あり得ない!こんなもの作れっこないはずだ!!」
次の瞬間、ドラえもんは目を剥いて叫んだ。同じ行を何度も何度も目で追っている。
紙を持つ手はぶるぶると震えており、どう見ても尋常な様子ではなかった。
「ドラえもん!一体どうしたってんだよ!見せろよ!」
奪い取るようにしてドラえもんの手から資料を引ったくる。
スネオとジャイアンも神妙な面持ちで後ろから覗き込んだ。
「ええと、パルスタがトリユから分裂して……ああ、ここまではいいや。○月×日、ケンジュ戦争勃発。
『ケンジュ攻防戦』『リツブ攻防戦』『パルスタ軍本部激突』などを経たが、両軍の密約『敵将軍タカベの首を
パルスタに差し出す』は果たされなかった。
トリユがタカベの身を匿ったと考えたパルスタは、これを重大な約定違反と目することになる。
そして同日某時、パルスタからの最終攻撃が行なわれる。用いられたのは……核兵器?!」
536 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:07:12.31 ID:vkNizOf+0
のび太はその文言を目にした瞬間、飛び上がるばかりの勢いでおののいた。
唖然として言葉が出ないのび太の手からスネオが紙を奪い取ると、続きを読み上げる。
「核の破壊力を見誤ったパルスタは、この攻撃によりトリユのみならず自国までも滅ぼしてしまう。
その時ヒストリアに住んでいた人間は根絶してしまい、同惑星は無人となっている……」
「マジかよ……」
信じられない、といった口調でジャイアンが呟いた。
スネオも呆然とした様子であるが、何度か読み返しているうちに何かに気付いた。
「そうか……ドラえもん、この冒頭の部分を見てくれ。
『ヒストリア星は本来、人間が住むのに好適な星である。』
そして末尾、『惑星は無人となっている。』
これは僕の仮説なんだけれど、おそらく端末が故障したことによってこの冒頭の部分と
末尾の部分だけがくっ付けられちゃったんだ。だから僕たちは……」
『人間に住むのに好適な星である。惑星は無人となっている』
結局、端末は大枠において何らウソを付いていなかったことになる。しかし――
『真実というものは往々にして細部に宿っているものです』
先ほど捕虜に言われた言葉を思い出す。全く以てその通りだった。
537 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:07:56.96 ID:vkNizOf+0
「滅びるのか、この国――いや、星は」
「タカベさん……」
隠してもどうせ分かることだ。のび太は素直に頷いた。
タカベは驚くでも悲しむでもなく、ただ受け入れるように平坦な表情をしている。
「ヒストリアらしい末期かもしれんな……」
タカベは自嘲気味に笑う。のび太は何と声を掛けていいのか分からなかった。
あそこでタカベを助けなければ良かったのだろうか?
『首が渡らなかったことが契機で』、端末にはそのように書いてあった。
ではタカベさえパルスタに差し出されれば……
(――なんて)
そんなことを今更思うはずがない。
あの時、自分が死んでもタカベを助けたいと思ったのは偽らざる真実の気持ちだったのだから。
そして考える。
同じようにして、タカベが死んでも守りたいものを。
「タカベさん。もう一度聞かせて下さい。どうしてあなたは戦っていたんですか?
どうしてわざわざ、トリユに渡ったのですか?」
「……」
538 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:08:50.63 ID:vkNizOf+0
タカベを見つめるのび太。無言でのび太を見つめ返すタカベ。
悠久にも思える時間がゆっくりと過ぎ行く。
タカベものび太もそれぎり黙って言葉を発しなかったが、諦めて先に口を開いたのはタカベの方だった。
「……分からないんだ、俺にも。
どうしてあの時トリユに渡ったのか。
宣戦布告の知らせを聞いて、気付いたらトリユに足が向いていた。
当然歓迎されてね、俺はすぐに軍の指導を始めた。
初めて自分を受け入れてくれたのが嬉しかった――
けど、それは後付だな。そもそもどうしてトリユに行ったのか……」
どうしてなんだろう、どうして俺は、タカベは口の中で呟き続ける。
その時、突然先ほどトリユ兵に銃口を突きつけられた場面がフラッシュバックした。
『恨み?俺を動かしているのは、そんなチープな感情じゃない。
俺も、父も、人を殺したのはいつだって『結果』だったさ。』
幼い頃の憧憬が瞼の裏に蘇る。
誰よりも強かった親父。
誰よりも怖かった親父。
そして誰よりも優しかった、親父。
539 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:09:17.45 ID:vkNizOf+0
『マサキ、強い男になれ。父さんみたいに強くなれ』
『父さんくらいって、どのくらい?』
『そうだな、戦争を止められるくらいに強く、だ』
『戦争?』
『いいかマサキ、この星にはもう一度必ず戦争が起こる。
必ずだ。そしてマサキ、その時はたぶん父さんはもういない。
だから今度は、お前が止めるんだ。
俺よりも強くなって、俺よりも上手い方法で、戦争を……』
―――この星から戦争をなくすんだ、マサキ―――
540 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:10:12.20 ID:vkNizOf+0
「タ、タカベさん?!」
「え……?」
のび太の声に気付くと、タカベは頬に暖かいものが伝わっているのを感じた。
ああ、俺は泣いているのか。
涙を流すなんてことは一体何年ぶりだろう。
自分の顔を想像して、ひどく情けない気持ちになる。
だけど今はいい。今だけはこのままで、いいような気がする。
タカベは真っ直ぐ前を直視したまま、涙を縷々と流した。
「パルスタにいたら……」
「何ですか?タカベさん」
「俺がパルスタにいたままだったら、戦争はすぐに終わっただろう。
もしかしたら戦争すらなかったかもしれない。
けどそれじゃあダメなんだ。対症療法じゃダメなんだ。
この星の病は、もっと根が深い。
みんな、自分が弱いと思ってるんだよ。
弱いから、簡単に暴力で解決しようとする。
弱いから、楽な方に逃げようとする。
簡単に裏切る。だから俺は、トリユに渡った」
「……」
541 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:11:01.64 ID:vkNizOf+0
「逃げるばかりじゃ自由は手に入らないことを知って欲しかったんだ。
