「あなたの銀行口座に1億8000万ウォン(約1560万円)お振り込みします。当日の午後、すぐに(臓器移植)手術をしましょう。時間を無駄にすることはありません。病院にいらっしゃいますか」
光州市に住むキム・サンフンさん(32)=仮名=は、電話口の向こうから聞こえる声に強い信頼感を抱いた。
トラック運転手のキムさんは昨年、廃棄物処理業に手を出したことで、3億ウォン(約2600万円)もの借金を抱えていた。交通事故で負傷した肩の手術を数回受けたため、暮らし向きも悪くなった。
キムさんは歯を食いしばり、1日に12時間もハンドルを握り続けたが、1カ月の利息250万ウォン(約22万円)を返済するのも困難だった。幼い2人の子どもを見るたび、息が詰まる思いだった。
崖っぷちに立たされたキムさんは今年5月「腎臓を買います」というチラシに目を留めた。一瞬恐怖も覚えたが、何よりも金が必要だった。
電話をかけたところ、ソウル市江南地区の大規模な病院に勤務しているという男が「臓器移植を行うためには、事前の検査を受けなければならないので、病院に着てほしい」と告げた。
キムさんは休暇を取って、先月25日にソウル聖母病院に向かった。しかし、男は「忙しい」との理由で病院には現れず、
電話で「事前検査費の200万ウォン(約17万円)を振り込めば、臓器移植の代金を(キムさんに)支払える」と告げた。キムさんはカードローンで200万ウォンを借り、男に送金した。
その後、男は「保証保険(債務者が債務を履行しない場合、債権者が被る損害を補填〈ほてん〉する保険)への加入費50万ウォン(約4万3000円)を振り込むように」
との連絡を最後に、電話には出なくなった。
キムさんは「臓器売買が違法なことは知っていたが、自分の体を傷つけてでも、生活費を得ようとした。だが結局、振り込め詐欺に遭った」という内容の上申書を警察に提出した。
崖っぷちに立たされた一家のあるじから「最後の200万ウォン」までせびり取る、新手の「臓器売買振り込め詐欺」が登場した。
金融監督院の庶民金融詐欺対策班の関係者は「臓器の提供を口実とした振り込め詐欺が明るみに出たのは今回が初めてだ」と説明した。
今回のような手口の振り込め詐欺は、被害者も臓器の密売という違法行為に手を染めたことになるため、捜査機関への通報をためらい、明るみに出なかった。
キムさんのケースも、ソウル聖母病院臓器移植センターのキム・ヒョンスク看護師(44)が今月6日「(臓器売買に関する)振り込み専用の銀行口座だけでも摘発してほしい」
として瑞草警察署に通報したことで明らかになった。
現行法では、臓器の売買を約束したり、これを手助けしたりしただけでも、10年以下の懲役または5000万ウォン(約430万円)以下の罰金刑を適用することになっている。
過去1カ月間、キム・ヒョンスク看護師が目撃した被害者は、キム・サンフンさんを含め4人いる。
キム・ヒョンスク看護師は「被害者の多くは40−50代の一家のあるじで、借りた200万ウォンまでだまし取られており、自殺など極端な行動に出ることが懸念される」と話した。
警察や病院によると「臓器売買振り込め詐欺」は、臓器の売買を暗示するメールを不特定多数の携帯電話に送りつけたり、チラシに連絡先を記載して配布したりした後、
ソウル市江南地区の大規模な病院の関係者を詐称し、被害者を臓器移植センターに呼び、事前検査費として200万ウォンを振り込ませるという形で犯行が行われるという。
警察は、病院内部の事情に詳しい者が犯行に関与していると推定している。
腎臓提供者の適合性検査に掛かる費用が実際に200万−300万ウォン(約26万円)である上、ブローカーが病院内部の状況を隅々まで把握しているためだ。
警察の関係者は「まともな病院では、臓器提供者に対し金を支払うことはないという点を理解する必要がある」と話した。
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