18日未明、香港の親民主派の大衆紙「蘋果日報(アップルデイリー)」(台湾でも発行)のインターネット・ウェブ・サイトが
何者かによるサイバー攻撃を受けて、データが完全にかき消された。そのとき、香港では立法院(議会)の普通選挙実施を求める
民主化運動グループがインターネットを通じて賛否を問う住民自主投票の最中で、そのウェブサイトも同様の攻撃を受けていた。
蘋果側は中国本土からのサイバー攻撃によると非難した。
真相は不明とはいえ、日本にとって「対岸の火事」では済まされない。電子空間に潜む得体(えたい)の知れない敵対勢力の巨大な影は
日本にも忍び寄る。しかも日本の民間、政府機関とも蘋果日報と同様、致命的な弱点を抱えている。
問題は「データセンター」など通信インフラにある。データセンターとは情報通信ネットワークの基幹中枢機能を持ち、
「サーバー」と呼ばれるコンピューターや大容量記憶装置を備え、顧客からデータを預かり、インターネットの接続や保守・運用サービスを
受け持つ。台湾の専門家によると、ハッカーは香港と台湾にある蘋果日報のデータセンターに侵入した。データセンターは必要な防御体制
(サイバー・セキュリティー)をとっているが、万全ではない。悪意を持った者がデータセンターに「バックドア(裏口)」と呼ばれる
データ監視装置を組み込めば、やすやすとデータセンターを裏から支配し、盗み、操作できる。
米国の場合、諜報当局がインターネット・サービス大手や機器メーカーに協力させて裏口装置を米国内外の通信インフラに組み込んできた
とされる。だからこそ、中国に同じ手口が使われるのを恐れ、中国の大手メーカーで、中国人民解放軍系と疑う華為技術を米市場から締め出した。
台湾当局も一時は中国本土製を警戒したが、昨年初めに開通した大容量の中台間光通信海底ケーブルには華為技術や中興通訊(ZTE)製の
機器や技術が採用された。
昨年6月、台湾は中国との「サービス貿易協定」に調印し、デジタル通信を含むサービス産業の市場の対中開放を約束した。
以来、華為は台湾の主要なデータセンターと連携し、中枢部分を請け負っているという。台湾の通信インフラの中国化が一挙に進む。
中国本土の部隊が香港や台湾の特定の機関にサイバー攻撃を仕掛けようとすれば、いとも簡単に、いつでも可能という状況が生まれている。
上記の台湾の専門家は無防備の日本のインターネットが今後は台湾経由で中国に傍受、監視されると警告する。
まず、民間の通信サービス大手は低価格が売り物の華為技術製品やシステムを積極的に取り入れている。しかも、グーグルやヤフーなどは
日台間の海底通信ケーブルで結ばれている台湾にデータセンターを置いている。日本のデジタル情報・データの多くが台湾に集まるとみて
おかしくない。サイバー攻撃を受けなくても、日本の個人や企業の情報が「裏口」から中国に流出しかねない。
人気漫画の新作が日本で発表されると、ほとんど間を置かずに台湾と中国で海賊版が出回るという事例もある。この出版社のデータは
台湾のデータセンターに送られている。
米国から撤退した華為はアジア、さらに中東、アフリカなど世界の通信インフラ市場攻略に全力を挙げている。ロイター通信によると、
日本での売り上げを2017年度に12年度の15倍にする目標だという。グラフは世界の主要インターネット関連機器メーカーのシェアで、
華為とZTEの中国2社の世界シェアは約2割に達し、本国市場を本拠にする米最大手のシスコや日本のNECを圧倒している。
中国製通信機器に対する米国当局の警告は、米国内の民間ユーザーや豪州、インドなどにも浸透しているが、日本の反応は鈍い。
通信事業大手の大半は、華為製品が低価格で性能も高いと、経済性を評価している。ある通信大手のショップで携帯用無線LAN装置を
買おうとしてよく見たら、「HUAWEI」(華為)ブランドだ。中国製を導入して情報流出などの被害を受けたとか、裏口が発見された
という明確な事例もない。ならば、民間のほうは業者もユーザーも安きに流れる。たとえ不確かでも重大な脅威の恐れがあるなら、
チェックするのが政府や国会の役割だ。
政府は24日に打ち出した成長戦略の改訂版に、「サイバーセキュリティーの抜本的強化」を盛り込んだ。
「2015年度までに法制上の措置など必要な措置を講じる」とうたったが、何とも悠長な。(編集委員・田村秀男)
zakzak 2014.07.01 (リンク先にグラフ表があります)
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20140701/frn1407011540007-n1.htm