【春の陽気に】ローゼンメイデンが普通の女の子だったら【誘われて】

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638以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 18:52:54.69 ID:nkspPCSE0
>>637
「でも、ヒナ運転下手だから不安なの」
「大丈夫ですわよ。狭い道は多少あるけど、変な裏道を使わずにゆっくりいったら行けますわ」
「うー……」
 雛苺は自信なさげに下を俯いていた。
 確かに雛苺は免許を取るのに相当苦労したらしい。車を破損させたこともあったそうだ。
 でも、さすがに多少は上達したのか広い道でならそんなに危なっかしいこともしない。
 狭い道でのすれ違いが本当に怖いと彼女は言うのだ。
「大丈夫よ。変な裏道も無いと思うし、国道とか県道とかだったらそれなりに広くなっていると思うよ」
 彼女をはげまそうと思い、私はそんな言葉を口にした。
 まあ、ここは何といっても観光都市京都だということで、市内の町並みには細い道は多いものの、
主要な大通りや国道なんかを使えば、流れにうまく乗れば問題なくたどり着けるはずだ。
 ……とその時までは思っていた。
639以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 18:53:32.34 ID:nkspPCSE0
>>638
 雛苺は運転席に乗り込みエンジンを掛ける。
 走り屋定番といわれている車とあってか結構エンジンをふかす音が響いている。
「スピードが出そうでなんとなく怖いの」
 ハンドルを握りながらもやはり不安は拭い去れないようだ。むしろ余計に大きくなっている気がする。
「なら、ギアをセカンドにしていけばそんなにスピードは出ませんわ。大通りに出て車の流れに
ついていけないならドライブに変えて下さいね。それとアクセルは強く踏み込まないようにして……。
まあ、それでいけると思いますから……じゃあおやすみなさい」
 助手席に座っている雪華綺晶はそれだけ言うとさっさと眠りについてしまった。
 なんとまあ適当すぎるかなと思う。
 表向きは結構しっかりしているように見えるのだが、意外とこんな適当な面があったりもする。
640以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 18:54:08.09 ID:nkspPCSE0
>>639
 駐車場には観光シーズンとあってか大型バスも含めて停まっていた。
 さすがに夕方に近い時間帯とあって他の車は続々駐車場を出て行っている。
「とにかくここから大原に行くにはと……」
 私は手元にある、市内の観光案内所でもらった観光地図に目を通す。
 大原に行くには、一旦鞍馬街道を北山通まで引き返し、そこを東に向かって修学院のあたりで
国道367号線を北上するか、叡山電車の市原駅付近で府道を東に進むルートになる。
 ただ、目の前をふと見ると鞍馬街道はその北山通の方向に向かって混雑しているようだった。
 というか、車がほとんど動いていない様子だった。
 そういえば行きに鞍馬の狭い町並みを通ったのだが、あそこで結構車のすれ違いで流れが悪くなっていた。
 ほぼ1車線しかない上にバスなんかの大型車も通っていたから、それらとすれ違うごとに流れ
が頻繁に悪くなっていたっけ……。
 いずれのルートをとるにしてもこの混雑は避けて通れないだろう。
641以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 18:56:26.79 ID:nkspPCSE0
>>640
 今も前にいた観光バスが駐車場を出ようとして混雑に巻き込まれている。
 このまま行けば、かなり時間が掛かってしまうのは間違いない。
「結構混んでるみたいなの」
「そうね……他に行けるところはないかな」
 私は再び地図に目を落とす。
「あら?この赤い線って国道ですわね」
「そうだけど……」
 横にいたオディールがふと地図の一角を指差す。
 そこには確かに国道を示す赤い線が走っている。しかも大原に向かって。
 場所は鞍馬街道を北へ――すなわち混雑している箇所とは逆方向へ向かったところだった。
そこから国道477号線が大原の方向に伸びている。
「そうね。ただ、山の中を走るみたいで多少曲がりくねっているのは気になるけど……」
「うー、ヒナ山道は苦手なの」
「でも、混んでいる方も道が狭いし、結構すれ違いが多いみたいだけど」
「狭い道のすれ違いはもっと嫌なの」
 私は雛苺に地図を見せた。
 少しの間、彼女は地図を見て悩んでいたが、北のほうへ行けば車が少なそうなのと、
地図を見る限り、途中で伸びている国道は狭く描かれていないことからそんなに酷くはないと思ったらしい。
「北に行った方がマシな気がするの」
 車は駐車場を出ると、混雑とは逆方向の北へと向かった。
                            −to be continued-
とりあえず、ここまでで続きは夜投下予定。
しかし、>>631で安価ミス…orz
642以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 18:58:01.90 ID:ZrfCLxmg0
オディールさんktkrwwwwwwwwww
643以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:00:32.59 ID:UYLj8AYm0
>>641