自由を得るために戦う人間の強さを、パルスタの人間に教えたかったんだ。
お前たちは弱くないってことを、トリユの人間に教えたかったんだ。
逃げずに戦うことの意味を、その尊さを。
遠まわしで、血の流れるやり方だったかもしれない。
けれど俺は、そうすれば……そうやってこの星の人間の気持ちを少しでも変えることができたら……」
――きっと戦争はなくなる、そう思ったんだ。
――不器用で、結局どうにもならなかったけど。
――それでも親父と約束したんだ。
ナシータを静寂が包む。タカベの涙は既に止まっていた。
「タカベさんの戦う理由は、夢は……自由を守るとか、トリユを守るとかそういうことじゃなくて、
戦争をなくすことだったんですね」
のび太はタカベに問いかけた。
そう言えば彼の言葉はいつだってトリユに肩入れするとも、パルスタに肩入れ
するとも付かないものだった。
おそらく彼にとってはどこにどんな国があろうと些細な問題なのだろう。
彼はこの星を愛していたのだ。
父を育み、自分を受け入れてくれたこの星を。
542 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:11:54.60 ID:vkNizOf+0
「ゆ、め?」
「ええ、タカベさんの夢はだから戦争を……」
「ユメ……ユメ?のび太くん、ユメって、なんだい?何の言葉なんだ?」
「え?」
「ふふ、初めて聞く言葉だな。ユメ、何だかいい響きだ。一体どういう意味なんだい?」
「ユメっていう概念が存在しないんだ……」
ドラえもんがポツリと呟いた。夢って言葉を知らない?そんな、まさか。
けれど見上げたタカベは、きょとんとした顔をするばかりだった。
ヒストリア人は生きることだけで精一杯だった。
気を抜けば、すぐに戦争。
昨日まで生きていた友が、次の日には死んでいるなんてザラだった。
明日死ぬのは自分かもしれない、そんな極限状態の生活。
国は大国に吸収され、いつしか己のアイデンティティまでも失っていく。
それでもただ、目の前の一日を生きていくことだけに没頭した歴史。
そんな中で、きっと彼らは、夢を抱くゆとりも、時間もなかったのであろう。
「タカベさん、夢っていうのは……」
ヒストリア人の歴史を、タカベの過去を想像して思わず嗚咽が漏れかける。
ダメだ、ここで僕が泣くな――夢も持てない社会なんてそんなの――どんなに自由でもそれは――
543 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:12:43.84 ID:vkNizOf+0
「タカベさん、夢っていうのはね……。
『あんなこといいな、できたらいいな』って思って……
思い続けて……
だから僕らは、それに向かって精一杯生きていって……
それで……」
何かを堪えているのび太の様子を察したのだろう。
タカベはのび太の頭をぽん、と叩くとニッコリと笑った。
「分かったよ、じゃあ俺のユメは『戦争をなくすこと』だ。
一つ賢くなれた、ありがとう、のび太くん」
言葉に、やはりのび太は泣き虫でなくはいられなかった。
544 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:13:14.44 ID:vkNizOf+0
「……ドラえもん。この国を、いや星の人たちを、助けよう」
「のび太くん、それはできないんだ。僕たちは歴史を変えちゃ……」
「道案内、してあげなきゃ」
のび太はドラえもんに近寄ると、グッとその体を抱きしめた。
「キミの言葉、腹を立てたこともあったけど、今やっと分かった。
だから僕も……せめてタカベさんに、皆に、道案内くらいはしてあげたいんだよ」
「のび太くん……」
「何か方法があるのか?」
のび太がタカベの方を振り向くと、こくりと頷いた。
545 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:15:43.70 ID:vkNizOf+0
ストックが切れたのでまた書き溜めマース( ^ω^)ノシ
546 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:16:55.09 ID:E8ORLsYC0
シロウ タガチ
547 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:18:00.98 ID:Z1v3hits0
く、wktkがとまらねえ
548 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:18:12.51 ID:mJxOdErdO
549 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:18:27.00 ID:to+vTq0/0
。・゚・(ノД`)・゚・。
550 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:18:37.52 ID:c0BulPoa0
乙!
wktk
個人的にエイレーネ帝とそっくりなしずちゃんを活躍させて欲しいですノシ
551 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:19:18.44 ID:YoqvXNRuO
wktkwktkwktkwktkwktk
552 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:19:40.70 ID:gD6tPsA7O
wktkwktk
こんなに胸が高鳴るのは久々なんだぜ!!
554 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:23:44.85 ID:c0BulPoa0
エイレーネーでした(´;ω;`)
間違えてすみません保守
555 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:26:33.43 ID:6fSijHzj0
>>441 、 ヽ
|ヽ ト、 ト、 ト、 、.`、
/|l. l. | |l l | | l |l.| |l. l
/' j/ ノ|ル'/レ〃j/l |
-‐7" ヾー---┐|_.j
 ̄ ./゙ニ,ニF、'' l _ヽ
:: ,.,. |ヽ 」9L.` K }.|
l' """ l ) /
h、,.ヘ. レ'/
レ′
r.二二.) /
≡≡ ,イ
. / !
\ / ├、
::::::` ̄´ / !ハ.
