東京電力福島第1原発で2011年5月11日の大地震と津波に伴い発生した
事故の収束作業を陣頭指揮した元所長で、東電執行役員の吉田昌郎氏が9日午前11時32分、
食道がんのため都内の病院で死去した。58歳だった。
中国国営の中国新聞社は
「当時の菅直人首相や東電に逆らい、核爆発の発生を有効に阻止した」などと報じた。
記事は、福島第一原発は大地震と津波の二重の打撃を受け、
重大な核物質漏洩(ろうえい)事故に至ったと紹介。
「原発に勤務していた吉田所長は当時の菅直人首相や東電に逆らい、
現場スタッフに最大限に自己救済作業を進めさせ、核爆発の発生を有効に阻止した」、
「吉田所長と周囲の人間は海外のメディアに『福島の勇士』と呼ばれるようになった」などと吉田所長の事故対応を説明した。
さらに、「(同年)12月(日本の報道では11月とも)に食道がんが見つかった際にも現場にとどまると主張」、
「手術前には『福島の被災者への核の輻射を免れさせるためなら、私が死んでも価値がある』と話した」
(いずれも、中国語記事からの日本語訳)などと、職務に忠実で責任感が強い人物像を強調した。
吉田元所長の容体の推移については「2012年には脳内出血で緊急手術を受けたが、
その後も重篤(じゅうとく)な状態が続いた。本日午前、吉田先生はこの世には帰らぬ人となった」
と記述するなど、哀惜と哀悼の意を強調する書き方をした。
がん発症と被曝(ひばく)の関係については「東電は直接の関係を否定していた」と紹介した上で、
「世論は、無関係ではありえないとみている」と報じた。
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◆解説◆
中国では、東日本大震災そのものについては心を痛めるが、
東電の事故対応、特に放射性物質で汚染された水を大量に海に放出したことについては、
厳しく批判する論調が主流だった。しかし吉田元所長については、
「厳しい状況の中で、自らの命もかえりみず、被害を最小限に食い止める最大限の努力をした」などと、高く評価する論調だ。
中国は日本人の働きぶりについて「責任感が強い」、「絶対に手抜きをしない」などのイメージを持つことが多いが、
吉田元所長に対しても日本人全体に対して持つ「理想的な職業人」との見方を重ね合わせているようだ。
中国人の立場になってみれば、戦前の「軍国主義」は日本に対する大きなマイナスイメージだが、
現在の日本の経済や産業に対するプラスのイメージも、
「何をやるにしても、徹底する日本人」という意味では、比較的理解がしやすかったと言える。
さらに、多くの中国人が持つ「日本人は礼儀正しい」というイメージも合わせて、
日本に対しては“硬派”なイメージが強い状態が続いたと考えてよい。
ただし、最近の日本発のポップカルチャーの人気上昇で、日本人に対しては「可愛いもの」、
「ステキなもの」を作り出す能力の持ち主というイメージも浸透しつつある。
中国人の対日観・対日本人感は、これまで以上に複雑にならざるをえない状況になってきたとも言える。(編集担当:如月隼人)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0709&f=national_0709_063.shtml