今年5月、中国の国有銀行副頭取が収賄容疑で検察当局に送致された。(大谷卓)
国営新華社通信によると、送致されたのは、中国の4大商業銀行の一つ、中国農業銀行の楊●(=王へんに昆)元副頭取。
楊氏は中国共産党からも同じ容疑で公職と党籍剥奪の処分を受けた。
容疑の詳細は不明だが、中国や香港などのメディアは、昨年5月に不動産業者による賭博事件に絡んで拘束された事や、
楊氏がマカオでの賭博で約30億元(約500億円)負けた事、その借金の穴埋めに賄賂を使った疑いがある事などを伝えている。
ロイター通信は、カジノ業界の幹部の話として、中国政府はマカオでの資金洗浄の流れや官僚による賭博の監視に力を入れ始めたと指摘。
楊氏はその対象の1人だったとした。そのほかの対象者には不正蓄財や妻の殺人事件などで失脚した薄煕来氏も含まれているという。
また、香港メディアは、楊氏が異常なほどのギャンブル熱があったと伝えつつ、
不動産業者の事件では30億元もの不透明な融資をしていた事などを伝えている。
一見忠実で誠実に見える性格も実はそうではなく、“友人”にだけ忠実だったとされる。
楊氏のケースでは、自ら説明できない巨額の資金の流れから、資金洗浄されたのではないかとの疑惑に繋がったとみられる。
マカオは中国で唯一、カジノが合法化されている地域だ。ロイター通信によると、訪れる人の3分の2以上は本土からの中国人。
月の関連収入は米ラスベガスの年間収入の半分以上にもなるといい、中国人の富裕層が大金を落としていくケースが多い。
資金洗浄は様々な形で行われており、ロイター通信がその一端を伝えている。
例えば、マカオの対岸にある中国広東省にある街では、大きな通りにある酒店などの奥の部屋に送金エージェントがいて、
中国人たちはそこに多額の人民元を持ち込み、香港ドルと交換し、マカオに向かう。
店では一日数千万元を扱い、30近くある「地下銀行」では一日に数億元が扱われるという。
当然、中国人が持ち込むカネがどういった物かは問わないし、どう使われるかも問わない。
別のメディアによると、中国国内で賄賂を受け取った官僚は遊興目的でマカオのカジノに行き、
チップに替えて、そのまま小切手に換える。それを香港などの銀行に入金し“きれいなカネ”にし、
その後、不動産投資などに当てているという。
「無秩序な地下銀行のトライアングル」
ロイター通信は、不透明なカネの流れがある広東・珠海、香港、マカオを結ぶ地域をそう表現している。
一日10億元以上の取引があると指摘した上で、香港当局者のこんな話を紹介している。
「資金洗浄の無法ぶりは中国がいま直面している問題だ。いまも、香港にある中国の銀行は基本的にブラックホールだ」
さらに、資金洗浄問題を専門とする大学関係者の話として、首都北京で動く資金の3分の1以上は資金洗浄された“汚いカネ”と指摘し、
関係者は「私の研究の及ぶ範囲内で言えば、そのカネが現状では少なくとも30〜40%になり、状況はどんどん悪化している」と述べている。
これらの資金洗浄の背景にあるのは、中国人富裕層の中国離れと官僚の腐敗体質だ。
米国の投資会社ベイン・キャピタルと中国の招商銀行が共同で発表した「2013年中国私人財富報告」によると、
中国の1億元以上の資産家は4万人に達し、1千万元以上の資産家は70万人を超えた。
しかも資産家のうち6割は、投資移民制度を活用して子息を移民させたり、計画しているという。
貧富の格差が広がる中で、富裕層は経済、政治ともに中国の“不安定”さを感じ、安心できる海外に財産を移そうとしているのだ。
過去約15年で政府幹部、国営企業幹部1万6千人以上が海外逃亡し、8千億元(約12兆円)を持ち出したとの報告もあり、
その中継地点としてマカオが挙げられている。
深刻な官僚の汚職は、富裕層が不安を感じる、大きな理由だろう。共産党中央規律検査委員会は6月20日までに
同委に関連する幹部や職員に対し、他人から受け取った各種の「会員カード」を返却するよう命じた。
高級な会員制クラブやゴルフ場などでは入会費が数十万元(数百万円)以上もし、
党幹部がこうした高価な会員カードを賄賂として受け取るケースが多い。
そして汚職で手に入れたカネをマカオで資金洗浄し、安全な海外に資金を移している。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130628/waf13062807010004-n1.htm http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130628/waf13062807010004-n2.htm http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130628/waf13062807010004-n3.htm