スレタイ ひぐらしのなく頃に dat落とし編 VIPで作ろうぜ
307 :
時報:
鬼恋ひし編
彼女は凛々しく、神々しくて…いつだって私達の太陽だった。
母であり、仲間であり、そして………最も愛しい、女性。
おりょうさん……いや、お魎。
私は今だって、君のことを……
…やめよう。
いい年をした老人が、惚れた腫れたもないだろう。
それに………喜一郎。
もう、その思いには決着をつけたはずだろう…?
あの頃……もう何年前になるかな。
私達も、まだ若かった頃。
私は過ぎ去った時を懐かしむように…また、愛しむように思い返す。
308 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:12:02 ID:bdtWe1EP0
■回想
「おぅら!待つんね鉄也ぁ!!」
「うわぁ〜だんれが待つかだぁほッ!!そん物騒なもん下ろしいや!!」
「しゃらしいわッ!今日こそ許さんけな!!」
「き、公由ぃ〜!こ、こ、こいつ止めてくんれ!!」
「鉄也は今日も賑やかだねぇ。」
「ちょっ、悠長に標準語なん喋っ…グハッ?!」
「油断したのぅ北条氏…くっくっくっく!」
「…お魎、ちょっとやりすぎなんじゃないかい?鉄也また気絶してるよ…」
お魎は、十代前半くらいまではただただ血気盛んだった。
イタズラ好きの北条鉄也は、彼女の竹刀で何度失神したことかわからない。
それくらい、お転婆娘だった。
「おはよう喜一郎。」
「…おはよう。さっきの言葉は無視?」
「ええんね。自業自得っちゅうやっちゃ。」
「そりゃ…そうかもしれないけど。」
「……公由家の次期当主は大変やんな。私ゃ標準語なん、わんざわざ勉強したないわ。」
「またそうやって話題を逸らす…。」
「あっはっはっは!喜一郎にはかなわんのぅ!」
309 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:13:25 ID:bdtWe1EP0
「くすくすくす…。」
「……なぁんね、マサ。」
「まったく野蛮ねぇ…ほら、鉄也、起きなさい。」
ガスッ!
「ぐへぁっ?!…ガク」
「あ、死んだ。」
「どっちが野蛮なんね…。」
「くすくすくす…悦ばせてあげてるだけよ。」
「や、やめっ…ほんっ…死ぬわ…」
「死んだら馬鹿が直るかもしれないわよ…くすくすくす。」
私達は当時、お魎、鉄也、マサ、私、この四人で行動することが多かった。
基本的にはお魎がリーダー的存在だったのだが、古手マサに逆らうことは誰もできなかったので、実質的にはどちらが仕切っていたのかわからない。
310 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:14:04 ID:bdtWe1EP0
「くぅっ…ご、御三家の連中は鬼やんな…」
「今頃気付いたの?低脳。」
「…マサ、さすがにそれは酷いんじゃないかな?」
「喜一郎、鉄也は喜んでんよ。くっくっくっく!」
「え?そうなの?」
「だ、騙されんなや公由ぃ…」
「ちゃうんかい?世ん中にゃ、嬲られんことが好きっちゅう変態がおると…」
「誰が変態やんねッ!!」
「鉄也も、変な仕掛けを作るのはちょっと控えなよ。」
「変な仕掛けやない。ト・ラ・ツ・プ・いうんね!」
「どんなええもんも、鉄也がやんと不埒な道具にすぎんなぁ。」
「全くね。そんなに私達の痴態が見たいなら、真っ向から口説き落としてみなさいな。」
「いや、それもなんかだいぶ違う気がするけど…。」
311 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:14:48 ID:bdtWe1EP0
■回想2
「オォラァ!」
「なぁんが仙人じゃボケェ!死んさらせやッ!」
「くっ…はっ…」
ある日………マサと2人で公用から帰る途中、お魎が少年数人に殴られているのを目撃した。
さしもの彼女も、刀無しで4対1の戦いを制するほどには強くない。
マサに目配せをすると、彼女は頷き、走っていった。
私はそれを見届けると、すぐさま止めに入る。
「やめんかぁぁぁあぁぁぁぁッッ!!」
「あぁん?!なんじゃワレ!」
「ぐほぁっ?!」
「や、やりゃがったんなッ!!」
私は、徒手武道にかけてはお魎よりも秀でていたが、いかんせん相手にも心得のある者がいた。
そうなれば数で劣るこちらが圧倒的に不利…。
312 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:15:19 ID:bdtWe1EP0
「っ!」
「喜一郎ッ?!」
それくらいはわかっている。
ここでカタをつける必要はない………時間を稼ぐだけでいいんだ。
そう、人数が互角になるまでの時間を。
案の定、それはすぐに訪れる。
「園崎ぃぃ!受け取れぇぇ!!」
「!!」
駆けて来た鉄也が日本刀をお魎に向かって放る。
ガシッ!