京都観光ですか^^

期待してますwktk
644以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:02:43.19 ID:1MeCU03j0
オディール初登場www続きwktkです。

三千院いいよ三千院。京都に来たら行く事をお勧めする。
645以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:07:24.99 ID:oMnZ00EH0
おっと…投下した後に誤字が…orz…スマヌ
>>632 2行目
誤:8年前 正:9年前

それはともかく、この後どうなるかはこの辺の地理に詳しい方や、
ある方面で勘の鋭い方は想像できると思います…ww
646以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:17:17.66 ID:SZDs65Ba0
いいですね、京都旅行。なんだか旅がしたくなりました。
修学旅行で行ったときは、ゆっくり見て回れなかったからなぁ・・・
ともかく、続きも楽しみにしてます。
647以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:21:25.44 ID:yRmQIyoPO
俺は修学旅行奈良だったな・・・
それはそうと超wktk
648以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:28:18.85 ID:get5UcbY0
俺も修学旅行は京都、大阪、奈良らしい。
まぁどうでもいいのだが。
長編投下します。

>>474
〜チビ蒼星石とチビ翠星石〜ふぁーすとこんたくと・・・No8

真紅「まったく、朝呼びに行かないとサボるんだから。」
水銀燈「別にいいんじゃない?だって真紅が寝坊して遅れそうだったからいけなかったんでしょう?」
真紅「べ、べつにいいじゃない。少し本をよんでいて寝るのが遅れただけよ。」
水銀燈「ならいいんじゃない?『べつにいい』っていったんだしぃ」
真紅「よくないわよ。・・・・・・もういいわよ」
水銀燈「わぁい。私の勝ちぃ」
真紅「勝ちって何よ。」
水銀燈「だってあきらめたじゃなぁい?」
真紅「はぁ・・・・もういいわよ・・・。」
水銀燈「ふふっ。」
ある美女二人がある男の子を話題にして話しながら歩いていた。歩いている方向はその男の子の家。
〜続く〜
649以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:28:48.86 ID:get5UcbY0
>>648
真紅「まったくジュンったらメールしても返してこないしなにしているのかしら。」
水銀燈「もしかして真紅のメールを返せるほどの暇がないんじゃない?」
真紅「そういう水銀燈、あなただって昼休みジュンに電話していたでしょう。」
水銀燈「え?あははは、ばれてた?」
真紅「当たり前でしょう。急によそよそしくなって『ちょっと用事があるからぁ』とかいってどこかにいったことから簡単にわかるわ。」
水銀燈「うっ。・・・ところでそのどこぞの探偵みたいなしゃべり方やめてくれなぁい?」
真紅「どこぞの探偵じゃないわ。くんくんよ。」
水銀燈「そうですかぁ。」
水銀燈はしまったと思った。くんくんの話題を出すと軽く一時間は語り始める。
寝てもおこされるし逃げても捕まえられる。まぁ今回は大丈夫そうだ。
真紅「で、そのときくんくんがね、犯人を追い詰めるために」
水銀燈「話を気ってわるいんだけどぉ、もうジュンの家の前よ。」
真紅「あら、本当だわ。」
二人の美女はある男の子の家の前で立ち止まった。
水銀燈「さて、いきましょ。」
真紅「わかっているのだわ」
真紅がチャイムを押す
〜ピンポーン〜
中に音が響く。