556 :
閉鎖まであと 6日と 1時間:2007/01/17(水) 19:40:56.87 ID:c0BulPoa0
ほ
557 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:00:03.27 ID:fzI9qScp0
しゅ
558 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:13:01.58 ID:fYvg6yRT0
ぽ
559 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:29:10.14 ID:K1LX3hjCO
マッシュ
560 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:30:13.28 ID:v0HhLpbxO
あれは名作
561 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:33:52.05 ID:fsPSKO9C0
これはたまにしか見ない良作 俺のVIPに来てスレの見てこんな良作のみたことあまりない。
これは実際の映画化をしてほしい(昔の声で)
562 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:37:09.08 ID:fYvg6yRT0
563 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:39:02.98 ID:Z1v3hits0
564 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:40:11.80 ID:WURWz3ivO
のびたと一年戦争の人、みてたら続きかいて〜ノシ
565 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:44:51.71 ID:FHO5OaAa0
これは神スレすぎる・・・・
566 :
閉鎖まであと 6日と 0時間:2007/01/17(水) 20:50:32.08 ID:cBgdHnOS0
不覚にもリアルに泣いた
これは……!
567 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:05:20.87 ID:r1+EDWQ40
帰宅してすぐさまPCをつけたいと思うなんて何年ぶりだろ
ワクテカが止まらない!
568 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:10:05.38 ID:vkNizOf+0
【パルスタ城】
「夜明けね」
エイレーネーは寝室から窓の外を見て呟く。東の空は赤く染まっており、時折鳥の鳴く甲高い声が聞こえた。
その間を縫うようにして銃撃音。交戦はどうやら、未だ続いているらしい。
それにしても馬鹿に近いところで戦っているものね、とエイレーネーは思った。
物心付いた頃には皇位に就いていた。だから父親の記憶はほとんどない。
彼女はただ王座に座っていればよかったし、国のあれこれは全てギノがこなしてくれた。
時折民衆の前に顔を出して手を振ったり、あるいは儀礼的に官位を与えたりする。
そんな生活が彼女の全てだった。
もちろん国の実情や、あるいはトリユとの関係を知らないわけではない。
勤勉な彼女は、ほぼ幽閉に近いその環境の中で本だけを友とした。
とりわけヒストリアの歴史を学ぶことを特に好んだものだ。
暇を見つけては書庫に篭り、一日を過ごしたりする。
たまにそのまま寝入ってしまい、何度も女官に叱られたものだった。
コンコン
「誰?」
569 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:10:50.13 ID:vkNizOf+0
不意に自室のドアがノックされる。
こんな時間に一体誰が?と訝しがったが、もしかしたら戦闘が終了したのかもしれない。
エイレーネーは特に何も考えずに「入りなさい」とだけ言うと、再び窓の外に目を遣った。
すぐ目の前にやけに体の大きい鳥が羽を休めており、思わず体を引く。
「失礼します」
聞き覚えのない声にエイレーネーはドアの方を振り返る。
バタン、と音がしてドアが閉まると、その前にどこかで見たことのある
顔をした少年が立っていた。
「初めまして。私はトリユ国国王ロイ、ロイ・ベーツです」
鳥の羽ばたいていく音が、エイレーネーの鼓膜を揺らす。
570 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:11:19.07 ID:vkNizOf+0
「侵入者だ!侵入者がいるぞ!」
「ちくしょう!もう見つかっちまった!」
「ここで食い止めるんだ!絶対にエイレーネーのところまで行かせちゃいけない!」
ドラえもんの声に3人が「おう!」と声を揃えて叫ぶ。
4人は息を整えると、それぞれに武器を構えた。
【パルスタ城内防衛線】
「どこから入ってきやがった!とにかく撃て!生きては帰すな!」
城内に残っていたパルスタ兵士が続々と城の2階、皇帝の寝室前に集まる。
敵影は全部で4つ。中には奇妙なからくり人形らしき姿もあった。
「撃てぇぇ!」
大尉の声と共に小銃が掃射される。
けれど一体いかなることか、前に立ったキツネのような少年と狸のようなカラクリの手に
よって銃弾の全てが壁に突き刺さった。
571 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:11:58.48 ID:vkNizOf+0
「何をやっておる!もっと撃て!撃たんかっ」
大尉の言葉が終わる寸前に廊下を一筋の閃光が走った。
次いでその横から放たれる空気の圧縮弾。兵士の2、3人が纏めて吹き飛ぶ。
「後ろだ!」
振り向きざまにショックガンの光線が窓に向かって走る。
速射で3発、正確に兵の体を捉えるとそのまま下向きに落下していった。
「応援!もっと応援だ!」
「軍本部の防御で手一杯だというのに、何ということだ!おい、貴様!」
「はい!」
「倉庫からガトリング砲を持ってこい!」
「しかしここで使っては城壁に著しい損傷が!皇帝の身の安全も保障できません!」
「やかましい、黙って持ってこんか!城内に侵入されてるんだ、万一皇帝が死んでも賊の仕業ということで処理できるわ!」
少将の代わりに指揮を執った中尉が叫ぶ。
は、はい!と兵士が叫ぶと脱兎の勢いで階下に向かった。
「生きては、帰さんぞ!ガキども、そして……タカベ!」
572 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:12:51.75 ID:vkNizOf+0
不意に廊下から聞こえ始めた銃撃音にエイレーネー帝はビクリと肩を震わせる
。目の前の少年、ロイ・ベーツと名乗った彼は落ち着いた様子でエイレーネーの下に歩み寄った。
「突然の来訪をご容赦下さい、エイレーネー帝。
今日は大事なお話があってここにやって参りました」
丁寧な口調でロイは喋る。
その目に敵意のないことを読み取ると、エイレーネーは少しだけ体の力を抜いた。
「……パルスタの軍は、負けたのですか?」
トリユの人間が、あの堅牢な軍本部を破らずしてこの部屋にまでやって来れるはずがなかった。
だから国王のロイがこの部屋にいるということは、それは即ち我が国の敗北を意味しているのではないか?