お魎はがっしりと刀を掴むと、すぐにそれを抜く。
「………!」
キラリと光る刀身に、お魎の鋭い眼光が重なる。
途端、相手の目に怯えが走った。
313 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:15:59 ID:bdtWe1EP0
「よぉうやってくれたなぁ…」
「あ…ははっ…」
「くすくすくす…笑って誤魔化そうったって駄目よ?…お仕置きが必要ね。」
「ひぃっ?!」
マサも容赦無く薙刀をつきつける。
「ワシらん仲間に手ん出そうたぁ、良い度胸だんね。」
「くっ…!」
鉄也は豪快に笑いながら愛用のバットを振り上げる。
そして私も拳を鳴らした。
「「鬼ヶ淵をなめんなッッ!!」」
「「うわぁぁあぁぁぁあッ?!」」
314 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:17:03 ID:bdtWe1EP0
「…喜一郎、ありがとう。」
「僕1人じゃどうにもならなかったけどねぇ…。」
「そうよ。全ては私の功績…さぁ跪きなさい。」
「なぁに言うてん!ワシの活躍―――」
「あら鉄也、いたの?」
「こ、こんっ…!」
「「あっはっはっはっは!」」
皆で腹の底から笑い合った。
その帰り道。
ふと、袖を引っ張られる感覚に気付く。
……お魎だった。
315 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:17:26 ID:bdtWe1EP0
あまり背の高くなかった彼女は、上目遣いに私を見ていた。
…甘えるような、縋るような、少女の目。
当主としての彼女しか知らない人間には想像もつかないだろう。
………小春日和のような、優しい微笑み。
カナカナカナカナカナカナ…
ひぐらしの声にハッとなる。
自分が立ち止まっていることに気付くまで、数瞬の時間を要した。
316 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:18:14 ID:bdtWe1EP0
「ありがとう…」
お魎は言った。
「…嬉しかったん。本当に……嬉しかったんね…。」
うっすらと頬を染めながら、はにかむように…言った。
瞬間、頭の中が真っ白になる。
「…ん…………………………ああ。」
そう答えるのが精一杯だった。
「な、なんねその妙なこそばゆい空気は…」
「………………くす。お魎…気をつけてね。」
「ん?」
「くすくすくすくすくす…」
マサはさも愉快そうに笑う。
…今でこそその笑いの意味が理解できるが、当初はさっぱりだった。
317 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:18:41 ID:bdtWe1EP0
「じゃあね、お魎。鉄也、行くわよ。」
「へっ?!だども…」
「行・く・わ・よ?」
「ひえっ?!わ、わかった、物騒なもん振り上げんなや!」
「ふん。」
ズルズルズル…
マサは鉄也の襟首を掴んで引き摺る。
「おい、引っ張んなや!」
ズルズルズル…
「またなー、二人とも。」
「マァサ、死なん程度に加減したれなー。」
「えっ、ちょっ、まっ、死って、…えっ?!わ、ワシをどうする気…ぐはっ?!」
「…うるさいわ、黙りなさい。」
ズルズルズル…
程なくして、二人の姿は見えなくなった。
318 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:19:22 ID:bdtWe1EP0
「………。」
「………。」
ギュッ
お魎が、先ほどよりも強く袖を引く。
「どうしたんだい?お魎。」
「………何でやの…?」
「え…?」
「…鬼やとか……仙人やとか……何でそない言われにゃならんの?…そら、私だって………鬼ヶ淵の歴史のことは知っとる。だけど…何で、……背負わにゃ、ならん…。」
「お魎…」
お魎は、今にも泣き出しそうな瞳で…縋るように私を見上げる。
………平気そうに振舞っていても、実は傷ついている。
そういったことは幾度もあったが………ここまであからさまに吐露されたのは初めてだった。
いや、厳密に言うと初めてではない。
小さい頃は……よくあったことだ。