〜続く〜
650以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:29:15.09 ID:get5UcbY0
>>649
ジュン「翠星石、おやつ食べたのならちゃんとゴミ箱に入れろよ。」
翠星石「なんで、すいせいせきにだけなんですぅ?」
ジュン「蒼星石はきちんとゴミ箱に入れてるだろ。」
翠星石「すいせいせきはとくべつだからべつにいーですぅ。」
ジュン「はぁ、もういいよ」
蒼星石「ちゃんとジュンくんのいうこときかないとだめだよ。すいせいせき」
翠星石「いいんです。あんなジュンのいうことなんかですぅ」
ジュン「あんなってなんだよ。」
双子はお昼寝から目覚めおやつを食べ始めてた。そこに
〜ピンポーン〜
ジュン「ん?客だ。」
翠星石「さっさといくですぅ。そのあいだにごみまみれにしてやるですぅ。」
ジュン「やめとけ・・・。」
蒼星石「すいせいせき・・・そこまでいくともうぼくでもフォローできないよ」
翠星石「うっ・・・なんかすいせいせきがわるものみたいですね」
ジュン「実際に悪者だろ。(ぼそ」
そういうとジュンは玄関のほうへ歩いていった。
翠星石「あ、なんかいまいったですぅ?ぼそっというのはひきょうですぅ」
蒼星石「すいせいせき、まずおちついてごみをかたずけようよ。」
翠星石「そ、そうせいせきからいわれるとはんろんできねーですぅ」
〜続く〜
651以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:29:47.22 ID:get5UcbY0
>>650
真紅「なかなかでてこないわね」
水銀燈「でもなんかさわがしそうだわぁ」

ガチャ

ジュン「・・・よう」
真紅「よう。じゃないのだわ」
水銀燈「どうかしたのぉ」
ジュンが見た光景は玄関の前に腕を組んで立っている真紅と塀にもたれかかってジュンに視線を投げかけている水銀燈。
ジュン「いや、どうもしてないけどさ」
真紅「じゃあ何故休んだの?」
ジュン「いや、それは・・・」
ジュンがすこし口ごもったときにちょうど蒼星石があらわれた。
蒼星石「ジュンくん。ごみはかたずけおわったよ。・・・・・。」
真紅「・・・・。」
ジュン「・・・・・。」
水銀燈「・・・・・・・それ誰の子ぉ?」
真紅「・・・・・・・ジュン・・・・・・?」
ジュン「いや、違うぞ。断じて違うぞ」
水銀燈「そう。ならその後ろにいる子はどう説明するのぉ?」
ジュンの後ろには翠星石がいた。人見知りは簡単には直らないらしくまた人の後ろから人を眺めていた。
〜続く〜
652以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:30:08.79 ID:get5UcbY0
>>651
真紅「可愛いのだわ。双子?」
ジュン「え?俺に聞くか?」
真紅「あたりまえじゃない?」
ジュン「うっ・・・・双子だよ。そっちが蒼星石で僕の後ろに隠れてるのが翠星石」
水銀燈「あらぁ、いい名前ね。」
ジュン「いや、しらんけどさ・・・・」
真紅「・・・よろしくね。蒼星石ちゃん、翠星石ちゃん。」
蒼星石「よ、よろしく。」
翠星石「・・・・・・・」
真紅「?」
翠星石「チビ」
真紅「!」
ジュン「!」
蒼星石「!」
水銀燈「あら、この子案外言うわねぇ。」
真紅「な、何よ!」
翠星石「わぁぁぁ。(ジュンの後ろに隠れる」
ジュン「・・・・・・・・・・・・・・」


前略、父上母上殿。私は今とんでもない嵐の真ん中にいます。その中心はあなた方が連れてきたこの翠星石です。これからどうなるかまったく検討もつきません。
えーとつまり、今日という日を無事に過ごせるのでしょうか。