エイレーネーは瞬間的にそのようなことを考える。
「いいえ、違います。
遠い遠い星から来た友人が、無力な私をここまで導いてくれたのです。
さあエイレーネー帝、時間はあまりありません。
私とお話する時間を頂けますか?」
なぜだろう。
歳の頃は同じはずなのに、目の前に立っているロイ・ベーツはその体よりも一回りも二回りも大きく見えた。
しかし彼女も一国の皇帝である、すくみ上りそうになる己の心を胆力でねじ伏せると
「どうぞ」とロイに椅子を薦めた。
573 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:13:26.46 ID:vkNizOf+0
「ガトリング、来ました!」
「よし、前線下がれ!ガトリング、前へ!」
ドラえもんの目にとんでもなくでかい重火器の姿が飛び込む。
スネオが引きつった表情で「あんなの、反則だろ!」と叫んだ。
「スネオくん、腰を落として!」「放てぇぇぇぇぇ!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
銃軸の周辺に配置された六本の銃身が獰猛な勢いで回転する。
それと同時に吹き出される、光の礫・毎秒数十発。
懸命にヒラリマントをはためかせるが、徐々にその周辺が削り取られていった。
「もっと弾もって来い弾ぁぁ!!」
「このままじゃあもたないよ!」
「ママー!!」
「畜生、ここまでなのかよ!」
574 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:13:59.72 ID:vkNizOf+0
3人がもはや諦めかけたその刹那。
ドラえもんの背後からゴツゴツと節くれだった手が伸びてきて、彼のポケットを素早く探る。
「消えろぉぉぉ!!!」
絶叫とともに光のシャワーがガトリング砲を包んだ。
その瞬間ガトリングは、みるみる内に姿を小さくしていく。
「スモールライトか!」
中尉、ならびに周辺の兵士が呆然とした様子でその様を眺める。
なぜガトリングが小さくなるのだ?
もはやその状況は、彼らの理解を遥かに超えていた。
「今だ!ジャイアンこれを!」
575 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:14:27.66 ID:vkNizOf+0
この機を逃さんとばかりにドラえもんがポケットに手を突っ込むと、ジャイアンに道具を手渡した。
ジャイアンはすかさずそれを飲み干す。
「ええいもういい!突っ込めぇぇ!」「叫んでぇぇ!」
ウオオオオオオ!!!
ジャイアンの咆哮が城内に轟く。その轟音は声となり形となって、パルスタの兵に襲い掛かった。
「なんだこれは!何かが飛んで っ・・・!!」
もの凄い勢いで飛んできた声の塊に軒並み押し倒されるパルスタ兵。
これでしばらくは後続する兵も来ないことだろう。コエカタマリン。
道具の使い方に関しては、ドラえもんに一日の長がある。
「油断するな!蹴散らそうぜ!」
ジャイアンが叫んだ瞬間、まだ少し残っていたコエカマリンのお陰で声の塊が飛び出した。
「熱っついー!!」
スネオの頭をあわやの距離でかすめていく。
「ガハハ、悪い悪い!でもお前、背が低くてよかったな!」
「放っておいてよ!」
廊下に束の間の安堵が訪れた。
576 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:18:39.40 ID:r1+EDWQ40
ママーッ!!!
なにこの良スレ・・・
578 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:25:03.60 ID:c0BulPoa0
wktk
579 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:26:55.48 ID:hE06Wx8t0
まだ途中だがなかなか面白いね。スネオがちょっと賢すぎる気がするけどw
580 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:42:15.54 ID:gD6tPsA7O
581 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:49:31.65 ID:vkNizOf+0
「エイレーネー帝。戦争は、もう終わりにしましょう」
ロイは唐突に喋り始めた。
おそらくそのようなことを話しに来たであろうことは、エイレーネーも予想していたことだ。
そうでなければ、わざわざ寝室まで来ることもなく一思いに殺してしまえばいいのだから。
「なぜです?未だ戦闘は終わってないのでしょう」
「あなたはどうして戦争を行なっているのですか?」
質問を質問で返されてエイレーネーは少々気色ばんだ。
それにしても、と彼女は考える。
自分を人質として確保してしまえば、いやもっと言えば……
こんな話し合いなどせずに無理やり従わせてしまえば、戦争を止めるという目的は
簡単に達成されるのではないだろうか。
ロイの雰囲気はしかし、およそそのような暴力的な解決を採ろうとするものではなかった。
「たくさんの兵が死にました」
ロイは椅子から立ち上がり、窓の外に目を遣る。
うっすらと目を細めて朝日を眺めているようだった。
582 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:49:49.55 ID://yixgtD0
台詞まわしが秀逸
大長編ドラえもんと遜色ない
583 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:49:53.76 ID:cBgdHnOS0
なんか昔SFCにあったな、コエカタマリンが武器にあるアドベンチャー。
あのゲームだとスネオ用の武器だった気もするがw
584 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:50:34.40 ID:vkNizOf+0
「……それは我が国とて同じことです。
我が軍の兵士は今回の戦いで多くの犠牲が」
「バルグ、ケント、ヨーデハイム、イガ……まだまだ沢山います」
「何のことです?」
「今回の戦争で死んだ兵士たちのことですよ。
いえ、私の国には『兵士』なんて存在はいません。
それは二次的な呼び名です。
彼らにはそれぞれの名前があって、それぞれの……人生があった。
そして多分、心の奥底に『ユメ』も」