昔からプライドの高かった彼女は………度々、物陰で泣いていた。
319 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:20:02 ID:bdtWe1EP0
ポン
「へ……?」
「お魎、元気を出しなよ。誰が何を言ったとしても……僕が守ってあげるから。」
小さい頃そうしていたように、お魎の頭を優しく撫でる。
「ちょ…喜一郎……恥ずかしいわ…」
「…お魎。泣きたい時は……泣いても、いいんだよ。」
きっと私は、その頃にはもう………お魎のことが、好きだった。
あまりにも一緒にいるのが自然な…空気のような存在だったから、気付かなかっただけで……きっと。
…認めたくなかった、というのもあるかもしれない。
それには御三家のある掟が関係する。
……しかし、遅かれ早かれ…それを知覚する時はやってきた。
そして、ひとたび知覚してしまえば……その気持ちを抑えられなくなるまで、そう時間はかからなかった。
320 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:20:39 ID:bdtWe1EP0
■回想3
「………お魎。」
「な、…なんね?こんなとこんわざわざ呼び出すんは……まさか…。」
「………。」
「あかん……喜一郎。あかん…」
「…いいんだよ、お魎。私は、君のためなら……公由家に離縁されたって構わない。」
「喜一……郎…」
「愛してる…お魎。」
月の綺麗な夜だった。
辺りは痛いほどの静寂に包まれ…彼女の吐息だけが、聞こえていた。
「……私も、好き…だったんね。だけんど…家の掟にゃ…。」
「そうだね。でも私は……赤紙が来る前に、伝えておきたかった。」
「………。」
お魎の顔が様々な感情に揺れる。
当時はもどかしく思ったものだが、今思い返せば……私の言葉は、至極自己中心的だった。
それに対して、彼女はもう少し大人で…そこでの葛藤は、かなりのものだったろう。
321 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:21:04 ID:bdtWe1EP0
彼女は、誰よりも強かった。
彼女は、誰よりも儚かった。
彼女は、誰よりも大人だった。
彼女は、誰よりも無邪気だった。
彼女は、誰よりも非情だった。
彼女は、誰よりも暖かかった…
彼女が誰よりも深い慈悲を持っているということを、私は知っている。
本当は強くなんてない、普通の人間だということも……知っている。
しかしお魎は、その弱い方の性質を…決して見せまいとしていた。
理由は簡単だ。
御三家時期当主として背負うもの。
そういった面で彼女は……私より数段上の責任感を持っていたのだ。
しかし彼女は………頷いた。
私の拙い言葉に、何度も、何度も……ただ、頷いた。
322 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:21:36 ID:bdtWe1EP0
■回想4
次に彼女に会ったのは………地下祭具殿の中だった。
「しゃあらしいわあッ!!!!」
当時の園崎家当主の怒号が響く。
その迫力といったらなかった………今もって、思い出すだけで震えが走る。
しかし……お魎は…
「…やかましいわこん糞爺ッ!!!!」
「ああぁん?! なんばねすったら口の聞きぃ!!」
「掟がなんね!!どんして喜一郎を好いたらあかん?!何がいかんね、言うてみんかいッッ!!」
「こん…だぁほがッ!!」
お魎は…敢然と立て付いた。
その行為に、集まった御三家の親族は、皆青ざめていた。
ただ、当時の最高権力者である公由家当主…私の父だけは平静を保っていたが。
「しゃもねえやんなぁ…!」
当主の目配せとともに、若いのが壁にぶら下がっていた器具を持ってくる。
それは………爪を剥ぐ拷問具。
323 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:22:04 ID:bdtWe1EP0
「………!」
それを見て、彼女の表情が固まる。
顔面蒼白…そうとしか表しようがない様相だった。
若い男たちは器具とお魎の左手を別の拘束器具でがっちりと固定する。
「……ぁ…。」
お魎はカタカタと小刻みに震えていた。