〜続く〜
653以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:31:20.01 ID:get5UcbY0
今回の投下は以上です。
蒼星石と翠星石が少ししか出てきませんがそこは目をつぶってください。
次回の投下は明日の昼にしたいと思います。
654以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:32:15.40 ID:ZrfCLxmg0
修羅場(?)ktkrwwwwwwwwwww
続きwktk
655以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:37:32.75 ID:yRmQIyoPO
ちび双子(*´Д`)
嵐の予感wwwwww
656以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:44:29.46 ID:SZDs65Ba0
うぅむ。今後の展開から目が離せない。
wktkwktk
657以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 19:57:51.46 ID:1MeCU03j0
双子かわいいね双子。
658以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 20:11:39.64 ID:get5UcbY0
いま読み直していたら誤字を見つけました。
>>649
×水銀燈「話を気ってわるいんだけどぉ、もうジュンの家の前よ。」

○水銀燈「話を切ってわるいんだけどぉ、もうジュンの家の前よ。」
です。

>>654->>657
そういった言葉の一つ一つが力になります。ありがとうございます。
659以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 20:16:19.80 ID:ByeU6RaF0
>>653
なんか色々な箇所で悶えたwww

wktk!
660以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 20:33:41.51 ID:xYPOBKit0
いつちび翠が真紅をぺた胸呼ばわりして髪チョップくらうかwktkwwww
661以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 20:33:59.26 ID:rPN06vip0
662以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 20:39:19.64 ID:JgGsqjXL0
>>653
ちび双子が最近の生活の癒しになってますwwww
>>660
それ修羅場wwwwww
663以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 21:08:02.86 ID:yRmQIyoPO
保守
664以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 21:20:03.65 ID:xYPOBKit0
ほしゅ
665以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 21:29:41.18 ID:Ufhjcf1W0
保守
666以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 21:48:45.47 ID:z1QlmsLI0
自分の書いている文で凹みそうですほしゅ
667 :2006/04/22(土) 22:04:44.76 ID:UYLj8AYm0
668 :2006/04/22(土) 22:20:30.74 ID:UYLj8AYm0
 
669以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:23:45.28 ID:LCrSaS/I0
>>662
同意。おでこキスにはやられた( ´Д`)
670以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:37:45.70 ID:ycCZswYf0
ho
671以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:54:26.69 ID:xYPOBKit0
シュッ
672以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:55:41.11 ID:z1QlmsLI0
気怠くアンニュイな夜の一時に>>352の続きを投下しますよ。

<30秒で解る簡単なあらすじ>
ゆっくりと、砂時計の砂は落ちてゆく。
日常を生きる者、非日常を楽しもうとする者。
それぞれに共通しているのは、明確にされた「残り時間」のみ。
残り64時間。様々な思いと共に、彼女達は生きてゆく。
673以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:56:04.77 ID:z1QlmsLI0
仮初の日常はただ淡々と演出されてゆく。
事実から目を背け、ただ自らと周囲を守る。
それは哀しい人間の習性なのだろうか───


-Hands of doom〜運命は手の中に〜 第05話-


20XX年4月12日 08時

寝付けるかどうか不安だったが、しっかりと6時間眠ることが出来た。
最低限の着替えとバスセット、整髪料を詰め込んだ旅行鞄は存外に軽い。
途中、早朝営業の喫茶店で朝食を摂って、待ち合わせの駅に到着したのは約束の15分前。
もしかしたら待たせているかもしれないな、と思ったけれど彼女の姿はそこに無かった。
安心したと同時に、少し残念にも思う自分に苦笑する。全く勝手なものだ。
時間を持て余してしまったので、辺りを少し観察してみる事にした。
平時よりは少ないものの、急ぎ足で歩くスーツ姿の大人たちと制服に身を包んだ学生が目につく。
こんな時にまで…と思うけれど、彼らはこの「非日常」に耐えられるだけの精神力が無いのだろう。
電車を運転する老運転士、自動改札の電源を落として手での改札を行う若い駅員、穏やかな笑みを浮かべながらコーヒーを淹れる喫茶店のマスター…皆が日常を生きている。
世界の終わりのようにメディアは報道しているけれど、それによって大きな混乱は起きていない。
ある日突然非日常に放り出されたとしても、「馴染んだ世界」を捨て去ることは出来ないのだ。
きっとそれはこの国だけではなくて、どの国でも同じだろう。
熱心な仏教の国であっても、狂信的なカトリックの国であっても、「神仏に祈る」という日常を崩す事は無い。
僕のようにこれ幸いと普段は出来ないような事をしようとするのは、今この段階に於いてはマイノリティだと思う。
尤も、それならそれでもいい。残された時間を濃厚に楽しく生きる。それが僕と…多分彼女の望みだ。
視線を駅の構内から駅前広場に向けると、ほら。僕の待ち人が。
大きな鞄を手に、薄い紫色のワンピースに身を包んだ彼女が、息を切らせてやって来る。