「ユメ?」
初めて聞く言葉に首をかしげるエイレーネー。
けれどその様子を気にかけることなくロイは喋り続ける。
「月並みな言い方になりますが――私たちの眼球は、胴体の上に位置します。
決してその位置は高くはありません。
けれども分からなくなってしまうんですよね」
「話が見えません」
585 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:51:24.10 ID:vkNizOf+0
「ずっとその位置からだけ見ていると、地面を這っている蟻の姿が。
少しも分からなくなる」
「国民が蟻で、私は傲慢な為政者、とでも言いたいのですか?」
「いいえ、そうではありません。
ただ、気付かなくなる時がありますよね、という話です。
答のある類の話じゃない。けどね――」
そこで言葉を区切ると、ロイは背中に朝日を受けながらエイレーネーに向き直る。
逆光になったので、途端に彼の表情が見えなくなった。
「足元に蟻がいるのを知ってて、そのまま踏み潰すのは殺生というものですよ」
「私はパルスタ国民を踏み潰してなど……!」
「違いますよ」
「え?」
「トリユの国民のことです」
586 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:51:57.42 ID:vkNizOf+0
その瞬間、部屋の外から一際激しい銃砲音が鳴り響いた。
寝室全体が少なからず鳴動する。
「な、何?!」
「ガトリングか……!」
ロイが険しい顔で部屋のドアを睨み付ける。
あまりのことに狼狽したエイレーネーは反射的に寝室のドアノブを握った。
「動くな!」
地を這うような低い恫喝。
エイレーネーの全身の筋肉が硬直した。
「出たら、死ぬぞ」
口調が変わった。
これがあの『自由国家』トリユの国王なのだろうか。
想像していた姿と随分乖離があった。
587 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:52:20.60 ID:vkNizOf+0
「……なぜそこでトリユ国民の話が出てくるのです」
ドアノブから手を離しながらエイレーネーは呟いた。
「トリユ国民の命も、それは等しく尊いでしょう。
しかしそれを守るのはロイ国王、あなたの仕事なのではないですか?」
「いいえ、それはあなたの仕事です」
ロイはキッパリと言い切った。
その断定的な口調にエイレーネーは思わず鼻白む。
「勝手なことを……」
「少なくともレオーン帝はそうなさっていましたよ」
動揺した。どうしてここで父の名前が出てくるのか。
588 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:53:06.15 ID:vkNizOf+0
「偉大な方でした。確かに彼は階級制度を敷いた。
けれどそれは、ヒストリア人の気質、そして性質を熟知していたからこそのことです。
だから帝は徹底した教育制度を設けた。
反発はありましたけれどね。でもそれまでおよそ教育に触れたことのなかったヒストリア人です。
少しでも早く国を大きくし、人々の生活を充実させるには多少性急でも、強引と詰られようとも、
『新しい時代が来た』ということを叩き込まなければならなかったのです。
戦争も終わったばかりで世情も動揺しておりましたしね。
とにかく、確かに帝の政策には賛否両論がありましょう。
けどね、帝の素晴らしいのは、国民を一切差別をしなかったところです」
589 :
閉鎖まであと 5日と 23時間:2007/01/17(水) 21:54:01.63 ID:vkNizOf+0
「何を……現にパルスタには階級が……」
「帝は国民を、等しく『ヒストリア人』としてみておりました。
だからこそ教育の機会は平等に与え、またクレキガの民を特別優遇することもなかった。
いつかは、ヒストリア人の気質が少しずつ変わって争う性格も穏やかになれば……
帝は階級制度を撤廃する旨仰っておりました」
「どうしてあなたが……そんなこと……」
そこでエイレーネーはふと彼の言葉の中にある違和感に気付く。
『仰っておりました』
なぜこの年端もいかない少年が、私が産まれた時と前後して死んでいった父と
関わりあったような風に喋っているのだろうか。
「あなた……誰!」
「……申し訳ありません。私は一つだけウソを申しました。
改めて名を名乗ります」
少年はそこで一息付くと、真っ直ぐと正面を向いて口を開いた。
「私の名はマサキ……マサキ・タカベと申します」
590 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:01:35.26 ID:Eoc1J1OZ0
wktk
591 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:07:55.61 ID:oTspDjU1O
わくてかが止まらない
592 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:15:48.11 ID:K3kYkDDz0
wktk
THE二段伏線回収キター
594 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:28:26.98 ID:vkNizOf+0
「ウソよ!」
反射的にエイレーネーが叫ぶ。
彼女の髪が窓から差し込んだ朝日を受け、まばゆく輝いていた。
「タカベは、タカベは既に30歳を超えているはずよ!屈強な兵士だとも聞いたわ!
あなたのような少年が、タカベであるはずがないじゃない!」
「この体は借り物です。地球と言う星から来た野比という少年が貸してくれました。
信じる信じないはお任せします。ただ、エイレーネー帝だってお分かりのはずでしょう、
私がかつてのパルスタに住んでいない限りは、先のような話ができないということくらい」
「……」
ロイ……いや、彼の言葉を信じれば、タカベになろうか。
とにかく彼の言っていることはもっともなことだった。
彼女が書庫で読んだ歴史の書物ともぴったりと符号する。
それに、エイレーネー自身も伝え聞いてないことも随所に散らばっていた。
もちろんそれが真実であるかどうかを判断する術はない。
けれど、ウソをついていると思うには目の前の状況があまりにも異常すぎた。
「……一つだけ聞かせて下さい」
「何でしょう」
「どうして、どうしてパルスタがトリユに救いの手を差し伸べなければならないのですか?