それはそうだ、その器具はあまりに直接的…無骨な形状で、見ているだけでも恐ろしい。
「おぅらお魎、ケジメんつけんかいッ!!!!」
「……ッ!」
当主の言葉に、お魎はキッと唇を引き結び、毅然とした眼差しで睨み付ける。
…だが、それが単なる虚勢であることは明らかだ。
その証拠に………彼女の震えは止まない。
「ぃ……言われんともやったるわッ!!!!」
腕を振り上げ、そして………止まる。
324 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:22:33 ID:bdtWe1EP0
「うっ……うぅぅ…」
当主はそれを、ただ冷めた眼差しで見下ろしていた。
園崎当主が代々持つという、鷹の目………凍りつくような鋭い眼光。
「や……やめろッッ!!」
気がつけば私は叫んでいた。
殺されるかもしれない。
だが、不思議と恐怖は消えていた。
その状態を何と言ったらいいのかわからない。あるいは緊張の連続で精神が麻痺していただけなのかもしれない。
一同がジロリと私の方を見る。
再び萎縮しそうになる心を必死で叱りつけた。
「お魎は何も悪くない……責任は、全て私にあります。」
「喜一郎、お前は黙っていろ。」
父が、鬼のような形相で、それでいて申し訳なさそうな目をしながら、厳かに告げた。
…どこか違和感があった。
その違和感の正体は、今もってわからないが…確かに、あった。
325 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:22:54 ID:bdtWe1EP0
「…ええんよ、喜一郎。」
「し、しかし…」
「これは私のけじめ……すったらん、他人に肩代わりはさせられんてぇな。…なんも死ぬわけやないん……安心しちょってや。」
「………。」
情けないことだが…私には返す言葉が見つけられなかった。
数瞬の沈黙が流れ、そして…
フォン グシャッ
326 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:23:16 ID:bdtWe1EP0
数日後…お魎と牧野宗平との縁談が矢継ぎ早に決まった。
それも当然の成り行きと言えた。仮に当主同士が婚姻を結べば…権力の一局集中が起こる。
御三家としては当然の対応であるし、また利に適った掟でもある。
もちろん、だからといって納得できるわけではない。
すぐに村を離れることにした。…なまじ近くにいるのは、苦しい。
そのため私は、赤紙が来るのを待たず…兵に志願した。
さしもの御三家も、軍部に立てつくなどできようもないという私の目算は………果たして正しかった。
軍隊生活は、それは辛いものだったが……だからこそ、彼女のことを忘れさせてくれた。
327 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:23:56 ID:bdtWe1EP0
■回想5
昭和20年 敗戦。
辛くも生き残った私は、雛見沢へと戻った。
………その時父は既に没しており、他に本家の血筋はおらず、戻ったというよりも半ば強制的に戻らされたと言っても過言ではない。
終戦当初の雛見沢は、それは酷い有様だった。
それは別に、空襲で見る影もなかった、ということではない。
…貧困。
元々豊かな村ではなかったが、戦争で男手を取られたことにより……それはもはや、廃村スレスレと言えるほどに…悪化していた。
しかし戦争によって雛見沢にもたらされたのは、何も悪いことだけではなかった。
マッカーサーのGHQは、抜本的な意識改造にも着手し、不当差別の撤廃にも尽力してくれた。
戦前、戦中と陰鬱な被差別の時代を過ごした雛見沢だが、皮肉にも日本国の敗戦により、その霞が晴れようとしていた。
…廃村寸前だった雛見沢をもう一度建て直そう。そんな気運が高まる。
最初に、園崎家の当主を引き継いだお魎が立ち上がる。
同じように当主を引き継いだマサ、私もそれに続く。
偶然か必然か、ここで御三家全ての当主は世代交代を迎え……それは同時に新たな時代への幕開けであった。
328 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:24:27 ID:bdtWe1EP0
