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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
百合の花園の乙女達 序章その3
夕暮れに照らし出された世界樹の下、風斬りの音が聞こえる。
凛とした少女が、木刀を握り締め修練に励んでいた。
その瞳の奥では、命を架けた決意が静かに燃えている。
一心不乱に木刀を振るその少女から飛び散った汗が、夕日に照らされ宝石の如く輝いていた。
「キレイやなぁ・・・・」
その光景を見守っていた少女が、ぽつりと呟く。彼女こそが、鍛錬に励む少女が護るべき存在であった。
護られる少女の潤んだ瞳に映っているのは、自分を護るべく汗を流す少女の姿。
やがて日が沈み始め、穏やかに吹き抜ける風は、涼し気に変わってきていた。
「せっちゃん、もうそろそろ・・・」
見守っていた少女は、そう言ってタオルを差し出す。
「あ、はい・・そうですね。」
修練を止めた少女は、そう言って振り返る、そして微笑みと共に差し出されたタオルを頬を赤らめて受け取る。
石鹸の清楚な香り漂うタオルに、少女は顔を埋る。汗が吸い取られてゆく変わりに、淡い優しさが染み込んでくる。
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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2005/07/17(日) 01:10:23 ID:9N4zSv9v0
「なぁ、せっちゃん・・夏休みどうするんえ?」
寂しげな憂いを帯びた瞳で、躊躇いがちに問い掛ける。今までは自分に姿を見せてはくれなかった夏休み。
でも、今年はもう隠れる必要は無い筈、しかし、一抹の不安を隠し切れずにいた。
「え、えぇと・・あの・・・その・・」
問い掛けられた守護者である少女は、答える事が出来ずに言葉を濁している。
もう、影に隠れている必要は無い、だが少女は、影でいた時間があまりにも長すぎたのだ。
「もう・・・もうガマンする事なんかあらへんやろ!!・・一緒に・・・一緒にいて・・なぁ・・せっちやんっ・・」
押し止められていた感情が溢れ出し、少女は守護者にそれをぶつけた。
「ウチかて・・・ウチかて・・・・・・・・・・・」
守護者の少女は、それ以上言葉に出来ずにその場に崩れ落ちる。彼女もまた、内に秘めていた感情が溢れ出していた。
少女達は、それ以上言葉を交わさなかった。いや、言葉は必要なかった。お互いを抱き締める力が、その答えとなっていたのだから。
二人の幸福な夏休みが、もうすぐ始まる。