トリユが勝手に出て行って、略奪まで行なって、それなのにどうして我々が彼らを救わなければならないのです?」
595 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:29:42.82 ID:vkNizOf+0
「トリユの先代……キャンベル・ベーツ初代国王が、どうして独立したかご存知ですか?」
「だからそれは自由を求めて……」
「違います。レオーン帝が死んでしまったからです。
正直に言いますが、今のあなたにはとうに実権がない。
レオーン帝が死んですぐに即位したのですが、それからずっとあなたを支持してきた人間、
彼の存在がキャンベル帝をしてトリユの独立をせしめたのです」
ギノが?しかしギノの存在とトリユの独立と、どう関係があるのか。
エイレーネーは次々と出てくる新しい事実に深い困惑を覚えた。
「10年前、レオーン帝が逝去される頃ですね。
その時点でパルスタの国力は無理な教育を推し進める必要のないくらい成長しておりました。
帝自身もその頃には教育制度と労働の制度を修正する方針でいた。
けれどその時、レオーン帝は突然亡くなった……ま、私なんかはギノが何かを企んだと邪推しておりますがね。
そのことは、今はどうでもいいでしょう」
父がギノの手によって殺められた?まさかそんなことは……。
エイレーネーはその言葉を信じまいとはするのだけれど、心の動揺は已むことを知らない。
タカベはなおも話を続ける。
596 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:30:32.96 ID:vkNizOf+0
「ギノは大佐兼任の摂政に即位すると、すぐさまレオーン帝の遺言を握りつぶした。
遺言ってのは制度改正のことですね。それを知ったキャンベル氏は、深く落胆した。
それはそうでしょう、当初は必要的義務として課された教育と労働が、その役割を終えても
なお義務として課され続けることが決定したのですから。
彼は当時中央教育機関の責任者だった。
そしてその現場の前線で、段々と人々が変容していく様を見続けていたのです。
このまま行けば、パルスタは確実に潰える。そう考えながらね。
独立はその末の決定でした」
「なぜです。教育と労働の何が悪いのです」
597 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:31:58.10 ID:vkNizOf+0
「いいからお聞きなさい。
我々が子供の頃はね、まだ大戦の最中だったのですが……それはもうひどいもんでした。
そこかしこに死体がゴロゴロ転がっている。
人々の目にはおよそ希望の光なんてなかった。
それはそうですよ、明日自分がその死体にならないとも限らないのですから。
けどね、それを変えてくれたのがレオーン帝だった。
彼はすぐそばにある死の恐怖から我々を解放してくれた。
その内に段々と我々の目にも希望の光が満ちてきた。
『その頃の仕事は楽しかった』とキャンベル氏も言っていました。
目の前の人間が目を輝かせて勉強をするんですからね、そりゃあやりがいもあるでしょう。
けどね」
「けど?」
598 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:32:44.99 ID:vkNizOf+0
「その光が消えていったんですよ。
国が安定することによって、逆説的に。
これは私の仮説ですが、おそらく『先』が見えるようになったんですね。パルスタの国民は。
このまま1年中勉強して、そして労働を課されて、そのまま死んでいく。
だったら俺と、今隣に座っているやつと、いつ入れ替わっても何も変わらないんじゃないのか、って。
キャンベル氏は言ってましたよ」
「……」
「『目の光が、大戦中と同じに戻った』とね。
結局、生きながらにして死んでるような状態、それが今のパルスタですよ。
……そしてそれはトリユも同じことです」
「どういうことですか?」
599 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:34:12.09 ID:vkNizOf+0
「キャンベル氏は発展する精神こそが生きる希望だと考えた。
だからあえて苦労を買って、何もない地での立国を決意したのです。
それはもう楽しかったそうですよ。
死にそうな出来事も何度か経験したそうですが、そこには常に目標があった。
大げさな言い方をすれば、希望があった。
そうして出来たのが、トリユです。
けれどね、もうそのトリユはどこにもないんですよ。
私が去年トリユに渡った時、心底驚きました。
みんな死んだような目をしているんですから。
ああ、これは子供の頃に見た目つきと同じだ……とその時に思いました。
自由という言葉の傘を借りて何もせず、何も目的を持たず、ただ一日を暮らす。
食べ物も少なく、ひどく貧しい。それでも誰も働かない。
物を作る知識もない。そこにあったのは、緩やかな死でした」
「……あなたは何が言いたいんですか?」
600 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:38:04.45 ID:vkNizOf+0
「長くなりました。
私が言いたいのは、もうトリユだのパルスタだの、そういう状況じゃないということです。
一部の権力者のせいで、この星の人間はゆっくりと死んでいっています。
ヒストリア星全体の自殺、と言ってもいいかもしれません。
エイレーネー帝、あなたは聡明な方です。それくらい話していたら分かる。
だからお願いです、もう国で人を分けないで下さい。
かつてレオーン帝がそうなさっていたように。
もうこれ以上、この星の人間を殺さないで下さい。
ヒストリアの地に立つ人間はそもそも皆、等しいのです。
だからどうか、トリユの人間のことを責めないであげて下さい。
どうか決して……踏み潰さないであげて下さい」
601 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:48:51.83 ID:vkNizOf+0
エイレーネーはもう何も口を差し挟まなかった。
ただ、黙ってタカベの言葉に耳を傾けた。
私は皇帝に即位してから一体何を見てきたのだろう?