当時の私は、過去のことは忘れ………雛見沢の筆頭・公由家の当主として、やるべきことをやった。
その復興活動の中、牧野…いや、園崎宗平は、軍から盗み出した缶詰を闇市で売り捌き、大きな富を築くことに成功した。
得られた財は全て園崎家当主であるお魎に託された。
…廃れた雛見沢を復興させよう。村人全ては家族であり、この富は共有の財産である…。
お魎はそのような旨を高らかと宣言し、復興は飛躍的に進んでいった。
だが…昭和30年頃、俗に「人肉缶詰疑惑」と称される事件が起こる。
順調過ぎるくらい順調だったところで躓いたせいか、御三家はその件への対応に大童になった。
事件の最中、マサは病で命を落とし、宗平もまた急性心不全で亡くなった。
相次ぐ不幸に、私もお魎も悲嘆に暮れた。…しかし、復興にかける力は些かも緩めない。
それが……それだけが、唯一の餞になると堅く信じて…ひた走った。
昭和30年の半ば。
日米安保条約を巡る騒動が世間をにぎわす、戦いと運動の時代だった。
329 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:25:17 ID:bdtWe1EP0
■回想6
昭和53年。
人肉缶詰騒動が落ちついてから、つかの間の平和に安堵していた村は、再び不穏な空気に包まれる。
雛見沢ダム計画。
この地区一帯をダムの底に沈めようという、馬鹿げた計画が断行されたのだ。
無論黙ってはおけない。
私達は「鬼ヶ淵死守同盟」を結成し、地区を挙げての反対運動を展開した。
そんな最中だった。
「ダム賛成派…か。」
「村がダムに沈むっちゅうに、賛成するとは何事じゃね…ったく!」
「まぁまぁお魎さん、落ちついて…」
「落ちつけるもんかいな…あぁん?!」
「…私だって、腹に据えかねているよ。でも、冷静にならないと…向こうの思う壺だからね。」
「………。」
330 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:25:27 ID:bdtWe1EP0
ダム闘争の最中、北条家……鉄也の息子一家が、叛旗を翻したのだ。
当然、私達…特にお魎は烈火の如く怒り狂った。
鉄也が生きていたなら、私達にもまだ彼らへの配慮が残されていたかもしれない。
だが鉄也は、先の戦争で既に没しており……そのため私達は、一分の躊躇もなく北条家を取り潰しにかかった。
この頃にもなれば、お魎はあの頃は比較にならないほど強くなっていた。
個人的な強さだけではなく、雛見沢で恐れられる存在となっていたのだ。
だが………時折見せる寂しげな表情は変わらない。
小春日和のような優しい微笑も。
…お魎は、当主の立場という鋼鉄の鎧を纏っただけで…
本当は今だって………強くなったわけではないのかもしれない。
331 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:26:13 ID:bdtWe1EP0
■昭和57年
「…公由さん、どうしたんね?」
「え…あ、ああ、ちょっと昔を思い出していたんだよ。」
「ほんに……あれもワシの孫だんな。血は争えんっちゅうんは、本当のこっちゃね。」
お魎さんはそう言ってカラカラと笑う。
一緒に笑っていいものかどうか、私には判断がつかなかった。
その時、誰かが廊下を走ってくる音がする。
「お魎、喜一郎、こんにちはなのです。」
「ぉぅぉぅ…梨花ちゃま来なすったんか。」
「一緒に羊羹でも食べるかい?」
「くれるのですか?何だか悪いのです。」
「いいよいいよ、おじいちゃん達はそんなに沢山食べられないからね。」
「違いない、ワシらも随分耄碌したけんね。」
「「わっはっはっはっは!」」
お魎さんの言葉に、3人で盛大に笑った。
「あ、梨花ちゃんこんなところにいた!」
「お魎と喜一郎にご挨拶なのですよ。」
「梨花ちゃまの分のお茶とお座布団を用意せなね。魅音、沁子さんか妙子さんに伝えたってや。」
「ん、わかった。梨花ちゃん、お茶の加減はどんな感じがいい?」
「あつあつの濃い味が好きなのですよ。」
「りょうか〜い、ちょっと待っててね。」
332 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:26:56 ID:bdtWe1EP0
