日本と北朝鮮は明日、7月1日、外務省局長級の協議を北京で行う。同月3〜4日には、中国と韓国がソウルで首脳会談を開く。
これらはいずれも、中朝関係が最悪の状態にあることを示すものだ。
中国の習近平国家主席は、金正恩第1書記とはまだ一度も会談しないのに、朴槿恵大統領とは頻繁に会っている。
これはあからさまな、北朝鮮崩壊戦略と言える。追いつめられた北朝鮮は、日朝関係改善に転じた。
中国が北朝鮮を見捨てると決めるに至った発端は、米国のジョー・バイデン副大統領の訪中だった。
米政府は、北朝鮮のナンバー2だった張成沢(チャン・ソンテク)・国防委員会副委員長が粛正されたことを知り、北朝鮮崩壊は遠くないと判断した。
バイデン副大統領は、この情報と判断を元に崩壊後の北朝鮮処理に言及したのだった。
ところが、習国家主席には張成沢粛正の情報が届いていなかった。会談後に、その事実を知らされた習国家主席は、外交当局に対して激怒したという。
バイデン副大統領は習国家主席に対して、「核開発を放棄して生き残るか、あるいは核開発を続けて崩壊するか」の選択を北朝鮮に迫るべきだ、と主張した。
このために、原油の供給を中止するよう求めた。今年1月から、中国から北朝鮮への原油供給が中断している。この事態は6月も、なお継続している。
石油がなければ、北朝鮮は崩壊する。 北朝鮮の金正恩体制は、軍と秘密警察が支えている。石油がなければ、軍は維持できない。
北朝鮮は石油を全面的に中国に依存している。 当面は、備蓄を食いつぶすにしても、2年が限界だ。日本から援助と資金を獲得するしか術がない。
こうして、今年1月末に日朝の秘密接触が始まった。北朝鮮が、日本から経済協力や支援を得るには、拉致問題を解決する必要がある。
北朝鮮の中枢から、「金正恩第1書記が、拉致被害者を帰す方針を決めた」との情報が聞こえてくる。
中国は「北朝鮮が崩壊してもかまわない」との外交戦略に、方針を変えた。 この戦略変更は、少数の軍事専門家の間では昨年春頃から指摘されていた。
翌月の2013年6月に、韓国の朴槿恵大統領が訪中した。習国家主席は、中国語のできる朴大統領に好意を抱いた。
2人だけの首脳会談で、習主席は「統一問題については、韓国とだけ話し合う」と述べ、朴大統領を喜ばせた。
南北統一を阻む最大の懸案は、在韓米軍の問題である。中国は、在韓米軍の撤退を求めている。
朴大統領は、北朝鮮の脅威がなくなれば、在韓米軍が駐留する理由はなくなると説明。南北統一後に米軍は朝鮮半島から撤退するとの見通しを述べた。
北朝鮮は中国に捨てられ、日本に急接近した。日本は、崩壊の危機に直面している北朝鮮の「弱み」を、十分に理解しておくべきだ。
北朝鮮にとって、日本との国交正常化はこれほどに重要で、国家の運命がかかっているのだ。
金第1書記は、日朝交渉を再開するにあたり、日朝国交正常化にこぎつけ日本から資金を獲得するには、拉致問題の解決が必要なことを理解した。
拉致解決の方針を既に下したという。その見返りは、小泉政権が既に約束した、国交正常化と1兆円を超える経済協力資金である。
とりあえずの「手付金」が、コメ支援と日本人遺骨収集の経費だ。
北朝鮮は、まず小泉政権が約束しながら提供しなかった12万5000トンのコメを、人道支援として実行するように迫るだろう。
また、1945年前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨収集には、数十億円以上の費用と遺骨1体当たり100万円以上の資金が出る、と皮算用している。
北朝鮮は、日本から獲得できるものを一つひとつ確認しつつ、拉致調査の結果を小出しにする可能性が高い。これが北朝鮮のやり方だ。
問題は、日本政府が把握していない拉致被害者全員の名前が、明らかにされるかどうかだ。
日本政府が認定している拉致被害者の名前だけでは日本の国民は納得しないだろう。
したがって交渉には、時間がかかる。北朝鮮側は「問題は、一度で解決したい」と述べているという。
これは、言葉のとおり受け取れば、拉致被害者全員の調査結果を出すからそれで終わりにしてほしい、責任とか保障とか言わないでほしいとの意向に聞こえる。
だから、日本政府は「北朝鮮が把握している拉致被害者全員を出せば、1回で解決できる」と、金第1書記を説得すべきだ。
現在の北朝鮮で、拉致問題の解決を決断できるのは彼しかいない。
日経ビジネスオンライン 2014年6月30日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140629/267727/?P=1