一体何をしていたのだろう?分からない、今は何も。
――トリユでもパルスタでもなく、ここはヒストリアなんです。
タカベの言葉が耳朶に蘇る。
答はどこにも転がっていなかった。
「タカベさん!」
突然寝室のドアが開いた。そこには頭にバンダナを巻いた屈強な男が立っている。
見たことのない兵士だった。
「そろそろ限界だ!ここから脱出します!話は終わりましたか?!」
「ああ、もう大丈夫だ。ありがとう、のび太くん」
「じゃ、すぐにこのロープの端を握って!」
促されるままに目の前のタカベが縄の端を握る。その瞬間、2人の体が発光した。
しかしそれは一瞬のことですぐに光は已み、またもとのように2人は部屋に立ち尽くしている。
と、タカベがエイレーネーの方を向いた。
602 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:49:37.36 ID:vkNizOf+0
「へえ、本当にしずかちゃんにそっくりだあ」
途端にタカベの口調が変わった。
いや、おそらく目の前の少年はもうタカベではないのだろう。
それは雰囲気で察せられた。
あまりにも不可解なことが立て続けに起こるものだから、
エイレーネーはもはや多少のことでは驚かない。
「のび太くん!行くよ!」
どやどやと2人の少年、そして不思議な生物が入ってくる。
この生き物は一体なに?少しだけ耐性の付いてきたエイレーネーだったが、
目の前の光景はさすがに受け入れ難かった。
しかも、喋る。
「とりあえず、トリユに向かおう!」
奇妙な生き物のポケット(らしきもの)からかなり大きなドアが飛び出した。
もう何でもアリだ。私は多少のことでは驚かない。
「トリユへ!」
声とともにドアが開く。するとそこには、室内だったはずの空間に見慣れない風景が広がっていた。
もう、何が何だか分からなかった。
603 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:54:17.63 ID:+z2ii16DO
話のまとめかたうますぎwwwwwwwww
わっふるわっふる
604 :
閉鎖まであと 5日と 22時間:2007/01/17(水) 22:56:00.35 ID:vkNizOf+0
「のび太さん!」
ドアの向こうには静がいた。ぐいぐいと凄い勢いでロイを引っ張っている。
一体トリユで何があったのだろうか?その光景からは、事態が把握できない。
肩越しにはミヤイが倒れているのが見える。
「パルスタの軍本部に行って!」
突然静がとんでもないことを言い出す。軍本部だって?そんなのは自殺志願者の言葉だと思った。
あそこでは今も激しい攻防戦が繰り広げられているはずである。しかし――
「ドラちゃんも!タカベさんも!皆も早く!」
「は、はい!」
そこにいたのはいつもの静ではなかった。ものすごい剣幕に押され、思わず返事をしてしまうのび太。
「私も、私も連れて行って下さい!」
声の主はエイレーネー帝だった。僕の顔が2つと、そして静の顔が2つ。
それを見ていると何だかもうどうでもいいや、という気分になってくる。
「ドラえもーーん!!」
「あーもう!どうなっても知らないからね!パルスタ!軍本部!」
どこでもドアの扉が、ゆっくりと開いた。
605 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:03:41.04 ID:gHWfujMR0
wktkすぎるだろ・・・常識的に考えて・・・
+ ∧_∧ + +
(0゚・∀・) ドキドキ 。
oノ∧つ⊂) +
( (0゚・∀・) ワクワク 。
oノ∧つ⊂) + + 。
( (0゚・∀・) テカテカ 。
oノ∧つ⊂) 。
( (0゚・∀・) ワクワク +
oノ∧つ⊂) 。
( (0゚・∀・) テカテカ +
oノ∧つ⊂)
( (0゚-∀-) ワクワク +
∪( ∪ ∪ 。
と__)__)
606 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:04:12.46 ID:/EQlMmAt0
ho
607 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:04:47.07 ID:vkNizOf+0
【話は少し遡る】
「……そんなわけで、僕とタカベさんが入れ替わってエイレーネー帝のところに行ってくる。
静ちゃんはトリユで待っておいてくれ」
公民館に突然どこでもドアが現れた時は思わず絶句した。
しかもその向こうから出てきたのはよく見た面々で――加えてドラえもんまでいたのだから、
その驚きは大きかった。
「終わったら必ず戻ってくる!」
聞けば、タカベさんがパルスタの皇帝を説得するという。
しかし戦争が規模は益々大きくなっている現状において、果たして説得が
功を奏するのであろうか。静は胸に沸く不安を抑えきれず、思わず気持ちをそのままにぶつけた。
「もう、いいじゃない!皆頑張ったじゃない!
タカベさんも、ロイもみんな、地球で暮らせばいいのよ!
戦争なんて、させたい人にさせておけばいいじゃないの!」
608 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:05:39.48 ID:K3kYkDDz0
寝させてくれ
609 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:06:44.39 ID:vkNizOf+0
言ってから、静は後悔した。
のび太、スネオ、ジャイアン、そしてタカベのボロボロになった姿を見るにつけ、
自分は何と卑怯な人間なのだろうと思った。
戦場にも立たず、分かったふりをして身勝手な言葉をぶつけてしまった。
思わず涙が溢れそうになる。
でも泣いちゃいけない。本当に泣きたい人は、もっと他にいるはずなのだから。
そのまま皆は黙っていたが、しばらくすると、タカベが怒るでもなくにっこり笑ってこう言った。
「ありがとう。
でもね、静くん。
戦争をしたい人なんて、どこにもいないんだよ。
だから僕はいかなくちゃなんないんだ」
それだけ言ってタカベはどこでもドアの扉をくぐる。
その後に4人が続いた。
静はもう何も言えず、ただただ黙ってその背中を見送る。
610 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:16:56.28 ID:OyxEgX6U0
明日は単位追認試験。
だが寝ないで見てる。
611 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:18:57.07 ID:vkNizOf+0
「……行かなくちゃ!」
気持ちよりも先に体が動き出す。
どこでもドアが消えた瞬間に静は公民館を外に駆け出した。
朝の鮮烈な空気が静の肺に流れ込む。
一つだけ深呼吸をすると、静はタケコプターを付けてロイの下へ飛んだ。
「ロイ!」
体当たりをするように会議室のドアを開けると、そこにはロイとミヤイが神妙な顔をして座っているのが見える。
静はそのままツカツカとロイの下に歩み寄ると、机を力任せに叩いて詰め寄った。
「あなたは!戦争がしたいの!それともしたくないの!どっちなのよ!」
「おい娘!国王に向かって何て口の聞き方を」
「あなたは少し黙ってて!私はロイと喋っているの!」
その語気はとても小学生のそれではなく、ミヤイも思わず気圧されて黙り込む。
静は無言でロイの顔を見つめた。
612 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:19:26.07 ID:to+vTq0/0
セリフ回しの格好良さが堪らん・・・大好きだ。
「……ないよ」
「え?」
「僕だって、どうしたらいいのか分かんないよ!