「おはよう、薔薇水晶さん。いい天気だね」
674以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:56:28.91 ID:z1QlmsLI0
>>673

20XX年4月12日 10時

各駅停車の遅い電車に私は乗っている。
レールの継ぎ目で発生する、定期的で小さな揺れが心地良い。
窓を開けると、春の陽気に温められた風が私の頬を撫でた。
私の膝の上には、私が持って来たものよりも小さくて軽い旅行鞄が載っている。
私の鞄はというと、隣に座っている彼の膝の上。

「重そうだから、いい場所につくまで鞄を交換しよう」

そう彼が言い出したので私は少し途惑った。旅行鞄は一応プライベートなものだ。
確かに重かったからその提案は嬉しいけれど、些かデリカシーというものに欠けているのではないか。
ちょっとだけ困って彼の顔を見たら、その表情には嫌らしさというものは無く、純粋な気遣いからの言葉だという事を感じられた。
私は色々考えすぎなのかもしれない。思えば、私はこういう裏の無い──少なくともそう感じられる親切を両親以外から受けたような記憶が無い。
本当に信頼できる友人が居ない…いや、むしろ自分から作らないようにしてきたのだから当然だ。
だからせめて、この旅行中は彼の好意を素直に受けよう。そう思うことにした。

この電車がどこに向かっているのか、私は知らない。
彼も大まかな行き先しか知らないという。
何でも海沿いを北側いっぱいまで走るということだけれど、この調子じゃあ丸一日走ってもそこには辿り着けまい。
多分二人とも電車に乗るのが飽きたら降りる事になる。それまでは、ゆっくりと流れるこの景色を楽しもう。
左手を少し動かすと、彼の手のひらに触れた。
そのまま軽く握ると、彼も握り返してくる。
…ああ、この感触はなぜかすごく安心できる。
左手に体温を感じながら、私は暫く流れる景色に見入っていた。
675以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:56:52.20 ID:z1QlmsLI0
>>674

20XX年4月12日 11時

なんだかんだ言いながら、私は今日も学校に来ている。
いつも通り真紅の家を訪ねて通学路を歩く。心なしか昨日より歩く人の数が減っているようだ。
登校中の真紅は、いつもと同じで凛とした様子だった。
昨日の言葉は恐らく真実なのだろう。まな板の上の鯉とでも言おうか。ある種の諦念とも言える。

教室では、昨日より少ない数の生徒たちが教師の授業を受けている。
健康優良児のはずのヒナカナが居ない事が少し寂しい。
私はというと、一応教室には居るものの教師の話は右から左。
ペンを回しながら適当に時間を潰して、時々目についた教科書の写真に落書きをする。
そんな適当な、いつも通りの授業態度で臨んでいる。
右正面の真紅がどうしているか、背後からでは伺う事が出来ない。
しかし彼女の事だから、おそらく真面目に授業を受けているのだろう。だからこそ試験の時には頼りになるのだ。

─試験の時には。

そんなキーワードが、私の中で違和感となって響く。
このままならば、次の試験は実施されない。
ならばこの授業は全く意味を為さないというのに、それでも律儀に受けている私を含む生徒達はなんと滑稽なのだろう。
皆、事実を受け止めたつもりでただ逃避しているだけではないのか。

「怖がった所でどうにもならないもの」

昨夜の真紅の言葉が、なぜか酷く空しいもののように感じられた。
彼女は達観しているのではなくて、単に事実を先送りにしているだけだ。
細い真紅の肩が、僅かに震えている。そう見えたのは、気のせいだろうか。
676以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:57:14.48 ID:z1QlmsLI0
>>675