「はい、梨花ちゃん。」
「ありがとなのです。」
「魅音も食べたってんな。市長さんに頂いた羊羹だんも、ワシら老人にゃ多すぎんね。」
「多分そう言うと思って自分の分も淹れてきちゃった。」
「かー、相変わらずしたたかなやっちゃなぁ。ほんに母親によう似とる。」
お魎さんは大げさに首を振った。
それを見て、私はわざと皆に聞こえるくらいの声で魅音ちゃんに耳打ちする。
「ああは言ってるけどね、どちらかというと若い頃のお魎さんにそっくりだよ。」
私が言うと、お魎さんはぷーーっと吹き出し、げらげらと大笑いする。まんざらでもない顔だった。
「ったく、公由さんにはかなぁんね。」
「そういえば、おじい…じゃなくて村長さんは婆っちゃとはいつ頃からの知り合いなんですか?」
「おじいちゃんでいいよ魅音ちゃん。そうだなぁ…物心ついたころから一緒にいたと思うよ。」
「二人は竹馬の友なのですか。」
「うん?…梨花ちゃまはそんな言葉も知ってなさるんかい。…偉いのぉ。」
お魎さんは目を細めて微笑む。
その顔にあの頃の残像が重なった。
「…喜一郎、どうしたですか?」
「ん?どうもしないよ。」
とは言ったものの、一瞬ドキリとしたのは事実だった。
いい年こいた爺さんが、女の笑顔に見とれるなんてみっともいいものではない。
333 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:27:52 ID:bdtWe1EP0
その時、園崎家に雇われている女性…(確か妙子さんといったと思う)がやってきた。
「魅音ちゃん、お客様ですよ。」
「あれ?!レナってば早すぎ…。どうする?」
「行きますですよ。丁度お茶も飲み終わったところなのです。」
「うん、行こっか。それじゃあ村長さん、ごゆっくり〜。」
「おじゃましました、なのです。」
魅音ちゃん達は慌しく去っていった。
「それじゃあ…私もそろそろおいとまするかな。」
「忙しいだろに来て貰って悪かったんね。」
「いやいや…私もお魎さんとお茶でも飲みたいと思ってたからねぇ、丁度よかったよ。」
「公由さんは変わらんね…あの頃からずっっとな、変わらんね。」
「あははははは…。お魎さん、いつのことを言ってるのかわからないけど…相応に歳はとったさ。」
「あの夜…」
え?
「…なんもないわ。歳食うと妙な感傷出てきよるん、かなぁんな。」
「………。そうかもしれないねぇ。」
「…なぁ。」
「なんだい?」
「………私は、いつだって喜一郎だけ見とったんね。」
「………。」
334 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:28:33 ID:bdtWe1EP0
「…………………………もし、生まれ変われるっちゅうなら、私は………。」
「お魎さん………よそう、お互いに年寄りの感傷だよ…」
「………。」
お魎さんは、どこか寂しげな眼差しで見つめる。
恐らく、私も似たような表情をしているだろう。
そのまま数瞬、お互いに視線を交わす。
そして…
「「あっはっはっはっは!」」
二人して、弾かれたように笑い出した。
「ワシゃぁ…どうかしてんわな。すまんね公由さん。」
「ははは…。そういうこともあるよ。」
335 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:28:48 ID:bdtWe1EP0
お魎………もし生まれ変われるなら…私は君を放さない。
例えどれだけ離れたところに生まれようと……探し出す。
絶対に。
愛している…これだけ愛しているというのに…。
ああ……どうしてオヤシロさまはこんな仕打ちをなさるのか。
オヤシロさま………この年寄りの声が聞こえるなら、どうかお願いします。
来世では、この恋に報いを。
それだけが私の望みです。
日の落ちかけた夏の空に
ひぐらしが、ないていた
336 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/11/10(木) 20:29:55 ID:bdtWe1EP0
終了
KOOLの天啓でやった。今は反省している⊂ニニ( ^ω^)ニ⊃ブーン
…いや、マジごめんOTL