こんなの、トリユがこんな風になってどうしたらいいかなんて、誰にもわかんないじゃないか!」
「何言ってるのよ……あなた、国王なんでしょう?」
「そんなもの、そんなもの別になりたくてなったわけじゃないよ!
父さんが死んで、いつの間にか国王にさせられちゃって……
そうだよ、父さんが死ななければこんなことに……タカベだって死ななくてよかったんだ……」
パーン。
静まり返った会議場に乾いた音が響いた。
静がぜいぜいと息を荒げてロイを見下ろす。
ロイの頬は真っ赤に染まっていた。
614 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:20:12.82 ID:vkNizOf+0
「そうやって人のせいにしてたら!戦争が終わるの!?終わると思ってるの?」
「いい加減にしろ!」
突然ミヤイが静に掴みかかる。
ものすごい力で押し込められた静は、一息に会議室の壁の端まで追いやられた。
「黙ってパルスタに従っていれば戦争は終わるんだ!
タカベが抵抗するから!あいつが全部悪い!」
「あなたたち大人がそうやって……何もかもから逃げようとするから……」
静は苦しそうな声を上げながらポケットの中を探る。
ミヤイはなおを力を緩めない。
「こうなったんでしょ!」
怒声を上げて静かは右手を振り上げた。
手の中にはタケコプター、素早くミヤイの頭に付けると素早くスイッチをオンにした。
「わ、わわ!」
ふっ、と静の体に掛けられていた力が解かれる。
それと同時にごん、と鈍い音が天井から響いた。
次の瞬間、静の目の前には気絶したミヤイが突っ伏していた。
615 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:28:13.99 ID:jCWrF/Qh0
しずかちゃん逞しすぎwwww
616 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:28:56.03 ID:vkNizOf+0
「あなたは!」
再びロイの下に静が詰め寄る。
肩の辺りがズキズキと痛んだけれど、無理やり痛みを忘れた。
「戦場にも行ってない。
たぶん図書館の負傷兵の姿も見ていないわ。
どうして目を逸らすの!
あなたが守りたい国じゃないの!」
「もうたくさんだよ!
放っておいてくれよ!
どうして皆、そうやって僕に、トリユに構うんだよ!
そっとしておいてくれよ!
パルスタがトリユのことを欲しがってるんならいつでもあげるから、僕のことは放っておいてよ!
僕らはただ、自由に暮らしたかっただけじゃないか!
パルスタには合わなかった、だからパルスタから出てきた。
それなのになんで今更パルスタがあれこれ言ってくるんだ!」
617 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:29:09.57 ID:r1+EDWQ40
静ちゃん(*´Д`)ハァハァ
618 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:29:33.10 ID:vkNizOf+0
「パルスタにトリユをあげるって……
あなた、自分の言っていること分かってるの?!
その後あなたはどうするのよ!」
「またどこかに行くさ!そこで自由に暮らしてやるさ!」
「バカー!」
再び静がロイの頬を張る。
涙を流したのはしかし、頬を張った静の方だった。
「ロイ、ねえロイ……あたしは確かに今回のこととは無関係かもしれないけど、
でもお願い、これだけは言わせて……」
静は嗚咽を堪えながら、瞳をぐっと拭うと再びロイの目を見つめた。
「逃げても、逃げても、どれだけ逃げても。
逃げ出した先に、楽園なんてあるわけないじゃない……」
静の言葉に、ロイが大声で泣いた。
619 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:34:03.91 ID:vkNizOf+0
長くなりました(現在11万5千字)が、ついに最終章です。
即興で書いているため誤字脱字、言葉の重複などがあるとおもいますがご容赦下さい。
それでは皆様、最後までお付き合いいただければ幸いです。
620 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:36:26.68 ID:K3kYkDDz0
wktk
621 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:37:15.12 ID:r1+EDWQ40
初日から張り付いて、明日だって仕事だがもう何時までだってついていくんだぜ!
ガンガレ
>>1!
622 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:38:03.15 ID:K3kYkDDz0
こういう時は何でこんなに起きていれるんだろうね
623 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:41:52.74 ID:vkNizOf+0
【パルスタ軍・本部】
「何だ!何だこれは!」
司令室に突然ピンク色の扉が現れる。
ギノは何度も目をこするが、ドアは一向に目の前から消えようとしない。
あまつさえ一人前のドアであるかのように、重々しく扉が開いた。
「どこだここは?司令室か?!」
「タ、タカベ?」
目を疑った。トリユの兵に暗殺されたはずのタカベがどうしてここに?
ギノは混乱する頭を抑えられない。
その後に続いてゴリラとキツネに似た子供と、青い球体。
何だ?この球体は。
「タカベさん!ここは本部ですか?!」
喋るぞ、この球体は。
624 :
閉鎖まであと 5日と 21時間:2007/01/17(水) 23:42:57.94 ID:vkNizOf+0
「タカベさん!のび太さん!」
「こ、皇帝?!」
どうなってるんだこの扉は。
どうしてこうも続々と人間が出てくる?
それも、俺の会いたくない人間ばかりだ。
ノギは目を剥く。皇帝の後ろにいるのは……ロイ国王だと!?
「ロイ、こっちへ来なさい!」
そして。
最後にドアから出てきたのは、静とロイだった。
エイレーネーが2人に、ロイが2人。
そのあまりにも壮絶な光景を見た瞬間、ギノは卒倒した。
ヨウヘイヘーイ