20XX年4月12日 09時

学校へとやってきた私の目に映ったのは、半数以上が欠席しているという異常な風景だった。
全く、不真面目極まりない。こんな状況だからと好き勝手な事をしてはモラルも何もなくなってしまうだろう。
我々人間が人間である為の最大の特徴はこのモラルにある、と私は思っている。
だからこそ、この「日常」を崩してはならないのだ。

「─貴女、怖くないの?」

昨夜、水銀燈が私へと向けた疑問は至極当然なものだと思う。
人間に限らず、生ある者ならば危機への恐怖心を持っている。
それは私も例外ではなく、この後どうなってしまうのか…という事を考えるととても恐ろしい。
しかし、それによって事態が好転する訳でもない。
ましてや、私にはそれを紛らわせてくれる異性も居ないのだ。
ならば怖がるだけ損だというものだろう。

水銀燈は私の答えを聞いてどう思ったのだろうか。
今朝の登校時、彼女はさほど変わった様子を持っていなかった。
彼女は私らしいと納得しただろうか。
それはそれで少し寂しいが、しかしそうあって欲しいと望んでいるのも事実。
一見冷たく感じられる彼女だが、その実激しい感情を持っている。
その感情で彼女の平穏を乱すのは、私の望む所ではない。

私が望むのは、互いに平穏で居られる「日常」なのだから。
それが仮初のものであっても、私はそれを守りたい。
677以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:57:31.51 ID:z1QlmsLI0
>>676

20XX年4月12日 08時

パパとママが眠そうな目を擦って起きて来た。
おはようなの、と元気に挨拶するとパパとママもおはようと笑顔で返してくれる。
テーブルに並べられた朝食を見て、ママの表情が少しだけ厳しくなった。
「勝手に火を使ってはダメでしょう」と言うママにパパは「まあいいじゃないか」と笑って言った。
ママはパパに弱いみたい。ふうと溜息をついて「そうね」と笑い返し、ヒナちゃんありがとうと私に言う。
私はなんだかとても嬉しくて、えっへんと胸を張ったらパパもママも笑ったまま私の頭を撫でてくれた。
テーブルに座ったパパに新聞を渡す。
本文にとても怖い事が掛かれているような気がしたので、敢えて見出しを見ないようにした。
ママがテレビのスイッチを入れたので、私はリビングから出てカナに電話をかけた。
昨日の約束。みっちゃんとお出かけをするのなら、私は一人で暇つぶし。
うろ覚えの番号をプッシュすると、始めはお約束の「只今使われておりません」。
こんな時の為に電話帳がある。きちんと番号を調べて、もう一度プッシュ。

「もしもしかしらー」

カナの元気な声が聞こえる。
私は元気に挨拶した。

「ヒナなのよー。おはようカナっ」
678以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:57:58.95 ID:z1QlmsLI0
>>677

20XX年4月12日 09時

ヒナからの電話。
みっちゃんが実家に行くという事を話をしたら、ヒナは少しだけ残念そうな声を出していた。
そんな友達を放ってはおけないので、「ヒナも一緒に行くかしら?」と尋ねてみる。
少しだけ間をあけて、「お邪魔じゃないのー?」と遠慮がちに尋ねてきたのでみっちゃんに確認を取るとOKが出た。
でも、私は少しだけお節介をする事にする。
ヒナのご両親だって、ヒナと一緒に居たい筈だもの。
だから、ご両親とちゃんとお話して1時間後にもう一度電話を欲しいと伝えて切った。

本音を言うなら私はヒナと居たい。
多分彼女とは親友同士だと言える。そんな間柄だから、できれば何でも一緒にやりたいのだ。
お子様なヒナだけど、それは純粋さの裏返し。
だから、彼女と一緒に居ることは苦痛ではない。
みっちゃんも、ヒナの事は気に入ってくれている。

