新ジャンル「携帯娘」

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160以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします

こんなところにメッセージを残しておくのは卑怯かな、と思いましたが
今回くらいはわたしの我侭を許してください。
わたしを選んでくださって、本当にありがとうございました。
売れ残っていつまでも店の奥で待機しているときは、わたしに希望なんてありませんでした。
2世代も前の携帯なんて誰も選ばないだろうし、このまま箱から出ずに廃棄されるんだろうなぁとか、
一緒のラインで流れてたあの子がこの前壊れて帰ってきて処分されちゃったなぁとか。
あるじがわたしを選んでくださった理由は、ゼロ円だったからなんですよね?
あるじのお考えなんて見え見えですよ、なにせ2年半も一緒にいたんですから。
でも、例えどんな理由であろうと、わたしを選んでくださったことはすごく嬉しかったです。
覚えてますか?
あのとき箱から出してくださった瞬間は、今でもわたしは覚えています。
あるじに内緒で、こっそり作った領域に記録しちゃってますから。
もちろん、あるじが今まで撮っては消してきた恥ずかしい顔写真も保管してますよ。
キメキメにきめちゃって。メール友達に送られるにされても、スーツ姿はナシじゃないかなぁと思っちゃいましたよ。
他のデータだってありますよ。容量不足で全部削除したmp3も2、3曲チョロまかしてます。
「明日へ」っていう歌は特に気に入っちゃいました。
覚えてますか?
最初にあの曲を歌ったとき、あるじがわたしに「綺麗な音(こえ)だ」って誉めてくださったんですよ。
絶対にそんなわけ無いのに、あるじはパソコンをお嗜みだったのに。
あるじはわたしにお気を遣ってくださったんだって、わかってましたよ。
水の中に落ちちゃって2日間眠りっぱなしだったときは、あるじはすごくうろたえておられましたね。
乾いたら治っちゃったっていうオチは、ちょっときつい冗談でしたけど……、
でも私を治そうと必死だったあの時のあるじは、今思い出しても胸がこみ上げそうです。
変ですよね、何で思い出せるんでしょうか。あの時私は機能が完全に停止していたはずなのに……。
161以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 06:55:24.49 ID:5DHnGnEX0
他にも思い出を挙げるとキリが無いので、恥ずかしい話はこのへんで。
ロクなサービスも受けられず、新しいアプリケーションにも対応出来なくなりはじめたお婆ちゃんなわたしはこのあたりで退場します。
この別れはわたし自身の望みでもありました。わたしではあるじへのご奉仕に限界を感じていたからです。
もう最新の子と比べると7世代も8世代も離れちゃったのかな。物覚えも柔軟性もスタイルも負けちゃってますよね。
だから、すまなさそうな顔をしないでください。電源を落とす直前にわたしが見た、その悲しい顔を、どうかやめてください。
これからあるじに仕えるこの子は、かわいくて頭が良くて優しい、わたしの自慢の後輩ちゃんなんですから。
この言葉もこの使命もこの想いも含めて、わたしが記憶しているすべてのデータをこの子に託しました。
多少なりともわたしの価値観に染まっちゃっているので、きっとこの子もあるじを好きになってくれるはずです。
さようなら。役目を終えたわたしは、もう何て言われようと今からお休みしちゃいます。
あるじの許可も取らず我侭勝手に、大好きなあなたとの夢のような日々を夢見続けちゃいます。


―――再生、終了しました。

ご主人様。ご気分が優れないのでしょうが、
どうか私の前では涙を抑えていただけると……その、助かります。