電話が鳴った。
私が受話器を取ると、やはりそれはヒナから。
どうかしら?と手短に尋ねた私に、ヒナは少しだけ寂しそうに、だけど嬉しそうに言った。

「パパとママは旅行してくるらしいの。だからヒナも好きにすればいいって言ってくれたのよ」

なんとも無責任な話だが、その奔放さがヒナの純粋で奔放な性格に繋がっているのだろう。
午後三時に私の家へ来ること、と伝えて電話を切った。
みっちゃんが、「ヒナちゃんが来るならカメラのメモリ買い足さなきゃ!」と張り切っていたのがやけ印象的だった。
実家に戻って何をするつもりなんだろう……
679以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:58:20.60 ID:z1QlmsLI0
>>678

20XX年4月12日 10時

望めばいくらでも日常というものは手に入る。
例えば外界の情報を遮断し、外出そのものも最低限にして、全てを自宅内で終わらせてしまえばいい。
蒼星石と共に過ごすこの家が、私にとっての日常となるわけだ。
幸いな事に、私も蒼星石も「三日後」まで講義を取っていなかった。
やろうと思えばずっと自宅内で過ごす事も可能なのだ。

目を醒ましてから二時間、私はどうすれば日常を生きることが出来るかを考えていた。
私達姉妹が望むものはそれで間違いないだろう。
妹にだけ苦労をさせるわけにはいかない。私もそれなりの行動を取る事にする。
自室からこっそりと新聞販売店に配達不要の電話をしたら、昨日のうちに同じ申し入れが行われていたという。
こんな所まで私達姉妹はそっくりなのか、と苦笑した。
となると、恐らく私がやろうとしている事は既に妹によって行われているだろう。
ならばやる事はあと一つ。
「世界の変化」に気付いていないふりをするだけだ。
私は水銀燈にメールを一通打った。

『今後、私達姉妹が揃っている時に世界情勢の話をしてはならんです。勝手だけどお願いします』
680以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:58:38.97 ID:z1QlmsLI0
>>679

20XX年4月12日 14時

僕は目覚めてからずっと部屋に篭っていた。
油断をすると不安に押し潰されてしまいそうで、それによって翠星石に異常を気付かれたくなかったからだ。
既に昼を回っているというのに、翠星石の部屋からは物音が聞こえない。彼女はまだ眠っているのだろう。
思えば彼女はいつも夜更かしで、酷い時など朝に寝て夜に起きるという暮らしすら営んでいた。
また夜更かしをしたのだろうか。いっそそれを矯正するために、ここから三日間一緒に寝るのもいいかもしれない。

「蒼姉さん達は、姉妹というには少し仲が良すぎるわねぇ」

水銀燈からそう言われた事がある。
僕達としてはそんな意識は無いのだけど、外からはそう見えるらしい。
確かに互いに離れていたら不安があるけれど、でもそれぞれの人間関係に干渉をした事は無い。
僕も姉さんも彼氏が居た事はあったし、それに対して嫉妬のような感情を持った事も無い。

けれど。

世界が終わるという事実を知ってから、僕の意識は少しだけ変わった。
終わるその瞬間は翠星石と居たい。
日常の中、二人安らかに逝けたらそれが一番いいと思い始めた。
翠星石の顔が恐怖で歪むのは観たくない、というのは多分建前だ。
僕は、二人で生きていく日常が崩れるのを恐れている。

危ういバランスの上で成り立っている「日常」は、ほんの些細な事で崩れ去るという事に、その時は気付いていなかった。
──いや、気付く事が出来なかった。


-タイムリミットまで、残り約56時間-
681以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 22:59:35.22 ID:z1QlmsLI0
本日の投下はここまで、ということで。
頭が混乱しそうです。誰かコピーロボット作ってくれ。
682以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 23:02:42.50 ID:yRmQIyoPO
日常が壊れて行くのが怖いね
683以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 23:10:04.62 ID:YUGxWdgY0
自分を支えるすべてが崩れたあと人はどうなるんだろう…
続きwktkします。
684以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 23:14:45.16 ID:ZGa/POyKO
>>683五月にそうなりそうだから怖い
685以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 23:25:14.68 ID:xYPOBKit0
ほしゅ
686以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/04/22(土) 23:47:36.59 ID:yRmQIyoPO
保守
687以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
保守